説明

半自動式のトルクレンチ

【課題】油圧配管をナット部材により被取り付け部に取付する際に、半自動式のトルクレンチにより所定トルク値に締付可能とする。
【解決手段】半自動式のトルクレンチのヘッド部に固定され、電動駆動される自動ナット締付機構18として、ケース17に配置した複数のギア列(21,22,23,24,28)により構成し、終端の一部切欠きギア部28を備えたナット係合軸19に形成した軸開口部20をケース開口部27に対応して設け、油圧配管にケース開口部27および軸開口部20を通し、トルクレンチを下げる事でナット係合軸19に油圧配管のナット部材を係合させてナット係合軸19を仮締めトルク値まで仮締め後、手動操作で本締めを行う。その後、ナット係合軸19を電動駆動で回転させ、軸開口部20を近接センサーで検知し、係合待機位置でナット係合軸19の回転を停止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ駆動により一定のトルク値までナット等の締結体を仮締めし、その後は手動で目的とするトルク値まで締付る半自動式のトルクレンチに係り、特にスパナのように先端部が開口した係合部をナットに差し込んで自動締め付けのために係合部を回転させる半自動式のトルクレンチに関する。
【背景技術】
【0002】
半自動式のモータ駆動、例えば電動モータ駆動によるトルクレンチとしては、手動式のトルクレンチのヘッド部に電動モータを取り付けた構成のものが提案されている(特許文献1)。
【0003】
特許文献1に記載のトルクレンチは、手動操作されるトルクレンチ本体と、前記トルクレンチ本体に対して揺動可能に連結されると共に、トルクリミッターとしてのトグル機構を介して固定されたヘッド部と、前記ヘッド部に設けた電動モータとにより構成し、前記電動モータの駆動力により前記ヘッド部に設けたラチェット機構付きの駆動軸を回転させ、前記駆動軸に装着される例えばソケットによりボルトを締付る。
【0004】
トルクレンチ本体は、チューブ状に形成したハンドル部の先端部に回動自在に前記ヘッド部を取り付け、前記ハンドル部内に挿入された該ヘッド部の挿入端部と該ハンドル部とを前記トグル機構により連結している。
【0005】
このトグル機構は、ハンドル部内に配置したばね部材により前記ヘッド部側にばね付勢される移動体と、該ヘッドの挿入端との間に連結されるリンク部材とにより構成され、該リンク部材は該ハンドルの軸方向に対して傾斜した状態をトグル非作動状態(トルク伝達状態)として該可動ヘッドを該ハンドル部に対して揺動不能の固定状態とし、該ハンドル部と一体化している。
【0006】
そして、電動モータによる仮締め後、前記ハンドル部を手動操作により引いて(回動して)締付力を増し、前記ばね部材のばね力で設定される設定トルク値に達すると、前記リンク部材を介して前記移動体が該ばね部材のばね力に抗して後進し、該リンク部材が前記ハンドル部の軸心と平行となるまで回動するとトグル動作が行われ、該可動ヘッドが該ハンドル部に対して固定状態が解除されて揺動し、トルク非伝達状態となる。これにより、作業者はボルトが設定トルク値まで締付られたことを確認することができることになる。
【0007】
このような電動トルクレンチによる締付対象は、筒状のソケットを嵌め込むことができるものを対象としている。すなわち、ボルトの先端部にナットを締付る場合、ナットからボルトの先端部が飛び出でいても、ソケットをその上から被せることができれば、ソケットをモータ駆動により回転させて仮締めし、手動操作での本締め終了後に、ソケットをナットから支障なく取り外すことができる。
【0008】
しかし、配管されているパイプの端部を機器にナットにより取り付ける際、ヘッド部としてこのような円筒状のソケット、あるいはメガネレンチのような閉鎖型のヘッド部を使用することができないことから、一般に先端部が開口したスパナを用いて手動操作によりナットの締付を行なうようにしている。
【0009】
このような、一般的な構造のスパナによるナットの締付作業は、ナットを少し回してはスパナをナットから抜き、またスパナを戻して再びナットに差し込んで締付るとういう単調な作業の繰り返しを伴うものである。
【0010】
このため、フレアレンチと称されるスパナが提案されている(特許文献2)。このフレアレンチは、例えば六角ナットの側面に対して先端開口部を差し込んで係合し、スパナを締付方向に少しだけ回し、そのままの状態でスパナの柄を反対方向に回すとナットの側面との係合が解除され、再びスパナの柄を締付方向に回すとナットの締付ができるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2009−095961号公報
【特許文献2】特開2000−334668号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、上記した特許文献2に示すようなフレアレンチは、例えば自動車の油圧ブレーキシステムにおけるマスターシリンダーに複数系統のブレーキ油圧配管をナットにより締付る場合、自動車の組み立て工場等において、締付作業の全てが手作業であるため、短時間での締付作業には限界がある。
【0013】
また、ナットの締付トルク管理の徹底という点から、トルクレンチによる締め付けが要求され、特に短時間で所定のトルク値にナットを確実に締付るには、上述した半自動式のトルクレンチによる締め付けが望まれる。
【0014】
本発明の目的は、スパナと同様にナットの側面から係合でき、モータ駆動によりナットの仮締め後、手動操作による所定トルク値の本締めができ、締付完了後にはナットから自由に取り外すことができる半自動式のトルクレンチを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の目的を実現する半自動式のトルクレンチの第1構成は、手動操作されるトルクレンチ本体と、前記トルクレンチ本体に対して揺動可能に連結されると共にトルクリミッターを介して固定されたヘッド部と、前記ヘッド部に取り付けられた電動駆動装置と、前記電動駆動装置の駆動制御を行う駆動制御部と、を有し、前記電動駆動装置の外部出力軸が前記ヘッド部に対して一方向回転機構を介して連結され、前記トルクレンチ本体の手動操作力を前記外部出力軸に伝達可能とする半自動式のトルクレンチにおいて、前記ヘッド部に固定されると共に、前記外部出力軸の回転駆動力が入力されるナット部材締付機構を有し、前記ナット部材締付機構は、先端部が開口するケース開口部を有するケースと、内径部でナット部材と係合し、周壁の一部分が軸方向に沿って開口する軸開口部が前記ケース開口部と対応して形成され、前記ケースの先端部に回転可能に支持された中空形状のナット係合軸と、前記ナット係合軸に前記外部出力軸からの駆動力を伝達する歯車伝達手段と、前記ナット係合軸の軸開口部を検出する開口部検出センサーと、を有し、前記駆動制御部は、前記ナット係合軸によるナット部材を設定した仮締付トルク値まで前記電動駆動装置による駆動力で締付、位置出しモード時に、前記ナット係合軸を回転させ、前記開口部検出センサーの検出情報に基づいて前記軸開口部が前記ケース開口部に一致する係合待機位置で前記ナット係合軸の回転を停止させることを特徴とする。
【0016】
本発明の目的を実現する半自動式のトルクレンチの第2構成は、手動操作されるトルクレンチ本体と、前記トルクレンチ本体に対して揺動可能に連結されると共にトルクリミッターを介して固定されたヘッド部と、前記ヘッド部に取り付けられた電動駆動装置と、前記電動駆動装置の駆動制御を行う駆動制御部と、を有し、前記電動駆動装置の外部出力軸が前記ヘッド部に対して一方向回転機構を介して連結され、前記トルクレンチ本体の手動操作力を前記外部出力軸に伝達可能とする半自動式のトルクレンチにおいて、前記ヘッド部に固定されると共に、前記外部出力軸の回転駆動力が入力されるナット部材締付機構を有し、前記ナット部材締付機構は、先端部が開口するケース開口部を有するケースと、内径部でナット部材と係合し、周壁の一部分が軸方向に沿って開口する軸開口部が前記ケース開口部と対応して形成され、前記ケースの先端部に回転可能に支持された中空形状のナット係合軸と、前記ナット係合軸に前記外部出力軸からの駆動力を伝達する歯車伝達手段と、前記歯車伝達手段に対して係脱可能に前記ケースに配置され、係合状態で前記軸開口部が前記ケース開口部に一致する係合待機位置で前記ナット係合軸の回転を停止させる回転停止手段と、を有し、前記駆動制御部は、前記ナット係合軸によるナット部材を設定した仮締付トルク値まで前記電動駆動装置による駆動力で締付、位置出しモード時に、前記ナット係合軸を回転させ、前記回転停止手段を係合位置に設定することにより前記ナット係合軸を機械的に停止させることを特徴とする。
【0017】
上記したいずれかの構成において、前記駆動制御部は、前記位置出しモード時における前記ナット係合軸の回転速度を仮締付時の回転速度より低速とすることができる。
【0018】
上記したいずれかの構成において、前記ナット係合軸は、パイプをナット部材により被取り付け部に締付る際に、前記ナット係合軸の軸開口部の開口幅を前記パイプの外径よりも大径とし、前記ナット部材の外径よりも小径とすることができる。
【発明の効果】
【0019】
請求項1、2に係る発明によれば、スパナでなければナットの締付ができない箇所での締付作業を自動による仮締めまで行え、設定トルク値まで手動操作により正確に行うことができ、締付作業の終了後は係合待機位置までナット係合軸をセンサー制御方式あるいは機械制御方式で復帰させることができる。
【0020】
請求項3に係る発明によれば、位置出しモードでのナット係合軸を低速回転させて確実に軸開口部を係合待機位置に停止させることができる。
【0021】
請求項4に係る発明によれば、ナット係合軸の軸開口部がケース開口部に向いた係合待機位置において、油圧配管等のパイプに軸開口部を通し、そのまま半自動式のトルクレンチを下げる事でナット係合軸がナット部材に係合するので、電動駆動によりナット部材の締付を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明による半自動式のトルクレンチの第1実施形態を示す上面図。
【図2】(a)は図1の正面図、(b)は(a)の右側面図。
【図3】図2に示す自動ナット締付機構の縦断面図。
【図4】(a)は図3に示す自動ナット締付機構の外観斜視図、(b)は近接センサーによる開口部検出方式の変形例を示す自動ナット締付機構の背面側の図。
【図5】図3のA-A矢視断面図。
【図6】図1に示す半自動式のトルクレンチの駆動系の電気回路図。
【図7】図6の電気回路における動作を示すタイミングチャート。
【図8】本発明による半自動式トルクレンチの第2の実施形態を示す正面図。
【図9】図8に示す自動ナット締付機構の縦断面図。
【図10】図9の自動ナット締付機構の外観斜視図。
【図11】図9のB矢視断面図。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下本発明を図面に示す実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0024】
第1実施形態
図1から図7は本発明による半自動式のトルクレンチの第1実施形態を示す。
【0025】
図1および図2において、トルクレンチ10は、作業者により手動操作される中空扁平状の柄部等で構成されるトルクレンチ本体11と、トルクレンチ本体11に対して支軸12を介して揺動可能に連結されたヘッド部13と、ヘッド部13に取り付けられた電動モータであるブラシレスモータ(以下単にモータと称す)14及びモータ駆動制御回路(図6)を有する電動駆動装置15と、により構成し、商用電源(例えばAC100V)を駆動電源とし、電源コード15Aが前記モータ駆動制御回路に接続されている。
【0026】
また、ヘッド部13とトルクレンチ本体11とはトルクリミッターとしてのトグル機構(不図示)を介して連結されている。モータ14のモータ回転軸(不図示)は、トルクレンチ本体11の長さ方向と平行に配置され、前記モータ回転軸の軸端部に不図示の減速機構が接続されている。
【0027】
前記減速機構の出力軸に不図示の第1べベルギアが取り付けられている。モータ14のモータ回転軸と直交する軸方向に、図3に示すように、最終段出力軸16が配置され、この最終段出力軸16の入力側に前記第1べベルギアと噛合する第2べベルギア(不図示)が取り付けられ、モータ14の回転を最終段出力軸16に伝達する。
【0028】
一方、ヘッド部13には、電動駆動装置15とは反対側に長楕円状のケース17を備えた自動ナット締付機構18が取り付けられている。
【0029】
自動ナット締付機構18の構成を図3、図4および図5を参照して説明する。
【0030】
自動ナット締付機構18は、ケース17の先端部に、最終段出力軸16と平行な軸方向と直交方向の横断面において概略C字形状に形成された中空のナット係合軸19を回転可能に軸支している。
【0031】
ナット係合軸19は、軸方向に沿って開口する開口部(軸開口部)20を有している。ナット係合軸19の内面は、締付対象のナットの外径形状に対応して形成され、例えば正六角形形状の内面に形成されている。但し、開口部20の幅は、対向する正六角形の内面の対向幅よりも狭くして上顎部20aと下顎部20bを形成し、実質的には4面の内壁面を有している。
【0032】
本実施形態のトルクレンチを、例えば油圧配管のコネクタあるいは油圧発生シリンダー装置のボディにナット締めにより取り付け用とする場合、接続用のナット部材は内径部に油圧配管が内装されていることから、該油圧配管の外径はナット部材の外径よりも小径である。このため、開口部20の開口幅を油圧配管の外径よりも大径で、ナット部材の外径よりも小径としている。したがって、先ず、開口部20を油圧配管に通すことで、ナット係合軸19の内径部である係合部19Aをナットに係合させることができる。この係合状態では、開口部20の両端の上顎部20aと下顎部20bとがナットに係合するため、ナット係合軸19の回転中にナット部材からナット係合軸19が抜け出ることが防止される。
【0033】
本実施形態において、ナット係合軸19の軸方向長さを締付対象とするナット部材の高さの2倍以上とし、この長さ範囲のいずれの位置でもナット部材との係合を可能としている。また、例えば油圧配管を狭い間隔で油圧シリンダー装置のボディに並んで接続する場合、締付済みのナット部材が隣にあっても、ナット係合軸19の長さの範囲内でナット係合部材との係合位置をずらすことで、ケース17が締付済みのナット部材と干渉することなくナット締めを行なうことができる。この場合、ナット係合軸19の外径を締付締めのナット部材と干渉しないサイズとすることはいうまでもないことである。
【0034】
自動ナット締付機構18は、ケース17内に入力ギア21と、入力ギア21と噛み合うボールベアリングを介して軸支されている第1中間ギア22と、第1中間ギア22と噛み合う第2中間ギア23とを一列に配置し、第2中間ギア23と離れてケース17の先端部にナット係合軸19を回転可能に配置しており、入力ギア21と第1中間ギア22と第2中間ギア23とナット係合軸19とを同一の軸線L上に配置している。
【0035】
また、ケース17の先端部は開口部20の開口幅と同幅に開口したケース開口部27が形成され、図5に示すように、ナット係合軸19の開口部20がケース開口部27と正対する係合待機位置において、前記油圧配管がケース開口部27から開口部20を通して係合部19A内に入り込み、トルクレンチ10を下げることによりナット部材を係合部19Aに係合させることができる。なお、ケース17の先端部26はできるだけ外径を小さくし、狭い間隔の油圧配管の間に差し込むことができるようにしている。
【0036】
ナット係合軸19は、開口部20を除いて外周部に一部切欠ギア部28が形成されていて、前記軸線Lを挟んで左右に左出力ギア24と右出力ギア25とを回転可能に配置している。なお、入力ギア21と第1中間ギア22と第2中間ギア23とナット係合軸19の一部切欠ギア部28は同径としている。
【0037】
左出力ギア24と右出力ギア25とは、共に第2中間ギア23に噛み合うと共に、ナット係合軸19が前記係合待機位置に待機した状態において、ナット係合軸19の一部切欠ギア部28に同時に係合している。ここで、図5は図3のA-A矢視断面図であり、図3の下側から上向きに自動ナット締付機構18のギア列を見ているので、右ねじのナット部材を締付るには、図5において、ナット係合軸19が反時計まわり方向に回転させる。したがって、図5において、入力ギア21には反時計回りに回転駆動され、第1中間ギア22から第2中間ギア23を経て左出力ギア24と右出力ギア25が回転駆動され、ナット係合軸19を右ねじ回り方向に回転させる。
【0038】
ナット係合軸19が係合待機位置から回転を開始すると、一部切欠ギア部28の切欠部28A(開口部20に対応する)が左出力ギア24に達するが、右出力ギア25が一部切欠ギア部28と噛み合っているので、このままナット係合軸19を回転駆動させることができる。その後、切欠部28Aが右出力ギア25に達するが、左出力ギア24が一部切欠ギア部28に噛み合っているので、ナット係合軸19を1回転させることができる。したがって、一部切欠ギア部28に切欠部28Aが存在していても、ナット部材を複数回転させて締付ることが可能となる。
【0039】
自動ナット締付機構18の入力ギア21は、軸部30が中空軸に形成されていて、軸部30の内径部がスプライン加工されている。そして、外周部にスプライン加工された連結軸31が軸部30内でスプライン結合している。最終段出力軸16は、ヘッド部13内に配置されたラチェット機構を構成するラチェットギア32に軸回りに対して回転不能に結合されている。そして、ラチェットギア32は中心軸部33が中空に形成されていて、中心軸部33の内周に形成したスプライン溝が連結軸31の外周に形成したスプラインと結合し、最終段出力軸16の回転駆動力を入力ギア21に伝達し、ナット係合軸19を回転させる。
【0040】
ヘッド部13内には、不図示のラチェット爪が配置されて不図示のばねによりラチェットギア32のラチェット歯と係合する方向に付勢されている。したがって、トルクレンチ本体11の柄部を手動操作により回動すると、前記ラチェット爪を介してラチェットギア32を回動させ、ナット係合軸19を回動させてナット部材の締付を行う。設定トルク値に近くなると、ナット部材からの反力により自動ナット締付機構18のギア列が回転しなくなり、ヘッド部13と自動ナット締付機構18のケース17が一体化し、設定トルク値に達すると前記トグル機構がトルク非伝達状態になり、作業者は設定トルク値に達したことを感覚的に知ることができる。
【0041】
上記した構成において、ナット部材をモータ駆動により仮締めするには、始動レバー34を引いてスタートスイッチ35をオンさせると、モータ14が起動して最終段出力軸16を回転させるが、前記ラチェット爪は最終段出力軸16の回転を阻止しない。そして、締付トルクの上昇に伴い、モータ電流が増加し、仮締めトルクに対応して設定したモータ電流に達すると、モータ14の駆動が停止され。そして、作業者はトルクレンチ本体11を構成する柄部11aを手で引き、ナット部材をさらに締め付け、設定トルク値に達すると前記トグル機構が作動して締め付けが完了する。
【0042】
トルクレンチ本体11のチューブ状に形成した柄部11aの先端部には、ヘッド部13の後端部が挿入されると共に支軸12を介して揺動自在に取り付けられ、ヘッド部13の後端部と柄部11aとを前記トグル機構により連結している。
【0043】
このトグル機構は、ハンドル部11a内に配置したばね部材(不図示)によりヘッド部13側にばね付勢される移動体(不図示)と、ヘッド部13の後端部との間に連結されるリンク部材(不図示)とにより構成され、前記リンク部材は柄部11aの軸方向に対して傾斜した状態をトグル非作動状態(トルク伝達状態)としてヘッド部13を柄部11aに対して揺動不能の固定状態とし、ハンドル部11aと一体化している。
【0044】
そして、柄部11aを手動操作により引いて(回動して)締付力を増し、前記ばね部材のばね力で設定される設定トルク値に達すると、前記リンク部材を介して前記移動体が該ばね部材のばね力に抗して後進し、該リンク部材が柄部11aの軸心と平行となるまで回動するとトグル動作が行われ、ヘッド部13が柄部11aに対して固定状態が解除(トルク非伝達状態)されて揺動する。これにより、作業者はナット部材が設定トルク値まで締付られたことを確認することができることになる。その際、ヘッド部13の揺動により図6に示すトグル作動スイッチ58がオンして締付完了信号を出力する。
【0045】
上述した操作により、ナット部材の本締めが完了した状態において、ナット係合軸19の開口部20が前記係合待機位置に位置しているか否かは不明であり、開口部20が係合待機位置に向いていない場合には、油圧配管からナット係合部材を抜き出すことができない。
【0046】
そこで、ケース17の背面側で、ナット係合軸19に近接して近接センサー36を取り付け、開口部20の位置を検出し、前記モータ駆動制御回路に出力する。本実施形態において、ナット係合軸19を金属製とすることで、開口部20の位置を検出することができる。なお、近接センサー36に代えてホール素子(ホールIC)を用いてもよい。
【0047】
前記モータ駆動制御回路は、電動駆動装置15の外装ケースの後端部に取り付けた係合待機位置復帰スイッチ37からのON信号で、モータ14を駆動し、ナット係合軸18を係合待機位置に戻すようにしている。
【0048】
次に、モータ駆動制御回路50を図6に基づいて説明する。
【0049】
図6において、本実施形態のモータ駆動制御回路50は、駆動電源であるAC100V電源51によりブラシレスモータ14を駆動制御するもので、のブラシレスモータの公知の駆動回路部52と、駆動回路部52を制御するCPUで構成される制御回路部53と、ラインフィルタ54とダイオードブリッジ55で構成される整流回路部と、を有している。
【0050】
電源駆動装置15の外装ケースには、ランプ表示部56が設けられている。ランプ表示部56には、緑色表示の回転ランプ56Gと、青色表示の締付表示ランプ56Bと、赤色表示の異常ランプ56Rとを有し、制御回路部53のランプ制御部53Aによりこれらのランプ56G、56B、56Rの表示制御が行なわれる。回転ランプ56Gはモータ駆動によりナット係合軸19を回転させていることを点灯表示し、締付表示ランプ56Bは仮締め完了を青点滅で表示すると共に本締め完了を青点灯で表示し、異常ランプ56Rは締付不良等の異常の発生を点灯表示する。
【0051】
駆動回路部52は、FETからなるスイッチング素子FET1〜FET6をモータ14に対して図示の如く接続し、スイッチング素子用ドライバ5Aによりスイッチング素子FET1〜FET6を制御してモータ14を駆動するための公知の回路構成としている。
【0052】
モータ14には、マグネットロータの位置を検知するホール素子(ホールIC)14a〜14cが所定間隔で配置され、制御回路部53はこれらホール素子からの検知信号に基づいてスイッチング素子用ドライバ53Aを駆動して、スイッチング素子FET1〜FET6をオン・オフ制御し、モータ14の巻線14d〜14fに選択的に通電することでモータ14を回転制御する。
【0053】
本実施形態において、電源コード15Aと前記整流回路とを直結し、電源コード15Aを駆動電源51に接続すると、ランプ表示部56に配置した電源ランプ57が点灯すると共に、制御回路部53が起動するようにしている。スタートスイッチ35は、前記整流回路と駆動回路部52と間に直列に接続されている。
【0054】
制御回路部53には、トグル作動スイッチ58スイッチ状態を検出する締付け完了入力部53B、モータ駆動速度を調整する速度調整ボリューム59Aの調整量を検出する速度設定部53C、仮締めトルク値を調整する仮締め調整ボリューム59Bの調整量を検出する仮締めトルク設定部53D、係合待機位置復帰スイッチ37のスイッチ状態を検出する位置出しモード検出部53E、近接センサー36の検出情報が入力されるセンサー信号入力部53F、締付け完了信号を外部に出力するための完了信号出力制御部53G、駆動回路部52に流れる電流をシャント抵抗Rを介して検出する電流検出部53H、スイッチング素子用ドライバ52Aを制御する6相PWM出力部53I,ホール素子14a〜14cの信号が入力されてマグネットロータの位置を検出するホール素子信号入力位置検出部53J、スタートスイッチ35のスイッチ状態を検出するスタート検出回路50Cからのスタート指令を検出するスタート指令部53Kを備えている。なお、完了信号出力制御部53Gからの完了信号は、外部出力端子50Aを介して有線により、また無線送信器50Bを経て外部に出力され、例えば締付け本数のカウント等に用いられる。
【0055】
以下、制御回路部53の動作を7に示すタイミングチャートを参照して説明する。
【0056】
制御回路部53は、スタートスイッチ35のオンをスタート検出回路50Cが検知し、スタート指令部53Kに閉信号が入力されると、駆動回路部52への駆動開始指示を6相PWM出力部53Iからスイッチング素子ドライバ52Aに行い、ナット部材の仮締めのためにモータ14の高速回転が開始される。また、回転ランプ56Gが緑色で点灯する。なお、始動レバー34は押し続けてスタートスイッチ35をONとしている。
【0057】
モータ14によるナット部材の自動締付が開始され、ナット部材の締付によりモータ14の負荷抵抗が増して通電電流が大きくなり、電流検出部53Hで検出した通電電流が仮締めトルク設定部53Dに設定した仮締付完了状態に達したと判断すると、スタートスイッチ35がONであってもモータ14を自動停止させると共に、回転ランプ56Gを消灯する。
【0058】
制御回路部10は、モータ14の自動停止と共に、仮締め完了表示のために締付け表示ランプ56Bを点滅状態とし、作業者に手作業による本締を促す。
【0059】
作業者が始動レバー34から指を離してスタートスイッチ35がオフし、手動で本締付を行い締付完了により前記トグル機構が作動すると、トグル作動スイッチ58がオンし、締付け表示ランプ56Bの点滅が消えて所定時間連続点灯となる。続いて、ナット係合軸19の開口部20を係合待機位置に復帰させるために、係合待機位置復帰スイッチ37をON状態として始動レバー34を押すと、位置出しモードに切換り、モータ14を低速回転で回転させる。
【0060】
近接センサー36を例えば軸線L上に配置した場合、ナット締付け方向に回転するナット係合軸19の開口部20が近接センサー36の前を通過すると、その位置からナット係合軸19が半周回転すれば開口部20が係合待機位置に復帰する。
【0061】
本実施形態では、低速で回転するナット係合軸19の回転速度より、例えばナット係合軸19が半周する時間(停止位置演算)を回転停止位置演算部53Lで演算する。勿論、近接センサー36の配置位置は軸線L上に限定されるものではなく、開口部20を検出できる位置であれば特に限定されるものではなく、その位置から係合待機位置に達するまでの時間(停止位置演算)が回転停止位置演算部53Lで演算される。
【0062】
そして、近接センサー36が開口部20を検出(ON)したことをセンサー信号入力部53Fに入力すると、前記停止位置演算のタイマーがスタートし、前記タイマーが終了すると開口部20を係合待機位置に復帰させてモータ14の駆動が停止する。これにより、ナット係合軸19の開口部20がケース開口部27に正対し、油圧配管からナット係合軸19を取り外すことができる。
【0063】
本実施形態では、モータ14あるいはナット係合軸19の回転速度から停止位置演算を行なっているが、モータ駆動パルスのパルス数により停止位置演算を行なうようにしても良い。また、近接センサー36が開口部20を検出してからナット係合軸19が180度回転した位置を係合待機位置としてモータ14の駆動を停止しているが、図4(b)に示すように、ナット係合軸19の下ケース板17Bから下方に突出する突出部の外周で、開口部20から反対側の180度の位置に金属製の被検出体65を突出させ、この被検出体65を近接センサー36により検出すると、直ちにモータ14の駆動を停止してナット係合軸19の回転をすれば、開口部20を係合待機位置に位置出しすることができる。
【0064】
第2実施形態
図8から図11は本発明の第2実施形態を示す。
【0065】
上記した第1実施形態において、ナット係合軸19を係合待機位置に復帰させるために、近接センサー36を用いたセンサー制御方式を採用して開口部20の位置出しを行なっているが、本実施形態では、機械的にナット係合軸19の開口部20を係合待機位置に復帰させる位置出しを行なっている。
【0066】
本実施形態の構成は、第1実施形態の構成と殆んど同一構成とし、異なる点は、自動ナット締付機構18のギア列を構成する第2中間ギア23を利用してナット係合軸19の開口部20の位置出しを行っている。
【0067】
第2中間ギア23は、中心軸部23Aを中空軸に形成し、中心軸部23Aの内径軸孔23Bに回転停止手段であるストッパーピン60を軸方向移動可能に貫通している。なお、図9において、ケース17を貫通するストッパーピン60の上端部には抜け止めフランジ部61が形成され、貫通下端部には抜け止めナット62がねじ止めされて抜けが防止されている。なお、抜け止めナット62とケース17の下ケース板17Bとの間には、不図示のばねが装着され、フランジ部61がケース17の上面と当接するまでストッパーピン60を下方に付勢している。
【0068】
第2中間ギア23の中心軸部23Aは、ケース17の上下のケース板17Aと17Bとの間に配置され、この中心軸部23Aの外周にギア部23Bが形成されている。また、中心軸部23Aの下端部は、周壁の一部を切り欠いた切り欠き部23Cを有している。この切り欠き部23Cは、ナット係合軸19の開口部20が係合待機位置に向いている時に、軸線L上で、第1中間ギア22側に位置する。
【0069】
ストッパーピン60が挿通される下ケース板17Bのピン孔17Cに連接して、軸線L上で第1中間ギア22側に四角形のキー溝17Dが形成されていて、キー溝17Dは中心軸部23Aの下端部に形成した切り欠き部23Cに臨めるようになっている。
【0070】
ストッパーピン60の軸部の外周部には、キー溝17Dに係合するキー63が抜け止めナット62に隣接して形成されていて、図9に示すストッパーピン60が不図示のばねで下方に付勢されている状態では、キー63の上端は中心軸部23Aの下端とは干渉しない軸方向位置である非係合位置にある。したがって、モータ14によるナット部材の仮締めの際に、第2中間ギア23の回転を阻害することはない。また、キー溝17Dにキー63が係合しているので、ストッパーピン60の軸回りの回転が規制される。
【0071】
これに対し、モータ14を低速回転させ、ナット係合軸19の開口部20を係合待機位置に復帰させる位置出しモードの際に、作業者が抜け止めナット62を上向きに押す。低速回転している第2中間ギア23の切り欠き部23Cがキー63の位置に移動してくると、キー63が切り欠き部23C内に入り込み、ストッパーピン60が上方に移動する。そして、切り欠き部23Cにキー63が係合し、第2中間ギア23の回転が停止し、ナット係合軸19の開口部20が係合待機位置に停止する。
【0072】
本実施形態において、スタートスイッチ35をOFFにすることでモータ14の回転を停止しても良く、またモータ14の通電電流の急激な増大を検知して停止するようにしても良い。
【0073】
また、キー63は、切り欠き部23Cとの係合を容易とするためにテーパ形状としても良い。
【符号の説明】
【0074】
L 軸線
R シャント抵抗
10 トルクレンチ
11 トルクレンチ本体
11a 柄部
12 支軸
13 ヘッド部
14 ブラシレスモータ(モータ)
14a〜14c ホール素子(ホールIC) 14d〜14f 巻線
15 電動駆動装置
15A 電源コード
16 最終段出力軸
17 ケース
17A 上ケース板 17B 下ケース板 17C ピン孔 17D キー溝
18 自動ナット締付機構
19 ナット係合軸
19A 係合部
20 開口部(軸開口部)
20a 上顎部 20b 下顎部
21 入力ギア
22 第1中間ギア
23 第2中間ギア
23A 中心軸部 23B ギア部 23C 切り欠き部
24 左出力ギア
25 右出力ギア
26 先端部
27 ケース開口部
28 一部切欠きギア部
28A 切欠部
30 軸部
31 連結軸
32 ラチェットギア
33 中心軸部
34 始動レバー
35 スタートスイッチ
36 近接センサー
37 係合待機位置復帰スイッチ
50 モータ駆動制御回路
50A 外部出力端子 50B 無線送信器 50C スタート検出回路
51 電源
52 駆動回路部
FET1〜FET6 スイッチング素子 52A スイッチング素子ドライバ
53 制御回路部
53A ランプ制御部 53B 締付け完了入力部 53C 速度設定部 53D 仮締めトルク設定部 53E 位置出しモード検出部 53F セ ンサー信号入力部 53G 完了信号出力制御部 53H 電流検出部 53I 6相PWM出力部 53J ホール素子信号入力位置検出部 53 K スタート指令部 53L 回転停止位置演算部
54 ラインフィルタ
55 ダイオードブリッジ
56 ランプ表示部
56G 回転ランプ 56B 締付表示ランプ 56R 異常ランプ
57 電源ランプ
58 トグル作動スイッチ
59A 速度調整ボリューム
59B 仮締め調整ボリューム
60 ストッパーピン
61 抜け止めフランジ部
62 抜け止めナット
63 キー
65 被検出体



【特許請求の範囲】
【請求項1】
手動操作されるトルクレンチ本体と、
前記トルクレンチ本体に対して揺動可能に連結されると共にトルクリミッターを介して固定されたヘッド部と、
前記ヘッド部に取り付けられた電動駆動装置と、
前記電動駆動装置の駆動制御を行う駆動制御部と、
を有し、前記電動駆動装置の外部出力軸が前記ヘッド部に対して一方向回転機構を介して連結され、前記トルクレンチ本体の手動操作力を前記外部出力軸に伝達可能とする半自動式のトルクレンチにおいて、
前記ヘッド部に固定されると共に、前記外部出力軸の回転駆動力が入力されるナット部材締付機構を有し、
前記ナット部材締付機構は、
先端部が開口するケース開口部を有するケースと、
内径部でナット部材と係合し、周壁の一部分が軸方向に沿って開口する軸開口部が前記ケース開口部と対応して形成され、前記ケースの先端部に回転可能に支持された中空形状のナット係合軸と、
前記ナット係合軸に前記外部出力軸からの駆動力を伝達する歯車伝達手段と、
前記ナット係合軸の軸開口部を検出する開口部検出センサーと、
を有し、
前記駆動制御部は、前記ナット係合軸によるナット部材を設定した仮締付トルク値まで前記電動駆動装置による駆動力で締付、位置出しモード時に、前記ナット係合軸を回転させ、前記開口部検出センサーの検出情報に基づいて前記軸開口部が前記ケース開口部に一致する係合待機位置で前記ナット係合軸の回転を停止させることを特徴とする半自動式のトルクレンチ。
【請求項2】
手動操作されるトルクレンチ本体と、
前記トルクレンチ本体に対して揺動可能に連結されると共にトルクリミッターを介して固定されたヘッド部と、
前記ヘッド部に取り付けられた電動駆動装置と、
前記電動駆動装置の駆動制御を行う駆動制御部と、
を有し、前記電動駆動装置の外部出力軸が前記ヘッド部に対して一方向回転機構を介して連結され、前記トルクレンチ本体の手動操作力を前記外部出力軸に伝達可能とする半自動式のトルクレンチにおいて、
前記ヘッド部に固定されると共に、前記外部出力軸の回転駆動力が入力されるナット部材締付機構を有し、
前記ナット部材締付機構は、
先端部が開口するケース開口部を有するケースと、
内径部でナット部材と係合し、周壁の一部分が軸方向に沿って開口する軸開口部が前記ケース開口部と対応して形成され、前記ケースの先端部に回転可能に支持された中空形状のナット係合軸と、
前記ナット係合軸に前記外部出力軸からの駆動力を伝達する歯車伝達手段と、
前記歯車伝達手段に対して係脱可能に前記ケースに配置され、係合状態で前記軸開口部が前記ケース開口部に一致する係合待機位置で前記ナット係合軸の回転を停止させる回転停止手段と、
を有し、
前記駆動制御部は、前記ナット係合軸によるナット部材を設定した仮締付トルク値まで前記電動駆動装置による駆動力で締付、位置出しモード時に、前記ナット係合軸を回転させ、前記回転停止手段を係合位置に設定することにより前記ナット係合軸を機械的に停止させることを特徴とする半自動式のトルクレンチ。
【請求項3】
前記駆動制御部は、前記位置出しモード時における前記ナット係合軸の回転速度を仮締付時の回転速度より低速としたことを特徴とする請求項1または2に記載の半自動式のトルクレンチ。
【請求項4】
前記ナット係合軸は、パイプをナット部材により被取り付け部に締付る際に、前記ナット係合軸の軸開口部の開口幅を前記パイプの外径よりも大径とし、前記ナット部材の外径よりも小径としたことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の半自動式のトルクレンチ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−206872(P2011−206872A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−75517(P2010−75517)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【出願人】(000151690)株式会社東日製作所 (47)