説明

半極性(Al,In,Ga,B)NまたはIII族窒化物の結晶

【課題】故意にミスカットした基板を用いることにより、半極性(Al,In,Ga、B)NまたはIII族窒化物および該結晶の成長方向に垂直な表面からなる結晶である。
【解決手段】具体的には、結晶は、(Al,In,Ga,B)NまたはIII族窒化物および該結晶の成長方向に垂直な表面からなる結晶であって、該表面は少なくとも幅10μmであり、半極性方位を有し、 該結晶はx線回折により測定される半値全幅(FWHM)が0.55°未満であるロッキング・カーブにより特徴づけられる結晶品質を有することを特徴とする結晶を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は半極性(Al,In,Ga,B)NまたはIII族窒化物の結晶に関するものである。
関連出願の相互参照関係
本出願は米国特許法第119条(e)に基づいて、本発明の譲受人に譲渡された以下の同時継続の米国特許出願の優先権を主張するものである。
ジョン・ケディング(John Kaeding)、マイケル・イザ(Michael Iza)、トロイ・J・ベーカー(Troy J.Baker)、佐藤均(Hitoshi Sato)、ベンジャミン・A.ハスケル(Benjamin A.Haskell)、ジェームス・S.スペック(James S.Speck)、スティーブン・P.デンバース(Steven P.DenBaars)、および中村修二(Shuji Nakamura)による米国特許仮出願第60/760,739号、2006年1月20日出願、発明の名称「半極性(Al,In,Ga,B)Nの成長の改良法(METHOD FOR IMPROVED GROWTH OF SEMIPOLAR (Al,In,Ga,B)N」、代理人整理番号 30794.150−US−P1(2006−126);
この出願は参照として本明細書に組み込まれているものとする。
【0002】
本出願は本発明の譲受人に譲渡された以下の同時係属の出願と関係するものである。
トロイ・J.ベーカー、ベンジャミン・A.ハスケル、ポール・T.フィニ(Paul T.Fini)、スティーブン・P.デンバース、ジェームス・S.スペック、および中村修二による米国特許出願第11/372,914号、2006年3月10日出願、発明の名称「平坦な半極性窒化ガリウムの成長技術(TECHINIQUE FOR THE GROWTH OF PLANAR SEMI−POLAR GALLIUM NITRIDE)」、代理人整理番号30794.128−US−U1(2005−471);この出願は米国特許第119条(e)に基づいて次の出願の優先権を主張するものである。トロイ・J.ベーカー、ベンジャミン・A.ハスケル、ポール・T.フィニ、スティーブン・P.デンバース、ジェームス・S.スペック、および中村修二による米国特許仮出願第60/660,283号、2005年3月10日出願、発明の名称「平坦な半極性窒化ガリウムの成長技術(TECHNIQUE FOR THE GROWTH OF PLANAR SEMI−POLAR GALLIUM NITRIDE)」、代理人整理番号30794.12−US−P1(2005−471)。
【0003】
ロバート・M.ファレル・ジュニア(Robert M.Farrell,Jr.)、トロイ・J.ベーカー、アーパン・チャクラボーティ(Arpan Chakraborty)、ベンジャミン・A.ハスケル、P.モルガン・パチソン(P.Morgan Pattison)、ラジャット・シャーマ(Rajat Sharma)、ウメシュ・K.ミシュラ(Umesh K.Mishra)、スティーブン・P.デンバース、ジェームス・S.スペック、および中村修二による米国特許出願第11/444,946号、2006年6月1日出願、発明の名称「半極性(Ga,Al,In,B)N薄膜、ヘテロ構造およびデバイスの成長と作製のための技術(TECHNIEQUE FOR THE GROWTH AND FABRICATION OF SEMIPOLAR(Ga,Al,In,B)N THIN FILMS,HETEROSTRUCTURES,AND DEVICES)」、代理人整理番号30794.140−US−U1(2005−668);この出願は米国特許法第119条(e)に基づいて次の出願の優先権を主張するものである。ロバート・M.ファレル・ジュニア、トロイ・J.ベーカー、アーパン・チャクラボーティ、ベンジャミン・A.ハスケル、P.モルガン・パチソン、ラジャット・シャーマ、ウメシュ・K.ミシュラ、スティーブン・P.デンバース、ジェームス・S.スペック、および中村修二による米国特許仮出願第60/686,244号、2005年6月1日出願、発明の名称「半極性(Ga,Al,In,B)N薄膜、ヘテロ構造およびデバイスの成長と作製のための技術(TECHNIQUE FOR THE GROWTH AND FABRICATION OF SEMIPOLAR(Ga,Al,In,B)N THIN FILMS,HETEROSTRUCTURES,AND DEVICES)」代理人整理番号30794.140 USーP1(2005−668);
トロイ・J.ベーカー、ベンジャミン・A.ハスケル、ジェームス・S.スペック、および中村修二による米国特許出願第11/486,224、2006年7月13日出願、発明の名称「半導体窒化物薄膜の欠陥低減のための横方向成長法(LATERAL GROWTH METHOD FOR DEFECT REDUCTION OF SEMIPOLAR NITRIDE FILMS)」、代理人整理番号30794.141−US−U1(2005−672);この出願は米国特許法第119条(e)に基づいて次の出願の優先権を主張するものである。トロイ・J.ベーカー、ベンジャミン・A.ハスケル、ジェームス・S.スペック、および中村修二による米国特許仮出願第60/698,749号、2005年7月13日出願、発明の名称「半極性窒化物薄膜の欠陥低減のための横方向成長法(LATERAL GROWTH METHOD FOR DEFECT REDUCTION OF SEMIPOLAR NITRIDE FILMS)」、代理人整理番号30794.144−US−P1(2005−72);
マイケル・イザ、トロイ・J.ベーカー、ベンジャミン・A.ハスケル、スティーブン・P.デンバース、および中村修二による米国特許出願第11/517,797号、2006年9月8日出願、発明の名称「有機金属化学気相成膜法による半極性(Al,In,Ga,B)Nの成長促進法(METHOD FOR ENHANCING GROWTH OF SEMIPOLAR(Al,In,Ga,B)n VIA METALORGANIC CHEMICAL VAPOR DEPOSITION)」、代理人整理番号30794.144−US−P1(2005−722);この出願は米国特許法第119条(e)に基づいて次の出願の優先権を主張するものである。マイケル・イザ、トロイ・J.ベーカー、ベンジャミン・A.ハスケル、スティーブン・P.デンバース、および中村修二による米国特許仮出願第60/715,491号、2005年9月9日出願、発明の名称「有機金属化学気相成膜法による半極性(Al,In,Ga,B)Nの成長促進法(METHOD FOR ENHANCING GROWTH OF SEMIPOLAR(Al,In,Ga,B)n VIA METALORGANIC CHEMICAL VAPOR DEPOSITION)」、代理人整理番号30794.144−US−P1(2005−722);
シダース・ラジャン(Siddharth Rajan)、チャン・ソー・ス(Chang Soo Suh)、ジェームス・S.スペック、およびウメシュ・K.ミシュラによる米国特許出願第11/523,286号、2006年9月18日出願、発明の名称「N極性窒化アルミニウム・ガリウム/窒化ガリウムのエンハンスメント・モード電界効果トランジスタ(N−POLAR ALUMINUM GALLIUM NITRIDE/GALLIUM NITRIDE ENHANCEMENT−MODE FIELD EFFECT TRANSISTOR)」、代理人整理番号30794.148−US−U1(2006−107);この出願は米国特許法第119条(e)に基づいて次の出願の優先権を主張するものである。シダース・ラジャン、チャン・ソー・ス、ジェームス・S.スペック、およびウメシュ・K.ミシュラによる米国特許出願第60/717,996号、2005年9月16日出願、発明の名称「N極性窒化アルミニウム・ガリウム/窒化ガリウムのエンハンスメント・モード電界効果トランジスタ(N−POLAR ALUMINUM GALLIUM NITRIDE/GALLIUM NITRIDE ENHANCEMENT−MODE FIELD EFFECT TRANSISTOR)」、代理人整理番号30794.148−US−P1(2006−107);
佐藤均、ジョン・ケディング、マイケル・イザ、トロイ・J.ベーカー、ベンジャミン・A.ハスケル、スティーブン・P.デンバース、および中村修二による米国特許出願第 / , 号、本出願と同日出願、発明の名称「有機金属化学気相成膜法による半極性(Al,In,Ga,B)Nの成長促進法(METHOD FOR ENHANCING GROWTH OF SEMIPOLAR(Al,In,Ga,B)N VIA METALORGANIC CHEMICAL VAPOR DEPOSITION)」、代理人整理番号30794.159−US−U1(2006−178);この出願は米国特許法第119条(e)に基づいて次の出願のゆうせんけんを 主張するものである。佐藤均、ジョン・ケディング、マイケル・イザ、トロイ・J.ベーカー、ベンジャミン・A.ハスケル、スティーブン・P.デンバース、および中村修二による米国特許仮出願第60/760,628号、2006年1月20日出願、発明の名称「有機金属化学気相成膜法による半極性(Al,In,Ga,B)Nの成長促進法(METHOD FOR ENHANCING GROWTH OF SEMIPOLAR(Al,In,Ga,B)N VIA METALORGANIC CHEMICAL VAPOR DEPOSITION)」、代理人整理番号30794.159−US−P1(2006−178);
ジョン・F.ケディング、佐藤均、マイケル・イザ、アサミズ・ヒロクニ(Hirokuni Asamizu)、ホン・ゾーン(Hong Zhong)、スティーブン・P.デンバース、および中村修二による米国特許仮出願第60/772,184号、2006年2月10日出願、発明の名称「半極性(Al,In,Ga,B)Nの導電性制御の方法(METHOD FOR CONDUCTIVITY CONTROL OF SEMIPOLAR(Al,In,Ga,B)N)」、代理人整理番号30794.166−US−P1(2006−285);
ホン・ゾーン、ジョン・F.ケディング,ラジャット・シャーマ、ジェームス・S.スペック、スティーブン・P.デンバース、および中村修二による米国特許仮出願第60/774,467号、2006年2月17日出願、発明の名称「半極性(Al,In,Ga,B)N光電子デバイスの成長方法(METHOD FOR GROWTH OF SEMIPOLAR(Al,In,Ga,B)N OPTOELECTRONICS DEVICES)」、代理人整理番号30794.173−US−P1(2006−422);
アーパン・チャクラボーティ、クワン・チュン・キム(Kwang−Choong Kim)、スティーブン・P.デンバース、ジェームス・S.スペック、およびウメシュ・K.ミシュラによる米国特許仮出願第60/798,933号、2006年5月9日出願、発明の名称「その場窒化シリコン・ナノマスク法を用いた無極性および半極性窒化ガリウム薄膜における欠陥低減方法(TECHNIQUE FOR DEFECT REDUCTION IN NONPOLAR AND SEMIPOLAR GALLIUM NITRIDE FILMS USING IN−SITU SILICON NITRIDE NANOMASKING)」、代理人整理番号30794.180−US−P1(2006−530);
ニコラス・A.フィヒテンバウム(Nicholas A.Fichtenbaum)、ウメシュ・K.ミシュラ、カール・J.ノイフェルト(Carl J.Neufeld)およびステーシア・ケラー(Stacia Keller)による米国特許仮出願第60/809,774号、2006年5月31日、発明の名称「N極性ナノピラーおよびナノストライプ・アレイ上の再成長により形成した光電子デバイス(OPTOELECTRONIC DEVICES FORMED BY REGROWTH ON N−POLAR AND NANOSTRIPE ARRAYS)」、代理人整理番号30794.182−US−P1(2006−638);
ステーシア・ケラー、ウメシュ・K.ミシュラ、およびニコラス・A.フィヒテンバウムによる、米国特許仮出願第60/866,035号、2006年11月15日出願、発明の名称「有機金属化学気相成長法を用いた高品質N面GaN,InNおよびAlNおよびこれらの合金のヘテロエピタキシャル成長方法(METHOD FOR HETEROEPITAXIAL GROWTH OF HIGH−QUALITY N−FACE GaN,InN,and AlN AND THEIR ALLOYS BY METAL ORGANIC CHEMICAL VAPOR DEPOSITION)」、代理人整理番号30794.207−US−P1(2007−121);
スティーブン・P.デンバース、マシュー・C.シュミット(Mathew C.Schmidt)、クワン・チュン・キム、ジェームス・S.スペック、および中村修二による米国特許仮出願第60/869,540号、2006年12月11日出願、発明の名称「無極性(m面)および半極性発光デバイス(NON−POLAR(M−PLANE)AND SEMI−POLAR EMITTING DEVICES)」、代理人整理番号30794.213−US−P1(2007−317);および
クワン・チュン・キム、マシュー・C.シュミット(Mathew C.Schmidt)、フェン・ウー(Feng Wu)、アサコ・ヒライ(Asako Hirai)、メルビン・B.マクローリン(Melvin B.MacLaurin)、スティーブン・P.デンバース、中村修二およびジェームス・S.スペックによる米国特許仮出願第60/869,701、2006年12月12日出願、発明の名称「各種基板上の(Al,In,Ga,B)Nのm面および半極性面の結晶成長(CRYSTAL GROWTH OF M−PLANE AND SEMIPOLAR PLANES OF (Al,In,Ga,B)N ON VARIOUS SUBSTRATES)」代理人整理番号30794.214−US−P1(2007−334);
これらすべての出願は参照として本明細書に組み込まれているものとする。
【背景技術】
【0004】
関連技術の説明
(この出願は本明細書を通して、例えば[x]のように、1つ以上の参照番号を括弧内に示した多くの異なる刊行物と特許文献を参照する。この参照番号潤に並べたこれらの異なる刊行物と特許文献のリストは以下の「先行技術文献」と題されたセクションに見出すことができる。これらの刊行物と特許文献のそれぞれは参考として本明細書に組み込まれているものとする。)
窒化ガリウム(GaN)およびアルミニウムとインジウムを含むその3元および4元化合物(AlGaN,InGaN,AlInGaN)の有用性は可視光および紫外光の光電子デバイスと高出力電子デバイスの作製について十分確立してきた。これらのデバイスは、通常分子線エピタキシー(MBE)、有機金属化学気相成膜法(MOCVD)、およびハイドライド気相エピタキシー(HVPE)法を含む成長技術を用いてエピタキシャルに成長される。
【0005】
GaNとその合金は六方晶ウルツ鉱型結晶構造をとるときに最も安定であり、この構造は、単一のc軸に対して全てが直交する、お互いに120°回転した2つ(または3つ)の等価な基底面軸(a軸)によって表される。III族元素と窒素元素は結晶のc軸に沿って交互にc−面を占有する。ウルツ鉱型構造に含まれる対称要素によれば、III族窒化物はc−軸に沿ってバルク自発分極を有し、かつウルツ鉱型構造は圧電分極を示す。
【0006】
電子デバイスや光電子デバイスに対する現行の窒化物技術は極性のc−方向に沿って成長した窒化物薄膜をもちいている。しかしながら、III族窒化物ベースの光電子デバイスおよび電子デバイスにおける従来のc−面を用いた量子井戸構造は、強い圧電分極および自発分極の存在によって量子閉じ込めシュタルク効果(QCSE)の望ましくない影響を受ける。c−方向に沿った強い内部電界が電子と正孔の空間分離を引き起こし、それが今度は、キャリアの再結合効率の制限、振動子強度の低減、および発光のレッド・シフトを引き起こすことになる。
【0007】
GaN光電子デバイスにおける自発分極および圧電分極の影響を除去する1つの方法は、結晶の無極性面上にデバイスを成長することである。そのような面はGa原子とN原子とを同数含み、電荷中性である。更に、その次の無極性層はお互いに結晶学的に等価であり、それゆえ、結晶は成長方向に沿って分極することはない。GaNにおける対称等価な無極性面の2つのファミリーは、まとめてa−面として知られる{11−20}ファミリーと、まとめてm−面として知られる{1−100}ファミリーである。残念なことには、本発明の譲受人であるカリフォルニア大学の研究者らによる進展にもかかわらず、無極性窒化物の成長はなお挑戦課題であり、III族窒化物業界において広く採用されるまでには至っていない。
【0008】
GaN光電子デバイスにおける分極の影響を低減またはできれば取り除くための他の方法は、デバイスを結晶の半極性面上に成長することである。半極性面という用語は、ミラー(Miller)指数h、i、kのなかで0でない値を2つ含み、かつミラー指数lも0でないような広い範囲の面を指すために用いられる。c−面GaNへテロエピタキシャル成長においてしばしば見られる半極性面のいくつかの例は、溝のファセットに見られるような{11−22}、{10−11}および{10−13}面を含む。これらの面は本発明者らが平坦な薄膜の形状で成長した面と偶然同じ面でもある。ウルツ鉱型結晶構造における半極性面の他の例は{10−12}、{20−21}、および{10−14}を含むが、これに限定されるものではない。窒化物結晶の分極ベクトルはそのような面内に在るのではなく、その面に垂直でもなく、そのような面の表面法線に対してある角度をなして傾いて存在する。例えば、{10−11}と{10−13}面はc−面に対してそれぞれ62.98°と32.06°をなしている。
【0009】
自発分極に加えて、窒化物に存在する分極の第2の形態は圧電分極である。これは該材料が圧縮歪または伸張歪を受けたときに起こるものであり、異なる組成を持つ(それ故に異なる格子定数を持つ)(Al,In,Ga,B)N層が窒化物へテロ構造内に成長するような場合に起こりうる。例えば、GaNテンプレート上の歪を受けたAlGaN層は面内に伸張歪を持ち、GaNテンプレート上の歪を受けたInGaN層は面内に圧縮歪を持つが、これはどちらもGaNに格子整合するためのものである。それ故に、GaN上のInGaN量子井戸では、圧電分極は、InGaNおよびGaNの自発分極とは反対方向を向いている。GaNに格子整合したAlGaN層では、圧電分極は、AlGaNおよびGaNの自発分極と同じ方向を向いている。
【0010】
c−面窒化物と比して半極性面を用いることの利点は、全文曲が低減することである。特定の面上で、特定の合金組成に対しては、分極がゼロになることさえある。重要な点は、c−面窒化物構造に比べて分極が低減することである。
GaNのバルク結晶は容易には入手で着ないので、結晶を単純に切断して引き続くデバイスの再成長用の表面を用意することは出来ない。一般に、GaN薄膜は、最初はヘテロエピタキシャルに成長される、すなわち、GaNとほぼ格子整合が取れた異種基板上に成長される。よく用いられる基板材料は、サファイヤ(Al2 3 )とスピネル(MgAl2 4 )である。
【0011】
そのような基板材料の大きな結晶は、熟練した当業者によって作製されてもよい。結晶はそこで基板ウェーハに切断され、そのウェーハ表面は通常はミラー指数(hkl)によって規定される特定の結晶学的方位を持つ。通常は、上に成膜される材料の結晶の対称性に整合した、定指数の結晶方位が選ばれる。例えば、六方晶の面内対称性を持つ(0001)サファイヤ基板が、やはり六方晶の面内対称性を持つ通常の極性窒化物層の成長のために用いられる。基板と成膜される層との間に結晶学的関係が存在する場合をエピタキシーと呼ぶ。
【0012】
更に、異種基板上に窒化物層をヘテロエピタキシャル成長するには、まずはじめに数原子からなる小さな核から始めねばならない。平坦な原子表面上に形成される核のエネルギーは、ステップまたはキンクが核の表面エネルギーを最小にするので、原子ステップまたはキンクに成長する核のエネルギーに比べて高い。低指数面(hkl)から基板結晶を故意にミスカットすることで、ステップ・エッジやキンクを生成する。このようなミスカット表面方位を微傾斜表面と呼ぶ。
【0013】
図1は原子ステップまたはキンクを持つ微傾斜表面を概略的にあらわしたものを示す。表面法線nと、gで現される主結晶方位[nvw]とがなす角度としてミスカット角度βを定義する。基板は、熟練した当業者によってバルク結晶から特定のミスカット角度の大きさを持って切断される。更に、ミスカットベクトルgの方向は、特定の面内の結晶学的な方向[nvw]に対して図1における角度αで記したように規定される。
【0014】
半極性GaN面はパターン化されたc−面上の方向付けされたストライプの側壁上で実施された。ニシズカら非特許文献1はこの技術を用いて{11−22}InGaN量子井戸を成長した。彼らは半極性面{11−22}の内部量子効率が、分極低減の結果として、c−面のそれよりも高いことを示した。
しかしながら、半極性面を製作するためのニシズカらの方法は、それがエピタキシャル横方向成長(ELO)技術の副産物に依存するものであるので、本発明のものとは劇的に異なる。ELOは、GaNおよび他の半導体において欠陥を低減するために用いられる面倒な処理技術と成長の方法である。それは、GaNの場合はしばしば2酸化シリコン(SiO2 )であるマスク材料のストライプをパターン化する工程を含む。次にマスク間の開いた窓からGaNを成長し、次いでマスク上を成長させる。連続した薄膜を形成するために、GaNを次に横方向成長によって合体させる。これらのストライプのファセットは、成長パラメータによって制御することができる。ストライプが合体する前に成長を止めると、そのときに通常せいぜい10μm幅の小面積の半極性面が露出する。しかし、この実現可能な表面の面積は、処理して半極性LEDにするには小さすぎる。更に、該半極性面は基板表面に平行ではなく、そのため傾いたファセット上にデバイス構造を形成するのは、通常の面上にこれらの構造を形成するのに比べて著しく困難となる。また、全ての窒化物組成がELOプロセスと融合するものではなく、それ故、GaNのELOだけが広く実用化されている。
【0015】
本発明は、故意にミスカットした基板を用いることによって、(Al、In、Ga、B)Nの大きな面積が基板表面に平行となるような、半極性窒化物の平坦な薄膜を成長することを可能とする結晶を開示するものである。たとえば、試料はしばしば2インチ径の基板上に成長されるが、これは半極性窒化物の成長において以前に実施された数ミクロン幅の面積に対比すべきものである。
【0016】
厚いc−面GaN結晶をHVPE法で成長し、引き続いて{11−22}面上で切断して研磨したという論文が発表されている非特許文献2。次いでこの面上に発光ダイオードが成長された。しかしながら、半極性デバイスを作製するためのこの方法は、本発明の好ましい実施形態とは著しく異なる。上記方法はバルクGaN基板を用いていて、GaN半極性表面が露出されて、引き続きデバイス構造の成膜のために用いられるものであり、別名ホモエピタキシャル技術として知られているものである。本発明の好ましい実施形態の鍵となる特徴の1つは、異種材料の基板を半極性窒化物薄膜の作製に用いる、ヘテロエピタキシャルプロセスを用いるものである。本発明が上記方法と更に異なる点は、全面に亘って半極性薄膜となる、大きな、通常は2インチのウェーハを用いることができる点である。これは、大きな面積を持つGaN結晶が得られないために、半極性薄膜が通常ではたったの4mm×10mmのサイズである上記方法とは非常に対照的である。
【0017】
半極性方位をもつ(Al、In、Ga)N薄膜の成長は半導体結晶の全分極を除去するものではない。しかしながら、半極性方位をもつ(Al、In、Ga)N薄膜の成長は、これらの層から作製される半導体デバイス構造の成長方向に沿っての全分極における不連続性を緩和する。半導体薄膜のエピタキシャル成長の過程で、表面形態および/または結晶品質の改善のために故意にミスカットした基板が用いられてきた。GaNの場合では、例えばヒラマツら[非特許文献3]或いはグルドウスキーら非特許文献4を参照のこと。しかしながら、(Al、In、Ga)Nへテロ構造における分極に関係する影響を緩和する目的で、(Al、In、Ga)N半導体薄膜中の分極電界の相対的な方位を制御するために故意に行うミスカットを用いることはなかった。
【0018】
ミスカット基板は一般的に半導体薄膜の成長のために用いられてきた。これは、半導体薄膜のホモエピタキシャル成長にもヘテロエピタキシャル成長おいても同じである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】米国特許第4,855,249号
【特許文献2】米国特許第54,741,724号
【非特許文献】
【0020】
【非特許文献1】Nishizuka,K.,Applied Physics Letters,Vol.85 Number 15,11 October 2004.
【非特許文献2】M.Funato,M.Ueda,Y.Kawakami,Y.Naruka,T.Kosugi,M.Takahashi,and T.Mukai,Japn.J.of Appl.Phys.45,L659(2006)
【非特許文献3】K.Hiramatsu,H.Amano,I.Akasaki,H.Kato,N.Koide,and K.Manabe,J.of Cryst.Growth 107,509(1991)
【非特許文献4】P.A.Grudowski,A.L.Holmes,C.J.Eiting,and R.D.Dupuis,Appl.Phys.LEtt.69,3626(1996).
【非特許文献5】J.F.Kaeding,Ph.D.Thesis,University of California,Santa Barbara,January 2007.“The heteroepitaxial growth of semipolar GaN for Light Emitting Diodes.”
【非特許文献6】S.Nakamura,Japanese Journal of Applied Physics Vol.30,No.10,October,1991,pp.L1705−L1707
【非特許文献7】D.D.Koleske,M.E.Coltrin,K.C.Cross,C.C.Mitchell,A.A.Allerman,Journal of Crystal Growth Vol.273(2004)pp.86−99
【非特許文献8】B.Moran,F.Wu,A.E.Romanov,U.K.Mishra,S.P.Denbaars,J.S.Speck,Journal of Crystal Growth Vol.273(2004)pp.38−47
【非特許文献9】J.F.Kaeding,Ph.D.Thesis,University of California,Santa Barbara,January 2007.“The heteroepitaxial growth of semipolar GaN for Light Emitting Diodes”
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明は、基板上にある結晶であって、(Al,In,Ga,B)NまたはIII族窒化物およびその結晶の成長方向に垂直な表面からなる結晶を開示するものである。基板は、低指数の結晶方位から故意にミスカットしたものであり、ミスカットは大きさと方向を備えたものであり、ミスカットの方向と大きさは半極性窒化物半導体のエピタキシャル関係、結晶の対称性、層の極性、転位密度、表面形態および電気的特性に影響を与えるように選ばれてよい。該大きさは基板材料、半極性窒化物半導体薄膜の方位、成膜条件に依存して変化してよい。ミスカットの大きさは0.5°から20°の範囲であってよく、或いは好適には0.5°から3°の範囲で変化してよい。
【0022】
該基板は<011>方向に故意にミスカットされていてよい。半極性窒化物半導体薄膜の成長表面は幅10μmより大きくてよく、故意にミスカットした基板の表面に実質的に平行である。半極性窒化物半導体薄膜の成長基板は、所定の結晶学的な方向に故意にミスカットされていてよく、それによって故意にミスカットした基板を形成し、該基板の対称性を低下させている。該対称性は該半極性窒化物半導体薄膜の対称性と整合していてもよく、この結果、半極性窒化物半導体薄膜が単一の結晶学的ドメインを含むという、特異なエピタキシャル関係になる。より低い対称性を持つ半極性窒化物半導体膜をより高い対称性を持つ基板上にヘテロエピタキシャルに成膜してもよい。結果として得られる半導体薄膜は単一の分極方向を持っていてもよく、その結果、改良された、電気的、光学的特性、およびデバイス特性を持つようになる。
【0023】
故意にミスカットした基板は、半極性窒化物半導体薄膜の成長に愛して優先的核生成サイトとして働くステップ・エッジまたはキンクを提供するものであってもよい。優先的核生成サイトは、故意にはミスカットしていない基板上での成膜に比べると、核のよりよい合体、欠陥密度の低減、より平坦で平面的な界面または表面、およびより安定したファセットのような改良された特性をもつ層を提供する。故意にミスカットした基板上に成膜した半極性窒化物半導体薄膜は、故意にはミスカットしていない基板上に成膜した半極性窒化物半導体薄膜に比べて、より良好な結晶性とより低い密度の貫通転位とを持つものである。半極性窒化物半導体薄膜の巨視的な表面凹凸と微結晶面化はミスカット角度の増大とともに減少する。
【0024】
該半極性窒化物半導体薄膜は化学式Gan Alx Iny z Nを持つ(Ga,Al,In,B)N半導体の合金組成を含んでいてもよい。ここで0≦n≦1、0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦1およびn+x+y+z=1である。半極性窒化物半導体薄膜は、{10−11}窒化ガリウムであってもよく、故意にミスカットした基板は<011>方向にミスカットした{100}MgAl2 4 スピネル基板であってもよい。また、半極性窒化物半導体薄膜は{11−22}GaNであってもよく、故意にミスカットした基板は<0001>方向にミスカットした{1−100}Al2 3 サファイヤ基板であってもよい。故意にミスカットした基板は、バルク窒化物結晶を半極性面に沿って切断し、該故意にミスカットした基板上にホモエピタキシャルに半極性窒化物半導体薄膜を成長することによって得てもよい。該半極性面は窒素面であっても或いはガリウム面であってもよい。
【0025】
該方法は、(a)基板を故意にミスカットするステップと、(b)該基板を反応装置に装填するステップと、(c)窒素、水素、あるいはアンモニアの少なくとも1つを含む流れのもとで該基板を加熱するステップと、(d)該加熱された基板上に半極性窒化物半導体薄膜を成膜するステップと、(e)窒素加圧のもとで該基板を冷却するステップとを更に備えてもよい。該方法は、該加熱された基板上に核生成層を成膜するステップと、該核生成層上に半極性窒化物半導体薄膜を成幕するステップを更に備えてもよい。
【0026】
本発明の方法を用いてデバイスを作製することも出来る。デバイスは、故意にはミスカットしていない基板上に作成されたデバイスよりも明るい発光を示す発光ダイオードであってもよい。
【発明の効果】
【0027】
このように、本発明は、より高い対称性をもつ基板上により低い対称性を持つ層の成長を促進するための方法を記述するものであり、その方法は、より低い対称性を持つ層の対称性に整合させるために、より高い対称性をもつ基板を故意にミスカットするステップと、該故意にミスカットした基板上にヘテロエピタキシャルにより低い対称性を持つ層を成膜するステップとを備えた方法である。
【0028】
以下、図面を参照し、対応する部分には一貫して同じ参照番号を付与する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】ミスカットした基板の概略図である。
【図2】本発明の方法と本発明の実施形態に用いられる処理ステップを示すフローチャートである。
【図3】図3(a)、(b)、(c)、(d)はミスカットした基板上に成膜した半極性窒化物層の光学顕微鏡写真である図3(a)に示した基板は故意にはミスカットしていない場合である。図3(b)に示した基板は、ミスカット角度βが0.5°の場合である。図3(c)に示した基板はミスカット角度βが1.5°の場合である。図3(d)に示した基板はミスカット角度βが3.0°の場合である。
【図4】(10−11)x線ロッキング・カーブの半値全幅(FWHM)に対する基板ミスカット角度βの関係を表すグラフである。
【図5】基板ミスカット角度の関数としての、(μW単位で計った)出力と(11−22)x線ロッキング・カーブの(角度を秒単位で計った)FWHMの関係を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下の好ましい実施形態に関する説明では、添付の図面を参照する。添付の図面は本明細書の一部を形成し、本発明を実施することができる特定の実施例を例示するために示す。本発明の範囲を逸脱することなく、他の実施形態を用いてもよく、構造的な変化を施しても良いことは明らかである。
概要
本発明は、MOCVD、HVPEあるいはMBEを含んでいるがこれらに限定されることはない技術によって、<011>方向にミスカットした{100}MgAl2 4 (スピネル)基板上に、および<0001>方向にミスカットした{1−100}(m−面)Al2 3 (サファイヤ)基板上に、半極性窒化物半導体薄膜を成長するための方法を記述している。故意にミスカットした基板を用いると、図1に示すように、ステップ・エッジおよび/またはキンクが得られ、これらは半極性窒化物層の成長のための優先的核生成サイトとしての役割を果たす。これによって、核の合体、欠陥密度の低減、および凹凸のない平面的な界面、および所望の半極性ファセットの安定化を含むがこれに限られない、層の特性の改良につながるこれらの特性は半極性窒化物層から作成する半導体デバイスにとって望ましいものである。
【0031】
付け加えるに、図1に示すように所定の結晶学的方向に故意にミスカットを導入することで、故意にはミスカットしていない基板の対称性に対して、半極性窒化物層の成長のために用いられる基板の対称性を下げてもよい。故意にミスカットした基板の対称性を半極性窒化物層に整合させることは、半極性窒化物層が単一の結晶学的ドメインを含むという特異なエピタキシャル関係をもたらすことになる。
技術的な説明
本発明は、故意にミスカットした基板を用いて高品質の半極性窒化物層を成長する方法を開示するものである。この例としては<011>方向にミスカットした{100}MgAl2 4 スピネル基板上に成膜した{10−11}GaN薄膜と、<0001>方向にミスカットした{1−100}Al2 3 サファイヤ基板上に成膜した{11−22}GaN薄膜が挙げられる。{1−100}結晶表面の対称性がより低いので、{1−102}サファイヤ面の方へ、またはそこから離れるほうへのミスカットは、所望の結果によって特定されてもよい。
【0032】
本発明の1つの実施例では、ミスカットの大きさは0.5°から3.0°の範囲で変化するが、本発明の範囲と相違することなしに、他の基板材料、基板方位、0.5°から20°の範囲を含むがこれに限定されないミスカット角度、およびミスカット方向を用いることも出来る。
更に、不可避的な製造上の公差のために、ミスカット角度および方向は意図したミスカット角度および方向に対して少しだけ変わってもよい。ここで記述するミスカットの大きさと方向は意図した値であり、本発明の範囲を逸脱することなくわずかな差異はあるものと仮定されている。
【0033】
付け加えると、製造上の公差のために、窒化物層の成膜のほとんど全ては微傾斜表面上にて起こる。本発明の範囲は、材料および/またはデバイス特性の改良につながるように、基板のミスカットが故意に制御された、半極性窒化物層の成膜をすべて含むものである。
これらの薄膜は市販のMOCVDシステムを用いて成長された。{10−11}GaNに対する成長パラメータの一般的な概要は、圧力が10torrから1000torrの範囲であり、温度が400℃から1400℃の範囲である。圧力と温度のこの変化の幅の大きさは、適当な基板を用いるとGaNの成長が安定であることを示しているエピタキシャルの関係と条件は、反応装置の条件は個々の反応装置と成長方法(例えばHVPEか、MOCVDか、MBEか)によって変化する。
処理工程
図2は、故意にミスカットした基板上に半極性窒化物半導体薄膜を成長するステップを備えた、デバイス品質の平坦な半極性窒化物半導体薄膜の成長を促進するための方法を示すフローチャートである。該方法は任意の適当な基板を用いて任意の半極性窒化物薄膜を成膜するためにも用いることが出来る。
【0034】
ブロック200は、基板を故意にミスカットするステップを示す。
ブロック202は、該故意にミスカットした基板を、例えばHVPE、MOCVDまたはMBEの反応装置のような、成膜室または成長室内に装填するステップを表す。
ブロック204は、該故意にミスカットした基板を通常は大気圧で基板上を窒素および/または水素および/またはアンモニアが流れている雰囲気中で加熱するステップを表している。
【0035】
ブロック206は、該故意にミスカットした基板上に核生成層またはバッファ層を成膜するステップを表す。
ブロック208は、該バッファ層、核生成層上に、或いは直接、該故意にミスカットした基板上に半極性窒化物半導体薄膜を成膜するステップを表す。
ブロック210は、例えば、窒素またはアンモニアの過圧のもとで該基板を例約するステップを表す。
【0036】
ブロック212は、該方法の結果として半極性(Al、Ga、In、B)N薄膜を形成することを示す。
図2に示したステップは、省略してもよいものもあれば、希望に応じて他のステップを付け加えてもよい。
特に、図2の方法は、本発明の好ましい実施形態による、スピネルまたはサファイヤ基板上に半極性GaN薄膜を成長するためのMOCVD工程に適用できる。
【0037】
{10−11}GaNの成長のためには、ブロック200に示すように、(100)スピネル基板が用いられ、<011>方向にミスカットされる。ブロック202に示すように、該基板はMOCVD反応装置内に装填される。ブロック204に示すように、反応装置のヒータが作動されて該基板の表面の窒化を促進するような条件下で1150℃に昇温される。このステップの間、通常は窒素および/または水素および/またはアンモニアが大気圧で基板上を流れる。設定温度に到達した後に、アンモニアの流れを0.1から2.0slpmの範囲に設定する。1から20分後に反応装置の設定温度を1190℃に上昇させ、反応装置の圧力を76torrに低下させ、ブロック206に示すように、0から3sccmのトリメチルガリウム(TMGa)および/または20sccmのトリメチルアルミニウム(TMAl)を反応装置内に導入して、Alx Ga1-x-y Nバッファ層或いは核生成層の成長を開始する。1から40分後にAlx Ga1-x-y N核生成層が所望の厚さに到達する。この時点でTMAlの流れを遮断して、TMGaを9.5sccmに増加して、ブロック208に示すように、ほぼ1から4時間GaNの成長を行う。GaNが所望の厚さに達した後、TMGaの流れを中断して、ブロック210に示すように、GaN薄膜を保護するためにアンモニアを流しながら反応装置を降温する。
【0038】
第2の好ましい実施形態、すなわち{11−22}GaNの成長では、ブロック200で示されるように<0001>方向にミスカットした{1−100}サファイヤ基板が用いられる。ブロック202に示されるように、該基板はMOCVD反応装置の中に装填される。ブロック204に示すようにヒータが作動されて、通常、大気圧で窒素および/または水素および/またはアンモニアが基板上を流れているような条件下で1150℃に昇温する。1から20分後に、反応装置の設定温度を700℃に下げて、アンモニアの流れを0.1から3.0slpmに設定して、0から3sccmのトリメチルガリウム(TMGa)および/または0から100sccmのトリメチルインジウム(TMI)および/または0から20sccmのトリメチルアルミニウム(TMAl)を反応装置に導入して、ブロック206に示すように、Alx Ga1-x-y Nバッファ層の成長を開始する。1から40分後にAlx Ga1-x-y N核生成層が所望の厚さに達する。この時点で、TMAlおよび/またはTMIおよび/またはTMGの流れを遮断して、温度を1185℃へ上げて、ブロック208に示すように、約1から4時間のGaNのGaの流れを遮断して、ブロック210に示すように、GaN薄膜を保護するためにアンモニアを流しながら反応装置を降温する。
可能な変更と変形
本発明の範囲は、ここに言及した特定の実施例以上のものをカバーする。この考案は、任意の半極性面上の全ての窒化物に当てはまるものである。例えば、ミスカットした(100)スピネル基板上に{10−11}AlN、InN、AlGaN、InGaN、あるいはAlInNを成長することが出来る。他の例では、{10−14}4H−SiCのような適当な基板を用いれば{10−12}窒化物を成長することが出来る。更に、2つの方位の面内エピタキシャル関係が基板に関して90°回転している点で異なる半極性{10−13}および{11−22}の半極性方位のGaNが(10−10)サファイヤ上に成膜できるということが示された。それ故に、これら2つの異なる方位の成膜を改良するには、同一の基板に異なるミスカット方向を用いることが必要となると予想される。
【0039】
半極性窒化物層の成長に適した任意の基板は、成膜される窒化物層の品質を向上させるためにミスカットされてよい。本発明は、特に半極性窒化物層のヘテロエピタキシャル成長について記載するものであるが、故意のミスカットはバルクGaNおよびAlN基板上の半極性窒化物層の成長を改良するために用いてもよい。このように、GaN或いはAlN基板が提供されれば、半極性薄膜はホモエピタキシャル的に成長することもできよう。例えば、安熱法、フラックス法、高圧法、およびHVPE法などの任意のバルク結晶の成長技術を用いることができる。バルク結晶は(例えば半極性、無極性および有極性など)任意の方位に成長することができ、続いて半極性面で切断して研磨して引き続くホモエピタキシャル成長に用いられる。
【0040】
これらの実施例および他の可能性は尚、平坦な半極性薄膜の利益の全てを受ける。この考案は、低指数結晶方位から、故意にミスカットした基板を出発点として用いることによって、平坦な半極性窒化物薄膜を生成する任意の成長技術に適用でき、該ミスカットは特定の大きさおよび/または結晶学的方向を持っていてもよい。
ミスカット角度βの大きさは、用いられる特定の基板材料、成膜される層の特定の半極性窒化物の方位、用いられる成膜技術のタイプ、および用いられる最適な成膜条件に依存して変化してもよい。例えば、GaN層のMOCVD成長中に形成される核はGaN層のHVPE成長中に形成される核よりも小さいものと期待される。それ故に、HVPE成長に比べて、より高密度のステップ・エッジができる、より大きなミスカット角度がMOCVD成長にとっては有利になり得る。
【0041】
本発明の好ましい実施形態では、ミスカットの方向は基板の対称性を下げて窒化物層の対称性と整合するように選ばれる。例えば、(100)スピネルの4回対称性は<011>方向にミスカットすることによって低下する。この結果、面内で<011>方向のそれぞれに向いた4つのドメインではなくて、GaN[0001]方向がミスカットの方向に向いた単一ドメイン窒化物層が形成されることになる。その結果、分極電界の方向における変化から生じる、分極に関する負の効果が取り除かれる。本発明は、とくに半極性窒化物層の成長に関係するものではあるが、この技術は、低い対称性を持つ層を高い対称性を持つ基板上にヘテロエピタキシャルに成膜する場合の任意の材料系にも用いることができる。
【0042】
本発明の第2の好ましい実施形態では、ミスカットの方向は半極性窒化物層の結晶品質と表面形態に影響を与えるように選ばれている。しかしながら、ミスカットの方向と大きさは、成膜される窒化物層の、エピタキシャル関係、結晶の対称性、層の極性、転位密度、表面形態および/または電気的特性を含むがこれに限定されるものではない、任意の、および/またはすべての結晶の特性に影響を与えるように選ばれてもよい。
【0043】
反応装置の条件は反応装置のタイプおよび設計によって変化する。上記の成長は、半極性GaNの成長にとって有用である事が判っている1組の条件を記述しているだけである。他の条件もそのような成長にとって有用であり得る。特に、これらの薄膜は圧力、温度、ガス流量などのパラメータの日覆範囲で成長し、そのすべてにおいて平坦な半極性窒化物薄膜を生成することも発見された。
【0044】
他にも成長の工程において変えてもよいステップがある。基板を窒化することで、ある種の薄膜にとっては表面形態を改善し、別の薄膜にとっては実際に成長する面を決定することがわかった。しかしながら、これは特定の成長技術にとって必要な場合もあれば、必要でない場合もある。
該好ましい実施形態では、<011>方向にミスカットした、AlGaN核生成層を備えている(100)スピネル基板上のGaN薄膜の成長を説明した。該核生成層を用いること、およびその組成は、使用した成膜技術とシステムの典型例である。しかしながら、同様の結果を達成するために別の技術を用いてもよい。さらには、核生成層上に成長した構造は異なる組成、或いは傾斜組成を持つ多重の層からなっていてもよい。窒化物デバイスの大多数は異なる(Al、Ga、In、B)N組成の層を含むヘテロ構造からなっている。本発明は任意の窒化物合金組成と任意の数の層の成長に対して用いることが出来る。例えば、半極性窒化物半導体薄膜は0≦n≦1、0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦1およびn+x+y+z=1である化学式Alx Iny z Nを有する(Ga、Al、In、B)N半導体の合金組成を含んでいてもよい。Fe、Si、およびMgのようなドーパントが窒化物層にしばしばドープされる。これらのドーパント、および解くには列挙していない他のドーパントを導入しても、本発明を実施することができる。
【0045】
既存の実用例は表面に垂直なc−面を用いてGaNを成長することである。この面は自発分極と圧電分極を持ち、それはデバイス特性にとって致命的である。c−面窒化物薄膜に比べて半極性窒化物薄膜の利点は、ある種のデバイスにおける、分極の低減と、それに関係する内部量子効率の増大である。
デバイスにおける分極の影響を完全に除去するためには無極性面を用いることができる。しかしながら、これらの面では成長するのが非常に困難であり、したがって無極性窒化物デバイスは現在製造されていない。無極性窒化物薄膜に対する半極性窒化物薄膜の利点は成長の容易さにある。半極性面は成長するパラメータの範囲が広いということが知られている。例えば、無極性面は大気圧では成長しないが、半極性面は62.5torrから760torrまでの範囲で成長することが実験的に示されており、たぶんこれより広い範囲で成長すると考えられる。
【0046】
ELOの側壁に対する平坦な半極性薄膜の利点は、処理してLEDあるいは他のデバイスにできる大きな面積が有ることである。他の利点は、ELO側壁半極性面の場合とは異なり、成長表面が基板表面に平行であることである。
半極性窒化物層の成長のために故意にミスカットした(100)スピネル基板を用いることで、故意にはミスカットしていない基板に比べてより平坦な半極性窒化物層を製作できることが示された。さらに、投影されたGaN[0001]方向に平行な<011>方向への故意のミスカットを用いることで、鯉にはミスカットしていないか、および/または<011>以外の他の方向にミスカットした基板に比べて、結果として単一ドメイン窒化物層になることが示された。
【0047】
図3は、故意にミスカットした基板の対称性を半極性窒化物半導体薄膜の対称性に整合させると、どのようにして、結果として半極性窒化物半導体薄膜が単一の結晶学的ドメインを含むような特異なエピタキシャル関係になるかを示す。例えば、図3(a)は、故意にはミスカットしていない(100)スピネル基板上に成長した(10−11)は移行した半極性GaN薄膜の表面形態を示す。該薄膜は多くの、未合体の島からなる。更に、互いに90°回転した多数の結晶ドメインが見られる。(100)スピネル基板に<011>方向の0.5°以上のミスカットを故意に与えると、図3(b)、図3(c)および図3(d)に見られるように、結果として完全に合体した、単一の結晶学的ドメインを持つGaN薄膜となる。ここで、図3(b)に示すミスカットβは0.5°であり、図3(c)に示すミスカットβは1.5°であり、図3(d)に示すミスカットβは3.0°である。更に、巨視的な表面凹凸とファセット形式はミスカット角度の増加とともに減少し、その結果、窒化物ベースの発光ダイオード、レーザダイオード、電界効果トランジスタ、およびその他のデバイス構造の成長と作製に適した平坦な表面となる。このように、図3はどのようにミスカット基板上の優先的核生成サイトが、故意にはミスカットしていない基板上への成膜に比べて、核の合体、より平滑で平坦な界面または表面のような層の特性の改良をもたらすかを示している。
【0048】
成膜した半導体薄膜の結晶品質は高分解能x線回折ロッキング・カーブ測定法によって測定され得る。適当なx線回折ピークの半値全幅(FWHM)は非測定層の結晶モザイクと欠陥密度の相対値を示す。合体と表面形態の改良に加えて、軸上(10−11)反射のFWHMは、図4に見られるようにミスカット角度の増加とともに減少する。このことは、故意にミスカットした基板上に成膜した半極性窒化物層に対して、ヘテロエピタキシャル結晶成膜によって発生する貫通転位の低減を示すものである。
【0049】
更に、本発明の第2の好ましい実施形態では、半極性{11−22}窒化物層の成長のために故意にミスカットした{1−100}サファイヤ基板を用いることによって、故意にはミスカットしていない基板に比べてよりよい半極性窒化物層が生成されることが示された。{11−22}ロッキング・カーブのFWHMで表した、x線回折によって測定される結晶品質は、図5に示すように、故意にミスカットした{1−100}サファイヤ基板上の薄膜は、故意にはミスカットしていない基板よりも良好な結晶性を持っていることも示している。同時に、図5に示すように、故意にミスカットしたサファイヤ基板上に成長した薄膜上で作製した発光ダイオード(LED)からの出力は、故意にミスカットしていない基板上に比べてより明るい発光を示した。
【0050】
光電子デバイスにおいて半極性面を用いることによって受ける利益は、ガリウム(Ga)面或いは窒素(N)面である面の機能である。本発明の方法を用いると、半極性面上に成長した発光デバイスの出力の改善効果があるが、デバイスが成長された半極性面が{11−22}Ga面であるのか{11−2−2}N面であるのかは明らかではない。この段階では、N面が少し有利であるかもしれないと思われているが、尚、よくはわかっていない。ミスカットした基板上に成膜した後の半極性面の露出表面はN面またはGa面であり、デバイスはN面またはGa面上に成膜される。
【0051】
半極性GaNの成長のために故意にミスカットした{1−100}サファイヤを用いることは、{11−22}以外の表面ファセットを安定化させるために用いられてもよい。例えば、大きな{10−11}ファセットを安定化させることが出来る。これらのファセットは分極電界の方位の異なる制御、デバイス面積の増大、を可能とするものであり、光電子デバイスの光取り出し効率を改善することも出来る非特許文献5
結論
これで本発明の好ましい実施形態の説明を終える。本発明の一つ以上の実施形態に関する上記の記述は、例示と説明を目的としてなされたものである。開示の形態そのものによって本発明を包括または限定することを意図するものではない。上記の教示に照らして多くの変更と変形が可能である。本発明の範囲はこの詳細な説明によって限定されるものではなく、本明細書に添付の請求項によって限定されるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶であって、(Al,In,Ga,B)NまたはIII族窒化物および該結晶の成長方向に垂直な表面からな
該表面は少なくとも幅10μmであり、
該表面は半極性方位を有し、
該結晶はx線回折により測定される半値全幅(FWHM)が0.55°未満であるロッキング・カーブにより特徴づけられる結晶品質を有することを特徴とする結晶。
【請求項2】
前記FWHMは900アークセカンド(arcsecond)未満であることを特徴とする、請求項1に記載の結晶。
【請求項3】
前記基板は平坦であることを特徴とする、請求項1に記載の結晶。
【請求項4】
前記表面は前記結晶の最大の表面であることを特徴とする、請求項1に記載の結晶。
【請求項5】
前記結晶品質は、前記表面上に作製されたIII族発光ダイオードが220μWより大きい出力で発光するような結晶品質であることを特徴とする、請求項1に記載の結晶。
【請求項6】
単一の結晶学的ドメインを含むことを特徴とする、請求項1に記載の結晶。
【請求項7】
前記結晶は基板のミスカットした表面上にあり、前記表面は該ミスカットした表面に隣接する前記結晶の反対側にあることを特徴とする、請求項1に記載の結晶。
【請求項8】
前記基板のミスカットした表面は、前記基板の低指数結晶方位からミスカットしたものであることを特徴とする、請求項7に記載の結晶。
【請求項9】
前記ミスカットした表面は、前記基板の主要な結晶方位に対するミスカット角度に向けられ、
該ミスカット角度が0.5°〜20°の間であることを特徴とする、請求項7に記載の結晶。
【請求項10】
前記ミスカット角度が0.5°〜3°の間であることを特徴とする、請求項9に記載の結晶。
【請求項11】
前記結晶は前記基板上にヘテロエピタキシャルに成膜されることを特徴とする、請求項7に記載の結晶。
【請求項12】
前記基板は窒化ガリウム(GaN)であることを特徴とする、請求項7に記載の結晶。
【請求項13】
前記基板は窒化アルミニウムであることを特徴とする、請求項7に記載の結晶。
【請求項14】
前記ミスカットした表面は、故意にミスカットした表面であることを特徴とする、請求項7に記載の結晶。
【請求項15】
前記半極性方位は{11−22}であることを特徴とする、請求項1に記載の結晶。
【請求項16】
前記半極性方位は{10−11}であることを特徴とする、請求項1に記載の結晶。
【請求項17】
前記半極性方位は{10−12}であることを特徴とする、請求項1に記載の結晶。
【請求項18】
前記半極性方位は{10−13}であることを特徴とする、請求項1に記載の結晶。
【請求項19】
窒化ガリウムであることを特徴とする、請求項1に記載の結晶。
【請求項20】
窒化アルミニウムであることを特徴とする、請求項1に記載の結晶。
【請求項21】
前記表面は4mm×10mmよりも大きい面積を有することを特徴とする、請求項1に記載の結晶。

【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−10689(P2013−10689A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−206551(P2012−206551)
【出願日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【分割の表示】特願2008−551465(P2008−551465)の分割
【原出願日】平成19年1月19日(2007.1.19)
【出願人】(506115514)ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ カリフォルニア (87)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】