説明

単一組換え系及びその使用方法

本発明は、単一の組換えイベントによって組換えポックスウイルスの産生を許容する修飾されたポックスウイルスベクターを対象とする。相同組換えのため二つのフランキング配列の間に配置された少なくとも一つのレポーター遺伝子を備える修飾ポックスウイルスベクターが開示される。さらに、前記ベクターを備える宿主細胞、及び前記ベクターを用いた組換えポックスウイルスの産生のための方法が提供される。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、修飾ポックスウイルスベクターにおける単一の組換えイベント(事象、event)による組換えポックスウイルスのクローニングための単一組換え系に関する。さらには、修飾ポックスウイルスベクター、その用途及び組換えポックスウイルスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、組換えポックスウイルスに基づく技術の開発や改善について多大な努力が注がれている。ポックスウイルスに基くベクターは、新しいワクチン療法の開発においてワクチンを介して免疫応答を生じさせたり、遺伝子治療への適用などのような多くの用途に有益であることが確認されている。組換えポックスウイルスベクターに関する利点は周知であり、多くの種類の細胞型への遺伝物質の効率的な送達;寛大な蛋白質発現量;及び抗体を基礎とする応答に加えて細胞媒介免疫応答を誘発する能力を含む。
【0003】
ポックスウイルスは周知の細胞質ウイルスであり、従って、そのようなウイルスベクターにより輸送された如何なる遺伝物質も、宿主細胞ゲノムへの偶発的な組込みの不利無しで正常に細胞質に留まっている。ポックスウイルスは、例えば、相同組換えのようなクローニング技術を用いて、それらのゲノムに挿入された外来遺伝子を含有及び発現するように容易に遺伝子改変することが可能である。これらの外来遺伝子は、一以上の感染病原体からの保護作用を誘導する抗原、共刺激性分子群(co−stimulatory molecules)のような免疫性を調節する蛋白質又は酵素蛋白質のような広範な蛋白質をコード化できる。組換えポックスウイルスは、例えば、ヘルペスウイルス、インフルエンザ、及びヒト免疫不全ウイルス(HIV)の免疫抗原を発現するように設計されている。
【0004】
ベクターとしてのポックスウイルスの主要な利点の一つは、例えば同義遺伝子(multiple genes、すなわち、多価ベクターとしての)を含む大量の異種遺伝物質の挿入を許容する大きなゲノムサイズである。しかし、異種遺伝物質は、組換えウイルスが生存可能のままであるようにポックスゲノム内の適切な部位(site)に挿入されなければならない。従って、遺伝物質は、非必須(nonessential)であるウイルスDNAの部位に挿入されなければならない。
【0005】
組換えポックスウイルスのクローニングのために確立されているアプローチは、二つの別個の組換えイベントに基づく。第1の組換えステップの間に、興味対象の遺伝子及びレポーター及び/又はマーカーカセットがウイルスゲノムに組み込まれる。選択プロセスのため、抗生物質耐性遺伝子が一般的に用いられる。組換えポックスウイルスが、例えば、ヒトのワクチンとしての使用が対象とされているならば、選択/マーカーカセットを用いる組換え及び非組換えポックスウイルスのプールからの組換えポックスウイルスの分離に引き続き、選択及びマーカーカセットが除去されるべきである。この目的のため、組換えポックスウイルスのさらなる継代及びプラーク精製を含む第2の組換えイベントが実行されなければならない。その結果、特に他のタイプの組換え発現ベクターのクローニングのために一般的に用いられているそれらの手順と比べると、組換えポックスウイルスのクローニングための現在知られている技術は、通常、時間がかかり、骨の折れる試みである。
【0006】
以上のように、組換えポックスウイルスの効率的な産生のための改善されたクローニング系及び方法のための技術が必要とされている。
【発明の概要】
【0007】
本発明は、単一の組換えイベントによる組換えポックスウイルスの産生を許容する修飾ポックスウイルスベクターに基づいている。本発明の修飾ウイルスベクターは、興味対象の遺伝子を挿入して組換えが成功裏に起こるときに除去されるレポーター遺伝子を含み構成されている。
【0008】
第1の局面において、本発明は、相同組換えのため二つのフランキング配列の間に配置された少なくとも一つのレポーター遺伝子を備える修飾されたポックスウイルスベクターを対象とする。一つの形態において、修飾ポックスウイルスベクターは、許容宿主細胞における相同組換えのため、二つのフランキング領域の間に配置された少なくとも一つの選択性要素(選択性コンポーネント、selection component)をさらに有する。別の形態において、選択性要素は、宿主細胞内でポックスウイルスの複製を抑制するか又は低速化するか、又は宿主細胞に対して細胞障害性である選択性遺伝子から構成される。別の形態において、レポーター遺伝子及び選択性要素は、相同組換えを許容するように、対を成すフランキング配列の間に配置されている。また別の形態において、レポーター遺伝子及び選択性要素は、相同組換えを許容するように、一以上の対を成すフランキング配列の間に配置されている。さらに別の形態において、選択性要素は、発現が誘導性である選択性遺伝子から構成される。特異的な形態において、レポーター遺伝子は、蛍光性蛋白質、例えば、緑色蛍光性蛋白質をコードする。さらに特異的な形態において、選択性要素は、デオキリボヌクレアーゼ(DNase)、リボヌクレアーゼ(RNase)、又はプロテアーゼをコードする遺伝子から選ばれた選択性遺伝子から成る。さらに特異的な形態において、選択性遺伝子の発現は、制御配列、好ましくはプロモーターの制御下にある。別の特異的な形態において、選択性遺伝子は、誘導性発現系、例えば、テトラサイクリンオペレーター/リプレッサー(TetO2/TetR)系により調節される。
【0009】
別の局面において、本発明は、本発明の修飾ポックスウイルスベクターを用いて産生された組換えポックスウイルスを対象とする。
【0010】
別の局面において、本発明は、本発明の修飾ポックスウイルスベクターから構成される宿主細胞を対象とする。さらなる局面において、本発明は、本発明の修飾ポックスウイルスベクターを用いて産生された組換えポックスウイルスから構成される宿主細胞を対象とする。
【0011】
さらなる局面において、本発明は、組換えポックスウイルスを産生する修飾ポックスウイルスベクターを用いる方法を提供する。別の局面において、本発明は、本発明による修飾ポックスウイルスベクターで許容宿主細胞を感染させて成る組換えポックスウイルスを産生するための方法、及び、ベクターとプラスミドとの間の相同組換えを許容する条件下、異種の興味対象の遺伝物質から構成されるプラスミドでの宿主細胞の引き続く形質移入(subsequent transfection)を対象とする。一つの形態において、前記方法は、選択性遺伝子の発現を誘導することで成る。さらなる形態において、前記方法は、非組換えポックスウイルスで構成される宿主細胞から、組換えポックスウイルスで構成される宿主細胞を分離することを含んで成る。さらなる形態において、前記方法は、以前には感染されていなかった許容宿主細胞において少なくともさらに一代の継代のために組換えポックスウイルスで構成される許容宿主細胞を用いることを含んで成る。
【0012】
さらなる局面において、本発明は、組換えポックスウイルスの産生のための本発明による修飾ポックスウイルスベクターの利用を対象とする。
【0013】
特定の形態において、本発明による修飾ポックスウイルスベクターは、ワクシニアウイルスである。さらなる特定の形態において、本発明による修飾ポックスウイルスベクターは、修飾されたワクシニアアンカラウイルス(MVA、Modified Vaccinia Ankara virus)である。さらなる局面において、本発明は、本発明による修飾ポックスウイルス、本発明による組換えポックスウイルス、及び、薬物としての修飾又は組換えポックスウイルスで成る本発明による細胞を対象とする。特異的な形態において、本発明は、癌、インフルエンザ、肝炎、後天性免疫不全症候群、流行性耳下腺炎、狂犬病、脳炎、胃又は十二指腸潰瘍、マラリア、睡眠病、ライム病、反応性関節炎、肺炎、ハンセン病、ジフテリア、カンジダ症、及び/又はトキソプラズマ症の処置又は予防のための治療用又は予防用ワクチンとしての、本発明による修飾ポックスウイルス、本発明による組換えポックスウイルス、及び修飾又は組換えポックスウイルスで成る細胞を対象とする。特異的な形態において、前記薬物は、治療用又は予防用ワクチンである。別の特異的な形態において、前記薬物は、癌の処置のための治療用又は予防用ワクチンである。本発明の他の形態は、詳細な説明、実施例、及び付け加えた請求の範囲によって提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明による好適な修飾ポックスウイルスベクターのレポーター/選択カセットを示す。前記ベクターは、レポーター/選択カセット(reporter/selection cassette)が挿入部位(Dletion III)に導入されたMVAゲノム(Gene Bank アクセッション#U94848; Antoine、 G.Scheiflinger、 F.Dorner、 F.and Falkner、 F.G.「修飾されたワクシニアウイルスアンカラ株の完全ゲノム配列:他のオルソポックスウイルス属との比較(The complete genomic sequence of the modified vaccinia Ankara strain:comparison with other orthopoxviruses)」、Virology 244 (2)、365−396 (1998))に基づく。Flank1 Del3=MVAゲノムのDletion III部位の上流のフランキング配列;Ps promoter=強力合成プロモーター;TetO2=テトラサイクリンオペレーター(TetRに対する結合部位);TetR=テトラサイクリンリプレッサー;Flank2 Del3=MVAゲノムのDeletion III部位の下流のフランキング配列。
【図2】ポックスウイルスを許容する宿主細胞における相同組換えプロセスの模式図である。MVAポックスウイルスのためのそのような宿主細胞は、例えば、鶏胚線維芽細胞(chicken embryo fibroblasts、CEF)を含む。本発明の修飾ポックスウイルスベクターによる細胞の感染に続いて、前記細胞は、相同組換え(Flank1/2 Del3)のために二つのフランキング配列の間に位置している興味対象遺伝物質(例えばLacZ)を含むプラスミド(plasmid)により形質移入される。組換えポックスウイルスは、興味対象遺伝物質(genetic material of interest)の組込み、及びレポーター/選択カセットの除去の結果、隣接相同部の組換えで産生される。
【図3】興味対象遺伝物質をMVAゲノムに挿入するために用いられた(図2に模式的に示した)好適なプラスミド(vEM07;配列番号1)のマップである。LacZ =βガラクトシダーゼをコードする細菌遺伝子。
【図4】PCRにより得られたDNase遺伝子へのテトラサイクリンオペレーター(TetO2)の融合結果を模式的に示す図である。
【図5】TetO2−DNase断片へのPsプロモーター(promoter)の融合結果を模式的に示す図である。
【図6】組換えMVAのクローニングに用いられた標準組換えプラスミドvEMllを示すマップである。
【図7】組換えプラスミドvEM12のマップを示す。Ps−TetO2−DNaseカセットは、SacI及びSpeI制限酵素部位を介してvEMllプラスミドにクローン化された。BsdR=ブラストサイジン(Blasticidine)耐性遺伝子。
【図8】テトラサイクリンリプレッサーコード領域(TetR)のへのPsプロモーターの融合を模式的に示す図である。
【図9】組換えプラスミドvEM31のマップを示す図である。Ps−TetRカセットは、SacI及びNheI制限酵素部位を介してプラスミドvEM12にクローン化された。
【図10】MVAの複製における誘導性DNase発現の効果を示す。CEF細胞は、組換えMVAのmEM07(7.5=7.5プロモーター)、mEMO6(Ps=Psプロモーター)、mEM08(H5=H5プロモーター)で感染され、また、種々の濃度のテトラサイクリン(Tet0=テトラサイクリン無し;Tet25=mL当り25μテトラサイクリン)を含む培地で培養(インキュベート)された。コントロールとして、CEF細胞は、MVAの空ベクター(MVA)で感染された。1セットのサンプルが、vEM12(MVA+DNase)で引き続きトランスフェクション(形質移入)された。37℃、5%CO、48時間の培養の後に、細胞が収集され、ウイルス力価(virus titer)が測定された。MVAの空ベクターで感染したCEF細胞も同様にテトラサイクリン(MVA+Tet)により培養した。TCID50=組織培養感染用量50(Tissue Culture Infectious Dose 50)。
【図11】Deletion III部位のPCR分析結果を示す。MVAゲノム(deletion 3)における外来遺伝子の挿入部位がPCRを用いて検討された。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、単一の組換えイベントによって組換えポックスウイルスの産生を許容するポックスウイルスから得られた修飾(改変)ベクターに基づいている。本発明の修飾されたウイルスベクターは、興味対象遺伝子の挿入に伴い組換えが成功裏に起こる場合に除去されるレポーター遺伝子を備える。従って、本発明の修飾ウイルスベクターは、レポーター/選択カセットを除去すると同時に、組換えウイルスベクターに異種の興味対象遺伝物質を挿入する単一組換えイベントの検出を提供する。
【0016】
[定義(Definitions)]
ここで用いられる用語「ベクター」は、許容宿主細胞におけるポックスウイルスの再生を許容する充分な遺伝情報を含んでいるポックスウイルスのゲノム或はその一部又は断片の何れをも意味する。本発明によるベクターは、ポックスウイルスから得られる一部のみ含むような、又は得られるポックスウイルスの全ての要素、及び/又は付加的遺伝的要素を含むような遺伝子工学的改変ベクターであリ得る。特異的な実施形態において、本発明によるベクターは、修飾されたワクシニアアンカラ(MVA)ウイルスのゲノム又はその一部又は断片である。さらに特異的な実施形態において、本発明によるベクターは、MVA−F6(例えばLotzら、「マウスと人間のHLA−A*0201拘束性細胞障害性Tリンパ球による部分チロシナーゼ固有の自己寛容(Partial tyrosinase−specific self tolerance by HLA−A*0201− restricted cytotoxic T lymphocytes in mice and man)」、Intern.J.of Cancer 2003;108(4):571−79)、MVA575(ECACC 供託番号 V00120707)、MVA−M4(Oberら、「欠陥ワクシニアウイルスリスタの免疫原性と安全:修飾ワクシニアウイルスアンカラとの比較(Immunogenicity and safety of defective Vaccinia virus lister: Comparison with modified Vaccinia virus Ankara)」、J.Virol 2002;76(15):7713−23)、Acam3000(アクセッション番号 AY603355)、MVA−ATCC(ATCC VR−1508)、MVATGN33.1(アクセッション番号 EF675191)、MVA−I721(アクセッション番号 DQ983236)から成るグループから選ばれたMVAウイルスのゲノム又はその一部である。
【0017】
本発明の別の実施形態において、本発明によるベクターは、ゲノムまたはそれのワクシニアウイルスウエスタンリザーブ(アクセッション番号 NC006998)、ワクシニアウイルスワイス(例えばFoggら、「細胞内及び細胞外ビリオンの複数の組換え外膜蛋白による予防接種によって誘導されたウイルス(Virus induced by Vaccination with multiple recombinant outer membrane proteins of intracellular and extracellular virions)」、J.Virol.2004;78 (19):10230−37)、ワクシニアウイルスリスター(アクセッション番号DQ191324)、NYCBH(ニューヨーク市保健局、New York City Board of Health);CDC(疾病管理・予防センター、Centers for Disease Control and Prevention)、免疫化習慣諮問委員会(ACIP)推薦ワクシニア(天然痘)ワクチン、Morbidity and Mortality Weekyl Report 、40(R14):1−10、1991.)、カナリア痘(アクセッション番号 005309及びAY318871)、鶏痘(アクセッション番号 581527)、ワクシニアウイルスコペンハーゲン(アクセッション番号 M35027)NYVAC、ALVAC、TROVAC(Paolettiら、「高減衰ポックスウイルスベクター:NYVAC、ALVAC、TROVAC(Highly attenuated poxvirus vectors: NYVAC, ALVAC, TROVAC)」、Dev.Biol.Stand.1995、84:159−63)から成るグループから選ばれたポックスウイルスの一部である。
【0018】
ここで用いられる用語「レポーター遺伝子」は、速やかに検出、同定、又は測定することが可能であるそれらを発現して細胞又は生物体に明確な特性を与える遺伝子を意味する。レポーター遺伝子は、興味対象の遺伝子が組込まれているか、或は発現されているかを細胞又は生物体の数によって決定するために一般的に用いられる。本発明の構成において、レポーター遺伝子からの発現産物の検出は、相同組換えが起こっておらず、また、興味対象の遺伝子がウイルスベクターに順調に挿入されていないことを示す。一般に、如何なるレポーター遺伝子も、本発明の元来(オリジナル、original)のベクターで構成される細胞と相同組換えが生じたベクターで構成される細胞との分離を許容するために利用することができる。本発明における使用に好適なレポーター遺伝子の非限定例は、視覚的に確認可能な特性(例えば、蛍光を含む)を誘導することができるレポーター遺伝子を含み、その特性によって分離可能とする。例えば、FACS及びクラゲの緑色発光性蛋白質(GFP)をコードする遺伝子、増強されたGFP(eGFP)、mPlum、mCherry、tdTomato、mStrawberry、mRaspberry、mRFPl、mTangerine、mYFP(Tsien)、J−Red、AceGFP、CopGFP、HcRed−tandem、PhiYFP(Evrogen)、DsRed、DsRed2、DsRed−Express、DsRed―monomer、EGFPAcGFPl、AmCyanl、AsRed2、EBFP、HcRedl、ZsYellowl(Clontech)、mKO、Azami−Green、mAG、Kaede、MiCy(MBL Intl.)、Venus(Miyawaki)、Ypet、CyPer(Dougherty)、EYFP、Emerald(Invitrogen)、Cerulean(Priston)T−Sapphire(Griesbeck)、AQ143(Lukyanov)、cOFP(Stratagene)、eqFP611(Weidenmann)、Renilla GFPs(様々な供給元、例えばStratagene)、ルシフェラーゼ遺伝子又はlacZ遺伝子をコードする遺伝子などである。本発明の一つの実施形態において、レポーター遺伝子は、蛍光をコードする遺伝子である。
【0019】
レポーター遺伝子のさらなる非限定例は、特異的な抗体が存在しており、また、宿主細胞の表面に表れる蛋白質をコードする遺伝子を含む。そのようなレポーター遺伝子は、親和性精製、例えば、抗体で覆われた樹脂又は前記抗体で覆われた磁気ビーズで構成されたカラムによって、本発明のオリジナルベクターで構成された細胞と相同組換えが起こったベクターで構成された細胞との分離を許容する。ここで前記抗体は、レポーター遺伝子によってコード化された蛋白質に対して特異的なものである。特異的な実施形態において、前記レポーター遺伝子は、細胞表面の受容体と細胞表面に表れるような親和性タグとの融合遺伝子をコードする。当業者は、一般的に用いられる様々な親和性タグ及び対応するリガンドを良く知っている。さらに特異的な実施形態において、前記遺伝子は、細胞表面の受容体の融合遺伝子をコードし、融合親和性タグは、FLAG−タグ(N−DYKDDDDK−C)、エピトープ−タグ、V5−タグ、c−myc−タグ、His−タグ、及び/又はHA−タグから成る群から選定される。さらなる実施形態において、前記レポーター遺伝子は、アルファウイルス(Alphavirus)E1及びE2、フラビウイルス(Flavivirus)E1及びE2、コロナウイルス(Coronavirus)S、HE、M及びE、アルテリウイルス(Arterivirus)GP、ラブドウイルス(Rhabdovirus)G、フィロウイルス(Filovirus)GP、パラミクソウイルス(Paramyxovirus)F、HN、H及びG、オルソミクソウイルス(Orthomyxovirus)M2、NA、HA及びHEF、ブンヤウイルス(Bunyavirus)Gn及びGc、アレナウイルス(Arenavirus)GP、ボルナウイルス(Bornavirus)G、レトロウイルス(Retrovirus)Env、ヘパドナウイルス(Hepadnavirus)S、M、及びLから成る群から選定された小さなウイルス表面蛋白質をコードする。
【0020】
ここで用いられる用語「選択性要素(選択性コンポーネント、selection component)」は、そのような選択性要素で構成される宿主細胞に淘汰圧(selection pressure)を発揮するために利用され得る如何なる核酸をも指す。一つの実施形態において、淘汰圧は、宿主細胞においてウイルス複製を抑制するか、又は遅延させる選択性遺伝子の発現によって発揮される。別の実施形態において、淘汰圧は、宿主細胞を死滅に導く選択性遺伝子の発現によって発揮される。一つの実施形態において、選択性要素は、その発現が誘導性である少なくとも一つの選択性遺伝子を備える。特異的な実施形態において、前記発現の誘導は、制御配列、例えば、プロモーターによって制御される。さらなる実施形態において、前記選択性要素は、前記選択性遺伝子の発現を調節する細菌誘導系(bacterial inducible system)をさらに備える。一つの特異的な実施形態において、細菌誘導系は、選択性遺伝子がリプレッサー結合部位に融合されるプロモーターの制御下にあり、選択性要素がリプレッサー結合部位に結合するリプレッサーをコードする遺伝子をさらに備えることを特徴としている。さらに特異的な実施形態において、前記リプレッサー結合部位は、テトラサイクリンリプレッサー結合部位/オペレーター(TetO2)であり、また、リプレッサーをコードする前記遺伝子は、pcDNA6TRプラスミド(インビトロジェン社(Invitrogen)から入手可能である)から分離され得るテトラサイクリンリプレッサー遺伝子(TetR)である。さらなる実施形態において、選択性要素は、選択性遺伝子の発現を調節する哺乳類誘導系(システム)をさらに備える。特異的な実施形態において、前記哺乳類誘導系は、RheoSwitch(ニューイングランドバイオラボ社、New England Biolabs)システムである。さらに特異的な実施形態において、前記誘導系は、LentiXシステム(クロンテック社、Clontech)、Q−メイトシステム(Q−mate system、Krackeler Scientific社)、Cumate誘導性発現システム(Cumate−inducible expression system、NRCカナダ)、及び/又はGenostatシステム(Upstate)から成る群から選定される。
【0021】
本発明のさらなる実施形態において、選択性遺伝子は細胞障害性の遺伝子である。ここで用いられる用語「細胞障害性遺伝子(cytotoxic gene)」は、その発現が宿主細胞の損失又は完全なアポトーシスを導き、前記宿主細胞の損失又は完全なアポトーシスは、発現した遺伝子自体によって、及び、発現された遺伝子産物と宿主細胞に天然に存在するコンポーネント(例えば、宿主細胞のDNA、RNA、プロテアソーム、細胞膜、又は代謝産物)との直接の相互作用にただ関与することによって引き起こされる如何なる遺伝子をも指す。特異的な実施形態において、細胞障害性の遺伝子は、DNase(例えばインビトロジェンから入手可能である;ORFクローンpENTR221、クローンID IOH23149)、RNase、プロテアーゼ、イオンチャンネル、又はカスパーゼ及び/又はROSのようなアポトーシス誘導因子をコードする。
【0022】
ここで用いられる用語「挿入(物)」又は「興味対象物の挿入(insert of interest)」は、相同組換えによって本発明のベクターに導入される如何なる核酸も指す。一つの実施形態において、挿入物は、本発明のベクターで相同組換えが起きることを許容する、フランキング配列に隣接する少なくとも一つの異種遺伝子を備える。本発明の特異的な実施形態において、少なくとも一つの異種遺伝子が、制御配列、好ましくはプロモーターの制御下にある。
【0023】
興味対象物の挿入の例を図2に示した。ここで、挿入物は、宿主細胞を形質移入するために用いられ、lacプロモータの制御下で二つのフランキング領域とLacZ遺伝子から成るプラスミドベクターで構成されている。特異的な実施形態において、異種遺伝子は、少なくとも一つの抗原、好ましくは、患者に免疫応答を引き起こすことが可能な抗原をコードする。特異的な実施形態において、異種遺伝子は、異種ウイルスの抗原、細菌の抗原、原核生物の抗原、真菌類の抗原、及び/又は蠕虫類(helminth)の抗原から成る群から選ばれた抗原をコードする。特定の実施形態において、異種遺伝子は、下記から成る群から選ばれた種の抗原をコードする。すなわち、インフルエンザウイルス(Influenza virus )A,B,C,肝炎ウイルス(Hepatitis virus)A,B,C,E,ヒト免疫不全ウィルス(Human Immunodeficiency virus),ルベラウイルス(Rubella virus),ムンプスウイルス(Mumps virus),ラビースウイルス(Rabies virus),ヒトパピローマウイルス(Human papilloma virus),エプスタインバーウイルス(Epstein Barr virus),チックボーンウイルス (Tickborne virus),クリミアコンゴ出血熱ウイルス(Crimean Kongo Fever virus),エボラ出血熱ウイルス(Ebola virus),ニパーウイルス(Nipah virus),デングウイルス(Dengue virus),チクングニヤウイルス(Chikungunya virus),エンテロウイルス(Enterovirus),西ナイルウィルス(West Nile virus),リフトバレー熱ウイルス(Rift Valley Fever virus),日本脳炎ウイルス(Japanese encephalitis virus),ハンタウイルス(Hantavirus),ロタウイルス(Rotavirus),SARSコロナウイルス(SARS Coronavirus),ニューエマージングウイルス(New Emerging viruses),クラミジア トラコーマティス(Chlamydia trachomatis),クロストリジウム ボツリヌム(Clostridium botulinum),クロストリジウム テタニ(Clostridium tetani),バチルス アントラシス(Bacillus anthracis),レジオネラ ニューモフィラ(Legionella pneumophila),ナイセリア メニンギティディス(Neisseria meningitidis) (メニゴコッカス、Menigococcus),エルシニア ペスチス(Yersinia pestis),マイコバクテリウム ツベルクローシス(Mycobacterium tuberculosis),マイコバクテリウム レプラエ(Mycobacterium leprae),サルモネラ チフィ(Salmonella typhi),リステリア モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes),ビブリオ コレラ(Vibrio cholerae),ヘモフィラス インフルエンザエ(Haemophilus influenzae),ボルデテラ パータシス(Bordetella pertussis),ヘリコバクター ピロリ(Helicobacter pylori),ボレリア属spp.(Borrelia spp.)(レカレンティス:recurrentis、ヒスパニカ:hispanica、パーケリ:parkeri、ブルグドルフェリ:burgdorferi)、レプトスピラ インテロガンス(Leptospira interrogans),リケッチア属spp.(Rickettsia spp.),コクシエラ ブルネッティー(Coxiella burnettii),マイコプラズマ ニューモニア(Mycoplasma pneumonia),コリネバクテリウム ジフテリエ(Corynebacterium diphtheriae),トレポネーマ パリダム(Treponema pallidum),プラスモジウム ファルシパラム(Plasmodium falciparum),プラスモジウム ビバックス(Plasmodium vivax),プラスモジウム オバーレ(Plasmodium ovale),プラスモジウム マラリエ(Plasmodium malariae),エントアメーバ ヒストリチカ(Entamoeba hystolytica),ジアルジア インテステナリス(Giardia intestinalis),トリパノソーマ ブルセイ(Trypanosoma brucei),リーシュマニア属spp.(Leishmania spp.),ヒストプラズマ カプスラータム(Histoplasma capsulatum),アスペルギルス属spp.(Aspergillus spp.),カンジダ アルビカンス(Candida albicans),クリプトコッカス ネオフォルマンス(Cryptococcus neoformans),ニューモシスチス カリニ(Pneumocystis carinii),ウケレリア バンクロフティ(Wuchereria bancrofti),シストソーマ マンソーニ(Schistosoma mansoni) 及び/又は トキソプラズマ ゴンディ(Toxoplasma gondii)である。
【0024】
さらに特異的な実施形態において、異種遺伝子は、感染症(例えば、ウイルスと細菌の表面蛋白)に対して、又は癌細胞(例えば子宮頚癌、メラノーマ、多発性骨髄腫、乳癌、前立腺癌、濾胞性B細胞非ホジキンリンパ腫、及び/又は腎臓癌の細胞)に対して防御、又は治療できる免疫応答を引き起こす少なくとも一つの抗原をコードする。
【0025】
[本発明のベクター]
第1の局面において、本発明は相同組換えのために二つのフランキング配列の間に配置されている少なくとも一つのレポーター遺伝子で構成された修飾ポックスウイルスベクターに関する。レポーター遺伝子は、修飾ポックスウイルスベクターで感染された宿主細胞において、相同組換えを介して興味対象物の挿入によって置き換えられるであろう。従って、相同組換えが起こった本発明の修飾ポックスウイルスベクターを備えた宿主細胞は、そのような相同組換えが起こらなかった修飾ポックスウイルスベクターで構成されたそれらの宿主細胞と区別することができる。これは、レポーター遺伝子によってコードされた蛋白質を検出することによって遂行することができる。例えば、レポーター遺伝子がGFPまたはazami緑色蛋白質をコード化するならば、GFPまたはazami緑色蛋白質のための遺伝情報がベクターから相同組換え事象によって除去され、興味対象物の挿入で置き換えられているので、相同組換えが起こった本発明の修飾ポックスウイルスベクターで構成された宿主細胞は、GFPまたはazami緑色蛋白質を産生しないこととなる。以上のように、そのような宿主細胞は励起における蛍光を示さないこととなり、例えば、活性化された蛍光セルソーター(FACS)によって、蛍光を発する細胞から分離することができる。
【0026】
一つの実施形態において、レポーター遺伝子は、プロモーター、好ましくはウイルスプロモーター、さらに好ましくはワクシニアウイルスプロモーター、または合成のプロモーターの制御下にある。別の実施形態において、プロモーターは、強力なプロモーター、好ましくは、強力な合成のプロモーターである。特異的な実施形態において、プロモーターは、AAAAATTGAAATTTTATTTTTTTTTTTTGGAATATAAATAの配列を有しているPsプロモーターである(Sekhar Chakrabarti,Jerry R.Sisler and Bernard Moss,「 蛋白質発現のための、コンパクトな合成のワクシニアウイルス初期/後期プロモーター〔Compact,synthetic,Vaccinia Virus Early/Late Promoter for Protein Expression.〕 」,Biotechniques 23:1094−1097,1997)。
別の特異的な実施形態において、プロモーターは、AAAAAATGAAAATAAATACAAAGGTT CTTGAGGGTTGTGTTAAATTGAAAGCGAGAAATAATCATAAATTの配列を有している修飾(改変)されたH5プロモーターである;Rosel JL,Earl PL,Wek JP,Moss B,「 HindIII H ゲノムフラグメントの構造及び機能解析により推定されたワクシニアウイルス後期遺伝子の転写及び翻訳開始部位における保存されたTAAATG配列〔Conserved TAAATG sequence at the transcriptional and translational initiation sites of vaccinia virus late genes deduced by structural and functional analysis of the HindIII H genome fragment〕 」,J.Virol.60(2):236−249,1986。
【0027】
さらなる実施形態において、レポーター遺伝子は、蛍光性の蛋白質をコード化する。
「空」ベクター(すなわち、如何なる組換えイベントも生じなかったベクター)は、レポーター遺伝子を発現し、従って、そのようなベクターで構成された細胞は蛍光を発することができる。許容細胞における相同組換えはレポーター遺伝子の除去を導き、この手順は、宿主細胞において蛍光を発することがない興味対象物の挿入を含んでいる組換えベクターが結果として生じる。特異的な実施形態において、蛍光性の蛋白質は、GFP、強化されたGFP(eGFP)、またはazami緑色蛋白質(MBLインターナショナル社、ウォバーン、マサチューセッツ、米国から入手可能で、また、MoBiTec社、Goetttingen、ドイツによって供給される)である。
【0028】
さらなる局面において、本発明のベクターは、同様に相同組換えのために二つのフランキング配列の間に位置している少なくとも一つの選択性要素をさらに含む。一つの実施形態において、レポーター遺伝子と選択性要素は、相同組換えを許容する一以上の対を成すフランキング配列の間に位置している。別の実施形態において、選択性要素は、発現が誘導性の選択性遺伝子から成っている。さらなる実施形態において、選択性要素は、選択性遺伝子の発現を調節する細菌誘導系(細菌の誘導性のシステム)をさらに含む。一つの特異的な実施形態において、細菌誘導系は、リプレッサー結合部位に融合するプロモーターの制御下で、選択性要素が、リプレッサー結合部位に結合するリプレッサーをコードする遺伝子をさらに含むことを特徴とする。さらなる特異的な実施形態において、リプレッサー結合部位はテトラサイクリンリプレッサー結合部位/オペレーター(TetO2)であり、リプレッサーをコードする遺伝子は、pcDNA6TRプラスミド(インビトロジェンから入手可能である)から分離することができるテトラサイクリンリプレッサー遺伝子(TetR)である。宿主細胞の形質移入において、リプレッサーは細胞内で発現され、また、選択性遺伝子の発現を抑制するために選択性遺伝子の上流で選択性要素のリプレッサー結合部位に結合する。さらに特異的な実施形態において、リプレッサー結合部位は、テトラサイクリンリプレッサー結合部位/オペレーター(TetO2)であり、また、リプレッサーをコードする前記遺伝子は、pcDNA6TRプラスミド(インビトロジェン社(Invitrogen)から入手可能である)から分離され得るテトラサイクリンリプレッサー遺伝子(TetR)である。テトラサイクリンがシステムに添加されたら、テトラサイクリンがテトラサイクリンリプレッサーに結合し、次々、選択性遺伝子の発現を引き起こしているDNA上の結合部位から直ちに脱離する。選択性遺伝子の発現がテトラサイクリンの添加に依存しているので、その結果として、選択性遺伝子の発現は誘導性を与える。さらなる実施形態において、選択性遺伝子とリプレッサーをコードする遺伝子の発現を制御するプロモーターは、ウイルスプロモーター、ワクシニアウイルスプロモーターであり、最も好ましくは、Psプロモーターまたは修飾されたH5プロモーターのような強力な合成のプロモーターである。
【0029】
本発明のさらなる実施形態において、選択性要素は、発現によって、宿主細胞内でウイルス複製を抑制するか、又は遅らせる選択性遺伝子から成っている。選択性遺伝子が誘導される場合、これは、相同組換えが生じた本発明のベクターから成っているウイルスの改善された選択を可能にし、選択性要素とレポーター遺伝子は、興味対象挿入物で置き換えられた。その結果、相同組換えが生じたベクターから成っている宿主細胞は、相同組換えが起こらなかった宿主細胞より多くの複製された組換えウイルスを内部に保有する。さらに、ウイルス複製の抑制物が発現されて、ウイルス複製の減少、又は、完全な禁止さえも導いている。従って、興味対象の挿入物なしのゲノムで構成されたウイルスに対して興味対象の挿入物を含むゲノムで構成されたウイルスを産生する比率は、前者を有利とするように著しくシフトされる。従って、システムは、パーセンテージとして、興味対象の挿入物を有して成るウイルスを改善された収率で産生するように処理し得る。特定の実施形態において、選択性遺伝子は、RNase、イオンチャンネル又はDNAase(インビトロジェン社から入手可能である;ORFクローンpENTR221、クローンID IOH23149))である。
【0030】
本発明のさらなる実施形態において、選択性要素は、細胞障害性遺伝子(すなわち、発現すると、宿主細胞の減少又は完全なアポトーシスを引き起こす何れかの遺伝子)である。特異的な実施形態において、細胞障害性遺伝子は、デオキシリボヌクレアーゼ(DNase)、リボヌクレアーゼ(RNase)、プロテアーゼ、イオンチャンネル、又はアポトーシス誘導物(inducer)をコードする。
【0031】
本発明によれば、興味対象挿入物を含んで成る本発明の組換えベクターを内部に保有している宿主細胞はレポーター遺伝子だけによって選択、分離し得ることから、選択性要素は本発明の任意選択的な(optional)実施形態である。一方、レポーター遺伝子はそのような組換えベクターの検出、及び/又は選択に必須であり、選択性要素の任意選択的な誘導性の発現は、例えば、ベクター産生の一代、又は複数代の継代のために使用し得る。
【0032】
特定の実施形態において、興味対象物の挿入で構成されている本発明の組換えベクターを内部に保有していない宿主細胞が選択性要素の誘導によってウイルスの産生を低減又は全く無くする(又は、完全に死滅される)ように、選択性要素は、例えば、興味対象物の挿入で構成されている組換えポックスウイルスの産生を顕著に促進し得る。この場合に、レポーター遺伝子及び選択性要素を含有している本発明の組換えベクターは、テトラサイクリンに対して感受性の「空」ベクターの発現により結果的に蛍光を生じ、そして、テトラサイクリン非感受性の組換えベクターは如何なる蛍光も欠いている。換言すれば、空ベクターを含有している細胞のみが蛍光を発し、従って、プラーク採取(plaque picking)又はFACSソーティング(sorting)を含む技術により、非組換え体を分離し得る。予め選択性要素の発現が誘導される場合には、空ベクターを内部に保有している細胞の数が、分離に先がけて、劇的且つ有利に減らされることから、分離は顕著に改善された方法で実行し得ることとなる。
【0033】
本発明のさらなる実施形態において、フランキング領域は相同組換えを許容する。相同組換えは、一般的には、核酸鎖の間の物質交換の結果生じ、類似配列の整列化(alignment)、ホリデイジャンクションの形成、及び核酸の破壊や修復(修復能(resolution)として知られる)に関与している。従って、相同組換えを許容するために充分類似する如何なるフランキング領域も本発明に包含される。特異的な実施形態において、フランキング領域同士は同等である。さらに特異的な実施形態において、フランキング領域は、50〜1000塩基対(bp)のサイズを有し、好ましくは100〜1000bpのサイズを有する。
【0034】
特定の実施形態において、組換えポックスウイルスベクターのフランキング領域は、MVAゲノムの除去部位(deletion site)の上流と下流に隣接する領域である。特異的な実施形態において、フランキング領域は、MVAゲノムの除去部位I、II、III、IV、V、又はVIの上流と下流に隣接する50〜1000bp、好ましくは100〜1000bpの領域である(MVA ゲノムポジション:Del I:7608/7609,Del II:20718/20719;Del III:149341/149342;Del IV:170480;Del V:19754/19755;Del VI 9831/9832)。配列番号2〜7は、夫々、除去部位I〜VIのフランキング領域を示し、前記除去部位を中心とする周囲が本発明に使用し得る。一例として、配列番号2は、2002bpの配列であり、MVAゲノムの除去部位Iの周囲が中央に位置されている(ポジション 7608/7609)。したがって、配列番号2のポジション1001/1002は、MVAゲノムのポジション7608/7609と一致している。したがって、本発明の一つの特異的な実施形態におけるフランキング領域は、配列番号2のポジション1001の上流50〜1000bp及び配列番号2のポジション1002の下流50〜1000bpである。
【0035】
別の特異的な実施形態において、組換えポックスウイルスベクターのフランキング領域は、挿入部位がポックスウイルスの非コード領域内に位置するように選択される。ポックスウイルスの非コード領域は、様々な長さであり、約100bpから1000bp以上で構成し得る。そのような非コード領域の夫々のヌクレオチドは、挿入部位として選択することができる。本発明によるフランキング領域は、50〜1000bp、好ましくは100〜1000bpであり、非コード領域内に位置する選択された挿入部位の上流及び下流である。例えば、非コード領域が1000bpの長さを有し、挿入部位がポジション500と501との間に選定される場合、本発明によるフランキング領域は、ポジション500から上流50〜1000bp及びポジション501から下流50〜1000bpとすることができる。特異的な実施形態において、非コード領域はMVAの非コード領域である。さらに特異的な実施形態において、非コード領域は、MVAの以下に示す何れかの遺伝子間のヌクレオチド配列である(Gen Bank アクセッション# U94848):001L−002L、002L−003L、005R−006L、006L−007R、007R−008L、017L−018L、018L−019L、020L−021L、023L−024L、024L−025L、025L−026L、028R−029L、030L−031L、031L−032L、032L−033L、035L−036L、036L−037L、037L−038L、039L−042L、043L−044L、044L−045L、046L−047L、049L−050L、050L−051L、051L−052L、052R−053R、053R−054R、054R−055R、055R−056L、056L−057R、061L−062L、064L−065L、065L−066L、066L−067L、077L−078R、078R−079L、080R−081L、085R−086R、086R−087R、088R−089L、089L−090R、094L−095R、096R−097R、097R−098R、101R−102R、103R−104R、105L−106R、108L−109L、109L−110L、110L−111L、113L−114L、114L−115L、115L−116R、117L−118L、118L−119R、123L−124L、124L−125L、125L−126L、133R−134R、134R−135R、137L−138L、141L−142R、143L−144R、144R−145R、145R−146R、146R−147R、147R−148R、148R−149L、152R−153L、153L−154R、154R−155R、156R−157L、157L−158R、159R−160L、160L−161R、161R−162R、165R−166R、166R−167R、170R−173R、173R−174R、174R−175R、175R−176R、176R−177R、178R−179R、179R−180R、180R−181R、183R−184R、184R−185L、185L−186R、186R−187R、187R−188R 及び/又は188R−189R.
【0036】
別の特異的な実施形態において、組換えポックスウイルスベクターのフランキング領域は、挿入部位がポックスウイルスの非必須遺伝子内に位置するように選択される。与えられたポックスウイルスの生産的な複製のために、それ(遺伝子)が必要とされていない場合、遺伝子は、非必須遺伝子であると考えられる。特異的な実施形態において、非必須遺伝子は、チミジンキナーゼ遺伝子(=Tk;Scheiflinger F.et al.,「高度に弱毒化されたワクシニアMVA株における挿入部位としてのチミジンキナーゼローカスの評価〔Evaluation of the thymidine kinase (tk)locus as an insertion site in the highly attenuated vaccinia MVA strain〕 」,Arch.Virol.1996,141(3−4):663−9.)、赤血球凝集素遺伝子(=HA;Antoine G.et al.,「ワクシニアMVA赤血球凝集素遺伝子ローカス及び外来性遺伝子の挿入部位としての評価〔Characterization of the vaccinia MVA hemagglutinin gene locus and its evaluation as an insertion site for foreign genes〕 」,Gene,1996 Oct 24;177、(1−2):43−6)、I4Lをコードするリボヌクレオチド還元酵素(Howley PM et al.,「GUS レポーター遺伝子を用いI4Lローカスに挿入されたワクシニアウイルストランスファーベクター〔A Vaccinia Virus transfer vector using a GUS reporter gene inserted into the I4L locus〕 」,Gene,1996 Jun 26;172(2):233−7)、E3L(Langland JO&Jacobs BL, 「PKR−抑制性遺伝子、E3L及びK3Lの、ワクシニアウイルス宿主域の決定における役割〔The role of the PKR−inhibitory genes,E3L and K3L,in determining vaccinia virus host range〕 」,Virology,2002 Jul 20;299(1):133−41), KlL(Staib C. et al.,「組換えMVA及びその産生方法〔Recombinant MVA and method for generation thereof〕 」,EPl594970,2005 November 16)及びATI遺伝子(Wintersperger S. et al.,「ポックスウイルスゲノムへの異種配列組み込みのためのベクター〔Vector for integration of heterologous sequences into poxviral genomes〕 」,2002 Feb 20)から成る群から選ばれる。さらに特異的な実施形態において、非必須遺伝子は、MVAからの遺伝子であり、032L(リボヌクレオチド還元酵素)、137L(機能未知)、166R(グアニル酸塩キナーゼ断片)、170(機能未知)、188R(機能未知)、及び189R(機能未知)から選ばれる。
【0037】
本発明の別の実施形態において、ポックスウイルスはワクシニアウイルスである。さらなる実施形態において、ポックスウイルスはMVAである。
【0038】
さらなる局面において、本発明は本発明の修飾ポックスウイルスベクターを内部に保有している細胞に関する。一般に、全ての細胞は、本発明が包含する修飾ポックスウイルスベクターの受け入れを許容し得る。好ましくは、細胞は真核細胞である。特定の実施形態において、細胞は哺乳動物又は鳥類の細胞である。特異的な実施形態において、細胞は鶏胚線維芽細胞(CEF)細胞である。さらなる実施形態において、細胞は単離されたヒト細胞である。
【0039】
さらなる局面において、本発明は本発明による修飾ポックスウイルスベクターの産生に用いられる新規プラスミド及びベクターを対象とする。従って、本発明は、配列番号15〜23より成る群から選ばれた核酸又はその相補体、或は、少なくとも40%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、95%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、98.5%、99%、99.5%、99.7%、99.8%、99.9%の配列相同性を有する断片又は相同的な核酸をもまた包含する。ここで、前記断片は、配列番号15〜23より成る群から選ばれた夫々の核酸の少なくとも40%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、95%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、98.5%、99%、99.5%、99.7%、99.8%、99.9%の長さを有する。
【0040】
[本発明の方法]
さらなる局面において、本発明は組換えポックスウイルスを産生するための方法を対象とし、ここで本発明の修飾ポックスウイルスベクターを許容する宿主細胞が、前記ベクターで形質移入され、さらには、宿主細胞内でベクターとプラスミドの間で相同組換えを許容する条件下、興味対象の異種遺伝物質を備えて成るプラスミドによって形質移入される。前記修飾ポックスウイルスベクターとプラスミドの両方は、必ず、そのような相同組換えが生じることを許容するために充分類似しているフランキング配列を備えて成る。さらに、修飾ポックスウイルスベクターは、レポーター遺伝子を運び、ある実施形態において、上述のような選択性要素は前記フランキング領域の間に、一方、プラスミドは前記興味対象の異種遺伝物質を前記フランキング領域の間に運ぶ。したがって、興味対象の異種遺伝物質によるレポーター遺伝子(そして、存在するならば選択性要素)の置き換えを介し、修飾ポックスウイルスベクターとプラスミドの間の相同組換えが本発明の組換えベクターを産生する。
【0041】
ある実施形態において、前記方法は、選択性要素を備えて成る本発明の修飾ポックスウイルスベクターを利用し、宿主細胞内において選択性遺伝子の発現を誘導する追加の段階(ステップ)をさらに含む。選択性遺伝子発現の誘導は、使用される誘導性の選択性要素に依存する。一例として、そして特異的な実施形態において、選択性要素は、上述のような細菌誘導性のテトラサイクリンリプレッサー結合部位/オペレーター(TetO2)の調節制御下で発現されるDNase蛋白質をコード化する選択性遺伝子を備えている。誘導は、直ちにDNA上の結合部位から脱離するテトラサイクリンリプレッサーと結合するテトラサイクリンの添加により実行され、これがウイルス複製を抑制するDNaseの発現を次々に許容する。この誘導は、興味対象の挿入遺伝子を備えていない修飾ポックスウイルスベクターを有して成る宿主細胞に関連する組換えベクターを備えている宿主細胞の望ましい選択をもたらす。
【0042】
さらなる実施形態において、本発明の方法は、非組換えの修飾ポックスウイルスベクターを有して成る宿主細胞から組換えベクターを備えている宿主細胞を分離する付加的段階(ステップ)をさらに含む。特定の実施例において、この分離は発現されたレポーター遺伝子の遺伝子産物によって実行される。一つの実施形態において、レポーター遺伝子は蛍光性蛋白質をコードし、分離はFACS及び付属のセルソーターを用いて実行される。別の実施形態において、レポーター遺伝子は、細胞表面上で発現され、抗体が存在している任意の蛋白質である。分離は、そのとき、磁気ビーズを前記抗体でコーティングし、二つの細胞集団を分離するため前記磁気ビーズに細胞を接触させることによって達成される。別の実施形態において、抗体は、樹脂に付着され、二つの細胞集団を分離するためにカラム内で用いられる。
【0043】
また別の実施形態において、分離されており組換えベクターを有して成る宿主細胞は、新鮮な宿主細胞で少なくとも一代を追加継代するように用いられる。したがって、組換えベクターを内部に保有している細胞の数、それから産生された組換えポックスウイルス粒子の数は顕著に増大する。特定の実施形態において、組換えポックスウイルスの、少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、又は10代のさらなる継代が実行される。特異的な実施形態において、組換えポックスウイルスの6代のさらなる継代が実行される。さらなる実施形態において、前記方法は、選択性遺伝子の発現を誘導する段階(ステップ)を含む。
【0044】
本発明による方法のさらなる実施形態において、ポックスウイルスはワクシニアウイルス又はMVAである。
【0045】
産生された組換えポックスウイルスは、平均的な当業者に知られている如何なる適切な手法、例えば、遠心分離によって分離し得る。
【0046】
[本発明の医学的利用]
さらなる局面において、本発明は、本発明による修飾されたポックスウイルス、本発明による組換えポックスウイルス、又は、本発明による修飾された或は組換えのポックスウイルスを有して成る細胞の薬物(medicament)としての使用を対象とする。特異的な実施形態において、インスタントの(instant)本発明の薬物は、治療又は予防用ワクチンとしての使用に有利である。
【0047】
別の実施形態において、本発明は、本発明による修飾されたポックスウイルス、本発明による組換えポックスウイルス、又は、本発明による修飾された或は組換えのポックスウイルスを有して成る細胞について、下記から成る群から選ばれた種による感染の処置及び/又は予防のための薬物としての使用を対象とする。すなわち、群は、インフルエンザウイルスA,B,C,肝炎ウイルスA,B,C,E,ヒト免疫不全ウィルス,ルベラウイルス,ムンプスウイルス,ラビースウイルス,ヒトパピローマウイルス,エプスタインバーウイルス,チックボーンウイルス,クリミアコンゴ出血熱ウイルス,エボラ出血熱ウイルス,ニパーウイルス,デングウイルス,チクングニヤウイルス,エンテロウイルス,西ナイルウィルス,リフトバレー熱ウイルス,日本脳炎ウイルス,ハンタウイルス,ロタウイルス,SARSコロナウイルス,エマージングウイルス,クラミジア トラコーマティス(Chlamydia trachomatis),クロストリジウム ボツリヌム(Clostridium botulinum),クロストリジウム テタニ(Clostridium tetani),バチルス アントラシス(Bacillus anthracis),レジオネラ ニューモフィラ(Legionella pneumophila),ナイセリア メニンギティディス(Neisseria meningitidis) (メニゴコッカス、Menigococcus),エルシニア ペスチス(Yersinia pestis),マイコバクテリウム ツベルクローシス(Mycobacterium tuberculosis),マイコバクテリウム レプラエ(Mycobacterium leprae),サルモネラ チフィ(Salmonella typhi),リステリア モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes),ビブリオ コレラ(Vibrio cholerae),ヘモフィラス インフルエンザエ(Haemophilus influenzae),ボルデテラ パータシス(Bordetella pertussis),ヘリコバクター ピロリ(Helicobacter pylori),ボレリア属spp.(Borrelia spp.)(レカレンティス:recurrentis、ヒスパニカ:hispanica、パーケリ:parkeri、ブルグドルフェリ:burgdorferi)、レプトスピラ インテロガンス(Leptospira interrogans),リケッチア属spp.(Rickettsia spp.),コクシエラ ブルネッティー(Coxiella burnettii),マイコプラズマ ニューモニア(Mycoplasma pneumonia),コリネバクテリウム ジフテリエ(Corynebacterium diphtheriae),トレポネーマ パリダム(Treponema pallidum),プラスモジウム ファルシパラム(Plasmodium falciparum),プラスモジウム ビバックス(Plasmodium vivax),プラスモジウム オバーレ(Plasmodium ovale),プラスモジウム マラリエ(Plasmodium malariae),エントアメーバ ヒストリチカ(Entamoeba hystolytica),ジアルジア インテステナリス(Giardia intestinalis),トリパノソーマ ブルセイ(Trypanosoma brucei),リーシュマニア属spp.(Leishmania spp.),ヒストプラズマ カプスラータム(Histoplasma capsulatum),アスペルギルス属spp.(Aspergillus spp.),カンジダ アルビカンス(Candida albicans),クリプトコッカス ネオフォルマンス(Cryptococcus neoformans),ニューモシスチス カリニ(Pneumocystis carinii),ウケレリア バンクロフティ(Wuchereria bancrofti),シストソーマ マンソーニ(Schistosoma mansoni) 及び/又は トキソプラズマ ゴンディ(Toxoplasma gondii)。
さらに特異的な実施形態において、前記薬物は、これらの種の何れかによって引き起こされた疾患又は徴候の処置に用いられる。特定の実施形態において、疾患は、インフルエンザ、肝炎、後天性免疫不全症候群、流行性耳下腺炎、狂犬病、脳炎、胃又は十二指腸潰瘍、マラリア、睡眠病、ライム病、反応性関節炎、肺炎、ハンセン病、ジフテリア、カンジダ症、及び/又はトキソプラズマ症である。
【0048】
さらなる実施形態において、本発明は、本発明による修飾されたポックスウイルス、本発明による組換えポックスウイルス、又は、本発明による修飾された或は組換えのポックスウイルスを有して成る細胞について、癌の処置及び/又は予防のための薬物としての使用を対象とする。特異的な実施形態において、前記癌は、子宮頚癌、メラノーマ、多発性骨髄腫、乳癌、前立腺癌、濾胞性B細胞非ホジキンリンパ腫、及び/又は腎臓癌から成る群から選ばれる。
【0049】
本発明の一つの実施形態において、前記薬物は、ワクチン接種を要する患者を処置するために用いられる。本発明の別の実施形態において、抗原をコードする少なくとも一つの遺伝子を有して成る本発明による組換えポックスウイルス又は前記組換えポックスウイルスを備えている細胞はワクチン接種を要する患者において免疫応答を誘導することが可能である。特異的な実施形態において、抗原は、異種ウイルスの抗原、細菌の抗原、原核生物の抗原、真菌類の抗原、及び/又は蠕虫類の抗原から成る群から選ばれる。特定の実施形態において、抗原は、下記から成る群から選ばれた種の抗原である。すなわち、インフルエンザウイルス A,B,C,肝炎ウイルス A,B,C,E,ヒト免疫不全ウィルス,ルベラウイルス,ムンプスウイルス,ラビースウイルス,ヒトパピローマウイルス,エプスタインバーウイルス,チックボーンウイルス,クリミアコンゴ出血熱ウイルス,エボラ出血熱ウイルス,ニパーウイルス,デングウイルス,チクングニヤウイルス,エンテロウイルス,西ナイルウィルス,リフトバレー熱ウイルス,日本脳炎ウイルス,ハンタウイルス,ロタウイルス(Rotavirus),SARSコロナウイルス,エマージングウイルス,クラミジア トラコーマティス(Chlamydia trachomatis),クロストリジウム ボツリヌム(Clostridium botulinum),クロストリジウム テタニ(Clostridium tetani),バチルス アントラシス(Bacillus anthracis),レジオネラ ニューモフィラ(Legionella pneumophila),ナイセリア メニンギティディス(Neisseria meningitidis) (メニゴコッカス、Menigococcus),エルシニア ペスチス(Yersinia pestis),マイコバクテリウム ツベルクローシス(Mycobacterium tuberculosis),マイコバクテリウム レプラエ(Mycobacterium leprae),サルモネラ チフィ(Salmonella typhi),リステリア モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes),ビブリオ コレラ(Vibrio cholerae),ヘモフィラス インフルエンザエ(Haemophilus influenzae),ボルデテラ パータシス(Bordetella pertussis),ヘリコバクター ピロリ(Helicobacter pylori),ボレリア属spp.(Borrelia spp.)(レカレンティス:recurrentis、ヒスパニカ:hispanica、パーケリ:parkeri、ブルグドルフェリ:burgdorferi)、レプトスピラ インテロガンス(Leptospira interrogans),リケッチア属spp.(Rickettsia spp.),コクシエラ ブルネッティー(Coxiella burnettii),マイコプラズマ ニューモニア(Mycoplasma pneumonia),コリネバクテリウム ジフテリエ(Corynebacterium diphtheriae),トレポネーマ パリダム(Treponema pallidum),プラスモジウム ファルシパラム(Plasmodium falciparum),プラスモジウム ビバックス(Plasmodium vivax),プラスモジウム オバーレ(Plasmodium ovale),プラスモジウム マラリエ(Plasmodium malariae),エントアメーバ ヒストリチカ(Entamoeba hystolytica),ジアルジア インテステナリス(Giardia intestinalis),トリパノソーマ ブルセイ(Trypanosoma brucei),リーシュマニア属spp.(Leishmania spp.),ヒストプラズマ カプスラータム(Histoplasma capsulatum),アスペルギルス属spp.(Aspergillus spp.),カンジダ アルビカンス(Candida albicans),クリプトコッカス ネオフォルマンス(Cryptococcus neoformans),ニューモシスチス カリニ(Pneumocystis carinii),ウケレリア バンクロフティ(Wuchereria bancrofti),シストソーマ マンソーニ(Schistosoma mansoni) 及び/又は トキソプラズマ ゴンディ(Toxoplasma gondii)。さらなる特異的な実施形態において、前記抗原は癌細胞によって発現された蛋白質である。別の特異的な実施形態において、前記抗原は、癌細胞によって発現され、癌細胞の表面に表れる蛋白質である。
【0050】
さらに特異的な実施形態において、本発明の組換えポックスウイルス、又は前記組換えポックスウイルスを備える細胞は癌性の細胞によって発現された抗原を有して成る。癌性の細胞によって発現されたそのような抗原の例は、限定されないが、α−フェトプロテイン(AFP);前立腺特異的抗原(PSA);癌胎児性抗原(CEA);ジシアロシルLEA(disialosyl LEA)抗原;Melan−A/MART−1;SART3;多剤耐性関連蛋白質 3(multidrug resistance−associated protein 3、MRP3);ポリコーム群蛋白質zesteホモログ2(EZH2);アルデヒド脱水素酵素 1(ALDHl);ヒト上皮成長因子受容体 2(Her2);ネクチン−4(Nectin−4);gp96ヒートショック蛋白質;gp100;チロシナーゼ;GM2;MAGE−A3;及びNY−ESO−1を含む。さらなる実施形態において、本発明の組換えポックスウイルス、又は前記組換えポックスウイルスを備える細胞は、抗体をコード化する遺伝子を有して成る。特異的な実施形態において、そのような抗体は腫瘍細胞上発現された細胞マーカーに特異的である。
【0051】
本発明の薬物は当業者に公知の方法によって患者に投与され得る。本発明のいくつかの実施形態において、前記薬物は注射によって投与される。
【実施例】
【0052】
本発明の修飾ポックスウイルスベクターの有効性を評価するために、数種の基礎的なMVAベクターを創製した。これらのMVAベクターは、強力ワクシニアウイルスプロモーターの制御下にあり、蛍光体をコードするレポーター遺伝子と、強力ワクシニアウイルスプロモーターの制御下にあり、DNase選択性遺伝子で構成される選択性要素と、異なるプロモーターの制御下にあり、テトラサイクリンオペレーター(TetO2)要素及びテトラサイクリンリプレッサー(TetR)をコードする遺伝子とを含んでいる。
【0053】
図1に示すとおり、基礎的なMVAゲノムは、MVAゲノムの挿入部位(Deletion III又はDel3)へのレポーター遺伝子/選択性要素カセットの導入によって修飾された:Deletion III(Flankl Del3)の上流フランキング領域に隣接しており、レポーターシステムとしての強力合成ワクシニアウイルスプロモーター(Ps)の制御下、レポーター遺伝子、例えば、緑色蛍光蛋白質(GFP)遺伝子が、挿入された。このレポーター、例えば、GFPは、挿入カセットを含むMVAの検出を至適に許容する。レポーター遺伝子(Flank2 Del3 に隣接する)の下流で、選択性要素はゲノムに挿入された。これは、リプレッサー(TetR)と相互作用する細菌性オペレーター要素(TetO2)によって制御される強力合成ワクシニアウイルスプロモーター(Ps)の制御下にある、例えば、DNase遺伝子から成る。リプレッサー相互作用は、テトラサイクリンによって順次制御される。テトラサイクリンの非存在において、TetRはTetO2制御配列に結合し、これによりDNase遺伝子の発現を抑制する。しかしながら、テトラサイクリンの存在において、TetRはTetO2部位から脱離し、これによりDNase遺伝子の発現を許容する。発現したDNase蛋白質は、そのとき、感染された細胞の細胞質においてウイルスDNAの増幅を抑制する。
【0054】
興味対象の異種遺伝物質(heterologous genetic material of interest)を有して成る組換えMVAの分離のため、レポーター遺伝子/選択性要素カセットは相同組換えにより除去される。その後に、結果として生じるウイルスはテトラサイクリンの存在で継代される。非組換えの修飾MVAを有して成る細胞は、蛍光により検出可能であり、また、DNase発現がMVA細胞の増殖を抑制する。組換えMVAを有して成る細胞は、レポーター遺伝子/選択性要素カセットを欠失しており、したがって、蛍光を示すことはなく、また、DNase発現が起こらないことからMVAの増殖が抑制されない。組換え及び非組換えMVAの分離は、蛍光及び非蛍光細胞の分離によって行ない得る。
【0055】
MVA Deletion IIIのフランキング配列を含む細菌プラスミドは、修飾MVAベクターへの興味対象の異種遺伝物質の挿入のためのシャトルとして用いられる(図2及び3)。前記プラスミドは、複数の単一切断制限酵素部位によって隣接されたLacZ発現カセットをさらに含んで成る。修飾MVAベクターに挿入されるべき興味対象の異種遺伝物質が、一以上の単一切断制限酵素部位によって細菌性ベクターvEM07(配列番号1)でクローン化される。LacZ遺伝子が除去され、また、興味対象の異種遺伝物質を含むプラスミドは、X−Galを用い青白選択によって検出し得る。結果として得られたプラスミドは、その後、、相同組換えによって修飾MVAベクターへの興味対象異種遺伝物質の挿入のために用いられる。
【0056】
〔実施例1:修飾MVAベクター選択性要素のクローニング〕
レポーター遺伝子/選択性要素カセットは、相同組換えによってMVAゲノムに挿入された。この目的のために、(i)レポーター遺伝子、(ii)Ps−TetO2−DNAse、及び(iii)TetRの単一要素は、細菌プラスミドに段階的方法にてクローン化された。
【0057】
[DNase遺伝子のクローニング]
DNase断片(SpeI−Ps−TetO2−DNase−SacI)は、2ステップPCRプロセスにより合成され、ベクターvEM11(SpeI/SacI)(配列番号15)にクローン化され、結果としてvEM12(配列番号16)が産生された。
第1のPCRステップのために、以下のオリゴヌクレオチドを用いた。
1) oEM167:TetO2−DNase start; TCCCTATCAGTGATAGAGATCTCCCTATCAGTGATAGAGATATGAGGGGCATGAAGCTGCTG (配列番号8)。
2) oEM168:DNase end−SacI; GAGCTCCTACTTCAGCATCACC (配列番号9)。
【0058】
このPCRプロセスのためのテンプレートは、ヒトDNaseオープンリーディングフレームを含んだプラスミドpENTR−DNase(インビトロジェン ORFクローンコレクション、クローンID IOH23149)であった。この第1のPCRステップの結果として図4に示した断片が生じた。
【0059】
PCRの第2ステージのために、第1のPCRステップの精製されたPCR産物と、以下のオリゴヌクレオチドが用いられた。
1) oEM169:SpeI−Ps−TetO2;GACTAGTAAAAATTGAAATITTATTTTTTTTTTTTGGAATATAAATATCCCTATCAGTGATAGAG(配列番号10)。
2) oEM168:DNase end−SacI;GAGCTCCTACTTCAGCATCACC(配列番号9)。
この第2のPCRステップは、結果として図5に示した断片を産生した。
断片は、そこでSpeI及びSacI制限酵素部位の利用により組換えベクターvEMll(図6)にクローン化された。このクローニングステップは、結果としてベクターvEM12(図7)を産生した。
【0060】
[TetRのクローニング]
次のクローニングステップ中で、TetRコード領域はベクターvEM12に挿入された。発現されたTetRの量は、重要な実験パラメータであり、それは、細胞(1細胞当り約200個のコピー)に存在する全てのTetO2配列をカバーするために十分に発現されるべきであるが、DNaseの発現誘導のために過剰のテトラサイクリンを要するので過剰に発現されるべきではないからである。したがって、TetR発現は、3つの異なるプロモーターの制御下で評価された:Ps(強発現)、H5(中間発現)、及びp7.5(低発現)。
【0061】
[PsプロモーターでのTetRのクローニング]
Ps−テトラサイクリンリプレッサー(TetR)カセットはPCRによって合成された。テンプレートは、pcDNA6/TRプラスミド(インビトロジェン)であり、以下のオリゴヌクレオチドがPsプロモーターの融合及び増幅に用いられた。
1) oEM163:SacI−Ps−TetR start;GGGAGCTCAAAAATTGAAATTTTATTTTTTTTTTTTGGAATATAAATAATGTCTAGATTAGATAAAAG(配列番号11)。
2) oEM164:TetR end−NheI;GCTAGCTTAATAAGATCTGAATTCC(配列番号12)。
結果産物であるPCR断片(図8)は、ベクターvEM12にSacIとNheIを用いて、クローン化された。このクローニングステップは、結果としてベクターvEM31、配列番号17(図9)を産生した。
【0062】
[p7.5/H5プロモーターでのTetRのクローニング]
p7.5及びH5プロモーターはプラスミドpVIV06(配列番号18)及びpVIV07(配列番号19)に存在している。そして、TetRは、これらのベクターへの挿入のために、以下のオリゴヌクレオチドを用いてPCRにより増幅された。
1) oEM165:XhoI−TetR start;CTCGAGATGTCTAGATTAGATAAAAG(配列番号13)。
2) oEMI66:TetR end−ApaI;CCGGGCCCTTAATAAGATCTGAATTCC(配列番号14)。
プロモーターへのTetRコード領域の適切な融合のため、PCR断片はベクターpVIV06(p7.5)及びベクターpVIV07(H5)にApaI及びXhoIによりクローン化された。
【0063】
pVIV06におけるTetRのクローニングは、結果としてベクターpEM12(p7.5)(配列番号20)を産生し、pVIV07におけるクローニングは、結果としてベクターpEM13(H5)(配列番号21)を産生した。その後TetR発現カセットは、SacI及びApaIを用いて引き出され、それからvEM12においてクローン化された。これは、結果としてベクターvEM32(p7.5)(配列番号22)及びベクターvEM33(H5)(配列番号23)を産生し、これらはTetR遺伝子を発現するために用いられるプロモーターを除いてベクターvEM31(図9)と同等であった。
【0064】
〔実施例2:修飾MVAベクターのクローニング〕
vEM31、32及び33は、修飾MVAベクターを創製するためそれぞれ使用された。この目的のために、CEF細胞はMVA(moi 0.05)で感染され、それからvEM31、32、又は33で夫々個別に形質移入された。組換えMVA(すなわち修飾MVAベクター)を含む細胞はこの抗生物質に耐性であるため、感染したCEF細胞によりリリースされたMVA粒子は、それから新鮮なCEF細胞を用いて選択的な条件下(例えばブラストサイジン含有培地;5μg/mL)で三代継代された。組換えMVA粒子は、引き続き、プラーク精製によりFACSユニット(蛍光活性化セルソーター、fluorescence activated cell sorter)を用いて精製された。
【0065】
MVAとvEM31(mEM06、Ps−TetR)、MVAとvEM32(mEM07、7.5−TetR)、及びMVAとvEM33(mEM08、H5−TetR)の組換えによる結果産物である修飾MVAベクターの増幅及び評価に続いて、テトラサイクリン/デオキシリボヌクレアーゼ系(テトラサイクリン/DNaseシステム、tetracycline/DNase system)が試験のために用いられた。
【0066】
〔実施例3:テトラサイクリン/DNaseシステムの評価〕
誘導性逆選択性システムを試験するために、細胞は夫々個別に修飾MVAウイルスmEM06、07、及び08で感染され、テトラサイクリン含有培地中でインキュベートされた。異なる濃度のテトラサイクリン(0〜500μg/mL)が、分析のために用いられた。
【0067】
未修飾MVAの複製における誘導性DNase発現の影響を評価するため、MVA感染細胞は、DNaseの一過性発現を促進するために(vEM12)で形質移入された。さらに、未修飾MVAの複製におけるテトラサイクリンの影響は、テトラサイクリンのみによるMVA感染細胞のインキュベートにより分析された。追加的に、細胞の増殖及び状態におけるテトラサイクリンの影響をモニターするため、MVA感染及び非感染のCEF細胞は、修飾ウイルスベクターの試験のために用いられた同一のテトラサイクリン濃度でインキュベートされた。
【0068】
短時間内に、CEF細胞は、修飾MVAウイルスmEM07(7.5=7.5プロモーター)、mEM06(Ps=Psプロモーター)、mEM08(H5=H5プロモーター)で感染され、異なる濃度のテトラサイクリン(Tet0=テトラサイクリン無し;Tet25=25μgテトラサイクリン/mL)を含有する培地でインキュベートされた。コントロールのために、CEF細胞は、未修飾MVAの空ベクター(MVA)で感染され、続いて幾つかのMVA感染細胞もまた、vEM12(MVA+DNase)で形質移入された。また、未修飾MVAの空ベクターで感染されたCEF細胞は、テトラサイクリン(MVA+Tet)でインキュベートされた。37℃(5%CO)、48時間のインキュベートの後に、細胞は収集され、ウイルス力価が測定された。図10は、得られた結果の概要を提供する。
【0069】
未修飾MVAのコントロール(図10、MVA)は、8.75E+06 TCID50の力価であった。結果的に、これは、如何なる抑制物質の如何なる存在も無いこれらの条件下、未修飾MVAでの感染によって達成し得る力価である。DNaseの発現は、結果として2ログスケール(図10、MVA+Dnase、6.56E+04 TCID50/mL)低減された力価をもたらした。しかしながら、MVA感染が未修飾MVAの1.00E+05 TCID50/mLでの接種によって確証されたことから、この処置は、結果としてウイルスの量の増加を生じることがなく(すなわち生産的複製無し)、したがって、DNase発現はウイルス複製を効果的に抑制する。
【0070】
未修飾MVAで感染され、テトラサイクリンでインキュベートされた細胞は、テトラサイクリン自体がMVA複製における影響を有し、細胞障害性作用による可能性が高いことを実証した。25〜50μg/mLのテトラサイクリンが用いられた場合にはMVA複製への影響が確認されなかったが、一方、100μg/mLの濃度を用いることでMVAの複製を1ログ低減した;さらに、250μg/mLの濃度は、一過性に発現されたDNase(図10、MVA+Tet)で観察された効果に匹敵するウイルス複製を抑制した。
75μg/mLテトラサイクリンにて修飾MVAベクターmEM06及びmEM08によって感染された細胞の処理は、DNase発現誘導(図10、mEM06及びmEM08)を介したウイルス複製の減少をもたらし、これは、ウイルス力価がより顕著に低減されたとおり、直接テトラサイクリンのみによるものではなかった。この同じ効果は、100μg/mLのテトラサイクリンを用いて観察される。150μg/mLの濃度は、結果的に、修飾MVAウイルスが全く増殖しないような、テトラサイクリンの明確な細胞傷害性をもたらす。したがって、さらなる試験目的のために、75〜100μg/mLテトラサイクリンの狭い濃度枠が用いられた。修飾MVAベクターmEM07は弱いp7.5プロモーターでTetRを発現し、如何なる定量的な量においてもDNase発現を抑制するためには明らかに不十分な量のTetRを産生する。従って、ウイルス複製は全ての実験設定において顕著に低減されており、このウイルス自体は単一組換えベクターでの組換えウイルスのクローニングのために基本的なウイルスとして適用できない。
【0071】
〔実施例4:単一組換え系を用いる組換えポックスウイルスベクターのクローニング〕
修飾MVAウイルスmEM06及びmEM08が同様な複製パターンを示したので、mEM06を用いて追加の実験を行なった。
細胞は修飾MVAウイルスmEM06で感染され、vEM07(図3)で形質移入された。相同組換えのため、LacZ遺伝子は選択修飾MVAウイルスゲノムに挿入され、レポーター/選択性カセットは除去された。リリースされたウイルス粒子は、新鮮なCEF細胞でテトラサイクリン(100μg/mL)含有培地において継代され、その後選択的な条件なしで細胞の連続希釈により継代された。感染された細胞は、非蛍光細胞を選ぶためにFACSを用いてソートされた。一旦ソーティングプロセスのための設定が至適化されると、ソートされた細胞はホモジナイズ(homogenized)され、CEF細胞で再び継代された。感染細胞はソートされ、ウイルスは新鮮なCEF細胞でもう一度増幅された。細胞は明らかに感染されており蛍光を示さず、これはそれらが精製された組換えMVAウイルスを含んでいたことを意味している。組換えウイルスの純度は、修飾MVAベクター(図11)の挿入部位を増幅したPCR法により確認された。PCRは、修飾MVAベクターのための3.0kbのシグナル、及び相同組換えによってレポーター/選択カセットで置き換えられたLacZを含む組換えMVAのためのより小さな0.76kbの断片を生成した。
【0072】
組換えMVAウイルスサンプルは、0.76kb(図11、rec MVA)の明確ななシグナルを与えたが、修飾MVA(mEM06)又は未修飾MVA(MVA)については何のシグナルも与えなかった。組換えベクターvEM07もまた0.76kb(図11、vEM07)の期待されるシグナルを生成した。除去部位内に選択性/レポーターカセットを含む修飾MVAは、コントロールとして用いられ、これは3.0kbの期待されるシグナルを示した(mEM06)。未修飾MVAベクターもまた結果として約200塩基対の期待されているシグナルを生じた(MVA)。
【0073】
本システムにより達成された堅牢性の結果を確認するために、上述の手順を用いてクローニングプロセスが繰り返された。組換えMVAは、上述の単一組換え系(単一組換えシステム、single recombination system)を用いて直ちに再度分離された。
【0074】
〔実施例5:単一組換え系を用いたさらなる組換えポックスウイルスベクターのクローニング〕
組換えポックスウイルスは、相同組換えの使用を許容する対を成すフランキング配列の間に配置されているレポーター遺伝子を有して成る修飾ポックスウイルスベクターを用いる本発明による単一組換え系を利用してクローン化される。
細胞は修飾MVAウイルスで感染され、それからvEM07(図3)で形質移入される。相同組換えのため、LacZ遺伝子が選択修飾MVAウイルスゲノムに挿入され、その結果、レポーターカセットが除去される。リリースされたウイルス粒子は、その後テトラサイクリン含有培地内(100μg/mL)新鮮なCEF細胞で少なくとも一回継代される。
【0075】
感染された細胞は、その後上述のように非蛍光細胞を選択するためFACSを用いてソートされる。感染細胞がソートされた後に、ウイルスがさらに一回新鮮なCEF細胞で増幅される。
【0076】
組換えウイルスの純度は、修飾MVAベクターの挿入部位を増幅するPCR法により確認された(図11)。PCR法は、相同組換えによってレポーターカセットが置き換えられたLacZを含む組換えMVAのための断片を生成する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対を成すフランキング配列の間に配置され相同組換えを許容するレポーター遺伝子を備えることを特徴とする修飾ポックスウイルスベクター。
【請求項2】
前記レポーター遺伝子が蛍光蛋白質をコードするものであることを特徴とする請求項1に記載の修飾ポックスウイルスベクター。
【請求項3】
対を成すフランキング配列の間に配置された少なくとも一つの選択性要素をさらに具備することを特徴とする請求項1に記載の修飾ポックスウイルスベクター。
【請求項4】
前記選択性要素が、宿主細胞においてポックスウイルスの複製を抑制又は低速化する、又は宿主細胞に対して細胞障害性である選択性遺伝子を含んでなることを特徴とする請求項3に記載の修飾ポックスウイルスベクター。
【請求項5】
前記レポーター遺伝子と選択性要素とが、相同性組換えを許容する一つの対を成すフランキング配列の間に配置されていることを特徴とする請求項3に記載の修飾ポックスウイルスベクター。
【請求項6】
前記レポーター遺伝子と選択性要素とが、相同性組換えを許容する一以上の対を成すフランキング配列の間に配置されていることを特徴とする請求項3に記載の修飾ポックスウイルスベクター。
【請求項7】
前記ポックスウイルスが、ワクシニアウイルス又は修飾されたワクシニアアンカラ(Ankara)ウイルスであることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の修飾ポックスウイルスベクター。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれかに記載の前記修飾ポックスウイルスベクターを具備していることを特徴とする細胞。
【請求項9】
組換えポックスウイルスを産生するための請求項1乃至7のいずれかに記載の修飾ポックスウイルスベクター又は請求項8に記載の細胞の使用。
【請求項10】
請求項1乃至7のいずれかに記載の前記修飾ポックスウイルスベクターで許容宿主細胞を感染させる第1段階と、
前記ベクターと前記プラスミドとの間で相同組換えを許容する条件下、組換えポックスウイルスが産生されることによって興味対象の遺伝子を有して成るプラスミドで前記感染された許容宿主細胞に形質移入する第2段階と、を備えることを特徴とする興味対象の遺伝子の発現を可能とする組換えポックスウイルスの産生方法。
【請求項11】
前記選択性要素の存在に対して選択することによって、組換えポックスウイルスの産生を増強する段階をさらに備えることを特徴とする請求項10に記載の組換えポックスウイルスの産生方法。
【請求項12】
前記興味対象の遺伝子を有する前記ベクターで相同組換えが起きていない前記修飾ポックスウイルスベクターを具備する許容宿主細胞から、組換えポックスウイルスを具備する許容宿主細胞を分離する段階をさらに備えることを特徴とする請求項10又は11に記載の組換えポックスウイルスの産生方法。
【請求項13】
以前に感染されていない許容宿主細胞で前記組換えウイルスを具備する少なくとも一代さらに継代された許容宿主細胞を用いる段階をさらに備えることを特徴とする請求項10乃至12のいずれかに記載の組換えポックスウイルスの産生方法。
【請求項14】
前記ポックスウイルスが、ワクシニアウイルス又は修飾されたワクシニアアンカラ(Ankara)ウイルスであることを特徴とする請求項10乃至13のいずれかに記載の組換えポックスウイルスの産生方法。
【請求項15】
請求項10乃至14のいずれかに記載の組換えポックスウイルスの産生方法によって産生された組換えポックスウイルスを具備することを特徴とする細胞。
【請求項16】
組換えポックスウイルスを産生するための請求項10乃至14のいずれかに記載の組換えポックスウイルスの産生方法又は請求項15に記載の細胞の使用。
【請求項17】
請求項10乃至14のいずれかに記載の組換えポックスウイルスの産生方法又は請求項15に記載の細胞を用いて産生されたことを特徴とする組換えポックスウイルス。
【請求項18】
薬物としての請求項1乃至7のいずれかに記載の修飾ポックスウイルス、又は請求項8に記載の細胞又は請求項17に記載の組換えポックスウイルス。
【請求項19】
癌、インフルエンザ、肝炎、後天性免疫不全症候群、流行性耳下腺炎、狂犬病、脳炎、胃又は十二指腸潰瘍、マラリア、睡眠病、ライム病、反応性関節炎、肺炎、ハンセン病、ジフテリア、カンジダ症、及び/又はトキソプラズマ症の処置又は予防のための治療用又は予防用ワクチンとしての請求項1乃至7のいずれかに記載の修飾ポックスウイルス、又は請求項8に記載の細胞又は請求項17に記載の組換えポックスウイルス。
【請求項20】
断片が夫々の核酸の少なくとも40%の長さを有して少なくとも40%の配列相同性を有している配列番号15乃至23の配列群から選ばれた核酸又はその相補体、又は断片又は相同的な核酸。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公表番号】特表2012−513208(P2012−513208A)
【公表日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−542705(P2011−542705)
【出願日】平成21年12月16日(2009.12.16)
【国際出願番号】PCT/EP2009/009028
【国際公開番号】WO2010/072365
【国際公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【出願人】(511153301)エマージェント プロダクト デべロップメント ジャーマニィ ゲーエムベーハー (1)
【Fターム(参考)】