説明

単一細胞の細胞傷害性を査定するための組成物および方法

本発明は、マイクロアレイ中の多数の単一細胞をプロファイリングするためのハイスループットスクリーニング法を用いて、標的細胞とエフェクター細胞との対の間の相互作用を分析する方法を提供する。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、マイクロアレイ中の多数の単一細胞をプロファイリングするためのハイスループットスクリーニング法を用いて、標的細胞とエフェクター細胞との対の間の相互作用を分析する方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
ヒトとヒト免疫不全ウイルス1型(HIV-1)との間の相互作用に関する25年を超える研究にも関わらず、HIV/エイズは、世界中の健康に対する最も流行している脅威のうちの一つであり続けている。現在の推定によると、それは、今後20年で、癌および心血管疾患に次ぐ3番目の世界的な死因になることが示唆されている。感染を防止するワクチン、または疾患を制御するための天然の機序を誘発するワクチンは、未だ開発されていない。既存の分析ツールだけでは、ウイルスに対する効果的な防御免疫を提供する免疫システムの細胞に関連した重大な特徴を解明するのには十分ではない。フローサイトメトリーおよび免疫吸着アッセイ法(ELISpot、ELISA)などの技術は、細胞の集団を評価することができるが、稀少な事象については感度が不十分である。細胞傷害性および増殖などのその他の重要な機能は、現在、バルクでしか測定され得ない。総合すると、これらの限界のために、防御の相関現象を決定するため、十分な明瞭性を持って、HIVに対するヒト免疫応答を評価することは、不可能ではないにしても、困難である。そのため、HIVなどのウイルスに対する防御免疫を分析するための新たな戦略が緊急に必要とされている。
【発明の概要】
【0003】
本発明は、マイクロウェルアレイ中に少なくとも1個のマイクロウェルを備える成形可能(moldable)スラブ上に沈着した、対象由来のエフェクターCD8+細胞および標的細胞の懸濁液を提供する工程であって、該マイクロウェルアレイ中の少なくとも1個のマイクロウェルが単一のエフェクター細胞を有する工程;該CD8+細胞によって標的細胞を溶解させる条件下で、該懸濁液を培養する工程;該エフェクター細胞による該標的細胞の溶解を検出する工程;ならびにCD4+HIV感染細胞を溶解することができるCD8+細胞を同定する工程により、対象におけるCD4+HIV感染細胞を溶解することができるCD8+細胞を同定するための方法を提供する。任意で、標的細胞を溶解するエフェクター細胞は回収される。好ましくは、標的細胞を溶解した回収されたエフェクター細胞は培養される。一つの局面において、エフェクター細胞および標的細胞は、マイクロウェル中に細胞を沈着させる前に混合される。あるいは、エフェクター細胞および標的細胞は、マイクロウェル中に細胞を沈着させた後に混合される。溶解は、標識された細胞の蛍光における変化をモニタリングすることにより検出される。あるいは、溶解は、標的細胞の細胞内カルシウムレベルにおける変化をモニタリングすることにより検出される。カルシウムは、カルシウム感受性蛍光色素により検出される。好ましくは、カルシウム感受性蛍光色素はFura 2AM(Invitrogen)である。
【0004】
一つの局面において、マイクロウェルアレイは、エフェクター細胞の産物を特異的に検出する少なくとも1種の作用物質で前処理されている基板と接触させられ、続いて、作用物質が検出される。作用物質は、抗体、サイトカイン、または溶解の可溶性メディエーターである。好ましくは、サイトカインはTNF-αまたはIFN-γである。任意で、溶解の可溶性メディエーターはグランザイムB(GzB)またはパーフォリンである。本発明の方法は、任意で、CD69によりエフェクター細胞を標識する工程をさらに含む。
【0005】
本発明は、マイクロウェルアレイ中に少なくとも1個のマイクロウェルを備える成形可能スラブ上に沈着した、対象由来のB細胞の懸濁液を提供する工程であって、該対象がHIVに感染しているかまたはHIVに感染していると疑われ、かつ該マイクロウェルアレイ中の少なくとも1個のマイクロウェルが単一細胞を含有する工程;該マイクロウェルアレイを基板と接触させる工程であって、該基板が少なくとも1種のB細胞検出物質で前処理されている工程;および該物質を検出し、それによって抗体応答を特徴付ける工程により、対象における該抗体応答を特徴付けるための方法も提供する。好ましくは、B細胞検出物質は、gp120におけるエピトープに特異的な抗体である。
【0006】
一つの局面において、本発明の方法は、マイクロウェルアレイを、少なくとも1種の第1のB細胞検出物質で前処理されている第2の基板と接触させる工程をさらに含む。任意で、第1のB細胞検出物質は、HIV gp120に対する抗体である。好ましくは、抗体はHIV gp120のC末端に対するものである。一つの局面において、マイクロウェルアレイ中のB細胞により産生された抗体のアイソタイプが判定される。HIVと反応性である抗体を発現するB細胞は、任意で、単離される。別の局面において、抗体の軽鎖可変領域および重鎖可変領域は、単離されかつ増幅される。B細胞は、任意で、細胞における抗体の産生を刺激した作用物質に曝露される。好ましくは、作用物質はCD40Lまたは抗BCR抗体である。別の局面において、B細胞はCD40Lおよび抗BCR抗体に曝露される。
【0007】
本発明は、マイクロウェルアレイ中に少なくとも1個のマイクロウェルを備える成形可能スラブ上に沈着した、対象由来のB細胞の懸濁液を提供する工程であって、該対象がHIVに感染しているかまたはHIVに感染していると疑われ、かつ該マイクロウェルアレイ中の少なくとも1個のマイクロウェルが単一細胞を有する工程;該マイクロウェルアレイを第1の基板と接触させる工程であって、該基板が、該少なくとも1個のマイクロウェル中のB細胞により産生された抗体で前処理されている工程;該基板を第1の標識されたHIVビリオンおよび第2の標識されたHIVビリオンと接触させる工程;ならびに該第1の標識されたビリオンおよび該第2の標識されたビリオンが該マイクロウェル中の同一細胞により産生された抗体に結合するかどうかを判定する工程により、複数のHIV単離物に対するB細胞の交差反応性を特徴付ける方法も提供する。任意で、第1の標識されたビリオンおよび第2の標識されたビリオンに特異的に結合する抗体を産生するB細胞が回収される。一つの局面において、回収されたB細胞は培養される。好ましくは、ビリオンのうちの少なくとも一方が標識される。あるいは、第1のビリオンおよび第2のビリオンは、別個に標識される、即ち、異なる検出可能マーカーにより標識される。
【0008】
本発明は、CTL(CD8+)、NK細胞(CD16+)、NK T細胞(CD1d+、Vα24+)、またはγδT細胞(Vγ9+、Vδ2+)からなる群より選択されるエフェクター細胞の集団を提供する工程であって、マイクロウェルアレイ中に少なくとも1個のマイクロウェルを備える成形可能スラブ上に沈着した該エフェクター細胞が、対象から得られ、該マイクロウェルアレイ中の少なくとも1個のマイクロウェルが単一のエフェクター細胞を有し、エフェクター細胞の該集団が、同族の標的細胞集団とともに同時にロード(co-load)される工程;該エフェクター細胞を可視化する工程;該エフェクター細胞の細胞傷害性を査定する工程;該マイクロウェルアレイを第1の基板と接触させる工程であって、該基板が、IL-2、IL-4、IL-10、TNF-α、およびIFN-γのうちの1種または複数種を特異的に検出する作用物質で前処理されている工程;ならびに該マイクロウェル中の該エフェクター細胞が1種または複数種の該作用物質に結合するかどうかを判定する工程により、対象におけるHIV感染に応答性であるエフェクター細胞についての機能プロファイルを作製する方法も提供する。一つの局面において、細胞傷害性は、カルセインAMの放出を検出することにより査定される。任意で、細胞は、1種または複数種の特異的表面マーカータンパク質について標識される。好ましくは、表面マーカータンパク質は、CD62L、CXCR3、CCR4、またはCCR7である。別の局面において、エフェクター細胞は、1個または複数個のマイクロウェルから回収される。任意で、回収された細胞は、回収された細胞のクローン増幅を得るために培養される。回収された細胞における1種または複数種の遺伝子の発現が、任意で、特徴付けられる。回収される細胞は、好ましくは、CD8+細胞傷害性T細胞(CTL)、ナチュラルキラー(NK)細胞、NK T細胞、またはγδT細胞である。別の局面において、対象は、感染の急性期にあるか、高活性抗レトロウイルス剤療法(highly active antiretroviral therapy)(HAART)対象であるか、またはエリートコントローラー(elite controller)である。
【0009】
本発明は、マイクロウェルアレイ中に少なくとも1個のマイクロウェルを備える成形可能スラブ上に沈着した、対象由来のNK細胞の懸濁液を提供する工程であって、該対象がHIVに感染しているかまたはHIVに感染していると疑われ、かつ該マイクロウェルアレイ中の少なくとも1個のマイクロウェルが、沈着した単一細胞を有する工程;および該マイクロウェルアレイを基板と接触させる工程であって、該基板が少なくとも1種のNK細胞検出物質で前処理されている工程;および該物質を検出し、それによって、該NK細胞を検出し、かつ自然免疫応答を査定する工程により、HIV感染を有する対象における自然免疫応答を査定する方法も提供する。一つの局面において、NK細胞を、NKp46-Cy3、CD107a-Alexa647、および/またはCD69-Alexa488を用いて検出する。NK細胞検出物質はNK細胞を検出する。細胞は、任意で、成形可能スラブ上に沈着させる前に同時培養される。好ましくは、細胞はIL-12およびIL-18と同時培養される。
【0010】
本発明は、マイクロウェルアレイ中に少なくとも1個のマイクロウェルを備える成形可能スラブ上に沈着した、対象由来のNK細胞および標的細胞の懸濁液を提供する工程であって、該マイクロウェルアレイ中の少なくとも1個のマイクロウェルが単一のエフェクター細胞を有する工程;該NK細胞によって該標的細胞を溶解させる条件下で、該懸濁液を培養する工程;エフェクター細胞による標的細胞の溶解を検出する工程;ならびに該エフェクター細胞を同定し、それによって、NK細胞の集団におけるクローン多様性を査定する工程により、該NK細胞の集団におけるクローン多様性を査定する方法も提供する。一つの局面において、標的細胞を溶解するエフェクター細胞が、回収され、かつ任意で培養される。別の局面において、標的細胞を溶解したNK細胞が回収される。任意で、NK細胞および標的細胞は、マイクロウェル中に細胞を沈着させる前に混合される。あるいは、NK細胞および標的細胞は、マイクロウェル中に細胞を沈着させた後に混合される。一つの局面において、標的細胞の溶解は、標識された細胞の蛍光における変化をモニタリングすることにより判定される。さらに別の局面において、標的細胞を溶解したNK細胞が単離され、NK細胞上のキラー細胞免疫グロブリン様受容体(KIR)遺伝子が検出される。マイクロウェルアレイは、任意で、基板と接触させられ、該基板は、NK細胞の産物を特異的に検出することができる少なくとも1種の作用物質で前処理され;かつ作用物質を検出する。作用物質は、抗体、サイトカイン、または溶解の可溶性メディエーターである。好ましくは、サイトカインはTNF-αまたはIFN-γである。
【0011】
本発明は、拡大されたHIV感染CD4+T細胞、活性化されたNK細胞、およびB細胞、ならびに標的細胞を含む細胞の懸濁液を提供する工程であって、該懸濁液が、マイクロウェルアレイ中に少なくとも1個のマイクロウェルを備える成形可能スラブ上に沈着し、かつ該マイクロウェルアレイ中の少なくとも1個のマイクロウェルが単一のT細胞を有する工程;B細胞により産生された抗体をT細胞の表面に結合させる条件下で、細胞を培養する工程;B細胞、NK細胞、および溶解されたT細胞を含有しているウェルを同定する工程;ならびにB細胞またはNK細胞を同定する工程により、NK細胞およびB細胞の集団における多様性を査定する方法も提供する。一つの局面において、NK細胞はIL-2により活性化される。別の局面において、B細胞はCD40Lまたは抗BCRにより活性化される。さらに別の局面において、B細胞はCD40Lおよび抗BCR抗体により活性化される。NK細胞はIL-2により活性化される。B細胞はCD40Lまたは抗BCR抗体により活性化される。任意で、B細胞またはNK細胞はウェルから回収され;B細胞の一つまたは複数の特性が特徴付けられる。別の局面において、B細胞における抗体遺伝子が特徴付けられる。B細胞における抗体をコードする遺伝子のVDJ領域が、任意で、分析される。マイクロウェルアレイは、任意で、B細胞により産生された抗体を基板に付着させる条件下で基板と接触させられる。別の局面において、基板はHIV感染細胞由来の溶解物と接触させられ、HIV溶解物または抗IgG3抗体に結合する抗体を産生するB細胞を有するウェルが同定される。好ましくは、HIV溶解物または抗IgG3抗体に結合する抗体を産生するB細胞を有するウェルが同定される。
【0012】
本発明のその他の特色および利点は、その好ましい態様の以下の説明、および特許請求の範囲から明白になるであろう。他に定義されない限り、本明細書において使用される全ての技術用語および科学用語が、本発明が属する技術分野の当業者により一般的に理解されるのと同一の意味を有する。本明細書に記載されたものに類似しているかまたは等価である方法および材料が、本発明の実施または試行において使用され得るが、適当な方法および材料が以下に記載される。本明細書中に言及された刊行物、特許出願、特許、およびその他の参照は、全て、参照によりその全体が組み入れられる。矛盾する場合には、定義を含む本明細書が適用されるであろう。さらに、材料、方法、および例は、例示に過ぎず、限定することを意図するものではない。
【0013】
本発明のその他の特色および利点は、以下の詳細な説明および特許請求の範囲から明白になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】アッセイ法スキームの例示である。蛍光標識された標的細胞(カルセインにより染色、緑色)およびエフェクター細胞(α-CD8 APCにより染色、ピンク色)が、およそ30μmのマイクロウェルアレイにロード(load)され、蛍光顕微鏡上で画像化される。次いで、マイクロウェルアレイが、捕獲抗体により予め機能付与されたスライドガラスでカバーされ、37℃、5%CO2で、2〜6時間、インキュベートされる。インキュベーション後、分泌されたサイトカインが、特異的な蛍光性抗体を使用して、スライドガラス上で検出され、特異的なエフェクターにより溶解された標的が、蛍光の喪失により画像化される(ウェル1)。標的細胞のみを含有しているマイクロウェル(ウェル2)および標的を溶解することができないエフェクターを含有しているマイクロウェル(ウェル3)においては、標的の蛍光における変化がほとんどないはずである。
【図2】インキュベーション前後(0時間目および4時間目)の標識された標的およびエフェクターの一連の代表的な蛍光画像である。(A)カルセインにより染色された(緑色)、ペプチド(KK10)がロードされた標的(3個の個々の細胞が見られる);(B)α-CD8-APC(ピンク色)により標識されたエフェクター;(C)エフェクター(ピンク色)と、ロードされていない(KK10ペプチドが添加されていない)標的(緑色)とのコインキュベーション;(D)エフェクター(ピンク色)と、KK10ペプチドがロードされた標的(緑色)とのコインキュベーション。標的溶解は、エフェクターが、ペプチドがロードされた標的を認識する場合にのみ起こる(Dに示される)。
【図3】GFP発現NL4-3ウイルスが感染したCD4 T細胞の蛍光画像のパネルである。緑色の細胞は、感染の特徴である。
【図4】HIV特異的CD8+T細胞クローンと、カルセインAMにより標識されたHIVペプチドがロードされたB細胞との同時培養を示す一連の蛍光画像である。CTLにより媒介される溶解は、蛍光シグナルの喪失を特徴とする。
【図5】APCにより標識されたCTL(赤色)およびカルセインAMにより標識されたB細胞(緑色)の同時培養を示す蛍光画像のパネルである。カルセインAM蛍光の消光は、CTL媒介型死滅を表す。
【図6】マイクロウェルのアレイを使用して開発された単一細胞測定の一式を示す模式図である。測定は、連続的にまたは並列に連結される。各画像中に示される正方形は50μmである。
【図7】gp120のCD4結合領域を認識する細胞を同定するための捕獲アッセイ法の模式的な例示である。B細胞の1つのアレイが、(a)固定化されたgp120の表面をプリントするために使用され、次いで、(b)可溶性CD4によるブロッキングの後、固定化されたgp120の第2の表面をプリントするために使用される。
【図8】複数のHIV株に結合するB細胞由来のヒト抗体を同定するための実験設計の模式的な例示である。捕獲された抗体(カラー)の各クラスタは、マイクロウェルの対応するアレイに保持された細胞にマッチするマイクロアレイの一つの要素を表す。
【図9】単一細胞データからの機能プロファイルの構築を示す。細胞の集団が分取され、細胞傷害能、サイトカインプロファイル、および表面マーカーが測定される。そのようなマップは、サブセットの頻度が、感染の過程を通して、どのように変化するかを示す。CD4+T細胞についての類似のプロファイルが、システムの状態についての基準点を提供する。
【図10】マイクロウェルから選択された個々のBリンパ球の縮重RT-PCRの結果を例示するゲルを示す。B細胞が、血液試料から精製され(磁気分取によるPBMCのネガティブ選択)、マイクロウェルへロードされた。12個のマイクロウェルからの細胞がランダムに選択され、溶解緩衝液中に置かれ、重鎖および軽鎖のための縮重プライマーセットを使用したRT-PCRにより増幅された。7つのタンパク質配列が取得された。それらは、ゲルの下に示される。
【発明を実施するための形態】
【0015】
発明の詳細な説明
ヒト免疫不全ウイルス(HIV)が免疫システムを回避するために用いる機序についての徹底的な知識は、効果的なワクチンおよび治療を設計するために不可欠である。未処置の個体についての疾患の進行は、ウイルス複製の持続およびCD4+T細胞の喪失を特徴とする(Kahn JO, Walker BD (1998) Acute human immunodeficiency virus type I infection. N. Engl. J. Med. 339, 33;Hecht FM et al. (2002) Use of laboratory tests and clinical symptoms for identification of primary HIV infection. AIDS 16, 1119)。ウイルス特異的CTLは、持続複製の制御において有意な役割を果たしており、HIV-1特異的CD8+T細胞の初期の出現は、ウイルス量を減少させることが示されている(Altfeld M et al. (2006) HLA Alleles Associated with delayed progression to AIDS contribute strongly to the initial CD8+ T cell response against HIV-I PLoS. Med. 3(10), 1851)。しかしながら、ウイルス複製のこの減少は、大部分の個体(進行者)において一過性である。LTNP(エリートコントローラー)と名付けられた個体の極めて小さなサブセットは、長期間、低いウイルス閾値を維持し、これらの個体において同定されたウイルス特異的CD8+T細胞は、進行者から単離された同一細胞と比較して、より大きな増殖能を有することが示されている(Migueles SA et al. (2002) HIV-specific CD8+ T cell proliferation is coupled to perforin expression and is maintained in nonprogessors Nat. Immun. 3(11), 1061)。
【0016】
本明細書に記載された本発明より以前は、病原体とヒト免疫システムとの間の相互作用の研究には、以下の二つの難題が付きものであった。(1)大部分の臨床試料において入手可能な細胞の数が、しばしば、極めて限定されている。(2)病原体特異的なB細胞またはT細胞などの独特のクローンは稀少である。既存の分析ツールも、同一の個々の細胞に同時に複数の特徴(系列、機能、遺伝子型)を割り当てるのには十分でない。例えば、フローサイトメトリーは、表面に発現された表現型マーカーについて単一細胞の集団を評価するために使用される一般的な技術であるが、ある種の機能的表現型を示すサイトカインプロファイルの分析は、細胞の固定および透過性化を必要とする。生存能のこの喪失は、細胞傷害性などの付加的な機能的特徴が直接査定され得ず、遺伝子分析もしばしば妨害されることを意味する。従って、本明細書に記載された本発明より以前には、特定の感染因子に応答する自然免疫システムおよび適応免疫システム由来の細胞のサブセットにおける微細な不均一性を明白に分解することは可能でなかった。免疫システムの状態の包括的なスナップショットを構築することも困難であった。そのようなプロファイルは、ある種の病原体に対する防御を付与する機序および健常な応答についての診断的指標の同定を改善する。従って、本発明は、特にHIVに関して、ヒト免疫システムと関心対象の病原体との間の相互作用に関する研究を増強するため、系列、機能、および遺伝子型を測定し、多くの個々の細胞にそれらを相関させるための新技術を提供する(Fauci, A.S., Johnston, M.I., Dieffenbach, C.W., Burton, D.R., Hammer, S.M., Hoxie, J.A., Martin, M., Overbaugh, J., Watkins, D.I., Mahmoud, A. and Greene, W.C. Perspective - HIV vaccine research: The way forward. Science 321, 530-532 (2008))。
【0017】
本発明は、ヒト免疫不全ウイルス感染を含む感染に対する対象の免疫応答を特徴付けるための方法および組成物を提供する。マイクロアレイおよびスラブは、PCT/US2006/036282(WO/2007/035633として公開)およびUSSN 61/057,371に記載されたものを含む、当技術分野において公知の方法を使用して構築され得る。これらの出願の両方の内容は、参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。本明細書において使用される場合、「成形可能スラブ」とは、基板に接して置かれた場合に、少なくとも一つの次元で、曲がるか、移動するか、またはゆがむことができる装置をさす。例えば、ある種の配置において、成形可能スラブには、成形可能スラブが基板に接して置かれた場合、実質的に液密性の封が、成形可能スラブと基板との間に形成され、成形可能スラブにおける液体の流出または漏洩が遅延するかまたは防止される材料、例えば、エラストマー材料が含まれ得る。
【0018】
HIV阻害における抗ウイルス性細胞傷害性Tリンパ球(CTL)機能
細胞傷害性CD8+T細胞(CTL)は、急性ウイルス感染のクリアランスおよび持続性のウイルス蓄積の制御において中心的な役割を果たす。SIVが感染したマカクにおけるCD8+リンパ球の枯渇は、ウイルス血症の迅速かつ顕著な増加をもたらす。にも関わらず、慢性HIV-1感染は、多量のHIV特異的CD8+T細胞に関連しているが、ウイルスのクリアランスまたは制御が起こらない。これらのデータは、ウイルス複製を効果的に制御するためには、CD8+T細胞の数のみならず機能が重大であることを示唆している。現在までのところ、HIV特異的CD8+T細胞活性の効力は、ペプチド-HLAクラスI複合体の四量体により細胞を標識することによりHIV特異的CD8+T細胞の頻度を査定することにより、またはこれらのT細胞が抗原刺激時にIFN-γを分泌する能力により、決定されている。しかしながら、最近の研究は、慢性HIV-1感染においては、CD8+T細胞の頻度およびIFN-γ分泌が、ウイルス血症の制御と相関しないことを示している。
【0019】
CTLがHIV複製を抑制する能力は、HIV感染CD4+T細胞および自己バルクCD8+T細胞を同時培養することにより測定される。これらの実験は、個体がHIVを阻害する能力について不均一な結果を示す。最近の結果は、エクスビボのCD8+T細胞応答が、これらの細胞がインビトロでHIV-1複製を阻害する能力と相関しないことを示唆している。むしろ、ウイルスを制御することができるのは、ウイルスに対抗するために十分な量に増殖することができるCD8+T細胞であるが、これらの細胞の表現型、機能的属性、および遺伝学的転写プロファイル(成熟/消耗)は未知である。
【0020】
疾患進行の制御におけるウイルス特異的CD8+T細胞の重要性は、明らかであるようではあるが、その特徴付けおよび単離は難題であった。各々一長一短を有する多様な方法が、これらのCTLを単離するために使用されている。限界希釈アッセイ法は、抗原特異的クローンを単離するために使用され得るが、これらのクローンが組織培養で繁殖する能力に依存する。ELISPOTアッセイ法は、活性化されたCTLが単一のサイトカインを分泌する能力を測定するが、溶解能に関する情報を提供しない。また、低密度のペプチドをロードされたMHC(pMHC)をディスプレイする抗原提示細胞(APC)が、同時にサイトカインを分泌することなく細胞傷害機能を誘発し得ることが以前に証明されている(Valitutti S et al. (1996) Different responses are elicited in cytotoxic T lymphocytes by different levels of T cell receptor occupancy. J. Exp. Med. 183, 1917)。ウイルス感染はクラスI MHCを下方制御するため、この制約は、HIV特異的CTLを単離しようとする際に特に重要である(Mangasarian A et al. (1999) Nef-Induced CD4 and Major Histocompatibility Complex Class I (MHC-I) Down-Regulation Are Governed by Distinct Determinants: N-Terminal Alpha Helix and Proline Repeat of Nef Selectively Regulate MHC-I Trafficking J. Virol. 73(3), 1964)。フローサイトメトリーと連結された、ペプチドをロードされた蛍光標識されたHLAクラスI四量体の染色は、抗原特異的CTLを単離するために使用されるが、やはり、溶解能に関する情報を提供しない。さらに、四量体染色を使用して単離されたCTLはウイルス感染細胞を必ずしも認識するとは限らないことが示されている(Appay V et al. (2000) HIV-specific CD8+ T cells produce antiviral cytokines but are impaired in cytolytic function. J. Exp. Med. 192(1), 63)。カスパーゼ基質を使用したフローサイトメトリー溶解アッセイ法が報告されているが、エフェクター細胞について多数をスクリーニングするためには適さない(Liu L et al. (2002) Visualization and quantification of T cell-mediated cytotoxicity using cell-permeable fluorogenic caspase substrates Nat. Med. 8, 185)。従って、本明細書に記載された本発明より以前には、単一のCTLが単一の感染標的初代細胞を溶解する能力を測定し、それらが分泌するサイトカインおよび細胞傷害性分子を測定する一方で、さらなる機能的特徴付けおよび遺伝子分析のためのクローン株を確立するために生細胞を取得することができる、単一のハイスループット技術は存在しなかった。
【0021】
感染CD4+T細胞を認識し溶解することができるCD8+T細胞の高頻度の保存は、患者がウイルス複製を阻害する能力と直接相関する。細胞溶解性CTLと非細胞溶解性CTLとの間で独特の表現型、機能、および遺伝子発現プロファイルを単一細胞レベルで解明することは、効果的なHIVワクチンの生成のために必要とされる抗ウイルス性CD8+T細胞免疫の相関現象の解明を可能にすると考えられる。本発明は、効果的な抗ウイルス性CD8+T細胞媒介型免疫の免疫学的相関現象および遺伝学的相関現象の決定を可能にすると考えられる、表現型検査および遺伝子分析と組み合わせられた単一細胞CTL死滅アッセイ法を提供する。これらの特徴の単一細胞レベルでの解明は、ウイルス複製を強力に制御することができるCD8+T細胞の拡大を駆動するよう設計された予防接種を通して誘発される原型応答を提供すると考えられる。
【0022】
HIV感染者における抗体多様性
HIVの表面上に発現される主要な受容体はgp120である。それは、感染に必要であり、ある種のT細胞の表面上に提示される受容体CD4に結合する。HIVワクチンのための多くのアプローチが、gp120に対するNAb応答を起こさせることにより感染を阻止しようとしているが、現在までの試みは全て失敗しており、それは、概して、受容体の株間の可変性および宿主内で変異する傾向のためである。しかしながら、ウイルスの多くのバリアントを広く中和するNAbを天然に生成した感染者の例が存在する。血清中の独特の抗体は、量的に限定されており、精製するのが困難であり、対応する遺伝子なしには組換えにより作製され得ないため、これらの抗体の多様性を従来技術によって査定することは困難であった。難題は、bNAbを、それを産生したB細胞のクローン株とマッチさせることである。現在のところ、NAbをコードする遺伝子を同定するための最も成功しているアプローチは、HIV+個体由来の多数の循環B細胞から組換えにより生成された抗体ライブラリーのパニングである(Koefoed, K., Farnaes, L., Wang, M., Svejgaard, A., Burton, D.R. and Ditzel, H.J. Molecular characterization of the circulating anti-HIV-1 gp120-specific B cell repertoire using antibody phage display libraries generated from pre-selected HIV-1 gp120 binding PBLs. J Immunol Methods 297, 187-201 (2005))。しかしながら、これらのアプローチは、その過程によって重鎖および軽鎖の独特のクローン性の組み合わせがスクランブルされるため、個体の天然のレパートリーを曖昧にする。下記実施例に記載される通り、二つの問題が克服されると考えられる:(1)個体におけるbNAb産生B細胞間のクローン多様性;および(2)多様な一次単離物に結合するbNAbの特徴。
【0023】
HIVに対する細胞性免疫応答
HIVワクチンへの期待は、天然に疾患の進行を著しく制御する者、いわゆる「エリートコントローラー」、および予防接種によりサル免疫不全ウイルス(SIV)から防御された非ヒト霊長類にあるが、これらの症例における防御と相関する重大な因子は未だ不明である(Saez-Cirion, A., Pancino, G., Sinet, M., Venet, A., Lambotte, O. and Gr, A.E.H.C.S. HIV controllers: how do they tame the virus? Trends Immunol 28, 532-540 (2007);Deeks, S.G. and Walker, B.D. Human immunodeficiency virus controllers: Mechanisms of durable virus control in the absence of antiretroviral therapy. Immunity 27, 406-416 (2007);Koff, W.C., Johnson, P.R., Watkins, D.I., Burton, D.R., Lifson, J.D., Hasenkrug, K.J., McDermott, A.B., Schultz, A., Zamb, T.J., Boyle, R. and Desrosiers, R.C. HIV vaccine design: insights from live attenuated SIV vaccines. Nat Immunol 7, 19-23 (2006))。適応免疫応答は、多くの注目を集めているが、自然免疫システムに関する最近の研究は、適応応答を形作るためのその重要性を強調した(Pulendran, B. and Ahmed, R. Translating innate immunity into immunological memory: Implications for vaccine development. Cell 124, 849-863 (2006))。免疫細胞がどの程度効果的に感染細胞を排除することができるかをモニタリングするための既存のアッセイ法は、それらの機能的挙動の不均一性を特徴付けるのには十分でない(Fauci, A. S., Johnston, M.I., Dieffenbach, C. W., Burton, D.R., Hammer, S. M., Hoxie, J.A., Martin, M., Overbaugh, J., Watkins, D.I., Mahmoud, A. and Greene, W.C. Perspective - HIV vaccine research: The way forward. Science 321, 530-532 (2008);Walker, B.D. and Burton, D.R. Toward an AIDS vaccine. Science 320, 760-764 (2008))。本発明は、異なる患者群、例えば、急性感染、慢性進行者、高活性抗レトロウイルス剤療法(HAART)患者、およびエリートコントローラー由来のエフェクター細胞のサブセットを分析するため、複数の免疫機能を特徴付けし、異なる系列の個々の細胞にそれらを相関させるための方法を提供する。本明細書に記載される通り、定量的細胞分析は、ウイルス複製を制御するために必要な機能の特定の組み合わせを有する細胞を強調する。
【0024】
自然免疫応答は、ウイルス感染からの防御の別のアームを提供する。NK細胞が、この応答の中心構成要素である(Alter, G., Teigen, N., Ahern, R., Streeck, H., Meier, A., Rosenberg, E.S. and Altfeld, M. Evolution of innate and adaptive effector cell functions during acute HIV-1 infection. J Infect Dis 195, 1452-1460 (2007))。これらの細胞は、IFNγ、MIP-1β、TNF-α、およびGM-CSFなどのサイトカインの放出を通して適応免疫応答も誘導する細胞傷害性エフェクター細胞である。HIV-1感染に関して、強力な疫学データは、特定のNK細胞受容体(キラー免疫グロブリン受容体-3DS1(KIR3DS1)およびKIR3DL1のいくつかの対立遺伝子)とその推定リガンド(80位にイソロイシンを有するHLA-B対立遺伝子)との両方を保有する個体が、これらの対立遺伝子を一方しか有しないかまたは全く有しない個体より遅くエイズへと進行することを証明した(Martin, M.P., Qi, Y., Gao, X.J., Yamada, E., Martin, J.N., Pereyra, F., Colombo, S., Brown, E.E., Shupert, W.L., Phair, J., Goedert, J.J., Buchbinder, S., Kirk, G.D., Telenti, A., Connors, M., O'Brien, S.J., Walker, B.D., Parham, P., Deeks, S. G., McVicar, D. W. and Carrington, M. Innate partnership of HLA-B and KIR3DL1 subtypes against HIV-1. Nat Genet 39, 733-740 (2007))。同様に、NK細胞活性の上昇およびバルクNK細胞におけるKIR3DS1転写物の発現の増加は、反復的な曝露にも関わらず、感染からの防御と相関している(Alter, G., Martin, M.P., Teigen, N., Carr, W.H., Suscovich, T.J., Schneidewind, A., Streeck, H., Waring, M., Meier, A., Brander, C., Lifson, J.D., Allen, T.M., Carrington, M. and Altfeld, M. Differential natural killer cell-mediated inhibition of HIV-1 replication based on distinct KIR/HLA subtypes. The Journal of experimental medicine 204, 3027-3036 (2007);Long, B.R., Ndhlovu, L.C., Oksenberg, J.R., Lanier, L.L., Hecht, F.M., Nixon, D.F. and Barbour, J.D. Conferral of enhanced natural killer cell function by KIR3DS1 in early human immunodeficiency virus type 1 infection. J Virol 82, 4785-4792 (2008))。これらのデータは、特定のNK細胞集団が、感染の防止および制御の両方において防御的な役割を果たすことを示唆しているが、これらの細胞の正確な表現型は不明のままである。
【0025】
HIV感染細胞を排除するためにNK細胞が使用する一つの機序は、細胞間接触による直接の細胞溶解である。NK細胞の表面上に発現されたKIRのいくつかの型は、標的細胞の表面上に発現されたHLAクラスIに連結された場合に、細胞溶解機能を抑制する阻害シグナルを細胞に提供する(Moretta, A., Bottino, C, Mingari, M.C., Biassoni, R. and Moretta, L. What is a natural killer cell? Nat Immunol 3, 6-8 (2002))。これらの相互作用の非存在下で、NK細胞は標的細胞を活性化し溶解する。HIV感染細胞は、しばしば、HLA-AおよびHLA-Bの対立遺伝子の発現を下方制御し、それによって、活性化されたNK細胞による細胞溶解に対してより感受性になる(Fogli, M., Mavilio, D., Brunetta, E., Varchetta, S., Ata, K., Roby, G., Kovacs, C, Follmann, D., Pende, D., Ward, J., Barker, E., Marcenaro, E., Moretta, A. and Fauci, A.S. Lysis of endogenously infected CD4+ T cell blasts by rIL-2 activated autologous natural killer cells from HIV-infected viremic individuals. Plos Pathogens 4, 1-13 (2008))。CD16(Fcγ受容体III)を発現するNK細胞のサブセットがHIV感染細胞を破壊する第2の機序は、ADCCである(Cooper, M.A., Fehniger, T.A. and Caligiuri, M.A. The biology of human natural killer-cell subsets. Trends Immunol 22, 633-640 (2001))。これらの受容体は、感染細胞の表面上の標的に結合した抗体のFc領域に結合し、NK細胞による溶解を活性化する。この防御機序は、B細胞により媒介される体液性免疫応答と、NK細胞の自然応答との間の協調を必要とする。この応答は、可能性として、HIV感染の進行の遅延にとって重要であり、いくつかの場合、静脈注射薬使用者のHIV-1からの防御、およびマカクのSIVからの防御にとって重要である(Stratov, I., Chung, A. and Kent, S.J. Robust NK cell-mediated human immunodeficiency virus (HIV)-specific antibody-dependent responses in HIV-infected subjects. J Virol 82, 5450-5459 (2008))。しかしながら、本明細書に記載された本発明より以前には、ADCCを測定するための定量的アッセイ法が存在しなかったため、この機序の調査は限定されていた。
【0026】
以下の非限定的な実施例において、本発明をさらに例示する。
【実施例】
【0027】
実施例1 単一細胞の細胞溶解活性を査定するためのハイスループットアッセイ法の開発
研究は、ピコリットルのマイクロウェル(各マイクロアレイおよそ2×105個、各ウェルおよそ30μm直径)に単一細胞をロードすることにより、多数の初代細胞を機能的に特徴付けるためのハイスループットアッセイ法を以前に記載した(Bradshaw EM et al. (2008) Concurrent detection of secreted products from human lymphocytes by microengraving: cytokines and antigen-reactive antibodies. Clin. Immunol. 129(1), 10;Love JC et al. (2006) A microengraving method for rapid selection of single cells producing antigen-specific antibodies. Nat. Biotech. 24(6), 703)。ロードされたマイクロウェルは、適切な試薬(例えば、ポリリジンスライドへコーティングされた抗IL-2捕獲抗体)により予め機能付与されたスライドガラスと物理的に接触するよう保持され、分泌されたサイトカインを捕獲するために2時間インキュベートされる。次いで、それらを分泌した細胞へマッピングされ得るスライド上の蛍光スポットを明らかにするために、スライドは処理され、適切な検出抗体によりタグ付けされる。続いて、細胞を、クローン拡大のため、ロボットマイクロマニピュレーターを用いて取得し得る。
【0028】
本発明は、細胞間の相互作用を研究するためのマイクロウェルのアレイの適用を提供する。具体的には、本発明は、活性化マーカー/分泌された可溶性メディエーターを同時にプロファイリングしながら、単一のCTLによる感染標的細胞の死滅をモニタリングする能力を提供する。このアッセイ法システムの別の利点は、結果が得られる(またはアッセイ法が完了する)までのスピードである。例えば、24時間未満、12時間未満、または10時間未満で、結果が得られる(またはアッセイ法が完了する)。例えば、4時間未満で、結果が得られる(またはアッセイ法が完了する)。
【0029】
マイクロアレイスタンプの製作
マイクロウェルアレイは、フォトリソグラフィ(photolithography)およびレプリカモールディング(replica molding)を使用して、ポリジメチルシロキサン(PDMS)で製作される。ウェルの深さおよびサイズは、好ましくは、100μm未満、例えば、50μm未満である。ウェルの深さおよびサイズは、熟練者により指示される通り、およそ30μmに設定される。O2プラズマ処理が、マイクロアレイを滅菌し、かつ親水性にするために使用される。プラズマ処理されたアレイは、その後の使用のため、親水性の特徴を保つために、PBS-BSAに浸漬される。
【0030】
細胞ストック
HIV感染CD4細胞および自己CD8細胞の両方が、下記の方法において使用される。下記の方法において用いられるものには、進行者、LTNP、およびHIV陰性個体由来のPBMCも含まれる。さらに、HLA-B27拘束性のHIV gagペプチド(KK10)を特異的に認識する単離されたCTLクローンが、アッセイ法の妥当性を確立し、実験条件を改良するための陽性対照として役立つ。
【0031】
アッセイ法開発
標的特異的CTLの単離のための頑強なプロトコルを設計するため、前述のKK10特異的クローン(エフェクター)がエフェクターとして使用され、HLA B27を発現するEBVにより形質転換されたB細胞が標的として使用される。アッセイ法の一般的な概要を例示する模式図は、図1に示される。ペプチドをロードされたB細胞(標的)は、細胞内のエステラーゼおよびリパーゼのための非特異的な蛍光性基質カルセインAM(Invitrogen, Carlsabad, CA)を用いて染色され、細胞完全性のマーカーとして役立つ。図2Aに示される通り、死滅アッセイ法(4時間)の期間中、エフェクター細胞の非存在下で、完全な無傷の細胞は蛍光性のままである。
【0032】
長時間のインキュベーションによる消光/フルオロフォア分解による標的蛍光の減少の可能性もあるため、標的はSytox Red(Invitrogen, Carlsabad, CA)を用いて標識される。膜不透過性色素のSytoxファミリーは、核酸にインターカレートする時、蛍光強度の高い増加(>500倍)を示し、従って、膜が傷付いた溶解された細胞についての特異的なマーカーとして使用され得る。Sytox色素およびカルセイン色素は、直交的に細胞を標識するため、これらは、蛍光顕微鏡の独立したチャンネルにおける蛍光の増減を追跡することにより、標的溶解の動力学をモニタリングするために同時に使用され得る。
【0033】
エフェクターは、蛍光性抗CD8抗体(APC/Alexa647/Pacific Blue)により標識される。アッセイ条件(4時間、37℃)下で最も再現性のあるシグナルおよび最小の消光/分解を示す色素が使用されると考えられる。α-CD8-APCにより標識されたエフェクターは、図2Bに示される。
【0034】
以前の報告(Bradshaw EM et al. (2008) Concurrent detection of secreted products from human lymphocytes by microengraving: cytokines and antigen-reactive antibodies. Clin. Immunol. 129(1), 10;Love JC et al. (2006) A microengraving method for rapid selection of single cells producing antigen-specific antibodies. Nat. Biotech. 24(6), 703)および予備実験(図2Aおよび2B)の両方が、マイクロウェルに封入された場合に、細胞がアポトーシスを受けないことを確認した。明確な比率の標的およびエフェクターをマイクロウェルアレイにロードするための最適の手段を、次に決定した。二つの異なるアプローチ、ローディング前に培地中で標的およびエフェクターを予備混合するか、またはエフェクターおよび標的を連続的にロードするかを評価した。まずエフェクターをロードし、続いて標的をロードする連続的なローディングが、マイクロウェル中のエフェクター:標的比の操作のより良好な制御を与えたため、これを標準的なアプローチとして採用した。アッセイ法の実現可能性を探求するため、ロードされていない標的(ペプチドが結合してない標的、陰性対照)およびKK10がロードされた標的(陽性対照)を、エフェクターと共にインキュベートした。エフェクター上のT細胞受容体(TCR)は、標的上のpMHCのみを認識することができるため、ペプチドの非存在下では溶解が観察されなかった(図2C)。標的にKK10ペプチドを予めロードし、エフェクターと共にインキュベートした場合には、緑色蛍光の喪失により証明される通り、標的の溶解が観察された(図2D)。図2に示されるデータは、単一のマイクロウェルからの代表的なデータである。単一のエフェクターと共にインキュベートされた単一の標的を有していたマイクロウェルの頻度を推定し、標的を特異的に溶解したエフェクターのサブセットの頻度を決定するためには、作製された蛍光画像(二つの異なるチャンネル)および位相差画像(透過光、第3のチャンネル)の自動分析が不可欠である。上記の通りの標的およびエフェクタークローンを使用した対照を含む実験について、少数の細胞(およそ102個)の手動の視察は、アッセイ法の妥当性を確認するのに十分であったが、ルーチンのスクリーニングのためには、得られたデータスタックを抽出し分析するためのアルゴリズムが必要であると考えられる。
【0035】
低頻度の細胞の同定
CTLのルーチンのスクリーニングのためのアッセイ法の実行の成功のために重要な必要条件は、低頻度の陽性を検出し単離する能力である。この目標のため、HLA-B27 KK10に対するエフェクター(カルセインブルーにより標識)を、異なる比率(1/5,000〜1/25,000)で、無関係のエピトープに対するエフェクター(未標識)と予め混合し、α-CD8-APCにより細胞の混合物を標識し、マイクロウェルアレイにおいて、KK10がロードされた標的(カルセイングリーンにより標識)と共にそれらをインキュベートする。低頻度エフェクター陽性は、KK10特異的エフェクターによる標的の緑色蛍光の喪失によりマイクロウェルにおいて同定され、これらをマッピングする能力は、顕微鏡の青色チャンネルで得られた蛍光画像によってKK10特異的エフェクターの位置を同定することにより、独立に確証され得る。
【0036】
抗ウイルスCTL活性の表現型の解明
マイクロウェルアレイプラットフォームが、効果的なCTL媒介型死滅の生物学を精査するために採用される。HIV感染標的細胞(T)およびエフェクター細胞(E)を、2種の異なる蛍光性レポーター色素により標識し、様々なE:T比で混合し、次いで、単一のエフェクターが各ウェル中に平均して沈着するよう、マイクロウェルのアレイにロードする。細胞を4時間同時培養し、次いで、経時的な標的細胞蛍光の喪失を検出することにより細胞溶解を測定する。最終的に、死滅を媒介した細胞を同定し、これらの細胞を、自動マイクロマニピュレーターを使用して取得し、RNA抽出緩衝液に直接移す。平行して、中間キラーおよび非キラーも比較のため取得する。実験のサブセットにおいて、キラーおよび非キラーを選出し、クローンレベルでこれらの細胞に関する綿密な知識を獲得するため、単一細胞クローニングのために使用する。このアッセイ法は、より詳細なCTLの特徴付けを可能にするのみならず、防御的CD8+T細胞応答についてのエクスビボ相関現象を明瞭に理解するため、操作されていないT細胞に対するこれらのアッセイ法の実行も可能にする。これらのアッセイ法は、コントローラーと進行者との間、または「防御的」HLA対立遺伝子を有する患者と、「非防御的」HLA対立遺伝子を有する患者との間の、エフェクターCTLの表現型の差を解明することを可能にする様々な実験的改変を受け入れる。
【0037】
単一細胞の細胞溶解能を査定するためのマイクロウェルに基づくアッセイ法を確立する
本発明は、高い再現性での、異なる環境における細胞媒介型死滅の同定も提供する。生物学的設計、試薬、動力学、細胞調製、標的細胞の選択、およびデータ分析を含む、上記マイクロウェルプレートに関連した多数の詳細は、これから定義される。アッセイ法は、細胞溶解性T細胞クローンをエフェクターとして使用し、ペプチドによりパルス処理されたB細胞を標的として使用して、定義される。予備実験において、HLA B27を発現するB細胞を、HIV gagペプチド(KK10)によりパルス処理し、次いで、カルセインAMにより標識した。標的細胞を、B27-KK10エピトープを認識するCTLクローンと同時培養し(E:T=1:1)、4時間のインキュベーションの後、標的細胞からの蛍光の喪失により溶解を検出した(図4)。細胞溶解活性の視覚化を改善するためには、エフェクター細胞および標的細胞の両方を強調し、1ウェル当たりのE:T比を調整するため、一連の色素を使用して、異なる標識アプローチが評価される。別の予備実験において、エフェクター細胞を、抗CD8-APCにより標識し、B細胞をカルセインAMにより標識した。図5は、4時間の同時培養の間の標的細胞の進行的な喪失を例示する。エフェクター細胞(赤色)は、標的細胞(緑色)から明瞭に区別される。
【0038】
関心対象の細胞を同定するためのソフトウェアアルゴリズムを開発する
開発されたプロトコルの改良は、実験1回当たり105〜106個の細胞のルーチンのスクリーニングを可能にする。一つのアレイから作製されたデータは、24*72*3の画像(およそ5Gbのデータ)を含むと考えられる。アッセイ法の最適化は、少数の細胞(102〜103個)の手動の視察により達成されるが、この方法によるルーチンのスクリーニングには、得られたデータスタックを抽出し分析するためのアルゴリズムが好ましい。ソフトウェアアプローチはバイオインフォマティクスを解決するために開発される。各アレイにより蓄積すると考えられる多量のデータを処理し保存するための画像分析のため、カスタムパッケージが開発される。ソフトウェアは、死滅が起こったウェルを認識し、マイクロマニピュレーターのためにそれらのウェルを位置付ける。
【0039】
実施例2 標的細胞を溶解する能力によるHIV感染CD4+T細胞に特異的なCTLの同定および単離、ならびにこれらのCTLの分泌されたメディエーターの検出
一旦、低頻度の細胞の同定のための最適条件が確立されると、HIV感染自己CD4+T細胞を溶解することができるCTLを同定するため、マイクロウェルアッセイ法を使用する。最初の戦略は、優先的な死滅を特異的に可視化するため、GFP発現組換えウイルスを感染させたCD4+T細胞を使用する。GFP蛍光によるフローサイトメトリー分取も、均一のウイルス感染CD4+標的集団を確実にすると考えられる。最近の研究は、GFP+NL4-3由来のHIVバリアントを、感染性、複製能、およびGFPシグナル強度について評価し、有望な結果を有した。CD4 T細胞は、これらのGFP発現株を感染させた場合、別個の緑色蛍光シグナルを示す(図3)。細胞分取による感染CD4細胞の精製は、均一の標的集団を保証する。
【0040】
標的特異的溶解性CTLの分泌されたメディエーターを検出する
マイクロエングレービング(Microengraving)技術は、分泌されたサイトカインの多重検出のため開発された(Bradshaw EM et al. (2008) Concurrent detection of secreted products from human lymphocytes by microengraving: cytokines and antigen-reactive antibodies. Clin. Immunol. 129(1), 10)。図1に例示される通り、サイトカインに対する捕獲抗体により予め機能付与されたスライドガラスを、マイクロウェルアレイに接して置く。インキュベーションの後、スライドを、洗浄し、フルオロフォアとコンジュゲートした検出抗体により検出する。マイクロウェル内に含有されている細胞の同定および選出を可能にするため、マイクロウェルアレイ中の個々のウェルにスポットをマッピングする。CTL媒介型死滅に関しては、TNF-α、IFN-γ、ならびに溶解の可溶性メディエーターであるグランザイムB(GzB)およびパーフォリンの分泌が、検出されると考えられる。GzBおよびパーフォリンの分泌は、免疫シナプス(IS)に向かって偏向しており(Faroudi et al. (2003) Lytic versus stimulatory synapse in cytotoxic T lymphocyte/target cell interaction: manifestation of a dual activation threshold. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 100, 14145)、分泌された量が典型的に小さいため、これらの検出は困難である可能性がある。分泌された因子の量が低すぎるため、アッセイ法を使用した検出が不可能である場合、CTL活性化は、細胞内カルシウムレベルを追跡することによりモニタリングされる。pMHC複合体によるTCR誘発は、T細胞におけるサイトゾルカルシウムイオン濃度の用量依存性の増加をもたらす(Kim H et al. (2006) Live lymphocyte arrays for biosensing Adv. Funct. Mater. 16, 1313)。Fura 2AM(Invitrogen)などの膜透過性カルシウム感受性蛍光色素は、細胞内カルシウムレベルの、従って、T細胞活性化の便利なレポーターとして機能することができる。これらのオプションがいずれも不可能であるような場合には、エフェクター細胞を活性化マーカーCD69について標識する。
【0041】
溶解能、分泌された因子、および活性化状態によるCTLの特徴付けの後は、次いで、クローン株を確立し、遺伝学的情報を提供するため、マイクロマニピュレーターを使用して、細胞を取得する。サイトカインプリンティングの間の細胞損失が問題となる場合には、単なる重力ではなく、フィブロネクチン/抗CD44(B/T細胞表面マーカー)を使用して、マイクロウェルアレイに細胞を捕獲し保持するための別の手段が探究されると考えられる。
【0042】
実施例3 可溶性メディエーターを分泌する能力および溶解をもたらす能力により測定される、疾患進行者と長期非進行者(LTNP)との間のCTLの差
本研究は、標的を溶解する能力およびサイトカインを分泌する能力の両方により、HIV感染CD4+T細胞に対する細胞傷害性Tリンパ球(CTL)応答を定量化し比較することを目標とする。このアプローチは、マイクロアレイ中の多数の単一細胞をプロファイリングするための最近開発されたハイスループットスクリーニング方法論に基づいており、標的細胞とエフェクター細胞との対の間の相互作用を分析するために適用される。
【0043】
CTLの差を比較および定量する
本発明は、進行者、LTNP、HAART中の感染個体、および慢性感染個体の大きな集団における個々の標的特異的CTLの差を定量化する能力を提供する。例えば、LTNPおよび進行者における、HIV特異的CTLのパーフォリンの発現および増殖の有意な差が示されているが、その分析はCTLの集団に対して行われており、これらの細胞の溶解特性に関する直接の情報は入手可能でなかった(Migueies SA et al. (2002) HIV-specific CD8+ T cell proliferation is coupled to perform expression and is maintained in non-progressors Nat. Immun. 3(11), 1061)。生じる重要な疑問は、TCRライゲーションによる活性化を受けるが、分泌応答(サイトカインまたは細胞傷害剤のいずれか)が損なわれているCTLのサブセットが存在するかどうかという点である。ハイスループットアッセイ法は、CTLのこれらおよびその他のサブセットを同定し、クローン株のその後の確立および遺伝子操作のための細胞の回復を補助することができる。
【0044】
これは、HIV感染細胞を溶解することができるCTLを、単一細胞レベルで、同定し取得するための頑強な定量的アッセイ法をもたらす。このアプローチは、死滅を定量化するのみならず、顕微操作によるその後の回復により、効果的な抗ウイルスCTL機能の免疫学的相関現象および遺伝学的相関現象の詳細な洞察も可能にすると考えられる。この技術は、CTL生物学の特徴の多くを包括的に解明し、急性感染患者、HAART処置中の患者、エリートコントローラー、および慢性感染患者の大きな患者集団を迅速に評価して、これらの群におけるCTLの差を査定することを可能にする。さらに、このアッセイ法は、細胞溶解性細胞(即ち、ナチュラルキラー細胞、マクロファージ等)を含む様々な細胞サブセットによる死滅を研究するために容易に拡張される。
【0045】
実施例4 HIV感染者における抗体多様性の評価
多くの主要な個々のリンパ球の複数の特徴を平行して査定するための、微細加工されたシステムを使用する新方式の一式が、本明細書に提示される。これらの技術は、単一細胞分解能を持って、抗原反応性抗体を分泌する細胞の同定(Love, J.C., Ronan, J.L., Grotenbreg, G.M., van der Veen, A.G. and Ploegh, H.L. A microengraving method for rapid selection of single cells producing antigen-specific antibodies. Nat Biotechnol 24, 703-707 (2006);Ronan, J.L., Story, C.M., Papa, E. and Love, J.C. Optimization of the surfaces used to capture antibodies from single hybridomas reduces the time required for microengraving. J. Immunol. Methods (in press);Story, C.M., Papa, E., Hu, C.-C.A., Ronan, J.L., Herlihy, K., Ploegh, H.L. and Love, J.C. Profiling antibody responses by multiparametric analysis of single B cells. Proc. Natl. Acad. Sci. 105, 17902-17907 (2008))、分泌されたサイトカインのプロファイリング(Bradshaw, E.M., Kent, S.C, Tripuraneni, V., Orban, T., Ploegh, H. L., Hafler, D. A. and Love, J.C. Concurrent detection of secreted products from human lymphocytes by microengraving: antigen-reactive antibodies and cytokines. Clin Immunol 129, 10-18 (2008).)、mRNA転写物の増幅、および細胞傷害機能の査定を可能にする(図6)。これらの技術のために使用される共有の要素は、ポリマー性チップの表面に成形されたナノリットル未満のマイクロウェルの密なアレイである(各チップおよそ105〜106ウェル)。細胞は、各ウェルおよそ1細胞(例えば、1、2、3、4、または5細胞/ウェル、好ましくは、各ウェル1細胞)の密度で、懸濁液から沈着させられる。細胞のアレイは、分泌された分子(抗体またはサイトカイン)のタンパク質マイクロアレイをプリントするためのスタンプとしても、定義された単一細胞アッセイ法(遺伝子発現、細胞傷害性、または増殖)のための1セットの容器としても機能することができる。遺伝子発現の査定を除き、細胞はアッセイ後に生存可能なままであり:表面に発現されたマーカーは、免疫表現型を判定するために画像化され得、関心対象の細胞は、クローン拡大または遺伝子分析のため顕微操作により取得される。これらのアッセイ法の連続的な適用は、機能、免疫表現型、および遺伝子型を、単一細胞の同一のセットと相関させる。総合すると、これらの測定は、機能(ELISA、ELISpot、増殖)、表現型(FACS、免疫蛍光)、および遺伝子型(RT-PCR)について、集団に基づくアッセイ法により得られるものに類似したデータを与えるが、単一細胞分解能を有する。
【0046】
個体におけるbNAb産生B細胞間のクローン多様性
マイクロエングレービングは、gp120反応性の循環B細胞の頻度、それらの抗体のアイソタイプの分布、およびそれらの中和能を定量化するために、単一細胞由来の抗体のマイクロアレイをプリントするために開発された技術である。スクリーニングアッセイ法は、まず、スライドガラスの表面上に、gp120のc末端(D73-324)に特異的な抗体を固定化し、次いで、組換えgp120(Progenics)を沈着させることにより、gp120反応性の抗体を強調するよう構成される。血清中にbNAbの高い力価を有するHIV+個体由来のB細胞を、抗体産生を誘導するためにCD40L/抗BCRにより刺激する。細胞をマイクロウェルのアレイ中に沈着させ、gp120によりコーティングされたスライド上に抗体のマイクロアレイの二つの複写物をプリントするために使用する。第2のアレイをプリントする前に、細胞由来の抗体を捕獲するために使用される基板に、可溶性のCD4またはb12(既知の中和能を有するモノクローナル抗体)のいずれかを添加する。第1のマイクロアレイ上のgp120には結合するが、第2のアレイ上のCD4によりブロッキングされたgp120には結合し得ない抗体は、HIVを中和する可能性が高い(図7)。存在するアイソタイプの多様性をスコア化するため、マイクロアレイを、蛍光性のアイソタイプ特異的な二次抗体の混合物(IgG1、IgG3、IgG4、IgA、IgM)により標識する。マイクロアレイ上の関心対象の抗体を、対応するマイクロウェルにマッピングし、自動顕微操作(Aviso CellCelector)により細胞を取得する。重鎖および軽鎖をコードする遺伝子の可変領域を、単一細胞RT-PCR(Wang, X. W. and Stollar, B.D. Human immunoglobulin variable region gene analysis by single cell RT-PCR. J Immunol Methods 244, 217-225 (2000))により増幅しかつ配列決定する。配列の比較によって、優性生殖系列遺伝子および体細胞変異を通して、密接に関連するクローンが関連づけられる。抗体を組換え発現させ、それらの中和能を標準的なアッセイ法(Monogram Biosciences)により確証する。
【0047】
多様な一次単離物に結合するbNAbの特徴
NAbを産生するよう設計されたワクチンに関する一つの難題は、免疫原がウイルスの他のバリアントと広く交差反応する抗体を誘発しなければならないという点である。多様な一次単離物を中和する抗体の特異性を理解することは、新たな免疫原の設計を導き、HIVの研究に関する現在の優先事項のうちの一つである(Fauci, A. S., Johnston, M.I., Dieffenbach, C.W., Burton, D. R., Hammer, S.M., Hoxie, J.A., Martin, M., Overbaugh, J., Watkins, D.I., Mahmoud, A. and Greene, W.C. Perspective - HIV vaccine research: The way forward. Science 321, 530-532 (2008))。マイクロエングレービングにより個々のB細胞から分泌された抗体を捕獲し、次いで、各々、別個の親油性蛍光色素により染色された、HIVの異なる単離物により、アレイをパニングするため、スクリーニングアッセイ法を再構成する(図8)。関心対象の細胞を取得し、それらの抗体を組換え発現させ、エピトープ特異性および中和能について特徴付ける。
【0048】
循環中の所望のB細胞の頻度は低い可能性がある。現在の検出限界(0.01〜0.001%)は、FACSについて典型的なもの(0.1%)を越えているが(Bradshaw, E.M., Kent, S. C., Tripuraneni, V., Orban, T., Ploegh, H.L., Hafler, D.A. and Love, J.C. Concurrent detection of secreted products from human lymphocytes by microengraving: antigen-reactive antibodies and cytokines. Clin Immunol 129, 10-18 (2008))、gp120によりコーティングされた磁性ビーズを使用して、gp120反応性のB細胞を濃縮することが必要である可能性がある。スクリーニングアッセイ法の二つの代替的なアプローチには、(i)三量体特異的な抗体を同定するための三量体gp120を発現する細胞株またはウイルス様粒子の使用、および(ii)2G12などの他のbNAbを用いた競合アッセイ法が含まれる。本明細書に提唱されたアプローチは、設計された免疫原が、多様な一次単離物に結合する抗体を産生する能力を、循環B細胞から直接、モニタリングするための単純なアッセイ法のセットを可能にする。
【0049】
エフェクター細胞の応答を査定するための最も一般的なアッセイ法は、ELISpotによるインターフェロン-γ(IFN-γ)の検出であるが、この単一パラメーターの測定は、ウイルス血症の制御と相関しない(Walker, B.D. and Burton, D.R. Toward an AIDS vaccine. Science 320, 760-764 (2008))。その他の機能的応答、例えば、増殖、広いサイトカインプロファイル、粘膜への動員のためのマーカー、および細胞溶解活性の測定も、必要とされる(Fauci, A.S., Johnston, M.I., Dieffenbach, C. W., Burton, D.R., Hammer, S.M., Hoxie, J.A., Martin, M., Overbaugh, J., Watkins, D.I., Mahmoud, A. and Greene, W.C. Perspective - HIV vaccine research: The way forward. Science 321, 530-532 (2008))。マイクロツールを使用して、HIV感染細胞に応答するエフェクター細胞(CD8+細胞傷害性T細胞(CTL)、ナチュラルキラー(NK)細胞、NK T細胞、γδT細胞)の異なるサブセットについて、マルチパラメトリックな機能プロファイルを解明する。PBMCを、FACSにより、CTL(CD8+)、NK細胞(CD16+)、NK T細胞(CD1d+、Vα24+)、およびγδT細胞(Vγ9+、Vδ2+)へと分取する。各エフェクターサブセットを、マイクロウェルへ、標的細胞と、つまり重複するHIV由来ペプチドのプールをロードされ、カルセインAMにより染色された、HLA適合性のEBVにより形質転換されたB細胞と同時にロードする。同時にロードされたアレイを、二重ロードされたウェルを決定するために生細胞顕微鏡上で画像化する。インキュベーション後、(カルセインAMの放出を特徴とする)細胞傷害性を査定するためにアレイを再画像化する(図6c、右下)。ウェルに残存する細胞により放出されたサイトカイン(IL-2、IL-4、IL-10、TNF-α、およびIFN-γ)を、マイクロエングレービングを使用してプロファイリングする。この最初のパネルは、1アッセイ法あたりおよそ10〜15サイトカインの、Th1サイトカインおよびTh2サイトカインならびに調節性サイトカインを測定する。顕微鏡検により、ホーミングパターン(例えば、CD62L、CXCR3、CCR4、CCR7)および画像を示す、最大3種の特異的表面マーカーについても、細胞を標識する。実験からの関心対象の細胞を、クローン拡大または遺伝子発現プロファイリングのため、顕微操作により抽出する。5人の個体について、感染の急性期に3〜5回の時点で実験を反復する。比較のため、HAART患者およびエリートコントローラーに、その測定を拡張する。これらのデータは、感染の過程でのこれらの細胞集団の多機能的応答の変動を示し、効果的な細胞傷害性と相関する表現形質を確立する。
【0050】
急性感染を有する患者およびHAART中患者と比較したエリートコントローラーにおけるHIVに対する免疫応答のシステムレベルプロファイル
免疫システムが複雑であることが、広いクラス内の細胞サブセット(例えば、CD4+T細胞)間の機能および表現型の小さな差をモニタリングするためのツールが存在しないことと組み合わされて、ヒト疾患の研究の大多数が、ネットワークの残りから隔離された一つの細胞集団の特徴付けに制限されている。複雑な生物学的ネットワークのシステムレベルの定量的分析および予測的モデリングは、可能であるが、システムの詳細を分解するために十分な多変数データを必要とする。エリートコントローラー、急性感染患者、およびHAART中患者由来の細胞のエフェクターサブセットについての機能プロファイルを記載する単一細胞データから、状態に基づくマップを構築する(図4)。階層的クラスタリングおよび主成分分析などの統計分析を、各クラスからの集団間の変動を調査するために用いる。収集されたデータを、これらのプロファイルを構築するため、このプロジェクトの最初の部分で使用する。このアプローチは、集成的なゲノム分析において使用されるものに類似しているが、その代りに、得られたプロファイルを解明するために、詳細な単一細胞データを使用する(Bradshaw, E.M., Kent, S. C., Tripuraneni, V., Orban, T., Ploegh, H.L., Hafler, D.A. and Love, J.C. Concurrent detection of secreted products from human lymphocytes by microengraving: antigen-reactive antibodies and cytokines. Clin Immunol 129, 10-18 (2008))。
【0051】
本明細書に記載された方法の一つの利点は、少数の細胞がアッセイ法に用いられ得るという点である(103〜105個)。標的細胞にロードするためのプールされたペプチドの使用は、測定される機能プロファイルにバイアスをかける可能性がある。代替的なアプローチとして、自己HIV感染CD4+T細胞の使用が、これらのアッセイ法において探究される。プロファイルに細胞溶解性細胞を巻き込まないようにするため、まず、これらの細胞のサイトカインプロファイルを査定することが必要であると考えられる。非細胞溶解性ヒトT細胞をクローニングするための現在の効率は、およそ75〜90%である。いくつかの細胞溶解性細胞はプログラム細胞死を受ける可能性があるため、効率は縮小する可能性があるが、さらなる分析が各クローンに対して実施され得るよう、細胞は拡大される。生得的システムの細胞およびエフェクター記憶細胞についての、効果的な抗ウイルス応答と相関させられた微妙な機能の差の解明は、ワクチンまたはその他の介入を評価するためのベンチマーク基準を確立すると考えられる。
【0052】
実施例5 HIV感染の急性期中のNK細胞の表現型マーカーと機能的挙動との間の相関
上記アッセイ法は、急性HIV感染を有する患者および長期非進行者の両方から由来するNK細胞について、詳細な表現型プロファイル、機能プロファイル、および遺伝子型プロファイルを作製するため、単一細胞により分泌されたサイトカインの多重検出のために適用される。上記に概説された通り、そのアプローチは、宿主の免疫応答への細胞の貢献を分解するための定法ではないが、フローサイトメトリーおよびELISpotなどの既存のツールにより査定するのが困難でありうる稀少な細胞の特徴を同定するものである。NK細胞の別個のサブセットが、感染の異なる期に存在し、それらの機能的挙動(または機能の喪失)は、感染の急性期の後に減弱されるこれらの細胞の効果の洞察を提供する。
【0053】
この調査のために必要とされる細胞は、HIV+患者由来の循環NK細胞である。急性感染患者および長期非進行者/エリートコントローラーの両方から由来する長期的な試料が用いられる。
【0054】
NK細胞の二つの重要なサブセットが、ヒトにおいて報告されている(Cooper, M. A., Fehniger, T. A. and Caligiuri, M. A. The biology of human natural killer-cell subsets. Trends Immunol 22, 633-640 (2001))。細胞溶解性NK細胞(NKp46プラスCD3マイナスCD56プラスCD16プラス/マイナス)は、多量のIFN-γ、TNF-α、MIP-1β、GM-CSFを分泌する。対照的に、免疫調節性NK細胞(NKp46プラスCD3マイナスCD56プラス/マイナスCD16プラス)は、大量のIL-10およびIL-17を産生する。健常個体は、通常、多数の細胞溶解性NK細胞および低レベルの免疫調節性NK細胞を保有している。しかしながら、妊娠および粘膜感染の封じ込めの両方においては、免疫調節性NK細胞の集団が拡大する。これらの2種のNK細胞集団のバランスが、HIV-1感染の間に変化するかどうか、およびNK細胞の特定のクローンが、複数のTヘルパー応答に関連したサイトカインのパターンを産生することができるかどうかは、不確かである。
【0055】
単一のアッセイ法で5種のサイトカイン(IFN-γ、TNF-α、MIP-1β、IL-10、およびIL-17)を検出するため、上記マイクロエングレービング法を用いる。アッセイ法を最適化するため、NK細胞を、ネガティブ選択(Stem Cell Technologies)により健常対照の末梢血から抽出する。これらのNK細胞を二つの画分に分離し、IL-12およびIL-18のいずれか(全てのNK細胞機能のための強力な刺激)と同時培養するか、または刺激せずにおく。4時間の刺激の後、NK細胞をマイクロウェルのアレイ上に沈着させる(およそ105個の直径30μmのウェル)。ピークNK細胞機能を測定するための最適のインキュベーション時間を査定するため、動力学的研究を実施する。ガラス上にサイトカインを捕獲した後、ウェル中の細胞を、NK細胞活性化の原型マーカーについて染色し(Hoescht 33324(核)、NKp46-Cy3、CD107a-Alexa647、およびCD69-Alexa488)、特注の高速画像化ステーションで画像化する。各細胞から検出されたサイトカインプロファイルを、これらのデータと相関させ、共通の細胞サブセットを同定するため、主成分分析によりクラスタリングを行う(各細胞8パラメーター)。NK細胞は、10人の急性感染HIV患者および10人の長期非進行者から単離される。これらの群における細胞のサブセットが、相互および対照セットと比較して、どのように変動するかを評価するため、アッセイ法を反復する。最後に、サブセットが疾患の進行と共にどのように変化するかを査定するため、急性感染患者に存在する細胞のサブセットの差を、長期的に調査する。
【0056】
実施例6 細胞溶解性NK細胞間のクローン多様性の査定
単一の抗原特異的受容体を発現するT細胞およびB細胞とは異なり、NK細胞は、多くの異なる受容体をランダムな組み合わせで発現する。個々のNK細胞クローン上の受容体の組み合わせのため、それらは、ウイルス感染細胞または悪性細胞を差次的に認識することができる。NK細胞受容体の発現、およびNK細胞のサブセットの分布の両方が、HIV感染により劇的に変化する。急性HIV-1感染を有する個体は、NK細胞の有意な拡大を示し:感染の最初の数週間、循環末梢血単核細胞(PBMC)の50%もがNK細胞である。対照的に、進行性感染は、アネルギー性のCD56マイナスNK細胞の蓄積を特徴とする。受容体の多様性がどのようにクローン性に変動するのか、およびそれが抗ウイルス制御を可能にするNK細胞機能とどのように相関するのかは、特に、明白な細胞溶解能を示すクローンについて、十分に理解されていない。
【0057】
HIV-1感染の異なる期に、個々の細胞溶解性NK細胞により発現されるキラー細胞免疫グロブリン様受容体(KIR)のプロファイルの決定を、急性感染から開始する。マイクロウェルのアレイを使用したアッセイ法を、細胞溶解機能を測定するために使用する。個々の細胞傷害性NK細胞を、RT-qPCRによる受容体のレパートリーのその後の定量化のため、顕微操作により取得する。単一細胞の細胞溶解アッセイ法のため、CD56-Alexa647またはサイトゾル染色(CellTracker red)により標識されたNK細胞を、カルセインAMにより標識されたMHC欠損標的細胞(K562または221)と同時にロードする。これらのアレイを、(標的細胞からのカルセインの喪失を特徴とする)溶解について査定するため、定期的に画像化を行いながら、5〜6時間インキュベートする。活性化を確実にするため、NK細胞の表面上のCD107aも獲得する。
【0058】
CTLおよび標的B細胞株を使用したこの型のアッセイ法についての予備的な結果は、図5に示される。自己HIV感染CD4+T細胞が、このアッセイ法における標的として、代替的に使用される。アレイ中の個々の溶解性細胞を含有しているウェルの位置をスコア化した後、細胞を、自動顕微操作(Aviso CellCelector)により取得し、組換えIL-2を用いて、96穴プレートにおいてクローン拡大する。拡大の後、12種のKIRについて特異的なプライマーのパネルを、RT-qPCRにより各クローン上のNK細胞受容体レパートリーを定量化するために使用する。
【0059】
拡大を行わない細胞の直接の単一細胞分析は、ネステッドプライマーのための増幅結合配列が埋め込まれたオリゴ-dtプライマーのセットを含有しているSuperScript-3 RT-PCR mastermix(Invitrogen)に細胞を置き、続いてサーモサイクリングを行うことにより実施される。12種のKIRプライマーのセットを使用して、cDNAに対して、qPCRを実施する。単離されたNK細胞由来のKIRのレパートリーの多様性を、10人の健常対照、10人の急性HIV+感染個体、10人のHIV+自然非進行者(2000コピー/ml未満のウイルス量)、および10人のHIV+慢性未処置進行者(>10,000コピー/mlのウイルス量)において解明する。
【0060】
実施例7 感染の進行と共に抗体依存性細胞傷害(ADCC)の変化をもたらすNK細胞の能力の判定
現在までのHIVのための候補ワクチンの大部分は、ウイルスに対する中和抗体を広く誘発することを試みている(Barouch, D.H. Challenges in the development of an HIV-1 vaccine. Nature 455, 613-619 (2008))。防御を媒介するため、抗体応答を用いるための代替的な戦略は、ADCCである。急性感染患者からの血清移植研究は、NK細胞の活性化が起こり得ることを示唆しているが、NK細胞により媒介されるADCCを効果的に誘導する抗体を作成するB細胞クローンを同定するためのアッセイ法は、これまでに利用可能となっていない。下記の通りのクローンからの組換え抗体の生成は、予防接種のための免疫原の原理設計に関する新たな研究を容易にする(Walker, B.D. and Burton, D.R. Toward an AIDS vaccine. Science 320, 760-764 (2008))。
【0061】
3種の細胞集団、CD56CD16+NK細胞、CD4+T細胞、およびCD20+B細胞を、急性感染患者および長期非進行者から単離する。CD4+T細胞を、フィトヘマグルチニン(PHA)およびIL-2と共に培養することにより拡大し、HIVを外因的に感染させる。NK細胞は、IL-2により活性化され、B細胞は、CD40Lおよび抗BCRにより活性化される。アレイマイクロウェルへ、(CellTracker redにより標識された)B細胞を、(カルセインAMにより標識された)HIV感染T細胞と同時にロードする。アレイを、1時間、スライドガラスに対して密封する。隔離されたリアクターにおけるこの時間の間、B細胞は、感染T細胞の表面に結合し得る抗体を産生する。次いで、アレイをガラスから除去し洗浄する。
【0062】
活性化されたNK細胞(Celltracker blueにより標識)を、ウェルに添加し、4〜6時間インキュベートする。(1)B細胞と、(2)NK細胞と、(3)インキュベーション後に溶解されたT細胞とを含有しているウェルをスコア化するため、アレイを、インキュベーション前後に画像化する。細胞をこれらのウェルから取得し、抗体をコードする遺伝子のVDJ領域についての縮重プライマーセットを使用して、RT-PCRを実施する。アレイ上の内部対照は、ランダムに、B細胞を含有していないかまたはNK細胞を含有していないウェルである。NK細胞およびT細胞のみを含むアレイもスコア化する。取得された抗体の組換え発現は、感染細胞上に結合したエピトープのマッピング、および生産的なADCCと相関するB細胞において産生されたクローン多様性の査定を可能にする。
【0063】
代替的なアプローチは、アッセイ法を二つの部分に分割するものである。まず、濃縮されたB細胞の集団を、マイクロエングレービング技術を使用して作製し、抗体のマイクロアレイを作製するために使用する。これらのアレイを、HIV感染細胞由来の溶解物および抗IgG3により染色する。二重陽性ウェルにマッピングされるB細胞を、遺伝子分析のために取得する。これらの細胞由来の組換え抗体を感染細胞に適用し、上記のものなどの細胞溶解アッセイ法においてNK細胞と混合する。
【0064】
本明細書に記載されたアプローチは、臨床ヒト試料から直接採取された細胞において、直接、宿主-病原体相互作用を特徴付けることを可能にし、発見、査定、およびモニタリングのため、定量的免疫学的プロファイリングを使用して、感染性疾患のためのワクチンおよび免疫療法の開発を改善する。HIVに加えて、このアプローチは、その他の感染性疾患、例えば、HIVの結果であるか、意図的な抑制的介入の結果であるかに関わらず、免疫が低下している者において、主要な感染源となる病原体へと拡張され得る。これらには、例えば、クリプトコッカス・ネオフォルマンス(Cryptococcus neoformans)、クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)、ストレプトコッカス・ニューモニエ(Streptococcus pneumoniae)、およびミクバクテリウム・ツベルクローシス(Mycobacterium tuberculosis)が含まれる。
【0065】
付加的な態様は、特許請求の範囲に含まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を含む、対象におけるCD4+HIV感染細胞を溶解することができるCD8+細胞を同定する方法:
マイクロウェルアレイ中に少なくとも1個のマイクロウェルを備える成形可能(moldable)スラブ上に沈着した、対象由来のエフェクターCD8+細胞および標的細胞の懸濁液を提供する工程であって、該マイクロウェルアレイ中の少なくとも1個のマイクロウェルが、単一のエフェクター細胞を有する工程;
該CD8+細胞によって該標的細胞を溶解させる条件下で、該懸濁液を培養する工程;
該エフェクター細胞による該標的細胞の溶解を検出する工程;ならびに
CD4+HIV感染細胞を溶解することができるCD8+細胞を同定する工程。
【請求項2】
前記標的細胞を溶解するエフェクター細胞を回収する工程をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記標的細胞を溶解したエフェクター細胞を培養する工程をさらに含む、請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記エフェクター細胞および前記標的細胞が、前記マイクロウェル中に細胞を沈着させる前に混合される、請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記エフェクター細胞および前記標的細胞が、前記マイクロウェル中に細胞を沈着させた後に混合される、請求項1記載の方法。
【請求項6】
溶解が、標識された細胞の蛍光における変化をモニタリングすることによって検出される、請求項1記載の方法。
【請求項7】
溶解が、前記標的細胞の細胞内カルシウムレベルにおける変化をモニタリングすることにより検出される、請求項1記載の方法。
【請求項8】
前記カルシウムが、カルシウム感受性蛍光色素により検出される、請求項7記載の方法。
【請求項9】
前記色素がFura 2AM(Invitrogen)である、請求項8記載の方法。
【請求項10】
以下の工程をさらに含む、請求項1記載の方法:
前記マイクロウェルアレイを基板と接触させる工程であって、該基板が、前記エフェクター細胞の産物を特異的に検出することができる少なくとも1種の作用物質で前処理されている工程;および
該作用物質を検出する工程。
【請求項11】
前記作用物質が、抗体、サイトカイン、または溶解の可溶性メディエーターである、請求項10記載の方法。
【請求項12】
前記作用物質がサイトカインである、請求項10記載の方法。
【請求項13】
前記サイトカインがTNF-αまたはIFN-γである、請求項12記載の方法。
【請求項14】
前記作用物質が溶解の可溶性メディエーターである、請求項8記載の方法。
【請求項15】
前記溶解の可溶性メディエーターがグランザイムB(GzB)またはパーフォリンである、請求項14記載の方法。
【請求項16】
CD69によりエフェクター細胞を標識する工程をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項17】
以下の工程を含む、対象における抗体応答を特徴付ける方法:
マイクロウェルアレイ中に少なくとも1個のマイクロウェルを備える成形可能スラブ上に沈着した、対象由来のB細胞の懸濁液を提供する工程であって、該対象が、HIVに感染しているかまたはHIVに感染していると疑われ、かつ該マイクロウェルアレイ中の少なくとも1個のマイクロウェルが単一の細胞を有する工程;
該マイクロウェルアレイを基板と接触させる工程であって、該基板が少なくとも1種のB細胞検出物質で前処理されている工程;および
該物質を検出し、それによって、該抗体応答を特徴付ける工程。
【請求項18】
前記B細胞検出物質が、gp120におけるエピトープに特異的な抗体である、請求項17記載の方法。
【請求項19】
前記マイクロウェルアレイを、少なくとも1種の第1のB細胞検出物質で前処理されている第2の基板と接触させる工程をさらに含む、請求項17記載の方法。
【請求項20】
前記第1のB細胞検出物質が、HIV gp120に対する抗体である、請求項19記載の方法。
【請求項21】
前記抗体が、HIV gp120のC末端に対するものである、請求項20記載の方法。
【請求項22】
前記マイクロウェルアレイ中の前記B細胞により産生された抗体のアイソタイプを判定する工程をさらに含む、請求項17記載の方法。
【請求項23】
HIVと反応性である抗体を発現するB細胞を単離する工程をさらに含む、請求項17記載の方法。
【請求項24】
前記抗体の軽鎖可変領域および重鎖可変領域を増幅および単離する工程をさらに含む、請求項23記載の方法。
【請求項25】
前記B細胞が、該細胞における抗体の産生を刺激した作用物質に曝露される、請求項17記載の方法。
【請求項26】
前記作用物質がCD40Lまたは抗BCR抗体である、請求項25記載の方法。
【請求項27】
前記B細胞がCD40Lおよび抗BCR抗体に曝露される、請求項25記載の方法。
【請求項28】
以下の工程を含む、複数のHIV単離物に対するB細胞の交差反応性を特徴付けるための方法:
マイクロウェルアレイ中に少なくとも1個のマイクロウェルを備える成形可能スラブ上に沈着した、対象由来のB細胞の懸濁液を提供する工程であって、該対象が、HIVに感染しているかまたはHIVに感染していると疑われ、かつ該マイクロウェルアレイ中の少なくとも1個のマイクロウェルが、単一の細胞を有する工程;
該マイクロウェルアレイを第1の基板と接触させる工程であって、該基板が、該少なくとも1個のマイクロウェル中の該B細胞により産生された抗体で前処理されている工程;
該基板を第1の標識されたHIVビリオンおよび第2の標識されたHIVビリオンと接触させる工程;ならびに
該第1の標識されたビリオンおよび該第2の標識されたビリオンが該マイクロウェル中の同一細胞により産生された抗体に結合するかどうかを判定する工程。
【請求項29】
前記第1の標識されたビリオンおよび前記第2の標識されたビリオンに特異的に結合する抗体を産生するB細胞を回収する工程をさらに含む、請求項28記載の方法。
【請求項30】
回収された前記B細胞を培養する工程をさらに含む、請求項29記載の方法。
【請求項31】
前記ビリオンの少なくとも一方が標識される、請求項17記載の方法。
【請求項32】
前記第1のビリオンおよび前記第2のビリオンが別個に標識される、請求項21記載の方法。
【請求項33】
以下の工程を含む、対象におけるHIV感染に応答性であるエフェクター細胞についての機能プロファイルを作製する方法:
CTL(CD8+)、NK細胞(CD16+)、NK T細胞(CD1d+、Vα24+)、またはγδT細胞(Vγ9+、Vδ2+)からなる群より選択されるエフェクター細胞の集団を提供する工程であって、マイクロウェルアレイ中に少なくとも1個のマイクロウェルを備える成形可能スラブ上に沈着した該エフェクター細胞が、対象から得られ、該マイクロウェルアレイ中の少なくとも1個のマイクロウェルが単一のエフェクター細胞を有し、エフェクター細胞の該集団が同族の標的細胞集団と同時にロード(co-load)される工程;
該エフェクター細胞を可視化する工程;
該エフェクター細胞の細胞傷害性を査定する工程;
該マイクロウェルアレイを第1の基板と接触させる工程であって、該基板が、IL-2、IL-4、IL-10、TNF-α、およびIFN-γのうちの1種または複数種を特異的に検出する作用物質で前処理されている工程;ならびに
該マイクロウェル中の該エフェクター細胞が1種または複数種の該作用物質に結合するかどうかを判定する工程。
【請求項34】
細胞傷害性が、カルセインAMの放出を検出することにより査定される、請求項33記載の方法。
【請求項35】
前記細胞を1種または複数種の特異的表面マーカータンパク質について標識する工程をさらに含む、請求項33記載の方法。
【請求項36】
表面マーカータンパク質が、CD62L、CXCR3、CCR4、またはCCR7である、請求項35記載の方法。
【請求項37】
1個または複数個のマイクロウェルからエフェクター細胞を回収する工程をさらに含む、請求項33記載の方法。
【請求項38】
回収された細胞のクローン増幅を得るため、該回収された細胞を培養する工程をさらに含む、請求項37記載の方法。
【請求項39】
前記回収された細胞における1種または複数種の遺伝子の発現を特徴付ける工程をさらに含む、請求項37記載の方法。
【請求項40】
前記細胞が、CD8+細胞傷害性T細胞(CTL)、ナチュラルキラー(NK)細胞、NK T細胞、またはγδT細胞である、請求項33記載の方法。
【請求項41】
前記対象が、感染の急性期にあるか、高活性抗レトロウイルス剤療法(highly active antiretroviral therapy)(HAART)対象であるか、またはエリートコントローラー(elite controller)である、請求項33記載の方法。
【請求項42】
以下の工程を含む、HIV感染を有する対象における自然免疫応答を査定する方法:
マイクロウェルアレイ中に少なくとも1個のマイクロウェルを備える成形可能スラブ上に沈着した、対象由来のNK細胞の懸濁液を提供する工程であって、該対象が、HIVに感染しているかまたはHIVに感染していると疑われ、かつ該マイクロウェルアレイ中の少なくとも1個のマイクロウェルが、沈着した単一の細胞を有する工程;および
該マイクロウェルアレイを基板と接触させる工程であって、該基板が少なくとも1種のNK細胞検出物質で前処理されている工程;および
該物質を検出し、それによって、該自然免疫応答を査定する工程。
【請求項43】
前記NK細胞が、NKp46-Cy3、CD107a-Alexa647、および/またはCD69-Alexa488を用いて検出される、請求項42記載の方法。
【請求項44】
前記細胞が、前記成形可能スラブ上に沈着させる前に同時培養される、請求項32記載の方法。
【請求項45】
前記細胞がIL-12およびIL-18と同時培養される、請求項44記載の方法。
【請求項46】
前記NK細胞検出物質がNK細胞を検出する、請求項45記載の方法。
【請求項47】
以下の工程を含む、NK細胞の集団におけるクローン多様性を査定する方法:
マイクロウェルアレイ中に少なくとも1個のマイクロウェルを備える成形可能スラブ上に沈着した、対象由来のNK細胞および標的細胞の懸濁液を提供する工程であって、該マイクロウェルアレイ中の少なくとも1個のマイクロウェルが単一のエフェクター細胞を有する工程;
該NK細胞によって該標的細胞を溶解させる条件下で、該懸濁液を培養する工程;
該エフェクター細胞による該標的細胞の溶解を検出する工程;および
該エフェクター細胞を同定し、それによって、NK細胞の該集団におけるクローン多様性を査定する工程。
【請求項48】
前記標的細胞を溶解するエフェクター細胞を回収する工程をさらに含む、請求項47記載の方法。
【請求項49】
回収された前記細胞を培養する工程をさらに含む、請求項48記載の方法。
【請求項50】
前記標的細胞を溶解したNK細胞を培養する工程をさらに含む、請求項47記載の方法。
【請求項51】
前記NK細胞および前記標的細胞が、前記マイクロウェル中に細胞を沈着させる前に混合される、請求項47記載の方法。
【請求項52】
前記NK細胞および前記標的細胞が、前記マイクロウェル中に細胞を沈着させた後に混合される、請求項47記載の方法。
【請求項53】
標的細胞の溶解が、標識された細胞の蛍光における変化をモニタリングすることにより判定される、請求項47記載の方法。
【請求項54】
以下の工程をさらに含む、請求項47記載の方法:
前記マイクロウェルアレイを基板と接触させる工程であって、該基板が、前記NK細胞の産物を特異的に検出することができる少なくとも1種の作用物質で前処理されている工程;および
該作用物質を検出する工程。
【請求項55】
前記作用物質が、抗体、サイトカイン、または溶解の可溶性メディエーターである、請求項55記載の方法。
【請求項56】
前記サイトカインが、TNF-αまたはIFN-γである、請求項55記載の方法。
【請求項57】
以下の工程を提供する、NK細胞およびB細胞の集団における多様性を査定する方法:
拡大されたHIV感染CD4+T細胞、活性化されたNK細胞、およびB細胞、ならびに標的細胞を含む細胞の懸濁液を提供する工程であって、該懸濁液が、マイクロウェルアレイ中に少なくとも1個のマイクロウェルを備える成形可能スラブ上に沈着し、該マイクロウェルアレイ中の少なくとも1個のマイクロウェルが単一のT細胞を有する工程;
B細胞により産生された抗体をT細胞の表面に結合させる条件下で、細胞を培養する工程;
B細胞、NK細胞、および溶解されたT細胞を含有しているウェルを同定する工程;ならびに
B細胞またはNK細胞を同定する工程。
【請求項58】
前記NK細胞がIL-2により活性化される、請求項57記載の方法。
【請求項59】
前記B細胞がCD40Lまたは抗BCRにより活性化される、請求項57記載の方法。
【請求項60】
B細胞がCD40Lおよび抗BCR抗体により活性化される、請求項57記載の方法。
【請求項61】
前記NK細胞がIL-2により活性化される、請求項57記載の方法。
【請求項62】
前記B細胞がCD40Lまたは抗BCR抗体により活性化される、請求項57記載の方法。
【請求項63】
以下の工程をさらに含む、請求項57記載の方法:
前記ウェルからB細胞またはNK細胞を回収する工程;および
該B細胞の一つまたは複数の特性を特徴付ける工程。
【請求項64】
前記B細胞における抗体遺伝子を特徴付ける工程を含む、請求項63記載の方法。
【請求項65】
前記B細胞における抗体をコードする遺伝子のVDJ領域を分析する工程を含む、請求項64記載の方法。
【請求項66】
前記B細胞により産生された抗体を基板に付着させる条件下で、前記マイクロウェルアレイを該基板と接触させる工程を含む、請求項57記載の方法。
【請求項67】
以下の工程を含む、請求項57記載の方法:
前記基板をHIV感染細胞由来の溶解物と接触させる工程、および
該HIV溶解物または抗IgG3抗体に結合する抗体を産生するB細胞を有するウェルを同定する工程。
【請求項68】
前記HIV溶解物または前記抗IgG3抗体に結合する抗体を産生するB細胞を有するウェルを同定する工程を含む、請求項67記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2012−515548(P2012−515548A)
【公表日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−547913(P2011−547913)
【出願日】平成21年7月13日(2009.7.13)
【国際出願番号】PCT/US2009/050411
【国際公開番号】WO2010/085275
【国際公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【出願人】(596060697)マサチューセッツ インスティテュート オブ テクノロジー (233)
【出願人】(310022017)ザ ジェネラル ホスピタル コーポレーション ドゥーイング ビジネス アズ マサチューセッツ ジェネラル ホスピタル (2)
【Fターム(参考)】