説明

単離されたスタフィロコッカス・シュードルグドゥネンシス

これまで未知のスタフィロコッカス(Staphylococcus)属であるスタフィロコッカス・シュードルグドゥネンシス(Staphylococcus pseudolugdunensis)の単離株を開示する。スタフィロコッカス・シュードルグドゥネンシスtuf遺伝子及び16s rRNAの配列並びにスタフィロコッカス・シュードルグドゥネンシスを他のブドウ球菌種から識別するための方法も開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は単離細菌、特にスタフィロコッカス(Staphylococcus)属の単離された細菌に関する。
【背景技術】
【0002】
ブドウ球菌種は一般に血液培養から単離され、多くの種は重要な病原体として知られている。スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)、特にメチシリン耐性スタフィロコッカス・アウレウス(MRSA)は世界中の病院で血液培養から単離されている強毒性病原体である(Deresinski,S.(2005)Clin.Infect.Dis.40:562−73.8)。スタフィロコッカス・エピデルミジス(Staphylococcus epidermidis)及び他のコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CoNS)は皮膚常在細菌叢の代表的メンバーであり、血液培養中に高頻度で存在する汚染物質とみなされている。しかし、CoNSに起因する感染症の発生率は世界中で増加しているため、迅速な臨床介入のために潜在的に病原性のスタフィロコッカス種と許容可能な皮膚汚染物質と適時に同定及び区別することが益々重要になっている。
【0003】
重要な病原性CoNSブドウ球菌種の1つはスタフィロコッカス・ルグドゥネンシス(Staphylococcus lugdunensis)である(Freney,J.ら(1988)Int.J.Syst.Bacteriol.38:168−172)。この微生物による感染の臨床徴候としては、膿瘍、髄膜炎、脳室腹腔シャント感染、脊椎椎間板炎、人工器官連結部感染、カテーテル関連菌血症及び心内膜炎が挙げられる(Castro,J.G.,and L.Dowdy(1999)Clin.Infect.Dis.28:681−2;Pareja,J.ら(1998)Ann.Intern.Med.128:603−4;Patel,R.ら(2000)J.Clin.Microbiol.38:4262−3)。スタフィロコッカス・ルグドゥネンシス感染はより傾向がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Deresinski,S.(2005)Clin.Infect.Dis.40:562−73.8
【非特許文献2】Freney,J.ら(1988)Int.J.Syst.Bacteriol.38:168−172
【非特許文献3】Castro,J.G.,and L.Dowdy(1999)Clin.Infect.Dis.28:681−2
【非特許文献4】Pareja,J.ら(1998)Ann.Intern.Med.128:603−4
【非特許文献5】Patel,R.ら(2000)J.Clin.Microbiol.38:4262−3。
【発明の概要】
【0005】
ATCCアクセション番号PTA−7961として。本発明は更に、配列番号1又は配列番号2の少なくとも約200個の連続残基を含む単離ポリヌクレオチドを提供し、更に、配列番号1若しくは配列番号2の少なくとも約300個の連続残基を含む単離ポリヌクレオチド又は配列番号1若しくは配列番号2の少なくとも約400個の連続残基を含む単離ポリヌクレオチドを含むことができる。ある態様において、配列番号1の少なくとも約200個の連続残基を含む単離ポリヌクレオチドはヌクレオチド位置660からヌクレオチド位置858までの残基を含むポリヌクレオチドを含むことができる。本発明の単離ポリヌクレオチドは更に、中ストリンジェント条件下で配列番号1又は配列番号2とハイブリド形成するポリヌクレオチドを含むことができる。
【0006】
臨床検体から単離されたスタフィロコッカス・ルグドゥネンシスからスタフィロコッカス・シュードルグドゥネンシス(Staphylococcus pseudolugdunensis)を識別する方法又は臨床単離株に由来する未知細菌株をスタフィロコッカス・シュードルグドゥネンシスとして同定する方法も本発明により提供され、前記方法は配列番号1の少なくとも200個の連続塩基対のヌクレオチド配列を未知細菌株のtuf遺伝子配列の対応領域のヌクレオチド配列と比較する段階を含み、未知細菌株が配列番号1の対応する少なくとも約200塩基対に対して少なくとも約97%の配列一致度、より好ましくは少なくとも約99%の配列一致度を示す場合にスタフィロコッカス・シュードルグドゥネンシスであると判断することができる。本発明の方法の1態様において、配列番号1の少なくとも約200塩基対は配列番号1のヌクレオチド位置660〜858を含む連続配列に対応するヌクレオチド配列を含む。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】類縁のスタフィロコッカス種及びコクリア(Kocuria)種のこれまで発表されている遺伝子配列に対して相同性をもつプロトタイプ単離株B006に由来する核酸配列の近接結合解析を示す系統樹である。系統解析は16S rRNA遺伝子全長配列に基づいて実施した。AB009941、AF322002、CP000029、D83358、X87754及びX87756は夫々スタフィロコッカス・ルグドゥネンシス、「スタフィロコッカス・ペッテンコフェリ」(“S.pettenkoferi”)、スタフィロコッカス・エピデルミジス、スタフィロコッカス・アウリクラリス(S.auricularis)、コクリア・バリウス(K.varius)及びコクリア・ロセウス(K.roseus)であった。目盛は系統間の相対距離を示す。
【図2】類縁のスタフィロコッカス種及びエンテロッカス(Enterococcus)種のこれまで発表されている遺伝子配列に対して相同性をもつプロトタイプ単離株B006に由来する核酸配列の近接結合解析を示す系統樹である。系統解析はtuf遺伝子全長配列に基づいて実施した。AJ938182、BA000017、BA000018、BA000033、BX571856、BX571857、CP000046、CP000253及びCP000255はいずれもスタフィロコッカス・アウレウスである。AE015929、AE016830、AP006716、AP008934及びCP000029は夫々スタフィロコッカス・エピデルミジス、エンテロッカス・フェカリス(E.faecalis)、スタフィロコッカス・ヘモリティクス(S.hemolyticus)、スタフィロコッカス・サプロフィチィクス(S.saprophyticus)及びスタフィロコッカス・エピデルミジスであった。目盛は系統間の相対距離を示す。
【図3】コアグラーゼ陰性スタフィロコッカス単離株のゲノムDNAのXbaI消化物のパルスフィールド電気泳動(PFGE)パターンの写真である。レーン1〜13は夫々スタフィロコッカス・ルグドゥネンシス(ATCC700328)、B006、B230、B060、B333、B277、B287、B292、B334、B354、B715、B739及びB837である。B230(レーン3)とB333(レーン5)は同一患者から16日間隔で回収した2個の単離株である。分子サイズはキロベースで表す。
【0008】
詳細な説明
本発明者らはこれまで未知のスタフィロコッカス種を単離し、スタフィロコッカス・ルグドゥネンシスと所定の特性が共通していることから、スタフィロコッカス・シュードルグドゥネンシスと命名した。しかし、スタフィロコッカス・ルグドゥネンシスと異なり、スタフィロコッカス・シュードルグドゥネンシスは有意に低病原性又は一般に非病原性である。
【0009】
スタフィロコッカス・シュードルグドゥネンシス細菌はコアグラーゼ陰性グラム陽性ブドウ球菌である。これらの細菌は非溶血性であり、カタラーゼ陽性であり、アルギニンジヒドロラーゼ陰性であり、ノボビオシンよりもポリミキシンBに対する耐性のほうが強い。また、ODC反応性が陽性であるという点で「スタフィロコッカス・ペッテンコフェリ」と一致せず、16s rRNAとtuf遺伝子の両者でヌクレオチド配列が相違するという点でスタフィロコッカス・シュードルグドゥネンシス及びコクリア・バリアンシ・ロセア(Kocuria variansi rosea)と一致しない。
【0010】
バンダービルト大学病院で2003年9月から2005年10月まで実施した試験期間中に、合計16個のPYR/ODC陽性ブドウ球菌単離株が血液培養から回収された。これらのうちの4個は更に表現型解析法によりスタフィロコッカス・ルグドゥネンシス[単離株2個]、スタフィロコッカス・エピデルミジス[1個]、及びスタフィロコッカス・アウリクラリス[1個]として同定され、この試験から除外された。残りの12個のブドウ球菌単離株は11人の患者から回収され、そのうち2個の単離株は同一患者から16日間隔で回収した。全12個の単離株は血液寒天プレート上で溶血反応せずに白色コロニーに成長した。これらの単離株はクランピング因子陰性であった。顕微鏡解析の結果、クラスター状の直径1μMのグラム陽性球菌であることが判明した。
【0011】
これらの12個の単離株の生化学的反応プロファイルを表1に示す。API STAPH(v4.0)同定システムによると、8個は当初同定できず、識別スコアが低く、4個は95.5〜99.6%の同定確率でコクリア・バリアンシ/ロセアとして同定された(表1)。全12個の単離株はゲンタマイシン、ミノサイクリン、リファンピン及びバンコマイシンに対して感受性であり、試験した他の抗生物質に対する感受性は多様であった(表2)。
【0012】
全12個の単離株はヌクレオチド位置8〜539に16S rRNA遺伝子の同一の部分配列を保有していた。プロトタイプ株B006の全長16S rRNA遺伝子は1556ヌクレオチドを含み、仮に割り当てた「スタフィロコッカス・ペッテンコフェリ」(AF322002,Trulzsch,K.ら(2002)Diagnostic Microbiol.Infect.Dis.43:175−82)と99.94%の類似度で近縁であった(図1)。B006単離株の16S rRNA遺伝子配列はスタフィロコッカス・ルグドゥネンシス(AB009941,97.45%)、スタフィロコッカス・アウリクラリス(D83358,97.64%)、スタフィロコッカス・エピデルミジス(CP000029,97.75%)、コクリア・バリアンス(Kocuria varians)(X87754,77.86%)及びコクリア・ロセア(Kocuria rosea)(X87756,78.49%)を含む表現型が類縁の他の種とは別に<98%の類似度でクラスターを形成した。
【0013】
全12個の単離株は更にヌクレオチド位置660〜858に同一の部分tuf遺伝子(200塩基対)も保有しており、スタフィロコッカス・ルグドゥネンシス(ATCC#700328)との差は8.6%であった。プロトタイプ株B006の全長tuf遺伝子は1,188ヌクレオチドを含み、RP62AとATCC12228の2個のスタフィロコッカス・エピデルミジス単離株に対して93.02%の類似度で最も近縁であった(図2)(Gill,S.R.ら(2005)J.Bacteriol.187:2426−38;Zhang,Y.Q.ら(2003)Mol.Microbiol.49:1577−93)。これらの単離株はスタフィロコッカス・ヘモリティクス(91.59%)、スタフィロコッカス・アウレウス(91.02〜91.22%)、スタフィロコッカス・サプロフィチィクス(90.35%)及びエンテロッカス・フェカリスを含む表現型が類縁の他の種とは別に82.67%の類似度でクラスターを形成した(Baba,T.ら(2002)Lancet 359:1819−27;Diep,B.A.ら(2006)Lancet 367:731−9;Gill,S.R.ら(2005)J.Bacteriol.187:2426−38;15,18,19,24,Zhang,Y.Q.ら(2003)Mol.Microbiol.49:1577−93)。
【0014】
これらの12個のODC/PYR陽性CoNSの近縁度をパルスフィールドゲル電気泳動(PFGE)により更に分析した。同一患者から16日間隔で回収した2個の単離株(B230とB333)を除く全単離株は類縁性がなかった。これらの2個の単離株は6バンド差未満のPFGEパターンを示し、疫学的に類縁であることが分かった(図3)。PFGEデータをまとめると、12個の単離株はこの種の11種類の異なる株に相当することが分かった。患者の医療記録によると、この2個の類縁単離株は静脈カテーテル関連感染の原因であるとみなされた(表3)。バンコマイシンを投与し、カテーテルを抜去した。患者は完全に回復した。
【0015】
これらの単離株を回収した11人の患者の医療記録を精査し、統計及び臨床情報を表3に示す。同一患者から16日間隔で回収した2個の単離株(B230とB333)が静脈カテーテル関連感染の原因となった病原体であるとみなされた。残りの10個の単離株は汚染物質であるとみなされた。2個の単離株が病原体とみなされた1症例と、単離株が汚染物質であるとみなされた10症例のうちの5症例を含む6症例(54.5%)にバンコマイシンを含む抗生物質を投与した(表3)。
【0016】
これらの12個の新規単離株はODC反応が陽性であるという点でスタフィロコッカス・ペッテンコフェリ(Trulzsch,K.H.ら.(2002)Diagn.Microbiol.Infect.Dis.43:175−182)と一致せず、16S rRNAとtuf遺伝子の両者でヌクレオチド配列が相違するという点でスタフィロコッカス・ルグドゥネンシス及びコクリア・バリアンス/ロセアと一致しなかった。本発明者らはこれらの単離株が血液培養の皮膚汚染物質としての他のCoNS種の大半に類似していると判断し、その生化学的反応に基づいてスタフィロコッカス・ルグドゥネンシスから区別しなかった。生化学的反応により裏付けられる特性、16S rRNA及びtuf遺伝子配列、並びに臨床徴候に基づき、本発明者らは新規ブドウ球菌種ととして「スタフィロコッカス・シュードルグドゥネンシス」を提唱し、B006株をそのプロトタイプとした。基準株B006は特許手続上の微生物の寄託の国際承認に関するブダペスト条約に基づき、2006年11月3日付けでAmerican Type Culture Collection(バージニア州、マナサス)に寄託し、アクセション番号ATCC PTA−7961を交付された。
【0017】
血液培養から回収した12個のPYR/ODC陽性ブドウ球菌単離株について、16S rRNAとtuf遺伝子の配列を比較解析した処、これらの単離株はスタフィロコッカス属内の新規種に相当することが判明した。この新規分類はPYR/ODC反応が陽性である点で黄色ブドウ球菌及び他の大半のCoNS種と相違する。また、マンノース、マルトース、ラクトース、トレハロース及びN−アセチルグルコサミンの酸性化が陰性又は低く、16S rRNA及びtuf遺伝子の配列の変動という点でスタフィロコッカス・ルグドゥネンシスと相違する。
【0018】
16S rRNA遺伝子配列解析は本試験で同定されたスタフィロコッカス・シュードルグドゥネンシス株を含む所定の新規ブドウ球菌株を種レベルで明確に識別するほど十分な識別能はなかった。延長因子Tuをコードするtuf遺伝子はペプチド鎖形成に関与しており、リボソームの一部である。これらの遺伝子は細菌ゲノムの必須成分であり、診断目的の好ましいターゲットである。種分化には数種のCoNS種間のtuf遺伝子の配列変動で十分である(Kontos,F.ら(2003)J.Microbiol.Methods 55:465−9.,21)。他の研究者による従来の試験ではCoNS種の同定法として3種類の遺伝子同定法を対比させ、16S rRNA、sodA遺伝子及びtuf遺伝子配列を比較しており、その結果、tuf遺伝子配列決定が3種類のうちで最も信頼性と再現性の高い方法であることが分かった(Heikens,E.ら(2005)J.Clin.Microbiol.43:2286−90)。全長tuf配列分析によると、種内の保存は極めて高い(例えば9個のスタフィロコッカス・アウレウス株間で99.98%、2個のスタフィロコッカス・エピデルミジス間で100.0%)。他方、異なるスタフィロコッカス種のtuf遺伝子配列間の相同度又は一致度は有意に低下する。新規に回収されたB006株の全長tuf遺伝子配列は系統解析により最もよく一致するもの(スタフィロコッカス・エピデルミジス)に対して93%の配列一致度を示した。tuf遺伝子内の核酸配列変動はスタフィロコッカス・シュードルグドゥネンシス、スタフィロコッカス・ルグドゥネンシス、並びに表現型が類縁の他のスタフィロコッカス種及びコクリア種を区別するための確実な手段となることが本発明者らにより明らかになった。
【0019】
このスタフィロコッカス・シュードルグドゥネンシスの分布と天然生息環境はまだ十分に分かっていない。ブドウ球菌は自然界に広く分布しているが、主に哺乳動物と鳥類の皮膚、皮膚腺及び粘膜に存在する。ブドウ球菌は一般にその宿主に対して良性又は共生関係であるが、皮膚バリアの外傷、注射針による接種、又は医療装置の直接移植により宿主組織に侵入すると、病原性になる場合がある。血液検体の採取に特別な注意を払わない場合には、皮膚常在細菌叢による血液汚染の危険が大きい。スタフィロコッカス・シュードルグドゥネンシスは他のCoNS種と同様に、ヒト皮膚表面の常在細菌叢の一部であると思われる。
【0020】
本発明者らの研究において、12個のスタフィロコッカス・シュードルグドゥネンシス単離株のうちの10個がその臨床的意義に基づいて皮膚汚染物質であるとみなされた。他方、5症例(50.0%)は当初にスタフィロコッカス・ルグドゥネンシスと同定されたので、バンコマイシン及び他の広域スペクトル抗生物質を投与した。従って、バンコマイシン等の広域で潜在的に毒性の抗生物質の過剰使用を制限するためには、臨床環境におけるスタフィロコッカス・シュードルグドゥネンシスの迅速な検出と識別が不可欠であると思われる。PYRとODCに対する二重陽性に基づく迅速同定による表現型解析法をマンノース発酵結果と組み合わせると、正確な同定が得られると思われる。しかし、マンノース発酵には一晩培養が必要である。tuf遺伝子を標的とするヌクレオチドプローブ等の分子法を利用すると、適時の正確で迅速な同定を助長することができる。
【0021】
本発明により提供されるスタフィロコッカス・シュードルグドゥネンシスはスタフィロコッカス・シュードルグドゥネンシス株B006 tuf遺伝子(配列番号1)に対して少なくとも約97%のtuf遺伝子配列一致度、より好ましくはATCC PTA−7961として寄託されたB006株に対して少なくとも約97%のtuf遺伝子配列一致度をもつ細菌及びその子孫を含む。本発明はスタフィロコッカス・シュードルグドゥネンシスの単離細菌株及び/又は生物学的に純粋な培養物を提供し、スタフィロコッカス・シュードルグドゥネンシスはAmerican Type Culture CollectionにATCC PTA−7961として寄託された培養物に相当するピロリドニルアリールアミダーゼ/オルニチンデカルボキシラーゼ陽性、カタラーゼ陽性、コアグラーゼ陰性ブドウ球菌種である。単離細菌株とはその天然環境からある程度精製されたものである。細菌の少なくとも約20%が1種類の細菌株に由来する場合に細菌の培養物は生物学的に純粋であるとみなされる。しかし、培養物は少なくとも33%純粋であることが好ましく、培養物は少なくとも45%純粋であることがより好ましく、培養物は少なくとも90%純粋であることが最も好ましい。
【0022】
本発明は更にスタフィロコッカス・シュードルグドゥネンシスのtuf遺伝子の配列(配列番号1)の少なくとも約100〜約1188塩基対及び/又は16s rRNAの配列(配列番号2)の少なくとも約100〜約1556塩基対を含む単離ポリヌクレオチド(DNA及び/又はRNA)配列を提供する。本発明のポリヌクレオチドはtuf又は16s rRNA遺伝子とこの遺伝子配列のN又はC末端に位置する他の任意アミノ酸をコードするDNA及び/又はRNAを含む。当然のことながら、核酸配列は配列番号1又は配列番号2のポリヌクレオチドの5’又は3’側に付加的残基を含んでいてもよい。ほぼいずれの長さの核酸フラグメントも利用することができ、プロモーター、ポリアデニル化シグナル、付加的制限酵素部位、マルチクローニング部位、他のコーディングセグメント等の他のDNA配列と組み合わせることができる。従って、全体は非常に多様となる。
【0023】
本発明は更に臨床単離株に由来するスタフィロコッカス・シュードルグドゥネンシスの同定方法も提供し、前記方法は未知細菌株のtuf遺伝子の全長又は少なくとも約200塩基対を配列決定する段階とおよびこの配列を配列番号1の対応領域と比較し、未知株と参照株B006の配列一致度百分率を決定する段階とを含み、配列番号1の対応領域に対して少なくとも約97%、より好ましくは少なくとも約99%の配列類似度又は配列一致度をもつものをスタフィロコッカス・シュードルグドゥネンシス種と同定することができる。
【0024】
あるいは、スタフィロコッカス・シュードルグドゥネンシスの同定方法は、未知細菌単離株のtuf遺伝子の少なくとも約200残基を含み、配列番号1を含むポリヌクレオチドと中ストリンジェント条件下でハイブリド形成するポリヌクレオチドを単離する段階を含み、中ストリンジェントハイブリド形成条件は分子生物学分野の当業者に公知である。例えば、中ストリンジェントハイブリド形成は25mM KPO(pH7.4)、5×SSC、5×デンハート溶液、50μg/mL変性超音波処理サケ精子DNA、50%ホルムアミド、10%デキストラン硫酸、及び1〜15ng/mLプローブ(約5×10cpm/μg)を含有するハイブリド形成溶液中で約42℃にて実施することができ、洗浄は2×SSCと0.1%ドデシル硫酸ナトリウムを含有する洗浄溶液中で約50℃にて実施する。ハイブリド形成はセンス又はアンチセンスのDNA、RNAを含むポリヌクレオチドで実施することができる。各種ハイブリド形成及び臨床単離株から微生物を同定するための他の試験法で使用する分子診断用プローブとして配列番号1の全部又は少なくとも約200bpの一部を使用することもでき、このような試験法は微生物同定分野の当業者に公知である。
【実施例】
【0025】
各々ピロリドニルアリールアミダーゼ/オルニチンデカルボキシラーゼ陽性であるが、翻訳延長因子Tuをコードするtuf遺伝子を標的とするスタフィロコッカス・ルグドゥネンシス特異的プライマー/プローブセットにより認識されない12個の血液培養由来ブドウ球菌単離株を特性決定した(Heikens,E.ら(2005)J.Clin.Microbiol.43:2286−90;Kontos,F.ら(2003)J.Microbiol.Methods 55:465−9;Martineau,F.ら(2001)J.Clin.Microbiol.39:2541−7)。これらの単離株は、臨床的に出現する他の一般的なブドウ球菌から、API STAPH同定システム(Brun,Y.ら(1990)J.Clin.Microbiol.8:503−8;5;Gemmell,C.G., and J.E.Dawson(1982)J.Clin.Microbiol.16:874−7;Layer,F.,B.ら(2006)J.Clin.Microbiol.44:2824−30)において使用されているものを含む生化学的反応に基づいて明確に区別することができない。臨床的に見ると、中心静脈カテーテル関連感染症の同一患者から16日間隔で回収した2個の単離株を除き、これらの単離株は主に皮膚汚染物質として挙動した。16S rRNAと延長因子Tu(tuf)遺伝子の配列解析を含む逐次遺伝子解析によると、これらの単離株は新規ブドウ球菌種であり、本発明者らはスタフィロコッカス・シュードルグドゥネンシス(S.pseudolugdunensis sp.nov)なる呼称を提唱した。
【0026】
細菌単離株と参照株
2003年9月から2005年10月までバンダービルト大学病院でBACTEC(登録商標)9240血液培養システム(Becton Dickinson Diagnostic Instrument Systems,Sparks,Md.)により回収したPYRとODCに二重陽性のスタフィロコッカス単離株を試験対象とした。American Type Culture Collection(ATCC,Manassas,Va.)からスタフィロコッカス・アウレウス(ATCC#35556)及びスタフィロコッカス・ルグドゥネンシス(#700328)の2個の類縁参照株を入手した。臨床単離株とATCC株を採取し、その後の試験に備えて7.5%グリセロールを添加した脳心臓浸出液(BHI)に−80℃で保存した。
【0027】
表現型同定
コロニーサイズと色素;嫌気性及び好気性増殖;クランピング因子、Staphaurexラテックス凝集(Murex Diagnostics Inc.,Norcross,GA)、ヘモリシン、オキシダーゼ、ODC,ウレアーゼ及びPYRの有無に基づく慣用法により先ず臨床単離株と参照単離株の両者を同定した(De Paulis,A.N.ら(2003)J.Clin.Microbiol.41:1219−24.,16,25,33)。API STAPH(bioMerieux Vitek,Inc.,Hazelwood,MO)を製造業者の指示に従って使用することにより種同定を更に確認した(Brun,Y.ら(1990)J.Clin.Microbiol.8:503−8;Chapin,K.,and M.Musgnug(2003)J.Clin.Microbiol.41:4324−7;Gemmell,C.G.,and J.E.Dawson(1982)J.Clin.Microbiol.16:874−7;Heikens,E.ら(2005)J.Clin.Microbiol.43:2286−90;Layer,F.,B.ら(2006)J.Clin.Microbiol.44:2824−30)。PYRとODCはスタフィロコッカス・アウレウス(ATCC# 25923)とスタフィロコッカス・ルグドゥネンシス(ATCC# 700328)を夫々陰性及び陽性対照として実施した。生化学的試験はD−グルコース、D−トレハロース、D−マンニトール、D−マンノース、キシロース、マルトース、ラクトース、スクロース、N−アセチルグルコサミン、ラフィノース、D−フルクトース、D−メリビオース、キシリトール及びα−メチルグルコサミンからの酸生成;硝酸還元;並びにアルカリホスファターゼ、アルギニンジヒドロラーゼ、ウレアーゼ及びアセトイン生成について実施した。キット説明書に推奨されているように補助試験を実施した(Chapin,K.,and M.Musgnug(2003)J.Clin.Microbiol.41:4324−7;Layer,F.ら(2006)J.Clin.Microbiol.44:2824−30)。ジョージア州、アトランタの米国疾病対策センター(United States Centers for Disease Control:CDC)により推奨されている表現型解析法を使用して、カタラーゼ、コアグラーゼ、D−グルコース、D−マンニトール、D−フルクトース、ガラクトース、ラクトース、マルトース、スクロース、D−トレハロース、キシロース、硝酸還元、アルギニンジヒドロラーゼ、ウレアーゼ、並びにノボビオシン及びポリミキシンB耐性を含む生化学反応をテネシー州、ナッシュビルのテネシー州衛生検査局(Tennessee Department of Health Laboratory Services)で更に確認した(Kloose,W.E.and T.L.Bannerman(1995)Staphylococcus and Micrococcus,p.282−298,in P.R.Murray ら.(編)Manual of Clinical Microbiology,第6版,American Society for Microbiology Press,Washington,D.C.;Kloose,W.E.and K.H.Schleifer(1975)J.Clin.Microbiol.1:82−88)。
【0028】
抗菌薬感受性試験
臨床検査標準協議会(Clinical and Laboratory Standards Institute)ガイドライン(CLSI Performance standards for antimicrobial disk susceptibility tests;Approved standard,第9版(2006)Clinical and Laboratory Standards Institute,Wayne,PA)に従い、アモキシシリン・クラブラン酸、セファゾリン、クリンダマイシン、エリスロマイシン、ゲンタマイシン、レボフロキサシン、ミノサイクリン、ペニシリン、リファンピン、トリメトプリム・スルファメトキサゾール(SXT)及びバンコマイシンに対するインビトロ抗菌薬感受性試験をディスク拡散法により実施した。
【0029】
16S rRNA遺伝子増幅及び配列決定
各精製細菌単離株1白金耳を蒸留水1mlに加えた。懸濁液を渦巻撹拌し、7分間95℃に加熱し、8,000×gで15秒間遠心し、上清1μlをPCR増幅に使用した。16S rRNA遺伝子のヌクレオチド位置5〜1,553の高度に保存されたプライマーセット(5’−TGG AGA GTT TGA TCC TGG CTC AG−3’及び5’−AAG GAG GTG ATC CAR CCG CA−3’;R=G又はA;夫々配列番号3及び4)を使用し、DNAフラグメントをPCRにより増幅した(Tang,Y.W.ら(1998)Clin.Infect.Dis.26:389−92)。従来記載されているようにABI PRISM 3730 DNAシーケンサー(Applied Biosystems,Foster City,CA)でPCRプライマー及び/又は数種類の追加の内部プライマーを使用して部分又は全長16S rRNA遺伝子配列を双方向に決定した(Tang,Y.W.ら(1998)J.Clin.Microbiol.36:3674−9;Tang,Y.W.ら(2000)J.Clin.Microbiol.38:1676−8)。
【0030】
tuf遺伝子増幅及び配列決定
GenBankで入手可能な13種類のブドウ球菌種(スタフィロコッカス・アウレウス9種,スタフィロコッカス・エピデルミジス2種,スタフィロコッカス・ヘモリティクス1種及びスタフィロコッカス・サプロフィチィクス1種)の全長tuf配列を取得し、整列させた(Baba,T.ら(2002)Lancet 359:1819−27;Diep,B.A.ら(2006)Lancet 367:731−9;Gill,S.R.ら(2005)J.Bacteriol.187:2426−38:Holden,M.T.ら(2004)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 101:9786−91:Kuroda,M.ら(2001)Lancet 357:1225−40;Kuroda,M.,A.ら(2005)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 102:13272−7;Takeuchi,F.ら(2005)J.Bacteriol.187:7292−308;Zhang,Y.Q.ら(2003)Mol.Microbiol.49:1577−93)。初代/プロトタイプ単離株B006の全長tuf遺伝子をPCRにより増幅するように縮重プライマーセット(5’−TAA GAA TAG GAG AGA TTT WAT AAT G−3’及び5’−AAA TTA TTC AAA GAT TWC WGT−3’,W=A又はT;夫々配列番号5及び6)を設計した。ABI PRISM 3730 DNAシーケンサー(Applied Biosystems,Foster City,CA)で4種類の内部プライマー(5’−AGA ATA GGA GAG ATT TWA TAA TGG−3’,5’−TCT GAC AAA CCA TTC ATG AT−3’,5’−CTT TGA TTT GAC CAC GTT C−3’及び5’−TTC AGT WAC AAC GCC TGA TC−3’;夫々配列番号7〜10)を使用してPCR増幅産物を双方向に配列決定した。保存プライマーセット(tuf−f,5’−TGG TCG TGG TAC TGT TGC TA−3’;tuf−r,5’−TTC ACG TGC AAT ACC ACG TA−3’;夫々配列番号11及び12)を使用して全単離株のヌクレオチド位置666〜858の部分tuf遺伝子(Martineau,F.ら(2001)J.Clin.Microbiol.39:2541−7)を増幅した。同一増幅用プライマーを使用して部分tuf遺伝子配列を決定した。
【0031】
系統解析
従来記載されているように、GenBank、リボソームデータベースプロジェクトIIサイト(http://rdp.cme.msu.edu/html/index.html)及びMicroSeq Database Library(Applied Biosystems,Foster City,CA)のBLASTクエリにより配列相同性検索を実施した(Tang,Y.W.ら(1998)J.Clin.Microbiol.36:3674−9;Tang,Y.W.ら(2000)J.Clin.Microbiol.38:1676−8)。DS Geneソフトウェア(バージョン1.5,Accelrys Inc.,San Diego,CA)を使用することにより近接結合解析を使用する系統解析を実施した。
【0032】
ヌクレオチド配列アクセション番号及び菌株寄託
部分又は全長16S rRNA遺伝子及びtuf遺伝子配列は夫々AY560519、DQ117531及びDQ117530としてGenBankデータベースに寄託した。スタフィロコッカス・シュードルグドゥネンシスのプロトタイプ株(B006)はテネシー州、ナッシュビルの48歳男性の血液から単離した。同菌株はブダペスト条約に基づき、2006年11月3日付けでバージニア州、マナサスのAmerican Type Culture Collectionに寄託し、アクセション番号ATCC PTA−7961を交付された。
【0033】
【表1】


【0034】
【表2】

【0035】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
単離されたスタフィロコッカス・シュードルグドゥネンシス(Staphylococcus pseudolugdunensis)の生物学的に純粋な培養物(前記培養物のサンプルはATCCアクセション番号PTA−7961として寄託されている。)。
【請求項2】
配列番号1の少なくとも約200個の連続残基を含む、単離されたポリヌクレオチド。
【請求項3】
配列番号1の少なくとも約300個の連続残基を含む、請求項2に記載の単離されたポリヌクレオチド。
【請求項4】
配列番号1の少なくとも約400個の連続残基を含む、請求項2に記載の単離されたポリヌクレオチド。
【請求項5】
配列番号1の少なくとも約200個の連続残基が残基660〜858を含む、請求項2に記載の単離されたポリヌクレオチド。
【請求項6】
ポリヌクレオチドが中ストリンジェント条件下で配列番号1とハイブリド形成する請求項2に記載の単離されたポリヌクレオチド。
【請求項7】
配列番号2の少なくとも約200個の連続残基を含む、単離されたポリヌクレオチド。
【請求項8】
配列番号2の少なくとも約300個の連続残基を更に含む、請求項7に記載の単離されたポリヌクレオチド。
【請求項9】
配列番号2の少なくとも約400個の連続残基を更に含む、請求項7に記載の単離されたポリヌクレオチド。
【請求項10】
単離ポリヌクレオチドが中ストリンジェント条件下で配列番号2とハイブリド形成する、請求項7に記載の単離されたポリヌクレオチド。
【請求項11】
配列番号1の少なくとも200個の連続塩基対のヌクレオチド配列を未知細菌株のtuf遺伝子配列の対応領域のヌクレオチド配列と比較する段階を含み、未知細菌株が配列番号1の対応する少なくとも約200塩基対に対して少なくとも約97%の配列一致度を示す場合にスタフィロコッカス・シュードルグドゥネンシスであると判断することができる、臨床検体から単離されたスタフィロコッカス・ルグドゥネンシス(Staphylococcus lugdunensis)からスタフィロコッカス・シュードルグドゥネンシス(Staphylococcus pseudolugdunensis)を識別する方法。
【請求項12】
細菌株が配列番号1の対応する少なくとも約200塩基対に対して少なくとも約99%の配列一致度を示す場合にスタフィロコッカス・シュードルグドゥネンシスであると判断することができる、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
配列番号1の少なくとも約200塩基対が配列番号1のヌクレオチド位置660〜858に対応する、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
配列番号1の少なくとも200個の連続塩基対のヌクレオチド配列を未知細菌株のtuf遺伝子配列の対応領域のヌクレオチド配列と比較する段階を含み、未知細菌株が配列番号1の対応する少なくとも約200塩基対に対して少なくとも約97%の配列一致度を示す場合にスタフィロコッカス・シュードルグドゥネンシスであると判断することができる、臨床単離株に由来する未知細菌株をスタフィロコッカス・シュードルグドゥネンシス(Staphylococcus pseudolugdunensis)として同定する方法。
【請求項15】
未知細菌株が配列番号1の対応する少なくとも約200塩基対に対して少なくとも約99%の配列一致度を示す場合にスタフィロコッカス・シュードルグドゥネンシスであると判断することができる、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
配列番号1の少なくとも約200塩基対が配列番号1のヌクレオチド位置660〜858に対応する請求項14に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2010−508848(P2010−508848A)
【公表日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−536312(P2009−536312)
【出願日】平成19年11月9日(2007.11.9)
【国際出願番号】PCT/US2007/023637
【国際公開番号】WO2008/143641
【国際公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【出願人】(504278938)バンダービルト・ユニバーシテイ (1)
【出願人】(509128993)ゲナコ・バイオメデイカル・プロダクツ・インコーポレイテツド (1)
【Fターム(参考)】