説明

半田合金の銅濃度検出方法およびキット並びに装置

【課題】簡単な設備または備品により、半田合金の銅の含有濃度を簡便に求めることのできる方法、並びにこの方法を容易に実施するためのキットおよび装置を提供すること。
【解決手段】半田合金の銅濃度検出方法は、(1)対象半田合金の既知量を無機酸の水溶液に溶解し、(2)試料溶液を希釈し、(3)希釈溶液を、銅イオンと反応して有色の銅錯体を形成する反応用溶液および反応促進剤の溶液と混合して反応させ、(4)反応生成物溶液の吸光度を測定し、測定結果を、同様の手順により予め求めておいた検量結果と対照して、目的とする銅の含有濃度を求める。キットは、既知の濃度の無機酸の水溶液、希釈液、既知の濃度の反応用溶液、反応促進剤溶液およびpH調整液の既知量が1組のセットとされる。装置は、ケース体に、微量秤量器、吸光度測定器および上記のキットを構成する第1〜第5の容器が保持される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半田合金の銅濃度検出方法およびキット並びに装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在において、電気製品の電気回路装置としてはプリント基板が広く用いられている。そして、実際のプリント基板は、通常、種々の実装用電子部品が半田合金によってエポキシ樹脂やセラミックよりなる基板の回路に機械的に接合され、同時に電気的な接続が達成されて構成されている。
【0003】
従前において、半田合金としては、錫成分と鉛成分の比率が約6:4の錫−鉛合金が用いられてきた。しかし、この錫−鉛合金は、電気製品が廃棄された場合に雨水によって溶け出して地下水を汚染することとなり、いわゆる鉛害の原因となるためにその使用の規制が要請されている。
このような理由から、最近では、鉛成分を含有しない「鉛フリー半田」と称される種々の半田合金の開発が進められてきている。鉛フリー半田は、錫を主成分として、銀、銅、ビスマス、インジウム等の添加金属成分が添加されたものであるが、後述するように、技術的になお多くの問題がある。
【0004】
通常、電子部品をプリント基板に半田合金により接合する工程においては、半田浴槽内に溶融した状態の半田合金が収容された半田浴が用いられており、実装用電子部品をプリント基板に組み合わせたものを半田浴の溶融半田中に浸漬させることにより、所期の接合工程が実施される。
【0005】
而して、半田浴の半田合金については、これを組成する各金属成分の含有濃度が変化すると、当然のこととして半田合金の特性が変化して種々の問題の原因となることから、その金属成分の含有濃度を管理することが重要である。
例えば、銅は、或る種の半田合金においては必要な成分として特定の濃度範囲で含有されている。
【0006】
然るに、接合処理すべきプリント基板のパターン配線に用いられている銅箔などから金属銅が半田浴の溶融半田合金中に相当の割合で溶け込むため、接合処理が繰り返し行われることによって当該溶融半田合金中の銅の含有濃度が次第に高いものとなる。
そして、銅の含有濃度が高い半田合金は、通常、物理的特性である「伸び率」が低いものとなるために機械的耐久性が低いものとなり、そのような半田合金によって形成された接合部を有するプリント基板では、当該接合部に、例えば当該基板に反りが生じることにより外部からストレスが加えられたときに、容易に破壊が生ずる問題点がある。
【0007】
また、鉛フリー半田の融点は、通常、錫−鉛合金よりなる半田合金の融点の約183℃に比して高く、例えば代表的な錫−銀−銅合金では例えば217℃、錫−銅合金では例えば227℃である。そして、銅の含有濃度が高い半田合金では液相温度が高いものとなって、例えば同じ溶融温度であっても半田合金の粘度が高いものとなり、例えば半田合金が糸状に伸びる糸引き現象が生じ易くなる結果、所期の接合処理を高い信頼性で達成することができない。
【0008】
従来、半田合金について、含有される銅の含有濃度を知るための方法としては、主にX線蛍光分析やICP分析などの機器分析や化学分析が行われている。これらの分析方法を実施するためには精密で高価な装置が必要であるが、そのような装置を、半田合金による接合処理工程が実施される現場に設置することは非現実的である。
このような事情から、実際には、そのような分析装置を備えた専門の分析機関に半田合金の試料を提供して、その銅の含有濃度の測定結果を入手しているのが現状である。
【0009】
しかしながら、以上のような現状の方式では、費用が高いことを別にしても、分析結果が入手されるまでに数日間以上を要するため、半田合金の銅の含有濃度を迅速に知ることができず、半田合金の状態について十分に有効な管理を行うことができず、結局、高い信頼性をもって接合処理を行うことができない、という問題点がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであって、その目的は、簡単な設備または備品により、半田合金について、銅の含有濃度を簡便に、かつ、短時間のうちに求めることのできる半田合金の銅濃度検出方法を提供することにある。
【0011】
本発明の他の目的は、上記の半田合金の銅濃度検出方法を容易に実施することを可能とする半田合金の銅濃度検出用キットを提供することにある。
【0012】
本発明の更に他の目的は、上記の半田合金の銅濃度検出方法を容易に実施することを可能とする半田合金の銅濃度検出用装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の半田合金の銅濃度検出方法は、
(1)銅の含有濃度を知るべき半田合金の既知量の試料を無機酸の水溶液に溶解し、
(2)得られる試料溶液を希釈液により希釈し、
(3)得られる希釈溶液を、銅イオンと反応して有色の銅錯体を形成する配位子化合物を含有する反応用溶液および還元性反応促進剤の溶液と混合して反応させ、
(4)得られる反応生成物溶液の吸光度を測定し、その測定結果を、銅の含有濃度が既知の半田合金について同様の手順により予め求めておいた検量結果と対照することにより、当該半田合金の試料における銅の含有濃度を求める
ことを特徴とする。
【0014】
以上において、反応用溶液に含有される配位子化合物としては5,10,20−テトラフェニル−21H,23H−ポルフィンテトラスルホン酸二硫酸塩水和物が用いられ、反応がpH3〜7で行われることが好ましい。反応促進剤としてはアスコルビン酸を用いることができる。
【0015】
反応生成物溶液の吸光度の測定は、当該反応生成物溶液のpHが3以下とされた状態で波長413nmの光の吸光度を求めることにより、行うことが好ましい。
【0016】
本発明の半田合金の銅濃度検出用キットは、上記の半田合金の銅濃度検出方法の実施に用いられるキットであって、
(A)既知の濃度の無機酸の水溶液の既知量が収容された第1の容器と、
(B)希釈液の既知量が収容された第2の容器と、
(C)既知の濃度の反応用溶液の既知量が収容された第3の容器と、
(D)反応促進剤の既知量が収容された第4の容器と、
(E)pH調整液の既知量が収容された第5の容器と
が1組のセットとされていることを特徴とする。
【0017】
本発明の半田合金の銅濃度検出用装置は、ケース体と、このケース体に設けられた微量秤量器と、前記ケース体に設けられた吸光度測定器とを備え、
前記ケース体には、上記のキットを構成する第1の容器乃至第5の容器を保持する容器保持部が形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明の半田合金の銅濃度検出方法によれば、実質的にきわめて微量の試料を用いればよく、高度な技能や熟練が要求される煩雑な操作が不要であるため、簡単な設備または備品によって容易に実施することができ、その結果、目的とする半田合金について銅の含有濃度を短い所要時間のうちに知ることができる。
【0019】
本発明の半田合金の銅濃度検出用キットによれば、必要な複数の試薬類が既知の濃度あるいは量のものとして備えられているため、きわめて簡単な操作により、上記の半田合金の銅濃度検出方法を実施することができる。
【0020】
本発明の半田合金の銅濃度検出用装置によれば、きわめて簡便に上記の半田合金の銅濃度検出方法を実施することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、図面により、本発明の実施の一例について詳細に説明する。
図1は、本発明の半田合金の銅濃度検出用装置の構成の一例を示す概念図である。この装置10は、ケース体12に、通常、化学天秤と称される微量秤量器14と、吸光度測定器16とが、当該ケース体12の上部領域に配置されて設けられて構成されている。吸光度測定器16は、光源16A、波長413nmに高い透過波長域を有するバンドパスフィルター16B、測定用セル16Cおよび受光素子16Dにより構成されている。16Eは表示部である。
【0022】
ケース体12の下部領域には、後述する第1の容器から第5の容器を収容して保持する5つの容器保持部HA〜HEが開口した状態に形成されている。更に、ケース体12の最下部には、微量液体を採取して適宜の個所に供給するシリンジ18が着脱自在に備えられている。
【0023】
そして、以下の5種の液体すなわちA液乃至E液の所定量がそれぞれ収容された5つの容器すなわち第1の容器乃至第5の容器が用意され、これらの容器がケース体12における5つの容器保持部HA〜HEに取り出し自在に保持される。ここに、第1の容器乃至第5の容器は、いずれも、開閉自在なキャップを有する容器である。
【0024】
〔第1の容器〕
A液 無機酸の水溶液(硫酸と硝酸と純水との1:1:8の溶液) 5mL
〔第2の容器〕
B液 希釈液(純水) 25mL
〔第3の容器〕
C液 反応用溶液(5,10,20−テトラフェニル−21H,23H−ポルフィンテトラスルホン酸二硫酸塩水和物(「TPPS」と略称される。)の4mgと酢酸アンモニウム7.7gに純水を加えて1000mLとした溶液) 30mL
〔第4の容器〕
D液 反応促進剤溶液(アスコルビン酸53gに純水を加えて1000mLとした溶液) 10mL
〔第5の容器〕
E液 pH調整液(上記A液と同一組成の溶液) 2mL
【0025】
上記C液(反応用溶液)を組成するTPPSは、銅イオンと反応して有色の銅錯体を形成する配位子化合物であって、下記構造式(1)で示されるものである。
また、当該C液に含有される酢酸アンモニウムは、銅イオンとTPPSとの反応を促進する反応促進剤である。
【0026】
【化1】

【0027】
以上のような半田合金の銅濃度検出用装置を用い、下記の第1の操作〜第4の操作を行うことにより、銅の含有濃度を知るべき半田合金(以下、「対象半田合金」という。)について、銅の含有濃度を求めることができる。
【0028】
第1の操作(試料溶液の調製)
この第1の操作は、対象半田合金の既知量の試料を採取し、その溶液を調製する操作である。
〔試料の秤量〕
対象半田合金を例えば削り取ることによって極微量、例えば1〜20mgの試料を採取し、当該試料の質量を微量秤量器14により測定する。この試料が少量であると、所要時間が短くなるので好ましい。
〔試料の溶解〕
一方、容量が例えば50mLのビーカーを用意し、これに、ケース体12から取り出した第1の容器のA液の全部(無機酸の水溶液5mL)を入れ、このA液に上記の対象半田合金の試料を加えて完全に溶解させることにより、試料溶液を調製する。
この試料溶液の調製においては、短時間のうちに試料を完全に溶解させるために、例えば、系を加熱し、攪拌し、または系に振動を加えることができる。
【0029】
第2の操作(試料の希釈溶液の調製)
〔試料溶液の希釈〕
ケース体12から第2の容器を取り出してB液の全部(希釈液25mL)を、第1の操作によって得られた試料溶液に加えて試料の希釈溶液(30mL)を調製する。この試料の希釈溶液の調製においても、必要に応じて、攪拌が行われる。
【0030】
第3の操作(銅錯体の生成反応)
〔銅錯体の生成反応の実行〕
別途、容量が例えば50mLのビーカーを用意し、これに、ケース体12から取り出した第3の容器のC液の全部(反応用溶液30mL)を入れ、このC液に、第2の操作で得られた試料の希釈溶液の1mLを、ケース体12に備えられているシリンジ18を用いて添加すると共に、ケース体12から取り出した第4の容器のD液の全部(反応促進剤溶液10mL)を添加して攪拌し、反応させる。反応は約5分間で完了する。
この操作において、添加される試料の希釈溶液の量は、厳密に規定された量とされることが必要である。
この第3の操作による銅錯体の生成反応は、系がpH3〜7とされることが好ましい。上記の条件によれば、系のpHは約4となる。
【0031】
第4の操作(吸光度の測定)
〔吸光度測定試料の調製〕 第3の操作によって得られた反応生成物溶液に、ケース体12から取り出した第5の容器のE液の全部(pH調整液2mL)を添加し、攪拌することにより、pHが3以下の吸光度測定試料の調製する。上記の条件によれば、当該吸光度測定試料のpHは約1となるが、吸光度測定試料は後述するように、pH3以下とされた状態で吸光度の測定が行われることが好ましい。
〔吸光度の測定〕
得られた吸光度測定試料を測定用セル16Cに充填し、これをケース体12に設けられた吸光度測定器16にセットして、当該吸光度測定試料の波長413nmの光に対する吸光度を測定する。この測定結果は、表示部16Eに表示される。
【0032】
〔銅の含有濃度の取得〕
得られた測定結果の吸光度の値を、予め求めておいた検量結果と対照し、これにより、対象半田合金の銅の含有濃度を知ることができる。
【0033】
以上の第1の操作において、無機酸の水溶液は、上記A液の組成に限定されるものではなく、対象半田合金が溶解されるものであればよい。
また、第2の操作において試料溶液が希釈液によって希釈されるが、この希釈により、第3の操作における反応用溶液との反応を円滑にかつ短時間に生じさせることが可能となる。この第2の操作において用いられる希釈液は純水に限られず、銅錯体の生成に影響与えないものであれば、適当な物質の溶液であってもよい。
【0034】
第3の操作においては、TPPSと銅イオンとの有色の錯体生成反応が生ずるが、その反応生成物は特異的な吸収スペクトルを示し、第4の操作において測定されるその吸光度は、含有される錯体化合物の濃度に応じたものとなる。
従って、対象半田合金の代わりに、銅の含有濃度が既知であって当該濃度が異なる種々の標準試料の各々について、同一の条件に従い、上記第1の操作乃至第4の操作を行うことにより、銅の含有濃度に応じた吸光度の情報を得ることができるので、その検量結果に基づいて例えば銅の含有濃度に対する吸光度の関係を示す検量線を作成しておけば、これと対照することにより、銅の含有濃度が未知の対象半田合金についての吸光度の値から、当該対象半田合金の銅の含有濃度を求めることができる。
【0035】
例えば、銅成分の濃度がそれぞれ、0質量%、0.5質量%、0.75質量%、1.0質量%および1.25質量%と異なる5種類の錫−銀系半田合金を標準試料とし、各々の6.6mgを秤量し、これを上記A液5mLに溶解させて標準試料溶液を調製し、これをB液25mLにより希釈して標準試料の希釈溶液を調製し、その1mLを採取してこれをC液30mLに添加すると共にD液10mLを添加し、5分間放置した後、E液2mLを添加して吸光度測定試料を調製し、その波長413nmの光に対する吸光度を吸光度測定器により測定し、銅の含有濃度と吸光度測定値との関係を曲線図に表すことにより、検量線を作成することができる。
実際には、測定誤差の影響を考慮して、各標準試料についての吸光度測定試料の調製およびその吸光度測定を例えば5回行い、その平均値を採用することが好ましい。
【0036】
本発明において、反応用溶液に含有される銅イオンと反応して有色の銅錯体を形成する配位子化合物としては、上記構造式(1)で示される5,10,20−テトラフェニル−21H,23H−ポルフィンテトラスルホン酸二硫酸塩水和物が好適に用いられる。この化合物は、銅イオンと反応して、下記構造式(2)で示される銅錯体を生成する。この反応は、既述のように、pH3〜7において円滑に進行する。
【0037】
【化2】

【0038】
第4の操作において、吸光度測定試料を調製するために、pH調整液を添加する理由は次のとおりである。
銅の含有濃度が0.5質量%の標準試料と、銅の含有濃度が0質量%の対照試料を用いて上記第1の操作〜第4の操作と同様の操作を行って得られる吸光度測定試料について、pHが1である条件下での測定により得られた波長400〜450nmの領域における吸光度特性曲線を、図2に示す。曲線aが、銀3.0質量%、銅0.5質量%の錫−銀−銅半田合金よりなる標準試料Aについてのものであり、曲線bが、銀3.5質量%、銅0質量%の錫−銀半田合金よりなる対照試料Bについてのものである。
この曲線図から、標準試料Aによれば、波長413nmの個所において、対照試料Bによる場合よりも吸光度が明確に高いことが理解される。
なお、標準試料Aによれば波長434nmの個所において高い吸光度が生じているが、対照試料Bによる場合にも同じ波長434nmの個所において高い吸光度が生じるため、この波長における吸光度から得られる銅の含有濃度は、信頼性の高いものではない。
【0039】
図3は、図2の場合と同様の標準試料Aおよび対照試料Bについて、第4の操作においてE液(pH調整液)の添加をしなかったこと以外は、図2の場合と全く同様にして得られた結果である。すなわち、この図3の場合の吸光度測定試料はpHが4の条件で吸光度測定が行われている。そして、図2の場合と同様に、曲線aが標準試料Aに対応し、曲線bが対照試料Bに対応する。
【0040】
この図3から明らかなように、pHが4の条件下では、波長413nmの個所に標準試料Aによる高い吸光度が現れるのであるが、同時に、この波長413nmの個所には対照試料Bも吸収ピークを有する。これは、銅錯体の生成に関与しなかったTPPSの影響によるものであって、標準試料Aの吸光度の測定において大きな誤差の原因となる。
一方、pH1の条件下では、図2から明らかなように、対照試料Bは波長413nmの個所に特にピークを示さないので、標準試料Aについて、波長413nmの個所における吸光度を測定することにより、未反応のTPPSによる影響を可及的に小さいものとすることができ、その結果、波長413nmの光に対する吸光度測定値は、生成された銅錯体の濃度に対応する程度がより高いものとなるので、得られる吸光度測定値は、銅の含有濃度との関係が高い信頼性を有するものとなる。
【0041】
以上のように、pH4の反応生成物溶液をpH調整液によってpH1に変化させることにより、未反応のTPPSの吸収波長を413nmから434nmにシフトさせることができるので、これにより、波長413nmにおける銅錯体の吸光度を信頼性の高いものとすることができるのである。
【0042】
以上、本発明を具体的に説明したが、本発明においては、吸光度測定試料における試料濃度すなわち対象半田合金の濃度を求めることができる条件下であれば、当該試料濃度と測定された吸光度の値に基づいて、予め求めておいた検量結果と対照することにより、当該試料の対象半田合金における銅の含有濃度を求めることができる。
従って対象半田合金を溶解する無機酸の水溶液(A液)の種類、濃度および量、試料溶液を希釈するための希釈液(B液)の種類、濃度および量は、特に制限されるものではなく、それぞれ、既知の濃度および既知の量で使用されればよい。
【0043】
また、反応用溶液(C液)に含有される配位子化合物種類、濃度および量も、特に制限されるものではなく、既知の濃度および既知の量で使用されればよい。ただし、反応用溶液は、対象半田合金に含有されるすべての銅が錯体を形成する量以上の量で使用されることが必要である。
この反応用溶液には、上記の例のように、反応促進剤の一部(上記の例では、酢酸アンモニウム)を共に含有させておくことができるが、反応促進剤は、反応用溶液とは別個の溶液として使用することもできる。
【0044】
反応促進剤溶液(D液)は、実際の反応を円滑に進行させるために必要であるが、その濃度および量は制限されるものではない。この事情は、反応用溶液に含有される反応促進剤についても同様である。
更に、pH調整液もその種類、濃度および量が制限されるものではないが、適切なpHとなるものであることが重要である。
【0045】
本発明では、反応生成物溶液を組成する、銅イオンと反応して有色の銅錯体を形成する配位子化合物としては、上記TPPSの他に、α,β,γ,δ−テトラフェニルポルフィントリスルホン酸二硫酸塩水和物(これも「TPPS」と称されることがある。)を用いることができる。
【0046】
以上のように、本発明の半田合金の銅濃度検出方法は、実質的に微量の試料を用いればよく、高度な技量が要求される煩雑な操作が不要であるため、簡単な設備または備品によって実施することができ、その結果、目的とする半田合金について銅の含有濃度を短い所要時間のうちに知ることができ、半田合金による接合処理の工程が実施される現場においてきわめて有利に、当該半田合金についてその銅の含有濃度を求めることができる。
【0047】
また、本発明の半田合金の銅濃度検出用装置においては、上記の半田合金の銅濃度検出方法を実施するために必要な試薬である無機酸の水溶液、希釈液、反応用溶液、反応促進剤溶液およびpH調整液の5種を、それぞれ、A液、B液、C液、D液およびE液として各々規定の量で、第1の容器、第2の容器、第3の容器、第4の容器および第5の容器に収容し、1組のセットとされてキットが構成されているため、当該キットを使用することにより、試料としてA液に溶解させる対象半田合金の量を秤量するのみで他の吸光度測定試料の濃度の計算に必要な要素が固定された状態であるため、得られる吸光度測定値から一定の計算式によって吸光度測定試料の濃度を知ることができ、その結果、目的とする対象半田合金の銅の含有濃度をきわめて簡単に、かつ、正確に求めることができる。
【0048】
更に、本発明の半田合金の銅濃度検出用装置によれば、上記のキットを構成する第1の容器乃至第5の容器を保持する容器保持部と共に、対象半田合金の試料を秤量するための微量秤量器と、吸光度測定器とがケース体に設けられているため、きわめて簡便に、対象半田合金について、銅の含有濃度を求めることができる。
【0049】
そして、予め求められた検量結果の情報、具体的には検量線情報を適宜の記憶装置に記憶させておき、これを利用して吸光度測定値情報を処理することにより、例えば、吸光度測定器16の表示部16Eに、直接、銅の含有濃度を表示させる構成とすることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の半田合金の銅濃度検出用装置の構成の一例を示す概念図である。
【図2】銅の含有濃度が0.5質量%の標準試料と、銅の含有濃度が0質量%の対照試料について、pHが1である条件下で測定された、波長400〜450nmの領域における吸光度特性曲線図である。
【図3】図2の場合と同様の標準試料および対照試料について、pHが4の条件で測定された波長400〜450nmの領域における吸光度特性曲線図である。
【符号の説明】
【0051】
10 半田合金の銅濃度検出用装置
12 ケース体
14 微量秤量器
16 吸光度測定器
16A 光源
16B バンドパスフィルター
16C 測定用セル
16D 受光素子
16E 表示部
HA〜HE 容器保持部
18 シリンジ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)銅の含有濃度を知るべき半田合金の既知量の試料を無機酸の水溶液に溶解し、
(2)得られる試料溶液を希釈液により希釈し、
(3)得られる希釈溶液を、銅イオンと反応して有色の銅錯体を形成する配位子化合物を含有する反応用溶液および還元性反応促進剤の溶液と混合して反応させ、
(4)得られる反応生成物溶液の吸光度を測定し、その測定結果を、銅の含有濃度が既知の半田合金について同様の手順により予め求めておいた検量結果と対照することにより、当該半田合金の試料における銅の含有濃度を求める
ことを特徴とする半田合金の銅濃度検出方法。
【請求項2】
反応用溶液に含有される配位子化合物が5,10,20−テトラフェニル−21H,23H−ポルフィンテトラスルホン酸二硫酸塩水和物であり、反応がpH3〜7で行われることを特徴とする請求項1に記載の半田合金の銅濃度検出方法。
【請求項3】
反応促進剤がアスコルビン酸であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の半田合金の銅濃度検出方法。
【請求項4】
反応生成物溶液の吸光度の測定を、当該反応生成物溶液のpHが3以下とされた状態で波長413nmの光の吸光度を求めることにより、行うことを特徴とする請求項2または請求項3に記載の半田合金の銅濃度検出方法。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれかに記載の半田合金の銅濃度検出方法の実施に用いられるキットであって、
(A)既知の濃度の無機酸の水溶液の既知量が収容された第1の容器と、
(B)希釈液の既知量が収容された第2の容器と、
(C)既知の濃度の反応用溶液の既知量が収容された第3の容器と、
(D)反応促進剤の既知量が収容された第4の容器と、
(E)pH調整液の既知量が収容された第5の容器と
が1組のセットとされていることを特徴とする半田合金の銅濃度検出用キット。
【請求項6】
ケース体と、このケース体に設けられた微量秤量器と、前記ケース体に設けられた吸光度測定器とを備え、
前記ケース体には、請求項5に記載の半田合金の銅濃度検出用キットを構成する第1の容器乃至第5の容器を保持する容器保持部が形成されていることを特徴とする半田合金の銅濃度検出用装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−101343(P2007−101343A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−291072(P2005−291072)
【出願日】平成17年10月4日(2005.10.4)
【出願人】(000137476)株式会社マルコム (15)
【Fターム(参考)】