説明

卑金属錯体及び二酸化チタンからなる光水素発生触媒

【課題】貴金属を使用しない水素ガスの製造方法の提供、詳細には、光増感作用を示す固体光触媒である酸化チタンと、触媒部位となる卑金属錯体化合物とを組み合わせた、酸化チタン−卑金属錯体光水素発生触媒を提供すること。
【解決手段】卑金属の錯体と二酸化チタンとを含むことを特徴とする光水素発生触媒。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、卑金属錯体と二酸化チタンとを含みて構成される光水素発生触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境への影響が少ないクリーンエネルギーの開発が積極的に進められている。中でも、燃焼後の副生成物が水だけとなる水素ガスがクリーンなエネルギー源として注目を集めている。しかしながら、水素の製造は今のところ化石燃料を原料とする製造方法が主流であり、より環境負荷の低い水素製造法の開発が望まれている。
また、地球上に無尽蔵に存在するクリーンなエネルギー源として、以前より太陽光エネルギーにも注目が集まっている。そして、この太陽光エネルギーを利用した水素ガス製造技術の開発が進められており、例えばポルフィリン誘導体を利用した光水素発生方法(特許文献1)、アナタース型酸化チタン−白金光触媒(特許文献2)、チタン酸カリウム−ルテニウム光触媒(特許文献3)、ニオブ酸カリウム−酸化ニッケル光触媒(特許文献4)などが提案されている。
【0003】
一方、酸化チタンなどの固体光触媒にビタミンB12化合物を担持させた脱ハロゲン化触媒を利用した有機ハロゲン化物の脱ハロゲン化方法(特許文献5)や、シロキサン結合によりチタニアにビタミンB12化合物を固定化した化合物を用いた光脱ハロゲン化触媒(特許文献6)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平1−238584号公報
【特許文献2】特開2000−157874号公報
【特許文献3】特開2001−276621号公報
【特許文献4】特開2003−126695号公報
【特許文献5】特開2006−191947号公報
【特許文献6】特開2008−222654号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これまで提案された太陽光エネルギーを利用した水素ガス製造技術の多くは、光吸収部位として使用する増感剤や水素を発生させる反応部位に白金等の貴金属触媒を必要とし、水素ガス製造が高コストとなることが課題とされている。
【0006】
本発明は、貴金属を使用しない水素ガスの製造方法の提供を課題とし、詳細には、光増感作用を示す固体光触媒である酸化チタンと、触媒部位となる卑金属錯体化合物とを組み合わせた、酸化チタン−卑金属錯体光水素発生触媒の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、光増感作用を示す固体光触媒である酸化チタンと、触媒部位となる卑金属錯体化合物とを組み合わせることにより、紫外光照射によって水素が発生することを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は、第1観点として、卑金属の錯体と二酸化チタンとを含むことを特徴とする光水素発生触媒に関する。
第2観点として、前記卑金属の錯体が、窒素原子及び/又は酸素原子を配位元素とする
四座配位子を有する錯体である、第1観点に記載の光水素発生触媒に関する。
第3観点として、前記卑金属の錯体が、コバルト錯体又はニッケル錯体である、第1観点又は第2観点に記載の光水素発生触媒に関する。
第4観点として、前記コバルト錯体がビタミンB12化合物である、第3観点に記載の光水素発生触媒に関する。
第5観点として、少なくとも一つのビタミンB12化合物が結合部を介して二酸化チタンに固定化されている、第4観点に記載の光水素発生触媒に関する。
第6観点として、前記四座配位子が式[1]で表される配位子である、第2観点又は第3観点に記載の光水素発生触媒に関する。
【化1】

(式中、R1、R2、R3及びR4は、それぞれ独立して、水素原子、炭素原子数1乃至4のアルキル基又はフェニル基を表す。)
第7観点として、前記四座配位子が式[2]で表される配位子である、第2観点又は第3観点に記載の光水素発生触媒に関する。
【化2】

(式中、R5及びR8は、それぞれ独立して、炭素原子数1乃至4のアルキル基を表し、R6及びR7は、それぞれ独立して、水素原子、炭素原子数1乃至4のアルキル基、並びにR6及びR7が一緒になってカルボキシル基、スルホ基又はホスホン酸基で置換されていても良いベンゼン環を表し、m及びnは0乃至4の整数を表し、m又はnが2以上を表す場合には、同一ベンゼン環内のR5又はR8は各々同一であっても異なっていても良い。)
第8観点として、犠牲還元剤存在下、第1観点乃至第7観点のうち何れか一項に記載の光水素発生触媒に光照射することを特徴とする、水素ガスの発生方法に関する。
第9観点として、前記犠牲還元剤が、アルコール類、糖類、セルロース、アスコルビン酸及びその塩、キチン、キトサン並びにエチレンジアミン四酢酸二ナトリウムからなる群から選ばれる少なくとも1種である、第8観点に記載の水素ガスの発生方法に関する。
第10観点として、前記犠牲還元剤が糖類である、第9観点に記載の水素ガスの発生方法に関する。
第11観点として、前記犠牲還元剤がセルロースである、第9観点に記載の水素ガスの発生方法に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の光水素発生触媒は、白金等の貴金属を使用せず、酸化チタンとコバルトやニッケルなどの金属錯体を用いて製造できるため、水素ガス製造の低コスト化が可能となる。
中でも、ビタミンB12化合物は天然物由来の化合物であるため、それより得られる光発生触媒はより環境負荷の低いグリーンエネルギー材料となる。
また、本発明の光水素発生触媒は、酸化チタンとコバルトやニッケルなどの金属錯体とを、常温、空気下で撹拌するだけで調製できるため、製造が極めて容易である。
そして本発明の水素ガスの発生方法は、白金等の貴金属触媒を用いずとも、アルコール類、糖類、セルロースやエチレンジアミン四酢酸二ナトリウムといった犠牲還元剤の存在下で前記水素発生触媒を光照射するだけで容易に水素を発生させることができ、水素ガス製造の低コスト化を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、実施例11で作製した配位結合型ビタミンB12−アナターゼ型チタニアハイブリッド化合物、並びに、実施例12で作製した配位結合型ビタミンB12−ルチル型チタニアハイブリッド化合物を用いた水素ガス製造における水素ガス発生量を示す図である。
【図2】図2は、犠牲還元剤としてグルコース(実施例13)、スクロース(実施例14)、セルロース(実施例15)及びEDTA(実施例16)を用いた水素ガス製造における水素ガス発生量を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の光水素発生触媒は、卑金属の錯体と二酸化チタンとを含みて構成される。
【0012】
[卑金属の錯体]
ここで“卑金属”とは、貴金属の対義語であり、イオン化傾向が水素より大きい金属を意味する。具体的には、Li、Na、K、Rb、Cs、Mg、Ca、Sr、Ba、Ta、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Zn、Cd、Al、Sn、Pb等の金属が挙げられる。
これら卑金属の錯体の中でも、鉄錯体、コバルト錯体又はニッケル錯体が好ましく、コバルト錯体又はニッケル錯体がより好ましい。
【0013】
前記卑金属の錯体として好ましいものは、窒素原子及び/又は酸素原子を配位元素とする四座配位子を有する錯体である。
上記四座配位子を有する好ましい錯体としては、ビタミンB12化合物、イミン/オキシム型錯体、シッフ塩基型錯体が挙げられる。
なお、これらの錯体は、単座配位子や二座配位子といった他の配位子がさらに配位していても良い。
【0014】
(1)ビタミンB12化合物
ビタミンB12化合物とは、ビタミンB12骨格を有する化合物であり、例えばアルコキシシリル基を有するビタミンB12(シアノコバラミン)が挙げられる。
【0015】
具体的には、ビタミンB12化合物は下記式[3]で表される構造を有するものが挙げられる。
【化3】

式中、R9、R10、R11、R12、R13、R14及びR15は、それぞれ独立して、水素原子
、炭素原子数1乃至20のアルコキシ基又は−NR16−(CH2n−Si(OR173
式中、nは1乃至20の整数を表し、R16は水素原子又は炭素原子数1乃至10のアルキル基を表し、R17は同一又は異なって、炭素原子数1乃至10のアルキル基を表す。)を表し、Xはシアノ基、ヒドロキシ基又はメチル基を表し、YはCo原子に配位している水分子を表す。
【0016】
前記R9乃至R15におけるアルコキシ基としては、例えばメトキシ基、エトキシ基、プ
ロポキシ基、ブトキシ基などの炭素原子数1乃至20のアルコキシ基が挙げられ、好ましくはメトキシ基である。
前記R16は、水素原子又は炭素原子数1乃至10のアルキル基を表し、炭素原子数1乃至10のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基等が挙げられ、好ましいR16は水素原子である。
また前記R17の炭素原子数1乃至10のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基等が挙げられ、好ましくはメチル基である。
【0017】
(2)イミン/オキシム型錯体
イミン/オキシム型錯体としては、下記式[1]で表される配位子を有する錯体が挙げられる。
【化4】

式中、R1、R2、R3及びR4は、それぞれ独立して、水素原子、炭素原子数1乃至4のアルキル基又はフェニル基を表す。
前記R1乃至R4におけるアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、
tert−ブチル基、シクロブチル基等が挙げられ、好ましくはメチル基である。
【0018】
上記イミン/オキシム型錯体の具体例としては、下記式[1−1]及び[1−2]に示すコバルト錯体及びニッケル錯体を挙げることができる。
これら錯体は、例えばR. G. Finke, B. L. Smith, W. A. Mckenna, P. A. Christian, Inorg. Chem., 1981, 20, 687-693.、或いは、P.-A. Jacques, V. Artero, J. Pecaut, M. Fontecave, Proc. Nat. Acad. Sci., 2009, 106, 20627-20632.に記載の方法により製
造することができる。
【化5】

【0019】
(3)シッフ塩基型錯体
シッフ塩基型錯体としては、下記式[2]で表される配位子を有する錯体が挙げられる。
【化6】

式中、R5及びR8は、それぞれ独立して、炭素原子数1乃至4のアルキル基を表し、R6及びR7は、それぞれ独立して、水素原子、炭素原子数1乃至4のアルキル基、並びにR6及びR7が一緒になってカルボキシル基、スルホ基又はホスホン酸基で置換されていても良いベンゼン環を表し、m及びnは0乃至4の整数を表し、m又はnが2以上を表す場合には、同一ベンゼン環内のR5又はR8は各々同一であっても異なっていても良い。
前記R5乃びR8におけるアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、シクロブチル基等が挙げられ、好ましくはtert−ブチル基である。
また、前記R6乃びR7におけるアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、シクロブチル基等が挙げられ、好ましくはR6及びR7が一緒になってベンゼン環を表す。
【0020】
上記シッフ塩基型錯体の具体例としては、下記式[2−1]及び[2−2]に示すコバルト錯体及びニッケル錯体を挙げることができる。
これら錯体は、例えばH. Shimakoshi, S. Hirose, M. Ohba, T. Shiga, H. Okawa, Y. Hisaeda, Bull. Chem. Soc. Jpn., 2005, 78, 1040-1046.、或いは、O. Rotthaus, O. Jarjayes, F. Thomas, C. Philouze, C. P. D. Valle, E. S.aint, J.-L. Pierre, Chem. Eur. J., 2006, 12, 2293-2302.に記載の方法により製造することができる。
【化7】

【0021】
[二酸化チタン]
二酸化チタンとしては、結晶系の異なる、アナターゼ型、ルチル型、アナターゼ・ルチル混合型、ブルッカイト型の酸化チタンなどが用いられるが、これらの中でも還元力の強いアナターゼ型を含むものが望ましい。
このような二酸化チタンとして市販品の粉末状酸化チタンを用いることができ、例えば、「P25」(日本アエロジル(株)製)、「ST−01」(石原産業(株)製)、「ST−21」(石原産業(株)製)、「TKP−101」(テイカ(株)製)、「AKT−600」(テイカ(株)製)、「MT−150A」(テイカ(株)製)、「TP−S201」(住友化学(株)製)などが挙げられるが、これら市販品に限らず通常の酸化チタンのほとんどを使用可能である。
【0022】
[光水素発生触媒]
本発明の光水素発生触媒は、上述の卑金属の錯体と二酸化チタンとを含みて構成され、単に混合することによって得られる。
また、卑金属の錯体がビタミンB12化合物の場合、単に混合して用いる形態よりも、二酸化チタンを配位結合させた配位結合型ビタミンB12−チタニアハイブリッド化合物の形態、或いは、二酸化チタンをシロキサン結合を介してビタミンB12化合物に固定化した共有結合型ビタミンB12−チタニアハイブリッド化合物の形態として用いることが好ましい。これらビタミンB12−チタニアハイブリッド化合物は、安定性が高く、高い触媒回転数を示すことができる。
【0023】
上記配位結合型ビタミンB12−チタニアハイブリッド化合物は、下記2文献:H. Shimakoshi, E. Sakumori, K. Kaneko, Y. Hisaeda, Chem. Lett., 2009, 38, 468-469.、或いは、S. Izumi, H. Shimakoshi, M. Abe, Y. Hisaeda, Dalton Trans., 2010, 39, 3302-3307.に記載の方法にて合成可能である。
また、上記共有結合型ビタミンB12−チタニアハイブリッド化合物は、特開2008−222654号公報に記載の方法により合成可能である。
【0024】
本発明の光水素発生触媒の使用方法は以下の通りである。例えば、本発明の光水素発生触媒、すなわち、卑金属錯体と酸化チタンと、犠牲還元剤(電子供与体:メタノール、エタノールなどのアルコール類、グルコース、スクロースなどの糖類、セルロース、アスコルビン酸及びその塩、キチン、キトサン、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム(EDTA)、硫化物イオン等)とを水性溶液に溶解或いは分散させ、該溶液を紫外線等の光照射をすることにより水素ガスを発生させる。
上記光水素発生触媒が前述の配位結合型ビタミンB12−チタニアハイブリッド化合物或いは共有結合型ビタミンB12−チタニアハイブリッド化合物の場合には、そのまま犠牲還元剤と共に水性溶液に溶解或いは分散させる。
また、本発明の光水素発生触媒をガラス基板又はガラスビーズ等の担体に固定化することで、より取扱いが容易となる。固定化の方法としては、例えば、H. Shimakoshi, M. Abiru, K. Kuroiwa, N. Kimizuka, M. Watanabe, Y. Hisaeda., Bull. Chem. Soc. Jpn., 2010, 83, 170-172.に記載の方法等が挙げられる。
なお、本発明の光水素発生触媒のメカニズムは、触媒中の酸化チタンが紫外線等の光照射により励起され、伝導体に励起された電子が卑金属錯体に移動し、低原子価の卑金属錯体がプロトンと反応して水素が生成するものと推測される。
【実施例】
【0025】
以下、本発明について実施例を挙げて詳述するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。なお、各装置等はそれぞれ以下の機器を使用した。
【0026】
[1]ブラックライト
UV Bench Lamp XX−15BLB[UVP社製]
[2]電子スペクトル(UV−Vis)
日立分光光度計U−3000[(株)日立ハイテクノロジーズ製]
[3]核磁気共鳴スペクトル(1H NMR)
AVANCE 500[ブルカー・バイオスピン(株)製]
[4]ガスクロマトグラフ(GC)
GC−14B[(株)島津製作所製]
[5]質量スペクトル(GC−MS)
GCMS−QP5050AH[(株)島津製作所製]
[6]質量スペクトル(MALDI−TOF−MS)
autoflex[ブルカー・ダルトニクス(株)製]
【0027】
[合成例1]配位結合型ビタミンB12−チタニアハイブリッド化合物の合成
式[A]で表される配位結合型ビタミンB12−チタニアハイブリッド化合物を、アナターゼ/ルチル混合型酸化チタン[日本アエロジル(株)製、P25、アナターゼ:ルチル=74:26]を使用して、文献(H. Shimakoshi, E. Sakumori, K. Kaneko, Y. Hisaeda, Chem. Lett., 2009, 38, 468-469.)に記載の方法で合成した。得られた化合物のMALDI−TOF−MSスペクトル及びUV−Visスペクトルより、目的化合物であることを確認した。
【化8】

【0028】
[合成例2]配位結合型ビタミンB12−アナターゼ型チタニアハイブリッド化合物の合成
式[A]で表される配位結合型ビタミンB12−アナターゼ型チタニアハイブリッド化合物を、アナターゼ型酸化チタン[テイカ(株)製、AMT−600]を使用して、文献(S. Izumi, H. Shimakoshi, M. Abe, Y. Hisaeda, Dalton Trans., 2010, 39, 3302-3307.)に記載の方法で合成した。得られた化合物のMALDI−TOF−MSスペクトル及びUV−Visスペクトルより、目的化合物であることを確認した。
【0029】
[合成例3]配位結合型ビタミンB12−ルチル型チタニアハイブリッド化合物の合成
合成例2において、アナターゼ型酸化チタンに替えてルチル型酸化チタン[テイカ(株)製、TK−1005]を使用して、式[A]で表される配位結合型ビタミンB12−ルチル型チタニアハイブリッド化合物を合成した。得られた化合物のMALDI−TOF−MSスペクトル及びUV−Visスペクトルより、目的化合物であることを確認した。
【0030】
[合成例4]共有結合型ビタミンB12−チタニアハイブリッド化合物の合成
式[B]で表される共有結合型ビタミンB12−チタニアハイブリッド化合物を、アナターゼ/ルチル混合型酸化チタン[日本アエロジル(株)製、P25、アナターゼ:ルチル=74:26]を使用して、文献(公開特許公報2008−222654号)に記載の方法で合成した。得られた化合物のMALDI−TOF−MSスペクトル及びUV−Visスペクトルより、目的化合物であることを確認した。
【化9】

【0031】
[合成例5]ビタミンB12型コバルト錯体の合成
式[C]で表されるビタミンB12型コバルト錯体を、文献(Y. Murakami, Y. Hisaeda,
A. Kajihara, Bull. Chem. Soc. Jpn., 56, 1983, 3642-3646.)に記載の方法で合成し
た。得られた化合物の1H NMRスペクトル、MALDI−TOF−MSスペクトル及
びUV−Visスペクトルより、目的化合物であることを確認した。
【化10】

【0032】
[合成例6]イミン/オキシム型コバルト錯体の合成
式[D]で表されるイミン/オキシム型コバルト錯体を、文献(R. G. Finke, B. L. Smith, W. A. Mckenna, P. A. Christian, Inorg. Chem., 1981, 20, 687-693.)に記載の方法で合成した。得られた化合物の1H NMRスペクトル、MALDI−TOF−MS
スペクトル及びUV−Visスペクトルより、目的化合物であることを確認した。
【化11】

【0033】
[合成例7]シッフ塩基型コバルト錯体の合成
式[E]で表されるシッフ塩基型コバルト錯体を、文献(H. Shimakoshi, S. Hirose, M. Ohba, T. Shiga, H. Okawa, Y. Hisaeda, Bull. Chem. Soc. Jpn., 2005, 78, 1040-1046.)に記載の方法で合成した。得られた化合物のMALDI−TOF−MSスペクトル及びUV−Visスペクトルより、目的化合物であることを確認した。
【化12】

【0034】
[合成例8]イミン/オキシム型ニッケル錯体の合成
式[F]で表されるイミン/オキシム型ニッケル錯体を、文献(P.-A. Jacques, V. Artero, J. Pecaut, M. Fontecave, Proc. Nat. Acad. Sci., 2009, 106, 20627-20632.)
に記載の方法で合成した。得られた化合物の1H NMRスペクトル、MALDI−TO
F−MSスペクトル及びUV−Visスペクトルより、目的化合物であることを確認した。
【化13】

【0035】
[合成例9]シッフ塩基型ニッケル錯体の合成
式[G]で表されるシッフ塩基型ニッケル錯体を、文献(O. Rotthaus, O. Jarjayes, F. Thomas, C. Philouze, C. P. D. Valle, E. S.aint, J.-L. Pierre, Chem. Eur. J., 2006, 12, 2293-2302.)に記載の方法で合成した。得られた化合物の1H NMRスペク
トル、MALDI−TOF−MSスペクトル及びUV−Visスペクトルより、目的化合物であることを確認した。
【化14】

【0036】
[実施例1]EDTAを犠牲還元剤とする配位結合型ビタミンB12−チタニアハイブリッド化合物による光水素発生
合成例1で得られた配位結合型ビタミンB12−チタニアハイブリッド化合物の粉末10mgを6mLの水に懸濁させたところへ、223mg(0.6mmol)のエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム(EDTA)を加えた。この混合物へ窒素ガスを10分間吹き込み、溶存酸素を除いた。次に、この混合物を撹拌しながら、ブラックライトを用い反応セル外表面における紫外光強度1.76mW/cm2で紫外光を5時間照射した。照射後、
ガス相を0.5mLサンプリングし、GC分析により水素ガスの発生量を測定した。なお、水素ガスの発生量は、水素標準ガス[ジーエルサイエンス(株)製、99.99%]を用いた絶対検量線法により求めた。結果を表1に示す。
【0037】
[実施例2]メタノールを犠牲還元剤とする配位結合型ビタミンB12−チタニアハイブリッド化合物による光水素発生
合成例1で得られた配位結合型ビタミンB12−チタニアハイブリッド化合物の粉末10mgを6mLのメタノールに懸濁させた。この混合物へ窒素ガスを10分間吹き込み、溶存酸素を除いた。次に、この混合物を撹拌しながら、ブラックライトを用い反応セル外表面における紫外光強度1.76mW/cm2で紫外光を5時間照射した。照射後、ガス相
を0.5mLサンプリングし、GC分析により水素ガスの発生量を測定した。なお、水素ガスの発生量は、水素標準ガス[ジーエルサイエンス(株)製、99.99%]を用いた絶対検量線法により求めた。結果を表1に併せて示す。
【0038】
[実施例3]EDTAを犠牲還元剤とする共有結合型ビタミンB12−チタニアハイブリッド化合物による光水素発生
実施例1において、配位結合型ビタミンB12−チタニアハイブリッド化合物に替えて、合成例4で得られた共有結合型ビタミンB12−チタニアハイブリッド化合物を使用した以外は同様の操作を行った。結果を表1に併せて示す。
【0039】
[実施例4]メタノールを犠牲還元剤とする共有結合型ビタミンB12−チタニアハイブリッド化合物による光水素発生
実施例2において、配位結合型ビタミンB12−チタニアハイブリッド化合物に替えて、合成例4で得られた共有結合型ビタミンB12−チタニアハイブリッド化合物を使用した以外は同様の操作を行った。結果を表1に併せて示す。
【0040】
[実施例5]EDTAを犠牲還元剤とするビタミンB12型コバルト錯体及びチタニアによる光水素発生
合成例5で得られたビタミンB12型コバルト錯体0.4mg(0.35μmol)及びエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム223mg(0.6mmol)を6mLの水に溶解し、アナターゼ/ルチル混合型酸化チタン粉末[日本アエロジル(株)製、P25、アナターゼ:ルチル=74:26]10mgを加えた。この混合物へ窒素ガスを10分間吹き
込み、溶存酸素を除いた。次に、この混合物を撹拌しながら、ブラックライトを用い反応セル外表面における紫外光強度1.76mW/cm2で紫外光を5時間照射した。照射後
、ガス相を0.5mLサンプリングし、GC分析により水素ガスの発生量を測定した。なお、水素ガスの発生量は、水素標準ガス[ジーエルサイエンス(株)製、99.99%]を用いた絶対検量線法により求めた。結果を表1に併せて示す。
【0041】
[実施例6]メタノールを犠牲還元剤とするビタミンB12型コバルト錯体及びチタニアによる光水素発生
合成例5で得られたビタミンB12型コバルト錯体0.4mg(0.35μmol)を6mLのメタノールに溶解し、アナターゼ/ルチル混合型酸化チタン粉末[日本アエロジル(株)製、P25、アナターゼ:ルチル=74:26]10mgを加えた。この混合物へ窒素ガスを10分間吹き込み、溶存酸素を除いた。次に、この混合物を撹拌しながら、ブラックライトを用い反応セル外表面における紫外光強度1.76mW/cm2で紫外光を
5時間照射した。照射後、ガス相を0.5mLサンプリングし、GC分析により水素ガスの発生量を測定した。なお、水素ガスの発生量は、水素標準ガス[ジーエルサイエンス(株)製、99.99%]を用いた絶対検量線法により求めた。結果を表1に併せて示す。
【0042】
[実施例7]メタノールを犠牲還元剤とするイミン/オキシム型コバルト錯体及びチタニアによる光水素発生
実施例6において、ビタミンB12型コバルト錯体に替えて合成例6で得られたイミン/オキシム型コバルト錯体0.16mg(0.35μmol)を使用した以外は同様の操作を行った。結果を表1に併せて示す。
【0043】
[実施例8]メタノールを犠牲還元剤とするシッフ塩基型コバルト錯体及びチタニアによる光水素発生
実施例6において、ビタミンB12型コバルト錯体に替えて合成例7で得られたシッフ塩基型コバルト錯体0.21mg(0.35μmol)を使用した以外は同様の操作を行った。結果を表1に併せて示す。
【0044】
[実施例9]メタノールを犠牲還元剤とするイミン/オキシム型ニッケル錯体及びチタニアによる光水素発生
実施例6において、ビタミンB12型コバルト錯体に替えて合成例8で得られたイミン/オキシム型ニッケル錯体0.14mg(0.35μmol)を使用した以外は同様の操作を行った。結果を表1に併せて示す。
【0045】
[実施例10]メタノールを犠牲還元剤とするシッフ塩基型ニッケル錯体及びチタニアによる光水素発生
実施例6において、ビタミンB12型コバルト錯体に替えて合成例9で得られたシッフ塩基型ニッケル錯体0.21mg(0.35μmol)を使用した以外は同様の操作を行った。結果を表1に併せて示す。
【0046】
【表1】

【0047】
表1に示すように、何れも光水素発生触媒としての機能を有し、特に実施例7乃至実施例9にて作製した光水素発生触媒は非常に高い触媒能を示した。
また、ビタミンB12化合物を使用した実施例1乃至実施例6の光水素発生触媒においては、ビタミンB12化合物と酸化チタンを配位結合或いは共有結合させたハイブリッド型の触媒である実施例1乃至実施例4の光水素発生触媒が、両者を結合させずに併用した実施例5及び実施例6の光水素発生触媒に比べて、高い触媒能を示した。
【0048】
[実施例11]EDTAを犠牲還元剤とする配位結合型ビタミンB12−アナターゼ型チタニアハイブリッド化合物による光水素発生
合成例2で得られた配位結合型ビタミンB12−アナターゼ型チタニアハイブリッド化合物の粉末10mgを6mLの水に懸濁させたところへ、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム(EDTA)223mg(0.6mmol)を加えた。この混合物へ窒素ガスを10分間吹き込み、溶存酸素を除いた。次に、この混合物を撹拌しながら、ブラックライトを用い反応セル外表面における紫外光強度1.76mW/cm2で紫外光を24時間照射し
た。照射中、一定時間ごとにガス相を0.5mLサンプリングし、GC分析により水素ガスの発生量を測定した。なお、水素ガスの発生量は、水素標準ガス[ジーエルサイエンス(株)製、99.99%]を用いた絶対検量線法により求めた。結果を図1に示す。
【0049】
[実施例12]EDTAを犠牲還元剤とする配位結合型ビタミンB12−ルチル型チタニアハイブリッド化合物による光水素発生
実施例11において、配位結合型ビタミンB12−アナターゼ型チタニアハイブリッド化合物に替えて、合成例3で得られた配位結合型ビタミンB12−ルチル型チタニアハイブリッド化合物を使用した以外は同様の操作を行った。結果を図1に併せて示す。
【0050】
図1に示すように、アナターゼ型の二酸化チタンを用いたハイブリッド化合物(図1中:■)が、ルチル型の二酸化チタンを用いたハイブリッド化合物(図1中:◆)に比べて、より水素ガス発生量が多いとする結果となった。
【0051】
[実施例13]グルコースを犠牲還元剤とする配位結合型ビタミンB12−アナターゼ型チタニアハイブリッド化合物による光水素発生
合成例2で得られた配位結合型ビタミンB12−アナターゼ型チタニアハイブリッド化合物の粉末10mgを6mLの水に懸濁させたところへ、D−(+)グルコース[和光純薬工業(株)製、特級]1.08g(6mmol)を加えた。この混合物へ窒素ガスを10分間吹き込み、溶存酸素を除いた。次に、この混合物を撹拌しながら、ブラックライトを用い反応セル外表面における紫外光強度1.76mW/cm2で紫外光を24時間照射し
た。照射中、一定時間ごとにガス相を0.01mLサンプリングし、GC分析により水素ガスの発生量を測定した。なお、水素ガスの発生量は、水素標準ガス[ジーエルサイエンス(株)製、99.99%]を用いた絶対検量線法により求めた。結果を図2に示す。
【0052】
[実施例14]スクロースを犠牲還元剤とする配位結合型ビタミンB12−アナターゼ型チタニアハイブリッド化合物による光水素発生
実施例13において、D−(+)グルコースに替えて、スクロース[和光純薬工業(株)製、特級]2.05g(6mmol)を使用した以外は同様の操作を行った。結果を図2に併せて示す。
【0053】
[実施例15]セルロースを犠牲還元剤とする配位結合型ビタミンB12−アナターゼ型チタニアハイブリッド化合物による光水素発生
実施例13において、D−(+)グルコースに替えて、セルロース[シグマアルドリッチジャパン(株)製、Avicel(登録商標)PH−101]60mgを使用し、紫外光照射を72時間に変更した以外は同様の操作を行った。結果を図2に併せて示す。
【0054】
[実施例16]EDTAを犠牲還元剤とする配位結合型ビタミンB12−アナターゼ型チタニアハイブリッド化合物による光水素発生
実施例13において、D−(+)グルコースに替えて、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム(EDTA)178mg(0.5mmol)を使用した以外は同様の操作を行った。結果を図2に併せて示す。
【0055】
図2に示すように、本発明の光水素発生触媒は、犠牲還元剤としてグルコース(図2中:◆)、スクロース(図2中:■)などの糖類、並びに実施例12でも使用したEDTA(図2中:▲)のみならず、セルロース(図2中:●)を用いた場合においても水素ガスが発生することが確認された。
このように、本発明においては、セルロースを犠牲還元剤として、クリーンなエネルギー源である水素を直接製造することができる。セルロースのバイオマス資源としての利用は、従来、糖化を経由して製造されるバイオエタノールとしての利用にとどまり、工程数が多くコスト高となることがネックとなっている。本発明を適用することにより、セルロース源として廃資源であるパルプ材料や古紙などを利用したエネルギー(水素ガス)製造が可能となり、太陽光エネルギー利用などと併せて、省資源・省エネルギーに大きく貢献できることが期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
卑金属の錯体と二酸化チタンとを含むことを特徴とする光水素発生触媒。
【請求項2】
前記卑金属の錯体が、窒素原子及び/又は酸素原子を配位元素とする四座配位子を有する錯体である、請求項1に記載の光水素発生触媒。
【請求項3】
前記卑金属の錯体が、コバルト錯体又はニッケル錯体である、請求項1又は請求項2に記載の光水素発生触媒。
【請求項4】
前記コバルト錯体がビタミンB12化合物である、請求項3に記載の光水素発生触媒。
【請求項5】
少なくとも一つのビタミンB12化合物が結合部を介して二酸化チタンに固定化されている、請求項4に記載の光水素発生触媒。
【請求項6】
前記四座配位子が式[1]で表される配位子である、請求項2又は請求項3に記載の光水素発生触媒。
【化1】

(式中、R1、R2、R3及びR4は、それぞれ独立して、水素原子、炭素原子数1乃至4のアルキル基又はフェニル基を表す。)
【請求項7】
前記四座配位子が式[2]で表される配位子である、請求項2又は請求項3に記載の光水素発生触媒。
【化2】

(式中、R5及びR8は、それぞれ独立して、炭素原子数1乃至4のアルキル基を表し、R6及びR7は、それぞれ独立して、水素原子、炭素原子数1乃至4のアルキル基、並びにR6及びR7が一緒になってカルボキシル基、スルホ基又はホスホン酸基で置換されていても良いベンゼン環を表し、m及びnは0乃至4の整数を表し、m又はnが2以上を表す場合には、同一ベンゼン環内のR5又はR8は各々同一であっても異なっていても良い。)
【請求項8】
犠牲還元剤存在下、請求項1乃至請求項7のうち何れか一項に記載の光水素発生触媒に光照射することを特徴とする、水素ガスの発生方法。
【請求項9】
前記犠牲還元剤が、アルコール類、糖類、セルロース、アスコルビン酸及びその塩、キチン、キトサン並びにエチレンジアミン四酢酸二ナトリウムからなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項8に記載の水素ガスの発生方法。
【請求項10】
前記犠牲還元剤が糖類である、請求項9に記載の水素ガスの発生方法。
【請求項11】
前記犠牲還元剤がセルロースである、請求項9に記載の水素ガスの発生方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−24757(P2012−24757A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−139585(P2011−139585)
【出願日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【出願人】(000003986)日産化学工業株式会社 (510)
【Fターム(参考)】