説明

単分散ナノ粒子の新しい大量製造方法

【課題】サイズの選択の工程なしに安価かつ無毒の金属塩から金属、金属合金、金属酸化物および複合金属酸化物の単分散ナノ粒子を大量に製造するための新しい方法の提供
【解決手段】a)C5-10脂肪族炭化水素およびC6-10芳香族炭化水素からなる群から選択された第一溶媒に溶解したC4-25カルボン酸のアルカリ金属塩と水に溶解した金属塩とを反応させて、金属カルボン酸錯体を形成させるステップと、b)C6-25芳香族化合物、C6-25エーテル、C6-25脂肪族炭化水素およびC6-25アミンからなる群から選択された第二溶媒に溶解した前記金属カルボン酸錯体を加熱させるステップとを含む、金属、金属合金、金属酸化物および多金属酸化物のナノ粒子の製造方法

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は単分散(monodisperse)ナノ粒子の大量製造方法に関する。より詳しくは、本発明は、水溶液に溶解した金属塩とC5-10脂肪族炭化水素およびC6-10芳香族炭化水素からなる群から選択された第一溶媒に溶解したC4-25カルボン酸のアルカリ金属塩とを反応させて、金属カルボン酸錯体を形成させるステップ、およびC6-25芳香族化合物、C6-25エーテル、C6-25脂肪族炭化水素またはC6-25アミン化合物から選択された溶媒に溶解した前記金属カルボン酸錯体を加熱させて、ナノ粒子を製造するステップを含む、金属、金属合金、金属酸化物および複合金属酸化物のナノ粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Murrayらは、特許文献1に、高温で金属前駆体を反応させることで、遷移金属ナノ粒子を合成する方法を開示した。前記方法では、所望の特性を調節するために要求されるサイズの均一性(size uniformity)を達成するために、サイズを選択(size selection)する工程が必要とされる。この工程は、高価かつ複雑であることから、単分散ナノ粒子の大量製造は、阻害される。
【0003】
単分散金ナノ粒子は、もともと均一のサイズを有しなかったナノ粒子を高温化学処理することにより合成された(非特許文献1参照)。
【0004】
しかし、サイズの均一にすることの困難さ、および長い熟成時間は単分散金ナノ粒子の大量合成に、不利な要因である。
【0005】
Hyeon,Tらは、ペンタカルボニル鉄とオレイン酸の反応から得られたオレイン酸鉄錯体の熱分解による、サイズを選択する工程の無い、単分散磁性酸化鉄ナノ粒子の合成方法を開示した(非特許文献2参照)。しかし、前駆体として用いられたペンタカルボニル鉄は極めて有毒であるので、前記方法は単分散ナノ粒子の大量製造に適していない。
【0006】
Puntesらは、界面活性剤の存在下にジコバルトオクタカルボニル[Co2(CO)8]の熱分解による単分散コバルトナノ粒子の合成方法を報告した(非特許文献3参照)。しかし高価かつ極めて有毒なジコバルトオクタカルボニルの使用は、単分散ナノ粒子を大量に合成するにあたって不利な要因である。
【0007】
Sunらは、オレイン酸およびオレイルアミンの存在下での金属酢酸塩の混合物の熱分解による金属フェライト(metal ferrites、MFe2O4、ここで M=Fe、CoまたはMn)の単分散ナノ粒子の合成を報告した(非特許文献4および非特許文献5参照)。高価な金属酢酸塩の使用は、単分散ナノ粒子の大量合成の妨げとなる。
【0008】
Janaらは、金属脂肪酸塩の熱分解を通じて金属酸化物ナノ粒子を合成するための簡単で一般化された反応系を開示した(非特許文献6参照)。
【0009】
この合成法は、前記で引用された先行技術より比較的安全で安価な金属脂肪酸塩が使われるという点でいくつかの利点がある。しかし、この方法は金属脂肪酸塩を得るために金属塩、脂肪酸およびNaOHの混合物のOne-Pot反応(one pot reaction)を用いるため、中和および精製ステップが非常に困難で時間がかかるという短所を有する。このような短所は、大量の単分散ナノ粒子の合成を困難にする。
【0010】
また、YuらはJanaらが前記文献で開示した方法と非常に類似した方法を利用して金属脂肪酸塩(metal fatty acid salts)の熱分解による単分散磁鉄鉱ナノ粒子を製造する方法を報告した(非特許文献7参照)。
【0011】
先行技術の欠点を克服するため、本発明者らは安価かつ無毒の金属塩を反応物として利用し、単分散ナノ粒子の大量合成のための新しい方法を研究してきた。前記方法は、溶媒500mlを使用した単一反応で、サイズの選択の工程なしに100gに至る量の単分散ナノ粒子を合成することに適している。さらに、前記単分散ナノ粒子のサイズは合成条件を変更することによって簡単に調節される。
【0012】
本発明者らは、多様な遷移金属(transition metal)、金属合金(metal alloys)、金属酸化物(metal oxides)および複合金属酸化物(multimetallicoxides)とそれらの類似物質(variation)の単分散ナノ粒子を作るための新しい方法を完成させた。
【0013】
したがって、本発明の第一の目的は、サイズの選択の工程なしに安価かつ無毒の金属塩から金属、金属合金、金属酸化物および複合金属酸化物の単分散ナノ粒子を大量に製造するための新しい方法を提供することである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】米国特許第6262129号明細書
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】Stoeva, S. et al., "Gram-Scale Synthesis of Monodisperse Gold Colloids by the Solvated Metal Atom Disperson Method and Digestive Ripening and Their Organization into Two-and Three-Dimensional Structures", J. Am. Chem. Soc., 2002, 124, 2305.
【非特許文献2】Hyeon, T. et al., "Synthesis of Highly-Crystalline and MonodisperseMghemite Nanocrystalliteswithout a Size Selection Process", J. Am. Chem. Soc., 2001, 123, 12798.
【非特許文献3】Puntes, V. F. et al., "Colloidal Nanocrystal Shape and Size Control:The Case of Cobalt," Science 2001, 291, 2115
【非特許文献4】Sun, S. et al., "Monodisperse MFe2O4(M=Fe, Co, Mn)Nanoparticles", J. Am. Chem. Soc., 2004, 126, 273.
【非特許文献5】Sun, S. et al., "Size-Controlled Synthesis of Magnetite Nanoparticles", J. Am. Chem. Soc., 2002, 124, 8204.
【非特許文献6】Jana, N. et al., "Size- and Shape-Controlled Magnetic(Cr, Mn, Fe, Co, Ni)Oxide Nanoparticles via a Simple and General Approach", Chem. Master., 2004, 16, 3931.
【非特許文献7】Yu, W. et al., "Synthesis of MonodisperseIron Oxide Nanoparticles by Thermal Decomposition of Iron Carboxylate Salts", Chem. Comm., 2004, 2306.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
ナノ結晶とも呼ばれる多様なナノ粒子は、超高密度磁気データ保存媒体、生物医学的標識試薬、ナノスケール電子工学、ならびに非常に效率の高いレーザービーム(very highly efficient laser beams)および非常に明るい光学装置(very bright optical devices)のための原料といった(source material)ナノテクノロジーのような新興分野の応用分野のための物質となりうる。そこで、多様なナノ粒子の開発が活発に試みされている。
【0017】
このような広範囲の応用のためには、サイズ差が5%未満の単分散ナノ粒子の合成方法は、基材(base materials)の基本的な特性を調節するにために非常に重要である。その理由は、ナノ粒子の特性はナノ粒子のサイズに強く依存するからである。
【0018】
例えば、半導体におけるナノ結晶に基づいた光学器具の色相鮮明度の決定因子は、第一にナノ粒子のサイズの均一性である。このような単分散磁性ナノ粒子は超高密度磁気保存媒体(ultra-high density magnetic storage media)に応用するため、必要不可欠な基材である。
【0019】
単分散ナノ粒子は上述されたように広範囲の分野で使用されることができることから、基礎ナノ粒子物質を大量製造するための方法を開発することが強く要求されている。
【0020】
残念ながら、今まで知られている単分散ナノ粒子を合成する方法はグラム以下単位の量に制限されている。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明の第一の目的は、i)C5-10脂肪族炭化水素およびC6-10芳香族炭化水素からなる群から選択された第一溶媒に溶解したC4-25カルボン酸のアルカリ金属塩と水溶液に溶解した金属塩とを反応させて、金属カルボン酸錯体を形成させるステップと、ii)C6-25芳香族化合物、C6-25エーテル、C6-25脂肪族炭化水素およびC6-25アミンからなる群から選択された第二溶媒に溶解した前記金属カルボン酸錯体を加熱させて、ナノ粒子を製造するステップとを含む方法を提供することで達成される。
【0022】
本発明によると、金属カルボン酸錯体(metal carboxylate complex)を合成するための金属塩は金属イオンと陰イオンで構成され、金属イオンは鉄(Fe)、コバルト(Co)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、イットリウム(Y)、ジルコニウム(Zr)、モリブデン(Mo)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、銀(Ag)、カドミウム(Cd)、セリウム(Ce)、白金(Pt)、金(Au)、バリウム(Ba)、ストロンチウム(Sr)、鉛(Pb)、水銀(Hg)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、スズ(Sn)またはゲルマニウム(Ge)からなる群から選択され、陰イオンは、C4-25カルボン酸からなる群から選択される。
【0023】
金属カルボン酸錯体を調整するために用いられる金属塩は、塩化鉄(III)六水和物[FeCl3・6H2O]、二塩化鉄(II)四水和物[FeCl2・4H2O]、塩化コバルト(III)六水和物[CoCl3・6H2O]、塩化コバルト(II)四水和物[CoCl2・4H2O]、塩化クロム(III)六水和物[CrCl3・6H2O]、塩化マンガン(II)四水和物[MnCl2・4H2O]、塩化鉄(III)[FeCl3]、塩化鉄(II)[FeCl2]、臭化鉄(II)[FeBr2]、硫酸鉄(II)[FeSO4]、硝酸鉄(III)[Fe(NO33]、ステアリン酸鉄(II)[Fe(O2C18H352]、酢酸鉄(II)[Fe(OOCCH32]、塩化コバルト(III)[CoCl3]、塩化コバルト(II)[CoCl2]、硝酸コバルト(II)[Co(NO32]、硫酸ニッケル(II)[NiSO4]、塩化ニッケル(II)[NiCl2]、硝酸ニッケル(II)[Ni(NO32]、四塩化チタン[TiCl4]、四塩化ジルコニウム[ZrCl4]、ヘキサクロロ白金(IV)酸[H2PtCl6]、ヘキサクロロパラジウム(IV)酸[H2PdCl6]、塩化バリウム[BaCl2]、硫酸バリウム[BaSO4]、塩化ストロンチウム[SrCl2]、硫酸ストロンチウム[SrSO4]、酢酸亜鉛[Zn(OOCH32]、酢酸マンガン[Mn(OOCH32]、酢酸セリウム(III)水和物[(CH3COO)3Ce・xH2O]、臭化セリウム(III)水和物[CeBr3・xH2O]、塩化セリウム(III)七水和物[CeCl3・7H2O]、炭酸セリウム(III)水和物[Ce2(CO3)・xH2O]、フッ化セリウム(III)水和物[CeF3・xH2O]、セリウム(III)2-エチルヘキサノアート[CH3(CH23CH(C2H5)CO2]3Ce、ヨウ化セリウム(III)[CeI3]、硝酸セリウム(III)六水和物[Ce(NO33・6H2O]、シュウ酸セリウム(III)水和物[Ce(C2O43・xH2O]、過塩素酸セリウム(III)[Ce(ClO43]、硫酸セリウム(III)水和物[Ce2(SO43・xH2O]、鉄(III)アセチルアセトネート[Fe(acac)3]、コバルトアセチルアセトネート[Co(acac)3]、ニッケルアセチルアセトネート[Ni(acac)2]、銅(II)アセチルアセトネート[Cu(acac)2]、バリウムアセチルアセトネート[Ba(acac)2]、ストロンチウムアセチルアセトネート[Sr(acac)2]、セリウム(III)アセチルアセトネート水和物[(acac)3Ce・XH2O]、白金(II)アセチルアセトネート[Pt(acac)2]、パラジウムアセチルアセトネート[Pd(acac)2]、チタンテトライソプロポキシド[Ti(iOC3 H74]およびジルコニウムテトラブトキシド[Zr(OC4H94]からなる群から選択される。
【0024】
合金および複合金属酸化物の単分散ナノ粒子を合成する場合、上述された二つまたはそれ以上の化合物の混合物が本発明における金属塩として用いられる。
【0025】
本発明のii)工程で前記金属カルボン酸錯体溶液を得るため、金属カルボン酸錯体を溶かすために以下の溶媒が使用される。エーテル、即ち、オクチルエーテル、ブチルエーテル、ヘキシルエーテル、ベンジルエーテル、フェニルエーテルおよびデシルエーテル;芳香族化合物、即ち、トルエン、キシレン、メシチレンおよびベンゼン;アルコール、即ち、オクチルアルコール、デカノール、ヘキサデカノール、エチレングリコール、1,2-オクタンジオール(1,2-octanediol)、1,2-ドデカンジオール(1,2-dodecanediol)および1,2-ヘキサデカンジオール(1,2-hexadecanediol);炭化水素、即ち、ヘプタン、オクタン、デカン、ドデカン、テトラデカン、エイコセン(eicosene)、オクタデカンおよびヘキサデカン;ジメチルスルホキシド(dimethyl sulfoxide, DMSO)およびジメチルホルムアミド(dimethylformamide, DMF);アルキルアミン(alkylamines)、即ち、オレイルアミン(oleylamine)、ヘキサデシルアミン、トリオクチルアミン(hexadecylamine trioctylamine)およびオクチルアミンである。
【0026】
本発明によると、前記金属カルボン酸錯体溶液は200℃と第二溶媒の沸点との間まで加熱され、また前記金属カルボン酸錯体溶液は、1℃/minと200℃/minとの間の加熱速度で加熱される。
【0027】
本発明によると、前記金属カルボン酸錯体溶液は200℃と第二溶媒の沸点との間、より望ましくは300℃と第二溶媒の沸点との間の温度で、そして1分から24時間で、より望ましくは1分から1時間で熟成(age)される。
【0028】
本発明によると、金属、金属酸化物、合金および複合金属酸化物の単分散ナノ粒子のサイズと形状は、界面活性剤の量、溶媒の種類、熟成温度、および加熱速度のような反応パラメーターを変更させることで容易に調節される。
【0029】
さらに、本発明によると、界面活性剤と金属カルボン酸錯体とのモル比率が1:0.1から1:100までの間で、より望ましくは1:0.1から1:20までの間で、界面活性剤と金属カルボン酸錯体とのモル比率を変化させることで、金属、金属酸化物、合金および複合金属合金の単分散ナノ粒子のサイズは調節される。
【0030】
さらに本発明によると、金属、金属酸化物、合金および複合金属酸化物の単分散ナノ粒子のサイズは、異なる沸点を有した第二溶媒を変更することで調節される。例えば、オレイン酸鉄錯体が、溶媒として1-ヘキサデセン(沸点=274℃)、オクチルエーテル(沸点=287℃)、1-オクタデセン(沸点=317℃)、1-エイコセン(沸点=330℃)およびトリオクチルアミン(沸点=365℃)で熟成される場合、おおよそ5、9、12、16および22nmの多様な直径を有した単分散酸化鉄ナノ粒子がそれぞれ製造された。
【0031】
本発明によると、金属、金属酸化物、合金および複合金属酸化物の単分散ナノ粒子は、凝集剤を添加して溶液から沈澱された後、遠心分離によって回収される。ここで凝集剤は、ナノ粒子を分散させず、溶液からナノ粒子の沈澱を誘導する溶媒である。
【0032】
本発明によって合成されたナノ粒子のなかで、酸化鉄の磁性ナノ粒子と鉄ナノ粒子は図18で示している典型的な超常磁性(superparamagnetism)の特徴を示す。
【0033】
さらに、直径が16nmより大きい磁性ナノ粒子は、磁気のデータ保存媒体に用いられる十分な高い磁気モーメントを有する強磁性またはフェリ磁性を室温で示す。したがって、多くの工業的な用途を有しうる。
【発明の効果】
【0034】
本発明はサイズの選択の工程なしに、金属、合金、金属酸化物の単分散ナノ粒子を製造する大量合成方法を開示する。ここで言及されたナノ粒子は、形状だけではなくサイズもほぼ均一である。したがって、本方法により得られた単分散ナノ粒子は前述の多様な応用分野で所望される特性を有する。
【0035】
本発明の第一の特徴は、簡易で環境に優しく、金属、合金、金属酸化物および複合金属酸化物の単分散ナノ粒子を100gレベルで大量製造する合成方法である。
【0036】
本発明の方法を通じて調整された前記ナノ粒子は、凝集されることなく多様な溶媒で再分散されることができる。さらに前記ナノ粒子は、緩やかな蒸発によって長距離秩序度を有する2次元または3次元の超格子(superlattices)になるように集合することができる。なぜなら、前記ナノ粒子のサイズと形状の均一性は、前記ナノ粒子が自己集合(self-assembly)によって超格子を形成することを許容するからである。
【0037】
その結果、本発明によって合成されたナノ粒子は、テラビット/平方インチの範囲ほどの高密度磁気保存装置、ならびに磁気共鳴イメージのための造影剤(contrast agent)およびドラックデリバリーシステムのような生物医学のために用いられることができる潜在的候補である。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明によって酸化鉄が生成されたことを示すオレイン酸鉄錯体(実線)と380℃で加熱した後の同一の錯体(点線)のFT-IRスペクトラムである。
【図2】実施例2によって大量合成された、直径が12nmの球形の酸化鉄ナノ粒子の典型的なTEMイメージである。右側の上角にある挿入図はペトリディッシュにある単分散酸化鉄ナノ粒子40グラムの写真である。
【図3】実施例3、4、2、5および6により合成された、それぞれ直径(a)5nm、(b)9nm、(c)12nm、(d)16nmおよび(e)22nmの酸化鉄ナノ粒子の典型的な高解像度TEMイメージである。
【図4】実施例3、4、2、5および6により合成された、直径5nm、9nm、12nm、16nmおよび22nmの酸化鉄ナノ粒子のFe L2、3-エッジ(edge)X線吸収スペクトラム(XAS)(左側のグラフ)およびX線磁気円二色性(X-ray magnetic circular dichroism,XMCD)スペクトラム(右側のグラフ)の二つのグラフを示す。ここで比較のために標準バルク物質(reference bulk material)、γ-Fe2O3およびFe3O4のXASおよびXMCDスペクトラムも示される。また図4の挿入図でL2範囲の拡大されたXASスペクトラムおよび直径5nmと22nmのナノ粒子のXMCDスペクトラムがそれぞれ示される。
【図5】実施例2によって合成された、直径12nmの球形の酸化鉄ナノ粒子の典型的な粉末X線回折パターンである。
【図6】実施例3によって大量に合成された、直径5nmの球形の酸化鉄ナノ粒子の典型的なTEMイメージである。
【図7】実施例4によって大量に合成された、直径9nmの球形の酸化鉄ナノ粒子の典型的なTEMイメージである。
【図8】実施例5よって大量に合成された、直径16nmの球形の酸化鉄ナノ粒子の典型的なTEMイメージである。
【図9】実施例6によって大量に合成された、直径22nmの球形の酸化鉄ナノ粒子の典型的なTEMイメージである。
【図10】直径12nmの正六面体形の酸化マンガンナノ粒子の典型的なTEMイメージであり、上端右側と下端右側の挿入図はそれぞれ実施例7によって合成されたMnOナノ粒子の電子回折パターンと高解像度TEMイメージである。
【図11】実施例7によって合成された直径12nmの正六面体形のマンガン酸化物ナノ粒子の典型的な粉末X線回折パターンである。
【図12】左側上端に示されるのは、実施例8によって合成された鉛筆形の酸化コバルト(CoO)ナノ粒子の典型的なTEMイメージである。右側上端および右側中間にある挿入図はそれぞれ同一ナノ粒子の電子回折パターンおよび図式的模型である。左側下端および右側下端はそれぞれ<002>および<100>方向から透写された高解像度TEMイメージである。
【図13】実施例8によって合成された鉛筆形の酸化コバルト(CoO)ナノ粒子の典型的な粉末X線回折(XRD)パターンである。
【図14】実施例9によって合成された、直径20nmの正六面体形の鉄(Fe)ナノ粒子の典型的なTEMイメージであり、右側上端および右側下端の挿入図はそれぞれ同一のFeナノ粒子の電子回折パターンおよび高解像度TEMイメージである。
【図15】実施例9によって合成された、直径20nmの正六面体型の鉄(Fe)ナノ粒子の典型的な粉末X線回折(XRD)パターンである。
【図16】実施例10によって合成された、直径8nmの球形のコバルトフェライト(cobalt ferrite)(CoFe2O4)ナノ粒子の典型的なTEMイメージである。
【図17】実施例11によって合成された、直径9nmの球形のマンガンフェライト(manganese ferrite)(MnFe2O4)ナノ粒子の典型的なTEMイメージである。
【図18】ゼロ磁場で冷却工程後に測定された、直径5、9、12、16および22nmの球形の酸化鉄ナノ粒子の磁化の温度依存性を示す曲線である。ここで5、9、12、16および22nmの5個の直径の異なる球形の酸化鉄ナノ粒子は、実施例3、4、2、5および6によってそれぞれ合成される。
【図19】実施例13によって合成された、直径5nmの球形の酸化亜鉛(ZnO)ナノ粒子の典型的なTEMイメージである。
【図20】実施例14によって合成された、直径2nmの球形のセリア(ceria)(cerium oxide-CeO2)ナノ粒子の典型的なTEMイメージである。
【発明を実施するための形態】
【0039】
本発明の上記目的および他の利点は、提示された本発明の実施例を添付された図面を参照し詳細に説明することによって、より明らかになるだろう。
【0040】
本発明を実施する最善の形態および対応する方法が、以下に説明される。しかし、ここで示している実施および方法は、単に本発明の根本的な概念の実行を説明することに役に立つ実施例である。以下に示される典型的な実施例は、基本的なアイディアおよび方法を完全に説明するものでも、本発明の範囲を制限するものでもない。
【0041】
さらに、本技術の当業者は、本発明の根本的な概念およびその実施を容易に修正し、変更することができるだろう。
【実施例1】
【0042】
オレイン酸鉄錯体の合成
本発明による単分散ナノ粒子を合成する方法の最初の典型的な実施例では、塩化鉄([FeCl3・6H2O]40mmol)10.8gおよびオレイン酸ナトリウム(120mmol)36.5gをエタノール80ml、蒸留水60ml、およびヘキサン140mlを含む溶媒混合物に溶解させた。その後70℃にその混合物を加熱して、オレイン酸鉄錯体を得るために4時間その温度で維持した。この工程の間に、初期に深紅色だった水層が透明になり、初期に透明だった有機層が深紅色に変化した。これは、オレイン酸鉄錯体の合成が成功したことを示す。反応の完了後、金属オレイン酸錯体を含む上部有機層を分離した。その後ヘキサンが留去すると、蝋状の固体形態になった。図1に、生成物であるオレイン酸鉄錯体のFT-IRスペクトラムは、1700cm-1においてC=O伸縮ピークを示し、これは金属オレイン酸錯体の特有の性質である。
【実施例2】
【0043】
球形の単分散酸化鉄ナノ粒子の大量合成−(A)
ここで開示された本発明による球形の単分散酸化鉄ナノ粒子の超大量合成の最初の典型的な実施例では、室温かつ不活性環境(inert atmosphere)下で、実施例1によって合成されたオレイン酸鉄錯体36gを脱水されたオクタデセン200gとオレイン酸5.7gとの混合物に添加した。その結果得られた混合物は、320℃まで加熱され、その後30分間その温度を維持しながら熟成された。その工程の間に、最初は透明だった溶液が黒茶色になった。これはオレイン酸鉄錯体が完全に分解(discompose)され、酸化鉄ナノ粒子が生成されたことを示す。
【0044】
得られたナノ粒子を含む溶液は、室温で冷却された。溶液に過量のエタノールが加えられると、黒色の沈殿物が得られた。その後、溶液は遠心分離によって分離された。
【0045】
その後、得られた上清液(supernatant)を除去した。この洗浄工程は少なくとも3回繰り返し、その後、残余物に含まれたエタノールを真空乾燥によって除去した。
【0046】
得られた製造物は、ヘキサン中に容易に再分散されると、所望の鉄ナノ粒子が形成された。得られた直径12nmの鉄ナノ粒子の観察とデータ分析結果を次に記載する。
【0047】
図2に、得られた鉄ナノ粒子の透過型電子顕微鏡(transmission electron microscope (TEM))イメージが示される。このイメージは直径12nmの球形の酸化鉄ナノ粒子の典型的なTEM写真であり、得られたナノ粒子が球形であり、それらの粒子のサイズが単分散であることを示す。
【0048】
図3cに、直径12nmの単分散球形酸化鉄(磁鉄鉱)ナノ粒子の高解像度TEMイメージが示される。これは、得られたナノ粒子は高度に結晶質であることを示す。
【0049】
図4は、二つの標準物質、比較用バルクγ-Fe2O3(マグヘマイト)およびバルクFe3O4(磁鉄鉱)と、直径12nmの酸化鉄ナノ粒子とのXASスペクトラム(左側)とXMCDスペクトラム(右側)を示す。標準物質は、立方格子定数(cubic lattice constant)で差が僅か約1%のほぼ同一なスピネル(spinel)結晶構造を有する。XASとXMCDデータ結果から、(γ-Fe2O3)1-x(Fe3O4x式の酸化鉄ナノ粒子における組成の定量的な推算が行われた。その結果、直径12nmのナノ粒子において、x=0.68であった。
【0050】
図5に、実施例2で合成された直径12nmの球形の酸化鉄ナノ粒子の典型的な粉末X線回折(X-ray diffraction)パターンが示される。得られた磁鉄鉱(Fe3O4)ナノ粒子の粉末X線回折パターンは、ナノ粒子が高度に結晶質であることを示す。
【実施例3】
【0051】
単分散球形酸化鉄ナノ粒子の大量合成−(B)
本発明により、直径が5nmの球形の単分散酸化鉄ナノ粒子を合成するため、実施例2に記載された方法と類似の方法を実施した。脱水されたヘキサデセン100gとオレイン酸5.7gとを含む混合物にオレイン酸鉄錯体18gを不活性環境下で添加し、その結果により得られた混合物を280℃まで加熱して、その後、混合物を1時間還流温度下で熟成させた。その結果、直径5nmのコロイド性酸化鉄ナノ粒子が形成された。得られた溶液を室温まで冷却した。
【0052】
その後、洗浄のためにエタノールが添加された。その結果、黒色沈殿物が発生し、回転速度2000rpmで遠心分離し、沈澱したナノ粒子を回収した。その後、この洗浄工程をすくなくとも3回繰り返し、真空乾燥によりエタノールを除去して、所望の酸化鉄ナノ粒子を得た。得られたナノ粒子はヘキサンやトルエンのような無極性有機溶媒中に容易に再分散された。
【0053】
図6に、得られたナノ粒子のTEMイメージが示される。これは、実施例3で合成された直径5nmの球形酸化鉄ナノ粒子が粒子のサイズにおいて、ほぼ単分散であることを示す。
【0054】
図3aに示した直径5nmの球形の単分散酸化鉄(磁鉄鉱)ナノ粒子の高解像度TEMイメージは、ナノ粒子が高度に結晶質であることを示す。
【0055】
図4は二つの標準物質、比較用バルクγ-Fe2O3(マグヘマイト)およびバルクFe3O4(磁鉄鉱)と、直径5nmの酸化鉄ナノ粒子とのXASスペクトラム(左側グラフ)とXMCDスペクトラム(右側グラフ)を示す。これは、得られたナノ粒子が、立方格子定数で差がわずか約1%の標準バルク物質とほぼ同一なスピネル結晶構造を有することを示す。
【0056】
得られた直径5nmのナノ粒子のXASおよびMCDスペクトラムは、両者ともγ-Fe2O3のスペクトラムと非常に類似していることから、Fe3+のみを含むことを示す。XASとXMCDスペクトラムデータより、(γ-Fe2O31-x(Fe3O4x式の酸化鉄ナノ粒子において組成の定量的な推算が行われた。その結果、直径5nmのナノ粒子において、x=0.20になった。したがって、得られた直径5nmの酸化鉄ナノ粒子において、γ-Fe2O3の状態が主な状態と結論付けることができる。
【実施例4】
【0057】
単分散球形の酸化鉄ナノ粒子の大量合成−(C)
用いられた溶媒をオクチルエーテルに置換したこと、および最終熟成温度を300℃に設定したことを除き、実施例3に記載された反応条件と同一の反応条件を用いて直径9nmの単分散球形酸化鉄ナノ粒子を合成した。
【0058】
得られた直径9nmの単分散球形酸化鉄(磁鉄鉱)ナノ粒子のTEMイメージが、図7に示される。これは、球形酸化鉄ナノ粒子が粒子のサイズにおいて単分散であることを示す。図3bで示した得られた直径9nmの単分散球形の酸化鉄(磁鉄鉱)ナノ粒子の高解像度TEMイメージは、得られたナノ粒子が高度に結晶質であることを示す。
【0059】
図4は比較用として二つの標準物質、バルクγ-Fe2O3(マグヘマイト)およびバルクFe3O4(磁鉄鉱)、並びに得られた直径9nmの酸化鉄ナノ粒子のXASスペクトラム(左側グラフ)とXMCDスペクトラム(右側グラフ)を示す。ここで得られたナノ粒子は、立方格子定数で差が約1%の標準物質のように、ほぼ同一なスピネル結晶構造を有する。XASとXMCDスペクトラムデータから、(γ-Fe2O31-x(Fe3O4x式の得られた酸化鉄ナノ粒子における組成の定量的な推算が行われた。その結果、直径9nmのナノ粒子において、x=0.57となった。
【実施例5】
【0060】
単分散球形酸化鉄ナノ粒子の大量合成−(D)
使用された溶媒を1-エイコセンに置換したこと、および最終熟成温度を330℃に設定したことを除き、直径16nmの単分散酸化鉄ナノ粒子が実施例3に記載された反応条件と同一の反応条件を用いて合成された。
【0061】
本発明によって合成された直径16nmの球形酸化鉄ナノ粒子の典型的なTEMイメージが図8に示される。これは、直径16nmの球形酸化鉄ナノ粒子がサイズにおいて単分散であることを示す。
【0062】
図3dに、大きさ16nmの単分散球形酸化鉄(磁鉄鉱)ナノ粒子の高解像度TEMイメージは、ナノ粒子の構造における高度の結晶質を示す。
【0063】
図4は比較用の二つの標準物質、バルクγ-Fe2O3(マグヘマイト)およびバルクFe3O4(磁鉄鉱)ならびに直径16nmの合成された酸化鉄ナノ粒子のXASスペクトラムとXMCD結果を示す。これは、得られたナノ粒子が立方格子定数で、差が僅か約1%のほぼ同一なスピネル結晶構造を有することを示す。XASとXMCDスペクトラムデータから、(γ-Fe2O31-x(Fe3O4x式の得られた酸化鉄ナノ粒子における組成の定量的推算が行われた。その結果、合成された16nmのナノ粒子においてx=0.86となることが示唆された。
【実施例6】
【0064】
単分散球形酸化鉄ナノ粒子の大量合成−(E)
使用された溶媒をトリオクチルアミンに置換したこと、および最終反応温度を360℃に設定することを除き、直径22nmの単分散球形酸化鉄ナノ粒子を実施例3に記載された反応条件と同一の反応条件を用いて合成した。
【0065】
図9に、本発明により合成された22nmの球形酸化鉄ナノ粒子の典型的なTEMイメージが示される。これは、22nmの球形酸化鉄ナノ粒子が粒子のサイズにおいて単分散であることを示す。
【0066】
図3eに、大きさ22nmの単分散球形酸化鉄(磁鉄鉱)ナノ粒子の高解像度TEMイメージは、大きさ22nmのナノ粒子の高度な結晶質を示す。
【0067】
図4は比較用の二つの標準物質、バルクγ-Fe2O3(マグヘマイト)およびバルクFe3O4(磁鉄鉱)ならびに直径22nmの球形酸化鉄ナノ粒子のXASスペクトラムおよびXMCD測定の結果を示す。これは、合成された大きさ22nmの球形ナノ粒子が立方格子定数で、差が僅か約1%のほぼ同一なスピネル結晶構造を有することを示す。XASとXMCDスペクトラムデータから、(γ-Fe2O31-x(Fe3O4x式の得られた酸化鉄ナノ粒子における組成の定量的推算が行われた。その結果、大きさ22nmのナノ粒子において、x=1.00となった。したがって、合成された大きさ22nmのナノ粒子が純粋な磁鉄鉱(magnetite)であることを示す。
【実施例7】
【0068】
単分散酸化マンガンナノ粒子の合成
直径12nmの単分散立方体形態の酸化マンガン(MnO)ナノ粒子が、実施例2に記載された方法と類似の方法を用いて、本発明により合成された。オレイン酸マンガン1.24gを脱水された1-オクタデセン10gを含む溶液に不活性環境下で添加した。その結果により得られた混合物を320℃まで加熱し、還流温度で1時間熟成させ、黒茶色のコロイド性マンガンナノ粒子を形成させた。。
【0069】
図10に、本発明によって合成された12nmの立方体状の酸化マンガンナノ粒子の典型的なTEMイメージが示されている。これは、ナノ粒子は直径の大きさにおいて極めて均一であることを示す。
【0070】
図11は大きさ12nmの立方体状の酸化マンガンナノ粒子の典型的な粉末X線回折(XRD)パターンである。これは、面心立方体(face-center cube)状の酸化マンガンナノ粒子が実施例7の方法によって合成されたことを示す。
【実施例8】
【0071】
単分散酸化コバルト(CoO)ナノ粒子の合成
実施例2に記載された方法と類似の方法を利用することで、単分散弾丸形(bullet-shaped)酸化コバルトナノ粒子が、本発明により合成された。オレイン酸コバルト1.25gを脱水された1-オクタデセン10gを含む溶液に不活性環境下で添加した。その結果により得られた混合物を320℃まで加熱し、還流温度で1時間熟成させ、薄い茶色のコロイド性酸化コバルトナノ粒子を形成させた。酸化コバルトの場合、固有の結晶異方性を有していることが知られており、酸化コバルトナノ粒子がc軸に沿って優先的に成長することが観察された。
【0072】
図12に、本発明によって合成された弾丸形酸化コバルトナノ粒子のTEMイメージの例およびその二次元配列が示されている。図12のTEMイメージは、弾丸形酸化コバルトナノ粒子は単分散であること、およびそれらは蜂の巣型の構造および自己集合的超格子構造を形成することを示す。また、図12の右側上端挿入図に示されている電子回折パターンは、合成された弾丸形酸化コバルトナノ粒子がウルツアイト(Wurtzite)結晶構造を有することを示唆する。さらに、図12の下端に示されている弾丸形酸化コバルトナノ粒子の高解像度TEMは、ナノ粒子が高度に結晶質であることを示す。
【0073】
図13は鉛筆形(pencil-shaped)酸化コバルトナノ粒子の典型的な粉末X線回折(XRD)パターンであり、また酸化コバルトナノ粒子がZnOと類似のウルツアイト構造を有することを示す。
【実施例9】
【0074】
単分散鉄ナノ粒子の合成
大きさ20nmの単分散立方体状鉄ナノ粒子が、実施例2に記載された方法と類似の方法を用いて、本発明により合成された。オレイン酸鉄錯体1.24gを、丸底フラスコ中の脱水されたオレイン酸5gを含む50mlの溶液に、不活性環境下で添加した。その結果により得られた混合物を370℃まで加熱し、その温度で1時間熟成させた。その結果、黒色のコロイド性鉄ナノ粒子を形成させた。本発明でオレイン酸鉄錯体の熱分解が例えば350℃以上の高温でおこる場合、ナノ粒子が鉄に自己還元することを注意しなければならない。
【0075】
図14に、本発明によって合成された大きさ20nmの立方体状鉄ナノ粒子のTEMイメージの例が示される。これは、得られたナノ粒子は直径の大きさにおいて非常に均一であることを示す。
【0076】
図14の右側上端の挿入図に示される電気回折パターンは、合成された大きさ20nmの鉄ナノ粒子が体心立方結晶(body-centered crystal)構造を有することを示唆する。さらに、図14の右側下端の挿入図に示される大きさ20nmの鉄ナノ粒子の高解像度TEMは、得られたナノ粒子が高度に結晶質であり、大きさ20nmの鉄ナノ粒子の表面は、FeOの薄い層により不動態化されていることを示唆する。
【0077】
図15は大きさ20nmの立方体状の鉄ナノ粒子の典型的な粉末X線回折(XRD)パターンであり、高度に体心立方結晶質の鉄の核が、FeOの薄い表面層により不動態化されていることを示唆する。
【実施例10】
【0078】
単分散球形コバルトフェライト(CoFe2O4)粒子の合成
実施例1で説明された合成方法によって、エタノール40ml、水30ml、ヘキサン70mlの混合物中のオレイン酸ナトリウム24.36gと塩化鉄(III)水和物(FeCl3・6H2O)5.4gと塩化コバルト(III)水和物(CoCl3・6H2O)2.4gとを反応させて合成された鉄/オレイン酸コバルト錯体1.22gを、脱水された1-オクタデセン10gを含む溶媒に不活性環境下で添加した。その結果により得られた混合物を320℃まで加熱し、その温度で30分維持した。この工程の間に、前駆体は完全に熱分解され、バイメタルフェライト(bimetallic ferrite)ナノ粒子が形成された。その後、溶液を室温まで冷却した。余分な界面活性剤と副産物を除去するため、脱水および脱気されたエタノールを添加すると、黒茶色の沈殿物が発生した。ここで上清をデカントで、または遠心分離することによって除去した。その後、この洗浄工程は3回またはその以上繰り返され、エタノールが真空乾燥によって除去された。この結果により得られた直径8nmの球形コバルトフェライト(CoFe2O4)ナノ粒子が、ヘキサンの中に容易に再分散された。
【0079】
この方法によって合成されたコバルトフェライトナノ粒子のTEMイメージが、図16に示される。これは、得られた直径8nmの球形コバルトフェライト(CoFe2O4)ナノ粒子が単分散であることを示唆する。
【実施例11】
【0080】
単分散球形マンガンフェライト(MnFe2O4)ナノ粒子の合成
実施例10における反応条件と類似の反応条件下で、単分散球形のマンガンフェライト(MnFe2O4)ナノ粒子が合成された。オレイン酸鉄1.8gとオレイン酸マンガン0.62gとを、脱水された1-オクタデセン10gを含む溶媒に、不活性環境下で添加した。その結果により得られた混合物を320℃まで加熱し、その後そのの温度で30分間維持した。実施例9と同一の洗浄工程を通じて、大きさ9nmの球形マンガンフェライト(MnFe2O4)ナノ粒子が合成された。
【0081】
上記で説明された方法によって合成されたマンガンフェライト(MnFe2O4)ナノ粒子のTEMイメージが、図17に示される。これは、大きさ9nmの球形マンガンフェライトナノ粒子が単分散であることを示す。
【実施例12】
【0082】
球形酸化鉄ナノ粒子の磁気的性質
実施例2、3、4、5および6で合成された5、9、12、16および22nmの球形酸化鉄ナノ粒子を、5〜380Kの間で100Oeを使用したゼロ磁場冷却(zero field cooling)した後、超伝導量子干渉素子(superconducting quantum interference device)を利用して磁化の熱依存性を測定した。
【0083】
ゼロ磁場冷却方法を使った温度に対しての磁化の測定データのグラフが図18に示される。グラフは、参照用の5、9、12、16および22nmの球形の酸化鉄ナノ粒子のデータと非常に類似している。図18のグラフは、直径5、9、12、16および22nmの球形の酸化鉄ナノ粒子の遮断温度(blocking temperature)がそれぞれ30、80、125、230および260Kに測定されたことを示す。すべての酸化鉄サンプルは遮断温度を超えると、超常磁性(superparamagnetic)挙動を示し、ナノ粒子の直径が増加するに伴い、遮断温度は連続的に増加した。
【実施例13】
【0084】
単分散球形酸化亜鉛(ZnO)ナノ粒子の合成
実施例1で説明された合成方法によって、エタノール40ml、水30mlおよびヘキサン70mlを含んだ混合物中のオレイン酸ナトリウム24.36gと塩化亜鉛(ZnCl2)5.45gとを反応させて合成されたオレイン酸亜鉛錯体12gを安定するように配位結合するTOPO溶媒60gに不活性環境下で添加し、その結果により得られた混合物を330℃まで加熱させ、その温度で1時間保存した。
【0085】
この工程の間に、前駆体は完全に熱分解され、酸化亜鉛ナノ粒子が形成された。その後、溶液を室温まで冷却させた。余分な界面活性剤および副産物を除去するため、無水の脱気されたエタノールを添加すると、白色の沈殿物が形成された。上清はデカントまたは遠心分離することによって除去された。その後、この洗浄工程は3回またはそれ以上繰り返し、真空乾燥によってエタノールが除去された。この結果により得られた直径5nmの酸化亜鉛ナノ粒子がヘキサン中に容易に再分散された。
【0086】
本実施例13の方法によって合成された酸化亜鉛ナノ粒子のTEMイメージが、図19に示される。これは大きさ5nmの球形酸化亜鉛ナノ粒子が単分散であることを示唆する。
【実施例14】
【0087】
単分散球形セリア(CeO2)ナノ粒子の合成
実施例1で説明された合成方法により、エタノール40ml、水30mlおよびヘキサン70mlを含む混合溶媒中のオレイン酸ナトリウム18.27gと塩化セリウム(III)水和物(CeCl3・7H2O)7.45gとを反応させて合成されたオレイン酸セリウム錯体20gをオレイルアミン200ml(安定するように配位結合する溶媒)に不活性環境下で添加した。その結果により得られた混合物を320℃まで加熱させ、その温度で2時間維持した。
【0088】
この工程の間に、前駆体は完全に熱分解され、セリアナノ粒子が形成された。その後、溶液を室温まで冷却した。余分な界面活性剤と副産物を除去するため、脱水および脱気されたエタノールを添加すると、白色の沈殿物が形成された。上清はデカントまたは遠心分離することによって除去された。その後、この洗浄工程は3回またはそれ以上繰り返され、真空乾燥によってエタノールが除去された。この結果により得られた直径2nmのセリアナノ粒子がヘキサン中に容易に再分散された。
【0089】
本実施例14の方法によって合成されたセリアナノ粒子のTEMイメージが、図20に示される。これは大きさ2nmの球形セリアナノ粒子が単分散であることを示唆する。
【産業上の利用可能性】
【0090】
発明の実施のための形態
本発明によって、金属、金属酸化物、合金、および複合金属酸化物の単分散ナノ粒子が大量に合成される。このようなナノ粒子は、磁気データ保存媒体への応用のための優れた磁気的性質を示し、このような性質は合成された金属酸化物ナノ粒子の多様なサイズに対する磁化の温度依存性を測定することにより示される。
【0091】
近年、金属、合金、金属酸化物および複合金属酸化物の単分散かつ高度の結晶質のナノ粒子の開発が、基本的な科学的興味のためだけではなく、超高密度磁気データ保存媒体、生物医学的標識試薬、薬物伝達物質、ナノスケール電子工学、非常に效率が高いレーザービームのための原料(source material)、非常に明るい光学装置、およびMRI増進制(enhancing agents)のような分野での技術的かつ実用的な潜在的に多く応用のため、活発になされている。従来の合成方法は、そのようなナノ粒子の産業的応用のための大量かつ安価な製造に適合していなかった。
【0092】
本発明で開示された合成方法は、簡単で安価、無毒で環境に優しいという利点を有し、単分散かつ高度に結晶質の所望するナノ粒子を大量に合成する極めてユニークな方法である。したがって、ここに示された合成方法は、超高密度磁気データ保存媒体、生物医学的標識試薬、薬物標的物質、ナノスケール電子工学、非常に效率の高いレーザービームのためのソ原料(source material)および非常に明るい光学装置、およびMRI増進制(enhancing agents)分野での潜在的な応用に有益である。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
i)C5-10脂肪族炭化水素およびC6-10芳香族炭化水素からなる群から選択された第一溶媒に溶解したC4-25カルボン酸のアルカリ金属塩と、水溶液に溶解した金属塩とを反応させて、金属カルボン酸錯体を形成させるステップと、
ii)C6-25芳香族化合物、C6-25エーテル、C6-25脂肪族炭化水素およびC6-25アミンからなる群から選択された第二溶媒に溶解した前記金属カルボン酸錯体を加熱させて、ナノ粒子を製造するステップと
を含む、金属、金属合金、金属酸化物および複合金属酸化物のナノ粒子の製造方法。
【請求項2】
前記金属は、鉄(Fe)、コバルト(Co)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、イットリウム(Y)、ジルコニウム(Zr)、モリブデン(Mo)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、銀(Ag)、カドミウム(Cd)、セリウム(Ce)、白金(Pt)、金(Au)、バリウム(Ba)、ストロンチウム(Sr)、鉛(Pb)、水銀(Hg)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、スズ(Sn)およびゲルマニウム(Ge)からなる群から選択され、前記アルカリ金属は、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)およびカリウム(K)からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記金属塩は、塩化鉄(III)[FeCl3]、塩化鉄(II)[FeCl2]、臭化鉄(II)[FeBr2]、硫酸鉄(II)[FeSO4]、硝酸鉄(III)[Fe(NO33]、ステアリン酸鉄(II)[Fe(O2C18H352]、酢酸鉄(II)[Fe(OOCCH32]、塩化コバルト(III)[CoCl3]、塩化コバルト(II)[CoCl2]、硝酸コバルト(II)[Co(NO32]、硫酸ニッケル(II)[NiSO4]、塩化ニッケル(II)[NiCl2]、硝酸ニッケル(II)[Ni(NO32]、四塩化チタン[TiCl4]、四塩化ジルコニウム[ZrCl4]、ヘキサクロロ白金(IV)酸[H2PtCl6]、ヘキサクロロパラジウム(IV)酸[H2PdCl6]、塩化バリウム[BaCl2]、硫酸バリウム[BaSO4]、塩化ストロンチウム[SrCl2]、硫酸ストロンチウム[SrSO4]、酢酸亜鉛[Zn(OOCH32]、酢酸マンガン[Mn(OOCH32]、酢酸セリウム(III)水和物[(CH3COO)3Ce・xH2O]、臭化セリウム(III)水和物[CeBr3・xH2O]、塩化セリウム(III)七水和物[CeCl3・7H2O]、炭酸セリウム(III)水和物[Ce2(CO3)・xH2O]、フッ化セリウム(III)水和物[CeF3・xH2O]、セリウム(III)2-エチルヘキサノアート[CH3(CH23CH(C2H5)CO2]3Ce、ヨウ化セリウム(III)[CeI3]、硝酸セリウム(III)六水和物[Ce(NO33・6H2O]、シュウ酸セリウム(III)水和物[Ce(C2O43・xH2O]、過塩素酸セリウム(III)[Ce(ClO43]、硫酸セリウム(III)水和物[Ce2(SO43・xH2O]、鉄(III)アセチルアセトネート[Fe(acac)3]、コバルトアセチルアセトネート[Co(acac)3]、ニッケルアセチルアセトネート[Ni(acac)2]、銅(II)アセチルアセトネート[Cu(acac)2]、バリウムアセチルアセトネート[Ba(acac)2]、ストロンチウムアセチルアセトネート[Sr(acac)2]、セリウム(III)アセチルアセトネート水和物[(acac)3Ce・xH2O]、白金(II)アセチルアセトネート[Pt(acac)2]、パラジウムアセチルアセトネート[Pd(acac)2]、チタンテトライソプロポキシド[Ti(iOC3 H74]およびジルコニウムテトラブトキシド[Zr(OC4H94]からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記金属塩は、塩化鉄(III)六水和物[FeCl3・6H2O]、二塩化鉄(II)四水和物[FeCl2・4H2O]、塩化コバルト(III)六水和物[CoCl3・6H2O]、塩化コバルト(II)四水和物[CoCl2・4H2O]、塩化クロム(III)六水和物[CrCl3・6H2O]および塩化マンガン(II)四水和物[MnCl2・4H2O]からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記C4-25カルボン酸のアルカリ金属塩は、オレイン酸ナトリウム(sodium oleate)、ステアリン酸ナトリウム(sodium stearate)、ラウリン酸ナトリウム(sodium laurate)、オレイン酸カリウム(potassium oleate)、ステアリン酸カリウム(potassium stearate)、ラウリン酸カリウム(potassium laurate)、ドデシル硫酸ナトリウム(sodium dodecylsulfate, SDS)およびドデシルベンジル硫酸ナトリウム(sodium dodecylbenzyl sulfonate, DBS)からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記第一溶媒は、ヘキサン、ヘプタン、ペンタン、オクタン、ヘキサデカン、オクタデカン、キシレン、トルエンおよびベンゼンからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記第二溶媒は、オクタデカン(octadecane)、エイコサン(eicosane)、ヘキサデカン(hexadecane)、エイコセン(eicosene)、フェナントレン(phenanthrene)、ペンタセン(pentacene)、アントラセン(antracene)、ビフェニル(biphenyl)、ジメチルビフェニール(dimethyl biphenyl)、フェニルエーテル(phenyl ether)、オクチルエーテル(octyl ether)、デシルエーテル(decyl ether)、ベンジルエーテル(benzylether)、トリオクチルアミン(trioctylamine)、ヘキサデシルアミン(hexadecylamine)およびオクタデシルアミン(octadecylamine)からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
ステップii)の開始の前に前記第二溶媒に溶解した前記金属カルボン酸錯体に、C4-25カルボン酸がさらに添加される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記C4-25カルボン酸は、オレイン酸(oleic acid)、ステアリン酸(stearic acid)、ラウリン酸(lauric acid)、パルミチン酸(palmatic acid)、オクタン酸(octanoic acid)およびデカン酸(decanoic acid)からなる群から選択される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
ステップi)において、前記水溶液は、エタノールおよび/またはメタノールを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
ステップii)において、前記金属カルボン酸錯体溶液は、200℃と前記第二溶媒の沸点との間の温度まで加熱される、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記温度は、1分から24時間の間維持される、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記金属カルボン酸錯体溶液は、1℃/minと200℃/minとの間の加熱速度で前記温度まで加熱される、請求項1に記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate


【公開番号】特開2011−224558(P2011−224558A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−88184(P2011−88184)
【出願日】平成23年4月12日(2011.4.12)
【分割の表示】特願2007−542916(P2007−542916)の分割
【原出願日】平成17年11月26日(2005.11.26)
【出願人】(507171856)ソウル ナショナル ユニバーシティー インダストリー ファンデーション (14)
【Fターム(参考)】