説明

単芯超伝導線

【課題】自己磁界を主体とする低損失で高効率的な単芯の超伝導線を提供する。
【解決手段】断面円形状の単芯超伝導線1の内側に低抵抗材からなる安定化層2を配設し、安定化層2の外側に超伝導体からなる超伝導層3を配設し、超伝導層3が、長手方向に対して垂直な断面において周方向に超伝導体を連続して形成されている。また、低抵抗材が銅(Cu)で、超伝導体が二ホウ化マグネシウム(MgB2)の場合、安定化層2と超伝導層3との間にバリア層4を有する。超伝導層3の外側には高抵抗材からなる高抵抗シース層5を配設している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超伝導モータのコイルに用いる単芯の超伝導線に関する。
【背景技術】
【0002】
エネルギー問題や環境問題を是正する技術として、水素利用の可能性が検討されている。燃料電池等で水素を酸化し、エネルギーを生成し続けるためには、水素を安全に且つ安定的に製造、輸送、貯蔵、移送等を行うシステムの構築が必要である。その際、圧縮ガスとしてだけではなく、液化ガスとして水素を利用することも不可欠となる。これは、液体水素やスラッシュ水素の体積密度が圧縮ガスに比べて非常に大きく、貯蔵効率が優れているためである(非特許文献1を参照)。
【0003】
そこで、液体水素やスラッシュ水素を循環又は移送するための手段として、超伝導モータが提案されている(非特許文献2を参照)。本モータは、移送すべき液体水素自体が冷媒として機能するため、冷却ペナルティを考慮する必要がなくなり、常伝導モータに比べてはるかに低消費電力で液体水素用ポンプを駆動することが期待される。つまり、超伝導線をかご型誘導モータの回転子巻線に適用すると、非特許文献3−8で既に実証されているように、当該モータの同期回転により極低温環境における損失を大幅に抑制でき、さらに従来機に比べてトルクや出力を大幅に向上することが可能となる。また、三相交流が流れる固定子巻線をも超伝導線で構成すると、従来機の銅巻線を液体水素温度に冷却した場合に比べて、一次巻線で発生する損失を大幅に低減することが期待される。
【0004】
また、超伝導体を利用した技術として、例えば特許文献1に銅合金からなる複数のフィラメントを中心に配設し、その外側に磁気的に分離された複数の超伝導体(テープ状の超伝導体)をスパイラル状に配設する構造の超伝導ケーブル、特許文献2にNb3Al化合物系超伝導線材において、安定化材を内部に配設すると共にNb−Al複合物で形成されるシングル線材を複数配設する構造が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】R.D.McCarty: "Hydrogen technology survey-Thermophysical properties," NASA Special Publication (1975) SP-3089.
【非特許文献2】K.Kajikawa and T.Nakamura: "Proposal of a fully superconducting motor for liquid hydrogen pump with MgB2 wire," IEEE Trans. Appl. Supercond., Vol.19, No.3 (2009) pp.1669-1673.
【非特許文献3】J.Sim, M.Park, H.Lim, G.Cha, J.Ji and J.Lee: "Test of an induction motor with HTS wire at end ring and bars," IEEE Trans. Appl. Supercond., Vol.13, No.2 (2003) pp.2231-2234.
【非特許文献4】J.Sim, K.Lee, G.Cha and J.-K.Lee: "Development of a HTS squirrel cage induction motor with HTS rotor bars," IEEE Trans. Appl. Supercond., Vol.14, No.2 (2004) pp.916-919.
【非特許文献5】T.Nakamura, H.Miyake, Y.Ogama, G.Morita, I.Muta and T.Hoshino: "Fabrication and characteristics of HTS induction motor by the use of Bi-2223/Ag squirrel-cage rotor," IEEE Trans. Appl. Supercond., Vol.16, No.2 (2006) pp.1469-1472.
【非特許文献6】G.Morita, T.Nakamura and I.Muta: "Theoretical analysis of a YBCO squirrel-cage type induction motor based on an equivalent circuit," Supercond. Sci. Technol., Vol.19, No.6 (2006) pp.473-478.
【非特許文献7】T.Nakamura, Y,Ogama, H.Miyake, K.Nagao and T.Nishimura: "Novel rotating characteristics of a squirrel-cage-type HTS induction/synchronous motor," Supercond. Sci. Technol., Vol.20, No.10 (2007) pp.911-918.
【非特許文献8】T.Nakamura, K.Nagao, T.Nishimura, Y.Ogama, M.Kawamoto, T.Okazaki, N.Ayai and H.Oyama: "The direct relationship between output power and current carrying capability of rotor bars in HTS induction/synchronous motor with the use of DI-BSCCO tapes," Supercond. Sci. Techno1., Vol.21, No.8 (2008) 085006.
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2007−536700号公報
【特許文献2】特開2001−52547号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、非特許文献2−8に記載のモータを構成する固定子巻線に三相交流を通電すると、従来機と同様な銅線を適用した場合は多大なジュール損失や渦電流損失が発生し、また超伝導線を適用した場合は超伝導体のピンニング機構に伴う電磁気的な損失(履歴損失という)や常伝導金属部で生じる渦電流損失等の交流損失が発生するため、高効率なモータを実現できない。
【0008】
また、特許文献1、2に記載の技術は、多芯構造の超伝導体であることから明らかなように、いずれも超伝導体をスパイラル状に捻って電流を通電するため、超伝導層の内側にも導体長手方向の自己磁界(自分自身に流れる電流がつくる磁界)が発生し、内部にある常伝導金属部(銅合金等)に渦電流が生じるといった交流損失が発生し、効率よく電流を通電することができない。
【0009】
そこで、本発明は上記のような超伝導ケーブルや外部磁界を主体とする多芯構造の超伝導線と異なり、自己磁界を主体とする低損失で高効率的な単芯の超伝導線を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願に開示する単芯超伝導線は、断面円形状の超伝導線の内側に低抵抗材からなる安定化層を配設し、当該安定化層の外側に超伝導体からなる超伝導層を配設し、前記超伝導層が、長手方向に対して垂直な断面において周方向に前記超伝導体を連続して形成されているものである。
【0011】
このように、本願に開示する単芯超伝導線においては、低抵抗材の安定化層を内側に配設し、超伝導体からなる超伝導層を外側に配設しているため、超伝導層を流れる電流による低抵抗材への渦電流の誘起をなくすことができ、交流損失を低減することができるという効果を奏する。また、超伝導層が、長手方向に対して垂直な断面において、周方向に前記超伝導体を連続して形成する単芯であるため、多芯構造のようにスパイラル状にすることで内部に自己磁界を生じるようなことがなく、低抵抗材への渦電流の誘起をなくして交流損失を低減することができるという効果を奏する。
【0012】
また、内側に低抵抗材の安定化層を配設することで、超伝導層の外径が相対的に大きくなり、履歴損失を低減させることができるという効果を奏する。すなわち、超伝導層の内径をR0、外径をR1とすると、Beanモデルに基づく単位長あたりの履歴損失Qは、次式のように表される。
【0013】
【数1】

【0014】
ここで、imは臨界電流Icで規格化した通電電流振幅であり、Q0=μ0c2/π、c=1−R02/R12である。(1)式より、超伝導層の履歴損失はcに比例していることから、超伝導層を円筒状(内部が中空状であり、その中空領域に低抵抗材が配設される構造)に形成することで、外径R1が相対的に大きくなりcが小さくなるため、履歴損失を低減できることが可能であることがわかる。
【0015】
本願に開示する単芯超伝導線は、前記低抵抗材が銅(Cu)であり、前記超伝導体が二ホウ化マグネシウム(MgB2)であり、前記安定化層と超伝導層との間に、前記銅と二ホウ化マグネシウムとの反応を防止するバリア層を有するものである。
【0016】
このように、本願に開示する単芯超伝導線においては、低抵抗材のCuと超伝導体のMgB2との間にバリア層を有するため、CuとMgB2との反応を確実に防止して、高性能な単芯超伝導線を形成することができるという効果を奏する。
【0017】
本願に開示する単芯超伝導線は、前記低抵抗材が純鉄であることを特徴とするものである。
このように、本願に開示する単芯超伝導線においては、低抵抗材が純鉄であるため、安定化層としての機能を有すると共に、安定化層と超伝導層との結合反応を防止するバリア層としての機能を有し、製造工程を簡略化して作業効率を上げることができるという効果を奏する。
【0018】
本願に開示する単芯超伝導線は、前記超伝導層の外側に高抵抗のシースを配設するものである。
このように、本願に開示する単芯超伝導線においては、超伝導層の外側に高抵抗のシースを配設するため、超伝導層を確実に保護すると共に、超伝導層を流れる大電流によりシースに誘起される渦電流が生じにくくなり、交流損失を低減することができるという効果を奏する。
【0019】
本願に開示する単芯超伝導線は、当該単芯超伝導線が、超伝導回転機の固定子の鉄心における凹部に収納されて巻回されるコイルであるものである。
このように、本願に開示する単芯超伝導線においては、単芯超伝導線が、超伝導回転機の固定子の鉄心における凹部に収納されて巻回されるコイルであるため、自己磁界が主体となる電磁環境下の交流損失を低減した高効率な超伝導回転機を実現することができるという効果を奏する。また、交流損失を低減させることができることから、コイルの細線化が可能となり、超伝導回転機の小型化を実現することができるという効果を奏する。さらに、コイルを細線化することで、固定子の鉄心における凹部間の距離を大きく確保することができ、ギャップ磁界を大きくして高性能な回転機を実現することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】交流損失を測定するための試料としての超伝導線の特性を示す図である。
【図2】試料線材の単位長さ、1周期当りの通電損失を示す図である。
【図3】負荷率一定で周波数10〜100Hzの範囲で交流損失を測定した結果を示す図である。
【図4】交流通電時における超伝導部、シース材のNb層、Cu層、全体の損失の電流振幅依存性を示す図である。
【図5】試料線材中の電流配分の数値計算結果を示す図である。
【図6】交流電流をMgB2試料線材に通電したときの線材内の磁界分布を示す図である。
【図7】第1の実施形態に係る単芯超伝導線の断面を示す図である。
【図8】第1の実施形態に係る単芯超伝導線について単位長当たりの線材全体の交流損失計算結果を比較したものである。
【図9】第1の実施形態に係る単芯超伝導線材を利用した超伝導モータの固定子の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態を説明する。本発明は多くの異なる形態で実施可能である。また、本実施形態の全体を通して同じ要素には同じ符号を付けている。
【0022】
(本発明の第1の実施形態)
本実施形態に係る単芯超伝導線材について図1ないし図9を用いて説明する。図1は、交流損失を測定するための試料としての超伝導線の特性を示す図、図2は、試料線材の単位長さ、1周期当りの通電損失を示す図、図3は、負荷率一定で周波数10〜100Hzの範囲で交流損失を測定した結果を示す図、図4は、交流通電時における超伝導部、シース材のNb層、Cu層、全体の損失の電流振幅依存性を示す図、図5は、試料線材中の電流配分の数値計算結果を示す図、図6は、交流電流をMgB2試料線材に通電したときの線材内の磁界分布を示す図、図7は、本実施形態に係る単芯超伝導線の断面を示す図、図8は、本実施形態に係る単芯超伝導線について単位長当たりの線材全体の交流損失計算結果を比較したもの、図9は、本実施形態に係る単芯超伝導線材を利用した超伝導モータの固定子の模式図である。
【0023】
なお、本実施形態においては、超伝導体として二ホウ化マグネシウム(MgB2)を用いた単芯超伝導線について説明する。MgB2は、21世紀初めに発見された新しい金属系超伝導体であり、約39Kの超伝導転位温度(臨界温度)を有し、大気圧下で約20Kの沸点を持つ液体水素中で電気抵抗のない超伝導状態を維持できる。しかし、現状のMgB2線材の臨界電流密度は20K中で数テスラの外部磁界が印加されると大幅に低下するため、自己磁界(自分自身に流れる電流がつくる磁界)が主体となる場合を含む低磁界応用が適当と考えられる。
【0024】
まず、本願の発明者らが鋭意努力の結果判明した、MgB2単芯線の交流損失特性について説明する。
(1)通電損失の測定
下記の表1に試料線材の諸元を示す。試料線材は、Cuとニオブ(Nb)をシース材とした単芯構造線で、線径2R3は0.8mm、Nbの外径2R2は0.685mm、超伝導フィラメントの外径2R1は0.555mmである。
【0025】
【表1】

【0026】
また、試料線材の断面図と抵抗率の温度特性を図1(a)、(b)に示す。線材には1Aの直流電流を流し、そのとき線材に設けた電圧タップ間に生じる電圧を測定して抵抗率を求める。図1(b)から、MgB2試料線材の臨界温度Tcは36Kである。MgB2の抵抗率が非常に大きく全て金属シース部の抵抗率であると仮定して、20K以下で抵抗率の値が一定となるように通電損失測定の試験温度下(26.4Kと30.3K)の金属シース部の抵抗率を外挿する。この試験温度下の金属シース部の抵抗率とNbの抵抗率からCuの抵抗率を求める。
【0027】
通電損失測定は、自己磁界中で所謂四端子法により行う。温度制御はヘリウムガスフローによる伝導冷却であり、ヒータとガス流量で調整する。サンプルホルダは銅ブロックで構成され、試料とサンプルホルダの間は電気絶縁材で熱伝導率のよい窒化アルミニウム基板が配設されている。試料温度は、この基板上の試料近くに設置した温度センサで測定する。測定温度は、26.4K、30.3Kの2点であり、測定中の温度の安定性は±0.1Kの範囲である。また、試料線材のタップ間電圧は発振器信号を参照信号としロックインアンプによって測定する。タップ間距離は10mmである。また、回路内に設置した液体窒素温度下の誘導コイルの信号を用いて測定系に生じる位相のずれを補正する。
【0028】
試料線材の単位長さ、1周期当りの通電損失を図2に示す。周波数は50Hzと100Hzである。横軸の負荷率im=Im/Icは、電流振幅Imを臨界電流Icで規格化したものである。また、曲線は臨界電流密度一定のBeanモデルを仮定したときの丸線の単位長さ、一周期当りの通電損失であり、
【0029】
【数2】

【0030】
ここで、Q0=μ0c2/πである。この図から、温度が高くなると通電損失が減少することが分かる。これは、臨界電流の温度依存性により温度が高いと臨界電流が減少するためである。次に、負荷率一定で周波数10〜100Hzの範囲で測定した結果を図3に示す。この図から、周波数が高いと損失が多少大きくなることが分かる。これは、金属シース部において通電電流の周波数に依存する渦電流損失が発生したためと推察される。
【0031】
(2)通電損失の数値解析
ここでは、超伝導フィラメント径2Rl、シース部のNbとCuの外径がそれぞれ2R2、2R3の無限長超伝導丸線モデルを考え、この超伝導線の交流損失の数値解析を行った。長手方向の中心軸をz軸とし、z方向に交流電流Iを通電するとき、超伝導丸線内の電磁界は1次元のMaxwellの方程式
【0032】
【数3】

【0033】
を満足する。ここで、Bはθ方向の局所的磁束密度、E,Jはそれぞれz方向の局所的電界と電流密度である。ただし、(4)式において、変位電流の項は無視している。試料線材のE−J特性は、超伝導体部にn値モデルを、金属シース部にオームの法則を適用すると、
【0034】
【数4】

となる。ここで、Jcは臨界電流密度、Ecは電界基準、ρmは金属シース部の抵抗率である。また、境界条件は次式で与えられる。
【0035】
【数5】

【0036】
ここで、Imは電流振幅、ωは角周波数である。式(3)、(4)を径方向に等間隔に離散化した1次元差分法により、丸線内の電磁界分布の時間変化を数値解析する(例えば、寺澤裕一,「酸化物超伝導線材の簡便な通電損失評価法の提案」,九州大学大学院システム情報科学府電気電子システム工学専攻修士論文,2002,p.10を参照)。得られた電磁界分布より、各部の単位長さ、1周期当りの交流損失Qは、
【0037】
【数6】

で与えられる。ここで、rは各部の径方向領域である。
【0038】
図4(a)は、26.4Kにおける50Hz交流通電時の超伝導部、シース材のNb層、Cu層、そして全体の損失の電流振幅依存性を示したものである。また、併せて通電損失の実験結果も表示している。この図から、全交流損失の数値計算結果は、実験結果とよく一致することが分かる。また、超伝導部の損失の数値計算結果はBeanモデルによる理論値とよく一致する。さらに、Nbシース部の損失は非常に小さく無視できるものだが、Cuシース部の損失は無視できず、超伝導部の損失と同程度の大きさであることが分かる。以上のことから、Cuシース部の損失が比較的大きいため、実験結果はBeanモデルに基づく理論値よりも大きくなるといえる。
【0039】
図4(b)の26.4Kにおける100Hz交流通電時の結果、図4(c)の30.3Kにおける50Hz交流通電時の結果、図4(d)の30.3Kにおける100Hz交流通電時の結果も、上記の結果と同様である。ただし、30.3Kにおける結果において、電流振幅が大きい場合、実験結果が数値計算結果より多少大きいが、その原因として交流損失に伴う発熱により試料線材の温度が上昇していることが考えられる。なお、図4(a)〜(d)の三角(▲)記号と菱形(◆)記号が示す結果については後述する。
【0040】
次に、試料線材中の電流配分の数値計算結果を図5に示す。横軸に負荷率をとり、全電流を1として各部に流れる電流の割合を表す。この結果から、金属シース部に流れる電流は無視できるほど微小であり、ほとんど超伝導部に流れることが分かる。ただし、臨界電流値に近いところでは超伝導部に流れる電流は多少減少する。
【0041】
(3)渦電流損失の理論表式
図5より、MgB2試料線材に交流通電した場合、ほとんどの電流が超伝導部に流れるため、ここでは全電流が超伝導部のみに流れると仮定して、金属シース部で発生する渦電流損失の理論表式を導出する。まず、交流電流をMgB2試料線材に通電したときの線材内の磁界分布を図6に示す。超伝導体表面の磁界Bi(t)と最大磁界Bimは通電電流I(t)(=Imcosωt)を用いて、
【0042】
【数7】

と表される。交流ピーク時の磁束フロント位置r1は、次式で与えられる。
【0043】
【数8】

ここで、Bpは中心到達磁界であり、
【0044】
【数9】

と表わされる。また、減磁過程における磁束の折れ曲がり位置r2は、次式で与えられる。
【0045】
【数10】

したがって、超伝導体内部の鎖交磁束をΦとすると、超伝導体表面における電界E(R1)は、
【0046】
【数11】

と表わせる。また、(13)式を用いて超伝導フィラメント表面上のポインティングベクトルを1周期にわたって積算すると、(2)式と同じ結果が得られる。つぎに、超伝導フィラメント外部の誘導電界は、
【0047】
【数12】

となる。よって、金属シース部における損失Qe
【0048】
【数13】

と表わされる。ここで、fは周波数、Sm、ρm、rmはそれぞれ金属シース部の断面積、抵抗率、平均半径である。この理論表式から、渦電流損失は周波数fと抵抗率ρmの逆数に比例することが分かる。
【0049】
ここで、交流損失の電流振幅依存性について説明する。図4(a)〜(d)における三角記号(▲)と菱形記号(◆)が、理論表式から求められるCuシース部、Nbシース部での単位長さ、1周期当りの渦電流損失の電流振幅依存性を示している。これらの図から、求めた渦電流損失の理論表式は数値解析結果を非常によく再現しているといえる。また、渦電流損失は振幅の小さいところでは2乗に、大きいところでは3乗に比例している。さらに、図より電流振幅Imが臨界電流Icに近づくと、Cuシース部に多少の電流が分流して全ての電流が超伝導部に流れるという仮定が成り立たなくなるため、理論値は数値計算結果よりも大きくなることが分かる。以上のことから、MgB2試料線材の金属シース部で見られた損失は渦電流損失であると考えられ、また求めた理論表式はそれをよく説明しているといえる。
【0050】
このように、図1(a)のような構造を持つ線材の通電損失は、Beanモデルに基づくMgB2フィラメント部の履歴損失と、Cuシース部の渦電流損失の和で与えられる。つまり、比較的大きな抵抗率をもつNbシース部の損失は非常に小さく無視できるが、MgB2フィラメント部に流れる大部分の通電電流により、比較的小さな抵抗率をもつCuシース部に渦電流が誘起され、Beanモデルに基づく理論表式よりも大きな交流損失が発生する。
【0051】
そこで、超伝導線の構造を図7に示すような単芯超伝導線とする。図7(a)は、低抵抗材からなる安定化層2と超伝導体からなる超伝導層3との間にバリア層4を配設した構造の単芯超伝導線1であり、図7(b)は、安定化層2と超伝導層3との間にバリア層4を配設しない構造の単芯超伝導線1であり、図7(c)は、図7(a)の単芯超伝導線の超伝導層3にのみ電流が流れた場合の線材内の磁界分布である。超伝導体をMgB2とし、低抵抗材をCuとした場合、単芯超伝導線1の製造工程において、MgB2とCuとが反応してしまうため、間にバリア層4が必要となる。一方、超伝導体をMgB2とし、低抵抗材を純鉄とした場合は、単芯超伝導線1の製造工程において、純鉄がバリア層4の役目を兼用することができるため、別途バリア層4を形成する必要がない。したがって、材料に応じて図7(a)の構造にするか、図7(b)の構造にするかが決定される。
【0052】
また、超伝導層3の内半径をR0、外半径をR1とすると、Beanモデルに基づく単位長あたりの履歴損失Qは(1)式となり、幾何学的係数cに比例する。したがって、超伝導層3の内側に安定化層2を有する図7(a)、(b)のような構造にすることで、超伝導層3が円筒状となり、外半径R1が相対的に大きくなってcが小さくなり、履歴損失が小さくなる。さらに、超伝導層3の外側には、高抵抗材からなる高抵抗シース層5が配設されている。この高抵抗シース層5により、超伝導層4を確実に保護すると共に、高抵抗シース層5が高抵抗であるため、超伝導層4を流れる大部分の電流により誘起される渦電
流が生じにくくなり、交流損失を低減することができる。
【0053】
超伝導層3にのみ電流が流れた場合の磁界は、図7(c)に示すような分布となり、この図から明らかなように、超伝導層3の内側の安定化層2は磁界がゼロであることがわかる。すなわち、図6に示したような安定化層における渦電流がなくなり、交流損失を低減することができる。
【0054】
図7(a)の構造における損失低減効果を確認するために、図1(a)の構造との比較を行った結果を説明する。まず、超伝導部のE−J特性としてn値モデルを仮定し、更に単芯超伝導線1の各層の断面積を図1(a)の場合と同じとする条件で設計し、臨界電流及びn値も図1(a)の場合と同じと仮定する。数値解析には円柱座標系の径方向を等間隔に離散化した1次元差分法を用いて電磁界分布の時間変化を求める。差分法により得られた電磁界分布より、交流損失は局所的電界と電流密度の積を径方向に空間積分し、1周期にわたり時間積分することで求められる。
【0055】
解析結果として26.4K、100Hzにおける単位長当たりの線材全体の交流損失計算結果を比較したものを図8に示す。このとき、線径が0.8mm、臨界電流Icが192A、n値が116である。図8より、図7(a)の場合の線材において、全体の通電損失が図1(a)の場合の3分の1程度まで下がっており、低損失な線材であることが明らかである。
【0056】
なお、単芯超伝導線1の構造において、低抵抗材として例えば、銅、アルミ、銀等を使用することができ、バリア層の材料且つ低抵抗材として例えば、純鉄等を使用することができ、バリア層や高抵抗シースとして例えば、Nb、ステンレス鋼、CuNi、Ta等を使用することができ、超伝導体としてMgB2、Bi系酸化物、Y系酸化物、希土類系酸化物等を使用することができる。また、上記単芯超伝導線1は、超伝導モータや超伝導発電機等の超伝導回転機の固定子に巻回されるコイル、超伝導電流リード等に適用することができるものである。
【0057】
以下に単芯超伝導線1を超伝導回転機に適用した場合について説明する。
【0058】
単芯超伝導線1は超伝導回転機の固定子の鉄心における凹部に収納されて巻回されるコイルとして利用することができる。図9は、単芯超伝導線1を超伝導モータの固定子のコイルとして利用した場合の模式図である。図9(a)が固定子全体の模式図であり、図9(b)が固定子の一部拡大図である。
【0059】
なお、ここでは超伝導モータについて説明するが、同様の構成で超伝導発電機に利用することも可能である。
【0060】
図中のa、b、cは、それぞれa相、b相、c相を示しており、符号は電流の向きを示している。各鉄心スロットには位相が異なる2つのコイルが収納され(各コイルのターン数は任意とし、例えば1つのスロットに3ターンずつコイルが巻回されているものとする)、それらの電流の和で与えられる正味の電流はia+ib+ic=0(ia、ib、icは互いに120度ずれた三相交流電流とする)より、反対向きの残りの相の電流に等しくなる。すなわち、ia+ib=−icとなる。
【0061】
コイルの巻き方は、例えば図9(b)に示すように、+a11を通って収納された1本の単芯超伝導線1が−a12を通って収納され、それが決まった数のターン数(例えば、1〜10ターンのうち予め設計されたターン数)で巻回されると、次に+a21を通って収納された単芯超伝導線1が−a22を通って収納され、それが決まった数のターン数で巻回され
ると、次に+a31を通って収納された単芯超伝導線1が−a32を通って収納され、それが決まった数のターン数で巻回される。他の±a、±b、±cの各スロットで上記のように単芯超伝導線1が巻回されて超伝導モータの固定子が形成される。回転子については、固定子に対してトルクが得られる一般的に知られている構成であればよく、ここでの詳細な説明は省略する。また、回転子については、必ずしも超伝導体を用いる必要はなく、銅線やアルミ、永久磁石等であってもよい。
【0062】
一般的に全超伝導モータの固定子巻線については、鉄心の飽和磁界(〜約2T)以上の発生磁界を利用するため、鉄心における凹部には収納されず、外部磁界が主体となるものであるが、本実施形態の場合は、鉄心を利用し、コイルを単芯超伝導線1で形成して、鉄心における凹部に収納するものである。すなわち、固定子側のコイルで生じる外部磁界が透磁率の高い鉄心を通ることで、自己磁界を主体として回転子を回転させることができる。従って、本実施形態に係る単芯超伝導線1のような自己磁界を主体として交流損失を低減させることができる超伝導線をコイルとして利用することが非常に有効となる。
【0063】
このように、単芯超伝導線1を超伝導回転機の固定子の鉄心における凹部に収納されて巻回されるコイルとして利用することで、交流損失を低減した高効率な超伝導回転機を実現することができる。また、交流損失を低減させることができることから、コイルの細線化が可能となり、超伝導回転機の小型化を実現することができる。さらに、コイルを細線化することで、固定子の鉄心における凹部間の距離d2を大きく確保することができ(図9(b)のd1を小さくすることで、d1とd2との比率を大きくすることができ)、ギャップ磁界を大きくして高性能な回転機を実現することができる。さらにまた、移送する対象を液体水素とすると、その移送すべき液体水素自身が冷媒として働くため、冷却ペナルティを考慮する必要がなくなり、既存の常伝導モータに比べはるかに低消費電力で液体水素用ポンプを駆動可能になる。
【0064】
以上の前記実施形態により本発明を説明したが、本発明の技術的範囲は実施形態に記載の範囲には限定されず、この実施形態に多様な変更又は改良を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0065】
1 単芯超伝導線
2 安定化層
3 超伝導層
4 バリア層
5 高抵抗シース層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
断面円形状の超伝導線の内側に低抵抗材からなる安定化層を配設し、当該安定化層の外側に超伝導体からなる超伝導層を配設し、前記超伝導層が、長手方向に対して垂直な断面において周方向に前記超伝導体を連続して形成されていることを特徴とする単芯超伝導線。
【請求項2】
請求項1に記載の単芯超伝導線において、
前記低抵抗材が銅(Cu)であり、前記超伝導体が二ホウ化マグネシウム(MgB2)であり、
前記安定化層と超伝導層との間に、前記銅と二ホウ化マグネシウムとの反応を防止するバリア層を有することを特徴とする単芯超伝導線。
【請求項3】
請求項1に記載の単芯超伝導線において、
前記低抵抗材が純鉄であることを特徴とする単芯超伝導線。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載の単芯超伝導線において、
前記超伝導層の外側に高抵抗のシースを配設することを特徴とする単芯超伝導線。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載の単芯超伝導線が、超伝導回転機の固定子の鉄心における凹部に収納されて巻回されるコイルであることを特徴とする単芯超伝導線。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図8】
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【図9】
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【図1】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−59511(P2012−59511A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−201185(P2010−201185)
【出願日】平成22年9月8日(2010.9.8)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成22年3月19日 Institute of Physics,IOP Publishing Ltd.発行の「IOP PUBLISHING」に発表
【出願人】(510242532)
【出願人】(510242543)
【Fターム(参考)】