説明

印刷古紙の脱墨方法

【課題】印刷古紙を原料とする脱墨パルプの製造において、粘着異物の微細化を防ぎ、排水のCODを低下させ、かつ残留インキ量の少ない脱墨パルプを製造することを目的とする。
【解決手段】印刷古紙の脱墨パルプの製造の際の脱インキ工程において、結晶性層状珪酸塩の無水物の懸濁液を、好ましくは絶乾パルプ質量に対して0.1〜1.5質量%添加し、pH7.0〜9.9でインキを剥離する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脱墨パルプを製造する方法に関する。さらに詳しくは、脱墨パルプの製造における脱インキ工程において、結晶性層状珪酸塩の無水物の懸濁液を添加し、弱アルカリ性領域から中性領域の条件でパルプからインキを剥離する脱墨パルプの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、省資源あるいは地球規模での環境保護といった観点から、古紙の再生利用が注目される中で、古紙をより高度に処理し、再生利用の範囲を拡大することが製紙業界における極めて重要な課題となっている。この一つの方向として印刷古紙の印刷インキを脱墨して除去し、残留インキの少ないパルプを製造して、必要に応じてバージンパルプと混合し新たな紙が製造されている。
【0003】
しかしながら、脱墨パルプ製造における離解処理やインキ剥離処理では、一般に10を超えるpHといった高アルカリ条件下で高剪断力をかけるため、古紙の中に混入している粘着剤、接着剤、粘着テープ、雑誌の背糊、ビニールテープ等の異物が微細化し、その後のスクリーンやクリーナーなどといった精選処理を通しても完全に取り除くことは非常に困難となっている。脱墨パルプに微細化された異物が混入していると脱墨パルプを用いて紙を製造する際に紙切れなどのマシントラブルが生じたり、紙に異物が抄き込まれるなどの紙の品質の低下が起こる。さらに、アルカリ条件下で高剪断力をかけるため、排液の化学的酸素要求量(COD, chemical oxygen demand)が増加し、またパルプ繊維が痛むので濾水度が低下しマシン走行性が悪化し、さらに嵩の低い光学適性に劣るパルプとなるという問題がある。
【0004】
紙パ技協誌 第49巻(1)121〜130頁(非特許文献1)に、低温、中性で印刷古紙を離解することによって異物の微細化を防ぎ、スクリーンなどで異物を大きい状態で取り除いてから、高アルカリ条件下でインキを剥離する方法が提案されている。しかし、異物に関しては改善が期待されるが、高アルカリ条件下で高剪断力をパルプに与えることになり、CODの低下に関しては期待できない。
【0005】
これらの課題に対し、脱墨パルプ(DIP, deinked pulp)製造でのアルカリ薬品を軽減し、中性化することにより古紙の中に混入している異物の微細化を防ぎ、かつ排液のCODを低下させる方法が提案されている。しかし、アルカリ薬品の軽減はインキ剥離性の低下を招き最終パルプの品質を損なうことになる。そのため特開平11−200269号公報(特許文献1)ではアルカリ条件下で熟成した印刷古紙を酸添中和する方法を採用し、中和後あるいは中和と同時に高剪断力をかけることで残留インキの少ないDIPを製造し、かつDIP製造工程からの排液のCODを低下させる方法を提案している。しかし、アルカリ熟成した古紙の中和に酸を使用することはコストアップに繋がっている。
【0006】
特許第3260211号公報(特許文献2)には、脱インキ性能を有する結晶性珪酸塩が示されている。しかし、これを、弱アルカリ性から中性領域といった脱インキが困難である条件下で使用することは示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−200269号公報
【特許文献2】特許第3260211号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】紙パ技協誌 第49巻(1)121〜130頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、脱インキ工程を弱アルカリ性から中性領域の条件で行うことにより、異物の微細化を防ぎ、排水のCODを低下させ、残留インキ量の少ない脱墨パルプを製造することができ、なおかつ、操業性に優れた脱墨パルプの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、弱アルカリ性領域から中性領域の条件における印刷古紙を原料とする脱墨パルプの製造方法について鋭意検討した結果、脱インキ工程において結晶性層状珪酸塩の無水物の懸濁液を添加し、pH7.0〜9.9でパルプからインキを剥離することにより、目的を達成できることを見出した。
【発明の効果】
【0011】
結晶性層状珪酸塩の無水物の懸濁液を脱インキ工程で添加することによって、通常用いられるpHが10を超えるような高アルカリ領域の条件に比べてインキ剥離性に劣る弱アルカリ性から中性領域の条件で脱インキ工程を行っても、残留インキ量の少ない脱墨パルプを製造することができる。また、弱アルカリ性から中性領域の条件で脱インキ工程を行うことにより、粘着異物が過度に微細化されないので、後の除塵工程での粘着異物除去効率を向上させることができ、かつ排液のCODを低下させることができる。さらに、結晶性層状珪酸塩の無水物を懸濁液として用いることにより、他の薬品と同様にポンプでの添加が可能となるので、操業性が向上する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明では、脱墨パルプの製造において、結晶性層状珪酸塩の無水物の懸濁液の存在下、pH7.0〜9.9の条件下で、パルプからインキを剥離する脱インキ工程を行なう。
(古紙)
本発明の脱墨パルプの原料となる古紙としては、印刷古紙であればいずれでもよく、例えば、新聞紙、チラシ、雑誌、書籍、事務用紙、その他複写機、OA機器から生ずる印刷紙などが含まれる。特に、粘着剤、接着剤、粘着テープ、雑誌の背糊等の粘着物を含む雑誌古紙等も本発明の脱墨パルプの原料として用いることができる。
【0013】
(脱墨パルプの製造)
通常、脱墨パルプの製造においては、アルカリ性薬品及び界面活性剤を添加して古紙の離解を行う離解処理、機械的シェアとアルカリ条件下でインキをパルプから剥離するインキ剥離処理、パルプから分離されたインキを除去するフローテーション処理及び/または洗浄処理、一般的には10〜35質量%のパルプ濃度に脱水した後、アルカリ性薬品、過酸化水素及び/または界面活性剤を添加してパルプからインキをさらに剥離させるアルカリ浸漬処理(熟成処理ともいう)、さらに、再度のフローテーション処理及び/または洗浄処理が行なわれる。この後、除塵工程(異物除去工程)で異物が除去される。
【0014】
(結晶性層状珪酸塩の添加)
本発明において、結晶性層状珪酸塩の無水物の懸濁液を、脱インキ工程で添加することが必須である。本発明における「脱インキ工程」とは、パルプ繊維に付着しているインキを機械的なシェアを与えることにより剥離する工程のことをいい、具体的には、上記の離解処理、アルカリ浸漬処理(熟成処理ともいう)、及び機械的シェアによるインキ剥離処理をいう。結晶性層状珪酸塩はこれらの何れの処理で添加しても良いが、脱インキ工程の初段階である離解処理時に添加するのは好ましい。
【0015】
(pH)
本発明においてはアルカリ性薬品の添加量を抑えるなどにより、pH7.0〜9.9、好ましくはpH7.0〜9.5の弱アルカリ性領域から中性領域の条件で脱インキ工程を行う。pHが7.0より低い場合には、古紙の離解性やインキ剥離性が著しく低下するため、望ましくない。また、pHが9.9を超えた場合には、古紙の離解やインキ剥離の際、粘着異物の微細化が促進され、排液のCODが著しく増加するため、好ましくない。pHの調整は、結晶性層状珪酸塩の無水物の懸濁液を添加する以前の段階であればいつでもよいが、脱インキ工程の初段階である離解処理時に上記範囲に調整することが最も好ましい。
【0016】
(離解処理) 本発明における離解処理では、高濃度パルパー、低濃度パルパー及びドラムパルパーのいずれを用いてもかまわないが、高濃度パルパーを用いて離解処理を行うことが好ましい。また、離解処理時の温度に関しては、好ましくは60℃以下、更に好ましくは50℃以下で行うものとするが、これに限られたものではない。
【0017】
(インキ剥離処理)
機械的シェアによるインキ剥離処理では、ニーダー、ディスパーザー及びリファイナーのいずれを用いてもかまわない。
【0018】
(結晶性層状珪酸塩の無水物)
本発明に使用する結晶性層状珪酸塩の無水物は、一般式としてNa2O・2SiO2、K2O・2SiO2等で表されるものを使用することが好ましいが、必ずしもそれに限定されるものではない。通常インキの剥離に使用される珪酸塩(水ガラス等)は、非結晶状態であり、定形の結晶構造を有するものではない。それに対して、本発明で使用する結晶性層状珪酸塩の無水物は、次の[化1]に示されるような構造を有するものであり、分子の基本構造がシリケート層(SiO4)とその周囲のナトリウムイオンあるいはカリウムイオンによって構成され、盤状の層が積み重なった層状構造を有し、δ型の結晶構造を有する。このような結晶性層状珪酸塩は、他の結晶性珪酸塩に比べて、金属イオン捕捉能力が格段に高い。
【0019】
【化1】

【0020】
結晶性層状珪酸塩の無水物としては、粒子径が600μm以下のものを用いることが好ましいが、必ずしもこれに限定されるものではない。より好ましくは、粒子径が60μm以上100μm以下のものを使用する。
【0021】
本発明では、結晶性層状珪酸塩の無水物を、懸濁液状態にして添加する。懸濁液を用いることより、他の薬品と同様にポンプでの添加が可能となるので、固体(粉末状)のまま添加する場合よりも、操業性が向上する。
【0022】
結晶性層状珪酸塩の無水物の懸濁液の固形分濃度は、10〜50質量%が好ましい。固形分濃度が10質量%以下であると、結晶性層状珪酸塩粒子表面の溶解が進み易くなるためインキ剥離の促進効果が低減する傾向があり、固形分濃度が50質量%以上となると、懸濁液の流動性が悪くなる傾向があるため、濃度を上記の範囲とすることが好ましい。
【0023】
結晶性層状珪酸塩の無水物の懸濁液の調製方法は特に限定されないが、水に所望の濃度となるように結晶性層状珪酸塩の無水物を添加し、十分に攪拌することにより調製することができる。
【0024】
結晶性層状珪酸塩の無水物の懸濁液は、調製後速やかに用いることが好ましい。調製後、長時間経過すると、結晶性層状珪酸塩のインキに対する砥粒効果、及び、結晶性層状珪酸塩粒子表面の溶解による局所的なpH上昇によるインキ剥離の促進効果が低減する傾向がある。
【0025】
本発明に使用する結晶性層状珪酸塩の無水物の添加量は、絶乾パルプ質量に対して0.1〜1.5質量%であることが好ましく、0.1〜1.0質量%であることがより好ましい。添加量を0.1質量%以上とすることにより、古紙の離解性やインキ剥離性をより良好にすることができる。また、1.5質量%以下とすることにより、古紙の離解やインキ剥離の際のpHが高くなりすぎるのを防ぎ、粘着異物の微細化やCODの著しい増加を抑えることができる。
【0026】
結晶性層状珪酸塩の無水物と併用するアルカリ薬品は、苛性ソーダ、水酸化カリウム、珪酸ソーダ、炭酸ソーダのうち少なくとも一種類以上を使用すればよい。
(フローテーション処理/洗浄処理および除塵工程)
離解処理、若しくは、インキ剥離処理を終えた後は、所望に応じて脱墨剤、漂白剤、キレート剤、凝集剤などのフローテーション助剤などを加えてフローテーション処理または洗浄処理を行なうことができる。また、その後、除塵工程(異物除去工程)を行なうことができる。これらのときには繊維や異物に高剪断力がかからないため、pHは弱アルカリ性から中性のままでもよいし、アルカリ性にしてもかまわない。ただし、望ましくは弱アルカリ性から中性のままで処理を行った方が、パルプ繊維がアルカリ性条件下にある時間が短くなるので、CODの低減効果は高くなる。除塵工程(異物除去工程)は離解処理の後及び/またはインキ剥離処理の後で行ってもよい。
【0027】
(脱墨パルプ)
上記の方法により得られた脱墨パルプは、その後、必要に応じて、ECF漂白などの漂白を行なってもよい。本発明の方法により製造された脱墨パルプは、粘着異物が低減されているので、脱墨パルプを含む紙を製造する際に、粘着異物に起因する紙切れなどの欠陥の発生が抑えられ操業トラブルを軽減することができ、安定した生産性を確保することが可能になる。
【0028】
(紙)
本発明により製造された脱墨パルプを含む紙は、紙面上のダート(黒点、チリ等)が少なく、優れた品質を有する。本発明の脱墨パルプの製造方法においては、パルプ繊維の膨潤や損傷が抑制され、繊維の濾水性や強度が低下することがないため、嵩、不透明度、剛度が良好で、かつ印刷適性に優れた紙を得ることができる。
【0029】
本発明により製造された脱墨パルプを含む紙は、例えば、これらに限定されないが、印刷用紙、新聞用紙の他、塗工紙、情報記録用紙、加工用紙、衛生用紙等として使用することができる。情報記録用紙として、更に詳しくは、電子写真用転写紙、インクジェット記録用紙、感熱記録体、フォーム用紙等が挙げられる。加工用紙として、更に詳しくは、剥離紙用原紙、積層板用原紙、成型用途の原紙等が挙げられる。衛生用紙として、更に詳しくは、ティッシュペーパー、トイレットペーパー、ペーパータオル等が挙げられる。また、段ボール原紙等の板紙として使用することもできる。さらに、塗工紙、情報記録用紙、加工用紙等の顔料を含む塗工層を有する紙の原紙としても使用することができる。
【0030】
(作用)
結晶性層状珪酸塩の無水物の懸濁液を添加することにより、弱アルカリ性から中性領域の条件で脱インキ工程を行っても、未剥離インキの少ない脱墨パルプを製造することが可能となる。その理由としては、以下のように推察される。
【0031】
結晶性層状珪酸塩の無水物を使用することにより、インキに対する砥粒効果が得られ、また、結晶性層状珪酸塩粒子表面が溶解して局所的にpHが上昇することによりインキの剥離がされると考えられる。さらに、結晶性層状珪酸塩の無水物を懸濁液状態で添加することにより、他の薬品同様にポンプでの添加が可能となるため、固体で添加する場合よりも、操業性が向上する。
【実施例】
【0032】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に示すが、本発明は係る実施例に限定されるものではない。実施例及び比較例で得られた脱墨パルプについて、下記の項目の測定を行い評価した。
【0033】
<残インキ面積の測定>
150メッシュ(φ0.1mm)を用いて濾液が清澄になるまでパルプ中の遊離インキを洗浄して除去した後、JIS P 8222に従って手抄きシートを作成し、夾雑物測定装置(アポジーテクノロジー社製、商品名:スペックスキャン2000)を用いてシート表面に残留したインキの面積を測定した。
【0034】
<操業性の評価>
○:薬品をポンプで添加できる
×:薬品をポンプで添加できない。
【0035】
<粘着異物個数及び面積>
以下に示す特願2006−95937号(特開2007−271389号公報)に開示された粘着異物測定方法に従って、粘着異物個数及び面積を測定した。
【0036】
絶乾質量1kgの脱墨パルプを低濃度のスラリーに調製し、0.15mmのスリット幅を持つテスト用フラットスクリーンを用いて異物を分離した。それらの異物をガラス繊維系濾紙(以下甲と略記する)を用いて濾過し、濾紙上の異物を乾燥させた後、セルロース繊維系濾紙(以下乙と略記する)を、異物を挟むように上に被せて、105℃に加熱し、直ちに3.5kg/cm2で5分間加圧した。次に甲と乙とを異物付着面で剥がし、甲に付着した粘着異物(低粘着性異物)、及び乙に付着した粘着異物(高粘着性異物)を0.01%のオイルブルーNのエタノール溶液を用いて染色した。染色後、サンプルを水/エタノール=50/50の混合溶液内で5分間洗浄した。洗浄は2回繰り返した。サンプルを乾燥させた後、夾雑物測定装置(アポジーテクノロジー社製Spec Scan 2000)を用いて、甲及び乙に付着した粘着異物の個数及び面積を計測した。
【0037】
<白色度の測定>
得られた脱墨パルプを用いてJIS P 8222に従って手抄きシートを作製し、JIS P 8148:2001に準じてISO白色度を測定した。
【0038】
<紙厚、坪量、密度の測定>
JIS P 8222に従って作成した手抄きシートについて、JIS P 8118:1998に従って紙厚を測定した。また、JIS P 8124:1998(ISO 536:1995)に従って坪量を測定した。手抄きシートの紙厚、坪量の測定値より密度を算出した。
【0039】
[実施例1]
水に結晶性層状珪酸塩の無水物(商品名:プリフィード、トクヤマシルテック社製)を固形分濃度10%となるように添加し、60℃で3時間攪拌して、結晶性層状珪酸塩の無水物の懸濁液を調製した。
【0040】
容量2Lの回転数が任意に変更できる攪拌翼を備えたパルパーを用いて以下の実験を行った。パルパーに新聞古紙80質量%及び更系雑誌古紙20質量%からなる印刷古紙を入れた。ここに、さらに清水と薬品を加えてパルプ濃度が15質量%となるようにした。薬品としては、結晶性層状珪酸塩の無水物の懸濁液を結晶性層状珪酸塩の濃度が古紙質量に対して0.8質量%(純分)となるように添加し、また、高級アルコール系の脱墨剤を古紙質量に対して0.2質量%添加した。温度を40〜50℃とし、15分間、400rpmで離解を行った。続いて、粗選スクリーン、フローテーター、精選スクリーン、ディスパーザーを経て脱墨パルプを製造した。このようにして得られた脱墨パルプを150メッシュ(φ0.1mm)を用いて濾液が清澄になるまで洗浄した。残インキ面積及び操業性の評価を行なった。結果を表1に示す。
【0041】
[比較例1]
結晶性層状珪酸塩の無水物の懸濁液の代わりに、結晶性層状珪酸塩の無水物の粉末品0.8%(純分)を加えた以外は実施例1と同様にして処理した。結果を表1に示す。
【0042】
[比較例2]
結晶性層状珪酸塩の無水物の懸濁液の代わりに、苛性ソーダ0.4%を加えた以外は実施例1と同様にして処理した。結果を表1に示す。
【0043】
【表1】

【0044】
表1に示されるように、結晶性層状珪酸塩の無水物の懸濁液を用いた実施例1は、結晶性層状珪酸縁の無水物の粉体を用いた比較例1と比較して、残インキ面積がほぼ同等であり、さらに操業性に優れていた。また、苛性ソーダを用いた比較例2と比較して、残インキ面積が小さかった。
【0045】
[実施例2]
水に結晶性層状珪酸の無水物(商品名:プリフィード、トクヤマシルテック社製)を固形分濃度10%となるように添加し、常温で1時間攪拌して、結晶性層状珪酸の無水物の懸濁液を調製した。
【0046】
容量2Lの回転数が任意に変更できる攪拌翼を備えたパルパーを用いて以下の実験を行った。パルパーに新聞古紙100質量%からなる印刷古紙を入れた。ここに、さらに清水と薬品を加えてパルプ濃度が15質量%となるようにした。薬品としては、結晶性層状珪酸塩の無水物の懸濁液を結晶性層状珪酸塩の濃度が古紙質量に対して1.3%(純分)となるように添加し、また、高級アルコール系の脱墨剤を古紙質量に対して0.2%添加した。温度を40〜50℃とし、6分間、400rpmで離解を行った。このようにして得られたパルプを150メッシュ(φ0.1mm)を用いて濾液が清澄になるまで洗浄し、残インキ面積、及び操業性の評価を行った。結果を表2に示す。
【0047】
[実施例3]
結晶性層状珪酸塩の無水物の懸濁液の固形分濃度を25%とした以外は、実施例2と同様にして処理した。結果を表2に示す。
【0048】
[実施例4]
結晶性層状珪酸塩の無水物の懸濁液の固形分濃度を40%とした以外は、実施例2と同様にして処理した。結果を表2に示す。
【0049】
[比較例3]
結晶性層状珪酸塩の無水物の懸濁液の代わりに、結晶性層状珪酸塩の無水物の粉末品1.3%(純分)を加えた以外は、実施例2と同様に処理した。結果を表2に示す。
【0050】
[比較例4]
結晶性層状珪酸塩の無水物の懸濁液の代わりに、苛性ソーダ0.4%を加えた以外は、実施例2と同様にして処理した。結果を表2に示す。
【0051】
[比較例5]
結晶性層状珪酸塩の無水物の懸濁液の代わりに、苛性ソーダ0.7%を加えた以外は、実施例2と同様にして処理した。結果を表2に示す。
【0052】
【表2】

【0053】
表2に示されるように、結晶性層状珪酸塩の無水物の懸濁液(濃度10%〜40%)を用いた実施例2〜4はいずれも、結晶性層状珪酸塩の無水物の紛体を用いた比較例3と比較して、残インキ面積がほぼ同等であり、操業性に優れていた。また、苛性ソーダを用いた比較例4と比較して、残インキ面積が小さかった。さらに、苛性ソーダを用い、pHが高い比較例6と比較しても、残インキ面積が同等であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷古紙を原料とする脱墨パルプの製造方法であって、脱インキ工程において、結晶性層状珪酸塩の無水物の懸濁液を添加し、pH7.0〜9.9でパルプからインキを剥離することを特徴とする脱墨パルプの製造方法。
【請求項2】
結晶性層状珪酸塩の無水物の添加量が、絶乾パルプ質量に対して0.1〜1.5質量%となるように結晶性層状珪酸塩の無水物の懸濁液を添加することを含む、請求項1に記載の脱墨パルプの製造方法。
【請求項3】
原料である印刷古紙が、粘着物を含む、請求項1又は2に記載の脱墨パルプの製造方法。
【請求項4】
前記脱インキ工程が、離解処理、インキ剥離処理、及びアルカリ浸漬処理の少なくとも1である、請求項1〜3のいずれかに記載の脱墨パルプの製造方法。
【請求項5】
結晶性層状珪酸塩の無水物の懸濁液が、固形分濃度10〜50質量%である、請求項1〜4のいずれかに記載の脱墨パルプの製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の方法で製造された脱墨パルプ。

【公開番号】特開2010−100983(P2010−100983A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−218408(P2009−218408)
【出願日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【出願人】(000183484)日本製紙株式会社 (981)
【Fターム(参考)】