説明

印刷用塗工紙

【課題】オフセット印刷適性を損なうことなく、インクジェット印刷適性を満足する印刷用塗工紙は得られていない。特にオフセット印刷適性を損なうことなく、顔料インクを採用するインクジェット印刷機に適する印刷用塗工紙を提供することである。
【解決手段】本発明の課題は、原紙の少なくとも一方の面に顔料とバインダーを主成分とする塗工層を設けた印刷用塗工紙において、該塗工層上に炭酸カルシウム以外のカルシウム化合物を含有するオーバーコート層を設け、前記カルシウム化合物を印刷用塗工紙1mあたりの少なくとも一方の面のオーバーコート層がカルシウムイオン換算で3mmol以上60mmol以下の範囲で含有し、塗工層中の顔料として重質炭酸カルシウムを塗工層中の総顔料100質量部に対して50質量部以上含有することを特徴とする印刷用塗工紙によって基本的に達成された。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷用塗工紙に関する。詳しくは、オフセット印刷適性を損なうことなく、インクジェット記録方式を利用する商業印刷においても良好な適性を有する印刷用塗工紙に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式の技術が急速に進歩し、インクジェット記録方式を利用するプリンター(以下、「インクジェットプリンター」と記載する。)によって、紙やフィルムなど記録用の媒体にカラーでかつ高画質に画像を形成できるようになった。このようなインクジェットプリンターには、家庭用の小型プリンターから印刷業者などが使用する大判プリンターがある。基本的には1枚単位で印刷を実行するために、主に少部数の印刷現場でこれらプリンターは利用されていた。
【0003】
近年、さらなる技術の進歩により、インクジェット記録方式を利用する商業印刷(以下、「インクジェット印刷」と記載する。)の応用が始まっている。商業印刷分野は印刷部数が多く、生産性および印刷コストの兼ね合いから印刷速度が重視される。インクを吐出するヘッドが用紙の搬送方向に直行する幅方向全体に固定されたラインヘッドを備える印刷機(以下、「インクジェット印刷機」と記載する。)によって、インクジェット印刷に適した印刷速度は達成される(例えば、特許文献1参照)。また最近では、印刷速度が15m/分以上、より高速では60m/分以上、さらに高速では120m/分を超える顔料インクを搭載する輪転方式のインクジェット印刷機も開発されている。
【0004】
可変情報を取り扱うことができるため、インクジェット印刷機は特にオンデマンド印刷に応用される。固定情報をオフセット印刷機で印刷し、可変情報をインクジェット印刷機で印刷する形態が商業印刷では好ましい。
【0005】
しかしながら、従来のオフセット印刷用塗工紙をインクジェット印刷機に採用すると、インクジェットインクの定着性や吸収性が悪いために、上記の印刷速度では印刷後の取り扱いで印刷画像が擦れて汚れ、またインクの吸収が不十分であるため、印刷ムラや印刷滲み、酷い場合はインク流れ(吸収されなかったインクが塗工紙面上を流れる現象)が発生するなど問題があった。
【0006】
インクジェット印刷におけるインク定着性やインク吸収性を改良するために単純に塗工層のバインダーを減量したり、あるいは塗工層に多孔性顔料を多用した場合、塗工層の塗層強度が失われブランパイリングが発生するなど、印刷用塗工紙のオフセット印刷適性は損なわれる。従って、オフセット印刷適性を損なうことなく、十分なインク定着性やインク吸収性のインクジェット印刷適性を有することが印刷用塗工紙に要求される。
【0007】
耐候性の観点から、インクジェットインクに顔料インクを採用するインクジェット印刷機が増加する傾向である。顔料インクの問題点としては、印刷部分の印刷ムラが挙げられる。印刷ムラとは、印刷速度が速い時に印刷用塗工紙のインク吸収性にバラツキが発生し、インクが乾燥した後の最終的な印刷画像において定着したインクの濃度が不均一となる現象である。インクジェット印刷に用いるインクは色材の濃度が低く、オフセット印刷に比べて印刷ムラが顕著となり易い。印刷ムラによって印刷物の商品価値は低下し、故に、印刷ムラを抑制することが求められる。また、顔料インクの他の問題点として、インク定着性と発色性の両立が挙げられる。色材が固体である顔料インクでは、発色性のために色材を表面に留めようとするとインク定着性が得られず、インク定着性のために色材を浸透させると発色性が得られない。従って、発色性およびインクの定着性を両立させることが求められる。
【0008】
原紙上にBET比表面積の高い多孔性顔料を塗布したインクジェット記録方式の専用紙(例えば、特許文献2および特許文献3参照)は、インクジェット印刷におけるインク定着性、インク吸収性に優れる。しかしながらこれらインクジェット記録方式の専用紙は、塗工層の強度が不足しオフセット印刷適性に劣る。
【0009】
また、印字画像の印字ムラを抑制したインクジェット記録方式の専用紙として、支持体として水溶性金属塩を含有する紙を用い、支持体上のインク受理層がたんぱく質を含有するインクジェット記録シート(例えば、特許文献4参照)、支持体上にインク受理層と光沢発現層を有し、光沢発現層が周期表2A族元素の塩化物を5〜30重量%含有するインクジェット記録用紙(例えば、特許文献5参照)、基材上にインク受理層と光沢層を有し、さらに多価金属塩と浸透剤を含有するオーバーコート層を設けたインクジェット記録用紙(例えば、特許文献6参照)がある。しかしながら、これらのインクジェット記録方式の専用紙はインクジェットプリンター用であり、オフセット印刷適性に劣り、インクジェット印刷機においては十分に満足できるレベルに印刷ムラを抑制するものではない。一方、カチオン性ポリマーが含有された基紙上に、無機顔料とバインダーを主体とした塗工層を有するインクジェット記録紙(例えば、特許文献7参照)がある。オフセット印刷適性は良好であるが、インクジェット印刷機の印刷ムラの点において、必ずしも優れているとはいえない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2009−23292号公報
【特許文献2】特開平3−43290号公報
【特許文献3】特開平5−254239号公報
【特許文献4】特開2004−276420号公報
【特許文献5】特開2005−161601号公報
【特許文献6】特開2008−114543号公報
【特許文献7】特開2010−100039号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
オフセット印刷適性を損なうことなく、インクジェット印刷適性を満足する印刷用塗工紙は得られていない。特にオフセット印刷適性を損なうことなく、顔料インクを採用するインクジェット印刷機に適する印刷用塗工紙は得られていない。
【0012】
すなわち、本発明の目的は、印刷用塗工紙において次の課題を満足させることである。(1)オフセット印刷適性が良いこと。(2)インクジェット印刷においても十分なインク定着性やインク吸収性を有すること。(3)顔料インクを採用するインクジェット印刷において印刷部分の印刷ムラが十分に抑制されていること。(4)発色性およびインク定着性が両立されること。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題は、原紙の少なくとも一方の面に顔料とバインダーを主成分とする塗工層を設けた印刷用塗工紙において、該塗工層上に炭酸カルシウム以外のカルシウム化合物を含有するオーバーコート層を設け、前記カルシウム化合物を印刷用塗工紙1mあたりの少なくとも一方の面のオーバーコート層がカルシウムイオン換算で3mmol以上60mmol以下の範囲で含有し、塗工層中の顔料として重質炭酸カルシウムを塗工層中の総顔料100質量部に対して50質量部以上含有し、原紙が炭酸カルシウムを含有することを特徴とする印刷用塗工紙によって解決することができる。
【0014】
また好ましくは、1mの印刷用塗工紙に含まれる炭酸カルシウムのカルシウム量Aと炭酸カルシウム以外のカルシウム化合物のカルシウム量Bのカルシウムイオン換算mmol比(A/B)が1以上50以下である。
【0015】
また好ましくは、塗工層の塗工量が片面あたり乾燥固形分で8.0g/m以上25.0g/m以下である。
【0016】
また好ましくは、カルシウム化合物が塩化カルシウムである。
【0017】
本発明の別の態様として、インクジェット印刷機での印刷方法であって、上記印刷用塗工紙を得る工程、および印刷用塗工紙の塗工層上に、顔料インクを用いたインクジェット印刷を印刷速度15m/分以上で行って印刷画像を形成する工程を含む方法を提供する。また本発明は、優れた印刷画像を形成する方法であって、上記印刷用塗工紙を得る工程、および印刷用塗工紙の塗工層上に、オフセット印刷機および/またはインクジェット印刷機を用いて印刷画像を形成する工程を含む方法を提供する。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、オフセット印刷適性が良好であり、かつインクジェット印刷においても良好なインク定着性とインク吸収性を有する印刷用塗工紙を得ることができる。特に、顔料インクを搭載するインクジェット印刷機でも、印刷部分の印刷ムラが抑えられ、発色性およびインク定着性を良好に両立できる印刷用塗工紙を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の印刷用塗工紙について詳細に説明する。
【0020】
本発明の印刷用塗工紙に用いられる原紙としては、LBKP、NBKPなどの化学パルプ、GP、PGW、RMP、TMP、CTMP、CMP、CGPなどの機械パルプ、およびDIPなどの古紙パルプに、炭酸カルシウムを必須の填料として有し、サイズ剤、定着剤、歩留まり剤、カチオン化性化合物、紙力剤などの必要に応じて各種添加剤を配合した紙料から、酸性、中性、アルカリ性などで抄造した紙を使用できる。填料として炭酸カルシウムを使用することで、良好なオフセット印刷適性が得られ、また、印刷ムラに対しても良好となる。本発明において、炭酸カルシウムは重質炭酸カルシウムと軽質炭酸カルシウムに分類することができ、填料として用いる炭酸カルシウムは重質炭酸カルシウムまたは軽質炭酸カルシウムのいずれでもよく、併用してもよい。なお、填料としてタルク、クレー、カオリンなどの各種填料を併用することもできる。
【0021】
本発明において、原紙の紙料中には、その他の添加剤として、顔料分散剤、増粘剤、流動性改良剤、消泡剤、抑泡剤、離型剤、発泡剤、浸透剤、着色染料、着色顔料、蛍光増白剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、防腐剤、防バイ剤、耐水化剤、湿潤紙力増強剤、乾燥紙力増強剤などを本発明の所望の効果を損なわない範囲で、適宜配合することもできる。
【0022】
本発明において、原紙のサイズ度は本発明の所望の効果を損なわない限りいずれのサイズ度でもよく、内添サイズ剤の量、原紙に塗布する表面サイズ剤の塗布量によって調整することができる。内添サイズ剤は例えば、酸性紙であればロジン系サイズ剤、中性紙であればアルケニル無水コハク酸、アルキルケテンダイマー、中性ロジン系サイズ剤またはカチオン性スチレン−アクリル系サイズ剤などである。また表面サイズ剤は例えば、スチレン−アクリル系サイズ剤、オレフィン系サイズ剤、スチレン−マレイン系サイズ剤などである。特に、カチオン性化合物と一緒に塗布する場合には、カチオン系かノニオン系の表面サイズ剤が好ましい。
【0023】
またインクジェットインクのインク吸収性の観点から、原紙中の灰分量は、好ましくは8質量%以上25質量%以下であり、より好ましくは10質量%以上20質量%以下である。
【0024】
ここでいう灰分量とは、原紙を500℃で1時間燃焼処理を行った後の不燃物の質量と、燃焼処理前の原紙の絶乾質量との比率(質量%)である。灰分量は、原紙中の填料などの含有量により、調整することができる。
【0025】
本発明において、原紙の厚さは特に限定されないが、好ましくは50μm以上300μm以下、さらに好ましくは80μm以上250μm以下である。
【0026】
本発明の印刷用塗工紙は、原紙上に顔料およびバインダーを主成分とする塗工層を有する。塗工層を設けることによって、印刷品質および外観の点で上質紙と差別化することができる。
【0027】
インクジェット記録方式の専用紙の塗工層に用いられる合成シリカ等の多孔性顔料は、インクジェットインクを吸収することができる。しかしながら、一般の印刷用塗工紙の塗工層に用いられるカオリンや炭酸カルシウムは、粒子自体が多孔性を有しないためにインクジェットインクをほとんど吸収しない。
【0028】
本発明において、塗工層は顔料として重質炭酸カルシウムを含有する。塗工層中の重質炭酸カルシウムの含有量は、塗工層中の総顔料100質量部に対して50質量部以上を占め、好ましくは60質量部以上である。重質炭酸カルシウムの粒子自体にはインクジェットインクを吸収する性質はない。しかし、不定形である重質炭酸カルシウム粒子に起因する粒子間に形成される空隙によって、インクジェットインクを吸収することができる。そして、塗工層が重質炭酸カルシウムを塗工層中の総顔料100質量部中50質量部以上を含有することによって、オフセット印刷適性を損なわず、インクジェット印刷適性を有することができる。塗工層中の重質炭酸カルシウムの含有量が50質量部未満の場合には塗工層の空隙の形成が不十分となり、インクジェット印刷適性が得られない。この理由は定かではないが、重質炭酸カルシウムが不定形であるために、空隙が定形粒子と比べて比較的多く形成されるのではないかと考えられる。
【0029】
本発明の塗工層には、前記重質炭酸カルシウム以外の顔料として、従来公知の顔料が用いることができる。このような顔料としては、例えば、カオリン、軽質炭酸カルシウム、クレー、タルク、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、二酸化チタン、酸化亜鉛、硫化亜鉛、炭酸亜鉛、サチンホワイト、珪酸アルミニウム、ケイソウ土、珪酸カルシウム、珪酸マグネシウム、合成非晶質シリカ、コロイダルシリカ、水酸化アルミニウム、アルミナ、リトポン、ゼオライト、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウムなどの無機顔料、スチレン系プラスチックピグメント、アクリル系プラスチックピグメント、スチレン−アクリル系プラスチックピグメント、ポリエチレン、マイクロカプセル、尿素樹脂、メラミン樹脂などの有機顔料などが挙げられる。
【0030】
但し、合成非晶質シリカに代表されるような吸油度の高い多孔性顔料を多用した場合、塗層強度が低下する場合がある。塗層強度が低下するとオフセット印刷でのブランパイリングの発生などトラブルを引き起こすため、塗工層中に使用される顔料の平均吸油量は、100ml/100g顔料以下とすることが好ましい。
【0031】
本発明おいて、塗工層は、バインダーとして従来公知の水分散性バインダーおよび/または水溶性バインダーを含有する。水分散性バインダーとしては、例えば、スチレン−ブタジエン共重合体またはアクリロニトリル−ブタジエン共重合体などの共役ジエン系共重合体ラテックス、アクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステルの重合体あるいはメチルメタクリレート−ブタジエン共重合体などのアクリル系共重合体ラテックス、エチレン−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体などのビニル系共重合体ラテックス、ポリウレタン樹脂ラテックス、アルキド樹脂ラテックス、不飽和ポリエステル樹脂ラテックス、またはこれらの各種共重合体のカルボキシル基などの官能基含有単量体による官能基変性共重合体ラテックス、あるいはメラミン樹脂、尿素樹脂などの熱硬化合成樹脂が挙げられるが、これらに限定されない。水溶性バインダーとしては、例えば、酸化澱粉、エーテル化澱粉、リン酸エステル化澱粉などの澱粉誘導体、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースなどのセルロース誘導体、ポリビニルアルコールまたはシラノール変性ポリビニルアルコールなどのポリビニルアルコール誘導体、カゼイン、ゼラチンまたはそれらの変性物、大豆蛋白、プルラン、アラビアゴム、カラヤゴム、アルブミンなどの天然高分子樹脂またはこれらの誘導体、ポリアクリル酸ソーダ、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドンなどのビニルポリマー、アルギン酸ソーダ、ポリエチレンイミン、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、無水マレイン酸またはその共重合体などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0032】
これらの水分散性バインダーおよび/または水溶性バインダーは、単独または2種以上を混合して用いることができる。特に水分散性バインダーであるラテックスバインダーは、塗工層に用いると塗層強度に優れるので、本発明における塗工層はバインダーとしてラテックスバインダーを主に含有することが好ましい。ここで、バインダーとしてラテックスバインダーを主に含有することとは、塗工層中のバインダーの総含有量の50質量%以上を含有すること、好ましくは60質量%以上を含有することである。
【0033】
塗工層におけるバインダーの総含有量は、塗工層の強度、インク吸収性の観点から、塗工層中の顔料の総和100質量部に対して5質量部以上50質量部以下、好ましくは10質量部以上30質量部以下である。
【0034】
本発明において、印刷用塗工紙の外観とインク定着性について検討した結果、印刷用塗工紙の塗工層の塗工量を片面あたり8.0g/m以上25.0g/m以下とすることによって、オフセット印刷適性とインクジェット印刷適性の両方を得ることができるために好ましい。より好ましい塗工量は10.0g/m以上20.0g/m以下である。本発明において、塗工層の塗工量とは、乾燥固形分の塗工量を示す。
【0035】
本発明において、塗工層を塗工する方法としては、エアーナイフコーター、各種ブレードコーター、ロールコーター、バーコーター、ロッドブレードコーター、カーテンコーター、ショートドウェルコーターなどが挙げられるが、特に限定されない。好ましくは、ブレードコーター、エアーナイフコーター、カーテンコーターである。
【0036】
本発明において、光沢感を上げる目的のために、光沢発現能力の高いプラスチックピグメントを適宜使用して光沢感を調整することができる。また、カレンダー処理を施すことによって、より高い光沢度を得ることができる。その際のカレンダー処理装置としては、マシンカレンダー、スーパーカレンダー、ソフトニップカレンダーなどが挙げられる。また、公知のキャストコート法を用いてグロスを施すこともできる。
【0037】
本発明において、上記塗工層上に、炭酸カルシウム以外のカルシウム化合物を含有するオーバーコート層を設ける。本発明において、オーバーコート層とは、塗工層上に形成する層およびオーバーコート層を設けた側の塗工層表面から内部に向かうオーバーコート層成分の一部あるいは全部が局在化する表面近傍域を合わせたものである。炭酸カルシウム以外のカルシウム化合物とは、20℃の水に1質量%以上溶解することができる水溶性のカルシウム化合物である。水溶性のカルシウム化合物の例としては、乳酸カルシウム、硝酸カルシウム、塩化カルシウム、酢酸カルシウム、ギ酸カルシウム等の塩類化合物、またはエチレンジアミン四酢酸カルシウム等の錯体化合物を挙げることができる。これらは単独および2種以上を併用してもよい。好ましい水溶性のカルシウム化合物は塩化カルシウムである。塩化カルシウムの高い吸湿性がインクジェット印刷における印刷ムラの抑制に特に優れた効果を有すると考えられる。
【0038】
特開2007−268926号公報に記載するが如く水溶性の多価金属塩をインクジェット記録方式の専用紙の塗工層に含有させることが知られている。インクジェット印刷機のインクは色材の濃度が低く、定着するまでに色材は移動し易い。また一般にインクジェットプリンターのインクがアニオン性である。多価金属塩を含有することは、多価金属塩から発生する多価金属の陽イオンによってインクを定着させることができる。一方では、水溶性のカルシウム化合物は水溶液中ではカルシウムイオンを生成し、カルシウムイオンは水酸化カルシウムや炭酸カルシウムの水難溶性塩を生成することから、その使用が困難である。しかしながら、原紙や塗工層に炭酸カルシウムを含有し、さらに塗工層上にカルシウム化合物を含有する印刷用塗工紙が、インクジェット印刷における印刷ムラを抑制でき、また発色性の向上ができることを見出した。この理由は定かではないが、印刷ムラはインク定着の不均一とインク吸収速度の不均一に起因し、また、発色性はインク定着に起因するゆえ、カルシウム化合物によって上記のインク定着を塗工層表面で発現するのみならず、微視的にはインク吸収の遅い領域の炭酸カルシウム表面に水難溶性塩を形成することで、毛細管現象を生み出すのではないかと考えている。それによりインク吸収が向上し、印刷ムラを抑制することができる。また、インク定着の向上により、発色性が向上する。このため、原紙や塗工層は炭酸カルシウムを含有する必要があり、このような効果は他の多価金属塩の金属イオンからは得られない。
【0039】
本発明において、炭酸カルシウム以外のカルシウム化合物として印刷用塗工紙1mあたりの原紙の少なくとも一方の面の塗工層上に設けられたオーバーコート層中に有するカルシウム量はカルシウムイオン換算で3mmol以上60mmol以下の範囲である。この範囲より少ないと印刷部分の印刷ムラの抑制効果が得られない。この範囲を超えると、印刷部分に印刷ムラがむしろ発生してしまうことがあり、好ましくない。
【0040】
印刷用塗工紙に含まれる炭酸カルシウム以外のカルシウム化合物のカルシウムイオン換算のカルシウム含有量は、印刷用塗工紙を原紙と、塗工層およびオーバーコート層(両面の場合は、表裏別にする。)に剥離、粉砕し、塗工層およびオーバーコート層を超純水に浸し、超音波洗浄機で抽出し、抽出されたカルシウムイオン量として求められる。炭酸カルシウムのカルシウム成分のカルシウムイオン換算含有量は、印刷用塗工紙を原紙と、塗工層およびオーバーコート層に剥離、粉砕し、各々から0.1規定の硝酸溶液に溶出するカルシウムイオン量から、超純水に抽出されたカルシウムイオン量を差し引くことによって求められる。カルシウムイオンの定量分析方法は公知の方法で測定できる。本発明におけるオーバーコート層のカルシウムイオン量は、塗工層上に形成される層および塗工層表面近傍域に局在化するカルシウムイオン量として求める。印刷用塗工紙の表面から内部方向におけるカルシウムイオンの存在位置の分布は、エネルギー分散型エックス線分析装置によって求めることができる。オーバーコート層のカルシウムイオン量は、塗工層およびオーバーコート層の合計に対するオーバーコート層に属するカルシウムイオン分布の割合を掛け合わせることにより求めることができる。本発明において、塗工層表面近傍域とは、塗工層表面から内部へ塗工層の厚さの5分の1の領域である。
【0041】
また本発明において、1mの印刷用塗工紙に含まれる炭酸カルシウムのカルシウム量Aと炭酸カルシウム以外のカルシウム化合物のカルシウム量Bのカルシウムイオン換算mmol比(A/B)が1以上50以下の範囲であることが好ましい。より好ましくは5以上18以下である。この範囲にすることによって、インク定着性、印刷部分の印刷ムラの抑制あるいはインク吸収性の効果をより得ることができる。
【0042】
本発明において、オーバーコート層を塗工する方法としては、エアーナイフコーター、各種ブレードコーター、ロールコーター、バーコーター、ロッドブレードコーター、カーテンコーター、ショートドウェルコーターなどが挙げられるが、特に限定されない。
【0043】
塗工された印刷用塗工紙はそのままでも使用できるが、必要に応じてマシンカレンダー、ソフトニップカレンダー、スーパーカレンダー、多段カレンダー、マルチニップカレンダー等により表面を平滑化することもできる。
【0044】
但し、平滑化のため過度のカレンダー処理を行うと、印刷用塗工紙の空隙を潰すこととなり、結果として、インクジェット印刷でのインク吸収性を悪化させるため、適度のカレンダー処理が好ましい。
【0045】
本発明の印刷用塗工紙において、塗工層を原紙の両面に設けることができる。両面に設けることで、印刷機によっては両面に印刷できるために好ましい。
【0046】
本発明において、塗工層は原紙上に塗工して形成されるが、平滑性やインク吸収性の調整等の必要に応じて塗工層と原紙の間に顔料およびバインダーを含有する中間層を設けてもよい。中間層に用いられる顔料およびバインダーは、塗工層に用いることができる顔料やバインダーから適宜選択することができる。
【0047】
最終的に得られた印刷用塗工紙は、用途に合わせて大小のシート判またはロール状に加工されて製品となる。保存の際は、吸湿を避けるために防湿の包装を施すのが好ましい。製品の坪量は特に限定されるものではないが、40g/m以上300g/m以下が好ましい。
【0048】
本発明の印刷用塗工紙は、オフセット印刷にも、インクジェット印刷にも用いることができ、優れた画像品質および耐久性を有する印刷画像を得ることができる。本発明の印刷用塗工紙は、顔料インクを採用するインクジェット印刷機にも好ましく使用することができ、優れた画像品質および耐久性を有する印刷画像を得ることができる。本発明の印刷用塗工紙は、印刷速度が15m/分以上、より高速では60m/分以上、さらに高速では120m/分を超える輪転方式のインクジェット印刷機にも好ましく使用することができ、優れた画像品質および耐久性を有する印刷画像を得ることができる。
【0049】
また本発明の印刷用塗工紙は、オフセット印刷のみならずグラビア印刷、湿式および乾式電子写真や他の印刷方式に用いることも可能であり、何ら制限しない。さらには、輪転方式のインクジェット印刷機の他、市販のインクジェットプリンターなどに用いることも可能である。
【0050】
本発明の別の態様として、インクジェット印刷機で印刷される印刷画像の画像品質および耐久性を向上させる方法であって、上記印刷用塗工紙を得る工程、および印刷用塗工紙の塗工層上に、顔料インクを用いたインクジェット印刷を印刷速度15m/分以上で行って印刷画像を形成する工程を含む方法を提供する。また本発明は、インクジェット印刷により、印刷部分の擦れ、汚れ、印刷ムラの少ない印刷画像を形成する方法であって、上記印刷用塗工紙を得る工程、および印刷用塗工紙の塗工層上に、顔料インクを用いたインクジェット印刷を印刷速度15m/分以上で行って印刷画像を形成する工程を含む方法を提供する。また本発明は、優れた印刷画像を形成する方法であって、上記印刷用塗工紙を得る工程、および印刷用塗工紙の塗工層上に、オフセット印刷機および/またはインクジェット印刷機を用いて印刷画像を形成する工程を含む方法を提供する。
【実施例】
【0051】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はその主旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。また、実施例において示す「部」および「%」は、光沢度の値を除き乾燥固形分あるいは実質成分の質量部および質量%を示す。また、塗工量も乾燥固形分の塗工量を示す。
【0052】
(原紙の作製)
<原紙1の作製>
濾水度400mlcsfのLBKP100部からなるパルプスラリーに、填料として軽質炭酸カルシウム12部、両性澱粉0.8部、硫酸バンド0.8部、アルキルケテンダイマー型サイズ剤(サイズパインK903、荒川化学工業社製)1.0部を添加して、長網抄紙機で抄造し、サイズプレス装置で両面あたり酸化澱粉を3.0g/m付着させ、マシンカレンダー処理をして坪量100g/mの原紙1を作製した。この原紙の灰分は10%であった。
【0053】
<原紙2の作製>
濾水度400mlcsfのLBKP100部からなるパルプスラリーに、填料としてカオリン12部、両性澱粉0.8部、硫酸バンド0.8部、アルキルケテンダイマー型サイズ剤(サイズパインK903、荒川化学工業社製)1.0部を添加して、長網抄紙機で抄造し、サイズプレス装置で酸化澱粉を3.0g/m付着させ、マシンカレンダー処理をして坪量100g/mの原紙2を作製した。この原紙の灰分は10%であった。
【0054】
<塗工層の塗工液の調製>
塗工層の塗工液は、下記の内容により調製した。
顔料 配合部数は表1に記載
バインダー 配合部数は表1に記載
上記の内容で配合し、水で混合・分散して、固形分濃度60%に調整した。
【0055】
<オーバーコート層のオーバーコート液の調製>
オーバーコート層のオーバーコート液は、下記の内容により調製した。
炭酸カルシウム以外のカルシウム化合物 内容は表1に記載
上記の内容で配合し、水で溶解して、固形分濃度10%に調整した。
【0056】
【表1】

【0057】
表1に略称で示した顔料およびバインダーは、以下の通りである。
【0058】
(顔料)
A:重質炭酸カルシウム(SETACARB−HG、備北粉化工業社製)
B:軽質炭酸カルシウム(TP123、奥多摩工業社製)
C:カオリン(UW90、エンゲルハード社製)
D:合成非晶質シリカ(P705、東ソー・シリカ社製)
E:スチレン−アクリル系プラスチックピグメント(ローペイクHP91、ロームアンドハース社製)
(バインダー)
F:スチレン−ブタジエン共重合体ラテックス(JSR−2605G、JSR社製)
G:ポリビニルアルコール(PVA105、クラレ社製)
【0059】
実施例1〜14および比較例1〜10について、以下の手順により作製した。
【0060】
<印刷用塗工紙の作製>
原紙に、塗工液をブレードコーターにて両面塗工し、乾燥させた後、オーバーコート液をエアーナイフコーターにて両面塗工し、乾燥させた後、カレンダー処理をして印刷用塗工紙を作製した。カレンダーは弾性ロールと金属ロールからなる装置を用いて、ニップ線圧は幅方向の厚みプロファイルが適切に得られる範囲において、弱い線圧(80kN/m)(実施例2と比較例2)と、強い線圧(180kN/m)(実施例1、3〜14、比較例1、3〜10)の2水準で行った。また、金属ロールの温度を、弱い線圧の処理では40℃、強い線圧の処理では180℃とした。カレンダー条件に関しては表1に示した。
【0061】
塗工液およびオーバーコート液の塗工量は、片面あたりの塗工量として表1に示した。
【0062】
(印刷用塗工紙の評価)
実施例1〜14および比較例1〜10の印刷用塗工紙に対して、光沢度、オフセット印刷適性、インク吸収性、インク定着性、印刷ムラ、および発色性について下記の方法により評価を行った。その結果を表1に示す。
【0063】
オフセット印刷適性の評価以外はインクジェット印刷機を用い、インクジェット印刷機としてコダック社製印刷機Versamark VL2000を用いた。また、インクは顔料インクを用いた。印刷は毎分あたりの印刷搬送速度75mに設定し、行った。
【0064】
<光沢度の評価>
印刷用塗工紙の白紙光沢度は、JIS Z8741に準拠し、村上色彩技術研究所製デジタル光沢計GM−26D型を用いて入反射角度75°で測定した。マット系の印刷用塗工紙として光沢度が40%以下であればよく、グロス系の印刷用塗工紙として光沢度が50%以上であればよく、優れたグロス系の印刷用塗工紙として60%〜90%がよい。
【0065】
<オフセット印刷適性の評価>
ミヤコシ社製オフセットフォーム輪転機で、印刷速度:150m/分、使用インク:T&K TOKA UVベストキュア墨および金赤、UV照射量:8kW2基の条件で6000mの印刷を行い、印刷後ブランパイリングの発生状況および印刷サンプルの状態について目視評価で判定した。3〜5の評価であれば、実用上に問題はない。
5:極めて良好。
4:良好。
3:実用上問題ない範囲。
2:不良。
1:極めて不良。
【0066】
<インク吸収性の評価>
印刷用塗工紙に、印刷機でブラック、シアン、マゼンタ、イエローの各単色および、ブラックインクを除く他の3色インクでの2重色(レッド、グリーン、ブルー)の計7色のベタパターンを、2cm×2cm四方で横一列に隙間なく並べて記録するという方法で、ベタ印刷を行った。印刷部分の各色ベタ部および境界部について目視評価で判定した。3〜5の評価であれば、実用上に問題はない。
5:色の境界部に滲みがない。
4:色の境界部にほとんど滲みがない。
3:色の境界部に滲みはあるものの、境界部がはっきり識別できる。
2:色の境界部が、はっきりせず、隣接する色が境界部を越えて若干移動している。
1:各色の境界がわからず、隣接する色への滲み出しが大きい。
【0067】
<インク定着性の評価>
所定の搬送速度で印刷機の排紙部に排出された印刷用塗工紙の印刷面を観察し、インクの擦れ跡の度合いを目視評価で判定した。3〜5の評価であれば、実用上に問題はない。
5:インクの擦れ跡が認められない。
4:インクの擦れ跡がほとんど認められない。
3:インクの擦れ跡がかすかに認められる。
2:インクの擦れ跡があり、部分的に印刷物が汚れたように見える。
1:印刷部分の全体的に、インクの擦れ跡が発生している。
【0068】
<印刷ムラ>
印刷用塗工紙に、印刷機でブラック、シアン、マゼンタ、イエローの各単色および、ブラックインクを除く他の3色インクでの2重色(レッド、グリーン、ブルー)の計7色のベタパターンを、3cm×3cm四方で横一列に並べて記録するという方法で、ベタ印刷を行った。印刷部分の各色ベタ部の印刷濃度ムラについて目視評価で判定した。3〜5の評価であれば、実用上に問題はない。
5:印刷濃度ムラが認められない。
4:色によってはごく僅かに印刷濃度ムラが認められる。
3:印刷濃度ムラが僅かに認められる。
2:印刷濃度ムラが部分的に認められる。
1:印刷部分の全体的に、印刷濃度ムラが認められる。
【0069】
<発色性評価>
印刷用塗工紙に、印刷機で、ブラック、シアン、マゼンタ、イエローの各単色および、ブラックインクを除く他の3色インクでの2重色(レッド、グリーン、ブルー)の計7色のベタパターンを、2cm×2cm四方で横一列に隙間なく並べて記録するという方法で、ベタ印字を行った。印字部の各色ベタ部の発色性を目視評価で判定した。3〜5の評価であれば、実用上に問題はない。
5:各色ベタ部に発色ムラがなく、鮮やかに発色している。
4:各色とも鮮やかに発色しているが、2重色部に若干発色ムラが見られる。
3:各単色部は発色ムラもなく良好であるが、2重色部は若干発色性が低めである。
2:各単色部に若干発色ムラが認められ、2重色部の発色性も低めである。
1:各色部に発色ムラが認められ、発色性も低めである。
【0070】
上記実施例1〜14および比較例1〜10における印刷用塗工紙を用いた印刷において、評価結果を表2に示す。
【0071】
【表2】

【0072】
表1より、実施例1〜14で示される原紙の少なくとも一方の面に顔料とバインダーを主成分とする塗工層を設けた印刷用塗工紙において、該塗工層上に炭酸カルシウム以外のカルシウム化合物を含有するオーバーコート層を設け、前記カルシウム化合物を印刷用塗工紙1mあたりの少なくとも一方の面のオーバーコート層がカルシウムイオン換算で3mmol以上60mmol以下の範囲で含有し、塗工層中の顔料として重質炭酸カルシウムを塗工層中の総顔料100質量部に対して50質量部以上含有し、原紙が炭酸カルシウムを含有することを特徴とする印刷用塗工紙は、オフセット印刷適性、インク吸収性、インク定着性、印刷ムラに優れ、さらにインク定着性と発色性とを良好に両立できることがわかる。
【0073】
一方、表1より、本発明の条件を満足しない比較例1〜10では本発明の効果は得られない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原紙の少なくとも一方の面に顔料とバインダーを主成分とする塗工層を設けた印刷用塗工紙において、該塗工層上に炭酸カルシウム以外のカルシウム化合物を含有するオーバーコート層を設け、前記カルシウム化合物を印刷用塗工紙1mあたりの少なくとも一方の面のオーバーコート層がカルシウムイオン換算で3mmol以上60mmol以下の範囲で含有し、塗工層中の顔料として重質炭酸カルシウムを塗工層中の総顔料100質量部に対して50質量部以上含有し、原紙が炭酸カルシウムを含有することを特徴とする印刷用塗工紙。
【請求項2】
1mの印刷用塗工紙に含まれる炭酸カルシウムのカルシウム量Aと炭酸カルシウム以外のカルシウム化合物のカルシウム量Bのカルシウムイオン換算mmol比(A/B)が1以上50以下である請求項1に記載の印刷用塗工紙。
【請求項3】
塗工層の塗工量が片面あたり8.0g/m以上25.0g/m以下である請求項1に記載の印刷用塗工紙。
【請求項4】
カルシウム化合物が塩化カルシウムである請求項1に記載の印刷用塗工紙。

【公開番号】特開2012−77393(P2012−77393A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−221309(P2010−221309)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(000005980)三菱製紙株式会社 (1,550)
【Fターム(参考)】