説明

印刷時における有機溶剤処理の最適化方法

【課題】 有機溶剤を大気中に排出することがないように、有機溶剤処理装置を用いて回収や燃焼などの有機溶剤処理がされる際に、印刷時に蒸発した有機溶剤蒸気を含有する混合気体中の有機溶剤の蒸気濃度をより簡便に推定することにより、有機溶剤の処理効率を向上することができる印刷時における有機溶剤処理の最適化方法を提供する。
【解決手段】 印刷時における有機溶剤処理の最適化方法は、印刷中の各印刷ユニット部10の乾燥により発生する有機溶剤の蒸気量を、印刷条件に応じた係数に置き換えて、その係数と乾燥装置103の吸引風量から、有機溶剤蒸気濃度の最も高い印刷ユニット部10を有機溶剤処理装置20の処理能力に応じて選択し、選択した印刷ユニット部10の印刷の際に発生する有機溶剤性印刷インキ組成物から蒸発する有機溶剤蒸気を、雰囲気の空気と一緒に吸引装置1037により吸引して、有機溶剤処理装置20に送り、処理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の印刷ユニット部を有する印刷機において、各印刷ユニット部で有機溶剤性印刷インキ組成物を用いて印刷する際に、溶剤処理装置の能力に応じて、蒸発する有機溶剤を処理する対象となる印刷ユニット部を効率的に選択することにより、有機溶剤処理の最適化を図る方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、大気汚染や地球温暖化等の環境問題が深刻になっており、特に二酸化炭素排出量の25%削減等は、政府の掲げる地球温暖化対策の目標として、いずれは全産業、全業種をあげて取り組むビジネステーマとなる可能性が高い。その他、様々な環境問題への取り組みが要求され、プラスチックフィルムに印刷するグラビア印刷分野も同様である。プラスチックフィルムへの印刷には、印刷適性上の制約から、有機溶剤を多量に含む有機溶剤性グラビア印刷用インキ組成物が利用され、また、印刷物も、役割を終えた後はほとんどが廃棄される。そこで、インキメーカー、印刷会社では、印刷時にインキ組成物からの蒸発に伴って発生する有機溶剤の中で、特に環境負荷の高い有機溶剤や総排出量の削減、バイオマス材料の使用によるカーボンニュートラル化の推進、及び、生分解性樹脂等を活用した廃棄物処理等の取り組みが行われている。
【0003】
最近の取り組みの1つとして、印刷の際にインキ組成物から蒸発する有機溶剤を大気中に排出しないという気運が高くなっている。その手段として、まず、印刷ユニット毎に乾燥によって発生する有機溶剤の蒸気を周囲の空気と一緒に吸引ダクト等で吸引し、(1)溶剤回収装置により再び有機溶剤を液化・回収して再利用すること、(2)溶剤燃焼装置により燃焼することが提案されている。
【0004】
例えば、溶剤回収装置を利用する方法としては、冷却法、圧縮法、吸着・脱着法等の方法が一般的に行われている。
【0005】
しかし、特に印刷面積の少ない図柄等では、蒸発する有機溶剤量に対して、同時に吸引する空気量が多くなるため、吸引した有機溶剤蒸気と空気の混合気体(以後、単に「混合気体」という場合もある)中に含まれる有機溶剤の蒸気濃度が低く、有機溶剤当たりの混合気体の処理量も相対的に多くなる。それに伴って、冷却法や圧縮法では、高価な大容量の処理槽と、冷却や圧縮のための多大なエネルギーが必要となり、非効率的になるという問題を有している。また、吸着・脱着法でも、有機溶剤の蒸気濃度が低いと、充分に吸着させるためには吸着剤の表面積(吸着剤量)を多くする必要があり、同様に脱着、冷却、圧縮のためのエネルギーが増加し、さらに結果的に処理時間も長くなるという問題を有するものであった。
【0006】
そこで、溶剤回収装置の処理槽の大型化や吸着剤の多量化、消費エネルギーの増大などを防ぐために、吸引した混合気体中の有機溶剤の蒸気濃度を高くするための装置を設置する方法も提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に開示される技術では、溶剤回収装置に送られてくる直前の、混合気体中に含まれる有機溶剤の蒸気濃度を測定する装置と、有機溶剤の蒸気濃度に応じて、吸引ダクト等での吸引する量を制御する装置により、吸引した混合気体中に含まれる有機溶剤の蒸気濃度を高くする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭60−038155号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に開示される技術では、有機溶剤の蒸気濃度測定までに多量の有機溶剤を排出することが必要であり、また、装置が高価になるという問題を有するものであった。
【0009】
したがって、本発明の目的は、有機溶剤を大気中に排出することがないように、有機溶剤処理装置を用いて回収や燃焼などの有機溶剤処理がされる際に、印刷時に蒸発した有機溶剤蒸気を含有する混合気体中の有機溶剤の蒸気濃度をより簡便に推定することにより、有機溶剤の処理効率を向上することができる印刷時における有機溶剤処理の最適化方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、予め、印刷中の各印刷ユニット部の乾燥により発生する有機溶剤の蒸気量を、印刷条件に応じた係数に置き換えて、その係数と乾燥装置の風量から、有機溶剤の蒸気濃度が最も高い印刷ユニット部を有機溶剤処理装置の処理能力に応じて選択し、次いで、選択した印刷ユニット部において印刷の際に発生する有機溶剤性印刷インキ組成物から蒸発する有機溶剤の蒸気を、雰囲気の空気と一緒に吸引装置により吸引して、有機溶剤処理装置に送り、有機溶剤処理することにより、上記課題を解決することを見出し、本発明を完成するに到った。
【0011】
すなわち、本発明は、フィルム状の印刷用基材に複数色の有機溶剤性印刷インキ組成物を順次転移させて印刷を行う複数の印刷ユニット部を含んで構成される印刷機であって、
周面に保持した印刷版に有機溶剤性印刷インキ組成物が塗布される版胴と、
該版胴に印刷用基材を圧接させて印刷版に塗布された有機溶剤性印刷インキ組成物を印刷用基材に転移させる圧胴と、
有機溶剤性印刷インキ組成物が転移された印刷用基材の表面に向けて乾燥用の熱風を噴出する噴出口と、有機溶剤性印刷インキ組成物から蒸発する有機溶剤を含む、印刷用基材の表面近傍の熱風を吸引する吸引口とが設けられた乾燥装置と、を備える複数の印刷ユニット部を含む印刷機によって印刷する際に、乾燥装置の吸引口から吸引された熱風に含まれる有機溶剤を有機溶剤処理装置により処理する、印刷時における有機溶剤処理の最適化方法において、
各印刷ユニット部における下記の第1〜第3条件のいずれか1つの条件を選択し、その選択された条件で示される数値をA、乾燥装置の単位時間当たりの吸引風量をB(m/分)、有機溶剤性印刷インキ組成物中の有機溶剤含有量をC(質量%)とした場合の(A・C/B)で表わされる数値Kが最大値を示す印刷ユニット部をY、その印刷ユニット部YのBの数値をB、数値Kが印刷ユニット部Yと同じまたは2番目に大きな値を示す印刷ユニット部をY、その印刷ユニット部YのBの数値をB、…、数値Kが印刷ユニット部YX−1と同じまたは最も小さな値を示す印刷ユニット部をY、その印刷ユニット部YのBの数値をBで表わしたときに、有機溶剤処理装置の最大処理風量D(m/分)が下記式(1)
+B+…+Bm−1+B≦D<B+B+…+B+Bm+1…(1)
[式中、mは1〜(x−1)である。]
の関係を満たすとき、YからYまでの印刷ユニット部における乾燥装置の吸引口から吸引された熱風を有機溶剤処理装置に送って、熱風に含まれる有機溶剤を処理することを特徴とする印刷時における有機溶剤処理の最適化方法である。
第1条件:印刷中の有機溶剤性印刷インキ組成物の消費量(g)
第2条件:全ての印刷ユニット部に設けられた印刷版がグラビア印刷版であり、有機溶剤性印刷インキ組成物が同一粘度に調整され、印刷版の周長が等しい場合に、印刷版に設けられたセルの総容積(mm
第3条件:全ての印刷ユニット部に設けられた印刷版がグラビア印刷版であり、有機溶剤性印刷インキ組成物が同一粘度に調整され、印刷版の周長および印刷版に設けられた各セルの容積が等しい場合に、印刷版が1周した時に形成される印刷面積(mm
【0012】
また本発明は、フィルム状の印刷用基材に複数色の有機溶剤性印刷インキ組成物を順次転移させて印刷を行う複数の印刷ユニット部を含んで構成される印刷機であって、
周面に保持した印刷版に有機溶剤性印刷インキ組成物が塗布される版胴と、
該版胴に印刷用基材を圧接させて印刷版に塗布された有機溶剤性印刷インキ組成物を印刷用基材に転移させる圧胴と、
有機溶剤性印刷インキ組成物が転移された印刷用基材の表面に向けて乾燥用の熱風を噴出する噴出口と、有機溶剤性印刷インキ組成物から蒸発する有機溶剤を含む、印刷用基材の表面近傍の熱風を吸引する吸引口とが設けられた乾燥装置と、を備える複数の印刷ユニット部を含む印刷機によって印刷する際に、乾燥装置の吸引口から吸引された熱風に含まれる有機溶剤を有機溶剤処理装置により処理する、印刷時における有機溶剤処理の最適化方法において、
各印刷ユニット部における下記の第1〜第3条件のいずれか1つの条件を選択し、その選択された条件で示される数値をA、乾燥装置の単位時間当たりの吸引風量をB(m/分)、有機溶剤性印刷インキ組成物中の有機溶剤含有量をC(質量%)とした場合の(A・C/B)で表わされる数値Kが最大値を示す印刷ユニット部をY、その印刷ユニット部YのA,B,Cの数値をそれぞれA,B,C、数値Kが印刷ユニット部Yと同じまたは2番目に大きな値を示す印刷ユニット部をY、その印刷ユニット部YのA,B,Cの数値をそれぞれA,B,C、…、数値Kが印刷ユニット部YX−1と同じまたは最も小さな値を示す印刷ユニット部をY、その印刷ユニット部YのA,B,Cの数値をそれぞれA,B,Cで表わしたときに、有機溶剤処理装置の最大処理風量D(m/分)が下記式(1)
+B+…+Bm−1+B≦D<B+B+…+B+Bm+1…(1)
[式中、mは1〜(x−1)である。]
の関係を満たし、
さらに、下記式(2)で表わされるZ
【数1】

[式中、mは1〜(x−1)である。]
および下記式(3)で表わされるZm+1
【数2】

[式中、mは1〜(x−1)である。]
において、
>Zm+1の関係を満たすときには、YからYまでの印刷ユニット部における乾燥装置の吸引口から吸引された熱風を有機溶剤処理装置に送って、熱風に含まれる有機溶剤を処理し、
=Zm+1の関係を満たすときには、YからYまで、またはYからYm+1までの印刷ユニット部における乾燥装置の吸引口から吸引された熱風を有機溶剤処理装置に送って、熱風に含まれる有機溶剤を処理し、
<Zm+1の関係を満たすときには、YからYm+1までの印刷ユニット部における乾燥装置の吸引口から吸引された熱風を有機溶剤処理装置に送って、熱風に含まれる有機溶剤を処理することを特徴とする印刷時における有機溶剤処理の最適化方法である。
第1条件:印刷中の有機溶剤性印刷インキ組成物の消費量(g)
第2条件:全ての印刷ユニット部に設けられた印刷版がグラビア印刷版であり、有機溶剤性印刷インキ組成物が同一粘度に調整され、印刷版の周長が等しい場合に、印刷版に設けられたセルの総容積(mm
第3条件:全ての印刷ユニット部に設けられた印刷版がグラビア印刷版であり、有機溶剤性印刷インキ組成物が同一粘度に調整され、印刷版の周長および印刷版に設けられた各セルの容積が等しい場合に、印刷版が1周した時に形成される印刷面積(mm
【0013】
また本発明の印刷時における有機溶剤処理の最適化方法では、前記Zおよび前記Zm+1が、Z<Zm+1の関係を満たすときには、YからYm+1までの印刷ユニット部における乾燥装置の吸引口から吸引された熱風を、下記式(4)で表わされる風量Fで有機溶剤処理装置に送って、熱風に含まれる有機溶剤を処理することを特徴とする。
F=D/(B+B+…+Bm+1) …(4)
【0014】
また本発明の印刷時における有機溶剤処理の最適化方法では、印刷ユニット部の乾燥装置における吸引口からの吸引風量Bを調節して、前記数値Kを大きくすることを特徴とする。
【0015】
また本発明の印刷時における有機溶剤処理の最適化方法では、前記有機溶剤処理装置は、乾燥装置の吸引口から吸引される熱風に含まれる有機溶剤を、一旦吸着材で吸着した後に脱着し、冷却により液化させて有機溶剤を回収する有機溶剤回収装置であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
有機溶剤処理装置を導入しても、簡易な方法で活用を高める方法がなく、より効率的な利用が困難という従来の問題を、本発明の印刷時における有機溶剤処理の最適化方法を利用することにより、印刷時にごく簡単なファクターを検討するだけで、効率的な処理が可能となる。これにより、省電力と環境負荷の軽減の両面から、環境対応に寄与できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施の一形態に係る印刷時における有機溶剤処理の最適化方法を、説明するための図である。
【図2】印刷機1における版胴101に対する印刷版1012の面付け数とピッチ幅Pとの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の印刷時における有機溶剤処理の最適化方法について説明する。図1は、本発明の実施の一形態に係る印刷時における有機溶剤処理の最適化方法を、説明するための図である。
【0019】
本実施形態の印刷時における有機溶剤処理の最適化方法は、複数の印刷ユニット部10を有する印刷機1において、各印刷ユニット部10で有機溶剤性印刷インキ組成物(単に「インキ」と記載することもある)を用いて、フィルム状の印刷用基材(単に「基材」と記載することもある)30に印刷する際に、有機溶剤処理装置20の処理能力に応じて、インキから蒸発する有機溶剤を処理する対象となる印刷ユニット部10を効率的に選択することにより、有機溶剤処理の最適化を図る方法である。
【0020】
<印刷機>
まず、本発明で利用される印刷機1は、プラスチックフィルムの基材30を複数の印刷ユニット部10に供給するための給紙部11と、基材30にインキを用いて印刷する複数の印刷ユニット部10と、基材30を巻き取る排紙部12とを有する。印刷機1は、複数の印刷ユニット部10において、基材30に複数色のインキを順次転移させて印刷を行う。そして、各印刷ユニット部10は、印刷版を保持する版胴101と、印刷版にインキを供給するインキ供給装置1011と、印刷版に基材30を接触させるときに基材30を裏面から押圧して、インキを印刷版から基材30に転移させるための圧胴102と、乾燥装置103とを有する。
【0021】
乾燥装置103は、基材30の搬入口1031aおよび搬出口1031bを有する箱状の乾燥器1031と、この乾燥器1031内に所定間隔で配設される複数の案内ローラ1035と、この案内ローラ1035により案内される基材30の表面(インキ塗布面)に向けて乾燥用の熱風を噴出する噴出口1032aが設けられた熱風噴出部1032と、インキから蒸発する有機溶剤を含む、基材30の表面近傍の熱風を吸引する吸引口1033aが設けられた熱風吸引部1033とを有する。
【0022】
案内ローラ1035は、基材30の搬入口1031aから搬出口1031bまでの間に、湾曲状の基材搬送経路を構成するように所定間隔で配置されている。そして、版胴101と圧胴102との間を通過して乾燥器1031内に導入された基材30が、案内ローラ1035に案内されて上方に移動し、搬出口1031bから乾燥器1031の外部に導出されるようになっている。
【0023】
また、乾燥器1031の壁面には、送風機および加熱源を有する熱風供給装置1036に接続された給気ダクト1034が設置されるとともに、吸引装置1037に連通する排気ダクトが、給気ダクト1034の背面側に設置されている。
【0024】
熱風噴出部1032は、基材搬送経路に沿って配列された複数のV型ノズルからなる。熱風噴出部1032は、案内ローラ1035に対向する位置に配設されている。複数の熱風噴出部1032が所定間隔をおいて配設されることにより、各熱風噴出部1032から噴出した熱風の排気を排気ダクトに案内するための熱風吸引部1033が、相隣接する熱風噴出部1032の間に設けられている。
【0025】
また、印刷方式により、インキ供給装置1011や印刷版の形態も変わるが、有機溶剤性印刷インキ組成物が利用されるのは、主に凸版のフレキソ印刷方式と凹版のグラビア印刷方式である。
【0026】
フレキソ印刷方式は、ゴム状の柔軟な凸版を用いて、画像部となる凸部のインキを基材30に転移させて印刷を行う方法である。そして、インキ供給装置1011は、インキを溜める容器から、インキを直接またはインキ供給用ポンプ等を介して、表面に凹凸形状を有するアニロックスローラに供給し、絞りローラまたはドクターブレードによりアニロックスローラ表面に付着しているインキを、一定量にして印刷版に供給する機構を有する。このアニロックスローラに供給されたインキは、版面の凸部との接触により版面に転移し、さらに版面と基材30表面との接触により最終的に基材30表面に転移して印刷図柄が形成される。
【0027】
フレキソ印刷方式では、印刷中のインキの消費量は、アニロックスローラ表面の凹凸の深度や数(通常、1インチ当たりの凹凸の数で「線数」と呼ばれる)に非常に大きな影響を受けるが、印刷版との接触時の圧力や印刷速度、さらに圧胴102による押圧力(印圧)にも影響される。従って、各印刷ユニット部10間のアニロックスローラの凹凸の深度、線数および印刷面積だけで、インキの消費量を関連付けることは困難な場合が多い。
【0028】
グラビア印刷方式は、円筒状の印刷版表面の画像部にセルと呼ばれる凹部を設け、セルに溜まったインキを基材30に転移させて印刷を行う方法である。そして、通常、インキ供給装置1011はインキを溜める容器と、印刷版の表面に付着したインキを掻き取るためのドクターブレードとを有する。
【0029】
まず、インキを溜める容器に印刷版を浸し、印刷版の画像部が基材30表面と接触する前に、ドクターブレードで画像部のセルの中に溜まったインキ以外を掻き取る。その後、印刷版の画像部と基材30表面とが接触し、圧胴102で押圧されることにより、セルの中に溜まったインキが基材30表面に転移して印刷図柄が形成される。
【0030】
この様なグラビア印刷版としては、従来からグラビア印刷時に使用されている印刷版が使用できる。具体的には、(レーザー)彫刻法、コンベンショナルグラビア法、網グラビア法等により作成されるグラビア印刷版が使用できる。
【0031】
グラビア印刷方式では、印刷中のインキの消費量はインキの粘度、セルの容積と個数が支配的となる。そこで、本発明では、各印刷ユニット部10間のインキ粘度が略同一の範囲においては、セルの総容積に依存するとの仮定の下に、印刷版のセルの総容量を、印刷時における有機溶剤処理の最適化方法のための印刷ユニット部10の選択基準とすることも可能である。
【0032】
セルの容積は、印刷物の色濃度や諧調再現性等の面から厳密に管理される。セルが腐食法などの化学的処理によって設けられる場合、セルの開口部の面積と腐食時間や腐食時の温度などにより管理され、彫刻法では彫刻針(スタイラス)の形状と深度により管理される。また、セルの個数は、印刷時、線数(アニロックスロールと同様、1インチ当たりのセルの個数)が定められており、印刷流れ方向に対しても版胴101の軸方向(印刷流れ方向に対して垂直の方向)に対しても同線数になるようにセルが設けられている。
【0033】
また、この様な印刷機1は、通常、各印刷ユニット部10に、噴出口1032aから噴出した熱風を吸引口1033aから吸引する乾燥装置103を備えているが、さらに有機溶剤処理装置20に送風するための導管、および、必要によりそのための装置を備えるものである。本発明の主旨から、熱風の空気中の有機溶剤濃度が高いものほど、優先的に有機溶剤処理装置20に送られることになる。
【0034】
その後、乾燥装置103の乾燥器1031内を通過させて印刷面を乾燥させ、最終の印刷ユニット部10で印刷された後に排紙部12で巻き取られて一連の印刷工程が終了する。
【0035】
<印刷用基材>
印刷用基材30としては、特に限定されず、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンフィルム、ポリエチレンテレフタレート、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン等のポリエステルフィルム、ナイロン、ビニロン等の各種印刷用プラスチックフィルムを対象とするものである。もちろん、本発明の主旨からして、通常のフィルムであっても、熱収縮フィルムであってもよく、印刷後のラミネートや収縮処理等の後加工を行うことができる。
【0036】
<有機溶剤性印刷インキ組成物>
有機溶剤性印刷インキ組成物としては、従来から使用されている有機溶剤型印刷インキ組成物を使用することができる。具体的には、有機顔料または無機顔料等の各色着色剤と、アクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリアミド系樹脂、セルロース系樹脂、塩素化ポリオレフィン系樹脂等のバインダー樹脂と、エステル系溶剤、アルコール系溶剤、ケトン系溶剤、炭化水素系溶剤等の各種有機溶剤とを組み合わせてなるフレキソまたはグラビア印刷用インキ組成物が対象となる。
【0037】
有機溶剤性印刷インキ組成物としては、例えば、特開2002−294128号公報、特開2004−175858号公報、特開2008−52047号公報、特開2008−266370号公報等で記載されたインキ組成物の他、これらに記載されているインキ組成物の各種材料を組み合わせて得られるインキ組成物を用いることができる。
【0038】
<有機溶剤処理装置>
有機溶剤処理装置20は、乾燥装置103の乾燥器1031に設けられる排気ダクトに連通する吸引装置1037から吸引されて排気された熱風に含まれる有機溶剤を処理する。有機溶剤処理装置20としては、有機溶剤回収装置と有機溶剤燃焼装置がある。
【0039】
有機溶剤処理装置20としての有機溶剤回収装置は、有機溶剤を含む空気(熱風)から、有機溶剤を液化させて回収する装置である。有機溶剤回収装置は、一旦、吸着材に吸着させて予備濃縮を行ってから、不活性ガス等を用いて高温で離脱させ、冷却により凝縮させ液化した有機溶剤を回収する。この有機溶剤回収装置は、有機溶剤の回収率が高いという点で好適である。この有機溶剤回収装置の場合、吸着材の吸着能力と表面積により最大処理風量が決定される。
【0040】
有機溶剤処理装置20としての有機溶剤燃焼装置は、有機溶剤を含む空気(熱風)を、燃焼酸化分解する装置である。有機溶剤燃焼装置としては、有機溶剤を含む空気を直接バーナー等の火炎に接触させて約650〜760℃の高温で燃焼して酸化分解する直接燃焼する装置、有機溶剤を含む空気を触媒活性を有する白金等の触媒によって約300〜400℃の比較的低温度で燃焼して酸化分解する装置、有機溶剤を含む空気をセラミック蓄熱体からなる蓄熱塔又は蓄熱室の中で予め予熱した後、燃焼して酸化分解する装置がある。有機溶剤燃焼装置を利用する場合は、有機溶剤の酸化分解により、地球温暖化の原因となる二酸化炭素が発生する。
【0041】
<有機溶剤を処理する印刷ユニット部を最適に選択する方法>
本発明は、複数の印刷ユニット部10を有する印刷機1で、フィルム状の印刷用基材30に有機溶剤性印刷インキ組成物を用いて印刷する際に、熱風乾燥により蒸発した有機溶剤の蒸気を、有機溶剤処理装置20を用いて処理するための方法である。そして、有機溶剤処理装置20として、全ての印刷ユニット部10の処理をするだけの能力がないときに、有機溶剤処理装置20の処理能力に応じて、処理する印刷ユニット部10の選択を最適にする、印刷時における有機溶剤処理の最適化方法である。
【0042】
(有機溶剤処理の第1最適化方法)
印刷機1の各印刷ユニット部10における下記の第1〜第3条件のいずれか1つの条件を選択し、その選択された条件で示される数値をA、乾燥装置103の熱風吸引部1033における単位時間当たりの吸引風量をB(m/分)、有機溶剤性印刷インキ組成物中の有機溶剤含有量をC(質量%)とした場合の(A・C/B)で表わされる数値Kが最大値を示す印刷ユニット部10をY、その印刷ユニット部YのBの数値をB、数値Kが印刷ユニット部Yと同じまたは2番目に大きな値を示す印刷ユニット部10をY、その印刷ユニット部YのBの数値をB、…、数値Kが印刷ユニット部YX−1と同じまたは最も小さな値を示す印刷ユニット部10をY、その印刷ユニット部YのBの数値をBで表わしたときに、有機溶剤処理装置20の最大処理風量D(m/分)が下記式(1)
+B+…+Bm−1+B≦D<B+B+…+B+Bm+1…(1)
[式中、mは1〜(x−1)である。]
の関係を満たすとき、YからYまでの印刷ユニット部10における乾燥装置103の吸引口1033aから吸引された熱風を有機溶剤処理装置20に送って、熱風に含まれる有機溶剤を処理する。
【0043】
第1条件:印刷中の有機溶剤性印刷インキ組成物の消費量(g)
第2条件:全ての印刷ユニット部10に設けられた印刷版がグラビア印刷版であり、有機溶剤性印刷インキ組成物が同一粘度に調整され、印刷版の周長が等しい場合に、印刷版に設けられたセルの総容積(mm
第3条件:全ての印刷ユニット部10に設けられた印刷版がグラビア印刷版であり、有機溶剤性印刷インキ組成物が同一粘度に調整され、印刷版の周長および印刷版に設けられた各セルの容積が等しい場合に、印刷版が1周した時に形成される印刷面積(mm
【0044】
(有機溶剤処理の第2最適化方法)
印刷機1の各印刷ユニット部10における下記の第1〜第3条件のいずれか1つの条件を選択し、その選択された条件で示される数値をA、乾燥装置103の熱風吸引部1033におけるの単位時間当たりの吸引風量をB(m/分)、有機溶剤性印刷インキ組成物中の有機溶剤含有量をC(質量%)とした場合の(A・C/B)で表わされる数値Kが最大値を示す印刷ユニット部10をY、その印刷ユニット部YのA,B,Cの数値をそれぞれA,B,C、数値Kが印刷ユニット部Yと同じまたは2番目に大きな値を示す印刷ユニット部10をY、その印刷ユニット部YのA,B,Cの数値をそれぞれA,B,C、…、数値Kが印刷ユニット部YX−1と同じまたは最も小さな値を示す印刷ユニット部10をY、その印刷ユニット部YのA,B,Cの数値をそれぞれA,B,Cで表わしたときに、有機溶剤処理装置20の最大処理風量D(m/分)が下記式(1)
+B+…Bm−1+B≦D<B+B+…+B+Bm+1…(1)
[式中、mは1〜(x−1)である。]
の関係を満たし、
さらに、下記式(2)で表わされるZ
【数3】

[式中、mは1〜(x−1)である。]
および下記式(3)で表わされるZm+1
【数4】

[式中、mは1〜(x−1)である。]
において、
>Zm+1の関係を満たすときには、YからYまでの印刷ユニット部10における乾燥装置103の吸引口1033aから吸引された熱風を有機溶剤処理装置20に送って、熱風に含まれる有機溶剤を処理し、
=Zm+1の関係を満たすときには、YからYまで、またはYからYm+1までの印刷ユニット部10における乾燥装置103の吸引口1033aから吸引された熱風を有機溶剤処理装置20に送って、熱風に含まれる有機溶剤を処理し、
<Zm+1の関係を満たすときには、YからYm+1までの印刷ユニット部10における乾燥装置103の吸引口1033aから吸引された熱風を有機溶剤処理装置20に送って、熱風に含まれる有機溶剤を処理する。
【0045】
第1条件:印刷中の有機溶剤性印刷インキ組成物の消費量(g)
第2条件:全ての印刷ユニット部10に設けられた印刷版がグラビア印刷版であり、有機溶剤性印刷インキ組成物が同一粘度に調整され、印刷版の周長が等しい場合に、印刷版に設けられたセルの総容積(mm
第3条件:全ての印刷ユニット部10に設けられた印刷版がグラビア印刷版であり、有機溶剤性印刷インキ組成物が同一粘度に調整され、印刷版の周長および印刷版に設けられた各セルの容積が等しい場合に、印刷版が1周した時に形成される印刷面積(mm
【0046】
ここで、上記の第1条件における、印刷中の有機溶剤性印刷インキ組成物の消費量については以下の方法で測定することができる。
【0047】
まず、各印刷ユニット部10間の印刷中のインキの消費量を比較する場合、各印刷ユニット部10のインキ容器のインキ液面の下がる程度を比較するのが最も簡単な方法といえる。しかし、印刷中のインキ液面の変動は激しく、消費量の正確な情報を把握することは困難となる。そこで、本発明では、各印刷ユニット部10におけるインキの消費量を定量化するための簡便法として、予備的印刷の実施結果、あるいは、一定条件下での印刷版や印刷面積などのパラメータを用いる。
【0048】
予備的印刷の実施結果を用いるには、例えば、まず、各印刷ユニット部10のインキ容器にインキを供給して5分間程度印刷した後、一旦、印刷を止めてインキ容器中のインキ液面の高さを測定し、印刷を再開して一定時間印刷した後に、また、印刷を止めて、インキ容器中のインキの液面の高さを測定する。そして、液面の高さの差がそのまま定量的なインキ消費量につながるなら液面の差を求める。また、定量的なインキ消費量のために、消費したインキの体積や質量を求める必要があれば、印刷後のインキ容器中に、インキの液面が前記の高さになるまで新たにインキを供給して、その時のインキ供給量の体積または質量を消費量とすることができる。なお、印刷再開から設定した印刷速度に達するまで、印刷速度が変動する間にインキの消費量も変動することが、正確なインキの消費量の算出に対して誤差の原因となる。また、インキを版面へ供給する段階や回収する段階で蒸発する有機溶剤の分の補充がなければ、印刷により消費されたインキの他に、その分もインキ供給量に加算されることになり、正確なインキの消費量の算出に対して誤差の原因となることもある。
【0049】
他の方法として、印刷速度の変動による誤差を含まないように、各印刷ユニット部10に印刷速度が設定速度になってから一定時間印刷し、以下の式(I)でインキの消費量を求めることもできる。
【0050】
インキ消費量=(M−M)/S …(I)
[式中、Mは一定期間印刷するのに必要な印刷用基材30の質量(g)、Mは一定期間印刷したときの印刷物の質量(g)、Sはインキ組成物1g当たりの固形分質量(g/g)である。]
【0051】
なお、これらの方法で求めたインキの消費量は、印刷ユニット部10における印刷時間、印刷用基材30の通過した長さから、単位時間当りまたは印刷用基材30の単位面積当りの消費量に換算した数値にして本発明で利用することは任意である。
【0052】
次に、上記第2,3条件における数値は、印刷方法がグラビア印刷の場合に適用される。グラビア印刷では、通常、カップ状の容器の底に設けられた穴からインキが流出し終わる秒数(流出秒数)で、インキの粘度を管理しながら印刷が行われる。この流出秒数が概ね同じ秒数であれば(例えば、ザーンカップの3号等で2秒差程度)、略同一粘度に調整されているといえる。
【0053】
また、印刷版はシリンダー状で、その周長は各印刷ユニット部10でほぼ同じものが利用される。そして、印刷版の表面に、腐食などの化学的処理を利用する方法や彫刻法などでセルが形成されるが、印刷物の色濃度の調整や諧調再現性のために、製版の段階から、セルの容積については厳密に管理される必要がある。従って、セルを形成する方法のいずれも、通常はセルが既知の容積となるよう、予め、条件が定められている。なお、セルの容積が未知の場合でも、それを測定する方法は多く知られており、例えば、特開2007−315802号公報などで開示されている。なお、セルの容積が諧調等で異なる場合は、それぞれの諧調の部分のセルの容積と、画線部の面積と線数の関係から算出した個数を掛け合わせて、最終的に印刷版の全諧調のセルの総容積を求めることができる。もちろん、この様にして算出したセルの総容積に対して、有機溶剤性印刷インキ組成物の消費量(基材30への転移量)が完全に比例するものではない。しかし、本発明では、処理する印刷ユニット部10の選択をこの方法で「より簡易に」行えるという点も、印刷時における有機溶剤処理を「最適」とするための要素の一つである。さらに、各印刷ユニット部10の印刷版に設けられた各セルの容積がほぼ等しいときは、印刷版に設けられたセルの個数、すなわち印刷版の画像部の面積に比例する。
【0054】
なお、本発明では、吸引口1033aから吸引した熱風を有機溶剤処理装置20に送り、印刷物を乾燥させたときに蒸発した有機溶剤を処理する。このような方法では、極力、熱風内に多くの蒸発した有機溶剤が混合されているほど、処理効率が高くなり有利である。そこで、熱風量は印刷物が乾燥するために最少の熱風量とすることが好ましい。さらに乾燥装置103の密閉性が高く、噴出口1032aから噴出される熱風が吸引口1033aでほとんど回収される(熱風が外部に漏れることが少ない)条件下では、熱風を乾燥装置103内で、循環させる構造を有していても良い。この場合、循環させずに有機溶剤処理装置20に送るより、当然、多くの蒸発した有機溶剤を含むことになる。この様な噴出口1032aから噴出した熱風がほとんど吸引口1033aで回収される条件で、乾燥装置103の中をT回(例えば3回)循環させた場合には、循環させずに有機溶剤処理装置20に送る場合の前記(A・C/B)の数値KをT倍(例えでは3倍)した数値K(=T・K)を用いる。これは、同一の熱風の空気量で、印刷物としてT倍(3倍)の量が乾燥装置103内を通過し、消費されるインキ量(セルの総容量、印刷面積)がT倍(3倍)になったとみなすことができるからである。
【0055】
また、上記のような乾燥装置103内における熱風の循環処理は、有機溶剤処理装置20の処理能力に応じて、有機溶剤処理装置20による有機溶剤処理を実施する印刷ユニット部10として選択されなかった印刷ユニット部(以下、「未選択印刷ユニット部」という)に対して行うのが好ましい。未選択印刷ユニット部は、(A・C/B)の数値Kが小さく、熱風中の有機溶剤含有量が少ないと判断された印刷ユニット部である。このような未選択印刷ユニット部における(A・C/B)で表わされる数値Kに循環回数Tを乗じた値Kが、数値Kの最大値、すなわち選択された印刷ユニット部の数値Kと同じになるか、または、数値Kの最大値を超えない範囲で、最大値に最も近い値になるように、未選択印刷ユニット部における熱風の循環回数Tが設定される。
【0056】
さらに、有機溶剤処理装置20として有機溶剤回収装置を使用する場合は、上記の有機溶剤処理の第2最適化方法において、Z<Zm+1であれば、YからYm+1までの印刷ユニット部10の吸引した熱風を有機溶剤回収装置に送り、処理すると、全部の有機溶剤蒸気を吸着させられるわけではなく、計算上では吸着能力に対して、(B+B+…+B+Bm+1)/D倍の熱風量となる。
【0057】
そこで、有機溶剤処理の第2最適化方法において、Z<Zm+1の関係を満たすときには、YからYm+1までの印刷ユニット部10における乾燥装置103の吸引口1033aから吸引された熱風を一旦混合した後、下記式(4)で表わされる風量Fで有機溶剤処理装置20に送って、熱風に含まれる有機溶剤を処理する方法を用いても良い。
F=D/(B+B+…+Bm+1) …(4)
【0058】
以下、有機溶剤処理装置20として、有機溶剤回収装置を用いた場合について説明する。具体的な有機溶剤性印刷インキ組成物を用いた印刷における、各印刷ユニット部10で使用する印刷版の図柄面積、各印刷ユニット部10で使用する印刷版の種類、各印刷ユニット部10のグラビア印刷機の印刷スピード、各印刷ユニット部10で使用する有機溶剤性印刷インキ組成物により、各印刷ユニット部10毎のインキ消費量を予測計算する。なお、印刷版の図柄面積は、例えば、製版用ソフト(ArtWorker)で出力することができる。
【0059】
図2は、印刷機1における版胴101に対する印刷版1012の面付け数とピッチ幅Pとの関係を示す図である。例えば、印刷機1として、グラビア8色印刷機を使用し、図2に示す面付け状態とし、以下の印刷条件とした場合、前記のインキ容器中のインキ液面の元の高さまで戻すのに必要なインキ量から計算すると、各印刷ユニットの図柄面積とインキ量中の有機溶剤量は下記の表1のようになる。
(条件)
・印刷時間:50分間(基材30の搬送長さ:10000m)
・印刷版1012:グラビア印刷版(彫刻版)、175線、コンプレスト、スタイラス角度120°
・版深度:28μm
・各印刷ユニット部10の版の図柄面積:表1参照
・版胴101の軸線方向における印刷版1012の面付け数:3面
・版胴101の回転方向における印刷版1012のピッチ幅P:20cm
・熱風の温度:吸引口1033a通過時120℃
・乾燥装置103の吸引風量:80m/分
・有機溶剤性印刷インキ組成物中の有機溶剤:酢酸n−プロピル/イソプロパノール=75/25の混合溶剤
・有機溶剤性印刷インキ組成物の有機溶剤含有量:全て61質量%
【0060】
【表1】

【0061】
(有機溶剤処理の第1最適化方法で処理する場合)
まず、有機溶剤処理装置20として、有機溶剤蒸気を一旦吸着材に吸着させた後に脱着させることにより処理する有機溶剤回収装置を利用する場合の、前記有機溶剤処理の第1最適化方法では、数値Aは、第1条件(印刷中の有機溶剤性印刷インキ組成物の消費量)も、第2条件(全ての印刷ユニットに設けられた印刷版がグラビア印刷版であり、有機溶剤性印刷インキ組成物が略同一粘度に調整され、印刷版の周長がほぼ等しい場合に、印刷版に設けられたセルの総容積)も、第3条件(全ての印刷ユニットに設けられた印刷版がグラビア印刷版であり、有機溶剤性印刷インキ組成物が略同一粘度に調整され、印刷版の周長および印刷版に設けられた各セルの容積がほぼ等しい場合に、印刷版が1周した時に形成される印刷面積)も、各印刷ユニット部10の中で、及び、各ユニット部10の間で全てほぼ比例関係にあり、また、数値B(各印刷ユニット部10での乾燥装置103の単位時間当たりの吸引風量)は80m/分、数値C(有機溶剤性印刷インキ組成物中の有機溶剤含有量)は61質量%で同一である。従って、数値Aの条件として第1〜第3条件のいずれを採用しても、各印刷ユニット部10間の(A・C/B)で表わされる数値Kは、相対値として変わらないことになる。
【0062】
なお、この(A・C/B)で表わされる数値Kが最大値を示す印刷ユニット部Yは、表1に示す例では、印刷ユニット部10−8、順に印刷ユニット部Yは印刷ユニット部10−7、印刷ユニット部Yは印刷ユニット部10−6、印刷ユニット部Yは印刷ユニット部10−5、…、印刷ユニット部Yは印刷ユニット部10−1になる。
【0063】
そこで、例えば、有機溶剤処理装置20として、最大処理風量Dが250m/分の溶剤回収装置を用いたときには、D>B+B+B(吸引風量合計240m/分)、D<B+B+B+B(吸引風量合計320m/分)の関係となり、印刷ユニット部Y〜Yの印刷ユニット部10−8、印刷ユニット部10−7および印刷ユニット部10−6で吸引した熱風を有機溶剤処理装置20に送り処理するものである。
【0064】
(有機溶剤処理の第2最適化方法で処理する場合)
例えば、有機溶剤処理装置20として、最大処理風量Dが250m/分の溶剤回収装置を用いたときには、有機溶剤処理の第1最適化方法と同様に、D>B+B+B(吸引風量合計240m/分)、D<B+B+B+B(吸引風量合計320m/分)の関係となる。
【0065】
そこで、数値Aを1分間印刷したときのインキ消費量とすると、上記式(2)で表わされるZとして、m=3のZの値は、下記式(5)のように算出され、Z≒512となる。
【数5】

【0066】
また、上記式(3)で表わされるZm+1として、m=3のZの値は、下記式(6)のように算出され、Z≒429となる。
【数6】

【0067】
この結果より、Z>Zであるから、印刷ユニット部Y〜Yの印刷ユニット部10−8、印刷ユニット部10−7、および印刷ユニット部10−6で吸引した熱風を有機溶剤処理装置20に送り処理するものである。
【0068】
なお、有機溶剤処理装置20として、最大処理風量Dが310m/分の溶剤回収装置を用いたときには、上記式(3)で算出されるZ≒531となり、Z<Zであるから、印刷ユニット部Y〜Yの印刷ユニット部10−8、印刷ユニット部10−7、印刷ユニット部10−6、および印刷ユニット部10−5で吸引した熱風を有機溶剤処理装置20に送り処理することになる。
【0069】
なお、有機溶剤の回収と並行して、有機溶剤を上記の燃焼させる装置を利用することは任意である。これらの燃焼法のいずれでも利用可能であるが、とりわけ、ランニングコスト面で有利な蓄熱燃焼法の利用が好適である。
【符号の説明】
【0070】
1 印刷機
10 印刷ユニット部
11 給紙部
12 排紙部
20 有機溶剤処理装置
30 印刷用基材
101 版胴
102 圧胴
103 乾燥装置
1011 インキ供給装置
1031 乾燥器
1032 熱風噴出部
1032a 噴出口
1033 熱風吸引部
1033a 吸引口
1034 給気ダクト
1035 案内ローラ
1036 熱風供給装置
1037 吸引装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルム状の印刷用基材に複数色の有機溶剤性印刷インキ組成物を順次転移させて印刷を行う複数の印刷ユニット部を含んで構成される印刷機であって、
周面に保持した印刷版に有機溶剤性印刷インキ組成物が塗布される版胴と、
該版胴に印刷用基材を圧接させて印刷版に塗布された有機溶剤性印刷インキ組成物を印刷用基材に転移させる圧胴と、
有機溶剤性印刷インキ組成物が転移された印刷用基材の表面に向けて乾燥用の熱風を噴出する噴出口と、有機溶剤性印刷インキ組成物から蒸発する有機溶剤を含む、印刷用基材の表面近傍の熱風を吸引する吸引口とが設けられた乾燥装置と、を備える複数の印刷ユニット部を含む印刷機によって印刷する際に、乾燥装置の吸引口から吸引された熱風に含まれる有機溶剤を有機溶剤処理装置により処理する、印刷時における有機溶剤処理の最適化方法において、
各印刷ユニット部における下記の第1〜第3条件のいずれか1つの条件を選択し、その選択された条件で示される数値をA、乾燥装置の単位時間当たりの吸引風量をB(m/分)、有機溶剤性印刷インキ組成物中の有機溶剤含有量をC(質量%)とした場合の(A・C/B)で表わされる数値Kが最大値を示す印刷ユニット部をY、その印刷ユニット部YのBの数値をB、数値Kが印刷ユニット部Yと同じまたは2番目に大きな値を示す印刷ユニット部をY、その印刷ユニット部YのBの数値をB、…、数値Kが印刷ユニット部YX−1と同じまたは最も小さな値を示す印刷ユニット部をY、その印刷ユニット部YのBの数値をBで表わしたときに、有機溶剤処理装置の最大処理風量D(m/分)が下記式(1)
+B+…+Bm−1+B≦D<B+B+…+B+Bm+1…(1)
[式中、mは1〜(x−1)である。]
の関係を満たすとき、YからYまでの印刷ユニット部における乾燥装置の吸引口から吸引された熱風を有機溶剤処理装置に送って、熱風に含まれる有機溶剤を処理することを特徴とする印刷時における有機溶剤処理の最適化方法。
第1条件:印刷中の有機溶剤性印刷インキ組成物の消費量(g)
第2条件:全ての印刷ユニット部に設けられた印刷版がグラビア印刷版であり、有機溶剤性印刷インキ組成物が同一粘度に調整され、印刷版の周長が等しい場合に、印刷版に設けられたセルの総容積(mm
第3条件:全ての印刷ユニット部に設けられた印刷版がグラビア印刷版であり、有機溶剤性印刷インキ組成物が同一粘度に調整され、印刷版の周長および印刷版に設けられた各セルの容積が等しい場合に、印刷版が1周した時に形成される印刷面積(mm
【請求項2】
フィルム状の印刷用基材に複数色の有機溶剤性印刷インキ組成物を順次転移させて印刷を行う複数の印刷ユニット部を含んで構成される印刷機であって、
周面に保持した印刷版に有機溶剤性印刷インキ組成物が塗布される版胴と、
該版胴に印刷用基材を圧接させて印刷版に塗布された有機溶剤性印刷インキ組成物を印刷用基材に転移させる圧胴と、
有機溶剤性印刷インキ組成物が転移された印刷用基材の表面に向けて乾燥用の熱風を噴出する噴出口と、有機溶剤性印刷インキ組成物から蒸発する有機溶剤を含む、印刷用基材の表面近傍の熱風を吸引する吸引口とが設けられた乾燥装置と、を備える複数の印刷ユニット部を含む印刷機によって印刷する際に、乾燥装置の吸引口から吸引された熱風に含まれる有機溶剤を有機溶剤処理装置により処理する、印刷時における有機溶剤処理の最適化方法において、
各印刷ユニット部における下記の第1〜第3条件のいずれか1つの条件を選択し、その選択された条件で示される数値をA、乾燥装置の単位時間当たりの吸引風量をB(m/分)、有機溶剤性印刷インキ組成物中の有機溶剤含有量をC(質量%)とした場合の(A・C/B)で表わされる数値Kが最大値を示す印刷ユニット部をY、その印刷ユニット部YのA,B,Cの数値をそれぞれA,B,C、数値Kが印刷ユニット部Yと同じまたは2番目に大きな値を示す印刷ユニット部をY、その印刷ユニット部YのA,B,Cの数値をそれぞれA,B,C、…、数値Kが印刷ユニット部YX−1と同じまたは最も小さな値を示す印刷ユニット部をY、その印刷ユニット部YのA,B,Cの数値をそれぞれA,B,Cで表わしたときに、有機溶剤処理装置の最大処理風量D(m/分)が下記式(1)
+B+…+Bm−1+B≦D<B+B+…+B+Bm+1…(1)
[式中、mは1〜(x−1)である。]
の関係を満たし、
さらに、下記式(2)で表わされるZ
【数7】

[式中、mは1〜(x−1)である。]
および下記式(3)で表わされるZm+1
【数8】

[式中、mは1〜(x−1)である。]
において、
>Zm+1の関係を満たすときには、YからYまでの印刷ユニット部における乾燥装置の吸引口から吸引された熱風を有機溶剤処理装置に送って、熱風に含まれる有機溶剤を処理し、
=Zm+1の関係を満たすときには、YからYまで、またはYからYm+1までの印刷ユニット部における乾燥装置の吸引口から吸引された熱風を有機溶剤処理装置に送って、熱風に含まれる有機溶剤を処理し、
<Zm+1の関係を満たすときには、YからYm+1までの印刷ユニット部における乾燥装置の吸引口から吸引された熱風を有機溶剤処理装置に送って、熱風に含まれる有機溶剤を処理することを特徴とする印刷時における有機溶剤処理の最適化方法。
第1条件:印刷中の有機溶剤性印刷インキ組成物の消費量(g)
第2条件:全ての印刷ユニット部に設けられた印刷版がグラビア印刷版であり、有機溶剤性印刷インキ組成物が同一粘度に調整され、印刷版の周長が等しい場合に、印刷版に設けられたセルの総容積(mm
第3条件:全ての印刷ユニット部に設けられた印刷版がグラビア印刷版であり、有機溶剤性印刷インキ組成物が同一粘度に調整され、印刷版の周長および印刷版に設けられた各セルの容積が等しい場合に、印刷版が1周した時に形成される印刷面積(mm
【請求項3】
前記Zおよび前記Zm+1が、Z<Zm+1の関係を満たすときには、YからYm+1までの印刷ユニット部における乾燥装置の吸引口から吸引された熱風を、下記式(4)で表わされる風量Fで有機溶剤処理装置に送って、熱風に含まれる有機溶剤を処理することを特徴とする請求項2に記載の印刷時における有機溶剤処理の最適化方法。
F=D/(B+B+…+Bm+1) …(4)
【請求項4】
印刷ユニット部の乾燥装置における吸引口からの吸引風量Bを調節して、前記数値Kを大きくすることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の印刷時における有機溶剤処理の最適化方法。
【請求項5】
前記有機溶剤処理装置は、乾燥装置の吸引口から吸引される熱風に含まれる有機溶剤を、一旦吸着材で吸着した後に脱着し、冷却により液化させて有機溶剤を回収する有機溶剤回収装置であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載の印刷時における有機溶剤処理の最適化方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−20570(P2012−20570A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−275173(P2010−275173)
【出願日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【特許番号】特許第4847606号(P4847606)
【特許公報発行日】平成23年12月28日(2011.12.28)
【出願人】(000105947)サカタインクス株式会社 (123)
【Fターム(参考)】