説明

単結晶表面用の研磨剤及び研磨方法

【課題】 ゲルマニウム単結晶又はシリコン・ゲルマニウム混晶単結晶を含む研磨対象物を研磨する用途においてより好適に使用可能な研磨剤、及びそうした研磨剤を用いた研磨方法を提供する。
【解決手段】 本発明の研磨剤は、次亜塩素酸ナトリウム、コロイダルシリカ及び水を含有する。研磨剤中の有効塩素濃度は0.5〜2.5%であり、研磨剤中のコロイダルシリカの含有量は1〜13重量%である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゲルマニウム単結晶又はシリコン・ゲルマニウム混晶(以下、Si−Geと表記する。)単結晶を研磨する用途で用いられる研磨剤、及びそうした研磨剤を用いた研磨方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゲルマニウムは、バンドギャップが狭く、高温で使用できないという問題はあるが、シリコンに比べてキャリア(電子)の易動度が2〜3倍大であるので、高速半導体素子の材料として注目されている(例えば非特許文献1参照)。また、Si−Geも電子の易動度が大であるので高速半導体素子、高周波素子等の材料として同様に注目されている。
【0003】
ゲルマニウム又はSi−Ge半導体素子の製造の際、ゲルマニウム単結晶基板の表面、又はシリコン単結晶基板の上にエピタキシャル成長で形成されるゲルマニウムもしくはSi−Geの単結晶薄膜の表面は鏡面に研磨される。この研磨は、ラッピング時にゲルマニウム単結晶基板に生じる傷や、シリコン単結晶基板とSi−Ge単結晶薄膜の間の格子不整合により表面に生じるハッチを除去するために行なわれる。
【0004】
従来、ゲルマニウム単結晶やSi−Ge単結晶の研磨の際には、特許文献1に開示されるように、エッチング剤である次亜塩素酸ナトリウム溶液が研磨布又は研磨パッドと共に使用される。しかしながら、この方法によれば、研磨後の表面にオレンジピールや面荒れが生じて鏡面が得られにくい。
【非特許文献1】ケー・イスマイル他(K. Ismail et al.),変調ドープSi/SiGeヘテロ構造における易動度制限拡散メカニズムの同定(Identification of a Mobility-Limiting Scattering Mechanism in Modulation-Doped Si/SiGe Heterostructures),「フィジカルレビューレター(Physical Review letters)」,アメリカ,1994年,第73巻,p.3447−3450
【特許文献1】米国特許第3,342,652号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、ゲルマニウム単結晶又はSi−Ge単結晶を含む研磨対象物を研磨する用途においてより好適に使用可能な研磨剤、及びそうした研磨剤を用いた研磨方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、次亜塩素酸ナトリウム及びコロイダルシリカを含有し、有効塩素濃度が0.5〜2.5%であり、コロイダルシリカの含有量が1〜13重量%であり、ゲルマニウム単結晶又はシリコン・ゲルマニウム混晶単結晶を研磨する用途で用いられる研磨剤を提供する。
【0007】
請求項2に記載の発明は、コロイダルシリカの含有量が3〜7重量%である請求項1に記載の研磨剤を提供する。
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の研磨剤を調製する工程と、その調製した研磨剤を用いて、ゲルマニウム単結晶又はシリコン・ゲルマニウム混晶単結晶を含む研磨対象物を研磨する工程とを備える研磨方法を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ゲルマニウム単結晶又はSi−Ge単結晶を含む研磨対象物を研磨する用途においてより好適に使用可能な研磨剤、及びそうした研磨剤を用いた研磨方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の一実施形態を説明する。
本実施形態の研磨剤は、ゲルマニウム単結晶基板を研磨する用途、あるいはシリコン単結晶基板の上に設けられたゲルマニウム又はSi−Geの単結晶薄膜を研磨する用途で用いられる。この研磨剤は、所定量の次亜塩素酸ナトリウムとコロイダルシリカを水に混合することにより製造され、次亜塩素酸ナトリウム、コロイダルシリカ及び水を含有する。
【0010】
次亜塩素酸ナトリウムは、ゲルマニウム単結晶又はSi−Ge単結晶を化学的にエッチングして研磨能率を向上させる働きを有する。次亜塩素酸ナトリウムの他には、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、エチレンジアミン等の塩基性物質や、過酸化水素、過ヨウ素酸塩、オルト過ヨウ素酸、過マンガン酸等の次亜塩素酸ナトリウム以外の酸化剤もゲルマニウム単結晶又はSi−Ge単結晶を化学的にエッチングする作用を有する。しかしながら、塩基性物質のエッチング作用は次亜塩素酸ナトリウムに比べて弱く、塩基性物質では高い研磨能率は得られない。また、次亜塩素酸ナトリウム以外の酸化剤の中にも過酸化水素のようにエッチング作用が弱いものが含まれる。次亜塩素酸ナトリウム以外の酸化剤の中には過ヨウ素酸塩、オルト過ヨウ素酸のように次亜塩素酸ナトリウムと同等のエッチング作用を有するものもあるが、それらを次亜塩素酸ナトリウムの代わりに用いた場合には研磨後の研磨対象物の表面に凹凸が残りやすい。しかも、過酸化水素、オルト過ヨウ素酸、過マンガン酸塩は研磨パッドを腐食しやすい。それに対し、次亜塩素酸ナトリウムは、高いエッチング作用を有しながらも研磨後の研磨対象物の表面に凹凸が残りにくく、研磨パッドもあまり腐食しない。
【0011】
コロイダルシリカは、ゲルマニウム単結晶又はSi−Ge単結晶を機械的に研磨して研磨能率を向上させる働きを有する。コロイダルシリカの他にはジルコニアもゲルマニウム単結晶又はSi−Ge単結晶を機械的に研磨する作用を有する。しかしながら、ジルコニアをコロイダルシリカの代わりに用いた場合には、研磨後の研磨対象物の表面品質が低下する。それに対し、コロイダルシリカはジルコニアと同等の研磨作用を有するうえに、コロイダルシリカによれば研磨後の研磨対象物の表面品質も向上する。
【0012】
研磨剤に含まれるコロイダルシリカは、できるだけ不純物を含有しないことが好ましい。特に、ナトリウム、アルミニウム、チタン、鉄、ニッケル及び銅並びにそれらの水酸化物及び酸化物といった不純物が研磨剤中に含まれると、その不純物が研磨対象物に付着し、その後の熱処理で単結晶中に拡散して単結晶の電気特性に悪影響を与える虞がある。従って、研磨剤に含まれるコロイダルシリカは、高純度コロイダルシリカであることが好ましい。より具体的には、研磨剤に使用されるコロイダルシリカを用いてコロイダルシリカの含有量が20質量%になるようにコロイダルシリカの水分散液を調製した場合、その水分散液中のナトリウム、アルミニウム、チタン、鉄、ニッケル及び銅の含有量の合計(不純物金属元素量)は、100ppm以下が好ましく、1ppm以下がより好ましく、0.3ppm以下が最も好ましい。通常のコロイダルシリカがケイ酸ナトリウムの加水分解により合成されるのに対し、高純度コロイダルシリカは、アルコキシシランを原料に加水分解等により合成される。
【0013】
研磨剤中の有効塩素濃度は0.5〜2.5%である。有効塩素濃度が0.5%未満の場合には高い研磨能率が得られず、2.5%を超えるとオレンジピール等のせいで研磨後の研磨対象物の表面品質が低下する。有効塩素濃度は、例えば酸化還元滴定法で測定される。
【0014】
研磨剤中のコロイダルシリカの含有量は1〜13重量%である。コロイダルシリカの含有量が1重量%未満の場合には高い研磨能率が得られず、13重量%を超えて含有させても研磨能率があまり向上しなくなるので実用的でない。研磨剤中のコロイダルシリカの含有量を3〜7重量%に設定した場合には、オレンジピール等の発生がさらに抑制される。従って、研磨剤中のコロイダルシリカの含有量は、好ましくは3〜7重量%である。
【0015】
前記実施形態を次のように変更してもよい。
前記実施形態の研磨剤は、ゲルマニウム単結晶又はSi−Ge単結晶を用いたFETを含むLSI等の製造の際のCMPプロセスにおいて用いられてもよい。
【0016】
前記実施形態の研磨剤には、必要に応じてpH調整剤として、硫酸、塩酸、リン酸、硝酸、酢酸、クエン酸等の酸類、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化アンモニウム等の塩基類を添加してもよい。
【0017】
前記実施形態の研磨剤には、ヒドロキシメチルセルロース、クロロメチルセルロース、ポリアクリレート、ポリビニルアセテート等の水溶性高分子化合物、ノニルフェニルエーテル、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコールもしくはポリプロピレングリコールのモノもしくはジアルキルエーテル等のノニオン性界面活性剤、又はアルキルベンゼンスルフォン酸ナトリウム等のアニオン性界面活性剤等を粘度調整、摩擦調整等の目的で添加してもよい。
【0018】
本発明の実施例及び比較例を以下に説明する。
(テスト1)
脱イオン水に対し次亜塩素酸ナトリウム及び高純度コロイダルシリカ(不純物金属元素量0.04ppm、平均一次粒子径0.035μm、平均二次粒子径0.07μm)のそれぞれを必要に応じて混合して研磨剤を調製した。各研磨剤中の有効塩素濃度及びコロイダルシリカの含有量は表1に示すとおりである。なお、コロイダルシリカの平均一次粒子径はFlow Sorb II 2300(Micromeritics社製)で測定される比表面積から算出し、コロイダルシリカの平均二次粒子径はELS-8000(大塚電子工業株式会社製)で測定される粒子径分布より求めた。
【0019】
得られた各研磨剤を用いて、表2に示す研磨条件でゲルマニウム単結晶基板を研磨したところ、表1に示す研磨能率が得られた。表1に示すように、コロイダルシリカを1重量%以上含有する研磨剤を用いて研磨した場合には、コロイダルシリカを含まない研磨剤を用いた場合に比較して研磨能率が大であった。また、コロイダルシリカの含有量が3重量%未満又は7重量%を上回る場合には、目視で観察可能なオレンジピールの発生がややあったが、3〜7重量%の場合には、目視で観察可能なオレンジピールの発生がなく良好な面が得られた。
【0020】
【表1】

【0021】
【表2】

表2に示す研磨条件での研磨に使用した研磨装置の模式図を図1に示す。図1に示すように、研磨装置は、回転定盤11、ウェーファーホルダー12及び研磨剤供給装置13を備える。回転定盤11の上面には研磨パッド14が貼付されている。ウェーファーホルダー12の下面にはセラミックプレート15が保持されている。
【0022】
この研磨装置を用いて研磨対象物16を研磨する際にはまず、固形ワックスを用いてセラミックプレート15の下面に研磨対象物16を固定する。その後、研磨剤供給装置13から所定の供給速度(研磨剤供給量)で研磨パッド14へ研磨剤の供給を開始する。それと同時に、研磨対象物16が研磨パッド14に所定の圧力(研磨圧力)で接触するようにウェーファーホルダー12を回転定盤11に押し付けながら、回転定盤11を図1に示す矢印Aの方向に所定の回転速度(定盤回転数)で回転させる。回転定盤11の回転に伴ってセラミックプレート15が図1に示す矢印Bの方向に回転するため、研磨対象物16は自身も回転しながら、回転する研磨パッド14により研磨される。
【0023】
(テスト2)
有効塩素濃度及びコロイダルシリカの含有量が表3に示すように異なる研磨剤を調製した。得られた各研磨剤を用いて、表2に示す研磨条件でゲルマニウム単結晶基板を研磨したときに測定される研磨能率を表3に示す。この結果からは、有効塩素濃度及びコロイダルシリカの含有量の増加に伴って研磨能率が増加することが分かる。また、研磨能率が有効塩素濃度にほぼ比例して増加することも分かる。一方、有効塩素濃度が0.0%の場合には研磨能率は1.0μm/hr未満であった。
【0024】
【表3】

(テスト3)
脱イオン水に対し次亜塩素酸ナトリウム及びコロイダルシリカ(不純物金属元素量0.3ppm未満、一次粒子径0.035μm、二次粒子径0.07μm)のそれぞれを必要に応じて混合して研磨剤を調製した。各研磨剤中の有効塩素濃度及びコロイダルシリカの含有量は表4に示すとおりである。得られた各研磨剤を用いて、表2に示す研磨条件でゲルマニウム単結晶基板を研磨したときに測定される研磨能率を表4に示す。表4に示すように、有効塩素濃度が0.5%以上の場合には、有効塩素濃度が0.5%未満の場合に比べて研磨能率が大であった。また、有効塩素濃度が2.5%を超えると、目視で観察可能なオレンジピールの発生とともに微分干渉顕微鏡で観察可能な面荒れの発生があった。それに対し、有効塩素濃度が2.5%以下の場合には、目視で観察可能なオレンジピールの発生及び微分干渉顕微鏡で観察可能な面荒れの発生はなかった。
【0025】
【表4】

(テスト4)
研磨用微粒子としてコロイダルシリカ、ジルコニア、フュームドシリカ及びアルミナ(γ−アルミナ)のうちのいずれかを2重量%含有するとともに、有効塩素濃度が1.5%を示すように次亜塩素酸ナトリウムを含有する研磨剤を調製した。得られた各研磨剤を用いて表2に示す研磨条件でゲルマニウム単結晶基板を研磨した。そのときに測定される研磨能率及び表6に示す測定条件で測定される研磨後の基板の表面粗さRaを表5に示す。表5に示すように、研磨用微粒子としてコロイダルシリカを用いた研磨剤では、研磨能率がやや低い値を示すものの、表面粗さRaが際立って低い値を示した。一方、ジルコニアを研磨用微粒子として用いた場合には、研磨能率が最も高い値を示すものの、表面粗さRaの値も大きかった。研磨用微粒子としてフュームドシリカ又はアルミナを用いた場合も同様に表面粗さRaの値が大きかった。以上の結果から、ジルコニア、フュームドシリカ及びアルミナに比べてコロイダルシリカが好ましいことが分かる。
【0026】
なお、ここで使用したコロイダルシリカは平均一次粒子径が0.035μmで平均二次粒子径が0.07μmである。また、フュームドシリカは平均一次粒子径が0.03μmで平均二次粒子径が0.1μmであり、ジルコニアは平均一次粒子径が0.05μmで平均二次粒子径が0.2μmであり、アルミナは平均一次粒子径が0.05μmで平均二次粒子径が0.2μmである。コロイダルシリカ、フュームドシリカ、ジルコニア、アルミナの平均一次粒子径はいずれも、Flow Sorb II 2300(Micromeritics社製)で測定される比表面積から算出した。コロイダルシリカ及びフュームドシリカの平均二次粒子径は、ELS-8000(大塚電子工業株式会社製)で測定される粒子径分布より求めた。ジルコニア及びアルミナの平均二次粒子径は、Microtrac(R) 9200 FRA(Microtrac社製)で測定した。
【0027】
【表5】

【0028】
【表6】

(テスト5)
コロイダルシリカを2重量%含有するとともに、酸化剤として次亜塩素酸ナトリウム、過酸化水素及びオルト過ヨウ素酸のうちのいずれかを含有する研磨剤を調製した。得られた各研磨剤を用いて表2に示す研磨条件でゲルマニウム単結晶基板を研磨したときに測定される研磨能率を表7に示す。表7に示すように、酸化剤として過酸化水素を用いた場合には研磨能率が低かった。オルト過ヨウ素酸を用いた場合には、次亜塩素酸ナトリウムを用いた場合に比べて研磨能率が大であったが、研磨後の基板を微分干渉顕微鏡で観察した場合に表面荒れが観察された。また、オルト過ヨウ素酸を研磨剤に高濃度(例えば20%以上)で含有させた場合には、研磨パッドの腐食が起こることも別のテストからは分かった。
【0029】
【表7】

前記実施形態より把握できる技術的思想について以下に記載する。
【0030】
・ 研磨剤に含有されるコロイダルシリカを用いてコロイダルシリカの含有量が20質量%になるようにコロイダルシリカの水分散液を調製したとき、その水分散液中のナトリウム、アルミニウム、チタン、鉄、ニッケル及び銅の含有量の合計が100ppm以下である請求項1又は2に記載の研磨剤。
【0031】
・ 請求項1又は2に記載の研磨剤を用いてゲルマニウム単結晶又はシリコン・ゲルマニウム混晶単結晶を含む研磨対象物を研磨する工程を経て得られる製品。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の実施例及び比較例において使用した研磨装置の模式図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次亜塩素酸ナトリウム、コロイダルシリカ及び水を含有し、有効塩素濃度が0.5〜2.5%であり、コロイダルシリカの含有量が1〜13重量%であり、ゲルマニウム単結晶又はシリコン・ゲルマニウム混晶単結晶を含む研磨対象物を研磨する用途で用いられる研磨剤。
【請求項2】
コロイダルシリカの含有量が3〜7重量%である請求項1に記載の研磨剤。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の研磨剤を調製する工程と、
その調製した研磨剤を用いて、ゲルマニウム単結晶又はシリコン・ゲルマニウム混晶単結晶を含む研磨対象物を研磨する工程と
を備える研磨方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−278981(P2006−278981A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−99949(P2005−99949)
【出願日】平成17年3月30日(2005.3.30)
【出願人】(000236702)株式会社フジミインコーポレーテッド (126)
【Fターム(参考)】