説明

単球を増殖するための方法

本発明は、単球、マクロファージまたは樹状細胞を増殖するためのex vivoでの方法に関するものであり、この方法は、単球、マクロファージまたは樹状細胞中のMafBおよびc−Mafの発現または活性を阻害すること、および少なくとも1つのサイトカインまたはサイトカイン受容体シグナル伝達のアゴニストの存在下で前記細胞を増殖することを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長期培養中に単球、マクロファージまたは樹状細胞を生成、維持および増殖するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
単球は、骨髄(BM)で生成されて血流中に放出され、循環を離れた後に様々な型の組織マクロファージまたは樹状細胞を生じる。単球、骨髄中のその子孫および直接前駆体は、「単核性食細胞系」(MPS)とも名付けられている。それらは、単球および顆粒球細胞を生じる骨髄中の顆粒球/マクロファージコロニー形成単位(CFU−GM)の前駆細胞に由来する。単核系統の成熟過程はin vivoでは、単芽球段階から前単球段階を介して成熟単球に移行する(Goud TJ et al.1975)。IL−3、GM−CSFおよびマクロファージコロニー刺激因子(M−CSF)は、in vivoでの単球の生成を刺激する(Metcalf D et al.1990)。in vitroでは、GM−CSFと共に培養した造血前駆細胞はCFU−GMが顆粒球に分化するのを誘導し、一方FLおよびSCFの添加によって顆粒球系統から単核系統への分化に転じる(Gabbianelli M et al.1995;Willems R et al.2001)。
【0003】
幾つかの近年の試験は、特異的表面マーカーの発現は詳細には種間で変わり得るが、単球およびその子孫の一般的な分化経路はマウスとヒトの間では大部分が保存されているらしいことを示す(Gordon S et al.2005)。実験への高いアクセス性によって、より詳細な分化経路が動物モデルにおいて働き得る。マウス単球は、分化能が次第に制限される連続関与ステップおよび幾つかの中間の前駆段階によって、骨髄中の造血幹細胞(HSC)から生じる(Shizuru JA et al.2005;Kondo M et al.2000)。この分化系は、全ての骨髄性細胞を生じ得る共通骨髄性前駆細胞(CMP)から、単球および顆粒球細胞を生じる顆粒球−マクロファージ前駆細胞(GMP)に伝わると考えられ、CFU−GM前駆細胞と同一または非常に類似している可能性がある。さらに、骨髄中のより直接的な単球前駆細胞は、おそらく単球中間段階を介して、マクロファージおよび樹状細胞を生じ得るマクロファージ/樹状細胞前駆細胞(MDP)であると考えられる(Fogg et al.2006)。
【0004】
新たに形成された単球は24時間以内にBMを離れ、末梢血に移動する。循環血液中の単球は毛細血管の内皮細胞に接着することができ、様々な組織に移動することができ(van Furth R et al.1992)、そこでそれらはマクロファージまたは樹状細胞に分化し得る。これらの接着および移動は、接着分子のインテグリンスーパーファミリーに属する、表面タンパク質、リンパ球機能関連抗原−1(LFA−1)、CD11および抗原−4(VLA−4)と関係がある(Kishimoto TK et al.1989)。これらのインテグリンは、内皮細胞上でセレクチンと相互作用する。単球由来マクロファージは、浸潤組織中に取り込まれた形態的および機能的仕様を反映する高度の不均一性を示す可能性がある。それらの解剖学的局在によって、単球由来マクロファージは、異なる名称も有し得る(例えば、中枢神経系中ではミクログリア、および肝臓中ではクッパー細胞)。
【0005】
幾つかの定住性マクロファージ集団が特定条件下においてin situで増殖することができるかどうかは、依然として意見が分かれているが、大部分のマクロファージは増殖能を有していないか、または非常に限られた増殖能を有していると考えられる(Gordon S et al.,2005)。したがって、組織のマクロファージ集団の再生は、単核の流入およびそれらの局所分化に依存する(Crofton RW et al.1978;Blusse van Oud Alblas A et al;1981)。このような組織浸潤単球は非常に限られた増殖能を有し得るが、血液中を循環する単球はマクロファージに循環および早急に分化するのではなく、そうではなくてex vivoでM−CSFを用いて刺激したとき増殖する。
【0006】
組織への単球動員は恒常的および炎症条件下で異なり、ヒトおよび哺乳動物モデルにおいて同定されている2つの異なる単球集団と関係があると考えられる(Gordon S et al.2005)。炎症中に単球生成が増大し(Shum DT et al.1982;van Waarde D et al.1977)、単球数の上昇をもたらす。さらに、炎症性メディエーター、IL−1、IL−4、IFN−γおよびTNF−αは、内皮細胞上のセレクチンの発現を上方制御し、組織への単球の移動を促進する。同じサイトカインが、単球上のインテグリン接着分子の発現を調節する(Pober JS et al.and 1990)。炎症部位において単球は、表面γ受容体(CD64、CD32)および補体受容体(CD11b、CD11c)を介したオプソニン化微生物または免疫複合体の食作用と関係がある。微生物は、活性酸素および窒素代謝産物によって、幾つかの加水分解酵素(酸ホスファターゼ、エステラーゼ、リソザイムおよびガラクトシダーゼ)によって相乗的に殺傷される(Kuijpers T.1989;Hibbs JB et al.1987)。重要なことに、単球由来マクロファージおよび樹状細胞は抗原提示によってT細胞を刺激し、したがって適応免疫応答の認識および活性化期と関係がある(Nathan CF.1987)。単球はさらに、増殖因子(GM−CSF、G−CSF、M−CSF、IL−1)および抗増殖因子(IFN、TNF)を含めた、炎症、増殖および免疫応答において重要な役割を果たす多数の生物活性物質を分泌する。
【0007】
リポ多糖(LPS)またはエンドトキシンは、グラム陰性細菌の外膜の主要な必須構造要素であり、最も強力な微生物における炎症イニシエーターの1つである。LPSは単球の表面上で発現されるCD14糖タンパク質と結合し、TLR4の活性化によりトル様受容体経路を刺激する。他のPAMP(病原体関連分子パターン)も、他のTLR受容体を介した炎症応答を開始させる可能性がある。LPSまたは他のPAMPSの結合は、TNF−α、IL−1、−6、−8および−10の生成を誘導する(Wright SD.Et al;1990;Dobrovolskaia MA et al.2002;Foey AD.et al.2000)。
【0008】
LPSまたは他のPAMP以外に、in vitroでのサイトカイン生成に対する最も有効な刺激の1つは、CD40リガンド(CD40L)を介した(Wagner DH.Et al.1997;Shu U.et al.1995;Alderson MR.et al.1993)、単球と活性化リンパ球の直接的な細胞間接触である(Wey E.et al.1992;Parry SL.Et al.1997)。この相互作用は、腫瘍の免疫学的監視においても重要である可能性がある。したがって、CD40Lトランスフェクト細胞と単球のインキュベーションは、ヒトメラノーマ細胞系に対する殺腫瘍活性をもたらす。さらに、単球とNK細胞、有意な抗腫瘍活性を有する細胞型の間の、機能的相互作用も記載されてきている。直接的な細胞間接触(Miller JS.Et al.1992)と単球によって活性化されるIL−12、TNF−α、IL−15またはIL−1βなどの可溶性因子の放出の両方が、IFN−γの増殖、生成(Carson WE et al.1995;Tripp CS.et al.1993)および時間依存式に共培養したNK細胞の細胞傷害能を誘導する(Chang ZL.et al.1990;Bloom ET.et al.1986)。
【0009】
最後に、マクロファージは外傷治癒および組織修復とも非常に関係しており、この場合マクロファージは、残骸を除去し組織リモデリングに関与する他の細胞型の動員と活性を統合することによって栄養機能を担う(Gordon S et al.2003)。
【0010】
樹状細胞(DC)は先天性免疫系の構成要素である。樹状細胞は、一次免疫応答を誘導する特有の能力を有する抗原提示細胞である(Banchereu et al.2000)。それらは血液中を循環する単球または血液中を循環するDC前駆細胞、および非リンパ末梢組織に由来する可能性があり、この場合それらは定住性細胞になる可能性がある(Bancherreau J.et al.1998,2000)(Geissmann,2007)(Wu and Liu,2007)。未熟DC(iDC)はトル様受容体を含めた細胞表面受容体によって病原体を認識する(Reis e Sousa C.2001)。抗原の取り込み後、DCは成熟しリンパ節に移動する。成熟DC(mDC)は、T細胞初回抗原刺激を仲介する有効な抗原提示細胞(APC)である(Banchereau J.et al.1998,2000)。さらに、マウスおよびヒト中のNK細胞活性化におけるDCの主要な役割が記載されてきている。未熟DCと細菌によって活性化されるヒト単球由来DCの両方が、NK細胞によるサイトカイン分泌および細胞毒性を誘導することが示されてきている(Ferlazzo G.et al.2002;Fernandez NC.et al.1999)。
【0011】
M−CSFの存在下での骨髄由来のマウスマクロファージのin vitroでの分化は、Stanley et al.(1978,1986)によって報告された。前駆細胞はM−CSFに応答して初期は増殖するであろうが、それらは最終的に成熟マクロファージに分化し、末期には細胞周期から離脱する(Pixley and Stanley,2004)。したがって、このように生成したマクロファージは限られた期間生存するが、それらは均質ではなく培養中にさらに増殖させることは不可能である。同様に、ヒト単球はM−CSFに応答して増殖しないが、マクロファージの分化を示す形態学的変化を開始する(Becker et al.,1987)。相当数の単球を白血球除去およびエルトリエーションによって患者から入手することができるが(Stevenson et al.,1983)、これらの細胞は増殖せずに数日間でマクロファージにさらに分化するはずであり、培養中維持することはできない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ここで本発明は、長期培養中に単球およびマクロファージを生成、維持および増殖するための新たなin vitro法を提供する。
【0013】
本発明者は、前記細胞中のMafBおよびc−Mafの発現を不活性化させることによって、数週間または数カ月の培養中に単球およびマクロファージを増殖し維持することができることを実際に実証している。in vitroで生成したマクロファージだけでなく、成熟骨髄MafBおよびc−Maf欠損マクロファージおよび血中単球も、培養中に増殖し続ける。
【0014】
したがって本発明の方法は、単球および単球由来細胞の増幅を必要とする治療手法、および単球、単球由来マクロファージ(破骨細胞含む)および樹状細胞を標的とする薬剤のスクリーニング、または患者特異的な特異的薬剤に対する応答性の試験、または罹患患者の単球または単球由来細胞を培養および増殖することによる単球または単球由来細胞依存性疾患の分子的基盤の試験に有用である可能性がある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、単球、マクロファージまたは樹状細胞を増殖するためのex vivoでの方法を提供するものであり、この方法は、単球、マクロファージまたは樹状細胞中のMafBおよびc−Mafの発現または活性を阻害すること、および少なくとも1つのサイトカイン、例えばM−CSFの存在下で前記細胞を増殖することを含む。
【0016】
本発明の目的は、前述の方法によって得ることができる単球、マクロファージまたは樹状細胞でもある。
【0017】
本発明の他の目的は、MafBおよびc−Mafを発現しない、またはMafBおよびc−Mafの発現または活性が無効化または阻害されている、単球、マクロファージまたは樹状細胞である。
【0018】
このような単球、マクロファージまたは樹状細胞は、それらが薬剤として許容される担体と組み合わされた医薬組成物において有用である。
【0019】
本発明の特定の目的は、ワクチンとして使用するための、抗原分子を添加したこのような樹状細胞を含む医薬組成物である。
【0020】
本発明は、薬剤をスクリーニングするための、前に定義した単球、マクロファージまたは樹状細胞の使用をさらに提供する。
【0021】
本発明は、マウス単球を生成および増殖するための方法であって、
i)MafBおよびc−Mafを発現しないマウスに由来する単球を単離すること、および
ii)M−CSFの存在下で前記単球を培養すること
からなるステップを含む方法をさらに提供する。
【0022】
詳細な説明
定義:
「コード配列」またはRNA、ポリペプチド、タンパク質、または酵素などの発現産物を「コードする」配列は、発現時に、そのRNA、ポリペプチド、タンパク質、または酵素の生成をもたらすヌクレオチド配列である、すなわちヌクレオチド配列は、そのポリペプチド、タンパク質、または酵素のアミノ酸配列をコードする。タンパク質のコード配列は、開始コドン(通常ATG)および停止コドンを含み得る。
【0023】
用語「遺伝子」は、1つまたは複数のタンパク質または酵素の全部または一部分を含むアミノ酸の個々の配列をコードするか、またはそれに対応するDNA配列を意味し、例えば遺伝子がその下で発現される条件を決定するプロモーター配列などの制御DNA配列を含むことができるか、または含むことができない。「プロモーター」または「プロモーター配列」は、細胞中でRNAポリメラーゼと結合することができ、下流(3’方向)コード配列の転写を開始させることができるDNA制御領域である。構造遺伝子ではない幾つかの遺伝子はDNAからRNAに転写され得るが、アミノ酸配列には翻訳されない。他の遺伝子は構造遺伝子のレギュレーターとして、またはDNA転写のレギュレーターとして機能することができる。特に、用語「遺伝子」は、タンパク質をコードするゲノム配列、すなわち、レギュレーター、プロモーター、イントロンおよびエクソン配列を含む配列を対象とし得る。
【0024】
本明細書で使用するように、特異的タンパク質(例えばMafBまたはc−Maf)に対する言及は、それらの起源または調製形式とは無関係に、天然アミノ酸配列を有するポリペプチド、ならびに変異体および修飾型を含むことができる。天然アミノ酸配列を有するタンパク質は、自然界から入手するのと同じアミノ酸配列を有するタンパク質である(例えば、天然に存在するMafBまたはc−Maf)。このような天然配列のタンパク質は自然界から単離することができ、あるいは標準的な組換えおよび/または合成法を使用して調製することができる。天然配列のタンパク質は、天然に存在する切断型または可溶型、天然に存在する変異体型(例えば、選択的スプライシング型)、天然に存在する対立遺伝子多型、および翻訳後修飾を含む型を具体的には包含する。天然配列のタンパク質は、グリコシル化、またはリン酸化、ユビキチン化、スモイル化などの翻訳後修飾、または幾つかのアミノ酸残基の他の修飾後のタンパク質を含む。
【0025】
用語「突然変異体」および「突然変異」は、遺伝物質、例えばDNA、RNA、cDNAの任意の検出可能な変化、またはこのような変化の任意のプロセス、メカニズム、結果を意味する。この用語は、その遺伝子構造(例えばDNA配列)が改変されている遺伝子の突然変異、任意の突然変異プロセスから生じる任意の遺伝子またはDNA、および修飾遺伝子またはDNA配列によって発現される任意の発現産物(例えば、タンパク質または酵素)を含む。突然変異は、1つまたは複数のヌクレオチドの欠失、挿入または置換を含む。突然変異は、遺伝子のコード領域中(すなわち、エクソン中)、遺伝子のイントロン中、または制御領域(例えば、エンハンサー、応答エレメント、サプレッサー、シグナル配列、ポリアデニル化配列、プロモーター)中で起こる可能性がある。一般に突然変異は、対象中で、前記対象によって発現された核酸またはポリペプチドの配列と、対照集団中で発現された対応する核酸またはポリペプチドを比較することによって確認される。突然変異が遺伝子コード配列内である場合、その突然変異は、遺伝子産物中の1つのアミノ酸と他のアミノ酸を置換する「ミスセンス」突然変異、またはアミノ酸コドンと停止コドンを置換する「ナンセンス」突然変異である可能性がある。突然変異はスプライシング部位で起こる可能性もあり、この場合突然変異は、エクソン−イントロンスプライシングに関するシグナルを生成または破壊し、これによって改変構造の遺伝子産物をもたらす。遺伝物質の突然変異は「サイレント」である、すなわち、突然変異が発現産物のアミノ酸配列の改変をもたらさない可能性もある。
【0026】
変異体は、類似したアミノ酸配列を有し、天然タンパク質の1つまたは複数の活性をある程度保持する、天然配列のタンパク質との機能的相当物であるタンパク質を指す。変異体は、活性を保持する断片も含む。変異体は、天然配列と実質的に同一である(例えば、80、85、90、95、97、98、99%の配列同一性を有する)タンパク質も含む。このような変異体は、欠失、挿入および/または置換などのアミノ酸改変を有するタンパク質を含む。「欠失」は、関連タンパク質中の1つまたは複数のアミノ酸残基の不在を指す。用語「挿入」は、関連タンパク質中の1つまたは複数のアミノ酸の付加を指す。「置換」は、ポリペプチド中の他のアミノ酸残基による1つまたは複数のアミノ酸残基の置き換えを指す。典型的には、このような改変は保存性であり、したがって変異体タンパク質の活性は、天然配列のタンパク質と実質的に類似している(例えば、Creighton(1984)Proteins,W.H.Freeman and Companyを参照)。置換の場合、他のアミノ酸に置き換えられるアミノ酸は、類似した構造および/または化学性を通常有する。挿入および欠失は典型的には1〜5アミノ酸の範囲内であるが、挿入の位置に応じて、より多くのアミノ酸を挿入または除去することができる。部位特異的突然変異誘発(Carter et al.(1985);Zoller et al.(1982)Nucl.Acids Res.10:6487)、カセット突然変異誘発(Wells et al.(1985)Gene34:315)、制限選択突然変異誘発(Wells et al.(1986)Philos.Trans.R.Soc.London SerA317:415)、およびPCR突然変異誘発(Sambrook et al.,2001)などの当技術分野で知られている方法を使用して変異を作製することができる。
【0027】
アミノ酸の80%超、好ましくは85%超、好ましくは90%超が同一である、または約90%超、好ましくは約95%超が類似している(機能的に同一である)場合、2つのアミノ酸配列は、「実質的に相同」であり、または「実質的に類似」している。類似配列または相同配列は、例えばGCG(Genetics Computer Group、Program Manual for the GCG Package、Version7、Madison、Wisconsin)パイルアッププログラム、または例えばBLAST、FASTAなどの配列比較アルゴリズムのいずれかを使用するアラインメントによって同定されることが好ましい。
【0028】
用語「発現」は、遺伝子または核酸の発現の文脈で使用するとき、遺伝子内に含まれる情報の遺伝子産物への変換を指す。遺伝子産物は、遺伝子の直接転写産物(例えば、mRNA、tRNA、rRNA、アンチセンスRNA、リボザイム、構造RNAまたは任意の他の型のRNA)またはmRNAの翻訳によって生成するタンパク質であってよい。遺伝子産物は、キャッピング、ポリアデニル化、メチル化、およびエディティングなどのプロセスによって修飾されるメッセンジャーRNA、および例えばメチル化、アセチル化、リン酸化、ユビキチン化、スモイル化、ADP−リボシル化、ミリスチル化、およびグリコシル化によって修飾されるタンパク質(例えばMafBまたはc−Maf)も含む。
【0029】
「発現の阻害剤」は、遺伝子の発現を低下させるかまたは抑制する、天然または合成化合物を指す。
【0030】
「活性の阻害剤」は当技術分野でのその一般的な意味を有し、タンパク質の活性を低下させるかまたは抑制する能力を有する(天然または非天然)化合物を指す。
【0031】
用語「c−Maf」は、AS42ウイルスのv−Mafオンコジーンと配列が同一でありニワトリ胚線維芽細胞を形質転換することができる、c−Mafプロトオンコジーンを示す(Nishizawa et al.PNAS 1989)。互いにホモ二量体とヘテロ二量体由来のC−Mafと他のMafファミリーのメンバー、およびFosとJunは、互いに対形成するAP−1タンパク質の知られている能力と一致する(Kerppola,T.K.and Curran,T.(1994)Oncogene9:675〜684;Kataoka,K.et al.(1994)Mol.Cell.Biol.14:700〜712)。c−Maf応答エレメント(MARE)と呼ばれるc−Mafホモ二量体と結合するDNA標的配列は、コアTRE(T−MARE)またはCRE(C−MARE)パリンドロームをそれぞれ含む13または14bpのエレメントであるが、c−Mafは、複合AP−1/MARE部位およびMARE半部位および5’ATリッチ延長部を含むこれらのコンセンサス部位から分岐した、DNA配列とも結合することができる(Yoshida et al.,NAR2005)。c−Mafは、プルキンエニューロン特異的プロモーターL7(Kurscher,C.and Morgan,J.I.(1994)Mol.Cell.Biol.15:246〜254)、α、βγ−クリスタリン(Ring et al.Development,2000、Kim et al.PNAS 1999;Kawauchi et al.JBC1999、Yang et al.,JMB2005)、インシュリン(Matsuoka et al.MCB,2003)およびp53(Hale et al.,JBC2000)プロモーターを含めた幾つかのプロモーターからの転写を刺激すること、および初期骨髄プロモーターAND/CD13(Hedge et al.,1998)などの他のプロモーターの転写を抑制することが示されてきている。c−Mafは、インターロイキン−4(IL−4)の組織特異的転写を活性化するその能力によって(Kim et al.1999)、Tヘルパー2(Th2)細胞の分化を誘導することも示されてきている(Ho et al.,1996)。さらに、骨髄細胞系中のc−Mafの過剰発現は、マクロファージの分化を誘導する(Hegde et al.,1999)。マウスc−mafプロトオンコジーンのヌクレオチド配列、およびマウスc−Mafタンパク質に関する予測アミノ酸配列は記載されている(Kurscher,C.and Morgan,J.I.(1995)Mol Cell.Biol.15:246〜254;およびGenbankアクセッション番号S74567)。ニワトリc−mafプロトオンコジーンのヌクレオチド配列、およびニワトリc−Mafタンパク質に関する予測アミノ酸配列も記載されている(Kataoka et al.1994、Genbankアクセッション番号D28596)。ヒトc−mafプロトオンコジーンのヌクレオチド配列、およびヒトc−Mafタンパク質に関する予測アミノ酸配列も記載されている(米国特許第6,274,338号およびGenbankアクセッション番号BD106780)。
【0032】
用語「MafB」はMafB転写因子を示す。この遺伝子は(水晶体上皮、膵臓内分泌部、軟骨細胞、神経細胞および造血細胞を含めた)様々な細胞型中で発現され、そのカルボキシ末端領域中に典型的なbZipモチーフを含む311アミノ酸のタンパク質をコードする。bZipドメイン中において、MafBはv/c−Mafだけでなく、他のMaf関連タンパク質とも広範囲の相同性を共有する。MafBはそのロイシン反復構造によってホモ二量体を形成することができ、Maf認識エレメント(MARE)パリンドローム、5’ATリッチ延長部を含む複合AP−1/MARE部位またはMARE半部位と特異的に結合する(Yoshida et al.2005)。さらにMafBは、Junまたは他のMafファミリーのメンバーとではなく、そのジッパー構造によってc−/v−MafまたはFosとヘテロ二量体を形成することができる(Kataoka et al.,1994)。MafBはkreisler、krまたはKrml1(「KreislerMafロイシンジッパー1」に関して)の名称でも知られている。というのは、kreisler突然変異マウスにおいてX線で誘導した染色体のわずかな逆位は、kreislerの表現型を担う発達中の後脳におけるMafB発現の組織特異的消失を引き起こすからである(Cordes et al.,1994)(Eichmann et al.,1997)。造血系において、MafBは骨髄細胞系で選択的に発現され、多能性前駆細胞からマクロファージへの骨髄分化中に首尾よく上方制御される。実際、この誘導は単球分化におけるMafBの重要な役割を反映する。したがって、形質転換ニワトリ骨髄芽球中(Kelly et al.,2000、Bakri et al.2005)、およびヒト造血前駆細胞中(Gemelli et al.,2006)のMafBの過剰発現は、前駆細胞の増殖を阻害し(Tillmanns et al.,2007)、マクロファージの迅速な形成を刺激し(Kelly et al.,2000、Bakri et al.2005、Gemelli et al.,2006)、一方ドミナントネガティブ型のMafBはこのプロセスを阻害し(Kelly et al.,2000)、MafB誘導は特異的であり、造血細胞における単球プログラムの重要な決定要因であることを示す。ニワトリ(Kataoka,K.et al.1994)、マウス(Cordes et al.1994)およびヒト(Wang et al.1999)MafB遺伝子のヌクレオチド配列、およびMafBタンパク質に関する予測アミノ酸配列も記載されている(GenBankアクセッション番号NM_001030852(gallus gallus)、NM_010658(mus musculus)、NM_005461(homo sapiens)D28600)。
【0033】
「単球細胞」は、大きな末梢血の単核食細胞である。直径10〜30μmの大きさの範囲で単球は著しく変化する。核と細胞質の比は2:1〜1:1の範囲である。核はバンド形状(馬蹄)、または腎臓形(腎臓形状)であることが多い。核は自身の上部で折り重なる可能性があり、したがって脳に似た回旋を示す。核小体は目に見えない。クロマチンパターンは良好であり、かせ様の鎖で配列する。細胞質は多量に存在し、多くの微細なアズール顆粒でブルーグレーに見え、ギムザ染色において地面の芝生状の外見を与える。液胞が存在する可能性がある。より好ましくは、特異的表面抗原の発現を使用して、細胞が単球細胞であるかどうか決定する。ヒト単球細胞の主な表現型マーカーには、CD11b、CD11c、CD33およびCD115がある。一般に、ヒト単球細胞はCD9、CD11b、CD11c、CDw12、CD13、CD15、CDw17、CD31、CD32、CD33、CD35、CD36、CD38、CD43、CD49b、CD49e、CD49f、CD63、CD64、CD65s、CD68、CD84、CD85、CD86、CD87、CD89、CD91、CDw92、CD93、CD98、CD101、CD102、CD111、CD112、CD115、CD116、CD119、CDwl2lb、CDw123、CD127、CDw128、CDw131、CD147、CD155、CD156a、CD157、CD162、CD163、CD164、CD168、CD171、CD172a、CD180、CD206、CD131a1、CD213a2、CDw210、CD226、CD281、CD282、CD284、CD286および場合によってはCD4、CD14、CD16、CD40、CD45RO、CD45RA、CD45RB、CD62L、CD74、CD142およびCD170、CD181、CD182、CD184、CD191、CD192、CD194、CD195、CD197、CX3CR1を発現する。マウス単球細胞の主な表現型マーカーには、CD11b+、CD115、F4/80+がある。一般に、マウス単球は、CD11a、CD11b、CD16、CD18、CD29、CD31、CD32、CD44、CD45、CD49d、CD115、CD116、Cdw131、CD281、CD282、CD284、CD286、F4/80、および場合によってはCD49b、CD62L、CCR2、CX3CR1、およびLy6Cを発現する。感受性標的細胞との接触によって、単球細胞は、IFN,TNF、GM−CSF、G−CSF、M−CSF、およびIL−1を含めた幾つかのサイトカインをさらに生成する。
【0034】
「マクロファージ細胞」は、食作用の性質を示す細胞である。マクロファージの形態は異なる組織間、および正常状態と病的状態の間で変わり、全てのマクロファージを形態のみによって同定できるわけではない。しかしながら、大部分のマクロファージは、円形またはジグザグ形の核、十分発達したゴルジ装置、多量のエンドサイトーシス液胞、リソソーム、およびファゴリソソーム、およびヒダまたは微絨毛で覆われた原形質膜を有する大きな細胞である。先天性および適応免疫におけるマクロファージの重要な役割は食作用、および老化またはアポトーシス細胞、微生物および腫瘍性細胞の後の分解、サイトカイン、ケモカインおよび他の可溶性メディエーターの分泌、およびそれらの表面上でのTリンパ球に対する外来抗原(ペプチド)の提示である。マクロファージは、一般的な骨髄前駆細胞および哺乳動物生物の骨髄中の顆粒球−単球前駆細胞に由来し、マクロファージは最終的にさらなる前駆細胞段階を通じて単球に発達し、次いで単球は末梢血流に入る。好中球、およびそれらが多く分裂した核と異なり、単球は腎臓形状の核を有し、さらなる分化および活性化中に大きな細胞体となる。生存中、幾つかの単球は接着し、毛細血管の内皮を介して全ての器官に移動し、そこで単球は定住性組織マクロファージまたは樹状細胞に分化する(以下参照)。単球起源以外に、限られた自己再生能が、組織マクロファージの幾つかの亜集団に関しても報告されている。リンパ節および脾臓などのリンパ組織は、マクロファージ中で特に豊富である。幾つかの器官においてマクロファージは、表1中に要約する特殊な名称を有する。
【0035】
【表1】

【0036】
本発明の文脈では、マクロファージは、ミクログリア、組織球、ホーフバウアー細胞、メサンギウム細胞、クッパー細胞、腹腔マクロファージ、肺胞マクロファージ、表皮または皮膚マクロファージ、辺縁帯マクロファージ、メタロフィリックマクロファージ、赤脾髄マクロファージ、白脾髄マクロファージおよび破骨細胞からなる群から選択される。骨髄または胎児肝臓由来マクロファージが特に有用である。
【0037】
破骨細胞は、骨に特異的であり、その石灰化成分を分解することによってこの組織中で重要な恒常性維持およびリモデリング機能を果たす、単核食細胞系の特化した細胞型である。培養中、破骨細胞は、M−CSFおよびRANKLにおける培養によって骨髄のCFU−GM前駆細胞および血中単球から誘導することができる。破骨細胞発生のためのこれらのサイトカインの重要性は、この2つの因子のいずれかを欠くマウス中での破骨細胞欠失および大理石骨病の発生によって強調される。それはin vivoでは正式に示されていないが、循環する血中単球は破骨細胞前駆体として働くと広く仮定されている。異常な破骨細胞発生および/または活性は、骨粗鬆症、大理石骨病および骨関節炎などの、発生率が高く治療選択肢が限られるヒトの病状を弱める際に顕著な役割を果たす(Boyle WJ et al.2003;Teitelbaum SL et al.2003)。
【0038】
マクロファージは、サイトカインの重要な供給源である。機能上、多数の生成物は5つの主な群:(1)前炎症性応答を仲介する、すなわちさらなる炎症細胞の動員を手助けするサイトカイン(例えば、IL−1、II−6、TNF、CCおよびIL−8および単球走化性タンパク質1などのCXCケモカイン);(2)T細胞およびナチュラルキラー(NK)細胞の活性化を仲介するサイトカイン(例えば、IL−1、IL−12、IL−18);(3)マクロファージ自体でフィードバック効果を発揮するサイトカイン(例えば、IL−1、TNF、IL−12、IL−18、M−CSF、IFNα/β、IFNγ);(4)マクロファージを下方制御するおよび/または炎症の停止を手助けするサイトカイン(例えば、IL−10、TGFβ);(5)創傷治癒に重要なサイトカイン(例えば、EGF、PDGF、bFGF、TGFβ)に分類することができる。マクロファージによるサイトカインの生成は、LPSなどの微生物生産物によって、1型Tヘルパー細胞との相互作用によって、またはプロスタグランジン、ロイコトリエンおよび、最も重要には、他のサイトカイン(例えばIFNγ)を含めた可溶性因子によって誘導することができる。一般に、ヒトマクロファージは、CD11c、CD11b、CD18、CD26、CD31、CD32、CD36、CD45RO、CD45RB、CD63、CD68、CD71、CD74、CD87、CD88、CD101、CD119、CD121b、CD155、CD156a、CD204、CD206 CDw210、CD281、CD282、CD284、CD286および部分的にCD14、CD16、CD163、CD169CD170およびMARCOを発現する。マウス単球はF4/80をさらに発現し、CD11cは発現しない。活性化マクロファージはCD23、CD25、CD69およびCD105をさらに発現する。
【0039】
「樹状細胞」(DC)は、in vivo、in vitro、ex vivo、または宿主もしくは対象中に存在する抗原提示細胞であり、あるいはそれは造血幹細胞、造血前駆細胞または単球に由来する可能性がある。樹状細胞およびそれらの前駆体は、様々なリンパ系器官、例えば脾臓、リンパ節から、ならびに骨髄および末梢血から単離することができる。DCは、樹状細胞体から多方向に伸びた薄いシート(葉状仮足)を有する、特徴的形態を有する。DCは、それぞれCD8+およびCD4+T細胞に対してペプチド抗原を提示する、MHCクラスI分子とクラスII分子の両方を構成的に発現する。さらに、ヒトの皮膚および粘膜のDCは、CD1遺伝子ファミリー、微生物脂質または糖脂質抗原を提示するMHCクラスI関連分子も発現する。DC膜は、T細胞の接着が可能である分子(例えば、細胞内接着分子1またはCD54)、または(それぞれCD80およびCD86としても知られる)B7−1およびB7−2などのT細胞活性化を同時刺激する分子においても豊富である。一般にDCは、CD85、CD180、CD187 CD205 CD281、CD282、CD284、CD286および部分的にCD206、CD207、CD208およびCD209を発現する。
【0040】
「精製」および「単離」によって、ポリペプチドまたはヌクレオチド配列を指すとき、示した分子が他の生物学的マクロ分子の実質的不在下に存在することを意味する。細胞または細胞の集団を指すとき、この用語は、前記細胞または前記細胞の集団が、他の細胞または細胞の集団の実質的不在下に存在することを意味する。本明細書で使用する用語「精製」は、好ましくは重量または数で少なくとも75%、より好ましくは重量または数で少なくとも85%、さらに好ましくは重量または数で少なくとも95%、最も好ましくは重量または数で少なくとも98%の、同じ型の生物学的マクロ分子または細胞が存在することを意味する。個々のポリペプチドをコードする「単離」核酸分子は、対象のポリペプチドをコードしない他の核酸分子を実質的に含まない核酸分子を指すが、しかしながらこの分子は、組成物の基本的性質に悪影響を与えない幾つかの追加的塩基または部分を含むことができる。
【0041】
本明細書で使用する用語「対象」は、脊椎動物、好ましくは、例えばマウスのようなげっ歯類、ネコ科、イヌ科、および霊長類などの哺乳動物を示す。本発明による対象は、ヒトであることが最も好ましい。したがって、本発明の方法により増殖する単球、マクロファージまたは樹状細胞は、ヒト細胞であることが最も好ましい。
【0042】
本発明の文脈では、本明細書で使用する用語「治療する」または「治療」は、このような用語を適用する疾患もしくは状態、またはこのような疾患もしくは状態の1つもしくは複数の症状の進行を改善する、緩和する、阻害する、またはそれを予防することを意味する。
【0043】
<長期培養中に単球を生成および増殖するための方法>
本発明者は、単球を数カ月間の培養中に、前記細胞中のMafBおよびc−Mafの発現を不活性化することによって、生成、維持および増殖することができることを実証している。
【0044】
したがって本発明は、単球、マクロファージまたは樹状細胞を増殖するためのex vivoでの方法を提供し、この方法は、単球、マクロファージまたは樹状細胞中のMafBおよびc−Mafの発現または活性を阻害すること、および少なくとも1つのサイトカインまたはサイトカイン受容体シグナル伝達のアゴニストの存在下で前記細胞を増殖することを含む。
【0045】
出発物質として働く単球、マクロファージまたは樹状細胞は、当技術分野で知られている任意の方法に従って単離することができる。
【0046】
出発物質である単球を単離するための方法は当技術分野でよく知られており、Fluks AJ.(1981);Hardin JA.et al.(1981);Harwood R.(1974);Elias JA et al.(1985);Brandslund I et al.(1982);Pertoft H et al.(1980);Nathanson SD et al.(1977);Loos H et al.(1976)、Whal SM.et al.(1984)によって記載された方法を含む。マクロファージおよび樹状細胞は、in vitroにおいて分化によって単球から誘導することができる(Stanley et al.,1978,1986;Gieseler R et al.1998、Zhou et al.1996;Cahpuis et al 1997、Brossart et al.1998、Palucka et al 1998)。マウスでは、マクロファージおよびDCは、脾臓懸濁液から(Fukao,T.,and Koyasu,S..、2000;Fukao,T.,Matsuda,S.,and Koyasu,S.2000)、腹膜腔から(Mishell,B.B.and Shiigi,S.M.(1980)、または最も一般的には様々なサイトカインカクテルを使用して異なる胎児肝臓または骨髄前駆細胞から入手することができる(Ardavin et al.,2001)。
【0047】
単球、マクロファージまたは樹状細胞を単離するための1つの他の標準的な方法は、対象から細胞の集団を回収すること、および特異的抗体結合を使用することからなり、この場合1つまたは複数の特定分化段階の細胞が抗体によって分化抗原と結合する。したがって蛍光活性化細胞選別(FACS)を使用して、単離細胞の集団から選択した分化抗原を発現する所望の細胞を分離することができる。他の実施形態では、磁気ビーズを使用して、細胞集団から単球、マクロファージまたは樹状細胞を単離することができる(MACS)。例えば、モノクローナル細胞型特異的抗体で標識した磁気ビーズを、臍帯血、末梢血、またはPBMC、および胸膜液、腹水、または滑液から、または脾臓およびリンパ節などの様々な組織からのヒト単球、マクロファージおよび樹状細胞の陽性選択に使用することができる。他の方法は、非単球細胞の枯渇による単球の単離を含むことができる(陰性選択)。例えば、非単球細胞は、CD3、CD7、CD19、CD56、CD123およびCD235aを対象とする選択された抗体であるモノクローナル抗体のカクテルで磁気標識することができる。単球、マクロファージおよび樹状細胞を単離するためのキットは、Miltenyi Biotec(Auburn、CA、USA)、Stem Cells Technologies(Vancouver、カナダ)またはDynal Bioech(Oslo、ノルウェー)から市販されている。
【0048】
樹状細胞および単球を単離および調製するための方法は、国際特許出願WO2004066942中および米国特許第6,194,204号中にも記載されている。
【0049】
代替法として、単球前駆細胞集団を骨髄または臍帯血から誘導して、M−CSFでの培養によりex vivoで単球に分化させることができる。
【0050】
さらなる代替法として、樹状細胞およびマクロファージを単離単球から誘導することができる。
【0051】
例えば、当技術分野でよく知られている任意の技法によって、単球をマクロファージに分化させることができる。マクロファージへの単球の分化は、マクロファージコロニー刺激因子(M−CSF)によって誘導することができる。近年の試験は、最適な組換えヒトM−CSF誘導型分化は、単球上の機能的M−CSF受容体の発現を上方制御し、マクロファージの細胞障害性、スーパーオキシド生成、食作用、走化性、および二次的サイトカイン分泌を高める、分泌されるインターロイキン6(IL−6)のオートクリン活性と関係があることを示している(Akira、1996)。IL−6とM−CSFの間の相互作用はマクロファージへの単球の分化を制御し、GM−CSF/IL−4処理単球からのDCの分化を阻害する(Chomarat et al,2000、Mitani et al.,2000)。
【0052】
さらに、疎水性バッグ中での7日間培養によって、ヒト単球をin vitroでマクロファージに分化させることも可能である(Chokri et al.,1989)。他の技法もD’Onofrio C et al.(1983)またはGersuk G et al.(2005)中に記載されている。他の方法には、Salahuddin et al.(1982)およびHashimoto et al.(1997)によって記載された方法がある。
【0053】
当技術分野でよく知られている任意の技法によって、単球を樹状細胞(DC)に分化させることができる。例えば、顆粒球−マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)はインターロイキン−4(IL−4)と共に単球をDCに分化させる。GM−CSF、IL−4、および/またはIFN−γおよび/またはCD40結合を使用することによってヒト血中単球を樹状細胞に分化させるための、当業者によく知られている多数の方法が記載されてきている(Gieseler R et al.1998、Zhou et al.1996;Cahpuis et al 1997、Brossart et al.1998、Palucka et al 1998)。LC細胞、DC亜群はTGF−βをさらに使用して誘導することができる(Strobl et al.1997)。
【0054】
破骨細胞への単球の分化を可能にする方法は、当技術分野でよく知られている。例えばM−CSFおよびRANKLは、単球をOCに分化させる(Yasuda,H.et al.1998;Hsu,H.et al.1999)。
【0055】
マクロファージ、または樹状細胞への単球の分化は、MafBおよびc−Mafの阻害前、または後で起こり得る。
【0056】
例えば、特定の実施形態における方法は
単球を単離すること、
前記単球中のMafBおよびc−Mafの発現または活性を阻害すること、
マクロファージまたは樹状細胞への単球の分化を可能にする条件で、MafBおよびc−Mafの発現または活性が阻害されている単球を培養することを含む。
【0057】
このような分化のために、M−CSFなどのサイトカインを利用することができる。
【0058】
MafBおよびc−Mafの不在はマクロファージ分化に対するその影響の前にM−CSFに応じて細胞増殖期を延長させるので、以下に記載する一過的阻害法のいずれかを使用して、MafBおよびc−Maf阻害を停止することによって増殖期の停止およびマクロファージ分化を、開始することができる。あるいは、培地中のM−CSF濃度を低下させ、IL−6を直接補充することができる。
【0059】
MafBおよびc−Mafの発現または活性の阻害は、任意の技法によって実施することができる。
【0060】
特定の実施形態では、MafBおよびc−Mafの発現は、siRNAオリゴヌクレオチド、アンチセンスオリゴヌクレオチドまたはリボザイムを使用することによって阻害することができる。
【0061】
アンチセンスRNA分子およびアンチセンスDNA分子を含めた、アンチセンスオリゴヌクレオチドが作用して、c−MafおよびMafBのmRNAと結合することによってそれらの翻訳を直接阻害し、したがってタンパク質の翻訳を妨げる、またはmRNA分解を増大させる、これによりc−MafおよびMafBタンパク質のレベル、したがって細胞中の活性を低下させる可能性がある。例えば、少なくとも約15塩基であり、c−MafおよびMafBをコードするmRNA転写産物配列の特有領域と相補的であるアンチセンスオリゴヌクレオチドを、例えば従来のホスホジエステル技法によって合成することができる。その配列が知られている遺伝子の遺伝子発現を特異的に阻害するためにアンチセンス技法を使用するための方法は、当技術分野でよく知られている(例えば、米国特許第6,566,135号、同第6,566,131号、同第6,365,354号、同第6,410,323号、同第6,107,091号、同第6,046,321号、および同第5,981,732号を参照)。c−Mafに対するアンチセンスオリゴヌクレオチドを調製するための具体的な方法は、米国特許第6,274,338号に記載されている。
【0062】
低分子干渉RNA(siRNA)は、本発明中で使用するためのc−MafおよびMafBの発現の阻害剤として機能することもできる。c−MafおよびMafB遺伝子発現は、c−MafおよびMafBの発現が特異的に阻害されるように(すなわち、RNA干渉またはRNAi)、単球細胞と低分子二本鎖RNA(dsRNA)、または低分子二本鎖RNAの生成を引き起こすベクターもしくは構築体を接触させることによって低下させることができる。その配列が知られている遺伝子に適したdsRNAまたはdsRNAコードベクターを選択するための方法は、当技術分野でよく知られている(例えば、Tuschl,T.et al.(1999);Elbashir,S.M.et al.(2001);Hannon,GJ.(2002);McManus,MT.et al.(2002);Brummelkamp,TR.et al.(2002);米国特許第6,573,099号および同6,506,559号、および国際特許公開WO01/36646、WO99/32619、およびWO01/68836を参照)。c−Mafに対するsiRNAを調製するための具体的な方法は米国特許第6,274,338号、およびMafBに関しては(Kim et al.2006)にも記載されている。
【0063】
リボザイムは、本発明中で使用するためのc−MafおよびMafBの発現の阻害剤として機能することもできる。リボザイムは、RNAの特異的切断を触媒することができる酵素RNA分子である。リボザイム作用の機構は、相補的標的RNAとリボザイム分子の配列特異的ハイブリダイゼーション、次にエンドヌクレアーゼ的切断を含む。c−MafおよびMafBのmRNA配列のエンドヌクレアーゼ的切断を特異的かつ効率的に触媒する、遺伝子工学的ヘアピンまたはハンマーヘッド型モチーフのリボザイム分子は、したがって本発明の範囲内で有用である。任意の考えられるRNA標的内の特異的リボザイム切断部位は、以下の配列、GUA、GuU、およびGUCを典型的に含むリボザイム切断部位に関する標的分子をスキャンすることによって最初に同定される。同定した後、切断部位を含む標的遺伝子の領域に対応する約15と20の間のリボヌクレオチドの低分子RNA配列を、オリゴヌクレオチド配列を不適切にし得る二次構造などの、予想される構造特徴に関して評価することができる。候補標的の適性は、例えばリボヌクレアーゼ保護アッセイを使用して、それらの相補的オリゴヌクレオチドとのハイブリダイゼーションのしやすさを試験することによって評価することもできる。
【0064】
c−MafおよびMafBの発現の阻害剤として有用な、アンチセンスオリゴヌクレオチド、siRNAオリゴヌクレオチドおよびリボザイムは、知られている方法によって調製することができる。これらは、例えば固相ホスホラマダイト化学合成などによる、化学合成のための技法を含む。あるいは、アンチセンスRNA分子は、RNA分子をコードするDNA配列のin vitroまたはin vivo転写によって生成することができる。このようなDNA配列は、T7またはSP6ポリメラーゼプロモーターなどの適切なRNAポリメラーゼプロモーターを組み込んだ様々なベクター中に組み込むことができる。本発明のオリゴヌクレオチドに対する様々な修飾は、細胞内安定性および半減期を増大させる手段として導入することができる。考えられる修飾には、分子の5’および/または3’末端へのリボヌクレオチドまたはデオキシリボヌクレオチドの隣接配列の付加、またはオリゴヌクレオチド骨格内のホスホジエステラーゼ結合ではなくホスホロチオエートもしくは2’−O−メチルの使用があるが、これらだけには限られない。
【0065】
本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチド、siRNAオリゴヌクレオチドおよびリボザイムは単独で、またはベクターと結合させて送達することができる。その最も広い意味において、「ベクター」は、単球へのアンチセンスオリゴヌクレオチド、siRNAオリゴヌクレオチドまたはリボザイム核酸の移動を容易にすることができる任意の媒体である。ベクターは、ベクターの不在下で生じ得る分解度と比較して低い分解度で、細胞に核酸を運ぶことが好ましい。一般に、本発明に有用なベクターには、以下に限られないが、プラスミド、ファージミド、ウイルス、アンチセンスオリゴヌクレオチド、siRNAオリゴヌクレオチドまたはリボザイム核酸配列の挿入または取り込みによって操作されたウイルスまたは細菌源由来の他の媒体があげられる。
【0066】
単球にsiRNA、リボザイムおよび/またはアンチセンスオリゴヌクレオチドを送達するための方法は当技術分野でよく知られており、以下に限られないが、トランスフェクション、エレクトロポレーション、マイクロインジェクション、リポフェクション、リン酸カルシウム介在トランスフェクションまたは遺伝子配列を含むウイルスベクターによる感染、細胞融合、染色体介在遺伝子導入、ミクロセル介在遺伝子導入、スフェロプラスト融合などを含む。外来遺伝子を細胞に導入するための多数の技法が当技術分野で知られており、レシピエント細胞の必要な発達および生理機能が阻害されないという条件で、本発明に従って使用することができる。その技法は細胞への安定した遺伝子の導入をもたらすことができ、したがって遺伝子は細胞によって発現可能であり、その細胞の子孫によって遺伝可能および発現可能である。通常、導入法は細胞への選択可能なマーカーの導入を含む。次いで細胞を選択下に置き、導入遺伝子を取り込んで発現している細胞を単離する。次いでこれらの細胞を対象に送達する。技法の変形は単球へのオリゴヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドコード遺伝子の一過性の移動をもたらして、継続的な遺伝的修飾なしでのex vivoまたはin vivoにおける単球の一時的な増殖を可能にすることができる。
【0067】
さらなる実施形態では、MafBおよびC−Mafの発現は、プロモーター活性、RNAプロセシングまたはタンパク質の安定性に作用する化合物によって阻害することができる。
【0068】
他の実施形態では、MafBおよびC−Mafの活性の阻害は、野生型MafBおよびc−Mafと競合する突然変異MafBおよびc−Mafポリペプチドを使用することによって実施することができる。
【0069】
この技法は一般に、「ドミナントネガティブ突然変異体」の技法と呼ばれている。ドミナントネガティブ突然変異体は、天然ペプチドの生物活性に必要とされる活性部位におけるアミノ酸残基位置を変える位置において、対応する野生型天然バージョンと比較して配列中の少なくとも1つの位置に関して変化している、ポリペプチドまたは核酸コード領域配列である。
【0070】
例えば、ドミナントネガティブ突然変異体は、DNAの結合およびトランス活性化に関するMafBまたはc−Mafの競合阻害剤として作用することができるN末端エフェクタードメインを欠く、切断型MafBまたはc−Maf分子からなる可能性がある(Kelly et al.2000)。c−Maf/MafB抑制の有効性は、阻害機能を増大するリプレッサードメインとの融合によってさらに改善することができる。
【0071】
本発明の方法は、in vitroで単球、マクロファージまたは樹状細胞をドミナントネガティブ突然変異体に曝すことによって実施する。ドミナントネガティブ突然変異体ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを細胞にトランスフェクトすること、およびMafBおよび/またはc−Maf活性が阻害されるように、ポリヌクレオチドによってコードされる前記ドミナントネガティブ突然変異体を発現させることによって、曝露を仲介することができる。このようなポリヌクレオチドをトランスフェクトするための方法は、前に記載した方法からなっていてよい。
【0072】
例えば、細胞を好ましくは内在化成分と結合した前記ペプチドと接触させることによって、単球および/またはマクロファージおよび/または樹状細胞をドミナントネガティブ突然変異体ポリペプチドに直接曝すことにより、曝露を仲介することもできる。適切な内在化成分は当技術分野で知られており、例えばHIVのTATポリペプチドまたはアンテナペディアまたは他のホメオタンパク質などのタンパク質に由来するペプチド内在化配列からなる群から選択することができる。あるいは、標的細胞上の表面受容体と結合するリポソーム、および抗体または抗体断片またはリガンドによって導入を仲介することができる。
【0073】
代替として、活性の阻害剤は、リン酸化、アセチル化、メチル化、リボシル化、ユビキチン化、小さなユビキチン様分子の修飾(スモイル化、ネディル化など)などの活性を制御する酵素による翻訳後修飾の阻害剤である分子、または立体配座またはコアクチベーターもしくはコリプレッサーとの相互作用を改変する分子からなってよい。
【0074】
さらなる代替として、活性の阻害剤は、DNA結合、二量体またはコファクター相互作用の阻害剤からなってよい。
【0075】
活性の阻害剤は、マクロ分子または小さな有機分子を含むことができる。用語「小さな有機分子」は、製薬において一般に使用される有機分子に匹敵する大きさの分子を指す。この用語は、生物学的マクロ分子(例えば、タンパク質、核酸など)は除外する。好ましい小さな有機分子は、約5000Daまで、より好ましくは2000Daまで、および最も好ましくは約1000Daまでの大きさの範囲にある。
【0076】
前に記載した方法は、少なくとも1つのサイトカインの存在下で細胞を増殖するステップを含む。
【0077】
サイトカインは、SCF、Flt3リガンド、II−3およびM−CSFだけには限られないが、これらを含み得る。このようなサイトカインは市販されている。
【0078】
好ましい実施形態では、細胞はM−CSFの存在下で維持し増殖させる。マクロファージコロニー刺激因子(M−CSF)は、コロニー刺激因子(CSF)と呼ばれるタンパク質のファミリーのメンバーである。M−CSFは分泌型であるか、または40〜90kDの範囲の合計分子質量を有するジスルフィド結合により接合した2つのサブユニットで構成される細胞表面糖タンパク質である(Stanley ER et al.1997)。幾つかの分泌型および膜結合型変異体が知られている(Pixley and Stanley、2004)。M−CSFは、インターロイキン−1または腫瘍壊死因子−αなどのタンパク質に応答して、マクロファージ、単球、骨芽細胞、内皮細胞およびヒト関節組織細胞、例えば、軟骨細胞および滑膜線維芽細胞によって生成される。M−CSFは多能性造血前駆幹細胞からのマクロファージコロニーの形成を刺激する(Stanley E.R. et al.,Mol.Reprod.Dev.,46:4〜10(1997))。M−CSFは単球/マクロファージの機能、活性化、および生存の重要なレギュレーターである。組換えマウスまたはヒトM−CSFは、R&D SYSTEMS、ABCYS、PREPOTECH、SIGMAまたはSTEM CELL TECHOLOGIESから市販されている。
【0079】
培養培地中のM−CSFの濃度は、1ng/ml〜100ng/ml、好ましくは5〜50ng/l、特に好ましい形式では10ng/lの量であってよい。
【0080】
あるいは、マウスM−CSFの供給源としてL929線維芽細胞(ATCCから入手可能:CCL−1)の20%上清を含む培養培地中で、細胞を増殖させることができる。ヒトM−CSFの供給源として、KPB−M15細胞系を代わりに使用することができる。
【0081】
そのように得た単球、マクロファージまたは樹状細胞は、少なくとも1カ月、好ましくは少なくとも4、5、6、7、8、または12カ月の間培養することができる。
【0082】
<MafB/c−Maf欠損細胞:>
本発明の方法は、治療分野で大変興味深い、単球、マクロファージまたは樹状細胞の生成をもたらす。
【0083】
したがって本発明の目的は、前述の方法によって得ることができる単球、マクロファージまたは樹状細胞である。単球、マクロファージまたは樹状細胞は、単離された形であることが好ましい。
【0084】
本発明の他の目的は、MafBおよびc−Mafを発現しない単球、マクロファージまたは樹状細胞である。単球、マクロファージまたは樹状細胞は、MafBおよびc−Maf遺伝子を欠くことが好ましい。
【0085】
単球、マクロファージまたは樹状細胞は任意の種であってよい。それはマウス起源、またはヒト起源であることが好ましい。
【0086】
細胞が樹状細胞であるとき、細胞を抗原に感作させることが有用である可能性がある。その目的のために、樹状細胞と対象の抗原分子または抗原ペプチドを約30分間〜約5時間接触させることができる(「ペプチドパルスまたは抗原パルス」)。樹状細胞を、抗原もしくは抗原ペプチドを発現する細胞もしくは細胞の膜、抗原もしくは抗原ペプチドを含むリポソーム、または抗原もしくは抗原ペプチドをコードするRNAと接触させることもできる。
【0087】
したがって本発明の特定の主題は、前に定義した、すなわちMafBおよびc−Maf欠損、抗原分子をさらに添加した樹状細胞である。
【0088】
抗原分子は、それに対する免疫応答が求められる任意の分子であってよい。抗原分子の例は、例えばウイルスタンパク質またはペプチド、細菌タンパク質またはペプチド、または腫瘍抗原、例えばMART−1、MAGE、BAGE、PSA、p53、Rb、Rasなどを含む。
【0089】
<マウス単球>
本発明の他の目的は、マウス単球を生成するための方法に関するものであり、前記方法は
i)MafBおよびc−Maf因子に欠陥があるマウスに由来する単球を単離すること、および
ii)M−CSFの存在下で前記単球を培養すること
からなるステップを含む。
【0090】
MafBおよびc−Mafを欠損したマウス胚は、MafB欠損マウスとc−Maf欠損マウスの交配によって得ることができる。MafB欠損マウスの生成は以前に記載されている(Blanchi B.et al.,2003)。c−Maf欠損マウスの生成も記載されている(Kim JL.et al.1999)。MafBおよびc−Maf欠損造血系を有するマウスは、MafBおよびc−Maf欠損胎児肝細胞を有する照射マウスを再構成することによって得ることができる。このような方法は以下の実施例中に記載する。
【0091】
本発明の他の目的は、loxP/Creリコンビナーゼ系を使用してMafBおよびc−Mafの組織特異的欠失によって得ることができる、MafB/Cmaf欠損マウス単球に関する。
【0092】
本発明の他の目的は、前に記載した方法によって得ることができるMafB/c−Maf欠損マウス単球に関する。
【0093】
MafB/c−Maf欠損マウスマクロファージ、または樹状細胞は、前に記載した分化技法によって得ることができる。
【0094】
<細胞療法:>
本発明によれば、単球、マクロファージおよび樹状細胞はin vitroで容易かつ効果的に生成することができる。多数のin vitro増殖単球、マクロファージおよび樹状細胞を得る能力は治療分野の新たな機会を開く。
【0095】
したがって本発明は、前に定義した単球、マクロファージまたは樹状細胞を薬剤として許容される担体と組み合わせて含む医薬組成物を提供する。
【0096】
本発明はさらに、ワクチンとして使用するための、抗原分子を添加した、前に定義した樹状細胞を含む医薬組成物を提供する。
【0097】
単核性食細胞系(単球およびマクロファージ)は、宿主内の恒常性を担う分布器官となる。前記系は、持続的組織障害または代謝障害が存在する各々の疾患プロセスに関与する。マクロファージおよび単球は、急性および慢性炎症を仲介し、食作用および線維素溶解による死細胞およびフィブリンの除去を介して修復を促進し、血管内増殖(血管新生)を誘導し、線維芽細胞浸潤および細胞外マトリクスの生成を調節する。それらは熱を含めた宿主の全身応答を動員するメディエーターを生成し、ストレスおよび他のホルモンを放出および異化し、他の細胞の代謝活性を増大させ、組織への血流および毛細血管透過性に影響を与える。マクロファージ自体はそれらの機能において相当な不均一性を示し、個々の宿主応答の発生に応じて、アクチベーターおよび阻害剤の性質、例えばタンパク質分解活性、または前および抗炎症性サイトカイン生成を表すことが多い。
【0098】
したがって、単球コンパートメントの欠損が原因である疾患に罹患した対象を治療するための方法を記載し、この方法は、MafBおよびc−Maf発現または活性が阻害された単球、マクロファージまたは樹状細胞、好ましくはMafBおよびc−Maf欠損単球、マクロファージまたは樹状細胞を前記対象に投与することを含む。
【0099】
本発明のさらなる目的は、癌、急性または後天性免疫不全症、慢性または急性損傷、創傷、変性疾患、自己免疫疾患、慢性炎症疾患、アテローム性動脈硬化症、多発性関節炎および骨関節炎、骨粗鬆症、感染性疾患(例えば、ウイルス、または細菌による感染)、および代謝性疾患からなる群から選択される疾患の治療を目的とする医薬品を製造するための、前に定義した単球、マクロファージまたは樹状細胞の使用である。
【0100】
免疫不全症は、後天性または遺伝的起源の免疫不全症、または放射線療法/化学療法の結果としての免疫不全症を含む。AIDSが特に企図される。さらに本発明は、抗原特異的癌免疫療法の開発に関する可能性を与える。
【0101】
本発明によるマクロファージは、HIV感染の治療に有用である可能性がある。好中球(多形核白血球[PMNL])およびマクロファージ細胞の機能不全は、ヒト免疫不全ウイルス1型(HIV−1)感染の結果として実際生じる。PMNLアポトーシス小体を接種したマクロファージは、初期炎症の消散に貢献する。近年の試験は、阻害されたマクロファージのPMNLアポトーシス小体の食作用は、特に欠陥のある食作用活性によって助長されることが多い日和見感染中に、HIV感染対象中の炎症状態の持続に貢献する可能性があることを示唆する(Torre D et al.2002)。したがって、前に記載したようなマクロファージを生成するための方法は、HIVに感染した対象の治療に有用である可能性がある。
【0102】
シクロホスファミド(CP)などの抗癌剤を用いる化学療法における患者は、血液中の白血球減少を伴う組織マクロファージ集団の大きさの大幅な低下を経験する。したがってこれらの患者は、グラム陰性菌性肺炎を含めた日和見感染の影響を特に受けやすい。このような日和見感染は、化学療法を受けている癌患者における一般的な死因である(Santosuosso M et al.2002)。したがって、前に記載したようなマクロファージを生成するための方法は、化学療法を受けた対象の治療に有用である可能性がある。
【0103】
マクロファージは細胞間接触における前駆体細胞のアポトーシスを阻害することができ、組織修復のための効率良い細胞移植用の間質支持体として働くことができる(例えば、文書WO2005014016を参照)。特にマクロファージは、筋原性前駆体細胞のアポトーシスを阻害する可能性がある。したがって、前に記載したようなマクロファージを生成するための方法は、おそらく疾患または損傷が原因である、骨または筋肉病変などの病変の治療に有用である可能性がある。それは例えば骨折、または筋断裂であってよい。本発明のさらに特定の実施形態では、前記病変は心臓病変または損傷である。特に、それは例えば、何らかの遺伝的欠陥の後の、またはそれが原因である、心筋梗塞、心不全、冠状動脈血栓症、拡張型心筋症または任意の心筋細胞機能不全であってよい。したがって、前に記載したようなマクロファージを生成するための方法は、浸潤性心筋症、またはアントラサイクリン毒性による心筋症もしくはHIV感染に続発する心筋症などの、治療が進行しても予後が悪い急性心不全の治療に有用である可能性がある。
【0104】
前に記載したようなマクロファージを生成するための方法は、脊髄損傷の治療にも有用である可能性がある。完全脊髄損傷(SCI)のための療法は実際、皮膚組織とのコインキュベーションによって創傷治癒の表現型に基づいているマクロファージの自己移植からなっていてよい(Schwartz M et al.2006)。
【0105】
マクロファージは創傷治癒に必要不可欠であり、したがって前に記載したようなマクロファージを生成するための方法は、創傷治癒を高めるおよび/または組織損傷を修復するのに有用である可能性がある。創傷治癒のプロセスには実際3段階ある。炎症段階中は、多数の酵素およびサイトカインがマクロファージによって分泌される。これらは、残骸の損傷を除去するコラゲナーゼ、線維芽細胞を刺激して(コラーゲンを生成する)血管新生を促進するインターロイキンおよび腫瘍壊死因子(TNF)、および皮膚の創傷を治癒する際にケラチン生成細胞を刺激する形質転換増殖因子α(TGFα)を含む。このステップは、組織再構成のプロセス、すなわち増殖期への移行を示す。
【0106】
マクロファージは慢性炎症および自己免疫疾患において中心的役割を果たし、これらの条件下において特異的形式で通常活性化または高活性化される。単球を記載した方法により増殖させて遺伝的に改変し、薬理学的に治療し、または代替的に、望ましくない活性を有するマクロファージと競合しそれらに取って代わるために対象に導入する前に、サイトカインまたは増殖因子などの生物活性分子により活性化もしくは刺激して望ましい表現型を表すことができる。
【0107】
癌は最先進国における2番目の主な死因であり、それぞれフランスおよび米国において毎年約150,000および550,000の死を占める。全癌症例の半分より多くは治療することができるという事実にもかかわらず、外科手術または放射線療法によって治療できない平均癌患者は、何らかの他の治療法によって治療される10%未満のチャンスを依然として有する(A.Grillo−Lopez,2003)。免疫系が癌の監視および腫瘍の予防において役割を果たすことは、長年仮定されてきており現在認められている。
【0108】
マクロファージは腫瘍浸潤白血球の主な成分であり、腫瘍の形成および進行に対してプラスの影響とマイナスの影響の両方を有することが示されてきており、この場合最終的な結果は、腫瘍関連マクロファージ(TAM)のミクロ環境依存的偏極にかなりの程度で依存する。したがってex vivo増幅および改変マクロファージは、望ましい偏極プロファイルのマクロファージまたは治療用遺伝子構築体もしくは試薬を有するマクロファージを、腫瘍部位に送達するのに治療上有用である可能性がある(Bingle et al.,2002)(Mantovani et al.,2002)。さらに樹状細胞(DC)は未感作T細胞を初回抗原刺激して、腫瘍再発に対する長期の保護をもたらすことができるエフェクター細胞状態にする。したがって、これら2つの型の細胞に基づく細胞療法は、癌患者を治療するための有望なツールとして見えてくる。したがって、前に記載したようなマクロファージおよび/または樹状細胞を生成するための方法は、癌疾患を治療するのに有用である可能性がある。
【0109】
細菌抽出物およびインターフェロン−γを用いた短期の治療中に、樹状細胞を成熟状態(成熟DC)に誘導することができる。さらに、腫瘍に対する治療的予防接種は、動物モデルにおいて長期の保護をもたらすことが示されてきている。腫瘍(または腫瘍細胞系)溶解物は、CD8とCD4T細胞応答の両方を誘発するための多数の腫瘍抗原の魅力的な供給源を構成する。したがって、このような腫瘍抗原を用いた樹状細胞の刺激は癌の治療のためのツールとなる。
【0110】
したがって、本発明の方法は、癌を治療するためのマクロファージおよび/または樹状細胞を含む医薬組成物を調製するのに有用である可能性がある。癌には、乳、結腸、直腸、肺、中咽頭、下咽頭、食道、胃、膵臓、肝臓、胆嚢および胆管、小腸、腎臓、膀胱、尿路上皮、女性生殖系、(頚部、子宮、および卵巣ならびに絨毛癌および妊娠性絨毛性疾患含む)、男性生殖系(前立腺、精嚢、睾丸および生殖細胞腫瘍含む)、内分泌腺(甲状腺、副腎、および下垂体含む)、および皮膚の癌、および血管腫、メラノーマ、肉腫(骨および軟質組織から生じる肉腫、およびカポジ肉腫含む)、および脳、神経、目の腫瘍、星状細胞腫、グリオーマ、グリア芽腫、網膜芽腫、神経腫、神経芽腫、シュワン腫、および髄膜腫など、ならびに白血病などの造血器悪性腫瘍から生じる腫瘍、およびホジキンリンパ腫と非ホジキンリンパ腫の両方がある。
【0111】
癌の治療において、例えば、前に論じたように、樹状細胞を腫瘍抗原で刺激する、患者に投与して例えば確定腫瘍を治療する、または腫瘍形成を予防することができる。
【0112】
他の実施形態では、本発明の樹状細胞を癌細胞と融合させることができ、したがって患者に投与することができ、この場合融合した樹状細胞は、抗原提示細胞としてのその役割において、免疫系に対して抗原を提示するはずである。樹状細胞は、当技術分野で知られている任意の方法によって、他の細胞、例えば癌細胞と融合させることができる。例えば、樹状細胞と癌細胞を融合する方法、およびそれらを動物に投与するための方法は、Gong et al.(Nat.Med.3(5):558〜561(1997))およびGuo et al.(Science263:518〜520(1994))に記載されている。癌細胞は、患者中で標的となる任意の型の癌細胞、例えば乳、肝臓、皮膚、口、膵臓、前立腺、尿路、例えば、膀胱、子宮、卵巣、脳、リンパ節、気道、例えば、咽頭、食道、および肺、胃腸管、例えば、胃、大腸および小腸、結腸、または直腸、骨、血液、甲状腺、および睾丸の癌細胞、または他の細胞、例えば樹状細胞との融合に適していることが当技術分野で知られている任意の癌細胞系であってよい。
【0113】
類似の予防接種プロトコルを、病原体(ウイルス、細菌または寄生虫)抗原を樹状細胞に添加することによって感染性疾患に適用することができる。
【0114】
好ましい実施形態では、単球、マクロファージまたは樹状細胞は、それらを投与する対象から直接得る。その場合、移植は自己移植である。しかしながら他の実施形態では、移植は非自己移植であってもよい。非自己移植に関しては、レシピエントに免疫抑制剤を与えて、移植細胞の拒絶のリスクを低下させることが好ましい。本発明による細胞を投与する方法には、皮内、筋肉内、腹腔内、静脈内、皮下、鼻腔内、および硬膜外経路があるが、これらだけには限られない。細胞は任意の好都合な経路によって投与することができ、他の生物活性作用物質と一緒に投与することができる。投与の経路は静脈内または皮内であることが好ましい。個々の疾患または状態の治療において有効であり得る移植単球および/またはマクロファージおよび/または樹状細胞の力価は、障害または状態の性質に依存するはずであり、標準的な臨床技法によって決定することができる。さらに、in vitroアッセイを場合によっては利用して最適用量範囲の確認を手助けすることができる。配合において利用する正確な用量は、投与の経路、および疾患または障害の重度にも依存するはずであり、実践者の判断およびそれぞれの対象の状況に従って決定されなければならない。
【0115】
<医薬組成物:>
本発明は医薬組成物を提供する。このような組成物は、本発明によって生成される治療有効量の単球および/またはマクロファージおよび/または樹状細胞、および薬剤として許容される担体または賦形剤を含む。前に記載した「治療有効量」の細胞とは、任意の医学的治療に適用可能な妥当なリスク対効果比で、疾患または障害を治療するのに十分な量の前記細胞を意味する。しかしながら、本発明の組成物の1日当たりの全使用量は、理にかなった医学的判断の範囲内で主治医によって決定され得ることは理解されよう。任意の特定の患者に関する具体的な治療有効用量のレベルは、治療する障害および障害の重度、利用する具体的な化合物の活性、利用する具体的な組成物、患者の年齢、体重、一般的な健康状態、性別および食生活、投与の時間、投与の経路、および利用する具体的な化合物の排出速度、治療の期間、利用する具体的な細胞と併用または同時に使用する薬剤、および医学分野でよく知られている同様の要因を含めた様々な要因に依存するはずである。
【0116】
薬剤として許容される担体または賦形剤には、これらだけには限られないが、生理食塩水、緩衝生理食塩水、デキストロース、水、グリセロールおよびこれらの組合せがある。担体および組成物は無菌状態であってよい。配合は投与の形態に適合しなければならない。組成物は、望むならば、微量の湿潤剤または乳化剤、またはpH緩衝剤を含むことも可能である。組成物は液体溶液、懸濁液、または乳濁液であってよい。好ましい実施形態では、人間への静脈内投与に適した医薬組成物として、通常の手順に従い組成物を配合する。典型的には、静脈内投与のための組成物は、無菌等張水性緩衝液に溶かした溶液である。必要な場合、組成物は可溶化剤、および注射部位における痛みを和らげるためのリグノカインなどの局所麻酔薬も含むことができる。
【0117】
<本発明の細胞を工学処理するための方法:>
本発明の単球、マクロファージおよび樹状細胞を、前記細胞が対象のタンパク質をコードする対象の治療用核酸を発現するように、さらに遺伝子工学処理することができる。
【0118】
対象の適切な遺伝子は増殖因子を含む。例えば、本発明の細胞を遺伝子工学処理して、対象への遺伝子工学処理細胞の移植において有益な遺伝子産物を生成することができる。このような遺伝子産物には、以下のものだけには限られないが、抗炎症性因子、例えば抗TNF、抗IL−1、抗II−6、抗IL−2などがある。あるいは、本発明の細胞を遺伝子工学処理しMHCの発現を「ノックアウト」して、拒絶のリスクを低下させることができる。
【0119】
マクロファージは筋細胞または肝細胞と融合することが示されており、これらの細胞における遺伝的欠陥を修正することができる(Camargo et al.,2003)(Camargo et al.,2004)(Willenbring et al.,2004)。したがって、本発明の細胞を工学処理して、遺伝的障害において突然変異した正常または高活性変異体遺伝子の多数または1つのコピーを発現させることも可能である。例には、以下のものに限られないが、肝臓中またはデュシェンヌ型筋ジストロフィーにおけるジストロフィンの酵素欠損がある。
【0120】
マクロファージは腫瘍浸潤の主な成分である。したがって、本発明の細胞によって発現される対象の適切な遺伝子は、抗腫瘍活性を有する遺伝子である可能性もある。
【0121】
さらに、本発明の細胞を工学処理して、siRNAもしくはアンチセンスによる遺伝子の発現、または細胞中に安定的または一時的に導入されたsiRNAもしくはアンチセンスコード遺伝子の発現を阻害することができる。阻害の標的には、以下のものに限られないが、炎症性サイトカイン、プロテアーゼ、炎症経路に影響を与える転写因子および酵素がある。
【0122】
さらに、分化および/または増殖を促進する増殖因子を発現させるために、本発明の細胞を遺伝子工学処理することができる。
【0123】
本発明の単球、マクロファージおよび樹状細胞を、前記細胞が対象の分子を有するように、さらに工学処理することができる。
【0124】
対象の適切な分子(またはさらに遺伝子)には、炎症性メディエーター、サイトカイン、ケモカイン、プロテアーゼの発現を全体的に阻害するため、または抗炎症性メディエーター、サイトカイン、ケモカインおよびプロテアーゼ阻害剤を全体的に誘導するための、プロテアーゼ阻害剤またはプロテアーゼのノックダウン、転写因子またはそのドミナント型がある。対象の遺伝子は、マクロファージのM1/M2偏極に選択的に影響を与えるサイトカインおよび酵素(II−4、II−10、II−13、TGFβ)、破骨細胞の分化を阻害するサイトカイン(抗RANKL、OPNなど)、または創傷治癒を刺激する増殖因子およびプロテアーゼ阻害剤(PDGF、EGF、SLPIなど)、または抗菌性ペプチドをコードすることができる。
【0125】
前記遺伝子の送達は、前に記載したように、当技術分野でよく知られている任意の方法によって実施することができる。
【0126】
<再生医療:>
ドナー器官の供給不足のために、同種移植片に対する代替が大いに必要とされている。細胞補充療法は、肝臓、膵臓、または膵島細胞移植に対する魅力的な代替を与えることができる。このような療法は、移植が不可能であるかまたは示されない器官系における治療の選択肢を与えることもできる。幹細胞または前駆細胞だけでなく、成熟単球、マクロファージを含めた骨髄単球性委任細胞も、特に肝臓および膵臓における器官再生を目的とするターゲティングおよび高耐性細胞療法に関する有意な可能性を与えることが近年示されている。マウス起源とヒト起源の両方のこのような成熟骨髄単球性細胞は、異なるマウスモデル中の肝臓および膵島β組織に有意に貢献することができ、これらの器官において組織特異的機能を果たすことができることは示されている(Camargo,F.D.,Green,R. et al,2003;Willenbring,Bailey et al.2004;Ruhnke,Ungefroren et al.2005)。この機構は完全には明らかでないが、これらの観察結果は、損傷器官へのマクロファージの直接投与またはそれらの増殖性前駆細胞の全身移植は、魅力的な低侵襲性の治療戦略となることを示す。しかしながら、この手法の臨床適用性の展望は、培養中に十分な数の単球を増幅することが困難であることによって妨げられる。
【0127】
本発明の方法によって得られる単球、マクロファージまたは樹状細胞は、再生医療において、例えば損傷器官への直接投与、または全身移植用に使用することができる。
【0128】
スクリーニング法:
特定の疾患では、単球、マクロファージまたは樹状細胞を破壊する、またはその数を減らすこと、または感染単球、マクロファージまたは樹状細胞を標的とし、治療することのいずれかが望ましい可能性がある。このような場合、単球、マクロファージまたは樹状細胞を標的とする薬剤を開発することが望ましい。
【0129】
単球、マクロファージまたは樹状細胞を生成するための本発明の方法は、このような薬剤をスクリーニングするのに有用である可能性がある。
【0130】
薬剤をスクリーニングするための一般的な方法は、前に定義した単球、マクロファージまたは樹状細胞を候補化合物と接触させること、および前記化合物が、前記細胞と結合し、場合によってそれを破壊する、その複製を阻害する、またはその挙動を改変することができるかどうかを判定することを含む。特に候補化合物は、特定の刺激、例えばサイトカインに応じた細胞の挙動(例えば、分化するその能力)を変えることができる。
【0131】
例えば、幾つかの病原菌は、マクロファージにおいてさえ侵入および生存の液胞経路を使用して、一定範囲の戦略によって食作用過程を妨害することができる。それによって生物が摂取を回避する(マイコプラズマ)、酵素によりオプソニンを破壊し、融合および酸性化を阻害する(マイコバクテリア)、および新規な膜(レジオネラ)および他のオルガネラを動員する、他の例が知られている。クルーズトリパノソーマおよびカンジダアルビカンスは迅速にリソソームを動員して、おそらくそれ自体の分化を促進する。レイシュマニアはファゴリソソーム内で自由に増殖し、一方リステリアモノサイトゲネスはリソソーム膜を破壊し細胞質に逃避し、この場合それは、細胞内移動および細胞内伝播のためにアクチン重合を開始させる。ブルセラ属の細菌は、哺乳動物宿主のマクロファージ内の生存および複製が可能である細胞内病原菌である。この病原菌は、マクロファージの防御機構を回避し複製可能なオルガネラを生成するために多数の戦略を使用する。最後に、条件的細胞内病原菌サルモネラエンテリカは、マクロファージにおいてプログラムされた細胞死を誘導する。
【0132】
したがって、前に記載したようなマクロファージを生成するための方法は、マイコプラズマ、マイコバクテリア、レジオネラ、トリパノソーマ、レイシュマニア、リステリア、ブルセラまたはサルモネラなどの病原菌に対する薬剤をスクリーニングするのに有用である可能性がある。
【0133】
マクロファージは、身体中のヒト免疫不全ウイルス1型(HIV−1)の初期感染、播種および持続にも貢献する。異なるHIV系統によるマクロファージの感染に影響を与える既知の因子には、ウイルス侵入に関するCD4およびケモカインコレセプターがある。
【0134】
したがって、前に記載したようなマクロファージを生成するための方法は、HIV感染に対する薬剤をスクリーニングするのに有用である可能性がある。
【0135】
本発明の方法は、慢性炎症および自己免疫疾患(多発性関節炎、クローン病または多発性硬化症など)または炎症腫瘍関連マクロファージの貢献度が強い癌に対して使用するための、マクロファージにおける炎症応答を阻害する薬剤をスクリーニングするのに有用である可能性もある。
【0136】
前に記載したようなマクロファージを生成するための方法は、創傷治癒を促進するかまたは瘢痕を減らす薬剤をスクリーニングするのに有用である可能性もある。
【0137】
前に記載したようなマクロファージを生成するための方法は、骨関節炎および骨粗鬆症において使用するための破骨細胞の分化を阻害する薬剤を、スクリーニングするのに有用である可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0138】
【図1】野生型(白棒)またはMafB/c−Maf二重欠損(黒棒)E14.5胚由来の20,000個の胎児肝細胞を、組換えSCF、GM−CSF、IL−3、IL−6、およびEPO(A)または10ng/mlの組換えM−CSF(B)、GM−CSF(C)、G−CSF(D)またはIL−3(E)のみのサイトカイン混合物を含む半固形培地中でインキュベートした図である。コロニーは12日後に記録し、CFU−M、CFU−E、CFU−GEMM、CFU−GMおよびCFU−Gの平均数を示す。実験は二連で実施し、誤差線は各遺伝子型の3つの個々の胚からの標準誤差を示す。
【図2】野生型(菱形)またはMafB/c−Maf二重欠損(四角形)E14.5胚由来の10,000個の胎児肝細胞を、示したように10ng/mlの組換えM−CSF、GM−CSF、またはIL−3を含む半固形培地中でインキュベートした図である。コロニーは8日毎に記録し、培地から洗浄除去し、同じ濃度および同じ条件下で再培養した。アッセイは二連で実施し、2つの独立した実験は同等の結果を示した。
【図3】示した野生型、MafB欠損、c−Maf欠損またはMafB/c−Maf二重欠損E14.5胚由来の胎児肝細胞を、示した濃度の組換えM−CSFで24時間刺激したM−CSFの供給源としてのL細胞条件培地中において9日間で単球/マクロファージに分化させ、BrdU取り込みの18時間後にS期中の細胞をモニタリングすることによって増殖に関してアッセイした図である。刺激した培養物中と無刺激培養物中の増殖の比として増殖指数を示す。誤差線は3連のサンプルからの標準誤差を示し、2つの独立した実験は同等の結果を示した。
【図4】3つの独立した単球培養物を、半固形培地から細胞を洗浄除去すること、およびM−CSFの供給源としてのL細胞条件培地中でそれらをインキュベートすることによって、MafB/c−Maf二重欠損E14.5胎児肝細胞のM−CSFコロニーアッセイから誘導した図である。培地は4日毎に交換し、培養物は計数し密集状態で継代した。グラフは、示した継代数後に誘導された細胞の計算した合計数を示す。
【図5】MafB/c−Maf二重欠損単球培養物の表現型および機能的特徴の図である。:A.均質な単球/マクロファージ形態を示す、MafB/c−Maf二重欠損単球培養物からのサイトスピンのギムザ染色。B.MafB/c−Maf二重欠損単球培養物の位相差顕微鏡写真。C./D.骨髄系統(C)または他の系統(D)の抗原に関して染色した、MafB/c−Maf二重欠損単球培養物のFACSプロファイル。細胞は単球/マクロファージ抗原(Mac−1、F4/80およびFcgRII/III)に対してほぼ100%陽性であったが、顆粒球系マーカーGr−1、前駆細胞系マーカーc−kitおよびCD34、赤血球系マーカーTer119、およびTリンパ球系マーカーCD3およびCD4に対しては陰性であった。それらはBリンパ球系マーカーCD19に対しても陰性であった(示さず)。E.MafB/c−Maf二重欠損単球培養物(DKO細胞)はPEコーティングラテックスビーズと共にインキュベートし、食作用の指標として摂取された蛍光ビーズに関してFACSによって分析した。比較用に、RAW267マクロファージ細胞系の食作用活性を陽性対照として示す。陰性対照はビーズとインキュベートしなかった細胞を示す。
【図6】老齢マウスのMafB/c−Maf欠損血液からの単球培養物の誘導の図である。A.〜D.2カ月齢の野生型またはMafB/c−Maf二重欠損胎児肝細胞のいずれかで再構成した、22カ月齢のマウスの末梢血由来の100,000個の白血球細胞(WBC)を、100ng/mlの組換えM−CSFを含む半固形培地中でインキュベートし、12日後にコロニー形成に関して分析した。野生型(A)またはMafB/c−Maf欠損(B)サンプル中のコロニーの顕微鏡写真、および野生型またはMafB/c−Maf欠損サンプル由来のコロニーの合計数を示すグラフ(C)。誤差線は各遺伝子型の2つの個々のマウス由来の2連サンプルの標準誤差を示す。B中の個々のコロニーの拡大はパネルD中に示す。E.,F.野生型またはMafB/c−Maf欠損再構成マウスの末梢血由来の100,000個のWBCを、M−CSFの供給源としてのL細胞条件培地中で培養し、計数し8日毎に継代した。MafB/c−Maf欠損単球培養物の位相差顕微鏡写真はE中に示し、それぞれの示した継代数における細胞の計算した合計数はF中に示す。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0139】
材料および方法
マウス:本発明者らは、129Sv−C57BL/6バックグラウンドのMafB欠損マウスの生成、およびmafBおよびgfp用のプライマーを用いたPCRによるそれらの遺伝子型決定、ノックアウト対立遺伝子におけるmafBの置換(Bianchi et al.2003)を以前に記載した。c−Maf欠損マウスの生成も記載されている(Kim et al.1999)。MafB+/−とc−Maf+/−マウスを交配してMafB;c−Maf+/−;+/−マウスを得て、これらを異系交配してMafB;c−Maf−/−;−/−胚を得た。全ての実験は、特定病原体を含まない条件下に維持したマウスを使用して機関のガイドラインに従い実施した。
【0140】
胎児肝細胞の調製:E14.5日胚で無菌状態において胚を回収した。単細胞懸濁液をそれぞれの胚の肝臓由来の初代細胞培地(IMDM、20%のFCS、1%のペニシリン/ストレプトマイシン)において調製し、PCRによって遺伝子型を確認するまで4℃で保存した。
【0141】
コロニーアッセイ:2×10個の胎児肝細胞を、製造者の説明書に従い、サイトカイン(SCF、Epo、GM−CSF、II−3、II−6)の混合物を含むMethoCultM3232を含む半固形培地、または10ng/mlのマウスrM−CSF、10ng/mlのマウスrGM−CSF、10ng/mlのマウスrG−CSFまたは10ng/mlのマウスrII−3(Pepro Tech Incorporation)を補充したMethoCultM3234(Stem Cell Technologies、バンクーバー、カナダ)に接種した。簡単に言うと、300mlの細胞含有培地を300mlのサイトカイン含有培地と混合し、1400mlのメチルセルロース培地に加え、35mmプレートに二連でこの混合物の900mlそれぞれを培養する前に激しく混合した。16個を超える細胞を含むコロニーの大きさおよび合計数を、4、6、9および12日後に二連のプレートで記録した。
【0142】
再培養アッセイ:プレート当たり1×10個の胎児肝細胞を、50ng/mlのマウスrM−CSF、マウスrGM−CSFまたはマウスrII−3(いずれもPepro Tech Incorporation)を補充したメチルセルロースを含む半固形培地に接種した(M3234、Stem Cells Technologies)。8日後、コロニーを計数し、単細胞懸濁液を得るまで、細胞は培地中で繰り返し洗浄してメチルセルロースを除去した。1×10個の細胞を同じ条件下で再培養し、コロニー形成を8日後に再度記録した。再培養は3回繰り返した。
【0143】
液体培養中のMafB/c−Maf欠損細胞の増殖:4回目の培養後、M−CSF条件下でMafB/c−Maf欠損細胞のみが依然としてコロニーを与えた。これらを培地中で繰り返し洗浄してメチルセルロースを除去し、M−CSFの供給源として20%のL細胞上清を補充した1×10/100mlのDMEM/10%加熱不活性化FCS/1%のペニシリン/ストレプトマイシンおよび1%のピルビン酸ナトリウムで液体培養に取り込んだ。組換えマウスM−CSFの培養は同一の増殖特性をもたらした。細胞は4日毎に部分的な培地交換を施し、8日毎の完全な培地交換によって1:4に分けた。
【0144】
L細胞上清の生成:L929線維芽細胞(ATCCから入手可能:CCL−1)を、マウスM−CSF条件培地の供給源として使用した。L細胞を培養し、L細胞増殖培地(DMEM、10%のFCSHI、1%のピルビン酸ナトリウム、1%のペニシリン/ストレプトマイシン)中に維持した。上清を生成するために、細胞は70%の密集状態まで増殖させ、培地はL細胞上清用培地(IMDM、2%のFCSHI、1%のピルビン酸ナトリウム、および1%のペニシリン/ストレプトマイシン)に交換した。5日後に上清を回収し、さらなる培地をさらに5日間加えた。第2の上清を回収した後、両方をプールし、0.22mmのフィルターを介して濾過し、−20℃でアリコートに保存した。
【0145】
FACS分析:抗体染色用に、細胞は1×10〜1×10個の細胞/mlの濃度で濾過したFACS培地(02%FCS、および必要な場合FcgII/IIIブロッキング抗体、PBS中)に再懸濁し、次に適切に希釈した、蛍光色素モノクローナル抗体と共に30分間4℃でインキュベートした。直接蛍光色素標識したマウス抗原に対する抗体はBDまたはeBiosciencesから購入した。PBSで2回洗浄した後、細胞はFACSCaliburまたはFACS Canto機器(Becton−Dickinson、San Jose、CA)で分析した。データはCell Quest(登録商標)(Becton−Dickinson)またはFlowjo(登録商標)ソフトウェアで分析した。
【0146】
食作用アッセイ:蛍光ビーズ(Molecular Probes、1μM、F−8851)を滅菌PBS中で1回洗浄し、DMEM/10%FCS中に再懸濁させ、それぞれ10秒間10回間隔で超音波処理した。25μlのビーズ溶液はマクロファージと共に24ウエルプレート中で2時間インキュベートした。次いで細胞をPBSで大々的に洗浄し、1%PFAで固定し、FACSCalibur(Beckton Dickinson)でフローサイトメトリーによって分析した。
【0147】
骨髄再構成マウス:再構成実験用に、同じ遺伝子型(MafB;c−Maf−/−;−/−または野生型)の胎児肝細胞由来の単細胞懸濁液をプールし、100μmのガーゼを介して濾過し、1×HBSSまたはPBSのいずれかで1回洗浄し、注射用にPBSまたはHBSS中に再懸濁した。200μlのPBS/HBSS中の1×10個のFL細胞を、致死的放射線を浴びせた(900〜1000rad)年齢および性別適合Ly5.1レシピエントマウスの尾静脈に注射した。照射は細胞導入前に少なくとも4時間行い、マウスは移植後4週間、飲料水に溶かした抗生物質で飼育した。
【0148】
増殖アッセイ:胎児肝細胞をM−CSF含有培地中で9日間分化させ、PBSで洗浄し、示した濃度の組換えM−CSFを含む200μlの培地中に20,000個の細胞/ウエルで96ウエルの平底プレートに培養した。36時間後、BrdUを10nMの最終濃度で加え、18時間後細胞を固定し、細胞増殖ELISA BrdU比色分析キット(Rocheカタログ番号1647229)のプロトコルに従い抗BrdU抗体で標識した。簡単に言うと、ウエルは洗浄溶液で5回洗浄し、100μlの検出試薬と共にインキュベートした。20分後、ELISA反応は25μlの1M HSOを加えることによって停止させ、着色生成物は450nmにおいて分光光度計で測定した。
【0149】
結果
MafB、c−Maf二重欠損胎児肝細胞は単球コロニー形成能を増大させた:MafB欠損は新生児期に致死的であるので、本発明者らは、E14.5胎児肝臓中の造血に対するMafB/c−Maf二重欠損の影響を分析した。系統特異的表面マーカーのFACS染色によって、MafB/c−Maf欠損E14.5胎児肝臓における系統分布の異常が露呈することはなかった。特異的サイトカインに応答して増殖する可能性がある細胞数を定量化するために、E14.5胚由来のMafB/c−Maf欠損または野生型(WT)対照細胞を、サイトカイン混合物(II−3、II−6、GM−CSF、SCFおよびEpo;図1A)または個々の骨髄性サイトカイン(M−CSF、GM−CSF、G−CSFまたはII−3、図1B〜E)のいずれかを含むメチルセルロース培地中で培養した。単球コロニー(CFU−M)は、単球増殖を支持する全ての条件(M−CSF、GM−CSF、IL−3および混合条件)下で、野生型胎児肝細胞と比較してMafB/c−Maf欠損に関して有意に増大し、一方他の型のコロニーは依然として正常範囲内であった。さらに、単球コロニーのこのような増大は、個々のMafBまたはc−Maf欠損胎児肝細胞においては見られなかった(示さず)。これは、MafBとc−Mafの複合消失は、骨髄性サイトカインに応答して単球コロニーを生じる細胞数の増大をもたらしたことを示した。
【0150】
MafB、c−Maf二重欠損CFU−M単球細胞はM−CSFにおける自己再生能を高めた:MafB/c−Maf欠損単球細胞が自己再生能を維持したかどうかをさらに分析するために、本発明者らは、MafB/c−Maf欠損CFU−Mコロニー由来の細胞の一連の再培養能力を試験した。これらのアッセイでは、コロニーはメトセルから洗浄除去し、新たなメトセル培養物中で同じサイトカイン条件下において解離させ再培養した。
【0151】
図2中に示すように、GM−CSFおよびII−3条件下において、3回の野生型とMafB/c−Maf欠損アッセイの両方でコロニーを再培養することができたが、4回目の再培養後にコロニーは形成されなかった。対照的に、野生型細胞とMafB/c−MafKO細胞の間の劇的な差異をM−CSF条件下において観察した。野生型コロニーは2回目の再培養後に既に消失していた一方で、MafB/c−Maf欠損細胞は4回目の再培養までM−CSFにおいて多数のコロニーを絶えず形成していた。これは、MafB/c−Maf欠損胎児肝臓由来単球細胞は、M−CSFにおいて特異的に自己再生し増殖する能力を有していたことを示した。
【0152】
MafB/c−Maf欠損単球は、M−CSFに応じて増大する増殖を示す:この増大した自己再生能が、MafB/c−Maf欠損単球の増大したM−CSF依存性増殖によるものであったかどうかを試験するために、本発明者らは、野生型、MafB欠損、c−Maf欠損またはMafB/c−Maf欠損E14.5胚の胎児肝細胞を9日間で単球に分化させ、次いでこれらの細胞を異なる濃度のM−CSFで36時間刺激した。本発明者らは、M−CSFに応じたそれらのDNA合成率をモニタリングし、刺激細胞と無刺激細胞における18時間後のBrdU取り込み率を比較することによってそれらの増殖指数を定めた。図3中に示すように、野生型、MafB欠損またはc−Maf欠損単球は、M−CSFに対する増殖応答をほとんど示さなかった。対照的に、MafB/c−Maf欠損単球は、M−CSFに応じた増殖の劇的な増大を示した。これは、観察したMafB/c−Maf欠損単球の継続的発現は、M−CSFに応じて増殖する強烈に増大した能力によるものであることを示した。
【0153】
MafB/c−Maf欠損単球は数カ月間のM−CSF培養中に維持することができ、1010を超えて増殖させることができる:MafB/c−Maf欠損単球のこの増大した自己再生およびM−CSF依存性増殖能を、どのくらいの間維持し得るかをさらに試験するために、CFU−M単球コロニーを液体培養に取り込み、M−CSF含有培地の存在下で培養した。これらの条件下において、細胞は培養中に増大および増殖し続けた。4つの細胞集団は異なる胚および再培養アッセイに独立に由来し、増殖低下または危機の如何なる兆候もなく、少なくとも15代または4カ月M−CSF含有培養物中に維持することができた。2つの集団は16代で危機状態に移行したが、他の2つの集団は24代または6.5カ月まで危機の如何なる兆候も示さず、それらの1つは、危機または増殖低下なしで18カ月間の培養中絶えず保たれていた。これらの集団の3つ(DKO42、46および56と名付けた)の15代までの増殖曲線は図4中に示す。それぞれの代で凍結させた細胞は、再度培養に容易に取り込むことができた。誘導集団はクローニングすることもでき、初期継代集団の個々の細胞から誘導した少なくとも6つの独立系を確立した。
【0154】
長期培養中に危機なしで得ることができる細胞の合計数を計算して、少なくとも1010の増幅係数を表した。この莫大な増幅係数を示すために、通常の血液分析の典型的体積(約5ml)中に存在する単球は、同様に増幅させた場合、1千万人の合計単球を生成するのに理論上十分であり得る。
【0155】
M−CSF培養中にc−Maf/MafB欠損単球細胞は、正常な単球/マクロファージの表現型を有する:長期間の間M−CSFの存在下で絶えず培養したc−Maf/MafB欠損細胞は、単球/マクロファージの表現型を維持していた。図5A中に示したように、c−Maf/MafB欠損細胞は、ギムザ/メイ−グルエンワルド染色において典型的なマクロファージ形態を示した。位相差顕微鏡下での培養中のそれらの外見は典型的なマクロファージ培養物ほど扁平ではなく、これはおそらくそれらの連続した増殖の指標である(図5A)。FACS分析は、c−Maf/MafB欠損細胞の全体集団は、典型的な単球/マクロファージのマーカーF4/80、Mac−1(CD11b)、M−CSFR(CD115)およびFcgRII/III(CD16/CD32)、ただし選択T細胞(CD3、CD4、CD8)のいずれでもない、B細胞(CD19)、赤血球系、(Ter−119)、顆粒球系(Gr−1)マーカーを発現したことも示した(図5C、D)。少量のM−CSFを含むが多量のM−CSFは含まない培養物において、CD11cが上方制御されることを観察し、これらの細胞が、M−CSFの持続的存在によって抑制され得るDC分化能を有することを示唆した。さらに、c−Maf/MafB欠損細胞は典型的な単球/マクロファージの機能を示した。というのはそれらは、野生型初代マクロファージまたはマクロファージ細胞系と同等またはそれより高い程度で、多量の蛍光ラテックスビーズを定量的に貪食することができたからである(図5E)。
【0156】
一緒にするとこれらの観察結果は、培養中のそれらの持続的増殖にもかかわらず、全ての細胞は完全に分化し機能的な単球/マクロファージの成熟表現型を維持したことを示した。
【0157】
c−Maf/MafB欠損単球およびマクロファージはin vivoで悪性腫瘍を発症しない:in vivoで白血球能を有する悪性形質転換細胞に関する、in vitroでの増大した再培養効率も観察する。この可能性を制御するために、本発明者らはc−Maf/MafB欠損胎児肝細胞を有する致死的放射線を浴びせたレシピエントマウスを再構成し、再構成マウスを長期間の間観察して、骨髄性白血病または骨髄増殖性障害を発症する可能性があるかどうか分析した。これまで、8匹のマウスを6〜8週齢で再構成し、8、11、14および22カ月齢で分析し、この後者はマウスの最大寿命に近い。全観察期間中、マウスは正常に見え、不快の兆候を示さなかった。22カ月までの定期的な血液分析は、正常な白血球細胞数および芽細胞または異常細胞の兆候がない形態を示した。FACS分析によって、単球は正常なCD115+、CD11b+、F4/80+、表現型を有しており、未熟または前駆細胞表面マーカーを発現する多数の細胞は検出しなかった。屠殺時に、さらに切開は白血病の如何なる肉眼で見える兆候も明らかにせず、脾臓は正常な大きさおよび健康な外見を示した。血液、骨髄、脾臓および腹腔滲出液由来のサイトスピンのFACS分析および組織学的染色は、白血病または骨髄増殖性疾患の如何なる指標も明らかにしなかった。前駆細胞表面マーカーのプロファイルを有する多数の細胞(CMP、GMP)または芽細胞または未熟細胞の形態を有する細胞は、骨髄においては観察しなかった。これは、c−Maf/MafB欠損単球および単球由来細胞は、血液病を引き起こさずに造血系に正常に長期間貢献し得ることを示す。
【0158】
老齢マウス由来のc−Maf/MafB欠損単球はM−CSF培養中に増殖させることができる:本発明者らは、増大した自己再生能を有するc−Maf/MafB欠損単球/マクロファージは、胚細胞だけでなく、成体またはさらに老齢動物の末期分化細胞に由来する可能性もあるかどうか分析しようと試みた。したがって本発明者らは、MafB/c−Maf欠損造血系で再構成したマウス由来の単球はM−CSF培養中に増殖し、M−CSF含有メトセル培地中でコロニーを生じ得るかどうか試験した。図6中に示すように、予想通り、野生型再構成マウス由来の単球はM−CSFメトセル培地中でコロニーを生じることができなかった。対照的に、c−Maf/MafB欠損白血球細胞はCFU−M単球コロニーを生じ、M−CSF培養中で増殖可能であった。一緒にするとこれは、観察した表現型は胚細胞に特異的ではないが、MafB/c−Maf欠損は成体老齢マウス由来の末期分化細胞に増大した自己再生能を与えることを実証した。
【0159】
培養中に増殖したc−Maf/MafB欠損単球/マクロファージは、静脈内注射後に末梢組織に存在する:M−CSF培養中増殖したc−Maf/MafB細胞が、正常単球と同様に末梢組織への循環から移動し得るかどうか試験するために、本発明者らは、1×10個のLy5.2+c−Maf/MafB欠損単球/マクロファージをLy5.1+宿主に再度静脈内注射し、4、24および48時間後に循環中および末梢組織中のそれらの存在を分析した。本発明者らは、CD11b+ドナー細胞は、4時間から腹膜中および24時間から脾臓中で検出可能であったことを観察した。これは、培養中増殖したc−Maf/MafB細胞が、in vivoにおいて単球由来細胞集団に貢献する可能性があることを示した。
【0160】
参考文献
【表2】

【表3】

【表4】

【表5】

【表6】

【表7】

【表8】

【表9】

【表10】

【表11】

【表12】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
単球、マクロファージまたは樹状細胞を増殖するためのex vivoでの方法であって、単球、マクロファージまたは樹状細胞中のMafBおよびc−Mafの発現または活性を阻害すること、および少なくとも1つのサイトカインの存在下で前記細胞を増殖することを含む方法。
【請求項2】
MafBおよびc−Mafの発現を、siRNAオリゴヌクレオチド、アンチセンスオリゴヌクレオチドまたはリボザイムを使用することによって阻害する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
MafBおよびc−Mafの活性を、野生型MafBおよびc−Mafと競合する突然変異MafBおよびc−Mafポリペプチドを使用することによって阻害する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
サイトカインがM−CSFである、請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の方法によって得ることができる単球、マクロファージまたは樹状細胞。
【請求項6】
MafBおよびc−Mafを発現しない、またはその中でMafBおよびc−Mafの発現または活性が無効化または阻害されている、単球、マクロファージまたは樹状細胞。
【請求項7】
MafBおよびc−Maf遺伝子を欠く、請求項6に記載の単球、マクロファージまたは樹状細胞。
【請求項8】
マウス起源である、請求項5から7のいずれかに記載の単球、マクロファージまたは樹状細胞。
【請求項9】
ヒト起源である、請求項5から7のいずれかに記載の単球、マクロファージまたは樹状細胞。
【請求項10】
ミクログリア、組織球、ホーフバウアー細胞、メサンギウム細胞、クッパー細胞、腹腔マクロファージ、肺胞マクロファージ、表皮または皮膚マクロファージ、辺縁帯マクロファージ、メタロフィリックマクロファージ、赤脾髄マクロファージ、白脾髄マクロファージおよび破骨細胞からなる群から選択される、請求項5から9のいずれかに記載のマクロファージ。
【請求項11】
抗原分子をさらに添加した、請求項5から9のいずれかに記載の樹状細胞。
【請求項12】
請求項5から9のいずれかに記載の単球、マクロファージまたは樹状細胞を薬剤として許容される担体と組み合わせて含む医薬組成物。
【請求項13】
ワクチンとして使用するための、抗原分子を添加した請求項11に記載の樹状細胞を含む医薬組成物。
【請求項14】
癌、急性または後天性免疫不全症、慢性または急性損傷、創傷、変性疾患、自己免疫疾患、慢性炎症疾患、アテローム性動脈硬化症、多発性関節炎および骨関節炎、骨粗鬆症、感染性疾患、および代謝性疾患からなる群から選択される疾患の治療を目的とする医薬品を製造するための、請求項5から11のいずれかに記載の単球、マクロファージまたは樹状細胞の使用。
【請求項15】
再生医療を目的とする医薬品を製造するための、請求項5から11のいずれかに記載の単球、マクロファージまたは樹状細胞の使用。
【請求項16】
薬剤をスクリーニングするための、請求項5から11のいずれかに記載の単球、マクロファージまたは樹状細胞の使用。
【請求項17】
マウス単球を生成および増殖するための方法であって、
i)MafBおよびc−Mafを発現しないマウスに由来する単球を単離すること、および
ii)M−CSFの存在下で前記単球を培養すること
からなるステップを含む方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2010−515442(P2010−515442A)
【公表日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−545175(P2009−545175)
【出願日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際出願番号】PCT/EP2008/050221
【国際公開番号】WO2008/084069
【国際公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【出願人】(599176506)アンセルム(アンスチチュ ナショナル ドゥ ラ サンテ エ ドゥ ラ ルシェルシュ メディカル) (23)
【Fターム(参考)】