説明

印刷用水分散型コート剤及び印刷用フィルム

【課題】 フィルム基材とコート剤層とが優れた密着性を有し、かつ紫外線硬化型インキの密着性にも優れたコート剤層を形成することができる印刷用水分散型コート剤及びそれを用いて製造する印刷用フィルムを提供する。
【解決手段】 アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、及びメタクリル酸ブチルを含む単量体混合物を乳化重合して得られるアクリル系共重合体を含む水分散型コート剤であって、該水分散型コート剤を塗工し乾燥して得られるコート剤層の11Hzにおける動的粘弾性スペクトルの貯蔵弾性率が、10℃において5.0×10Pa以上であり、30℃において1.0×10〜5.0×10Paであり、50℃において8.0×10〜5.0×10Paであり、かつ動的粘弾性スペクトルの損失正接の上に凸のピークの温度が30℃〜80℃にあることを特徴とする印刷用水分散型コート剤及びそれを用いて製造する印刷用フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷用水分散型コート剤及び印刷用フィルムに関し、詳しくは耐溶剤性に劣るフィルム基材にも使用可能な印刷用水分散型コート剤及び印刷用フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、各種フィルム基材を用いた印刷用フィルムが各分野で用いられている。印刷用インキに紫外線硬化型インキを用いた印刷を行う場合、フィルム基材の表面への紫外線硬化型インキの密着性が劣るので、紫外線硬化型インキの密着性を改良するために、フィルム基材の表面に、コート剤層を設ける必要がある。
【0003】
従来のコート剤層を設けるためのコート剤としては、水系のコート剤や、溶剤系コート剤が知られており、水系のコート剤は環境上好ましいが、フィルム基材とコート剤層との密着性が不十分であるといった問題があるため、溶剤系コート剤が多く用いられてきた。
【0004】
一方、近年、省資源の観点から、使用済みの家電や電子機器の樹脂製筺体を回収し、粉砕して再利用するリサイクルが行われている。
家電や電子機器の樹脂製筺体に用いられる粘着シートの表面基材は、筺体に貼付したままリサイクルできるように、筺体と同じ材質であることが求められている。
【0005】
そのため、これらの表面基材には、通常ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体樹脂、ポリカーボネート樹脂などのフィルムが用いられている(特許文献1参照。)。
しかしながら、これらの樹脂フィルムは耐溶剤性に劣るため、溶剤系コート剤を用いることができないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−237840号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来技術の状況に鑑みてなされたものであり、フィルム基材とコート剤層とが優れた密着性を有し、かつ紫外線硬化型インキの密着性にも優れたコート剤層を形成することができる印刷用水分散型コート剤及びそれを用いて製造する印刷用フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために、特定のアクリル系単量体を含む単量体混合物を乳化重合して得られるアクリル系共重合体を含む水分散型コート剤を塗工し乾燥して得られるコート剤層の11Hzにおける動的粘弾性スペクトルの貯蔵弾性率を特定の範囲にし、かつ動的粘弾性スペクトルの損失正接の上に凸のピークの温度を特定の範囲にすることにより上記課題が解決できることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、及びメタクリル酸ブチルを含む単量体混合物を乳化重合して得られるアクリル系共重合体を含む水分散型コート剤であって、該水分散型コート剤を塗工し乾燥して得られるコート剤層の11Hzにおける動的粘弾性スペクトルの貯蔵弾性率が、10℃において5.0×10Pa以上であり、30℃において1.0×10〜5.0×10Paであり、50℃において8.0×10〜5.0×10Paであり、かつ動的粘弾性スペクトルの損失正接の上に凸のピークの温度が30℃〜80℃にあることを特徴とする印刷用水分散型コート剤を提供するものである。
【0010】
また、本発明は、上記印刷用水分散型コート剤において、単量体混合物に、さらにカチオン性アクリル単量体を含む印刷用水分散型コート剤を提供するものである。
また、本発明は、上記印刷用水分散型コート剤をフィルム基材の表面に塗工して得られる印刷用フィルムであって、該印刷用水分散型コート剤を塗工し乾燥して得られるコート剤層の11Hzにおける動的粘弾性スペクトルの貯蔵弾性率が、10℃において5.0×10Pa以上であり、30℃において1.0×10〜5.0×10Paであり、50℃において8.0×10〜5.0×10Paであり、かつ動的粘弾性スペクトルの損失正接の上に凸のピークの温度が30℃〜80℃にあることを特徴とする印刷用フィルムを提供するものである。
【0011】
また、本発明は、上記印刷用フィルムにおいて、上記フィルム基材が、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体樹脂、ポリカーボネート樹脂、又はこれらの2種以上の混合物からなる請求項3に記載の印刷用フィルムを提供するものである。
また、本発明は、上記印刷用フィルムにおいて、上記印刷が、紫外線硬化型インキを用いた印刷である印刷用フィルムを提供するものである。
また、本発明は、上記印刷用フィルムにおいて、上記フィルム基材の裏面に粘着剤層が設けられている印刷用フィルムを提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の印刷用水分散型コート剤は、フィルム基材とコート剤層とが優れた密着性を有し、かつ紫外線硬化型インキの密着性にも優れたコート剤層を形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の印刷用水分散型コート剤は、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、及びメタクリル酸ブチルを含む単量体混合物を乳化重合して得られるアクリル系共重合体を含む水分散型コート剤である。
アクリル系共重合体は、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、及びメタクリル酸ブチルを含む単量体混合物を乳化重合して得られるが、単量体混合物中の各単量体の含有割合は、全単量体の合計量に対して、アクリル酸エチルは10〜35質量%が好ましく、12〜30質量%がより好ましく、メタクリル酸メチルは15〜50質量%が好ましく、20〜35質量%がより好ましく、及びメタクリル酸ブチルは15〜40質量%が好ましく、25〜35質量%がより好ましい。これらの各単量体の含有割合をこれらの範囲にすることにより、フィルム基材とコート剤層との密着性を優れたものにでき、また、コート剤層と紫外線硬化型インキの密着性も優れたものにできる。
【0014】
なお、前記単量体混合物には、共重合可能な他の単量体を含有させることができる。
共重合可能な他の単量体としては、アクリル酸メチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸ラウリル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸ラウリルなど(ただし、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチルを除く。)のアルキルエステル部のアルキル基の炭素数が1〜20である(メタ)アクリル酸アルキルエステルや、アクリル酸−2−ヒドロキシエチル、アクリル酸−2−ヒドロキシプロピル、アクリル酸−3−ヒドロキシプロピル、アクリル酸−3−ヒドロキシブチル、アクリル酸−4−ヒドロキシブチル、メタクリル酸−2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸−2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸−3−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸−3−ヒドロキシブチル、メタクリル酸−4−ヒドロキシブチルなどのアルキルエステル部のアルキル基の炭素数が1〜10である水酸基含有(メタ)アクリル酸アルキルエステルなどが挙げられるが、後者の水酸基含有(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましい。これらの共重合可能な(メタ)アクリル酸アルキルエステルや、水酸基含有(メタ)アクリル酸アルキルエステルの含有割合は、全単量体の合計量に対して、それぞれ1〜20質量%が好ましく、5〜15質量%がより好ましい。
【0015】
また、前記単量体混合物には、共重合可能なカチオン性アクリル単量体や、アセトアセチル基を有するアクリル単量体を含有させることが好ましい。これらの単量体は、フィルム基材との密着性を向上させ、また、インキとの密着性を向上させることができる。特に、カチオン性アクリル単量体は、インキとの密着性をより向上させることができる。
【0016】
カチオン性アクリル単量体としては、例えば、4級アンモニウム塩基及び/又は3級アミノ基を有するビニル単量体が好ましく挙げられ、特にメタクリル酸ジメチルアミノエチルが好ましく、両者を併用することがさらに好ましい。
アセトアセチル基を有するアクリル単量体としては、例えば、アクリル酸アセトアセトキシメチル、メタクリル酸アセトアセトキシメチル、アクリル酸アセトアセトキシエチル、メタクリル酸アセトアセトキシエチルなどが好ましく挙げられ、特にメタクリル酸アセトアセトキシエチルが好ましい。
【0017】
カチオン性アクリル単量体や、アセトアセチル基を有するアクリル単量体の含有割合は、全単量体の合計量に対して、それぞれ0.1〜20質量%が好ましく、3〜10質量%がより好ましい。
カチオン性アクリル単量体とアセトアセチル基を有するアクリル単量体を併用する場合、両者の含有比率は、質量比で1:5〜5:1の範囲が好ましく、1:2〜2:1の範囲がより好ましい。
【0018】
本発明においては、上記アクリル系共重合体は、乳化重合により得られる。乳化重合は、種々の乳化重合法により行うことができるが、一般的な乳化重合法でよい。具体的には、例えば、反応器内にアクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、及びメタクリル酸ブチル、さらに、必要に応じてその他の単量体を含む単量体混合物を入れ、さらに界面活性剤、重合開始剤等を投入し、窒素等の不活性ガスで内部を置換した後、還流下で、水を分散媒として攪拌しながら昇温し、40〜100℃程度の温度範囲にて1〜8時間程度乳化重合を行う方法が挙げられる。
【0019】
前記単量体混合物の乳化重合は、界面活性剤の存在下に行われるが、界面活性剤としては、カチオン性界面活性剤が好ましい。
カチオン性界面活性剤としては、例えば、塩化セチルトリメチルアンモニウム、塩化ラウリルトリメチルアンモニウム、塩化ステアリルトリメチルアンモニウムなどの塩化アルキルトリメチルアンモニウム;塩化ジセチルジメチルアンモニウム、塩化ジラウリルジメチルアンモニウム、塩化ジステアリルジメチルアンモニウムなどの塩化ジアルキルジメチルアンモニウム;塩化ベンザルコニウムなどが挙げられる。界面活性剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組合わせて用いてもよい。
界面活性剤の配合割合は、特に制限ないが、通常全単量体の合計量に対して0.001〜1.0質量%が好ましく、0.005〜0.05質量%がより好ましい。
【0020】
前記単量体混合物の乳化重合は、水系媒体中で行われるが、水系媒体としては、水、有機溶剤を少量含む水などが挙げられるが、水が好ましく、イオン交換水がより好ましい。
【0021】
本発明の水分散型コート剤には、アクリル系共重合体を架橋剤により架橋させるために、架橋剤を配合することが好ましい。架橋剤を配合することにより、コート剤層の強度を向上させることができる。
アクリル系共重合体を架橋するために用いられる架橋剤としては、エポキシ系架橋剤が好ましい。エポキシ系架橋剤としては、例えば、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールFジグリシジルエーテル、フタル酸ジグリシジルエステル、ダイマー酸ジグリシジルエーテル、トリグリシジルイソシアヌレート、ジグリセロールトリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ソルビトールテトラグリシジルエーテル、N,N,N’,N’−テトラグリシジル−m−キシレンジアミン、1,3−ビス(N,N−ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン、N,N,N’,N’−テトラグリシジルジアミノジフェニルメタンなどのエポキシ系架橋剤が用いられる。
【0022】
架橋剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
架橋剤の使用量は、アクリル系共重合体100質量部に対して、0.01〜5質量部が好ましく、0.1〜3質量部がより好ましい。
本発明の水分散型コート剤は、前記アクリル系共重合体や、必要に応じて含有させる架橋剤などの他の成分の外に、水系媒体を含有する。
この水系媒体は、アクリル系共重合体の乳化重合時に用いた水系媒体であってもよいし、別の水系媒体であってもよい。乳化重合時の水系媒体とは異なる水系媒体に置換するには、アクリル系共重合体の乳化重合液からアクリル系共重合体を分離した後に、分離したアクリル系共重合体を別の水系媒体に分散させることにより行うことができる。
【0023】
本発明の水分散型コート剤における水系媒体の含有量の調整は、水系媒体の除去又は追加などにより行うことができる。
本発明の水分散型コート剤は、アクリル系共重合体などの樹脂固形分の含有割合が0.5〜10質量%であることが好ましく、1〜7質量%であることがより好ましい。
【0024】
本発明の水分散型コート剤において分散している、アクリル系共重合体粒子の平均粒子径は、10〜500nmが好ましく、50〜300nmがより好ましい。アクリル系共重合体粒子の平均粒子径がこの範囲内にあると、コート剤層とフィルム基材との密着性を優れたものにすることができる。
また、本発明の水分散型コート剤には、滑り性の向上や、マット感を得るために、有機フィラー、無機フィラーなどの各種フィラーを配合することができる。
有機フィラーとしては、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体樹脂(ABS樹脂)、ポリカーボネート樹脂、又はこれらの混合物などの樹脂粉末などが挙げられる。
無機フィラーとしては、シリカ、アルミナなどの無機酸化物、金粉、銀粉などの金属粉などが挙げられる。
【0025】
本発明においては、前記水分散型コート剤を塗工し乾燥して得られるコート剤層の11Hzにおける動的粘弾性スペクトルの貯蔵弾性率が、10℃において5.0×10Pa以上であり、好ましくは8.0×10〜3.0×10Paであり、30℃において1.0×10〜5.0×10Paであり、好ましくは1.2×10〜2.5×10Paであり、50℃において8.0×10〜5.0×10Paであり、好ましくは1.0×10〜4.0×10Paである。貯蔵弾性率をこれらの範囲にすることにより、フィルム基材とコート剤層とが優れた密着性を有し、かつ紫外線硬化型インキの密着性にも優れたコート剤層を形成することができる。貯蔵弾性率がこれらの範囲を下回ると、コート剤の凝集力が不十分になり、コート剤層の凝集破壊を引き起こすことがあり、貯蔵弾性率がこれらの範囲を上回ると、コート剤層の被膜強度が過剰になり、コート剤層とインキとの密着性が低下する恐れがある。
【0026】
なお、貯蔵弾性率は、JIS K7244−4に準拠して測定したものである。
本発明においては、前記水分散型コート剤を塗工し乾燥して得られるコート剤層の動的粘弾性スペクトルの損失正接の上に凸のピークの温度が30℃〜80℃にあり、好ましくは40℃〜75℃にある。凸のピークの温度が上記範囲を下回ると、コート剤の凝集力が不十分になり、コート剤層の凝集破壊を引き起こす可能性があり、逆に上記範囲を上回ると、コート剤層の被膜強度が過剰になり、コート剤層とインキとの密着性が低下する恐れがある。
【0027】
本発明の印刷用フィルムは、上記印刷用水分散型コート剤をフィルム基材の表面に塗工して得られる。
上記印刷用水分散型コート剤のフィルム基材への塗布量は、通常0.01〜5g/mが好ましく、0.05〜2g/mがより好ましい。
【0028】
フィルム基材としては、種々のプラスチックのフィルムが使用できる。フィルム基材の具体例としては、例えばポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂などのポリオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂などのポリエステル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体樹脂(ABS樹脂)、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、フッ素系樹脂、及びこれらの2種以上の混合物などの各種合成樹脂のフィルムや、これらの同種又は異種の2層以上の積層フィルムが挙げられ、特に、家電製品や電子機器の樹脂製筺体に使用されている樹脂と同一の素材を用いることが好ましい。これらのフィルム基材としては、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体樹脂(ABS樹脂)、ポリカーボネート樹脂、又はこれらの2種以上の混合物により構成されているフィルムが挙げられる。
【0029】
フィルム基材の厚みは、特に制限ないが、通常10〜350μmが好ましく、15〜300μmがより好ましく、20〜250μmが特に好ましい。
上記印刷用水分散型コート剤のフィルム基材への塗布方法は、例えば、バーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ダイコート法など従来公知の方法が挙げられる。
乾燥は、通常60〜130℃で行うことが好ましく、80〜120℃がより好ましい。乾燥時間は特に制限ないが、通常10秒〜5分間で十分である。
【0030】
本発明の印刷用フィルムは、フィルム基材の裏面に粘着剤層を設けることが好ましい。粘着剤層を設けることにより、容易に家電や電子機器などの樹脂製筺体に貼付することができる。
フィルム基材の裏面は、粘着剤層との密着力をさらに上げるために易接着処理を施してもよい。易接着処理としては、特に制限はないが、例えば、コロナ放電処理等が挙げられる。
粘着剤層に用いる粘着剤は、各種粘着剤を用いることができる。粘着剤の具体例としては、例えば、天然ゴム系粘着剤、合成ゴム系粘着剤、アクリル樹脂系粘着剤、ポリビニルエーテル樹脂系粘着剤、ウレタン樹脂系粘着剤、シリコーン樹脂系粘着剤などが挙げられる、好ましくはアクリル樹脂系粘着剤、ゴム系粘着剤、シリコーン樹脂系粘着剤などが挙げられる。また、粘着剤は、溶剤型粘着剤であってもよいし、水型粘着剤であってもよく、強粘着型、再剥離型の粘着剤のいずれであってもよい。
【0031】
また、粘着剤層の基材フィルム側と反対側の面に剥離シートを設けてもよい。
剥離シートとしては、特に限定されるものではない。剥離シートの基材としては、例えば、紙、合成紙、合成樹脂フィルムなどが挙げられる。紙としては、例えば、上質紙、グラシン紙、コート紙などの紙基材、これらの紙基材にポリエチレン、ポリプロピレンなどの熱可塑性樹脂をラミネートしたラミネート紙のような紙基材、及び上質紙、グラシン紙、コート紙などにセルロース、澱粉、ポリビニルアルコール、アクリル−スチレン樹脂などで目止め処理した紙基材などが挙げられる。プラスチック合成樹脂フィルムとしては、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂などのポリオレフィン樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂などのポリエステル樹脂からなるフィルム、及びこれらの合成樹脂フィルムに易接着処理を施したフィルムなどが挙げられ、これらに剥離剤を塗布したものであることが望ましい。
剥離剤には、フッ素系樹脂、シリコーン系樹脂、長鎖アルキル基含有カルバメートなどが挙げられる。
【0032】
本発明の印刷用フィルムのコート剤層に印刷するために用いられる印刷用インキは、紫外線硬化型インキ等の種々のインキが用いられる。紫外線硬化型インキとしては、種々の紫外線硬化型インキが用いられるが、ポリアクリレート系紫外線硬化型インキが好ましい。
【0033】
本発明の印刷用フィルムは、印刷用の粘着シートの基材フィルムとして用いられ、その用途は限定されないが、特に、被着体をリサイクルして再利用する用途に使用されることができる。
本発明の印刷用の粘着シートの基材フィルムは、フィルム基材の材質と、被着体を構成する材質が同じである場合に、好適に適用することができる。
被着体を構成する材質としては、具体例として、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、ポリカーボネート樹脂、又はこれらの2種以上の混合物により構成されている被着体が挙げられる。
被着体の形状は、特に制限されるものではなく、種々の形状にすることができる。
【実施例】
【0034】
次に、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。なお、本発明は、これらの例によって何ら制限されるものではない。
【0035】
(実施例1)
(1)水分散型コート剤の調製
予めビーカーにイオン交換水75.9質量部、塩化ラウリルトリメチルアンモニウム(花王株式会社製、商品名「コータミン24P」、固形分27質量%)3.7質量部、アクリル酸エチル24質量部、メタクリル酸メチル24質量部、メタクリル酸ブチル32質量部、メタクリル酸ジメチルアミノエチル5質量部、メタクリル酸アセトアセトキシエチル5質量部、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル10質量部を配合し、ホモミキサーにて攪拌し単量体混合物を作った。
【0036】
攪拌機、還流冷却器、温度計、窒素導入管を備えた反応装置に、イオン交換水67.9質量部を仕込み、70℃に昇温させ、70℃で重合開始剤として2,2−アゾビス(2−アミノジプロパン)二塩酸塩(和光純薬工業株式会社製、商品名「V−50」)の10質量%水溶液を2質量部添加し、その後直ちに予め準備した前記単量体混合物を3時間で滴下して重合反応させた。滴下終了後、さらに70℃で3時間熟成させ、その後室温まで冷却した。冷却後、氷酢酸1.2質量部を添加し、黄色のカチオン電化である水性カチオン性アクリル系共重合体を得た。該共重合体は、固形分が40.0質量%、粘度が300mPa・s/30℃、pHが4.8、平均粒径が150nmであった。
【0037】
上記共重合体の固形分100質量部に対してエポキシ系架橋剤としてグリセロールポリグリシジルエーテル(ナガセケムテックス株式会社製、商品名「デナコールEX−313」)1.0質量部を添加し、さらにイオン交換水で希釈して固形分を5質量%にして、水分散型コート剤(配合1)を調製した。
【0038】
(2)印刷用フィルムの作成
ポリスチレン樹脂フィルム(厚さ65μm)の表面に、上記(1)で得られた水分散型コート剤(配合1)を、塗布量が0.2g/m(乾燥後)になるように塗布し、70℃の熱風乾燥機で2分間乾燥して、印刷用フィルムを作成した。
【0039】
(3)粘着剤層付き印刷用フィルムの作成
強粘着型アクリル系粘着剤(リンテック社製、商品名「PA−T1」)及び再剥離型アクリル系粘着剤(リンテック社製、商品名「MF」)を剥離シート(リンテック社製、シリコーン樹脂で剥離処理したグラシン紙、商品名「SP−8Kアオ」)の剥離処理面上にロールナイフコーターを用いて、それぞれの乾燥後の塗布厚みが20μmになるように塗工し、90℃で2分間乾燥し、粘着剤層を形成した。乾燥後、上記(2)で作成された印刷用フィルムのポリスチレン樹脂フィルムの裏面に剥離シート上の粘着剤層を貼り合わせて、強粘着型印刷用粘着シート及び再剥離型印刷用粘着シートを作成した。
【0040】
(実施例2)
実施例1の(2)において、水分散型コート剤(配合1)の塗布量を0.4g/m(乾燥後)にした以外は、実施例1と同様な方法で、印刷用フィルム、強粘着型印刷用粘着シート及び再剥離型印刷用粘着シートを作成した。
【0041】
(実施例3)
実施例1の(2)において、水分散型コート剤(配合1)の塗布量を0.6g/m(乾燥後)にした以外は、実施例1と同様な方法で、印刷用フィルム、強粘着型印刷用粘着シート及び再剥離型印刷用粘着シートを作成した。
【0042】
(実施例4〜9)
実施例1の(1)において、配合1の代わりに、表1に示す配合2又は配合3の配合成分を含有する水分散型コート剤(配合2)又は水分散型コート剤(配合3)を調製し、実施例1の(2)において、水分散型コート剤(配合1)の塗布量を表2に示すように、0.2g/m(乾燥後)、0.4g/m(乾燥後)又は0.6g/m(乾燥後)にした以外は、実施例1と同様な方法で、印刷用フィルム、強粘着型印刷用粘着シート及び再剥離型印刷用粘着シートを作成した。
【0043】
(実施例10〜12)
実施例1の(2)において、ポリスチレン樹脂フィルム(PS)の代わりに、ABS樹脂フィルム(ABS)、ポリカーボネート樹脂フィルム(PC)、又はポリカーボネート樹脂−ポリスチレン樹脂の混合樹脂(混合質量比1:1)からなるフィルム(PC−PS混合物)を用いた以外は、実施例1と同様な方法で、印刷用フィルム、強粘着型印刷用粘着シート及び再剥離型印刷用粘着シートを作成した。
【0044】
(比較例1〜3)
実施例1の(1)において、配合1の代わりに、表1に示す配合4、配合5又は配合6の配合成分を含有する水分散型コート剤(配合4)、水分散型コート剤(配合5)又は水分散型コート剤(配合6)を調製した以外は、実施例1と同様な方法で、印刷用フィルムを作成した。
【0045】
コート剤層の動的粘弾性スペクトルの貯蔵弾性率、フィルム基材とコート剤層の密着性、及び印刷密着性は、以下に示す方法で行い、評価した。それらの結果を、表1〜4に示した。
(1)コート剤層の動的粘弾性スペクトルの貯蔵弾性率及び損失正接の測定
実施例及び比較例で得られるアクリル系共重合体を含む水分散型コート剤を、剥離シートの表面に塗工し、90℃で2分間乾燥し、コート剤層を剥離シートから剥がして、膜厚20μmのコート剤層を作成した。得られたコート剤層を幅8mm、測定長さ20mmにカットしてサンプルとし、動的粘弾性測定装置(TAインスツルメンツ社製、装置名「DMA Q800」)を用いて、引張り測定法により、周波数11Hz、振幅5μm、昇温速度3℃/minの条件で、−30℃〜100℃の貯蔵弾性率及び損失正接を測定し、10℃、30℃、50℃における貯蔵弾性率を読み取った。
【0046】
(2)動的粘弾性スペクトルの損失正接の上に凸のピークの温度の測定
上記(1)で得られた損失正接のチャートから凸ピークの温度を読み取った。
【0047】
(3)フィルム基材とコート剤層の密着性の評価
実施例及び比較例で得られたコート剤層の表面に碁盤目状に1mm幅のクロスカットを施し、その碁盤目状にクロスカットされたコート剤層の表面に粘着テープ(ニチバン社製、商品名「セロテープ」)を貼り、JIS K5600−5−6(クロスカット法)の碁盤目テープ法に準拠してセロテープ剥離試験を行い、下記の基準でフィルム基材とコート剤層の密着性を評価した。
【0048】
0:カットの縁が完全に滑らかで、どの格子の目にもはがれがない。
1:カットの交差点における塗膜の小さなはがれがある。クロスカット部分で影響を受けるのは、明確に5%を上回ることはない。
2:塗膜がカットの縁に沿って、及び/又は交差点においてはがれている。クロスカット部分で影響を受けるのは明確に5%を超えるが15%を上回ることはない。
3:塗膜がカットの縁に沿って、部分的又は全面的に大はがれを生じており、及び/又は目のいろいろな部分が、部分的又は全面的にはがれている。クロスカット部分で影響をうけるのは、明確に15%を超えるが35%を上回ることはない。
4:塗膜がカットの縁に沿って、部分的又は全面的に大はがれを生じており、及び/又は数か所の目が部分的又は全面的にはがれている。クロスカット部分で影響をうけるのは、明確に35%を超えるが65%を上回ることはない。
5:はがれの程度が分類4を超える場合。
【0049】
(4)コート剤層の印刷密着性の評価
フィルム基材の表面に、水分散型コート剤を塗工し、70℃で2分間乾燥し、コート剤層を作成した。コート剤層の表面に、印刷用紫外線硬化型インキ(品番「TOKA UV101墨」)を塗布し、紫外線照射してインキを硬化させて、膜厚0.5μmの印刷層を形成した。印刷層の表面に碁盤目状に1mm幅のクロスカットを施し、その碁盤目状にクロスカットされた印刷層の表面に粘着テープ(ニチバン社製、商品名「セロテープ」)を貼り、JIS K5600−5−6(クロスカット法)の碁盤目テープ法に準拠してセロテープ剥離試験を行い、下記の基準でコート剤層の印刷密着性を評価した。
【0050】
0:カットの縁が完全に滑らかで、どの格子の目にもはがれがない。
1:カットの交差点における塗膜の小さなはがれがある。クロスカット部分で影響を受けるのは、明確に5%を上回ることはない。
2:塗膜がカットの縁に沿って、及び/又は交差点においてはがれている。クロスカット部分で影響を受けるのは明確に5%を超えるが15%を上回ることはない。
3:塗膜がカットの縁に沿って、部分的又は全面的に大はがれを生じており、及び/又は目のいろいろな部分が、部分的又は全面的にはがれている。クロスカット部分で影響をうけるのは、明確に15%を超えるが35%を上回ることはない。
4:塗膜がカットの縁に沿って、部分的又は全面的に大はがれを生じており、及び/又は数か所の目が部分的又は全面的にはがれている。クロスカット部分で影響をうけるのは、明確に35%を超えるが65%を上回ることはない。
5:はがれの程度が分類4を超える場合。
【0051】
【表1】

なお、上記表1において、配合成分の配合量は、質量部で示したものである。
【0052】


【表2】

【0053】
【表3】

【0054】
【表4】

【0055】
(5)剥離試験
被着体として、ポリスチレン樹脂フィルム(オージー株式会社製、商品名「ハイスチレンPS65」、厚み65μm)、ABS樹脂フィルム(信越ポリマー社製、商品名「PSZ980」、厚み80μm)、ポリカーボネート樹脂フィルム(帝人社製、商品名「ピュアエースC−110−100」、厚み100μm)、ポリカーボネート樹脂−ポリスチレン樹脂の混合樹脂(PC−PS、混合質量比率1:1)からなるフィルム(厚さ100μm)の4種類のフィルムを用意した。このフィルムを、板に固定して被着体とした。
【0056】
実施例1〜12で得られた強粘着型及び再剥離型の粘着剤層付き印刷用フィルムのフィルム基材の樹脂と、被着体を構成する樹脂が同じである組み合わせの粘着剤層付き印刷用フィルムと被着体を室温で貼り合わせ、次に、60℃、95%RHの環境下に7日間放置し、その後室温に戻したところ、強粘着型及び再剥離型の粘着剤層付き印刷用フィルムとも、浮き剥がれなく、被着体に貼付されていた。また、再剥離型粘着剤層付き印刷用フィルムについて、室温で被着体から剥がしたところ、被着体の表面に糊残りはなかった。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の印刷用フィルムは、家電製品や電子機器の樹脂製筺体などの種々の被着体に貼付することが出来る。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、及びメタクリル酸ブチルを含む単量体混合物を乳化重合して得られるアクリル系共重合体を含む水分散型コート剤であって、該水分散型コート剤を塗工し乾燥して得られるコート剤層の11Hzにおける動的粘弾性スペクトルの貯蔵弾性率が、10℃において5.0×10Pa以上であり、30℃において1.0×10〜5.0×10Paであり、50℃において8.0×10〜5.0×10Paであり、かつ動的粘弾性スペクトルの損失正接の上に凸のピークの温度が30℃〜80℃にあることを特徴とする印刷用水分散型コート剤。
【請求項2】
単量体混合物に、さらにカチオン性アクリル単量体を含む請求項1に記載の印刷用水分散型コート剤。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の印刷用水分散型コート剤をフィルム基材の表面に塗工して得られる印刷用フィルムであって、該印刷用水分散型コート剤を塗工し乾燥して得られるコート剤層の11Hzにおける動的粘弾性スペクトルの貯蔵弾性率が、10℃において5.0×10Pa以上であり、30℃において1.0×10〜5.0×10Paであり、50℃において8.0×10〜5.0×10Paであり、かつ動的粘弾性スペクトルの損失正接の上に凸のピークの温度が30℃〜80℃にあることを特徴とする印刷用フィルム。
【請求項4】
上記フィルム基材が、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体樹脂、ポリカーボネート樹脂、又はこれらの2種以上の混合物からなる請求項3に記載の印刷用フィルム。
【請求項5】
上記印刷が、紫外線硬化型インキを用いた印刷である請求項3又は4に記載の印刷用フィルム。
【請求項6】
上記フィルム基材の裏面に粘着剤層が設けられている請求項3〜5のいずれか1項に記載の印刷用フィルム。




【公開番号】特開2012−144632(P2012−144632A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−3654(P2011−3654)
【出願日】平成23年1月12日(2011.1.12)
【出願人】(000102980)リンテック株式会社 (1,750)
【Fターム(参考)】