説明

単結晶SiC及びその製造方法

【課題】高品質な単結晶SiCをエピタキシャルに安定して連続成長させる単結晶SiC製造方法、及び、その方法で得られる高品質な単結晶SiCを提供する。
【解決手段】高温加熱保持することができる坩堝内にSiC単結晶を成長させるためのSiC種結晶3及び単結晶SiC製造用原料を供給するための原料供給管を配置する配置工程、並びに、高温雰囲気とした坩堝内に単結晶SiC製造用原料を不活性ガスと共に原料供給管を通してSiC種結晶上に供給して単結晶SiCを成長させる成長工程を含み、配置工程において、SiC種結晶をSiC種結晶に応力がかからないように保持手段1、2により原料供給管の末端近傍に配置し、かつ、成長工程において、単結晶SiC製造用原料としてSiC粒子、SiO2粒子及びカーボン(C)粒子の原料3成分を供給する単結晶SiCの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体デバイス用材料やLED用材料として利用される単結晶SiC及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
単結晶SiC(炭化ケイ素)は結晶の結合エネルギーが大きく、絶縁破壊電界が大きく、また熱伝導率も大きいため、耐苛酷環境用デバイスやパワーデバイス用の材料として有用である。またその格子定数がGaNの格子定数と近いため、GaN−LED用の基板材料としても有用である。
【0003】
従来この単結晶SiCの製造には、黒鉛坩堝内でSiC粉末を昇華させ、黒鉛坩堝内壁に単結晶SiCを再結晶化させるレーリー法や、このレーリー法をベースに原料配置や温度分布を最適化し、再結晶化させる部分にSiC種単結晶を配置してエピタキシャルに再結晶成長させる改良レーリー法、ガスソースをキャリアガスによって加熱されたSiC種単結晶上に輸送し結晶表面で化学反応させながらエピタキシャル成長させるCVD法、密閉された黒鉛坩堝内でSiC粉末とSiC種単結晶を近接させた状態でSiC粉末をSiC種単結晶上にエピタキシャルに再結晶成長させる昇華近接法などがある(非特許文献1第4章参照)。
【0004】
ところで現状では、これらの各単結晶SiC製造方法にはいずれも問題があるとされている。レーリー法では、結晶性の良好な単結晶SiCが製造できるものの、自然発生的な核形成をもとに結晶成長するため、形状制御や結晶面制御が困難であり、且つ大口径ウエハが得られないという問題がある。改良レーリー法では、SiC固体原料を昇華再結晶させる方法であって、数100μm/h程度の高速で大口径の単結晶SiCインゴットを得ることができるものの、螺旋状にエピタキシャル成長するため、結晶内に多数のマイクロパイプが発生するという問題がある。さらにバッチ育成方式であるため、連続して長尺の単結晶SiCインゴットを製造することには限界がある。CVD法では、高純度で低欠陥密度の良質な単結晶SiCが製造できるものの、希薄なガスソースでのエピタキシャル成長のため、成長速度が〜10μm/h程度と遅く、長尺の単結晶SiCインゴットを得られないという問題がある。昇華近接法では、比較的簡単な構成で高純度のSiCエピタキシャル成長が実現できるが、構成上の制約から長尺の単結晶SiCインゴットを得ることは不可能という問題がある。
【0005】
また最近、加熱保持されたSiC種単結晶上に、二酸化ケイ素超微粒子と炭素超微粒子とを不活性キャリアガスで供給し、SiC種単結晶上で二酸化ケイ素を炭素で還元することで、式(1)の反応により単結晶SiCをSiC種単結晶上にエピタキシャルに高速成長させる方法が報告された(特許文献1参照)。
SiO2 + 3C → SiC + 2CO↑ ・・・ (1)
【0006】
【特許文献1】特許第3505597号公報
【非特許文献1】松波弘之編著、「半導体SiC技術と応用」、日刊工業新聞社(2003年3月初版発行)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の特許文献1に開示された単結晶SiCの製造方法では、微粒子状の固体原料を供給するため原料濃度を高く保つことができ、マイクロパイプ等の欠陥発生を抑制することができる。しかしながら、特許文献1に開示された方法は、SiC種結晶表面において二酸化珪素を炭素により還元して単結晶SiCを得る化学反応を利用してSiC単結晶をSiC種結晶上に成長させる方法であるために、化学反応にともなう体積変化や温度変化、さらに供給されながら単結晶SiC成長に寄与しなかった原料の複数箇所での析出による複雑な流れの変化や分圧濃度のばらつき等、さまざまな不安定要素を抱えている。そのため安定して高品位の単結晶SiCを成長させることが難しい。
【0008】
本発明の第1の目的は、従来にない極めて高品質な単結晶SiCをエピタキシャルに安定して連続成長させることが可能な単結晶SiC製造方法、及び、その結果得られる高品質な単結晶SiCを提供することにある。
本発明の他の1つの目的は、更に極めて安定した製造方法であることを利用して、大面積の単結晶SiCを歪みやクラックフリーで高品質に製造できる単結晶SiCの製造方法、及びその結果得られる高品質な単結晶SiCを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題は、以下の<1>又は<5>に記載の手段によって解決された。好ましい実施態様である<2>〜<4>と共に以下に記載する。
<1>高温加熱保持することができる坩堝内にSiC単結晶を成長させるためのSiC種結晶及び単結晶SiC製造用原料を供給するための原料供給管を配置する配置工程、並びに、高温雰囲気とした該坩堝内に該単結晶SiC製造用原料を不活性ガスと共に該原料供給管を通して該SiC種結晶上に供給して単結晶SiCを成長させる成長工程を含み、
該配置工程において、該SiC種結晶を該SiC種結晶に応力がかからないように保持手段により該原料供給管の末端近傍に配置し、且つ、該成長工程において、該単結晶SiC製造用原料としてSiC粒子、SiO2粒子及びカーボン(C)粒子の原料3成分を供給することを特徴とする単結晶SiCの製造方法、
<2>原料3成分を、SiC粒子とSiO粒子のモル比が1:0.43から1:1.2の範囲内になるように、且つ、SiO粒子とカーボン(C)粒子のモル比が1:2から1:3の範囲内になるように供給する<1>に記載の単結晶SiCの製造方法、
<3>原料3成分を、SiC粒子とSiO粒子のモル比が1:0.54から1:1の範囲内になるように、且つ、SiO粒子とカーボン(C)粒子のモル比が1:2から1:3の範囲内になるように供給する<1>又は<2>に記載の単結晶SiCの製造方法、
<4>前記不活性ガスがArガスである<1>〜<3>いずれか1つに記載の単結晶SiCの製造方法、
<5><1>〜<4>いずれか1つに記載の製造方法により製造された単結晶SiC。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、大面積のSiC種単結晶を用いて、該SiC種単結晶よりも欠陥密度の少ない高品質な大面積(種単結晶と同サイズ)の単結晶SiCを安定して再現性良く歪みやクラックフリーでエピタキシャルに連続成長させることが可能な単結晶SiC製造方法及びその結果得られる高品質な単結晶SiCを提供することができる。
本発明によれば、特許文献1に開示された単結晶SiCの製造方法で問題となっていた、温度やキャリアガスの流れの変化や分圧濃度のばらつき等のさまざまな不安定要素に起因すると考えられる、製造単結晶SiCの結晶品質に関する安定再現性の低さを解決できた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の単結晶SiCの製造方法は、高温加熱保持することができる坩堝内にSiC単結晶を成長させるためのSiC種結晶及び単結晶SiC製造用原料を供給するための原料供給管を配置する配置工程、並びに、高温雰囲気とした該坩堝内に該単結晶SiC製造用原料を不活性ガスと共に該原料供給管を通して該SiC種結晶上に供給して単結晶SiCを成長させる成長工程を含み、該配置工程において、該SiC種結晶を該SiC種結晶に応力がかからないように保持手段により該原料供給管の末端近傍に配置し、かつ、該成長工程において、該単結晶SiC製造用原料としてSiC粒子、SiO2粒子及びカーボン(C)粒子の原料3成分を供給することを特徴とする。
【0012】
上記の安定製造の再現性は、当業者が予期することができないものである。極めて高い歩留りを達成することができる原因は、品質の良好な製造ウィンドウがかなり広いためと推定される。現在この安定再現性が発現するメカニズムにつき学術的に考察を進めているが、まだ正確には解明できていない。但し、この学術的な機構解明とは無関係に、本発明のSiC単結晶の製造方法は、上記<1>に記載のように特定することができ、これにより本発明は完成された。
本発明によれば、SiC種結晶をサセプタや坩堝内の治具等に一切固定せず、また、機械的な挟み込み等のロックもしないため、熱膨張係数の違いに起因する歪みや大きな温度勾配の発生に起因する格子歪みがSiC種結晶中に発生しない。よって大面積のSiC種結晶を用いて大面積の単結晶SiCを製造しても歪みやクラックのない、高品質の単結晶SiCが再現性良く製造できると推定される。
【0013】
本発明の単結晶SiCの製造方法は、最初に、高温加熱保持することができる坩堝内にSiC単結晶を成長させるためのSiC種結晶、及び、単結晶SiC製造用原料を供給するための原料供給管を配置する配置工程を有する。
また、該配置工程において、該SiC種結晶を該SiC種結晶に応力がかからないように保持手段により該原料供給管の末端近傍に配置する。
なお、原料粉末を予め適当な方法で坩堝内に収納できる場合には、原料供給管を、不活性ガスのみを供給する不活性ガス供給管として使用してもよい。
【0014】
本発明で使用する坩堝は、単結晶SiC製造温度である1,600〜2,400℃に昇温しこの温度を維持することができるものであればよい。坩堝の形状は、その外形については特に限定されず、目的とする単結晶SiCのサイズや形状に合わせ適宜選択できる。当該坩堝の材質は使用温度範囲を考慮してグラファイト製であることが好ましい。
【0015】
本発明の製造方法で使用するSiC種結晶は、好ましくはSiC種単結晶であり、さらに好ましくはSiC種単結晶ウエハであり、その種類、サイズ、形状は特に限定されず、目的とする単結晶SiCの種類、サイズ、形状によって適宜選択できる。例えば改良レーリー法によって得られたSiC単結晶を必要に応じて前処理したSiC種単結晶ウエハが好適に利用できる。種結晶は、ジャスト基板でもよく、また、オフ角基板でもよい。SiC種単結晶として、ジャスト面のSi面基板や数度のオフ角を有する(0001)Si面基板が例示できる。
【0016】
本発明に係る製造方法の配置工程において、原料供給管は、坩堝壁を貫通して坩堝外から坩堝内のSiC種結晶近傍に届くように挿入される。この原料供給管は、不活性ガスをキャリアとして流し、単結晶SiC製造用原料であるSiC粒子、SiO(シリカ)粒子及びカーボン(C)粒子の原料3成分の混合物を不活性ガスに同伴させて、SiC種結晶に供給するためのものである。原料供給管の内径と断面形状は特に限定されず、製造する単結晶SiCのサイズや形状に合わせて、適宜選択できる。断面形状は円形であることが好ましい。当該原料供給管の他端は、不活性ガスの貯蔵タンクに接続され、配管の途中に適宜流量調節弁を設けて不活性ガスの流量を調節することが好ましい。坩堝内及び坩堝近辺の不活性ガス供給管の材質は使用温度範囲を考慮してグラファイト製であることが好ましい。
【0017】
配置工程において、該SiC種結晶を該SiC種結晶に応力がかからないように保持手段により該原料供給管の末端近傍に配置する。好ましくは、前記円筒坩堝内の上部から坩堝内に貫通挿入されたサセプタに、SiC種結晶ウエハを保持するための保持手段を設ける。
本発明においては、SiC種結晶を間接に保持するサセプタの形状は特に限定されず、目的とする単結晶SiCのサイズや形状に合わせ適宜選択できる。サセプタは柱状であることが好ましく、円柱状であることがより好ましい。当該サセプタの材質は使用温度範囲を考慮してグラファイト製であることが好ましい。
SiC種結晶はサセプタの端面に直接固定することなく、端面に設けた保持部材によりサセプタ端面とは非接触の状態で坩堝内に支持することが好ましい。
尚、サセプタの端面が平面である場合、端面表面とSiC種結晶表面とのなす角度は、特に限定されず自由に設定することができ、略平行から最大45°までの傾斜とすることが好ましい。
【0018】
SiC種結晶とサセプタとはカーボン接着剤等によって直接固定されることなく、SiC種結晶の自重によりSiC種結晶の保持手段上に静かに置かれる構造であることが好ましい。保持手段は、SiC種結晶の周縁全体又は周縁の一部を鉛直方向下方から支えるものが好ましい。いずれの保持手段であっても、SiC種結晶に圧力、張力、ずれ応力などの応力が加わるような物理的な固定は行わない。すなわち、接着、挟み込み、楔等による固定を使用せずに、単にSiC種結晶を保持手段上に載置できる構造であることが好ましい。
【0019】
このような条件を満たすサセプタの保持手段の形状としては、図1に示すような3本の爪部1aを有する爪型保持具1、及びリング2aを有するリング型保持具2が例示できる。SiC種結晶3はこれらの保持具で保持される。
ここで、爪型保持具1は、サセプタの端面周縁から鉛直に降下し先端で内側にほぼ直角に折り曲げられた3本(又は4本の)爪部1aを有している。
また、リング型保持具2は、中央部に貫通穴を有した円形形状を有するリング2aであって、その断面がL字状であり、SiC種結晶の周縁をL字部の水平部分で支持する保持具である。
尚、当該サセプタに接続される保持手段の材質は使用温度範囲を考慮してグラファイト製であることが好ましい。
なお、保持具で支持されたSiC種結晶は、原料供給管の末端近傍に配置される。SiC種結晶の表面の法線は、原料供給管の中心軸と平行でもよく、略45°までの角度を有していていてもよい。
【0020】
また、前記サセプタは単結晶SiCの成長による厚み増加と共に、単結晶SiC製造用原料を連続供給する原料供給管との相対距離を随時調節して、常に好ましい相対距離が保てるような分離独立制御構造を有していることが好ましい。
【0021】
本発明の単結晶SiCの製造方法は、上記の配置工程に引き続いて単結晶SiCの成長工程を含む。
成長工程は、高温雰囲気とした該坩堝内に単結晶SiC製造用原料である、SiC粒子、シリカ粒子及びカーボン粒子の原料3成分を不活性ガスと共にSiC種結晶上に供給して単結晶SiCを成長させる工程である。
【0022】
本発明の製造方法において原料SiC粒子としては、いかなる結晶多形のSiC結晶も使用でき、3C(立方晶)−SiC、4H(六方晶)−SiC、及び6H(菱面体)−SiCが含まれる。これらの中でも市販の3C−SiCが好適に利用できる。また上記SiC粒子は、必要に応じて前処理を施してもよい。市販の3C−SiC粒子は、微粒子で高純度であり、入手が容易であるので好ましい。
【0023】
前記SiC粒子の粒子径は400nm以下の微粒子が好ましく、100nm以下の微粒子がより好ましく、10〜100nmの超微粒子が更に好ましく、10〜85nmの超微粒子が特に好ましい。尚、SiC粒子の粒子径とは、一次粒子の重量平均粒子径を意味する。また前記SiC粒子の粒子形状は特に限定されない。SiC一次粒子は、凝集体として供給することが好ましい。
【0024】
SiO粒子の種類、粒子形状等は特に限定されない。粒子径は100nm以下の微粒子が好ましく、10〜100nmの超微粒子が更に好ましく、10〜50nmの超微粒子が特に好ましい。例えば火炎加水分解法で得られる高純度シリカ(いぶしシリカ fumed silica)が前記粒子径の範囲を満たしており、且つ高純度でもあるため好適に利用できる。
【0025】
カーボン(C)粒子の種類、粒子形状等は特に限定されない。粒子径は100nm以下の微粒子が好ましく、10〜100nmの超微粒子が更に好ましく、10〜50nmの超微粒子が特に好ましい。例えば高純度アセチレンブラックが前記粒子径の範囲を満たしており、且つ高純度でもあるため好適に利用できる。
【0026】
上記SiC粒子、SiO粒子及びカーボン(C)粒子のいずれも2種以上のものを混合して使用してもよいし、それぞれを混合して一体化してもよい。また上記SiC粒子、SiO粒子及びカーボン粒子は、必要に応じて、前処理を施してもよい。
【0027】
上記SiC粒子、SiO粒子及びカーボン(C)粒子の原料3成分の供給比率は、SiC粒子とSiO粒子のモル比が1:0.43から1:1.2の範囲内になるように、且つ、SiO粒子とカーボン(C)粒子のモル比が1:2から1:3の範囲内になるように供給することが好ましく、SiC粒子とSiO粒子のモル比が1:0.54から1:1の範囲内になるように、且つSiO粒子とカーボン(C)粒子のモル比が1:2から1:3の範囲内になるように供給することが更に好ましい。ここで、「1:0.43から1:1.2の範囲」とは、「1:0.43以上、1:1.2以下」の意味であり、他の範囲の記載も同様の意味である。
【0028】
上記SiC製造用原料であるSiC粒子、SiO粒子及びカーボン(C)粒子で構成される原料3成分のSiC種結晶上への供給は、途切れることなく連続して供給することができる方法であることが好ましく、その具体的な方法は特に限定されない。例えば市販のパウダフィーダのように連続して粉体輸送できるものが使用できる。また、原料供給管及び単結晶SiC製造装置内部は酸素混入を防止するため、アルゴンやヘリウムなどの不活性ガスにより、好ましくはアルゴンガスにより、置換されたハーメチック構造にしておくことが好ましい。
【0029】
また、単結晶SiC中にドーピングをおこなう場合は、p型であれば原料粒子に例えばAl粒子を高濃度(0.1〜0.2%)に混合することが簡便である。また、ガスソースとしてAl(CH33、B26等を使用してもp型単結晶SiCを製造できるし、雰囲気中に窒素ガスを導入すればn型単結晶SiCが簡単に製造できる。
【0030】
単結晶SiC製造温度は特に限定されず、目的とする単結晶SiCのサイズや形状、種類等に応じて適宜設定できるが、好ましい製造温度は1,600〜2,400℃の範囲であり、この温度は例えば坩堝外側の温度として測定できる。
本発明の単結晶SiCの製造方法に使用する単結晶SiC製造装置の構成は、特に限定されない。すなわち種結晶サイズ、坩堝加熱方法、坩堝材質、原料粒子供給方法、雰囲気調整方法、成長圧力、温度制御方法などは、目的とする単結晶SiCのサイズや形状、種類、SiC粒子の種類や量等に応じて適宜選択できる。例えば、温度測定と温度制御にはPID温度制御技術を使用することができる。
【0031】
図2は本発明の単結晶SiCを製造するための装置の一例を示す概念的断面図であり、ここでは高周波誘導加熱炉13を用いている。
水冷された円筒チャンバ4内にカーボン製の円筒坩堝5(直径130mm、高さ180mm)が配置され、前記水冷された円筒チャンバ4の外側に高周波誘導加熱コイル6を配置してある。
前記円筒坩堝5内の上部には、SiC種結晶(ウエハ)3を保持するための保持手段を備えたサセプタ8が貫通挿入されている。このサセプタ8は円筒坩堝5の内部まで伸びており、図示しない回転機構により該サセプタ8の中心軸を回転軸として回転可能である。成長工程において、SiC種単結晶7の上にSiC単結晶の成長層12を成長させる。
またこのサセプタの図示されない上端には、制御可能な熱交換機能が付与されており、該サセプタ鉛直方向(長手方向)に熱流を発生することができる。また前記熱流量の調整が可能な構成となっている。
【0032】
尚、図3はサセプタ下端部分に設けた保持具の拡大図である。図3のようにSiC種結晶を保持する部分は、該サセプタの鉛直方向と略垂直から最大45°傾斜まで自由に設定することができる。
【0033】
前記円筒坩堝5内の下部には、単結晶SiC製造用原料3成分を供給するための原料供給管9が貫通挿入されている。さらに前記原料供給管9は、前記高周波誘導加熱炉の外側に延設されていて、調節弁11、11’、11’’により独立に供給量が調節可能な複数の原料貯蔵槽10、10’、10’’と、流量調節可能な不活性キャリアガスAの供給源(図示せず)にそれぞれ連結している。供給された不活性キャリアガスは、円筒チャンバ4に設けられたダクト(図示せず)から排出される。
【0034】
高周波誘導加熱炉13は、図示しない真空排気系及び圧力調節系により圧力制御が可能であり、また図示しない不活性ガス置換機構を備えている。尚、図2の実施態様では原料供給管の中心軸とサセプタの法線方向が略並行な構成の高周波誘導加熱炉を示したが、本発明の作用が変わらない範囲内で、供給管をサセプタに対し斜めや横向きに配置することも可能である。
【実施例】
【0035】
以下に実施例と比較例をもとに更に説明する。始めに実施例について説明する。
(実施例1)
前記高周波誘導加熱炉を用いて、以下の条件にて単結晶SiCの製造をおこなった。
図2を参照して説明する。(株)エネテック総研製3C−SiC粒子(商品名NanoPowder、平均粒径45、55、82nmのいずれか)と、シリカ(SiO粒子)(日本アエロジル(株)製アエロジル380)と、カーボン(C)粒子(電気化学工業(株)製、デンカブラック粉状品(アセチレンブラック))とを、それぞれ独立に原料貯蔵槽に充填した。また各々の供給量比は表1に記載のごとくなるようそれぞれ調整した。
【0036】
【表1】

【0037】
前記サセプタ下端に、図1に示す3本の爪部1aを有する爪型保持具1により、SiC種単結晶ウエハを配置した。ここで使用したSiC種単結晶ウエハは、改良レーリー法で製造された大面積の4インチ単結晶SiC基板とした。また該SiC種単結晶は接着工程等を介さず、直接サセプタ端面から延設された3本の爪部1aに軽く載せ、SiC単結晶に無理な応力がかかっていないことを確認した。
高周波誘導加熱炉内部を真空引きした後、不活性ガス(高純度アルゴン)で該高周波誘導加熱炉内部を置換した。次いで前記高周波誘導加熱コイルにより、前記カーボン製の円筒坩堝を加熱し、前記SiC種単結晶ウエハ表面温度が1,600〜2,400℃の範囲となるように調整した。
【0038】
次いでSiC種単結晶ウエハがセットされた前記サセプタを0〜20rpmの回転速度で回転させた。この状態で前記不活性キャリアガス(高純度アルゴン)を流速0.05〜10L/minの範囲に調整して流し、前記単結晶SiC製造用原料(3C−SiC粒子、シリカ(SiO粒子)、カーボン(C)粒子)を、前記原料供給管内部を通して、前記円筒坩堝内上部に配置された前記SiC種単結晶ウエハ表面上に連続して供給させ、単結晶SiCの製造をおこなった。また前記原料供給管は単結晶SiCの製造に伴いその成長レートに合わせた速度で前記サセプタから離れる方向に移動させた。尚、それぞれの実施例の条件(No.1から4)について単結晶SiCの製造を10回ずつ繰り返した。製造厚みはすべて略1mmで揃えた。
【0039】
その後、目視によるクラック有無の評価及び形状測定器による単結晶SiCの反り評価をおこなった。また反射型X線トポグラフィー、及び、溶融KOHエッチング(450〜550℃、3〜10分)をした後の光学顕微鏡観察により欠陥密度の測定もおこなった。
【0040】
表2に4インチウエハの1mm厚単結晶SiCの評価結果をまとめた。ここで、それぞれの測定結果は、平均粒径55nmの3C−SiC粒子を使用し、各原料モル比で10回ずつ製造をおこなった中で最大の反り量(Bow)だったバッチ及び、最大の欠陥密度だったバッチのそれぞれが、どの程度の範囲内に収まったかを表示した。また予めSiC種単結晶ウエハの欠陥密度も測定しておき、本発明の単結晶SiCの製造方法で前記SiC種単結晶ウエハ上に製造した単結晶SiCの欠陥密度と比較して、結晶品質が劣化したのか、同等なのか、改善したのかを判定した。評価結果を表2にまとめた。表中、SF密度は、積層欠陥密度(Stacking Fault)を表し、「〜」は「ほぼ」の意味である。
また、平均粒径55nmの3C−SiC粒子の替わりに、平均粒径45nm又は82nmの3C−SiC粒子を使用した場合も同様の結果であった。以下の表4及び表5の結果も同様であった。
【0041】
【表2】

【0042】
上記結果より、SiC種単結晶を接着も固定もせずに配置して製造した場合には、得られたSiC単結晶すべてにおいてクラックは観察されず、また反り(Bow)もすべて10μm未満で収まることが確認された。
続いて単結晶SiC製造用原料の混合割合をSiC粒子とSiO粒子がモル比で1:0.67から1:1の範囲で、且つSiO粒子とカーボン(C)粒子のモル比で1:2から1:3に調整した場合には、製造した単結晶SiCの結晶品質がSiC種単結晶よりも向上することが確認された。
【0043】
また単結晶SiC製造用原料の混合割合をSiC粒子とSiO粒子がモル比で1:0.43から1:1.2の範囲で、且つSiO粒子とカーボン(C)粒子のモル比で1:2から1:3に調整した場合でも、製造した単結晶SiCの結晶品質はSiC種単結晶と同等であることが確認された。
【0044】
(比較例1)
次に比較例1(No.5及び9)及び他の実施例(No.6〜8)について説明する。
前記高周波誘導加熱炉を用いて、以下の条件にて単結晶SiCの製造をおこなった。
(株)エネテック総研製3C−SiC粒子(商品名NanoPowder、平均粒径45、55、82nmのいずれか)と、シリカ(SiO粒子)(日本アエロジル(株)製アエロジル380)と、カーボン(C)粒子(電気化学工業(株)製、デンカブラック粉状品(アセチレンブラック))を、それぞれ独立に原料貯蔵槽に充填した。また各々の供給量比は表3に記載のようになるようそれぞれ調整した。
【0045】
【表3】

【0046】
前記サセプタ下端に、図1に示す3本の爪部1aを有する爪型保持具1により、SiC種単結晶ウエハを固定した。ここで使用したSiC種単結晶ウエハは、改良レーリー法で製造された大面積の4インチ単結晶SiC基板とした。また該SiC種単結晶は接着工程等を介さず、直接サセプタの爪部に載せ、無理な応力がかかっていないことを確認した。高周波誘導加熱炉内部を真空引きした後、不活性ガス(高純度アルゴン)で該高周波誘導加熱炉内部を置換した。次いで前記高周波誘導加熱コイルにより、前記カーボン製の密閉坩堝を加熱し、前記SiC種単結晶ウエハ表面温度が1,600〜2,400℃の範囲となるように調整した。
【0047】
次いでSiC種単結晶ウエハがセットされた前記サセプタを0〜20rpmの回転速度で回転させた。この状態で前記不活性キャリアガス(高純度アルゴン)を流速0.05〜10L/minの範囲に調整して流し、前記単結晶SiC製造用原料(3C−SiC粒子、シリカ(SiO粒子)、カーボン(C)粒子)を、前記原料供給管内部を通して、前記円筒坩堝内上部に配置された前記SiC種単結晶ウエハ表面上に連続して供給させ、単結晶SiCの製造をおこなった。尚、それぞれの比較例(No.5及び9)及び実施例(No.6〜8)の条件について単結晶SiCの製造を10回ずつ繰り返した。製造厚みはすべて略1mmで揃えた。
【0048】
その後、目視によるクラック有無評価並びに形状測定器による単結晶SiCの反り評価をおこなった。また反射型X線トポグラフィー及び、溶融KOHエッチング(450〜550℃、3〜10分)の後の光学顕微鏡観察により、欠陥密度の測定もおこなった。測定結果を表4にまとめた。ここで、それぞれの測定結果は、各原料モル比で10回ずつ製造をおこなった中で最大の反り量(Bow)だったバッチ及び、最大の欠陥密度だったバッチのそれぞれが、どの程度の範囲内に収まったかを表示することとした。また予めSiC種単結晶ウエハの欠陥密度も測定しておき、本発明の単結晶SiCの製造方法で前記SiC種単結晶ウエハ上に製造した単結晶SiCの欠陥密度と比較し、結晶品質が劣化したのか、同等なのか、改善したのかを判定した。表4に4インチウエハの1mm厚単結晶SiCの評価結果をまとめて示す。
【0049】
【表4】

【0050】
上記結果より、SiC種単結晶を接着も固定もせずに配置して製造した場合には、得られたSiC単結晶すべてにおいてクラックは観察されず、また反り(Bow)もすべて10μm未満で収まることが確認された。
但し単結晶SiC製造用原料の混合割合がモル比でSiC粒子1に対してSiO粒子0.33以下(且つSiO粒子とカーボン(C)粒子のモル比で1:2から1:3)でも2.33以上(且つSiO粒子とカーボン(C)粒子のモル比で1:2から1:3)でも、製造した単結晶SiCの結晶品質がSiC種単結晶よりも劣ること、原料2成分を供給したNo.5又はNo.9よりは優れていることが確認された。
【0051】
(比較例2)
更にSiC種結晶をサセプタに固定した比較例2について説明する。
前記高周波誘導加熱炉を用いて、以下の条件にて単結晶SiCの製造をおこなった。
(株)エネテック総研製3C−SiC粒子(商品名NanoPowder、平均粒径45、55、82nmのいずれか)と、シリカ(SiO粒子)(日本アエロジル(株)製アエロジル380)と、カーボン(C)粒子(電気化学工業(株)製、デンカブラック粉状品(アセチレンブラック))を、それぞれ独立に原料貯蔵槽に充填した。また各々の供給量比は前述の表1に記載のごとくなるようそれぞれ調整した。
【0052】
前記サセプタ下端にSiC種単結晶ウエハを配置した。ここで使用したSiC種単結晶ウエハは、改良レーリー法で製造された大面積の4インチ単結晶SiC基板とした。また該SiC種単結晶は、爪部のない単純な台座型サセプタ表面にカーボン接着剤(日清紡ST−201)にて接着固定した。高周波誘導加熱炉内部を真空引きした後、不活性ガス(高純度アルゴン)で該高周波誘導加熱炉内部を置換した。次いで前記高周波誘導加熱コイルにより、前記カーボン製の密閉坩堝を加熱し、前記SiC種単結晶ウエハ表面温度が1,600〜2,400℃の範囲となるように調整した。
【0053】
次いでSiC種単結晶ウエハが接着固定された前記サセプタを0〜20rpmの回転速度で回転させた。この状態で前記不活性キャリアガス(高純度アルゴン)を流速0.05〜10L/minの範囲に調整して流し、前記単結晶SiC製造用原料(3C−SiC粒子、シリカ(SiO粒子)、カーボン(C)粒子)を、前記原料供給管内部を通して、前記円筒坩堝内上部に配置された前記SiC種単結晶ウエハ表面上に連続して供給させ、単結晶SiCの製造をおこなった。また前記原料供給管は単結晶SiCの製造に伴いその成長レートに合わせた速度で前記サセプタから離れる方向に移動させた。尚、それぞれの実施例の条件(No.10から13)について単結晶SiCの製造を10回ずつ繰り返した。製造厚みはすべて略1mmで揃えた。
【0054】
その後、目視によるクラック有無評価並びに形状測定器による単結晶SiCの反り評価をおこなった。また反射型X線トポグラフィー及び、溶融KOHエッチング(450〜550℃、3〜10分)後の光学顕微鏡観察により、欠陥密度の測定もおこなった。
4インチウエハの1mm厚単結晶SiCに関する評価結果を表5にまとめた。ここで、それぞれの測定結果は、各原料モル比で10回ずつ製造をおこなった中で最大の反り量(Bow)だったバッチ及び、最大の欠陥密度だったバッチのそれぞれが、どの程度の範囲内に収まったかを表示することとした。また予めSiC種単結晶ウエハの欠陥密度も測定しておき、本特許の単結晶SiCの製造方法で前記SiC種単結晶ウエハ上に製造した単結晶SiCの欠陥密度と比較し、結晶品質が劣化したのか、同等なのか、改善したのかを判定した。
【0055】
【表5】

【0056】
上記結果より、SiC種単結晶をサセプタに接着固定して製造した場合には、得られたSiC単結晶はすべて100μm以上反ってしまった。またいずれの場合も3割程度のバッチでクラックが発生した。
また実施例と同様に単結晶SiC製造用原料の混合割合をSiC粒子とSiO粒子がモル比で1:0.43から1:1.2の範囲で、且つSiO粒子とカーボン(C)粒子のモル比で1:2から1:3に調整したにも関わらず、製造した単結晶SiCの結晶品質はSiC種単結晶よりも著しく劣ることが確認された。これは単結晶SiCが反ってしまったことによる結晶品質の低下であると推定される。
【0057】
以上の結果から、SiC種単結晶を接着も固定もせずに配置すればクラックや反りが解消されることが確認された。また特に単結晶SiC製造用原料の混合割合がSiC粒子とSiO粒子のモル比で1:0.67から1:1の範囲で、且つSiO粒子とカーボン(C)粒子のモル比で1:2から1:3に調整すると、大面積のSiC種単結晶上に該種結晶と同等以上の結晶品質の大面積単結晶SiCを製造する上で最も好ましいことが確認された。
しかも本発明の製造方法では原料を外部から連続的に供給することが可能であるため、理論上SiC種単結晶の結晶品質以上の単結晶SiCをどこまでも厚く製造することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の単結晶SiCを製造するための装置に配置されるSiC種単結晶を保持する保持手段を有するサセプタの一例を示す概念的拡大斜視図である。
【図2】本発明の単結晶SiCを製造するための装置の一例を示す概念的断面図である。
【図3】本発明で使用できるSiC種結晶の保持手段の具体例を示す概念的斜視図である。
【符号の説明】
【0059】
1 爪型保持具
1a 爪部
2 リング型保持具
2a リング
3 SiC種結晶
4 円筒チャンバ
5 円筒坩堝
6 高周波誘導加熱コイル
7 SiC種単結晶
8 サセプタ
9 原料供給管
10、10’、10’’ 原料貯蔵槽
11、11’、11’’ 調節弁
12 成長層
13 高周波誘導加熱炉
A 不活性キャリアガス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高温加熱保持することができる坩堝内にSiC単結晶を成長させるためのSiC種結晶及び単結晶SiC製造用原料を供給するための原料供給管を配置する配置工程、並びに、
高温雰囲気とした該坩堝内に該単結晶SiC製造用原料を不活性ガスと共に該原料供給管を通して該SiC種結晶上に供給して単結晶SiCを成長させる成長工程を含み、
該配置工程において、該SiC種結晶を該SiC種結晶に応力がかからないように保持手段により該原料供給管の末端近傍に配置し、且つ、
該成長工程において、該単結晶SiC製造用原料としてSiC粒子、SiO2粒子及びカーボン(C)粒子の原料3成分を供給することを特徴とする
単結晶SiCの製造方法。
【請求項2】
原料3成分を、SiC粒子とSiO粒子のモル比が1:0.43から1:1.2の範囲内になるように、且つ、SiO粒子とカーボン(C)粒子のモル比が1:2から1:3の範囲内になるように供給する請求項1に記載の単結晶SiCの製造方法。
【請求項3】
原料3成分を、SiC粒子とSiO粒子のモル比が1:0.54から1:1の範囲内になるように、且つ、SiO粒子とカーボン(C)粒子のモル比が1:2から1:3の範囲内になるように供給する請求項1又は2に記載の単結晶SiCの製造方法。
【請求項4】
前記不活性ガスがArガスである請求項1から3いずれか1つに記載の単結晶SiCの製造方法。
【請求項5】
請求項1から4いずれか1つに記載の製造方法により製造された単結晶SiC。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−57265(P2009−57265A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−227834(P2007−227834)
【出願日】平成19年9月3日(2007.9.3)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】