説明

印刷物品の製造方法

【課題】導電ペースト等の高粘度のインキであってもインキ受容面に厚みが均一な塗膜を形成できるため、前記塗膜をパターン形成したのち被印刷体の表面に転写することにより、厚みが均一な画線部を備えた印刷物品を製造することができる、新規な印刷物品の製造方法を提供する。
【解決手段】シリコーンゴムからなるインキ受容面2に、せん断速度3000(l/s)印加時の第一法線応力差Nが100Pa以上であるインキ3を、前記インキ受容面との間に隙間がないように高さを設定したドクターブレード5を用いて塗布する工程を含む印刷物品の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコーンゴムからなるインキ受容面にインキを塗布して塗膜を形成し、パターン形成したのち被印刷体の表面に転写する工程を経て、前記表面に前記インキからなる画線部が形成された印刷物品を製造するための印刷物品の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えばフラットディスプレイパネル用の導電パターンや、あるいはカラーフィルタ用のカラーパターン等の、被印刷体としての基板の面積と比較してごく微細な平面形状を有する画線部を、前記基板のほぼ全面に精度良く形成するために、従来はいわゆるフォトリソグラフ法を利用した形成方法が採用されてきた。
しかし近時、フォトリソグラフ法に代えて印刷法を利用することが普及しつつある。
【0003】
印刷法によれば、フォトリソグラフ法と比べてできるだけ工程数を少なく、消費エネルギーを小さく、使用する材料の無駄を少なく、そして短時間で生産性良くパターン形成をすることが可能である。
また印刷法によれば、フォトリソグラフ法では形成するのが容易でなかった厚み0.5μm以上といった厚みのあるパターンを形成することも可能である。
【0004】
印刷法としては、反転印刷法等が実用化されている。
反転印刷法では、少なくとも表面をシリコーンゴム等で形成した印刷ブランケットの前記表面(インキ受容面)の略全面にインキを塗布する。次いで前記インキ受容面に、画線部に対応した凹部と非画線部に対応した凸部とを有する版を接触させたのち剥離することにより、前記版の凸部が接触した領域のインキをインキ受容面から選択的に除去して、前記インキ受容面に、前記凹部に対応したインキのパターンを形成する。
【0005】
次いでインキ受容面を基板の表面と接触させて、前記パターン形成されたインキを基板の表面に再転写させたのち乾燥させ、さらに必要に応じて焼成することにより、前記基板の表面に、前記凹部の形状に対応した画線部が形成される(特許文献1)。
また前記特許文献1では、インキ受容面にできるだけ膜厚ムラのない厚みの均一な塗膜を形成するため、例えばインキの種類等に応じて、インキの塗布手段としてブレードユニットを用いたり、ワイヤーバーユニットとブレードユニットとを併用したりすることが検討されている。
【0006】
また特許文献2では、同じくインキ受容面にできるだけ厚みが均一な塗膜を形成するために、粘度が5mPa・s以下、表面エネルギーが25mN/m以下であるインキ組成物を用いることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3689536号公報
【特許文献2】特開2005−126608号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
フラットディスプレイパネルの導電パターン等を形成するための導電ペースト等の、フィラー分散系のインキは高粘度化する傾向が強く、特許文献2で規定されているように粘度5mPa・s以下といった低粘度にすることが難しい。
そのため、前記フィラー分散系のインキを用いる場合、特許文献1、2等に記載された従来の塗膜の形成方法では、厚みが均一な塗膜をインキ受容面に形成することができず、結果として、厚みが均一な画線部を備えた印刷物品を製造することはできない。
【0009】
本発明の目的は、例えば導電ペースト等の高粘度のインキであってもインキ受容面に厚みが均一な塗膜を形成できるため、前記塗膜をパターン形成したのち被印刷体の表面に転写することにより、厚みが均一な画線部を備えた印刷物品を製造することができる、新規な印刷物品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、シリコーンゴムからなるインキ受容面にインキを塗布して塗膜を形成するとともに、前記塗膜を画線部と非画線部にパターン形成する工程、および前記画線部の塗膜を選択的に被印刷体の表面に転写する工程を含む印刷物品の製造方法であって、
前記インキとして、せん断速度3000(l/s)印加時の第一法線応力差Nが100Pa以上であるインキを用いるとともに、前記インキをインキ受容面に塗布するために、前記インキ受容面に沿う塗工面先端部を備えたドクターブレードを用い、
前記塗工面先端部とインキ受容面との間に隙間がないように、前記ドクターブレードの高さを設定した状態で前記インキを塗布することにより、
塗布時のインキに生じるインキ弾性によって、前記塗工面先端部とインキ受容面との間にギャップを生じさせながらインキを塗布して、前記被印刷体の表面に、前記ギャップに応じた厚みを有する塗膜を形成することを特徴とする。
【0011】
本発明で用いる、せん断速度3000(l/s)印加時の第一法線応力差Nが100Pa以上であるインキは、ドクターブレードによるインキ受容面への塗布時に、前記第一法線応力差N値や、あるいはドクターブレードの移動速度等に応じて一定のインキ弾性を生じる。
そのため、前記ドクターブレードの塗工面先端部とインキ受容面との間に隙間がないように、前記ドクターブレードの高さを設定した状態で前記特定のインキを塗布すると、主として、シリコーンゴムからなる軟らかいインキ受容面が、前記インキ弾性を生じたインキを介してドクターブレードからの圧接力を受けて圧縮変形されて、前記ドクターブレードの塗工面先端部と、インキ受容面との間にギャップを生じる。
【0012】
かかる両者間に生じるギャップ幅は、ドクターブレードの移動速度等の印刷条件を一定に設定した場合、インキに生じるインキ弾性に応じて一定量とされるため、インキ受容面に、前記ギャップ幅に対応した、厚みが均一な塗膜を形成することができる。
そのため本発明によれば、前記塗膜を画線部と非画線部にパターン形成し、このうち画線部の塗膜を選択的に被印刷体の表面に転写したのち乾燥し、さらに必要に応じて焼成することにより、前記被印刷体の表面に、厚みが均一な画線部が形成された印刷物品を製造することが可能となる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、例えば導電ペースト等の高粘度のインキであってもインキ受容面に厚みが均一な塗膜を形成できるため、前記塗膜をパターン形成したのち被印刷体の表面に転写することにより、厚みが均一な画線部を備えた印刷物品を製造することができる、新規な印刷物品の製造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の印刷物品の製造方法のうち、シリコーンゴムからなるインキ受容面に、ドクターブレードを用いてインキを塗布して塗膜を形成する工程を拡大して示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の印刷物品の製造方法は、
シリコーンゴムからなるインキ受容面にインキを塗布して塗膜を形成するとともに、前記塗膜を画線部と非画線部にパターン形成する工程、および
前記画線部の塗膜を選択的に被印刷体の表面に転写する工程
を含み、
前記インキとして、せん断速度3000(l/s)印加時の第一法線応力差Nが100Pa以上であるインキを用いるとともに、前記インキをインキ受容面に塗布するために、前記インキ受容面に沿う塗工面先端部を備えたドクターブレードを用い、
前記塗工面先端部とインキ受容面との間に隙間がないように、前記ドクターブレードの高さを設定した状態で前記インキを塗布することにより、
塗布時のインキに生じるインキ弾性によって、前記塗工面先端部とインキ受容面との間にギャップを生じさせながらインキを塗布して、前記被印刷体の表面に、前記ギャップに応じた厚みを有する塗膜を形成することを特徴とする。
【0016】
〈インキ〉
前記本発明の製造方法において使用するインキの、せん断速度3000(l/s)印加時の第一法線応力差Nが100Pa以上に限定されるのは、下記の理由による。
すなわち第一法線応力差Nが前記範囲未満であるインキは、ドクターブレードによるインキ受容面への塗布時に十分なインキ弾性を生じない。
【0017】
そのため、ドクターブレードの塗工面先端部とインキ受容面との間に隙間がないように、前記ドクターブレードの高さを設定した状態で前記インキを塗布しようとすると、前記塗工面先端部とインキ受容面との間に、前記インキ弾性に応じたギャップを生じさせることができない。
したがってインキ受容面に、所定のギャップ幅に応じた厚みが均一な塗膜を形成することができず、結果として厚みが均一な画線部を備えた印刷物品を製造することができない。
【0018】
なお第一法線応力差Nは、ドクターブレードによるインキ受容面への塗布時のインキに十分なインキ弾性を生じさせることを考慮すると、前記範囲内でも300Pa以上、特に900Pa以上であるのが好ましい。
第一法線応力差Nの上限は特に限定されないが、40000Pa以下、特に20000Pa以下であるのが好ましい。第一法線応力差Nが前記範囲を超えるインキでは、インキ受容面に形成される塗膜の厚みが大きくなりすぎて、版との接触によるパターン形成が困難になるおそれがある。
【0019】
本発明では、前記第一法線応力差Nを、温度25℃の環境下、パラレルプレート型粘度計を用いて、プレートのギャップ0.05mm、せん断速度3000(l/s)で粘度測定をした際に、プレートに働く軸方向の力Fと、前記プレートの半径R(=12.5mm)とから、式(1):
【0020】
【数1】

【0021】
によって求めた値でもって表すこととする。
前記インキの、その他の特性は特に限定されないが、先に説明したように高粘度であるフィラー分散系のインキにおいて、本発明の構成を採用することによる効果が向上することから、インキの粘度は高粘度であるのが好ましい。具体的には、温度25℃の環境下、前記パラレルプレート型粘度計を用いて、せん断速度10(l/s)で測定した粘度η10が5mPa・sを超え、中でも10mPa・s以上、特に23mPa・s以上であるのが好ましい。
【0022】
ただし粘度があまりに高過ぎると、ドクターブレードを用いた塗布では、却って、厚みが均一な塗膜をインキ受容面に形成することができず、画線部の厚みが均一な印刷物品を製造できないおそれがある。そのためインキの粘度η10は、前記範囲内でも100mPa・s以下、中でも90mPa・s以下、特に70mPa・s以下であるのが好ましい。
例えば画線部が導電部である場合、インキとしては、導電性粉末を、バインダ樹脂や溶剤等と配合した導電性ペーストが使用される。
【0023】
前記導電性ペーストの第一法線応力差N、粘度η10等を前記範囲内に調整するためには、例えば導電性粉末の粒径や形状、バインダ樹脂の種類や分子量、前記導電性粉末、バインダ樹脂、および溶剤の配合割合等を適宜調整すればよい。
前記のうち導電性粉末としては、例えば金、銀、銅、白金、ニッケル、アルミニウム、鉄、パラジウム、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、コバルト等の金属の粉末や前記金属の2種以上の合金の粉末、銀メッキ銅等のメッキ複合体の粉末、酸化銀、酸化コバルト、酸化鉄、酸化ルテニウム等の金属酸化物の粉末などの1種または2種以上が挙げられる。中でも高い導電性を有する上、高絶縁性の酸化物を生成しにくい耐酸化性に優れるため導電性に優れた導電パターンを形成できる銀粉末が好ましい。
【0024】
導電性粉末は、導電性ペーストの第一法線応力差N、粘度η、チキソインデックス値TI等を前記範囲内に調整するために、任意の粒径、および形状を有するものを適宜選択して用いることができる。また、例えば同じまたは異なる金属等からなり、形状および/または粒径の異なる2種以上の導電性粉末を併用してもよい。
バインダ樹脂としては、例えばポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、エチルセルロース、ポリビニルブチラール、ポリエステル−メラミン系樹脂、メラミン系樹脂、エポキシ−メラミン系樹脂、フェノール系樹脂、ポリイミド系樹脂、エポキシ樹脂等の1種または2種以上が挙げられる。
【0025】
バインダ樹脂は、導電性ペーストの第一法線応力差N、粘度η、チキソインデックス値TI等を前記範囲内に調整するために、任意の分子量を有するものを適宜選択して用いることができる。また、例えば種類や分子量が異なる2種以上のバインダ樹脂を併用してもよい。
溶剤としては、前記バインダ樹脂を溶解するとともに導電性粉末を分散しうる種々の溶剤が使用可能である。
【0026】
前記溶剤としては、例えばヘキサノール、オクタノール、ノナノール、デカノール、ウンデカノール、ドデカノール、トリデカノール、テトラデカノール、ペンタデカノール、ステアリルアルコール、セリルアルコール、シクロヘキサノール、α−テルピネオール当のアルコール類;エチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、エチレングリコールモノフェニルエーテル、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルカルビトール)、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート(セロソルブアセテート)、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート(ブチルセロソルブアセテート)、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート(カルビトールアセテート)、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート(ブチルカルビトールアセテート)等のアルキルエーテル類が挙げられる。
【0027】
溶剤は、導電性ペーストの第一法線応力差N、粘度η、チキソインデックス値TI等を前記範囲内に調整するために、任意の溶剤を1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
導電性ペーストには、前記の各成分に加えて、例えばレベリング剤、分散剤、チキソトロピック粘性付与剤、消泡剤、充填剤、硬化触媒等の種々の添加剤を任意の割合で添加することもできる。
【0028】
導電性ペーストは、前記各成分を所定の割合で配合し、3本ロール、ボールミル、アトライタ、サンドミル等を用いて混合して調製される。処理条件は特に限定されず、常法に従って処理すればよい。
〈インキ受容面〉
例えば印刷法が反転印刷法等である場合、インキ受容面はフラットに形成される。すなわち、シリコーンゴムで一体に形成したフラットなシートである印刷ブランケットの表面がインキ受容面とされる。
【0029】
前記シート状の印刷ブランケットは、例えばガラス板等の表面に液状のシリコーンゴムを塗布して硬化させたのち脱型することで形成される。
前記印刷ブランケットの、インキ受容面と反対面には、シリコーンゴムの伸縮を低減して印刷の精度を向上するために、樹脂や金属等のフィルムやシートからなる支持体層を一体に貼り合わせても良い。支持体層は脱型前に貼り合わせても良い。
【0030】
前記印刷ブランケットのインキ受容面を形成するシリコーンゴムは、23℃でのJIS A硬さが15以上、80以下であるのが好ましい。
JIS A硬さを15以上とすることにより、インキ受容面に被印刷体を圧接させた際の過剰な変形を抑制して、印刷形状の精度を向上できる。
またJIS A硬さを80以下とすることにより、先に説明したように、ドクターブレードによるインキの塗布時に、前記インキ受容面を、インキ弾性に応じて良好に圧縮変形させて、ドクターブレードの塗工面先端部との間に一定のギャップを生じさせることができる。そのためインキ受容面に厚みが均一な塗膜を形成でき、結果として厚みが均一な画線部を備えた印刷物品を製造することができる。
【0031】
また、JIS A硬さを80以下とすることにより、インキ受容面に被印刷体を圧接させた際に、インキ受容面を弾性変形させて被印刷体の表面に隙間なく密着させて、インキを被印刷体の表面に良好に転写させることもでき、印刷形状の精度を向上できる。また被印刷体の表面に傷がついたりするのを防ぐこともできる。
前記印刷ブランケットは、前記のように液状のシリコーンゴムを用いて形成するのが好ましい。すなわち、水平に保持したガラス板の上に液状のシリコーンゴムを塗布したのち硬化させることにより、液のセルフレベリング効果によって全体の厚みを均一化できる。
【0032】
この際、塗布したシリコーンゴムが硬化する前に、先に説明した樹脂や金属等のフィルムまたはシートを重ねることで、前記フィルムやシートを支持体層として一体に貼り合わせることもできる。
前記液状のシリコーンゴムとしては、主剤と硬化剤の2成分からなり、両者を付加反応によって硬化させる二液付加反応型のものが好ましい。
【0033】
前記二液付加反応型のシリコーンゴムは、硬化反応に際して副生成物(脱水縮合反応による水等)を生じないため印刷ブランケットの寸法精度を向上し、かつ前記副生成物に基づく気泡等を含まない均一な印刷ブランケットを形成できる。
前記室温硬化型でかつ二液付加型の液状シリコーンゴム等としては、例えば信越化学工業(株)製の品番KE1600、KE1603、KE1606、KE1310ST、KE1300T、KE1314、KE1241、KE106、KE103、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製の品番TSE3062、TSE3402、TSE3450、TSE3453、TSE3455T、TSE3457、TSE3466、RTV662等の1種または2種以上が挙げられる。
【0034】
なお印刷ブランケットとしては、インキ受容面がフラットではなく、形成する印刷パターンの画線部に対応した凸部と、非画線部に対応した凹部とをあらかしめ形成したものを用いることもできる。
前記インキ受容面の略全面にインキを塗布して塗膜を形成し、前記凸部と凹部との高低差により、前記塗膜を前記画線部と非画線部にパターン形成したのち、前記インキ受容面に被印刷体を接触させることで、前記画線部に対応する凸部上のインキのみを選択的に、被印刷体の表面に転写することができる。
【0035】
前記印刷ブランケットは、例えば前記凹凸形状を有するガラス版や金属版の凹凸側表面に液状のシリコーンゴムを塗布し、硬化させたのち脱型することで形成される。
前記印刷ブランケットの、インキ受容面と反対面には、シリコーンゴムの伸縮を低減して印刷の精度を向上するために、樹脂や金属等のフィルムやシートからなる支持体層を一体に貼り合わせても良い。支持体層は、脱型前に貼り合わせても良い。
【0036】
〈ドクターブレード〉
ドクターブレードとしては、シリコーンゴムからなるインキ受容面へのインキの塗布に適した種々の材料からなるものが、いずれも使用可能である。
例えばドクターブレードとしては、各種鋼材等の金属や、ポリエステル、高密度ポリエチレン、ポリアセタール等のプラスチックからなるもの、あるいは前記金属からなるブレードの表面にセラミックの微粒子を含むコーティングを施したもの等が挙げられる。
【0037】
ドクターブレードの厚みや先端形状等は、インキ受容面を形成するシリコーンゴムの硬さ、塗布時のインキに生じるインキ弾性の大小、目標とすると膜の厚み等に応じて任意に設定できる。
〈塗膜形成〉
図1は、本発明の印刷物品の製造方法のうち、シリコーンゴムからなるインキ受容面に、ドクターブレードを用いてインキを塗布して塗膜を形成する工程を拡大して示す断面図である。
【0038】
図1を参照して、塗膜形成の工程では、まず前記印刷ブランケット1の表面であるインキ受容面2に所定量のインキ3を供給し、前記インキ3を、前記インキ受容面2に沿う塗工面先端部4を備えたドクターブレード5を用いてドクタリングする。
すなわち、図示していないが塗工面先端部4とインキ受容面2との間に隙間がないようにドクターブレード5の高さを設定した状態で、前記ドクターブレード5を、図中に白抜きの矢印で示す方向に一定速度で移動させる。
【0039】
そうするとドクターブレード5の移動に伴ってインキ3に加えられる応力に応じて、前記インキ3が所定のインキ弾性を生じ、前記インキ弾性を生じたインキ3を介してドクターブレード5からの圧接力を受けることで、軟らかいインキ受容面2が圧縮変形されて、塗工面先端部4との間にギャップGを生じる。
ギャップ幅は、ドクターブレード5の移動速度等の印刷条件を一定に設定した場合、インキ3に生じるインキ弾性に応じて一定量とされるため、インキ受容面2に、前記ギャップ幅に対応した、厚みが均一な塗膜6を形成することができる。
【0040】
〈パターン化〜焼成〉
反転印刷法では、インキ受容面である印刷ブランケットの表面の略全面に、前記工程で塗膜を形成したのち、前記インキ受容面に、画線部に対応した凹部と非画線部に対応した凸部とを有する版を接触させる。
そして版を剥離して、前記版の凸部が接触した領域のインキをインキ受容面から選択的に除去することで、前記インキ受容面に、前記凹部に対応したインキのパターンを形成する。
【0041】
次いで、前記印刷ブランケットのインキ受容面に、被印刷体としての樹脂のフィルムやシート、あるいはガラス板等の基板を所定の圧接力で圧接させたのちはく離することで、前記インキ受容面にパターン形成された画線部のインキのみを選択的に、前記基板の表面に転写させる。
このあとインキを乾燥させ、さらに必要に応じて焼成することにより、前記基板の表面に画線部が形成された印刷物品を製造することができる。
【0042】
本発明の製造方法によって製造される印刷物品としては、例えばプラズマディスプレイパネル(PDP)、液晶ディスプレイパネル(LCD)等のフラットディスプレイパネルを構成する電極基板、電磁波シールド、カラーフィルタ等が挙げられる。
なお本発明の構成は、以上で説明した例には限定されず、本発明の用紙を逸脱しない範囲で種々の変更を施すことができる。
【実施例】
【0043】
〈インキ受容面〉
室温硬化型でかつ二液付加反応型の液状ジメチルシリコーンゴム〔モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社性のTSE3455T〕の主剤100質量部と硬化剤10質量部とを混合したのち脱泡して塗布液を調製した。
前記塗布液を、水平に保持したガラス板の上に塗布し、硬化させたのちガラス板から剥離して、インキ受容面のモデルとしての、厚み0.55mmのシリコーンゴムのシートを作製した。
【0044】
〈ドクターブレード〉
ドクターブレードとしては、(株)東京製作所製のTS250C〔ウッデホルム社のスウェーデン鋼UHB−20MC1製、素材厚0.20mm、刃先厚100μm〕を使用した。
〈実施例1〉
銀粉末〔(株)徳力化学研究所製のシルベスト(登録商標)TC−38S〕78質量部、エポキシ樹脂〔主剤:三菱化学(株)製のjER(登録商標)1001、硬化剤:四国化成工業(株)製のイミダゾール系硬化剤1.2DMZ〕6質量部、アクリル樹脂〔三菱レイヨン(株)製のEMR0470、重量平均分子量Mw:60000〕6質量部、およびブチルカルビトールアセテート10質量部を配合して銀ペーストを調製した。
【0045】
前記銀ペーストの、せん断速度3000(l/s)印加時の第一法線応力差Nは915Pa、せん断速度10(l/s)で測定した粘度η10は45mPa・sであった。
〈実施例2〉
銀粉末〔福田金属箔工業(株)製のシルコート(登録商標)AgC−2012〕70質量部、実施例1で使用したのと同じエポキシ樹脂8質量部、実施例1で使用したのと同じアクリル樹脂8質量部、およびブチルカルビトールアセテート14質量部を配合して銀ペーストを調製した。
【0046】
前記銀ペーストの、せん断速度3000(l/s)印加時の第一法線応力差Nは392Pa、せん断速度10(l/s)で測定した粘度η10は23mPa・sであった。
〈実施例3〉
銀粉末〔福田金属箔工業(株)製のシルコートAgC−156I〕70質量部、実施例1で使用したのと同じエポキシ樹脂8質量部、実施例1で使用したのと同じアクリル樹脂8質量部、およびブチルカルビトールアセテート14質量部を配合して銀ペーストを調製した。
【0047】
前記銀ペーストの、せん断速度3000(l/s)印加時の第一法線応力差Nは3660Pa、せん断速度10(l/s)で測定した粘度η10は42mPa・sであった。
〈実施例4〉
銀粉末の量を80質量部、エポキシ樹脂の量を5質量部、アクリル樹脂の量を5質量部、ブチルカルビトールアセテートの量を10質量部としたこと以外は実施例3と同様にして銀ペーストを調製した。
【0048】
前記銀ペーストの、せん断速度3000(l/s)印加時の第一法線応力差Nは18000Pa、せん断速度10(l/s)で測定した粘度η10は34mPa・sであった。
〈実施例5〉
実施例3で使用したのと同じ銀粉末65質量部、ポリエステル樹脂〔住友ゴム工業(株)製のV1.5〕15質量部、実施例1で使用したのと同じアクリル樹脂8質量部、およびブチルカルビトールアセテート12質量部を配合して銀ペーストを調製した。
【0049】
前記銀ペーストの、せん断速度3000(l/s)印加時の第一法線応力差Nは20092Pa、せん断速度10(l/s)で測定した粘度η10は70mPa・sであった。
〈実施例6〉
実施例2で使用したのと同じ銀粉末80質量部、実施例5で使用したのと同じポリエステル樹脂2質量部、実施例1で使用したのと同じアクリル樹脂8質量部、およびブチルカルビトールアセテート10質量部を配合して銀ペーストを調製した。
【0050】
前記銀ペーストの、せん断速度3000(l/s)印加時の第一法線応力差Nは20092Pa、せん断速度10(l/s)で測定した粘度η10は70mPa・sであった。
〈比較例1〉
銀粉末〔三井金属鉱業(株)のSPQ03R〕75質量部、実施例5で使用したのと同じポリエステル樹脂15質量部、およびブチルカルビトールアセテート10質量部を配合して銀ペーストを調製した。
【0051】
前記銀ペーストの、せん断速度3000(l/s)印加時の第一法線応力差Nは42Pa、せん断速度10(l/s)で測定した粘度η10は9.4mPa・sであった。
〈厚みの均一性評価〉
実施例、比較例で調製した銀ペーストを、シリコーンゴムのシートの表面であるインキ受容面に供給し、ドクターブレードの塗工面先端部と前記インキ受容面との間に隙間がないように、前記ドクターブレードの高さを設定した状態で、ドクターブレードをインキ受容面上で移動させて、前記インキ受容面の略全面に銀ペーストを塗布して塗膜を形成した。
【0052】
形成した塗膜をパターン形成して硬化させたのち、9箇所で、レーザー顕微鏡を用いて厚みを測定し、下記の基準で厚みの均一性を評価した。
◎:塗膜の厚みは、測定した9箇所で1.5μmでほぼ等しく、厚みの均一性は極めて良好であった。
○:塗膜の厚みは、測定した9箇所で1.5μm前後でほぼ等しく、厚みのばらつき幅は0.6μm以下であった。
【0053】
△:9箇所の塗膜の厚みの平均値は2.8μmであり、塗膜厚みのばらつき幅は1.5μm以下であった。
×:9箇所の塗膜の厚みの平均値は1.0μm以下であり、塗膜の一部にかすれが発生して均一な塗膜が得られなかった。
結果を表1に示す。
【0054】
【表1】

【0055】
表1の実施例1〜6、および比較例1の結果より、せん断速度3000(l/s)印加時の第一法線応力差Nが100Pa以上である銀ペーストを用いることにより厚みが均一な塗膜を形成できることが判った。
また実施例1〜6の結果より、前記銀ペーストの第一法線応力差Nは、前記範囲内でも300Pa以上、特に900Pa以上であるのが好ましく、40000Pa以下、特に20000Pa以下であるのが好ましいことが判った。
【符号の説明】
【0056】
1 印刷ブランケット
2 インキ受容面
3 インキ
4 塗工面先端部
5 ドクターブレード
6 塗膜
G ギャップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコーンゴムからなるインキ受容面にインキを塗布して塗膜を形成するとともに、前記塗膜を画線部と非画線部にパターン形成する工程、および前記画線部の塗膜を選択的に被印刷体の表面に転写する工程を含む印刷物品の製造方法であって、
前記インキとして、せん断速度3000(l/s)印加時の第一法線応力差Nが100Pa以上であるインキを用いるとともに、前記インキをインキ受容面に塗布するために、前記インキ受容面に沿う塗工面先端部を備えたドクターブレードを用い、
前記塗工面先端部とインキ受容面との間に隙間がないように、前記ドクターブレードの高さを設定した状態で前記インキを塗布することにより、
塗布時のインキに生じるインキ弾性によって、前記塗工面先端部とインキ受容面との間にギャップを生じさせながらインキを塗布して、前記被印刷体の表面に、前記ギャップに応じた厚みを有する塗膜を形成することを特徴とする印刷物品の製造方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2013−22830(P2013−22830A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−159800(P2011−159800)
【出願日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】