説明

半透膜支持体、水処理用半透膜、および半透膜支持体の製造方法

【課題】高い巾方向の引張弾性率を有し、かつ、高い巾方向の引裂強度をする半透膜支持体、及びその支持体を使用した水処理用半透膜を提供する。
【解決手段】合成繊維を主成分とし、湿式抄紙後、加熱加圧処理された半透膜支持体であって、半透膜支持体は、繊維配向性の異なる第1層と第2層とが少なくとも積層されて成り、第1層面の抄紙流れ方向に対する繊維配向比は、6.0以下であり、第2層面の抄紙流れ方向に対する繊維配向比は、12.0以下であることを特徴とする半透膜支持体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は半透膜支持体、水処理用半透膜、および半透膜支持体の製造方法に関する。より特定的には、高圧下で使用される半透膜を支持するための半透膜支持体に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、地球規模で水不足が進行しており、海水を淡水化する技術や排水を再利用する技術、半導体用途に用いる純水を製造する技術、食品用途で原料を濃縮する技術に注目が集まっている。海水を淡水化する技術には主に海水を低温蒸発させるフラッシュ方式、常温加圧して淡水を漉し出す逆浸透方式がある。
【0003】
逆浸透方式で用いられる濾過膜は半透膜が使用されるが、半透膜の機能を有する機能膜を単体で用いると機械的圧力に対する耐久性が低いため、不織布の支持体上に固着支持された形態で使用されている。このような半透膜は、膜素材を含む高分子溶液を支持体上に流延し、機能膜を形成することで製造されている。
【0004】
半透膜は、高圧条件下で海水を漉して淡水を得ることから、強度が高く破れにくいことが必要とされ、上述の通り半透膜そのものには強度が十分にないため、支持体に十分な強度が要求されている。
【0005】
逆浸透膜による処理水量を増やすために、最近は、圧力が従来の1MPa〜4MPaから、さらに高圧である4MPa〜10MPaと高圧環境下で使用できる高圧タイプの半透膜支持体が求められている。
【0006】
しかしながら、現在の半透膜支持体を高圧タイプに使用すると、圧力により半透膜および支持体に変形が生じ、半透膜にへこみが生じてしまうため、半透膜支持体の下部にさらに耐圧シートを設置した構造とするなどの方法が採られている。このような構造の半透膜を使用すると、高圧環境下でもへこみを生ずることなく供給水を濾過することができる。一方で、このような構造の半透膜は、耐圧シートが追加されたぶん、半透膜全体の厚みが厚くなってしまう。その結果、このような耐圧シートを備える半透膜は、エレメント内に収納できる当該半透膜の面積が、耐圧シートを備えないものに比べ低下し、水処理量が低下する問題がある。また、このような構造の半透膜は、耐圧シートを半透膜支持体に設置する製造工程が必要であるため、生産性の低下を招いたり、製造コストがアップしたりする問題などがある。このため、耐圧シートを必要とせず、高圧環境下においても、へこみが発生しない程度の強度を有する半透膜支持体が求められている。
【0007】
例えば特許文献1には、5%伸張時の縦方向および横方向の裂断長および通気度が所定範囲内である半透膜支持体が開示されており、特許文献2には巾方向および流れ方向の引張強度比を特定範囲内とした半透膜支持体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10−225630号公報
【特許文献2】特開2002−95937号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながらこれらの半透膜支持体では、十分な強度が得られないため、高圧下においてはへこみが発生し、耐圧シートを必要としているのが実状である。
【0010】
例えば半透膜支持体を円網抄紙機で製造した場合、流れ方向に繊維が並び易くなり、巾方向の引張強度が低く、また流れ方向の引裂強度が低くなるため、高圧条件下に耐えうる十分な強度を有する半透膜支持体は得られない。また、繊維配向性をある程度狭い一定範囲では調整できる短網抄紙機で製造し、繊維の配向性を調整し、半透膜支持体の縦横の強度を均一にした場合は、流れ方向、巾方向の引張強度が均一化され、巾方向の引張強度は向上するが、巾方向の引裂強度の低下に起因する断紙などのトラブルが発生し、連続的に半透膜を製造できない問題があり、また、高圧環境下での使用に耐えうることはできなかった。すなわち、現在、高圧条件下での使用に耐え、かつ連続的な半透膜の製造に耐えうる巾方向の引裂強度を有する半透膜支持体は得られていない。
【0011】
本発明は上記の課題を鑑みて成されたものであり、高圧環境下においてもへこみが発生しない高い巾方向の引張弾性率を有し、かつ、高い巾方向の引裂強度を有し、連続的な半透膜の製造に耐えうる半透膜支持体を提供することを目的とする。さらには、製膜時の塗工液の浸透が高く支持体と半透膜との接着性に優れた、半透膜支持体及びその支持体を使用した水処理用半透膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するため、本願は以下の構成を採用した。すなわち、本発明の第1の局面は、合成繊維を主成分とし、湿式抄紙後、加熱加圧処理された半透膜支持体であって、半透膜支持体は、繊維配向性の異なる第1層と第2層とが少なくとも積層されて成り、第1層面の繊維配向比は、6.0以下であり、第2層面の繊維配向比は、12.0であることを特徴とする半透膜支持体である。
【0013】
第2の局面は、第1の局面において、半透膜支持体は、平均単繊維繊度1.0デシテックス以上のポリエステル主体繊維、および平均単繊維繊度1.0デシテックス未満のポリエステル主体繊維の2種類以上の異なる繊度のポリエステル主体繊維を少なくとも主成分として含有することを特徴とする。
【0014】
第3の局面は、第1乃至2の何れか1つの局面において、半透膜支持体は、第1層および第2層が各々異なる方式の抄紙工程で個別に湿紙として抄紙された後に、当該第1層と第2層が湿潤状態で抄き合わされることにより積層して成ることを特徴とする。
【0015】
第4の局面は、第1乃至3の何れか1つの局面において、第1層は、傾斜短網抄紙機により抄紙され、第2層は、円網抄紙機により抄紙され、傾斜短網抄紙機の抄造速度は20m/分以上、且つ60m/分未満であり、傾斜短網抄紙機が備える短網の傾斜角は5°以上、且つ20°以下であり、傾斜短網抄紙機は、抄造速度をV(m/分)とし、傾斜角をω(度)とした場合に式(1)により得られるパラメータGの値が1.0以上、且つ5.0以下である条件のもとで第1層を抄紙することを特徴とする。
G=V/ω…(1)
【0016】
第5の局面は、第1乃至4の何れか1つの局面に係る半透膜支持体と、半透膜支持体表面に形成された薄膜層とから成る水処理用半透膜である。
【0017】
第6の局面は、半透膜支持体の製造方法であって、繊維配向比が6.0以下である第1層を湿紙として抄紙する第1抄紙工程と、繊維配向比が12.0以下である第2層を湿紙として抄紙する第2抄紙工程と、第1抄紙工程から送出された第1層と、第2抄紙工程から送出された第2層とを、各々湿潤状態のまま抄き合わせて積層させた後、加熱加圧処理を施すことにより半透膜支持体を形成する積層工程とを備える、半透膜支持体の製造方法である。
【0018】
第7の局面は、第6の局面において、第1抄紙工程は、傾斜短網抄紙機によって第1層を抄紙し、第2抄紙工程は、円網抄紙機によって第2層を抄紙し、傾斜短網抄紙機の抄造速度は20m/分以上、且つ60m/分未満であり、傾斜短網抄紙機が備える短網の傾斜角は5°以上、且つ20°以下であり、傾斜短網抄紙機は、抄造速度をV(m/分)とし、傾斜角をω(度)とした場合に式(1)により得られるパラメータGの値が1.0以上、且つ5.0以下である条件のもとで第1層を抄紙することを特徴とする。
G=V/ω…(1)
【発明の効果】
【0019】
第1の局面によれば、繊維配向性が異なった2層を積層することによって、巾方向の引張弾性率および耐久性に優れた半透膜支持体を得ることができる。このような半透膜支持体によれば、高圧環境下においてもへこみが発生しない。また、このような半透膜支持体は、半透膜層との接着性が高く、半透膜層が当該半透膜支持体から剥離し難い。そのため、このような半透膜支持体によれば、連続的な水処理用半透膜の製造および使用に耐用することができる。
【0020】
第2の局面によれば、2種類以上の異なる繊度の素材が組み合わせられることによって適度に繊維間に隙間が生ずる。そのため、製膜時の塗工液の浸透が高くなり、半透膜支持体と半透膜との接着性を従来に比して優れたものとすることができる。
【0021】
第3、6の局面によれば、異なる繊維配向性を有する第1層および第2層を、各々の繊維配向性に応じた好適な方式の抄紙機を用いて製造することができる。第1層と第2層とが湿潤状態で抄し合わされるため、第1層と第2層の層間において緻密層が形成されることがない。したがって、製膜時における膜液の浸透性、通液性に優れた半透膜支持体を得ることができる。
【0022】
第4、7の局面によれば、より確実に第1層の繊維配向角比を所定の値に維持することができる。そのため、より確実に、半透膜支持体の引張弾性や引裂強度を向上させることができる。
【0023】
第5の局面によれば、耐圧シートが不要となり、半透膜支持体を従来に比して薄く形成できるため、半透膜層と半透膜支持体とを合わせた全体の半透膜の厚みを従来に比して薄くすることができる。したがって、例えば、エレメント内に当該半透膜層を重ね合わせて収納する場合、当該エレメント内に収納できる半透膜の総面積を従来に比して大きくすることができる。すなわち、エレメント1個あたりの濾過能力を従来に比して大きくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】水処理用半透膜100の構成の一例を示す断面図
【図2】半透膜支持体1の製造工程のイメージ図
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態に係る半透膜支持体1、およびそれを用いた水処理用半透膜100について説明する。
【0026】
本発明の実施形態に係る水処理用半透膜100は、例えば、海水を淡水化する濾過膜として用いられる。例えば、水処理用半透膜100は、折り曲げ積層した状態で円筒状のエレメントの内部に収納される。以下、水処理用半透膜100をエレメントへ収納可能に折り曲げ等する加工をエレメント加工と称し、当該加工を行う工程をエレメント加工工程と称する。このように構成されたエレメント内に供給水を通過させることによって、当該供給水を浄化した透過液を得ることができる。
【0027】
水処理用半透膜100は、半透膜支持体1を用いて形成する。具体的には、水処理用半透膜100は、半透膜支持体1の表面に半透膜層2(請求の範囲に記載の薄膜層)の原料である膜液を塗布することによって形成される。具体的には、水処理用半透膜100は、図1に示すような層状を構成する。図1は、水処理用半透膜100の構成を示す断面図である。半透膜層2は、供給水からの不純物を除去する機能を有する薄膜層であり、典型的には逆浸透膜層である。なお、半透膜層2の原料および形成方法は、従来周知の任意の材料および手法を用いて良い。例えば、ポリスルホン溶液を半透膜支持体1の表面(第1層11側)に塗布し、凝固させ微多孔膜を形成する。さらに、その表面に多官能アミンを含有する水溶液、および多官能酸ハロゲン化物の有機溶媒溶液を順次塗布することによって、架橋ポリアミドの半透膜層2が形成される。以下では、このように半透膜支持体1に半透膜層2を塗布形成する処理を製膜と称し、当該製膜を行う工程を製膜工程と称する。
【0028】
次いで、半透膜支持体1の構造、組成、および製造方法について詳細に説明する。図1に示すように、本発明の半透膜支持体1は合成繊維から構成された、少なくとも繊維配向性の異なる第1層11と第2層12とを有するシート状の部材である。このように、半透膜支持体1が、2層構造で構成されているため、従来に比して高い巾方向の引張弾性率と引裂強度を得ることが出来、高圧環境下においても、耐圧シートを使用する必要が無くなり、水処理量を大幅に増やすことが出来る。
【0029】
なお、引張弾性率は、半透膜支持体1の伸び変化量に対する荷重変化量の割合を示す値である。以下では、流れ方向(縦方向)、巾方向(横方向)に特に断りのない場合、巾方向の引張弾性率を示すものとする。また、引裂強度は、半透膜支持体1を引き裂くために必要な荷重量を示す。以下では、流れ方向(縦方向)、巾方向(横方向)に特に断りのない場合、巾方向の引裂強度を示すものとする。引張弾性率および引裂強度は、何れも半透膜支持体1の強度を示す指標の1つである。これらの指標の詳細については後述する。
【0030】
<主体繊維>
半透膜支持体1は、主体繊維として合成繊維を主成分とする。半透膜支持体1の製造に用いる合成繊維としては、一般に不織布の製造に用いられるものを使用することができる。具体的には、半透膜支持体1の主成分としては、ポリエステル繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、アクリル繊維、アラミド繊維、ナイロン繊維などの合成繊維を用いることができる。特に、半透膜支持体1の主成分としては、ポリエステル繊維を用いることが好ましい。ポリエステル繊維を主成分とすることにより、耐水性が高く、高い引裂強度を有する半透膜支持体1を得ることができる。この合成繊維の繊維長は抄紙可能であれば特に限定されないが、例えば、繊維長3〜10mm程度であることが好ましい。
【0031】
また、半透膜支持体1の製造においては、平均単繊維繊度が1.0デシテックス以上の合成繊維(α)、および平均単繊維繊度が1.0デシテックス未満の合成繊維(β)の異なる2種類の合成繊維を原料とすることが好ましい。平均単繊維繊度とは、繊維の太さの指標であり、1デシテックスとは10,000mあたりの繊維の重さが1gであるときの繊維太さを意味する。平均単繊維繊度が1.0デシテックス以上の相対的に太い合成繊維(α)と、平均単繊維繊度1.0デシテックス未満の相対的に細い合成繊維(β)とを組み合わせることによって高い引裂強度を持ち、平滑度、通気度に優れた支持体を得ることができる。なお、上述の通り、合成繊維(α)および合成繊維(β)は何れもポリエステル繊維であればなお好ましい。また、合成繊維(α)の平均単繊維繊度は1.0デシテックス以上、7.0デシテックス未満であることが好ましく、1.0デシテックス以上、3.0デシテックス未満であることがより好ましい。また、合成繊維(β)の平均単繊維繊度は0.1デシテックス以上、0.9デシテックス未満であることが好ましく、0.3デシテックス以上、0.7デシテックス未満であることがより好ましい。
【0032】
一方、合成繊維の平均単繊維繊度が1.0デシテックス未満の繊維のみで作成した場合、半透膜支持体中の隙間が減少し、製膜時の膜液の浸透性が低下するため、膜の剥離の原因となる。また、平均単繊維繊度が1.0デシテックス以上の繊維のみで作成した場合、半透膜支持体中の隙間が増加して製膜時の膜液が半透膜支持体1を通過漏出し易くなり、均一な厚みを有する半透膜層2が形成されにくくなる。すなわち、平均単繊維繊度が1.0デシテックス以上の繊維のみで作成した場合、水処理用半透膜の耐用年数が短くなってしまう。このように、単一の合成繊維のみから成る半透膜支持体は、耐用性が低く好ましくないのである。
【0033】
また、平均単繊維繊度が1.0デシテックス以上の太い合成繊維(α)の配合量は、10〜50質量%とすることが好ましい。さらに言えば、平均単繊維繊度が1.0デシテックス以上の太い合成繊維(α)の配合量は、15〜40質量%とすることがさらに好ましい。
【0034】
一方、合成繊維(α)の配合量が10質量%未満である場合、支持体中の隙間が減少し、製膜時の膜液の浸透性が低下するため、半透膜層2の剥離の原因となる。また、合成繊維(α)の配合量が50質量%を超えると、半透膜支持体中の隙間が増加し、製膜時の膜液が通過漏出し易くなる。そのため、均一な厚みを有する半透膜層2が形成され難く、水処理用半透膜の耐用年数が短くなり、好ましくないのである。
【0035】
なお、後述するバインダー繊維は、本発明の主体繊維には含まれない。
【0036】
<バインダー繊維>
半透膜支持体1の原料としては、上記2種類の主体繊維だけでなく、該主体繊維どうしを接着させるためのバインダー繊維をさらに用いることができる。バインダー繊維としては、一般に不織布の製造に用いられるものを使用することができる。例えば、バインダー繊維としては、ポリエステル繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、ポリビニルアルコール繊維などであってバインダー機能を有するものを用いることができる。この中でも、バインダー繊維としては、ポリエステル繊維を用いることが好ましい。バインダー繊維としてポリエステル繊維を用いることによって、接着強度に優れ、高い引裂強度を有する半透膜支持体1を得ることができる。このバインダー繊維の繊維長は抄紙可能であれば特に限定されないが、例えば、繊維長3〜15mm程度であることが好ましい。
【0037】
また、バインダー繊維の平均単繊維繊度は、0.2〜5.0デシテックスであることが好ましい。より好ましくは、バインダー繊維の平均単繊維繊度は、0.2〜2.5デシテックスであることが望ましい。
【0038】
一方、バインダー繊維の平均単繊維繊度が0.2デシテックスを下回る場合、繊維が細くなるだけ、半透膜支持体が密に詰まりやすくなる。そのため、半透膜支持体1の平滑度は向上するものの、当該半透膜支持体1の通気度が悪化して製膜時の膜液の浸透性が低下する。したがって、半透膜層2が半透膜支持体1から剥離し易くなってしまう。加えて、バインダー繊維の平均単繊維繊度が比較的小さい場合、細かい繊維同士が結束して結束繊維(所謂、ダマ)が発生し易くなる。このような結束繊維の発生は、半透膜支持体1の見た目を悪化させるだけでなく、当該結束繊維の周囲においてさらに半透膜との接着性が低下する要因となる。平均単繊維繊度が5.0デシテックスを超過する場合、繊維が太くなるだけ、繊維数が減少して主体繊維どうしを接着させにくくなる。そのため、巾方向の引張弾性率および引裂強度が低下するだけでなく、支持体表面が粗くなり平滑度が低下し易くなってしまう。
【0039】
<分散剤>
上記の主体繊維およびバインダー繊維を水中に分散させるための分散剤としては特に限定されず、従来一般に用いる分散剤を使用することが可能である。例えば、変性ポリエステル系分散剤、非イオン系界面活性剤、陰イオン系界面活性剤、陽イオン系界面活性剤、両性イオン界面活性剤などを使用することができる。特に、変性ポリエステル系の分散剤を半透膜支持体1の製造時に用いると、良好な分散性を得ることができる。すなわち、主体繊維およびバインダー繊維を均一に分散させることができるため、半透膜支持体1の地合いのムラを低減し、高い引張弾性率、引裂強度を得ることができる。
【0040】
なお、分散性が不十分であると、繊維の分散ムラにより局所的に引張弾性率、引裂強度が弱い部分が発生し、引張弾性率、引裂強度が低下し易くなる。特に本発明の半透膜支持体1のように、4MPa〜10MPaと高圧環境下で長期間使用される場合においては、単に引張弾性率、引裂強度が高いのみならず、局所的な地合いムラに起因する長時間使用後の破れを防止する必要がある。このため、半透膜支持体1の製造工程において合成繊維の分散性は重要な要素であり、上述の分散剤の中でも特に、変性ポリエステル系の分散剤を用いることが好ましいのである。
【0041】
分散剤の添加量については主体繊維及びバインダー繊維の合計100質量%に対して、固形分換算で1〜7,000ppmとするのが好ましく、150〜3,000ppmとするのがさらに好ましい。添加量が1ppm未満の場合、合成繊維の分散不良が生じ易く、支持体を製造したときに結束繊維(ダマ)が発生することがある。添加量が7,000ppmを超えると支持体中の隙間が多くなり、製膜時の膜液が通過漏出し易くなり、均一な厚みを有する機能膜が形成されにくくなって、半透膜の耐用年数が短くなることがある。
【0042】
<製造方法>
次いで、半透膜支持体1の製造方法について説明する。図2は、半透膜支持体1の製造工程のイメージ図である。図2に示すように、半透膜支持体1の製造工程は、傾斜短網抄紙機31、円網抄紙機32、抄き合わせ工程33、加熱加圧工程34を備える。
【0043】
<抄紙工程>
傾斜短網抄紙機31は、上述第1層11を抄紙する。傾斜短網抄紙機31は、第1層11を抄紙するための短網ワイヤー311を備える。傾斜短網抄紙機31は、短網ワイヤー311の傾斜角等を変更することによって抄紙した紙の繊維配向性を任意に調整可能であるという特性を有するため、第1層11の繊維配向性を容易且つ任意に調整することができる。また、円網抄紙機32は、上述第2層12を抄紙する。円網抄紙機32は、抄紙した紙の繊維を流れ方向にそろえて配向させる特性を有する。このように、第1層11および第2層12は、異なる方式の抄紙機によって、各々異なる繊維配向性を有するように抄造される。
【0044】
<繊維配向性>
半透膜支持体1を構成する第1層11および第2層12の繊維配向性は、各層を抄造する抄紙機を従来周知の方法で調整することによって調整することができる。
【0045】
例えば、傾斜短網抄紙機31を用いて第1層11を抄造する場合、抄造速度や、短網ワイヤー311の傾斜角などを変更することによって第1層11の繊維配向性を変更することができる。より詳細には、短網ワイヤー311の傾斜角が大きくなるほど、スラリー中の繊維に作用する重力抵抗が増加するため、当該重力抵抗の作用により繊維の向きを流れ方向から巾方向に変更させることができるのである。なお、短網ワイヤー311の傾斜角は水平面を基準として上方へ5〜20度が好ましく、5〜15度がさらに好ましい。
【0046】
なお、傾斜角が0度の場合、繊維が流れ方向に並び易いため巾方向の引張弾性率が低下し、高圧環境下での使用に耐えられないため、好ましくない。また、傾斜角が20度を超える場合、繊維が巾方向に並び易くなり巾方向の引裂強度が低下して巾方向に裂け易くなるため、製膜時やエレメント加工時に断紙が発生するおそれがある。
【0047】
ここで、傾斜短網抄紙機31において、抄造速度が速く、かつ傾斜角が小さいと、短網ワイヤー311上で繊維配向がばらけ難くなるため、第2層12に対する第1層11の配向角が小さくなり、巾方向の引張弾性率が低下し易いため好ましくない。逆に、抄造スピードが遅く、かつ傾斜角が大きいと、短網ワイヤー311上で繊維配向がばらけすぎて支持体の配向角が大きくなり、巾方向の引裂強度が低下し易いため好ましくない。したがって、傾斜短網抄紙機31は、以下の条件を満たして第1層11を抄造することが好ましい。具体的には、傾斜短網抄紙機31の抄造速度は20m/分以上、且つ60m/分未満であることが好ましい。また、傾斜短網抄紙機31が備える短網ワイヤー311の傾斜角は5°以上、且つ20°以下であることが好ましい。さらに、傾斜短網抄紙機31は、抄造速度をV(m/分)とし、短網ワイヤー311の傾斜角をω(度)とした場合に式(1)により得られるパラメータGの値が1.0以上、且つ5.0以下である条件のもとで第1層11を抄造することが好ましい。
G=V/ω …(1)
【0048】
また、長網抄紙機を用いて第1層を抄造する場合、ジェットワイヤー比(原料噴出速度比)を変更することによって、当該第1層11の繊維配向性を調整することができる。
【0049】
後述の加熱加圧処理工程を経て得られた半透膜支持体1において、第1層11側の面の繊維配向比は6.0以下である。また、第2層12側の面の繊維配向比は12.0以下である。
本発明における繊維配向比とは、パルプ繊維の並び方を数値化したものである。なお、繊維配向比は、例えば株式会社東洋精機製作所製の光学式配向性試験機(FOT)によって測定することができる。具体的には、波長が685nmのレーザー光をサンプル台上に固定した紙表面に対して一定の角度で照射し、サンプル台を1度ごと回転させて360度回転させたときの反射強度を測定し、反射強度の最大値と最小値との比率を繊維配向比としている。つまり数値が大きければ繊維が流れ方向に沿って配向しており、数値が小さければ繊維が巾方向に沿っても配向していることを意味する。
【0050】
第1層11の繊維配向比は6.0以下が好ましく、1.0以上4.0以下がさらに好ましい。第1層11の繊維配向比が6.0を上回る場合、繊維の並びが流れ方向に向き易く、巾方向の引張弾性率が大幅に低下して、高圧環境下の使用に耐えられなくなる(後述、表1〜表4中の比較例3参照)。
【0051】
また、第2層12の繊維配向比は12.0以下が好ましく、1.0以上10.0以下がさらに好ましい。第2層12の繊維配向比が12.0を上回る場合、繊維の並びが流れ方向に向き易く、巾方向の引張弾性率が大幅に低下して、高圧環境下の使用に耐えられなくなる。また、第1層11より第2層12の繊維配向比が高い場合、流れ方向と巾方向の繊維が適度に並ぶために流れ方向・巾方向の引張弾性率と引裂強度が適度に強くなるため好ましい。
【0052】
すなわち、第1層11の繊維配向比が6.0以下であり、かつ第2層12の繊維配向角比が12.0以下である上述の半透膜支持体1は、引張弾性率および引裂強度に優れるものであると言える。
【0053】
なお、上述第1層11および第2層12の抄紙方法は、一例であり、上述の通り、異なる繊維配向性を有する第1層11および第2層12を抄造可能であれば、上記に限らず他の手法を用いて良い。例えば、従来不織布の製造に用いる短網抄紙機や、長網抄紙機などの他の周知の抄紙機を用いて第1層11および第2層12を抄造しても構わない。
【0054】
<抄き合わせ工程>
上記のようにして抄造された繊維配向性の異なる第1層11および第2層12は、各々湿潤状態のまま抄き合わせ工程33に搬入され、当該工程において抄き合わせられる。通常、不織布を積層する方法としては、2種の方法がある。第1の方法は、第1層11と第2層12を個別に抄造し乾燥させた後、貼り合わせて加熱加圧処理を行う方法である。第2の方法は、湿式抄紙後の第1層11および第2層12を湿紙状態のまま積層して1枚のシートとして抄き合わせた後に乾燥および加熱加圧処理を行う方法である。ここで、第1の方法を用いた場合、第1層11と第2層12との間に緻密層が形成され易い。そのため、製膜時において半透膜支持体1への膜液の浸透を阻害したり、通液性が低下したりするおそれがある。一方、第2の方法を用いた場合、第1層11と第2層12との間に緻密層が形成され難い。そのため、製膜時において半透膜支持体1への膜液の浸透が阻害されることなく、良好な通液性を得ることができる。このため本発明では、第2の方法、すなわち、湿潤状態で第1層11と第2層12とを積層し、1枚のシートとする方法を用いることが好ましい。
【0055】
このように、図2に示す半透膜支持体1の製造工程によれば、異なる方式の抄紙機により各々抄造された第1層11および第2層12を抄き合わせることで、繊維配向性が大きく異なった2層を積層することができる。繊維配向性が大きく異なった2層を積層すると、巾方向の引張弾性率および耐久性に優れた半透膜支持体1を得ることができるため好ましい(後述、表1〜表4中の実施例1〜23参照)。上述の方法で製造した半透膜支持体1は、流れ方向の引張弾性率に対する巾方向の引張弾性率の比を30〜80%、好ましくは35〜75%であることが好ましい。このような弾性比率を有する半透膜支持体1は、特に巾方向の引張弾性率、引裂強度に優れ、好ましい。上記のような引張弾性率の比を有する半透膜支持体1を得るためには、第1層11の第2層12に対する米坪比率を1.0〜6.5とすると良い。
【0056】
なお、1層のみで、半透膜支持体を製造した場合には以下の問題がある。短網抄紙機のみを用いて1層の半透膜支持体を製造した場合、流れ方向および巾方向の繊維の配向をある程度狭い一定範囲では調整できるものの、巾方向の引裂強度が低下してしまう(後述、表1〜表4中の比較例1参照)。そのため、半透膜支持体を連続生産した場合に断紙が発生し易くなり、高圧環境下においてへこみなどが生じ易くなるという問題がある。また、円網抄紙機のみを用いて1層の半透膜支持体を製造した場合、当該半透膜支持体の繊維配向が流れ方向の一定方向となる。そのため、半透膜支持体として十分な巾方向の引張弾性率や引張強度を得ることができない(後述、表1〜表4中の比較例2参照)。
【0057】
<加熱加圧工程>
上述抄き合わせ工程33において抄き合わされた第1層11および第2層12は、加熱加圧工程34において加熱加圧処理される。加熱加圧工程34では従来周知の任意の加熱加圧処理装置によって、加熱加圧処理実行されるものとして良い。例えば、金属ロールと金属ロールの組み合わせのカレンダー装置や金属ロールと弾性ロールの組み合わせのカレンダー装置などを加熱加圧工程34において使用することが出来る。また、加熱加圧処理装置は、加熱加圧ユニットが1組でも2組以上設置されているものでも使用することが出来る。
【0058】
なお、加熱加圧工程34における加熱加圧時の加熱温度は190℃〜230℃とし、加圧量は線圧100kg/cm〜170kg/cmとすることが好ましい。ここで、加熱加圧処理を第1層11に対して行った場合、半透膜支持体1の巾方向の引張弾性率を向上させることができる。上述の通り第1層11の繊維は、第2層12に比べて繊維が相対的に大きく巾方向に配向しているため、当該第1層11に対して加熱加圧処理を行うことによって、巾方向に配向した繊維を、より多く固着させることが出来る。その結果、半透膜支持体1の巾方向の引張弾性率を向上させることができるのである。また、加熱加圧処理を第2層12に対して行った場合、半透膜支持体1の巾方向の引裂強度を向上させることができる。したがって、第2層12についてもすなわち、半透膜支持体1の両面に加熱加圧処理を行うことがより好ましい。
【0059】
<米坪および米坪比>
上述のごとく、異なる抄紙機を用いて第1層11および第2層12を形成することで、表裏面で繊維配向性が異なる半透膜支持体1を製造することが可能である。これに加え、第1層11および第2層12の米坪を特定割合にすることで、引張弾性率および引裂強度の流れ方向に対する巾方向の比を特定範囲にすることができる。具体的には、第1層11の第2層12に対する米坪比は、1.0〜6.5とすることが好ましく、1.0〜2.0とすることがより好ましい。第1層11および第2層12の米坪を上述の範囲内とすることで、半透膜支持体1の引張弾性率の流れ方向に対する巾方向の比を30〜80%、好ましくは35〜75%とすることができる。すなわち、巾方向の引張弾性率、引裂強度に優れた半透膜支持体1を得ることができる。
【0060】
なお、第1層11と第2層12との米坪比が1.0を下回ると、第1層11と第2層12を合わせて支持体とした際に、流れ方向の引裂強度が低下し易くなる。すなわち、半透膜支持体1の引張弾性率の流れ方向に対する巾方向の比が低下して、半透膜支持体1が流れ方向に裂け易くなるため好ましくない。また、第1層11と第2層12との米坪比が6.5を超過すると、半透膜支持体1の引張弾性率の流れ方向に対する巾方向の比が上昇しすぎて、半透膜支持体1が巾方向に裂け易くなるため好ましくない。
【0061】
なお、半透膜支持体1の全体の米坪は任意としても構わない。また、第1層11および第2層12の米坪も上述の米坪比率を満たしている限り特に限定されず、例えば各層の米坪は10〜100g/m2の範囲内で適宜調整することができる。
【0062】
ただし、米坪を高くするほど半透膜支持体1の引張弾性率や引裂強度が向上するが、コストアップになる。また、米坪を大きくするほど半透膜支持体1の厚みが増すため、エレメント内に収納できる半透膜の面積が低下するため、濾過処理量が低下し易いため好ましくない。ここで、従来の半透膜支持体では米坪を60〜90g/m2とすると、引張弾性率および、引裂強度が低下して、半透膜支持体として使用するためには、耐圧シートが必要となってしまう。一方、本発明に係る半透膜支持体1においては、米坪60〜90g/m2であっても、本発明で規定する所定の引張弾性率、引裂強度などを満足できるため、耐圧シートを要することなく使用可能である。また、上記のように耐圧シートを用いた結果、従来の水処理用浸透膜の厚さは230〜260μm程度となる。一方、本発明に係る半透膜支持体1を用いて製造した水処理用浸透膜100は130〜160μm程度の厚みとすることができる。すなわち、本発明に係る半透膜支持体1によれば、高圧下での使用に際し十分な機能および強度を有する水処理用浸透膜100を従来に比べ薄く形成することが可能である。
【0063】
上記に示した各工程を経て得られた半透膜支持体1は、上述の通り、製膜工程において第1層の表面上に半透膜層2が形成され、水処理用半透膜100が製造される。また、製膜工程において製造された水処理用半透膜100は、エレメント加工工程において加工され、エレメント内に収納される。
【0064】
<性能>
上述した方法により製造した半透膜支持体1は、次の通り、特に従来にない引張弾性率、引張弾性率比(巾/流れ)を有するとともに、以下に示す引裂強度、通気度、および平滑度などを有する。したがって、本発明に係る半透膜支持体1は、高圧環境下においても半透膜にへこみを生じず、連続的な半透膜の製造に耐えることができる。また、本発明に係る半透膜支持体1は、製膜時における塗工液の浸透性、および半透膜支持体1と半透膜層2との接着性について、従来品より優れた性能を発揮する。
【0065】
<引張弾性率>
引張弾性率とは、JIS P 8113に準拠して求めた引張弾性率を言う。引張弾性率は、被検体の伸び変化量に対する荷重変化量の割合である。本発明者らによると、引張強度や、引裂強度、あるいは伸びなどの指標だけでは、高圧下における半透膜支持体1の強度を十分に評価することができないことが判明した。そして、発明者らの試行錯誤の末、引張弾性率が高圧下における半透膜支持体1の強度を評価するに際し適した指標であることが明らかとなった。
【0066】
半透膜支持体1の巾方向の引張弾性率は900MPa以上が好ましく、1,100MPa以上がさらに好ましい。一方、半透膜支持体1の巾方向の引張弾性率が1,000Mpa未満である場合、当該半透膜支持体1が高圧環境下において伸び易く、変形し易いため、長期間の使用に耐えることができない。また、半透膜支持体1の流れ方向の引張弾性率は1,600MPa以上が好ましく、1,700MPa以上がさらに好ましい。一方、半透膜支持体1の流れ方向の引張弾性率が1,600MPa未満である場合、高圧環境下での使用に耐えられない。
【0067】
<引張弾性率比>
引張弾性率比は、流れ方向の引張弾性率に対する巾方向の引張弾性率の大きさを示す値である。半透膜支持体1の引張弾性率比(巾/流れ)は、30〜80%であることが好ましく、35〜75%であることがより好ましい。半透膜支持体1の引張弾性率比が30%未満である場合、流れ方向の引張弾性率を向上させることが可能だが、一方で巾方向の引張弾性率が低下してしまうため、高圧環境下での使用に耐えられない。また、半透膜支持体1の引張弾性率比が80%以上である場合、半透膜支持体1が巾方向に裂け易くなり、製膜時やエレメント加工時に断紙が発生し易くなるため好ましくない。
【0068】
<引裂強度>
半透膜支持体1を引き裂くために必要な荷重量を示す。本発明に示す引裂強度は、JIS P 8116に準拠して測定した引裂強度を言う。支持体の巾方向の引裂強度が1,100mN以上であることが好ましく、1,300mN以上であることがより好ましい。巾方向の引裂強度が1,100mN以下であると巾方向に裂け易くなり、製膜時やエレメント加工時に裂けが発生し、断紙などのトラブルが発生し易くなる。
【0069】
<通気度>
通気度は、半透膜支持体1への気体の通過性を示す値である。本発明においては膜液の浸透性を評価する手段として、通気度を用いる。本発明に示す通気度は、JIS L 1096に準拠して測定された値を言う。すなわち、通気度の数値が大きいほど、半透膜支持体1の通気性(膜液の浸透性)が高いことが示される。半透膜支持体1の通気度は、0.1〜1.0cc/cm2/秒、さらには0.2〜0.8cc/cm2/秒であることが好ましい。このような通気度特性を有する半透膜支持体1は、膜液の浸透性が良好で、且つ裏抜けが発生し難く、水処理用半透膜100の製造に好適である。
【0070】
<平滑度>
平滑度は、半透膜支持体1の表面のなめらかさを示す値である。本発明においては半透膜支持体1に対する半透膜層2の接着性を評価する手段として平滑度を用いる。なお、本発明における平滑度は、JIS P 8119に準拠して測定される値を言う。すなわち、平滑度の数値が小さいほど、半透膜支持体1表面の凹凸が少ないことが示される。半透膜支持体1の第1層11側の面の平滑度は、15〜35秒、さらには20〜30秒であることが好ましい。半透膜支持体1の第1層11側の面がこのような平滑度を有する場合、半透膜層2の接着性が良好となり、半透膜層2が半透膜支持体1から剥離し難くなる。
【0071】
<実験結果>
以下、本発明の具体的な実施例を示す。表1から表4は、各実施例の実施条件、および各実施例において得られた半透膜支持体1の評価結果を示す表である。
【表1】

【表2】

【表3】

【表4】

【0072】
<実施例1>
実施例1においては、原料として、繊度が1.6デシテックスであり繊維長が5mmのポリエステル短繊維(ユニチカ株式会社製 ユニチカエステルN801)(主体繊維としての合成繊維α)24%、繊度が0.6デシテックスで繊維長が5mmのポリエステル短繊維(ユニチカ株式会社製 ユニチカエステル521)(主体繊維としての合成繊維β)39%、繊度が1.2デシテックスで繊維長が5mmのポリエステル未延伸短繊維(ユニチカ株式会社製 84V)(バインダー繊維)37%、および有効成分が変性ポリエステルである分散剤A(竹本油脂株式会社製 MDP−048)を上記主体繊維およびバインダー繊維の合計100質量%に対して、固形分換算で180ppmとなるよう投入した。次いで、上記原料をパルパーにて分散処理した。次いで、短網米坪が41g/m2となるよう傾斜短網抄紙機31を、円網米坪が30g/m2となるよう円網抄紙機32を各々調整し、分散処理された上記原料を用いて湿潤状態の半透膜支持体1の作製を実施した。次いで、得られた湿潤状態の半透膜支持体1を金属ロールと弾性ロールの組み合わせで加熱加圧ユニットが1組のカレンダー装置を使用し加熱加圧処理した。当該加熱加圧処理では、先ず、金属ロールの温度200℃、圧力150kg/cm、速度6m/分とした条件で、金属ロールに接する面が第2層12側、第1層11側の順となるよう両面加工を行った。その後、同様のカレンダー装置にて、金属ロールの温度225℃、圧力150kg/cm、速度6m/分とした条件で、金属ロールに接する面が第1層11側となるよう加工を実施した。
【0073】
上記方法により得られた半透膜支持体の第1層側の表面上に、ポリスルホン15.3%のN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)溶液を200μmの厚みになるよう室温(25℃)でキャストし、ただちに純水に浸漬して5分間放置することにより微多孔性支持膜を作製した。このようにして形成された微多孔性支持膜(厚さ130〜160μm)を、メタフェニレンジアミン3.4重量%水溶液中に2分間浸漬し、次いで垂直方向にゆっくりと引き上げ、エアーノズルからの窒素気流にさらすことによって支持膜表面から余分な溶液を取り除いた。その後、トリメシン酸塩化物0.15重量%を含むn−デカン溶液をその表面が完全に濡れるように塗布して、そのまま1分間保持した。次に該膜から余分な溶液を除去するため、該膜を2分間垂直に保持して液切りした。その後、これを、90℃の熱水で2分間洗浄し、そしてpH7、塩素濃度200mg/lに調整した次亜塩素酸ナトリウム水溶液に2分間浸漬し、次いで亜硫酸水素ナトリウム濃度が1,000mg/lの水溶液に浸漬して、余分な次亜塩素酸ナトリウムを還元除去した。さらに、この膜を95℃の熱水で2分間再洗浄した。こうして得られた複合半透膜を評価したところ、その膜透過流束は1.05m3/m2/d、塩除去率は99.88%であった。
【0074】
<実施例2>
分散剤を有効成分がポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルである分散剤B(丸菱油化工業株式会社製 バルーM−20)に変更し、それ以外は実施例1と同様に半透膜支持体1および水処理用半透膜100の制作を実施した。
【0075】
<実施例3〜4>
分散剤の濃度を表1に記載した通りに変更し、それ以外は実施例1と同様に半透膜支持体1および水処理用半透膜100の制作を実施した。
【0076】
<実施例5〜8、10〜11、13〜18>
原料の繊度、配合比を表1に記載した通りに変更し、それ以外は実施例1と同様に半透膜支持体1および水処理用半透膜100の制作を実施した。
【0077】
<実施例9、12>
原料の主体繊維を合成繊維αまたは合成繊維βのみに変更し、それ以外は実施例1と同様に半透膜支持体1および水処理用半透膜100の制作を実施した。
<実施例19〜23>
傾斜短網抄紙機の傾斜角、抄造速度を表1に記載した通りに変更し、それ以外は実施例1と同様の条件で半透膜支持体1および水処理用半透膜100の制作を実施した。
【0078】
<実施例24〜27>
第1層11および第2層12の米坪を各々表1に記載した通りに変更し、それ以外は実施例1と同様に半透膜支持体1および水処理用半透膜100の制作を実施した。
【0079】
<実施例28>
傾斜短網抄紙機31の傾斜角、第1層11および第2層12の米坪を各々表1に記載した通りに変更し、それ以外は実施例1と同様に半透膜支持体1および水処理用半透膜100の制作を実施した。
【0080】
<比較例1>
円網抄紙機32は使用せず、傾斜短網抄紙機31のみを使用した以外は実施例1と同様に半透膜支持体1および水処理用半透膜100の制作を実施した。
【0081】
<比較例2>
傾斜短網抄紙機31は使用せず、円網抄紙機32のみを使用した以外は実施例1と同様に半透膜支持体1および水処理用半透膜100の制作を実施した。
【0082】
<比較例3〜6>
傾斜短網抄紙機の傾斜角、抄造速度を表1に記載した通りに変更し、それ以外は実施例1と同様の条件で半透膜支持体1および水処理用半透膜100の制作を実施した。
【0083】
<評価方法>
上述の各実施例で得られた半透膜支持体について、以下の評価を行った。なお、以下の評価の結果は、表3および表4において示す。
1)繊維配向角比
東洋精機製作所製光学式配向性試験機にて繊維配向比を測定し、繊維配向比を記載した。
2)引張弾性率
日本工業規格(JIS P 8113)に準拠して測定した。
3)引裂強度
日本工業規格(JIS P 8116)に準拠して測定した。
4)平滑度
日本工業規格(JIS P 8119)に準拠して測定した。
6)通気度
日本工業規格(JIS L 1096)に準拠し、フラジール型通気度試験機を用いて、差圧が127Paとなるように測定した。
8)結束繊維
各実施例に係る抄造後原紙について、30m2の検紙を実施し、6mm2以上の大きさの結束繊維(所謂、ダマ)の発生数を数えた。具体的には、原紙の1m2当たりにおいて6mm2以上の結束繊維の発生数が、0.1個未満であった場合は○を、0.1以上0.5個未満であった場合は△を、0.5個以上であった場合は×を各々表中に示す。
【0084】
上記の評価の結果から、実施例1から24に示した製造条件にて制作された半透膜支持体1については、十分な強度(引張弾性率、引裂強度)を有し、平滑度や通気度についても良好な特性を有することが確認された。具体的には、これらの実施例において得られた半透膜支持体1は、抄紙巾方向(横方向)の引張弾性率が900MPa以上であることが確認された。また、半透膜支持体1の抄紙流れ方向(縦方向)の引張弾性率に対する抄紙巾方向(横方向)の引張弾性率の比は30〜80%であることが確認された。また、半透膜支持体1の抄紙巾方向(横方向)の引裂強度が1,100mN以上であることが確認された。また、半透膜支持体1の第1層11側の面の平滑度が15〜35秒であり、第2層12側の面の平滑度が5〜35秒であることが確認された。また、半透膜支持体1の通気度が0.1〜1.0cc/cm2/秒であることが確認された。
【0085】
これに対して、比較例1〜3および5において得られた半透膜支持体は、抄紙巾方向(横方向)の引張弾性率が900MPa以下であり、十分な強度を有していないものであった。また、比較例1、4、および6において得られた半透膜支持体は、抄紙巾方向(横方向)の引裂強度が1,100mN以下であり、十分な強度を有していないものであった。
【0086】
ここで、比較例1および2による半透膜支持体は、製造条件において2層の構成としていない点が実施例1〜24と異なる。また、比較例3による半透膜支持体は、傾斜角が低い点が実施例1〜24と異なる。また、比較例4による半透膜支持体は、傾斜角が高い点が実施例1〜24と異なる。
【0087】
したがって、上述実施例1〜24に示すような、高圧環境下においても耐用性のある強度特性を有する半透膜支持体1を得るためには、少なくとも繊維配向性の異なる第1層11と第2層12が積層され、光学式配向性試験機(FOT)にて測定した、第1層11面の繊維配向比が6.0以下であり、第2層12面の繊維配向角比が12.0以下とする必要があることが明らかとなった。なお、これらの条件を満たす限りにおいて、本発明に係る半透膜支持体1は、上述の実施例に限定されるものではない。
【0088】
また、実施例5のように、原料であるポリエステル主体繊維(α)の平均単繊維繊度が1.0デシテックス未満である場合、半透膜支持体1として十分な性能は有するものの、通気性が他の実施例に比べてやや低下する傾向が見られた。また、実施例11のように、ポリエステル主体繊維(β)の平均単繊維繊度が1.0以上である場合、半透膜支持体1として十分な性能は有するものの、巾方向の引張弾性率が他の実施例に比べて低下する傾向が見られた。したがって、本発明のさらに好ましい実施形態としては、原料として平均単繊維繊度1.0デシテックス以上のポリエステル主体繊維(α)と、平均単繊維繊度1.0デシテックス未満のポリエステル主体繊維(β)の2種類以上の異なる繊度のポリエステル主体繊維を組み合わせると良いことが明らかとなった。
【0089】
以上のようにして得られた半透膜支持体1によれば、高圧環境下においてもへこみが発生せず、連続的な水処理用半透膜の製造に耐用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明に係る半透膜支持体、水処理用半透膜、および半透膜支持体の製造方法は、高圧環境下での使用に耐えうる半透膜支持体および水処理用半透膜などとして有用である。
【符号の説明】
【0091】
1 半透膜支持体
11 第1層
12 第2層
2 半透膜層
31 傾斜短網抄紙機
311 短網ワイヤー
32 円網抄紙機
33 抄き合わせ工程
34 加熱加圧工程
100 水処理用半透膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成繊維を主成分とし、湿式抄紙後、加熱加圧処理された半透膜支持体であって、
前記半透膜支持体は、繊維配向性の異なる第1層と第2層とが少なくとも積層されて成り、
前記第1層面の繊維配向比は、6.0以下であり、
前記第2層面の繊維配向比は、12.0以下であることを特徴とする半透膜支持体。
【請求項2】
前記合成繊維として、平均単繊維繊度1.0デシテックス以上のポリエステル主体繊維、および平均単繊維繊度1.0デシテックス未満のポリエステル主体繊維の2種類以上の異なる繊度のポリエステル主体繊維を少なくとも前記主成分として含有することを特徴とする、請求項1に記載の半透膜支持体。
【請求項3】
前記半透膜支持体は、前記第1層および第2層が各々異なる方式の抄紙工程で個別に湿紙として抄紙された後に、当該第1層と第2層が湿潤状態で抄き合わされることにより積層して成ることを特徴とする、請求項1乃至2の何れか1つに記載の半透膜支持体。
【請求項4】
前記第1層は、傾斜短網抄紙機により抄紙され、
前記第2層は、円網抄紙機により抄紙され、
前記傾斜短網抄紙機の抄造速度は20m/分以上、且つ60m/分未満であり、
前記傾斜短網抄紙機が備える短網の傾斜角は5°以上、且つ20°以下であり、
前記傾斜短網抄紙機は、前記抄造速度をV(m/分)とし、前記傾斜角をω(度)とした場合に式(1)により得られるパラメータGの値が1.0以上、且つ5.0以下である条件のもとで前記第1層を抄紙することを特徴とする、請求項1乃至3に記載の半透膜支持体。
G=V/ω …(1)
【請求項5】
請求項1〜4の何れか1項に記載の半透膜支持体と、
前記半透膜支持体表面に形成された薄膜層とから成る水処理用半透膜。
【請求項6】
半透膜支持体の製造方法であって、
繊維配向比が6.0以下である第1層を湿紙として抄紙する第1抄紙工程と、
繊維配向比が12.0以下である第2層を湿紙として抄紙する第2抄紙工程と、
前記第1抄紙工程から送出された前記第1層と、前記第2抄紙工程から送出された第2層とを、各々湿潤状態のまま抄き合わせて積層させた後、加熱加圧処理を施すことにより前記半透膜支持体を形成する積層工程とを備える、半透膜支持体の製造方法。
【請求項7】
前記第1抄紙工程は、傾斜短網抄紙機によって前記第1層を抄紙し、
前記第2抄紙工程は、円網抄紙機によって前記第2層を抄紙し、
前記傾斜短網抄紙機の抄造速度は20m/分以上、且つ60m/分未満であり、
前記傾斜短網抄紙機が備える短網の傾斜角は5°以上、且つ20°以下であり、
前記傾斜短網抄紙機は、前記抄造速度をV(m/分)とし、前記傾斜角をω(度)とした場合に式(1)により得られるパラメータGの値が1.0以上、且つ5.0以下である条件のもとで前記第1層を抄紙することを特徴とする、請求項6に記載の半透膜支持体の製造方法。
G=V/ω …(1)

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−161725(P2012−161725A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−22992(P2011−22992)
【出願日】平成23年2月4日(2011.2.4)
【出願人】(390029148)大王製紙株式会社 (2,041)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】