説明

印刷用フィルム及び積層フィルム

【課題】 優れた寸法安定性を有するとともに、印刷適性及び粘着物性も良好な印刷用フィルム、及び、それを用いた積層フィルムを提供する。
【解決手段】 ポリ塩化ビニル系フィルム(A1)及び粘着剤層(A2)を有し、(A1)は、平均重合度1000〜1400のポリ塩化ビニル樹脂100質量部に対して数平均分子量1000〜3000のポリエステル系可塑剤を20〜40質量部配合した樹脂組成物、又は、平均重合度700〜1200のポリ塩化ビニル樹脂100質量部に対して数平均分子量380〜2000の可塑剤を15〜35質量部配合した樹脂組成物を使用して得られ、(A2)は、重量平均分子量500000〜1000000のアクリル酸エステル系重合体と、イソシアネート系硬化剤及び/又はエポキシ系硬化剤とを含有する粘着剤組成物を用いて形成され、溶剤系インクを用いて印刷が行われ、屋内外の装飾表示用として使用される印刷用フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷用フィルム及び積層フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から屋内外の装飾表示用フィルム・シートは、ポリ塩化ビニル系フィルム(PVCフィルム)が中心に使用されている。このようなフィルムの意匠付与については、ポリ塩化ビニルコンパウンド中に顔料を添加して色付けした単色フィルムやベース印刷用フィルムの表面にグラビア印刷等によって木目等の意匠を付与した後、その表面にクリヤーフィルムを積層する手段が広く使用されている。また、フィルム表面にエンボス加工を施して凹凸意匠を付ける手段も使用されている。フィルム製品の構造としては、壁等の各種基材への施工性を確保するために意匠フィルムの裏面に粘着剤層、セパレーター層を積層した構成が一般的であり、屋内外の広告看板、サインディスプレー、壁装用シート等として使用される。
【0003】
ここ最近、意匠についての要求の多様化によって、個々のデザインをオンデマンドで出力したものを壁装用フィルム等の装飾表示用フィルムとして使用する要求が高くなっているため、オンデマンドでの出力機で普及性の高いインクジェットプリンターを使用したフィルム製作が多くなっている。インクジェットプリンターとしては、水性インク、溶剤系インクタイプが使用されているが、製作スピード、耐久性の面から溶剤系インクで意匠を付与する要求が高くなっている。
【0004】
しかしながら、溶剤系インクを使用してPVCフィルムに印刷を行うと、フィルム内に残留したインク中の溶剤成分によって、フィルムが膨潤、軟化し、フィルム層が収縮する問題が生じる。また、フィルム中に残留した溶剤成分が下層の粘着剤層にも浸透していくことにより、粘着剤が有する凝集力の低下、著しい粘着力の低下、粘着剤の凝集破壊、フィルム/粘着剤層間に蓄積した溶剤成分やポリ塩化ビニル系樹脂コンパウンド中の移行物(添加剤)に起因する界面剥離、等が起こる。そしてその結果、フィルムを基材に貼り付けた状態において、時間の経過とともにフィルム層の収縮現象を抑えられなくなり、基材上のフィルム層が収縮する不具合(額縁現象)が発生する。
【0005】
額縁現象が発生した場合、フィルムの収縮部分で基材表面に残った粘着剤層の表面に、ほこり、ゴミ等が蓄積して、見栄えが悪くなったり、看板の背面から蛍光灯を照射してなる電飾看板の場合は、収縮部分の光透過性がその境界で変わるために非常に見栄えが悪くなる。
【0006】
溶剤系インクジェットプリンターとして、印刷時に加熱ヒーターによってインク中の溶剤成分を揮発、乾燥させる装置や機能が付設されたものも提供されているが、粘着剤層中にまで浸透した溶剤成分を充分に揮発させることは困難である。また、加熱ヒーターが付設されていないプリンターも広く普及している。従って、溶剤系インクを使用してPVCフィルムに印刷を行った場合、施工(基材への貼付)後において安定した寸法安定性を得ることは非常に困難であった。また、安定した寸法安定性を得ると同時に、優れた印刷適性及び粘着物性(初期粘着力、経時粘着力等)を得ることも困難であった。
【0007】
特許文献1〜5には、内装材用プリント媒体の材料、印刷用シートの材料として塩化ビニル樹脂を使用することが記載されているが、アクリル酸エステル系重合体と硬化剤とを併用することは記載されていない。特許文献6〜7には、内装用シートが記載されているが、塩化ビニル樹脂を使用することやアクリル酸エステル系重合体と硬化剤とを併用することは記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−79974号公報
【特許文献2】特開2001−150660号公報
【特許文献3】特開平10−309764号公報
【特許文献4】特開平11−43869号公報
【特許文献5】特開2003−48378号公報
【特許文献6】特開2003−53868号公報
【特許文献7】特開2004−230883号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記現状に鑑み、優れた寸法安定性を有するとともに、印刷適性及び粘着物性も良好な印刷用フィルム、及び、それを用いた積層フィルムを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の印刷用フィルムは、ポリ塩化ビニル系フィルム(A1)及び粘着剤層(A2)を有する印刷用フィルムであって、
上記ポリ塩化ビニル系フィルム(A1)は、平均重合度1000〜1400のポリ塩化ビニル樹脂(1)100質量部に対して数平均分子量1000〜3000のポリエステル系可塑剤(1)を20〜40質量部配合した樹脂組成物(1)、又は、平均重合度700〜1200のポリ塩化ビニル樹脂(2)100質量部に対して数平均分子量380〜2000の可塑剤(2)を15〜35質量部配合した樹脂組成物(2)を使用して得られるものであり、
上記粘着剤層(A2)は、重量平均分子量500000〜1000000のアクリル酸エステル系重合体と、イソシアネート系硬化剤及び/又はエポキシ系硬化剤とを含有する粘着剤組成物を用いて形成されるものであり、
上記印刷用フィルムは、溶剤系インクを用いて印刷が行われるもので、かつ、屋内外の装飾表示用として使用されるものであることを特徴とする。
【0011】
上記印刷の方法は、溶剤系インクジェット印刷法であることが好ましい。
【0012】
本発明の積層フィルムは、溶剤系インクを用いて印刷が行われた本発明の印刷用フィルムの印刷面上に、粘着剤層を有するオーバーラミネート用フィルムを積層した積層フィルムであって、屋内外の装飾表示用として使用されるものであることを特徴とする。
以下、本発明を詳細に説明する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の印刷用フィルムは、特定のポリ塩化ビニル系フィルム(A1)を備えている。これにより、優れた印刷適性、粘着物性、寸法安定性を得ることができる。
即ち、印刷時において、可塑剤のブリードが防止されるとともに、溶剤系インクによってフィルムが充分に膨潤されるため、優れたインクの定着性を得ることができる。従って、良好なインクの乾燥性、発色性(色濃度)が得られ、また、インクの滲み等による作業性の悪化を防止することもできる。
【0014】
また、溶剤系インク中の溶剤の粘着剤層への移行を抑制できるため、粘着物性の低下を抑制することができる。このため、貼付する基材における糊残りの発生を防止することや、基材へ貼り付け後、経時においてフィルムの収縮を抑制し、額縁現象の発生を防止すること、が可能となる。
更に、作画後において、良好な耐溶剤性が保持されるため、印刷を施したフィルムを各種基材に貼付した後に、安定した寸法安定性を得ることもできる。
【0015】
また、本発明の印刷用フィルムは、特定範囲の重量平均分子量を有するアクリル酸エステル系重合体及び特定の硬化剤を用いて得られる粘着剤層を有しているため、そのフィルムは優れた寸法安定性を有している。また、印刷適性及び粘着物性にも優れている。
【0016】
これについて、もう少し詳しく説明する。
溶剤系インクジェットプリンター等を使用してPVCフィルムに印刷を施した場合、フィルム内の残留溶剤成分に起因するフィルムの膨潤、軟化によって、フィルムの収縮が生じてしまうが、このような収縮現象はポリ塩化ビニル樹脂の平均重合度を高めることによって改善される傾向にある。しかしながら、このように平均重合度を高めただけでは、粘着剤層にも浸透した溶剤成分によって、粘着剤層における凝集力の低下、粘着力の低下、凝集破壊が生じ、フィルム/粘着剤層間で界面剥離が起きてしまうため、額縁現象を充分に防止することはできなかった。
【0017】
これに対して、本発明の印刷用フィルムは、粘着剤層が、特定範囲の重量平均分子量を有するアクリル酸エステル系重合体と特定の硬化剤とを用いて形成されているため、上記問題点の発生を防止することができる。よって、本発明の印刷用フィルムを使用した場合、フィルムの無画像部分(印刷を行っていない部分)だけでなく、フィルムの印刷部分(溶剤系インクジェットプリンター等を使用して印刷を行った部分)においても、額縁現象を防止でき、優れた寸法安定性を発揮することができる。
【0018】
また、本発明の印刷用フィルムに溶剤系インクジェットプリンター等を使用して印刷を行った場合、インク吸収力、乾燥性、発色性等の印刷適性(作画性)も良好である。更に、フィルムの無画像部分だけでなく、印刷部分においても、優れた粘着物性(初期粘着力、経時粘着力)を得ることが可能である。そのため、本発明の印刷用フィルムでは、寸法安定性、印刷適性、粘着物性のすべての性能を獲得することができるのである。
上述した優れた効果は、特定のポリ塩化ビニル系フィルム(A1)を備えていることのみならず、特定範囲の重量平均分子量を有するアクリル酸エステル系重合体及び特定の硬化剤を用いて形成された粘着剤層を備えることによっても得られるものであり、粘着剤組成物としてこれらの両成分を使用することも、本発明の重要な技術的特徴の1つである。
【0019】
また、本発明の積層フィルムは、溶剤系インクを用いて印刷された本発明の印刷用フィルムと、その印刷面上に積層されたオーバーラミネート用フィルムを備えているため、無画像部分及び印刷部分の両部分で優れた寸法安定性及び粘着物性を有し、更に、印刷用フィルムの印刷適性も良好である。そのため、屋内外の装飾表示用の積層フィルムとして極めて好適な特性を備えていることとなる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の印刷用フィルムの概略図の一例である。
【図2】本発明の積層フィルムの概略図の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を詳細に説明する。
まずは、本発明の印刷用フィルムについて詳細に説明する。
〔印刷用フィルム〕
本発明の印刷用フィルムは、ポリ塩化ビニル系フィルム(A1)及び粘着剤層(A2)を有するものである。
【0022】
上記ポリ塩化ビニル系フィルム(A1)としては、平均重合度1000〜1400のポリ塩化ビニル樹脂(1)100質量部に対して数平均分子量1000〜3000のポリエステル系可塑剤(1)を20〜40質量部配合した樹脂組成物(1)、又は、平均重合度700〜1200のポリ塩化ビニル樹脂(2)100質量部に対して数平均分子量380〜2000の可塑剤(2)を15〜35質量部配合した樹脂組成物(2)を使用して得られるフィルムを使用する。
【0023】
上記樹脂組成物(1)は、平均重合度1000〜1400のポリ塩化ビニル樹脂(1)を含有するものである。平均重合度が上記範囲内であることにより、優れた印刷適性、粘着物性、寸法安定性を得ることができる。1400を超えると、作画時において、溶剤インクでの膨潤度合いが少なくなることから、インクの発色性、インクの密着性が悪くなるおそれがある。また、重合度を高くすると、耐溶剤性が良好となることから、優れた寸法安定性が得られるものの、逆に作画性が悪くなるおそれがある。上記ポリ塩化ビニル樹脂(1)の平均重合度は、1000〜1300であることが好ましい。
【0024】
本明細書において、ポリ塩化ビニル樹脂の平均重合度は、JIS K−6721「塩化ビニル樹脂試験方法」に準拠して測定した平均重合度を意味する。
上記ポリ塩化ビニル樹脂(1)としては、例えば、塩化ビニルの単独重合体、塩化ビニルとこれと共重合可能な他の単量体との共重合体を挙げることができる。
上記共重合可能な他の単量体としては、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル、エチレン、プロピレン、スチレン等のオレフイン、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル等の(メタ)アクリル酸エステル、マレイン酸ジブチル、マレイン酸ジエチル等のマレイン酸ジエステル、フマル酸ジブチル、フマル酸ジエチル等のフマル酸ジエステル、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル、塩化ビニリデン、臭化ビニル等のハロゲン化ビニル、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル等のビニルエーテル等を挙げることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0025】
上記共重合可能な他の単量体の共重合体における含有量は、通常、50重量%以下であり、好ましくは10重量%以下である。50重量%を超えると、積層体の耐屈曲性が低下するおそれがある。上記塩化ビニル系樹脂のなかでも、優れた印刷適性、粘着物性、寸法安定性が得られる点から、塩化ビニルの単独重合体が好ましい。
【0026】
上記樹脂組成物(1)は、数平均分子量1000〜3000のポリエステル系可塑剤(1)を含有するものである。数平均分子量が上記範囲内であることにより、優れた印刷適性、粘着物性、寸法安定性を得ることができる。3000を超えると、可塑剤がポリ塩化ビニル樹脂に吸収されにくくなり、カレンダー加工時において可塑剤のプレートアウトが生じてしまう。上記ポリエステル系可塑剤(1)の数平均分子量は2500〜3000であることが好ましい。
【0027】
本明細書において、可塑剤の数平均分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフ)測定によるポリスチレン換算の測定値である。
上記GPC測定方法は定法に従って行われる。測定対象となる可塑剤の希薄テトラヒドロフラン溶液を調製し、流量条件0.6ml/minで東ソー社製GPC測定装置「HLC−8220GPC」を用いて測定した。カラムには、昭和電工社製「KF606M」と「KF603」を使用した。
【0028】
上記ポリエステル系可塑剤(1)としては、上記ポリ塩化ビニル樹脂(1)と相溶性を有するものであれば特に限定されることなく使用することができるが、例えば、フタル酸のポリエチレングリコールジエステル、ポリプロピレングリコールジエステル、ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールジエステル等のポリアルキレングリコールジエステルや、アジピン酸、セバシン酸等の脂肪族二塩基酸のポリエチレングリコールジエステル、ポリプロピレングリコールジエステル、ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールジエステル等のポリアルキレングリコールジエステルを使用することが好ましい。なかでも、優れた印刷適性、粘着物性、寸法安定性が得られる点から、脂肪族二塩基酸のポリアルキレングリコールジエステルを使用することが好ましく、アジピン酸のポリアルキレングリコールジエステルを使用することが特に好ましい。これらの可塑剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0029】
上記樹脂組成物(1)において、上記ポリエステル系可塑剤(1)の含有量は、上記ポリ塩化ビニル樹脂(1)100質量部に対して20〜40質量部である。20質量部未満であると、インク中の溶剤成分による粘着剤層への可塑剤の移行量が少なくなるため、粘着力の低下が小さくなる。このことによって、耐溶剤性は良好な方向となるが、膨潤度合いが低くなり、作画時にインクの発色性やインク密着性が悪くなるおそれがある。
【0030】
一方、40質量部を超えると、インク中の溶剤成分の移行時に可塑剤が抽出されて、粘着剤層への移行量が多くなり、粘着物性が低下する。このことによって、基材にフィルムを貼り付けた後の寸法安定性が悪くなるおそれがある(フィルムの膨潤による収縮現象を粘着力で抑えることができずに目開きが大きくなる)。上記含有量は、25〜35質量部であることが好ましい。
【0031】
上記樹脂組成物(2)は、平均重合度700〜1200のポリ塩化ビニル樹脂(2)を含有するものである。平均重合度が上記範囲内であることにより、優れた印刷適性、粘着物性、寸法安定性を得ることができる。700未満であると、インク中の溶剤成分により膨潤現象が大きくなりすぎて、フィルムの収縮量が大きくなり、寸法安定性が悪くなるおそれがある。上記ポリ塩化ビニル樹脂(2)の平均重合度は、800〜1000であることが好ましい。
【0032】
上記ポリ塩化ビニル樹脂(2)としては、上述したポリ塩化ビニル樹脂(1)と同様の単量体からなるものを挙げることができる。なかでも、優れた印刷適性、粘着物性、寸法安定性が得られる点から、塩化ビニルの単独重合体が好ましい。
【0033】
上記樹脂組成物(2)は、数平均分子量380〜2000の可塑剤(2)を含有するものである。数平均分子量が上記範囲内であることにより、優れた印刷適性、粘着物性、寸法安定性を得ることができる。380未満であると、フィルムからのブリードが生じる。2000を超えると、プレートアウトが生じる。
【0034】
上記可塑剤(2)としては、上記ポリ塩化ビニル樹脂(2)と相溶性を有するものであれば特に限定されることなく使用することができ、例えば、上述したポリエステル系可塑剤(1)と同様のものを挙げることができる。また、フタル酸オクチル(ジ−2−エチルヘキシルフタレート(DOP))、フタル酸ジブチル、フタル酸ジノニル等のフタル酸ジエステル、アジピン酸ジオクチル、セバシン酸ジオクチル等の脂肪族二塩基酸ジエステル、トリクレジルホスフエート、トリオクチルホスフエート等のリン酸トリエステル、エポキシ化大豆油やエポキシ樹脂等エポキシ系可塑剤等も使用することができる。なかでも、優れた印刷適性、粘着物性、寸法安定性が得られる点から、脂肪族二塩基酸のポリアルキレングリコールジエステルを使用することが好ましく、アジピン酸のポリアルキレングリコールジエステルを使用することが特に好ましい。また、DOPを使用することも好ましい。これらの可塑剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0035】
上記樹脂組成物(2)において、上記可塑剤(2)の含有量は、上記ポリ塩化ビニル樹脂(2)100質量部に対して15〜35質量部である。15質量部未満であると、インクの乾燥性が悪くなるおそれがある。35質量部を超えると、フィルム層中へのインク吸収性、インクとフィルム表面の接着力が低下するおそれがある。また、濃度ムラが生じたり、粘着力が低下したり、糊残りが発生するおそれもある。上記含有量は、25〜35質量部であることが好ましい。
【0036】
上記樹脂組成物(1)、(2)は、安定剤を含有するものであることが好ましい。上記安定剤としては、例えば、脂肪酸カルシウム、脂肪酸亜鉛、脂肪酸バリウム等の金属石ケン、ハイドロタルサイト等を挙げることができる。上記金属石ケンの脂肪酸成分としては、例えば、ラウリン酸カルシウム、ステアリン酸カルシウム、リシノール酸カルシウム、ラウリン酸亜鉛、リシノール酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛、ラウリン酸バリウム、ステアリン酸バリウム、リシノール酸バリウム等を挙げることができる。また、上記安定剤としては、エポキシ系安定剤、バリウム系安定剤、カルシウム系安定剤、スズ系安定剤、亜鉛系安定剤;カルシウム−亜鉛系(Ca−Zn系)、バリウム−亜鉛系(Ba−Zn系)等の複合安定剤も使用することができる。
【0037】
上記樹脂組成物(1)、(2)には、本発明の効果を阻害しない範囲で、必要に応じて、ポリ塩化ビニル樹脂に一般的に使用される着色剤を配合することができる。
上記着色剤としては、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、カーボンブラック、ニグロシン染料、アニリンブルー、カルロオイルブルー、クロムイエロー、ウルトラマリンブルー、デュポンオイルレッド、キノリンイエロー、メチレンブルークロライド、フタロシアニンブルー、マラカイトグリーンオクサレート、これらの混合物等を挙げることができる。上記着色剤を使用することで着色フィルムが得られる。
【0038】
上記樹脂組成物(1)、(2)には、本発明の効果を阻害しない範囲で、必要に応じて、ポリ塩化ビニル樹脂に一般的に使用される滑剤、改質剤、充填剤、希釈剤、発泡剤等の添加剤を添加してもよい。
【0039】
上記ポリ塩化ビニル系フィルム(A1)は、厚みが40〜200μmであることが好ましい。40μm未満であると、印刷適性、引張特性が低下するおそれがある。200μmを超えると、フィルムの柔軟性や不燃性が低下するおそれがある。また、コストの面で市場の要求から乖離する傾向にある。
【0040】
上記ポリ塩化ビニル系フィルム(A1)は、カレンダー成形、押出成形、射出成形等によって製造することができる。なかでも、カレンダー成形によって得られるものであることが好ましい。上記樹脂組成物(1)、(2)はカレンダー加工性に優れているものであり、カレンダー加工時においてプレートアウト、カスレ状の凹凸等の不具合の発生を防止することができる。上記カレンダー成形に用いられるカレンダー形式としては、例えば、逆L型、Z型、直立2本型、L型、傾斜3本型等を挙げることができる。
【0041】
上記粘着剤層(A2)は、重量平均分子量500000〜1000000のアクリル酸エステル系重合体と、イソシアネート系硬化剤及び/又はエポキシ系硬化剤とを含有する粘着剤組成物を用いて形成されるものである。上記粘着剤層(A2)を設けることでフィルムの各種基材への貼付が可能となる。上記粘着剤層(A2)は、上記ポリ塩化ビニル系フィルム(A1)の片面に設けられている。このような特定の粘着剤層を有しているため、優れた寸法安定性、印刷適性及び粘着物性を得ることができる。
【0042】
上記アクリル酸エステル系重合体は、重量平均分子量が500000〜1000000の範囲内のものである。重量平均分子量が上記範囲内であることにより、プリント品としての寸法安定性を大きく改善することができる。
【0043】
500000未満であると、印刷しない状態では、目標の粘着力(経時粘着力含む)、基材に貼り付けた状態での寸法安定性が得られるが、印刷部分(例えば、溶剤系インクで噴射量400%を印刷した部分)の粘着剤層(A2)は溶剤成分の吸収、膨潤によって著しく凝集力が低下する。凝集力が低下すると、ポリ塩化ビニル系フィルム(A1)層の収縮によって、粘着剤層(A2)が凝集破壊し、基材に薄く粘着剤が残った状態でフィルム層/粘着剤層が収縮する。このため、寸法安定性が低下する。また、ポリ塩化ビニル系フィルム(A1)から溶剤成分が移行することによって、(A1)に配合されている可塑剤、安定剤等の添加剤が粘着剤層(A2)に進入することにもなる。このため、上記重量平均分子量が小さいと、溶剤成分の影響に加え、移行成分の影響で粘着力が更に低下する。
【0044】
1000000を超えると、粘着剤層(A2)の粘性が低くなることで、タック性が失われ、目標の粘着力が得られない(低くなる)。上記重量平均分子量は、500000〜900000の範囲内であることが好ましく、600000〜900000の範囲内であることがより好ましい。
【0045】
本発明において、アクリル酸エステル系重合体の重量平均分子量(Mw)は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフ)測定によるポリスチレン換算の測定値である。なお、測定条件は以下の通りである。
装置名:HLC−8120(東ソー社製)
カラム:G7000HXL 7.8mmID×30cm 1本 GMHXL 7.8mmID×30cm 2本 G2500HXL 7.8mmID×30cm 1本(東ソー社製)
サンプル濃度:1.5mg/mlになるようにテトラヒドロフランで希釈
移動相溶媒:テトラヒドロフラン
流量:1.0ml/min
カラム温度:40℃
【0046】
上記アクリル酸エステル系重合体としては、例えば、官能基を有さない(メタ)アクリル系モノマー、官能基を有する(メタ)アクリル系モノマー、及び、必要に応じてこれらのモノマーと共重合可能な他のモノマーを共重合することより得られるポリマーを挙げることができる。
【0047】
上記官能基を有さない(メタ)アクリル系モノマーとしては、特に限定されず、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ヘプチル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸フェニルエチル、(メタ)アクリル酸フェノキシエチル、(メタ)アクリル酸フェノキシジエチレングリコールエステル等の(メタ)アクリル酸のアルキルエステル類;(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸メチルフェニル等の(メタ)アクリル酸のアリールエステル類等を挙げることができる。
【0048】
上記官能基(カルボキシル基、水酸基、カルボキシル基、水酸基、アミノ基、アミド基、メチロール基、エポキシ基等)を有する(メタ)アクリル系モノマーとしては、特に限定されず、例えば、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、(無水)マレイン酸、フマル酸等のカルボキシル基含有モノマー;(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチル等の水酸基含有モノマー;アミノメチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ビニルピリジン等のアミノ基含有モノマー;(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド等のアミド基含有モノマー;N−メチロール(メタ)アクリルアミド、ジメチロール(メタ)アクリルアミド等のアミド基及びメチロール基含有モノマー;グリシジル(メタ)アクリレート等のエポキシ基含有モノマーを挙げることができる。
【0049】
上記共重合可能な他のモノマーとしては、特に限定されず、例えば、スチレン系モノマー、ビニル系モノマーを挙げることができる。上記スチレン系モノマーとしては、スチレン;メチルスチレン、ジメチルスチレン、トリメチルスチレン等のアルキルスチレン;フロロスチレン、クロロスチレン等のハロゲン化スチレン等を挙げることができる。上記ビニル系モノマーとしては、ビニルピロリドン、ジビニルベンゼン、酢酸ビニル、アクリロニトリル;ブタジエン、イソプレン等の共役ジエンモノマー等を挙げることができる。
上述したモノマーは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0050】
上記アクリル酸エステル系重合体としては、上記官能基を有さない(メタ)アクリル系モノマーとして、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸フェニルエチル、又は、(メタ)アクリル酸フェノキシエチルを含むものを用いることが好ましい。
【0051】
上記イソシアネート系硬化剤、エポキシ系硬化剤は、上記官能基を有する(メタ)アクリル系モノマー中の官能基と化学反応又は相互作用をして架橋させる化合物である。
上記イソシアネート系硬化剤は、イソシアネート基を有する化合物であり、例えば、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、クロルフェニレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、水添されたジフェニルメタンジイソシアネート等の分子中に2個のイソシアネート基を有する化合物;それらをトリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等の多価アルコールと付加反応させた化合物、イソシアネート化合物やイソシアヌレート化合物、ビュレット型化合物、更には公知のポリエーテルポリオールやポリエステルポリオール、アクリルポリオール、ポリブタジエンポリオール、ポリイソプレンポリオール等と付加反応させたウレタンプレポリマー型の分子内に2個以上のイソシアネート基を有する化合物等を挙げることができる。なかでも、本発明の効果が良好に得られる点から、分子中に2個のイソシアネート基を有する化合物を多価アルコールと付加反応させた化合物が好ましく、トリレンジイソシアネート又はジフェニルメタンジイソシアネートを多価アルコールと付加反応させた化合物がより好ましい。
【0052】
上記エポキシ系硬化剤は、エポキシ基を有する化合物であり、例えば、ビスフェノールAエピクロルヒドリン型のエポキシ系樹脂、エチレングリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ジグリシジルアニリン、ジアミングリシジルアミン、N,N,N′,N′−テトラグリシジル−m−キシリレンジアミン、1,3−ビス(N,N′−ジアミングリシジルアミノメチル)シクロヘキサン等の分子中に2個以上のエポキシ基を有する化合物が挙げられる。
【0053】
上記イソシアネート系硬化剤、エポキシ系硬化剤の配合量は、上記アクリル酸エステル系重合体100質量部(固形分)に対して0.05〜10質量部であることが好ましい。0.05質量部未満であると、架橋密度が低く、粘着剤層の凝集力が弱いため、溶剤インクで印刷した後に、粘着剤層が溶剤で膨潤し、さらに凝集力が低下する。そして、その結果、寸法安定性が低下し、収縮現象が低下する。一方、10質量部を超えると、架橋密度が高くなることで耐溶剤性は良くなる傾向にあるが、目標の粘着力が得られないおそれがある。0.1〜3質量部であることがより好ましい。なお、本発明において、イソシアネート系硬化剤とエポキシ系硬化剤の両方が使用される場合、上記配合量はこれらの合計量である。
【0054】
上記粘着剤組成物は、通常粘着剤に配合される添加剤(安定剤、可塑剤、軟化剤、染料、顔料等)を含有するものであってもよい。
上記粘着剤層(A2)の形成方法としては、特に限定されず、ポリ塩化ビニル系フィルム(A1)表面に直接バーコーター等を用いて、上記粘着剤組成物を塗布、乾燥させる方法を用いることもできるが、上記粘着剤組成物を一旦後述するセパレータ層(A3)表面に塗布、乾燥させた後、このセパレータ層(A3)表面に形成された粘着剤層(A2)をポリ塩化ビニル系フィルム(A1)表面に転写し、次いで熟成させる方法を用いることが好ましい。
【0055】
上記粘着剤層(A2)の厚みは、10〜70μmであることが好ましい。10μm未満であると、厚みが薄いために凝集力不足となり目標の粘着力が得られなくなるおそれがある。70μmを超えると、粘着力が高くなりすぎるために、基材への施工時に貼り直し加工がしにくくなり、更にはフィルムが粘着力の力に負けて伸びてしまう不具合が発生するおそれがある。経済的な要素を考慮すると、上記厚みは20〜50μmであることがより好ましい。
【0056】
上記粘着剤層(A2)を有する印刷用フィルムは、更にセパレーター層(A3)を有するものであることが好ましい。上記セパレーター層(A3)は、フィルムを貼り付けるまで粘着剤層(A2)を保護するものであり、貼り付け時に剥離されるものである。この場合、上記印刷用フィルムとしては、ポリ塩化ビニル系フィルム(A1)、粘着剤層(A2)及びセパレーター層(A3)をこの順に積層したもの等を挙げることができる。
【0057】
上記セパレーター層(A3)としては、特に限定されず、従来公知のものを使用することができるが、環境面から、シリコーン樹脂で処理したポリプロピレン等のフィルム等を好適に用いることができる。
【0058】
本発明の印刷用フィルムは、溶剤系インクを用いて印刷が行われるものである。印刷は、上記印刷用フィルムのポリ塩化ビニル系フィルム(A1)面に行われる。
上記溶剤系インクは、着色剤と他の成分(例えば、顔料の分散性の向上、ヘッドの目詰まり防止、粘度調整等の目的で用いられる樹脂等)とを有機溶剤に溶解して得られたものである。
【0059】
上記溶剤系インクに用いられる着色剤としては、例えば、従来公知の有機顔料、無機顔料等を挙げることができる。また、上記有機溶剤としても従来公知のものを使用することができる。本発明の印刷用フィルムは、優れた印刷適性、粘着物性、寸法安定性が得られる点から、エステル系有機溶剤を含む溶剤系インクを用いた印刷に好適に適用できる。
【0060】
本発明の印刷用フィルムは、溶剤系インクジェット印刷法に好適に適用することができる。この場合、優れた印刷適性、粘着物性、寸法安定性を得ることができる。上記溶剤系インクジェット印刷法は、ヘッドのノズルから細かい溶剤系インクを噴射する印刷方法である。
【0061】
本発明の印刷用フィルムは、屋内外の装飾表示用として使用されるものである。このため、屋内外の広告看板、サインディスプレー、壁装用シート等として使用することができる。この場合、必要に応じて上記セパレーター層(A3)を剥がして、上記粘着剤層(A2)を壁に貼り付けて、壁紙等の装飾表示用フィルムとして使用される。
【0062】
次に、本発明の積層フィルムについて説明する。
〔積層フィルム〕
本発明の積層フィルムは、溶剤系インクを用いて印刷が行われた本発明の印刷用フィルムの印刷面上に、粘着剤層を有するオーバーラミネート用フィルムを積層したものであって、屋内外の装飾表示用として使用されるものである。即ち、溶剤系インクジェット印刷法等の印刷方法によって、上記印刷用フィルムのポリ塩化ビニル系フィルム(A1)上に印刷した後、その印刷面(プリント面)上に、オーバーラミネート用フィルムの粘着剤層を貼付、積層したものである。オーバーラミネート用フィルムは、上記印刷用フィルム上にラミネートすることによって表面を保護するフィルムである。
【0063】
上記オーバーラミネート用フィルムとしては、粘着剤層を有するものであれば特に限定されず、例えば、ポリ塩化ビニル樹脂(3)に可塑剤(3)を配合した樹脂組成物(3)を使用して得られるポリ塩化ビニル系フィルム(B1)と、粘着剤層(B2)とを有するものを挙げることができる。また、更にセパレーター層(B3)を有するものであってもよい。
【0064】
上記ポリ塩化ビニル樹脂(3)としては、上述したポリ塩化ビニル樹脂(1)と同様のものを挙げることができる。上記可塑剤(3)としては、上記ポリ塩化ビニル樹脂(3)と相溶性を有するものであれば特に限定されることなく使用することができ、例えば、上述した可塑剤(2)と同様のものを挙げることができる。
【0065】
上記樹脂組成物(3)には、上述した安定剤剤等の添加剤を添加してもよい。上記ポリ塩化ビニル系フィルム(B1)は、上述したポリ塩化ビニル系フィルム(A1)と同様の方法によって製造することができる。
【0066】
上記粘着剤層(B2)は、従来公知の粘着剤を使用することによって形成することができる層であり、例えば、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤を使用することにより形成することができる。上記セパレーター層(B3)としては、例えば、上述したセパレーター層(A3)と同様のものを使用することができる。上記粘着剤層(B2)、セパレーター層(B3)は、従来公知の塗工方法等によって形成することができる。
【0067】
上記積層フィルムとしては、上記ポリ塩化ビニル系フィルム(B1)、粘着剤層(B2)、ポリ塩化ビニル系フィルム(A1)及び粘着剤層(A2)をこの順に積層したもの等を挙げることができる。
【0068】
以下、本発明の印刷用フィルム、積層フィルムの例を図1〜2を用いて説明する。
図1は、ポリ塩化ビニル系フィルム1、粘着剤層2及びセパレーター層3をこの順に積層した印刷用フィルムの概略図である。このような構成を有する印刷用フィルムであるため、印刷用フィルムは印刷適性、粘着適性、寸法安定性に優れている。図2は、ポリ塩化ビニル系フィルム4、粘着剤層5、ポリ塩化ビニル系フィルム1に印刷を行ったフィルム6及び粘着剤層2をこの順に積層した積層フィルムの概略図である。これは印刷した印刷用フィルムのプリント面上に、オーバーラミネート用フィルムの粘着剤層(B2)側を積層したフィルムを示し、各種基材に粘着剤層2を貼付して使用することができる。
【0069】
以下本発明について実施例を掲げて更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。また実施例中、「部」、「%」は特に断りのない限り「質量部」、「質量%」を意味する。
【0070】
実施例1〜10、及び、比較例1〜11
以下の方法により、印刷用フィルム、オーバーラミネート用フィルム、積層フィルムを作製し、評価を行った。
使用した市販品のポリエステル系可塑剤は、以下のとおりである。
ポリエステル系可塑剤(アジピン酸系)数平均分子量1200;「PN−7230」(旭電化工業社製)
ポリエステル系可塑剤(アジピン酸系)数平均分子量1900;「PN−280」(旭電化工業社製)
ポリエステル系可塑剤(アジピン酸系)数平均分子量2600;「PN−7535」(旭電化工業社製)
ポリエステル系可塑剤(アジピン酸系)数平均分子量3000;「PN−350」(旭電化工業社製)
印刷用フィルムの粘着剤層形成に使用した市販品は、以下のとおりである。粘着剤組成物(アクリル系粘着剤溶液)の配合は、表2に示したとおりである。
SKダイン1506;重量平均分子量850000(アクリル酸エステル系共重合体系、綜研化学社製)
SKダイン1604N;重量平均分子量600000(アクリル酸エステル系共重合体系、綜研化学社製)
SKダイン1222H;重量平均分子量500000(アクリル酸エステル系共重合体系、綜研化学社製)
SKダイン1340;重量平均分子量450000(アクリル酸エステル系共重合体系、綜研化学社製)
試作品;重量平均分子量1100000(アクリル酸エステル系共重合体系、綜研化学社製)
E−AX;エポキシ系硬化剤(綜研化学社製)
コロネートL−45;イソシアネート系硬化剤(日本ポリウレタン社製)
【0071】
〔印刷用フィルムの作製〕
表1に示す配合内容にてPVCコンパウンドを作製し、ブレンダーにて15分間攪拌後、逆L型カレンダーロールにてシーティングした。厚み、仕様については、表3及び4に示す。
粘着剤層は、紙セパレーター(住化加工紙社製「SLK・80WK」)のシリコン処理面にアクリル系粘着剤溶液をコンマバーコーターにて塗工し、乾燥炉にて溶剤を乾燥させた後に粘着剤層を形成し、PVCフィルムを貼り合わせて、PVCフィルム側へ粘着剤層を転写し、紙セパレーターを付けた状態で、巻き取った。両耳部の不要部分を両耳スリットし、20m巻きのロールとして印刷用フィルムを得た。使用したアクリル系粘着剤溶液は、表3及び4に配合番号として示し、それぞれの配合は表2に示した。
【0072】
〔オーバーラミネート用フィルムの作製〕
表1に示す配合内容にてPVCコンパウンドを作製し、ブレンダーにて15分間攪拌後、逆L型カレンダーロールにてシーティングした。厚み、仕様については、表3及び4に示す。
粘着剤層は、紙セパレーター(住化加工紙社製「SLK・80WK」)のシリコン処理面にアクリル系粘着剤溶液(綜研化学社製「SKダイン1222H」100質量部に対してイソシアネート系硬化剤「コロネートL−45E」1.8質量部添加した配合溶液)をコンマバーコーターにて塗工し、乾燥炉にて溶剤を乾燥させた後に20μmの粘着剤層を形成し、PVCフィルムを貼り合わせて、PVCフィルム側へ粘着剤層を転写し、紙セパレーターを付けた状態で、巻き取った。両耳部の不要部分を両耳スリットし、20m巻きのロールとしてオーバーラミネート用フィルムを得た。
【0073】
〔積層フィルム(オーバーラミネート用フィルム/印刷用フィルム)の作製〕
得られたオーバーラミネート用フィルム及び印刷用フィルムを、ラミネーター機にて室温域でラミネートすることで、積層フィルムを得た。
【0074】
得られた印刷用フィルム、積層フィルムを、以下の方法によって評価した。結果を表3及び4に示した。
【0075】
(1)印刷適性
溶剤系インクジェットプリンター(セイコーインスツルメンツ社製「IP−6500」、エステル系ラクテート(乳酸)ソルベントインク)にてインク噴射量100〜400%のベタ印刷を行った。以下の方法により、インク吸収性、乾燥性、発色性を評価した。これらの評価は、フィルムのシーティング直後のサンプル、経時促進評価として60℃のギヤオーブン中に7日間放置したサンプルについて行った。
(インク吸収力)
○;インクが滲まない。
×;インクが滲む。
(乾燥性)
○;プリント20分後、プリント部分の上に裏面セパレーター面を接触させ、上から押さえてセパレーター面にインクが付かない。
×;インクが付く。
(発色性)
○;インクの濃度ムラが出ず、均一である。
×;インクの濃度ムラがある。
【0076】
(2)粘着物性
(初期粘着力)
JIS Z0237に準拠。印刷用フィルムにインク噴射量400%(CMYK各100%)のベタ印刷をした表面にオーバーラミネート用フィルムをラミネートしたサンプルと、プリントしない白紙状態のフィルム(無画像部分)の表面にオーバーラミネート用フィルムをラミネートしたサンプルを作製した。サンプルを25mm幅にカットし、アルミ板に貼り付けて24時間23±2℃、60%RHの環境下で放置した後に引張試験(23±2℃、引張速度300mm/min)によって、粘着力、基材への糊残り状態を目視にて評価した。
目標水準;粘着力6N/25mm以上
○;基材への糊残りが発生しない。
×;基材への糊残りが発生する。
(経時粘着力)
JIS Z0237に準拠。上記初期粘着力において作製されたベタ印刷をしてラミネートしたサンプル、無画像部分にラミネートしたサンプル(25mm幅)を、アルミ板に貼り付け、60℃のギヤオーブン中に7日間放置し、引張試験(23±2℃、引張速度300mm/min)によって、粘着力、基材への糊残り状態を目視にて評価した。
目標水準;粘着力5N/25mm以上
○;基材への糊残りが発生しない。
×;基材への糊残りが発生する。
【0077】
(3)寸法安定性
上記初期粘着力において作製されたベタ印刷をしてラミネートしたサンプル、無画像部分にラミネートしたサンプル(150mm角)を、アルミ板に貼り付けた。カッターで流れ方向、幅方向のセンター部分に十字状にクロスカットを入れ、60℃のギヤオーブン中に7日間放置した後に、カッターで切り込みを入れた部分の目開き量(収縮量)を測定した。
目標水準:流れ方向、幅方向とも1.0mm以内
【0078】
(4)カレンダー加工性
印刷用フィルムの作製時のカレンダー加工性に関して、プレートアウト、フィルム平滑性の2項目を下記の基準により評価した。
i)プレートアウト
○;カレンダーロールへのプレートアウトが発生しなかった。
×;カレンダーロールへのプレートアウトが発生した。
ii)フィルムの表面平滑性
○;表面状態が均一で、平滑である。
×;表面にエアーカスレ、温度不足による凹凸がある。
【0079】
【表1】

【0080】
【表2】

【0081】
【表3】

【0082】
【表4】

【0083】
表3に示した結果から明らかなように、実施例で得られた積層フィルムは、無画像部分だけでなく、印刷部分も優れた寸法安定性を有していた。また、無画像部分及び印刷部分の両部分は、優れた粘着物性も有していた。更に、印刷用フィルムの印刷適性(作画性)も良好であった。加えて、カレンダー加工性も良好であった。
【0084】
一方、表4に示した結果から明らかなように、比較例で得られた積層フィルは、寸法安定性、粘着物性、印刷適性(作画性)及びカレンダー加工性に関する各評価項目において、少なくとも1つの評価項目において、性能が不充分であった。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明の印刷用フィルム、積層フィルムは、屋内外の広告看板、サインディスプレー、壁装用シート等、屋内外の装飾表示用フィルムとして好適に使用することができる。
【符号の説明】
【0086】
1、4 ポリ塩化ビニル系フィルム
2、5 粘着剤層
3 セパレーター層
6 ポリ塩化ビニル系フィルム1に印刷を行ったフィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ塩化ビニル系フィルム(A1)及び粘着剤層(A2)を有する印刷用フィルムであって、
前記ポリ塩化ビニル系フィルム(A1)は、平均重合度1000〜1400のポリ塩化ビニル樹脂(1)100質量部に対して数平均分子量1000〜3000のポリエステル系可塑剤(1)を20〜40質量部配合した樹脂組成物(1)、又は、平均重合度700〜1200のポリ塩化ビニル樹脂(2)100質量部に対して数平均分子量380〜2000の可塑剤(2)を15〜35質量部配合した樹脂組成物(2)を使用して得られるものであり、
前記粘着剤層(A2)は、重量平均分子量500000〜1000000のアクリル酸エステル系重合体と、イソシアネート系硬化剤及び/又はエポキシ系硬化剤とを含有する粘着剤組成物を用いて形成されるものであり、
前記印刷用フィルムは、溶剤系インクを用いて印刷が行われるもので、かつ、屋内外の装飾表示用として使用されるものである
ことを特徴とする印刷用フィルム。
【請求項2】
印刷の方法は、溶剤系インクジェット印刷法である請求項1記載の印刷用フィルム。
【請求項3】
溶剤系インクを用いて印刷が行われた請求項1又は2に記載の印刷用フィルムの印刷面上に、粘着剤層を有するオーバーラミネート用フィルムを積層した積層フィルムであって、
屋内外の装飾表示用として使用されるものである
ことを特徴とする積層フィルム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−37977(P2011−37977A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−186002(P2009−186002)
【出願日】平成21年8月10日(2009.8.10)
【出願人】(000005061)バンドー化学株式会社 (429)
【Fターム(参考)】