説明

印刷インクの凝集物破壊方法及び凝集物破壊機能付きインキング装置

【課題】 凝集物が除去された印刷インクを版にインキングできるようにする。
【解決手段】 ガイドレール2上を走行する版テーブル4の走行位置の上側に、インク掻き兼充填ブレード12とインク掻き兼戻しブレード11を、個別の昇降用アクチュエータ15と14により版テーブル4上に保持された版3の表面より離反した位置から接する位置まで独立して昇降駆動できるように設ける。更に、版テーブル4の移動と、各ブレード12と11の昇降を制御する制御器を備えて、凝集物破壊機能付きインキング装置Iを形成する。版3を保持した版テーブル4を往復移動させながら、版3に対し各ブレード12と11を交互に接触させて相対的に摺動させることで、版3上に供給された印刷インクとなるペースト17の凝集破壊処理を十分に行わせた後、インク掻き兼充填ブレード12により凝集破壊処理された印刷インクの版への充填を行わせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極パターンのような微細な印刷パターンを印刷するための版に、導電性ペーストのような印刷インクをインキングする際、印刷インク内に含まれる凝集物を破壊してインキングさせられるようにする印刷インクの凝集物破壊方法及び凝集物破壊機能付きインキング装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶ディスプレイ等の電極パターン(導電パターン)を所要の基板上に形成する手法として、金属蒸着膜のエッチング等による微細加工に代えて、導電性ペーストを印刷インクとして用いた印刷技術、たとえば、凹版オフセット印刷技術を用いて基板上に電極パターンを印刷して形成する手法が提案されてきている(たとえば、特許文献1、特許文献2参照)。
【0003】
更に、微細印刷を行うのに適した導電性ペーストとして、有機銀を使用したナノインクが注目されている。この有機銀を使用したナノインクは高価であるため、無駄になるインク量を低減させる観点からも凹版オフセット印刷が注目されている。
【0004】
ところで、上記有機銀を使用したナノインクは、凝集物が比較的生じ易いものとなっている。
【0005】
一方、上記液晶ディスプレイ等の電極パターンを基板に形成する場合は、線幅(電極幅)として、たとえば、10μm程度と微細なものが要求されることがある。
【0006】
そのために、印刷インクとして用いる上記導電性ペーストに凝集物が存在していると、線幅が10μm程度に設定してある細線の印刷を実施する場合に、印刷される細線の線幅が変化したり、印刷された細線における凝集物が存在している部分で電流の流れが変化する等の影響を及ぼす虞が懸念される。
【0007】
なお、グラビア印刷に用いる導電性ペーストを、ろ過手段でろ過するか、又は、撹拌しながらろ過することで、10μm以上の凝集物(凝集体)を除去するようにする手法は従来提案されている(たとえば、特許文献3参照)。
【0008】
又、インキングを行う際、1つの版に対して複数枚のブレードでインキングを行う手法も従来知られている(たとえば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第2797567号公報
【特許文献2】特許第3904433号公報
【特許文献3】特開2004−319172号公報
【特許文献4】特開2000−255025号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところが、上記特許文献3に示された導電性ペーストをろ過する手法では、10μm未満の凝集物は除去することができないという問題がある。
【0011】
しかも、上記特許文献3に示された手法では、導電性ペーストに含まれていた10μm以上の凝集物は、ろ過に用いたフィルタ(ろ材)上に残渣として残るため、無駄になってしまう。又、上記フィルタに吸着される導電性ペーストも無駄になってしまう。
【0012】
更に、ろ過処理後の導電性ペーストは、保管容器に詰めるようにしてあって、直ちに印刷に供する考えは示されていない。そのため、上記ろ過処理した導電性ペーストを保管容器に詰めてから、実際の印刷に供するまでの期間中に何等かの原因によって凝集物が再度生じ、この凝集物を含んだ導電性ペーストが印刷に使用されるようになる虞を解消できないという問題がある。
【0013】
なお、上記特許文献4に示されたものは、1つの版に対し複数枚のブレードを同じ方向に動かして、各ブレードでそれぞれ異なるインクのインキングを順次行うようにするための手法であって、1つの版に繰り返し摺動させるブレードによって同じインクを該版に対して繰り返し擦り付けるようにする考えは全く示されていない。
【0014】
そこで、本発明者等は、導電性ペースト等の印刷インクとして用いるペースト中に含まれている凝集物を破壊できるようにするための工夫、研究を重ねた結果、平板の表面でブレードを摺動させた状態で、上記ペーストを、上記平板の表面とブレードとの摺動部分を通過させるようにすれば、該ペースト中に含まれている数μm程度の凝集物をも破壊できることを見出して、本発明をなした。
【0015】
したがって、本発明の目的とするところは、導電性ペースト等のペースト状の印刷インク中に含まれている凝集物を破壊できて、当初の凝集物を含んだペースト状の印刷インクを無駄なく利用して、凝集物が除去された印刷インクを得ることができ、更に、該凝集物が除去された印刷インクを、直ちに印刷に供することができて、10μm程度の細線を備えた電極パターンのような微細な印刷パターンであっても、欠陥のない高精度な印刷を行うことが可能な印刷インクの凝集物破壊方法、及び、該方法の実施に用いる凝集物破壊機能付きインキング装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、上記課題を解決するために、請求項1に対応して、ガイドレールに沿って往復移動させる版テーブル上に保持した版の表面に、インク掻き兼充填ブレードとインク掻き兼戻しブレードを交互に接触させて相対的に摺動させる動作を繰り返すことで、該各ブレードと版との摺動部分にて該版上に供給されるペースト状の印刷インク中の凝集物を破壊させるようにする印刷インクの凝集物破壊方法とする。
【0017】
又、請求項2に対応して、ガイドレールに沿って走行する版テーブルの走行位置の上側に、インク掻き兼充填ブレードとインク掻き兼戻しブレードを配置すると共に、該各ブレードに個別の昇降用アクチュエータを備えて、該各ブレードを上記版テーブル上に保持された版の表面より上方に離反した退避位置から、上記版テーブル上の版の表面に接触する高さ位置まで独立して昇降駆動できるようにし、更に、上記版テーブルを上記各ブレードの下方位置で往復移動させながら、該版テーブル上の版に対し上記各ブレードを交互に接触させて相対的に摺動させる動作を繰り返させる制御器を備えて、上記版上に供給されるペースト状の印刷インクの上記版と各ブレードとの相対的な摺動部分での凝集破壊処理を行わせ、凝集破壊処理された印刷インクを、上記インク掻き兼充填ブレードにより上記版へ充填できるようにしてなる構成を有する凝集物破壊機能付きインキング装置とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、以下のような優れた効果を発揮する。
(1)ガイドレールに沿って往復移動させる版テーブル上に保持した版の表面に、インク掻き兼充填ブレードとインク掻き兼戻しブレードを交互に接触させて相対的に摺動させる動作を繰り返すことで、該各ブレードと版との摺動部分にて該版上に供給されるペースト状の印刷インク中の凝集物を破壊させるようにする印刷インクの凝集物破壊方法としてあるので、ペースト状の印刷インク中に含まれている凝集物を破壊することができて、当初の凝集物を含んだペーストを無駄なく利用して、凝集物が除去された印刷インクを得ることができる。更に、上記印刷インク中の凝集物の破壊処理を版上で行なうことができるため、上記凝集物の破壊処理が行われた印刷インクを直ちに版に充填して印刷に供することが可能になる。
(2)ガイドレールに沿って走行する版テーブルの走行位置の上側に、インク掻き兼充填ブレードとインク掻き兼戻しブレードを配置すると共に、該各ブレードに個別の昇降用アクチュエータを備えて、該各ブレードを上記版テーブル上に保持された版の表面より上方に離反した退避位置から、上記版テーブル上の版の表面に接触する高さ位置まで独立して昇降駆動できるようにし、更に、上記版テーブルを上記各ブレードの下方位置で往復移動させながら、該版テーブル上の版に対し上記各ブレードを交互に接触させて相対的に摺動させる動作を繰り返させる制御器を備えて、上記版上に供給されるペースト状の印刷インクの上記版と各ブレードとの相対的な摺動部分での凝集破壊処理を行わせ、凝集破壊処理された印刷インクを、上記インク掻き兼充填ブレードにより上記版へ充填できるようにしてなる構成を有する凝集物破壊機能付きインキング装置とすることにより、ペースト状の印刷インク中に含まれている凝集物を破壊することができて、当初の凝集物を含んだペーストを無駄なく利用して、凝集物が除去された印刷インクを得るための装置構成を容易に実現できる。
(3)更に、上記凝集物が除去された状態となる印刷インクを、直ちに印刷に供することができるため、印刷インクに凝集物が再発生する虞を解消できる。よって、10μm程度の細線を備えた電極パターンのような微細な印刷パターンであっても、印刷パターンの線幅に凝集物による影響が生じたり、印刷した細線の電流の流れが凝集物によって変化する等の欠陥のない高精度な印刷を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の凝集物破壊機能付きインキング装置の実施の一形態を示す概略側面図である。
【図2】図1の装置に備えるコントローラの制御構成を示す概要図である。
【図3】図1の装置を適用したオフセット印刷装置の全体構造を示す概略側面図である。
【図4】図1の装置により本発明の印刷インクの凝集物破壊方法及びインキングを行う手順を示すもので、(イ)は版の所定個所にインク掻き兼充填ブレードを接触させた状態を、(ロ)は版を保持した版テーブルを移動させて、インク掻き兼充填ブレードを版の表面に相対的に摺動させる状態を、(ハ)はインク掻き兼充填ブレードによる版の表面の相対的な摺動を終了した状態をそれぞれ示す概略側面図である。
【図5】図1の装置により本発明の印刷インクの凝集物破壊方法を行う手順として、図4(ハ)に続く手順を示すもので、(イ)は版の所定個所にインク掻き兼戻しブレードを接触させた状態を、(ロ)は版を保持した版テーブルを移動させて、インク掻き兼戻しブレードを版の表面に相対的に摺動させる状態を、(ハ)はインク掻き兼戻しブレードによる版の表面の相対的な摺動を終了した状態をそれぞれ示す概略側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための形態を図面を参照して説明する。
【0021】
図1乃至図5(イ)(ロ)(ハ)は本発明の印刷インクの凝集物破壊方法及び凝集物破壊機能付きインキング装置の実施の一形態として、たとえば、図3に示す如き形式のオフセット印刷装置に適用する場合を示すもので、以下のようにしてある。
【0022】
すなわち、ここで、先ず図3に示したオフセット印刷装置について概説すると、該オフセット印刷装置は、架台1と、該架台1上に設けたガイドレール2と、該ガイドレール2に沿って図示しない個別の駆動装置により独立して往復動(走行)できるようにした版3を保持する版テーブル4及び基板等の印刷対象5を保持する印刷対象テーブル6を備える。
【0023】
更に、上記架台1上におけるガイドレール2の長手方向の中間部と対応する個所には、回転用駆動モータ9により回転駆動されるブランケットロール8を昇降駆動装置10により昇降可能に備えた転写機構部7を設けてなる構成としてあり、これにより、上記転写機構部7のブランケットロール8を上記ガイドレール2上を走行する版テーブル4上に保持させたインキング済みの版3に上方より接触させ、次いで、上記ブランケットロール8を上記ガイドレール2上を走行する印刷対象テーブル6上に保持させた印刷対象5に上方より接触させることで、上記版3からブランケットロール8への転写(受理)と、該ブランケットロール8から印刷対象5への再転写(印刷)を行わせることができるようにしてある。
【0024】
上記構成としてあるオフセット印刷装置に適用する本発明の凝集物破壊機能付きインキング装置は、図1及び図3に符号Iで示すように、上記オフセット印刷装置の架台1上における上記版テーブル4の走行可能範囲内の所要個所、たとえば、上記転写機構部7よりガイドレール2の長手方向一端部側(図上左側)へ所要寸法離れた個所に、インク掻き兼戻しブレード11と、インク掻き兼充填ブレード12を、上記ガイドレール2に沿って移動する版テーブル4上の版3の表面高さ位置よりも所要寸法上方となる退避高さ位置にガイドレール2の長手方向一端部側から順に配置して、支持フレーム13によりそれぞれ支持させる。
【0025】
更に、上記各ブレード11,12には、個別の昇降用アクチュエータ14,15をそれぞれ装備して、該各昇降用アクチュエータ14と15により、各々対応するブレード11,12を、上記した退避高さ位置よりブレード下端が上記版テーブル4上に保持された版3の表面に接するようになる高さ位置まで個別に下降させることができるようにする。
【0026】
更に、図2に示すように、上記架台1上に設けた図示しないリニアスケール等の版テーブル4の位置検出機構より入力される上記版テーブル4の上記ガイドレール2の長手方向に関する位置の検出信号を基に、該版テーブル4に対してテーブル位置の制御指令C1を与えるテーブル位置制御部16aと、上記各ブレード11,12の各昇降用アクチュエータ14,15に個別のブレード昇降作動指令C2,C3を与えるブレード制御部16bを有し、且つ上記テーブル位置制御部16aとブレード制御部16bを同期制御することで、後述する凝集物破壊処理とインキング処理とを行うための制御器16を備えた構成とする。
【0027】
以下、詳述する。なお、説明の便宜上、上記本発明の凝集物破壊機能付きインキング装置Iの上記インク掻き兼充填ブレード12を用いて版テーブル4上の版3に対してインキングするときに、該版3を版テーブル4と一緒に上記ガイドレール2の長手方向他端側へ移動させるときの移動方向(図上右方向)を、インキング用移動方向と云い、上記版3を版テーブル4と一緒に上記インキング用移動方向とは逆方向となる上記ガイドレール2の長手方向一端側へ移動させるときの移動方向(図上左方向)を、版戻し用移動方向と云うものとする。
【0028】
上記インク掻き兼充填ブレード12は、上端部よりも下端部がガイドレール2の長手方向他端部寄りに位置するように傾斜させた角度姿勢としてある。これにより、版3を保持した版テーブル4を図4(イ)に示すような所定位置に配置した状態で、該インク掻き兼充填ブレード12を、対応する昇降用アクチュエータ15により下降させて上記版テーブル4上の版3の表面におけるインキング用移動方向の上流側端縁部(図上右端縁部)に接触させ、この状態で、上記版テーブル4の走行により版3をインキング用移動方向へ移動させることにより、図4(ロ)に示すように、該インク掻き兼充填ブレード12のブレード下端を上記版3の表面に沿わせて相対的に摺動させることができるようにしてあり、この相対的な摺動により、上記版3上に載置されている導電性ペーストのような印刷インクとしてのペースト17を、上記版3に刻設されている印刷パターンの凹部分へ効率よく充填できるようにしてあると共に、版3の表面より余剰のペースト17を掻いて、該余剰ペースト17を、図4(ハ)に示すように、上記版3上におけるインキング用移動方向の下流側端部寄り個所へ掻き寄せることができるようにしてある。更に、上記版3とインク掻き兼充填ブレード12との摺動部分を通るペースト17については、該ペースト17中に含まれている凝集物を、数μm程度のものであってもすり潰すようにして破壊することができるようにしてある。
【0029】
上記インク掻き兼戻しブレード11は、上端部よりも下端部がガイドレール2の長手方向一端部寄りに位置するように傾斜させた角度姿勢としてある。これにより、版3を保持した版テーブル4を図5(イ)に示すような所定位置に配置した状態で、該インク掻き兼戻しブレード11を、対応する昇降用アクチュエータ14により下降させて上記版テーブル4上の版3の表面における版戻し用移動方向の上流側端縁部(図上左端縁部)に接触させ、この状態で、上記版テーブル4の走行により版3を版戻し用移動方向へ移動させることにより、図5(ロ)に示すように、該インク掻き兼戻しブレード11のブレード下端を上記版3の表面に沿わせて相対的に摺動させることができるようにしてあり、この相対的な摺動により、上記インク掻き兼充填ブレード12によって上記版3におけるインキング用移動方向の下流側端部寄り個所、すなわち、上記版戻し用移動方向の上流側端部寄り個所に掻き寄せられた上記ペースト17を掻いて、上記版3に沿って刻設されている印刷パターンの凹部分へ押し込むと共に、版3の表面より余剰のペースト17を掻いて、該余剰ペースト17を、図5(ハ)に示すように、上記版3上における版戻し用移動方向の下流側端部寄り個所、すなわち、上記インキング用移動方向の上流側端部寄り個所へ掻き寄せることができるようにしてある。更に、上記版3とインク掻き兼戻しブレード11との摺動部分を通るペースト17については、該ペースト17中に含まれている凝集物を、数μm程度のものであってもすり潰すようにして破壊することができるようにしてある。
【0030】
上記制御器16には、上記した版3上における各ブレード11,12の相対的な摺動による凝集物の破壊処理の進行状況を、たとえば、上記各ブレード11,12による上記版3に対する相対的な摺動の回数や、処理時間を計測することで検出するための処理状況検出部16cと、予め本発明の凝集物破壊機能付きインキング装置Iを用いた実験等により上記版3上に供給されるペースト17の量等に応じて、版3上に供給されたペースト17全体について凝集物が十分に破壊されるようになるまでに必要となる上記版3上での各ブレード11,12の摺動回数や処理時間の条件のデータを必要処理条件として蓄積したデータベース16dと、上記処理状況検出部16cで検出される凝集物破壊処理の進行状況が、上記データベース16dに蓄積されている必要処理条件に達したか否かを判断して、上記凝集物破壊処理の進行状況が必要処理条件に達していない場合は、図4(イ)(ロ)(ハ)及び図5(イ)(ロ)(ハ)に示した手順を交互に行わせることで、上記版テーブル4を、上記各ブレード11,12の下方位置で往復移動させながら、上記各ブレード11と12を上記往復移動する版テーブル4上に保持された版3の表面に交互に接触させて相対的に摺動させることで、該版3上に載置されたペースト17の凝集物破壊処理を継続して行わせ、一方、上記凝集物破壊処理の進行状況が必要処理条件に達した場合は、上記図4(イ)(ロ)(ハ)に示した手順を1回のみ行わせるように切替えて、上記版テーブル4上に保持させた版3の印刷パターンの凹部へ上記凝集物破壊処理が行われたペースト17を充填すると共に、余剰のペースト17を版3の表面より掻き取ることで、該版3に対するインキング処理を行わせるための動作切替え部16eを備えた構成としてある。
【0031】
以上の構成としてある本発明の凝集物破壊機能付きインキング装置Iを使用して本発明の印刷インクの凝集物破壊方法を実施する場合は、予め版テーブル4上に版3を保持させた状態とし、この版3を保持した版テーブル4を、上記本発明の凝集物破壊装置機能付きインキング装置Iまで移動させる。
【0032】
この状態で、上記版3上に印刷インクとするペースト17が新たに供給されると、上記制御器16のテーブル位置制御部16aとブレード制御部16bの同期制御により、上記図4(イ)(ロ)(ハ)に示した動作と図5(イ)(ロ)(ハ)に示した動作を交互に行わせることで、往復移動する版テーブル4上に保持された版3の表面に対して、上記各ブレード11,12を交互に相対的に摺動させることで、該摺動部分にて、版3上に載置されたペースト17の凝集物破壊処理が行われるようにする。
【0033】
その後、制御器16の処理状況検出部16cで、上記各ブレード11,12による上記版3に対する相対的な摺動の回数や処理時間を基に検出される凝集物破壊処理の進行状況が、データベース16dに蓄積されている必要処理条件に達するまでの期間は、上記図4(イ)(ロ)(ハ)と図5(イ)(ロ)(ハ)に示した動作を継続して交互に行わせる。これにより、上記版3上に供給されたペースト17の反復した凝集物破壊処理が継続して行われるようになる。よって、上記ペースト17中に含まれていた凝集物は、数μm程度のものであっても、その破壊処理が行われるようになる。
【0034】
なお、上記ペースト17中の凝集物のサイズが版3の印刷パターンの線幅よりも小さい場合は、該凝集物が、上記版3の印刷パターンの凹部に入ることがあると考えられるが、このように版3の印刷パターンの凹部に入った凝集物は、上記ブレード11や12が版3の表面を摺動するときに、該版3の印刷パターンの凹部へ新たに押し込まれるペースト17によって該凹部より順次押し出されて上記ブレード11や12と版3との摺動部分での破壊処理に供されるか、あるいは、上記ブレード11,12によって版3の印刷パターンの凹部にペースト17が押し込まれるときの圧力変動による破壊処理等が行われることで、上記版3の印刷パターンの凹部に未破壊の凝集物が堆積する虞はない。
【0035】
上記制御器16の処理状況検出部16cで上記各ブレード11,12による上記版3に対する相対的な摺動の回数や処理時間を基に検出される凝集物破壊処理の進行状況が、データベース16dに蓄積されている必要処理条件に達すると、該制御器16の動作切替え部16eの作動により、上記本発明の印刷インクの凝集物破壊方法による凝集物破壊処理を終了する。次いで、上記図4(イ)(ロ)(ハ)に示した手順の処理を1回行わせることで、上記版テーブル4上に保持させた版3の印刷パターンの凹部に、上記凝集物破壊処理が十分に行われたペースト17を充填させる共に、余剰のペースト17を版3の表面より掻き取ることで、該版3に適正なインキングが行われるようになる。
【0036】
上記のようにして凝集物破壊処理が行われたペースト17が版3にインキングされると、該インキングされた版3は、上記版テーブル4の走行により速やかに転写機構部7へ送られて、ブランケットロール8への転写(受理)に供されるようになる。
【0037】
上記転写機構部7でブランケットロール8への転写(受理)に供された後の版3は、上記版テーブル4の走行により上記本発明の凝集物破壊機能付きインキング装置Iまで戻された時点で、上記図5(イ)(ロ)(ハ)に示した手順の処理が1回行われて、上記版3上における版戻し用移動方向の上流側端部寄り個所、すなわち、上記インキング処理によって、インキング用移動方向の下流側端部寄り個所へ掻き寄せられている既存のペースト17を、上記インキング用移動方向の上流側端部より個所まで戻すようにしてある。
【0038】
その後は、上記図4(イ)(ロ)(ハ)に示した動作と図5(イ)(ロ)(ハ)に示した動作の交互動作によるペースト17の凝集物破壊処理を、所要の時間間隔で定期的に、あるいは、毎回短時間行ってから、上記した版3へのインキング動作を行った後、上記と同様に、該インキングされた版を版テーブル4の走行により速やかに転写機構部7へ送って、ブランケットロール8への転写(受理)に供させる工程を繰り返すようにすればよい。
【0039】
更に、上記ペースト17を補充した場合は、上記図4(イ)(ロ)(ハ)に示した動作と図5(イ)(ロ)(ハ)に示した動作の交互動作によるペースト17の凝集物破壊処理を十分に行ってから、上記した版3へのインキング動作を行うようにすればよい。
【0040】
このように、本発明の印刷インクの凝集物破壊方法及び凝集物破壊機能付きインキング装置Iによれば、印刷インクとして用いるペースト17中に含まれている凝集物を10μm未満のものまで破壊することができて、当初の凝集物を含んだペースト17を無駄なく利用して、凝集物が除去されたペースト17を得ることができる。
【0041】
更に、上記ペースト17の凝集物破壊処理を版3上で行うようにしてあることから、凝集物が除去された状態となるペースト17は、直ちに上記版3へインキングして印刷に供することができるため、貯蔵中のようなペースト17に凝集物が再発生する虞を解消でき、よって、10μm程度の細線を備えた電極パターンのような微細な印刷パターンであっても、印刷パターンの線幅に凝集物による影響が生じたり、印刷した細線の電流の流れが凝集物によって変化する等の欠陥のない高精度な印刷を行うことが可能となる。
【0042】
なお、本発明は上記実施の形態のみに限定されるものではなく、上記実施の形態では、版3の印刷パターンが設けてある該版3としての有効範囲の表面に対して上記各ブレード11,12を交互に相対的に摺動させることでペースト17中の凝集物の破壊を行わせるものとして示したが、上記版3の表面における印刷パターンが設けてある版3としての有効範囲の版テーブル4移動方向の片側に、印刷パターンが形成されていない平坦な表面部を設けて、該平坦な表面部に対して上記各ブレード11,12を交互に摺動させることで、該部分に供給されたペースト17を予め凝集破壊処理し、その後、該凝集破壊処理が十分に行われたペースト17を、上記いずれかのブレード11又は12により掻くことで、版3の印刷パターンが設けてある有効範囲まで送って、該印刷パターンの凹部に充填させるようにしてもよい。
【0043】
上記においては、インク掻き兼充填ブレード12とインク掻き兼戻しブレード11を1枚ずつ設ける構成として示したが、上記インク掻き兼充填ブレード12とインク掻き兼戻しブレード11の一方又は双方を複数枚備える構成としてもよい。更に、この場合、複数枚とするインク掻き兼充填ブレード12及び又はインク掻き兼戻しブレード11の個々のブレード12と11を、異なる角度姿勢とした構成としてもよい。
【0044】
印刷インクとしては、凝集物を除去した状態で版へのインキング及び印刷に供することが要求されるペースト状の印刷インクであれば、電極パターンの印刷に用いられる有機銀を使用したナノインクのような導電性ペースト以外のいかなるペースト状の印刷インクの凝集物の破壊処理及びインキングに適用してもよい。
【0045】
その他本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0046】
I 凝集物破壊機能付きインキング装置
2 ガイドレール
4 版テーブル
11 インク掻き兼戻しブレード
12 インク掻き兼充填ブレード
14 昇降用アクチュエータ
15 昇降用アクチュエータ
16 制御器
17 ペースト(印刷インク)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガイドレールに沿って往復移動させる版テーブル上に保持した版の表面に、インク掻き兼充填ブレードとインク掻き兼戻しブレードを交互に接触させて相対的に摺動させる動作を繰り返すことで、該各ブレードと版との摺動部分にて該版上に供給されるペースト状の印刷インク中の凝集物を破壊させるようにすることを特徴とする印刷インクの凝集物破壊方法。
【請求項2】
ガイドレールに沿って走行する版テーブルの走行位置の上側に、インク掻き兼充填ブレードとインク掻き兼戻しブレードを配置すると共に、該各ブレードに個別の昇降用アクチュエータを備えて、該各ブレードを上記版テーブル上に保持された版の表面より上方に離反した退避位置から、上記版テーブル上の版の表面に接触する高さ位置まで独立して昇降駆動できるようにし、更に、上記版テーブルを上記各ブレードの下方位置で往復移動させながら、該版テーブル上の版に対し上記各ブレードを交互に接触させて相対的に摺動させる動作を繰り返させる制御器を備えて、上記版上に供給されるペースト状の印刷インクの上記版と各ブレードとの相対的な摺動部分での凝集破壊処理を行わせ、凝集破壊処理された印刷インクを、上記インク掻き兼充填ブレードにより上記版へ充填できるようにしてなる構成を有することを特徴とする凝集物破壊機能付きインキング装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2010−284872(P2010−284872A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−140078(P2009−140078)
【出願日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【出願人】(000198318)株式会社IHI検査計測 (132)
【Fターム(参考)】