説明

半有機絶縁被膜付き電磁鋼板

【課題】クロム化合物の含有なしでも耐食性および耐水性の劣化がなく、また耐粉吹き性、耐キズ性、スティッキング性、Tig溶接性および打抜性に優れ、しかも被膜外観にも優れる半有機絶縁被膜付き電磁鋼板を提供する。
【解決手段】無機成分と有機樹脂からなる半有機絶縁被膜において、該無機成分としてZr化合物およびB化合物をそれぞれ、乾燥被膜中における比率で、Zr化合物(ZrO2換算):20〜70質量%、B化合物(B23換算):0.1〜20質量%含有させ、残部を有機樹脂とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロム化合物の含有なしでも耐食性および耐水性の劣化がなく、また耐粉吹き性、耐キズ性、スティッキング性、Tig溶接性および打抜性に優れ、しかも焼鈍後の被膜外観の均一性にも優れる半有機絶縁被膜付き電磁鋼板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
モータや変圧器等に使用される電磁鋼板の絶縁被膜には、層間抵抗だけでなく、加工成形時の利便性および保管、使用時の安定性など種々の特性が要求される。電磁鋼板は多様な用途に使用されるため、その用途に応じて種々の絶縁被膜の開発が行われている。電磁鋼板に打抜加工、せん断加工、曲げ加工などを施すと残留歪みにより磁気特性が劣化するので、これを解消するために750〜850℃程度の温度で歪取り焼純を行う場合が多い。従って、この場合には、絶縁被膜が歪取り焼鈍に耐え得るものでなければならない。
【0003】
絶縁被膜は、大別して
(1) 溶接性、耐熱性を重視し、歪取り焼鈍に耐える無機被膜、
(2) 打抜性、溶接性の両立を目指し歪取り焼鈍に耐える樹脂含有の無機被膜(すなわち、半有機被膜)、
(3) 特殊用途で歪取り焼鈍不可の有機被膜
の3種に分類されるが、汎用品として歪取り焼鈍に耐えるのは、上記(1), (2)に示した無機成分を含む被膜であり、両者ともクロム化合物を含むものであった。
【0004】
特に、(2)のタイプのクロム酸塩系絶縁被膜は、1コート1ベークの製造で無機系絶縁被膜に比較して打抜性を格段に向上させることができるので広く利用されている。
例えば、特許文献1には、少なくとも1種の2価金属を含む重クロム酸塩系水溶液に、該水溶液中のCrO3:100重量部に対し有機樹脂として酢酸ビニル/ベオバ比が90/10〜40/60の割合になる樹脂エマルジョンを樹脂固形分で5〜120重量部および有機還元剤を10〜60重量部の割合で配合した処理液を、基地鉄板の表面に塗布し、常法による焼付けを施して得た電気絶縁被膜を有する電磁鋼板が記載されている。
【0005】
しかし、昨今、環境意識が高まり、電磁鋼板の分野においてもクロム化合物を含まない絶縁被膜を有する製品が需要家等からも望まれている。
【0006】
そこで、クロム化合物を含まない絶縁被膜付き電磁鋼板が開発され、例えば、クロムを含まず打抜性が良好な絶縁被膜として樹脂およびコロイダルシリカ(アルミナ含有シリカ)を成分としたものが特許文献2に記載されている。また、コロイド状シリカ、アルミナゾル、ジルコニアゾルの1種または2種以上よりなり、水溶性またはエマルジョン樹脂を含有する絶縁被膜が特許文献3に記載され、クロムを含まないリン酸塩を主体とし、樹脂を含有した絶縁被膜が特許文献4に記載されている。
【0007】
しかし、これらのクロム化合物を含まない絶縁被膜付き電磁鋼板は、クロム化合物を含む場合と比べると、無機物同士の結合が比較的弱く、耐食性に劣るという問題があった。また、スリット加工においてフェルトで鋼板表面を擦ってバックテンションをかけた場合(テンションパッドの使用)、粉吹き発生の問題があった。さらに、歪取り焼鈍後に被膜が弱くなり、キズが発生しやすいという問題があった。
【0008】
例えば、特許文献3に記載された方法でコロイダルシリカ、アルミナゾル、ジルコニアゾルの1種または2種以上を単純に使用しても上記課題は解決できず、それぞれの成分を複合して用い、特定量混合した場合について、十分な検討がなされていなかった。また、特許文献4に記載されているようなリン酸塩被膜でクロムを含まない組成の場合にはベタツキが発生し、耐水性が劣化する傾向があった。
これらの問題は、300℃以下の比較的低温で焼き付けた場合に発生しやすい問題であり、特に200℃以下の場合には、その発生が顕著であった。一方で、焼付け温度は消費エネルギーおよび製造コストの低減等の観点から、できるだけ低くすべきである。
【0009】
さらに、特許文献5,6に記載された方法、すなわちポリシロキサンと各種有機樹脂とを共重合したポリシロキサン重合体とシリカ、シリケート等の無機化合物からなる被膜を使用した場合には、Tig溶接時にブローホールが発生したり、また鋼種によっては焼鈍後に斑模様が発生するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特公昭60−36476号公報
【特許文献2】特開平10−130858号公報
【特許文献3】特開平10−46350号公報
【特許文献4】特許第2944849号明細書
【特許文献5】特開2007−197820号公報
【特許文献6】特開2007−197824号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで、発明者らは、上記の問題を解決すべく鋭意検討を重ねたところ、半有機被膜中の無機成分として、Zr化合物とB化合物を複合含有させることにより、上記の問題が有利に解決されることを見出した。
本発明は、上記の知見に立脚するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
すなわち、本発明の要旨構成は次のとおりである。
1.表面に、無機成分と有機樹脂からなる半有機絶縁被膜をそなえる電磁鋼板であって、
該無機成分としてZr化合物およびB化合物をそれぞれ、乾燥被膜中における比率で、Zr化合物(ZrO2換算):20〜70質量%、B化合物(B23換算):0.1〜20質量%含有し、残部が有機樹脂からなることを特徴とする半有機絶縁被膜付き電磁鋼板。
【0013】
2.前記被膜中に、さらに硝酸化合物(NO3換算)、シランカップリング剤(固形分換算)およびリン化合物(P25換算)のうちから選んだ一種または二種以上を、乾燥被膜中における比率で30質量%以下で含有することを特徴とする前記1記載の半有機絶縁被膜付き電磁鋼板。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、耐粉吹き性、耐キズ性、スティッキング性、Tig溶接性および打抜性等の諸特性に優れるのはいうまでもなく、クロム化合物を含有していなくても耐水性や耐食性の劣化がなく、しかも焼鈍後の被膜外観の均一性にも優れる半有機絶縁被膜付き電磁鋼板を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】歪取り焼鈍後の被膜外観を比較して示す写真(SEM写真)である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を具体的に説明する。
まず、本発明において、半有機被膜の無機成分として、Zr化合物およびB化合物を、前記の成分範囲に限定した理由について説明する。
なお、これらの成分の質量%は、乾燥被膜中における比率である。
【0017】
Zr化合物:ZrO2換算で20〜70質量%
本発明において、Zr化合物としては、例えば、酢酸ジルコニウム、プロピオン酸ジルコニウム、オキシ塩化ジルコニウム、硝酸ジルコニウム、炭酸ジルコニウムアンモニウム、炭酸ジルコニウムカリウム、ヒドロキシ塩化ジルコニウム、硫酸ジルコニウム、リン酸ジルコニウム、リン酸ナトリウムジルコニウム、六フッ化ジルコニウムカリウム、テトラノルマルプロポキシジルコニウム、テトラノルマルブトキシジルコニウム、ジルコニウムテトラアセチルアセトネート、ジルコニウムトリブトキシアセチルアセトネート、ジルコニウムトリブトキシステアレート等が挙げられる。これらは、単独添加は勿論のこと、2種以上複合して用いることもできる。
【0018】
かようなZr化合物は、酸素との結合力が強く、Fe表面の酸化物、水酸化物などと強固に結合することができる。また、Zr化合物は3つ以上の結合手を持つため、Zr同士、もしくは他の無機化合物とネットワークを形成することでクロムを使用することなく強靭な被膜を形成することができる。しかしながら、Zr化合物の乾燥被膜中における比率が、ZrO2換算で20質量%に満たないと密着性が劣化し、耐食性、耐粉吹き性が劣化するだけでなく、有機成分の偏析に起因した焼鈍後外観の劣化が発生する。一方、70質量%を超えると耐食性および耐粉吹き性が劣化し、また歪取り焼鈍板での耐キズ性も劣化する。それ故、Zr化合物はZrO2換算で20〜70質量%の範囲に限定した。
【0019】
B化合物:B23換算で0.1〜20質量%
本発明において、B化合物としては、ホウ酸、オルトホウ酸、メタホウ酸、四ホウ酸、メタホウ酸ナトリウム、四ホウ酸ナトリウム等が挙げられ、これらを単独または複合して使用することができる。しかしながら、これらに限定されるものではなく、例えば、水に溶けてホウ酸イオンを生じさせるような化合物でもよく、またホウ酸イオンは直線型や環状に重合していてもよい。
【0020】
かようなB化合物は、Zr化合物を単独で添加した場合の問題の解決に有利に寄与する。すなわち、Zr化合物を単独で添加した場合には耐食性や耐粉吹き性が劣化し、また歪取り焼鈍板での耐キズ性が著しく劣化する傾向が見られた。この理由は、Zr化合物単独では、焼付けた際の体積収縮が大きいために被膜割れが生じやすく、部分的に素地が露出する箇所が発生するためと考えられる。
これに対し、B化合物をZr化合物に適量配合することにより、Zr単独の場合に発生していた被膜割れが効果的に緩和され、耐粉吹き性を著しく改善することができる。
ここに、乾燥被膜中におけるB化合物の含有量がB23換算で0.1質量%に満たないとその添加効果に乏しく、一方20質量%を超えると未反応物が被膜中に残存して、歪取り焼鈍後に被膜同士が融着する不具合(スティック)が発生するので、B化合物はB23換算で0.1〜20質量%の範囲に限定した。
【0021】
また、本発明では、上記した3成分の他、さらに硝酸化合物、シランカップリング剤およびリン化合物のうちから選んだ一種または二種以上を合計で、乾燥被膜中における比率で30質量%以下で含有させることもできる。なお、硝酸化合物、シランカップリング剤およびリン化合物の乾燥被膜中における比率は、それぞれNO3換算(硝酸化合物)、固形分換算(シランカップリング剤)およびP25換算(リン化合物)で示したものである。
かような硝酸化合物、シランカップリング剤およびリン化合物は、耐食性および耐キズ性の改善に有効に寄与するが、乾燥被膜中における比率が30質量%以下であると、未反応物が被膜中に残存することがなく耐水性を低下させないので、含有量は30質量%以下とすることが好ましい。なお、これらの成分の効果を十分に発揮させるには、乾燥被膜中における比率で1質量%以上含有させることが好ましい。
【0022】
本発明において、硝酸化合物としては、以下に示すような硝酸系および亜硝酸系が有利に適合する。
・硝酸系
硝酸(HNO3)、硝酸カリウム(KNO3)、硝酸ナトリウム(NaNO3)、硝酸アンモニウム(NH4NO3)、硝酸カルシウム(Ca(NO32)、硝酸銀(AgNO3)、硝酸鉄(II)(Fe(NO32)、硝酸鉄(III)(Fe(NO33)、硝酸銅(II)(Cu(NO32)、硝酸バリウム(Ba(NO32)、硝酸アルミニウム(Al(NO33)、硝酸マグネシウム(Mg(NO32)、硝酸亜鉛(Zn(NO32)、硝酸ニッケル(II)(Ni(NO32)、硝酸ジルコニウム(ZrO(NO32)。
・亜硝酸系
亜硝酸(HNO2)、亜硝酸カリウム、亜硝酸カルシウム、亜硝酸銀、亜硝酸ナトリウム、亜硝酸バリウム、亜硝酸エチル、亜硝酸イソアミル、亜硝酸イソブチル、亜硝酸イソプロピル、亜硝酸−t−ブチル、亜硝酸−n−ブチル、亜硝酸−n−プロピル。
【0023】
また、シランカップリング剤としては、以下に示すものが有利に適合する。
・ビニル系
ビニルトリクロルシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン。
・エポキシ系
2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン。
・スチリル系
p−スチリルトリメトキシシラン。
・メタクリロキシ系
3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン。
・アクリロキシ系
3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン。
・アミノ系
N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−トリエトキシシリル−N−(1,3−ジメチル−ブチリデン)プロピルアミンとその部分加水分解物、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(ビニルベンジル)−2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリメトキシシランの塩酸塩、特殊アミノシラン。
・ウレイド系
3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン。
・クロロプロピル系
3−クロロプロピルトリメトキシシラン。
・メルカプト系
3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン。
・ポリスルフィド系
ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド。
・イソシアネート系
3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン。
【0024】
さらに、リン化合物としては、以下に示すようなリン酸およびリン酸塩が有利に適合する。
・リン酸
オルトリン酸、無水リン酸、直鎖状ポリリン酸、環状メタリン酸。
・リン酸塩
リン酸マグネシウム、リン酸アルミニウム、リン酸カルシウム、リン酸亜鉛。
【0025】
なお、本発明では、無機成分中に、不純物としてHfやHfO2、TiO2、Fe23などが混入することがあるが、これらの不純物の総量が乾燥被膜中における比率で1質量%以下であれば、特に問題は生じない。
【0026】
本発明では、乾燥被膜中における上記したような無機成分の比率が20.1〜90質量%となるように、有機樹脂を10〜79.9質量%の割合で配合する。
本発明において、有機樹脂としては特に制限はなく、従来から使用されている公知のものいずれもが有利に適合する。例えば、アクリル樹脂、アルキッド樹脂、ポリオレフイン樹脂、スチレン樹脂、酢酸ビニル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂等の水性樹脂(エマルジョン、ディスパーション、水溶性)が挙げられる。特に好ましくはアクリル樹脂やエチレンアクリル酸樹脂のエマルジョンである。
【0027】
かかる有機樹脂は、耐食性、耐キズ性および打抜性の改善に有効に寄与するが、乾燥被膜中における配合割合が20.1質量%以上であればその添加効果が大きく、一方90質量%以下であれば歪取り焼鈍後の耐キズ性が劣化することがないので、有機樹脂の配合割合は固形分換算で20.1〜90質量%程度とすることが好ましい。
【0028】
なお、乾燥被膜中の比率とは、上記した成分を含有する処理液を鋼板に塗布し、焼き付け、乾燥させることにより、表面に形成した被膜中の各成分の割合である。処理液を180℃で30分乾燥させた後の乾燥後残存成分(固形分)から求めることもできる。
【0029】
さらに、本発明では、上記した成分の他、通常用いられる添加剤や、その他の無機化合物や有機化合物の含有を妨げるものではない。
ここに、添加剤は、絶縁被膜の性能や均一性を一層向上させるために添加されるもので、界面活性剤や防錆剤、潤滑剤、酸化防止剤等が挙げられる。なお、かかる添加剤の配合量は、十分な被膜特性を維持する観点から、乾燥被膜中における比率が10質量%程度以下とすることが好ましい。
【0030】
本発明において、素材である電磁鋼板としては、特に制限はなく、従来から公知のものいずれもが適合する。
すなわち、磁束密度の高いいわゆる軟鉄板(電気鉄板)やSPCC等の一般冷延鋼板、また比抵抗を上げるためにSiやAlを含有させた無方向性電磁鋼板などいずれもが有利に適合する。
【0031】
次に、絶縁被膜の形成方法について説明する。
本発明では、素材である電磁鋼板の前処理については特に規定しない。すなわち、未処理でもよいが、アルカリなどの脱脂処理、塩酸、硫酸、リン酸などの酸洗処理を施すことは有利である。
そして、この電磁鋼板の表面に、Zr化合物およびB化合物、さらには硝酸化合物、シランカップリング剤およびリン化合物のうちから選んだ一種または二種以上や、必要に応じて添加剤等を、有機樹脂と共に所定の割合で配合した処理液を塗布し、焼き付けることにより絶縁被膜を形成させる。絶縁被膜用処理液の塗布方法は、一般工業的に用いられるロールコーター、フローコーター、スプレー、ナイフコーター等種々の方法が適用可能である。また、焼き付け方法についても、通常実施されるような熱風式、赤外式、誘導加熱式等が可能である。焼付け温度も通常レベルであればよく、到達鋼板温度で150〜350℃程度であればよい。
【0032】
本発明の絶縁被膜付き電磁鋼板は、歪取り焼鈍を施して、例えば、打抜き加工による歪みを除去することができる。好ましい歪取り焼鈍雰囲気としては、N2雰囲気、DXガス雰囲気などの鉄が酸化されにくい雰囲気が適用される。ここで、露点を高く、例えばDp:5〜60℃程度に設定し、表面および切断端面を若干酸化させることで耐食性をさらに向上させることができる。また、好ましい歪取り焼鈍温度としては700〜900℃、より好ましくは750〜850℃である。歪取り焼鈍温度の保持時間は長い方が好ましいが、2時間以上がより好ましい。
【0033】
絶縁被膜の付着量は特に限定しないが、片面当たり0.05〜5g/m2程度とすることが好ましい。付着量、すなわち本発明の絶縁被膜の全固形分質量は、アルカリ剥離による被膜除去後の重量減少から測定することができる。また、付着量が少ない場合には蛍光X線とアルカリ剥離法との検量線から測定することができる。付着量が0.05g/m2以上であれば耐食性および絶縁性に優れ、付着量が5g/m2以下であれば密着性が向上し、塗装焼付時にふくれが発生することがなく塗装性が向上する。より好ましくは0.1〜3.0g/m2である。絶縁被膜は鋼板の両面にあることが好ましいが、目的によっては片面のみでも構わない。また、目的によっては片面のみ施し、他面は他の絶縁被膜としても構わない。
【実施例】
【0034】
以下、本発明の効果を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
乾燥後の絶縁被膜の成分が表1−1,表1−2に示す割合になるように、Zr化合物およびB化合物、さらには硝酸化合物、シランカップリング剤や添加剤を、有機樹脂と共に脱イオン水に添加し、処理液とした。なお、脱イオン水量に対する添加濃度は50g/lとした。
これらの各処理液を、板厚:0.5mmの電磁鋼板〔A230(JIS C 2552(2000))〕から幅:150mm、長さ:300mmの大きさに切り出した試験片の表面にロールコーターで塗布し、熱風焼付け炉により表1−1,表1−2に示す焼付け温度(到達鋼板温度)で焼付けした後、常温に放冷して、絶縁被膜を形成した。
かくして得られた半有機絶縁被膜付き電磁鋼板の耐食性および耐粉吹き性について調べた結果を、表2に示す。
さらに、窒素雰囲気中にて750℃、2時間の歪取り焼鈍を行ったのちの耐キズ性、スティッキング性、打抜性、Tig溶接性、耐水性および焼鈍後外観について調査を行い、得られた結果を表2に併記する。
【0035】
なお、Zr化合物の種類は表3に、B化合物の種類は表4に、硝酸化合物の種類は表5に、シランカップリング剤の種類は表6に、有機樹脂の種類は表7に、それぞれ示したとおりである。
【0036】
また、各特性の評価方法は次のとおりである。
<耐食性>
供試材に対して湿潤試験(50℃、相対湿度≧98%)を行い、48時間後の赤錆発生率を目視で観察し、面積率で評価した。なお、錆び発生面積率とは、目視による観察全面積に対する、錆び発生面積の合計の百分率である。
(判定基準)
◎:赤錆面積率 20%未満
○:赤錆面積率 20%以上、40%未満
△:赤錆面積率 40%以上、60%未満
×:赤錆面積率 60%以上
【0037】
<耐粉吹き性>
試験条件;フェルト接触面幅20mm×10mm、荷重:0.4MPa(3.8kg/cm2)、被膜表面を100回単純往復。試験後の擦り跡を目視観察し、被膜の剥離状態および粉吹き状態を評価した。
(判定基準)
◎:ほとんど擦り跡が認められない
○:若干の擦り跡および若干の粉吹きが認められる程度
△:被膜の剥離が進行し擦り跡および粉吹きがはっきりわかる程度
×:地鉄が露出するほど剥離し粉塵が甚大
【0038】
<焼鈍後耐キズ性>
試験条件;N2雰囲気、750℃で2時間保持して焼鈍したサンプル表面を鋼板せん断エッジで引っかき、キズ、粉吹きの程度を判定した。
(判定基準)
◎:キズ、粉吹きの発生がほとんど認められない
○:若干の擦り跡および若干の粉吹きが認められる程度
△:擦り跡および粉吹きがはっきりわかる程度
×:地鉄が露出するほど剥離し粉塵が甚大
【0039】
<スティッキング性>
50mm角の供試材10枚を重ねて荷重:20kPa(200g/cm2)をかけながら窒素雰囲気下で750℃,2時間の条件にて焼鈍を行った。ついで、供試材(鋼板)上に500gの分銅を落下させ、5分割するときの落下高さを調査した。
(判定基準)
◎:10cm以下
○:10cm超、15cm以下
△:15cm超、30cm以下
×:30cm超
【0040】
<打抜性>
供試材に対して、15mmφスチールダイスを用いて、かえり高さが50μmに達するまで打ち抜きを行い、その打ち抜き数で評価した。
(判定基準)
◎:100万回以上
○:50万回以上、100万回未満
△:10万回以上、50万回未満
×:10万回未満
【0041】
<Tig溶接性>
供試材を30mmの厚みになるように9.8MPa(100kgf/cm2)の圧力にて積層し、その端部に対して、次の条件でTig溶接性を実施した。
・溶接電流:120A
・Arガス流量:6リットル/min
・溶接速度:10,20,30,40,50,60,70,80,90,100cm/m in
(判定基準)
ブローホールの数が1ビードにつき5個以下を満足する最大溶接速度で優劣を判定した。
◎:60cm/min以上
○:40cm/min以上、60cm/min未満
△:20cm/min以上、40cm/min未満
×:20cm/min未満
【0042】
<耐水性>
供試材に対して、沸騰水蒸気中に30分暴露させ、外観変化を観察した。
(判定基準)
◎:変化なし
○:目視で若干の変色が認められる程度
△:目視で変色がはっきり認められる程度
×:被膜溶解
【0043】
<歪取り焼鈍後の外観>
供試材に対して、N2雰囲気中にて750℃,2時間保持後、常温まで冷却した鋼板の外観を目視観察した。
(判定基準)
◎:図1(a)に示すように、焼鈍後の外観が完全に均一な場合
○:図1(b)に示すように、焼鈍後の外観にムラが認められる場合
△:図1(c)に示すように、焼鈍後の外観に斑模様が認められる場合
×:図1(d)に示すように、焼鈍後の外観に顕著な斑模様が認められる場合
【0044】
【表1−1】

【0045】
【表1−2】

【0046】
【表2】

【0047】
【表3】

【0048】
【表4】

【0049】
【表5】

【0050】
【表6】

【0051】
【表7】

【0052】
表2に示したとおり、本発明に従い得られた半有機絶縁被膜付き電磁鋼板はいずれも、耐食性および耐粉吹き性に優れるのはいうまでもなく、歪取り焼鈍後の耐キズ性、スティッキング性、打抜性、Tig溶接性および耐水性に優れ、さらには焼鈍後外観にも優れていた。
これに対し、Zr化合物が適正範囲から外れた比較例1,2は、耐食性、耐粉吹き性および焼鈍後耐キズ性に劣っていた。特に比較例1は、焼鈍後外観にも劣っていた。
また、B化合物が下限に満たない比較例3は、耐食性、耐粉吹き性および焼鈍後耐キズ性に劣り、一方B化合物が上限を超えた比較例4は、スティッキング性に劣っていた。
さらに、硝酸化合物やシランカップリング剤およびリン化合物を適正範囲を超えて多量に含有させた比較例5〜9はいずれも、歪取り焼鈍後の耐水性に劣っていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に、無機成分と有機樹脂からなる半有機絶縁被膜をそなえる電磁鋼板であって、
該無機成分としてZr化合物およびB化合物をそれぞれ、乾燥被膜中における比率で、Zr化合物(ZrO2換算):20〜70質量%、B化合物(B23換算):0.1〜20質量%含有し、残部が有機樹脂からなることを特徴とする半有機絶縁被膜付き電磁鋼板。
【請求項2】
前記被膜中に、さらに硝酸化合物(NO3換算)、シランカップリング剤(固形分換算)およびリン化合物(P25換算)のうちから選んだ一種または二種以上を、乾燥被膜中における比率で30質量%以下で含有することを特徴とする請求項1記載の半有機絶縁被膜付き電磁鋼板。

【図1】
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【公開番号】特開2012−117103(P2012−117103A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−267168(P2010−267168)
【出願日】平成22年11月30日(2010.11.30)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】