説明

半月板断裂を修復するためのコラーゲン膜材料のシート

【課題】新しい半月板断裂の修復方法の提供。
【解決手段】コラーゲン膜材料のシートの一側に、その上での細胞接着を阻害し、かつそこを通る細胞の通過を阻害する平滑障壁面を持つコラーゲン膜材料のシートを用意し、シートは平滑障壁面の反対側に線維面を持ち、線維面はその上での細胞成長を許容し、コラーゲンは主としてI型コラーゲンであり、コラーゲン膜材料のシートは、線維面が半月板断裂の方を向くように、半月板断裂上に固定される、対象の半月板断裂を修復する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は半月板断裂を修復する分野に関する。
【背景技術】
【0002】
対象の関節(例えば膝)における半月板断裂はよく起こる損傷である。以前は、断裂した半月板が、しばしば部分的にまたは完全に切除されていた。近年に至って、半月板断裂を修復するための技法、例えば関節鏡を使って設置されるタック(tack)の使用または断裂端の縫合などが開発された。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
新しい半月板断裂の修復方法が当技術分野では今なお必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明によれば、対象の半月板断裂を修復する方法は、コラーゲン膜材料のシートを用意することを含み、シートは、その一側に、その上での細胞接着を阻害しかつそこを通る細胞の通過を阻害する平滑障壁面を持ち、シートは平滑障壁面の反対側に線維面を持ち、線維面はその上での細胞成長を許容し、前記シートのコラーゲンは主としてI型コラーゲンである。コラーゲン膜材料のシートは、線維面が半月板断裂の方を向くように、半月板断裂上に固定される。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【図1】本発明の1実施形態による半月板断裂の一側の被覆を示す側面概略図である。
【図2】別の実施形態によって処置された半月板断裂の両側を示す概略断面図である。
【図3】本発明に従って使用されるコラーゲン膜を隣接する滑膜細胞と共に示す側面概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0006】
断裂した半月板の修復過程の一因となる細胞は隣接する滑膜組織に由来する。滑膜細胞は、断裂した半月板における修復過程の一因となるだけでなく、結合組織を分解する能力および収縮する能力も持っている。例えば滑膜組織は典型的なI型コラーゲン足場を分解することができる。
【0007】
驚くべきことに、本発明の主としてI型コラーゲンである膜は、滑膜組織と接触してもその完全性を維持することができ、半月板断裂の治癒を促進するために滑膜細胞が移入することができる足場として役立つこともできることが発見された。
【0008】
本発明に従って利用されるコラーゲン膜材料のシートは、その一側に、その上での細胞接着を阻害しかつそこを通る細胞の通過を阻害する平滑障壁面を持つ。コラーゲンシートは、障壁面の反対側に線維面を持ち、線維面はその上での細胞成長を許容する。
【0009】
上述のように、本発明に従って利用される膜のコラーゲンは、主としてI型コラーゲン(すなわち50重量%を超えるI型コラーゲン)である。好ましい実施形態において、本発明に従って利用される膜シートのI型コラーゲン含量は、60重量%を超えるか、70重量%を超えるか、80重量%を超えるか、または90重量%を超えることができる。1実施形態によれば、本発明に従って利用される膜シートのコラーゲンは、約95重量%のI型コラーゲンである。そのような膜のコラーゲンは約5重量%のIII型コラーゲンを含んでよい。
【0010】
好ましい実施形態において、本発明で利用されるコラーゲンはブタまたはウシ由来のコラーゲンである。特に好ましい実施形態において、本発明で利用されるコラーゲン材料のシートは、ブタまたはウシ由来の、好ましくは子ウシまたは子ブタ由来の、天然の膜から形成される。好ましい供給源は、腹膜の天然単層シート、最も好ましくは子ブタ由来のものである。6〜7週齢(体重60〜80kg)の若いブタから得られる腹膜がとりわけ好ましい。そのような材料の1つは、参照により本明細書に組み入れられる米国特許第5,837,278号に記載されている。
【0011】
本発明で使用する膜の乾燥厚は、約0.1〜5.0mm、好ましくは約0.1〜1.0mm、または約0.5mmであってよいが、湿気に曝された場合は、材料の膨潤による影響を受けることができる。
【0012】
本発明に従って利用されるコラーゲン膜材料のシートは、膜の線維面が半月板断裂の方を向くように、半月板断裂上に固定される。シートは、任意の適切な手段によって、例えば縫合糸、生理学的に許容できる接着剤(例えばフィブリン糊)、またはそれらの組み合わせなどによって固定することができる。膜は好ましくは断裂の少なくとも一側を完全に被覆し、線維面は好ましくは断裂と接触する。
【0013】
本発明に従って利用されるコラーゲン膜材料のシートは、半月板断裂の一側上に固定することができ、あるいはさらに、半月板断裂がコラーゲン膜材料の2枚のシートの間に挟まれるように、コラーゲン膜材料の第2のシートを半月板断裂の反対側にも、やはり線維面を断裂の方に向けて固定することができる。
【0014】
1実施形態によれば、コラーゲン膜材料の1枚のシートを半月板断裂の一側上に固定した場合、膜の線維面は、断裂を通って線維面へと移動する対象中の滑液と接触する。
【0015】
本発明に従って使用される適切な膜の1つは、本発明の譲受人であるEd.Geistlich Soehne AG fuer Chemische Industrieが製造するChondroGide(登録商標)である。
【0016】
図1に示すように、膜材料10は、半月板7に取付けられた接着剤または縫合糸13によって、半月板7中の半月板断裂11上に固定することができる。図2に示す本発明の1実施形態では、半月板7中の半月板断裂11を処置する外科手術中に、コラーゲン膜材料の別々のシート10が、断裂をその両側で被覆するように、半月板断裂11上に固定されて、断裂を膜材料10の間に挟むことにより、外科手術後の半月板組織7への結合組織の内方成長に対する障壁となる。コラーゲン膜材料のシートは、好ましくは、例えばフィブリン糊などの有機糊を利用するシートの接着剤結合によって、または縫合糸13によって、あるいはそれらの組み合わせ、または他の任意の適切な方法によって、処置されるべき領域上に固定される。
【0017】
上述のように、コラーゲン膜材料10は、その上での細胞接着を阻害し、かつそこを通る細胞の通過を妨げるための障壁として作用するように、少なくとも1つの平滑面16を持つ少なくとも1つの障壁層から構成される。図3参照。さらに膜10は平滑面16の反対側に線維面18を持ち、線維面はその上での細胞成長を許容する。滑膜細胞20は線維面18と接触し、膜中に移動して、断裂の治癒を助けることができる。
【0018】
1実施形態では、膜および/または線維面に軟骨細胞、滑膜線維芽細胞様細胞、間葉系幹細胞、1つ以上のグリコサミノグリカン、および/または1つ以上の成長因子を含浸させたコラーゲン膜材料を利用する。適切なグリコサミノグリカンの例として、ヒアルロン酸、コンドロイチン6−硫酸、ケラチン硫酸、デルマタン硫酸などが挙げられる。適切な成長因子として、限定されないが、以下に記述するものが挙げられる。トランスフォーミング成長因子−ベータ(TGF−ベータ)は、半月板のさまざまな切片から単離された線維軟骨細胞のプロテオグリカン合成を用量依存的に増加させる。ヒト血小板由来成長因子(PDGF−AB)、幹細胞成長因子(HGF)および骨形成タンパク質−2(BMP−2)は、半月板細胞におけるDNA合成を増加させる。また、BMP−2、インスリン様成長因子−1(IGF−1)、および上皮成長因子(EGF)は、半月板のさまざまな部分からのウシ線維軟骨細胞の移動を刺激する。骨原性タンパク質−1(OP−1)も適切である。
【0019】
本発明は、治癒過程中に外科手術部位を不要な細胞の内方成長から保護する膜10中の平滑障壁面16と、断裂に隣接する修復細胞の成長を促進するための線維面18とを設ける。コラーゲン膜材料10は患者の体内に徐々に再吸収されるので、治癒後に膜を外科的に取り出す必要は一切ない。
【0020】
本発明を詳細に説明したが、これらの説明および添付の図面が限定として解釈されることは意図していない。
【実施例】
【0021】
以下に、限定を意図しない実施例を挙げて、本発明をさらに例証する。
実施例1
半月板断裂の処置を目的とするCHONDROGIDE(登録商標)膜の応用:インビトロ実験
ChondroGide(登録商標)膜は、断裂した半月板に、その修復を促進する目的で適用することができる。修復過程の一因となる細胞は隣接する滑膜組織に由来する。これらの滑膜細胞は、断裂した半月板における修復過程の一因となるだけでなく、結合組織を分解する能力および収縮する能力も持っている。CondroGide(登録商標)膜は、(1)滑膜細胞がその上を移動することができる足場として役立つことによって、滑膜細胞を半月板中の断裂に誘導し、(2)修復過程中にそれらの細胞を欠損部に含むだろう。ChondroGide(登録商標)膜は、滑膜組織と接触してもその完全性を維持することができ、滑膜細胞が移入することができる足場として役立つこともできる。滑膜組織はウシI型コラーゲン足場を分解することができるが、ChondroGide(登録商標)を分解せず、ChondroGide(登録商標)膜は、滑膜の収縮にもかかわらず、そのサイズおよび形状を保つことを、インビトロデータは実証している。さらにまた、滑膜由来の細胞はChondroGide(登録商標)中に移入することができる。
【0022】
実験的研究では、直径8mmのヤギ滑膜試料をChondroGide(登録商標)膜および典型的なウシI型コラーゲン足場に置いた。インビトロで7日後、ChondroGide(登録商標)で培養した滑膜標本および組織培養皿で直接培養した滑膜標本は、元のサイズの約1/2に収縮した。重要だったのは、ChondroGide(登録商標)がその元のサイズおよび形状を保ち、滑膜によって分解されなかったという発見である。対照として、類似の滑膜組織試料をウシI型コラーゲン足場で培養した。これらの培養物中の滑膜試料も収縮した。滑膜細胞は、わずか24時間後に、先行技術のコラーゲンI足場を消化し、その結果として、滑膜試料の一部は足場からはがれたことを、データは示している。ウシI型コラーゲン足場の類似の分解は、培養48時間後に見られた。
【0023】
組織検査により、滑膜由来の細胞はChondroGide(登録商標)膜中に移入できることが実証された。培養21日後に、滑膜組織試料由来の細胞は滑膜からChondroGide(登録商標)中に移動した。滑膜細胞はChondroGide(登録商標)膜の至る所に見出すことができた。
【符号の説明】
【0024】
7 半月板、10 膜材料、11 半月板断裂、13 縫合糸、16 平滑面、18 線維面、20 滑膜細胞。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象の半月板断裂を修復する方法であって、コラーゲン膜材料のシートの一側に、その上での細胞接着を阻害しかつそこを通る細胞の通過を阻害する平滑障壁面を持ち、前記シートは前記平滑障壁面の反対側に線維面を持ち、前記線維面はその上での細胞成長を許容し、前記コラーゲンは主としてI型コラーゲンである前記コラーゲン膜材料のシートを用意すること、およびコラーゲン膜材料の前記シートを、半月板断裂の上に、前記線維面が前記半月板断裂の方を向くように固定することを含む方法。
【請求項2】
前記線維面が前記対象中で滑液と接触する、請求項1の方法。
【請求項3】
前記コラーゲン膜材料の第2のシートを前記半月板断裂の反対側に、第2シートの線維面を前記半月板断裂の方に向けて固定することによって、前記半月板断裂が前記膜材料の両シートの間に挟まれるようにすることをさらに含む、請求項1の方法。
【請求項4】
前記コラーゲン膜材料を前記半月板断裂上に、縫合糸、生理学的に許容できる接着剤またはそれらの組み合わせを使って固定する、請求項1の方法。
【請求項5】
前記接着剤がフィブリン糊である、請求項4の方法。
【請求項6】
前記膜のコラーゲンが約60重量%を超えるI型コラーゲンである、請求項1の方法。
【請求項7】
前記膜のコラーゲンが約70重量%を超えるI型コラーゲンである、請求項1の方法。
【請求項8】
前記膜のコラーゲンが約80重量%を超えるI型コラーゲンである、請求項1の方法。
【請求項9】
前記膜のコラーゲンが約90重量%を超えるI型コラーゲンである、請求項1の方法。
【請求項10】
前記コラーゲン膜材料がブタ材料またはウシ材料である、請求項1の方法。
【請求項11】
前記コラーゲン膜材料が腹膜に由来する、請求項10の方法。
【請求項12】
前記腹膜がブタの腹膜である、請求項11の方法。
【請求項13】
前記シートの前記コラーゲンが約95%I型コラーゲンである、請求項12の方法。
【請求項14】
前記シートの前記コラーゲンが約5%III型コラーゲンである、請求項13の方法。
【請求項15】
前記シートが約0.1〜1mmの範囲内の乾燥厚を持つ、請求項1の方法。
【請求項16】
前記障壁層、前記マトリックス層、または両者に、少なくとも1つの軟骨細胞、線維芽細胞様細胞、間葉系幹細胞、少なくとも1つのグリコサミノグリカン、少なくとも1つの成長因子またはその混合物を含浸させる、請求項1の方法。
【請求項17】
グリコサミノグリカンがヒアルロン酸、コンドロイチン6−硫酸、ケラチン硫酸またはデルマタン硫酸である、請求項16の方法。
【請求項18】
前記少なくとも1つの成長因子がトランスフォーミング成長因子ベータ、ヒト血小板由来成長因子、肝細胞成長因子、骨形成タンパク質−2、インスリン様成長因子−1、上皮成長因子、骨原性タンパク質−1、またはそれらの混合物である、請求項16の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−236112(P2012−236112A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−201621(P2012−201621)
【出願日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【分割の表示】特願2008−529334(P2008−529334)の分割
【原出願日】平成18年9月1日(2006.9.1)
【出願人】(501257174)エー・デー・ガイストリヒ・ゾーネ・アクチェンゲゼルシャフト・フュール・ヒェーミシェ・インダストリー (4)
【氏名又は名称原語表記】ED. GEISTLICH SOEHNE AG FUER CHEMISCHE INDUSTRIE
【Fターム(参考)】