説明

卓球用ラバーの膨潤剤

【課題】ラバーの非有機溶剤系接着剤によるラケットへの接着の妨げとならず、ラバーへの浸透性に優れ、より短い時間でラバーを十分に膨潤、軟化させることができる卓球用ラバーの膨潤剤を提供する。
【解決手段】本発明にかかる卓球用ラバーの膨潤剤は、二塩基酸エステルを主成分とすることを特徴とする。この膨潤剤によれば、ラバーを膨潤、軟化させるために必要な量をラバーに塗布した後、乾くまでに要する時間が、従来の接着補助剤よりも短くなる。また、本発明にかかる膨潤剤が浸透したラバーは、水性接着剤により、ラケットへ接着することができる。なお、水性接着剤としてはクロロプレンゴム系ラテックス、天然ゴム系ラテックス、アクリル樹脂系エマルジョン、ウレタン樹脂系エマルジョン、エチレン・酢酸ビニル共重合樹脂系エマルジョン、酢酸ビニル樹脂系エマルジョンを主成分とするものが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、卓球用ラバーを膨潤、軟化させ、ボールに十分なスピードと回転を与える機能を維持するために用いる卓球用ラバーの膨潤剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
卓球競技者は、通常、ゲームを行うにあたり自己のプレースタイルや作戦に応じて、ラケットのラバーの貼り替えを行っている。そして、その貼り替えに際し、以前から有機溶剤を含む接着剤が使用されている。
【0003】
しかしながら、有機溶剤は、引火点が低く事故を起こす危険性があり、また、人体にも有害である等、取扱上の問題があるため、近年では、有機溶剤を含まない接着剤の使用が提唱されている。ところが、接着剤に含まれる有機溶剤は、ラバーを膨潤、軟化させ、ボールにスピードと回転を与える機能を増加させるという効果がある。つまり、卓球用ラバーに関しては、有機溶剤を含む接着剤を含まないものに替える際、ラバーを膨潤、軟化させる機能も併せて考慮する必要がある。そこで、ラバーを膨潤、軟化させる機能を持たない非有機溶剤系接着剤に、ラバーを膨潤させる機能を備えた膨潤剤(接着補助剤)を併せて用いる接着方法が提案されている。そして、そのような接着方法として、例えば、特開2006―51328号公報には、植物油又は鉱物油を主成分とする接着補助剤を使用した方法が開示されている。この接着補助剤によれば、浸透させたラバーを膨潤、軟化させることができる。また、接着補助剤を浸透させたラバーは、酢酸ビニルを主成分とする接着剤でラケットに接着することができる。
【特許文献1】特開2006―51328号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記接着補助剤は、ラバーへの塗布後、乾くまでに長い時間を必要とした。そのため、膨潤、軟化させたラバーを更にラケットに接着し、完全な接着状態を得るまでの時間を考慮すると、卓球競技者は、試合時のコンディションを見極めることなく、試合前の比較的早い段階でラバーを準備しなければならない、という問題があった。
【0005】
そこで、本発明は、ラバーの非有機溶剤系接着剤によるラケットへの接着の妨げとならず、ラバーへの浸透性に優れ、より短い時間でラバーを十分に膨潤、軟化させることができる卓球用ラバーの膨潤剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明にかかる膨潤剤は、二塩基酸エステルを主成分としている。
【発明の効果】
【0007】
本発明にかかる膨潤剤によれば、ラバーを膨潤、軟化させるために必要な量をラバーに塗布した後、乾くまでに要する時間が、従来の接着補助剤よりも短くなる。また、本発明にかかる膨潤剤が浸透したラバーは、水性接着剤により、ラケットへ接着することができる。
水性接着剤としては、好ましくはクロロプレンゴム系ラテックス、天然ゴム系ラテックス、アクリル樹脂系エマルジョン、ウレタン樹脂系エマルジョン、エチレン・酢酸ビニル共重合樹脂系エマルジョン、酢酸ビニル樹脂系エマルジョンを主成分とするものである。この中でも、特に、ウレタン樹脂系エマルジョンを用いた場合、ラバーとラケットの接着力は、競技を行うには十分でかつ使用後にラバーを剥がす際にはラケット接着面のスポンジがラケットに残らない程度のものとなり、ラケットに張り付いたスポンジの残骸を剥離する作業をなくすことができるという効果も得られる。
【0008】
なお、二塩基酸エステルとしては、所謂環境ホルモンの疑いのあるフタル酸エステルより脂肪族二塩基酸エステルが好ましく、例えば、アジピン酸ジオクチル、アジピン酸ジイソノニル、アジピン酸ジノルマルアルキル、アジピン酸ジアルキル、アゼライン酸ジオクチル、セバシン酸ジブチル、セバシン酸ジオクチルがあげられる。これら二塩基酸エステルは、食品包装用フィルムに添加され、耐寒性付与の効果を与えているものであり、健康に害を及ぼす恐れは非常に少ない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
「実施例1」
4種類の二塩基酸エステル、アセチルクエン酸トリブチル(試料A)、アジピン酸ジイソノニル(試料B)、セバシン酸ジブチル(試料C)、アジピン酸ジオクチル(試料D)を膨潤剤として用い、それらを浸透させたラバーの膨張率の比較を行った。また、高い膨張率を示した3種類の膨潤剤について、それぞれが浸透したラバーを接着したラケットを使用して試し打ちを行い、打球の感触を比較する試験を行った。
【0010】
まず、マークV(製品名、株式会社ヤサカ製)の特厚を、膨潤、軟化させるラバーとし、その接着面となるスポンジ表面に試料A、試料B、試料C及び試料Dを塗布し、乾くまで静置した。この際、塗布したスポンジ表面が新品と同じ触り心地になる状態を乾いた状態と判断した。そして、乾いた状態となった後、2回目の塗布を行い、再び乾いた状態となってから、更に3回目の塗布を行った。3回塗布後の各ラバーの膨張率を表1に示す。
【表1】

この結果、二塩基酸エステルとしてセバシン酸ジブチルを採用すれば高い膨張率を得られることが確認できた。なお、乾くまでの時間については、正確な計測を行わなかったものの、少なくとも試料Cが最も早く乾くことが確認できた。また、その他の試料についても、試料B、試料Dそして試料Aの順に、乾くまでに要する時間が長くなることが確認できた。
【0011】
次に、膨脹効果の高かった、試料B、試料C及び試料Dを3回塗布したラバーを、完全浸透状態とした後ラケットにクロロプレンゴム系ラテックスを主成分とした水性接着剤で接着しラケットの大きさにカットした。そして、試し打ちを行い、打球の感触を確認したところ、次の結果を得ることができた。
【0012】
まず、試料B、試料C及び試料Dを浸透させたラバーによる打球のスピード・スピンは、膨潤剤による差異が感じられず、また、何れのラバーも、有機溶剤を含む接着剤「ガシアンスピードクリーングルー」(製品名:株式会社ヤサカ製)を用いた場合よりは少し劣るものの、特に不満があがる程のレベルでは無く、十分に膨潤の効果が発揮されていることが確認できた。
塗布後の経過時間に対する軟化度合いの変化については、打球の感触についていえば、完全塗布状態直後と一週間後とでは、変化が認められなかった。また、一週間経過後、ラバーをラケットから剥がしたところ、その大きさは、ラケットの大きさに等しかった。すなわち、ラバーは一週間経過後であっても縮まないことが確認できた。
【0013】
「実施例2」
上記実施例1の試料Cと、植物油を主成分とする市販の卓球用接着補助剤(EE2)の、ラバーへの塗布後から乾くまでに要する時間と、塗布後のラバーの大きさと硬度の経時変化を計測し比較する試験を行った。また、それぞれが浸透したラバーを接着したラケットを使用して試し打ちを行い、打球の感触を比較する試験を行った。
【0014】
マークVの特厚の接着面となるスポンジ表面に試料C及びEE2を、上記実施例1と同様に3回塗布し、各塗布後から乾くまでの時間及び塗布後のラバーの大きさと硬度の変化を計測した結果を表2に示す。なお、各試料については、いずれも2グラム/(172mm×172mm)を塗布した。
【表2】

この結果、試料Cが乾くまでに要する時間は、1度塗り及び2度塗りではEE2の約半分、3度塗りではEE2の約4分の1であった。従って、試料Cは、植物油を主成分とする従来の接着補助剤よりも、より短い時間で乾くことが確認できた。また、重ね塗りの回数を重ねると、その度に、乾くまでに要する時間が長くなるものの、膨張率が高くなり、硬度が小さくなることも確認できた。更に、試料Cを塗布したラバーの硬度は、EE2を塗布したラバーの硬度よりも小さくなることも確認できた。
【0015】
3回目の塗布後、乾いた状態となったラバーをラケットに接着し、ラケットの大きさにカットした。なお、試料Cが浸透したラバーのラケットへの接着には、クロロプレンゴム系ラテックスを主成分とした水性接着剤を、EE2が浸透したラバーのラケットへの接着には、酢酸ビニルを主成分とする接着剤を使用した。そして、そのラケットで試し打ちを行い、打球の感触を確認したところ、次の結果を得ることができた。
【0016】
まず、試料Cを浸透させたラバーによる打球のスピード・スピンは、上記「ガシアンスピードクリーングルー」を用いた場合よりは少し劣るものの、特に不満があがる程のレベルでは無く、十分に膨潤の効果が発揮されていることが確認できた。
一方、試料Cを浸透させたラバーと、EE2を浸透させたラバーとでは、その打球のスピード・スピン共に大きな差は感じられなかった。ただし、打球感を比較すると、試料Cを浸透させたラバーの方が柔らかく感じられた。従って、乾くまでに要する時間を考慮すると、試料Cを浸透させたラバーの方が、より優れた膨潤効果を発揮していることが確認できた。
【0017】
「実施例3」
試料Cを4回塗布して浸透させたラバーと、何も塗布していないラバーを、クロロプレンゴム系ラテックスを主成分とした水性接着剤で接着しラケットの大きさにカットした。そして、両ラバーをラケットに完全に接着させた後、試し打ちを行い、打球の感触を確認したところ、次の結果を得ることができた。
【0018】
まず、試料Cを浸透させたラバーの打球感は、何も塗布していないラバーよりも柔らかく、弾性が増していることが確認できた。そして、ラバーが柔らかくなっていることから、食い込み感が増し、球持ちも良く、何も塗布していないラバーよりもスピンをかけやすいことが確認できた。一方、何も塗布していないラバーは、上記「ガシアンスピードクリーングルー」よりもラバーを膨潤、軟化させる機能に劣る「マスターフィックス」(製品名:株式会社ヤサカ製)よりも、更に打球感が硬く弾みも低いことが確認できた。すわなち、クロロプレンゴム系ラテックスを主成分とした水性接着剤は、ラバーを膨潤させる機能を備えていないことが確認できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二塩基酸エステルを主成分とすることを特徴とする卓球用ラバーの膨潤剤。

【公開番号】特開2008−49094(P2008−49094A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−245008(P2006−245008)
【出願日】平成18年9月11日(2006.9.11)
【出願人】(397074220)株式会社ヤサカ (1)
【出願人】(000111384)ノガワケミカル株式会社 (6)