単結晶引上装置の輻射シールド
【課題】単結晶の引上速度を向上して結晶欠陥の発生を抑制し、且つ、結晶の有転位化を抑制できる単結晶引上装置の輻射シールドを提供する。
【解決手段】シリコン単結晶Cを包囲するようにルツボ上方に配置される輻射シールド6であって、円筒状の直胴部6bと、前記直胴部の下端から内側に湾曲し、下端部開口6aを形成する下肩部6cとを有し、前記下端部開口の周縁部において、周方向の所定位置に、所定幅をもって径方向に突出すると共に、高さ方向に所定の厚さ寸法を有する熱遮蔽部材10を備える。
【解決手段】シリコン単結晶Cを包囲するようにルツボ上方に配置される輻射シールド6であって、円筒状の直胴部6bと、前記直胴部の下端から内側に湾曲し、下端部開口6aを形成する下肩部6cとを有し、前記下端部開口の周縁部において、周方向の所定位置に、所定幅をもって径方向に突出すると共に、高さ方向に所定の厚さ寸法を有する熱遮蔽部材10を備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チョクラルスキー法(以下、「CZ法」という)によって単結晶を育成しながら引き上げる単結晶引上装置に用いられる輻射シールドの構造に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコン単結晶の育成に関し、CZ法が広く用いられている。この方法は、図20に示すように、ヒータ52の熱によりルツボ50内にシリコンの溶融液Mを形成し、その表面に種結晶Pを接触させ、ルツボ50を回転させるとともに、この種結晶Pを反対方向に回転させながら上方へ引上げることによって、種結晶Pの下端に単結晶Cを形成していくものである。
【0003】
このCZ法を実施する単結晶引上装置においては、特許文献1に開示されるように、単結晶Cの引上領域を囲むように、ルツボの上方に輻射シールド51が設けられる。この輻射シールド51は、育成する単結晶Cの外周面への輻射熱を効果的に遮断するものであって、これにより引き上げ中の単結晶Cの凝固を促進し、単結晶Cを速やかに冷却することができる。また、図示するように輻射シールド51の内側に水冷体53を配置した構成の場合には結晶からの抜熱効果が向上するため、引上速度を速くすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−92272号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、図20の構成にあっては、輻射シールド51において、その下端部開口51aの厚さ寸法tが小さすぎると、結晶外周面に対する熱遮蔽効果が不十分になるという課題があった。特に、図示するように水冷体53が配置され、更にルツボ側方から水平方向に磁場が印加される(横磁場と呼ぶ)構成にあっては、溶融液Mにおいて中心側から外側に向かう離心流(図示せず)が発生し、結晶の周りに過冷却部が形成されやすくなり、育成する単結晶が有転位化しやすいという課題があった。
一方、下端部開口51aの厚さ寸法tが大きすぎると、結晶の有転位化を抑制はできるが、水冷体53が溶融液面から遠くなり、結晶外周面からの熱が散発され難くなるため、結晶引上速度を速くすることができず、グローイン欠陥などの結晶欠陥が発生しやすくなるという課題があった。
【0006】
本発明は、前記したような事情の下になされたものであり、チョクラルスキー法によってルツボからシリコン単結晶を引上げる単結晶引上装置の輻射シールドにおいて、単結晶の引上速度を向上して結晶欠陥の発生を抑制し、且つ、結晶の有転位化を抑制できる単結晶引上装置の輻射シールドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するためになされた、本発明に係る単結晶引上装置の輻射シールドは、ルツボ内のシリコン溶融液に対し水平方向に磁場を印加すると共に、種結晶を前記溶融液に接触させ、チョクラルスキー法によりシリコン単結晶を引き上げる単結晶引上装置において用いられる前記シリコン単結晶を包囲するように前記ルツボ上方に配置される輻射シールドであって、円筒状の直胴部と、前記直胴部の下端から内側に湾曲し、下端部開口を形成する下肩部とを有し、前記下端部開口の周縁部において、周方向の所定位置に、所定幅をもって径方向に突出すると共に、高さ方向に所定の厚さ寸法を有する熱遮蔽部材を備えることに特徴を有する。
尚、前記熱遮蔽部材の厚さ寸法t1は、前記ルツボ内に形成されたシリコン溶融液の初期深さをD0とし、前記ルツボの内面側の小R部以下の中心部深さをDcruとし、単結晶の直胴部径をΦ1とすると、下記の式(1)により規定されることが望ましい。
(数1)
t1=(0.1〜0.5)(D0/Dcru)・Φ1 ・・・(1)
【0008】
このような構成によれば、単結晶の保温改善により溶融液の所定領域における過冷却を抑制し、結晶の有転位化を防止することができる。更に、熱遮蔽部材が設置されない大部分の領域においては、従来通りに水冷体による効果を得ることができるため、結晶をより高速に引き上げ、且つ結晶欠陥を抑制することができる。
【0009】
また、前記熱遮蔽部材は、該熱遮蔽部材を設けない状態での結晶外周直下の溶融液温度解析に基づき、シリコン溶融液への水平の磁場印加方向に対するルツボ中心軸からの回転角度に従い、1つ又は複数配置されていることが望ましい。
このように熱遮蔽部材を設けない状態での結晶外周直下の溶融液温度解析を行うことにより、過冷却の領域を特定することができ、その領域に対応する位置に熱遮蔽部材を配置することにより、前記溶融液の過冷却を防止することができる。
【0010】
また、前記熱遮蔽部材は、前記下端部開口の周縁部において周方向に沿って移動自在に設けられていることが望ましく、前記熱遮蔽部材を前記下端部開口の周縁部において周方向に沿って移動させる熱遮蔽部材移動手段を備えることが好ましい。
このように構成することにより、単結晶の育成中において、溶融液の残量が低減するに従い変化する溶融液対流に伴う溶融液の低温位置の変化に応じて適宜、熱遮蔽部材の位置を調整し、より効果的に単結晶の保温改善により溶融液の過冷却を抑制し、結晶の有転位化を防止することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、チョクラルスキー法によってルツボからシリコン単結晶を引上げる単結晶引上装置において、単結晶の引上速度を向上して結晶欠陥の発生を抑制し、且つ、結晶の有転位化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、本発明に係る輻射シールドが配備された単結晶引上装置の一部構成を示す断面図である。
【図2】図2は、図1の単結晶引上装置が具備する輻射シールドの第1の実施の形態を示す一部拡大断面図である。
【図3】図3は、図2のA−A矢視断面図(輻射シールド全体を示す)である。
【図4】図4は、ルツボ内に形成されたシリコン溶融液の初期深さD0、及びルツボの内面側の小R部以下の中心部深さDcruを定義する断面図である。
【図5】図5は、ルツボから引き上げる単結晶の直胴部径Φ1を定義する断面図である。
【図6】図6は、熱遮蔽インナー部材を設けない輻射シールドを用い、横磁場印加の下、単結晶を直胴部長さ150mm引き上げた時点の結晶外周直下における溶融液温度をコンピュータ解析したグラフである。
【図7】図7は、熱遮蔽インナー部材を設けない輻射シールドの一部拡大断面図である。
【図8】図8は、図7のA−A矢視断面図(輻射シールド全体を示す)である。
【図9】図9は、本発明に係る輻射シールドの第2の実施の形態を示す一部拡大断面図である。
【図10】図10は、図9のA−A矢視断面図(輻射シールド全体を示す)である。
【図11】図11は、図9の輻射シールドが具備する各制御棒に連結される角回転装置を模式的に示す斜視図である。
【図12】図12は、図11の各回転装置の支持盤が有するギア盤の形状を示す平面図である。
【図13】図13(a)は、図11の各回転装置の支持盤が有する底部支持盤の平面図であり、図13(b)は上部支持盤の平面図である。
【図14】図14は、本発明に係る輻射シールドの第3の実施の形態を示す一部拡大断面図である。
【図15】図15は、図14のA−A矢視断面図(輻射シールド全体を示す)である。
【図16】図16は、図14の輻射シールドが具備する各制御棒に連結される角回転装置を模式的に示す斜視図である。
【図17】図17は、図16の回転装置の支持盤が有するギア盤の形状を示す平面図である。
【図18】図18(a)は、図16の回転装置の支持盤が有する底部支持盤の平面図であり、図18(b)は上部支持盤の平面図である。
【図19】図19は、本発明に係る実施例、及び比較例の結果を示すグラフである。
【図20】図20は、従来の単結晶引上装置及び輻射シールドの構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る単結晶引上装置の輻射シールドの実施形態について図面に基づき説明する。図1は本発明に係る輻射シールドが配置された単結晶引上装置の一部構成を示す断面図である。
【0014】
この単結晶引上装置1は、メインチャンバ(図示せず)内に設けられたルツボ2と、ルツボ2に装填された半導体原料(原料ポリシリコン)Mを溶融するヒータ3と、育成される単結晶Cをワイヤ4で引上げる引上げ機構5とを有している。尚、ルツボ2は、二重構造であり、内側が石英ガラスルツボ2a、外側が黒鉛ルツボ2bで構成されている。また、ワイヤ4の先端に種結晶Pが取り付けられている。
【0015】
また、ルツボ2の上方且つ近傍には、育成中の単結晶Cに対するヒータ3や溶融液M等からの余計な輻射熱を遮蔽するために輻射シールド6が設けられている。この輻射シールド6は、単結晶Cの周囲を包囲する円筒状の直胴部6bと、前記直胴部6bの下端から内側に湾曲し、下端部開口6aを形成する下肩部6cとを有している。
また、輻射シールド6は、所定の厚さに形成された外筒部材7が炉体(図示せず)に固定され、外筒部材7の内側に断熱部材8が設けられている。前記外筒部材7は、例えば高純度な黒鉛、或いは表面にSiCがコーティングされた黒鉛により形成されている。また、前記断熱部材8は、例えばカーボン繊維からなるフェルト材によって形成されている。
【0016】
更に、輻射シールド6は、その下端部開口6aの周縁部において、所定幅をもって径方向に突出すると共に、高さ方向に所定の厚さ寸法を有する熱遮蔽インナー部材10(熱遮蔽部材)を複数(本実施形態では4つ)具備している。これら熱遮蔽インナー部材10は、例えばカーボン繊維からなるフェルト材によって形成され、その内側に位置する単結晶Cの外周面を部分的に熱遮蔽するために設けられている。尚、輻射シールド6及び熱遮蔽インナー部材10の下端と溶融液面との間の距離寸法(ギャップ)は、育成する単結晶の所望の特性に応じて所定の距離を維持するよう制御される。
また、輻射シールド6の直胴部6bの内側には、円筒状の水冷体9が配備されている。この水冷体9には、冷却水供給手段(図示せず)によって冷却水が供給され、循環することによって所定温度が維持されるように構成されている。
【0017】
続いて輻射シールド6に具備される前記熱遮蔽インナー部材10について詳しく説明する。図2は、輻射シールドの第1の実施形態を示す一部拡大断面図である。また、図3は、図2のA−A矢視断面図(輻射シールド全体を示す)である。
熱遮蔽インナー部材10は、図2,図3に示すように前記輻射シールド6の下端部開口6aの周縁部において複数(本実施形態では4つ)設けられる。各熱遮蔽インナー部材10は、図3に示すように下端部開口6aの周方向に沿った円弧状に形成され、図2に示すように、輻射シールド6の下端部開口6aの内周面側縁部に設けられた支持インナー部材11に係止し取り付けられている。具体的には、図2に示すように前記支持インナー部材11は円環溝状(上面側に溝)に形成され、その溝部11aに熱遮蔽インナー部材10の上部に形成されたフック10aが係止している。
【0018】
ここで、図4,図5に示すように、ルツボ2内に形成されたシリコン溶融液の初期深さをD0とし、ルツボ2の内面側の小R部以下の中心部深さをDcruとし、単結晶Cの直胴部径をΦ1とすると、図2に示す熱遮蔽インナー部材10の厚さ(高さ)寸法t1は、式(1)により規定される。
(数1)
t1=(0.1〜0.5)(D0/Dcru)・Φ1 ・・・(1)
また、支持インナー部材11の厚さ(高さ)寸法t2は、式(2)により規定される。
(数2)
t2=(0.1〜0.8)・t1 ・・・(2)
【0019】
また、図2に示す輻射シールド6の中心軸から熱遮蔽インナー部材10の内側先端までの距離R1は、式(3)により規定される。
(数3)
R1=(0.5〜0.6)・Φ1・・・(3)
【0020】
また、図3に示すように下端部開口6aの半径をΦ2とすると、輻射シールド6の下端部開口6aの半径R2は、式(4)により規定される。
(数4)
R2≦0.5・Φ2・・・(4)
【0021】
さらに、図2に示す、熱遮蔽インナー部材10が前記支持インナー部材11に係止した状態における各寸法R3,R4,R5,R6,R7は、式(5)〜式(10)のように規定される。
(数5)
R3=(1〜2)・R1 ・・・(5)
R4≧R3 ・・・(6)
R5=(1.01〜1.1)・R4 ・・・(7)
R6≧R5 ・・・(8)
R7=(1.01〜1.2)・R6 ・・・(9)
R7≧0.5・Φ2・・・(10)
【0022】
また、図3に示す輻射シールド6の中心軸から支持インナー部材11の各部までの距離R8,R9,R10は、式(11)〜式(13)のように規定される。
(数6)
R8≧R7 ・・・(11)
R9=(1.01〜1.1)・R8 ・・・(12)
R10=(R8+R9)/2 ・・・(13)
【0023】
また、図3に示す各熱遮蔽インナー部材10の横磁場Bの印加方向に対する周方向の設置角度(回転角度)α1〜α4は、それぞれ式(14)のように規定され、熱遮蔽インナー部材10の周方向長さを定める角度β1〜β4は、式(15)のように規定される。
(数7)
α1〜4=0°〜360° ・・・(14)
β1〜4=1°〜80° ・・・(15)
【0024】
前記α1〜4、並びにβ1〜4の角度は、例えば、次のように決定される。図6は、図7、8に示すように熱遮蔽インナー部材10を設けない従来の輻射シールド(従来輻射シールド1〜3)を用い、横磁場印加の下、単結晶を直胴部長さ150mm引き上げた時点の結晶外周直下における溶融液温度をコンピュータ解析したグラフである。尚、従来輻射シールド1は、t4=20mm、t5=100mmであり、従来輻射シールド2は、t4=55mm、t5=60mmであり、従来輻射シールド3は、t4=85mm、t5=60mmである。また、図6のグラフの横軸は磁場印加方向に対する回転角度であり、縦軸は結晶外周直下における溶融液温度である。
【0025】
このグラフに示されるように、従来輻射シールド2,3を用いて多量のシリコン原料をチャージした場合、磁場印加方向に対して45°、135°、225°、315°の付近において結晶外周付近における溶融液面は低温となっている。
この解析結果に基づき、前記熱遮蔽インナー部材10は、α1=45°、α2=135°、α3=225°、α4=315°の位置に、β1〜4=15°となる幅で配置される。それにより、熱遮蔽インナー部材10の設置部位に対応する溶融液面の水冷体9による冷却効果が緩和され、その過冷却が防止される。
【0026】
以上のように本発明に係る輻射シールドの第1の実施形態によれば、単結晶Cの保温改善により溶融液Mの所定領域における過冷却を抑制し、結晶の有転位化を防止することができる。更に、熱遮蔽インナー部材10が設置されない大部分の領域においては、従来通りに水冷体9による効果を得ることができるため、結晶をより高速に引き上げ、且つ結晶欠陥を抑制することができる。
尚、前記第1の実施形態においては、熱遮蔽インナー部材10を支持インナー部材11により係止して配備するものとしたが、支持インナー部材11を設けず、熱遮蔽インナー部材10を輻射シールド6に対して(螺子留めなどにより)直接的に取り付けてもよい。
また、輻射シールド6を作製する段階において、この輻射シールド6に熱遮蔽インナー部材10を一体形成してもよい。
【0027】
続いて、本発明に係る輻射シールドの第2の実施形態について説明する。図9は、本発明に係る輻射シールドの第2の実施形態を示す一部拡大断面図であり、図10は、図9のA−A矢視断面図(輻射シールド全体)である。
この輻射シールドの第2の実施形態にあっては、前記した第1の実施形態とは、熱遮蔽インナー部材10を支持する支持インナー部材及びそれに係る構成が異なり、図において共通の構成については同じ符号で示し、その詳細な説明は省略する。
【0028】
図10に示すように、輻射シールド6の下端部開口6aの内周面側縁部には、4つの熱遮蔽インナー部材10にそれぞれ対応して、支持インナー部材12A〜12Dがそれぞれ設けられている。これら支持インナー部材12A〜12Dは、それぞれ前記下端部開口6aの内周面側縁部において周方向に沿って摺動自在に設けられている。
また、図示するように、各支持インナー部材12A〜12Dには、垂直上方に延びる所定長さの制御棒13A〜13D(熱遮蔽部材移動手段)が立設され、各支持インナー部材12A〜12Dは、それぞれ対応する制御棒13A〜13Dによって独立して周方向に移動させることが可能となっている。即ち、各制御棒13A〜13Dを独立に操作することにより、支持インナー部材12A〜12Dに係止する熱遮蔽インナー部材10を前記下端部開口6aにおいて周方向に移動させるように構成されている。
【0029】
各制御棒13A〜13Dは、具体的には図11に示すような角回転装置14(熱遮蔽部材移動手段)により操作される。図11は、各制御棒13A〜13Dに連結される角回転装置14を模式的に示す斜視図である。この角回転装置14は、各制御棒13A〜13Dにそれぞれ対応して設けられる(即ち本形態では4基)。各制御棒13A〜13Dの上端は、角回転装置14の支持盤15に接続される。角回転装置14の支持盤15は、略円弧状に形成された中空の支持盤容器16を有し、この支持盤容器16には、図12に示すように外周側にギア面が形成された円弧状のギア盤17が周方向に沿って摺動自在に配置されている。尚、ギア盤17の形状は、例えば図12に示すように(輻射シールド6の)中心軸からの距離寸法R11,R12、及び円弧長さを定める角度γ1〜4等により決定されている。
(数8)
R11=(0.90〜0.99)・R10 ・・・(16)
R12=(1.01〜1.2)・R10 ・・・(17)
γ1〜4=10°〜180° ・・・(18)
【0030】
前記支持盤容器16は、図13(a)に示す(ギア盤17を収容可能な深さを有する)底部支持盤18と、図13(b)に示す(蓋としての)上部支持盤19とを上下に重ね合わせることにより構成される。
前記支持盤容器16は、その周方向の左右両端が開口しており、内部でギア盤17が周方向に移動した際には、いずれかの端部開口から突出するようになっている。また、図13(a)に示すように、底部支持盤18の底面には、周方向に沿ったスリット18aが設けられ、このスリット18aに挿通された制御棒13A〜13Dの上端がギア盤17の下面中央に接続されている。即ち、ギア盤17が支持盤容器16内で周方向に移動すると、それに伴い制御棒13A〜13Dがスリット18aに沿って移動するようになっている。
【0031】
また、前記支持盤容器16において、その外周面側には径方向外側に突出した凸部16aが形成されている。図13(b)に示すように上部支持盤19における凸部16aの領域には、例えば円形の開口19aが形成されており、この開口19aから、断面歯車状のギア棒20の下端部が軸周りに回転自在に挿入され、その周面の歯車が前記ギア盤17と係合するように構成されている。即ち、前記ギア棒20が軸周りに回転することにより、支持盤容器16内でギア盤17が周方向に移動し、それに連結された制御棒13A〜13Dが連動して移動するようになっている。尚、前記凸部16aを含む支持盤容器16の形状は、図13(a)、図13(b)に示す(輻射シールドの)中心軸からの距離R13,R14,R15,R16,R17,R18、及び部材の厚さ寸法t3、凸部16a内部の幅寸法L1、円弧長さを設定する角度θ1〜4等により決定されている。
【0032】
ここで、制御棒13A〜13Dの直径をΦ3とし、ギア棒20の直径をΦ4とすると、各距離寸法は次のように規定される。
(数9)
R13=(0.90〜0.99)・R11 ・・・(19)
R14≦R10+0.5・Φ3・・・(20)
R15≧R10+0.5・Φ3・・・(21)
R16=(1.01〜1.2)・R12・・・(22)
R17≧(1.01〜1.2)(R12+Φ4) ・・・(23)
R18=R17+t3 ・・・(24)
【0033】
また、図11に示すように、立設されたギア棒20には、これを軸周りにいずれの方向にも回転可能な駆動手段である回転装置21と、メインチャンバ31に対してギア棒20を上下動させるための昇降装置22とが設けられている。尚、前記回転装置21及び昇降装置22は、角回転装置14ごとに独立して駆動制御される。
【0034】
このように構成された各回転装置14において、回転装置21によりギア棒20がその軸周りに(いずれかの方向に)回転されると、ギア棒20の回転方向に従い、支持盤15のギア盤17が周方向に沿って移動する。また、それにより、ギア盤17に接続された制御棒13A〜13Dがスリット18に沿って周方向に移動するため、制御棒13A〜13Dの下端にそれぞれ接続された支持インナー部材12A〜12D、及びそれに係止する熱遮蔽インナー部材10が、輻射シールド6の下端部開口6aの周方向に沿って移動する。
また、昇降装置22によりギア棒20が上下動されると、それに伴い支持盤15のギア盤17に接続された制御棒13A〜13Dも上下動し、支持インナー部材12A〜12D、及びそれに係止する熱遮蔽インナー部材10の高さ位置が変更される。
【0035】
以上のように本発明に係る輻射シールドの第2の実施形態によれば、各熱遮蔽インナー部材10を、輻射シールド6の下端部開口6aの周方向に沿って、或いは上下方向に独立して移動させることができる。即ち、単結晶Cの育成中において、溶融液の残量が低減するに従い変化する溶融液対流に伴う溶融液の低温位置の変化に応じて適宜、熱遮蔽インナー部材10の位置をそれぞれ調整し、より効果的に単結晶Cの保温改善により溶融液の過冷却を抑制し、結晶の有転位化を防止することができる。
【0036】
続いて、本発明に係る輻射シールドの第3の実施形態について説明する。図14は、本発明に係る輻射シールドの第3の実施形態を示す一部拡大断面図であり、図15は、図14のA−A矢視断面図(輻射シールド全体)である。
この輻射シールドの第3の実施形態にあっては、前記した第2の実施形態とは、熱遮蔽インナー部材10を支持する支持インナー部材及びそれに係る構成が異なり、図において共通の構成については同じ符号で示し、その詳細な説明は省略する。
【0037】
図15に示すように、輻射シールド6の下端部開口6aにおいて、内周面側縁部に設けられる支持インナー部材23は、円環状に形成されている。この円環状の支持インナー部材23には、その中心部を介して対向するように、垂直上方に延びる制御棒24A、24B(熱遮蔽部材移動手段)が立設されている。
制御棒24A、24Bは、図16に示す1基の角回転装置25(熱遮蔽部材移動手段)に連結される。この角回転装置25は、前記第2の実施形態における角回転装置14とは、支持盤の構成のみが異なる。図16に示す支持盤26は、円環状に形成された中空の支持盤容器27を有し、この支持盤容器27には、図17に示すように外周側にギア面が形成された円環状のギア盤28が周方向に沿って摺動自在に配置されている。
【0038】
前記支持盤容器27は、図18(a)に示す(ギア盤28を収容可能な深さを有する)底部支持盤29と、図18(b)に示す(蓋としての)上部支持盤30とを上下に重ね合わせることにより構成される。
図18(a)に示すように、底部支持盤29の底面には、周方向に沿ったスリット29aとスリット29bとが設けられ、スリット29aに挿通された制御棒24Aの上端と、スリット29bに挿通された制御棒24Bの上端とがギア盤28の下面に接続されている。即ち、ギア盤28が支持盤容器27内で周方向に移動すると、それに伴い制御棒24A,24Bがスリット29a,29bに沿って移動するようになっている。
【0039】
また、前記支持盤容器27において、その外周面側には径方向外側に突出した凸部27aが形成されている。図18(b)に示すように上部支持盤30における凸部27aの領域には、例えば円形の開口30aが形成されており、この開口30aから、断面歯車状のギア棒20の下端部が軸周りに回転自在に挿入され、その周面の歯車が前記ギア盤28と係合するように構成されている。即ち、前記ギア棒20が軸周りに回転することにより、支持盤容器27内でギア盤28が周方向に移動し、それに連結された制御棒24A,24Bが連動して移動するようになっている。
【0040】
以上のように本発明に係る輻射シールドの第3の実施形態によれば、各熱遮蔽インナー部材10を、輻射シールド6の下端部開口6aの周方向に沿って、或いは上下方向に同期して移動させることができる。
即ち、単結晶Cの育成中において、溶融液の残量が低減するに従い変化する溶融液対流に伴う溶融液の低温位置の変化に応じて、即座に全ての熱遮蔽インナー部材10の位置を調整し、より効果的に単結晶Cの保温改善により溶融液の過冷却を抑制し、結晶の有転位化を防止することができる。
【0041】
尚、前記第1〜第3の実施の形態においては、輻射シールド6に4つの熱遮蔽インナー部材10を配備する構成としたが、熱遮蔽インナー部材10の数は限定されるものではない。
また、その熱遮蔽インナー部材10の形状は、図示したような円弧状に限らず、輻射シールド6の形状に応じ、より適した形状に形成してもよい。
【実施例】
【0042】
本発明に係る単結晶引上装置の輻射シールドについて、実施例に基づきさらに説明する。本実施例では、前記第1の実施の形態に示した輻射シールドを用いて単結晶引き上げを行い、引き上げた結晶について検証した。
【0043】
実施例の具体的な条件としては、32インチルツボへの原料シリコンのチャージ量を500kg、育成する単結晶の直径を310mm、結晶直胴部長さを2300mm、水平方向の磁場強度(磁束密度)を3000ガウス、磁場位置を−59mm、ルツボ下端と溶融液面とのギャップを20mmとした。
また、図1乃至図3に示した構成において、輻射シールドは、t4=55mm、t5=60mm、Φ2=360cmとし、水冷体の底部と溶融液面との距離を93mmとした。
また、熱遮蔽インナー部材は、t1=105mm、t2=10mm、R1=165mm、R2=179.5mm、R3=181mm、R4=181.5mm、R5=185.5mm、R6=186mm、R7=196mm、R8=196.5mm、R9=200.5mm、α1=45°、α2=135°、α3=225°、α4=315°、β1〜β4=15°とした。
【0044】
(比較例1)
比較例1では、図7、図8に示した(熱遮蔽インナー部材を備えない)構成において、t4=55mm、t5=60mm、Φ2=360cmとし、水冷体の底部と溶融液面との距離を93mmとした。比較例1においても実施例と同様に、引き上げた結晶について検証した。
(比較例2)
比較例2では、図7、図8に示した(熱遮蔽インナー部材を備えない)構成において、t4=85mm、t5=60mm、Φ2=360cmとし、水冷体の底部と溶融液面との距離を123mmとした。比較例2においても実施例と同様に、引き上げた結晶について検証した。
【0045】
表1に実施例、並びに比較例1、2の結果として、無転位化達成率、結晶グローイン欠陥の相対密度、及び最大引上速度の比率を示す。尚、無転位化達成率とは育成した結晶のうち、無転位で引き上げた単結晶の本数の割合である。結晶グローイン欠陥の相対密度とは、比較例1の条件における直径300mmのウエハ面内の80nm以上のグローイン欠陥数との比率である。また、最大引上速度の比率とは、結晶変形、及び割れが発生しない前提の下、比較例1での最大引上速度に対する比率である。
【表1】
【0046】
表1に示すように、実施例では、比較例1,2と比較して大幅に高い無転位化達成率となった。また、実施例では、従来の比較例2に対して引上速度が上昇し、且つ、比較例1,2と比較して、結晶グローイン欠陥の相対密度が低い結果が得られた。
図19に、3次元溶融液対流解析により得られた結晶外周直下における溶融液の温度分布をグラフで示す。図19に示すように、比較例1,2の横磁場印加方向に対する周方向の角度が低くなる位置において、実施例では低温化が抑制された。即ち、熱遮蔽インナー部材の追加により、従来、過冷却誘発される結晶の有転位化が抑制されたものと考えられる。
以上の実施例の結果より、本発明に係る輻射シールドによれば、単結晶の引上速度を向上して結晶欠陥の発生を抑制し、且つ、結晶の有転位化を抑制できることを確認した。
【符号の説明】
【0047】
1 単結晶引上装置
2 ルツボ
3 ヒータ
4 ワイヤ
5 引上機構
6 輻射シールド
6a 下端部開口
6b 直胴部
6c 下肩部
7 外筒部材
8 断熱部材
9 水冷体
10 熱遮蔽インナー部材(熱遮蔽部材)
13A〜13D 制御棒(熱遮蔽部材移動手段)
14 角回転装置(熱遮蔽部材移動手段)
24A、24B 制御棒(熱遮蔽部材移動手段)
25 角回転装置(熱遮蔽部材移動手段)
31 メインチャンバ
C 単結晶
M シリコン溶融液
P 種結晶
【技術分野】
【0001】
本発明は、チョクラルスキー法(以下、「CZ法」という)によって単結晶を育成しながら引き上げる単結晶引上装置に用いられる輻射シールドの構造に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコン単結晶の育成に関し、CZ法が広く用いられている。この方法は、図20に示すように、ヒータ52の熱によりルツボ50内にシリコンの溶融液Mを形成し、その表面に種結晶Pを接触させ、ルツボ50を回転させるとともに、この種結晶Pを反対方向に回転させながら上方へ引上げることによって、種結晶Pの下端に単結晶Cを形成していくものである。
【0003】
このCZ法を実施する単結晶引上装置においては、特許文献1に開示されるように、単結晶Cの引上領域を囲むように、ルツボの上方に輻射シールド51が設けられる。この輻射シールド51は、育成する単結晶Cの外周面への輻射熱を効果的に遮断するものであって、これにより引き上げ中の単結晶Cの凝固を促進し、単結晶Cを速やかに冷却することができる。また、図示するように輻射シールド51の内側に水冷体53を配置した構成の場合には結晶からの抜熱効果が向上するため、引上速度を速くすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−92272号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、図20の構成にあっては、輻射シールド51において、その下端部開口51aの厚さ寸法tが小さすぎると、結晶外周面に対する熱遮蔽効果が不十分になるという課題があった。特に、図示するように水冷体53が配置され、更にルツボ側方から水平方向に磁場が印加される(横磁場と呼ぶ)構成にあっては、溶融液Mにおいて中心側から外側に向かう離心流(図示せず)が発生し、結晶の周りに過冷却部が形成されやすくなり、育成する単結晶が有転位化しやすいという課題があった。
一方、下端部開口51aの厚さ寸法tが大きすぎると、結晶の有転位化を抑制はできるが、水冷体53が溶融液面から遠くなり、結晶外周面からの熱が散発され難くなるため、結晶引上速度を速くすることができず、グローイン欠陥などの結晶欠陥が発生しやすくなるという課題があった。
【0006】
本発明は、前記したような事情の下になされたものであり、チョクラルスキー法によってルツボからシリコン単結晶を引上げる単結晶引上装置の輻射シールドにおいて、単結晶の引上速度を向上して結晶欠陥の発生を抑制し、且つ、結晶の有転位化を抑制できる単結晶引上装置の輻射シールドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するためになされた、本発明に係る単結晶引上装置の輻射シールドは、ルツボ内のシリコン溶融液に対し水平方向に磁場を印加すると共に、種結晶を前記溶融液に接触させ、チョクラルスキー法によりシリコン単結晶を引き上げる単結晶引上装置において用いられる前記シリコン単結晶を包囲するように前記ルツボ上方に配置される輻射シールドであって、円筒状の直胴部と、前記直胴部の下端から内側に湾曲し、下端部開口を形成する下肩部とを有し、前記下端部開口の周縁部において、周方向の所定位置に、所定幅をもって径方向に突出すると共に、高さ方向に所定の厚さ寸法を有する熱遮蔽部材を備えることに特徴を有する。
尚、前記熱遮蔽部材の厚さ寸法t1は、前記ルツボ内に形成されたシリコン溶融液の初期深さをD0とし、前記ルツボの内面側の小R部以下の中心部深さをDcruとし、単結晶の直胴部径をΦ1とすると、下記の式(1)により規定されることが望ましい。
(数1)
t1=(0.1〜0.5)(D0/Dcru)・Φ1 ・・・(1)
【0008】
このような構成によれば、単結晶の保温改善により溶融液の所定領域における過冷却を抑制し、結晶の有転位化を防止することができる。更に、熱遮蔽部材が設置されない大部分の領域においては、従来通りに水冷体による効果を得ることができるため、結晶をより高速に引き上げ、且つ結晶欠陥を抑制することができる。
【0009】
また、前記熱遮蔽部材は、該熱遮蔽部材を設けない状態での結晶外周直下の溶融液温度解析に基づき、シリコン溶融液への水平の磁場印加方向に対するルツボ中心軸からの回転角度に従い、1つ又は複数配置されていることが望ましい。
このように熱遮蔽部材を設けない状態での結晶外周直下の溶融液温度解析を行うことにより、過冷却の領域を特定することができ、その領域に対応する位置に熱遮蔽部材を配置することにより、前記溶融液の過冷却を防止することができる。
【0010】
また、前記熱遮蔽部材は、前記下端部開口の周縁部において周方向に沿って移動自在に設けられていることが望ましく、前記熱遮蔽部材を前記下端部開口の周縁部において周方向に沿って移動させる熱遮蔽部材移動手段を備えることが好ましい。
このように構成することにより、単結晶の育成中において、溶融液の残量が低減するに従い変化する溶融液対流に伴う溶融液の低温位置の変化に応じて適宜、熱遮蔽部材の位置を調整し、より効果的に単結晶の保温改善により溶融液の過冷却を抑制し、結晶の有転位化を防止することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、チョクラルスキー法によってルツボからシリコン単結晶を引上げる単結晶引上装置において、単結晶の引上速度を向上して結晶欠陥の発生を抑制し、且つ、結晶の有転位化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、本発明に係る輻射シールドが配備された単結晶引上装置の一部構成を示す断面図である。
【図2】図2は、図1の単結晶引上装置が具備する輻射シールドの第1の実施の形態を示す一部拡大断面図である。
【図3】図3は、図2のA−A矢視断面図(輻射シールド全体を示す)である。
【図4】図4は、ルツボ内に形成されたシリコン溶融液の初期深さD0、及びルツボの内面側の小R部以下の中心部深さDcruを定義する断面図である。
【図5】図5は、ルツボから引き上げる単結晶の直胴部径Φ1を定義する断面図である。
【図6】図6は、熱遮蔽インナー部材を設けない輻射シールドを用い、横磁場印加の下、単結晶を直胴部長さ150mm引き上げた時点の結晶外周直下における溶融液温度をコンピュータ解析したグラフである。
【図7】図7は、熱遮蔽インナー部材を設けない輻射シールドの一部拡大断面図である。
【図8】図8は、図7のA−A矢視断面図(輻射シールド全体を示す)である。
【図9】図9は、本発明に係る輻射シールドの第2の実施の形態を示す一部拡大断面図である。
【図10】図10は、図9のA−A矢視断面図(輻射シールド全体を示す)である。
【図11】図11は、図9の輻射シールドが具備する各制御棒に連結される角回転装置を模式的に示す斜視図である。
【図12】図12は、図11の各回転装置の支持盤が有するギア盤の形状を示す平面図である。
【図13】図13(a)は、図11の各回転装置の支持盤が有する底部支持盤の平面図であり、図13(b)は上部支持盤の平面図である。
【図14】図14は、本発明に係る輻射シールドの第3の実施の形態を示す一部拡大断面図である。
【図15】図15は、図14のA−A矢視断面図(輻射シールド全体を示す)である。
【図16】図16は、図14の輻射シールドが具備する各制御棒に連結される角回転装置を模式的に示す斜視図である。
【図17】図17は、図16の回転装置の支持盤が有するギア盤の形状を示す平面図である。
【図18】図18(a)は、図16の回転装置の支持盤が有する底部支持盤の平面図であり、図18(b)は上部支持盤の平面図である。
【図19】図19は、本発明に係る実施例、及び比較例の結果を示すグラフである。
【図20】図20は、従来の単結晶引上装置及び輻射シールドの構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る単結晶引上装置の輻射シールドの実施形態について図面に基づき説明する。図1は本発明に係る輻射シールドが配置された単結晶引上装置の一部構成を示す断面図である。
【0014】
この単結晶引上装置1は、メインチャンバ(図示せず)内に設けられたルツボ2と、ルツボ2に装填された半導体原料(原料ポリシリコン)Mを溶融するヒータ3と、育成される単結晶Cをワイヤ4で引上げる引上げ機構5とを有している。尚、ルツボ2は、二重構造であり、内側が石英ガラスルツボ2a、外側が黒鉛ルツボ2bで構成されている。また、ワイヤ4の先端に種結晶Pが取り付けられている。
【0015】
また、ルツボ2の上方且つ近傍には、育成中の単結晶Cに対するヒータ3や溶融液M等からの余計な輻射熱を遮蔽するために輻射シールド6が設けられている。この輻射シールド6は、単結晶Cの周囲を包囲する円筒状の直胴部6bと、前記直胴部6bの下端から内側に湾曲し、下端部開口6aを形成する下肩部6cとを有している。
また、輻射シールド6は、所定の厚さに形成された外筒部材7が炉体(図示せず)に固定され、外筒部材7の内側に断熱部材8が設けられている。前記外筒部材7は、例えば高純度な黒鉛、或いは表面にSiCがコーティングされた黒鉛により形成されている。また、前記断熱部材8は、例えばカーボン繊維からなるフェルト材によって形成されている。
【0016】
更に、輻射シールド6は、その下端部開口6aの周縁部において、所定幅をもって径方向に突出すると共に、高さ方向に所定の厚さ寸法を有する熱遮蔽インナー部材10(熱遮蔽部材)を複数(本実施形態では4つ)具備している。これら熱遮蔽インナー部材10は、例えばカーボン繊維からなるフェルト材によって形成され、その内側に位置する単結晶Cの外周面を部分的に熱遮蔽するために設けられている。尚、輻射シールド6及び熱遮蔽インナー部材10の下端と溶融液面との間の距離寸法(ギャップ)は、育成する単結晶の所望の特性に応じて所定の距離を維持するよう制御される。
また、輻射シールド6の直胴部6bの内側には、円筒状の水冷体9が配備されている。この水冷体9には、冷却水供給手段(図示せず)によって冷却水が供給され、循環することによって所定温度が維持されるように構成されている。
【0017】
続いて輻射シールド6に具備される前記熱遮蔽インナー部材10について詳しく説明する。図2は、輻射シールドの第1の実施形態を示す一部拡大断面図である。また、図3は、図2のA−A矢視断面図(輻射シールド全体を示す)である。
熱遮蔽インナー部材10は、図2,図3に示すように前記輻射シールド6の下端部開口6aの周縁部において複数(本実施形態では4つ)設けられる。各熱遮蔽インナー部材10は、図3に示すように下端部開口6aの周方向に沿った円弧状に形成され、図2に示すように、輻射シールド6の下端部開口6aの内周面側縁部に設けられた支持インナー部材11に係止し取り付けられている。具体的には、図2に示すように前記支持インナー部材11は円環溝状(上面側に溝)に形成され、その溝部11aに熱遮蔽インナー部材10の上部に形成されたフック10aが係止している。
【0018】
ここで、図4,図5に示すように、ルツボ2内に形成されたシリコン溶融液の初期深さをD0とし、ルツボ2の内面側の小R部以下の中心部深さをDcruとし、単結晶Cの直胴部径をΦ1とすると、図2に示す熱遮蔽インナー部材10の厚さ(高さ)寸法t1は、式(1)により規定される。
(数1)
t1=(0.1〜0.5)(D0/Dcru)・Φ1 ・・・(1)
また、支持インナー部材11の厚さ(高さ)寸法t2は、式(2)により規定される。
(数2)
t2=(0.1〜0.8)・t1 ・・・(2)
【0019】
また、図2に示す輻射シールド6の中心軸から熱遮蔽インナー部材10の内側先端までの距離R1は、式(3)により規定される。
(数3)
R1=(0.5〜0.6)・Φ1・・・(3)
【0020】
また、図3に示すように下端部開口6aの半径をΦ2とすると、輻射シールド6の下端部開口6aの半径R2は、式(4)により規定される。
(数4)
R2≦0.5・Φ2・・・(4)
【0021】
さらに、図2に示す、熱遮蔽インナー部材10が前記支持インナー部材11に係止した状態における各寸法R3,R4,R5,R6,R7は、式(5)〜式(10)のように規定される。
(数5)
R3=(1〜2)・R1 ・・・(5)
R4≧R3 ・・・(6)
R5=(1.01〜1.1)・R4 ・・・(7)
R6≧R5 ・・・(8)
R7=(1.01〜1.2)・R6 ・・・(9)
R7≧0.5・Φ2・・・(10)
【0022】
また、図3に示す輻射シールド6の中心軸から支持インナー部材11の各部までの距離R8,R9,R10は、式(11)〜式(13)のように規定される。
(数6)
R8≧R7 ・・・(11)
R9=(1.01〜1.1)・R8 ・・・(12)
R10=(R8+R9)/2 ・・・(13)
【0023】
また、図3に示す各熱遮蔽インナー部材10の横磁場Bの印加方向に対する周方向の設置角度(回転角度)α1〜α4は、それぞれ式(14)のように規定され、熱遮蔽インナー部材10の周方向長さを定める角度β1〜β4は、式(15)のように規定される。
(数7)
α1〜4=0°〜360° ・・・(14)
β1〜4=1°〜80° ・・・(15)
【0024】
前記α1〜4、並びにβ1〜4の角度は、例えば、次のように決定される。図6は、図7、8に示すように熱遮蔽インナー部材10を設けない従来の輻射シールド(従来輻射シールド1〜3)を用い、横磁場印加の下、単結晶を直胴部長さ150mm引き上げた時点の結晶外周直下における溶融液温度をコンピュータ解析したグラフである。尚、従来輻射シールド1は、t4=20mm、t5=100mmであり、従来輻射シールド2は、t4=55mm、t5=60mmであり、従来輻射シールド3は、t4=85mm、t5=60mmである。また、図6のグラフの横軸は磁場印加方向に対する回転角度であり、縦軸は結晶外周直下における溶融液温度である。
【0025】
このグラフに示されるように、従来輻射シールド2,3を用いて多量のシリコン原料をチャージした場合、磁場印加方向に対して45°、135°、225°、315°の付近において結晶外周付近における溶融液面は低温となっている。
この解析結果に基づき、前記熱遮蔽インナー部材10は、α1=45°、α2=135°、α3=225°、α4=315°の位置に、β1〜4=15°となる幅で配置される。それにより、熱遮蔽インナー部材10の設置部位に対応する溶融液面の水冷体9による冷却効果が緩和され、その過冷却が防止される。
【0026】
以上のように本発明に係る輻射シールドの第1の実施形態によれば、単結晶Cの保温改善により溶融液Mの所定領域における過冷却を抑制し、結晶の有転位化を防止することができる。更に、熱遮蔽インナー部材10が設置されない大部分の領域においては、従来通りに水冷体9による効果を得ることができるため、結晶をより高速に引き上げ、且つ結晶欠陥を抑制することができる。
尚、前記第1の実施形態においては、熱遮蔽インナー部材10を支持インナー部材11により係止して配備するものとしたが、支持インナー部材11を設けず、熱遮蔽インナー部材10を輻射シールド6に対して(螺子留めなどにより)直接的に取り付けてもよい。
また、輻射シールド6を作製する段階において、この輻射シールド6に熱遮蔽インナー部材10を一体形成してもよい。
【0027】
続いて、本発明に係る輻射シールドの第2の実施形態について説明する。図9は、本発明に係る輻射シールドの第2の実施形態を示す一部拡大断面図であり、図10は、図9のA−A矢視断面図(輻射シールド全体)である。
この輻射シールドの第2の実施形態にあっては、前記した第1の実施形態とは、熱遮蔽インナー部材10を支持する支持インナー部材及びそれに係る構成が異なり、図において共通の構成については同じ符号で示し、その詳細な説明は省略する。
【0028】
図10に示すように、輻射シールド6の下端部開口6aの内周面側縁部には、4つの熱遮蔽インナー部材10にそれぞれ対応して、支持インナー部材12A〜12Dがそれぞれ設けられている。これら支持インナー部材12A〜12Dは、それぞれ前記下端部開口6aの内周面側縁部において周方向に沿って摺動自在に設けられている。
また、図示するように、各支持インナー部材12A〜12Dには、垂直上方に延びる所定長さの制御棒13A〜13D(熱遮蔽部材移動手段)が立設され、各支持インナー部材12A〜12Dは、それぞれ対応する制御棒13A〜13Dによって独立して周方向に移動させることが可能となっている。即ち、各制御棒13A〜13Dを独立に操作することにより、支持インナー部材12A〜12Dに係止する熱遮蔽インナー部材10を前記下端部開口6aにおいて周方向に移動させるように構成されている。
【0029】
各制御棒13A〜13Dは、具体的には図11に示すような角回転装置14(熱遮蔽部材移動手段)により操作される。図11は、各制御棒13A〜13Dに連結される角回転装置14を模式的に示す斜視図である。この角回転装置14は、各制御棒13A〜13Dにそれぞれ対応して設けられる(即ち本形態では4基)。各制御棒13A〜13Dの上端は、角回転装置14の支持盤15に接続される。角回転装置14の支持盤15は、略円弧状に形成された中空の支持盤容器16を有し、この支持盤容器16には、図12に示すように外周側にギア面が形成された円弧状のギア盤17が周方向に沿って摺動自在に配置されている。尚、ギア盤17の形状は、例えば図12に示すように(輻射シールド6の)中心軸からの距離寸法R11,R12、及び円弧長さを定める角度γ1〜4等により決定されている。
(数8)
R11=(0.90〜0.99)・R10 ・・・(16)
R12=(1.01〜1.2)・R10 ・・・(17)
γ1〜4=10°〜180° ・・・(18)
【0030】
前記支持盤容器16は、図13(a)に示す(ギア盤17を収容可能な深さを有する)底部支持盤18と、図13(b)に示す(蓋としての)上部支持盤19とを上下に重ね合わせることにより構成される。
前記支持盤容器16は、その周方向の左右両端が開口しており、内部でギア盤17が周方向に移動した際には、いずれかの端部開口から突出するようになっている。また、図13(a)に示すように、底部支持盤18の底面には、周方向に沿ったスリット18aが設けられ、このスリット18aに挿通された制御棒13A〜13Dの上端がギア盤17の下面中央に接続されている。即ち、ギア盤17が支持盤容器16内で周方向に移動すると、それに伴い制御棒13A〜13Dがスリット18aに沿って移動するようになっている。
【0031】
また、前記支持盤容器16において、その外周面側には径方向外側に突出した凸部16aが形成されている。図13(b)に示すように上部支持盤19における凸部16aの領域には、例えば円形の開口19aが形成されており、この開口19aから、断面歯車状のギア棒20の下端部が軸周りに回転自在に挿入され、その周面の歯車が前記ギア盤17と係合するように構成されている。即ち、前記ギア棒20が軸周りに回転することにより、支持盤容器16内でギア盤17が周方向に移動し、それに連結された制御棒13A〜13Dが連動して移動するようになっている。尚、前記凸部16aを含む支持盤容器16の形状は、図13(a)、図13(b)に示す(輻射シールドの)中心軸からの距離R13,R14,R15,R16,R17,R18、及び部材の厚さ寸法t3、凸部16a内部の幅寸法L1、円弧長さを設定する角度θ1〜4等により決定されている。
【0032】
ここで、制御棒13A〜13Dの直径をΦ3とし、ギア棒20の直径をΦ4とすると、各距離寸法は次のように規定される。
(数9)
R13=(0.90〜0.99)・R11 ・・・(19)
R14≦R10+0.5・Φ3・・・(20)
R15≧R10+0.5・Φ3・・・(21)
R16=(1.01〜1.2)・R12・・・(22)
R17≧(1.01〜1.2)(R12+Φ4) ・・・(23)
R18=R17+t3 ・・・(24)
【0033】
また、図11に示すように、立設されたギア棒20には、これを軸周りにいずれの方向にも回転可能な駆動手段である回転装置21と、メインチャンバ31に対してギア棒20を上下動させるための昇降装置22とが設けられている。尚、前記回転装置21及び昇降装置22は、角回転装置14ごとに独立して駆動制御される。
【0034】
このように構成された各回転装置14において、回転装置21によりギア棒20がその軸周りに(いずれかの方向に)回転されると、ギア棒20の回転方向に従い、支持盤15のギア盤17が周方向に沿って移動する。また、それにより、ギア盤17に接続された制御棒13A〜13Dがスリット18に沿って周方向に移動するため、制御棒13A〜13Dの下端にそれぞれ接続された支持インナー部材12A〜12D、及びそれに係止する熱遮蔽インナー部材10が、輻射シールド6の下端部開口6aの周方向に沿って移動する。
また、昇降装置22によりギア棒20が上下動されると、それに伴い支持盤15のギア盤17に接続された制御棒13A〜13Dも上下動し、支持インナー部材12A〜12D、及びそれに係止する熱遮蔽インナー部材10の高さ位置が変更される。
【0035】
以上のように本発明に係る輻射シールドの第2の実施形態によれば、各熱遮蔽インナー部材10を、輻射シールド6の下端部開口6aの周方向に沿って、或いは上下方向に独立して移動させることができる。即ち、単結晶Cの育成中において、溶融液の残量が低減するに従い変化する溶融液対流に伴う溶融液の低温位置の変化に応じて適宜、熱遮蔽インナー部材10の位置をそれぞれ調整し、より効果的に単結晶Cの保温改善により溶融液の過冷却を抑制し、結晶の有転位化を防止することができる。
【0036】
続いて、本発明に係る輻射シールドの第3の実施形態について説明する。図14は、本発明に係る輻射シールドの第3の実施形態を示す一部拡大断面図であり、図15は、図14のA−A矢視断面図(輻射シールド全体)である。
この輻射シールドの第3の実施形態にあっては、前記した第2の実施形態とは、熱遮蔽インナー部材10を支持する支持インナー部材及びそれに係る構成が異なり、図において共通の構成については同じ符号で示し、その詳細な説明は省略する。
【0037】
図15に示すように、輻射シールド6の下端部開口6aにおいて、内周面側縁部に設けられる支持インナー部材23は、円環状に形成されている。この円環状の支持インナー部材23には、その中心部を介して対向するように、垂直上方に延びる制御棒24A、24B(熱遮蔽部材移動手段)が立設されている。
制御棒24A、24Bは、図16に示す1基の角回転装置25(熱遮蔽部材移動手段)に連結される。この角回転装置25は、前記第2の実施形態における角回転装置14とは、支持盤の構成のみが異なる。図16に示す支持盤26は、円環状に形成された中空の支持盤容器27を有し、この支持盤容器27には、図17に示すように外周側にギア面が形成された円環状のギア盤28が周方向に沿って摺動自在に配置されている。
【0038】
前記支持盤容器27は、図18(a)に示す(ギア盤28を収容可能な深さを有する)底部支持盤29と、図18(b)に示す(蓋としての)上部支持盤30とを上下に重ね合わせることにより構成される。
図18(a)に示すように、底部支持盤29の底面には、周方向に沿ったスリット29aとスリット29bとが設けられ、スリット29aに挿通された制御棒24Aの上端と、スリット29bに挿通された制御棒24Bの上端とがギア盤28の下面に接続されている。即ち、ギア盤28が支持盤容器27内で周方向に移動すると、それに伴い制御棒24A,24Bがスリット29a,29bに沿って移動するようになっている。
【0039】
また、前記支持盤容器27において、その外周面側には径方向外側に突出した凸部27aが形成されている。図18(b)に示すように上部支持盤30における凸部27aの領域には、例えば円形の開口30aが形成されており、この開口30aから、断面歯車状のギア棒20の下端部が軸周りに回転自在に挿入され、その周面の歯車が前記ギア盤28と係合するように構成されている。即ち、前記ギア棒20が軸周りに回転することにより、支持盤容器27内でギア盤28が周方向に移動し、それに連結された制御棒24A,24Bが連動して移動するようになっている。
【0040】
以上のように本発明に係る輻射シールドの第3の実施形態によれば、各熱遮蔽インナー部材10を、輻射シールド6の下端部開口6aの周方向に沿って、或いは上下方向に同期して移動させることができる。
即ち、単結晶Cの育成中において、溶融液の残量が低減するに従い変化する溶融液対流に伴う溶融液の低温位置の変化に応じて、即座に全ての熱遮蔽インナー部材10の位置を調整し、より効果的に単結晶Cの保温改善により溶融液の過冷却を抑制し、結晶の有転位化を防止することができる。
【0041】
尚、前記第1〜第3の実施の形態においては、輻射シールド6に4つの熱遮蔽インナー部材10を配備する構成としたが、熱遮蔽インナー部材10の数は限定されるものではない。
また、その熱遮蔽インナー部材10の形状は、図示したような円弧状に限らず、輻射シールド6の形状に応じ、より適した形状に形成してもよい。
【実施例】
【0042】
本発明に係る単結晶引上装置の輻射シールドについて、実施例に基づきさらに説明する。本実施例では、前記第1の実施の形態に示した輻射シールドを用いて単結晶引き上げを行い、引き上げた結晶について検証した。
【0043】
実施例の具体的な条件としては、32インチルツボへの原料シリコンのチャージ量を500kg、育成する単結晶の直径を310mm、結晶直胴部長さを2300mm、水平方向の磁場強度(磁束密度)を3000ガウス、磁場位置を−59mm、ルツボ下端と溶融液面とのギャップを20mmとした。
また、図1乃至図3に示した構成において、輻射シールドは、t4=55mm、t5=60mm、Φ2=360cmとし、水冷体の底部と溶融液面との距離を93mmとした。
また、熱遮蔽インナー部材は、t1=105mm、t2=10mm、R1=165mm、R2=179.5mm、R3=181mm、R4=181.5mm、R5=185.5mm、R6=186mm、R7=196mm、R8=196.5mm、R9=200.5mm、α1=45°、α2=135°、α3=225°、α4=315°、β1〜β4=15°とした。
【0044】
(比較例1)
比較例1では、図7、図8に示した(熱遮蔽インナー部材を備えない)構成において、t4=55mm、t5=60mm、Φ2=360cmとし、水冷体の底部と溶融液面との距離を93mmとした。比較例1においても実施例と同様に、引き上げた結晶について検証した。
(比較例2)
比較例2では、図7、図8に示した(熱遮蔽インナー部材を備えない)構成において、t4=85mm、t5=60mm、Φ2=360cmとし、水冷体の底部と溶融液面との距離を123mmとした。比較例2においても実施例と同様に、引き上げた結晶について検証した。
【0045】
表1に実施例、並びに比較例1、2の結果として、無転位化達成率、結晶グローイン欠陥の相対密度、及び最大引上速度の比率を示す。尚、無転位化達成率とは育成した結晶のうち、無転位で引き上げた単結晶の本数の割合である。結晶グローイン欠陥の相対密度とは、比較例1の条件における直径300mmのウエハ面内の80nm以上のグローイン欠陥数との比率である。また、最大引上速度の比率とは、結晶変形、及び割れが発生しない前提の下、比較例1での最大引上速度に対する比率である。
【表1】
【0046】
表1に示すように、実施例では、比較例1,2と比較して大幅に高い無転位化達成率となった。また、実施例では、従来の比較例2に対して引上速度が上昇し、且つ、比較例1,2と比較して、結晶グローイン欠陥の相対密度が低い結果が得られた。
図19に、3次元溶融液対流解析により得られた結晶外周直下における溶融液の温度分布をグラフで示す。図19に示すように、比較例1,2の横磁場印加方向に対する周方向の角度が低くなる位置において、実施例では低温化が抑制された。即ち、熱遮蔽インナー部材の追加により、従来、過冷却誘発される結晶の有転位化が抑制されたものと考えられる。
以上の実施例の結果より、本発明に係る輻射シールドによれば、単結晶の引上速度を向上して結晶欠陥の発生を抑制し、且つ、結晶の有転位化を抑制できることを確認した。
【符号の説明】
【0047】
1 単結晶引上装置
2 ルツボ
3 ヒータ
4 ワイヤ
5 引上機構
6 輻射シールド
6a 下端部開口
6b 直胴部
6c 下肩部
7 外筒部材
8 断熱部材
9 水冷体
10 熱遮蔽インナー部材(熱遮蔽部材)
13A〜13D 制御棒(熱遮蔽部材移動手段)
14 角回転装置(熱遮蔽部材移動手段)
24A、24B 制御棒(熱遮蔽部材移動手段)
25 角回転装置(熱遮蔽部材移動手段)
31 メインチャンバ
C 単結晶
M シリコン溶融液
P 種結晶
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ルツボ内のシリコン溶融液に対し水平方向に磁場を印加すると共に、種結晶を前記溶融液に接触させ、チョクラルスキー法によりシリコン単結晶を引き上げる単結晶引上装置において用いられる前記シリコン単結晶を包囲するように前記ルツボ上方に配置される輻射シールドであって、
円筒状の直胴部と、前記直胴部の下端から内側に湾曲し、下端部開口を形成する下肩部とを有し、
前記下端部開口の周縁部において、周方向の所定位置に、所定幅をもって径方向に突出すると共に、高さ方向に所定の厚さ寸法を有する熱遮蔽部材を備えることを特徴とする輻射シールド。
【請求項2】
前記熱遮蔽部材の厚さ寸法t1は、前記ルツボ内に形成されたシリコン溶融液の初期深さをD0とし、前記ルツボの内面側の小R部以下の中心部深さをDcruとし、単結晶の直胴部径をΦ1とすると、下記の式(1)により規定されることを特徴とする請求項1に記載された輻射シールド。
(数1)
t1=(0.1〜0.5)(D0/Dcru)・Φ1 ・・・(1)
【請求項3】
前記熱遮蔽部材は、該熱遮蔽部材を設けない状態での結晶外周直下の溶融液温度解析に基づき、シリコン溶融液への水平の磁場印加方向に対するルツボ中心軸からの回転角度に従い、1つ又は複数配置されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載された輻射シールド。
【請求項4】
前記熱遮蔽部材は、前記下端部開口の周縁部において周方向に沿って移動自在に設けられていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載された輻射シールド。
【請求項5】
前記熱遮蔽部材を前記下端部開口の周縁部において周方向に沿って移動させる熱遮蔽部材移動手段を備えることを特徴とする請求項4に記載された輻射シールド。
【請求項1】
ルツボ内のシリコン溶融液に対し水平方向に磁場を印加すると共に、種結晶を前記溶融液に接触させ、チョクラルスキー法によりシリコン単結晶を引き上げる単結晶引上装置において用いられる前記シリコン単結晶を包囲するように前記ルツボ上方に配置される輻射シールドであって、
円筒状の直胴部と、前記直胴部の下端から内側に湾曲し、下端部開口を形成する下肩部とを有し、
前記下端部開口の周縁部において、周方向の所定位置に、所定幅をもって径方向に突出すると共に、高さ方向に所定の厚さ寸法を有する熱遮蔽部材を備えることを特徴とする輻射シールド。
【請求項2】
前記熱遮蔽部材の厚さ寸法t1は、前記ルツボ内に形成されたシリコン溶融液の初期深さをD0とし、前記ルツボの内面側の小R部以下の中心部深さをDcruとし、単結晶の直胴部径をΦ1とすると、下記の式(1)により規定されることを特徴とする請求項1に記載された輻射シールド。
(数1)
t1=(0.1〜0.5)(D0/Dcru)・Φ1 ・・・(1)
【請求項3】
前記熱遮蔽部材は、該熱遮蔽部材を設けない状態での結晶外周直下の溶融液温度解析に基づき、シリコン溶融液への水平の磁場印加方向に対するルツボ中心軸からの回転角度に従い、1つ又は複数配置されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載された輻射シールド。
【請求項4】
前記熱遮蔽部材は、前記下端部開口の周縁部において周方向に沿って移動自在に設けられていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載された輻射シールド。
【請求項5】
前記熱遮蔽部材を前記下端部開口の周縁部において周方向に沿って移動させる熱遮蔽部材移動手段を備えることを特徴とする請求項4に記載された輻射シールド。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公開番号】特開2013−75785(P2013−75785A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−216223(P2011−216223)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(312007423)グローバルウェーハズ・ジャパン株式会社 (8)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(312007423)グローバルウェーハズ・ジャパン株式会社 (8)
【Fターム(参考)】
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