説明

単量体MIFを含む抗炎症剤

【課題】 マクロファージ遊走阻止因子(MIF)を用いた新規の炎症作用を抑制するた
めの医薬を提供すること
【解決手段】 本発明は、MIFを単量体の形態で含む、新規の抗炎症剤を提供する。ま
た、本発明は、このような単量体MIFを調製するための方法も提供される。本発明が用
いられる炎症性疾患としては、慢性リウマチ様関節炎や遅延型アレルギーなどが挙げられ
る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規の抗炎症剤に関する。より具体的には、マクロファージ遊走阻止因子(
MIF)を単量体で含む、新規の抗炎症剤に関する。
【背景技術】
【0002】
マクロファージ遊走阻止因子(MIF)は、もともとは、T細胞由来のリンホカインと
して同定された(Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 1966; 56: 72-7;Science 1966;153:
80-2)。最近の研究により、MIFはさまざまなタイプの細胞で遍在的に発現されること
が明らかになり、広域スペクトラム免疫系に関与する多能性サイトカインとして再評価さ
れている(FASEB. J.1996;7:19-24;J. Interferon. Cytokine Res 2000;20:751-62)。簡
単に述べると、MIFは、一連の刺激に応答して放出される下垂体ホルモンであり(Natu
re 1993;365:756-9)、主としてマクロファージによって放出される炎症誘発性サイトカ
インであり(J Exp Med 1994;179:1895-902)、そして免疫応答に不可欠なT細胞活性化
因子である(Proc Natl Acad Sci U.S.A.1996;93:7849-54)と認識されている。MIFは
、グルココルチコイドによって誘導され、それらの抗炎症機能および免疫抑制機能を妨害
するという、ユニークなタンパク質である(Nature 1995;377:68-71)。他方、Meyer-Sie
glerらは、前立腺腺癌およびその転移性腫瘍におけるMIF mRNAレベルが、正常前
立腺組織におけるレベルよりも高いと報告した(Urology 1996;48:448-52)。さらにまた
、MIFは血管新生、腫瘍成長および転移に関与することも知られている(Int J Mol Me
d 2003;12:633-41)。
【0003】
ラット及びヒトのMIFの立体構造を解析したところ、三量体を形成していることが報
告されている(杉本ら、構造生物学 vol3、No.1、1997年)。三量体MIFを構成するM
IFは、2つのβαβモチーフが疑似の2回軸で結ばれた構造をしている。4本のβスト
ランドがβシート構造を形成しており、2本のαヘリックスが隣接して逆平行に配置して
いる。さらにラットでは1本の、ヒトでは3本のβストランドが存在し、これらが隣接す
るMIFのβシートと水素結合を形成することにより、三量体構造が形成されている(Na
t. Struct. Biol.1996;3:259-66, FEBS Lett.1996;389:145-8)。
【0004】
さらに、例えば、WO2007/138961には、MIFはチオレドキシン(Thioredoxin:TRX
)と相互作用することが開示されている。ヒトTRXは、12.4kDaの多機能ポリペプチド
であり、その活性部位:−Cys-Gly-Pro-Cys-などの2つのシステイン残基間でのジスルフ
ィド/ジチオール交換反応による酸化還元反応(レドックス)活性を有する(Nishihara,
J., J. Interferon Cytokine Res.(2000)20:751-762)。このTRXは、MIFに直接結
合することによって、MIFの活性を抑制するか、またはMIFの細胞内への取り込みを
抑制することによって、MIFによって引き起こされる炎症反応などを抑制できることが
知られている(WO2007/138961)。
【0005】
上記のように、MIFは生体内で各種重要な生理機能を担っているが、一方では、この
タンパク質が過剰に発現することにより過度の炎症反応を引き起こす。例えば、MIFの
過剰発現は慢性リウマチ様関節炎や遅延型アレルギーなど、炎症を伴う諸疾患に関与する
ことが明らかとなっている。このことから、MIFの生理活性を制御することが各種炎症
疾患の症状の緩和につながるため、製薬業界においても非常に有用な創薬ターゲットとし
て注目されている。このような医薬の例として、例えば、MIFのmRNAと相互作用するヌ
クレオチドを含む医薬などが挙げられ、これを用いて、MIFの発現抑制により癌の転移
を予防できることが開示されている(WO2006/085700)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際出願公開第2007/138961号パンフレット
【特許文献2】国際出願公開第2006/085700号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような状況の下で、新たな抗炎症剤を開発することが望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、TRXにより生じたMIF単量体が、免疫系の培養細胞において炎症促
進性サイトカインであるIL−2の発現を抑制することを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の抗炎症剤、方法および使用などを提供する。
(1)マクロファージ遊走阻止因子(MIF)を単量体の形態で含有する、抗炎症剤、
(2)三量体MIFを形成できないMIF変異体を含有する、抗炎症剤、
(3)三量体MIFとチオレドキシン(TRX)とを含む、抗炎症剤、
(4)前記単量体MIFが、以下(a)〜(f)のいずれかのポリヌクレオチドによりコードさ
れる、(1)〜(3)のいずれかに記載の抗炎症剤:
(a) 配列番号:1で表される塩基配列を含むポリヌクレオチド、
(b) 配列番号:2のアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド、
(c) 配列番号:2のアミノ酸配列において1〜15個のアミノ酸が欠失、置換、挿入お
よび/もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつMIFの生理活性を有するタンパ
ク質をコードするポリヌクレオチド、
(d) 配列番号:2のアミノ酸配列に対して、80%以上の相同性を有するアミノ酸配列
を有し、かつMIFの生理活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド、
(e) 配列番号:1と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな
条件下でハイブリダイズし、かつMIFの生理活性を有するタンパク質をコードするポリ
ヌクレオチド、または
(f) 配列番号:2のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチドと
ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつMIFの生理活性を有するポリヌク
レオチド、
(5)前記炎症性疾患が、慢性リウマチ様関節炎、遅延型アレルギー、動脈硬化、子宮内
膜症、急性呼吸急迫症候群、気管支炎、腎臓移植による障害、急性心筋梗塞、糖尿病、全
身性エリテマトーデス、クローン病、アトピー性皮膚炎、腎炎、肝炎、肺炎、関節炎、Ig
A腎症、エンドトキシンショック、及び感染症による敗血症からなる群より選択される炎
症性疾患を治療する、(1)〜(4)のいずれか一項に記載の抗炎症剤、
(5a)(1)〜(5)のいずれか一項に記載の抗炎症剤を含む医薬組成物、
(6)三量体MIFと酸化還元剤とを接触させる工程を含む、三量体MIFから単量体M
IFを調製する方法、
(6a)三量体MIFと酸化還元酵素または異性化酵素とを接触させる工程を含む、三量
体MIFから単量体MIFを調製する方法、
(7)前記酸化還元剤がヒトTRXまたは酵母TRXである、(6)に記載の方法、
(8)生じた単量体MIFとヒトTRXまたは酵母TRXとを分離する工程をさらに含む
、(7)に記載の方法、
(9)炎症性疾患を抑制するための薬剤の製造を目的とする、単量体MIFの使用、なら
びに
(10)前記炎症性疾患が、慢性リウマチ様関節炎、遅延型アレルギー、動脈硬化、子宮
内膜症、急性呼吸急迫症候群、気管支炎、腎臓移植による障害、急性心筋梗塞、糖尿病、
全身性エリテマトーデス、クローン病、アトピー性皮膚炎、腎炎、肝炎、肺炎、関節炎、
IgA腎症、エンドトキシンショック、及び感染症による敗血症からなる群より選択される
、(9)に記載の使用。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、MIFを単量体で含む、炎症性疾患を抑制するための新規の医薬を提供
できる。また、このような単量体MIFを調製するための方法もまた提供できる。上記炎
症性疾患としては、慢性リウマチ様関節炎や遅延型アレルギーなどが挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、MIF三量体、TRX、MIF三量体とTRXとの混合物について、各フラクションのOD280における吸光度をプロットした、ゲル濾過クロマトグラフィーの結果を示す。
【図2】図2は、図1のピークについての分子量を推定するための検量線を示す。
【図3】図3は、イオン交換クロマトグラフィーのピーク画分または素通り液中に含まれるTRXまたはMIFを検出するため、一次抗体として抗TRX抗体または抗MIF抗体を用いたウエスタンブロットの結果を示す。
【図4】図4は、質量分析のための試料とするため、イオン交換クロマトグラフィーにより分離した単量体MIFのSDS-PAGEを行い、染色した結果を示す。
【図5】図5は、単量体MIF(濃度:OD280=0.1)30μLをTHP−1細胞の培養上清に添加し、1時間後、3時間後、5時間後、一晩(約18時間後)に、細胞内に発現されるIL−2のmRNA発現量を定量的PCR法により測定した結果を示す。
【図6】図6は、単量体MIF溶液(濃度OD280≒0.175)の5μL、10μL、20μLまたは30μLをTHP−1細胞の培養上清に添加し、1時間のインキュベート後、細胞内に発現されるIL−2のmRNA発現量を定量的リアルタイムPCRにより測定した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、マクロファージ遊走阻止因子(MIF)を単量体の形態で含む、新規の抗炎
症剤を提供する。以下にこれを詳述する。
【0013】
(MIF)
マクロファージ遊走阻止因子(MIF)は、炎症性疾患の促進などの機能を有するサイ
トカインである。より詳細には、マクロファージ、T細胞、下垂体細胞などによる免疫応
答、腫瘍形成、腫瘍の転位などに重要な役割を果たすことが知られている(例えば、WO20
06/085700など)。
【0014】
本明細書の全体を通して、「MIF」という用語は、NCBI Nucleotide Databaseにアク
セッション番号NC000022として登録されている、845ヌクレオチドからなる遺伝子がコー
ドするタンパク質を意味する。ただし、例えば、その遺伝子のヌクレオチド配列上で1ま
たはそれ以上のヌクレオチドが置換、欠失、付加または挿入されている変異体も包含され
る。
【0015】
MIFによって引き起こされる生体における障害としては、T細胞、単球、マクロファ
ージ、樹状細胞、メサンギウム細胞、尿細管上皮細胞、角膜上皮細胞、肝細胞、卵細胞、
セルトリ細胞、ケラチノサイト、骨芽細胞、滑膜細胞、脂肪細胞、アストロサイト、癌細
胞、粘膜、脳下垂体などを含む細胞又は組織における炎症が挙げられる。
【0016】
MIFによって引き起こされる疾患又は障害としては、慢性リウマチ様関節炎、遅延型
アレルギー、動脈硬化、子宮内膜症、急性呼吸急迫症候群、気管支炎、腎臓移植による障
害、急性心筋梗塞、糖尿病、全身性エリテマトーデス、クローン病、アトピー性皮膚炎、
腎炎、肝炎、肺炎、関節炎、IgA腎症、エンドトキシンショック、感染症による敗血症な
どが挙げられる。
【0017】
本発明の抗炎症剤は、MIFを単量体で含む。MIFタンパク質は、合成後速やかに三
量体化されると考えられている(Yeast two-hybrid systemの実験結果による、未公表)
。MIFは分子内に4つのシステイン残基を有するが、X線結晶構造解析の結果から、こ
れらのシステイン残基は三量体MIF中ではジスルフィド結合を形成していないことが明ら
かとなっている。しかし、分子内S−S結合やそれ以外のアフィニティー作用などの三量
体化のメカニズムは、未だ解明されていない。
【0018】
(MIF単量体)
本発明において、三量体MIFを単量体MIFにする方法としては、三量体MIFと酸
化還元剤とを接触させる工程を含む、三量体MIFを単量体MIFに分解する方法が提供
される。本明細書において「酸化還元剤」とは、タンパク質に対して酸化還元作用を有す
る物質であり、例えば、この酸化還元剤と三量体MIFとを接触させたときに、酸化還元
作用によりMIF三量体を単量体にし得るものであれば如何なるものでも使用することが
できる。本発明において使用される酸化還元剤としては、好ましくは酸化還元酵素(オキ
シドレダクターゼ)または異性化酵素(イソメラーゼ)などの酵素、およびβ−メルカプ
トエタノール、チジオトレイトール(DTT)など、ならびにこれらの組み合わせが挙げ
られる。本発明において使用される好ましい酸化還元酵素としては、ジスルフィド酸化還
元酵素、グルタチオンペルオキシダーゼ、グルタチオンレダクターゼ、含硫化物作用オキ
シドレダクターゼ、チトクロムP450、亜硫酸オキシダーゼなどが挙げられる。あるいは本
発明において使用される異性化酵素としては、分子内オキシドレダクターゼ、多重結合イ
ソメラーゼ、トロンボキサンシンターゼ、タンパク質ジスルフィドイソメラーゼ(PDI
)などもまた挙げられる。より好ましくは、本発明において使用される酸化還元酵素はジ
スルフィド酸化還元酵素であり、具体的には、チオレドキシン(TRX)、DsbA蛋白
質、DsbB蛋白質、DsbC蛋白質、DsbD蛋白質などである。さらにより好ましく
は、本発明において使用される酸化還元剤はTRXであり、最も好ましくはヒトTRXま
たは酵母TRXである。一つの実施形態において、酸化還元剤としてヒトTRXを使用し
て、トリス緩衝塩溶液(20mM Tris−HCl、150mM NaCl、1mM
DTT、pH8.0)にそれぞれ透析した三量体MIF溶液とTRX溶液を混合し、20
℃で2時間インキュベートすることにより、単量体MIFを得る。
【0019】
単量体MIFを調製する方法において、例えばトリス緩衝塩溶液(20mM Tris
−HCl、150mM NaCl、1mM DTT、pH8.0)にそれぞれ透析された
三量体MIFとTRXとを接触させて、20℃で2時間インキュベートする。このTRX
は、前述のように、その活性部位:−Cys-Gly-Pro-Cys-などの2つのシステイン残基間で
のジスルフィド/ジチオール交換反応による酸化還元反応(レドックス)活性を有する。
他の活性部位としては、-Cys-Pro-Tyr-Cys-、-Cys-Pro-His-Cys-、-Cys-Pro-Pro-Cys-が
挙げられる。このTRXにはファミリーが存在し、例えば、ヒトを含む動物由来のTRX
(例えば、ヒトのTRX:NCBIのアクセッション番号:AAH03377)、細菌のTRX(
例えば、大腸菌のTRX:NCBIのアクセッション番号:AAA24693)、酵母のTRX(
NCBIのアクセッション番号:AAA35170)、ヒトADF活性を有するポリペプチド(ア
クセッション番号:マウス:NM_011660, ラット:XM_001065184)、ならびにヒト及び大
腸菌のグルタレドキシン(それぞれアクセッション番号:CAA54094、AAA23936)等が挙げ
られる。好ましくは、本発明において使用されるTRXは、上記のヒトTRXまたは酵母
TRXである。
【0020】
(MIF変異体)
また、本発明の抗炎症剤に含まれる単量体MIFは、三量体を形成できないMIF変異
体であってもよい。好ましくはMIF変異体は、単量体として安定に存在し、炎症抑制作
用を有する。より好ましくは、MIF変異体は、IL−2発現を抑制する能力を有する。
【0021】
本発明の抗炎症剤に含まれる単量体MIFをコードする遺伝子は、(a)配列番号:1で
表される塩基配列のからなるポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド(具体的には
、DNA、以下、これらを単に「DNA」とも称する);及び(b)配列番号:2のアミノ酸配列
を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチドを含む。
本発明で対象とするDNAは、上記のMIFタンパク質をコードするDNAに限定されるもので
はなく、このタンパク質と機能的に同等なタンパク質をコードする他のDNAを含む。機能
的に同等なタンパク質としては、例えば、(c)配列番号:2のアミノ酸配列において1〜1
5個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、
かつMIFタンパク質の生理活性を有するタンパク質が挙げられる。このようなタンパク
質としては、配列番号:2のアミノ酸配列において、例えば、1〜15個、1〜14個、1〜
13個、1〜12個、1〜11個、1〜10個、1〜9個、1〜8個、1〜7個、1〜6個(1〜数個
)、1〜5個、1〜4個、1〜3個、1〜2個、1個のアミノ酸残基が欠失、置換、挿入およ
び/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつMIFの生理活性を有するタンパク質
が挙げられる。上記アミノ酸残基の欠失、置換、挿入および/または付加の数は、一般的
には小さい程好ましい。また、このようなタンパク質としては、配列番号:2のアミノ酸
配列に対して、約80%以上、81%以上、82%以上、83%以上、84%以上、85%以上、86%
以上、87%以上、88%以上、89%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%
以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、99.1%以上、99.2%以上、
99.3%以上、99.4%以上、99.5%以上、99.6%以上、99.7%以上、99.8%以上、99.9%以
上の相同性を有するアミノ酸配列を有し、かつMIFタンパク質の生理活性を有するタン
パク質が挙げられる。上記相同性の数値は一般的に大きい程好ましい。本発明において、
上記MIFの生理活性とは、好ましくは単量体MIFの有する炎症抑制作用を指す。より
好ましくは、単量体MIFが有するIL−2発現を抑制する能力を指す。
【0022】
また、本発明は、(e)配列番号:1の塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレ
オチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつMIFタンパク質の生理活
性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;及び
(f)配列番号:2のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチドとス
トリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつMIFタンパク質の生理活性を有する
タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチドも包含する。
【0023】
本明細書中、「ポリヌクレオチド」とは、DNAまたはRNAを意味する。
【0024】
本明細書中、「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド」と
は、例えば、配列番号:1の塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチド、ま
たは配列番号:2のアミノ酸配列をコードする塩基配列からなるポリヌクレオチドの全部
または一部をプローブとして、コロニーハイブリダイゼーション法、プラークハイブリダ
イゼーション法またはサザンハイブリダイゼーション法などを用いることにより得られる
ポリヌクレオチドをいう。ハイブリダイゼーションの方法としては、例えば"Sambrook &
Russell, Molecular Cloning: A Laboratory Manual Vol. 3, Cold Spring Harbor, Labo
ratory Press 2001"、"Ausubel, Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley
& Sons 1987-1997"などに記載されている方法を利用することができる。
【0025】
本明細書中、「ストリンジェントな条件」とは、低ストリンジェントな条件、中ストリ
ンジェントな条件及び高ストリンジェントな条件のいずれでもよい。「低ストリンジェン
トな条件」は、例えば、5×SSC、5×デンハルト溶液、0.5%SDS、50%ホル
ムアミド、32℃の条件である。また、「中ストリンジェントな条件」は、例えば、5×
SSC、5×デンハルト溶液、0.5%SDS、50%ホルムアミド、42℃の条件であ
る。「高ストリンジェントな条件」は、例えば、5×SSC、5×デンハルト溶液、0.
5%SDS、50%ホルムアミド、50℃の条件である。これらの条件において、温度を
上げるほど高い相同性を有するDNAが効率的に得られることが期待できる。ただし、ハ
イブリダイゼーションのストリンジェンシーに影響する要素としては温度、プローブ濃度
、プローブの長さ、イオン強度、時間、塩濃度など複数の要素が考えられ、当業者であれ
ばこれら要素を適宜選択することで同様のストリンジェンシーを実現することが可能であ
る。
【0026】
なお、ハイブリダイゼーションに市販のキットを用いる場合は、例えばAlkphos Direct
Labelling Reagents(アマシャムファルマシア社製)を用いることができる。この場合
は、キットに添付のプロトコルにしたがい、標識したプローブとのインキュベーションを
一晩行った後、メンブレンを55℃の条件下で0.1%(w/v) SDSを含む1次洗浄バ
ッファーで洗浄後、ハイブリダイズしたDNAを検出することができる。
【0027】
上記以外にハイブリダイズ可能なポリヌクレオチドとしては、FASTA、BLAST
などの相同性検索ソフトウェアにより、デフォルトのパラメーターを用いて計算したとき
に、配列番号:1の塩基配列、または配列番号:2のアミノ酸配列をコードするDNAと
約60%以上、約70%以上、71%以上、72%以上、73%以上、74%以上、75%以上、76%以
上、77%以上、78%以上、79%以上、80%以上、81%以上、82%以上、83%以上、84%以
上、85%以上、86%以上、87%以上、88%以上、89%以上、90%以上、91%以上、92%以
上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、99.1%
以上、99.2%以上、99.3%以上、99.4%以上、99.5%以上、99.6%以上、99.7%以上、99
.8%以上、または99.9%以上の相同性を有するDNAをあげることができる。
【0028】
なお、アミノ酸配列や塩基配列の相同性は、カーリンおよびアルチュールによるアルゴ
リズムBLAST(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 872264-2268, 1990; Proc Natl Acad S
ci USA 90: 5873, 1993)を用いて決定できる。BLASTのアルゴリズムに基づいたB
LASTNやBLASTXと呼ばれるプログラムが開発されている(Altschul SF, et al
: J Mol Biol 215: 403, 1990)。BLASTNを用いて塩基配列を解析する場合は、パ
ラメーターは、例えばscore=100、wordlength=12とする。また、BLASTXを用いてア
ミノ酸配列を解析する場合は、パラメーターは、例えばscore=50、wordlength=3とする。
BLASTとGapped BLASTプログラムを用いる場合は、各プログラムのデフ
ォルトパラメーターを用いる。
【0029】
上記したポリヌクレオチドは、公知の遺伝子工学的手法または公知の合成手法によって
取得することが可能である。
【0030】
さらに別の実施形態において、本発明の抗炎症剤には、上記ポリヌクレオチド(a)〜(f)
のいずれかにコードされるタンパク質が含まれる。好ましくは、このタンパク質は、配列
番号:2のアミノ酸配列において1〜15個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/もし
くは付加されたアミノ酸配列からなり、かつMIFの生理活性を有するタンパク質である
。このようなタンパク質としては、配列番号:2のアミノ酸配列と上記したような相同性
を有するアミノ酸配列を有し、かつMIFの生理活性を有するタンパク質が挙げられる。
また、このようなタンパク質としては、配列番号:2のアミノ酸配列において、上記の数
のアミノ酸残基が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなり、か
つMIFの生理活性を有するタンパク質が挙げられる。このようなタンパク質は、「モレ
キュラークローニング第3版」、「カレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バ
イオロジー」、“Nuc. Acids. Res., 10, 6487 (1982)”、“Proc. Natl. Acad. Sci. US
A, 79, 6409 (1982)”、“Gene, 34, 315 (1985)”、“Nuc. Acids. Res., 13, 4431 (19
85)”、“Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 82, 488 (1985)”等に記載の部位特異的変異導
入法を用いて、取得することができる。
【0031】
本発明において用いられるタンパク質のアミノ酸配列において1以上のアミノ酸残基が
欠失、置換、挿入および/または付加されたとは、同一配列中の任意かつ1もしくは複数
のアミノ酸配列中の位置において、1または複数のアミノ酸残基の欠失、置換、挿入及び
/又は付加があることを意味し、欠失、置換、挿入及び付加のうち2種以上が同時に生じ
てもよい。
【0032】
以下に、相互に置換可能なアミノ酸残基の例を示す。同一群に含まれるアミノ酸残基は
相互に置換可能である。A群:ロイシン、イソロイシン、ノルロイシン、バリン、ノルバ
リン、アラニン、2−アミノブタン酸、メチオニン、o−メチルセリン、t−ブチルグリシ
ン、t−ブチルアラニン、シクロヘキシルアラニン; B群:アスパラギン酸、グルタミン
酸、イソアスパラギン酸、イソグルタミン酸、2−アミノアジピン酸、2−アミノスベリン
酸; C群:アスパラギン、グルタミン; D群:リジン、アルギニン、オルニチン、2,4
−ジアミノブタン酸、2,3−ジアミノプロピオン酸; E群:プロリン、3−ヒドロキシプ
ロリン、4−ヒドロキシプロリン; F群:セリン、スレオニン、ホモセリン; G群:フ
ェニルアラニン、チロシン。
【0033】
また、本発明の抗炎症剤に含まれる単量体MIFは、Fmoc法(フルオレニルメチルオキ
シカルボニル法)、tBoc法(t−ブチルオキシカルボニル法)等の化学合成法によっても
製造することができる。また、アドバンスドケムテック社製、パーキンエルマー社製、フ
ァルマシア社製、プロテインテクノロジーインストゥルメント社製、シンセセルーベガ社
製、パーセプティブ社製、島津製作所等のペプチド合成機を利用して化学合成することも
できる。
【0034】
(製剤)
本明細書において用いる「治療」なる用語は、一般的には、ヒト及びヒト以外の哺乳動
物の症状を改善させることを意味する。また「改善」なる用語は、例えば、本発明の治療
剤を投与しない場合と比較して、疾患の程度が軽減する場合及び悪化しない場合を指し、
予防という意味をも包含する。さらに「医薬組成物」なる用語は、本発明において有用な
活性成分である単量体MIFと医薬の調製において用いられる担体等の添加物とを含有す
る組成物を意味する。
【0035】
本発明で用いる単量体MIFとしては、例えば、酸化還元剤との接触により得られた単
量体MIF、三量体を形成できないMIF変異体、酸化還元剤と合わされた三量体MIF
、またはこれらの薬学的に許容し得る塩もしくは糖鎖などの修飾体などが例示されている

【0036】
なお、本明細書中、「単量体MIFを含有する」という用語は、単量体MIFの医薬的
に許容し得る形態(例えば、その塩、エステル、アミド、水和または溶媒和形態、ラセミ
混合物、光学的に純粋な形態等)での使用を全て包含する意味で用いられる。
【0037】
したがって、本発明において用いられる有効成分としての単量体MIFはフリー体であ
っても、医薬的に許容される塩であってもよい。このような「塩」は、酸塩と塩基塩を含
む。酸塩としては、たとえば、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、硝酸塩、硫酸塩
、重硫酸塩、リン酸塩、酸性リン酸塩、酢酸塩、乳酸塩、クエン酸塩、酸性クエン酸塩、
酒石酸塩、重酒石酸塩、コハク酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、グルコン酸塩、糖酸塩
、安息香酸塩、メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、p−
トルエンスルホン酸塩、1,1'−メチレン−ビス−(2−ヒドロキシ−3−ナフトエ酸
)塩などが挙げられる。塩基塩としては、たとえば、ナトリウム塩、カリウム塩などのア
ルカリ金属塩、カルシウム塩、マグネシウム塩などのアルカリ土類金属塩、アンモニウム
塩、N−メチルグルカミン塩などの水溶性アミン付加塩、低級アルカノールアンモニウム
塩、薬学的に許容することができる有機アミンの他の塩基から誘導される塩を挙げること
ができる。
【0038】
本発明の抗炎症剤の投与形態は特に制限は無く、経口的あるいは非経口的に投与するこ
とが出来る。本発明の抗炎症剤の有効成分は単独で、あるいは組み合わせて配合されても
良いが、これに製薬学的に許容しうる担体あるいは製剤用添加物を配合して製剤の形態で
提供することもできる。この場合、本発明の有効成分は、例えば、製剤中、0.1〜99
.9重量%含有することができる。
【0039】
製薬学的に許容しうる担体あるいは添加剤としては、例えば賦形剤、崩壊剤、崩壊補助
剤、結合剤、滑沢剤、コーティング剤、色素、希釈剤、溶解剤、溶解補助剤、等張化剤、
pH調整剤、安定化剤等を用いることが出来る。
【0040】
経口投与に適する製剤の例としては、例えば散剤、錠剤、カプセル剤、細粒剤、顆粒剤
、液剤またはシロップ剤等を挙げることが出来る。経口投与の場合、微晶質セルロース、
クエン酸ナトリウム、炭酸カルシウム、リン酸ジカリウム、グリシンのような種々の賦形
剤を、澱粉、好適にはとうもろこし、じゃがいもまたはタピオカの澱粉、およびアルギン
酸やある種のケイ酸複塩のような種々の崩壊剤、およびポリビニルピロリドン、蔗糖、ゼ
ラチン、アラビアゴムのような顆粒形成結合剤と共に使用することができる。また、ステ
アリン酸マグネシウム、ラウリル硫酸ナトリウム、タルク等の滑沢剤も錠剤形成に非常に
有効であることが多い。同種の固体組成物をゼラチンカプセルに充填して使用することも
できる。これに関連して好適な物質としてラクトースまたは乳糖の他、高分子量のポリエ
チレングリコールを挙げることができる。経口投与用として水性懸濁液および/またはエ
リキシルにしたい場合、活性成分を各種の甘味料または香味料、着色料または染料と併用
する他、必要であれば乳化剤および/または懸濁化剤も併用し、水、エタノール、プロピ
レングリコール、グリセリン等、およびそれらを組み合わせた希釈剤と共に使用すること
ができる。
【0041】
非経口投与に適する製剤としては、例えば注射剤、坐剤等を挙げることが出来る。非経
口投与の場合、本発明の有効成分をゴマ油または落花生油のいずれかに溶解するか、ある
いはプロピレングリコール水溶液に溶解した溶液を使用することができる。水溶液は必要
に応じて適宜に緩衝し(好適にはpH8以上)、液体希釈剤をまず等張にする必要がある
。このような水溶液は静脈内注射に適し、油性溶液は関節内注射、筋肉注射および皮下注
射に適する。これらすべての溶液を無菌状態で製造するには、当業者に周知の標準的な製
薬技術で容易に達成することができる。さらに、本発明の有効成分は皮膚など局所的に投
与することも可能である。この場合は標準的な医薬慣行によりクリーム、ゼリー、ペース
ト、軟膏の形で局所投与するのが望ましい。
【0042】
本発明の抗炎症剤の投与量は特に限定されず、疼痛の種類、患者の年齢や症状、投与経
路、治療の目的、併用薬剤の有無等の種々の条件に応じて適切な投与量を選択することが
可能である。本発明の抗炎症剤の投与量は、例えば、成人(例えば、体重60kg)1日
当たり500から25000mg程度、好ましくは900から9000mgである。注射剤として投与する場
合の投与量は、例えば、成人(例えば、体重60kg)1日当たり100から5000mg程度、
好ましくは180から1800mgである。これらの1日投与量は2回から4回に分けて投与され
ても良い。
【実施例】
【0043】
(実験例1:単量体MIFの調製1)
三量体MIFとTRXとの混合液を、ゲル濾過クロマトグラフィーにて分画した。
三量体MIFタンパク質の調製は、以下の様に行った。
三量体MIFは、MIF遺伝子(配列番号:1)を発現ベクターに連結し、大腸菌BL
21(DE3)LysS(Novagen社)を用いて大量発現させたMIF(配列番号
:2)を精製して調製した。具体的には、MIFタンパク質を大量発現させた菌体をフレ
ンチプレス(Aminco社)を用いて破砕し、発現されたMIFタンパク質をリン酸緩
衝液(50mM Phosphate−Na、pH5.8)に透析した後に陽イオン交換
クロマトグラフィー(HiTrap SP HP、GE Healthcare社)によ
り精製した。このクロマトグラフィーは、緩衝液としてリン酸緩衝液(50mM Pho
sphate−Na、pH5.8)を用い、流速5mL/分、4℃の条件にて行った。M
IFタンパク質をNaClの濃度勾配によって溶出させた。その後、MIFを含むフラク
ションをゲル濾過クロマトグラフィー(HiLoad 26/60 Superdex
75 pg、GE Healthcare社)に供した。このゲル濾過は、緩衝液として
リン酸緩衝液(50mM Phosphate−Na、pH5.8、200mM NaC
l、1mM DTT、1mM EDTA)を用い、流速1mL/分、4℃の条件にて行っ
た。ゲル濾過クロマトグラフィーにおけるMIFの溶出ピークの位置から、MIFが三量
体であることが確認された。ゲル濾過クロマトグラフィーにより精製された三量体MIF
を、トリス緩衝塩溶液(20mM Tris−HCl、150mM NaCl、1mM
DTT、pH8.0)に対して透析した。
TRXタンパク質として、Mitsui, A.,Hirakawa, T. & Yodoi, J. (1992) Biochem Bio
phys Res Commun 186, 1220-6.に記載の方法によって、リコンビナントのヒトTRX(ヒトr
TRX)を調製した。
上記の手順にしたがって調製したそれぞれのタンパク質の溶液を、MIF/TRXのモ
ル比1:1にて混合し、20℃で2時間インキュベートした。その後、この混合溶液をゲ
ル濾過クロマトグラフィーに供した。カラムはSuperdex 75 prep gr
ade担体(GE Healthcare社)をHRカラム(Pharmacia Bi
otech社)に充填したもの(カラム体積23.2mL)を使用し、このカラムをFP
LCシステム(Pharmacia Biotech社)に取り付けた。緩衝液は、トリ
ス緩衝塩溶液(20mM Tris−HCl、150mM NaCl、1mM DTT、
pH8.0)を用い、流速0.5mL/分、4℃の条件にて行った。各フラクションは、
OD280にて測定した。
各フラクションについてOD280の値をモニタリングし、その値をプロットした(図
1)。TRXとMIF三量体(分子量約12.4×3kDa)との混合液のクロマトグラ
フィーの結果、TRX単量体(分子量約12kDa)とほぼ同程度の分子量を有する単一
ピークのみ検出された。このことは、TRXとMIF三量体との混合により、MIFは単
量体になると予想された。
ピーク画分の分子量Mwを以下の二式を用いて換算した(図2)。
av=(Ve−Vo)/(Vc−Vo
av=−0.4741×log(Mw)+2.4063
式中、Ve:溶出体積、Vo:排除体積、Vc:カラム体積を表す。
上記式より計算すると、Kav=0.476であり、Mw≒12000と見積もることが
できた。この値は、単量体MIFの分子量である12449と概ね一致した。
【0044】
(実験例2:単量体MIFの調製2)
単量体MIFとTRXとを分離するべく、イオン交換クロマトグラフィーを行い、その
結果をウエスタンブロットにて確認した。
上記のように調製した単量体MIF/TRX混合液をトリス緩衝塩溶液(20mM T
ris−HCl、1mM DTT、pH8.0)に透析し、陰イオン交換クロマトグラフ
ィーに供した。カラムはHiTrap Q HP(GE Healscare社)を使用
し、このカラムをFPLCシステムに取り付けた。緩衝液として、トリス緩衝塩溶液(2
0mM Tris−HCl、1mM DTT、pH8.0)を用い、流速2mL/分、4
℃の条件にて行った。タンパク質の溶出は、NaClの濃度勾配により行った。
クロマトグラフィー前、素通り液およびピーク画分について、一次抗体として抗TRX
(Anti TRX antibody, Rabbit polyclonal, abcam社, ab16835)または抗MIF(Anti M
IF antibody, Rabbit IgG polyclonal)を用い、二次抗体と発色反応は、WaKo Immunosta
r Kit(和光純薬製)を用いてウエスタンブロットを行った。この結果を図3に示す。
図3のレーン4およびレーン6を比較すると、TRXは陰イオン交換カラムに吸着し溶
出してピークに含まれるが、MIFは吸着せずに素通り画分に含まれることが判明した。
これによって、MIFとTRXとを分離することができた。
精製後のMIFが単量体であることを、再びゲル濾過クロマトグラフィーに供すること
により確認した。
【0045】
(実験例3:分離したMIFタンパク質の同定)
イオン交換クロマトグラフィーにより分離したMIFタンパク質を、質量分析を用いて
同定した。詳細な手順については、Sugimoto et al., Biochemistry, 1999, 38: 3268-79
を参照した。
トリス緩衝塩溶液中のタンパク質溶液(濃度:OD280=0.1)100μLを、M
icroCON、YM−3(ミリポア社製)を用いて20μLに濃縮した。この溶液をS
DS−PAGEにて分離し、CBBにより染色した。約12kDaのバンドを脱染色し、
ゲル片を切り出した。
得られたゲル片に対して10mM DTTおよび55mM ヨードアセトアミドによる還
元アルキル化処理を行った。ゲル内トリプシン消化によりタンパク質を断片化し、断片化
したサンプルの質量および部分的アミノ酸配列データを、nano LC-ESI-Q-TOF MS/MSによ
り取得した。Mascot(www.matrixscience.com)によるデータベース検索を用いることに
より、サンプルの同定を行った。
その結果、MIF単量体がこのサンプルがヒト由来マクロファージ遊走阻止因子の全長
であると同定できた(質量=12612、スコア=144)。
【0046】
(実施例1:MIFタンパク質単量体による培養細胞のIL−2発現の変化1)
MIFタンパク質三量体は、炎症促進作用を有するIL−2の発現を促進させることが
知られている(Bacher et al. Proc Natl Acad Sci USA, 1996, 93:7849-54を参照)。そ
こで、IL−2の発現に対する単量体MIFの作用を経時的に調べた。
THP−1細胞懸濁液(細胞数;6×105細胞/ mL)を、6ウェルプレートの各ウェルに
3mLずつ播種し、単量体MIF溶液(濃度:OD280=0.1)30μLを添加した。
単量体MIFを添加後、細胞をCO2インキュヘ゛ーター内で培養し、1、3、5時間後及び
一晩培養後にそれぞれの細胞を回収した。回収した細胞より、RNeasy Mini Kit(QIAGEN)
を用いて、キットに添付のプロトコルにしたがって、全RNAを抽出し、その後、PrimeS
cript RT reagent Kit(Takara)を用いた逆転写、SYBR Premix Ex Taq II(Takara)を用い
たリアル
タイムPCRを行うことにより、mRNAレベルでの発現量を測定した。使用したプライマーの
配列は、以下のとおりである。内部標準として、β-actinを用いた。リアルタイムPCRの
サイクル条件は、95℃10秒の熱処理後、95℃5秒、60℃30秒を40サイクル繰り返した後、9
5℃15秒、60℃30秒、95℃15秒の解離反応を行った。単量体MIFを添加せず、1時間後に
回収した細胞をコントロールとして比較した。
プライマー1:caactcctgtcttgcattgcacta(配列番号:5)
プライマー2:aatgtgagcatcctggtgagtttg(配列番号:6)
測定の結果、細胞内のIL−2 mRNA量が経時的に低下していることを確認した(
図5)。また、一晩経過後もIL−2の発現を低下させていた。この低下は、約24時間
持続していた。
【0047】
(実施例2:単量体MIFによる培養細胞のIL−2発現量の変化2)
IL−2の発現に対する単量体MIFの作用を、用量を変化させて調べた。
THP-1細胞懸濁液(細胞数;8×105細胞 /mL)を6ウェルプレートの各ウェルに3mLず
つ播種し、単量体MIF溶液(濃度:OD260≒0.175)を5、10、20および30μL添加した

各ウェルに単量体MIF溶液を添加後、CO2インキュベーター内で1時間培養し、細胞を
回収した。回収した細胞より、RNeasy Mini Kit(QIAGEN)を用いて全RNAを抽出し、そ
の後、PrimeScript RT reagent Kit(Takara)を用いた逆転写、SYBR Premix Ex Taq II(Ta
kara)を用いたリアルタイムPCRを行うことにより、mRNAレベルでの発現量を測定
した。内部標準はβ-actinを用い、使用したプライマーの配列は、上記の配列番号:3及
び4を使用した。リアルタイムPCRの温度サイクル条件として、95℃10秒の熱処理後、
95℃5秒、60℃30秒を40サイクル繰り返した後、95℃15秒、60℃30秒、95℃15秒の解離反
応を行った。単量体MIFを添加しないものをコントロールとして比較した。
測定の結果、添加した単量体MIFの用量依存的に、細胞内のIL−2 mRNA量が
低下していることを確認した(図6)。
【0048】
以上より、単量体MIFはIL−2の発現を長時間にわたって用量依存的に抑制できる
ことが示された。したがって、IL−2の発現促進が関与する炎症性疾患などを抑制する
ため、単量体MIFが有用であることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明により、MIFを単量体で含む、炎症性疾患を抑制するための新規の医薬が提供
される。このような炎症性疾患としては、例えば、慢性リウマチ様関節炎や遅延型アレル
ギーなどが挙げられる。
【配列表フリーテキスト】
【0050】
配列番号:1 ヒトMIF cDNA
配列番号:2 ヒトMIFタンパク質
配列番号:3 ヒトTRX cDNA
配列番号:4 ヒトTRXタンパク質
配列番号:5 プライマー
配列番号:6 プライマー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マクロファージ遊走阻止因子(MIF)を単量体の形態で含有する、抗炎症剤。
【請求項2】
三量体MIFを形成できないMIF変異体を含有する、抗炎症剤。
【請求項3】
三量体MIFとチオレドキシン(TRX)とを含む、抗炎症剤。
【請求項4】
前記単量体MIFが、以下(a)〜(f)のいずれかのポリヌクレオチドによりコードされる
、請求項1〜3のいずれかに記載の抗炎症剤:
(a) 配列番号:1で表される塩基配列を含むポリヌクレオチド、
(b) 配列番号:2のアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド、
(c) 配列番号:2のアミノ酸配列において1〜15個のアミノ酸が欠失、置換、挿入およ
び/もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつMIFの生理活性を有するタンパク
質をコードするポリヌクレオチド、
(d) 配列番号:2のアミノ酸配列に対して、80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を
有し、かつMIFの生理活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド、
(e) 配列番号:1と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条
件下でハイブリダイズし、かつMIFの生理活性を有するタンパク質をコードするポリヌ
クレオチド、または
(f) 配列番号:2のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチドとス
トリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつMIFの生理活性を有するポリヌクレ
オチド。
【請求項5】
前記炎症性疾患が、慢性リウマチ様関節炎、遅延型アレルギー、動脈硬化、子宮内膜症
、急性呼吸急迫症候群、気管支炎、腎臓移植による障害、急性心筋梗塞、糖尿病、全身性
エリテマトーデス、クローン病、アトピー性皮膚炎、腎炎、肝炎、肺炎、関節炎、IgA腎
症、エンドトキシンショック、及び感染症による敗血症からなる群より選択される炎症性
疾患を治療する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の抗炎症剤。
【請求項6】
三量体MIFから単量体MIFを調製する方法であって、三量体MIFと酸化還元剤と
を接触させる工程を含む方法。
【請求項7】
前記酸化還元剤がヒトTRXまたは酵母TRXである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
生じた単量体MIFとヒトTRXまたは酵母TRXとを分離する工程をさらに含む、請
求項7に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−201875(P2011−201875A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−46265(P2011−46265)
【出願日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【出願人】(510060844)学校法人 電子開発学園 北海道情報大学 (1)
【出願人】(505116781)学校法人東日本学園・北海道医療大学 (13)
【Fターム(参考)】