説明

半極性窒化物を備え、窒化物核生成層又はバッファ層に特徴を有するデバイス構造

【課題】
半極性窒化物を備え、窒化物核生成層又はバッファ層に特徴を有するデバイス構造を提供する。
【解決手段】
基板上の、またはこの基板を覆う窒化物の核生成層または緩衝層と、
前記窒化物の核生成層または緩衝層上の、またはそれらを覆う半極性窒化物膜であって、この半極性III族窒化物膜の成長表面は該基板の表面に平行である半極性窒化物膜とを備え、前記窒化物核生成層またはバッファ層の一つ以上の特徴が、前記半極性III族窒化物膜の5μm×5μmの面積あたりの表面凹凸が7nm未満であり、前記半極性III族窒化物膜の微小構造品質は、x線回折で測定された0.43°未満の半値全幅(FWHM)を有するロッキング・カーブにより特徴づけられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は半極性窒化物を備え、窒化物核生成層又はバッファ層に特徴を有するデバイスとに関する。
関連出願の相互参照関係
本出願は米国特許法第119条(e)に基づいて、本発明の譲受人に譲渡された以下の同時係属の米国特許出願の利益を主張するものである。
マイケル・イザ(MichaelIza)、トロイ・J.ベーカー(TroyJ.Baker)、ベンジャミン・A.ハスケル(BenjaminA.Haskell)、スティーブン・P.デンバース(StevenP.DenBaars)、および中村修二(ShujiNakamura)による米国特許仮出願第60/715,491号、2005年9月9日出願、発明の名称「有機金属化学気相成長法による半極性(Al,In,Ga,B)Nの成長促進法(METHOD FOR ENHANCING GROWTH OF SEMIPOLAR (Al,In,Ga,B)N VIA METALORGANIC CHEMICAL VAPOR DEPOSITION)」、代理人整理番号30794.144−US−P1(2005−722);
この出願は参照として本明細書中に組み込まれているものとする。
【0002】
本出願は本発明の譲受人に譲渡された以下の同時係属の出願と関連するものである。
トロイ・J.ベーカー、ベンジャミン・A.ハスケル、ポール・T.フィニ(Paul T.Fini)、スティーブン・P.デンバース、ジェームス・S.スペック、および中村修二による米国実用特許出願第11/372,914号、2006年3月10日出願、発明の名称「平坦な半極性窒化ガリウムの成長技術(TECHNIQUE FOR THE GROWTH OF PLANAR SEMIPOLAR GALLIUM NITRIDE)」、代理人整理番号30794.128−US−Ul(2005−471−2);
上記出願は米国特許法第119条(e)に基づいて、次の特許文献の利益を主張している。
トロイ・J.ベーカー、ベンジャミン・A.ハスケル、ポール・T.フィニ、スティーブン・P.デンバース、ジェームス・S.スペック、および中村修二による米国特許仮出願第60/660,283号、2005年3月10日出願、発明の名称「平坦な半極性窒化ガリウムの成長技術(TECHNIQUE FOR THE GROWTH OF PLANAR SEMI−POLAR GALLIUM NITRIDE)」、代理人整理番号30794.128−US−P1(2005−471−1);
ロバート・M.ファレル(Robert M.Farrell)、トロイ・J.ベーカー、アーパン チャクラボーティ(Arpan Chakraborty)、ベンジャミン・A.ハスケル、P.モルガン・パチソン(P.Morgan Pattison)、ラジャット・シャーマ(Rajat Sharma)、ウメシュ・K.ミシュラ(Umesh K. Mishra)、スティーブン・P.デンバース、ジェームス・S.スペック、および中村修二による米国実用特許出願第11/444,946号、2006年6月1日出願、発明の名称「半極性(Ga,Al,In,B)N薄膜、ヘテロ構造およびデバイスの成長と作製のための方法及び装置(TECHNIQUEFOR THE GROWTH AND FABRICATION OF SEMIPOLAR(Ga,Al,In,B)N THIN FILMS,HETEROSTRUCTURES,AND DEVICES)」代理人整理番号30794.140−US−U1( 2005−668−2) ;
上記出願は米国特許法第119条(e)に基づいて、次の特許文献の利益を主張している。
ロバート・M.ファレル、トロイ・J.ベーカー、アーパン チャクラボーティ、ベンジャミン・A.ハスケル、P.モルガン・パチソン、ラジャット・シャーマ、ウメシュ・K.ミシュラ、スティーブン・P.デンバース、ジェームス・S.スペック、および中村修二による米国特許仮出願第60/686,244号、2005年6月1日出願、発明の名称「半極性(Ga,Al,In,B)N薄膜、ヘテロ構造およびデバイスの成長と作製のための方法及び装置(TECHNIQUEFOR THE GROWTH AND FABRICATION OF SEMIPOLAR (Ga,Al,In,B)N THIN FILMS,HETEROSTRUCTURES,AND DEVICES)」代理人識別番号30794.140 US−P1(2005−668−1);
トロイ・J.ベーカー、ベンジャミン・A.ハスケル、ジェームス・S.スペック、および中村修二による米国実用特許出願第11/486,224、2006年7月13日出願、発明の名称「半極性窒化物薄膜の欠陥低減のための横方向成長方法(LATERAL GROWTH METHOD FOR DEFECT REDUCTION OF SEMI−POLAR NITRIDE FILMS)」代理人整理番号30794.141−US−U1(2005−672−2);
上記出願は米国特許法第119条(e)に基づいて、次の特許文献の利益を主張している。
トロイ・J.ベーカー、ベンジャミン・A.ハスケル、ジェームス・S.スペック、および中村修二による米国特許仮出願第60/698,749号、2005年7月13日出願、発明の名称「半極性窒化物薄膜の欠陥低減のための横方向成長方法(LATERAL GROWTH METHOD FOR DEFECT REDUCTION OF SEMIPOLAR NITRIDE FILMS)」、代理人整理番号30794.141−US−P1(2005−672−1);
ジョン・F.ケディング(JohnF.Kaeding)、マイケル・イザ、トロイ・J.ベーカー、サトー・ヒロシ(HiroshiSato)、ベンジャミン・A.ハスケル、ジェームス・S.スペック、スティーブン・P.デンバース、および中村修二による米国特許仮出願第60/760,739号、2006年1月20日出願、発明の名称「半極性(Al,In,Ga,B)Nの改良成長法(METHOD FOR IMPROVED GROWTH OF SEMIPOLAR (Al,In,Ga,B)N)」、代理人整理番号30794.150−US−P1(2006−126−1);
サトー・ヒロシ、ジョン・F.ケディング、マイケル・イザ、トロイ・J.ベーカー、ベンジャミン・A.ハスケル、スティーブン・P.デンバース、および中村修二による米国特許仮出願第60/760,628号、2006年1月20日出願、発明の名称「有機金属化学気相成長法による半極性(Al,In,Ga,B)Nの成長促進方法(METHOD FOR ENHANCING GROWTH OF SEMIPOLAR (Al,In,Ga,B)N VIA METALORGANIC CHEMICAL VAPOR DEPOSITION)」、代理人識別番号30794.159−US−P1(2006−178−1);
ジョン・F.ケディング、サトー・ヒロシ、マイケル・イザ、アサミズ・ヒロクニ(HirokuniAsamizu)、ホン・ゾーン(HongZhong)、スティーブン・P.デンバース、および中村修二による米国特許仮出願第60/772,184号、2006年2月10日出願、発明の名称「半極性(Al,In,Ga,B)Nの導電性制御の方法(METHOD FOR CONDUCTIVITY CONTROL OF SEMIPOLAR (Al,In,Ga,B)N)」、代理人整理番号30794.166−US−P1(2006−285−1);
ホン・ゾーン、ジョン・F.ケディング、ラジャット・シャーマ、ジェームス・S.スペック、スティーブン・P.デンバース、および中村修二による米国特許仮出願第60/774,467号、2006年2月17日出願、発明の名称「半極性(Al,ln,Ga,B)N光電子デバイスの成長方法(METHODFOR GROWTH OF SEMIPOLAR (Al,ln,Ga,B)N OPTOELECTRONICS DEVICES)」、代理人識別番号30794.173−US−P1(2006−422−1);
これらの出願は全て参照として本明細書中に組み込まれているものとする。
【背景技術】
【0003】
関連技術の説明
(注意:この出願は、本明細書を通じて、括弧で囲まれる1つ以上の参照番号、たとえば[参考文献x]で示された、多くの異なる刊行物を参照する。参照番号順に並べられたこれらの文献のリストは、以下の[参考文献]と書かれたセクションに示す。これらの刊行物はそれぞれ本明細書中に組み込まれる。)
窒化ガリウム(GaN)およびそのアルミニウムとインジウムを含む3元および4元化合物(AlGaN,InGaN,AlInGaN)の有用性は、可視光および紫外光の光電子デバイスおよび高出力電子デバイスの作製において十分に確立された。これらのデバイスは、通常は分子線エピタキシー(MBE)、有機金属化学気相成長法(MOCVD)、およびハイドライド気相エピタキシー(HVPE)を含む技術を用いてエピタキシャルに成長される。
【0004】
GaNとその合金は、六方晶ウルツ鉱型結晶構造が最も安定であり、その構造は単一のc軸に、全てが直交する、相互に120°回転した2つ(または3つの)等価な基底面軸(a軸)によって記述される。III族元素と窒素元素は結晶のc軸に沿って交互にc面を占める。ウルツ鉱型構造に含まれる対称要素によれば、III族窒化物はこのc軸に沿ってバルク自発分極を有し、またウルツ鉱型構造は圧電分極を示すことになる。
【0005】
電子デバイスおよび光電子デバイスに関する現行の窒化物技術では有極性のc方向に沿って成長した窒化物薄膜が用いられる。しかしながら、III族窒化物ベースの光電子および電子デバイスにおける従来のc面量子井戸構造は、強い圧電および自発分極の存在のために、量子閉じ込めシュタルク効果(QCSE)により望ましくない影響を受ける。c方向に沿った強い内部電界は、電子と正孔を空間的に分離させる原因となり、それが今度は、キャリア再結合効率の制限、振動子強度の低下、および発光のレッド・シフトを引き起こす。
GaN光電子デバイスにおける自発分極および圧電分極の影響を除去する方法の1つは、結晶の無極性面上にデバイスを成長することである。そのような面は同数のGaとN原子を含み、電荷中性である。さらに、その次の無極性層は結晶学的にお互いに等価であるため、結晶は成長方向に沿って分極することはない。GaNにおける対称等価な無極性面の2つのファミリーは、まとめてa面として知られる{11−20}ファミリーと、まとめてm面として知られる{1−100}ファミリーである。本発明の譲受人であるカリフォルニア大学の研究者らによってなされた進歩にもかかわらず、残念ながら、無極性窒化物の成長は依然として挑戦課題であり、III族窒化物の工業界に広く採用されるまでにいたっていない。
【0006】
GaN光電子デバイスにおける分極の影響を低減または除去するためのもう1つの方法は、デバイスを結晶の半極性面上に成長することである。半極性面という用語は、ミラー指数h、i、またはjのうちの2つは0ではなく、ミラー指数lも0ではない広い範囲の面を指している。c面GaNヘテロエピタキシャルにおいて通常よく見られる半極性面のいくつかの例は、{11−22}、{10−11}および{10−13}面を含んでいる。これらはピットのファセットに見られる。これらの面は、また、本発明者らが平坦な薄膜の形態で成長した面と偶然に同じである。ウルツ鉱型結晶構造における半極性面の他の例は、{10−12}、{20−21}および{10−14}を含むが、これらに限定されない。窒化物結晶の分極ベクトルは、これらの面内にあるのではなく、これらの面に垂直でもなく、その面の面法線に対してある角度で傾いている。例えば、{10−11}と{10−13}面は、c面に対してそれぞれ62.98°と32.06°である。
【0007】
自発分極に加えて、窒化物に存在する分極の第2の形態は圧電分極である。これは、材料が圧縮ひずみか伸張ひずみを受けるときに起こるものであり、窒化物ヘテロ構造において異なる組成(およびそれゆえに異なる格子定数)の(Al,In,Ga,B)N層を成長するときに起こる。例えば、GaNテンプレート上の薄いAlGaN層は面内に伸張歪を持ち、GaNテンプレート上の薄いInGaN層は面内に圧縮歪を持つが、これはどちらもGaNに格子整合するためである。それゆえに、GaN上のInGaN量子井戸では圧電分極は、InGaNとGaNの自発分極の方向とは反対方向を向いている。GaNに格子整合したAlGaN層では圧電分極は、AlGaNとGaNの自発分極の方向と同じ方向を向いている。
【0008】
c面窒化物に対比して半極性面を用いる利点は、全分極が低減できるということである。特定の面上では、特定の合金組成において分極が0になることさえある。そのようなシナリオは将来の学術論文において詳しく議論されるであろう。重要な点は、分極がc面窒化物構造の場合に比べて低減するということである。
GaNのバルク結晶は容易には入手できないので、結晶を単純に切断して引き続くデバイスの再成長に用いる表面を提供することはできない。一般的に、GaN薄膜は、まずヘテロエピタキシャルに、すなわちGaNにおおよそ格子整合する異種基板上に成長される。
【0009】
半極性GaN面は、パターン化されたc面配向のストライプの側壁上にあることが実証された。非特許文献1は、この技術を用いて{11―22}InGaN量子井戸を成長した。彼らは、半極性面{11−22}の内部量子効率がc面のそれよりも高いことも実証し、これは低減した分極に起因するものであるとした。
しかしながら、半極性面を実現するこの方法はエピタキシャル横方向オーバーグロス(ELO)技術の副産物であり、本発明とは著しく異なる。ELOは、GaNと他の半導体における欠陥を低減するために用いられる厄介な処理工程と成長方法であり、マスク材料のストライプをパターン化するステップを含む。マスク材料は、GaNに対してはSiO2 の場合が多い。そこでGaNは、マスク間の開き窓から成長し、その後マスク上に成長する。そこで、連続した薄膜を形成するために、GaNは横方向成長によって会合する。このストライプの結晶面は、成長パラメータによって制御できる。ストライプが会合する前に成長を止めると、小面積の半極性面が露出する。この面積はおよそ10μm幅程度である。半極性面は、基板表面に平行ではない。このように、実現できる表面面積は小さすぎて半極性LEDを作製するために処理することは困難である。更に、傾いた面上にデバイス構造を形成することは、通常の面上にその構造を形成するのに比べるとはるかに困難である。また、全ての窒化物組成がELOプロセスに適合するわけではなく、広く行なわれているのはGaNのELOのみである。
【0010】
核生成層、緩衝層、および/またはウェッティング層は、1990年代の初めから高品質の窒化物の成長において盛んに用いられてきた(非特許文献2、3。この技術は、通常は厚い(1μm〜5μm)窒化物半導体材料の成膜の前に多結晶および/またはアモルファスの窒化物半導体材料の薄い層(50Å〜2000Å)を用いるという手法を用いる。c面GaN薄膜のヘテロエピタキシャル成長における核生成層(NL)を用いることの利点は、十分に確立しているが、NLが結晶品質を改良するメカニズムについては十分にはわかっていない。NLが、高品質窒化物材料が成膜する結晶サイトを提供するものであると考えられている(非特許文献4、5。その後の成膜によって、NLなしに成膜された窒化物に比べると、結晶学的、電気的、および光学的特性が劇的に改良されることが示されている。
【0011】
NLの効用は、窒化物薄膜に対して盛んに立証されてきたが、それらは、(0001)すなわちc面という結晶学的方向に成長された窒化物から構成されている(特許文献1、2)特許文献2は、スピネル基板上に成長するc面GaNの結晶品質を改良するために複数の緩衝層を用いることを実証した。この方法は本発明とはかなり異なり、この著者は、特許文献2に記述してあるように、(111)スピネルとは9%が格子不整であるc面GaNの成長について記述している。それはまた、デバイス品質のc面GaNを作製するために必要な、全部で4つの複数の緩衝層を含むため非常に厄介なものである。これに比べ、本発明は、半極性GaNの改良のために単一の緩衝層を用いることを記述している。
【0012】
c面GaN薄膜の改良も特許文献1によって実証された。前記のとおり、この特定の結晶学的方向であるc方向における光電子デバイスおよび電子デバイスは、強い圧電および自発分極の存在により望ましくないQCSE効果を受けてしまう。本発明は、半極性窒化物薄膜の品質の改良のために単一の緩衝層を用いる点で上記の方法とは異なるものである。
【0013】
そこで、(Al,In,Ga,B)Nの大面積が基板表面に平行である半極性窒化物の平坦な薄膜の成長について改良された方法に対するニーズが存在する。本発明はこのニーズを満たすものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】米国特許第4,855,249号
【特許文献2】米国特許第5,741,724号
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】Nishizuka,K.,Applied Physics Letters,Vol.85 Number 15,11 October 2004.この論文はELO材料の{11−12}GaN側壁についての研究論文である。
【非特許文献2】H.Amano,N.Sawaki,I.Akasaki and Y.Toyoda,Applied Physics Letters,Vol.48(1986)pp.353.この論文はc面GaN結晶品質の改良のためにAlN緩衝層を用いることを記している。
【非特許文献3】S.Nakamura,Japanese Journal of Applied Physics,Vol.30,No.10A,October,1991,pp.L1705−L1707.この論文はc面GaN結晶品質の改良のためにGaN緩衝層を用いることを記している。
【非特許文献4】D.D.Koleske,M.E.Coltrin,K.C.Cross,C.C.Mitchell,A.A.Allerman,Journal of crystal Growth Vol.273,(2004),pp.86.この論文はGaN緩衝層がサファイヤ基板上のc−面GaNの形態変化に与える効果について記している。
【非特許文献5】B.Moran,F.Wu,A.E.Romanov,U.K.Mishra,S.P.Denbaars,J.S.Speck,Journal of crystal Growth Vol.273,(2004),pp.38−47.この論文はAlN緩衝層が炭化珪素基板上のc面GaNの形態変化に与える効果について記している。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、デバイス構造であって、基板上の、またはこの基板を覆う窒化物の核生成層または緩衝層と、前記窒化物の核生成層または緩衝層上の、またはそれらを覆う半極性窒化物膜であって、この半極性III族窒化物膜の成長表面は該基板の表面に平行である半極性窒化物膜とを備え、前記窒化物核生成層またはバッファ層の一つ以上の特徴が、前記半極性III族窒化物膜の5μm×5μmの面積あたりの表面凹凸が7nm未満であり、前記半極性III族窒化物膜の微小構造品質は、x線回折で測定された0.43°未満の半値全幅(FWHM)を有するロッキング・カーブにより特徴づけられる。
【0017】
具体的に、本発明は、基板上に有機金属化学気相成長法(MOCVD)を用いて半極性窒化物半導体薄膜を成長するが、半極性窒化物半導体薄膜の成長の前に基板上に窒化物核生成層または緩衝層を成長させる
核生成層あるいは緩衝層はAlx Iny Ga1-x-y N(x=1およびy=0)を含むものである。
【0018】
半極性窒化物半導体薄膜は、変化する組成または傾斜する組成を持つ複数の層、異なる(Al,Ga,In,B)Nの組成の層を含むヘテロ構造、異なる(Al,Ga,In,B)Nの組成の1つ以上の層を含んでいる。半極性窒化物半導体薄膜は、Fe、Si、およびMgのような元素でドープされていてもよい。
半極性窒化物半導体薄膜の成長表面は、基板表面に平行であり、成長表面は幅10μmの面積よりも大きい。例えば、半極性窒化物半導体薄膜は、直径2インチの基板をカバーするように成長される。
【0019】
半極性窒化物半導体薄膜は、ハイドライド気相成長エピタキシー(HVPE)、有機金属化学気相成長法(MOCVD)、および/または分子線エピタキシー(MBE)のような方法による引き続く成長のための基板として用いてもよい。半極性窒化物半導体薄膜は、現状技術水準の窒化物半極性電子デバイスに必要な、改良された表面および結晶特性を有する。
【0020】
前記方法を用いてデバイスが作製される。
以下、図面を参照し、対応する部分には一貫して同じ参照番号を付与する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の好ましい実施例のフローチャートである。
【図2】{100}スピネル上に成長したGaNの表面の顕微鏡写真である。 図2(a)では、GaNはAlx Iny Ga1-x-y N(x=0、y=0)核生成層上に成長し、図2(b)ではGaNはAlx y Ga1-x-y N(x=1、y=0)核生成層上に成長している。
【図3】{100}スピネル上に成長したGaNの表面の原子間力顕微鏡(AFM)像である。図3(a)では、GaNはHVPE法で、核生成層なしで成長され、図3(b)では、GaNはMOCVD法でAlx Iny Ga1-x-y N(x=1、y=0)核生成層上に成長された。
【図4】MOCVD法でAlx Iny Ga1-x-y N(x=1、y=0)核生成層上に成長した半極性GaN薄膜のω−2θ(400)X線回折(XRD)走査である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下の好ましい実施形態の説明では、添付の図面を参照する。添付の図面は、本明細書の一部を形成し、本発明を実施することができる特定の実施例を例示するために示す。本発明の範囲を逸脱することなく、その他の実施形態を利用してもよく、構造上の変化を施してもよいことは明らかである。
概要
本発明は、<011>方向にミスカットした{100}MgAl2 4 (スピネル)基板上にMOCVDを用いてデバイス品質の半極性で平坦な{10−11}窒化物半導体薄膜を成長するための方法を記述する。半極性窒化物半導体、たとえば{10−11}および{10−13}のGaNの成長は、ウルツ鉱型構造III族窒化物デバイス構造における分極の影響を低減する手段を提供する。窒化物という用語はGan Alx Iny z N(0≦n≦1、0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦1、n+x+y+z=1)という化学式を持つ(Ga,A,In,B)N半導体の任意の合金組成を指している。
【0023】
現行の窒化物デバイスは有極性の[0001]c方向に成長されるので、垂直デバイスの主電導方向に沿って電荷分離が生じる。その結果できる分極電界は、現行の技術水準の光電子デバイスの特性にとって致命的なものである。半極性方向に沿ってこれらのデバイスを成長すると、電導方向に沿っての内蔵電界を低減することによってデバイス特性を大幅に改良することが出来る。本発明は、有機金属化学気相成長法によって成長したときに得られる{10−11}III族窒化物薄膜品質を向上させる手段を提供するものである。
技術的に関する説明
本発明は、緩衝層あるいは核生成層を用いることによって半極性窒化物薄膜の成長を促進する方法である。この例は{10−11}GaN薄膜である。この実施例では、<011>方向にミスカットした{100}MgAl2 4 スピネル基板が成長プロセスのために用いられる。平坦な半極性GaNを実現するためには、GaNの成長の前に高いアルミニウム組成を持つAlx Iny Ga1-x-y N核生成層を用いることが決定的に重要である。
【0024】
これらの薄膜は市販のMOCVDシステムを用いて成長された。{10−11}GaNの成長パラメータの一般的な概要は、圧力が10torr〜1000torr、温度は400℃〜1400℃である。圧力と温度におけるこの変化の範囲は、適当な基板を用いて半極性GaNを成長するときの安定性を示す。エピタキシャルの関係および条件は反応装置の型式によらずに成立する。しかしながら、これらの面を成長するための反応装置の条件は個々の反応装置と成長方法(たとえば、HVPE、MOCVD、およびMBE)によって変化する。
処理工程
図1は、以下に記述する本発明の好ましい実施例による、スピネル基板上の半極性窒化ガリウム(GaN)薄膜の成長のためのMOCVD工程のステップを示すフローチャートである。
【0025】
ブロック10は、基板をMOCVD反応装置の中へ装填するステップを表す。{10−11}GaNの成長のために(100)スピネル基板は、<011>方向にミスカットしたものを用いる。
ブロック12は、基板を加熱するステップを表す。反応装置のヒータに通電され、基板の表面の窒化を促進する条件で、設定点である温度1150℃に向かって昇温する。一般に、窒素および/または水素および/またはアンモニアが大気圧下で基板上を流れる。
【0026】
ブロック14は、基板上に単一の核生成層あるいは緩衝層を成膜/成長するステップを示す。設定点温度に達したら、アンモニアの流量を0.1〜3. 0slpmに設定する。1〜20分後に、反応装置の設定点温度を1190℃に上昇し、反応装置圧力を76torrに低減し、0から3sccmのトリメチルガリウム(TMGa)および/または20sccmのトリメチルアルミニウム(TMAl)および/または120sccmのトリメチルインジウム(TMIn)を反応装置に導入して、基板上にAlx Iny Ga1-x-y N核生成層または緩衝層の成長を開始する。1から40分後にAlx Iny Ga1-x-y N核生成層または緩衝層は望ましい厚さに到達する。Alx lny Ga1-x-y N核生成層または緩衝層のxとyの値は0≦x≦1,0≦y≦1の範囲である。核生成層または緩衝層の典型的な厚さは20nm〜600nmであり、最適な厚さは〜200nmである。
【0027】
ブロック16は、半極性GaN薄膜を成膜/成長するステップを表す。この時点ではTMAlのガス流を遮断して、GaNの成長の約1〜4時間の間、TMGaは9.5sccmに増加する。
ブロック18は、基板を降温するステップを表す。GaNが望ましい厚さに到達すると、TMGaのガス流を遮断し、GaN薄膜を保護する目的でアンモニアまたは窒素を流したまま反応装置を降温する。
【0028】
ブロック20は、最終結果が半極性(Al,In,Ga,B)N薄膜であることを示す。この半極性窒化物半導体薄膜は、ハイドライド気相成長エピタキシー(HVPE)、有機金属化学気相成長法(MOCVD)、および/または分子線エピタキシー(MBE)のような方法による、引き続く成長のための基板として用いられる。
デバイスは図1の方法を用いて作製される。
可能な変更と変形
本発明の技術範囲は、言及した特定の例だけでなくそれ以外も含まれる。図1に示した方法は、任意の半極性面上の全ての半導体窒化物に適合する。例えば、ブロック16では、ミスカット(100)スピネル基板上に{10−11}AlN、InN、AlGaN、InGaNあるいはAlInNを成長することが出来る。他の例は、ブロック16で{10−14}4H−SiCのような適当な基板を用いれば{10−12}窒化物を成長することができ、また、ミスカットm面Al2 3 基板上に半極性で平坦な{11−22}を成長することが出来るということである。これらの例および他の可能性はまた、平坦な半極性薄膜の利点の全てを享受するものである。図1の方法は、ブロック14の窒化物の緩衝層あるいは核生成層を用いることにより半導体半極性窒化物薄膜を生成する任意の成長技術を含んでいる。
【0029】
反応装置条件は反応装置の型式や設計によって変わる。図1における上記の成長は、半極性GaNの成長にとって有用な条件であるとわかった条件の中の1組を記述したに過ぎない。このような薄膜が圧力、温度、ガス流量などのパラメータの広い範囲で成長でき、それらは全て平坦な半極性窒化物薄膜を生成するものであることも発見されてきた。
図1の成長工程において変形可能な他のステップがある。基板を窒化するステップは、いくつかの薄膜の表面形態を改良し、他の薄膜では成長する実際の面を決定することがわかった。しかしながら、これは任意の特定の成長技術に対して必要な場合と、必要でない場合がある。
【0030】
図1における上記の成長は、AlInGaN核生成層上でのGaN薄膜の成長を含んでいる。しかしながら、ブロック16では、任意の半極性窒化物半導体薄膜をブロック14の核生成層上に成長出来る。半極性窒化物半導体薄膜は、変化する組成、あるいは傾斜した組成をもつ複数の層からなるものであってもよい。窒化物デバイスの大多数は、異なる(Al,Ga,In,B)Nの組成の層を含むヘテロ構造を備えている。図1の方法は、ブロック16のステップ中に任意の窒化物合金組成、任意の層の数、あるいはそれらの組み合わせを成長するために用いることも出来る。例えば、半極性窒化物半導体薄膜は異なる(Al,Ga,In,B)Nの組成を持つ1つ以上の層を含んでもよい。Fe、SiおよびMgのようなドーパントがしばしばブロック16の窒化物層に導入される。これらドーパントと、および特に列挙はしていない他のドーパントは本発明の実施形態に適合する。
利点と改良点
現行の実施形態は、表面に垂直なc面を持つGaNを成長することである。この面は、デバイス特性にとっては致命的な自発分極と圧電分極を持っている。c面窒化物薄膜に対して半極性窒化物薄膜の利点は分極の低減とそれに関連するある種のデバイスの内部量子効率の上昇である。
【0031】
デバイスにおける分極の影響を完全に取り除くために、無極性面を用いることが出来る。しかしながら、この面は成長するのが非常に難しいため、無極性窒化物デバイスは、現在のところ製造されていない。無極性窒化物薄膜に対して、半極性窒化物薄膜の利点は成長の容易さである。半極性面は成長ができるパラメータ空間が広いということがわかっている。例えば、無極性面は大気圧下では成長しないが、半極性面は62.5torrから760torrの範囲で成長することが実験的に示されていて、おそらくこれより更に広い範囲を持つと考えられる。
【0032】
ELO側壁に対して、図1の方法を用いて成長した平坦な半極性薄膜の利点は、表面積が大きく、LEDまたは他のデバイスに加工することが容易に出来ることである。他の利点は、ELO側壁半極性面の場合とは異なり、図1の方法を用いた成長表面は基板表面に平行であるということである。例えば、試料はたいてい直径2インチの基板を覆うように成長するが、これは半極性窒化物の成長として以前に実証された数ミクロン幅(10μm幅程度)の面積と対比すべきことである。
【0033】
ブロック16のGaN成長に先立って、図1のブロック14において形成されるx=1およびy=0のような大きなアルミニウム組成を持つAlx Iny Ga1-x-y N核生成層を用いることにより、半極性GaN薄膜の結晶品質が劇的に改良されることが示された。これは図2(a)および図2(b)の光学顕微鏡像からも明らかである。これらの光学顕微鏡像は、好ましい実施例において記述した緩衝層技術を導入することにより、表面品質と薄膜結晶品質が大幅に改良されることを示している。Alx Iny Ga1-x-y N(x=0、y=0)核生成層を用いた場合(図2(a))、GaN薄膜成長は実質的に多結晶であり、単結晶の成長方位がない。このように、薄膜は色々な方向に配向した多数の小さなGaN結晶を持っている。この品質の薄膜は、電子デバイスの作製には用いることが出来ない。一方、Alx Iny Ga1-x-y N(x=1、y=0)核生成層を用いた場合(図2(b))、結晶品質の実質的な改良が見られる。Alx Iny Ga1-x-y N(x=1、y=0)緩衝層を用いた半極性GaN薄膜は、現状技術の窒化物半極性電子デバイスに必要な表面および結晶特性を有する。このような特性とは結晶表面が平坦で、表面凹凸が小さく、また薄膜中に存在する結晶学的欠陥が少ないことである。
【0034】
HVPE法によって成長した核生成層を持たないGaN薄膜の原子間力顕微鏡(AFM)像とMOCVD法で成長したAlx Iny Ga1-x-y N(x=1、y=0)核生成層を有する場合の像とをそれぞれ図3(a)および図3(b)に示す(各AFM像の右側に示した尺度が異なっていることに注意)。薄膜のナノスケールの表面凹凸の程度を表す像の自乗平均根(RMS)の一般的な値はHVPE法成長{10−11}GaN薄膜の5×5μm角の面積あたり7nm程度である。一方、MOCVD法によって成長したAlx Iny Ga1-x-y N(x=1、y=0)緩衝層付のGaN薄膜に対しての代表的な値は、5×5μmの面積あたり4nmの程度である。このことは本発明の好ましい実施例において記述されたような、MOCVDによって成長したAlx Iny Ga1-x-y N(x=1、y=0)緩衝層を用いた薄膜は、高品質半導体窒化物デバイスの作製に必要な、向上した表面品質を示すものである。
【0035】
図4は軸上反射のω 2θ走査のX線回折(XRD)である。この走査によって、本発明の好ましい実施形態において記述したように、MOCVD法によって成長したAlx Iny Ga1-x-y N(x=1、y=0)核生成層付の薄膜が実際に{10−11}半極性GaNであることが確認される。薄膜のGaN微小構造品質を評価するために、[0002]すなわちc軸方向へロッキングしたGaN{10−11}のXRDω走査が行われた。薄膜微小構造品質の尺度である半値全幅(FWHM)は、緩衝層なしのHVPE法で成長したGaNに対する[0002]方向へロッキングしたGaN{10−11}に対しては、一般的に0.7°である。一方、MOCVD法で成長した、Alx Iny Ga1-x-y N(x=1、y=0)核生成層を用いて成長した{10−11}GaNに対する値は0.47°である。これらの値は、本発明の好ましい実施形態に記述したような、MOCVD法によりAlx Iny Ga1-x-y N(x=1、y=0)核生成層を用いて成長した半極性薄膜の微小構造特性が大幅に改良されたことを示している。
結論
これで本発明の好ましい実施形態の説明を終える。本発明の1つ以上の実施形態に関する上記の記述は、例示と記載のために示された。開示の形態そのものによって本発明を包括または限定することを意図するものではない。多くの変更と変形が上記の教示に照らして可能である。本発明の範囲は、この詳細な説明によってではなく、本明細書に添付の請求項によって限定されるものである。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上の、または該基板を覆う窒化物の核生成層または緩衝層と、
前記窒化物の核生成層または緩衝層上の、またはそれらを覆う半極性窒化物膜であって、該半極性III族窒化物膜の成長表面は該基板の表面に平行である半極性窒化物膜とを備え、
前記窒化物核生成層またはバッファ層の一つ以上の特徴が、
前記半極性III族窒化物膜の5μm×5μmの面積あたりの表面凹凸が7nm未満であり、
前記半極性III族窒化物膜の微小構造品質は、x線回折で測定された0.43°未満の半値全幅(FWHM)を有するロッキング・カーブにより特徴づけられることを特徴とするデバイス構造。
【請求項2】
前記成長表面は平坦で、前記半極性III族窒化物膜は窒化ガリウムであることを特徴とする、請求項1に記載のデバイス構造。
【請求項3】
前記半極性III族窒化物膜は{10−11}III窒化物であることを特徴とする、請求項2に記載のデバイス構造。
【請求項4】
前記半極性III族窒化物膜は{10−12}III族窒化物であることを特徴とする、請求項2に記載のデバイス構造。
【請求項5】
前記半極性III族窒化物膜は{10−14}III族窒化物であることを特徴とする、請求項2に記載のデバイス構造。
【請求項6】
前記半極性III族窒化物膜は{10−13}III族窒化物であることを特徴とする、請求項2に記載のデバイス構造。
【請求項7】
前記半極性III族窒化物膜は{20−21}III族窒化物であることを特徴とする、請求項2に記載のデバイス構造。
【請求項8】
前記半極性III族窒化物膜は{11−22}III族窒化物であることを特徴とする、請求項2に記載のデバイス構造。
【請求項9】
前記窒化物の核生成層あるいは緩衝層は、アルミニウム含有窒化物またはAlx Iny Ga1-x-y N(x>0および0≦y≦1)核生成層または緩衝層であることを特徴とする、請求項1に記載のデバイス構造。
【請求項10】
前記成長表面上に作製される電子または光電子デバイスをさらに備えることを特徴とする、請求項1に記載のデバイス構造。
【請求項11】
前記表面凹凸が4nm未満であることを特徴とする、請求項1に記載のデバイス構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−209586(P2012−209586A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−158240(P2012−158240)
【出願日】平成24年7月17日(2012.7.17)
【分割の表示】特願2008−530223(P2008−530223)の分割
【原出願日】平成18年9月8日(2006.9.8)
【出願人】(506115514)ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ カリフォルニア (87)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】