説明

印刷システム、印刷方法およびレンズシート

【課題】補完された画素が筋として視認されること、画素の除去部位が筋として視認されることのうち少なくとも一方を防止可能な印刷システム、印刷方法およびレンズシートを提供する。
【解決手段】一方向を長手とする複数の凸レンズ11を有するレンズシート10に印刷する印刷システム20であり、レンズシート10に印刷を行う印刷手段44と、印刷手段44を制御する制御部55と、を具備し、制御部55は、複数の凸レンズ11に対するレンズ分配画像が実際のレンズピッチと異なる所定のピッチに基づくものである場合、一方向に沿うと共に一方向と直交する方向で散在する位置においてレンズ分配画像を構成する画素を凸レンズ11の隣接部から所定範囲内で補完するか又は除去するかの少なくとも一方を伴う補修に基づき印刷を行うよう印刷手段44を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷システム、印刷方法およびレンズシートに関する。
【背景技術】
【0002】
視認される画像が立体視されたり、見る角度を変えることで視認される画像を切り替える(指向性を有するものとする)ために、多数のシリンドリカル凸レンズ(レンチキュラーレンズともいう;以下、凸レンズとする)が並列配置されたレンズシートに、印刷画像を形成することが行われている。この印刷画像においては、凸レンズのピッチに対応させたレンズ分配画像が凸レンズの並びの方向に配列されている。なお、それぞれのレンズ分配画像内には、視差や画像の切り替えに対応させたストライプ状の細分化画像が、それぞれの凸レンズのピッチ内に多数並べて記録されている。
【0003】
ところで、レンズシートは、一般には透明な樹脂を材質として形成されているが、そのような材質で製造されるレンズシートにおいては、製造された凸レンズのピッチが所望するピッチと完全には一致せずに、若干のずれ(誤差)が存在するのが通常である。そのようなずれ(誤差)が凸レンズの並びの方向に累積していくと、本来位置すべきところに細分化画像が位置せず、ユーザーが視認する場合に、立体視や画像の切り替わりが良好とならない、という不具合がある。このような不具合を解消するために、凸レンズのピッチの方がレンズ分配画像のピッチよりも大きい場合、現状は、ある基準位置から凸レンズのピッチのずれを累積していき、そのずれが所定以上となったところのレンズ分配画像に、ライン状に並べられた画素(以下、ズレ補完画素とする)を補完している。また、凸レンズのピッチの方がレンズ分配画像のピッチよりも小さい場合、レンズ分配画素からライン状に画素を除去している。
【0004】
なお、レンズシートへの印刷に関する先行技術文献としては、特許文献1〜3に開示のものがある。この特許文献1には、モアレの発生を防ぐために、印刷画像がランダムドットスクリーンにより形成する技術について開示されている。また、特許文献2には、レンズシートへ貼付される網点画像印刷物において、網点がランダムに配置される技術について開示されている。また、特許文献3には、レンズシートにドットをランダム配置し、そのドットの粗密によって濃度階調を表現する技術について開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−237055号公報
【特許文献2】特開2009−186972号公報
【特許文献3】特開平9−61950号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述のように、レンズ分配画像にライン状に並べられたズレ補完画素を補完する場合、ライン状の配置のズレ補完画素が筋として凸レンズを介して視認されてしまう、という問題がある。また、これとは逆にレンズ分配画素からライン状に画素を除去する場合においても、その除去部位が筋として凸レンズを介して視認されてしまう虞がある。ここで、特許文献1には、モアレの発生を防ぐために、ランダムドットスクリーン方式を用いた技術内容について開示されている。しかしながら、このランダムドットスクリーン方式は、ドットの大きさを変えることにより階調表現する方式に代えて、細かなドットの集合にて階調を表現するというものである。そのため、ドットのサイズの変更を伴うものであるが、ドットのサイズに関係なく、ライン状に並べられたズレ補完画素が筋として視認されることの解消にはつながらないものとなっている。
【0007】
なお、特許文献2および特許文献3には、網点印刷の画像の粗さを低減するために網点をランダムに配置するものや、ランダム配置されたドットの粗密によって階調表現するものが開示されている。しかしながら、これら特許文献2、3に開示の技術内容は、凸レンズのピッチがレンズ分配画素のピッチとずれることに起因して筋状の部位が視認されるといった問題とは関連性が低い。
【0008】
本発明は上記の事情にもとづきなされたもので、その目的とするところは、補完された画素が筋として視認されることと、画素の除去部位が筋として視認されることのうち少なくとも一方を防止することが可能な印刷システム、印刷方法およびレンズシートを提供しよう、とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の印刷システムは、一方向を長手とする複数の凸レンズを有するレンズシートに印刷する印刷システムであって、レンズシートに印刷を行う印刷手段と、印刷手段を制御する制御部と、を具備し、制御部は、複数の凸レンズに対するレンズ分配画像が実際のレンズピッチと異なる所定のピッチに基づくものである場合、一方向に沿うと共に一方向と直交する方向で散在する位置においてレンズ分配画像を構成する画素を凸レンズの隣接部から所定範囲内で補完するか又は除去するかの少なくとも一方を伴う補修に基づき印刷を行うよう印刷手段を制御する、ものである。
【0010】
このように構成する場合には、制御部は、凸レンズの隣接部から所定範囲内で、レンズ分配画像を構成する画素を補完するか又は除去するかの少なくとも一方を伴う補修に基づいて、印刷手段を制御してレンズシートへの印刷を行う。そのため、画素を補完するか又は削除するかの少なくとも一方を伴う補修は、一方向に沿う筋状の配置ではなく、その筋状に対して直交する方向においては散在する配置となる。そのため、画素の補完又は除去が一方向に沿ってライン状に多数連なる、といった配置が生じるのを防止することが可能となる。そのため、レンズシートに印刷画像を形成した場合に、画素の補完が筋として視認されたり、画素の除去が筋として視認されるのを防止することが可能となる。
【0011】
また、本発明の他の側面は、上述の発明において、制御部は、実際のレンズピッチと所定のピッチとのズレが一定以下の場合は補修を行わない、ことが好ましい。
【0012】
このように構成する場合には、補修の必要がないレンズピッチにおいては、補修がされずに済む。
【0013】
さらに、本発明の他の側面は、上述の発明において、制御部は、隣接部の一方の凸レンズに対応する箇所の所定範囲内で補修を行う、ことが好ましい。
【0014】
このように構成する場合には、レンズシートに印刷された印刷画像をユーザーが視認する場合、最も一般的な正面側から視認したときに、補修箇所が視認され難い。そのため、印刷画像の画質を良好にすることが可能となる。
【0015】
また、本発明の他の側面は、上述の発明において、制御部は、隣接部の隣接する双方の凸レンズに対応する箇所の所定範囲内で補修を行う、ことが好ましい。
【0016】
このように構成する場合には、レンズシートに印刷された印刷画像をユーザーが視認する場合、最も一般的な正面側から視認したときに、所定範囲内である補修箇所が視認され難い。そのため、印刷画像の画質を良好にすることが可能となる。
【0017】
さらに、本発明の他の側面は、上述の発明において、制御部は、補完を白色又は黒色の少なくとも一方の画素の補完によって行うよう制御する、ことが好ましい。
【0018】
このように構成する場合には、制御部は白色又は黒色の少なくとも一方の画素の補完を行うため、ユーザーが視認した場合に、補完された画素が認識され難くなる。
【0019】
また、本発明の他の側面は、上述の発明において、制御部は、補完する補修を行う画素の色を当該画素に隣接するいずれかの画素と同じ色に設定することと、補完する補修を行う画素の色を当該画素の両隣の画素の色の中間の色に設定すること、のうちの少なくとも一方を行う、ことが好ましい。
【0020】
このように構成する場合には、補完する補修を行う画素を隣接する画素と同程度の色とする場合には、その補完された画素が目立たない状態とすることができる。それと共に、あるいはそれとは別に、補完する補修を行う画素の色を、その両隣の画素の色の中間の色とする場合、その補完された画素が目立たない状態とすることができる。
【0021】
さらに、本発明の他の側面は、上述の発明において、制御部は、レンズシートへ印刷するための画像データの各画素の色のうち緑色の階調値の平均値で見たときに、当該平均値が所定の閾値を超えている場合には補完する補修を行う画素の色を白色に設定し、平均値が所定の閾値を下回る場合には補完する補修を行う画素の色を黒色に設定するように制御するものである、ことが好ましい。
【0022】
このように構成する場合には、画像データの緑色の階調値の平均値が所定の閾値を超えているか否かによって、補完する補修を行う画素の色を黒色とするか白色とするかが決定される。ここで、各画素の緑色の階調値は、画像データの明るさと相関性があるため、算出された平均値が所定の閾値を超える場合には、補完される画素を白色とすることにより、補完される画素が目立たない状態とすることができる。また、画像データの緑色の階調値の平均値が所定の閾値を超えない場合には補完される画素を黒色とすることにより、補完される画素が目立たない状態とすることができる。
【0023】
また、本発明の他の側面である印刷方法は、一方向を長手とする複数の凸レンズを有するレンズシートに印刷する印刷方法であって、レンズシートに印刷を行う印刷手段を制御する制御工程と、制御工程での印刷手段の制御に基づいてレンズシートに印刷を行う印刷工程と、を具備し、制御工程では、複数の凸レンズに対するレンズ分配画像が実際のレンズピッチと異なる所定のピッチに基づくものである場合、一方向に沿うと共に一方向と直交する方向で散在する位置においてレンズ分配画像を構成する画素を凸レンズの隣接部から所定範囲内で補完するか又は除去するかの少なくとも一方を伴う補修に基づき印刷を行うよう印刷手段を制御する、ことが好ましい。
【0024】
このように構成する場合には、制御工程では、凸レンズの隣接部から所定範囲内で、レンズ分配画像を構成する画素を補完するか又は除去するかの少なくとも一方を伴う補修に基づいて、印刷手段を制御し、印刷工程でレンズシートへの印刷を行う。そのため、画素を補完するか又は削除するかの少なくとも一方を伴う補修は、一方向に沿う筋状の配置ではなく、その筋状に対して直交する方向においては散在する配置となる。そのため、画素の補完又は除去が一方向に沿ってライン状に多数連なる、といった配置が生じるのを防止することが可能となる。そのため、レンズシートに印刷画像を形成した場合に、画素の補完が筋として視認されたり、画素の除去が筋として視認されるのを防止することが可能となる。
【0025】
さらに、本発明の他の側面であるレンズシートは、上述の印刷方法で印刷されたことを特徴とする。
【0026】
このように構成する場合には、画素の補完又は除去が一方向に沿ってライン状に多数連なった状態でレンズシートに印刷されるのを防止可能となる。そのため、印刷画像が形成されたレンズシートでは、印刷画像における画素の補完が筋として視認されたり、画素の除去が筋として視認されるのを防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一実施の形態に係るズレ補完画素の補完状態を示す図である。
【図2】従来のズレ補完画素が筋状に補完された状態を示す図である。
【図3】ズレ補完画素を補完する補完周期区分を示す図である。
【図4】レンズ分配画像の境界領域へズレ補完画素を補完する場合を示す図である。
【図5】レンズシートの水平線と凸レンズ表面の接線との成す角度を示す図である。
【図6】補完周期区分の補完領域にズレ補完画素を補完する場合を示す図である。
【図7】レンズシートの構成を示す斜視図である。
【図8】印刷システムの概略的な構成を示すブロック図である。
【図9】プリンターの概略的な構成を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の一実施の形態に係る印刷システム20および印刷方法について、図面を参照しながら説明する。なお、以下の説明においては、印刷ヘッド44を駆動させてインクの着弾により形成される絵柄を、印刷画像Pとする(図2参照)。
【0029】
<1.概要>
(1)ズレ補完画素の補完に関して
[1]本発明の大枠について
図1は本発明の概要に関するズレ補完画素Zの補完状態を示すものであり、図2は本発明と比較対象としての従来のズレ補完画素Zが筋状に補完された状態を示す図である。説明の都合上、まず従来のズレ補完画素Zの補完について説明する。なお、説明の便宜上、以下の説明における「画素」とは、基本的には画像データにおける「画素」を指すが、印刷結果である印刷画像の「画素」を指すものとしても良い。また、「画像」とは、基本的には印刷結果である印刷画像の全体または一部を指すが、「画像データ」の一部または全体を指すものとしても良い。また、ズレ補完画素Zは、請求項でいう所定範囲内で補完される画素の一例に対応する。また、補完は、請求項でいう補修の一例に対応する。
【0030】
レンズシート10に印刷画像Pの形成を行う場合においては、凸レンズ11のピッチが、印刷画像P内のレンズ分配画像P1のピッチと完全には一致せずに、若干のずれ(誤差)が存在するのが通常であり、図2にはそのような状態が示されている。なお、レンズ分配画像とは、印刷画像P内において凸レンズ11に対応するように形成されている部分であり、このレンズ分配画像P1が図2におけるX方向(幅方向)に多数並んで印刷画像Pが形成されている。また、レンズ分配画像P1は、視差や画像の切り替えに対応した細分化画像P2が図1におけるX方向(幅方向)に複数並べられて構成されている。また、図1においては、凸レンズ11のピッチ(レンズピッチ)をS1、凸レンズ11に対応するように形成されているレンズ分配画像P1のピッチ(請求項でいう所定のピッチ)をS2としている。また、隣り合う凸レンズ11が隣接する部位は、請求項でいう隣接部に対応する。
【0031】
図2に示すように、レンズピッチS1とレンズ分配画像P1のピッチS2とは一致しないため、それらの差分ΔSが累積していく。そして、従来においては、差分ΔSが細分化画像P2の1ピクセル分の幅と同程度となる場合に、ズレ補完画素Zを補完して、図2においてX方向の右側の領域において、細分化画像P2のズレを解消するようにしている。このとき、図2(B)に示すように、ズレ補完画素Zは、Y方向に沿ってライン状に並んで設けられている。すなわち、ズレ補完画素ZのX方向における位置は等しくなっている。なお、差分ΔSが細分化画像P2の1ピクセル分の幅と同程度以下の場合は、請求項でいう「ズレが一定以下」の場合の一例に対応する。ただし、たとえば差分ΔSが細分化画像P2の1ピクセル分の幅の半分以上や2/3以下等のような他の場合にも、請求項でいう「ズレが一定以下」の場合の一例に対応させるようにしても良い。
【0032】
なお、レンズピッチS1とレンズ分配画像P1のピッチS2との差分ΔSが、補完閾値を超える場合に、ズレ補完画素Zを補完するものとすると、印刷画像PのX方向においてズレ補完画素Zを補完する区分は、図3に示すように、ある周期性を持つこととなる。この周期を、以下の説明においては補完周期とする。また、上述のような、印刷画像Pの区分のことを、以下の説明においては補完周期区分Fとする。この補完周期区分Fは、請求項でいう区分に対応する。
【0033】
これに対して、本発明においては、図1に示すように、ズレ補完画素Zが散在する状態で並ぶように設けられている。すなわち、ズレ補完画素ZがY方向に平行にライン状に並んでしまうと、ライン状の配置のズレ補完画素Zが筋として凸レンズ11を介して視認されてしまう。そこで、図1に示すようにズレ補完画素Zを散在する状態の配置とし、ズレ補完画素Zが筋状に見えてしまうのを防いでいる。なお、ここでいう「散在する」とは、ズレ補完画素Zが筋状に見えないように、X方向においてランダムに配置する、ということである。以上が本発明の大枠である。
【0034】
なお、印刷画像Pの視認性を良好にするために、補完周期区分F内の所定範囲内に、ズレ補完画素Zを補完するようにしても良い。以下、その場合について述べる。
【0035】
[2]所定範囲内にズレ補完画素Zを補完する場合について(その1)
印刷画像Pの視認性を、より良好とするために、補完周期区分F内の所定範囲内とする1つの手法としては、図4に示すようにズレ補完画素Zを配置するようにしても良い。すなわち、あるレンズ分配画像P1内にズレ補完画素Zを補完することが決まっている場合において、そのズレ補完画素ZのX方向の並びの中心側(以下、中心領域A1とする)にはズレ補完画素Zを補完せずに、中心領域A1から外れた両端側(図4においてハッチングが付された領域;以下、端部領域A2とする)にズレ補完画素Zを補完するようにしても良い。このとき、図4から分かるように、レンズ分配画像P1の端部領域A2−1と端部領域A2−2とが隣り合う場合、端部領域A2−1と端部領域A2−2の両方に跨って、X方向に沿っては1つのズレ補完画素Zが存在するようにすることが好ましい(以下、隣り合う端部領域を1つの領域と見なして、境界領域と称呼することがある)。
【0036】
図4に示すような配置とすることにより、中心領域A1にはズレ補完画素Zは存在しない状態となる。すなわち、図5に示すように、レンズシート10の中心線Lと垂直な水平線と凸レンズ11のレンズ表面の接線との成す角度をθとすると、その角度θが所定の閾値以下の場合には、ユーザーが凸レンズ11を正面側から見る状態に対応し、その視認状態は最も一般的なものである。しかしながら、角度θが所定の閾値を超える場合には、ユーザーが凸レンズ11を斜め方向から見る状態に対応する。一般には正面側から印刷画像Pを視認することが多く、かかる正面側から印刷画像Pを視認した場合の視認性が、画質の良し悪しとして認識される。そこで、凸レンズ11の正面側からの視認に対応するレンズ分配画像P1の中心領域A1にはズレ補完画素Zを補完せず、端部領域A2にズレ補完画素Zを補完するようにしている。
【0037】
なお、図4においては、ある凸レンズ11の端部領域A2−1と端部領域A2−1のうちの少なくとも1つの端部領域A2にズレ補完画素Zを補完するようにすれば良い。ここで、端部領域A2−1と端部領域A2−1のうちのいずれか一方にズレ補完画素Zを補完する場合は、請求項でいう「隣接部の一方の凸レンズに対応する箇所の所定範囲内」に画素を補完する場合に対応する。また、端部領域A2−1と端部領域A2−1の双方にズレ補完画素Zを補完する場合は、請求項でいう「隣接部の隣接する双方の凸レンズに対応する箇所の所定範囲内」に画素を補完する場合に対応する。
【0038】
[3]所定範囲内にズレ補完画素Zを補完する場合について(その2)
また、印刷画像Pの視認性を、より良好とするために、補完周期区分F内の所定範囲内とする他の手法としては、図6に示す補完領域A4にズレ補完画素Zを配置するようにしても良い。すなわち、図6において補完周期区分FのX方向における中心線Kを含む所定の範囲内は、ズレ補完画素Zを補完しない非補完領域A3とし、補完周期区分Fのうち中心線Lを含まない両端側の領域にズレ補完画素Zを補完する補完領域A4とする。このように、補完領域A4と非補完領域A3とを分けることにより、非補完領域A3においてズレ補完画素Zの画質への影響を軽減することができる。なお、ここでいう画質への影響とは、ズレ補完画素Zの補完によって、それぞれの画素が1画素分ずつずれてしまい、若干ながらも画質が悪化してしまうことを指す。
【0039】
[4]ランダムに補完する際の位置の決定について
なお、ズレ補完画素Zをランダムに補完する場合、X方向におけるズレ補完画素Zの位置が、乱数的にそれぞれのY方向の並びにおいて1つずつ定まるようにしても良い。この場合には、X方向とY方向との座標を取って、Y方向のそれぞれの座標におけるX方向の座標の位置が、疑似乱数生成法に定められるようにしても良い。ここで、疑似乱数生成法としては、平方採中法、線形合同法、線形帰還シフトレジスタを用いた手法、メルセンヌ・ツイスタ法、カオスを用いた乱数生成法等がある。
【0040】
また、ズレ補完画素Zをランダムに補完する場合、所定のマスクを用いるようにしても良い。このようなマスクとしては、たとえば「0」を「ズレ補完画素Z」の非生成、「1」を「ズレ補完画素Z」の生成に対応付けておき、そのような「0」と「1」との並びが、予めランダムとなる状態で配置されたものがある。なお、「0」および「1」と、「ズレ補完画素Z」の生成および非生成との対応関係は、上述とは逆にしても良い。また、上述のズレ補完画素Zの形成のためのマスクは、複数パターン用意し、それぞれの補完周期区分F毎または所定の個数の補完周期区分F毎に、異なるパターンのマスクを用いるようにしても良い。なお、所定のマスクを用いた場合のズレ補完画素Zの配置が、図1で示した状態となるようにしても良く、図4で示した状態となるようにしても良く、または図6で示した状態となるようにしても良い。
【0041】
(2)ズレ補完画素Zの色について
次に、上述のように補完されるズレ補完画素Zの色の決定について、以下に説明する。
【0042】
[1]ズレ補完画素Zの色を決定する場合、X方向における一方側の隣の画素または他方側の隣の画素と同じ階調値(この場合は、請求項でいう「同程度の色」の一例に該当)とするようにしても良い。この場合、ズレ補完画素Zの階調値は、最も簡易に決定することが可能となる。
【0043】
[2]また、ズレ補完画素Zの色を決定する場合において、ズレ補完画素Zを白色とするようにしても良い。すなわち、RGBの階調値をそれぞれ0から255までの256階調で表現する場合において、RGBの階調値がそれぞれ255となるようにしても良い。特に、インクジェット方式により印刷画像Pを形成する場合において、レンズシート10の裏側のインク吸収層13が白色である場合には、インク吸収層13に着弾したインク滴がにじむことにより、ユーザーが視認した場合に、白色のズレ補完画素Zが認識され難くなる。そこで、この場合には、ズレ補完画素Zの色を白色とするのが好ましい。なお、ズレ補完画素Zが白色であるとは、インク滴を着弾させないことを指す。
【0044】
[3]また、ズレ補完画素Zの色を決定する場合において、ズレ補完画素Zを黒色とするようにしても良い。すなわち、RGBの階調値を上述の256階調で表現する場合において、RGBの階調値がそれぞれ0となるようにしても良い。一般の印刷においては減法混色により印刷されることに鑑みると、たとえば青色と白色とが隣り合う場合、薄い青色になって色味が変わることがあるが、青色と黒色とが隣り合う場合には黒色の隣の青色は保つことができる。この点から、特に、インク滴が小さくてインク滴がにじみ難い場合には、その黒色の周りへの影響が小さく、当該周りの画素の色の色調を保つことができる、という利点がある。
【0045】
[4]また、X方向における一方側の隣の画素と他方側の隣の画素との中間の階調値をズレ補完画素Zの階調値としても良い。この場合には、ズレ補完画素Zが目立たない状態とすることができる。たとえば、ある画素が緑色に対応する階調値を有し、その隣の画素が青色に対応する階調値を有し、それらの間にズレ補完画素Zを補完する場合、そのズレ補完画素Zの色を水色に対応する階調値を有するものとしても良い。また、ある画素が赤色に対応する階調値を有し、その隣の画素が青色に対応する階調値を有し、それらの間にズレ補完画素Zを補完する場合、そのズレ補完画素Zの色を紫色に対応する階調値を有するものとしても良い。また、ズレ補完画素Zの階調値は、一方側の隣の画素と他方側の隣の画素との平均値としても良く、平均値から所定の範囲内の値としても良い。
【0046】
[5]また、後述するアプリケーションプログラム34aで作成した順列画像データのR(赤)、G(緑)、B(青)の階調値のうち、Gの階調値の平均値を算出し、その平均値が所定の閾値を超えているか否かによって、ズレ補完画素Zを黒色とするか白色とするかを決定するようにしても良い。すなわち、Gの階調値は、画像データの明るさと相関性がある。そのため、Gの階調値が所定の閾値を超える場合にはズレ補完画素Zの色を白色とし、Gの階調値が所定の閾値以下の場合にはズレ補完画素Zの色を黒色とするようにしても良い。
【0047】
以上が本発明の概要である。そして、上述のようにしてズレ補完画素Zを作成し、そのズレ補完画素Zを画像データに補完することにより、補完されたズレ補完画素Zが筋として視認されるのを防止することが可能となる。なお、請求項でいう「白色又は黒色の少なくとも一方」には、白色での補完、黒色での補完、白色と黒色での補完の3通りがあり、かかる3通りを行うようにしても良い。詳述すると、上述の場合において、[2]の色の決定と[3]の色の決定とを共に行うようにしても良い。すなわち、あるズレ補完画素Zの色を白色とし、それとは別のズレ補完画素Zの色を黒色とするようにしても良い。また、上述の場合において、[1]の色の決定と[4]の色の決定とを共に行うようにしても良い。すなわち、あるズレ補完画素Zの色を一方側の隣の画素または他方側の隣の画素と同じ階調値とし、それとは別のズレ補完画素Zの色を一方側の隣の画素と他方側の隣の画素との中間の階調値とするようにしても良い。
【0048】
<2.レンズシート10について>
続いて、レンズシート10について説明する。図7に示すように、レンズシート10は、凸レンズ11と、基材12と、インク吸収層13と、を有している。
【0049】
凸レンズ11は、一方向を長手とするシリンドリカル凸レンズである。図7に示すように、この凸レンズ11は、基材12上に一定のピッチで並列に配置されている。この凸レンズ11においては、それぞれの凸レンズ11を進行する光の焦点が、レンズシート10の裏面、または当該裏面に形成される印刷層に位置するように、凸レンズ11の曲率が形成されるのが好ましい。凸レンズ11は、PET(Polyethylene Terephtarate)、PETG(Polyethylene Terephtalate Glycol)、APET(Amorphous Polyethylene
Terephthalate)、PP(Polypropylene)、PS(Polystyrene)、PVC(Polyvinyl Chloride)、アクリル、UV(Ultraviolet)樹脂等を材質として形成されている。
【0050】
また、基材12は、透明性を有する材料を薄板状に形成したものであり、例えばPET−G(Polyethylene Terephtalate Glycol)樹脂、PET(Polyethylene Terephtarate)樹脂等を用いることが可能である。
【0051】
インク吸収層13は、インクを吸収および/または固着させる部位である。このインク吸収層13は、たとえばPVA(ポリビニルアルコール)等の親水性ポリマー樹脂、カチオン化合物、シリカ等の微粒子等を材質として形成されている。
【0052】
なお、上述のレンズシート10においては、インク吸収層13よりも裏面側(基材12および凸レンズ11から離れる側)にインク透過層を設けるようにしても良い。この場合、インク透過層に付着したインクは、インク透過層を透過して、インク吸収層13に到達する。このようなインク透過層としては、透明性を有する材質であることが必要であり、たとえばガラスファイバー、プラスチックファイバー等を材質として形成することが可能である。
【0053】
<3.印刷システム20およびデータ処理について>
(3−1)印刷システム20の構成について
図8は、本発明の一実施の形態に係る印刷システムの概略的な構成を示すブロック図である。この印刷システム20は、コンピューター30とプリンター40とを有していて、コンピューター30にプリンター40が接続されている。しかしながら、コンピューター30の各機能が、プリンター40内に組み込まれるものであっても良い。また、コンピューター30は、プリンター40の制御部55と共に、請求項における制御部に対応するが、コンピューター30が請求項における制御部に対応するものとしても良く、制御部55が請求項における制御部に対応するものとしても良い。
【0054】
図8において、コンピューター30はCPU31とRAM32とROM33と外部記憶装置34と外部インターフェース35とビデオインターフェース36と入力インターフェース37とバス38とから構成されている。バス38は、コンピューター30を構成する各要素31〜37の間でのデータ通信を実現するものであり、図示しないチップセット等によって通信が制御されている。
【0055】
外部記憶装置34には、オペレーティングシステム(OS)を含む各種プログラムやデータが記憶されており、その中にはアプリケーションプログラム34aとプリンタードライバープログラム34bとが存在する。そして、HDDやフラッシュメモリーといった外部記憶装置34に記憶されているプログラムやデータをRAM32に展開しながらCPU31がプログラムやデータに準じた演算を実行する。
【0056】
外部インターフェース35は、プリンターやネットワーク等の外部装置に接続され、その外部装置からの印刷データや制御データの受け取ると共に、外部装置への各種データの通知を行う。そのような外部インターフェース35としては、例えばUSB規格に準じたものがある。ビデオインターフェース36はコンピューター30を外部のディスプレイ60に接続し、ディスプレイ60に画像を表示するためのインターフェースである。入力インターフェース37はコンピューター30を外部のキーボード70とマウス80等のような入力手段に接続し、それらの入力手段からの入力信号をコンピューター30が取得するためのインターフェースである。
【0057】
アプリケーションプログラム34aは、例えば、外部インターフェース35を通じて、図示外のスキャナー装置やデジタルカメラ等から元画像データを入力する。本実施の形態におけるアプリケーションプログラム34aは、立体画像やチェンジング画像をレンズシート10に作成するために、複数の元画像データを凸レンズ11のピッチに細分化し、さらに細分化画像P2に対応させて細分化して細分化画像データを作成し、その後、細分化画像データを並べ替えた、立体視画像用またはチェンジング画像用の順列画像データを作成するためのプログラムである。このアプリケーションプログラム34aは、図示外のビデオドライバーを介して、順列画像データによって表される画像をディスプレイ60に表示させる。また、アプリケーションプログラム34aは、プリンタードライバープログラム34bを介して順列画像データを処理し、その処理した後の印刷データをプリンター40に出力する。
【0058】
上述のプリンタードライバープログラム34bは、画像取得モジュール341、色変換モジュール342、ハーフトーンモジュール343、補完画素挿入モジュール344、印刷データ出力モジュール345、送信モジュール346、色変換テーブル347、記録率テーブル348を有している。
【0059】
これらのうち、画像取得モジュール341は、アプリケーションプログラム34aから、印刷の対象となる画像データ(順列画像データ)の取得を行う。色変換モジュール342は、RGB(Red Green Blue)表色系によって表現された画像データを、色変換テーブル347を参照して、例えば、CMYK(Cyan Magenta Yellow Black)表色系の画像データに変換する処理を実行する。
【0060】
ハーフトーンモジュール343は、たとえばディザ処理により、CMYK表色系によってたとえば1画素が256階調によって表現される画像データを、記録率テーブル348を参照して、大、中、小の3種類のドットの組み合わせからなるビットマップデータに変換する。
【0061】
補完画素挿入モジュール344は、ハーフトーン処理が行われた後の画像データに、ズレ補完画素Zを挿入する処理を行うためのモジュールである。すなわち、図1、図4、図5等で示したようなズレ補完画素Zのランダムな配置は、補完画素挿入モジュール344でズレ補完画素Zを挿入することによって行われる。
【0062】
印刷データ出力モジュール345は、補完画素挿入モジュール344から出力されたビットマップデータから、各主走査時のドットの記録状態を示すラスタデータと、副走査送り量を示すデータとを含む印刷データを生成する。送信モジュール346は、印刷データ出力モジュール345によって生成された印刷データを、プリンター40に対して送信するモジュールである。
【0063】
続いて、プリンター40の構成について説明する。なお、以下の説明においては、プリンター40はインクジェット式のプリンターであるが、かかるインクジェット式プリンターは、インクを噴射して印刷可能な装置であれば、いかなる噴射方法を採用した装置でも良い。また、プリンター40は、例えばレーザ方式(感光ドラム等が請求項でいう印刷手段の一例に対応)、昇華型熱転写方式(サーマルヘッドが請求項でいう印刷手段の一例に対応)、ドットインパクト方式(印字するためのピンを有するプリントヘッドが請求項でいう印刷手段の一例に対応)等のインクジェット式以外のプリンターについても、本発明は適用可能である。
【0064】
図9に示すように、プリンター40は、プラテン41を有し、このプラテン41に対してキャリッジ42が往復移動自在に構成されている。キャリッジ42は、シアン、マゼンタ、イエロー、および、ブラックインクが内部に貯留されたインクカートリッジ43を保持している。キャリッジ42の下方側には、レンズシート10に対向するように、印刷ヘッド44(請求項でいう印刷手段の一例に対応)が設けられており、インクカートリッジ43に貯留されているインクを吸引し、微小なインク滴として吐出可能としている。なお、搭載されるインクカートリッジ43は、4色に限られるものではなく、3色、あるいは5色以上等、何色分であっても良い。また、インクカートリッジ43に充填されるインクは、染料系インクには限られず、顔料系インク等、他の種類のインクを搭載しても良い。また、印刷ヘッド44は、インク量の異なる複数種類(大、中、小)のインク滴を噴射することで、複数種類のサイズのドットを形成することを可能としても良い。
【0065】
キャリッジ42には、タイミングベルト45の一部が固着されている。タイミングベルト45は、プーリー46,47を連接するように架張されている。プーリー46には、キャリッジモーター48の駆動軸が接続されている。したがって、キャリッジモーター48が回転されると、キャリッジ42が図1中に矢印で示すX方向(主走査方向)に往復動作する。
【0066】
キャリッジ42の一部(この図の例では左側)には、凸レンズ11のレンズピッチS1を検出するための光学センサー50が設けられている。この光学センサー50は、たとえば投受光方式のセンサーであり、発光部と受光部とを備えている。ただし、光学センサー50としては、発光部または受光部がキャリッジ42に搭載されると共に、受光部または発光部がプラテン41側に存在する構成としても良い。
【0067】
キャリッジ42が往復動作する経路上には、リニアエンコーダーを構成するスケール51が配置されている。キャリッジ42のスケール51に対向する面には、リニアエンコーダーを構成する光学センサー50が配置されており、当該光学センサー50によってスケール51に印刷されたパターンを検出することにより、キャリッジ42の主走査経路上における位置を特定する。
【0068】
プラテン41の上流側(紙面の奥側)には、円柱形状を有する紙送りローラー53が設けられている。紙送りローラー53には、搬送手段の一部としての紙送りモーター(PFモーター)54の駆動力が伝達される。したがって、紙送りモーター54が回転されると、紙送りローラー53が回転され、レンズシート10がプラテン41上を、Y方向(図中矢印で示す方向)の排紙側に向けて搬送される。
【0069】
また、図8に示すように、プリンター40には、制御部55が設けられている。制御部55は印刷データ出力モジュール345から受け取った印刷データに基づいて、印刷ヘッド44を駆動させるための駆動信号を作成する。そして、この駆動信号に基づいて印刷ヘッド44が制御駆動され、レンズシート10にインクを噴射して所望の印刷画像Pを形成することが可能となっている。
【0070】
(3−2)ズレ補完画素Zを挿入された印刷画像Pを形成するための処理について
続いて、ズレ補完画素Zが挿入された印刷画像Pを形成するための処理について説明する。
【0071】
まず、印刷画像Pの形成に先立って、レンズシート10の凸レンズ11のレンズピッチS1の値を決定する必要がある。そのため、プリンター40においては、まずレンズシート10がプリンター40における所定の測定部位にセットされる。続いて、制御部55はキャリッジモーター48を作動させると共に、光学センサー50での投受光によって、レンズピッチS1を測定する。そして、測定されたレンズピッチS1の値は、プリンター40の制御部55における不図示のメモリーに記憶させると共に、コンピューター30側にも測定されたレンズピッチS1の値に関する情報を送信する。そして、コンピューター30のRAM33には、そのレンズピッチS1の値が記憶させられる。
【0072】
なお、レンズピッチS1の値は、プリンター40の光学センサー50によって測定するものとはせずに、ユーザー自身が測定し、その測定結果をコンピューター30において入力するようにしても良い。
【0073】
上述のようにしてレンズピッチS1に関する情報が得られ、画像取得モジュール341がアプリケーションプログラム34aからRGB表色系の順列画像データを受け取ると、解像度変換等の所定の処理後に、色変換モジュール342によって、プリンター40で印刷可能な色成分(たとえばシアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、ブラック(K)の各色)に色変換する。
【0074】
その後に、ハーフトーンモジュール343は、後述するようにディザ処理により、CMYK表色系によって表された画像データを、色変換テーブル347を参照して、たとえば大、中、小の3種類のドットの組み合わせからなる画像データ(ビットマップデータ)に変換する。なお、ハーフトーン処理が終了した画像データは、請求項でいう合成画像データの一例に対応する。
【0075】
そして、ハーフトーン処理が終了した画像データに対して、補完画素挿入モジュール344は、ズレ補完画素Zを補完すると判定された場合にはズレ補完画素Zを挿入する処理を行う。このとき、コンピューター30のRAM33に記憶されているレンズピッチS1の情報に基づいてズレ補完画素Zを挿入する補完周期が算出され、その補完周期に対応する補完周期区分F内でズレ補完画素Zをランダムに配置する処理が実行される。なお、ズレ補完画素Zの挿入および色の決定の処理は、既に図1〜図6等に基づいて説明した通りである。そして、この補完画素挿入モジュール344での処理により、ハーフトーン処理後の画像データに対し、所定の色のズレ補完画素Zがランダムに挿入される状態となる。
【0076】
ただし、補完画素挿入モジュール344は、レンズピッチS1とピッチS2とが一定以下の場合には、ズレ補完画素Zを補完する補修は行わない。
【0077】
その後、印刷データ出力モジュール345は、ハーフトーン処理がなされたビットマップデータから、印刷ヘッド44によるドットの形成順序に合わせて並び替えた印刷データを生成する。そして、送信モジュール346は、並び替えられた印刷データをプリンター40に向けて送信する。なお、補完画素挿入モジュール344でズレ補完画素Zに対応するズレ補完画素Zが挿入された画像データは、請求項でいう印刷用データに対応するが、印刷データ出力モジュール345で処理された後の印刷データを、請求項でいう印刷用データとしても良い。
【0078】
そして、かかるデータ処理が行われた印刷データを受け取ったプリンター40は、図1、図4および図6に示すような状態のズレ補完画素Zを反映させたドットを有する印刷画像Pを形成する。
【0079】
<4.本実施の形態における効果>
以上のような構成の印刷システム20および印刷方法によると、補完画素挿入モジュール344は、算出された補完周期に基づいて、ハーフトーン処理後の画像データを補完周期区分Fに区分し、その補完周期区分F内でズレ補完画素Zに対応するズレ補完画素Zを散在させている。そのため、ズレ補完画素Zが一方向に沿ってライン状に多数連なる、といった配置が生じるのを防止することが可能となる。そのため、レンズシート10に印刷画像Pを形成した場合に、ズレ補完画素Zが筋として視認されるのを防止することが可能となる。
【0080】
また、上述の実施の形態では、レンズピッチS1とピッチS2との差が一定以下の場合、ズレ補完画素Zを補完する補修を行わないようにしても良い。この場合には、補修の必要がない場合には、補修がされずに済む。
【0081】
また、図4に示すように、端部領域A2(端部領域A2−1と端部領域A2−2のうちの少なくとも一方)ズレ補完画素Zを配置するようにしても良い。この場合には、凸レンズ11の中心側に対応する中心領域A1にはズレ補完画素Zは存在しない状態となる。そのため、レンズシート10に印刷された印刷画像Pをユーザーが視認する場合、最も一般的な正面側から視認したときにズレ補完画素Zが視認されない。そのため、印刷画像Pの画質を良好にすることが可能となる。
【0082】
さらに、図6に示すように、ズレ補完画素Zを配置するようにしても良い。この場合には、補完周期区分Fのうち挿入領域A4にズレ補完画素Zが挿入される。このため、非挿入領域A3においてズレ補完画素Zの画質への影響を軽減することができる。
【0083】
さらに、印刷画像Pがレンズシート10ににじむとの情報が入力された場合には、白色のズレ補完画素Zを挿入しても良い。この場合には、ユーザーが視認した場合に、白色のズレ補完画素Zが認識され難くなる。
【0084】
また、印刷画像Pがレンズシート10に、にじみ難いとの情報が入力された場合には、黒色のズレ補完画素Zを挿入しても良い。ここで、一般の印刷においては減法混色により印刷されることに鑑みると、印刷画像Pがにじみ難い場合には、黒色の周りへの影響が小さく、当該周りの画素の色の色調を保つことができる。そのため、黒色のズレ補完画素Zを挿入しても、その影響が少ないものとすることができる。
【0085】
さらに、ズレ補完画素Zの色を、そのズレ補完画素Zに隣接するいずれかの画素と同程度の色に設定するようにしても良い。この場合には、ズレ補完画素Zが目立たない状態とすることができる。
【0086】
また、凸レンズ11の幅方向においてズレ補完画素Zの両隣の色の中間の色に設定するようにしても良い。この場合には、ズレ補完画素Zは、両隣の色の中間の色に設定されるため、ズレ補完画素Zが目立たない状態とすることができる。
【0087】
さらに、合成画像データの緑色の階調値の平均値を算出し、その平均値が所定の閾値を超えているか否かによって、ズレ補完画素Zの色を黒色とするか白色とするかを決定するようにしても良い。ここで、各画素の緑色の階調値は、画像データの明るさと相関性があるため、算出された平均値が所定の閾値を超える場合にはズレ補完画素Zを白色とすることにより、ズレ補完画素Zが目立たない状態とすることができる。また、算出された平均値が所定の閾値を超えない場合にはズレ補完画素Zを黒色とすることにより、ズレ補完画素Zが目立たない状態とすることができる。
【0088】
<5.変形例>
以上、本発明の一実施の形態について述べたが、本発明は、種々変形可能である。以下、それについて述べる。
【0089】
(5−1)変形例その1
上述の実施の形態では、ハーフトーン処理が終了した画像データに対して、補完画素挿入モジュール344にて、ズレ補完画素Zを挿入する処理を行っている。しかしながら、ハーフトーン処理が終了するよりも前の段階の画像データに対して、ズレ補完画素Zを挿入する処理を行っても良い。このとき、ズレ補完画素Zが挿入された後の画像データ、またはそれよりも更に後の処理が成された画像データは、請求項でいう印刷用データに対応する。
【0090】
ハーフトーン処理が終了するよりも前の段階の画像データに対して、ズレ補完画素Zを挿入する処理としては、たとえば、アプリケーションプログラム34aによって作成された順列画像データ(このとき、順列画像データは合成画像データに対応)にズレ補完画素Zを挿入する処理を行っても良い。また、たとえば解像度変換の処理後の画像データ(このときの画像データは合成画像データに対応)にズレ補完画素Zを挿入する処理を行っても良い。また、たとえば色変換処理後の画像データ(このときの画像データは合成画像データに対応)にズレ補完画素Zを挿入する処理を行っても良い。
【0091】
このようにしても、ズレ補完画素Zの挿入を目立たない状態とすることが可能となる。
【0092】
(5−2)変形例その2
また、上述の実施の形態においては、順列画像データのGの階調値の平均値に基づいて、ズレ補完画素Zを黒色とするか白色とするかを決定している。しかしながら、順列画像データのGの階調値の平均値ではなく、その順列画像データを形成するための少なくとも1つの元画像データのGの階調値の平均値を算出し、その平均値が所定の閾値を超えているか否かによって、ズレ補完画素Zを黒色とするか白色とするかを決定するようにしても良い。このようにしても、ズレ補完画素Zが目立たない状態とすることができる。
【0093】
(5−3)変形例その3
また、上述の実施の形態においては、ズレ補完画素Zを補完する場合について述べているが、請求項でいう「補完するか又は除去するかの少なくとも一方」には、上述の補完以外に、画素の除去、または補完と除去の双方を行うといった3通りがあり、それら3通りの補修を行うようにしても良い。すなわち、レンズピッチS1は、印刷画像P内のレンズ分配画像P1のピッチよりも小さい場合も当然ながら存在する。その場合には、上記のズレ補完画素Zを挿入するとは逆に、いずれかの画素を除去する処理が行われることとなる。なお、かかる画素の除去は、請求項でいう補修の一例に対応する。
【0094】
ここで、除去される画素がライン状に並んだときに筋として視認される場合には、上記のズレ補完画素Zの挿入位置を決定する手法と同様に扱うことができる。すなわち、いずれの位置の画素を除去するのかの決定(除去対象画素の決定)について、上述したズレ補完画素Zの挿入位置の決定と同様の手法にて、決定するようにしても良い。また、ズレ補完画素Zの補完の決定と、除去対象画素の決定とを、共に行うようにしても良い。
【0095】
(5−4)変形例その4
上述の実施の形態では、ズレ補完画素Zの色を決定する場合において、「同程度の色」の一例として、X方向における一方側の隣の画素または他方側の隣の画素と同じ階調値とする場合について説明している。しかしながら、同じ階調値以外にも、X方向における一方側の隣の画素または他方側の隣の画素と色味(色相)が類似する色(同色系の色)とする場合も、請求項でいう「同程度の色」の概念に含めるようにしても良い。また、同色系の色とするのと共に、または同色系の色とするのとは別に、X方向における一方側の隣の画素または他方側の隣の画素と明度と彩度のうちの少なくとも一方が異なるものとする場合も、「同程度の色」の概念に含めるようにしても良い。
【0096】
なお、請求項でいう「補完する補修を行う画素の色を当該画素に隣接するいずれかの画素と同じ色に設定する、または補完する補修を行う画素の色を当該画素の両隣の画素の色の中間の色に設定する、の少なくとも一方を行う」という部分には、ズレ補完画素Zの補完位置の一方側または他方側で隣接する画素と同程度の色にするものと、中間の色にするものと、隣接する画素と同程度の色にするものと中間の色にするものとの双方を共に行う場合の3通りがあり、かかる3通りの補修を行うようにしても良い。
【0097】
(5−5)変形例その5
また、上述の実施の形態においては、印刷画像Pを一方のレンズシート10の裏面に形成するものとしている。しかしながら、たとえば透明なフィルム等のようなレンズシートとは別の印刷用部材に予め印刷画像Pを形成しておき、それをレンズシートに貼り合わせる場合についても、本発明を適用することが可能である。
【0098】
(5−6)変形例その6
上述の実施の形態においては、光学センサー50によって凸レンズ11のレンズピッチS1を測定するようにしている。しかしながら、プリンター40がスキャナー機能を有する場合、またはコンピューター30にスキャナー装置が別体的に接続されて、それらスキャナー機能またはスキャナー装置によってレンズピッチS1が測定可能な場合には、光学センサー50を設けない構成としても良い。この場合には、スキャナー機能またはスキャナー装置によってレンズピッチS1が測定できるため、補完周期等の算出に支障が生じないためである。
【0099】
(5−7)変形例その7
また、上述の実施の形態において、プリンター40の概念には、インク以外の他の液体(液体そのものや、機能材料の粒子が液体に分散又は混合されてなる液状体、ゲルのような流動性を有する材質を含む)を噴射したり噴射したりする流体噴射装置を含むようにすることもできる。そのようなものとしては、液晶ディスプレイ、EL(エレクトロルミネッセンス)ディスプレイ及び面発光ディスプレイの製造などに用いられる電極材や色材(画素材料)などの材料を分散または溶解のかたちで含む液体を噴射する液状体噴射装置、バイオチップ製造に用いられる生体有機物を噴射する流体噴射装置、精密ピペットとして用いられ試料となる液体を噴射する流体噴射装置等がある。
【0100】
(5−8)変形例その8
さらに、本発明のプリンター40の概念に含まれるものとしては、時計やカメラ等の精密機械にピンポイントで潤滑油を噴射する流体噴射装置、光通信素子等に用いられる微小半球レンズ(光学レンズ)などを形成するために紫外線硬化樹脂等の透明樹脂液を基板上に噴射する流体噴射装置、基板などをエッチングするために酸又はアルカリ等のエッチング液を噴射する流体噴射装置、ゲル(例えば物理ゲル)などの流状体を噴射する流状体噴射装置等がある。
【符号の説明】
【0101】
10…レンズシート、11…凸レンズ、12…基材、13…インク吸収層、20…印刷システム、30…コンピューター(制御部の一部に対応)、34…外部記憶装置、34a…アプリケーションプログラム、34b…プリンタードライバープログラム、35…外部インターフェース、36…ビデオインターフェース、37…入力インターフェース、38…バス、40…プリンター、41…プラテン、42…キャリッジ、43…インクカートリッジ、44…印刷ヘッド(印刷手段の一例に対応)、45…タイミングベルト、46,47…プーリー、48…キャリッジモーター、50…光学センサー、51…スケール、53…紙送りローラー、54…紙送りモーター、55…制御部(制御部の一部に対応)、341…画像取得モジュール、342…色変換モジュール、343…ハーフトーンモジュール、344…補完画素挿入モジュール、345…印刷データ出力モジュール、346…送信モジュール、347…色変換テーブル、348…記録率テーブル、A1…中心領域、A2…端部領域、A3…非挿入領域、A4…挿入領域、F…補完周期区分、K,L…中心線、P…印刷画像、P1…レンズ分配画像、P2…細分化画像、S1…レンズピッチ、S2…レンズ分配画像P1のピッチ、Z…ズレ補完画素


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方向を長手とする複数の凸レンズを有するレンズシートに印刷する印刷システムであって、
前記レンズシートに印刷を行う印刷手段と、
前記印刷手段を制御する制御部と、
を具備し、
前記制御部は、前記複数の凸レンズに対するレンズ分配画像が実際のレンズピッチと異なる所定のピッチに基づくものである場合、前記一方向に沿うと共に前記一方向と直交する方向で散在する位置において前記レンズ分配画像を構成する画素を前記凸レンズの隣接部から所定範囲内で補完するか又は除去するかの少なくとも一方を伴う補修に基づき印刷を行うよう前記印刷手段を制御することを特徴とする印刷システム。
【請求項2】
請求項1記載の印刷システムであって、
前記制御部は、前記実際のレンズピッチと前記所定のピッチとのズレが一定以下の場合は前記補修を行わないことを特徴とする印刷システム。
【請求項3】
請求項1記載の印刷システムであって、
前記制御部は、前記隣接部の一方の前記凸レンズに対応する箇所の前記所定範囲内で前記補修を行うことを特徴とする印刷システム。
【請求項4】
請求項1記載の印刷システムであって、
前記制御部は、前記隣接部の隣接する双方の凸レンズに対応する箇所の前記所定範囲内で前記補修を行うことを特徴とする印刷システム。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の印刷システムであって、
前記制御部は、前記補完を白色又は黒色の少なくとも一方の画素の補完によって行うよう制御することを特徴とする印刷システム。
【請求項6】
前記制御部は、補完する補修を行う前記画素の色を当該画素に隣接するいずれかの画素と同じ色に設定することと、補完する補修を行う前記画素の色を当該画素の両隣の画素の色の中間の色に設定すること、のうちの少なくとも一方を行う、
ことを特徴とする印刷システム。
【請求項7】
請求項1から4のいずれか1項に記載の印刷システムであって、
前記制御部は、前記レンズシートへ印刷するための画像データの各画素の色のうち緑色の階調値の平均値で見たときに、当該平均値が所定の閾値を超えている場合には補完する補修を行う前記画素の色を白色に設定し、前記平均値が前記所定の閾値を下回る場合には補完する補修を行う前記画素の色を黒色に設定するように制御するものである、
ことを特徴とする印刷システム。
【請求項8】
一方向を長手とする複数の凸レンズを有するレンズシートに印刷する印刷方法であって、
前記レンズシートに印刷を行う印刷手段を制御する制御工程と、
前記制御工程での前記印刷手段の制御に基づいて前記レンズシートに印刷を行う印刷工程と、
を具備し、
前記制御工程では、前記複数の凸レンズに対するレンズ分配画像が実際のレンズピッチと異なる所定のピッチに基づくものである場合、前記一方向に沿うと共に前記一方向と直交する方向で散在する位置において前記レンズ分配画像を構成する画素を前記凸レンズの隣接部から所定範囲内で補完するか又は除去するかの少なくとも一方を伴う補修に基づき印刷を行うよう前記印刷手段を制御する、
ことを特徴とする印刷方法。
【請求項9】
請求項8記載の印刷方法で印刷されたことを特徴とするレンズシート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−88494(P2013−88494A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−226542(P2011−226542)
【出願日】平成23年10月14日(2011.10.14)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】