単鎖抗体の配列に基づくエンジニアリング及び最適化
本発明は、単鎖抗体(scFv)の構造特性及び生物物理学的特性、例えば安定性、可溶性及び抗原結合親和性を改変及び改善するために配列に基づく分析及び合理的なストラテジーを使用する方法を提供する。これらの方法及びストラテジーは、個別にもしくは組み合わせて使用することができる。本発明の方法は、また、優れた可溶性及び安定性を有するものとして選択された抗体の実験的にスクリーニングされたscFvライブラリーからのscFv配列を含むデータベースを使用することを含む。本発明は、また、scFv抗体を再構築して単鎖抗体フラグメントの安定性及び可溶性の特性を改善するための一般的なアプローチにおいて、これらの選択された抗体について見出された特性を使用する方法を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2007年6月25日に出願された"単鎖抗体の配列に基づくエンジニアリング及び最適化"というタイトルの米国仮出願第60/937,112号に基づく優先権を主張する。本出願は、また、2008年5月12日に出願された"単鎖抗体の配列に基づくエンジニアリング及び最適化"というタイトルの米国仮出願第61/069,057号に基づく優先権を主張する。
【0002】
発明の背景
抗体は、癌、自己免疫疾患及び他の疾病の処置における非常に有効かつ効果的な治療剤であることが実証されている。全長抗体は、一般に臨床的に使用されているが、一方で、抗体フラグメントの使用によりもたらされうる、高められた組織浸透性、Fc−エフェクター機能が存在しないことと他のエフェクター機能を付与する能力とを兼ね備えること、より短い生体内半減期に由来する全身性副作用の見込みが殆どないことなどの多くの利点がある。抗体フラグメントの薬物動力学的特性は、該フラグメントが、局所的な治療アプローチのために特に良好に適合されうることを示している。更に、抗体フラグメントは、ある一定の発現システムにおいては、全長抗体よりも生産が容易なことがある。
【0003】
抗体フラグメントの1つの型は、単鎖抗体(scFv)であり、該抗体は、リンカー配列を介して軽鎖可変ドメイン(VL)に結合された重鎖可変ドメイン(VH)から構成されている。このように、scFvは、全ての抗体定常ドメインを欠損しており、先の可変/定常ドメインのインターフェースのアミノ酸残基(インターフェース残基)は、溶媒曝露となる。scFvは、全長抗体(例えばIgG分子)から、確立された組み換え工学技術によって製造することができる。しかしながら、全長抗体のscFvへの変換は、しばしば、該タンパク質の粗悪な安定性及び可溶性と、低い生産収率と、免疫原性の危険を生ずる高い凝集傾向をもたらす。
【0004】
従って、scFvの可溶性及び安定性などの特性を改善する多くの試みがなされてきている。例えば、Nieba,L他(Prot.Eng.(1997)10:435−444)は、インターフェースの残基であることが知られている3つのアミノ酸残基を選択して、それらを突然変異させた。それらの突然変異によって、細菌中での突然変異されたscFvのペリプラズム内発現の増加が観察されることに加えて、熱力学的安定性及び可溶性は大きく変化しないものの、熱的に誘発される凝集率の低下が観察された。scFv内の特定のアミノ酸残基に対して部位特異的突然変異誘発を行った他の研究も報告されている(例えばTan,P.H.他(1988年)Biophys.J.75:1473−1482;Woern,A.及びPlueckthun,A.(1998年)Biochem.37:13120−13127;Worn,A.及びPlueckthun,A.(1999年)Biochem.38:8739−8750を参照のこと)。これらの様々な研究において、突然変異誘発のために選択されたアミノ酸残基は、scFv構造内のそれらの既知の位置に基づき(例えば分子モデリング研究から)選択された。
【0005】
別のアプローチでは、非常に発現に乏しいscFvからの相補性決定領域(CDR)が、好適な特性を有することが実証されたscFvのフレームワーク領域に移植された(Jung,S.及びPlueckthun,A.(1997年)Prot.Eng.10:959−966)。得られたscFvは、改善された可溶性発現及び熱力学的安定性を示した。
【0006】
scFvにおける機能特性の改善のためのエンジニアリングにおける進展は、例えばWoern,A.及びPlueckthun,A.(2001年)J.Mol.Biol.305:989−1010で論評されている。しかしながら、優れた機能特性を有するscFvの合理的な設計を可能とする新たなアプローチ、特にエンジニアリングのために潜在的に問題のあるアミノ酸残基の選択において専門家を補助するアプローチは、依然として必要とされている。
【0007】
発明の概要
本発明は、安定性及び/又は可溶性について潜在的に問題のあるscFv配列内のアミノ酸残基の割り出しを、配列に基づく分析を使用して可能にする方法を提供する。更に、本発明の方法により割り出されたアミノ酸残基は、突然変異のために選択することができ、かつ突然変異されたエンジニアリングされたscFvを製造し、それを安定性及び/又は可溶性などの改善された機能特性についてスクリーニングすることができる。特に好ましい一実施態様において、本発明は、機能的に選択されたscFvのデータベースを使用して、生殖細胞系の及び/又は成熟の抗体免疫グロブリン配列における相応の位置よりも変動性に許容性が高いか低いかのいずれかのアミノ酸残基位置を割り出す方法を提供し、これにより、斯かる割り出された残基位置は、安定性及び/又は可溶性などのscFv機能性を改善するようにエンジニアリングするために適している可能性があることが示される。このように、本発明は、機能的に選択されたscFv配列のデータベースの使用の使用に基づいて、"機能的コンセンサス"アプローチの利点を提供し、かつ実証している。
【0008】
更に他の好ましい実施態様においては、本発明は、イムノバインダーにおける関連のアミノ酸位置(例えば、少なくとも1つの望ましい特性を有するscFv配列のデータベース、例えばQCアッセイで選択されたデータベースと、成熟抗体配列のデータベース、例えばKabatデータベースとの比較によって割り出されたアミノ酸位置)で置換されるべき好ましいアミノ酸残基(又は選択的に、排除されるべきアミノ酸残基)を割り出すための方法を提供する。このように、本発明は、更に、特定のアミノ酸残基を選択するための"濃縮/排除"方法を提供する。更になおも、本発明は、本願に記載される"機能的コンセンサス"アプローチを使用して割り出された特定のフレームワークアミノ酸位置を突然変異させることによる、イムノバインダー(例えばscFv、全長免疫グロブリン、Fabフラグメント、単独ドメイン抗体(例えばDab)及びナノボディー)のエンジニアリングの方法を提供する。好ましい実施態様においては、フレームワークアミノ酸位置は、存在するアミノ酸残基を、本願に記載される"濃縮/排除"分析法を使用して"濃縮された"残基であると見出された残基によって置換することによって突然変異される。
【0009】
一態様では、本発明は、単鎖抗体(scFv)であって該scFvがVH及びVLアミノ酸配列を有するものにおける突然変異のためのアミノ酸位置を割り出す方法において、
a)scFvのVH、VLもしくはVH及びVLのアミノ酸配列を、多数の抗体のVH、VLもしくはVH及びVLのアミノ酸配列を含むデータベースに入力して、該scFvのVH、VLもしくはVH及びVLのアミノ酸配列とデータベースの該抗体のVH、VLもしくはVH及びVLのアミノ酸配列とをアラインメントさせることと、
b)scFvのVHもしくはVLのアミノ酸配列内のアミノ酸位置と、データベースの抗体のVHもしくはVLのアミノ酸内の相応の位置とを比較することと、
c)該scFvのVHもしくはVLのアミノ酸配列内のアミノ酸位置が、データベースの抗体のVHもしくはVLのアミノ酸配列内の相応の位置で保存されているアミノ酸残基によって占められているかどうかを調べることと、
d)該アミノ酸位置が、データベースの抗体のVHもしくはVLのアミノ酸内の相応の位置で保存されていないアミノ酸残基によって占められている場合に、該scFvのVHもしくはVLのアミノ酸配列内のアミノ酸位置を、突然変異のためのアミノ酸位置として割り出すことと
を含む方法を提供する。
【0010】
本発明の方法は、更に、scFvのVHもしくはVLのアミノ酸配列内の突然変異のために割り出されたアミノ酸位置を突然変異させることを含んでよい。例えば、突然変異について割り出されたアミノ酸位置は、データベースの抗体のVHもしくはVL内の相応の位置で保存されているアミノ酸残基で置換することができる。加えて又は代わりに、突然変異について割り出されたアミノ酸位置を無作為なもしくは指向的な突然変異誘発によって突然変異させて、突然変異されたscFvのライブラリーを作製し、引き続き前記の突然変異されたscFvのライブラリーをスクリーニングし、そして少なくとも1つの改善された機能特性を有するscFvを選択する(例えば、酵母クオリティー・コントロールシステム(QCシステム)を使用するライブラリーのスクリーニングによって)ことができる。
【0011】
様々な種類のデータベースを本発明の方法で使用できる。例えば、一実施態様においては、データベースの抗体のVH、VLもしくはVH及びVLのアミノ酸配列は、生殖細胞系の抗体のVH、VLもしくはVH及びVLのアミノ酸配列である。もう一つの実施態様においては、データベースの抗体のVH、VLもしくはVH及びVLのアミノ酸配列は、再配置され親和性成熟した抗体のVH、VLもしくはVH及びVLのアミノ酸配列である。更にもう一つの特に好ましい実施態様においては、データベースの抗体のVH、VLもしくはVH及びVLのアミノ酸配列は、少なくとも1種の所望の機能特性(例えばscFv安定性もしくはscFv可溶性)を有するように選択されたscFv抗体のVH、VLもしくはVH及びVLのアミノ酸配列である。更にもう一つの実施態様においては、1つより多くのデータベースを比較目的のために使用することができる。例えば、特に好ましい一実施態様においては、少なくとも1種の所望の機能特性を有するように選択されたscFvのデータベース、並びに1もしくはそれより多くの生殖細胞系データベース又は再配置され親和性成熟した抗体データベースが使用され、その際、scFvデータベースからの配列比較結果は、他のデータベースからの結果と比較される。
【0012】
本発明の方法を使用して、例えばscFvのVH領域、scFvのVL領域又はその両方を分析することができる。
【0013】
本発明の方法を使用して関連のscFv内の関連の単独のアミノ酸位置を分析できるが、一方で、より好ましくは、該方法を使用して、scFv配列に沿った多重のアミノ酸位置が分析される。このように、好ましい一実施態様においては、前記方法の工程b)では、scFvのVHもしくはVLのアミノ酸配列内の多重のアミノ酸位置は、データベースの抗体のVHもしくはVLのアミノ酸配列内の相応の位置と比較される。例えば、好ましい一実施態様において、scFvのVH、VLもしくはVH及びVLのアミノ酸配列内の各フレームワーク位置は、データベースの抗体のVH、VLもしくはVH及びVLのアミノ酸配列内のそれぞれの相応のフレームワーク位置で比較される。加えて又は代わりに、scFvの1もしくはそれより多くのCDR内の1もしくはそれより多くの位置を分析することができる。更にもう一つの実施態様においては、scFvのVH、VLもしくはVH及びVLのアミノ酸配列内のそれぞれのアミノ酸位置は、データベースの抗体のVH、VLもしくはVH及びVLのアミノ酸配列内のそれぞれの相応のアミノ酸位置と比較される。
【0014】
データベースの配列のうち"保存"されているアミノ酸位置は、1もしくはそれより多くの特定の型のアミノ酸残基によって占められていてよい。例えば、一実施態様においては、"保存"されている位置は、その位置で非常に高い頻度で生ずる1つの特定のアミノ酸残基によって占められている。すなわち、該方法の工程c)で、データベースの抗体のVHもしくはVLのアミノ酸配列内の相応の位置で保存されるアミノ酸残基は、該データベースの抗体のVHもしくはVLのアミノ酸配列内のその位置に最も頻度の高いアミノ酸残基もしくは最も高く濃縮されているアミノ酸残基である。この状況では、エンジニアリングされたscFvを作製するためには、突然変異について割り出されたアミノ酸位置は、データベースの抗体のVHもしくはVLのアミノ酸配列内の相応の位置で最も頻繁に確認されるアミノ酸残基もしくは最も高く濃縮されているアミノ酸残基で置換されていてよい。もう一つの実施態様においては、データベースの配列のうち"保存"されているアミノ酸位置は、例えば、(i)疎水性アミノ酸残基、(ii)親水性アミノ酸残基、(iii)水素結合を形成できるアミノ酸残基又は(iv)β−シートを形成する性向を有するアミノ酸残基によって占められていてよい。すなわち、該方法の工程c)で、データベースの抗体のVHもしくはVLのアミノ酸配列内の相応の位置は、(i)疎水性アミノ酸残基、(ii)親水性アミノ酸残基、(iii)水素結合を形成できるアミノ酸残基又は(iv)β−シートを形成する性向を有するアミノ酸残基で保存される。
【0015】
従って、エンジニアリングされたscFvを作製するためには、データベースの抗体のVHもしくはVLのアミノ酸配列内の相応の位置が疎水性アミノ酸残基で保存されている場合には、scFv内で突然変異のために割り出されたアミノ酸位置は、データベースの抗体のVHもしくはVLのアミノ酸配列内の相応の位置で最も最も頻出する疎水性アミノ酸残基で置換されていてよい。加えて又は代わりに、scFv内の突然変異について割り出されたアミノ酸位置を、scFv内のその位置で最適であると選択された疎水性アミノ酸残基(例えば分子モデリング研究を基礎としてscFvの構造と機能を最も維持しそうな疎水性残基)で置換されていてよい。加えて又は代わりに、scFv内の突然変異について割り出されたアミノ酸位置は、エンジニアリングされたscFvのライブラリーの作製のために部位特異的突然変異誘発を介して1パネルの疎水性アミノ酸残基で置換されていてよく、かつ最も好ましい置換は、所望の機能特性についてライブラリーをスクリーニングする(例えば酵母QCシステムで)ことによって選択することができる。
【0016】
更に、エンジニアリングされたscFvを作製するためには、データベースの抗体のVHもしくはVLのアミノ酸配列内の相応の位置が親水性アミノ酸残基で保存されている場合には、scFv内で突然変異のために割り出されたアミノ酸位置は、データベースの抗体のVHもしくはVLのアミノ酸配列内の相応の位置で最も最も頻出する親水性アミノ酸残基で置換されていてよい。加えて又は代わりに、scFv内の突然変異について割り出されたアミノ酸位置を、scFv内のその位置で最適であると選択された親水性アミノ酸残基(例えば分子モデリング研究を基礎としてscFvの構造と機能を最も維持しそうな親水性残基)で置換されていてよい。加えて又は代わりに、scFv内の突然変異について割り出されたアミノ酸位置は、エンジニアリングされたscFvのライブラリーの作製のために部位特異的突然変異誘発を介して1パネルの親水性アミノ酸残基で置換されていてよく、かつ最も好ましい置換は、所望の機能特性についてライブラリーをスクリーニングする(例えば酵母QCシステムで)ことによって選択することができる。
【0017】
なおも更に、エンジニアリングされたscFvを作製するためには、データベースの抗体のVHもしくはVLのアミノ酸配列内の相応の位置が水素結合を形成しうるアミノ酸残基で保存されている場合には、scFv内で突然変異のために割り出されたアミノ酸位置は、データベースの抗体のVHもしくはVLのアミノ酸配列内の相応の位置で最も最も頻出する水素結合を形成しうるアミノ酸残基で置換されていてよい。加えて又は代わりに、scFv内の突然変異について割り出されたアミノ酸位置を、scFv内のその位置で最適であると選択された水素結合を形成しうるアミノ酸残基(例えば分子モデリング研究を基礎としてscFvの構造と機能を最も維持しそうな残基)で置換されていてよい。加えて又は代わりに、scFv内の突然変異について割り出されたアミノ酸位置は、エンジニアリングされたscFvのライブラリーの作製のために部位特異的突然変異誘発を介して1パネルの水素結合を形成しうるアミノ酸残基で置換されていてよく、かつ最も好ましい置換は、所望の機能特性についてライブラリーをスクリーニングする(例えば酵母QCシステムで)ことによって選択することができる。
【0018】
なおも更に、エンジニアリングされたscFvを作製するためには、データベースの抗体のVHもしくはVLのアミノ酸配列内の相応の位置がβ−シートを形成する性向を有するアミノ酸残基で保存されている場合には、scFv内で突然変異のために割り出されたアミノ酸位置は、データベースの抗体のVHもしくはVLのアミノ酸配列内の相応の位置で最も最も頻出するβ−シートを形成する性向を有するアミノ酸残基で置換されていてよい。加えて又は代わりに、scFv内の突然変異について割り出されたアミノ酸位置を、scFv内のその位置で最適であると選択されたβ−シートを形成する性向を有するアミノ酸残基(例えば分子モデリング研究を基礎としてscFvの構造と機能を最も維持しそうな残基)で置換されていてよい。加えて又は代わりに、scFv内の突然変異について割り出されたアミノ酸位置は、エンジニアリングされたscFvのライブラリーの作製のために部位特異的突然変異誘発を介して1パネルのβ−シートを形成する性向を有するアミノ酸残基で置換されていてよく、かつ最も好ましい置換は、所望の機能特性についてライブラリーをスクリーニングする(例えば酵母QCシステムで)ことによって選択することができる。
【0019】
もう一つの実施態様においては、scFvにおける突然変異のためのアミノ酸位置を割り出すための本発明の方法は、scFv抗体のVH、VLもしくはVH及びVLのアミノ酸配列と高い類似性を有するこれらの抗体のVH、VLもしくはVH及びVLのアミノ酸配列のみがデータベース中に含まれる制約されたデータベースであるデータベースを用いて実施することができる。
【0020】
好ましい一実施態様においては、分析されるアミノ酸位置(すなわちデータベースの抗体のVHもしくはVLのアミノ酸配列内の"相応の位置")の保存を定量化するために、アミノ酸位置に、シンプソンの指数を使用して保存の度合いが割り当てられる。
【0021】
本発明の方法は、また、scFv配列内のアミノ酸位置のペアを決定するために使用でき、これらの共変ペア位置の一方もしくは両方を突然変異のために割り出すことができるように互いに共変することができるアミノ酸位置を割り出すために使用することもできる。このように、もう一つの実施態様においては、本発明は、以下の工程:
a)データベースの抗体のVHもしくはVLのアミノ酸配列に対して共分散分析を行って、アミノ酸位置の共変ペアを割り出す工程;
b)アミノ酸位置の共変ペアと、scFvのVHもしくはVLのアミノ酸配列内の相応の位置とを比較する工程;
c)前記のscFvのVHもしくはVLのアミノ酸配列内の相応の位置が、データベースの抗体のVHもしくはVLのアミノ酸配列内のアミノ酸位置の共変ペアで保存されるアミノ酸残基によって占められているかどうかを決定する工程;及び
d)前記のscFvのVHもしくはVLのアミノ酸配列内の相応の位置の一方もしくは両方を、scFv内の相応の位置の一方もしくは両方が、データベースの抗体のVHもしくはVLのアミノ酸配列内のアミノ酸位置の共変ペアで保存されていないアミノ酸残基によって占められている場合に、突然変異のためのアミノ酸位置として割り出す工程
を含む方法を提供する。
【0022】
この共分散分析は、個々のアミノ酸位置の分析と組み合わせることができ、こうして、工程a)〜d)を有する前記のscFvにおける突然変異のためのアミノ酸位置を割り出す方法は、更に以下の工程:
e)データベースの抗体のVHもしくはVLのアミノ酸配列に対して共分散分析を行って、アミノ酸位置の共変ペアを割り出す工程;
f)アミノ酸位置の共変ペアと、scFvのVHもしくはVLのアミノ酸配列内の相応の位置とを比較する工程;
g)前記のscFvのVHもしくはVLのアミノ酸配列内の相応の位置が、データベースの抗体のVHもしくはVLのアミノ酸配列内のアミノ酸位置の共変ペアで保存されるアミノ酸残基によって占められているかどうかを決定する工程;及び
h)前記のscFvのVHもしくはVLのアミノ酸配列内の相応の位置の一方もしくは両方を、scFv内の相応の位置の一方もしくは両方が、データベースの抗体のVHもしくはVLのアミノ酸配列内のアミノ酸位置の共変ペアで保存されていないアミノ酸残基によって占められている場合に、突然変異のためのアミノ酸位置として割り出す工程
を含むことができる。
【0023】
共変分析法は、単独の共変ペアに適用でき、又は選択的にアミノ酸位置の多重の共変ペアを、データベースの抗体のVHもしくはVLのアミノ酸配列内で割り出すことができ、かつscFvのVHもしくはVLのアミノ酸配列内の相応の位置と比較することができる。
【0024】
該方法は、更に、データベースの抗体のVHもしくはVLのアミノ酸配列内のアミノ酸位置の共変ペアで保存されていないアミノ酸残基によって占められているscFv内の一方もしくは両方の相応の位置を突然変異することを含みうる。例えば、一実施態様において、アミノ酸位置の共変ペアで保存されていないアミノ酸残基によって占められているscFv内の相応の位置の一方は、アミノ酸位置の共変ペアで最も頻出するアミノ酸残基で置換される。もう一つの実施態様において、アミノ酸位置の共変ペアで保存されていないアミノ酸残基によって占められているscFv内の相応の位置の両方は、アミノ酸位置の共変ペアで最も頻出するアミノ酸残基で置換される。
【0025】
scFv配列での突然変異のためのアミノ酸位置の割り出しのための本発明の配列に基づく方法は、scFvの構造分析を可能にする他の方法と組み合わせることができる。例えば、一実施態様において、該配列に基づく方法は、scFvの構造を更に分析するために、分子モデリング法と組み合わせることができる。このように、一実施態様においては、工程a)〜d)を有する前記の方法は、更に、以下の工程、例えば:
e)scFvのVH、VLもしくはVH及びVLのアミノ酸配列を分子モデリングに供する工程;及び
f)突然変異のための、scFvのVH、VLもしくはVH及びVLのアミノ酸配列内の少なくとも1つの付加的なアミノ酸位置を割り出す工程
を含んでよい。この方法は、更に、分子モデリングによって突然変異のために割り出されたscFvのVH、VLもしくはVH及びVLのアミノ酸配列内の少なくとも1つの付加的なアミノ酸位置を突然変異することを含む。
【0026】
もう一つの態様においては、本発明は、本発明の方法により製造されたscFv組成物であって、突然変異のために割り出された1もしくはそれより多くのアミノ酸位置で1もしくはそれより多くの突然変異がなされているscFv組成物に関する。医薬品製剤であって、一般にscFv組成物と製剤学的に認容性の担体とを含む製剤も提供される。
【0027】
更にもう一つの態様においては、本発明は、単鎖抗体(scFv)であって該scFvがVH及びVLのアミノ酸配列を有するものにおける突然変異のために1もしくはそれより多くのフレームワークアミノ酸位置を割り出す方法において:
a)VH、VLもしくはVH及びVLのアミノ酸配列の第一のデータベースを提供すること;
b)少なくとも1つの所望の機能的特性を有するものとして選択されたscFv抗体のVH、VLもしくはVH及びVLのアミノ酸配列の第二のデータベースを提供すること;
c)第一のデータベースの各フレームワーク位置と第二のデータベースの各フレームワーク位置でのアミノ酸変動性を決定すること;
d)アミノ酸の変動性の度合いが第一のデータベースと第二のデータベースとの間で異なる1もしくはそれより多くのフレームワーク位置を割り出すことで、単鎖抗体(scFv)における突然変異のための1もしくはそれより多くのフレームワークアミノ酸位置を割り出すこと
を含む方法を提供する。
【0028】
好ましくは、各フレームワーク位置でのアミノ酸変動性は、シンプソンの指数を使用した保存の度合いの割り当てによって決定される。一実施態様においては、1もしくはそれより多くのフレームワークアミノ酸位置は、第一のデータベースと比較した場合により低いシンプソンの指数値(SI)を第二のデータベース中で有する1もしくはそれより多くのフレームワークアミノ酸位置に基づいて突然変異のために割り出される。もう一つの実施態様においては、1もしくはそれより多くのフレームワークアミノ酸位置は、第一のデータベース(例えば生殖細胞系データベース)と比較した場合により高いシンプソンの指数値を第二のデータベース中で有する1もしくはそれより多くのフレームワークアミノ酸位置に基づいて突然変異のために割り出される。好ましい一実施態様においては、第二のデータベース(例えばQCデータベース)のアミノ酸位置は、第一のデータベース(例えばKabatデータベース)における相応のアミノ酸位置のSI値よりも、少なくとも0.01小さいSI値を有し、より好ましくは0.05(例えば0.06、0.07、0.08、0.09もしくは0.1)小さいSI値を有する。より好ましい実施態様においては、第二のデータベースのアミノ酸位置は、第一のデータベースにおける相応のアミノ酸位置のSI値よりも、少なくとも0.1小さい(例えば0.1、0.15、0.2、0.25、0.3、0.35、0.4、0.45もしくは0.5小さい)SI値を有する。
【0029】
もう一つの実施態様においては、本発明は、イムノバインダーにおいて置換のために好ましいアミノ酸残基を割り出す方法であって:
a)群分けされたVHもしくはVLのアミノ酸配列(例えばKabatファミリーサブタイプにより群分けされた生殖細胞系及び/又は成熟抗体の配列)の第一のデータベースを提供すること;
b)少なくとも1つの所望の機能特性を有するものとして(例えばQCアッセイにより)選択された群分けされたscFv抗体のVHもしくはVLのアミノ酸配列の第二のデータベースを提供すること;
c)第一のデータベースのフレームワーク位置と第二のデータベースの相応のフレームワーク位置とでのアミノ酸残基についてのアミノ酸頻度を決定すること;
d)該アミノ酸を、そのアミノ酸残基が第一のデータベースに対してより高い頻度で第二のデータベースに出現する場合に、イムノバインダーの相応のアミノ酸位置での置換のために好ましいアミノ酸残基(すなわち、濃縮された残基)として割り出すこと
を含む方法を提供する。
【0030】
更にもう一つの態様においては、本発明は、イムノバインダーから排除されるべきアミノ酸残基を割り出す方法であって:
a)群分けされたVHもしくはVLのアミノ酸配列(例えばKabatファミリーサブタイプにより群分けされた生殖細胞系及び/又は成熟抗体の配列)の第一のデータベースを提供すること;
b)少なくとも1つの所望の機能特性を有するものとして(例えばQCアッセイにより)選択された群分けされたscFv抗体のVHもしくはVLのアミノ酸配列の第二のデータベースを提供すること;
c)第一のデータベースのフレームワーク位置と第二のデータベースの相応のフレームワーク位置とでのアミノ酸残基についてのアミノ酸頻度を決定すること;
d)該アミノ酸を、そのアミノ酸残基が第一のデータベースに対してより低い頻度で第二のデータベースに出現する場合に、イムノバインダーの相応のアミノ酸位置での置換のために好ましくないアミノ酸残基として割り出すこと(その際、前記のアミノ酸残基の種類は好ましくないアミノ酸残基(すなわち排除された残基)である)
を含む方法を提供する。ある特定の好ましい実施態様においては、好ましくないアミノ酸残基は、濃縮係数(EF)が1未満である場合に割り出される。
【0031】
ある特定の実施態様においては、第一のデータベースは、生殖細胞系のVH、VLもしくはVH及びVLのアミノ酸配列を含む。他の実施態様においては、第一のデータベースは、生殖細胞系のVH、VLもしくはVH及びVLのアミノ酸配列からなる。更にもう一つの実施態様においては、第一のデータベースは、成熟のVH、VLもしくはVH及びVLのアミノ酸配列を含む。もう一つの実施態様においては、第一のデータベースは、成熟のVH、VLもしくはVH及びVLのアミノ酸配列からなる。例示的な一実施態様においては、成熟のVH、VLもしくはVH及びVLのアミノ酸配列は、Kabatデータベース(KDB)からである。
【0032】
ある特定の実施態様においては、第二のデータベースは、QCアッセイから選択された、scFv抗体のVH、VLもしくはVH及びVLのアミノ酸配列を含む。もう一つの実施態様においては、第二のデータベースは、QCアッセイから選択された、scFv抗体のVH、VLもしくはVH及びVLのアミノ酸配列からなる。
【0033】
一実施態様においては、望ましい機能特性は、改善された安定性である。もう一つの実施態様においては、望ましい機能特性は、改善された可溶性である。更にもう一つの実施態様において、望ましい機能特性は非凝集である。なおももう一つの実施態様において、望ましい機能特性は発現での改善(例えば原核細胞において)である。更にもう一つの実施態様において、機能特性は、封入体精製工程に引き続く再フォールディング率における改善である。一定の実施態様において、望ましい機能特性は、抗原結合親和性の改善ではない。もう一つの実施態様においては、1もしくはそれより多くの所望の機能の組合せが達成される。
【0034】
なおもう一つの態様において、本発明は、イムノバインダーのエンジニアリング方法において:
a)該イムノバインダー内で突然変異のための1もしくはそれより多くのアミノ酸位置を選択すること;及び
b)突然変異のために選択された1もしくはそれより多くのアミノ酸位置を突然変異させること
を含み、
突然変異のために選択された1もしくはそれより多くのアミノ酸位置が重鎖アミノ酸位置である場合に、前記のアミノ酸位置は、AHoナンバリングを使用した位置1、6、7、10、12、13、14、19、20、21、45、47、50、55、77、78、82、86、87、89、90、92、95、98、103及び107(Kabatナンバリングを使用したアミノ酸位置1、6、7、9、11、12、13、18、19、20、38、40、43、48、66、67、71、75、76、78、79、81、82b、84、89及び93)からなる群から選択され、かつ
突然変異のために選択された1もしくはそれより多くのアミノ酸位置が軽鎖アミノ酸位置である場合に、前記のアミノ酸位置は、AHoナンバリングを使用した位置1、2、3、4、7、10、11、12、14、18、20、24、46、47、50、53、56、57、74、82、91、92、94、101及び103(Kabatナンバリングを使用したアミノ酸位置1、2、3、4、7、10、11、12、14、18、20、24、38、39、42、45、48、49、58、66、73、74、76、83及び85)からなる群から選択される前記方法を提供する。
【0035】
一実施態様においては、本発明は、イムノバインダーをエンジニアリングする方法であって:
a)突然変異のためにイムノバインダー内の1もしくはそれより多くのアミノ酸位置を選択すること;及び
b)突然変異のために選択された1もしくはそれより多くのアミノ酸位置を突然変異させること
を含み、その際、前記突然変異のために選択された1もしくはそれより多くのアミノ酸位置は、
(i)AHoナンバリングを使用したVH3のアミノ酸位置1、6、7、89及び103(Kabatナンバリングを使用したアミノ酸位置1、6、7、78及び89);
(ii)AHoナンバリングを使用したVH1aのアミノ酸位置1、6、12、13、14、19、21、90、92、95及び98(Kabatナンバリングを使用したアミノ酸位置1、6、11、12、13、18、20、79、81、82b及び84);
(iii)AHoナンバリングを使用したVH1bのアミノ酸位置1、10、12、13、14、20、21、45、47、50、55、77、78、82、86、87及び107(Kabatナンバリングを使用したアミノ酸位置1、9、11、12、13、19、20、38、40、43、48、66、67、71、75、76及び93);
(iv)AHoナンバリングを使用したVκ1のアミノ酸位置1、3、4、24、47、50、57、91及び103(Kabatナンバリングを使用したアミノ酸位置1、3、4、24、39、42、49、73及び85);
(v)AHoナンバリングを使用したVκ3のアミノ酸位置2、3、10、12、18、20、56、74、94、101及び103(Kabatナンバリングを使用したアミノ酸位置2、3、10、12、18、20、48、58、76、83及び85);及び
(vi)AHoナンバリングを使用したVλ1のアミノ酸位置1、2、4、7、11、14、46、53、82、92及び103(Kabatナンバリングを使用したアミノ酸位置1、2、4、7、11、14、38、45、66、74及び85)
からなる群から選択される前記方法を提供する。
【0036】
もう一つの実施態様においては、前記突然変異は、更に、AHoナンバリングを使用したアミノ酸位置12、13及び144(Kabatナンバリングを使用したアミノ酸位置12、85及び103)からなる群から選択される重鎖アミノ酸位置の1もしくはそれより多くの(好ましくは全ての)鎖置換を含む。
【0037】
ある特定の好ましい実施態様においては、突然変異のために選択された1もしくはそれより多くのアミノ酸位置は、少なくとも1つの望ましい機能特性を有するとして(例えば酵母QCシステムにおいて)選択された抗体配列における相応のアミノ酸位置で見出されたアミノ酸残基へと突然変異される。更に他の実施態様においては、突然変異のために選択された1もしくはそれより多くのアミノ酸位置は、本発明の濃縮/排除分析の方法論に従って割り出されたアミノ酸残基(例えば"濃縮されたアミノ酸残基")へと突然変異される。
【0038】
好ましくは、イムノバインダーはscFvであるが、他のイムノバインダー、例えば全長免疫グロブリン及び他の抗体フラグメント(例えばFabもしくはDab)も、該方法に従ってエンジニアリングすることができる。本発明は、また、当該エンジニアリング方法に従って製造されたイムノバインダー並びに該イムノバインダーと製剤学的に認容性の担体とを含む組成物を包含する。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】図1は、本発明の方法によるscFvの一般的な配列に基づく分析の概要を示すフローチャート図である。
【図2】図2は、scFvの配列に基づく分析に関する例示的な多工程法のフローチャート図である。
【図3】図3は、酵母における安定で可溶性のscFvの選択のための例示的なクオリティー・コントロール(QC)システムの概略図である。
【図4】図4は、もう一つの例示的なクオリティー・コントロール(QC)システムの概略図である。
【図5】図5は、体細胞突然変異の前の本来の生殖細胞系の配列内の特定のフレームワーク(FW)位置での変動性と、QCシステムで選択された体細胞突然変異の後の成熟抗体の配列内の相応するFW位置での変動性の分析の概略図である。
【図6】図6は、25〜95℃の温度範囲での熱誘発ストレス後にESBA105変異体について観察された変性プロフィールを示している。
【図7】図7は、コンセンサス逆突然変異(S−2、D−2、D−3)、アラニンへの突然変異(D−1)もしくはQC残基(QC7.1、QC11.2、QC15.2、QC23.2)のいずれかを含む一組のESBA105変異体についての熱安定性の比較を示している。
【図8】図8は、25〜95℃の温度範囲での熱誘発ストレス後にESBA212変異体について観察された変性プロフィールを示している。
【図9】図9は、野生型ESBA105及びその可溶性変異体のPEG沈殿可溶性曲線を示している。
【図10】図10は、広い温度範囲(25〜96℃)での熱負荷後に測定された、野生型ESBA105及びその可溶性変異体についての熱変性プロフィールを示している。
【図11】図11は、熱ストレスの条件下で2週間インキュベートした後の、様々なESBA105可溶性突然変異体の分解挙動を示すSDS−PAGEを示している。
【0040】
以下の発明の詳細な説明を考慮することで、本発明はより良好に理解され、かつ前記に示されるもの以外の対象物も明らかになる。斯かる説明は、付随する図面について言及している:
図1は、本発明の方法によるscFvの一般的な配列に基づく分析の概要を示すフローチャート図である。
【0041】
第一工程において、可溶性及び安定性を改善させるべきscFvの配列を提供し(ボックス1)、引き続き該配列を、抗体配列データベース(ボックス2)、例えばオープンソースの生殖細胞系の配列データベース(例えばVbase、IMGT;ボックス3)、オープンソースの成熟抗体の配列データベース(例えばKDB;ボックス4)又は完全なヒトの安定かつ可溶性のscFvフラグメントのデータベース(例えばQC;ボックス5)と比較する。
【0042】
ボックス3に記載されるようなオープンソースの生殖細胞系の配列データベースを適用することによって、進化の過程で淘汰されたため、全長抗体コンテクスト中の可変ドメインの安定性に寄与すると思われる、高度に保存された位置の割り出しが可能となる(ボックス3′)。オープンソースの成熟抗体の配列データベース4との比較によって、それぞれのCDRとは無関係の安定性、可溶性及び/又は結合性の改善を表すパターンの割り出しが可能となる(ボックス4′)。更に、完全にヒトの安定かつ可溶性のscFvフラグメントのデータベース(ボックス5)との比較によって、特にscFvの形式で安定性及び/又は可溶性に決定的な残基の割り出しに加えて、特にscFvの形式、例えばVL及びVHの組み合わせで、それぞれのCDRとは無関係な安定性、可溶性及び/又は結合性の改善を示すパターンの割り出しがもたらされる(ボックス5′)。
【0043】
後続工程(ボックス6)において、決定的な残基は、それぞれのデータベースで割り出される最も頻出する好適なアミノ酸によって置換がなされる。
【0044】
最後に(ボックス7)、決定的な残基の無作為なもしくは指向的な突然変異誘発と、それに引き続く酵母のQC−システムにおける改善された安定性及び/又は可溶性についてのスクリーニングが実施されうる。それらの突然変異体は、再び上述の手順に供してよい(ボックス2への矢印)。
【0045】
図2は、scFvの配列に基づく分析に関する例示的な多工程法のフローチャート図である。
【0046】
第一工程(ボックス1)において、フレームワーク中の全ての残基の頻度が、各位置での種々のアミノ酸の出現率をバイオインフォマティックツールによって提供された結果に基づき比較することによって決定される。第二工程において、各位置での保存の度合いが、例えばシンプソンの指数を使用することによって式D=Σni(ni−1)/N(N−1)を用いて定義される。第三工程において、全体の自由エネルギーを最小にする最良の置換が決定される(例えばボルツマンの法則:ΔΔGth=−RTln(f親/fコンセンサス)に当てはめることによって)。最後に(工程4)、潜在的な安定化突然変異の役割が確かめられる。このために、局所的な及び非局所的な相互作用、カノニカル残基、インターフェース、曝露度及びβ−ターン性などの要因を考慮することができる。
【0047】
図3は、酵母における安定で可溶性のscFvの選択のための例示的なクオリティー・コントロール(QC)システムの概略図である。このシステムで、還元性環境において安定で可溶性のscFvを発現可能な宿主細胞が、安定で可溶性のscFv−AD−Gal11p融合タンパク質の存在に依存して発現される誘導性のリポーター構築物の存在により選択される。該融合タンパク質とGal4(1−100)との相互作用は、機能的な転写因子を形成し、それにより選択可能なマーカーの発現が活性化される(図3Aを参照のこと)。不安定な及び/又は不溶性のscFvは、機能的な転写因子の形成と選択可能なマーカーの発現の誘導をすることができず、従って選択から排除される(図3B)。選択されたscFvは、安定で可溶性のタンパク質を、ジスルフィド結合が折り畳まれない還元性条件下でさえも、折り畳まれて得ることができるが、一方で、不安定な及び/又は不溶性のscFvは、折り畳まれず、凝集し、かつ/又は分解する傾向がある。酸化性条件下では、選択されたscFvは、依然として優れた可溶性と安定性という特性を呈する。
【0048】
図4は、もう一つの例示的なクオリティー・コントロール(QC)システムの概略図である。可溶性のscFvを選択するための全体的なコンセプトは、この場合でも図3に記載したものと同じであるが、scFvは、活性化ドメイン(AD)及びDNA結合ドメイン(DBD)を含む機能的な転写因子に直接的に融合されている。図4Aは、機能的な転写因子に融合された場合に、選択可能なマーカーの転写を妨げない、例示的な可溶性で安定なscFvを図示している。それに対して、図4Bは、不安定なscFvが転写因子に融合されることで、選択可能なマーカーの転写を活性化することができない非機能的な融合構築物をもたらすというシナリオを示している。
【0049】
図5は、体細胞突然変異の前の本来の生殖細胞系の配列内の特定のフレームワーク(FW)位置での変動性と、QCシステムで選択された体細胞突然変異の後の成熟抗体の配列内の相応するFW位置での変動性の分析の概略図である。種々の変動性値が、生殖細胞系とQC配列内のそれぞれのFW位置(例えば高度に変動性のフレームワーク残基("hvFR"))に割り当てられうる(すなわち、それぞれ"G"値及び"Q"値)。ある特定の位置についてG>Qである場合には、その位置には、限られた数で好適な安定なFW残基が存在する。ある特定の位置についてG<Qである場合には、このことは、その残基が最適な可溶性及び安定性について自然淘汰されていることを示しうる。
【0050】
図6は、25〜95℃の温度範囲での熱誘発ストレス後にESBA105変異体について観察された変性プロフィールを示している。生殖細胞系コンセンサス残基への逆突然変異(V3Q、R47KもしくはV103T)を有するESBA−105変異体は、点線で示されている。本発明の方法によって割り出された好ましい置換を含む変異体(QC11.2、QC15.2及びQC23.2)は、実線によって示されている。
【0051】
図7は、コンセンサス逆突然変異(S−2、D−2、D−3)、アラニンへの突然変異(D−1)もしくはQC残基(QC7.1、QC11.2、QC15.2、QC23.2)のいずれかを含む一組のESBA105変異体についての熱安定性の比較を示している。各変異体の熱安定性(任意のアンフォールディング単位で)が提供される。
【0052】
図8は、25〜95℃の温度範囲での熱誘発ストレス後にESBA212変異体について観察された変性プロフィールを示している。生殖細胞系コンセンサス残基への逆突然変異(V3QもしくはR47K)を有するESBA212変異体は、点線で示されている。ESBA212親分子は、実線によって示されている。
【0053】
図9は、野生型ESBA105及びその可溶性変異体のPEG沈殿可溶性曲線を示している。
【0054】
図10は、広い温度範囲(25〜96℃)での熱負荷後に測定された、野生型ESBA105及びその可溶性変異体についての熱変性プロフィールを示している。
【0055】
図11は、熱ストレスの条件下で2週間インキュベートした後の、様々なESBA105可溶性突然変異体の分解挙動を示すSDS−PAGEを示している。
【0056】
発明の詳細な説明
本発明は、安定性、可溶性及び親和性を制限されることなく含む、イムノバインダーの特性、特にscFvの特性を、配列に基づきエンジニアリングして、最適化するための方法に関する。より具体的には、本発明は、突然変異させることで、scFvの1もしくはそれより多くの物理的特性が改善されるscFv内のアミノ酸位置を割り出す抗体配列分析を用いてscFv抗体を最適化するための方法を開示している。本発明は、また、本発明の方法により製造された、エンジニアリングされたイムノバインダー、例えばscFvに関する。
【0057】
本発明は、少なくとも部分的に、複数の抗体配列のデータベースにおける、重鎖と軽鎖のそれぞれのフレームワーク位置でのアミノ酸の頻度の分析に基づいている。特に、生殖細胞系データベース及び/又は成熟抗体データベースの頻度の分析は、所望の機能特性を有するものとして選択されたscFv配列のデータベースの頻度分析と比較されている。変動性の度合いを各フレームワーク位置に割り当て(例えばシンプソンの指数を用いて)、そしてその各フレームワーク位置での変動性の度合いを種々のタイプの抗体配列データベース内で比較することによって、目下、scFvの機能特性(例えば安定性、可溶性)に重要なフレームワーク位置を割り出すことができた。これは、目下、フレームワークのアミノ酸位置に対する"機能的コンセンサス"を定義することを可能にする。その際、生殖細胞系及び/又は成熟の抗体免疫グロブリン配列における相応の位置よりも変動性に許容性が高いか低いかのいずれかであるフレームワーク位置が割り出されている。このように、本発明は、機能的に選択されたscFv配列のデータベースの使用の使用に基づいて、"機能的コンセンサス"アプローチの利点を提供し、かつ実証している。更になおも、本発明は、本願に記載される"機能的コンセンサス"アプローチを使用して割り出された特定のフレームワークアミノ酸位置を突然変異させることによる、イムノバインダー(例えばscFv)のエンジニアリングの方法を提供する。
【0058】
本発明をより容易に理解できるようにするために、特定の用語をまず定義する。特に定義がなされない限り、本願で使用される全ての技術用語及び科学用語は、本発明の属する技術分野における通常の知識を有するものによって通常理解されるのと同じ意味を有する。本願に記載されるのと類似のもしくは同等の方法及び材料を本発明の実施もしくは試験において使用できるが、好適な方法及び材料は、以下に記載される。本願に挙げられる全ての文献、特許出願、特許及び他の参考資料は、参照をもってその全体が開示されたものとする。抵触の場合には、本願明細書が、それらの定義を含めて支配することとなる。更に、材料、方法及び実施例は、説明的なものにすぎず、限定を意図するものではない。
【0059】
本願で使用される用語"抗体"は、"免疫グロブリン"と同義である。本発明による抗体は、全体の免疫グロブリン又は単独の可変ドメインなどの免疫グロブリンの少なくとも1種の可変ドメインを含むそのフラグメント、つまり当業者によく知られるFv(Skerra A.及びPlueckthun,A.(1988年)Science 240:1038−41)、scFv(Bird,R.E.他(1988年)Science 242:423−26;Huston,J.S.他(1988年)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:5879−83)、Fab、(Fab′)2もしくは他のフラグメントであってよい。
【0060】
本願で使用される用語"抗体フレームワーク"とは、VLもしくはVHのいずれかの可変ドメインの部分であって、この可変ドメインの抗原結合ループのための足場としてはたらくものを指す(Kabat,E.A.他(1991年)Sequences of proteins of immunological interest.NIH Publication 91−3242)。
【0061】
本願で使用される用語"抗体CDR"とは、抗体の相補性決定領域であって、Kabat,E.A.他(1991年)Sequences of proteins of immunological interest.NIH Publication 91−3242によって定義される抗原結合ループからなるものを指す。抗体Fvフラグメントの2つの可変ドメインのそれぞれは、例えば3つのCDRを含む。
【0062】
用語"単鎖抗体"又は"scFc"は、抗体重鎖可変領域(VH)及び抗体軽鎖可変領域(VL)を含み、それらがリンカーによって連結合されている分子を指すことが意図される。斯かるscFv分子は、一般構造:NH2−VL−リンカー−VH−COOH又はNH2−VH−リンカー−VL−COOHを有してよい。
【0063】
本願で使用される場合、"同一性"とは、2種のポリペプチド、分子又は2種の核酸の間の配列の一致を指す。2つの比較された配列の両者のある位置が同じ塩基もしくはアミノ酸モノマーサブユニットによって占められている場合に(例えば、2つのポリペプチドのそれぞれのある位置がリジンによって占められている場合に)、それぞれの分子は、その位置で同一である。2種の配列の間の"パーセンテージの同一性"は、2種の配列によって共有される一致した位置の数を比較された位置の数によって除算したものに100を乗算した関数である。例えば、2種の配列における10個の位置の6個が一致している場合に、それらの2種の配列は60%の同一性を有する。一般に、2種の配列を最大の同一性となるようにアラインメントして比較がなされる。斯かるアラインメントは、例えばNeedleman他(1970年)J.Mol.Biol.48:443−453の方法を用いて、Alignプログラム(DNAstar,Inc.)などのコンピュータプログラムによって適宜実行されて提供することができる。
【0064】
"類似の"配列は、アライメントされた場合に、同一の及び類似のアミノ酸残基を共有するものであり、その際、類似の残基は、アライメントされた参照配列中の相応のアミノ酸残基についての保存的置換である。この点に関しては、参照配列中の残基の"保存的置換"は、相応の参照残基と物理的にもしくは機能的に類似の残基、例えば類似の大きさ、形状、電荷、共有結合もしくは水素結合の形成能を含む化学特性などを有する残基による置換である。このように、"保存的置換により修飾された"配列は、参照配列もしくは野生型配列とは異なるものであり、1もしくはそれより多くの保存的置換が存在する配列である。2種の配列の間の"パーセンテージの類似性"は、2種の配列によって共有される一致した残基もしくは保存的置換を含む位置の数を比較された位置の数によって除算したものに100を乗算した関数である。例えば、2種の配列における10個の位置の6個が一致し、かつ10個の位置の2個が保存的置換を含む場合に、それらの2種の配列は、80%の正の類似性を有する。
【0065】
本願で使用される"アミノ酸コンセンサス配列"とは、少なくとも2種の、好ましくはそれより多くのアライメントされたアミノ酸配列の行列を用いて、かつそれぞれの位置での最も頻出するアミノ酸を決定できるようなアライメントでギャップを許容して生成できるアミノ酸配列を指す。コンセンサス配列は、それぞれの位置で最も頻出するアミノ酸を含む配列である。2もしくはそれより多くのアミノ酸が単独の位置で等しく現れる場合に、コンセンサス配列は、これらのアミノ酸の両方もしくは全てを含む。
【0066】
タンパク質のアミノ酸配列は、様々なレベルで解析することができる。例えば、保存もしくは変動は、単一残基レベル、多重残基レベル、ギャップありの多重残基などで表現することができる。残基は、同一の残基の保存を表すか、又はクラスレベルで保存されることがある。アミノ酸クラスの例は、極性であるが、非荷電のR基(セリン、トレオニン、アスパラギン及びグルタミン);正に荷電したR基(リジン、アルギニン及びヒスチジン);負に荷電したR基(グルタミン酸及びアスパラギン酸);疎水性のR基(アラジン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、トリプトファン、バリン及びチロシン);並びに特殊なアミノ酸(システイン、グリシン及びプロリン)を含む。他のクラスは、当業者に公知であり、かつ構造決定又は置換可能性を評価する他のデータを用いて定義されることがある。その意味で、置換可能なアミノ酸とは、置換することができ、その位置で機能的保存を維持できる任意のアミノ酸を指すことができる。
【0067】
本願で使用される場合に、1つのアミノ酸配列(例えば第一のVHもしくはVL配列)を1もしくはそれより多くの追加のアミノ酸配列(例えばデータベース中の1もしくはそれより多くのVHもしくはVL配列)とアラインメントする場合に、1つの配列(例えば第一のVHもしくはVL配列)中のアミノ酸配列は、その1もしくはそれより多くの追加のアミノ酸配列中の"相応の位置"と比較されうる。本願で使用される場合に、"相応の位置"は、配列が最適にアラインメントされた場合、すなわち配列が最も高いパーセントの同一性もしくはパーセントの類似性を達成するようにアラインメントされた場合、比較される配列中の対応位置を表す。
【0068】
本願で使用される場合に、用語"抗体データベース"とは、2もしくはそれより多くの抗体アミノ酸配列のコレクションを指し、一般に、何十種、何百種、あるいは何千種に及ぶ抗体アミノ酸配列のコレクションを指す。抗体データベースは、抗体VH領域、抗体VL領域又はその両方のアミノ酸配列、例えばそのコレクションを蓄積するか、又はVH及びVL領域を含むscFv配列のコレクションを蓄積しうる。好ましくは、該データベースは、検索可能な固定化された媒体、例えば検索可能なコンピュータプログラム内のコンピュータに蓄積される。一実施態様においては、抗体データベースは、生殖細胞系の抗体配列を含む又はそれらからなるデータベースである。もう一つの実施態様においては、抗体データベースは、成熟(すなわち発現される)抗体配列を含むもしくはそれらからなるデータベース(例えば成熟抗体配列のKabatデータベース、例えばKBDデータベース)である。更にもう一つの実施態様においては、抗体データベースは、機能的に選択された配列(例えばQCアッセイから選択された配列)を含むかあるいはそれらからなる。
【0069】
用語"イムノバインダー"とは、イムノバインダーが特異的に標的抗原を認識する、抗体の抗原結合部位の全てもしくは部分を含む分子、例えば重鎖及び/又は軽鎖の可変ドメインの全てもしくは部分を含む分子を指す。イムノバインダーの限定されない例には、全長免疫グロブリン分子及びscFv並びに抗体フラグメント、例えば限定されないが、(i)Fabフラグメント、つまりVL、VH、CL及びCH1ドメインからなる一価のフラグメント;(ii)F(ab′)2フラグメント、つまり2つのFabフラグメントを含みヒンジ領域でジスルフィド橋によって連結された二価のフラグメント;(iii)実質的にヒンジ領域の部分を有するFabであるFab′フラグメント(FUNDAMENTAL IMMUNOLOGY(Paul編、第三版、1993年)を参照);(iv)VH及びCH1ドメインからなるFdフラグメント;(vi)Dabなどの単一ドメイン抗体(Ward他(1989年)Nature 341:544−546)であって、VHもしくはVLドメインからなる抗体、つまりカメリド抗体(Hamers−Casterman他、Nature 363:446−448(1993)及びDumoulin他、Protein Science 11:500−515(2002)を参照)もしくはサメ抗体(例えばサメIg−NAR Nanobodies(登録商標))並びに(vii)ナノボディー、つまり単独の可変ドメインと2つの定常ドメインを含む重鎖可変領域が含まれる。
【0070】
本願で使用される場合に、用語"機能特性"は、例えばポリペプチドの製造特性もしくは治療効力を改善するために、当業者に改善(例えば従来のポリペプチドに対して)が望まれる及び/又は好ましい、ポリペプチド(例えばイムノバインダー)の特性である。一実施態様において、機能特性は、改善された安定性(例えば熱安定性)である。もう一つの実施態様において、機能特性は、改善された可溶性(例えば細胞条件下で)である。更にもう一つの実施態様において、機能特性は非凝集である。なおももう一つの実施態様において、機能特性は発現での改善(例えば原核細胞において)である。更にもう一つの実施態様において、機能特性は、封入体精製工程に引き続く再フォールディング率における改善である。一定の実施態様において、機能特性は、抗原結合親和性の改善ではない。
【0071】
scFvの配列に基づく分析
本発明は、突然変異について選択されるscFv配列内でのアミノ酸位置の割り出しを可能にするscFv配列の分析のための方法を提供する。突然変異について選択されたアミノ酸位置は、scFvの機能特性、例えば可溶性、安定性及び/又は抗原結合性に影響することが予測されるものであって、その際、斯かる位置での突然変異が、scFvの性能を改善すると予測されるものである。このように、本発明は、scFv配列内でアミノ酸位置を単純に無作為に突然変異するよりも焦点が絞られたscFvのエンジニアリングをして性能を最適化することができる。
【0072】
scFv配列の配列に基づく分析の一定の態様は、図1のフローチャートに図示されている。この図に示されるように、最適化されるべきscFvの配列は、安定で可溶性であると選択されたscFv配列から構成される抗体データベースを含む1もしくはそれより多くの抗体データベース中の配列と比較される。これは、特にscFvの形式で安定性及び/又は可溶性に決定的な残基の割り出し、並びに特にscFvの形式で(例えばVL及びVHの組み合わせ)それぞれのCDRとは独立した安定性、可溶性及び/又は結合性の改善を示すパターンの割り出しを可能にしうる。決定的な残基が割り出されたら、それらの残基は、例えばそれぞれのデータベース中で割り出された最も頻度の高い好適なアミノ酸によって及び/又は無作為なもしくは指向的な突然変異誘発によって置換されうる。
【0073】
このように、一態様では、本発明は、単鎖抗体(scFv)であって該scFvがVH及びVLアミノ酸配列を有するものにおける突然変異のためのアミノ酸位置を割り出す方法において、
a)scFvのVH、VLもしくはVH及びVLのアミノ酸配列を、多数の抗体のVH、VLもしくはVH及びVLのアミノ酸配列を含むデータベースに入力して、該scFvのVH、VLもしくはVH及びVLのアミノ酸配列とデータベースの該抗体のVH、VLもしくはVH及びVLのアミノ酸配列とをアラインメントさせることと、
b)scFvのVHもしくはVLのアミノ酸配列内のアミノ酸位置と、データベースの抗体のVHもしくはVLのアミノ酸内の相応の位置とを比較することと、
c)該scFvのVHもしくはVLのアミノ酸配列内のアミノ酸位置が、データベースの抗体のVHもしくはVLのアミノ酸配列内の相応の位置で保存されているアミノ酸残基によって占められているかどうかを調べることと、
d)該アミノ酸位置が、データベースの抗体のVHもしくはVLのアミノ酸内の相応の位置で保存されていないアミノ酸残基によって占められている場合に、該scFvのVHもしくはVLのアミノ酸配列内のアミノ酸位置を、突然変異のためのアミノ酸位置として割り出すことと
を含む方法に関する。
【0074】
このように、本発明の方法においては、関連するscFvの配列(すなわちVH、VLもしくは両方の配列)は、抗体データベースの配列と比較され、その関連のscFv中のアミノ酸位置が、データベース中の配列の相応の位置において"保存"されているアミノ酸残基によって占められているかどうかが調べられる。前記のscFv配列のアミノ酸位置が、データベースの配列内の相応の位置で"保存"されていないアミノ酸残基によって占められている場合に、そのscFvのアミノ酸位置が、次いで突然変異のために選択される。好ましくは、分析されるアミノ酸位置は、関連のscFv内のフレームワークのアミノ酸位置である。更により好ましくは、関連のscFv内のすべてのフレームワークのアミノ酸位置が分析されうる。選択的な一実施態様において、関連のscFvの1もしくはそれより多くのCDR内の1もしくはそれより多くのアミノ酸位置が分析されうる。更にもう一つの実施態様において、関連のscFvでの各アミノ酸位置が分析されうる。
【0075】
アミノ酸残基が抗体データベースの配列内の特定のアミノ酸位置(例えばフレームワークの位置)で"保存"されているかどうかを調べるためには、特定の位置での保存度が計算されうる。所定の位置でのアミノ酸多様度を定量できる、当該技術分野において知られる種々の様式の選択肢が存在し、その全ては、本発明の方法に適用することができる。好ましくは、保存度は、多様度の尺度であるシンプソン多様度指数を使用して計算される。各位置に存在するアミノ酸の数に加えて、各アミノ酸の相対存在度が考慮される。シンプソン指数(S.I.)は、2種の無作為に選択された抗体配列が、ある位置に同じアミノ酸を含む確率を表す。シンプソン指数は、保存度を測定する場合には、豊富さ及び均等度といった2つの主要な係数が考慮される。本願で使用される場合に、"豊富さ"は、特定の位置に存在する異なるアミノ酸種の数の尺度である(すなわち、その位置でデータベースに表される種々のアミノ酸残基の数が豊富さの尺度である)。本願で使用される場合に、"均等度"は、特定の位置に存在する各アミノ酸の存在度の尺度である(すなわち、データベースの配列内のその位置でアミノ酸残基が生ずる頻度が、均等度の尺度である)。
【0076】
残基の豊富さは、それ自身で、特定の位置での保存度を調べるための尺度として使用できる一方で、ある位置に存在する各アミノ酸残基の相対頻度は考慮されない。それは、データベースの配列内の特定の位置で非常にまれに生ずるアミノ酸残基について、その同じ位置で非常に頻繁に生ずるのと同等の重みづけとなることを示している。均等度は、ある位置の豊富さを形作る種々のアミノ酸の相対存在度の尺度である。シンプソン指数は、豊富さと均等度の両方を考慮に入れるので、それが、本発明により保存度を定量化する好ましい方法である。特に、非常に保存された位置での低い頻度の残基は、潜在的に問題があるものと見なされるため、突然変異のために選択されうる。
【0077】
シンプソン指数のための式は、D=Σni(ni−1)/N(N−1)であり、その際、Nは、調査における(例えばデータベースにおける)配列の全数であり、かつnは、分析される位置での各アミノ酸残基の頻度である。データベースにおけるアミノ酸事象(i)の頻度は、該データベースで生ずるアミノ酸の回数(ni)である。回数niそれ自身は、相対頻度で示される。つまり、それらは事象の全数によって正規化される。最大多様度が生ずる場合に、S.I.値はゼロであり、かつ最小多様度が生ずる場合に、S.I.値は1である。このように、S.I.範囲は0〜1であり、多様度と指数値との間は逆数の関係である。
【0078】
データベースの配列内のフレームワークのアミノ酸位置の分析のための多重の工程をまとめたフローチャートは、図2に更に詳細に記載される。
【0079】
従って、前記方法の好ましい一実施態様においては、データベースの抗体のVHもしくはVLのアミノ酸配列内の相応の位置には、シンプソンの指数を使用して保存度が割り当てられる。その相応の位置のS.I.値は、その位置の保存の指標として使用されうる。
【0080】
他の実施態様において、密接に関連した抗体配列の信頼性のあるアラインメント(すなわち、タンパク質構造の類似性が考慮される配列アラインメント)が、本発明において、調べられた位置でのアミノ酸の相対存在度と保存度との行列の生成のために使用される。これらの行列は、抗体−抗体データベース比較での使用のために設計される。それぞれの残基の観察された頻度が計算され、期待された頻度(それは各位置についてのデータセットにおける各残基の頻度である)と比較される。
【0081】
所定のscFv抗体の記載された方法による分析は、所定のscFv抗体におけるある特定の位置での生物学的に許容される突然変異及び普通でない残基についての情報を提供し、かつこのフレームワーク内での潜在的な弱点の予測を可能にする。S.I.値と相対頻度を基準として使用して、アミノ酸頻度データのセットに"最良に"当てはまるアミノ酸置換のエンジニアリングには、定型作業を使用することができる。
【0082】
前記の配列に基づく分析は、scFvのVH領域か、scFvのVL領域か、又はその両方に適用することができる。このように、一実施態様においては、scFvのVHのアミノ酸配列は、データベースに入力され、そして該データベースの抗体のVHのアミノ酸配列とアラインメントされる。もう一つの実施態様においては、scFvのVLのアミノ酸配列は、データベースに入力され、そして該データベースの抗体のVLのアミノ酸配列とアラインメントされる。更にもう一つの実施態様においては、scFvのVH及びVLのアミノ酸配列は、データベースに入力され、そして該データベースの抗体のVH及びVLのアミノ酸配列とアラインメントされる。ある配列とデータベースにおける他の配列のコレクションとをアラインメントさせるためのアルゴリズムは、当該技術分野では十分に確立されている。それらの配列は、配列間で最高のパーセントの同一性もしくは類似性が達成されるようにアラインメントされる。
【0083】
本発明の方法は、scFv配列内の関連の1つのアミノ酸位置を分析するために使用することができるか、又はより好ましくは、関連の多重のアミノ酸位置を分析するために使用することができる。このように、前記方法の工程b)では、scFvのVHもしくはVLのアミノ酸配列内の多重のアミノ酸位置を、データベースの抗体のVHもしくはVLのアミノ酸配列内の相応の位置と比較することができる。分析するのに好ましい位置は、scFvのVH及び/又はVLの配列内のフレームワーク位置である(例えば各VH及びVLのフレームワーク位置を分析することができる)。加えてあるいは択一的に、scFvの1もしくはそれより多くのCDR内の1もしくはそれより多くの位置を分析することができる(しかし、それはCDRに関するアミノ酸位置を突然変異させるのに好ましくないことがある。それというのも、CDR内の突然変異は、フレームワーク領域内の突然変異よりも恐らく抗原結合活性に影響するからである)。なおも更に、本発明の方法は、scFvのVH、VLもしくはVH及びVLのアミノ酸配列内の各アミノ酸位置の分析を可能にする。
【0084】
本発明の方法では、関連のscFvの配列を、多様な異なる種類の抗体の配列データベースの1もしくはそれより多くの中の配列と比較することができる。例えば、一実施態様においては、データベースの抗体のVH、VLもしくはVH及びVLのアミノ酸配列は、生殖細胞系の抗体のVH、VLもしくはVH及びVLのアミノ酸配列である。もう一つの実施態様においては、データベースの抗体のVH、VLもしくはVH及びVLのアミノ酸配列は、再配置され親和性成熟した抗体のVH、VLもしくはVH及びVLのアミノ酸配列である。更にもう一つの好ましい実施態様においては、データベースの抗体のVH、VLもしくはVH及びVLのアミノ酸配列は、scFv安定性もしくはscFv可溶性などの少なくとも1種の所望の機能特性を有するように選択されたscFv抗体のVH、VLもしくはVH及びVLのアミノ酸配列である(更に以下で議論される)。
【0085】
抗体配列情報は、生殖細胞系の配列の配列アラインメントから、あるいは天然に存在する生殖細胞系の配列から得ること、収集すること、及び/又は生成することができる。それらの配列のソースは、制限されないが、以下の1もしくはそれより多くのデータベースを含むことができる:
・ Kabatデータベース(.immuno.bme.nwu.Edu(2007年10月現在);Johnson&Wu(2001年)Nucleic Acids Res.29:205−206;Johnson&Wu(2000年)Nucleic Acids Res.28:214−218)。2000年からの生データは、米国のFTPによって入手でき、かつ英国にミラーリングされている。
【0086】
・ Kabatmanは、利用者に配列の普通でない特徴についてKabat配列を検索することを可能にし、かつ利用者に特定の抗体配列中のCDRに関するカノニカルな割り当ての発見を可能にするデータベースを含む。
【0087】
・ AAAAAウェブサイト(www.bioc.unizh.ch/antibody(2007年10月現在))、Annemarie Honeggerによって作製された抗体のページであり、抗体についての配列情報と構造データを提供している。
【0088】
・ ABG: 抗体の3D構造のディレクトリ − Antibody Group(ABG)によって作製されたディレクトリであり、それは利用者にタンパク質データバンク(PDB)に収集された抗体構造へのアクセスを可能にする。該ディレクトリにおいて、各PDBエントリは、全情報を回復容易にするためにオリジナルのソースへとハイパーリンクを有している。
【0089】
・ ABG: マウスのVH及びVKの生殖細胞系セグメントの生殖細胞系の遺伝子ディレクトリ、それはメキシコ自治大学生物工学研究所UNAM(メキシコ国立大学)の抗体グループのウェブページの一部である。
【0090】
・ IMGT(登録商標)、国際ImMunoGeneTics情報システム(登録商標)(Marie−Paule Lefranc(モンペリエ第二大学、CNRS)によって1989年に作製)IMGTは、ヒト及び他の脊椎動物種に関する免疫グロブリン、T細胞受容体及び免疫系の関連タンパク質に特化した統合知識リソースである。IMGTは、配列データベース(IMGT/LIGM−DB、全て注釈付の配列についての翻訳を有するヒト及び他の脊椎動物由来のIG及びTRの包括的データベース、IMGT/MHC−DB、IMGT/PRIMER−DB)、ゲノムデータベース(IMGT/GENE−DB)、構造データベース(IMGT/3D構造−DB)、ウェブリソース(IMGTレパートリ)(IMGT、国際ImMunoGeneTics情報システム(登録商標);imgt.cines.fr(2007年10月現在);Lefranc他(1999年)Nucleic Acids Res.27:209−212;Ruiz他(2000年)Nucleic Acids Res.28:219−221;Lefranc他(2001年)Nucleic Acids Res.29:207−209;Lefranc他(2003年)Nucleic Acids Res.31:307−310)からなる。
【0091】
・ V BASE − Genbank及びEMBLデータライブラリの最新リリース中の配列を含む千種類の公表された配列から収集された全てのヒト生殖細胞系可変領域配列の包括的ディレクトリ。
【0092】
好ましい一実施態様においては、抗体配列情報は、還元性環境における高められた安定性及び可溶性に関して選択された定義されたフレームワークを有するscFvライブラリーから得られる。より好ましくは、還元性環境における高められた安定性及び可溶性を有するscFvフレームワークの細胞内選択を可能にする酵母クオリティー・コントロール(QC)−システム(例えばPCT出願WO2001/48017号;米国出願番号2001/0024831号及びUS2003/0096306号;米国特許第7,258,985号及び第7,258,986号)が記載されている。このシステムにおいて、scFvライブラリーは、特定の公知の抗原を発現できる宿主細胞中に形質転換され、抗原−scFv相互作用の存在でのみ生存する。形質転換された宿主細胞は、抗原とscFvの発現に適していて、抗原−scFv相互作用の存在でのみ細胞の生存が可能な条件下で培養される。このように、生存している細胞で発現され、かつ還元性環境において安定で可溶性の定義されたフレームワークを有するscFvを単離することができる。従って、QC−システムは、大きなscFvライブラリーのスクリーニングをして、それにより還元性環境中で安定で可溶性のフレームワークを有するこれらの好ましいscFvを単離するために使用することができ、かつこれらの選択されたscFvの配列は、scFv配列データベース中に収集することができる。斯かるscFvデータベースは、次いで、関連の他のscFv配列との本発明の方法を使用した比較のために使用することができる。QC−システムを使用して事前に選択され定義された好ましいscFvフレームワーク配列は、更に詳細に、PCT出願WO2003/097697号及び米国出願第20060035320号に記載されている。
【0093】
本来のQC−システムの別形は、当該技術分野で公知である。図3に図解される一つの例示的実施態様において、scFvライブラリーは、Gal4酵母転写因子の活性化ドメイン(AD)に融合され、それはまたいわゆるGal11pタンパク質(11p)の一部に融合されている。そのscFv−AD−Gal11p融合構築物は、次いで、宿主細胞中に形質転換され、それは、Gal4の最初の100個のアミノ酸を発現し、こうしてGal4 DNA結合ドメイン(DBD;Gal4(1−100))を含む。Gal11pは、Gal4(1−100)に直接的に結合することが知られる点突然変異である(Barberis他.Cell,81:359(1995))。形質転換された宿主細胞は、scFv融合タンパク質の発現に適しており、かつscFv融合タンパク質がGal4(1−100)と相互作用するのに十分に安定で可溶性であり、それによりDBDに結合されたADを含む機能的転写因子を形成する(図3A)場合にのみ細胞の生存が可能である条件下で培養される。このように、生存している細胞で発現され、かつ還元性環境において安定で可溶性の定義されたフレームワークを有するscFvを単離することができる。この例示的なQCシステムの更なる説明は、Auf der Mauer他のMethods,34:215−224(2004)に記載されている。
【0094】
もう一つの例示的な実施態様において、本発明の方法で使用されるQCシステムを、図4に示す。このバージョンのQCシステムでは、scFvもしくはscFvライブラリーが、機能的転写因子に直接的に融合され、そして選択可能なマーカーを含む酵母菌株で発現される。その選択可能なマーカーは、機能的なscFv−転写因子融合物の存在下で活性化されるだけである。それは、該構築物が全体として安定かつ可溶性である必要があることを意味する(図4A)。scFvが不安定である状況では、それは凝集物を形成し、場合により分解され、それによりそこに融合された転写因子の分解も引き起こされることで、選択可能なマーカーの発現をもはや活性化できなくなる(図4Bを参照)。
【0095】
本発明の方法では、関連のscFvの配列を、抗体データベース内の全ての配列と比較することができるか、又は択一的に、データベース中の配列の選択された部分のみを比較目的に使用することができるに過ぎない。すなわち、該データベースは、関連のscFvとの高い割合の類似性もしくは同一性を有するこれらの配列のみに限定又は制約することができる。このように、本発明の方法の一実施態様においては、該データベースは、scFv抗体のVH、VLもしくはVH及びVLのアミノ酸配列と高い類似性を有するこれらの抗体のVH、VLもしくはVH及びVLのアミノ酸配列のみが含まれる制約されたデータベースである。
【0096】
関連のscFvを該データベースに入力して、該データベース内の抗体の配列と比較されると、配列情報が解析されて、所定の位置のアミノ酸の頻度と変動性についての情報が提供され、そして潜在的に問題のあるアミノ酸位置、特にscFvのフレームワーク内の潜在的に問題のあるアミノ酸位置が予測される。斯かる情報は、また、scFvの特性を改善する突然変異の設計にも使用できる。例えば、抗体可溶性は、溶媒曝露される疎水性残基を、この位置にしばしば存在する親水性残基に置き換えることによって改善できる。
【0097】
本発明の方法では、データベースの抗体の配列内の特定の位置で"保存"されうるアミノ酸残基の多くの考えられる種類がある。例えば、1つの特定のアミノ酸残基は、その位置で非常に高い頻度で見出されることがあり、それは、前記の特定のアミノ酸残基がその特定の位置で好ましいことを示している。従って、該方法の一実施態様においては、工程c)で、データベースの抗体のVHもしくはVLのアミノ酸配列内の相応の位置で保存されるアミノ酸残基は、該データベースの抗体のVHもしくはVLのアミノ酸配列内のその位置に最も頻度の高いアミノ酸残基である。他の実施態様においては、その位置は、特定の種類もしくはクラスのアミノ酸残基で"保存"されうる(すなわち、その位置は、単独の特定のアミノ酸残基のみによって優先的に占められずに、むしろ、それぞれ同じ種類もしくはクラスの残基である幾つかの異なるアミノ酸残基によって優先的に占められる。例えば、工程c)で、データベースの抗体のVHもしくはVLのアミノ酸配列内の相応の位置は、(i)疎水性アミノ酸残基、(ii)親水性アミノ酸残基、(iii)水素結合を形成できるアミノ酸残基又は(iv)β−シートを形成する性向を有するアミノ酸残基で保存されうる。
【0098】
該方法の工程d)では、scFvのVHもしくはVLのアミノ酸配列内のアミノ酸位置は、該アミノ酸位置が、データベースの抗体のVHもしくはVLのアミノ酸配列内の相応の位置で保存されていないアミノ酸残基によって占められている場合に、突然変異のためのアミノ酸位置として割り出される。あるアミノ酸位置を、"保存されていない"アミノ酸残基によって占められているので、潜在的に問題があるとして割り出す状況は多数考えられる。例えば、データベース内の相応のアミノ酸位置が疎水性残基で保存され、かつscFv内の位置が親水性残基によって占められている場合に、この位置は、scFvにおいては潜在的に問題となることがあり、その位置は突然変異のために選択することができる。同様に、データベース内の相応のアミノ酸位置が親水性残基で保存され、かつscFv内の位置が疎水性残基によって占められている場合に、この位置は、scFvにおいては潜在的に問題となることがあり、その位置は突然変異のために選択することができる。このように、本願に開示される方法の好ましい一実施態様においては、疎水性アミノ酸残基は、親水性残基によって置換され、又はその逆もある。更に他の場合には、データベース内の相応のアミノ酸位置が水素結合を形成できるアミノ酸残基又はβシートを形成する性向を有するアミノ酸残基で保存され、かつscFv内の位置が、それぞれ水素結合を形成できないアミノ酸残基又はβシートを形成する性向を有さないアミノ酸残基によって占められている場合に、この位置は、scFvにおいては潜在的に問題となることがあり、その位置は突然変異のために選択することができる。従って、本発明の方法のもう一つの好ましい実施態様においては、水素結合を形成しうるアミノ酸残基は、β−シートを形成する性向を有するアミノ酸残基によって置換され、又はその逆もある。
【0099】
好ましい一実施態様においては、本発明で記載される方法は、単独で又は組み合わせて使用することで、抗体の単鎖フラグメントの安定性及び/又は可溶性を改善するためのアミノ酸置換の組み合わせリストを作製することができる。
【0100】
共分散分析
本発明は、また、データベース内の抗体の配列と比較した場合の、scFvの配列内での共分散を分析するための方法に関する。共変する残基は、例えば(i)フレームワーク領域(FR)中の残基及びCDR中の残基;(ii)あるCDR中の残基及び別のCDR中の残基;(iii)あるFR中の残基及び別のFR中の残基;又は(iv)VH中の残基及びVL中の残基であってよい。抗体の三次構造で互いに相互作用する残基は、好ましいアミノ酸残基が、共変ペアの両方の位置で保存されうるように共変することができ、一方の残基が変化したら他方の残基も抗体構造の位置のために同様に変化せねばならない。一組のアミノ酸配列における共分散分析の実施方法は当業者に公知である。例えば、Choulier,L他(2000年)Protein 41:475−484は、ヒト及びマウスの生殖細胞系のVL及びVHの配列アラインメントに共分散分析を適用することを記載している。
【0101】
共分散分析は、保存されたアミノ酸位置を分析するための前記方法(前記方法中の工程a)〜d))と組み合わせることができ、こうして、該方法は更に、以下の工程:
e)データベースの抗体のVHもしくはVLのアミノ酸配列に対して共分散分析を行って、アミノ酸位置の共変ペアを割り出す工程;
f)アミノ酸位置の共変ペアと、scFvのVHもしくはVLのアミノ酸配列内の相応の位置とを比較する工程;
g)前記のscFvのVHもしくはVLのアミノ酸配列内の相応の位置が、データベースの抗体のVHもしくはVLのアミノ酸配列内のアミノ酸位置の共変ペアで保存されるアミノ酸残基によって占められているかどうかを決定する工程;及び
h)前記のscFvのVHもしくはVLのアミノ酸配列内の相応の位置の一方もしくは両方を、scFv内の相応の位置の一方もしくは両方が、データベースの抗体のVHもしくはVLのアミノ酸配列内のアミノ酸位置の共変ペアで保存されていないアミノ酸残基によって占められている場合に、突然変異のためのアミノ酸位置として割り出す工程
を含む。
【0102】
加えて又は選択的に、共分散分析は、それ自身で実施でき、こうして本発明は、以下の工程:
a)データベースの抗体のVHもしくはVLのアミノ酸配列に対して共分散分析を行って、アミノ酸位置の共変ペアを割り出す工程;
b)アミノ酸位置の共変ペアと、scFvのVHもしくはVLのアミノ酸配列内の相応の位置とを比較する工程;
c)前記のscFvのVHもしくはVLのアミノ酸配列内の相応の位置が、データベースの抗体のVHもしくはVLのアミノ酸配列内のアミノ酸位置の共変ペアで保存されるアミノ酸残基によって占められているかどうかを決定する工程;及び
d)前記のscFvのVHもしくはVLのアミノ酸配列内の相応の位置の一方もしくは両方を、scFv内の相応の位置の一方もしくは両方が、データベースの抗体のVHもしくはVLのアミノ酸配列内のアミノ酸位置の共変ペアで保存されていないアミノ酸残基によって占められている場合に、突然変異のためのアミノ酸位置として割り出す工程
を含む方法を提供する。
【0103】
本発明の共分散分析方法を使用して、1つの共変ペア又は1つより多くの共変ペアを分析することができる。このように、該方法の一実施態様においては、アミノ酸位置の複数の共変ペアがデータベースの抗体のVH及び/又はVLのアミノ酸配列内で割り出され、それは、scFvのVH及び/又はVLのアミノ酸配列内で相応の位置と比較される。
【0104】
該方法は、更に、データベースの抗体のVHもしくはVLのアミノ酸配列内のアミノ酸位置の共変ペアで保存されていないアミノ酸残基によって占められているscFv内の一方もしくは両方の相応の位置を突然変異することを含みうる。一実施態様において、アミノ酸位置の共変ペアで保存されていないアミノ酸残基によって占められているscFv内の相応の位置の一方は、アミノ酸位置の共変ペアで最も頻出するアミノ酸残基で置換される。もう一つの実施態様において、アミノ酸位置の共変ペアで保存されていないアミノ酸残基によって占められているscFv内の相応の位置の両方は、アミノ酸位置の共変ペアで最も頻出するアミノ酸残基で置換される。
【0105】
分子モデリング
潜在的に問題のある残基についてscFvを分析するための本発明の配列に基づく方法は、抗体の構造/機能の関連性を分析するための当業者に公知の他の方法と組み合わせることができる。例えば、好ましい一実施態様においては、本発明の配列に基づく分析方法は、付加的な潜在的に問題のある残基を割り出すために分子モデリングと組み合わされる。scFvを含む抗体構造のコンピュータモデリングのための方法とソフトウェアは、当該技術分野で確立されており、かつ本発明の配列に基づく方法と組み合わせることができる。このように、もう一つの実施態様においては、工程a)〜d)で示される残基の配列に基づく方法は、更に、以下の工程:
e)scFvのVH、VLもしくはVH及びVLのアミノ酸配列を分子モデリングに供する工程;及び
f)突然変異のための、scFvのVH、VLもしくはVH及びVLのアミノ酸配列内の少なくとも1つの付加的なアミノ酸位置を割り出す工程
を含む。該方法は、更に、分子モデリングによって突然変異のために割り出されたscFvのVH、VLもしくはVH及びVLのアミノ酸配列内の少なくとも1つの付加的なアミノ酸位置を突然変異することを含む。
【0106】
"機能的コンセンサス"対"従来型コンセンサス"分析
特に好ましい一実施態様において、1もしくはそれより多くのフレームワーク位置での変動性の度合いは、抗体の配列の第一のデータベース(例えば生殖細胞系データベース、例えばVbase及び/又はIMGT)もしくは成熟抗体データベース(例えばKBD)と、1もしくはそれより多くの所望の特性を有するものとして選択されたscFvの第二のデータベース、例えば酵母でのQCスクリーニングにより選択されたscFvのデータベース、すなわちQCデータベースとの間で比較される。図5で図説されるように、変動性値(例えばシンプソンの指数値)を、第一の(例えば生殖細胞系)データベース内のフレームワーク位置に割り当てることができ、それは図5では"G"値と呼ばれ、かつ変動性値(例えばシンプソンの指数値)を、第二のデータベース(例えばQCデータベース)内の相応のフレームワーク位置に割り当てることができ、それは図5では"Q"値として呼ばれる。G値が特定の位置でQ値よりも大きい場合に(すなわち、生殖細胞系配列においてその位置で選択されたscFvの配列におけるよりも変動性が高い場合に)、これは、その位置には制限された数の安定なscFvフレームワークアミノ酸残基が存在することを示しており、その安定なscFvフレームワークアミノ酸残基は、任意のCDRで使用するために好適なことがある。選択的に、G値が特定の位置でQ値よりも小さい場合に(すなわち、選択されたscFvの配列においてその位置で生殖細胞系配列におけるよりも変動性が高い場合に)、これは、その特定の位置がscFvにおいて変動性の許容性が高いことを示し、こうしてその位置は、アミノ酸置換によってscFvの安定性及び/又は可溶性が最適化されうる位置を表すことがある。表Aは、アミノ酸位置の番号と、高度に変動性のフレームワーク残基(hvFR)であってGがQより大きいかGがQより小さいかのいずれかである残基のまとめ表である。表Aに示されるように、アミノ酸の全番号(Aa#)における変動性と、高度に変動性のフレームワーク残基(hvFR)における変動性は、生殖細胞系とQC−FWとの間で大きく高まった。表Aの作製のために分析された配列は、QCアッセイ(WO03097697号に記載される;ここでは"Q"として呼称される)を使用して選択された約90のscFvの配列と、2007年10月にhttp://www.bioc.unizh.ch/antibody/Sequences/index.htmlから検索された全ての生殖細胞系のVH及びVLの配列であった。表Aの分析のためには、VH及びVLのドメインは、そのサブタイプによって群分けしなかった。
【0107】
表A:まとめ表
【表1】
【0108】
上記を考慮すると、更にもう一つの態様においては、本発明は、単鎖抗体(scFv)であって該scFvがVH及びVLのアミノ酸配列を有するものにおける突然変異のために1もしくはそれより多くのフレームワークアミノ酸位置を割り出す方法において:
a)VH、VLもしくはVH及びVLのアミノ酸配列(例えば生殖細胞系及び/又は成熟の抗体の配列)の第一のデータベースを提供すること;
b)少なくとも1つの所望の機能的特性を有するものとして選択されたscFv抗体のVH、VLもしくはVH及びVLのアミノ酸配列の第二のデータベースを提供すること;
c)第一のデータベースの各フレームワーク位置と第二のデータベースの各フレームワーク位置でのアミノ酸変動性を決定すること;
d)アミノ酸の変動性の度合いが第一のデータベースと第二のデータベースとの間で異なる1もしくはそれより多くのフレームワーク位置を割り出すことで、単鎖抗体(scFv)における突然変異のための1もしくはそれより多くのフレームワークアミノ酸位置を割り出すこと
を含む方法を提供する。
【0109】
好ましくは、各フレームワーク位置でのアミノ酸変動性は、シンプソンの指数を使用した保存の度合いの割り当てによって決定される。一実施態様においては、1もしくはそれより多くのフレームワークアミノ酸位置は、第一のデータベースと比較した場合により低いシンプソンの指数値を第二の(scFv)データベース中で有する1もしくはそれより多くのフレームワークアミノ酸位置に基づいて突然変異のために割り出される。もう一つの実施態様においては、1もしくはそれより多くのフレームワークアミノ酸位置は、第一のデータベース(例えば生殖細胞系データベースもしくは成熟抗体データベース)と比較した場合により高いシンプソンの指数値を第二のデータベース中で有する1もしくはそれより多くのフレームワークアミノ酸位置に基づいて突然変異のために割り出される。
【0110】
3種のヒトのVHファミリーと3種のヒトのVLファミリーについての、変動性分析及び突然変異のための残基の割り出しは、更に詳細に実施例2及び3で以下に記載する。
【0111】
濃縮/排除分析
もう一つの態様においては、本発明は、(例えば安定性及び/又は可溶性などの機能特性を改善するために)イムノバインダー内の関連のフレームワーク位置で好ましいアミノ酸残基置換を選択するための(又は選択的に、特定のアミノ酸置換を排除するための)方法を提供する。本発明の方法は、抗体配列の第一のデータベース(例えばVbase及び/又はIMGTなどの生殖細胞系データベースもしくは、より好ましくはKabatデータベース(KBD)などの成熟抗体データベース)における関連のフレームワーク位置でのアミノ酸残基の頻度と、1もしくはそれより多くの所望の特性を有するものとして選択されたscFvの第二のデータベース、例えば酵母におけるQCスクリーニングによって選択されたscFvのデータベース、すなわちQCデータベースにおける相応のアミノ酸位置でのアミノ酸残基の頻度とを比較する。
【0112】
所定の位置のアミノ酸残基を、コンセンサス配列のアミノ酸残基に対して突然変異させるために確立された方法に反して、驚くべきことに、"機能的コンセンサス"アプローチは、改善された所望の機能特性を有する抗体をもたらすことが判明した。これは、選択されたフレームワーク中で一定の変動性の度合いを本来示す高度に保存された位置が、無作為突然変異誘発に許容性であるべきであり、かつscFv形式の本来の残基より優れた代替アミノ酸を見出す確率の増大を表すという事実によることがある。更に、稀なアミノ酸についての顕著な優先性は、一定の残基に対する自然選択の指標である。これらの2つの統計的指針に基づき、重鎖と軽鎖の中の種々の残基を、浮動性位置(変動許容性)もしくは好ましい置換(普通でない残基)のいずれかとして選択できる。
【0113】
ある特定のアミノ酸残基の相対頻度が、第一のデータベース、すなわち生殖細胞系データベース及び/又は成熟抗体データベースに対して望ましい機能的特徴を有する配列を含む第二のデータベースにおいて増大する場合に、それぞれの残基は、所定の位置で、scFvの安定性及び/又は可溶性を改善するために好ましい残基であると見なされる。その反対に、ある特定のアミノ酸残基の相対頻度が、第二のデータベースにおいて第一のデータベースと比較して低下した場合に、そのそれぞれの残基を、その位置でのscFv形式の状況で好ましくないものと見なす。
【0114】
以下の実施例4に詳細に説明されるように、第一のデータベース(例えば成熟抗体配列のデータベース)からの抗体配列(例えばVHもしくはVL配列)は、それらのKabatファミリーサブタイプ(例えばVH1b、VH3など)により群分けされうる。各配列サブタイプ(すなわちサブファミリー)内で、各アミノ酸位置での各アミノ酸残基(例えばA、Vなど)の頻度は、そのサブタイプの全ての分析された配列のパーセンテージとして決定される。同じことが、第二のデータベース(すなわち、1もしくはそれより多くの所望の特性を有するものとして、例えばQCスクリーニングによって選択されたscFvのデータベース)の全ての配列について行われる。各サブタイプについて、特定の位置での各アミノ酸残基型について得られたパーセンテージ(相対頻度)は、第一のデータベースと第二のデータベースとの間で比較される。ある特定のアミノ酸残基の相対頻度が、第二のデータベース(例えばQCデータベース)において第一のデータベース(例えばKabatデータベース)に対して高められている場合に、これは、それぞれの残基が有利に選択され(すなわち"濃縮された残基")、該配列に好ましい特性を付与することを示している。反対に、該アミノ酸残基の相対頻度が第二のデータベースにおいて第一のデータベースに対して低下されている場合に、これは、それぞれの残基が有利ではない(すなわち"排除された残基")ことを示している。従って、濃縮された残基は、イムノバインダーの機能特性(例えば安定性及び/又は可溶性)を改善するために好ましい残基である一方で、排除された残基は、好ましくは回避される。
【0115】
前記を考慮して、一実施態様においては、本発明は、イムノバインダーの特定の位置における置換のためのアミノ酸残基を割り出す方法であって:
a)群分けされたVH及び/又はVLのアミノ酸配列(例えばKabatファミリーサブタイプにより群分けされた生殖細胞系及び/又は成熟抗体の配列)の第一のデータベースを提供すること;
b)少なくとも1つの所望の機能特性を有するものとして(例えばQCアッセイにより)選択された群分けされたscFv抗体のVHもしくはVLのアミノ酸配列の第二のデータベースを提供すること;
c)第一のデータベースのフレームワーク位置と第二のデータベースの相応のフレームワーク位置とでのアミノ酸残基についてのアミノ酸頻度を決定すること;
d)該アミノ酸を、そのアミノ酸残基が第一のデータベースに対してより高い頻度で第二のデータベースに出現する場合に(すなわち、濃縮された残基)、イムノバインダーの相応のアミノ酸位置での置換のために好ましいアミノ酸残基として割り出すこと
を含む方法を提供する。
【0116】
第二の(scFv)データベース(例えばQCデータベース)におけるアミノ酸残基の濃縮は、定量することができる。例えば、第二のデータベース内の残基の相対頻度(RF2)を第一のデータベース内の残基の相対頻度(RF1)との間の比率を測定することができる。この比率(RF2:RF1)を、"濃縮係数"(EF)と呼ぶことがある。従って、ある特定の実施態様においては、工程(d)でのアミノ酸残基は、第一のデータベースと第二のデータベースとの間のアミノ酸残基の相対頻度の比率(ここでは、"濃縮係数")が少なくとも1(例えば1〜10)である場合に割り出される。好ましい一実施態様においては、濃縮係数は、1.0より大きいもしくは約1.0(例えば、1.0、1.1、1.2、1.3、1.4もしくは1.5)である。なおももう一つの好ましい実施態様においては、濃縮係数は、約4.0〜約6.0である(例えば、4.0、4.1、4.2、4.3、4.4、4.5、4.6、4.7、4.8、4.9、5.0、5.1、5.2、5.3、5.4、5.5、5.6、5.7、5.8、5.9もしくは6.0)。もう一つの実施態様においては、濃縮係数は、約6.0〜約8.0である(例えば、6.0、6.1、6.2、6.3、6.4、6.5、6.6、6.7、6.8、6.9、7.0、7.1、7.3、7.4、7.5、7.6、7.7、7.8、7.9もしくは8.0)。他の実施態様においては、濃縮係数は、10より大きい(例えば、10、100、1000、104、105、106、107、108、109もしくはそれより大きい)。ある一定の実施態様においては、無限大の濃縮係数が達成されることがある。
【0117】
もう一つの実施態様においては、本発明は、イムノバインダーから特定の位置で排除されるべきアミノ酸残基を割り出す方法であって:
a)群分けされたVH及び/又はVLのアミノ酸配列(例えばKabatファミリーサブタイプにより群分けされた生殖細胞系及び/又は成熟抗体の配列)の第一のデータベースを提供すること;
b)少なくとも1つの所望の機能特性を有するものとして(例えばQCアッセイにより)選択された群分けされたscFv抗体のVHもしくはVLのアミノ酸配列の第二のデータベースを提供すること;
c)第一のデータベースのフレームワーク位置と第二のデータベースの相応のフレームワーク位置とでのアミノ酸残基についてのアミノ酸頻度を決定すること;
d)該アミノ酸を、そのアミノ酸残基が第一のデータベースに対してより低い頻度で第二のデータベースに出現する場合に、イムノバインダーの相応のアミノ酸位置での置換のために好ましくないアミノ酸残基として割り出すこと(その際、前記のアミノ酸残基の種類は好ましくないアミノ酸残基(すなわち排除された残基)である)
を含む方法を提供する。
【0118】
ある特定の好ましい実施態様においては、前記の工程d)における好ましくないアミノ酸残基は、濃縮係数(EF)が1未満である場合に割り出される。更に、本発明は、VH及び/又はVLのアミノ酸配列を有するイムノバインダーを改善する方法であって:
a)突然変異のための1もしくはそれより多くのフレームワークアミノ酸位置を割り出す工程;
b)工程a)で割り出されたそれぞれの特定のフレームワーク位置について、置換のために好ましいアミノ酸残基を割り出す工程;及び
c)それぞれの特定のフレームワーク位置のアミノ酸残基を、工程b)で割り出された好ましいアミノ酸残基へと突然変異させる工程
を含む方法を提供する。好ましくは、工程a)は、所定のフレームワーク位置での変動性の度合いを、本願に開示される方法に従って決定することによって、すなわち保存の度合いをシンプソンの指数を使用してそれぞれのフレームワーク位置に割り当てることによって実施される。置換に適したアミノ酸は、好ましくは、前記に開示された方法に従って割り出される。それは、少なくとも1の濃縮係数、より好ましくは少なくとも4〜6の濃縮係数を有する。イムノバインダーの相応のアミノ酸残基を次いで、当該技術分野で公知の分子生物学的方法を使用して好ましいアミノ酸残基に突然変異させる。該イムノバインダーは、好ましくはscFv抗体、全長免疫グロブリン、Fabフラグメント、Dabもしくはナノボディーである。
【0119】
scFvの突然変異
本発明の方法において、scFv内の1もしくはそれより多くのアミノ酸位置がscFvの機能特性に関して潜在的に問題があるものと割り出された場合に、該方法は、更に、これらの1もしくはそれより多くのアミノ酸位置を、scFvのVHもしくはVLのアミノ酸配列内で突然変異することを含むことができる。例えば、突然変異について割り出されたアミノ酸位置は、データベースの抗体のVHもしくはVL内の相応の位置で保存もしくは濃縮されているアミノ酸残基で置換することができる。
【0120】
突然変異について割り出されたアミノ酸位置は、当該技術分野で十分に確立された幾つかの考えられる突然変異誘発法の1つを使用して突然変異することができる。例えば、部位特異的突然変異誘発を用いて、関連のアミノ酸位置での特定のアミノ酸置換をすることができる。また、部位特異的突然変異誘発を用いて、限られたレパートリーのアミノ酸置換が関連のアミノ酸位置に導入された突然変異されたscFv一組を作製することもできる。
【0121】
加えて又は代わりに、突然変異について割り出されたアミノ酸位置を無作為なもしくは指向的な突然変異誘発によって突然変異させて、突然変異されたscFvのライブラリーを作製し、引き続き前記の突然変異されたscFvのライブラリーをスクリーニングし、そしてscFvを選択する、好ましくは少なくとも1つの改善された機能特性を有するscFvを選択することができる。好ましい一実施態様においては、該ライブラリーは、還元性の環境において高められた安定性及び/又は可溶性を有するscFvフレームワークの選択を可能にする、酵母クオリティー・コントロールシステム(QCシステム)(前記にさらに詳細に記載される)を使用してスクリーニングされる。
【0122】
scFvライブラリーをスクリーニングするための他の好適な選択技術は、制限されないが、ファージディスプレイ、リボソームディスプレイ及び酵母ディスプレイ(Jung他(1999年)J.Mol.Biol.294:163−180;Wu他(1999年)J.Mol.Biol.294:151−162;Schier他(1996年)J.Mol.Biol.255:28−43)などのディスプレイ技術を含む、当該技術分野で記載されている。
【0123】
一実施態様においては、突然変異について割り出されたアミノ酸位置は、データベースの抗体のVHもしくはVLのアミノ酸配列内の相応の位置で最も高く濃縮されているアミノ酸残基で置換されている。もう一つの実施態様において、データベースの抗体のVHもしくはVLのアミノ酸配列内の相応の位置は、疎水性アミノ酸残基で保存され、かつscFv内で突然変異のために割り出されたアミノ酸位置は、データベースの抗体のVHもしくはVLのアミノ酸配列内の相応の位置で最も高く濃縮されている疎水性アミノ酸残基で置換されている。なおももう一つの実施態様において、データベースの抗体のVHもしくはVLのアミノ酸配列内の相応の位置は、親水性アミノ酸残基で保存され、かつscFv内で突然変異のために割り出されたアミノ酸位置は、データベースの抗体のVHもしくはVLのアミノ酸配列内の相応の位置で最も高く濃縮されている親水性アミノ酸残基で置換されている。なおももう一つの実施態様において、データベースの抗体のVHもしくはVLのアミノ酸配列内の相応の位置は、水素結合を形成可能なアミノ酸残基で保存され、かつscFv内で突然変異のために割り出されたアミノ酸位置は、データベースの抗体のVHもしくはVLのアミノ酸配列内の相応の位置で最も高く濃縮されている水素結合を形成可能なアミノ酸残基で置換されている。更にもう一つの実施態様において、データベースの抗体のVHもしくはVLのアミノ酸配列内の相応の位置は、β−シートを形成する性向を有するアミノ酸残基で保存され、かつscFv内で突然変異のために割り出されたアミノ酸位置は、データベースの抗体のVHもしくはVLのアミノ酸配列内の相応の位置で最も高く濃縮されているβ−シートを形成する性向を有するアミノ酸残基で置換されている。
【0124】
一実施態様においては、全体の自由エネルギーを最小化する最良の置換は、1もしくはそれより多くの関連のアミノ酸位置でなされるべき突然変異として選択される。全体の自由エネルギーを最小化する最良の置換は、ボルツマンの法則を用いて決定できる。ボルツマンの法則のための式は、ΔΔGth=RTln(f親/fコンセンサス)である。
【0125】
潜在的に安定化する突然変異の役割は、更に、例えば局所的な及び非局所的な相互作用、カノニカル残基、インターフェース、曝露度及びβ−ターン性の調査によって決定できる。当該技術分野で知られる分子モデリング方法は、例えば、潜在的に安定化する突然変異の役割を更に調査するにあたり適用できる。また、1パネルの考えられる置換が考慮される場合に、分子モデリング方法を用いて、"最適な"アミノ酸置換を選択することができる。
【0126】
特定のアミノ酸位置に依存して、更なる分析を保証することができる。例えば、残基は、重鎖と軽鎖との間の相互作用に関連することがあり、又は塩橋もしくは水素結合により他の残基と相互作用することがある。これらの場合に、特定の分析が必要となることがある。本発明のもう一つの実施態様においては、安定性のための潜在的に問題のある残基は、共変ペア中のカウンターパートと適合性のあるものと変更することができる。選択的に、そのカウンターパートの残基を突然変異させて、問題があるものとして最初に割り出されたアミノ酸と適合させることができる。
【0127】
可溶性最適化
scFv抗体中の可溶性について潜在的に問題のある残基は、scFv中の溶媒曝露される疎水性アミノ酸を含むが、それは、全長抗体の場合には、可変ドメインと定常ドメインとの間のインターフェースで覆い隠されている。定常ドメインを欠くエンジニアリングされたscFvにおいては、可変ドメインと定常ドメインとの間の相互作用に関与する疎水性残基は、溶媒曝露されることとなる(例えばNieba他(1997年)Protein Eng.10:435−44を参照)。scFvの表面上のこれらの残基は、凝集を生ずるので、可溶性の問題を引き起こす傾向にある。
【0128】
scFv抗体で溶媒曝露される疎水性アミノ酸を交換することについて多くのストラテジーが記載されている。当業者によく知られているように、ある特定の位置での残基の改変は、安定性、可溶性及び親和性などの抗体の生物物理的特性に影響する。多くの場合に、これらの特性は相互関係を有する。それは、1つの単独アミノ酸の変化が、幾つかの前記の特性に影響しうることを意味する。従って、溶媒曝露される疎水性残基を非保存的に突然変異させることによって、安定性が低下し、かつ/又はその抗原に対する親和性が失われることがある。
【0129】
他のアプローチは、タンパク質ディスプレイ技術の徹底した使用及び/又はスクリーニングの労力によって可溶性の問題を解決することを意図している。しかし、斯かる方法は時間を費やすものであり、しばしば、可溶性タンパク質を得ることに失敗するか、又は抗体のより低い安定性又はその親和性の低下が生ずる。本発明においては、溶媒曝露される疎水性残基を、配列に基づく分析を用いて、より高い親水性を有する残基へと突然変異することを設計する方法が開示される。潜在的に問題のある残基は、特定の位置で最も頻出する親水性アミノ酸を選択することによって交換することができる。ある残基が、抗体中の任意の他の残基と相互作用することが判明したら、その潜在的に問題のある残基は、最も頻出する残基ではなく、共変ペアの第二のアミノ酸と適合しうるものへと突然変異させることができる。選択的に、共変ペアの第二のアミノ酸は、アミノ酸の組み合わせの復元のために突然変異させることもできる。更に、配列間の類似性のパーセンテージは、2つの相互関係を有するアミノ酸の最適な組み合わせを見出すのを補助するために考慮することができる。
【0130】
scFvの表面上の疎水性アミノ酸は、制限されないが、溶媒曝露、実験情報及び配列情報並びに分子モデリングを基礎とするアプローチを含む幾つかのアプローチを使用して割り出される。
【0131】
本発明の一実施態様においては、可溶性は、scFv抗体の表面上の曝露される疎水性残基と、データベース中のこれらの位置に存在する最も頻出する親水性残基とを交換することによって改善される。この根拠は、その頻出する残基が恐らく問題がないということによる。当業者に認められているように、保存的置換は、通常は、分子の脱安定化への影響は小さいが、一方で、非保存的置換は、scFvの機能的特性に有害なことがある。
【0132】
時として、抗体の表面上の疎水性残基は、重鎖と軽鎖との間の相互作用に関連することがあり、又は塩橋もしくは水素結合により他の残基と相互作用することがある。これらの場合に、特定の分析が必要となることがある。本発明のもう一つの実施態様においては、安定性について潜在的に問題のある残基は、最も頻出する残基へではなく、共変ペアと適合性のものへと突然変異できるか、又は第二の突然変異は、共変アミノ酸の組み合わせの復元のために実施することができる。
【0133】
付加的な方法は、溶媒曝露される疎水性位置での突然変異の設計に使用することができる。本発明のもう一つの実施態様においては、改変されるべきscFvに最も高い類似性を表す配列へのデータベースの制約を使用する方法が開示される(更に前記で議論した)。斯かる制約された参照データベースを適用することによって、該突然変異は、最適化されるべき抗体の特定の配列の点で最適であるように設計される。この状況で、選択された親水性残基は、多数の配列(すなわち、制約されないデータベース)と比較した場合に、実際は、それぞれの位置で十分に現れないことがある。
【0134】
安定性最適化
単鎖抗体フラグメントは、軽鎖可変ドメイン及び重鎖可変ドメインを共有結合で連結するペプチドリンカーを含む。斯かるリンカーは可変ドメインがばらばらになることを回避するのに効果的であり、それによりscFvはFvフラグメントより優れたものとなるが、scFvフラグメントは、依然として、Fabフラグメント又は全長抗体(その両者において、VH及びVLは、定常ドメインを介して間接的に結合されているにすぎない)と比較してよりアンフォールディング及び凝集の傾向にある。
【0135】
scFvにおけるもう一つの共通の問題は、分子間凝集をもたらすscFvの表面上の疎水性残基の曝露である。更に、時として、親和性成熟のプロセスの間に獲得される体細胞突然変異は、β−シートのコアに親水性残基を配置する。斯かる突然変異は、IgG形式であるいはFabフラグメントでさえも十分に許容できるが、scFvにおいては、これは明らかに脱安定化と結果としてのアンフォールディングの原因となる。
【0136】
scFv脱安定化の原因となる公知の要因には、scFv抗体の表面上にある溶媒曝露される疎水性残基、該タンパク質のコアに覆い隠された普通でない親水性残基、並びに重鎖と軽鎖との間の疎水性インターフェースに存在する親水性残基が含まれる。更に、コア内の非極性残基間でのファン・デル・ワールス充填相互作用は、タンパク質安定性に重要な役割を担うことは知られている(Monsellier E.及びBedouelle H.(2006年)J.Mol.Biol.362:580−93、Tan他(1998年)Biophys.J.75:1473−82;Woern A.及びPlueckthun A.(1998年)Biochemistry 37:13120−7)。
【0137】
このように、一実施態様においては、scFv抗体の安定性を高めるために、非常に保存された位置での普通でない及び/又は好ましくないアミノ酸が割り出され、そしてこれらの保存された位置でより一般的なアミノ酸へと突然変異される。斯かる普通でない及び/又は好ましくないアミノ酸には、(i)scFv抗体の表面上の溶媒曝露される疎水性残基;(ii)タンパク質中で覆い隠された普通でない親水性残基;(iii)重鎖と軽鎖との間の疎水性インターフェース中に存在する親水性残基;及び(iv)VH/VLインターフェースVH/VLを立体障害によって妨害する残基が含まれる。
【0138】
このように、本発明の一実施態様においては、安定性の増加は、その位置で出現の乏しいアミノ酸を、これらの位置で最も頻出するアミノ酸によって置換することによって達成できる。出現頻度は、一般に、生物学的許容性の指標を提供する。
【0139】
残基は、重鎖と軽鎖との間の相互作用に関連することがあり、又は塩橋、水素結合もしくはジスルフィド結合により他の残基と相互作用することがある。これらの場合に、特定の分析が必要となることがある。本発明のもう一つの実施態様においては、安定性のための潜在的に問題のある残基は、共変ペア中のカウンターパートと適合性のあるものと変更することができる。選択的に、そのカウンターパートの残基を突然変異させて、問題があるものとして最初に割り出されたアミノ酸と適合させることができる。
【0140】
付加的な方法を用いて、安定性の改善のために突然変異を設計することができる。本発明のもう一つの実施態様においては、改変されるべきscFvに最も高い類似性を表す配列へのデータベースの制約を使用する方法が開示される(更に前記で議論した)。斯かる制約された参照データベースを適用することによって、該突然変異は、最適化されるべき抗体の特定の配列の点で最適であるように設計される。該突然変異は、データベース配列の選択されたサブセットに存在する最も頻出するアミノ酸を使用する。この状況で、選択された残基は、多数の配列(すなわち、制約されないデータベース)と比較した場合に、実際は、それぞれの位置で十分に現れないことがある。
【0141】
scFv組成物及び製剤
本発明のもう一つの態様は、本発明の方法により製造されたscFv組成物に関する。このように、本発明は、エンジニアリングされたscFv組成物であって、関連の当初のscFvと比較して1もしくはそれより多くの突然変異が導入されている組成物を提供し、その際、前記突然変異は、1もしくはそれより多くの生物学的特性、例えば安定性もしくは可溶性に影響することが予測される位置、特に1もしくはそれより多くのフレームワーク位置に導入される。一実施態様においては、scFvは、1つの突然変異されたアミノ酸位置(例えば、1つのフレームワーク位置)を含むようにエンジニアリングされている。他の実施態様においては、scFvは、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つ、9つ、10つもしくは10つより多くの突然変異されたアミノ酸位置(例えば、フレームワーク位置)を含むようにエンジニアリングされている。
【0142】
本発明のもう一つの態様は、本発明のscFv組成物の医薬品製剤に関する。斯かる製剤は、一般に、scFv組成物と製剤学的に認容性の担体を含む。本願で使用される"製剤学的に認容性の担体"には、生理学的に適合可能な、いずれかの及びあらゆる溶剤、分散媒、コーティング、抗微生物剤及び抗菌剤、等張剤及び吸収遅延剤などが含まれる。好ましくは、担体は、例えば静脈内の、筋内の、皮下の、非経口の、脊髄の、表皮の投与(例えば、注射もしくは点滴による)又は局所(例えば目もしくは皮膚への)に適している。投与経路に応じて、scFvは、該化合物を、酸の作用と、該化合物を不活性化しうる他の中性条件から保護するための材料でコーティングされてよい。
【0143】
本発明の医薬化合物には、1もしくはそれより多くの製剤学的に認容性の塩が含まれうる。"製剤学的に認容性の塩"とは、親化合物の所望の生物学的活性を保ち、いかなる不所望な毒性学的作用を付与しない塩を指す(例えば、Berge,S.M.他(1977年)J.Pharm.Sci.66:1−19を参照)。斯かる塩の例には、酸付加塩及び塩基付加塩が含まれる。酸付加塩には、非毒性の無機酸、例えば塩化水素酸、硝酸、リン酸、硫酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、亜リン酸など、並びに非毒性の有機酸、例えば脂肪族のモノカルボン酸及びジカルボン酸、フェニル置換されたアルカン酸、ヒドロキシアルカン酸、芳香族酸、脂肪族及び芳香族のスルホン酸などから誘導される塩が含まれる。塩基付加塩には、アルカリ土類金属、例えばナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウムなど、並びに非毒性の有機アミン、例えばN,N′−ジベンジルエチレンジアミン、N−メチルグルカミン、クロロプロカイン、コリン、ジエタノールアミン、エチレンジアミン、プロカインなどから誘導される塩が含まれる。
【0144】
また、本発明の医薬組成物は、製剤学的に認容性の酸化防止剤を含んでよい。製剤学的に認容性の酸化防止剤の例には、(1)水溶性の酸化防止剤、例えばアスコルビン酸、システイン塩酸、重硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウムなど;(2)油溶性の酸化防止剤、例えばパルミチン酸アスコルビル、ブチル化ヒドロキシアニソール(BHA)、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)、レシチン、没食子酸プロピル、α−トコフェロールなど、並びに(3)金属キレート化剤、例えばクエン酸、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ソルビトール、酒石酸、リン酸などが含まれる。
【0145】
本発明の医薬組成物で使用できる好適な水性の及び非水性の担体の例には、水、エタノール、ポリオール(例えばグリセロール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールなど)、及びそれらの好適な混合物、植物油、例えばオリーブ油及び注入可能な有機エステル、例えばオレイン酸エチルが含まれる。適切な流動性は、レシチンなどのコーティング材料の使用によって、分散液の場合には必要な粒度の維持によって、かつ界面活性剤の使用によって維持することができる。
【0146】
また、これらの組成物は、助剤、例えば保存剤、湿潤剤、乳化剤及び分散剤を含有してもよい。微生物の存在の抑制は、滅菌手法(上記)によって、かつ様々な抗微生物剤及び抗菌剤、例えばパラベン、クロロブタノール、フェノールソルビン酸などを含むことによって保証することができる。また、等張剤、例えば糖類、塩化ナトリウムなどを該組成物に含ませることも望ましいことがある。更に、注入可能な医薬品形の延長された吸収は、モノステアリン酸アルミニウム及びゼラチンなどの吸収を遅延させる剤を含むことによってもたらすことができる。
【0147】
製剤学的に認容性の担体には、滅菌の水溶液もしくは水性分散液及び滅菌の注射可能な溶液もしくは分散液の即時調製物用の滅菌の粉末が含まれる。かかる媒体及び剤の製剤学的に有効な物質のための使用は、当該技術分野で公知である。任意の慣用の媒体もしくは剤が該有効化合物と不適合性である場合を除き、本発明の医薬組成物でのその使用が検討される。補助的な有効化合物を該組成物に導入することもできる。
【0148】
治療用組成物は、一般に、滅菌されており、かつ製造及び貯蔵の条件下で安定でなければならない。該組成物は、溶液、マイクロエマルジョン、リポソーム又は高い薬剤濃度に適した他の規則構造物として製剤化することができる。担体は、溶剤もしくは分散媒であって、例えば水、エタノール、ポリオール(例えばグリセロール、プロピレングリコール及び液状ポリエチレングリコールなど)を含有するもの、並びにそれらの好適な混合物であってよい。適切な流動性は、レシチンなどのコーティングの使用によって、分散液の場合には必要な粒度の維持によって、かつ界面活性剤の使用によって維持することができる。多くの場合に、等張剤、例えば糖類、ポリアルコール、例えばマンニトール、ソルビトールもしくは塩化ナトリウムが該組成物中に含まれることが好ましい。注射可能な組成物の延長された吸収は、該組成物中に、吸収を遅らせる剤、例えばモノステアリン酸塩及びゼラチンを含ませることによってもたらすことができる。
【0149】
滅菌の注射可能な溶液は、有効化合物を必要量で好適な溶剤中に前記列挙した成分1種もしくはその組み合わせと共に導入し、所望であれば、引き続き滅菌精密濾過を行うことによって製造することができる。一般に、分散液は、有効化合物を、基礎分散媒と前記列挙したものからの必要な他の成分とを含有する滅菌ビヒクル中に導入することによって製造される。滅菌の注射可能な溶液の製造のための滅菌粉末の場合には、好ましい製造方法は、真空乾燥及び凍結乾燥(凍結乾燥)であり、それにより事前に滅菌濾過された溶液から有効成分と任意の付加的な所望の成分との粉末が得られる。
【0150】
担体材料と組み合わせて単独の剤形を生成できる有効成分の量は、処置される被験体と、特定の投与様式とに応じて変動する。担体材料と組み合わせて単独の剤形を生成できる有効成分の量は、一般に、治療効果を生ずる組成物の量である。一般に、100パーセントから外れて、この量は、製剤学的に認容性の担体と組み合わせて、約0.01パーセントないし約99パーセントの有効成分、好ましくは約0.1パーセントないし約70パーセント、最も好ましくは約1パーセントないし約30パーセントの有効成分である。
【0151】
投与計画は、最適な所望の応答(例えば治療応答)が提供されるように調節される。例えば、単独のボーラスを投与してよく、幾つかの分割された用量を経時的に投与してよく、あるいは治療状況の緊急性によって指示される場合にはその用量は比例的に低減もしくは増加させてよい。特に、投与を容易にし、かつ投薬を均一にするために、非経口組成物を投与単位剤形で製剤化することが特に好ましい。本願で使用される投与単位剤形とは、処置されるべき被験体のために単位投与量として適合された物理的に別個の単位を指す;それぞれの単位は、必要な医薬品担体と組み合わせて所望の治療効果をもたらすように計算された予め決められた量の有効化合物を含有する。本発明の投与単位剤形についての仕様は、(a)有効化合物の独特の特徴及び達成されるべき特定の治療効果と、(b)個体における感受性の処置のためにかかる有効化合物を配合する技術につきものの制限とによって規定され、かつそれらに直接的に依存する。
【0152】
"機能的コンセンサス"アプローチを基礎とするイムノバインダーエンジニアリング
実施例2及び3で詳細に説明されるように、本願に記載される"機能的コンセンサス"アプローチは、改善された特性について選択されたscFv配列のデータベースを使用してフレームワーク位置の変動性を分析するものであるが、それは、生殖細胞系データベース及び/又は成熟抗体データベースにおける同じ位置での変動性と比較することで、変動性に許容性が高いか低いかのいずれかであるアミノ酸位置の割り出しを可能にする。実施例5及び6で詳細に説明されるように、サンプルのscFv内のある特定のアミノ酸位置を生殖細胞系のコンセンサス残基に逆突然変異させることで、中性のもしくは有害な作用が奏され、その一方で、"機能的コンセンサス"を含むscFv変異体は、野生型のscFv分子と比較して高められた熱安定性を示す。従って、ここで機能的コンセンサスアプローチを通じて割り出されたフレームワーク位置は、scFvの機能特性を変更する、好ましくは改善するための、scFv改変のための好ましい位置である。本願で使用される場合に、用語"機能特性"とは、例えば改善された安定性、改善された可溶性、非凝集、発現の改善、封入体精製工程に引き続く再フォールディング率における改善又は前記の改善の2もしくはそれより多くの組み合わせを指す。好ましくは、scFvの機能特性の改善は、抗原結合親和性の改善を含まない。
【0153】
実施例3で第3表〜第8表に示されるように、以下のフレームワーク位置が、示されたVHもしくはVL配列における改変のために好ましい位置として割り出された(以下に使用される番号付けは、AHoナンバリングシステムである;AHoナンバリングをKabatシステムのナンバリングに変換する変換表は、実施例1の第1表及び第2表に示される):
VH3:アミノ酸位置1、6、7、89及び103;
VH1a:アミノ酸位置1、6、12、13、14、19、21、90、92、95及び98;
VH1b:アミノ酸位置1、10、12、13、14、20、21、45、47、50、55、77、78、82、86、87及び107;
Vκ1:アミノ酸位置1、3、4、24、47、50、57、91及び103;
Vκ3:アミノ酸位置2、3、10、12、18、20、56、74、94、101及び103;並びに
Vλ1:アミノ酸位置1、2、4、7、11、14、46、53、82、92及び103。
【0154】
従って、これらのアミノ酸位置の1もしくはそれより多くを、scFv分子などのイムノバインダーにおけるエンジニアリングのために選択して、それにより該イムノバインダーの変異体(すなわち変異された)形を生成できる。好ましくは、該エンジニアリングは、抗原結合親和性に影響を及ぼすことなく、1もしくはそれより多くの改善された機能特性を有するイムノバインダーをもたらす。好ましい一実施態様において、得られたイムノバインダーは、改善された安定性及び/又は可溶性の特徴を有する。このように、なおももう一つの態様においては、本発明は、イムノバインダーをエンジニアリングする方法、特に(i)VH3、VH1aもしくはVH1bのドメインタイプの重鎖可変領域もしくはそれらのフラグメントであってVHフレームワーク残基を含む領域及び/又は(ii)Vκ1、Vκ3もしくはVλ1のドメインタイプの軽鎖可変領域もしくはそれらのフラグメントであってVLフレームワーク残基を含む領域を含むイムノバインダーの1もしくはそれより多くの機能特性を改善するための方法であって:
a)突然変異のためにイムノバインダー内の1もしくはそれより多くのアミノ酸位置を選択すること;及び
b)突然変異のために選択された1もしくはそれより多くのアミノ酸位置を突然変異させること
を含み、その際、前記突然変異のために選択された1もしくはそれより多くのアミノ酸位置は、
(i)AHoナンバリングを使用したVH3のアミノ酸位置1、6、7、89及び103(Kabatナンバリングを使用したアミノ酸位置1、6、7、78及び89);
(ii)AHoナンバリングを使用したVH1aのアミノ酸位置1、6、12、13、14、19、21、90、92、95及び98(Kabatナンバリングを使用したアミノ酸位置1、6、11、12、13、18、20、79、81、82b及び84);
(iii)AHoナンバリングを使用したVH1bのアミノ酸位置1、10、12、13、14、20、21、45、47、50、55、77、78、82、86、87及び107(Kabatナンバリングを使用したアミノ酸位置1、9、11、12、13、19、20、38、40、43、48、66、67、71、75、76及び93);
(iv)AHoナンバリングを使用したVκ1のアミノ酸位置1、3、4、24、47、50、57、91及び103(Kabatナンバリングを使用したアミノ酸位置1、3、4、24、39、42、49、73及び85);
(v)AHoナンバリングを使用したVκ3のアミノ酸位置2、3、10、12、18、20、56、74、94、101及び103(Kabatナンバリングを使用したアミノ酸位置2、3、10、12、18、20、48、58、76、83及び85);及び
(vi)AHoナンバリングを使用したVλ1のアミノ酸位置1、2、4、7、11、14、46、53、82、92及び103(Kabatナンバリングを使用したアミノ酸位置1、2、4、7、11、14、38、45、66、74及び85)
からなる群から選択される前記方法を提供する。
【0155】
好ましい一実施態様においては、該方法は、イムノバインダーの1もしくはそれより多くの機能特性を改善するが、但し、scFvの1もしくはそれより多くの機能特性は、抗原結合親和性における改善を含まない。
【0156】
もう一つの好ましい実施態様においては、突然変異のために選択された1もしくはそれより多くのアミノ酸位置は、AHoナンバリングを使用したVH3のアミノ酸位置1、6、7、89及び103(Kabatナンバリングを使用したアミノ酸位置1、6、7、78及び89)からなる群から選択される。
【0157】
もう一つの好ましい一実施態様においては、突然変異のために選択された1もしくはそれより多くのアミノ酸位置は、AHoナンバリングを使用したVH1aのアミノ酸位置1、6、12、13、14、19、21、90、92、95及び98(Kabatナンバリングを使用したアミノ酸位置1、6、11、12、13、18、20、79、81、82b及び84)からなる群から選択される。
【0158】
もう一つの好ましい一実施態様においては、突然変異のために選択された1もしくはそれより多くのアミノ酸位置は、AHoナンバリングを使用したVH1bのアミノ酸位置1、10、12、13、14、20、21、45、47、50、55、77、78、82、86、87及び107(Kabatナンバリングを使用したアミノ酸位置1、9、11、12、13、19、20、38、40、43、48、66、67、71、75、76及び93)からなる群から選択される。
【0159】
もう一つの好ましい実施態様においては、突然変異のために選択された1もしくはそれより多くのアミノ酸位置は、AHoナンバリングを使用したVκ1のアミノ酸位置1、3、4、24、47、50、57、91及び103(Kabatナンバリングを使用したアミノ酸位置1、3、4、24、39、42、49、73及び85)からなる群から選択される。
【0160】
もう一つの好ましい実施態様においては、突然変異のために選択された1もしくはそれより多くのアミノ酸位置は、AHoナンバリングを使用したVκ3のアミノ酸位置2、3、10、12、18、20、56、74、94、101及び103(Kabatナンバリングを使用したアミノ酸位置2、3、10、12、18、20、48、58、76、83及び85)からなる群から選択される。
【0161】
もう一つの好ましい実施態様においては、突然変異のために選択された1もしくはそれより多くのアミノ酸位置は、AHoナンバリングを使用したVλ1のアミノ酸位置1、2、4、7、11、14、46、53、82、92及び103(Kabatナンバリングを使用したアミノ酸位置1、2、4、7、11、14、38、45、66、74及び85)からなる群から選択される。
【0162】
様々な実施態様において、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20もしくは20より多くの前記のアミノ酸位置が突然変異のために選択される。
【0163】
なおももう一つの態様においては、本発明は、(i)VH3、VH1aもしくはVH1bのドメインタイプの重鎖可変領域もしくはそれらのフラグメントであってVHフレームワーク残基を含む領域及び/又は(ii)Vκ1、Vκ3もしくはVλ1のドメインタイプの軽鎖可変領域もしくはそれらのフラグメントであってVLフレームワーク残基を含む領域を含むイムノバインダーの安定性及び/又は可溶性の特性を改善する方法であって:
a)突然変異のためにイムノバインダー内の1もしくはそれより多くのアミノ酸位置を選択すること;及び
b)突然変異のために選択された1もしくはそれより多くのアミノ酸位置を突然変異させること
を含み、その際、前記突然変異のために選択された1もしくはそれより多くのアミノ酸位置は、
(i)AHoナンバリングを使用したVH3のアミノ酸位置1、89及び103(Kabatナンバリングを使用したアミノ酸位置1、78及び89);
(ii)AHoナンバリングを使用したVH1aのアミノ酸位置1、12、13、14、19、21、90、92、95及び98(Kabatナンバリングを使用したアミノ酸位置1、11、12、13、18、20、79、81、82b及び84);
(iii)AHoナンバリングを使用したVH1bのアミノ酸位置1、10、12、13、14、20、21、45、47、50、55、77、78、82、86、87及び107(Kabatナンバリングを使用したアミノ酸位置1、9、11、12、13、19、20、38、40、43、48、66、67、71、75、76及び93);
(iv)AHoナンバリングを使用したVκ1のアミノ酸位置1、3、4、24、47、50、57及び91(Kabatナンバリングを使用したアミノ酸位置1、3、4、24、39、42、49及び73);
(v)AHoナンバリングを使用したVκ3のアミノ酸位置2、3、10、12、18、20、56、74、94及び101(Kabatナンバリングを使用したアミノ酸位置2、3、10、12、18、20、48、58、76及び83);及び
(vi)AHoナンバリングを使用したVλ1のアミノ酸位置1、2、4、7、11、14、46、53、82及び92(Kabatナンバリングを使用したアミノ酸位置1、2、4、7、11、14、38、45、66及び74)
からなる群から選択される前記方法を提供する。
【0164】
このように、なおももう一つの態様においては、本発明は、(i)VH3、VH1aもしくはVH1bのドメインタイプの重鎖可変領域もしくはそれらのフラグメントであってVHフレームワーク残基を含む領域及び/又は(ii)Vκ1、Vκ3もしくはVλ1のドメインタイプの軽鎖可変領域もしくはそれらのフラグメントであってVLフレームワーク残基を含む領域を含むイムノバインダーの安定性及び/又は可溶性を、イムノバインダーの抗原結合親和性に影響を及ぼすことなく改善するための方法であって:
a)突然変異のためにイムノバインダー内の1もしくはそれより多くのアミノ酸位置を選択すること;及び
b)突然変異のために選択された1もしくはそれより多くのアミノ酸位置を突然変異させること
を含み、その際、前記突然変異のために選択された1もしくはそれより多くのアミノ酸位置は、
(i)AHoナンバリングを使用したVH3のアミノ酸位置1及び103(Kabatナンバリングを使用したアミノ酸位置1及び89);
(ii)AHoナンバリングを使用したVH1aのアミノ酸位置1、12、13、14、19、21、90、95及び98(Kabatナンバリングを使用したアミノ酸位置1、11、12、13、18、20、79、82b及び84);
(iii)AHoナンバリングを使用したVH1bのアミノ酸位置1、10、12、13、14、20、21、45、47、50、55及び77(Kabatナンバリングを使用したアミノ酸位置1、9、11、12、13、19、20、38、40、43、48及び66);
(iv)AHoナンバリングを使用したVκ1のアミノ酸位置1及び3(Kabatナンバリングを使用したアミノ酸位置1及び3);
(v)AHoナンバリングを使用したVκ3のアミノ酸位置2、3、10、12、18、20、94及び101(Kabatナンバリングを使用したアミノ酸位置2、3、10、12、18、20、76及び83);及び
(vi)AHoナンバリングを使用したVλ1のアミノ酸位置1、2、4、7、11、14、82及び92(Kabatナンバリングを使用したアミノ酸位置1、2、4、7、11、14、66及び74)
からなる群から選択される前記方法を提供する。
【0165】
好ましくは、イムノバインダーはscFvであるが、他のイムノバインダー、例えば全長免疫グロブリン、Fabフラグメント、Dab、ナノボディー又は本願に記載される任意の他の種類のイムノバインダーも該方法に従ってエンジニアリングすることができる。本発明は、また、当該エンジニアリング方法に従って製造されたイムノバインダー並びに該イムノバインダーと製剤学的に認容性の担体とを含む組成物を包含する。
【0166】
ある特定の例示的な実施態様においては、本発明の方法によりエンジニアリングされたイムノバインダーは、当該技術分野で認められる治療的に重要な標的抗原を結合するイムノバインダー又は治療的に重要なイムノバインダーから誘導された可変領域(VL及び/又はVL領域)もしくは1もしくはそれより多くのCDR(例えば、CDRL1、CDRL2、CDRL3、CDRH1、CDRH2及び/又はCDRH3)を含むイムノバインダーである。例えば、FDAもしくは他の規制当局によって現在承認されているイムノバインダーを、本発明による方法に従ってエンジニアリングすることができる。より具体的には、これらの例示的なイムノバインダーは、それらに制限されないが、抗CD3抗体、例えばムロモナブ(Orthoclone(登録商標)OKT3;Johnson&Johnson,Brunswick,NJ;Arakawa他のJ.Biochem,(1996)120:657−662;Kung及びGoldstein他のScience(1979),206:347−349を参照)、抗CD11抗体、例えばエファリズマブ(Raptiva(登録商標)、Genentech,South San Francisco,CA)、抗CD20抗体、例えばリツキシマブ(Rituxan(登録商標)/Mabthera(登録商標)、Genentech,South San Francisco,CA)、トシツモマブ(Bexxar(登録商標)、GlaxoSmithKline,London)もしくはイブリツモマブ(Zevalin(登録商標)、Biogen Idec,Cambridge MA)(米国特許第5,736,137;第6,455,043;及び第6,682,734を参照)、抗CD25(IL2Rα)抗体、例えばダクリズマブ(Zenapax(登録商標)、Roche,Basel,Switzerland)もしくはバシリキシマブ(Simulect(登録商標)、Novartis,Basel,Switzerland)、抗CD33抗体、例えばゲムツズマブ(Mylotarg(登録商標)、Wyeth,Madison,NJ−米国特許第5,714,350及び第6,350,861を参照)、抗CD52抗体、例えばアレムツズマブ(Campath(登録商標)、Millennium Pharmaceuticals,Cambridge,MA)、抗GpIIb/gIIa抗体、例えばアブシキシマブ(ReoPro(登録商標)、Centocor,Horsham,PA)、抗TNFα抗体、例えばインフリキシマブ(Remicade(登録商標)、Centocor,Horsham,PA)もしくはアダリムマブ(Humira(登録商標)、Abbott,Abbott Park,IL−米国特許第6,258,562を参照)、抗IgE抗体、例えばオマリズマブ(Xolair(登録商標)、Genentech,South San Francisco,CA)、抗RSV抗体、例えばパリビズマブ(Synagis(登録商標)、Medimmune,Gaithersburg,Md−米国特許第5,824,307を参照)、抗EpCAM抗体、例えばエドレコロマブ(Panorex(登録商標)、Centocor)、抗EGFR抗体、例えばセツキシマブ(Erbitux(登録商標)、Imclone Systems,New York,NY)もしくはパニツムマブ(Vectibix(登録商標)、Amgen,Thousand Oaks,CA)、抗HER2/neu抗体、例えばトランスツズマブ(Herceptin(登録商標)、Genentech)、抗α4インテグリン抗体、例えばナタリズマブ(Tysabri(登録商標)、BiogenIdec)、抗C5抗体、例えばエクリズマブ(Soliris(登録商標)、Alexion Pharmaceuticals,Chesire,CT)及び抗VEGF抗体、例えばベバシズマブ(Avastin(登録商標)、Genentech−米国特許第6,884,879を参照)もしくはラニビズマブ(Lucentis(登録商標)、Genentech)を含む。
【0167】
上記にもかかわらず、様々な実施態様において、ある特定のイムノバインダーは、本発明のエンジニアリング方法での使用から排除され、かつ/又は該エンジニアリング方法によって製造されたイムノバインダー組成物から排除される。例えば、様々な実施態様において、イムノバインダーがPCT公報WO2006/131013号及びWO2008/006235号に開示されるいずれかのscFv抗体もしくはその変異体、例えばESBA105又はPCT公報WO2006/131013号及びWO2008/006235号に開示されるその変異体ではないという条件がある。前記の公報のそれぞれの内容は、参照をもって本願明細書に明白に開示されたものとする。
【0168】
他の様々な実施態様においては、前記方法によりエンジニアリングされるべきイムノバインダーがPCT公報WO2006/131013号もしくはWO2008/006235号に開示されるいずれかのscFv抗体もしくはその変異体である場合に、該エンジニアリング方法により置換のために選択されうる考えられるアミノ酸位置のリストが以下のアミノ酸位置:Vκ1もしくはVλ1のAHo位置4(Kabat4);Vκ3のAHo位置101(Kabat83);VH1aもしくはVH1bのAHo位置12(Kabat11);VH1bのAHo位置50(Kabat43);VH1bに関するAHo位置77(Kabat66);VH1bに関するAHo位置78(Kabat67);VH1bに関するAHo位置82(Kabat71);VH1bに関するAHo位置86(Kabat75);VH1bに関するAHo位置87(Kabat76);VH3に関するAHo位置89(Kabat78);VH1aに関するAHo位置90(Kabat79);及び/又はVH1bに関するAHo位置107(Kabat93)のいずれかもしくは全てを含まないという条件がありうる。
【0169】
さらに他の様々な実施態様において、前記方法によりエンジニアリングされるべき任意のイムノバインダー及び/又は前記方法により製造された任意のイムノバインダーに関しては、該エンジニアリング方法により置換のために選択されうる考えられるアミノ酸位置のリストが、以下のアミノ酸位置:Vκ1もしくはVλ1のAHo位置4(Kabat4);Vκ3のAHo位置101(Kabat83);VH1aもしくはVH1bのAHo位置12(Kabat11);VH1bのAHo位置50(Kabat43);VH1bに関するAHo位置77(Kabat66);VH1bに関するAHo位置78(Kabat67);VH1bに関するAHo位置82(Kabat71);VH1bに関するAHo位置86(Kabat75);VH1bに関するAHo位置87(Kabat76);VH3に関するAHo位置89(Kabat78);VH1aに関するAHo位置90(Kabat79);及び/又はVH1bに関するAHo位置107(Kabat93)のいずれかもしくは全てを含まないという条件がありうる。
【0170】
他の実施態様
本発明は、また、米国仮特許出願第60/905,365の添付(A−C)及び米国仮特許出願第60/937,112の添付(A−I)に示される方法論、参考資料及び/又は組成物のいずれをも含むが、それらに制限されないが、割り出されるデータベース、バイオインフォマティクス、インシリコデータ操作及び解釈方法、機能的アッセイ、好ましい配列、好ましい残基の位置/変更、フレームワークの割り出しと選択、フレームワークの変更、CDRアラインメント及び統合並びに好ましい変更/突然変異を含むと解される。
【0171】
これらの方法論及び組成に関する更なる情報は、米国第60/819,378号;及び同第60/899,907号及びPCT公報WO2008/006235(発明の名称"scFv Antibodies Which Pass Epithelial And/Or Endothelial Layers"、それぞれ2006年7月と2007年2月2日出願);W006131013号A2(発明の名称"Stable And Soluble Antibodies Inhibiting TNFa"、2006年6月6日出願);EP1506236号A2(発明の名称"Immunoglobulin Frameworks Which Demonstrate Enhanced Stability In The Intracellular Environment And Methods Of Identifying Same"、2003年5月21日出願);EP1479694号A2(発明の名称"Intrabodies ScFv with defined framework that is stable in a reducing environment"、2000年12月18日出願);EP1242457号B1(発明の名称"Intrabodies With Defined Framework That Is Stable In A Reducing Environment And Applications Thereof"、2000年12月18日出願);W003097697号A2(発明の名称"Immunoglobulin Frameworks Which Demonstrate Enhanced Stability In The Intracellular Environment And Methods Of Identifying Same"、2003年5月21日出願);及びW00148017号A1(発明の名称"Intrabodies With Defined Framework That Is Stable In A Reducing Environment And Applications Thereof"、2000年12月18日出願);並びにHonegger他のJ.Mol.Biol.309:657−670(2001)に見出すことができる。
【0172】
更に、本発明は、また、他の抗体形式、例えば全長抗体もしくはそのフラグメント、例えばFab、Dabなどの発見及び/又は改善に適した方法論及び組成を含むものと解される。従って、ここで割り出された原理と残基は、広範なイムノバインダーに適用できる所望の生物物理学的及び/又は治療的な特性を達成するため選択もしくは変更に適している。一実施態様においては、治療的に関連する抗体、例えばFDA承認抗体は、ここに開示される1もしくはそれより多くの残基位置の改変によって改善される。
【0173】
しかしながら、本発明は、イムノバインダーのエンジニアリングに制限されない。例えば、当業者は、本発明が、他の非免疫グロブリンの結合分子、例えばそれらに制限されないが、フィブロネクチン結合分子、例えばアドネクチン(WO01/64942号及び米国特許第6,673,901号、同第6,703,199号、同第7,078,490号及び同第7,119,171号を参照)、アフィボディ(例えば米国特許第6,740,734号及び同第6,602,977号及びWO00/63243号を参照)、アンチカリン(リポカリンとしても公知)(WO99/16873号及びWO05/019254号を参照)、Aドメインタンパク質(WO02/088171号及びWO04/044011号を参照)及びアンキリン反復タンパク質、例えばダルピンもしくはロイシン反復タンパク質(WO02/20565号及びWO06/083275号を参照)のエンジニアリングに適用できると認識している。
【0174】
本願開示を、以下の実施例によって更に概説するが、それは更なる限定と解釈されるべきでない。本願を通して引用されている全ての図面及び全ての参考文献、特許及び公開特許出願の内容は、参照をもって本願明細書に明白に開示されたものとする。
【0175】
例1: 抗体位置ナンバリングシステム
この例では、抗体重鎖可変領域と軽鎖可変領域におけるアミノ酸残基位置を特定するために使用される2つの異なるナンバリングシステムに関する変換表を提供する。Kabatナンバリングシステムは、更にKabat他(Kabat,E.A.他(1991年)Sequences of Proteins of lmmunological Interest,第5版,U.S.Department of Health and Human Services,NIH Publication No.91−3242)に説明されている。AHoナンバリングシステムは、更にHonegger,A及びPlueckthun,A(2001年)J.Mol.Biol.309:657−670で更に説明されている。
【0176】
重鎖可変領域ナンバリング
第1表: 重鎖可変ドメイン中の残基位置に関する変換表
【表2】
【0177】
1列目、Kabatのナンバリングシステムでの残基位置。2列目、1列目に示された位置についてのAHoのナンバリングシステムにおける相応の番号。3列目、Kabatのナンバリングシステムでの残基位置。4列目、3列目に示された位置についてのAHoのナンバリングシステムにおける相応の番号。5列目、Kabatのナンバリングシステムでの残基位置。6列目、5列目に示された位置についてのAHoのナンバリングシステムにおける相応の番号。
【0178】
軽鎖可変領域ナンバリング
第2表: 軽鎖可変ドメイン中の残基位置に関する変換表
【表3】
【0179】
1列目、Kabatのナンバリングシステムでの残基位置。2列目、1列目に示された位置についてのAHoのナンバリングシステムにおける相応の番号。3列目、Kabatのナンバリングシステムでの残基位置。4列目、3列目に示された位置についてのAHoのナンバリングシステムにおける相応の番号。5列目、Kabatのナンバリングシステムでの残基位置。6列目、5列目に示された位置についてのAHoのナンバリングシステムにおける相応の番号。
【0180】
例2: scFv配列の配列に基づく分析
この例においては、scFv配列の配列に基づく分析を詳細に説明する。分析方法をまとめたフローチャートを図1に示す。
【0181】
ヒト免疫グロブリン配列の収集及びアラインメント
ヒトの成熟抗体及び生殖細胞系の可変ドメインの配列を、種々のデータベースから収集し、カスタマイズされたデータベースに一文字コードのアミノ酸配列として入力した。抗体配列を、Needleman−Wunsch配列アラインメントアルゴリズム(Needleman他,J Mol Biol.,48(3):443−53(1970))のEXCEL実装を使用してアラインメントした。該データベースを、次いで、後続の分析と比較を容易にするために、以下のように、4つのアレイ(当初のデータソースにより)に細分した:
VBase: ヒト生殖細胞系配列
IMGT: ヒト生殖細胞系配列
KDBデータベース: 成熟抗体
QCデータベース: クオリティー・コントロールスクリーニングによって選択された選択scFvフレームワークを含むESBATechの内部データベース
QCスクリーニングシステムと、それから選択される望ましい機能特性を有するscFvフレームワーク配列は、更に、例えばPCT公報WO 2001/48017号;米国出願第20010024831号;US20030096306号;米国特許第7,258,985号及び同第7,258,986号;PCT公報WO2003/097697号及び米国出願第20060035320号に記載されている。
【0182】
ギャップの導入及び残基位置の命名法は、免疫グロブリン可変ドメインに関してはAHoナンバリングシステムによって行った(Honegger,A.及びPlueckthun,A.(2001年)J.Mol.Biol.309:657−670)。引き続き、フレームワーク領域とCDR領域は、Kabat他(Kabat,E.A.他(1991年)Sequences of Proteins of lmmunological Interest,第5版,U.S.Department of Health and Human Services,NIH Publication No.91−3242)に従って特定される。KDBデータベースにおいて70%未満の一致を有するか又はフレームワーク領域に多重の未定の残基を含む配列を破棄した。データベース内の任意の他の配列と95%より高い同一性を有する配列も、分析における不規則ノイズを回避するために排除した。
【0183】
配列のサブグループへの割り当て
抗体配列を、別個のファミリーへと、配列ホモロジーに基づく分類法に従って抗体をクラスタ化することによって分類した(Tomlinson,I.M.他(1992年)J.Mol.Biol.227:776−798;Williams,S.C.及びWinter.G.(1993年)Eur.J.Immunol.23:1456−1461);Cox,J.P.他(1994年)Eur.J.Immunol.24:827−836)。ファミリーコンセンサスに対するホモロジーのパーセンテージを、70%の類似性に制約した。示された配列が2もしくはそれより多くの種々の生殖細胞系ファミリーの間で不一致であるか、もしくはホモロジーのパーセンテージが70%(任意のファミリーに対して)未満であった場合に、最も近い生殖細胞系のカウンターパートを決定し、CDR長さ、カノニカルなクラス及び定義しているサブタイプ残基を詳細に分析して、該ファミリーを正しく割り当てた。
【0184】
統計的分析
ファミリークラスタが定義されたら、"クオリティー・コントロール("QC")スクリーニング"(斯かるQCスクリーニングはPCT公報WO2003/097697号に詳細に説明される)において割り出されたヒットについて統計的分析を実施した。分析は、該分析のために最小の数の配列が必要とされるので、最も代表的なファミリー(VH3、VH1a、VH1b、Vκ1、Vκ3及びVλ1)について可能であるに過ぎなかった。各位置iについての残基頻度fi(r)を、特定の残基型がデータセット内で確認された回数を配列の全数で除算することによって計算した。位置的エントロピーN(i)を、全ての位置の変動性の尺度として(Shenkin,P.S.他(1991年)Proteins 11:297−313;Larson,S.M.及びDavidson,A.R.(2000年)Protein Sci.9:2170−2180;Demarest,S.J.他(2004)J.Mol.Biol.335:41−48)、単純な豊富さよりもより多くのアミノ酸組成についての情報を提供するシステムにおける多様性の数学的尺度であるシンプソンの指数を用いて計算した。各位置iについての多様性の度合いを、存在する異なるアミノ酸の数と、各残基の相対存在度を考慮して計算した。
【0185】
【数1】
【0186】
前記式中:Dは、シンプソンの指数であり、Nは、アミノ酸の全数であり、rは、各位置に存在する異なるアミノ酸の数であり、かつnは、特定のアミノ酸型の残基の数である。
【0187】
選択されたFvフレームワークのQCデータベース(QCスクリーニングによって選択された)を、種々の基準を用いてスクリーニングして、ユニークな特徴を定義した。該配列データベース中の種々のアレイを使用して、Fvフレームワーク内の残基位置の変動性の度合いを定義し、選択されたFvフレームワーク中に存在する本来一般的でない変動許容な位置を割り出した。10%と等しいかそれより高い位置的エントロピースコアの差を、閾値として定義した。付加的な位置を、所定の位置の残基が他の配列アレイに稀に確認されるアミノ酸、すなわち生殖細胞系データベース(VBase及びIMGT)及びKDBデータベースに稀に確認されるアミノ酸によって占められている場合に選択した。ある残基の挙動が真に異なることが見出された(他の配列アレイのいずれかで低いか現れない)場合に、その残基位置をユニークとして定義した。
【0188】
選択されたFvフレームワーク配列のユニークな特徴の割り出しの背後にある原理的説明は、フレームワークの証明された優れた特性と、これらの知見の改善された足場のための潜在的な使用である。選択されたフレームワーク中で一定の変動性の度合いを本来示す高度に保存された位置は、無作為突然変異誘発に許容性であるべきであり、かつscFv形式の本来の残基より優れた代替アミノ酸を見出す確率の増大を表すことが見込まれる。更に、稀なアミノ酸についての顕著な優先性は、一定の残基に対する自然選択の指標である。これらの2つの統計的指針に基づき、重鎖と軽鎖の中の種々の残基を、浮動性位置(変動許容性)もしくは好ましい置換(普通でない残基)のいずれかとして選択した。
【0189】
例3: 変動許容性の残基位置と普通でない残基の位置の割り出し
例2で上述した配列に基づくscFv分析アプローチを使用して、3種の重鎖可変領域ファミリー(VH3、VH1a及びVH1b)及び3種の軽鎖可変領域ファミリー(Vκ1、Vκ3及びVλ1)を分析して、変動許容性のアミノ酸位置を割り出した。特に、シンプソンの指数を使用して計算された多様性の度合いを、前記のVbase、IMGT、KDB及びQC(選択されたscFv)の4種のデータベース内の配列についての各アミノ酸位置について決定した。変動許容性のアミノ酸位置と普通でない残基のアミノ酸位置を、Vbase及びIMGTの生殖細胞系データベースについてのこれらの位置でのシンプソンの指数値における、QCの選択されたscFvデータベースと比較した差異に基づき割り出した。付加的に、関連の割り出された位置について、生殖細胞系コンセンサス残基を割り出し、そのコンセンサス残基のQC及びKDBのデータベースにおける頻度を決定した。
【0190】
重鎖可変領域ファミリーのVH3、VH1a及びVH1bについての変動性の分析結果を、それぞれ第3表、第4表及び第5表に以下に示す。各表に関して、それぞれの列は以下の通りである:第1列:AHoナンバリングシステムを用いたアミノ酸残基位置(Kabatナンバリングシステムへの変換は、例1の第1表として示された変換表を用いて行うことができる);第2列ないし第5列:第1列に示された残基位置についてのデータベース中の各抗体アレイに関して計算された多様性;第6列:相応の生殖細胞系ファミリー及びKDBのコンセンサス残基;第7列:第6列におけるコンセンサス残基に関するKDBデータベースにおける相対残基頻度;並びに第8列:第6列におけるコンセンサス残基に関するQCの選択されたscFvデータベースにおける相対残基頻度。
【0191】
第3表: VH3ファミリーについての生殖細胞系において割り出されたコンセンサスアミノ酸の残基の変動性分析と相応の頻度
【表4】
【0192】
第4表: VH1aファミリーについての生殖細胞系において割り出されたコンセンサスアミノ酸の残基の変動性分析と相応の頻度
【表5】
【0193】
第5表: VH1bファミリーについての生殖細胞系において割り出されたコンセンサスアミノ酸の残基の変動性分析と相応の頻度
【表6】
【0194】
軽鎖可変領域ファミリーのVκ1、Vκ3及びVλ1についての変動性の分析結果を、それぞれ第6表、第7表及び第8表に以下に示す。各表に関して、それぞれの列は以下の通りである:第1列:AHoナンバリングシステムを用いたアミノ酸残基位置(Kabatナンバリングシステムへの変換は、例1の第1表として示された変換表を用いて行うことができる);第2列ないし第5列:第1列に示された残基位置についてのデータベース中の各抗体アレイに関して計算された多様性;第6列:相応の生殖細胞系ファミリー及びKDBのコンセンサス残基;第7列:第6列におけるコンセンサス残基に関するKDBデータベースにおける相対残基頻度;並びに第8列:第6列におけるコンセンサス残基に関するQCの選択されたscFvデータベースにおける相対残基頻度。
【0195】
第6表: Vκ1ファミリーについての生殖細胞系において割り出されたコンセンサスアミノ酸の残基の変動性分析と相応の頻度
【表7】
【0196】
第7表: Vκ3ファミリーについての生殖細胞系において割り出されたコンセンサスアミノ酸の残基の変動性分析と相応の頻度
【表8】
【0197】
第8表: Vλ1ファミリーについての生殖細胞系において割り出されたコンセンサスアミノ酸の残基の変動性分析と相応の頻度
【表9】
【0198】
前記の第3表〜第8表に示されるように、QCシステム選択されたscFvフレームワークにおける残基位置のサブセットは、生殖細胞系(VBase及びIMGT)及び成熟抗体(KDB)に存在しないか又は出現が不十分なある特定の残基に対して強く偏っているものと判明し、scFvの安定性が、クオリティー・コントロール酵母スクリーニングシステムで選択されたフレームワーク配列のユニークな特徴に基づき合理的に改善されうることが示唆された。
【0199】
例4: 好ましい残基の選択
scFvの機能特性(例えば安定性及び/又は可溶性)を改善することが知られる特定のアミノ酸位置での好ましいアミノ酸残基を選択(又は選択的にアミノ酸残基を排除)するために、成熟抗体配列のKabat配列からのVH配列とVL配列とを、そのファミリーサブタイプ(例えばVH1b、VH3など)によって群分けした。配列の各サブファミリー内で、各アミノ酸位置での各アミノ酸残基の頻度を、1群のサブタイプの分析された全ての配列のパーセンテージとして決定した。いわゆるQCシステムによって増大された安定性及び/又は可溶性について予め選択された抗体からなるQCデータベースの配列全てについても同じことを行った。各サブタイプに関して、Kabat配列及びQC配列について得られた各アミノ酸残基について得られたパーセンテージ(相対頻度)を、それぞれの相応の位置で比較した。ある特定のアミノ酸残基の相対頻度がQCデータベースにおいてKabatデータベースと比較して高まった場合に、そのそれぞれの残基を、所定の位置でのscFvの安定性及び/又は可溶性を改善するために好ましい残基と見なした。その反対に、ある特定のアミノ酸残基の相対頻度が、QCデータベースにおいてKabatデータベースと比較して低下した場合に、そのそれぞれの残基を、その位置でのscFv形式の状況で好ましくないものと見なした。
【0200】
第9表は、種々のデータベースにおけるVH1bサブタイプに関するアミノ酸位置H78(AHoナンバリング;Kabat位置H67)での残基頻度の例示的分析を示す。第9表における列は、以下の通りである:第1列:残基型;第2列:IMGT生殖細胞系データベースにおける残基頻度;第3列:Vbase生殖細胞系データベースにおける残基頻度;第4列:QCデータベースにおける残基頻度;第5列:Kabatデータベースにおける残基頻度。
【0201】
第9表: 2種の生殖細胞系データベース、QCデータベース及び成熟抗体のKabatデータベースにおけるVH1bサブタイプに関する位置78(AHoナンバリング)での相対残基頻度
【表10】
【0202】
QCデータベースにおいて、アラニン(A)残基は、24%の頻度で確認され、それは成熟Kabatデータベース(KDB_VH1B)における同じ残基について確認される2%の頻度の12倍である。従って、位置H78(AHoナンバリング)でのアラニン残基は、その位置で、scFvの機能特性(例えば安定性及び/又は可溶性)を増大させるために好ましい残基と見なされる。反対に、バリン(V)残基は、QCデータベースにおいて47%の相対頻度で確認され、それは、成熟Kabatデータベースで確認される86%よりもかなり低く、かつ生殖細胞系データベースで同じ残基について確認される90%より大(IMGT−germで91%及びVbase germで100%)よりもかなり低い。従って、バリン残基(V)は、位置H78でscFv形式の状況では好ましくない残基であると見なされた。
【0203】
例5: 2つの異なるアプローチからのESBA105 scFv変異体の比較
この例では、2つの異なるアプローチによって製造されたscFv変異体の安定性を比較した。親のscFv抗体は、今までに記載されていた(例えばPCT公報WO2006/131013号及びWO2008/006235号を参照)ESBA105であった。1セットのESBA105変異体は、クオリティー・コントロール酵母スクリーニングシステムを用いて選択した("QC変異体")。その変異体も、今までに記載されていた(例えばPCT公報WO2006/131013号及びWO2008/006235号を参照)。他の変異体のセットは、ある特定のアミノ酸位置を、前記の例2及び3で記載された配列分析によって割り出された好ましい生殖細胞系コンセンサス配列へと逆突然変異させることによって製造した。その逆突然変異は、アミノ酸配列内で、生殖細胞系配列で保存されているが、選択されたscFvにおいて普通でないもしくは低い頻度のアミノ酸を含む位置について調査することによって選択した(生殖細胞系コンセンサスエンジニアリングアプローチと呼ぶ)。
【0204】
全ての変異体を、安定性について、該分子を熱誘発ストレスにかけることによって試験した。広範囲の温度(25〜95℃)での負荷によって、全ての変異体について、熱的アンフォールディング転移の大まかな中心点(TM)を決定することができた。野生型分子とその変異体についての熱安定性の測定は、FT−IR ATR分光分析法によって、IR光を干渉計中に案内して実施した。測定された信号は、インターフェログラムであり、この信号でフーリエ変換を行うと、最終スペクトルは、慣用の(分散型)赤外分光分析法からのスペクトルと同一である。
【0205】
熱的アンフォールディングの結果を、以下の第10表にまとめ、図6で図示する。第10表中の列は、以下の通りである:第1列:ESBA105変異体;第2列:突然変異を含むドメイン;第3列:AHoナンバリング中の突然変異;第4列:図6における熱的アンフォールディング曲線から計算されたTM中心点;第5列:親のESBA105と比較した相対活性;第6列:第1列で特定された変異体についての突然変異誘発ストラテジー。
【0206】
第10表: 2つの異なるアプローチからのESBA105変異体の比較と、FT−IRで測定された全体の安定性へのそれらの寄与(熱的アンフォールディング転移について計算された中心点)
【表11】
【0207】
QC変異体と比較すると、生殖細胞系コンセンサスへの逆突然変異は、ESBA105の熱安定性と活性に対して悪影響を有しているか、又はそれらに対して影響を有さない。このように、これらの結果は、種々の抗体及び形式において安定性を改善するために他で使用されていたコンセンサスエンジニアリングアプローチと食い違っている(例えばSteipe,B他(1994年)J.Mol.Biol.240:188−192;Ohage,E.及びSteipe,B.(1999年)J.Mol.Biol.291:1119−1128;Knappik,A.他(2000年)J.Mol.Biol.296:57−86,Ewert,S.他(2003年)Biochemistry 42:1517−1528;並びにMonsellier,E.及びBedouelle,H.(2006年)J.Mol.Biol.362:580−593を参照)。
【0208】
別個の実験において、前記のQC変異体(QC11.2、QC15.2及びQC23.2)及び追加のQC変異体(QC7.1)を、コンセンサス逆突然変異(S−2、D−2及びD−3)か又はアラニンへの逆突然変異(D−1)のいずれかを有する第二の変異体のセットと比較した(第11表を参照)。選択されたフレームワーク位置での残基の個性を第11表に示し、測定された熱安定性(任意のアンフォールディング単位で)を、図7に示す。幾つかのコンセンサス変異体(S−2及びD−1)が、熱安定性において顕著な増大を示すものの、この増大は、4種のQC変異体のそれぞれによって達成される熱安定性における増大よりも小さかった。
【0209】
第11表: コンセンサス逆突然変異(S−2、D−2、D−3)、アラニンへの突然変異(D−1)もしくはQC残基(QC7.1、QC11.2、QC15.2、QC23.2)のいずれかを含む一組のESBA105変異体の選択されたフレームワーク位置でのフレームワーク残基の個性を提供する。親のESBA105抗体と異なる残基を、太字のイタリック体で示している。アミノ酸位置は、Kabatナンバリングで提供される。
【0210】
【表12】
【0211】
従って、ここにある結果は、"クオリティー・コントロール酵母スクリーニングシステム"で加えられた選択圧が、本来(まだ依然としてヒトで)めったに確認されず、恐らく、これらのフレームワークの優れた生物物理学的特性の原因となる共通の特徴を含む足場の分集合をもたらすことを裏付けている。60℃で種々のESBA105変異体を負荷することによって、選択されたscFvフレームワークデータベースで割り出された好ましい置換の優れた特性を再確認することができた。このように、本願に記載される、QC酵母スクリーニングシステムから得られた選択されたscFv配列を基礎とする"機能的コンセンサス"アプローチは、生殖細胞系コンセンサスアプローチを用いて製造された変異体よりも優れた熱安定性を有するscFv変異体をもたらすことが裏付けられている。
【0212】
例6: ESBA212 scFv変異体
この例では、ESBA105と異なる結合特異性を有するscFv抗体の生殖細胞系コンセンサス変異体(ESBA212)の安定性を比較した。全てのESBA212変異体は、ある特定のアミノ酸位置を、前記の例2及び3で記載された配列分析によって割り出された好ましい生殖細胞系コンセンサス配列へと逆突然変異させることによって製造した。その逆突然変異は、アミノ酸配列内で、生殖細胞系配列で保存されているが、選択されたscFvにおいて普通でないもしくは低い頻度のアミノ酸を含む位置について調査することによって選択した(生殖細胞系コンセンサスエンジニアリングアプローチと呼ぶ)。図5と同様に、全ての変異体を、安定性について、該分子を熱誘発ストレスにかけることによって試験した。
【0213】
ESBA212変異体についての熱的アンフォールディングの結果を、以下の第12表にまとめ、図8で図示する。第12表中の列は、以下の通りである:第1列:ESBA212変異体;第2列:突然変異を含むドメイン;第3列:AHoナンバリング中の突然変異;第4列:図7における熱的アンフォールディング曲線から計算されたTM中心点;第5列:親のESBA212と比較した相対活性;第6列:第1列で特定された変異体についての突然変異誘発ストラテジー。
【0214】
第12表: 生殖細胞系コンセンサス残基へと逆突然変異されたESBA212変異体の比較と、FT−IRで測定された全体の安定性へのそれらの寄与(熱的アンフォールディング転移について計算された中心点)
【表13】
【0215】
無関係のESBA105 scFv抗体について確認されたのと同様に、生殖細胞系コンセンサスへの逆突然変異は、ESBA212の熱安定性及び活性に悪影響を有するか、又は影響を有さなかった。このように、これらの結果は、慣用のコンセンサスに基づくアプローチの不備を更に強調するのに役立つ。これらの不具合は、本発明の機能的コンセンサス方法論の使用によって対処できる。
【0216】
例7: 改善された可溶性を有するscFvの生成
この例においては、構造モデリングと配列分析に基づくアプローチを使用して、改善された可溶性をもたらすscFvフレームワーク領域における突然変異を割り出した。
【0217】
a) 構造分析
ESBA105 scFvの3D構造を、ExPASyウェブサーバを介してアクセス可能な、自動化されたタンパク質構造ホモロジーモデリングサーバを用いてモデリングした。その構造を、相対的な溶媒到達可能表面(rSAS)により分析し、残基を以下のように分類した:(1)rSAS≧50%を示す残基については曝露;及び(2)50≦rSAS≧25%を有する残基については部分曝露。rSAS≧25%を有する疎水性残基は、疎水性パッチとして見なされた。見出された各疎水性パッチの溶媒到達可能領域を確認するために、ESBA105に対する高いホモロジーと、2.7Åより高い解像度とを有する27のPDBファイルから計算を行った。その平均rSAS及び標準偏差を、それらの疎水性パッチについて計算し、そのそれぞれについて詳細に調査した(第13表を参照)。
【0218】
第13表: 疎水性パッチの評価
【表14】
【0219】
1列目、AHoナンバリングシステムでの残基位置。2列目、1列目に示される位置のドメイン。3列目、27個のPDBファイルから計算された平均溶媒到達可能領域。4列目、3列目の標準偏差。5列目〜9列目、AHoから検索された疎水性パッチの構造的役割。
【0220】
ESBA105で割り出された疎水性パッチの殆どは、可変−定常ドメイン(VH/CH)インターフェースと一致していた。このことは、scFv形式における溶媒曝露される疎水性残基の今までの知見と相関していた(Nieba他、1997年)。2つの疎水性パッチ(VH2及びVH5)は、VL−VH相互作用にも寄与するので、後続の分析から排除した。
【0221】
b) 可溶性突然変異の設計
122個のVL配列と137個のVH配列の全体は、Annemarie Honeggerの抗体ウェブページ(www.bioc.uzh.ch/antibody)から検索した。それらの配列は、本来、タンパク質データバンク(PDB)(www.rcsb.org/pdb/home/home.do)から抽出されたFvもしくはFabの形式の393個の抗体構造と一致していた。それらの配列は、分析のために、種もしくは亜群にもかかわらず、本来の残基よりも高い親水性を有する代替アミノ酸を見出す確率を高めるために使用した。データベース内の任意の他の配列と95%より高い同一性を有する配列は、偏りを減らすために排除した。それらの配列をアラインメントさせ、残基頻度について分析した。配列分析ツールとアルゴリズムを適用し、ESBA105における疎水性パッチを撹乱する親水性突然変異を割り出して選択した。それらの配列を、免疫グロブリン可変ドメイン(Honegger及びPlueckthun 2001年)に関してAHoナンバリングシステムに従ってアラインメントさせた。その分析は、フレームワーク領域に限定された。
【0222】
カスタマイズされたデータベースにおける、各位置iについての残基頻度f(r)を、特定の残基がデータセット内で確認された回数を配列の全数で除算することによって計算した。第一ステップで、種々のアミノ酸の出現頻度を、各疎水性パッチについて計算した。ESBA105で割り出された各疎水性パッチについての残基頻度は、前記のカスタマイズされたデータベースから分析した。第14表は、疎水性パッチでの残基頻度をデータベースに存在する残基の全体で割ったものを報告している。
【0223】
第14表: ESBA105で割り出された疎水性パッチについてのscFvもしくはFab形式における成熟抗体からの259個の配列の残基頻度
【表15】
【0224】
第1列、残基型。第2列ないし第5列、重鎖における疎水性パッチについての残基の相対頻度。第6列及び第7列、軽鎖における疎水性パッチについての残基の相対頻度。
【0225】
第二ステップにおいて、疎水性パッチでの親水性残基の頻度を用いて、各疎水性パッチでの最も豊富な親水性残基を選択することによって可溶性突然変異を設計した。第15表は、このアプローチを使用して割り出された可溶性突然変異体を報告している。親の残基と突然変異体の残基の疎水性を、幾つかの論文で公表された値の平均疎水性として計算し、側鎖の溶媒への曝露のレベルの関数で表現した。
【0226】
第15表: 疎水性パッチを撹乱するESBA105に導入された種々の可溶性突然変異
【表16】
【0227】
* 位置144での疎水性パッチは、データベース中に最も豊富な親水性残基によって交換されないが、Serについては、これは既にESBA105のCDRのドナー中に含まれていたからである。
【0228】
1列目、AHoナンバリングシステムでの残基位置。2列目、1列目に示される位置のドメイン。3列目、27個のPDBファイルから計算された平均溶媒到達可能領域。4列目、ESBA105における親の残基。5列目、AHoから検索された4列目の平均疎水性。6列目、1列目に示される位置での最も豊富な親水性残基。7列目、AHoから検索された6列目の平均疎水性。
【0229】
c) 可溶性ESBA105変異体の試験
可溶性突然変異を、単独で又は多重の組み合わせで導入し、そして再フォールディング率、発現、活性及び安定性並びに凝集パターンについて試験した。第16表は、可溶性への潜在的な寄与と、突然変異が抗原結合を変更する危険性のレベルとに基づいて最適化された各ESBA105変異体に導入される可溶性突然変異の様々な組合せを示している。
【0230】
第16表: ESBA105に関する可溶性変異体の設計
【表17】
【0231】
* 別個に第二回目で試験した。
【0232】
** 下線は、軽鎖と重鎖のそれぞれに含まれる突然変異の数を隔てている。
【0233】
1列目、AHoナンバリングシステムでの残基位置。2列目、1列目に示される位置のドメイン。3列目、ESBA105における種々の疎水性パッチでの親の残基。4列目、示された位置に可溶性突然変異を含む種々の突然変異。
【0234】
i. 可溶性測定
ESBA105及び変異体の最大可溶性を、遠心分離されたPEG−タンパク質混合物の上清中のタンパク質濃度を測定することによって決定した。20mg/mlの出発濃度を、30〜50%の飽和度の範囲のPEG溶液と1:1で混合した。これらの条件を、Log SのPeg濃度(%w/v)に対する線形依存性の実験的な測定後に野生型ESBA105について確認された可溶性プロフィールに基づき選択した。優れた可溶性を示した変異体ESBA105の幾つかの例の可溶性曲線を、図9に示す。可溶性値の完全なリストを、また第17表にも提供する。
【0235】
第17表: 該突然変異を親のESBA105と比較して推定される最大可溶性及び活性
【表18】
【0236】
ii. 熱安定性測定
親のESBA105についての熱安定性測定と可溶性の再調査を、FT−IR ATR分光分析法を用いて実施した。それらの分子を、広範な温度(25〜95℃)に熱負荷した。変性プロフィールは、インターフェログラム信号にフーリエ変換をかけることによって得られた(図10を参照)。該変性プロフィールを用いて、ボルツマンシグモイドモデルを適用することで、全てのESBA105変異体について熱的アンフォールディング転移の中心点(TM)を見積もった(第18表)。
【0237】
第18表: 全ての可溶性変異体についての熱的アンフォールディング転移の中心点(TM)
【表19】
【0238】
iii. 凝集測定
ESBA105及びその可溶性変異体を、また時間依存性試験で分析して、分解挙動と凝集挙動を評価した。この目的のために、可溶性タンパク質(20mg/ml)を、高められた温度(40℃)でリン酸緩衝液中でpH6.5でインキュベートした。対照サンプルを、−80℃に保持した。それらのサンプルを、2週間のインキュベート期間の後に、分解(SDS−PAGE)及び凝集(SEC)について分析した。これにより、分解を受けやすい変異体(図11を参照)又は可溶性もしくは不溶性の凝集物を形成する傾向を示す変異体(第19表を参照)の破棄が可能となった。
【0239】
第19表: 不溶性凝集測定
【表20】
【0240】
iv. 可溶性変異体の発現及び再フォールディング
それらの可溶性変異体を、また親のESBA105分子と比較して、発現及び再フォールディング率について試験した。これらの研究結果を、第20表に示す。
【0241】
第20表: 可溶性変異体の発現及び再フォールディング
【表21】
【0242】
全ての親水性の可溶性突然変異体は親のESBA105分子と比較して改善された可溶性を示したが、これらの分子の幾つかだけが他の生物物理学的特性について好適であることが示された。例えば、多くの変異体は、親のESBA105分子と比較して、低減された熱安定性及び/又は再フォールディング率を有した。特に、位置VL147での親水性置換は、安定性をひどく低下させた。従って、熱安定性に大きな影響を及ぼさない可溶性突然変異を組み合わせて、それらの特性の確認のために更なる熱ストレスを受けさせた。
【0243】
4種の異なる可溶性突然変異の組み合わせを含む3種の突然変異体(Opt1.0、Opt0.2及びVH:V103T)は、再現性、活性もしくは熱安定性に影響を及ぼすことなく、ESBA105の可溶性を大きく改善した。しかしながら、ESBA105においてOpt1.0とOpt0.2の組み合わされた突然変異を有する突然変異体(Opt1_2)は、40℃で2週間インキュベートした後に、高められた量の不溶性の凝集物を示した(第19表を参照)。これは、β−シートターンにおける位置VL15でのValの役割によって説明できる。それというのも、Valは、全てのアミノ酸のうちで最も高いβ−シート傾向を有するからである。この結果は、位置VL15での単独の可溶性突然変異が許容されるが、他の疎水性パッチを撹乱する可溶性突然変異体との組み合わせにおいては許容されないことを裏付けている。従って、Opt0_2及びVH:V103Tに含まれる突然変異は、scFv分子の可溶性特性を改善するために最良の性能を有するものとして選択された。
【0244】
例8: scFvの増強された可溶性及び安定性の生成
可溶性設計によって割り出されたESBA105変異体を、更に、クオリティー・コントロール(QC)アッセイによって割り出された安定化突然変異と置き換えることによって最適化した。前記の例7で割り出された可溶性突然変異の1〜3つを、QC7.1及び15.2で見出された全ての安定化突然変異(すなわちVLドメインにおけるD31N及びV83E並びにVHドメインにおけるV78A、K43及びF67L)と組み合わされて含む全部で4つの構築物を作製した。全ての最適化された構築物により、野生型scFvよりも高い可溶性を有するタンパク質が得られた(第20表を参照)。最良の構築物は、一貫して、野生型に対して可溶性について2倍より高い増大を示した。scFv分子の活性と安定性のいずれも、安定化突然変異と可溶性増強突然変異との組み合わせによって大きな影響を受けなかった。
【0245】
第21表: 最適化された可溶性及び安定性を有するscFv
【表22】
【0246】
全ての4つの変異体についての可溶性値を、scFvの可溶性に対する各突然変異の寄与の分析のために使用した。全ての突然変異は、これらの残基の幾つかが一次配列と3D構造の両者において互いに比較的近いにもかかわらず、scFvの可溶性に相加的に寄与すると思われた。その分析は、VHドメイン中の3つの可溶性増強突然変異(V12S、L144S、V103T(もしくはV103S))の組み合わせが、scFv可溶性の60%までの原因となることを示している。疎水性パッチは全てのイムノバインダーの可変ドメインで保存されているので、前記の最適な突然変異の組み合わせを使用して、事実上いかなるscFvも又は他のイムノバインダー分子の可溶性をも向上させることができる。
【0247】
等価物
当業者は、単に通常の実験を用いて、本願に記載される本発明の特定の実施態様に対する多くの等価物を認識し、又は確認することができる。斯かる等価物は、特許請求の範囲によって含まれると意図される。
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2007年6月25日に出願された"単鎖抗体の配列に基づくエンジニアリング及び最適化"というタイトルの米国仮出願第60/937,112号に基づく優先権を主張する。本出願は、また、2008年5月12日に出願された"単鎖抗体の配列に基づくエンジニアリング及び最適化"というタイトルの米国仮出願第61/069,057号に基づく優先権を主張する。
【0002】
発明の背景
抗体は、癌、自己免疫疾患及び他の疾病の処置における非常に有効かつ効果的な治療剤であることが実証されている。全長抗体は、一般に臨床的に使用されているが、一方で、抗体フラグメントの使用によりもたらされうる、高められた組織浸透性、Fc−エフェクター機能が存在しないことと他のエフェクター機能を付与する能力とを兼ね備えること、より短い生体内半減期に由来する全身性副作用の見込みが殆どないことなどの多くの利点がある。抗体フラグメントの薬物動力学的特性は、該フラグメントが、局所的な治療アプローチのために特に良好に適合されうることを示している。更に、抗体フラグメントは、ある一定の発現システムにおいては、全長抗体よりも生産が容易なことがある。
【0003】
抗体フラグメントの1つの型は、単鎖抗体(scFv)であり、該抗体は、リンカー配列を介して軽鎖可変ドメイン(VL)に結合された重鎖可変ドメイン(VH)から構成されている。このように、scFvは、全ての抗体定常ドメインを欠損しており、先の可変/定常ドメインのインターフェースのアミノ酸残基(インターフェース残基)は、溶媒曝露となる。scFvは、全長抗体(例えばIgG分子)から、確立された組み換え工学技術によって製造することができる。しかしながら、全長抗体のscFvへの変換は、しばしば、該タンパク質の粗悪な安定性及び可溶性と、低い生産収率と、免疫原性の危険を生ずる高い凝集傾向をもたらす。
【0004】
従って、scFvの可溶性及び安定性などの特性を改善する多くの試みがなされてきている。例えば、Nieba,L他(Prot.Eng.(1997)10:435−444)は、インターフェースの残基であることが知られている3つのアミノ酸残基を選択して、それらを突然変異させた。それらの突然変異によって、細菌中での突然変異されたscFvのペリプラズム内発現の増加が観察されることに加えて、熱力学的安定性及び可溶性は大きく変化しないものの、熱的に誘発される凝集率の低下が観察された。scFv内の特定のアミノ酸残基に対して部位特異的突然変異誘発を行った他の研究も報告されている(例えばTan,P.H.他(1988年)Biophys.J.75:1473−1482;Woern,A.及びPlueckthun,A.(1998年)Biochem.37:13120−13127;Worn,A.及びPlueckthun,A.(1999年)Biochem.38:8739−8750を参照のこと)。これらの様々な研究において、突然変異誘発のために選択されたアミノ酸残基は、scFv構造内のそれらの既知の位置に基づき(例えば分子モデリング研究から)選択された。
【0005】
別のアプローチでは、非常に発現に乏しいscFvからの相補性決定領域(CDR)が、好適な特性を有することが実証されたscFvのフレームワーク領域に移植された(Jung,S.及びPlueckthun,A.(1997年)Prot.Eng.10:959−966)。得られたscFvは、改善された可溶性発現及び熱力学的安定性を示した。
【0006】
scFvにおける機能特性の改善のためのエンジニアリングにおける進展は、例えばWoern,A.及びPlueckthun,A.(2001年)J.Mol.Biol.305:989−1010で論評されている。しかしながら、優れた機能特性を有するscFvの合理的な設計を可能とする新たなアプローチ、特にエンジニアリングのために潜在的に問題のあるアミノ酸残基の選択において専門家を補助するアプローチは、依然として必要とされている。
【0007】
発明の概要
本発明は、安定性及び/又は可溶性について潜在的に問題のあるscFv配列内のアミノ酸残基の割り出しを、配列に基づく分析を使用して可能にする方法を提供する。更に、本発明の方法により割り出されたアミノ酸残基は、突然変異のために選択することができ、かつ突然変異されたエンジニアリングされたscFvを製造し、それを安定性及び/又は可溶性などの改善された機能特性についてスクリーニングすることができる。特に好ましい一実施態様において、本発明は、機能的に選択されたscFvのデータベースを使用して、生殖細胞系の及び/又は成熟の抗体免疫グロブリン配列における相応の位置よりも変動性に許容性が高いか低いかのいずれかのアミノ酸残基位置を割り出す方法を提供し、これにより、斯かる割り出された残基位置は、安定性及び/又は可溶性などのscFv機能性を改善するようにエンジニアリングするために適している可能性があることが示される。このように、本発明は、機能的に選択されたscFv配列のデータベースの使用の使用に基づいて、"機能的コンセンサス"アプローチの利点を提供し、かつ実証している。
【0008】
更に他の好ましい実施態様においては、本発明は、イムノバインダーにおける関連のアミノ酸位置(例えば、少なくとも1つの望ましい特性を有するscFv配列のデータベース、例えばQCアッセイで選択されたデータベースと、成熟抗体配列のデータベース、例えばKabatデータベースとの比較によって割り出されたアミノ酸位置)で置換されるべき好ましいアミノ酸残基(又は選択的に、排除されるべきアミノ酸残基)を割り出すための方法を提供する。このように、本発明は、更に、特定のアミノ酸残基を選択するための"濃縮/排除"方法を提供する。更になおも、本発明は、本願に記載される"機能的コンセンサス"アプローチを使用して割り出された特定のフレームワークアミノ酸位置を突然変異させることによる、イムノバインダー(例えばscFv、全長免疫グロブリン、Fabフラグメント、単独ドメイン抗体(例えばDab)及びナノボディー)のエンジニアリングの方法を提供する。好ましい実施態様においては、フレームワークアミノ酸位置は、存在するアミノ酸残基を、本願に記載される"濃縮/排除"分析法を使用して"濃縮された"残基であると見出された残基によって置換することによって突然変異される。
【0009】
一態様では、本発明は、単鎖抗体(scFv)であって該scFvがVH及びVLアミノ酸配列を有するものにおける突然変異のためのアミノ酸位置を割り出す方法において、
a)scFvのVH、VLもしくはVH及びVLのアミノ酸配列を、多数の抗体のVH、VLもしくはVH及びVLのアミノ酸配列を含むデータベースに入力して、該scFvのVH、VLもしくはVH及びVLのアミノ酸配列とデータベースの該抗体のVH、VLもしくはVH及びVLのアミノ酸配列とをアラインメントさせることと、
b)scFvのVHもしくはVLのアミノ酸配列内のアミノ酸位置と、データベースの抗体のVHもしくはVLのアミノ酸内の相応の位置とを比較することと、
c)該scFvのVHもしくはVLのアミノ酸配列内のアミノ酸位置が、データベースの抗体のVHもしくはVLのアミノ酸配列内の相応の位置で保存されているアミノ酸残基によって占められているかどうかを調べることと、
d)該アミノ酸位置が、データベースの抗体のVHもしくはVLのアミノ酸内の相応の位置で保存されていないアミノ酸残基によって占められている場合に、該scFvのVHもしくはVLのアミノ酸配列内のアミノ酸位置を、突然変異のためのアミノ酸位置として割り出すことと
を含む方法を提供する。
【0010】
本発明の方法は、更に、scFvのVHもしくはVLのアミノ酸配列内の突然変異のために割り出されたアミノ酸位置を突然変異させることを含んでよい。例えば、突然変異について割り出されたアミノ酸位置は、データベースの抗体のVHもしくはVL内の相応の位置で保存されているアミノ酸残基で置換することができる。加えて又は代わりに、突然変異について割り出されたアミノ酸位置を無作為なもしくは指向的な突然変異誘発によって突然変異させて、突然変異されたscFvのライブラリーを作製し、引き続き前記の突然変異されたscFvのライブラリーをスクリーニングし、そして少なくとも1つの改善された機能特性を有するscFvを選択する(例えば、酵母クオリティー・コントロールシステム(QCシステム)を使用するライブラリーのスクリーニングによって)ことができる。
【0011】
様々な種類のデータベースを本発明の方法で使用できる。例えば、一実施態様においては、データベースの抗体のVH、VLもしくはVH及びVLのアミノ酸配列は、生殖細胞系の抗体のVH、VLもしくはVH及びVLのアミノ酸配列である。もう一つの実施態様においては、データベースの抗体のVH、VLもしくはVH及びVLのアミノ酸配列は、再配置され親和性成熟した抗体のVH、VLもしくはVH及びVLのアミノ酸配列である。更にもう一つの特に好ましい実施態様においては、データベースの抗体のVH、VLもしくはVH及びVLのアミノ酸配列は、少なくとも1種の所望の機能特性(例えばscFv安定性もしくはscFv可溶性)を有するように選択されたscFv抗体のVH、VLもしくはVH及びVLのアミノ酸配列である。更にもう一つの実施態様においては、1つより多くのデータベースを比較目的のために使用することができる。例えば、特に好ましい一実施態様においては、少なくとも1種の所望の機能特性を有するように選択されたscFvのデータベース、並びに1もしくはそれより多くの生殖細胞系データベース又は再配置され親和性成熟した抗体データベースが使用され、その際、scFvデータベースからの配列比較結果は、他のデータベースからの結果と比較される。
【0012】
本発明の方法を使用して、例えばscFvのVH領域、scFvのVL領域又はその両方を分析することができる。
【0013】
本発明の方法を使用して関連のscFv内の関連の単独のアミノ酸位置を分析できるが、一方で、より好ましくは、該方法を使用して、scFv配列に沿った多重のアミノ酸位置が分析される。このように、好ましい一実施態様においては、前記方法の工程b)では、scFvのVHもしくはVLのアミノ酸配列内の多重のアミノ酸位置は、データベースの抗体のVHもしくはVLのアミノ酸配列内の相応の位置と比較される。例えば、好ましい一実施態様において、scFvのVH、VLもしくはVH及びVLのアミノ酸配列内の各フレームワーク位置は、データベースの抗体のVH、VLもしくはVH及びVLのアミノ酸配列内のそれぞれの相応のフレームワーク位置で比較される。加えて又は代わりに、scFvの1もしくはそれより多くのCDR内の1もしくはそれより多くの位置を分析することができる。更にもう一つの実施態様においては、scFvのVH、VLもしくはVH及びVLのアミノ酸配列内のそれぞれのアミノ酸位置は、データベースの抗体のVH、VLもしくはVH及びVLのアミノ酸配列内のそれぞれの相応のアミノ酸位置と比較される。
【0014】
データベースの配列のうち"保存"されているアミノ酸位置は、1もしくはそれより多くの特定の型のアミノ酸残基によって占められていてよい。例えば、一実施態様においては、"保存"されている位置は、その位置で非常に高い頻度で生ずる1つの特定のアミノ酸残基によって占められている。すなわち、該方法の工程c)で、データベースの抗体のVHもしくはVLのアミノ酸配列内の相応の位置で保存されるアミノ酸残基は、該データベースの抗体のVHもしくはVLのアミノ酸配列内のその位置に最も頻度の高いアミノ酸残基もしくは最も高く濃縮されているアミノ酸残基である。この状況では、エンジニアリングされたscFvを作製するためには、突然変異について割り出されたアミノ酸位置は、データベースの抗体のVHもしくはVLのアミノ酸配列内の相応の位置で最も頻繁に確認されるアミノ酸残基もしくは最も高く濃縮されているアミノ酸残基で置換されていてよい。もう一つの実施態様においては、データベースの配列のうち"保存"されているアミノ酸位置は、例えば、(i)疎水性アミノ酸残基、(ii)親水性アミノ酸残基、(iii)水素結合を形成できるアミノ酸残基又は(iv)β−シートを形成する性向を有するアミノ酸残基によって占められていてよい。すなわち、該方法の工程c)で、データベースの抗体のVHもしくはVLのアミノ酸配列内の相応の位置は、(i)疎水性アミノ酸残基、(ii)親水性アミノ酸残基、(iii)水素結合を形成できるアミノ酸残基又は(iv)β−シートを形成する性向を有するアミノ酸残基で保存される。
【0015】
従って、エンジニアリングされたscFvを作製するためには、データベースの抗体のVHもしくはVLのアミノ酸配列内の相応の位置が疎水性アミノ酸残基で保存されている場合には、scFv内で突然変異のために割り出されたアミノ酸位置は、データベースの抗体のVHもしくはVLのアミノ酸配列内の相応の位置で最も最も頻出する疎水性アミノ酸残基で置換されていてよい。加えて又は代わりに、scFv内の突然変異について割り出されたアミノ酸位置を、scFv内のその位置で最適であると選択された疎水性アミノ酸残基(例えば分子モデリング研究を基礎としてscFvの構造と機能を最も維持しそうな疎水性残基)で置換されていてよい。加えて又は代わりに、scFv内の突然変異について割り出されたアミノ酸位置は、エンジニアリングされたscFvのライブラリーの作製のために部位特異的突然変異誘発を介して1パネルの疎水性アミノ酸残基で置換されていてよく、かつ最も好ましい置換は、所望の機能特性についてライブラリーをスクリーニングする(例えば酵母QCシステムで)ことによって選択することができる。
【0016】
更に、エンジニアリングされたscFvを作製するためには、データベースの抗体のVHもしくはVLのアミノ酸配列内の相応の位置が親水性アミノ酸残基で保存されている場合には、scFv内で突然変異のために割り出されたアミノ酸位置は、データベースの抗体のVHもしくはVLのアミノ酸配列内の相応の位置で最も最も頻出する親水性アミノ酸残基で置換されていてよい。加えて又は代わりに、scFv内の突然変異について割り出されたアミノ酸位置を、scFv内のその位置で最適であると選択された親水性アミノ酸残基(例えば分子モデリング研究を基礎としてscFvの構造と機能を最も維持しそうな親水性残基)で置換されていてよい。加えて又は代わりに、scFv内の突然変異について割り出されたアミノ酸位置は、エンジニアリングされたscFvのライブラリーの作製のために部位特異的突然変異誘発を介して1パネルの親水性アミノ酸残基で置換されていてよく、かつ最も好ましい置換は、所望の機能特性についてライブラリーをスクリーニングする(例えば酵母QCシステムで)ことによって選択することができる。
【0017】
なおも更に、エンジニアリングされたscFvを作製するためには、データベースの抗体のVHもしくはVLのアミノ酸配列内の相応の位置が水素結合を形成しうるアミノ酸残基で保存されている場合には、scFv内で突然変異のために割り出されたアミノ酸位置は、データベースの抗体のVHもしくはVLのアミノ酸配列内の相応の位置で最も最も頻出する水素結合を形成しうるアミノ酸残基で置換されていてよい。加えて又は代わりに、scFv内の突然変異について割り出されたアミノ酸位置を、scFv内のその位置で最適であると選択された水素結合を形成しうるアミノ酸残基(例えば分子モデリング研究を基礎としてscFvの構造と機能を最も維持しそうな残基)で置換されていてよい。加えて又は代わりに、scFv内の突然変異について割り出されたアミノ酸位置は、エンジニアリングされたscFvのライブラリーの作製のために部位特異的突然変異誘発を介して1パネルの水素結合を形成しうるアミノ酸残基で置換されていてよく、かつ最も好ましい置換は、所望の機能特性についてライブラリーをスクリーニングする(例えば酵母QCシステムで)ことによって選択することができる。
【0018】
なおも更に、エンジニアリングされたscFvを作製するためには、データベースの抗体のVHもしくはVLのアミノ酸配列内の相応の位置がβ−シートを形成する性向を有するアミノ酸残基で保存されている場合には、scFv内で突然変異のために割り出されたアミノ酸位置は、データベースの抗体のVHもしくはVLのアミノ酸配列内の相応の位置で最も最も頻出するβ−シートを形成する性向を有するアミノ酸残基で置換されていてよい。加えて又は代わりに、scFv内の突然変異について割り出されたアミノ酸位置を、scFv内のその位置で最適であると選択されたβ−シートを形成する性向を有するアミノ酸残基(例えば分子モデリング研究を基礎としてscFvの構造と機能を最も維持しそうな残基)で置換されていてよい。加えて又は代わりに、scFv内の突然変異について割り出されたアミノ酸位置は、エンジニアリングされたscFvのライブラリーの作製のために部位特異的突然変異誘発を介して1パネルのβ−シートを形成する性向を有するアミノ酸残基で置換されていてよく、かつ最も好ましい置換は、所望の機能特性についてライブラリーをスクリーニングする(例えば酵母QCシステムで)ことによって選択することができる。
【0019】
もう一つの実施態様においては、scFvにおける突然変異のためのアミノ酸位置を割り出すための本発明の方法は、scFv抗体のVH、VLもしくはVH及びVLのアミノ酸配列と高い類似性を有するこれらの抗体のVH、VLもしくはVH及びVLのアミノ酸配列のみがデータベース中に含まれる制約されたデータベースであるデータベースを用いて実施することができる。
【0020】
好ましい一実施態様においては、分析されるアミノ酸位置(すなわちデータベースの抗体のVHもしくはVLのアミノ酸配列内の"相応の位置")の保存を定量化するために、アミノ酸位置に、シンプソンの指数を使用して保存の度合いが割り当てられる。
【0021】
本発明の方法は、また、scFv配列内のアミノ酸位置のペアを決定するために使用でき、これらの共変ペア位置の一方もしくは両方を突然変異のために割り出すことができるように互いに共変することができるアミノ酸位置を割り出すために使用することもできる。このように、もう一つの実施態様においては、本発明は、以下の工程:
a)データベースの抗体のVHもしくはVLのアミノ酸配列に対して共分散分析を行って、アミノ酸位置の共変ペアを割り出す工程;
b)アミノ酸位置の共変ペアと、scFvのVHもしくはVLのアミノ酸配列内の相応の位置とを比較する工程;
c)前記のscFvのVHもしくはVLのアミノ酸配列内の相応の位置が、データベースの抗体のVHもしくはVLのアミノ酸配列内のアミノ酸位置の共変ペアで保存されるアミノ酸残基によって占められているかどうかを決定する工程;及び
d)前記のscFvのVHもしくはVLのアミノ酸配列内の相応の位置の一方もしくは両方を、scFv内の相応の位置の一方もしくは両方が、データベースの抗体のVHもしくはVLのアミノ酸配列内のアミノ酸位置の共変ペアで保存されていないアミノ酸残基によって占められている場合に、突然変異のためのアミノ酸位置として割り出す工程
を含む方法を提供する。
【0022】
この共分散分析は、個々のアミノ酸位置の分析と組み合わせることができ、こうして、工程a)〜d)を有する前記のscFvにおける突然変異のためのアミノ酸位置を割り出す方法は、更に以下の工程:
e)データベースの抗体のVHもしくはVLのアミノ酸配列に対して共分散分析を行って、アミノ酸位置の共変ペアを割り出す工程;
f)アミノ酸位置の共変ペアと、scFvのVHもしくはVLのアミノ酸配列内の相応の位置とを比較する工程;
g)前記のscFvのVHもしくはVLのアミノ酸配列内の相応の位置が、データベースの抗体のVHもしくはVLのアミノ酸配列内のアミノ酸位置の共変ペアで保存されるアミノ酸残基によって占められているかどうかを決定する工程;及び
h)前記のscFvのVHもしくはVLのアミノ酸配列内の相応の位置の一方もしくは両方を、scFv内の相応の位置の一方もしくは両方が、データベースの抗体のVHもしくはVLのアミノ酸配列内のアミノ酸位置の共変ペアで保存されていないアミノ酸残基によって占められている場合に、突然変異のためのアミノ酸位置として割り出す工程
を含むことができる。
【0023】
共変分析法は、単独の共変ペアに適用でき、又は選択的にアミノ酸位置の多重の共変ペアを、データベースの抗体のVHもしくはVLのアミノ酸配列内で割り出すことができ、かつscFvのVHもしくはVLのアミノ酸配列内の相応の位置と比較することができる。
【0024】
該方法は、更に、データベースの抗体のVHもしくはVLのアミノ酸配列内のアミノ酸位置の共変ペアで保存されていないアミノ酸残基によって占められているscFv内の一方もしくは両方の相応の位置を突然変異することを含みうる。例えば、一実施態様において、アミノ酸位置の共変ペアで保存されていないアミノ酸残基によって占められているscFv内の相応の位置の一方は、アミノ酸位置の共変ペアで最も頻出するアミノ酸残基で置換される。もう一つの実施態様において、アミノ酸位置の共変ペアで保存されていないアミノ酸残基によって占められているscFv内の相応の位置の両方は、アミノ酸位置の共変ペアで最も頻出するアミノ酸残基で置換される。
【0025】
scFv配列での突然変異のためのアミノ酸位置の割り出しのための本発明の配列に基づく方法は、scFvの構造分析を可能にする他の方法と組み合わせることができる。例えば、一実施態様において、該配列に基づく方法は、scFvの構造を更に分析するために、分子モデリング法と組み合わせることができる。このように、一実施態様においては、工程a)〜d)を有する前記の方法は、更に、以下の工程、例えば:
e)scFvのVH、VLもしくはVH及びVLのアミノ酸配列を分子モデリングに供する工程;及び
f)突然変異のための、scFvのVH、VLもしくはVH及びVLのアミノ酸配列内の少なくとも1つの付加的なアミノ酸位置を割り出す工程
を含んでよい。この方法は、更に、分子モデリングによって突然変異のために割り出されたscFvのVH、VLもしくはVH及びVLのアミノ酸配列内の少なくとも1つの付加的なアミノ酸位置を突然変異することを含む。
【0026】
もう一つの態様においては、本発明は、本発明の方法により製造されたscFv組成物であって、突然変異のために割り出された1もしくはそれより多くのアミノ酸位置で1もしくはそれより多くの突然変異がなされているscFv組成物に関する。医薬品製剤であって、一般にscFv組成物と製剤学的に認容性の担体とを含む製剤も提供される。
【0027】
更にもう一つの態様においては、本発明は、単鎖抗体(scFv)であって該scFvがVH及びVLのアミノ酸配列を有するものにおける突然変異のために1もしくはそれより多くのフレームワークアミノ酸位置を割り出す方法において:
a)VH、VLもしくはVH及びVLのアミノ酸配列の第一のデータベースを提供すること;
b)少なくとも1つの所望の機能的特性を有するものとして選択されたscFv抗体のVH、VLもしくはVH及びVLのアミノ酸配列の第二のデータベースを提供すること;
c)第一のデータベースの各フレームワーク位置と第二のデータベースの各フレームワーク位置でのアミノ酸変動性を決定すること;
d)アミノ酸の変動性の度合いが第一のデータベースと第二のデータベースとの間で異なる1もしくはそれより多くのフレームワーク位置を割り出すことで、単鎖抗体(scFv)における突然変異のための1もしくはそれより多くのフレームワークアミノ酸位置を割り出すこと
を含む方法を提供する。
【0028】
好ましくは、各フレームワーク位置でのアミノ酸変動性は、シンプソンの指数を使用した保存の度合いの割り当てによって決定される。一実施態様においては、1もしくはそれより多くのフレームワークアミノ酸位置は、第一のデータベースと比較した場合により低いシンプソンの指数値(SI)を第二のデータベース中で有する1もしくはそれより多くのフレームワークアミノ酸位置に基づいて突然変異のために割り出される。もう一つの実施態様においては、1もしくはそれより多くのフレームワークアミノ酸位置は、第一のデータベース(例えば生殖細胞系データベース)と比較した場合により高いシンプソンの指数値を第二のデータベース中で有する1もしくはそれより多くのフレームワークアミノ酸位置に基づいて突然変異のために割り出される。好ましい一実施態様においては、第二のデータベース(例えばQCデータベース)のアミノ酸位置は、第一のデータベース(例えばKabatデータベース)における相応のアミノ酸位置のSI値よりも、少なくとも0.01小さいSI値を有し、より好ましくは0.05(例えば0.06、0.07、0.08、0.09もしくは0.1)小さいSI値を有する。より好ましい実施態様においては、第二のデータベースのアミノ酸位置は、第一のデータベースにおける相応のアミノ酸位置のSI値よりも、少なくとも0.1小さい(例えば0.1、0.15、0.2、0.25、0.3、0.35、0.4、0.45もしくは0.5小さい)SI値を有する。
【0029】
もう一つの実施態様においては、本発明は、イムノバインダーにおいて置換のために好ましいアミノ酸残基を割り出す方法であって:
a)群分けされたVHもしくはVLのアミノ酸配列(例えばKabatファミリーサブタイプにより群分けされた生殖細胞系及び/又は成熟抗体の配列)の第一のデータベースを提供すること;
b)少なくとも1つの所望の機能特性を有するものとして(例えばQCアッセイにより)選択された群分けされたscFv抗体のVHもしくはVLのアミノ酸配列の第二のデータベースを提供すること;
c)第一のデータベースのフレームワーク位置と第二のデータベースの相応のフレームワーク位置とでのアミノ酸残基についてのアミノ酸頻度を決定すること;
d)該アミノ酸を、そのアミノ酸残基が第一のデータベースに対してより高い頻度で第二のデータベースに出現する場合に、イムノバインダーの相応のアミノ酸位置での置換のために好ましいアミノ酸残基(すなわち、濃縮された残基)として割り出すこと
を含む方法を提供する。
【0030】
更にもう一つの態様においては、本発明は、イムノバインダーから排除されるべきアミノ酸残基を割り出す方法であって:
a)群分けされたVHもしくはVLのアミノ酸配列(例えばKabatファミリーサブタイプにより群分けされた生殖細胞系及び/又は成熟抗体の配列)の第一のデータベースを提供すること;
b)少なくとも1つの所望の機能特性を有するものとして(例えばQCアッセイにより)選択された群分けされたscFv抗体のVHもしくはVLのアミノ酸配列の第二のデータベースを提供すること;
c)第一のデータベースのフレームワーク位置と第二のデータベースの相応のフレームワーク位置とでのアミノ酸残基についてのアミノ酸頻度を決定すること;
d)該アミノ酸を、そのアミノ酸残基が第一のデータベースに対してより低い頻度で第二のデータベースに出現する場合に、イムノバインダーの相応のアミノ酸位置での置換のために好ましくないアミノ酸残基として割り出すこと(その際、前記のアミノ酸残基の種類は好ましくないアミノ酸残基(すなわち排除された残基)である)
を含む方法を提供する。ある特定の好ましい実施態様においては、好ましくないアミノ酸残基は、濃縮係数(EF)が1未満である場合に割り出される。
【0031】
ある特定の実施態様においては、第一のデータベースは、生殖細胞系のVH、VLもしくはVH及びVLのアミノ酸配列を含む。他の実施態様においては、第一のデータベースは、生殖細胞系のVH、VLもしくはVH及びVLのアミノ酸配列からなる。更にもう一つの実施態様においては、第一のデータベースは、成熟のVH、VLもしくはVH及びVLのアミノ酸配列を含む。もう一つの実施態様においては、第一のデータベースは、成熟のVH、VLもしくはVH及びVLのアミノ酸配列からなる。例示的な一実施態様においては、成熟のVH、VLもしくはVH及びVLのアミノ酸配列は、Kabatデータベース(KDB)からである。
【0032】
ある特定の実施態様においては、第二のデータベースは、QCアッセイから選択された、scFv抗体のVH、VLもしくはVH及びVLのアミノ酸配列を含む。もう一つの実施態様においては、第二のデータベースは、QCアッセイから選択された、scFv抗体のVH、VLもしくはVH及びVLのアミノ酸配列からなる。
【0033】
一実施態様においては、望ましい機能特性は、改善された安定性である。もう一つの実施態様においては、望ましい機能特性は、改善された可溶性である。更にもう一つの実施態様において、望ましい機能特性は非凝集である。なおももう一つの実施態様において、望ましい機能特性は発現での改善(例えば原核細胞において)である。更にもう一つの実施態様において、機能特性は、封入体精製工程に引き続く再フォールディング率における改善である。一定の実施態様において、望ましい機能特性は、抗原結合親和性の改善ではない。もう一つの実施態様においては、1もしくはそれより多くの所望の機能の組合せが達成される。
【0034】
なおもう一つの態様において、本発明は、イムノバインダーのエンジニアリング方法において:
a)該イムノバインダー内で突然変異のための1もしくはそれより多くのアミノ酸位置を選択すること;及び
b)突然変異のために選択された1もしくはそれより多くのアミノ酸位置を突然変異させること
を含み、
突然変異のために選択された1もしくはそれより多くのアミノ酸位置が重鎖アミノ酸位置である場合に、前記のアミノ酸位置は、AHoナンバリングを使用した位置1、6、7、10、12、13、14、19、20、21、45、47、50、55、77、78、82、86、87、89、90、92、95、98、103及び107(Kabatナンバリングを使用したアミノ酸位置1、6、7、9、11、12、13、18、19、20、38、40、43、48、66、67、71、75、76、78、79、81、82b、84、89及び93)からなる群から選択され、かつ
突然変異のために選択された1もしくはそれより多くのアミノ酸位置が軽鎖アミノ酸位置である場合に、前記のアミノ酸位置は、AHoナンバリングを使用した位置1、2、3、4、7、10、11、12、14、18、20、24、46、47、50、53、56、57、74、82、91、92、94、101及び103(Kabatナンバリングを使用したアミノ酸位置1、2、3、4、7、10、11、12、14、18、20、24、38、39、42、45、48、49、58、66、73、74、76、83及び85)からなる群から選択される前記方法を提供する。
【0035】
一実施態様においては、本発明は、イムノバインダーをエンジニアリングする方法であって:
a)突然変異のためにイムノバインダー内の1もしくはそれより多くのアミノ酸位置を選択すること;及び
b)突然変異のために選択された1もしくはそれより多くのアミノ酸位置を突然変異させること
を含み、その際、前記突然変異のために選択された1もしくはそれより多くのアミノ酸位置は、
(i)AHoナンバリングを使用したVH3のアミノ酸位置1、6、7、89及び103(Kabatナンバリングを使用したアミノ酸位置1、6、7、78及び89);
(ii)AHoナンバリングを使用したVH1aのアミノ酸位置1、6、12、13、14、19、21、90、92、95及び98(Kabatナンバリングを使用したアミノ酸位置1、6、11、12、13、18、20、79、81、82b及び84);
(iii)AHoナンバリングを使用したVH1bのアミノ酸位置1、10、12、13、14、20、21、45、47、50、55、77、78、82、86、87及び107(Kabatナンバリングを使用したアミノ酸位置1、9、11、12、13、19、20、38、40、43、48、66、67、71、75、76及び93);
(iv)AHoナンバリングを使用したVκ1のアミノ酸位置1、3、4、24、47、50、57、91及び103(Kabatナンバリングを使用したアミノ酸位置1、3、4、24、39、42、49、73及び85);
(v)AHoナンバリングを使用したVκ3のアミノ酸位置2、3、10、12、18、20、56、74、94、101及び103(Kabatナンバリングを使用したアミノ酸位置2、3、10、12、18、20、48、58、76、83及び85);及び
(vi)AHoナンバリングを使用したVλ1のアミノ酸位置1、2、4、7、11、14、46、53、82、92及び103(Kabatナンバリングを使用したアミノ酸位置1、2、4、7、11、14、38、45、66、74及び85)
からなる群から選択される前記方法を提供する。
【0036】
もう一つの実施態様においては、前記突然変異は、更に、AHoナンバリングを使用したアミノ酸位置12、13及び144(Kabatナンバリングを使用したアミノ酸位置12、85及び103)からなる群から選択される重鎖アミノ酸位置の1もしくはそれより多くの(好ましくは全ての)鎖置換を含む。
【0037】
ある特定の好ましい実施態様においては、突然変異のために選択された1もしくはそれより多くのアミノ酸位置は、少なくとも1つの望ましい機能特性を有するとして(例えば酵母QCシステムにおいて)選択された抗体配列における相応のアミノ酸位置で見出されたアミノ酸残基へと突然変異される。更に他の実施態様においては、突然変異のために選択された1もしくはそれより多くのアミノ酸位置は、本発明の濃縮/排除分析の方法論に従って割り出されたアミノ酸残基(例えば"濃縮されたアミノ酸残基")へと突然変異される。
【0038】
好ましくは、イムノバインダーはscFvであるが、他のイムノバインダー、例えば全長免疫グロブリン及び他の抗体フラグメント(例えばFabもしくはDab)も、該方法に従ってエンジニアリングすることができる。本発明は、また、当該エンジニアリング方法に従って製造されたイムノバインダー並びに該イムノバインダーと製剤学的に認容性の担体とを含む組成物を包含する。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】図1は、本発明の方法によるscFvの一般的な配列に基づく分析の概要を示すフローチャート図である。
【図2】図2は、scFvの配列に基づく分析に関する例示的な多工程法のフローチャート図である。
【図3】図3は、酵母における安定で可溶性のscFvの選択のための例示的なクオリティー・コントロール(QC)システムの概略図である。
【図4】図4は、もう一つの例示的なクオリティー・コントロール(QC)システムの概略図である。
【図5】図5は、体細胞突然変異の前の本来の生殖細胞系の配列内の特定のフレームワーク(FW)位置での変動性と、QCシステムで選択された体細胞突然変異の後の成熟抗体の配列内の相応するFW位置での変動性の分析の概略図である。
【図6】図6は、25〜95℃の温度範囲での熱誘発ストレス後にESBA105変異体について観察された変性プロフィールを示している。
【図7】図7は、コンセンサス逆突然変異(S−2、D−2、D−3)、アラニンへの突然変異(D−1)もしくはQC残基(QC7.1、QC11.2、QC15.2、QC23.2)のいずれかを含む一組のESBA105変異体についての熱安定性の比較を示している。
【図8】図8は、25〜95℃の温度範囲での熱誘発ストレス後にESBA212変異体について観察された変性プロフィールを示している。
【図9】図9は、野生型ESBA105及びその可溶性変異体のPEG沈殿可溶性曲線を示している。
【図10】図10は、広い温度範囲(25〜96℃)での熱負荷後に測定された、野生型ESBA105及びその可溶性変異体についての熱変性プロフィールを示している。
【図11】図11は、熱ストレスの条件下で2週間インキュベートした後の、様々なESBA105可溶性突然変異体の分解挙動を示すSDS−PAGEを示している。
【0040】
以下の発明の詳細な説明を考慮することで、本発明はより良好に理解され、かつ前記に示されるもの以外の対象物も明らかになる。斯かる説明は、付随する図面について言及している:
図1は、本発明の方法によるscFvの一般的な配列に基づく分析の概要を示すフローチャート図である。
【0041】
第一工程において、可溶性及び安定性を改善させるべきscFvの配列を提供し(ボックス1)、引き続き該配列を、抗体配列データベース(ボックス2)、例えばオープンソースの生殖細胞系の配列データベース(例えばVbase、IMGT;ボックス3)、オープンソースの成熟抗体の配列データベース(例えばKDB;ボックス4)又は完全なヒトの安定かつ可溶性のscFvフラグメントのデータベース(例えばQC;ボックス5)と比較する。
【0042】
ボックス3に記載されるようなオープンソースの生殖細胞系の配列データベースを適用することによって、進化の過程で淘汰されたため、全長抗体コンテクスト中の可変ドメインの安定性に寄与すると思われる、高度に保存された位置の割り出しが可能となる(ボックス3′)。オープンソースの成熟抗体の配列データベース4との比較によって、それぞれのCDRとは無関係の安定性、可溶性及び/又は結合性の改善を表すパターンの割り出しが可能となる(ボックス4′)。更に、完全にヒトの安定かつ可溶性のscFvフラグメントのデータベース(ボックス5)との比較によって、特にscFvの形式で安定性及び/又は可溶性に決定的な残基の割り出しに加えて、特にscFvの形式、例えばVL及びVHの組み合わせで、それぞれのCDRとは無関係な安定性、可溶性及び/又は結合性の改善を示すパターンの割り出しがもたらされる(ボックス5′)。
【0043】
後続工程(ボックス6)において、決定的な残基は、それぞれのデータベースで割り出される最も頻出する好適なアミノ酸によって置換がなされる。
【0044】
最後に(ボックス7)、決定的な残基の無作為なもしくは指向的な突然変異誘発と、それに引き続く酵母のQC−システムにおける改善された安定性及び/又は可溶性についてのスクリーニングが実施されうる。それらの突然変異体は、再び上述の手順に供してよい(ボックス2への矢印)。
【0045】
図2は、scFvの配列に基づく分析に関する例示的な多工程法のフローチャート図である。
【0046】
第一工程(ボックス1)において、フレームワーク中の全ての残基の頻度が、各位置での種々のアミノ酸の出現率をバイオインフォマティックツールによって提供された結果に基づき比較することによって決定される。第二工程において、各位置での保存の度合いが、例えばシンプソンの指数を使用することによって式D=Σni(ni−1)/N(N−1)を用いて定義される。第三工程において、全体の自由エネルギーを最小にする最良の置換が決定される(例えばボルツマンの法則:ΔΔGth=−RTln(f親/fコンセンサス)に当てはめることによって)。最後に(工程4)、潜在的な安定化突然変異の役割が確かめられる。このために、局所的な及び非局所的な相互作用、カノニカル残基、インターフェース、曝露度及びβ−ターン性などの要因を考慮することができる。
【0047】
図3は、酵母における安定で可溶性のscFvの選択のための例示的なクオリティー・コントロール(QC)システムの概略図である。このシステムで、還元性環境において安定で可溶性のscFvを発現可能な宿主細胞が、安定で可溶性のscFv−AD−Gal11p融合タンパク質の存在に依存して発現される誘導性のリポーター構築物の存在により選択される。該融合タンパク質とGal4(1−100)との相互作用は、機能的な転写因子を形成し、それにより選択可能なマーカーの発現が活性化される(図3Aを参照のこと)。不安定な及び/又は不溶性のscFvは、機能的な転写因子の形成と選択可能なマーカーの発現の誘導をすることができず、従って選択から排除される(図3B)。選択されたscFvは、安定で可溶性のタンパク質を、ジスルフィド結合が折り畳まれない還元性条件下でさえも、折り畳まれて得ることができるが、一方で、不安定な及び/又は不溶性のscFvは、折り畳まれず、凝集し、かつ/又は分解する傾向がある。酸化性条件下では、選択されたscFvは、依然として優れた可溶性と安定性という特性を呈する。
【0048】
図4は、もう一つの例示的なクオリティー・コントロール(QC)システムの概略図である。可溶性のscFvを選択するための全体的なコンセプトは、この場合でも図3に記載したものと同じであるが、scFvは、活性化ドメイン(AD)及びDNA結合ドメイン(DBD)を含む機能的な転写因子に直接的に融合されている。図4Aは、機能的な転写因子に融合された場合に、選択可能なマーカーの転写を妨げない、例示的な可溶性で安定なscFvを図示している。それに対して、図4Bは、不安定なscFvが転写因子に融合されることで、選択可能なマーカーの転写を活性化することができない非機能的な融合構築物をもたらすというシナリオを示している。
【0049】
図5は、体細胞突然変異の前の本来の生殖細胞系の配列内の特定のフレームワーク(FW)位置での変動性と、QCシステムで選択された体細胞突然変異の後の成熟抗体の配列内の相応するFW位置での変動性の分析の概略図である。種々の変動性値が、生殖細胞系とQC配列内のそれぞれのFW位置(例えば高度に変動性のフレームワーク残基("hvFR"))に割り当てられうる(すなわち、それぞれ"G"値及び"Q"値)。ある特定の位置についてG>Qである場合には、その位置には、限られた数で好適な安定なFW残基が存在する。ある特定の位置についてG<Qである場合には、このことは、その残基が最適な可溶性及び安定性について自然淘汰されていることを示しうる。
【0050】
図6は、25〜95℃の温度範囲での熱誘発ストレス後にESBA105変異体について観察された変性プロフィールを示している。生殖細胞系コンセンサス残基への逆突然変異(V3Q、R47KもしくはV103T)を有するESBA−105変異体は、点線で示されている。本発明の方法によって割り出された好ましい置換を含む変異体(QC11.2、QC15.2及びQC23.2)は、実線によって示されている。
【0051】
図7は、コンセンサス逆突然変異(S−2、D−2、D−3)、アラニンへの突然変異(D−1)もしくはQC残基(QC7.1、QC11.2、QC15.2、QC23.2)のいずれかを含む一組のESBA105変異体についての熱安定性の比較を示している。各変異体の熱安定性(任意のアンフォールディング単位で)が提供される。
【0052】
図8は、25〜95℃の温度範囲での熱誘発ストレス後にESBA212変異体について観察された変性プロフィールを示している。生殖細胞系コンセンサス残基への逆突然変異(V3QもしくはR47K)を有するESBA212変異体は、点線で示されている。ESBA212親分子は、実線によって示されている。
【0053】
図9は、野生型ESBA105及びその可溶性変異体のPEG沈殿可溶性曲線を示している。
【0054】
図10は、広い温度範囲(25〜96℃)での熱負荷後に測定された、野生型ESBA105及びその可溶性変異体についての熱変性プロフィールを示している。
【0055】
図11は、熱ストレスの条件下で2週間インキュベートした後の、様々なESBA105可溶性突然変異体の分解挙動を示すSDS−PAGEを示している。
【0056】
発明の詳細な説明
本発明は、安定性、可溶性及び親和性を制限されることなく含む、イムノバインダーの特性、特にscFvの特性を、配列に基づきエンジニアリングして、最適化するための方法に関する。より具体的には、本発明は、突然変異させることで、scFvの1もしくはそれより多くの物理的特性が改善されるscFv内のアミノ酸位置を割り出す抗体配列分析を用いてscFv抗体を最適化するための方法を開示している。本発明は、また、本発明の方法により製造された、エンジニアリングされたイムノバインダー、例えばscFvに関する。
【0057】
本発明は、少なくとも部分的に、複数の抗体配列のデータベースにおける、重鎖と軽鎖のそれぞれのフレームワーク位置でのアミノ酸の頻度の分析に基づいている。特に、生殖細胞系データベース及び/又は成熟抗体データベースの頻度の分析は、所望の機能特性を有するものとして選択されたscFv配列のデータベースの頻度分析と比較されている。変動性の度合いを各フレームワーク位置に割り当て(例えばシンプソンの指数を用いて)、そしてその各フレームワーク位置での変動性の度合いを種々のタイプの抗体配列データベース内で比較することによって、目下、scFvの機能特性(例えば安定性、可溶性)に重要なフレームワーク位置を割り出すことができた。これは、目下、フレームワークのアミノ酸位置に対する"機能的コンセンサス"を定義することを可能にする。その際、生殖細胞系及び/又は成熟の抗体免疫グロブリン配列における相応の位置よりも変動性に許容性が高いか低いかのいずれかであるフレームワーク位置が割り出されている。このように、本発明は、機能的に選択されたscFv配列のデータベースの使用の使用に基づいて、"機能的コンセンサス"アプローチの利点を提供し、かつ実証している。更になおも、本発明は、本願に記載される"機能的コンセンサス"アプローチを使用して割り出された特定のフレームワークアミノ酸位置を突然変異させることによる、イムノバインダー(例えばscFv)のエンジニアリングの方法を提供する。
【0058】
本発明をより容易に理解できるようにするために、特定の用語をまず定義する。特に定義がなされない限り、本願で使用される全ての技術用語及び科学用語は、本発明の属する技術分野における通常の知識を有するものによって通常理解されるのと同じ意味を有する。本願に記載されるのと類似のもしくは同等の方法及び材料を本発明の実施もしくは試験において使用できるが、好適な方法及び材料は、以下に記載される。本願に挙げられる全ての文献、特許出願、特許及び他の参考資料は、参照をもってその全体が開示されたものとする。抵触の場合には、本願明細書が、それらの定義を含めて支配することとなる。更に、材料、方法及び実施例は、説明的なものにすぎず、限定を意図するものではない。
【0059】
本願で使用される用語"抗体"は、"免疫グロブリン"と同義である。本発明による抗体は、全体の免疫グロブリン又は単独の可変ドメインなどの免疫グロブリンの少なくとも1種の可変ドメインを含むそのフラグメント、つまり当業者によく知られるFv(Skerra A.及びPlueckthun,A.(1988年)Science 240:1038−41)、scFv(Bird,R.E.他(1988年)Science 242:423−26;Huston,J.S.他(1988年)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:5879−83)、Fab、(Fab′)2もしくは他のフラグメントであってよい。
【0060】
本願で使用される用語"抗体フレームワーク"とは、VLもしくはVHのいずれかの可変ドメインの部分であって、この可変ドメインの抗原結合ループのための足場としてはたらくものを指す(Kabat,E.A.他(1991年)Sequences of proteins of immunological interest.NIH Publication 91−3242)。
【0061】
本願で使用される用語"抗体CDR"とは、抗体の相補性決定領域であって、Kabat,E.A.他(1991年)Sequences of proteins of immunological interest.NIH Publication 91−3242によって定義される抗原結合ループからなるものを指す。抗体Fvフラグメントの2つの可変ドメインのそれぞれは、例えば3つのCDRを含む。
【0062】
用語"単鎖抗体"又は"scFc"は、抗体重鎖可変領域(VH)及び抗体軽鎖可変領域(VL)を含み、それらがリンカーによって連結合されている分子を指すことが意図される。斯かるscFv分子は、一般構造:NH2−VL−リンカー−VH−COOH又はNH2−VH−リンカー−VL−COOHを有してよい。
【0063】
本願で使用される場合、"同一性"とは、2種のポリペプチド、分子又は2種の核酸の間の配列の一致を指す。2つの比較された配列の両者のある位置が同じ塩基もしくはアミノ酸モノマーサブユニットによって占められている場合に(例えば、2つのポリペプチドのそれぞれのある位置がリジンによって占められている場合に)、それぞれの分子は、その位置で同一である。2種の配列の間の"パーセンテージの同一性"は、2種の配列によって共有される一致した位置の数を比較された位置の数によって除算したものに100を乗算した関数である。例えば、2種の配列における10個の位置の6個が一致している場合に、それらの2種の配列は60%の同一性を有する。一般に、2種の配列を最大の同一性となるようにアラインメントして比較がなされる。斯かるアラインメントは、例えばNeedleman他(1970年)J.Mol.Biol.48:443−453の方法を用いて、Alignプログラム(DNAstar,Inc.)などのコンピュータプログラムによって適宜実行されて提供することができる。
【0064】
"類似の"配列は、アライメントされた場合に、同一の及び類似のアミノ酸残基を共有するものであり、その際、類似の残基は、アライメントされた参照配列中の相応のアミノ酸残基についての保存的置換である。この点に関しては、参照配列中の残基の"保存的置換"は、相応の参照残基と物理的にもしくは機能的に類似の残基、例えば類似の大きさ、形状、電荷、共有結合もしくは水素結合の形成能を含む化学特性などを有する残基による置換である。このように、"保存的置換により修飾された"配列は、参照配列もしくは野生型配列とは異なるものであり、1もしくはそれより多くの保存的置換が存在する配列である。2種の配列の間の"パーセンテージの類似性"は、2種の配列によって共有される一致した残基もしくは保存的置換を含む位置の数を比較された位置の数によって除算したものに100を乗算した関数である。例えば、2種の配列における10個の位置の6個が一致し、かつ10個の位置の2個が保存的置換を含む場合に、それらの2種の配列は、80%の正の類似性を有する。
【0065】
本願で使用される"アミノ酸コンセンサス配列"とは、少なくとも2種の、好ましくはそれより多くのアライメントされたアミノ酸配列の行列を用いて、かつそれぞれの位置での最も頻出するアミノ酸を決定できるようなアライメントでギャップを許容して生成できるアミノ酸配列を指す。コンセンサス配列は、それぞれの位置で最も頻出するアミノ酸を含む配列である。2もしくはそれより多くのアミノ酸が単独の位置で等しく現れる場合に、コンセンサス配列は、これらのアミノ酸の両方もしくは全てを含む。
【0066】
タンパク質のアミノ酸配列は、様々なレベルで解析することができる。例えば、保存もしくは変動は、単一残基レベル、多重残基レベル、ギャップありの多重残基などで表現することができる。残基は、同一の残基の保存を表すか、又はクラスレベルで保存されることがある。アミノ酸クラスの例は、極性であるが、非荷電のR基(セリン、トレオニン、アスパラギン及びグルタミン);正に荷電したR基(リジン、アルギニン及びヒスチジン);負に荷電したR基(グルタミン酸及びアスパラギン酸);疎水性のR基(アラジン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、トリプトファン、バリン及びチロシン);並びに特殊なアミノ酸(システイン、グリシン及びプロリン)を含む。他のクラスは、当業者に公知であり、かつ構造決定又は置換可能性を評価する他のデータを用いて定義されることがある。その意味で、置換可能なアミノ酸とは、置換することができ、その位置で機能的保存を維持できる任意のアミノ酸を指すことができる。
【0067】
本願で使用される場合に、1つのアミノ酸配列(例えば第一のVHもしくはVL配列)を1もしくはそれより多くの追加のアミノ酸配列(例えばデータベース中の1もしくはそれより多くのVHもしくはVL配列)とアラインメントする場合に、1つの配列(例えば第一のVHもしくはVL配列)中のアミノ酸配列は、その1もしくはそれより多くの追加のアミノ酸配列中の"相応の位置"と比較されうる。本願で使用される場合に、"相応の位置"は、配列が最適にアラインメントされた場合、すなわち配列が最も高いパーセントの同一性もしくはパーセントの類似性を達成するようにアラインメントされた場合、比較される配列中の対応位置を表す。
【0068】
本願で使用される場合に、用語"抗体データベース"とは、2もしくはそれより多くの抗体アミノ酸配列のコレクションを指し、一般に、何十種、何百種、あるいは何千種に及ぶ抗体アミノ酸配列のコレクションを指す。抗体データベースは、抗体VH領域、抗体VL領域又はその両方のアミノ酸配列、例えばそのコレクションを蓄積するか、又はVH及びVL領域を含むscFv配列のコレクションを蓄積しうる。好ましくは、該データベースは、検索可能な固定化された媒体、例えば検索可能なコンピュータプログラム内のコンピュータに蓄積される。一実施態様においては、抗体データベースは、生殖細胞系の抗体配列を含む又はそれらからなるデータベースである。もう一つの実施態様においては、抗体データベースは、成熟(すなわち発現される)抗体配列を含むもしくはそれらからなるデータベース(例えば成熟抗体配列のKabatデータベース、例えばKBDデータベース)である。更にもう一つの実施態様においては、抗体データベースは、機能的に選択された配列(例えばQCアッセイから選択された配列)を含むかあるいはそれらからなる。
【0069】
用語"イムノバインダー"とは、イムノバインダーが特異的に標的抗原を認識する、抗体の抗原結合部位の全てもしくは部分を含む分子、例えば重鎖及び/又は軽鎖の可変ドメインの全てもしくは部分を含む分子を指す。イムノバインダーの限定されない例には、全長免疫グロブリン分子及びscFv並びに抗体フラグメント、例えば限定されないが、(i)Fabフラグメント、つまりVL、VH、CL及びCH1ドメインからなる一価のフラグメント;(ii)F(ab′)2フラグメント、つまり2つのFabフラグメントを含みヒンジ領域でジスルフィド橋によって連結された二価のフラグメント;(iii)実質的にヒンジ領域の部分を有するFabであるFab′フラグメント(FUNDAMENTAL IMMUNOLOGY(Paul編、第三版、1993年)を参照);(iv)VH及びCH1ドメインからなるFdフラグメント;(vi)Dabなどの単一ドメイン抗体(Ward他(1989年)Nature 341:544−546)であって、VHもしくはVLドメインからなる抗体、つまりカメリド抗体(Hamers−Casterman他、Nature 363:446−448(1993)及びDumoulin他、Protein Science 11:500−515(2002)を参照)もしくはサメ抗体(例えばサメIg−NAR Nanobodies(登録商標))並びに(vii)ナノボディー、つまり単独の可変ドメインと2つの定常ドメインを含む重鎖可変領域が含まれる。
【0070】
本願で使用される場合に、用語"機能特性"は、例えばポリペプチドの製造特性もしくは治療効力を改善するために、当業者に改善(例えば従来のポリペプチドに対して)が望まれる及び/又は好ましい、ポリペプチド(例えばイムノバインダー)の特性である。一実施態様において、機能特性は、改善された安定性(例えば熱安定性)である。もう一つの実施態様において、機能特性は、改善された可溶性(例えば細胞条件下で)である。更にもう一つの実施態様において、機能特性は非凝集である。なおももう一つの実施態様において、機能特性は発現での改善(例えば原核細胞において)である。更にもう一つの実施態様において、機能特性は、封入体精製工程に引き続く再フォールディング率における改善である。一定の実施態様において、機能特性は、抗原結合親和性の改善ではない。
【0071】
scFvの配列に基づく分析
本発明は、突然変異について選択されるscFv配列内でのアミノ酸位置の割り出しを可能にするscFv配列の分析のための方法を提供する。突然変異について選択されたアミノ酸位置は、scFvの機能特性、例えば可溶性、安定性及び/又は抗原結合性に影響することが予測されるものであって、その際、斯かる位置での突然変異が、scFvの性能を改善すると予測されるものである。このように、本発明は、scFv配列内でアミノ酸位置を単純に無作為に突然変異するよりも焦点が絞られたscFvのエンジニアリングをして性能を最適化することができる。
【0072】
scFv配列の配列に基づく分析の一定の態様は、図1のフローチャートに図示されている。この図に示されるように、最適化されるべきscFvの配列は、安定で可溶性であると選択されたscFv配列から構成される抗体データベースを含む1もしくはそれより多くの抗体データベース中の配列と比較される。これは、特にscFvの形式で安定性及び/又は可溶性に決定的な残基の割り出し、並びに特にscFvの形式で(例えばVL及びVHの組み合わせ)それぞれのCDRとは独立した安定性、可溶性及び/又は結合性の改善を示すパターンの割り出しを可能にしうる。決定的な残基が割り出されたら、それらの残基は、例えばそれぞれのデータベース中で割り出された最も頻度の高い好適なアミノ酸によって及び/又は無作為なもしくは指向的な突然変異誘発によって置換されうる。
【0073】
このように、一態様では、本発明は、単鎖抗体(scFv)であって該scFvがVH及びVLアミノ酸配列を有するものにおける突然変異のためのアミノ酸位置を割り出す方法において、
a)scFvのVH、VLもしくはVH及びVLのアミノ酸配列を、多数の抗体のVH、VLもしくはVH及びVLのアミノ酸配列を含むデータベースに入力して、該scFvのVH、VLもしくはVH及びVLのアミノ酸配列とデータベースの該抗体のVH、VLもしくはVH及びVLのアミノ酸配列とをアラインメントさせることと、
b)scFvのVHもしくはVLのアミノ酸配列内のアミノ酸位置と、データベースの抗体のVHもしくはVLのアミノ酸内の相応の位置とを比較することと、
c)該scFvのVHもしくはVLのアミノ酸配列内のアミノ酸位置が、データベースの抗体のVHもしくはVLのアミノ酸配列内の相応の位置で保存されているアミノ酸残基によって占められているかどうかを調べることと、
d)該アミノ酸位置が、データベースの抗体のVHもしくはVLのアミノ酸内の相応の位置で保存されていないアミノ酸残基によって占められている場合に、該scFvのVHもしくはVLのアミノ酸配列内のアミノ酸位置を、突然変異のためのアミノ酸位置として割り出すことと
を含む方法に関する。
【0074】
このように、本発明の方法においては、関連するscFvの配列(すなわちVH、VLもしくは両方の配列)は、抗体データベースの配列と比較され、その関連のscFv中のアミノ酸位置が、データベース中の配列の相応の位置において"保存"されているアミノ酸残基によって占められているかどうかが調べられる。前記のscFv配列のアミノ酸位置が、データベースの配列内の相応の位置で"保存"されていないアミノ酸残基によって占められている場合に、そのscFvのアミノ酸位置が、次いで突然変異のために選択される。好ましくは、分析されるアミノ酸位置は、関連のscFv内のフレームワークのアミノ酸位置である。更により好ましくは、関連のscFv内のすべてのフレームワークのアミノ酸位置が分析されうる。選択的な一実施態様において、関連のscFvの1もしくはそれより多くのCDR内の1もしくはそれより多くのアミノ酸位置が分析されうる。更にもう一つの実施態様において、関連のscFvでの各アミノ酸位置が分析されうる。
【0075】
アミノ酸残基が抗体データベースの配列内の特定のアミノ酸位置(例えばフレームワークの位置)で"保存"されているかどうかを調べるためには、特定の位置での保存度が計算されうる。所定の位置でのアミノ酸多様度を定量できる、当該技術分野において知られる種々の様式の選択肢が存在し、その全ては、本発明の方法に適用することができる。好ましくは、保存度は、多様度の尺度であるシンプソン多様度指数を使用して計算される。各位置に存在するアミノ酸の数に加えて、各アミノ酸の相対存在度が考慮される。シンプソン指数(S.I.)は、2種の無作為に選択された抗体配列が、ある位置に同じアミノ酸を含む確率を表す。シンプソン指数は、保存度を測定する場合には、豊富さ及び均等度といった2つの主要な係数が考慮される。本願で使用される場合に、"豊富さ"は、特定の位置に存在する異なるアミノ酸種の数の尺度である(すなわち、その位置でデータベースに表される種々のアミノ酸残基の数が豊富さの尺度である)。本願で使用される場合に、"均等度"は、特定の位置に存在する各アミノ酸の存在度の尺度である(すなわち、データベースの配列内のその位置でアミノ酸残基が生ずる頻度が、均等度の尺度である)。
【0076】
残基の豊富さは、それ自身で、特定の位置での保存度を調べるための尺度として使用できる一方で、ある位置に存在する各アミノ酸残基の相対頻度は考慮されない。それは、データベースの配列内の特定の位置で非常にまれに生ずるアミノ酸残基について、その同じ位置で非常に頻繁に生ずるのと同等の重みづけとなることを示している。均等度は、ある位置の豊富さを形作る種々のアミノ酸の相対存在度の尺度である。シンプソン指数は、豊富さと均等度の両方を考慮に入れるので、それが、本発明により保存度を定量化する好ましい方法である。特に、非常に保存された位置での低い頻度の残基は、潜在的に問題があるものと見なされるため、突然変異のために選択されうる。
【0077】
シンプソン指数のための式は、D=Σni(ni−1)/N(N−1)であり、その際、Nは、調査における(例えばデータベースにおける)配列の全数であり、かつnは、分析される位置での各アミノ酸残基の頻度である。データベースにおけるアミノ酸事象(i)の頻度は、該データベースで生ずるアミノ酸の回数(ni)である。回数niそれ自身は、相対頻度で示される。つまり、それらは事象の全数によって正規化される。最大多様度が生ずる場合に、S.I.値はゼロであり、かつ最小多様度が生ずる場合に、S.I.値は1である。このように、S.I.範囲は0〜1であり、多様度と指数値との間は逆数の関係である。
【0078】
データベースの配列内のフレームワークのアミノ酸位置の分析のための多重の工程をまとめたフローチャートは、図2に更に詳細に記載される。
【0079】
従って、前記方法の好ましい一実施態様においては、データベースの抗体のVHもしくはVLのアミノ酸配列内の相応の位置には、シンプソンの指数を使用して保存度が割り当てられる。その相応の位置のS.I.値は、その位置の保存の指標として使用されうる。
【0080】
他の実施態様において、密接に関連した抗体配列の信頼性のあるアラインメント(すなわち、タンパク質構造の類似性が考慮される配列アラインメント)が、本発明において、調べられた位置でのアミノ酸の相対存在度と保存度との行列の生成のために使用される。これらの行列は、抗体−抗体データベース比較での使用のために設計される。それぞれの残基の観察された頻度が計算され、期待された頻度(それは各位置についてのデータセットにおける各残基の頻度である)と比較される。
【0081】
所定のscFv抗体の記載された方法による分析は、所定のscFv抗体におけるある特定の位置での生物学的に許容される突然変異及び普通でない残基についての情報を提供し、かつこのフレームワーク内での潜在的な弱点の予測を可能にする。S.I.値と相対頻度を基準として使用して、アミノ酸頻度データのセットに"最良に"当てはまるアミノ酸置換のエンジニアリングには、定型作業を使用することができる。
【0082】
前記の配列に基づく分析は、scFvのVH領域か、scFvのVL領域か、又はその両方に適用することができる。このように、一実施態様においては、scFvのVHのアミノ酸配列は、データベースに入力され、そして該データベースの抗体のVHのアミノ酸配列とアラインメントされる。もう一つの実施態様においては、scFvのVLのアミノ酸配列は、データベースに入力され、そして該データベースの抗体のVLのアミノ酸配列とアラインメントされる。更にもう一つの実施態様においては、scFvのVH及びVLのアミノ酸配列は、データベースに入力され、そして該データベースの抗体のVH及びVLのアミノ酸配列とアラインメントされる。ある配列とデータベースにおける他の配列のコレクションとをアラインメントさせるためのアルゴリズムは、当該技術分野では十分に確立されている。それらの配列は、配列間で最高のパーセントの同一性もしくは類似性が達成されるようにアラインメントされる。
【0083】
本発明の方法は、scFv配列内の関連の1つのアミノ酸位置を分析するために使用することができるか、又はより好ましくは、関連の多重のアミノ酸位置を分析するために使用することができる。このように、前記方法の工程b)では、scFvのVHもしくはVLのアミノ酸配列内の多重のアミノ酸位置を、データベースの抗体のVHもしくはVLのアミノ酸配列内の相応の位置と比較することができる。分析するのに好ましい位置は、scFvのVH及び/又はVLの配列内のフレームワーク位置である(例えば各VH及びVLのフレームワーク位置を分析することができる)。加えてあるいは択一的に、scFvの1もしくはそれより多くのCDR内の1もしくはそれより多くの位置を分析することができる(しかし、それはCDRに関するアミノ酸位置を突然変異させるのに好ましくないことがある。それというのも、CDR内の突然変異は、フレームワーク領域内の突然変異よりも恐らく抗原結合活性に影響するからである)。なおも更に、本発明の方法は、scFvのVH、VLもしくはVH及びVLのアミノ酸配列内の各アミノ酸位置の分析を可能にする。
【0084】
本発明の方法では、関連のscFvの配列を、多様な異なる種類の抗体の配列データベースの1もしくはそれより多くの中の配列と比較することができる。例えば、一実施態様においては、データベースの抗体のVH、VLもしくはVH及びVLのアミノ酸配列は、生殖細胞系の抗体のVH、VLもしくはVH及びVLのアミノ酸配列である。もう一つの実施態様においては、データベースの抗体のVH、VLもしくはVH及びVLのアミノ酸配列は、再配置され親和性成熟した抗体のVH、VLもしくはVH及びVLのアミノ酸配列である。更にもう一つの好ましい実施態様においては、データベースの抗体のVH、VLもしくはVH及びVLのアミノ酸配列は、scFv安定性もしくはscFv可溶性などの少なくとも1種の所望の機能特性を有するように選択されたscFv抗体のVH、VLもしくはVH及びVLのアミノ酸配列である(更に以下で議論される)。
【0085】
抗体配列情報は、生殖細胞系の配列の配列アラインメントから、あるいは天然に存在する生殖細胞系の配列から得ること、収集すること、及び/又は生成することができる。それらの配列のソースは、制限されないが、以下の1もしくはそれより多くのデータベースを含むことができる:
・ Kabatデータベース(.immuno.bme.nwu.Edu(2007年10月現在);Johnson&Wu(2001年)Nucleic Acids Res.29:205−206;Johnson&Wu(2000年)Nucleic Acids Res.28:214−218)。2000年からの生データは、米国のFTPによって入手でき、かつ英国にミラーリングされている。
【0086】
・ Kabatmanは、利用者に配列の普通でない特徴についてKabat配列を検索することを可能にし、かつ利用者に特定の抗体配列中のCDRに関するカノニカルな割り当ての発見を可能にするデータベースを含む。
【0087】
・ AAAAAウェブサイト(www.bioc.unizh.ch/antibody(2007年10月現在))、Annemarie Honeggerによって作製された抗体のページであり、抗体についての配列情報と構造データを提供している。
【0088】
・ ABG: 抗体の3D構造のディレクトリ − Antibody Group(ABG)によって作製されたディレクトリであり、それは利用者にタンパク質データバンク(PDB)に収集された抗体構造へのアクセスを可能にする。該ディレクトリにおいて、各PDBエントリは、全情報を回復容易にするためにオリジナルのソースへとハイパーリンクを有している。
【0089】
・ ABG: マウスのVH及びVKの生殖細胞系セグメントの生殖細胞系の遺伝子ディレクトリ、それはメキシコ自治大学生物工学研究所UNAM(メキシコ国立大学)の抗体グループのウェブページの一部である。
【0090】
・ IMGT(登録商標)、国際ImMunoGeneTics情報システム(登録商標)(Marie−Paule Lefranc(モンペリエ第二大学、CNRS)によって1989年に作製)IMGTは、ヒト及び他の脊椎動物種に関する免疫グロブリン、T細胞受容体及び免疫系の関連タンパク質に特化した統合知識リソースである。IMGTは、配列データベース(IMGT/LIGM−DB、全て注釈付の配列についての翻訳を有するヒト及び他の脊椎動物由来のIG及びTRの包括的データベース、IMGT/MHC−DB、IMGT/PRIMER−DB)、ゲノムデータベース(IMGT/GENE−DB)、構造データベース(IMGT/3D構造−DB)、ウェブリソース(IMGTレパートリ)(IMGT、国際ImMunoGeneTics情報システム(登録商標);imgt.cines.fr(2007年10月現在);Lefranc他(1999年)Nucleic Acids Res.27:209−212;Ruiz他(2000年)Nucleic Acids Res.28:219−221;Lefranc他(2001年)Nucleic Acids Res.29:207−209;Lefranc他(2003年)Nucleic Acids Res.31:307−310)からなる。
【0091】
・ V BASE − Genbank及びEMBLデータライブラリの最新リリース中の配列を含む千種類の公表された配列から収集された全てのヒト生殖細胞系可変領域配列の包括的ディレクトリ。
【0092】
好ましい一実施態様においては、抗体配列情報は、還元性環境における高められた安定性及び可溶性に関して選択された定義されたフレームワークを有するscFvライブラリーから得られる。より好ましくは、還元性環境における高められた安定性及び可溶性を有するscFvフレームワークの細胞内選択を可能にする酵母クオリティー・コントロール(QC)−システム(例えばPCT出願WO2001/48017号;米国出願番号2001/0024831号及びUS2003/0096306号;米国特許第7,258,985号及び第7,258,986号)が記載されている。このシステムにおいて、scFvライブラリーは、特定の公知の抗原を発現できる宿主細胞中に形質転換され、抗原−scFv相互作用の存在でのみ生存する。形質転換された宿主細胞は、抗原とscFvの発現に適していて、抗原−scFv相互作用の存在でのみ細胞の生存が可能な条件下で培養される。このように、生存している細胞で発現され、かつ還元性環境において安定で可溶性の定義されたフレームワークを有するscFvを単離することができる。従って、QC−システムは、大きなscFvライブラリーのスクリーニングをして、それにより還元性環境中で安定で可溶性のフレームワークを有するこれらの好ましいscFvを単離するために使用することができ、かつこれらの選択されたscFvの配列は、scFv配列データベース中に収集することができる。斯かるscFvデータベースは、次いで、関連の他のscFv配列との本発明の方法を使用した比較のために使用することができる。QC−システムを使用して事前に選択され定義された好ましいscFvフレームワーク配列は、更に詳細に、PCT出願WO2003/097697号及び米国出願第20060035320号に記載されている。
【0093】
本来のQC−システムの別形は、当該技術分野で公知である。図3に図解される一つの例示的実施態様において、scFvライブラリーは、Gal4酵母転写因子の活性化ドメイン(AD)に融合され、それはまたいわゆるGal11pタンパク質(11p)の一部に融合されている。そのscFv−AD−Gal11p融合構築物は、次いで、宿主細胞中に形質転換され、それは、Gal4の最初の100個のアミノ酸を発現し、こうしてGal4 DNA結合ドメイン(DBD;Gal4(1−100))を含む。Gal11pは、Gal4(1−100)に直接的に結合することが知られる点突然変異である(Barberis他.Cell,81:359(1995))。形質転換された宿主細胞は、scFv融合タンパク質の発現に適しており、かつscFv融合タンパク質がGal4(1−100)と相互作用するのに十分に安定で可溶性であり、それによりDBDに結合されたADを含む機能的転写因子を形成する(図3A)場合にのみ細胞の生存が可能である条件下で培養される。このように、生存している細胞で発現され、かつ還元性環境において安定で可溶性の定義されたフレームワークを有するscFvを単離することができる。この例示的なQCシステムの更なる説明は、Auf der Mauer他のMethods,34:215−224(2004)に記載されている。
【0094】
もう一つの例示的な実施態様において、本発明の方法で使用されるQCシステムを、図4に示す。このバージョンのQCシステムでは、scFvもしくはscFvライブラリーが、機能的転写因子に直接的に融合され、そして選択可能なマーカーを含む酵母菌株で発現される。その選択可能なマーカーは、機能的なscFv−転写因子融合物の存在下で活性化されるだけである。それは、該構築物が全体として安定かつ可溶性である必要があることを意味する(図4A)。scFvが不安定である状況では、それは凝集物を形成し、場合により分解され、それによりそこに融合された転写因子の分解も引き起こされることで、選択可能なマーカーの発現をもはや活性化できなくなる(図4Bを参照)。
【0095】
本発明の方法では、関連のscFvの配列を、抗体データベース内の全ての配列と比較することができるか、又は択一的に、データベース中の配列の選択された部分のみを比較目的に使用することができるに過ぎない。すなわち、該データベースは、関連のscFvとの高い割合の類似性もしくは同一性を有するこれらの配列のみに限定又は制約することができる。このように、本発明の方法の一実施態様においては、該データベースは、scFv抗体のVH、VLもしくはVH及びVLのアミノ酸配列と高い類似性を有するこれらの抗体のVH、VLもしくはVH及びVLのアミノ酸配列のみが含まれる制約されたデータベースである。
【0096】
関連のscFvを該データベースに入力して、該データベース内の抗体の配列と比較されると、配列情報が解析されて、所定の位置のアミノ酸の頻度と変動性についての情報が提供され、そして潜在的に問題のあるアミノ酸位置、特にscFvのフレームワーク内の潜在的に問題のあるアミノ酸位置が予測される。斯かる情報は、また、scFvの特性を改善する突然変異の設計にも使用できる。例えば、抗体可溶性は、溶媒曝露される疎水性残基を、この位置にしばしば存在する親水性残基に置き換えることによって改善できる。
【0097】
本発明の方法では、データベースの抗体の配列内の特定の位置で"保存"されうるアミノ酸残基の多くの考えられる種類がある。例えば、1つの特定のアミノ酸残基は、その位置で非常に高い頻度で見出されることがあり、それは、前記の特定のアミノ酸残基がその特定の位置で好ましいことを示している。従って、該方法の一実施態様においては、工程c)で、データベースの抗体のVHもしくはVLのアミノ酸配列内の相応の位置で保存されるアミノ酸残基は、該データベースの抗体のVHもしくはVLのアミノ酸配列内のその位置に最も頻度の高いアミノ酸残基である。他の実施態様においては、その位置は、特定の種類もしくはクラスのアミノ酸残基で"保存"されうる(すなわち、その位置は、単独の特定のアミノ酸残基のみによって優先的に占められずに、むしろ、それぞれ同じ種類もしくはクラスの残基である幾つかの異なるアミノ酸残基によって優先的に占められる。例えば、工程c)で、データベースの抗体のVHもしくはVLのアミノ酸配列内の相応の位置は、(i)疎水性アミノ酸残基、(ii)親水性アミノ酸残基、(iii)水素結合を形成できるアミノ酸残基又は(iv)β−シートを形成する性向を有するアミノ酸残基で保存されうる。
【0098】
該方法の工程d)では、scFvのVHもしくはVLのアミノ酸配列内のアミノ酸位置は、該アミノ酸位置が、データベースの抗体のVHもしくはVLのアミノ酸配列内の相応の位置で保存されていないアミノ酸残基によって占められている場合に、突然変異のためのアミノ酸位置として割り出される。あるアミノ酸位置を、"保存されていない"アミノ酸残基によって占められているので、潜在的に問題があるとして割り出す状況は多数考えられる。例えば、データベース内の相応のアミノ酸位置が疎水性残基で保存され、かつscFv内の位置が親水性残基によって占められている場合に、この位置は、scFvにおいては潜在的に問題となることがあり、その位置は突然変異のために選択することができる。同様に、データベース内の相応のアミノ酸位置が親水性残基で保存され、かつscFv内の位置が疎水性残基によって占められている場合に、この位置は、scFvにおいては潜在的に問題となることがあり、その位置は突然変異のために選択することができる。このように、本願に開示される方法の好ましい一実施態様においては、疎水性アミノ酸残基は、親水性残基によって置換され、又はその逆もある。更に他の場合には、データベース内の相応のアミノ酸位置が水素結合を形成できるアミノ酸残基又はβシートを形成する性向を有するアミノ酸残基で保存され、かつscFv内の位置が、それぞれ水素結合を形成できないアミノ酸残基又はβシートを形成する性向を有さないアミノ酸残基によって占められている場合に、この位置は、scFvにおいては潜在的に問題となることがあり、その位置は突然変異のために選択することができる。従って、本発明の方法のもう一つの好ましい実施態様においては、水素結合を形成しうるアミノ酸残基は、β−シートを形成する性向を有するアミノ酸残基によって置換され、又はその逆もある。
【0099】
好ましい一実施態様においては、本発明で記載される方法は、単独で又は組み合わせて使用することで、抗体の単鎖フラグメントの安定性及び/又は可溶性を改善するためのアミノ酸置換の組み合わせリストを作製することができる。
【0100】
共分散分析
本発明は、また、データベース内の抗体の配列と比較した場合の、scFvの配列内での共分散を分析するための方法に関する。共変する残基は、例えば(i)フレームワーク領域(FR)中の残基及びCDR中の残基;(ii)あるCDR中の残基及び別のCDR中の残基;(iii)あるFR中の残基及び別のFR中の残基;又は(iv)VH中の残基及びVL中の残基であってよい。抗体の三次構造で互いに相互作用する残基は、好ましいアミノ酸残基が、共変ペアの両方の位置で保存されうるように共変することができ、一方の残基が変化したら他方の残基も抗体構造の位置のために同様に変化せねばならない。一組のアミノ酸配列における共分散分析の実施方法は当業者に公知である。例えば、Choulier,L他(2000年)Protein 41:475−484は、ヒト及びマウスの生殖細胞系のVL及びVHの配列アラインメントに共分散分析を適用することを記載している。
【0101】
共分散分析は、保存されたアミノ酸位置を分析するための前記方法(前記方法中の工程a)〜d))と組み合わせることができ、こうして、該方法は更に、以下の工程:
e)データベースの抗体のVHもしくはVLのアミノ酸配列に対して共分散分析を行って、アミノ酸位置の共変ペアを割り出す工程;
f)アミノ酸位置の共変ペアと、scFvのVHもしくはVLのアミノ酸配列内の相応の位置とを比較する工程;
g)前記のscFvのVHもしくはVLのアミノ酸配列内の相応の位置が、データベースの抗体のVHもしくはVLのアミノ酸配列内のアミノ酸位置の共変ペアで保存されるアミノ酸残基によって占められているかどうかを決定する工程;及び
h)前記のscFvのVHもしくはVLのアミノ酸配列内の相応の位置の一方もしくは両方を、scFv内の相応の位置の一方もしくは両方が、データベースの抗体のVHもしくはVLのアミノ酸配列内のアミノ酸位置の共変ペアで保存されていないアミノ酸残基によって占められている場合に、突然変異のためのアミノ酸位置として割り出す工程
を含む。
【0102】
加えて又は選択的に、共分散分析は、それ自身で実施でき、こうして本発明は、以下の工程:
a)データベースの抗体のVHもしくはVLのアミノ酸配列に対して共分散分析を行って、アミノ酸位置の共変ペアを割り出す工程;
b)アミノ酸位置の共変ペアと、scFvのVHもしくはVLのアミノ酸配列内の相応の位置とを比較する工程;
c)前記のscFvのVHもしくはVLのアミノ酸配列内の相応の位置が、データベースの抗体のVHもしくはVLのアミノ酸配列内のアミノ酸位置の共変ペアで保存されるアミノ酸残基によって占められているかどうかを決定する工程;及び
d)前記のscFvのVHもしくはVLのアミノ酸配列内の相応の位置の一方もしくは両方を、scFv内の相応の位置の一方もしくは両方が、データベースの抗体のVHもしくはVLのアミノ酸配列内のアミノ酸位置の共変ペアで保存されていないアミノ酸残基によって占められている場合に、突然変異のためのアミノ酸位置として割り出す工程
を含む方法を提供する。
【0103】
本発明の共分散分析方法を使用して、1つの共変ペア又は1つより多くの共変ペアを分析することができる。このように、該方法の一実施態様においては、アミノ酸位置の複数の共変ペアがデータベースの抗体のVH及び/又はVLのアミノ酸配列内で割り出され、それは、scFvのVH及び/又はVLのアミノ酸配列内で相応の位置と比較される。
【0104】
該方法は、更に、データベースの抗体のVHもしくはVLのアミノ酸配列内のアミノ酸位置の共変ペアで保存されていないアミノ酸残基によって占められているscFv内の一方もしくは両方の相応の位置を突然変異することを含みうる。一実施態様において、アミノ酸位置の共変ペアで保存されていないアミノ酸残基によって占められているscFv内の相応の位置の一方は、アミノ酸位置の共変ペアで最も頻出するアミノ酸残基で置換される。もう一つの実施態様において、アミノ酸位置の共変ペアで保存されていないアミノ酸残基によって占められているscFv内の相応の位置の両方は、アミノ酸位置の共変ペアで最も頻出するアミノ酸残基で置換される。
【0105】
分子モデリング
潜在的に問題のある残基についてscFvを分析するための本発明の配列に基づく方法は、抗体の構造/機能の関連性を分析するための当業者に公知の他の方法と組み合わせることができる。例えば、好ましい一実施態様においては、本発明の配列に基づく分析方法は、付加的な潜在的に問題のある残基を割り出すために分子モデリングと組み合わされる。scFvを含む抗体構造のコンピュータモデリングのための方法とソフトウェアは、当該技術分野で確立されており、かつ本発明の配列に基づく方法と組み合わせることができる。このように、もう一つの実施態様においては、工程a)〜d)で示される残基の配列に基づく方法は、更に、以下の工程:
e)scFvのVH、VLもしくはVH及びVLのアミノ酸配列を分子モデリングに供する工程;及び
f)突然変異のための、scFvのVH、VLもしくはVH及びVLのアミノ酸配列内の少なくとも1つの付加的なアミノ酸位置を割り出す工程
を含む。該方法は、更に、分子モデリングによって突然変異のために割り出されたscFvのVH、VLもしくはVH及びVLのアミノ酸配列内の少なくとも1つの付加的なアミノ酸位置を突然変異することを含む。
【0106】
"機能的コンセンサス"対"従来型コンセンサス"分析
特に好ましい一実施態様において、1もしくはそれより多くのフレームワーク位置での変動性の度合いは、抗体の配列の第一のデータベース(例えば生殖細胞系データベース、例えばVbase及び/又はIMGT)もしくは成熟抗体データベース(例えばKBD)と、1もしくはそれより多くの所望の特性を有するものとして選択されたscFvの第二のデータベース、例えば酵母でのQCスクリーニングにより選択されたscFvのデータベース、すなわちQCデータベースとの間で比較される。図5で図説されるように、変動性値(例えばシンプソンの指数値)を、第一の(例えば生殖細胞系)データベース内のフレームワーク位置に割り当てることができ、それは図5では"G"値と呼ばれ、かつ変動性値(例えばシンプソンの指数値)を、第二のデータベース(例えばQCデータベース)内の相応のフレームワーク位置に割り当てることができ、それは図5では"Q"値として呼ばれる。G値が特定の位置でQ値よりも大きい場合に(すなわち、生殖細胞系配列においてその位置で選択されたscFvの配列におけるよりも変動性が高い場合に)、これは、その位置には制限された数の安定なscFvフレームワークアミノ酸残基が存在することを示しており、その安定なscFvフレームワークアミノ酸残基は、任意のCDRで使用するために好適なことがある。選択的に、G値が特定の位置でQ値よりも小さい場合に(すなわち、選択されたscFvの配列においてその位置で生殖細胞系配列におけるよりも変動性が高い場合に)、これは、その特定の位置がscFvにおいて変動性の許容性が高いことを示し、こうしてその位置は、アミノ酸置換によってscFvの安定性及び/又は可溶性が最適化されうる位置を表すことがある。表Aは、アミノ酸位置の番号と、高度に変動性のフレームワーク残基(hvFR)であってGがQより大きいかGがQより小さいかのいずれかである残基のまとめ表である。表Aに示されるように、アミノ酸の全番号(Aa#)における変動性と、高度に変動性のフレームワーク残基(hvFR)における変動性は、生殖細胞系とQC−FWとの間で大きく高まった。表Aの作製のために分析された配列は、QCアッセイ(WO03097697号に記載される;ここでは"Q"として呼称される)を使用して選択された約90のscFvの配列と、2007年10月にhttp://www.bioc.unizh.ch/antibody/Sequences/index.htmlから検索された全ての生殖細胞系のVH及びVLの配列であった。表Aの分析のためには、VH及びVLのドメインは、そのサブタイプによって群分けしなかった。
【0107】
表A:まとめ表
【表1】
【0108】
上記を考慮すると、更にもう一つの態様においては、本発明は、単鎖抗体(scFv)であって該scFvがVH及びVLのアミノ酸配列を有するものにおける突然変異のために1もしくはそれより多くのフレームワークアミノ酸位置を割り出す方法において:
a)VH、VLもしくはVH及びVLのアミノ酸配列(例えば生殖細胞系及び/又は成熟の抗体の配列)の第一のデータベースを提供すること;
b)少なくとも1つの所望の機能的特性を有するものとして選択されたscFv抗体のVH、VLもしくはVH及びVLのアミノ酸配列の第二のデータベースを提供すること;
c)第一のデータベースの各フレームワーク位置と第二のデータベースの各フレームワーク位置でのアミノ酸変動性を決定すること;
d)アミノ酸の変動性の度合いが第一のデータベースと第二のデータベースとの間で異なる1もしくはそれより多くのフレームワーク位置を割り出すことで、単鎖抗体(scFv)における突然変異のための1もしくはそれより多くのフレームワークアミノ酸位置を割り出すこと
を含む方法を提供する。
【0109】
好ましくは、各フレームワーク位置でのアミノ酸変動性は、シンプソンの指数を使用した保存の度合いの割り当てによって決定される。一実施態様においては、1もしくはそれより多くのフレームワークアミノ酸位置は、第一のデータベースと比較した場合により低いシンプソンの指数値を第二の(scFv)データベース中で有する1もしくはそれより多くのフレームワークアミノ酸位置に基づいて突然変異のために割り出される。もう一つの実施態様においては、1もしくはそれより多くのフレームワークアミノ酸位置は、第一のデータベース(例えば生殖細胞系データベースもしくは成熟抗体データベース)と比較した場合により高いシンプソンの指数値を第二のデータベース中で有する1もしくはそれより多くのフレームワークアミノ酸位置に基づいて突然変異のために割り出される。
【0110】
3種のヒトのVHファミリーと3種のヒトのVLファミリーについての、変動性分析及び突然変異のための残基の割り出しは、更に詳細に実施例2及び3で以下に記載する。
【0111】
濃縮/排除分析
もう一つの態様においては、本発明は、(例えば安定性及び/又は可溶性などの機能特性を改善するために)イムノバインダー内の関連のフレームワーク位置で好ましいアミノ酸残基置換を選択するための(又は選択的に、特定のアミノ酸置換を排除するための)方法を提供する。本発明の方法は、抗体配列の第一のデータベース(例えばVbase及び/又はIMGTなどの生殖細胞系データベースもしくは、より好ましくはKabatデータベース(KBD)などの成熟抗体データベース)における関連のフレームワーク位置でのアミノ酸残基の頻度と、1もしくはそれより多くの所望の特性を有するものとして選択されたscFvの第二のデータベース、例えば酵母におけるQCスクリーニングによって選択されたscFvのデータベース、すなわちQCデータベースにおける相応のアミノ酸位置でのアミノ酸残基の頻度とを比較する。
【0112】
所定の位置のアミノ酸残基を、コンセンサス配列のアミノ酸残基に対して突然変異させるために確立された方法に反して、驚くべきことに、"機能的コンセンサス"アプローチは、改善された所望の機能特性を有する抗体をもたらすことが判明した。これは、選択されたフレームワーク中で一定の変動性の度合いを本来示す高度に保存された位置が、無作為突然変異誘発に許容性であるべきであり、かつscFv形式の本来の残基より優れた代替アミノ酸を見出す確率の増大を表すという事実によることがある。更に、稀なアミノ酸についての顕著な優先性は、一定の残基に対する自然選択の指標である。これらの2つの統計的指針に基づき、重鎖と軽鎖の中の種々の残基を、浮動性位置(変動許容性)もしくは好ましい置換(普通でない残基)のいずれかとして選択できる。
【0113】
ある特定のアミノ酸残基の相対頻度が、第一のデータベース、すなわち生殖細胞系データベース及び/又は成熟抗体データベースに対して望ましい機能的特徴を有する配列を含む第二のデータベースにおいて増大する場合に、それぞれの残基は、所定の位置で、scFvの安定性及び/又は可溶性を改善するために好ましい残基であると見なされる。その反対に、ある特定のアミノ酸残基の相対頻度が、第二のデータベースにおいて第一のデータベースと比較して低下した場合に、そのそれぞれの残基を、その位置でのscFv形式の状況で好ましくないものと見なす。
【0114】
以下の実施例4に詳細に説明されるように、第一のデータベース(例えば成熟抗体配列のデータベース)からの抗体配列(例えばVHもしくはVL配列)は、それらのKabatファミリーサブタイプ(例えばVH1b、VH3など)により群分けされうる。各配列サブタイプ(すなわちサブファミリー)内で、各アミノ酸位置での各アミノ酸残基(例えばA、Vなど)の頻度は、そのサブタイプの全ての分析された配列のパーセンテージとして決定される。同じことが、第二のデータベース(すなわち、1もしくはそれより多くの所望の特性を有するものとして、例えばQCスクリーニングによって選択されたscFvのデータベース)の全ての配列について行われる。各サブタイプについて、特定の位置での各アミノ酸残基型について得られたパーセンテージ(相対頻度)は、第一のデータベースと第二のデータベースとの間で比較される。ある特定のアミノ酸残基の相対頻度が、第二のデータベース(例えばQCデータベース)において第一のデータベース(例えばKabatデータベース)に対して高められている場合に、これは、それぞれの残基が有利に選択され(すなわち"濃縮された残基")、該配列に好ましい特性を付与することを示している。反対に、該アミノ酸残基の相対頻度が第二のデータベースにおいて第一のデータベースに対して低下されている場合に、これは、それぞれの残基が有利ではない(すなわち"排除された残基")ことを示している。従って、濃縮された残基は、イムノバインダーの機能特性(例えば安定性及び/又は可溶性)を改善するために好ましい残基である一方で、排除された残基は、好ましくは回避される。
【0115】
前記を考慮して、一実施態様においては、本発明は、イムノバインダーの特定の位置における置換のためのアミノ酸残基を割り出す方法であって:
a)群分けされたVH及び/又はVLのアミノ酸配列(例えばKabatファミリーサブタイプにより群分けされた生殖細胞系及び/又は成熟抗体の配列)の第一のデータベースを提供すること;
b)少なくとも1つの所望の機能特性を有するものとして(例えばQCアッセイにより)選択された群分けされたscFv抗体のVHもしくはVLのアミノ酸配列の第二のデータベースを提供すること;
c)第一のデータベースのフレームワーク位置と第二のデータベースの相応のフレームワーク位置とでのアミノ酸残基についてのアミノ酸頻度を決定すること;
d)該アミノ酸を、そのアミノ酸残基が第一のデータベースに対してより高い頻度で第二のデータベースに出現する場合に(すなわち、濃縮された残基)、イムノバインダーの相応のアミノ酸位置での置換のために好ましいアミノ酸残基として割り出すこと
を含む方法を提供する。
【0116】
第二の(scFv)データベース(例えばQCデータベース)におけるアミノ酸残基の濃縮は、定量することができる。例えば、第二のデータベース内の残基の相対頻度(RF2)を第一のデータベース内の残基の相対頻度(RF1)との間の比率を測定することができる。この比率(RF2:RF1)を、"濃縮係数"(EF)と呼ぶことがある。従って、ある特定の実施態様においては、工程(d)でのアミノ酸残基は、第一のデータベースと第二のデータベースとの間のアミノ酸残基の相対頻度の比率(ここでは、"濃縮係数")が少なくとも1(例えば1〜10)である場合に割り出される。好ましい一実施態様においては、濃縮係数は、1.0より大きいもしくは約1.0(例えば、1.0、1.1、1.2、1.3、1.4もしくは1.5)である。なおももう一つの好ましい実施態様においては、濃縮係数は、約4.0〜約6.0である(例えば、4.0、4.1、4.2、4.3、4.4、4.5、4.6、4.7、4.8、4.9、5.0、5.1、5.2、5.3、5.4、5.5、5.6、5.7、5.8、5.9もしくは6.0)。もう一つの実施態様においては、濃縮係数は、約6.0〜約8.0である(例えば、6.0、6.1、6.2、6.3、6.4、6.5、6.6、6.7、6.8、6.9、7.0、7.1、7.3、7.4、7.5、7.6、7.7、7.8、7.9もしくは8.0)。他の実施態様においては、濃縮係数は、10より大きい(例えば、10、100、1000、104、105、106、107、108、109もしくはそれより大きい)。ある一定の実施態様においては、無限大の濃縮係数が達成されることがある。
【0117】
もう一つの実施態様においては、本発明は、イムノバインダーから特定の位置で排除されるべきアミノ酸残基を割り出す方法であって:
a)群分けされたVH及び/又はVLのアミノ酸配列(例えばKabatファミリーサブタイプにより群分けされた生殖細胞系及び/又は成熟抗体の配列)の第一のデータベースを提供すること;
b)少なくとも1つの所望の機能特性を有するものとして(例えばQCアッセイにより)選択された群分けされたscFv抗体のVHもしくはVLのアミノ酸配列の第二のデータベースを提供すること;
c)第一のデータベースのフレームワーク位置と第二のデータベースの相応のフレームワーク位置とでのアミノ酸残基についてのアミノ酸頻度を決定すること;
d)該アミノ酸を、そのアミノ酸残基が第一のデータベースに対してより低い頻度で第二のデータベースに出現する場合に、イムノバインダーの相応のアミノ酸位置での置換のために好ましくないアミノ酸残基として割り出すこと(その際、前記のアミノ酸残基の種類は好ましくないアミノ酸残基(すなわち排除された残基)である)
を含む方法を提供する。
【0118】
ある特定の好ましい実施態様においては、前記の工程d)における好ましくないアミノ酸残基は、濃縮係数(EF)が1未満である場合に割り出される。更に、本発明は、VH及び/又はVLのアミノ酸配列を有するイムノバインダーを改善する方法であって:
a)突然変異のための1もしくはそれより多くのフレームワークアミノ酸位置を割り出す工程;
b)工程a)で割り出されたそれぞれの特定のフレームワーク位置について、置換のために好ましいアミノ酸残基を割り出す工程;及び
c)それぞれの特定のフレームワーク位置のアミノ酸残基を、工程b)で割り出された好ましいアミノ酸残基へと突然変異させる工程
を含む方法を提供する。好ましくは、工程a)は、所定のフレームワーク位置での変動性の度合いを、本願に開示される方法に従って決定することによって、すなわち保存の度合いをシンプソンの指数を使用してそれぞれのフレームワーク位置に割り当てることによって実施される。置換に適したアミノ酸は、好ましくは、前記に開示された方法に従って割り出される。それは、少なくとも1の濃縮係数、より好ましくは少なくとも4〜6の濃縮係数を有する。イムノバインダーの相応のアミノ酸残基を次いで、当該技術分野で公知の分子生物学的方法を使用して好ましいアミノ酸残基に突然変異させる。該イムノバインダーは、好ましくはscFv抗体、全長免疫グロブリン、Fabフラグメント、Dabもしくはナノボディーである。
【0119】
scFvの突然変異
本発明の方法において、scFv内の1もしくはそれより多くのアミノ酸位置がscFvの機能特性に関して潜在的に問題があるものと割り出された場合に、該方法は、更に、これらの1もしくはそれより多くのアミノ酸位置を、scFvのVHもしくはVLのアミノ酸配列内で突然変異することを含むことができる。例えば、突然変異について割り出されたアミノ酸位置は、データベースの抗体のVHもしくはVL内の相応の位置で保存もしくは濃縮されているアミノ酸残基で置換することができる。
【0120】
突然変異について割り出されたアミノ酸位置は、当該技術分野で十分に確立された幾つかの考えられる突然変異誘発法の1つを使用して突然変異することができる。例えば、部位特異的突然変異誘発を用いて、関連のアミノ酸位置での特定のアミノ酸置換をすることができる。また、部位特異的突然変異誘発を用いて、限られたレパートリーのアミノ酸置換が関連のアミノ酸位置に導入された突然変異されたscFv一組を作製することもできる。
【0121】
加えて又は代わりに、突然変異について割り出されたアミノ酸位置を無作為なもしくは指向的な突然変異誘発によって突然変異させて、突然変異されたscFvのライブラリーを作製し、引き続き前記の突然変異されたscFvのライブラリーをスクリーニングし、そしてscFvを選択する、好ましくは少なくとも1つの改善された機能特性を有するscFvを選択することができる。好ましい一実施態様においては、該ライブラリーは、還元性の環境において高められた安定性及び/又は可溶性を有するscFvフレームワークの選択を可能にする、酵母クオリティー・コントロールシステム(QCシステム)(前記にさらに詳細に記載される)を使用してスクリーニングされる。
【0122】
scFvライブラリーをスクリーニングするための他の好適な選択技術は、制限されないが、ファージディスプレイ、リボソームディスプレイ及び酵母ディスプレイ(Jung他(1999年)J.Mol.Biol.294:163−180;Wu他(1999年)J.Mol.Biol.294:151−162;Schier他(1996年)J.Mol.Biol.255:28−43)などのディスプレイ技術を含む、当該技術分野で記載されている。
【0123】
一実施態様においては、突然変異について割り出されたアミノ酸位置は、データベースの抗体のVHもしくはVLのアミノ酸配列内の相応の位置で最も高く濃縮されているアミノ酸残基で置換されている。もう一つの実施態様において、データベースの抗体のVHもしくはVLのアミノ酸配列内の相応の位置は、疎水性アミノ酸残基で保存され、かつscFv内で突然変異のために割り出されたアミノ酸位置は、データベースの抗体のVHもしくはVLのアミノ酸配列内の相応の位置で最も高く濃縮されている疎水性アミノ酸残基で置換されている。なおももう一つの実施態様において、データベースの抗体のVHもしくはVLのアミノ酸配列内の相応の位置は、親水性アミノ酸残基で保存され、かつscFv内で突然変異のために割り出されたアミノ酸位置は、データベースの抗体のVHもしくはVLのアミノ酸配列内の相応の位置で最も高く濃縮されている親水性アミノ酸残基で置換されている。なおももう一つの実施態様において、データベースの抗体のVHもしくはVLのアミノ酸配列内の相応の位置は、水素結合を形成可能なアミノ酸残基で保存され、かつscFv内で突然変異のために割り出されたアミノ酸位置は、データベースの抗体のVHもしくはVLのアミノ酸配列内の相応の位置で最も高く濃縮されている水素結合を形成可能なアミノ酸残基で置換されている。更にもう一つの実施態様において、データベースの抗体のVHもしくはVLのアミノ酸配列内の相応の位置は、β−シートを形成する性向を有するアミノ酸残基で保存され、かつscFv内で突然変異のために割り出されたアミノ酸位置は、データベースの抗体のVHもしくはVLのアミノ酸配列内の相応の位置で最も高く濃縮されているβ−シートを形成する性向を有するアミノ酸残基で置換されている。
【0124】
一実施態様においては、全体の自由エネルギーを最小化する最良の置換は、1もしくはそれより多くの関連のアミノ酸位置でなされるべき突然変異として選択される。全体の自由エネルギーを最小化する最良の置換は、ボルツマンの法則を用いて決定できる。ボルツマンの法則のための式は、ΔΔGth=RTln(f親/fコンセンサス)である。
【0125】
潜在的に安定化する突然変異の役割は、更に、例えば局所的な及び非局所的な相互作用、カノニカル残基、インターフェース、曝露度及びβ−ターン性の調査によって決定できる。当該技術分野で知られる分子モデリング方法は、例えば、潜在的に安定化する突然変異の役割を更に調査するにあたり適用できる。また、1パネルの考えられる置換が考慮される場合に、分子モデリング方法を用いて、"最適な"アミノ酸置換を選択することができる。
【0126】
特定のアミノ酸位置に依存して、更なる分析を保証することができる。例えば、残基は、重鎖と軽鎖との間の相互作用に関連することがあり、又は塩橋もしくは水素結合により他の残基と相互作用することがある。これらの場合に、特定の分析が必要となることがある。本発明のもう一つの実施態様においては、安定性のための潜在的に問題のある残基は、共変ペア中のカウンターパートと適合性のあるものと変更することができる。選択的に、そのカウンターパートの残基を突然変異させて、問題があるものとして最初に割り出されたアミノ酸と適合させることができる。
【0127】
可溶性最適化
scFv抗体中の可溶性について潜在的に問題のある残基は、scFv中の溶媒曝露される疎水性アミノ酸を含むが、それは、全長抗体の場合には、可変ドメインと定常ドメインとの間のインターフェースで覆い隠されている。定常ドメインを欠くエンジニアリングされたscFvにおいては、可変ドメインと定常ドメインとの間の相互作用に関与する疎水性残基は、溶媒曝露されることとなる(例えばNieba他(1997年)Protein Eng.10:435−44を参照)。scFvの表面上のこれらの残基は、凝集を生ずるので、可溶性の問題を引き起こす傾向にある。
【0128】
scFv抗体で溶媒曝露される疎水性アミノ酸を交換することについて多くのストラテジーが記載されている。当業者によく知られているように、ある特定の位置での残基の改変は、安定性、可溶性及び親和性などの抗体の生物物理的特性に影響する。多くの場合に、これらの特性は相互関係を有する。それは、1つの単独アミノ酸の変化が、幾つかの前記の特性に影響しうることを意味する。従って、溶媒曝露される疎水性残基を非保存的に突然変異させることによって、安定性が低下し、かつ/又はその抗原に対する親和性が失われることがある。
【0129】
他のアプローチは、タンパク質ディスプレイ技術の徹底した使用及び/又はスクリーニングの労力によって可溶性の問題を解決することを意図している。しかし、斯かる方法は時間を費やすものであり、しばしば、可溶性タンパク質を得ることに失敗するか、又は抗体のより低い安定性又はその親和性の低下が生ずる。本発明においては、溶媒曝露される疎水性残基を、配列に基づく分析を用いて、より高い親水性を有する残基へと突然変異することを設計する方法が開示される。潜在的に問題のある残基は、特定の位置で最も頻出する親水性アミノ酸を選択することによって交換することができる。ある残基が、抗体中の任意の他の残基と相互作用することが判明したら、その潜在的に問題のある残基は、最も頻出する残基ではなく、共変ペアの第二のアミノ酸と適合しうるものへと突然変異させることができる。選択的に、共変ペアの第二のアミノ酸は、アミノ酸の組み合わせの復元のために突然変異させることもできる。更に、配列間の類似性のパーセンテージは、2つの相互関係を有するアミノ酸の最適な組み合わせを見出すのを補助するために考慮することができる。
【0130】
scFvの表面上の疎水性アミノ酸は、制限されないが、溶媒曝露、実験情報及び配列情報並びに分子モデリングを基礎とするアプローチを含む幾つかのアプローチを使用して割り出される。
【0131】
本発明の一実施態様においては、可溶性は、scFv抗体の表面上の曝露される疎水性残基と、データベース中のこれらの位置に存在する最も頻出する親水性残基とを交換することによって改善される。この根拠は、その頻出する残基が恐らく問題がないということによる。当業者に認められているように、保存的置換は、通常は、分子の脱安定化への影響は小さいが、一方で、非保存的置換は、scFvの機能的特性に有害なことがある。
【0132】
時として、抗体の表面上の疎水性残基は、重鎖と軽鎖との間の相互作用に関連することがあり、又は塩橋もしくは水素結合により他の残基と相互作用することがある。これらの場合に、特定の分析が必要となることがある。本発明のもう一つの実施態様においては、安定性について潜在的に問題のある残基は、最も頻出する残基へではなく、共変ペアと適合性のものへと突然変異できるか、又は第二の突然変異は、共変アミノ酸の組み合わせの復元のために実施することができる。
【0133】
付加的な方法は、溶媒曝露される疎水性位置での突然変異の設計に使用することができる。本発明のもう一つの実施態様においては、改変されるべきscFvに最も高い類似性を表す配列へのデータベースの制約を使用する方法が開示される(更に前記で議論した)。斯かる制約された参照データベースを適用することによって、該突然変異は、最適化されるべき抗体の特定の配列の点で最適であるように設計される。この状況で、選択された親水性残基は、多数の配列(すなわち、制約されないデータベース)と比較した場合に、実際は、それぞれの位置で十分に現れないことがある。
【0134】
安定性最適化
単鎖抗体フラグメントは、軽鎖可変ドメイン及び重鎖可変ドメインを共有結合で連結するペプチドリンカーを含む。斯かるリンカーは可変ドメインがばらばらになることを回避するのに効果的であり、それによりscFvはFvフラグメントより優れたものとなるが、scFvフラグメントは、依然として、Fabフラグメント又は全長抗体(その両者において、VH及びVLは、定常ドメインを介して間接的に結合されているにすぎない)と比較してよりアンフォールディング及び凝集の傾向にある。
【0135】
scFvにおけるもう一つの共通の問題は、分子間凝集をもたらすscFvの表面上の疎水性残基の曝露である。更に、時として、親和性成熟のプロセスの間に獲得される体細胞突然変異は、β−シートのコアに親水性残基を配置する。斯かる突然変異は、IgG形式であるいはFabフラグメントでさえも十分に許容できるが、scFvにおいては、これは明らかに脱安定化と結果としてのアンフォールディングの原因となる。
【0136】
scFv脱安定化の原因となる公知の要因には、scFv抗体の表面上にある溶媒曝露される疎水性残基、該タンパク質のコアに覆い隠された普通でない親水性残基、並びに重鎖と軽鎖との間の疎水性インターフェースに存在する親水性残基が含まれる。更に、コア内の非極性残基間でのファン・デル・ワールス充填相互作用は、タンパク質安定性に重要な役割を担うことは知られている(Monsellier E.及びBedouelle H.(2006年)J.Mol.Biol.362:580−93、Tan他(1998年)Biophys.J.75:1473−82;Woern A.及びPlueckthun A.(1998年)Biochemistry 37:13120−7)。
【0137】
このように、一実施態様においては、scFv抗体の安定性を高めるために、非常に保存された位置での普通でない及び/又は好ましくないアミノ酸が割り出され、そしてこれらの保存された位置でより一般的なアミノ酸へと突然変異される。斯かる普通でない及び/又は好ましくないアミノ酸には、(i)scFv抗体の表面上の溶媒曝露される疎水性残基;(ii)タンパク質中で覆い隠された普通でない親水性残基;(iii)重鎖と軽鎖との間の疎水性インターフェース中に存在する親水性残基;及び(iv)VH/VLインターフェースVH/VLを立体障害によって妨害する残基が含まれる。
【0138】
このように、本発明の一実施態様においては、安定性の増加は、その位置で出現の乏しいアミノ酸を、これらの位置で最も頻出するアミノ酸によって置換することによって達成できる。出現頻度は、一般に、生物学的許容性の指標を提供する。
【0139】
残基は、重鎖と軽鎖との間の相互作用に関連することがあり、又は塩橋、水素結合もしくはジスルフィド結合により他の残基と相互作用することがある。これらの場合に、特定の分析が必要となることがある。本発明のもう一つの実施態様においては、安定性のための潜在的に問題のある残基は、共変ペア中のカウンターパートと適合性のあるものと変更することができる。選択的に、そのカウンターパートの残基を突然変異させて、問題があるものとして最初に割り出されたアミノ酸と適合させることができる。
【0140】
付加的な方法を用いて、安定性の改善のために突然変異を設計することができる。本発明のもう一つの実施態様においては、改変されるべきscFvに最も高い類似性を表す配列へのデータベースの制約を使用する方法が開示される(更に前記で議論した)。斯かる制約された参照データベースを適用することによって、該突然変異は、最適化されるべき抗体の特定の配列の点で最適であるように設計される。該突然変異は、データベース配列の選択されたサブセットに存在する最も頻出するアミノ酸を使用する。この状況で、選択された残基は、多数の配列(すなわち、制約されないデータベース)と比較した場合に、実際は、それぞれの位置で十分に現れないことがある。
【0141】
scFv組成物及び製剤
本発明のもう一つの態様は、本発明の方法により製造されたscFv組成物に関する。このように、本発明は、エンジニアリングされたscFv組成物であって、関連の当初のscFvと比較して1もしくはそれより多くの突然変異が導入されている組成物を提供し、その際、前記突然変異は、1もしくはそれより多くの生物学的特性、例えば安定性もしくは可溶性に影響することが予測される位置、特に1もしくはそれより多くのフレームワーク位置に導入される。一実施態様においては、scFvは、1つの突然変異されたアミノ酸位置(例えば、1つのフレームワーク位置)を含むようにエンジニアリングされている。他の実施態様においては、scFvは、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つ、9つ、10つもしくは10つより多くの突然変異されたアミノ酸位置(例えば、フレームワーク位置)を含むようにエンジニアリングされている。
【0142】
本発明のもう一つの態様は、本発明のscFv組成物の医薬品製剤に関する。斯かる製剤は、一般に、scFv組成物と製剤学的に認容性の担体を含む。本願で使用される"製剤学的に認容性の担体"には、生理学的に適合可能な、いずれかの及びあらゆる溶剤、分散媒、コーティング、抗微生物剤及び抗菌剤、等張剤及び吸収遅延剤などが含まれる。好ましくは、担体は、例えば静脈内の、筋内の、皮下の、非経口の、脊髄の、表皮の投与(例えば、注射もしくは点滴による)又は局所(例えば目もしくは皮膚への)に適している。投与経路に応じて、scFvは、該化合物を、酸の作用と、該化合物を不活性化しうる他の中性条件から保護するための材料でコーティングされてよい。
【0143】
本発明の医薬化合物には、1もしくはそれより多くの製剤学的に認容性の塩が含まれうる。"製剤学的に認容性の塩"とは、親化合物の所望の生物学的活性を保ち、いかなる不所望な毒性学的作用を付与しない塩を指す(例えば、Berge,S.M.他(1977年)J.Pharm.Sci.66:1−19を参照)。斯かる塩の例には、酸付加塩及び塩基付加塩が含まれる。酸付加塩には、非毒性の無機酸、例えば塩化水素酸、硝酸、リン酸、硫酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、亜リン酸など、並びに非毒性の有機酸、例えば脂肪族のモノカルボン酸及びジカルボン酸、フェニル置換されたアルカン酸、ヒドロキシアルカン酸、芳香族酸、脂肪族及び芳香族のスルホン酸などから誘導される塩が含まれる。塩基付加塩には、アルカリ土類金属、例えばナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウムなど、並びに非毒性の有機アミン、例えばN,N′−ジベンジルエチレンジアミン、N−メチルグルカミン、クロロプロカイン、コリン、ジエタノールアミン、エチレンジアミン、プロカインなどから誘導される塩が含まれる。
【0144】
また、本発明の医薬組成物は、製剤学的に認容性の酸化防止剤を含んでよい。製剤学的に認容性の酸化防止剤の例には、(1)水溶性の酸化防止剤、例えばアスコルビン酸、システイン塩酸、重硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウムなど;(2)油溶性の酸化防止剤、例えばパルミチン酸アスコルビル、ブチル化ヒドロキシアニソール(BHA)、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)、レシチン、没食子酸プロピル、α−トコフェロールなど、並びに(3)金属キレート化剤、例えばクエン酸、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ソルビトール、酒石酸、リン酸などが含まれる。
【0145】
本発明の医薬組成物で使用できる好適な水性の及び非水性の担体の例には、水、エタノール、ポリオール(例えばグリセロール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールなど)、及びそれらの好適な混合物、植物油、例えばオリーブ油及び注入可能な有機エステル、例えばオレイン酸エチルが含まれる。適切な流動性は、レシチンなどのコーティング材料の使用によって、分散液の場合には必要な粒度の維持によって、かつ界面活性剤の使用によって維持することができる。
【0146】
また、これらの組成物は、助剤、例えば保存剤、湿潤剤、乳化剤及び分散剤を含有してもよい。微生物の存在の抑制は、滅菌手法(上記)によって、かつ様々な抗微生物剤及び抗菌剤、例えばパラベン、クロロブタノール、フェノールソルビン酸などを含むことによって保証することができる。また、等張剤、例えば糖類、塩化ナトリウムなどを該組成物に含ませることも望ましいことがある。更に、注入可能な医薬品形の延長された吸収は、モノステアリン酸アルミニウム及びゼラチンなどの吸収を遅延させる剤を含むことによってもたらすことができる。
【0147】
製剤学的に認容性の担体には、滅菌の水溶液もしくは水性分散液及び滅菌の注射可能な溶液もしくは分散液の即時調製物用の滅菌の粉末が含まれる。かかる媒体及び剤の製剤学的に有効な物質のための使用は、当該技術分野で公知である。任意の慣用の媒体もしくは剤が該有効化合物と不適合性である場合を除き、本発明の医薬組成物でのその使用が検討される。補助的な有効化合物を該組成物に導入することもできる。
【0148】
治療用組成物は、一般に、滅菌されており、かつ製造及び貯蔵の条件下で安定でなければならない。該組成物は、溶液、マイクロエマルジョン、リポソーム又は高い薬剤濃度に適した他の規則構造物として製剤化することができる。担体は、溶剤もしくは分散媒であって、例えば水、エタノール、ポリオール(例えばグリセロール、プロピレングリコール及び液状ポリエチレングリコールなど)を含有するもの、並びにそれらの好適な混合物であってよい。適切な流動性は、レシチンなどのコーティングの使用によって、分散液の場合には必要な粒度の維持によって、かつ界面活性剤の使用によって維持することができる。多くの場合に、等張剤、例えば糖類、ポリアルコール、例えばマンニトール、ソルビトールもしくは塩化ナトリウムが該組成物中に含まれることが好ましい。注射可能な組成物の延長された吸収は、該組成物中に、吸収を遅らせる剤、例えばモノステアリン酸塩及びゼラチンを含ませることによってもたらすことができる。
【0149】
滅菌の注射可能な溶液は、有効化合物を必要量で好適な溶剤中に前記列挙した成分1種もしくはその組み合わせと共に導入し、所望であれば、引き続き滅菌精密濾過を行うことによって製造することができる。一般に、分散液は、有効化合物を、基礎分散媒と前記列挙したものからの必要な他の成分とを含有する滅菌ビヒクル中に導入することによって製造される。滅菌の注射可能な溶液の製造のための滅菌粉末の場合には、好ましい製造方法は、真空乾燥及び凍結乾燥(凍結乾燥)であり、それにより事前に滅菌濾過された溶液から有効成分と任意の付加的な所望の成分との粉末が得られる。
【0150】
担体材料と組み合わせて単独の剤形を生成できる有効成分の量は、処置される被験体と、特定の投与様式とに応じて変動する。担体材料と組み合わせて単独の剤形を生成できる有効成分の量は、一般に、治療効果を生ずる組成物の量である。一般に、100パーセントから外れて、この量は、製剤学的に認容性の担体と組み合わせて、約0.01パーセントないし約99パーセントの有効成分、好ましくは約0.1パーセントないし約70パーセント、最も好ましくは約1パーセントないし約30パーセントの有効成分である。
【0151】
投与計画は、最適な所望の応答(例えば治療応答)が提供されるように調節される。例えば、単独のボーラスを投与してよく、幾つかの分割された用量を経時的に投与してよく、あるいは治療状況の緊急性によって指示される場合にはその用量は比例的に低減もしくは増加させてよい。特に、投与を容易にし、かつ投薬を均一にするために、非経口組成物を投与単位剤形で製剤化することが特に好ましい。本願で使用される投与単位剤形とは、処置されるべき被験体のために単位投与量として適合された物理的に別個の単位を指す;それぞれの単位は、必要な医薬品担体と組み合わせて所望の治療効果をもたらすように計算された予め決められた量の有効化合物を含有する。本発明の投与単位剤形についての仕様は、(a)有効化合物の独特の特徴及び達成されるべき特定の治療効果と、(b)個体における感受性の処置のためにかかる有効化合物を配合する技術につきものの制限とによって規定され、かつそれらに直接的に依存する。
【0152】
"機能的コンセンサス"アプローチを基礎とするイムノバインダーエンジニアリング
実施例2及び3で詳細に説明されるように、本願に記載される"機能的コンセンサス"アプローチは、改善された特性について選択されたscFv配列のデータベースを使用してフレームワーク位置の変動性を分析するものであるが、それは、生殖細胞系データベース及び/又は成熟抗体データベースにおける同じ位置での変動性と比較することで、変動性に許容性が高いか低いかのいずれかであるアミノ酸位置の割り出しを可能にする。実施例5及び6で詳細に説明されるように、サンプルのscFv内のある特定のアミノ酸位置を生殖細胞系のコンセンサス残基に逆突然変異させることで、中性のもしくは有害な作用が奏され、その一方で、"機能的コンセンサス"を含むscFv変異体は、野生型のscFv分子と比較して高められた熱安定性を示す。従って、ここで機能的コンセンサスアプローチを通じて割り出されたフレームワーク位置は、scFvの機能特性を変更する、好ましくは改善するための、scFv改変のための好ましい位置である。本願で使用される場合に、用語"機能特性"とは、例えば改善された安定性、改善された可溶性、非凝集、発現の改善、封入体精製工程に引き続く再フォールディング率における改善又は前記の改善の2もしくはそれより多くの組み合わせを指す。好ましくは、scFvの機能特性の改善は、抗原結合親和性の改善を含まない。
【0153】
実施例3で第3表〜第8表に示されるように、以下のフレームワーク位置が、示されたVHもしくはVL配列における改変のために好ましい位置として割り出された(以下に使用される番号付けは、AHoナンバリングシステムである;AHoナンバリングをKabatシステムのナンバリングに変換する変換表は、実施例1の第1表及び第2表に示される):
VH3:アミノ酸位置1、6、7、89及び103;
VH1a:アミノ酸位置1、6、12、13、14、19、21、90、92、95及び98;
VH1b:アミノ酸位置1、10、12、13、14、20、21、45、47、50、55、77、78、82、86、87及び107;
Vκ1:アミノ酸位置1、3、4、24、47、50、57、91及び103;
Vκ3:アミノ酸位置2、3、10、12、18、20、56、74、94、101及び103;並びに
Vλ1:アミノ酸位置1、2、4、7、11、14、46、53、82、92及び103。
【0154】
従って、これらのアミノ酸位置の1もしくはそれより多くを、scFv分子などのイムノバインダーにおけるエンジニアリングのために選択して、それにより該イムノバインダーの変異体(すなわち変異された)形を生成できる。好ましくは、該エンジニアリングは、抗原結合親和性に影響を及ぼすことなく、1もしくはそれより多くの改善された機能特性を有するイムノバインダーをもたらす。好ましい一実施態様において、得られたイムノバインダーは、改善された安定性及び/又は可溶性の特徴を有する。このように、なおももう一つの態様においては、本発明は、イムノバインダーをエンジニアリングする方法、特に(i)VH3、VH1aもしくはVH1bのドメインタイプの重鎖可変領域もしくはそれらのフラグメントであってVHフレームワーク残基を含む領域及び/又は(ii)Vκ1、Vκ3もしくはVλ1のドメインタイプの軽鎖可変領域もしくはそれらのフラグメントであってVLフレームワーク残基を含む領域を含むイムノバインダーの1もしくはそれより多くの機能特性を改善するための方法であって:
a)突然変異のためにイムノバインダー内の1もしくはそれより多くのアミノ酸位置を選択すること;及び
b)突然変異のために選択された1もしくはそれより多くのアミノ酸位置を突然変異させること
を含み、その際、前記突然変異のために選択された1もしくはそれより多くのアミノ酸位置は、
(i)AHoナンバリングを使用したVH3のアミノ酸位置1、6、7、89及び103(Kabatナンバリングを使用したアミノ酸位置1、6、7、78及び89);
(ii)AHoナンバリングを使用したVH1aのアミノ酸位置1、6、12、13、14、19、21、90、92、95及び98(Kabatナンバリングを使用したアミノ酸位置1、6、11、12、13、18、20、79、81、82b及び84);
(iii)AHoナンバリングを使用したVH1bのアミノ酸位置1、10、12、13、14、20、21、45、47、50、55、77、78、82、86、87及び107(Kabatナンバリングを使用したアミノ酸位置1、9、11、12、13、19、20、38、40、43、48、66、67、71、75、76及び93);
(iv)AHoナンバリングを使用したVκ1のアミノ酸位置1、3、4、24、47、50、57、91及び103(Kabatナンバリングを使用したアミノ酸位置1、3、4、24、39、42、49、73及び85);
(v)AHoナンバリングを使用したVκ3のアミノ酸位置2、3、10、12、18、20、56、74、94、101及び103(Kabatナンバリングを使用したアミノ酸位置2、3、10、12、18、20、48、58、76、83及び85);及び
(vi)AHoナンバリングを使用したVλ1のアミノ酸位置1、2、4、7、11、14、46、53、82、92及び103(Kabatナンバリングを使用したアミノ酸位置1、2、4、7、11、14、38、45、66、74及び85)
からなる群から選択される前記方法を提供する。
【0155】
好ましい一実施態様においては、該方法は、イムノバインダーの1もしくはそれより多くの機能特性を改善するが、但し、scFvの1もしくはそれより多くの機能特性は、抗原結合親和性における改善を含まない。
【0156】
もう一つの好ましい実施態様においては、突然変異のために選択された1もしくはそれより多くのアミノ酸位置は、AHoナンバリングを使用したVH3のアミノ酸位置1、6、7、89及び103(Kabatナンバリングを使用したアミノ酸位置1、6、7、78及び89)からなる群から選択される。
【0157】
もう一つの好ましい一実施態様においては、突然変異のために選択された1もしくはそれより多くのアミノ酸位置は、AHoナンバリングを使用したVH1aのアミノ酸位置1、6、12、13、14、19、21、90、92、95及び98(Kabatナンバリングを使用したアミノ酸位置1、6、11、12、13、18、20、79、81、82b及び84)からなる群から選択される。
【0158】
もう一つの好ましい一実施態様においては、突然変異のために選択された1もしくはそれより多くのアミノ酸位置は、AHoナンバリングを使用したVH1bのアミノ酸位置1、10、12、13、14、20、21、45、47、50、55、77、78、82、86、87及び107(Kabatナンバリングを使用したアミノ酸位置1、9、11、12、13、19、20、38、40、43、48、66、67、71、75、76及び93)からなる群から選択される。
【0159】
もう一つの好ましい実施態様においては、突然変異のために選択された1もしくはそれより多くのアミノ酸位置は、AHoナンバリングを使用したVκ1のアミノ酸位置1、3、4、24、47、50、57、91及び103(Kabatナンバリングを使用したアミノ酸位置1、3、4、24、39、42、49、73及び85)からなる群から選択される。
【0160】
もう一つの好ましい実施態様においては、突然変異のために選択された1もしくはそれより多くのアミノ酸位置は、AHoナンバリングを使用したVκ3のアミノ酸位置2、3、10、12、18、20、56、74、94、101及び103(Kabatナンバリングを使用したアミノ酸位置2、3、10、12、18、20、48、58、76、83及び85)からなる群から選択される。
【0161】
もう一つの好ましい実施態様においては、突然変異のために選択された1もしくはそれより多くのアミノ酸位置は、AHoナンバリングを使用したVλ1のアミノ酸位置1、2、4、7、11、14、46、53、82、92及び103(Kabatナンバリングを使用したアミノ酸位置1、2、4、7、11、14、38、45、66、74及び85)からなる群から選択される。
【0162】
様々な実施態様において、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20もしくは20より多くの前記のアミノ酸位置が突然変異のために選択される。
【0163】
なおももう一つの態様においては、本発明は、(i)VH3、VH1aもしくはVH1bのドメインタイプの重鎖可変領域もしくはそれらのフラグメントであってVHフレームワーク残基を含む領域及び/又は(ii)Vκ1、Vκ3もしくはVλ1のドメインタイプの軽鎖可変領域もしくはそれらのフラグメントであってVLフレームワーク残基を含む領域を含むイムノバインダーの安定性及び/又は可溶性の特性を改善する方法であって:
a)突然変異のためにイムノバインダー内の1もしくはそれより多くのアミノ酸位置を選択すること;及び
b)突然変異のために選択された1もしくはそれより多くのアミノ酸位置を突然変異させること
を含み、その際、前記突然変異のために選択された1もしくはそれより多くのアミノ酸位置は、
(i)AHoナンバリングを使用したVH3のアミノ酸位置1、89及び103(Kabatナンバリングを使用したアミノ酸位置1、78及び89);
(ii)AHoナンバリングを使用したVH1aのアミノ酸位置1、12、13、14、19、21、90、92、95及び98(Kabatナンバリングを使用したアミノ酸位置1、11、12、13、18、20、79、81、82b及び84);
(iii)AHoナンバリングを使用したVH1bのアミノ酸位置1、10、12、13、14、20、21、45、47、50、55、77、78、82、86、87及び107(Kabatナンバリングを使用したアミノ酸位置1、9、11、12、13、19、20、38、40、43、48、66、67、71、75、76及び93);
(iv)AHoナンバリングを使用したVκ1のアミノ酸位置1、3、4、24、47、50、57及び91(Kabatナンバリングを使用したアミノ酸位置1、3、4、24、39、42、49及び73);
(v)AHoナンバリングを使用したVκ3のアミノ酸位置2、3、10、12、18、20、56、74、94及び101(Kabatナンバリングを使用したアミノ酸位置2、3、10、12、18、20、48、58、76及び83);及び
(vi)AHoナンバリングを使用したVλ1のアミノ酸位置1、2、4、7、11、14、46、53、82及び92(Kabatナンバリングを使用したアミノ酸位置1、2、4、7、11、14、38、45、66及び74)
からなる群から選択される前記方法を提供する。
【0164】
このように、なおももう一つの態様においては、本発明は、(i)VH3、VH1aもしくはVH1bのドメインタイプの重鎖可変領域もしくはそれらのフラグメントであってVHフレームワーク残基を含む領域及び/又は(ii)Vκ1、Vκ3もしくはVλ1のドメインタイプの軽鎖可変領域もしくはそれらのフラグメントであってVLフレームワーク残基を含む領域を含むイムノバインダーの安定性及び/又は可溶性を、イムノバインダーの抗原結合親和性に影響を及ぼすことなく改善するための方法であって:
a)突然変異のためにイムノバインダー内の1もしくはそれより多くのアミノ酸位置を選択すること;及び
b)突然変異のために選択された1もしくはそれより多くのアミノ酸位置を突然変異させること
を含み、その際、前記突然変異のために選択された1もしくはそれより多くのアミノ酸位置は、
(i)AHoナンバリングを使用したVH3のアミノ酸位置1及び103(Kabatナンバリングを使用したアミノ酸位置1及び89);
(ii)AHoナンバリングを使用したVH1aのアミノ酸位置1、12、13、14、19、21、90、95及び98(Kabatナンバリングを使用したアミノ酸位置1、11、12、13、18、20、79、82b及び84);
(iii)AHoナンバリングを使用したVH1bのアミノ酸位置1、10、12、13、14、20、21、45、47、50、55及び77(Kabatナンバリングを使用したアミノ酸位置1、9、11、12、13、19、20、38、40、43、48及び66);
(iv)AHoナンバリングを使用したVκ1のアミノ酸位置1及び3(Kabatナンバリングを使用したアミノ酸位置1及び3);
(v)AHoナンバリングを使用したVκ3のアミノ酸位置2、3、10、12、18、20、94及び101(Kabatナンバリングを使用したアミノ酸位置2、3、10、12、18、20、76及び83);及び
(vi)AHoナンバリングを使用したVλ1のアミノ酸位置1、2、4、7、11、14、82及び92(Kabatナンバリングを使用したアミノ酸位置1、2、4、7、11、14、66及び74)
からなる群から選択される前記方法を提供する。
【0165】
好ましくは、イムノバインダーはscFvであるが、他のイムノバインダー、例えば全長免疫グロブリン、Fabフラグメント、Dab、ナノボディー又は本願に記載される任意の他の種類のイムノバインダーも該方法に従ってエンジニアリングすることができる。本発明は、また、当該エンジニアリング方法に従って製造されたイムノバインダー並びに該イムノバインダーと製剤学的に認容性の担体とを含む組成物を包含する。
【0166】
ある特定の例示的な実施態様においては、本発明の方法によりエンジニアリングされたイムノバインダーは、当該技術分野で認められる治療的に重要な標的抗原を結合するイムノバインダー又は治療的に重要なイムノバインダーから誘導された可変領域(VL及び/又はVL領域)もしくは1もしくはそれより多くのCDR(例えば、CDRL1、CDRL2、CDRL3、CDRH1、CDRH2及び/又はCDRH3)を含むイムノバインダーである。例えば、FDAもしくは他の規制当局によって現在承認されているイムノバインダーを、本発明による方法に従ってエンジニアリングすることができる。より具体的には、これらの例示的なイムノバインダーは、それらに制限されないが、抗CD3抗体、例えばムロモナブ(Orthoclone(登録商標)OKT3;Johnson&Johnson,Brunswick,NJ;Arakawa他のJ.Biochem,(1996)120:657−662;Kung及びGoldstein他のScience(1979),206:347−349を参照)、抗CD11抗体、例えばエファリズマブ(Raptiva(登録商標)、Genentech,South San Francisco,CA)、抗CD20抗体、例えばリツキシマブ(Rituxan(登録商標)/Mabthera(登録商標)、Genentech,South San Francisco,CA)、トシツモマブ(Bexxar(登録商標)、GlaxoSmithKline,London)もしくはイブリツモマブ(Zevalin(登録商標)、Biogen Idec,Cambridge MA)(米国特許第5,736,137;第6,455,043;及び第6,682,734を参照)、抗CD25(IL2Rα)抗体、例えばダクリズマブ(Zenapax(登録商標)、Roche,Basel,Switzerland)もしくはバシリキシマブ(Simulect(登録商標)、Novartis,Basel,Switzerland)、抗CD33抗体、例えばゲムツズマブ(Mylotarg(登録商標)、Wyeth,Madison,NJ−米国特許第5,714,350及び第6,350,861を参照)、抗CD52抗体、例えばアレムツズマブ(Campath(登録商標)、Millennium Pharmaceuticals,Cambridge,MA)、抗GpIIb/gIIa抗体、例えばアブシキシマブ(ReoPro(登録商標)、Centocor,Horsham,PA)、抗TNFα抗体、例えばインフリキシマブ(Remicade(登録商標)、Centocor,Horsham,PA)もしくはアダリムマブ(Humira(登録商標)、Abbott,Abbott Park,IL−米国特許第6,258,562を参照)、抗IgE抗体、例えばオマリズマブ(Xolair(登録商標)、Genentech,South San Francisco,CA)、抗RSV抗体、例えばパリビズマブ(Synagis(登録商標)、Medimmune,Gaithersburg,Md−米国特許第5,824,307を参照)、抗EpCAM抗体、例えばエドレコロマブ(Panorex(登録商標)、Centocor)、抗EGFR抗体、例えばセツキシマブ(Erbitux(登録商標)、Imclone Systems,New York,NY)もしくはパニツムマブ(Vectibix(登録商標)、Amgen,Thousand Oaks,CA)、抗HER2/neu抗体、例えばトランスツズマブ(Herceptin(登録商標)、Genentech)、抗α4インテグリン抗体、例えばナタリズマブ(Tysabri(登録商標)、BiogenIdec)、抗C5抗体、例えばエクリズマブ(Soliris(登録商標)、Alexion Pharmaceuticals,Chesire,CT)及び抗VEGF抗体、例えばベバシズマブ(Avastin(登録商標)、Genentech−米国特許第6,884,879を参照)もしくはラニビズマブ(Lucentis(登録商標)、Genentech)を含む。
【0167】
上記にもかかわらず、様々な実施態様において、ある特定のイムノバインダーは、本発明のエンジニアリング方法での使用から排除され、かつ/又は該エンジニアリング方法によって製造されたイムノバインダー組成物から排除される。例えば、様々な実施態様において、イムノバインダーがPCT公報WO2006/131013号及びWO2008/006235号に開示されるいずれかのscFv抗体もしくはその変異体、例えばESBA105又はPCT公報WO2006/131013号及びWO2008/006235号に開示されるその変異体ではないという条件がある。前記の公報のそれぞれの内容は、参照をもって本願明細書に明白に開示されたものとする。
【0168】
他の様々な実施態様においては、前記方法によりエンジニアリングされるべきイムノバインダーがPCT公報WO2006/131013号もしくはWO2008/006235号に開示されるいずれかのscFv抗体もしくはその変異体である場合に、該エンジニアリング方法により置換のために選択されうる考えられるアミノ酸位置のリストが以下のアミノ酸位置:Vκ1もしくはVλ1のAHo位置4(Kabat4);Vκ3のAHo位置101(Kabat83);VH1aもしくはVH1bのAHo位置12(Kabat11);VH1bのAHo位置50(Kabat43);VH1bに関するAHo位置77(Kabat66);VH1bに関するAHo位置78(Kabat67);VH1bに関するAHo位置82(Kabat71);VH1bに関するAHo位置86(Kabat75);VH1bに関するAHo位置87(Kabat76);VH3に関するAHo位置89(Kabat78);VH1aに関するAHo位置90(Kabat79);及び/又はVH1bに関するAHo位置107(Kabat93)のいずれかもしくは全てを含まないという条件がありうる。
【0169】
さらに他の様々な実施態様において、前記方法によりエンジニアリングされるべき任意のイムノバインダー及び/又は前記方法により製造された任意のイムノバインダーに関しては、該エンジニアリング方法により置換のために選択されうる考えられるアミノ酸位置のリストが、以下のアミノ酸位置:Vκ1もしくはVλ1のAHo位置4(Kabat4);Vκ3のAHo位置101(Kabat83);VH1aもしくはVH1bのAHo位置12(Kabat11);VH1bのAHo位置50(Kabat43);VH1bに関するAHo位置77(Kabat66);VH1bに関するAHo位置78(Kabat67);VH1bに関するAHo位置82(Kabat71);VH1bに関するAHo位置86(Kabat75);VH1bに関するAHo位置87(Kabat76);VH3に関するAHo位置89(Kabat78);VH1aに関するAHo位置90(Kabat79);及び/又はVH1bに関するAHo位置107(Kabat93)のいずれかもしくは全てを含まないという条件がありうる。
【0170】
他の実施態様
本発明は、また、米国仮特許出願第60/905,365の添付(A−C)及び米国仮特許出願第60/937,112の添付(A−I)に示される方法論、参考資料及び/又は組成物のいずれをも含むが、それらに制限されないが、割り出されるデータベース、バイオインフォマティクス、インシリコデータ操作及び解釈方法、機能的アッセイ、好ましい配列、好ましい残基の位置/変更、フレームワークの割り出しと選択、フレームワークの変更、CDRアラインメント及び統合並びに好ましい変更/突然変異を含むと解される。
【0171】
これらの方法論及び組成に関する更なる情報は、米国第60/819,378号;及び同第60/899,907号及びPCT公報WO2008/006235(発明の名称"scFv Antibodies Which Pass Epithelial And/Or Endothelial Layers"、それぞれ2006年7月と2007年2月2日出願);W006131013号A2(発明の名称"Stable And Soluble Antibodies Inhibiting TNFa"、2006年6月6日出願);EP1506236号A2(発明の名称"Immunoglobulin Frameworks Which Demonstrate Enhanced Stability In The Intracellular Environment And Methods Of Identifying Same"、2003年5月21日出願);EP1479694号A2(発明の名称"Intrabodies ScFv with defined framework that is stable in a reducing environment"、2000年12月18日出願);EP1242457号B1(発明の名称"Intrabodies With Defined Framework That Is Stable In A Reducing Environment And Applications Thereof"、2000年12月18日出願);W003097697号A2(発明の名称"Immunoglobulin Frameworks Which Demonstrate Enhanced Stability In The Intracellular Environment And Methods Of Identifying Same"、2003年5月21日出願);及びW00148017号A1(発明の名称"Intrabodies With Defined Framework That Is Stable In A Reducing Environment And Applications Thereof"、2000年12月18日出願);並びにHonegger他のJ.Mol.Biol.309:657−670(2001)に見出すことができる。
【0172】
更に、本発明は、また、他の抗体形式、例えば全長抗体もしくはそのフラグメント、例えばFab、Dabなどの発見及び/又は改善に適した方法論及び組成を含むものと解される。従って、ここで割り出された原理と残基は、広範なイムノバインダーに適用できる所望の生物物理学的及び/又は治療的な特性を達成するため選択もしくは変更に適している。一実施態様においては、治療的に関連する抗体、例えばFDA承認抗体は、ここに開示される1もしくはそれより多くの残基位置の改変によって改善される。
【0173】
しかしながら、本発明は、イムノバインダーのエンジニアリングに制限されない。例えば、当業者は、本発明が、他の非免疫グロブリンの結合分子、例えばそれらに制限されないが、フィブロネクチン結合分子、例えばアドネクチン(WO01/64942号及び米国特許第6,673,901号、同第6,703,199号、同第7,078,490号及び同第7,119,171号を参照)、アフィボディ(例えば米国特許第6,740,734号及び同第6,602,977号及びWO00/63243号を参照)、アンチカリン(リポカリンとしても公知)(WO99/16873号及びWO05/019254号を参照)、Aドメインタンパク質(WO02/088171号及びWO04/044011号を参照)及びアンキリン反復タンパク質、例えばダルピンもしくはロイシン反復タンパク質(WO02/20565号及びWO06/083275号を参照)のエンジニアリングに適用できると認識している。
【0174】
本願開示を、以下の実施例によって更に概説するが、それは更なる限定と解釈されるべきでない。本願を通して引用されている全ての図面及び全ての参考文献、特許及び公開特許出願の内容は、参照をもって本願明細書に明白に開示されたものとする。
【0175】
例1: 抗体位置ナンバリングシステム
この例では、抗体重鎖可変領域と軽鎖可変領域におけるアミノ酸残基位置を特定するために使用される2つの異なるナンバリングシステムに関する変換表を提供する。Kabatナンバリングシステムは、更にKabat他(Kabat,E.A.他(1991年)Sequences of Proteins of lmmunological Interest,第5版,U.S.Department of Health and Human Services,NIH Publication No.91−3242)に説明されている。AHoナンバリングシステムは、更にHonegger,A及びPlueckthun,A(2001年)J.Mol.Biol.309:657−670で更に説明されている。
【0176】
重鎖可変領域ナンバリング
第1表: 重鎖可変ドメイン中の残基位置に関する変換表
【表2】
【0177】
1列目、Kabatのナンバリングシステムでの残基位置。2列目、1列目に示された位置についてのAHoのナンバリングシステムにおける相応の番号。3列目、Kabatのナンバリングシステムでの残基位置。4列目、3列目に示された位置についてのAHoのナンバリングシステムにおける相応の番号。5列目、Kabatのナンバリングシステムでの残基位置。6列目、5列目に示された位置についてのAHoのナンバリングシステムにおける相応の番号。
【0178】
軽鎖可変領域ナンバリング
第2表: 軽鎖可変ドメイン中の残基位置に関する変換表
【表3】
【0179】
1列目、Kabatのナンバリングシステムでの残基位置。2列目、1列目に示された位置についてのAHoのナンバリングシステムにおける相応の番号。3列目、Kabatのナンバリングシステムでの残基位置。4列目、3列目に示された位置についてのAHoのナンバリングシステムにおける相応の番号。5列目、Kabatのナンバリングシステムでの残基位置。6列目、5列目に示された位置についてのAHoのナンバリングシステムにおける相応の番号。
【0180】
例2: scFv配列の配列に基づく分析
この例においては、scFv配列の配列に基づく分析を詳細に説明する。分析方法をまとめたフローチャートを図1に示す。
【0181】
ヒト免疫グロブリン配列の収集及びアラインメント
ヒトの成熟抗体及び生殖細胞系の可変ドメインの配列を、種々のデータベースから収集し、カスタマイズされたデータベースに一文字コードのアミノ酸配列として入力した。抗体配列を、Needleman−Wunsch配列アラインメントアルゴリズム(Needleman他,J Mol Biol.,48(3):443−53(1970))のEXCEL実装を使用してアラインメントした。該データベースを、次いで、後続の分析と比較を容易にするために、以下のように、4つのアレイ(当初のデータソースにより)に細分した:
VBase: ヒト生殖細胞系配列
IMGT: ヒト生殖細胞系配列
KDBデータベース: 成熟抗体
QCデータベース: クオリティー・コントロールスクリーニングによって選択された選択scFvフレームワークを含むESBATechの内部データベース
QCスクリーニングシステムと、それから選択される望ましい機能特性を有するscFvフレームワーク配列は、更に、例えばPCT公報WO 2001/48017号;米国出願第20010024831号;US20030096306号;米国特許第7,258,985号及び同第7,258,986号;PCT公報WO2003/097697号及び米国出願第20060035320号に記載されている。
【0182】
ギャップの導入及び残基位置の命名法は、免疫グロブリン可変ドメインに関してはAHoナンバリングシステムによって行った(Honegger,A.及びPlueckthun,A.(2001年)J.Mol.Biol.309:657−670)。引き続き、フレームワーク領域とCDR領域は、Kabat他(Kabat,E.A.他(1991年)Sequences of Proteins of lmmunological Interest,第5版,U.S.Department of Health and Human Services,NIH Publication No.91−3242)に従って特定される。KDBデータベースにおいて70%未満の一致を有するか又はフレームワーク領域に多重の未定の残基を含む配列を破棄した。データベース内の任意の他の配列と95%より高い同一性を有する配列も、分析における不規則ノイズを回避するために排除した。
【0183】
配列のサブグループへの割り当て
抗体配列を、別個のファミリーへと、配列ホモロジーに基づく分類法に従って抗体をクラスタ化することによって分類した(Tomlinson,I.M.他(1992年)J.Mol.Biol.227:776−798;Williams,S.C.及びWinter.G.(1993年)Eur.J.Immunol.23:1456−1461);Cox,J.P.他(1994年)Eur.J.Immunol.24:827−836)。ファミリーコンセンサスに対するホモロジーのパーセンテージを、70%の類似性に制約した。示された配列が2もしくはそれより多くの種々の生殖細胞系ファミリーの間で不一致であるか、もしくはホモロジーのパーセンテージが70%(任意のファミリーに対して)未満であった場合に、最も近い生殖細胞系のカウンターパートを決定し、CDR長さ、カノニカルなクラス及び定義しているサブタイプ残基を詳細に分析して、該ファミリーを正しく割り当てた。
【0184】
統計的分析
ファミリークラスタが定義されたら、"クオリティー・コントロール("QC")スクリーニング"(斯かるQCスクリーニングはPCT公報WO2003/097697号に詳細に説明される)において割り出されたヒットについて統計的分析を実施した。分析は、該分析のために最小の数の配列が必要とされるので、最も代表的なファミリー(VH3、VH1a、VH1b、Vκ1、Vκ3及びVλ1)について可能であるに過ぎなかった。各位置iについての残基頻度fi(r)を、特定の残基型がデータセット内で確認された回数を配列の全数で除算することによって計算した。位置的エントロピーN(i)を、全ての位置の変動性の尺度として(Shenkin,P.S.他(1991年)Proteins 11:297−313;Larson,S.M.及びDavidson,A.R.(2000年)Protein Sci.9:2170−2180;Demarest,S.J.他(2004)J.Mol.Biol.335:41−48)、単純な豊富さよりもより多くのアミノ酸組成についての情報を提供するシステムにおける多様性の数学的尺度であるシンプソンの指数を用いて計算した。各位置iについての多様性の度合いを、存在する異なるアミノ酸の数と、各残基の相対存在度を考慮して計算した。
【0185】
【数1】
【0186】
前記式中:Dは、シンプソンの指数であり、Nは、アミノ酸の全数であり、rは、各位置に存在する異なるアミノ酸の数であり、かつnは、特定のアミノ酸型の残基の数である。
【0187】
選択されたFvフレームワークのQCデータベース(QCスクリーニングによって選択された)を、種々の基準を用いてスクリーニングして、ユニークな特徴を定義した。該配列データベース中の種々のアレイを使用して、Fvフレームワーク内の残基位置の変動性の度合いを定義し、選択されたFvフレームワーク中に存在する本来一般的でない変動許容な位置を割り出した。10%と等しいかそれより高い位置的エントロピースコアの差を、閾値として定義した。付加的な位置を、所定の位置の残基が他の配列アレイに稀に確認されるアミノ酸、すなわち生殖細胞系データベース(VBase及びIMGT)及びKDBデータベースに稀に確認されるアミノ酸によって占められている場合に選択した。ある残基の挙動が真に異なることが見出された(他の配列アレイのいずれかで低いか現れない)場合に、その残基位置をユニークとして定義した。
【0188】
選択されたFvフレームワーク配列のユニークな特徴の割り出しの背後にある原理的説明は、フレームワークの証明された優れた特性と、これらの知見の改善された足場のための潜在的な使用である。選択されたフレームワーク中で一定の変動性の度合いを本来示す高度に保存された位置は、無作為突然変異誘発に許容性であるべきであり、かつscFv形式の本来の残基より優れた代替アミノ酸を見出す確率の増大を表すことが見込まれる。更に、稀なアミノ酸についての顕著な優先性は、一定の残基に対する自然選択の指標である。これらの2つの統計的指針に基づき、重鎖と軽鎖の中の種々の残基を、浮動性位置(変動許容性)もしくは好ましい置換(普通でない残基)のいずれかとして選択した。
【0189】
例3: 変動許容性の残基位置と普通でない残基の位置の割り出し
例2で上述した配列に基づくscFv分析アプローチを使用して、3種の重鎖可変領域ファミリー(VH3、VH1a及びVH1b)及び3種の軽鎖可変領域ファミリー(Vκ1、Vκ3及びVλ1)を分析して、変動許容性のアミノ酸位置を割り出した。特に、シンプソンの指数を使用して計算された多様性の度合いを、前記のVbase、IMGT、KDB及びQC(選択されたscFv)の4種のデータベース内の配列についての各アミノ酸位置について決定した。変動許容性のアミノ酸位置と普通でない残基のアミノ酸位置を、Vbase及びIMGTの生殖細胞系データベースについてのこれらの位置でのシンプソンの指数値における、QCの選択されたscFvデータベースと比較した差異に基づき割り出した。付加的に、関連の割り出された位置について、生殖細胞系コンセンサス残基を割り出し、そのコンセンサス残基のQC及びKDBのデータベースにおける頻度を決定した。
【0190】
重鎖可変領域ファミリーのVH3、VH1a及びVH1bについての変動性の分析結果を、それぞれ第3表、第4表及び第5表に以下に示す。各表に関して、それぞれの列は以下の通りである:第1列:AHoナンバリングシステムを用いたアミノ酸残基位置(Kabatナンバリングシステムへの変換は、例1の第1表として示された変換表を用いて行うことができる);第2列ないし第5列:第1列に示された残基位置についてのデータベース中の各抗体アレイに関して計算された多様性;第6列:相応の生殖細胞系ファミリー及びKDBのコンセンサス残基;第7列:第6列におけるコンセンサス残基に関するKDBデータベースにおける相対残基頻度;並びに第8列:第6列におけるコンセンサス残基に関するQCの選択されたscFvデータベースにおける相対残基頻度。
【0191】
第3表: VH3ファミリーについての生殖細胞系において割り出されたコンセンサスアミノ酸の残基の変動性分析と相応の頻度
【表4】
【0192】
第4表: VH1aファミリーについての生殖細胞系において割り出されたコンセンサスアミノ酸の残基の変動性分析と相応の頻度
【表5】
【0193】
第5表: VH1bファミリーについての生殖細胞系において割り出されたコンセンサスアミノ酸の残基の変動性分析と相応の頻度
【表6】
【0194】
軽鎖可変領域ファミリーのVκ1、Vκ3及びVλ1についての変動性の分析結果を、それぞれ第6表、第7表及び第8表に以下に示す。各表に関して、それぞれの列は以下の通りである:第1列:AHoナンバリングシステムを用いたアミノ酸残基位置(Kabatナンバリングシステムへの変換は、例1の第1表として示された変換表を用いて行うことができる);第2列ないし第5列:第1列に示された残基位置についてのデータベース中の各抗体アレイに関して計算された多様性;第6列:相応の生殖細胞系ファミリー及びKDBのコンセンサス残基;第7列:第6列におけるコンセンサス残基に関するKDBデータベースにおける相対残基頻度;並びに第8列:第6列におけるコンセンサス残基に関するQCの選択されたscFvデータベースにおける相対残基頻度。
【0195】
第6表: Vκ1ファミリーについての生殖細胞系において割り出されたコンセンサスアミノ酸の残基の変動性分析と相応の頻度
【表7】
【0196】
第7表: Vκ3ファミリーについての生殖細胞系において割り出されたコンセンサスアミノ酸の残基の変動性分析と相応の頻度
【表8】
【0197】
第8表: Vλ1ファミリーについての生殖細胞系において割り出されたコンセンサスアミノ酸の残基の変動性分析と相応の頻度
【表9】
【0198】
前記の第3表〜第8表に示されるように、QCシステム選択されたscFvフレームワークにおける残基位置のサブセットは、生殖細胞系(VBase及びIMGT)及び成熟抗体(KDB)に存在しないか又は出現が不十分なある特定の残基に対して強く偏っているものと判明し、scFvの安定性が、クオリティー・コントロール酵母スクリーニングシステムで選択されたフレームワーク配列のユニークな特徴に基づき合理的に改善されうることが示唆された。
【0199】
例4: 好ましい残基の選択
scFvの機能特性(例えば安定性及び/又は可溶性)を改善することが知られる特定のアミノ酸位置での好ましいアミノ酸残基を選択(又は選択的にアミノ酸残基を排除)するために、成熟抗体配列のKabat配列からのVH配列とVL配列とを、そのファミリーサブタイプ(例えばVH1b、VH3など)によって群分けした。配列の各サブファミリー内で、各アミノ酸位置での各アミノ酸残基の頻度を、1群のサブタイプの分析された全ての配列のパーセンテージとして決定した。いわゆるQCシステムによって増大された安定性及び/又は可溶性について予め選択された抗体からなるQCデータベースの配列全てについても同じことを行った。各サブタイプに関して、Kabat配列及びQC配列について得られた各アミノ酸残基について得られたパーセンテージ(相対頻度)を、それぞれの相応の位置で比較した。ある特定のアミノ酸残基の相対頻度がQCデータベースにおいてKabatデータベースと比較して高まった場合に、そのそれぞれの残基を、所定の位置でのscFvの安定性及び/又は可溶性を改善するために好ましい残基と見なした。その反対に、ある特定のアミノ酸残基の相対頻度が、QCデータベースにおいてKabatデータベースと比較して低下した場合に、そのそれぞれの残基を、その位置でのscFv形式の状況で好ましくないものと見なした。
【0200】
第9表は、種々のデータベースにおけるVH1bサブタイプに関するアミノ酸位置H78(AHoナンバリング;Kabat位置H67)での残基頻度の例示的分析を示す。第9表における列は、以下の通りである:第1列:残基型;第2列:IMGT生殖細胞系データベースにおける残基頻度;第3列:Vbase生殖細胞系データベースにおける残基頻度;第4列:QCデータベースにおける残基頻度;第5列:Kabatデータベースにおける残基頻度。
【0201】
第9表: 2種の生殖細胞系データベース、QCデータベース及び成熟抗体のKabatデータベースにおけるVH1bサブタイプに関する位置78(AHoナンバリング)での相対残基頻度
【表10】
【0202】
QCデータベースにおいて、アラニン(A)残基は、24%の頻度で確認され、それは成熟Kabatデータベース(KDB_VH1B)における同じ残基について確認される2%の頻度の12倍である。従って、位置H78(AHoナンバリング)でのアラニン残基は、その位置で、scFvの機能特性(例えば安定性及び/又は可溶性)を増大させるために好ましい残基と見なされる。反対に、バリン(V)残基は、QCデータベースにおいて47%の相対頻度で確認され、それは、成熟Kabatデータベースで確認される86%よりもかなり低く、かつ生殖細胞系データベースで同じ残基について確認される90%より大(IMGT−germで91%及びVbase germで100%)よりもかなり低い。従って、バリン残基(V)は、位置H78でscFv形式の状況では好ましくない残基であると見なされた。
【0203】
例5: 2つの異なるアプローチからのESBA105 scFv変異体の比較
この例では、2つの異なるアプローチによって製造されたscFv変異体の安定性を比較した。親のscFv抗体は、今までに記載されていた(例えばPCT公報WO2006/131013号及びWO2008/006235号を参照)ESBA105であった。1セットのESBA105変異体は、クオリティー・コントロール酵母スクリーニングシステムを用いて選択した("QC変異体")。その変異体も、今までに記載されていた(例えばPCT公報WO2006/131013号及びWO2008/006235号を参照)。他の変異体のセットは、ある特定のアミノ酸位置を、前記の例2及び3で記載された配列分析によって割り出された好ましい生殖細胞系コンセンサス配列へと逆突然変異させることによって製造した。その逆突然変異は、アミノ酸配列内で、生殖細胞系配列で保存されているが、選択されたscFvにおいて普通でないもしくは低い頻度のアミノ酸を含む位置について調査することによって選択した(生殖細胞系コンセンサスエンジニアリングアプローチと呼ぶ)。
【0204】
全ての変異体を、安定性について、該分子を熱誘発ストレスにかけることによって試験した。広範囲の温度(25〜95℃)での負荷によって、全ての変異体について、熱的アンフォールディング転移の大まかな中心点(TM)を決定することができた。野生型分子とその変異体についての熱安定性の測定は、FT−IR ATR分光分析法によって、IR光を干渉計中に案内して実施した。測定された信号は、インターフェログラムであり、この信号でフーリエ変換を行うと、最終スペクトルは、慣用の(分散型)赤外分光分析法からのスペクトルと同一である。
【0205】
熱的アンフォールディングの結果を、以下の第10表にまとめ、図6で図示する。第10表中の列は、以下の通りである:第1列:ESBA105変異体;第2列:突然変異を含むドメイン;第3列:AHoナンバリング中の突然変異;第4列:図6における熱的アンフォールディング曲線から計算されたTM中心点;第5列:親のESBA105と比較した相対活性;第6列:第1列で特定された変異体についての突然変異誘発ストラテジー。
【0206】
第10表: 2つの異なるアプローチからのESBA105変異体の比較と、FT−IRで測定された全体の安定性へのそれらの寄与(熱的アンフォールディング転移について計算された中心点)
【表11】
【0207】
QC変異体と比較すると、生殖細胞系コンセンサスへの逆突然変異は、ESBA105の熱安定性と活性に対して悪影響を有しているか、又はそれらに対して影響を有さない。このように、これらの結果は、種々の抗体及び形式において安定性を改善するために他で使用されていたコンセンサスエンジニアリングアプローチと食い違っている(例えばSteipe,B他(1994年)J.Mol.Biol.240:188−192;Ohage,E.及びSteipe,B.(1999年)J.Mol.Biol.291:1119−1128;Knappik,A.他(2000年)J.Mol.Biol.296:57−86,Ewert,S.他(2003年)Biochemistry 42:1517−1528;並びにMonsellier,E.及びBedouelle,H.(2006年)J.Mol.Biol.362:580−593を参照)。
【0208】
別個の実験において、前記のQC変異体(QC11.2、QC15.2及びQC23.2)及び追加のQC変異体(QC7.1)を、コンセンサス逆突然変異(S−2、D−2及びD−3)か又はアラニンへの逆突然変異(D−1)のいずれかを有する第二の変異体のセットと比較した(第11表を参照)。選択されたフレームワーク位置での残基の個性を第11表に示し、測定された熱安定性(任意のアンフォールディング単位で)を、図7に示す。幾つかのコンセンサス変異体(S−2及びD−1)が、熱安定性において顕著な増大を示すものの、この増大は、4種のQC変異体のそれぞれによって達成される熱安定性における増大よりも小さかった。
【0209】
第11表: コンセンサス逆突然変異(S−2、D−2、D−3)、アラニンへの突然変異(D−1)もしくはQC残基(QC7.1、QC11.2、QC15.2、QC23.2)のいずれかを含む一組のESBA105変異体の選択されたフレームワーク位置でのフレームワーク残基の個性を提供する。親のESBA105抗体と異なる残基を、太字のイタリック体で示している。アミノ酸位置は、Kabatナンバリングで提供される。
【0210】
【表12】
【0211】
従って、ここにある結果は、"クオリティー・コントロール酵母スクリーニングシステム"で加えられた選択圧が、本来(まだ依然としてヒトで)めったに確認されず、恐らく、これらのフレームワークの優れた生物物理学的特性の原因となる共通の特徴を含む足場の分集合をもたらすことを裏付けている。60℃で種々のESBA105変異体を負荷することによって、選択されたscFvフレームワークデータベースで割り出された好ましい置換の優れた特性を再確認することができた。このように、本願に記載される、QC酵母スクリーニングシステムから得られた選択されたscFv配列を基礎とする"機能的コンセンサス"アプローチは、生殖細胞系コンセンサスアプローチを用いて製造された変異体よりも優れた熱安定性を有するscFv変異体をもたらすことが裏付けられている。
【0212】
例6: ESBA212 scFv変異体
この例では、ESBA105と異なる結合特異性を有するscFv抗体の生殖細胞系コンセンサス変異体(ESBA212)の安定性を比較した。全てのESBA212変異体は、ある特定のアミノ酸位置を、前記の例2及び3で記載された配列分析によって割り出された好ましい生殖細胞系コンセンサス配列へと逆突然変異させることによって製造した。その逆突然変異は、アミノ酸配列内で、生殖細胞系配列で保存されているが、選択されたscFvにおいて普通でないもしくは低い頻度のアミノ酸を含む位置について調査することによって選択した(生殖細胞系コンセンサスエンジニアリングアプローチと呼ぶ)。図5と同様に、全ての変異体を、安定性について、該分子を熱誘発ストレスにかけることによって試験した。
【0213】
ESBA212変異体についての熱的アンフォールディングの結果を、以下の第12表にまとめ、図8で図示する。第12表中の列は、以下の通りである:第1列:ESBA212変異体;第2列:突然変異を含むドメイン;第3列:AHoナンバリング中の突然変異;第4列:図7における熱的アンフォールディング曲線から計算されたTM中心点;第5列:親のESBA212と比較した相対活性;第6列:第1列で特定された変異体についての突然変異誘発ストラテジー。
【0214】
第12表: 生殖細胞系コンセンサス残基へと逆突然変異されたESBA212変異体の比較と、FT−IRで測定された全体の安定性へのそれらの寄与(熱的アンフォールディング転移について計算された中心点)
【表13】
【0215】
無関係のESBA105 scFv抗体について確認されたのと同様に、生殖細胞系コンセンサスへの逆突然変異は、ESBA212の熱安定性及び活性に悪影響を有するか、又は影響を有さなかった。このように、これらの結果は、慣用のコンセンサスに基づくアプローチの不備を更に強調するのに役立つ。これらの不具合は、本発明の機能的コンセンサス方法論の使用によって対処できる。
【0216】
例7: 改善された可溶性を有するscFvの生成
この例においては、構造モデリングと配列分析に基づくアプローチを使用して、改善された可溶性をもたらすscFvフレームワーク領域における突然変異を割り出した。
【0217】
a) 構造分析
ESBA105 scFvの3D構造を、ExPASyウェブサーバを介してアクセス可能な、自動化されたタンパク質構造ホモロジーモデリングサーバを用いてモデリングした。その構造を、相対的な溶媒到達可能表面(rSAS)により分析し、残基を以下のように分類した:(1)rSAS≧50%を示す残基については曝露;及び(2)50≦rSAS≧25%を有する残基については部分曝露。rSAS≧25%を有する疎水性残基は、疎水性パッチとして見なされた。見出された各疎水性パッチの溶媒到達可能領域を確認するために、ESBA105に対する高いホモロジーと、2.7Åより高い解像度とを有する27のPDBファイルから計算を行った。その平均rSAS及び標準偏差を、それらの疎水性パッチについて計算し、そのそれぞれについて詳細に調査した(第13表を参照)。
【0218】
第13表: 疎水性パッチの評価
【表14】
【0219】
1列目、AHoナンバリングシステムでの残基位置。2列目、1列目に示される位置のドメイン。3列目、27個のPDBファイルから計算された平均溶媒到達可能領域。4列目、3列目の標準偏差。5列目〜9列目、AHoから検索された疎水性パッチの構造的役割。
【0220】
ESBA105で割り出された疎水性パッチの殆どは、可変−定常ドメイン(VH/CH)インターフェースと一致していた。このことは、scFv形式における溶媒曝露される疎水性残基の今までの知見と相関していた(Nieba他、1997年)。2つの疎水性パッチ(VH2及びVH5)は、VL−VH相互作用にも寄与するので、後続の分析から排除した。
【0221】
b) 可溶性突然変異の設計
122個のVL配列と137個のVH配列の全体は、Annemarie Honeggerの抗体ウェブページ(www.bioc.uzh.ch/antibody)から検索した。それらの配列は、本来、タンパク質データバンク(PDB)(www.rcsb.org/pdb/home/home.do)から抽出されたFvもしくはFabの形式の393個の抗体構造と一致していた。それらの配列は、分析のために、種もしくは亜群にもかかわらず、本来の残基よりも高い親水性を有する代替アミノ酸を見出す確率を高めるために使用した。データベース内の任意の他の配列と95%より高い同一性を有する配列は、偏りを減らすために排除した。それらの配列をアラインメントさせ、残基頻度について分析した。配列分析ツールとアルゴリズムを適用し、ESBA105における疎水性パッチを撹乱する親水性突然変異を割り出して選択した。それらの配列を、免疫グロブリン可変ドメイン(Honegger及びPlueckthun 2001年)に関してAHoナンバリングシステムに従ってアラインメントさせた。その分析は、フレームワーク領域に限定された。
【0222】
カスタマイズされたデータベースにおける、各位置iについての残基頻度f(r)を、特定の残基がデータセット内で確認された回数を配列の全数で除算することによって計算した。第一ステップで、種々のアミノ酸の出現頻度を、各疎水性パッチについて計算した。ESBA105で割り出された各疎水性パッチについての残基頻度は、前記のカスタマイズされたデータベースから分析した。第14表は、疎水性パッチでの残基頻度をデータベースに存在する残基の全体で割ったものを報告している。
【0223】
第14表: ESBA105で割り出された疎水性パッチについてのscFvもしくはFab形式における成熟抗体からの259個の配列の残基頻度
【表15】
【0224】
第1列、残基型。第2列ないし第5列、重鎖における疎水性パッチについての残基の相対頻度。第6列及び第7列、軽鎖における疎水性パッチについての残基の相対頻度。
【0225】
第二ステップにおいて、疎水性パッチでの親水性残基の頻度を用いて、各疎水性パッチでの最も豊富な親水性残基を選択することによって可溶性突然変異を設計した。第15表は、このアプローチを使用して割り出された可溶性突然変異体を報告している。親の残基と突然変異体の残基の疎水性を、幾つかの論文で公表された値の平均疎水性として計算し、側鎖の溶媒への曝露のレベルの関数で表現した。
【0226】
第15表: 疎水性パッチを撹乱するESBA105に導入された種々の可溶性突然変異
【表16】
【0227】
* 位置144での疎水性パッチは、データベース中に最も豊富な親水性残基によって交換されないが、Serについては、これは既にESBA105のCDRのドナー中に含まれていたからである。
【0228】
1列目、AHoナンバリングシステムでの残基位置。2列目、1列目に示される位置のドメイン。3列目、27個のPDBファイルから計算された平均溶媒到達可能領域。4列目、ESBA105における親の残基。5列目、AHoから検索された4列目の平均疎水性。6列目、1列目に示される位置での最も豊富な親水性残基。7列目、AHoから検索された6列目の平均疎水性。
【0229】
c) 可溶性ESBA105変異体の試験
可溶性突然変異を、単独で又は多重の組み合わせで導入し、そして再フォールディング率、発現、活性及び安定性並びに凝集パターンについて試験した。第16表は、可溶性への潜在的な寄与と、突然変異が抗原結合を変更する危険性のレベルとに基づいて最適化された各ESBA105変異体に導入される可溶性突然変異の様々な組合せを示している。
【0230】
第16表: ESBA105に関する可溶性変異体の設計
【表17】
【0231】
* 別個に第二回目で試験した。
【0232】
** 下線は、軽鎖と重鎖のそれぞれに含まれる突然変異の数を隔てている。
【0233】
1列目、AHoナンバリングシステムでの残基位置。2列目、1列目に示される位置のドメイン。3列目、ESBA105における種々の疎水性パッチでの親の残基。4列目、示された位置に可溶性突然変異を含む種々の突然変異。
【0234】
i. 可溶性測定
ESBA105及び変異体の最大可溶性を、遠心分離されたPEG−タンパク質混合物の上清中のタンパク質濃度を測定することによって決定した。20mg/mlの出発濃度を、30〜50%の飽和度の範囲のPEG溶液と1:1で混合した。これらの条件を、Log SのPeg濃度(%w/v)に対する線形依存性の実験的な測定後に野生型ESBA105について確認された可溶性プロフィールに基づき選択した。優れた可溶性を示した変異体ESBA105の幾つかの例の可溶性曲線を、図9に示す。可溶性値の完全なリストを、また第17表にも提供する。
【0235】
第17表: 該突然変異を親のESBA105と比較して推定される最大可溶性及び活性
【表18】
【0236】
ii. 熱安定性測定
親のESBA105についての熱安定性測定と可溶性の再調査を、FT−IR ATR分光分析法を用いて実施した。それらの分子を、広範な温度(25〜95℃)に熱負荷した。変性プロフィールは、インターフェログラム信号にフーリエ変換をかけることによって得られた(図10を参照)。該変性プロフィールを用いて、ボルツマンシグモイドモデルを適用することで、全てのESBA105変異体について熱的アンフォールディング転移の中心点(TM)を見積もった(第18表)。
【0237】
第18表: 全ての可溶性変異体についての熱的アンフォールディング転移の中心点(TM)
【表19】
【0238】
iii. 凝集測定
ESBA105及びその可溶性変異体を、また時間依存性試験で分析して、分解挙動と凝集挙動を評価した。この目的のために、可溶性タンパク質(20mg/ml)を、高められた温度(40℃)でリン酸緩衝液中でpH6.5でインキュベートした。対照サンプルを、−80℃に保持した。それらのサンプルを、2週間のインキュベート期間の後に、分解(SDS−PAGE)及び凝集(SEC)について分析した。これにより、分解を受けやすい変異体(図11を参照)又は可溶性もしくは不溶性の凝集物を形成する傾向を示す変異体(第19表を参照)の破棄が可能となった。
【0239】
第19表: 不溶性凝集測定
【表20】
【0240】
iv. 可溶性変異体の発現及び再フォールディング
それらの可溶性変異体を、また親のESBA105分子と比較して、発現及び再フォールディング率について試験した。これらの研究結果を、第20表に示す。
【0241】
第20表: 可溶性変異体の発現及び再フォールディング
【表21】
【0242】
全ての親水性の可溶性突然変異体は親のESBA105分子と比較して改善された可溶性を示したが、これらの分子の幾つかだけが他の生物物理学的特性について好適であることが示された。例えば、多くの変異体は、親のESBA105分子と比較して、低減された熱安定性及び/又は再フォールディング率を有した。特に、位置VL147での親水性置換は、安定性をひどく低下させた。従って、熱安定性に大きな影響を及ぼさない可溶性突然変異を組み合わせて、それらの特性の確認のために更なる熱ストレスを受けさせた。
【0243】
4種の異なる可溶性突然変異の組み合わせを含む3種の突然変異体(Opt1.0、Opt0.2及びVH:V103T)は、再現性、活性もしくは熱安定性に影響を及ぼすことなく、ESBA105の可溶性を大きく改善した。しかしながら、ESBA105においてOpt1.0とOpt0.2の組み合わされた突然変異を有する突然変異体(Opt1_2)は、40℃で2週間インキュベートした後に、高められた量の不溶性の凝集物を示した(第19表を参照)。これは、β−シートターンにおける位置VL15でのValの役割によって説明できる。それというのも、Valは、全てのアミノ酸のうちで最も高いβ−シート傾向を有するからである。この結果は、位置VL15での単独の可溶性突然変異が許容されるが、他の疎水性パッチを撹乱する可溶性突然変異体との組み合わせにおいては許容されないことを裏付けている。従って、Opt0_2及びVH:V103Tに含まれる突然変異は、scFv分子の可溶性特性を改善するために最良の性能を有するものとして選択された。
【0244】
例8: scFvの増強された可溶性及び安定性の生成
可溶性設計によって割り出されたESBA105変異体を、更に、クオリティー・コントロール(QC)アッセイによって割り出された安定化突然変異と置き換えることによって最適化した。前記の例7で割り出された可溶性突然変異の1〜3つを、QC7.1及び15.2で見出された全ての安定化突然変異(すなわちVLドメインにおけるD31N及びV83E並びにVHドメインにおけるV78A、K43及びF67L)と組み合わされて含む全部で4つの構築物を作製した。全ての最適化された構築物により、野生型scFvよりも高い可溶性を有するタンパク質が得られた(第20表を参照)。最良の構築物は、一貫して、野生型に対して可溶性について2倍より高い増大を示した。scFv分子の活性と安定性のいずれも、安定化突然変異と可溶性増強突然変異との組み合わせによって大きな影響を受けなかった。
【0245】
第21表: 最適化された可溶性及び安定性を有するscFv
【表22】
【0246】
全ての4つの変異体についての可溶性値を、scFvの可溶性に対する各突然変異の寄与の分析のために使用した。全ての突然変異は、これらの残基の幾つかが一次配列と3D構造の両者において互いに比較的近いにもかかわらず、scFvの可溶性に相加的に寄与すると思われた。その分析は、VHドメイン中の3つの可溶性増強突然変異(V12S、L144S、V103T(もしくはV103S))の組み合わせが、scFv可溶性の60%までの原因となることを示している。疎水性パッチは全てのイムノバインダーの可変ドメインで保存されているので、前記の最適な突然変異の組み合わせを使用して、事実上いかなるscFvも又は他のイムノバインダー分子の可溶性をも向上させることができる。
【0247】
等価物
当業者は、単に通常の実験を用いて、本願に記載される本発明の特定の実施態様に対する多くの等価物を認識し、又は確認することができる。斯かる等価物は、特許請求の範囲によって含まれると意図される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イムノバインダーにおける特定の位置での置換のための1もしくはそれより多くのアミノ酸残基を割り出す方法であって:
a)サブタイプにより群分けされたVH及び/又はVLのアミノ酸配列の第一のデータベースを提供する工程;
b)サブタイプにより群分けされ、かつ少なくとも1つの所望の機能特性を有するものとして選択されたVH及び/又はVLのアミノ酸配列の第二のデータベースを提供する工程;
c)第一のデータベースのフレームワーク位置と第二のデータベースの相応のフレームワーク位置でのアミノ酸残基についてのアミノ酸頻度を決定する工程;
d)該アミノ酸残基を、(i)該アミノ酸が1より大きい濃縮係数を有する場合に、イムノバインダーの相応のアミノ酸位置での置換のための好ましいアミノ酸残基として割り出し、又は(ii)該アミノ酸残基が1未満の濃縮係数を有する場合に、イムノバインダーの相応のアミノ酸位置で排除されるべきアミノ酸残基として割り出す工程
を含む前記方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、工程d)のアミノ酸残基が4〜6の濃縮係数を有する前記方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の方法において、第一のデータベースが、生殖細胞系のVH、VLもしくはVH及びVLのアミノ酸配列を含む前記方法。
【請求項4】
請求項1から3までのいずれか1項に記載の方法において、第一のデータベースが、生殖細胞系のVH、VLもしくはVH及びVLのアミノ酸配列からなる前記方法。
【請求項5】
請求項1から4までのいずれか1項に記載の方法において、第一のデータベースが、成熟のVH、VLもしくはVH及びVLのアミノ酸配列を含む前記方法。
【請求項6】
請求項1から5までのいずれか1項に記載の方法において、第一のデータベースが、成熟のVH、VLもしくはVH及びVLのアミノ酸配列からなる前記方法。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の方法において、成熟のVH、VLもしくはVH及びVLのアミノ酸配列が、Kabatデータベース(KDB)からの配列である前記方法。
【請求項8】
請求項1から7までのいずれか1項に記載の方法において、第二のデータベースが、QCアッセイから選択されたscFv抗体のVH、VLもしくはVH及びVLのアミノ酸配列を含む前記方法。
【請求項9】
請求項1から7までのいずれか1項に記載の方法において、第二のデータベースが、QCアッセイから選択されたscFv抗体のVH、VLもしくはVH及びVLのアミノ酸配列からなる前記方法。
【請求項10】
VH及び/又はVLのアミノ酸配列を有するイムノバインダーを改善する方法であって:
a)突然変異のための1もしくはそれより多くのフレームワークアミノ酸位置を割り出す工程;
b)工程a)で割り出されたそれぞれの特定のフレームワーク位置について、置換のために好ましいアミノ酸残基を割り出す工程;及び
c)それぞれの特定のフレームワーク位置のアミノ酸残基を、工程b)で割り出された好ましいアミノ酸残基へと突然変異させる工程
を含む前記方法。
【請求項11】
請求項10に記載の方法において、工程a)を、所定のフレームワーク位置での変動性の度合いを決定することによって実施する前記方法。
【請求項12】
請求項10又は11に記載の方法において、工程a)を、保存の度合いをシンプソンの指数を使用して各フレームワーク位置に割り当てることによって実施する前記方法。
【請求項13】
請求項10から12までのいずれか1項に記載の方法において、工程b)の好ましいアミノ酸残基を、請求項1から9までのいずれか1項に記載の方法により割り出す前記方法。
【請求項14】
重鎖可変領域もしくはそのフラグメント及び/又は軽鎖可変領域もしくはそのフラグメントを含むイムノバインダーの機能特性を改善するための方法であって:
a)該イムノバインダー内で突然変異のための1もしくはそれより多くのアミノ酸位置を選択すること;及び
b)突然変異のために選択された1もしくはそれより多くのアミノ酸位置を突然変異させること
を含み、
突然変異のために選択された1もしくはそれより多くのアミノ酸位置が重鎖アミノ酸位置である場合に、前記のアミノ酸位置は、AHoナンバリングを使用した位置1、6、7、10、12、13、14、19、20、21、45、47、50、55、77、78、82、86、87、89、90、92、95、98、103及び107(Kabatナンバリングを使用したアミノ酸位置1、6、7、9、11、12、13、18、19、20、38、40、43、48、66、67、71、75、76、78、79、81、82b、84、89及び93)からなる群から選択され、かつ
突然変異のために選択された1もしくはそれより多くのアミノ酸位置が軽鎖アミノ酸位置である場合に、前記のアミノ酸位置は、AHoナンバリングを使用した位置1、2、3、4、7、10、11、12、14、18、20、24、46、47、50、53、56、57、74、82、91、92、94、101及び103(Kabatナンバリングを使用したアミノ酸位置1、2、3、4、7、10、11、12、14、18、20、24、38、39、42、45、48、49、58、66、73、74、76、83及び85)からなる群から選択される前記方法。
【請求項15】
請求項14に記載の方法において、イムノバインダーが、VH3重鎖可変領域を含み、かつ突然変異のために選択された1もしくはそれより多くのアミノ酸位置が、AHoナンバリングを使用したVH3のアミノ酸位置1、6、7、89及び103(Kabatナンバリングを使用したアミノ酸位置1、6、7、78及び89)からなる群から選択される前記方法。
【請求項16】
請求項14に記載の方法において、イムノバインダーがVH1a重鎖可変領域を含み、かつ突然変異のために選択された1もしくはそれより多くのアミノ酸位置が、AHoナンバリングを使用したVH1aのアミノ酸位置1、6、12、13、14、19、21、90、92、95及び98(Kabatナンバリングを使用したアミノ酸位置1、6、11、12、13、18、20、79、81、82b及び84)からなる群から選択される前記方法。
【請求項17】
請求項14に記載の方法において、イムノバインダーがVH1b重鎖可変領域を含み、かつ突然変異のために選択された1もしくはそれより多くのアミノ酸位置が、AHoナンバリングを使用したVH1bのアミノ酸位置1、10、12、13、14、20、21、45、47、50、55、77、78、82、86、87及び107(Kabatナンバリングを使用したアミノ酸位置1、9、11、12、13、19、20、38、40、43、48、66、67、71、75、76及び93)からなる群から選択される前記方法。
【請求項18】
請求項14に記載の方法において、イムノバインダーがVκ1軽鎖可変領域を含み、かつ突然変異のために選択された1もしくはそれより多くのアミノ酸位置は、AHoナンバリングを使用したVκ1のアミノ酸位置1、3、4、24、47、50、57、91及び103(Kabatナンバリングを使用したアミノ酸位置1、3、4、24、39、42、49、73及び85)からなる群から選択される前記方法。
【請求項19】
請求項14に記載の方法において、イムノバインダーがVκ3軽鎖可変領域を含み、かつ突然変異のために選択された1もしくはそれより多くのアミノ酸位置が、AHoナンバリングを使用したVκ3のアミノ酸位置2、3、10、12、18、20、56、74、94、101及び103(Kabatナンバリングを使用したアミノ酸位置2、3、10、12、18、20、48、58、76、83及び85)からなる群から選択される前記方法。
【請求項20】
請求項14に記載の方法において、突然変異のために選択された1もしくはそれより多くのアミノ酸位置が、AHoナンバリングを使用したVλ1のアミノ酸位置1、2、4、7、11、14、46、53、82、92及び103(Kabatナンバリングを使用したアミノ酸位置1、2、4、7、11、14、38、45、66、74及び85)からなる群から選択される前記方法。
【請求項21】
請求項14から20までのいずれか1項に記載の方法において、突然変異が、更に、AHoナンバリングを使用したアミノ酸位置12、13及び144(Kabatナンバリングを使用したアミノ酸位置12、85及び103)からなる群から選択される重鎖アミノ酸位置の1もしくはそれより多くの(好ましくは全ての)鎖置換を含む前記方法。
【請求項22】
請求項14から21までのいずれか1項に記載の方法において、突然変異のために選択された1もしくはそれより多くのアミノ酸位置を、QCアッセイから選択された抗体配列における相応のアミノ酸位置で見出されたアミノ酸残基へと突然変異させる前記方法。
【請求項23】
請求項14から22までのいずれか1項に記載の方法において、突然変異のために選択された1もしくはそれより多くのアミノ酸位置を、請求項1から9までのいずれか1項に記載の方法により割り出されるアミノ酸残基へと突然変異させる前記方法。
【請求項24】
請求項1から23までのいずれか1項に記載の方法において、イムノバインダーが、scFv抗体、全長免疫グロブリン、Fabフラグメント、Dabもしくはナノボディーである前記方法。
【請求項25】
請求項1から9又は請求項14から24までのいずれか1項に記載の方法において、機能特性が、改善された安定性、改善された可溶性、非凝集、発現の改善、封入体精製工程に引き続く再フォールディング率における改善又は前記の改善の2もしくはそれより多くの組み合わせである前記方法。
【請求項26】
請求項25に記載の方法において、発現の改善が原核細胞において確認される前記方法。
【請求項27】
請求項1から9及び25から26までのいずれか1項に記載の方法において、機能特性が抗原結合親和性における改善ではないことを条件とする前記方法。
【請求項28】
請求項1から27までのいずれか1項に記載の方法により製造されたイムノバインダー。
【請求項29】
請求項28に記載のイムノバインダーと、製剤学的に認容性の担体とを含む組成物。
【請求項1】
イムノバインダーにおける特定の位置での置換のための1もしくはそれより多くのアミノ酸残基を割り出す方法であって:
a)サブタイプにより群分けされたVH及び/又はVLのアミノ酸配列の第一のデータベースを提供する工程;
b)サブタイプにより群分けされ、かつ少なくとも1つの所望の機能特性を有するものとして選択されたVH及び/又はVLのアミノ酸配列の第二のデータベースを提供する工程;
c)第一のデータベースのフレームワーク位置と第二のデータベースの相応のフレームワーク位置でのアミノ酸残基についてのアミノ酸頻度を決定する工程;
d)該アミノ酸残基を、(i)該アミノ酸が1より大きい濃縮係数を有する場合に、イムノバインダーの相応のアミノ酸位置での置換のための好ましいアミノ酸残基として割り出し、又は(ii)該アミノ酸残基が1未満の濃縮係数を有する場合に、イムノバインダーの相応のアミノ酸位置で排除されるべきアミノ酸残基として割り出す工程
を含む前記方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、工程d)のアミノ酸残基が4〜6の濃縮係数を有する前記方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の方法において、第一のデータベースが、生殖細胞系のVH、VLもしくはVH及びVLのアミノ酸配列を含む前記方法。
【請求項4】
請求項1から3までのいずれか1項に記載の方法において、第一のデータベースが、生殖細胞系のVH、VLもしくはVH及びVLのアミノ酸配列からなる前記方法。
【請求項5】
請求項1から4までのいずれか1項に記載の方法において、第一のデータベースが、成熟のVH、VLもしくはVH及びVLのアミノ酸配列を含む前記方法。
【請求項6】
請求項1から5までのいずれか1項に記載の方法において、第一のデータベースが、成熟のVH、VLもしくはVH及びVLのアミノ酸配列からなる前記方法。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の方法において、成熟のVH、VLもしくはVH及びVLのアミノ酸配列が、Kabatデータベース(KDB)からの配列である前記方法。
【請求項8】
請求項1から7までのいずれか1項に記載の方法において、第二のデータベースが、QCアッセイから選択されたscFv抗体のVH、VLもしくはVH及びVLのアミノ酸配列を含む前記方法。
【請求項9】
請求項1から7までのいずれか1項に記載の方法において、第二のデータベースが、QCアッセイから選択されたscFv抗体のVH、VLもしくはVH及びVLのアミノ酸配列からなる前記方法。
【請求項10】
VH及び/又はVLのアミノ酸配列を有するイムノバインダーを改善する方法であって:
a)突然変異のための1もしくはそれより多くのフレームワークアミノ酸位置を割り出す工程;
b)工程a)で割り出されたそれぞれの特定のフレームワーク位置について、置換のために好ましいアミノ酸残基を割り出す工程;及び
c)それぞれの特定のフレームワーク位置のアミノ酸残基を、工程b)で割り出された好ましいアミノ酸残基へと突然変異させる工程
を含む前記方法。
【請求項11】
請求項10に記載の方法において、工程a)を、所定のフレームワーク位置での変動性の度合いを決定することによって実施する前記方法。
【請求項12】
請求項10又は11に記載の方法において、工程a)を、保存の度合いをシンプソンの指数を使用して各フレームワーク位置に割り当てることによって実施する前記方法。
【請求項13】
請求項10から12までのいずれか1項に記載の方法において、工程b)の好ましいアミノ酸残基を、請求項1から9までのいずれか1項に記載の方法により割り出す前記方法。
【請求項14】
重鎖可変領域もしくはそのフラグメント及び/又は軽鎖可変領域もしくはそのフラグメントを含むイムノバインダーの機能特性を改善するための方法であって:
a)該イムノバインダー内で突然変異のための1もしくはそれより多くのアミノ酸位置を選択すること;及び
b)突然変異のために選択された1もしくはそれより多くのアミノ酸位置を突然変異させること
を含み、
突然変異のために選択された1もしくはそれより多くのアミノ酸位置が重鎖アミノ酸位置である場合に、前記のアミノ酸位置は、AHoナンバリングを使用した位置1、6、7、10、12、13、14、19、20、21、45、47、50、55、77、78、82、86、87、89、90、92、95、98、103及び107(Kabatナンバリングを使用したアミノ酸位置1、6、7、9、11、12、13、18、19、20、38、40、43、48、66、67、71、75、76、78、79、81、82b、84、89及び93)からなる群から選択され、かつ
突然変異のために選択された1もしくはそれより多くのアミノ酸位置が軽鎖アミノ酸位置である場合に、前記のアミノ酸位置は、AHoナンバリングを使用した位置1、2、3、4、7、10、11、12、14、18、20、24、46、47、50、53、56、57、74、82、91、92、94、101及び103(Kabatナンバリングを使用したアミノ酸位置1、2、3、4、7、10、11、12、14、18、20、24、38、39、42、45、48、49、58、66、73、74、76、83及び85)からなる群から選択される前記方法。
【請求項15】
請求項14に記載の方法において、イムノバインダーが、VH3重鎖可変領域を含み、かつ突然変異のために選択された1もしくはそれより多くのアミノ酸位置が、AHoナンバリングを使用したVH3のアミノ酸位置1、6、7、89及び103(Kabatナンバリングを使用したアミノ酸位置1、6、7、78及び89)からなる群から選択される前記方法。
【請求項16】
請求項14に記載の方法において、イムノバインダーがVH1a重鎖可変領域を含み、かつ突然変異のために選択された1もしくはそれより多くのアミノ酸位置が、AHoナンバリングを使用したVH1aのアミノ酸位置1、6、12、13、14、19、21、90、92、95及び98(Kabatナンバリングを使用したアミノ酸位置1、6、11、12、13、18、20、79、81、82b及び84)からなる群から選択される前記方法。
【請求項17】
請求項14に記載の方法において、イムノバインダーがVH1b重鎖可変領域を含み、かつ突然変異のために選択された1もしくはそれより多くのアミノ酸位置が、AHoナンバリングを使用したVH1bのアミノ酸位置1、10、12、13、14、20、21、45、47、50、55、77、78、82、86、87及び107(Kabatナンバリングを使用したアミノ酸位置1、9、11、12、13、19、20、38、40、43、48、66、67、71、75、76及び93)からなる群から選択される前記方法。
【請求項18】
請求項14に記載の方法において、イムノバインダーがVκ1軽鎖可変領域を含み、かつ突然変異のために選択された1もしくはそれより多くのアミノ酸位置は、AHoナンバリングを使用したVκ1のアミノ酸位置1、3、4、24、47、50、57、91及び103(Kabatナンバリングを使用したアミノ酸位置1、3、4、24、39、42、49、73及び85)からなる群から選択される前記方法。
【請求項19】
請求項14に記載の方法において、イムノバインダーがVκ3軽鎖可変領域を含み、かつ突然変異のために選択された1もしくはそれより多くのアミノ酸位置が、AHoナンバリングを使用したVκ3のアミノ酸位置2、3、10、12、18、20、56、74、94、101及び103(Kabatナンバリングを使用したアミノ酸位置2、3、10、12、18、20、48、58、76、83及び85)からなる群から選択される前記方法。
【請求項20】
請求項14に記載の方法において、突然変異のために選択された1もしくはそれより多くのアミノ酸位置が、AHoナンバリングを使用したVλ1のアミノ酸位置1、2、4、7、11、14、46、53、82、92及び103(Kabatナンバリングを使用したアミノ酸位置1、2、4、7、11、14、38、45、66、74及び85)からなる群から選択される前記方法。
【請求項21】
請求項14から20までのいずれか1項に記載の方法において、突然変異が、更に、AHoナンバリングを使用したアミノ酸位置12、13及び144(Kabatナンバリングを使用したアミノ酸位置12、85及び103)からなる群から選択される重鎖アミノ酸位置の1もしくはそれより多くの(好ましくは全ての)鎖置換を含む前記方法。
【請求項22】
請求項14から21までのいずれか1項に記載の方法において、突然変異のために選択された1もしくはそれより多くのアミノ酸位置を、QCアッセイから選択された抗体配列における相応のアミノ酸位置で見出されたアミノ酸残基へと突然変異させる前記方法。
【請求項23】
請求項14から22までのいずれか1項に記載の方法において、突然変異のために選択された1もしくはそれより多くのアミノ酸位置を、請求項1から9までのいずれか1項に記載の方法により割り出されるアミノ酸残基へと突然変異させる前記方法。
【請求項24】
請求項1から23までのいずれか1項に記載の方法において、イムノバインダーが、scFv抗体、全長免疫グロブリン、Fabフラグメント、Dabもしくはナノボディーである前記方法。
【請求項25】
請求項1から9又は請求項14から24までのいずれか1項に記載の方法において、機能特性が、改善された安定性、改善された可溶性、非凝集、発現の改善、封入体精製工程に引き続く再フォールディング率における改善又は前記の改善の2もしくはそれより多くの組み合わせである前記方法。
【請求項26】
請求項25に記載の方法において、発現の改善が原核細胞において確認される前記方法。
【請求項27】
請求項1から9及び25から26までのいずれか1項に記載の方法において、機能特性が抗原結合親和性における改善ではないことを条件とする前記方法。
【請求項28】
請求項1から27までのいずれか1項に記載の方法により製造されたイムノバインダー。
【請求項29】
請求項28に記載のイムノバインダーと、製剤学的に認容性の担体とを含む組成物。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公表番号】特表2010−532324(P2010−532324A)
【公表日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−513600(P2010−513600)
【出願日】平成20年6月25日(2008.6.25)
【国際出願番号】PCT/CH2008/000284
【国際公開番号】WO2009/000098
【国際公開日】平成20年12月31日(2008.12.31)
【出願人】(510000057)エスバテック アン アルコン バイオメディカル リサーチ ユニット エルエルシー (2)
【氏名又は名称原語表記】ESBATech, an Alcon Biomedical Research Unit LLC
【住所又は居所原語表記】Wagistrasse 21, CH−8952 Schlieren, Switzerland
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年6月25日(2008.6.25)
【国際出願番号】PCT/CH2008/000284
【国際公開番号】WO2009/000098
【国際公開日】平成20年12月31日(2008.12.31)
【出願人】(510000057)エスバテック アン アルコン バイオメディカル リサーチ ユニット エルエルシー (2)
【氏名又は名称原語表記】ESBATech, an Alcon Biomedical Research Unit LLC
【住所又は居所原語表記】Wagistrasse 21, CH−8952 Schlieren, Switzerland
【Fターム(参考)】
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