説明

印刷用フィルム

【課題】
ガラス窓装飾フィルムとして印刷性などに優れるフィルムを提供することを目的とする。
【解決手段】
引張弾性率が3〜50MPaであり230℃でのMFRが1〜100g/10min.でありガラス板の表面に貼着し60分間放置後に前記ガラス板の表面から剥離したときの粘着力(JIS Z0237)が0.3〜50N/25mmである粘着層と、引張弾性率が100〜1500MPaであり前記粘着層との230℃でのMFRの差が5g/10min.以下である基材層とを含んでなり、基材層の表面が表面処理され表面張力が32mN/m以上であり、かつヘイズが0〜10%である印刷用ガラス向けフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス窓用装飾フィルムに関する発明である。
【背景技術】
【0002】
近年、印刷機器インクジェットの普及により、デパートやアパレル店舗などのショウウインドに用いられるガラス窓用装飾フィルム分野において、写真などのビジュアル再現性に優れるフィルムが望まれている。一方で、大型の看板については、ビルディングなどのガラス窓の大型化によって、直接、ガラス窓に貼り付ける用途が望まれている。
【0003】
大型ガラス窓用装飾フィルムは、特許文献1、2、3に示すような粘着力に優れるアクリル系接着剤が主に使用されていた。しかし、アクリル系接着剤は凝集力が低く、ガラスから剥離する際、糊残りが生じる問題があった。
【0004】
さらに、従来のガラス窓用装飾フィルムは、文献1より、塩ビ(PVC)系のフィルムが主流であり、廃棄時の環境への影響より、非PVCが望まれている。
【0005】
このように、写真などのビジュアル再現性に優れ、大型ガラス窓用に適するガラス接着力を有し、貼りなおし等において糊残りが無く、環境への負荷が低い非PVC系フィルムが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開1990-043045号公報
【特許文献2】特許2664026号公報
【特許文献3】特許2675597号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】2008年プラスチックフィルム・シートの現状と 未来展望(富士キメラ総研)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、透明性が高く、表面の表面張力が高く写真などのビジュアル再現性に優れ、さらに、大型ガラス窓用に適するガラス接着力を有し、弾性率が高くフィルムにコシがありガラス貼付け作業性に優れ、貼りなおし等において糊残りが無く、帯電性が低くガラス窓装飾フィルムとしてゴミの付着が少なく、印刷性に優れ、環境への負荷が低い非PVC系フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ガラス窓用装飾フィルムに関する発明である。
具体的には、
[1]引張弾性率が3〜50MPaであり230℃でのMFRが1〜100g/10min.でありガラス板の表面に貼着し60分間放置後に前記ガラス板の表面から剥離したときの粘着力(JIS Z0237)が0.3〜50N/25mmである粘着層と、引張弾性率が100〜1500MPaであり前記粘着層との230℃でのMFRの差が5g/10min.以下である基材層とを含んでなり、基材層の表面が表面処理され表面張力が32mN/m以上であり、かつヘイズが0〜10%である印刷用ガラス向けフィルム。
[2]前記粘着層または/および前記基材層が、オレフィン系樹脂からなる [1]に記載の印刷用ガラス向けフィルム。
[3]前記粘着層または/および前記基材層の表面抵抗値が1×1017〜1×10Ωである[1]に記載の印刷用ガラス向けフィルム。
[4]引張弾性率が80〜1000MPaであり、厚さが30〜150μmである[1]に記載の印刷用ガラス向けフィルム。
[5]さらに最表面に離型層を有し、前記離型層と接触している前記粘着層を少なくとも1層有する[1]に記載の印刷用ガラス向けフィルム。
[6]離型層が着色されていることを特徴とする[5]に記載の印刷用ガラス向けフィルム。
[7]230℃でのMFRが1〜100g/10min.でヘイズが0〜10%である樹脂Aと前記樹脂Aと230℃でのMFRの差が5g/10min.以下でヘイズが0〜10%である樹脂Bとを共押出する工程を含み、前記共押出する工程の後に実質的に延伸工程を含まない、印刷用ガラス向けフィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、透明性が高く、表面の表面張力が高く、写真などのビジュアル再現性に優れ、大型ガラス窓用に適するガラス接着力を有し、弾性率が高くフィルムにコシがありガラス貼付け作業性に優れ、貼りなおし等において糊残りが無く、帯電性が低くガラス窓装飾フィルムとしてゴミの付着が少なく、印刷性に優れ、環境への負荷が低い非PVC系フィルムを提供することが可能となり、百貨店、スーパー、アパレルショップなどのガラス窓装飾フィルムに求められる要求を解決させることができる。
【0011】
以下、本発明の印刷用ガラス向けフィルム(以下フィルムと記載する)について詳細に説明する。
【0012】
また、以下の説明では、「〜」を使用して数値範囲を規定するが、本発明の「〜」は、境界値を含む。例えば、「10〜100」とは、10以上100以下である。
【0013】
1.印刷用ガラス向けフィルム
本発明のフィルムは粘着層と基材層を含んでなり、基材層の表面が処理され表面張力が32mN/m以上であり、かつヘイズが10%以下である。また後述するように、必要に応じてさらに離型フィルムを組み合わせることができる。
【0014】
本発明のフィルムの基材層の表面は表面処理され、表面張力が32mN/m以上60mN/m以下であることが必要であり、35mN/m以上50mN/m以下であることがより好ましく、37mN/m以上45mN/m以下が最も好ましい。前記範囲より表面張力が小さいと、プリンターでインクを印刷した後、印刷されたインクの基材層への接着力が低く、印刷された該フィルムに曲げ応力などを加えると、印刷されたインクが剥離するおそれがある。また前記範囲より表面張力が大きくなるように、表面処理を行うと、フィルムが劣化し、機械強度が低下するため好ましくない。
【0015】
本発明での表面処理の具体例としては、プラズマ処理、酸素プラズマ処理、RIE(酸素プラズマエッチング)処理、コロナ放電処理、エキシマ処理、UV処理、過マンガン酸デスミア処理、カップリング剤処理等が挙げられる。
【0016】
本発明のフィルムのヘイズは、小さいほど透明性が増し、ガラスとの色の調和が生まれ美観を損なわずに好ましい。具体的には3%以下であれば、フィルムとガラスの違和感が低く好ましく、2%以下だとより違和感が無くなり好ましい。なおここでいうヘイズとは、濁度計(曇り度計)NDH2000(Nippon Denshoku社製)にて、JIS K7136に従い測定されたものである。
【0017】
本発明のフィルムの表面粗さ(Ra)は、光の透過を阻害しないためには小さければ小さいほど好ましく、具体的には5μm以下であることが好ましい。
【0018】
本発明のフィルムに含まれる粘着層の引張弾性率は3〜50MPaであることが好ましい。引張弾性率が上記範囲より小さいと、ガラスと粘着層を貼合せた際にガラスに密着しすぎて、ガラスからフィルムを剥がす際に、前記フィルムを剥がしにくくなるためである。また引張弾性率が上記範囲より大きいとガラスと粘着層が密着しにくくなる。
【0019】
本発明のフィルムに含まれる粘着層について、ガラスとの粘着力(JIS Z0237)は0.3〜50N/25mmの範囲であることが好ましい。一般的に、印刷用ガラス向けフィルムとガラスとの接着力が大きいと、大型用途においても、フィルムがガラスから剥がれ落ちにくくなり好ましい。一方で、ガラスとの粘着力が一定以上に大きいと、フィルムをガラスから取り除きにくく、さらに、フィルムを貼りなおすなどの作業が生じたときの作業性が悪い。したがって、ガラスと粘着層の粘着力は、好ましくは、0.5〜10N/25mm、より好ましくは2〜5N/25mmの範囲である。
【0020】
また高い粘着力を印刷用ガラス向けフィルムに付与するには、アクリル樹脂などのいわゆる接着剤を粘着層に使用するのが一般的である。しかし印刷用ガラス向けフィルムに上記のような接着剤を使用した場合、接着したガラスに前記接着剤が残留し汚染が発生する(のり残り)という問題があった。よって本発明では、フィルムに上記のような接着剤を用いることなく、後述する樹脂Aを共押出により層状にしたものを粘着層として用いることで、ヘイズの低減を行った。これにより、貼りなおしなど、ガラスから剥離する場合のり残りがほとんど発生することなく、透明性が向上しガラスとの違和感が無くなり、接着剤を用いることなく高い美観と作業性に優れるフィルムを実現することができた。
【0021】
なお本発明における粘着力(JIS Z0237)とは、ガラス板の表面に貼着し60分間放置後に前記ガラス板の表面から剥離したときの粘着力をいう。
【0022】
上記粘着層を構成する樹脂Aとしては、ポリ塩化系の樹脂を用いた場合、廃棄する際に燃焼処理を行うと、ダイオキシンなどの有害物質が発生する可能性があり使用を控えることが好ましい。ポリ塩化系の樹脂より高価であるが、塩素などのハロゲンを有しない、オレフィン系エラストマー、スチレン系エラストマー、ウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ニトリル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、ふっ層系エラストマー等が好ましく、具体的には、Notio(三井化学株式会社製、登録商標)、タフマー、ミラストマー(三井化学株式会社製、登録商標)(参考文献:第1194276号)、ダイナロン(JSR社製、登録商標)等が挙げられるがこれらに限られるものではない。
【0023】
上記粘着層の厚さは、本発明の全体のフィルムの厚さの50%以下が好ましい。後述するように、ヘイズを低減する観点からは粘着層は薄いほど良いが、一方で、フィルムを薄くすると、大型用途において、フィルムの形状保持性が悪化し、湾曲しやすく、ガラスへの貼り付け作業時、シワなどが発生しやすく作業性が悪化し好ましくない。
【0024】
上記基材層の引張弾性率は100MPa〜1500MPaであることが好ましい。引張弾性率が上記範囲より小さいと、前述のように、大型用途において、フィルムの形状保持性が悪化し、湾曲しやすく、ガラスへの貼り付け作業時、シワなどが発生しやすく作業性が悪化し好ましくない。一方、引張弾性率が上記範囲より大きいと、フィルムが脆くなり破損する恐れが生じる。上記理由より、フィルム全体としての弾性率は、80MPa〜1000MPaが好ましく、100MPa〜700MPaがさらに好ましい。
【0025】
上記基材層を構成する樹脂Bとしては、上記のヘイズ以下で、引張弾性率が上記範囲である限りにおいては特に制限は無いが、好ましくは、PET等のポリエステル系、ナイロン系、ポリカーボネート、エラストマー系、ポリオレフィン系のものが適用される。しかし、PET等のポリエステル系、ナイロン系、ポリカーボネートを上記基材層の樹脂Bとして用いる場合、印刷、貼付け、貼りなおし等の作業中、基材層に折れシワが生じ美観を損なうことがあるので、エラストマー系、ポリオレフィン系の樹脂が好ましい。
【0026】
エラストマー系やポリオレフィン系のうちヘイズが比較的高いものもあるが、例えばフィルム厚を80μm以下と薄くする事により透過率を向上させる事で、前記のヘイズ以下になれば用いることができる。
【0027】
上記基材層の厚さは、5μm〜100μmであり、本発明のフィルム全体の厚さの50%以上が好ましい。これは後述するヘイズを低減する観点からは薄いほど良いが、一方で、フィルムを薄くすると前述のように、大型用途において、フィルムの形状保持性が悪化し、湾曲しやすく、ガラスへの貼り付け作業時、シワなどが発生しやすく作業性が悪化するため、フィルム全体としての厚さは、30〜150μmが好ましく、より好ましくは50〜140μm、最も好ましくは60〜120μmである。
【0028】
上記粘着層や基材層を構成する樹脂のMFRは、ASTM D1238に従って測定した場合、230℃で1〜100g/10min.であることが好ましい。さらに、粘着層と基材層のMFR差は、5以下が好ましい。これは後述するように、本発明のフィルムは、貼り付けるガラスへの汚染を低減しかつ前記フィルムの作業性を保つために共押出法で製造されるためである。つまり上記範囲よりMFRが小さいと押出をすることが困難となるからである。一方、上記範囲よりMFRが大きいと樹脂が流れすぎ、粘着層の形状を均一にすることが困難となり、前記粘着層とガラスとの粘着力が低下するためである。
【0029】
さらに本発明のフィルムに含まれる粘着層または/および基材層の表面抵抗値が低いことが好ましく、具体的には1×1017〜1×10Ωが好ましく、1×1012〜1×10Ωであることがより好ましい。ここでいう表面抵抗値とは、JIS K 6911やASTM D257準拠にて測定されたものである。これは本発明のフィルムをガラスへ貼り付け作業をおこなう際等に、フィルムが帯電し、ゴミなどのパーティクルが付着し、ショウウインドの美観を損なうのを防ぐためである。さらに、印刷を実施する際、フィルムが帯電していると、インクやトナーが所定の位置に付着せず、印刷図柄の再現性が劣るなどの問題を防ぐためでもある。
【0030】
表面抵抗値は例えば、JIS K6911に準拠し、R−9740(アドバンテスト社製)を用いて測定することができる。
【0031】
本発明のフィルムに帯電防止性能を付与するには、例えば特許4247956号公報で開示されているように、テープにイオン伝導性化合物を添加する方法や、導電性を有する層をフィルム表面にコーティングなどによって形成するなど、公知の方法を用いることができ、特に限定されないが、イオン伝導性化合物を粘着層または/および基材層の原料となる樹脂に予め添加し、後述するように共押出法によって本発明のフィルムを製造することで、上記性能を付与することができる。
【0032】
上記イオン伝導性化合物としては、一般的に用いられるものを用いることができ、特に限定されないが、具体的にはペレスタットHC250、ペレスタット230(三洋化成工業株式会社製)が挙げられる。
【0033】
粘着層または基材層、もしくは粘着層と基材層の両方が上記表面抵抗値の範囲であればよいが、イオン伝導性化合物を添加する場合は、粘着層に用いて表面抵抗値が上記範囲であることが好ましい。これは、ゴミなどのパーティクルが粘着層に付着したまま、ショウウインドに貼りついた場合、粘着層とショウウインドのガラスの間に挟まれて存在し続けるため、美観を損なうだけではなく、接着力が低下し、フィルムが落下する原因となるからである。さらに、上述したように、帯電防止性能を付与するためにイオン伝導性化合物を添加すると、樹脂の変質や結晶化が促進され印刷用ガラス向けフィルムのヘイズが増加し、フィルムの透明性が低下する恐れがあるからである。
【0034】
また、導電性を有する層をフィルム表面にコーティングなどによって形成する場合は、基材層に用いて表面抵抗値が上記範囲であることが好ましい。これによって、インクやトナーが所定の位置に付着し、印刷図柄の再現性を向上させることが可能となる。
【0035】
本発明のフィルムの最表面の粘着層にさらに離型フィルムを貼りあわせることができる。
【0036】
一般的に印刷用ガラス向けフィルムなどのフィルムは、ロール状またはシート状に積層し積層体として運搬・保管され、積層体からフィルムを剥がして使用する。積層体からフィルムを剥がせなくなるブロッキングと呼ばれる現象が発生することがある。このブロッキングを防ぐため、一般的には積層するフィルムの表面は凹凸(エンボス)加工される。しかし上述したように、本発明のフィルムの表面は、透明性を阻害しないように、平滑である必要がある。よって本発明のフィルムを積層体にして運搬・保管する場合は、前記フィルムのより粘着力があるためブロッキングしやすい最表面の粘着層に離型フィルムを貼りあわせるのが好ましい。
【0037】
離型フィルムとして、一般的に用いられる離型フィルムを用いることができ、特に限定されないが、上記粘着層に汚染物質を付与しないようにアクリル系粘着剤などの接着剤を用いていないものが好ましい。具体的には、ポリエチレンテレフタラートフィルム、(シリコーンコートペットフィルム(セパレーターSP−PET、東セロ株式会社製)などが挙げられる。
【0038】
また、印刷面と離型フィルム面の区別を容易とし、印刷作業性を向上させるために、着色された離型フィルムや、印が記載された離型フィルムが好ましい。さらに、印刷後の発色性を確認するために白色の離型フィルムがより好ましい。
【0039】
本発明のフィルムと上記離型フィルムとは、一般的に用いられる方法で貼りあわせることができ、特に限定されないが、可能な限り本発明のフィルムを引き伸ばすことなく貼りあわせるのが好ましい。これは上記本発明のフィルムを引き伸ばすと、フィルム面内に歪みやヘイズムラなどが発生し、作業性や美観を低下する恐れがあるからである。貼り合わせ方法としては、具体的に通常のシートラミネート装置を用いた方法が挙げられる。
【0040】
本発明のダイシングフィルムは、少なくとも上記樹脂Aと上記樹脂Bを共押出し、前記共押出後に、実質的に延伸することなく製造するのが好ましい。これは強くフィルムを延伸すると、フィルム面内に歪みやヘイズムラなどが発生し、作業性や美観を低下する恐れがあるからである。
【0041】
共押出方法としては、公知の方法を用いることができ特に限定されないが、具体的には多層Tダイを用いて、各層を形成する樹脂のガラス転移温度(Tg)以上、融点(Tm)以下の温度に加熱し溶融させて一体としたものをフラットダイに送り込みダイ内で接着させる方法(フィードブロック法)、各層の溶融物をフラットダイ内の別のマニホールドに送り込み、ダイ内の共通の場所(一般的にはダイリップ入り口前にて、各層を層状に接合して一体としたものをフラットダイに送り込みダイ内で接着させる方法(多数マニホールド法)さらにフィードブロック法と多数マニホールド法の組み合わせ方法などが挙げられる。
【実施例】
【0042】
以下、実施例に基づき、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものでない。以下に、本発明に使用した物性試験法A〜Eについて説明する。
【0043】
A.引張弾性率
JIS K7161に記載のプラスチック引張特性の試験方法に準拠して、テープから縦方向と横方向の試験片を作成し、温度23℃、相対湿度50%の環境下で引張試験を実施した。この引張試験より得られた応力−ひずみ曲線で、2点の規定されたひずみにおいて測定された引張応力から、引張弾性率を算出した。後述の実施例で示される引張弾性率(23℃)は、少なくとも5回測定した平均値であり、単位は、MPaである。
【0044】
B.粘着力
JIS Z0237に記載の粘着シート試験方法に準拠して、温度23℃、相対湿度50%の環境下で粘着力試験を実施した。ガラス板に、粘着シートを約2kgゴムロールで圧力を加えながら試験板に貼り付けて、温度23℃、相対湿度50%の一定環境下に30分間置いてから、粘着シートを180°方向に、速度300mm/分で試験板から引き剥がしながら粘着力を測定した。後述の実施例で示される粘着力(23℃)は、少なくとも2回測定した平均値であり、単位は、N/25mmである。
【0045】
C.へイズ
JIS K7136に準拠して、濁度計(曇り度計)NDH2000(Nippon Denshoku社製)にて、測定した。後述の実施例で示される値は、少なくとも2回測定した平均値である。
【0046】
D.印刷面(基材面)表面張力
JIS−K6768(ポリエチレンおよびポリプロピレンフィルムのぬれ試験方法)に準拠して測定した。即ちジョンソン綿棒(ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社製)を、JIS−K6768(4.2)に記載された試薬に液滴がたれない程度にたっぷり浸し、綿棒を試験片に水平にあて、一方に移動して塗布した。その際、塗布された液膜の幅ができるだけ広くなるようにし、その面積が約6cm2 になるようにした。この塗布は約0.5秒で完了するようにした。濡れ指数の判定は、試薬を塗布した後、2秒後の状態で行う。たとえば液膜が破れを生じないで、2秒間以上、塗布されたときの状態を保っていれば、濡れていることとなる。2秒以上濡れた状態を保つ場合は、更に次に表面張力の高い試薬での同様の試験に進み、また逆に、2秒以内で液膜が破れ、または全体に収縮を生じた場合は、次に表面張力の低い試薬での同様の試験に進む。この操作を繰り返し、試験片表面を正確に2秒間濡らすに最も近い試薬を選ぶことができるまで継続し、選ばれた試薬の表面張力(mN/m)の数値を、その試験片の濡れ性(指数)とする。
【0047】
E.表面抵抗値
JIS K6911に準拠し、R−9740(アドバンテスト社製)を用いて測定。後述の実施例で示される値は、少なくとも2回測定した平均値である。
【0048】
(実施例1)
テープを構成する各層の材料として、以下の材料を用いた。
基材層を構成する樹脂として、F327(プライムポリマー株式会社製、MFR7.3g/10分(ASTM D1238準拠、測定温度230℃))へ帯電防止剤(三洋化成工業株式会社製、ペレスタットHC250)を10重量%加えた樹脂を用いた。引張弾性率は550MPaであった。粘着層を構成する樹脂としてNOTIO PN3560(三井化学株式会社製、登録商標、MFR6g/10分(ASTM D1238準拠、測定温度230℃)、引張弾性率12MPa)を用いた。
【0049】
次いで、各層の材料をフルルライト型のスクリューを備えた押し出し機により溶融した。成形条件(溶融温度)は、粘着層230℃、基材層230℃であり、この2層の溶融樹脂を多層ダイ内で積層させた(共押出温度:230℃)。
【0050】
押し出された粘着シートを冷却、セパレータ(SP−PET、東セロ株式会社製)を粘着層面に設けた後、基材層表面をコロナ処理し、スリットして巻き取った。
【0051】
このようにして得られた粘着シートは、基材層厚12μm、粘着層厚68μmで、合計厚み80μmであった。A.引張弾性率、B.粘着力引裂強さ、C.へイズ、D.印刷面(基材面)表面張力、E.表面抵抗値について、前記に示した物性試験方法に従って試験し、その結果を表1に示す。
【0052】
次に、インキ濃度と湿し水を自動管理可能な、大日本スクリーンの『Truepress344(トゥループレス344)』を用いて、デジタルオフセット印刷を行った。10枚印刷し、フィルムの帯電による、印刷部以外へのインク付着など印刷不良を確認した。さらに、印刷後のフィルムを、一辺の長さが150mmである正方形に切り出した後、一辺の長さが300mmである正方形ガラス板へ約2kgゴムロールで圧力を加えながら貼付けを行い、作業性(シワ発生性)評価を行った。つぎに、フィルムを幅15mm、長さ150mmの面積単位で区分し、ガラスと粘着層間にパーティクルゴミが存在するか確認し、幅15mm、長さ150mmの面積単位で10箇所測定、発生率を計算した。その後、温度23℃、相対湿度50%の環境下で、24時間放置した後、ガラスからフィルムを剥離し、このとき糊残りが発生するか確認した。さらに、上記方法で再度フィルムをガラスへ貼り付け、剥離を3回実施し、基材層表面の印刷インクが剥離するか確認した。
【0053】
(実施例2〜7)
帯電防止剤の添加量や帯電防止剤を添加する層、基材層と粘着層の厚さを表1のように変えた以外は、実施例1と同様に粘着シートを作成し、評価を行った。実施例2〜7のテープ構成や物性、評価結果を表1に示す。
【0054】
(実施例8)
帯電防止剤の添加量や帯電防止剤を添加する層、基材層と粘着層の厚さを表1のように変えた以外は、実施例1と同様に粘着シートを作成した後、60℃、24時間加熱し、表面張力を37mN/mとして印刷インク剥離評価を行った。実施例8のテープ構成や物性、評価結果を表1に示す。
【0055】
(比較例1〜2)
帯電防止剤の添加量や帯電防止剤を添加する層、基材層と粘着層の厚さを表1のように変え、基材層表面を処理しなかったこと以外は、実施例1と同様に粘着シートを作成し、評価を行った。比較例1〜2のテープ構成や物性、評価結果を表1に示す。
【0056】
(比較例3)
基材層を構成する樹脂をポリエチレンテレフタラート樹脂(PETフィルム、50μm)に変え、さらに粘着層を構成する樹脂をアクリル系粘着剤に変え、帯電防止剤を前記基材層と粘着層に加えず、基材層と粘着層の厚さを表1に示すように変え、実施例1と同様に評価を行った。比較例3の粘着シートの構成や物性、評価結果を表1に示す。
比較例3の粘着シート作成方法を以下に詳細に述べる。
【0057】
<粘着剤層を構成する粘着剤塗布液の調製>
重合反応機に脱イオン水150重量部、重合開始剤として4,4’−アゾビス−4−シアノバレリックアシッド〔大塚化学(株)製、商品名:ACVA〕を0.5重量部、アクリル酸ブチル52.25重量部、メタクリル酸メチル25重量部、メタクリル酸−2−ヒドロキシエチル15重量部、メタクリル酸6重量部、アクリルアミド1重量部、水溶性コモノマーとしてポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル(エチレンオキサイドの付加モル数の平均値;約20)の硫酸エステルのアンモニウム塩のベンゼン環に重合性の1−プロペニル基を導入したもの〔第一工業製薬(株)製:商品名:アクアロンHS−20〕0.75重量部を添加し、攪拌下で70℃において9時間乳化重合を実施し、アクリル樹脂系水エマルジョンを得た。これを14重量%アンモニア水で中和し、固形分40重量%を含有する粘着剤ポリマーエマルジョン(粘着剤主剤)を得た。得られた粘着剤主剤エマルジョン100重量部(粘着剤ポリマー濃度:40重量%)を採取し、さらに14重量%アンモニア水を加えてpH9.3に調整した。次いで、アジリジン系架橋剤〔日本触媒化学工業(株)製、商品名:ケミタイトPZ−33〕0.8重量部、及びジエチレングリコールモノブチルエーテル5重量部を添加して粘着剤層を構成する粘着剤塗布液を得た。
【0058】
<粘着フィルムの調製>
粘着剤塗布液を、ロールコーターを用いてポリプロピレンフィルム(剥離フィルム、厚み:50μm)に塗布し、120℃で2分間乾燥して厚み20μmの粘着剤層を設けた。これに上記基材フィルム(PETフィルム、50μm)を貼り合わせ押圧して、粘着剤層を転写させた。転写後、60℃において48時間加熱した後、室温まで冷却することにより比較例3の粘着シートを製造した。
【0059】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明によれば、ガラス窓用装飾フィルムにおいて、透明性が高く、表面の表面張力が高く、写真などのビジュアル再現性に優れ、大型ガラス窓用に適するガラス接着力を有し、弾性率が高くフィルムにコシがありガラス貼付け作業性に優れ、貼りなおし等において糊残りが無く、帯電性が低くガラス窓装飾フィルムとしてゴミの付着が少なく、印刷性に優れ、環境への負荷が低い非PVC系フィルムを提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
引張弾性率が3〜50MPaであり230℃でのMFRが1〜100g/10min.でありガラス板の表面に貼着し60分間放置後に前記ガラス板の表面から剥離したときの粘着力(JIS Z0237)が0.3〜50N/25mmである粘着層と、引張弾性率が100〜1500MPaであり前記粘着層との230℃でのMFRの差が5g/10min.以下である基材層とを含んでなり、基材層の表面が表面処理され表面張力が32mN/m以上であり、かつヘイズが0〜10%である印刷用ガラス向けフィルム。
【請求項2】
前記粘着層または/および前記基材層が、オレフィン系樹脂からなる請求項1に記載の印刷用ガラス向けフィルム。
【請求項3】
前記粘着層または/および前記基材層の表面抵抗値が1×1017〜1×10Ωである請求項1に記載の印刷用ガラス向けフィルム。
【請求項4】
引張弾性率が80〜1000MPaであり、厚さが30〜150μmである請求項1に記載の印刷用ガラス向けフィルム。
【請求項5】
最表面に離型層を有し、前記離型層と接触している前記粘着層を少なくとも1層有する請求項1に記載の印刷用ガラス向けフィルム。
【請求項6】
離型層が着色されていることを特徴とする請求項5に記載の印刷用ガラス向けフィルム。
【請求項7】
230℃でのMFRが1〜100g/10min.でヘイズが0〜10%である樹脂Aと前記樹脂Aと230℃でのMFRの差が5g/10min.以下でヘイズが0〜10%である樹脂Bとを共押出する工程を含み、前記共押出する工程の後に実質的に延伸工程を含まない、印刷用ガラス向けフィルムの製造方法。

【公開番号】特開2011−56876(P2011−56876A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−211112(P2009−211112)
【出願日】平成21年9月11日(2009.9.11)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】