説明

単結晶製造方法および大型単結晶

【課題】合成対象とする結晶材料或いは当該材料原料の融点以下の温度で、従来では得られない大きさの単結晶を得る。
【解決手段】所定の温度勾配を形成でき、所定期間、所望の温度にて保持できる加熱装置1と、この加熱装置1の加熱源によって加熱される筒状容器2とを用い、多結晶材料或いは当該材料原料の出発原料3(TlFe2Se2)を円筒状のペレットに成形して筒状容器2の載置部21に載置し、重力場などの原子がマクロに移動可能な駆動力場下で、その出発原料3の融点以下の温度である700℃にて塑性変形を生じさせるとともに、この塑性変形が終了する十分な時間である700℃で保持することで大型の単結晶を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単結晶製造方法と、この製造方法を用いることで得られる大型単結晶に関し、特に、出発原料となる材料或いは混合物を適宜の条件にて加熱処理し、出発原料に塑性変形を生じさせ、塑性変形が終了するまで加熱処理の温度条件を保持することで大型の単結晶を製造することが可能となる単結晶製造方法および大型単結晶に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、化合物の大きな単結晶を人工的に製造することは、機能材料や電子デバイスの製造等の実用的、工業的な観点、あるいは固体物理学をはじめとする学術的な観点からも重要とされている。したがって、単結晶の製造技術に関し、下記特許文献1,2,3に提案されている方法のほか、溶融引上げ法、ゾーンメルティング法、フラックス法、縦型ブリッジマン法が代表的な単結晶成長法として知られる等、様々な角度から数多くの製造方法が検討されている。また、製造される単結晶の大きさは実用的、工業的な観点から、大型であるほど望ましいとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−99599号公報
【特許文献2】特開平7−165484号公報
【特許文献3】特開平6−72789号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Jiangang Guo, Shifeng Jin et al.:Superconductivity in the iron selenide KxFe2Se2 (0<x<1.0).Phys. Rev. B 82 180520 (2010)
【0005】
特許文献1では、機能材料およびその製造方法ならびに高重力場発生装置用ロータに係る発明が提案されている。この発明は概説すれば、固相材料、液相材料に対して高重力場を施すことで、2種類の材料を接触させ、一方の材料内に原子空孔を発生させ、この原子空孔内にもう一方の材料からの元素を拡散させ、さらに再結晶化して機能材料を得ようとするものである。人工的に発生させた遠心力(重力)によって元素の拡散を起こすことで、機能材料を得る方法であり、1種類の材料に注目した単結晶成長を行うことはできず、本発明の目的とは異なる。
【0006】
特許文献2では、多結晶質セラミックス物体から単結晶物体への固相熱転化法に係る発明が提案されている。この発明は概説すれば、適宜の固相法を応用し、高密度の多結晶セラミックス物体をそのセラミック材料の融点の1/2より高くかつ、その材料の融点より低い温度に加熱することで、結晶粒の大きさを時間と共に大きくして単結晶物体にバルク転化しようとするものである。
【0007】
特許文献3では、化合物単結晶の製造方法、化合物単結晶およびそれを用いた光レーザー発信器とシンチレータに係る発明が提案されている。この発明は概説すれば、融点近傍の温度で一部の成分が分解しやすい化合物を対象に、高温・高圧下処理することで良質な単結晶を製造しようとするものである。
【0008】
非特許文献1では、組成において鉄、セレンを含み、122構造をもつという点において本発明と一見、類似する化合物単結晶が提案されているが、提案された単結晶は、図4に示すように多数の凹凸を有している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したように、従来から数多くの化合物単結晶の製造方法が提案されているものの、その製造方法から得られる単結晶は、化合物の種類によっては大型のものが製造困難であり、或いは綺麗な結晶面を形成することが困難であり、要請される大きさや質の単結晶が得られないというケースがある。したがって、さらに多くの化合物単結晶の製造方法が提案されれば、実用的な要求、学術的な要求を満足する化合物単結晶を得られることが期待される。
【0010】
本発明者らは今回、化合物単結晶の新たな製造方法を検討するなかで、その化合物を適宜の条件にて加熱処理し、化合物に塑性変形を生じさせるとともに、塑性変形が終了するまで加熱処理の温度条件を保持することで、従来では得られない大きさの単結晶を製造することができることを見出した。
【0011】
本発明は、上記実情に鑑みて提案されたもので、化合物を適宜の条件にて加熱処理し、塑性変形を生じさせ、さらに、塑性変形が終了するまで加熱処理の温度条件を保持することで単結晶を得る単結晶製造方法と、この製造方法を用いることにより得られる大型単結晶を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明に係る単結晶製造方法は、多結晶材料又はこの多結晶材料原料の混合物を、その材料又は混合物が十分に塑性変形を可能となる容積と形状を持つ容器内に載置し、相対的に温度の高い領域と低い領域とが前記容器に形成されるようにした加熱条件により、この容器内にて前記材料又は混合物を、その融点以下の温度で加熱し、前記材料又は混合物に塑性変形を生じさせるとともに、前記塑性変形が終了するまで前記加熱処理温度を保持することで、前記材料又は混合物の大型で良質の単結晶を製造することを特徴とする。
【0013】
特に、上記単結晶製造方法において、前記材料又は混合物がペレット状に成形され、その質量を0.5g以上1.0g以下、前記加熱処理温度の保持期間を10日以上とすることが好ましい。
【0014】
また、本発明に係る大型単結晶は、上記単結晶製造方法を用いることで得られ、少なくとも1mm3の大きさを有することを特徴とする。そして、上記単結晶製造方法を用いることで得られる大型単結晶は、混合物を鉄を含むセレン化物としたものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明では、まず、出発原料である多結晶材料又はこの多結晶材料原料の混合物を、この出発原料が塑性変形するのに十分な空間のある容器内に載置することが重要である。容器内に塑性変形するのに十分な空間がなければ、出発原料の一部のみで塑性変形が生じ、その一部のみが単結晶化するために、大型の単結晶を得ることが困難になるからである。また、出発原料を融点以下の温度で加熱処理することが重要である。融点を超えて加熱処理すれば出発原料が液体となり、もはや塑性変形は生じず、本発明による大型単結晶は得られない。出発原料液体を冷却し、固化しても単結晶を得ることができないからである。塑性変形とはあくまで固体の状態で起きる粘弾性と呼ばれる性質であるから、本発明では固体の状態を担保しなければならない。さらに、出発原料の塑性変形が終了するまで、加熱処理する温度を保持することが重要である。出発原料全体の塑性変形が終了する前に加熱処理を止めれば、出発原料の一部のみの塑性変形に留まるため、その一部のみが単結晶化して、全体が単結晶化された大型単結晶を得ることが困難になるからである。本発明では、これらの条件を満たすことにより、大型の混合物の単結晶を製造する新たな方法として提供することができる。
【0016】
特に、出発原料がペレット状に成形され、その質量を0.5g以上1.0g以下とし、上記の加熱処理温度の保持期間を10日以上とすれば、本発明において対象とする材料で、塑性変形を終了させるのに十分な期間であることが確認されたため、確実に目的材料の大型の単結晶を製造することができるようになる。
【0017】
また、本発明では、上記単結晶製造方法を用いることで、少なくとも1mm3の大きさの単結晶を得ることができ、従来の方法では果たせなかった大きさの大型単結晶を提供することができる。そして、得られる大型単結晶は、出発原料を鉄を含むセレン化物としたものであれば、セレン化物が例えば、半導体物質としての有用性が期待されているので、各種の電子デバイス等に適用する機能材料として提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係る単結晶製造方法の1つを模式的に説明する模式図である。
【図2】本発明に係る単結晶製造方法を用いて得られる大型単結晶の画像図である。
【図3】本発明に係る単結晶製造方法において、出発材料の体積と反応時間との関係性、出発材料の体積における得られた単結晶の体積分率を説明する説明図である。
【図4】非特許文献1にて開示された化合物単結晶の画像図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について、図1〜図3に基づいて説明する。
【0020】
本発明に係る単結晶製造方法は、多結晶材料又はこの多結晶材料原料の混合物、例えば、0.2グラム以上(好ましくは、0.5グラム以上)、直径5mm以上の円筒形状のペレット状に成形した出発原料、具体的には、多結晶状態のセレン過剰のTlFe2Se2の円筒形ペレットを、塑性変形するのに十分な空間のある容器内に載置し、この容器内にてTlFe2Se2の融点以下の温度、好ましくは融点近傍の温度、例えば、700℃にて加熱処理し、塑性変形を生じさせるとともに、この塑性変形が終了するまで加熱処理の温度を700℃にて保持することで、TlFe2Se2の単結晶を製造するものである。
【0021】
特に、上記単結晶製造方法を実施する際、良好な大型の単結晶を得ようという場合には、塑性変形させる多結晶状態のTlFe2Se2を、円筒形状のペレット状に成形することが望ましい。また、上記加熱処理の温度を保持する期間を10日、例えば、出発原料が0.6gであれば14日間とすることが望ましい。この加熱処理の温度を保持する期間は、出発原料の塑性変形が完全に終了することで規定されるため、得ようとする単結晶の元となる混合物の種類や大きさによって変化するが、融点近傍の温度にて10〜20日の範囲で保持すれば、ほとんどの混合物において塑性変形が完全に終了することを見込むことができる。なお、融点近傍の温度とは、その出発原料の融点から凡そマイナス200℃で規定される範囲をいう。
【0022】
ここで、本発明において、出発原料をペレット状に成形するのは、塑性変形を粉末状の状態に比べてより容易にするためである。ただし、ペレットの大きさに関し、上記0.2グラム以上、直径5mm以上という値によって制限されるものではなく、出発原料を戴置する、例えば石英管などの容器の大きさと、得ようとする単結晶の大きさによって適宜調整すればよい。ペレットを、容器の大きさで規定される特徴的な大きさより、大きくし過ぎると、出発原料全体を塑性変形させることが困難となるので留意すべきである。
【0023】
容器は、出発原料が塑性変形するのに十分な空間を有し、得ようとする単結晶の化合物の融点温度に耐性を有するものである限り、その大きさや形状によって制限されるものではない。このほか、多結晶材料又はこの多結晶材料原料は、融点以下の温度、かつ、この温度で塑性変形が終了するまで加熱処理を保持する限り、TlFe2Se2 以外の混合物であっても、本発明を実施することで単結晶を製造することが可能である。
【0024】
本発明では、融点以下の温度で加熱処理するのであるから、多結晶材料又はこの多結晶材料原料の混合物が融解することはない。また、「塑性変形」とは、物質の形状が外力によって変形したとき、その変形が不可逆となるものをいう。「混合物」とは、複数の物質(化合物、元素など)が単に混ざっている状態のものを表す。このほか、本発明は、基本的に重力場において実施される場合を規定するものであるが、容器との表面張力などが存在する場合にはその限りではない。
【0025】
本発明を実施するための単結晶製造装置としては概略、図1に示すような装置を構成すればよい。すなわち、所定期間、所望の温度にて保持できる加熱装置1と、この加熱装置1の加熱源によって加熱される筒状容器2とから構成される。加熱装置1には、筒状容器2に相対的に温度の高い領域と低い領域とが形成されるように、温度勾配を付与可能な加熱手段とその加熱源が備えられ、さらに、1時間当たり1℃毎に温度を上下させることができる温度調節機構が備えられていることが望ましい。また、筒状容器2には、ペレット状に成形した混合物3を、載置可能となる底部等の載置部21が設けられている。このような単結晶製造装置を用いて本発明を実施し、得られたTlFe2Se2を図2に示す。図2では、約20〜30mm2という大型のTlFe2Se2単結晶が得られた(図2の単結晶が載置されている方眼紙は1マスが2mm×2mmである)。
【0026】
本発明に係る単結晶製造方法を、工程毎に説明する(図1も参照のこと)。
【0027】
第1工程は、多結晶状態のセレン過剰のTlFe2Se2の円筒形ペレット(出発原料3)を、塑性変形するのに十分な空間のある容器(筒状容器2)内に載置する工程である。このとき、例えば、円筒状の石英管を筒状容器2とするのであれば、長手方向横向きとし、円筒形ペレットが塑性変形する方向に十分な空間となる載置部21を確保することに留意する。そして、筒状容器2全体が同一の温度にならないよう、十分急峻な、例えば、温度の高い領域と低い領域との温度差が50℃以上となる温度分布が形成されるように加熱装置1により加熱する。具体的には、筒状容器2の出発原料3を載置した載置部21付近が温度の高い領域となり、この載置部21から遠くなるにつれ相対的に温度が下がるように加熱する。
【0028】
第2工程は、横向きにした石英管(筒状容器2)内にてTlFe2Se2の融点以下の温度、好ましくは融点近傍の温度、例えば、700℃にて加熱処理で、塑性変形を生じさせるとともに、塑性変形が終了するまでの14日間、加熱処理の温度を700℃にて保持する工程である。また、TlFe2Se2の塑性変形は、その速度が加熱処理温度と関係があることが確認されたので、加熱処理温度も融点以下、特に融点近傍の温度で適宜調整することが可能な、例えば、1時間当たり1℃毎に温度を上下することが可能な温度調節機構により調整することが好ましい。
【0029】
第3工程は、塑性変形が終了したTlFe2Se2を冷却する工程であり、クエンチ操作を行う。具体的には、塑性変形が終了したTlFe2Se2が載置されている筒状容器2を縦向きにし、筒状容器2ごと冷却装置内に入れて冷却する。第2工程において、TlFe2Se2は、横向きにした石英管(筒状容器2)内に載置され、加熱処理されているので、液相となっていればクエンチ操作を行うことにより筒状容器2の底に溜まるが、固相のままであれば筒状容器2の側面に溜まるので、これによりTlFe2Se2が融点以下の温度で加熱処理されたかどうかを確認することができる。
【実施例】
【0030】
本発明を構成するため、図1に示した単結晶製造装置を使い、種々の条件で多結晶状態のセレン過剰TlFe2Se2を加熱処理する試験を実施(実施例1〜実施例17)したので以下に説明する。
【0031】
まず、出発原料(TlFe2Se2)の融点温度以下(700℃)で加熱処理するか、融点温度以上(900℃)で加熱処理するかという温度条件を設定した。さらに、加熱処理の温度を保持する期間としては、TlFe2Se2の塑性変形が確実に終了する14日をはじめ、塑性変形の途中であると考えられる3日、7日、10日でも確認した。また、TlFe2Se2の量として0.2〜1.2グラムの範囲で、得られる単結晶の大きさとの相関を調べた。TlFe2Se2を粉末の状態で加熱処理するか、ペレット状(直径5mm又は8mm)で加熱処理するかで、得られる単結晶の状態(形状、大きさ)が変化するかどうかを調べた。
【0032】
このほか、筒状容器2(石英管、内径10mm)を、加熱装置1の加熱源に対して被加熱部位が内径10mmの底となって、塑性変形の空間が制限される縦向きとするか、十分に塑性変形の空間がある横向きとするかというTlFe2Se2の容器内の配置の仕方により、得られる単結晶の状態(形状、大きさ)が変化するかどうかを調べた。その他、融点以上(900℃)で加熱処理した後、1時間当たり1℃毎に温度を下げて融点温度以下(700℃)として加熱処理を終了した例も実施した。
【0033】
上記種々の条件にて加熱処理した実施例1〜実施例17は[表1]のとおりであり、[表1]には加熱処理後の状態(結晶最大サイズ)についても記載している。なお、[表1]中、[炉の種類]の欄において、「横型」とは、筒状容器2に少なくとも50℃以上の温度勾配を付与したものをいい、「箱形」とは、筒状容器2がほぼ同一の温度となるような加熱を施すものをいい、「横型(温度勾配緩)」とは、筒状容器2に温度勾配を付与するものの、その勾配が50℃未満に抑えられているものをいい、「縦型」とは、塑性変形するのに十分な空間がないものをいう。
【0034】
【表1】

【0035】
上記[表1]からは、次のことが分かった。まず、実施例14と実施例16から、混合物(TlFe2Se2)の融点以上(900℃)の加熱処理では、単結晶が得られないことが分かった。これは一旦液体となると、塑性変形を生じないからであるためと考えられる。また、実施例5〜7と、実施例1〜3、8との比較から、一部の塑性変形に留まらないようにするため、塑性変形が確実に終了するまで加熱処理の温度を保持しなければ、良好な単結晶が得られないことが分かった。また、実施例5〜7と、実施例15との比較から、出発原料(TlFe2Se2)の量と反応時間に関係性が認められ、混合物の量が多くなるほど反応時間を長くする等、最適な結晶の成長を行うための調整が必要であることが分かった。なお、図3において、出発原料(TlFe2Se2)の体積と反応時間の関係性、さらには、出発原料の体積における得られた単結晶の体積分率等の詳細を説明している。
【0036】
このほか、実施例12と実施例15との比較から、一部の塑性変形に留まらないようにするため、塑性変形が確実に行われるような十分な空間が必要であることが分かった。実施例3と実施例9、10との比較から、加熱処理する際の石英管などの容器全体が同じ温度にならないよう、急峻な温度分布を持つ加熱装置を使用することが必要であることが分かった。さらに、実施例12、13から過剰なセレンを仕込まないと単結晶成長が困難となることが分かった。
【0037】
以上から、本発明に係る単結晶製造方法では、出発原料を融点以下の温度で加熱処理することが重要であると理解される。融点を超えて加熱処理すれば混合物が溶液となり、この溶液を冷却しても良好な単結晶を得ることができないのである。さらに、出発原料の塑性変形が終了するまで、加熱処理する温度を保持することが重要であると理解される。出発原料全体の塑性変形が終了する前に加熱処理を止めれば、出発原料の一部のみの塑性変形に留まるため、その一部のみが単結晶化して大型の単結晶を得ることが困難になるからである。また、出発材料である多結晶状態の混合物の量によって、塑性変形に必要な反応時間が変化するため、得ようとする単結晶大きさ(多結晶状態の混合物の量)によって反応時間を適宜調整することが重要であることも理解される。
【0038】
さらに、出発原料を塑性変形するのに十分な空間のある容器内に載置することが重要であると理解される。塑性変形するのに十分な空間がなければ、出発原料の一部のみで塑性変形が生じ、その一部のみが単結晶化するために、大型の単結晶を得ることが困難になるからである。このほか、大型の単結晶を得るためには、塑性変形させる混合物をペレット状に成形したり、加熱装置が十分急峻な温度分布を持つことも重要であると理解される。
【0039】
まとめると、本発明に係る単結晶製造方法における大型単結晶を得るための条件は以下のとおりである。
・融点以下で加熱処理すること。
・出発原料の形状、大きさを考慮し、十分な塑性変形をもたらすことが可能な加熱処理条件を整えること。
・塑性変形が確実に行われる十分な空間を確保し、急峻な温度分布を実現すること。
・反応量に見合った反応時間を確保すること。
【0040】
そして、本発明では、このような単結晶製造方法を用いることで、少なくとも1mm2の大きさの単結晶を得ることができ、従来の方法では果たせなかった大きさの大型単結晶を提供することができる。特に、鉄を含むセレン化物であるTlFe2Se2という半導体物質としての有用性が期待されている化合物で大型の単結晶を製造することができたので、得られた単結晶は、各種の電子デバイス等に適用する機能材料として提供することができる。
【0041】
以上、本発明の実施形態を詳述したが、本発明は、これに限定されるものではない。そして、本発明は、特許請求の範囲に記載された事項を逸脱することがなければ、種々の設計変更を行うことが可能である。例えば、加熱装置、出発原料、この出発原料を載置して加熱装置に加熱される容器などは、それぞれ公知または周知の技術手段によって達成することができる。すなわち、本発明は、様々な混合物について大型の単結晶を製造することができるという汎用性が期待されるものである。
【符号の説明】
【0042】
1 加熱装置
2 筒状容器(石英管)
21 載置部
3 出発原料(TlFe2Se2

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多結晶材料又はこの多結晶材料原料の混合物を、その材料又は混合物が十分に塑性変形を可能となる容積と形状を持つ容器内に載置し、相対的に温度の高い領域と低い領域とが前記容器に形成されるようにした加熱条件により、この容器内にて前記材料又は混合物を、その融点以下の温度で加熱処理し、前記材料又は混合物に塑性変形を生じさせるとともに、前記塑性変形が終了するまで前記加熱処理温度を保持することで、前記材料又は混合物の大型で良質の単結晶を製造する、
ことを特徴とする単結晶製造方法。
【請求項2】
前記材料又は混合物がペレット状に成形され、その質量を0.5g以上1.0g以下、前記加熱処理温度の保持期間を10日以上とする、
ことを特徴とする請求項1に記載の単結晶製造方法。
【請求項3】
前記材料又は混合物を構成する複数の元素の中で、少なくとも1種以上の元素が、目的とする単結晶材料の組成と比較して過剰に含まれる、
ことを特徴とする請求項1に記載の単結晶製造方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1つに記載の単結晶製造方法を用いることで得られ、少なくとも1mm3以上の大きさを有する、
ことを特徴とする大型単結晶。
【請求項5】
前記材料又は混合物は、鉄を含むセレン化物である、
ことを特徴とする請求項4に記載の大型単結晶。

【図3】
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【図1】
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【図2】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−214304(P2012−214304A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−79087(P2011−79087)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(599011687)学校法人 中央大学 (110)
【Fターム(参考)】