説明

印刷用溶剤又は溶剤組成物

【課題】印刷法により電子素子パターンを形成するためのインク等に含有する溶剤又は溶剤組成物であって、前記インク等に印刷時の優れた版離れ性、高温乾燥時の優れたパターン保持性、及び速乾性を付与する溶剤又は溶剤組成物を提供する。
【解決手段】本発明の電子素子パターン印刷用溶剤又は溶剤組成物は、印刷法により電子素子パターンを形成する際に使用する溶剤又は溶剤組成物であって、少なくとも1,2,5,6−テトラヒドロベンジルアルコールを溶剤又は溶剤組成物全量(100重量%)の10重量%以上含むことを特徴とする。前記印刷法としては、インクジェット法、スクリーン印刷法、凸版印刷法、オフセット印刷法、グラビア印刷法、マイクロコンタクト印刷法、及びナノインプリント法からなる群より選択される少なくとも1種の方法が好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷法により電子素子パターンを形成するためのペースト組成物やインク等に含有する溶剤又は溶剤組成物であって、前記ペースト組成物やインク等に、印刷時の優れた版離れ性、高温乾燥時の優れたパターン保持性、及び速乾性を付与する溶剤又は溶剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、配線基板やディスプレイなどの電子素子のパターン形成は、フォトリソグラフィと呼ばれる方法で形成されることが多かった。フォトリソグラフィは、感光性物質を基板に塗布し、微細パターンを露光して焼き付け、エッチングにて不要な部分を除去してパターン形成を行う方法である。しかし、一般に、エッチング廃液処理設備を必要とすることから装置自体が巨大となり、巨額の設備投資が必要であり、材料の使用効率も悪く、製造工程が多いため生産性が悪いことが問題であった。また、装置の容量に制限されるため大面積基板へのパターン形成は困難であった。
【0003】
そのため、近年、パターン形成方法としては、巨大な装置が不要で、材料の使用効率がよく、大面積基板への対応も容易である、インクジェット法、スクリーン印刷法、凸版印刷法、オフセット印刷法、グラビア印刷法、マイクロコンタクト印刷法、ナノインプリント法等の印刷法が注目されている。
【0004】
印刷法に用いられるインクには、一般的に、溶剤としてターピネオールやジヒドロターピニルアセテートなどのターピネオール水素添加物を含むテルペン系溶媒等が使用される(特許文献1)。しかし、前記テルペン系溶媒は松脂由来の天然物であるため供給安定性に問題があった。また、ターピネオールは、α−ターピネオール、β−ターピネオール及びγ−ターピネオールの混合物であり、ターピネオール水素添加物には2種類の異性体が存在しているため、産地により混合比や純度に変動がある点も問題であった。
【0005】
また、微細配線パターン印刷において、室温下で印刷する際にはインクの粘度が低いほうが版離れが容易であり好ましい。例えば、インクジェット法では動粘度が5〜30cSt程度が好ましく、グラビア印刷法では25〜250cSt程度、スクリーン印刷法では100〜10000cSt程度が好ましい。一方、印刷後、インクを高温下で乾燥させる場合、乾燥終了時までは、ある程度の粘度を有することが、パターン保持性に優れる点で好ましい。しかし、ターピネオールは、室温では粘度が高すぎるため、インクの版離れ性が悪く、高温下では粘度が低すぎるため、インクのパターン保持性が悪い点が問題であった。ジヒドロターピニルアセテートは粘度が低いため、インクに優れた版離れ性を付与することはできるが、ターピネオールと同様に、高温下ではインクのパターン保持性が悪いことが問題であった。また、ターピネオール及びジヒドロターピニルアセテートは、乾燥温度での蒸気圧が高いため、蒸発速度が遅く、乾燥に時間がかかるという欠点もある(非特許文献1)。
【0006】
すなわち、印刷法に用いられるインクにおいて、溶剤としてターピネオールやジヒドロターピニルアセテートを使用した場合は、印刷時の版離れ不良やパターン形成後のパターン保持性欠如により、ショートなどの不具合を引き起こす恐れがある点、及び、乾燥に時間がかかる点が問題であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−170447
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】塗料の研究(No.145 ,Mar.2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明の目的は、印刷法により電子素子パターンを形成するためのインク及びペースト組成物(以後、「インク等」と称する場合がある)に印刷時の優れた版離れ性、高温乾燥時の優れたパターン保持性、及び速乾性を付与する電子素子パターン印刷用溶剤又は溶剤組成物を提供することにある。
本発明の他の目的は、微細なパターンを高精度、且つスピーディに形成することができるペースト組成物を提供することにある。
本発明の更に他の目的は、微細なパターンを高精度、且つスピーディに形成することができるインクを提供することにある。
本発明の他の目的は、前記インクを使用するパターン形成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は上記課題を解決するため鋭意検討した結果、1,2,5,6−テトラヒドロベンジルアルコールは、室温では、インク等に印刷時の優れた版離れ性を付与するのに十分な流動性を有し、その上、70℃程度の高温下では適度な粘度を有するため、インク等に優れたパターン保持性を付与することができ、且つ、蒸発速度も速いことを見出した。つまり、太陽電池、有機薄膜トランジスター(以後、「有機TFT」と称する場合がある)、ラジオ周波数識別(=Radio Frequency Identification)タグ、電子ペーパー、有機エレクトロルミネッセンスデバイス(以後、「有機ELデバイス」と称する場合がある)、タッチパネル、及びプラズマディスプレイ等の電子素子パターンを形成する際に、1,2,5,6−テトラヒドロベンジルアルコールを溶剤として使用すると、印刷法により微細な電子素子パターンを高精度、且つ、速やかに形成することができることを見いだした。本発明はこれらの知見に基づいて完成させたものである。
【0011】
すなわち、本発明は、印刷法により電子素子パターンを形成する際に使用する溶剤又は溶剤組成物であって、少なくとも1,2,5,6−テトラヒドロベンジルアルコールを溶剤又は溶剤組成物全量(100重量%)の10重量%以上含むことを特徴とする電子素子パターン印刷用溶剤又は溶剤組成物を提供する。
【0012】
前記印刷法としては、インクジェット法、スクリーン印刷法、凸版印刷法、オフセット印刷法、グラビア印刷法、マイクロコンタクト印刷法、及びナノインプリント法からなる群より選択される少なくとも1種の方法が好ましい。
【0013】
電子素子としては、太陽電池、有機薄膜トランジスター、ラジオ周波数識別タグ、電子ペーパー、有機エレクトロルミネッセンスデバイス、タッチパネル、及びプラズマディスプレイからなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
【0014】
本発明は、また、印刷法により電子素子パターンを形成する際に使用するペースト組成物であって、前記電子素子パターン印刷用溶剤又は溶剤組成物を前記ペースト組成物全量(100重量%)の90重量%以上含有し、バインダー樹脂を前記ペースト組成物全量(100重量%)の0〜10重量%含有するペースト組成物を提供する。
【0015】
バインダー樹脂としては、セルロース系樹脂及び/又はアクリル系樹脂が好ましい。
【0016】
本発明は、さらに、前記ペースト組成物を少なくとも含有するインクを提供する。
【0017】
本発明は、さらにまた、太陽電池、有機薄膜トランジスター、ラジオ周波数識別タグ、電子ペーパー、有機エレクトロルミネッセンスデバイス、タッチパネル、又はプラズマディスプレイのパターン形成方法であって、基板上に、前記インクを印刷法で塗布することによりパターン層を形成する工程と、前記パターン層を硬化又は焼成する工程とを有することを特徴とするパターン形成方法を提供する。
【発明の効果】
【0018】
本発明のパターン印刷用溶剤又は溶剤組成物は、上記1,2,5,6−テトラヒドロベンジルアルコールを特定量含有するため、印刷法により電子素子パターンを形成するためのインク等に印刷時の優れた版離れ性、高温乾燥時の優れたパターン保持性、及び速乾性を付与することができる。
【0019】
そのため、本発明のパターン印刷用溶剤又は溶剤組成物を含有するペースト組成物、及び前記ペースト組成物を含有するインクは、大面積及び/又はフレキシブルな基材に対しても、印刷法により効率よく、均一に塗布することができ、太陽電池、有機TFT、ラジオ周波数識別タグ、電子ペーパー、有機ELデバイス、タッチパネル、及びプラズマディスプレイの製造において、微細なパターンを高精度に形成することができる。また、速乾性を有するため、乾燥の際の加熱によるデバイスの劣化を抑制し、生産性、作業性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の電子素子パターン印刷用溶剤又は溶剤組成物(以後、単に「溶剤又は溶剤組成物」と称する場合がある)は、印刷法により電子素子パターンを形成する際に使用する溶剤又は溶剤組成物であって、少なくとも1,2,5,6−テトラヒドロベンジルアルコールを溶剤又は溶剤組成物全量(100重量%)の10重量%以上(好ましくは20重量%以上、特に好ましくは50重量%以上、さらに好ましくは65重量%以上、最も好ましくは85重量%以上)含むことを特徴とする。1,2,5,6−テトラヒドロベンジルアルコールの含有量が上記範囲を下回ると、パターン精度、生産性及び作業性が低下する。
【0021】
前記印刷法としては、例えば、インクジェット法、スクリーン印刷法、凸版印刷法、オフセット印刷法、グラビア印刷法、マイクロコンタクト印刷法、ナノインプリント法等を挙げることができる。
【0022】
本発明の溶剤又は溶剤組成物は、1,2,5,6−テトラヒドロベンジルアルコール以外にも、樹脂添加物溶解性、版離れ性、パターン保持性、及び速乾性を損なわない範囲で、必要に応じて他の溶剤を混合して用いてもよい。他の溶剤の配合割合は、適宜調整することができる。
【0023】
他の溶剤としては、印刷用途に一般的に使われている溶剤を使用することができ、例えば、カプロン酸、カプリル酸等のカルボン酸類;イソプロピルアルコール、1−オクタノール、1−ノナノール、ベンジルアルコール等のアルコール類;エチレングリコール誘導体;プロピレングリコール誘導体;エステル類;ベンジルエチルエーテル、ジヘキシルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル類;1,3−ブチレングリコールジアセテート、1,6−ヘキサンジオールジアセテート、1,4−ブタンジオールジアセテート等のジアセテート類;シクロヘキサノールアセテート、3−メトキシブチルアセテート、乳酸エチルアセテート、トリアセチン、ジヒドロターピニルアセテート等のアセテート類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセトニルアセトン、シクロヘキサノン、イソホロン、2−ヘプタノン、3−ヘプタノン等のケトン類;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド類;ターピネオール、ジヒドロターピネオール、ジヒドロターピニルプロピオネート、リモネン、メンタン、メントール等のテルペン類;ミネラルスピリット、石油ナフサS−100、石油ナフサS−150、テトラリン、テレピン油等の高沸点溶剤等を挙げることができる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0024】
前記エチレングリコール誘導体としては、例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル等のエチレングリコールモノアルキルエーテル類;エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノフェニルエーテルアセテート等のエチレングリコールモノアルキル若しくはアリールエーテルアセテート類;ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等のジエチレングリコールモノアルキルエーテル類;ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート等のジエチレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類;ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル等のジエチレングリコールジアルキルエーテル類等を挙げることができる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0025】
前記プロピレングリコール誘導体としては、例えば、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノブチルエーテルアセテート等のプロピレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類;ジプロピレングリコールメチルエーテルアセテート等のジプロピレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類;プロピレングリコールプロピルエーテル、プロピレングリコールブチルエーテル等のプロピレングリコールモノアルキルエーテル類;ジプロピレングリコールメチルエーテル、ジプロピレングリコールプロピルエーテル、ジプロピレングリコールブチルエーテル等のジプロピレングリコールモノアルキルエーテル類;トリプロピレングリコールメチルエーテル、トリプロピレングリコールブチルエーテル等のトリプロピレングリコールモノアルキルエーテル類;プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールメチルエチルエーテル、プロピレングリコールメチルプロピルエーテル、プロピレングリコールメチルブチルエーテル、プロピレングリコールメチルペンチルエーテル等のプロピレングリコールジアルキルエーテル;ジプロピレングリコールメチルエチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルプロピルエーテル、ジプロピレングリコールメチルブチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルペンチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル等のジプロピレングリコールジアルキルエーテル類;トリプロピレングリコールジメチルエーテル等のトリプロピレングリコールジアルキルエーテル類;プロピレングリコールジアセテート等を挙げることができる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0026】
前記エステル類としては、例えば、2−ヒドロキシプロピオン酸メチル、2−ヒドロキシプロピオン酸エチル、酢酸ベンジル、エチルアセチルラクテート、安息香酸エチル、シュウ酸ジエチル、マレイン酸ジエチル、γ−ブチロラクトン、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオン酸エチル、3−メトキシプロピオン酸メチル、3−メトキシプロピオン酸エチル、3−エトキシプロピオン酸メチル、3−エトキシプロピオン酸エチル、エトキシ酢酸エチル、ヒドロキシ酢酸エチル、2−ヒドロキシ−3−メチルブタン酸メチル、3−メチル−3−メトキシブチルアセテート、4−メトキシブチルアセテート、3−メチル−3−メトキシブチルプロピオネート、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、蟻酸アミル、酢酸アミル、プロピオン酸ブチル、酪酸エチル、酪酸プロピル、酪酸ブチル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、ピルビン酸プロピル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、2−オキソブタン酸エチル等を挙げることができる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0027】
他の溶剤の含有量としては、例えば、溶剤又は溶剤組成物全量(100重量%)の90重量%以下程度(好ましくは80重量%以下、特に好ましくは50重量%以下、さらに好ましくは35重量%以下、最も好ましくは15重量%以下)であり、他の溶剤が実質的に含まれていなくてもよい。他の溶剤の含有量が上記範囲を上回ると、パターン精度、生産性及び作業性が低下する傾向がある。
【0028】
本発明の溶剤又は溶剤組成物は、50℃以下の低温下においては乾燥性が低く、120℃以上の高温下では優れた速乾性を示し、50℃における蒸発速度としては、例えば、0.30mg/min以下、好ましくは0.15mg/min以下である。また、120℃における蒸発速度としては、例えば、1.60mg/min以上、好ましくは1.70mg/min以上である。更に、150℃における蒸発速度としては、例えば、4.15mg/min以上、好ましくは4.20mg/min以上である。
【0029】
また、本発明の溶剤又は溶剤組成物は、バインダー樹脂を溶剤又は溶剤組成物に溶解して得られるペースト組成物を調製する際に、バインダー樹脂溶解工程時間を短縮できる点で、エチルセルロース等の樹脂添加物の溶解性に優れることが好ましく、例えば、エチルセルロースを5重量%以上(好ましくは6重量%以上、特に好ましくは7重量%以上、最も好ましくは7.5重量%以上)溶解するものが好ましい。
【0030】
[ペースト組成物]
本発明に係るペースト組成物は、印刷法により電子素子パターンを形成する際に使用するペースト組成物であって、上記溶剤又は溶剤組成物を前記ペースト組成物全量(100重量%)の90重量%以上含有し、バインダー樹脂を前記ペースト組成物全量(100重量%)の0〜10重量%含有する。
【0031】
バインダー樹脂としては、特に限定されることがなく、太陽電池、有機TFT、ラジオ周波数識別タグ、電子ペーパー、有機ELデバイス、タッチパネル、又はプラズマディスプレイの電子素子形成に使用される周知慣用の樹脂を使用することができ、例えば、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシセルロース、メチルヒドロキシセルロース等のセルロース系樹脂、アクリル系樹脂、ポリビニルアセテート、ポリビニルアルコール等のビニル樹脂等を挙げることができる。これらは単独で又は2種以上を混合して使用することができる。本発明においては、なかでも、塗布時の版離れがよく、チクソトロピー性及びパターン保持性に優れる点で、セルロース系樹脂及び/又はアクリル系樹脂(特に、セルロース系樹脂)を使用することが好ましい。
【0032】
ペースト組成物における上記溶剤又は溶剤組成物の含有量としては、例えば、90重量%以上程度(好ましくは92重量%以上、特に好ましくは93重量%以上、最も好ましくは95重量%以上)である。パターン印刷用溶剤又は溶剤組成物の含有量が上記範囲を下回ると、ペースト組成物の粘度が高くなりすぎ、印刷用途に使用することが困難となる場合がある。
【0033】
ペースト組成物におけるバインダー樹脂の含有量としては、例えば、0〜10重量%程度(好ましくは、0〜8重量%、特に好ましくは0〜7重量%、最も好ましくは0〜5重量%)である。バインダー樹脂の含有量が上記範囲を上回ると、粘度が高くなりすぎ、印刷用として使用することが困難となる場合がある。
【0034】
本発明のペースト組成物は、例えば、上記溶剤又は溶剤組成物と、必要に応じてバインダー樹脂を配合して、混合ミキサー等の撹拌装置を用いて充分混練し、均一に分散することにより調製することができる。
【0035】
本発明のペースト組成物は、室温では粘度が低く版離れ性に優れ、且つ、高温下においては適度な粘度を有するためにパターン保持性に優れる。
【0036】
本発明のペースト組成物は、印刷法により基材等に塗布することにより微細なパターン形成が可能であり、大面積且つフレキシブルな基板表面にも容易に、効率よく、且つ安価に高精度なデバイスを形成することができる。
【0037】
[インク]
本発明に係るインクは、上記ペースト組成物を少なくとも含有する。
【0038】
インクにおける上記ペースト組成物の含有量は、例えば、10重量%以上程度(好ましくは10〜80重量%、特に好ましくは11〜71重量%、最も好ましくは12.5〜71重量%)である。上記ペースト組成物の含有量が上記範囲を下回ると、チクソトロピー性及びパターン保持性が不足する傾向がある。
【0039】
本発明のインクは、導体機能、絶縁機能、半導体機能の何れを発現するものであってもよく、上記ペースト組成物以外に他の添加物を添加してもよい。他の添加物としては、例えば、金属酸化物、誘電体材料等の金属材料、有機TFT材料、導電性高分子材料、イオン伝導体材料、有機−無機ハイブリッドイオン伝導材料、有機又は無機顔料、分散剤、消泡剤、安定剤、酸化防止剤、硬化促進剤、増感剤、充填剤、紫外線吸収剤、凝集防止剤等を挙げることができる。他の添加物の添加量としては、本発明の効果を損なわない範囲内であればよく、例えば、ペースト組成物100重量%に対して、25〜900重量%程度(好ましくは40〜900重量%、特に好ましくは40〜800重量%、最も好ましくは40〜700重量%)である。
【0040】
本発明のインクは、例えば、上記ペースト組成物(又は、上記溶剤又は溶剤組成物とバインダー樹脂)、及び必要に応じて他の添加物を配合して、混合ミキサー等の撹拌装置を用いて充分混練し、均一に分散することにより調製することができる。
【0041】
本発明のインクは、室温では粘度が低く版離れ性に優れ、且つ、高温下においては適度な粘度を有するためにパターン保持性に優れる。
【0042】
本発明のインクは、印刷法により基材等に塗布することにより、微細なパターン形成が可能であるため、大面積且つフレキシブルな基板表面にも容易に、効率よく、且つ安価に高精度な電子素子を形成することができる。
【0043】
[パターン形成方法]
本発明のパターン形成方法は、太陽電池、有機TFT、ラジオ周波数識別タグ、電子ペーパー、有機ELデバイス、タッチパネル、又はプラズマディスプレイのパターン形成方法であって、基板上に、上記インクを印刷法で塗布することによりパターン層を形成する工程(パターン印刷工程)と、前記パターン層を硬化又は焼成する工程(パターン硬化又は焼成工程)とを有することを特徴とする。
【0044】
パターン印刷工程における印刷法としては、インクジェット法、スクリーン印刷法、凸版印刷法、オフセット印刷法、グラビア印刷法、マイクロコンタクト印刷法、ナノインプリント法からなる群より選択される少なくとも1種の方法を挙げることができる。
【0045】
上記印刷法により形成されたパターン層は、乾燥し、その後、加熱処理及び/又は光照射することにより硬化させることができる。また、乾燥後、硬化させることなく焼成してもよい。
【0046】
乾燥方法としては、室温(25℃程度)で乾燥させてもよいが、作業性を向上することができる点で加熱乾燥することが好ましく、例えば、40〜200℃程度(好ましくは、45〜100℃程度)の温度で、例えば0.02〜3時間程度加熱して乾燥させることが好ましい。
【0047】
乾燥後、加熱処理により硬化させる場合、その温度としては、バインダー樹脂の種類などに応じて適宜調整することができ、例えば50〜200℃程度である。また、加熱時間としては、例えば0.5〜3時間程度である。光照射により硬化させる場合、その光源としては、例えば、水銀ランプ、キセノンランプ、カーボンアークランプ、メタルハライドランプ、太陽光、電子線、レーザー光等を使用することができる。光照射時間としては、例えば0.5〜30分程度である。焼成を行う場合、焼成温度としては、例えば200〜1500℃程度である。また、焼成時間としては、例えば0.1〜5時間程度である。
【0048】
上記方法により得られるパターン層厚みは用途に応じて適宜調整することができ、例えば数nm〜200μm程度である。
【0049】
パターン層を形成する基板としては、耐熱性及び耐溶剤性を有する基板が好ましく、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリアミド、ポリイミド、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリフロロエチレンなどの含フッ素樹脂、ポリカーボネート、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、シクロオレフィンコポリマー、導電性ポリマー、ナイロン、セルロース、ガラス、ITO等を挙げることができる。基板厚みとしては、例えば0.1〜50mm程度である。
【0050】
一般に、太陽電池(特に、有機太陽電池)はn型半導体層とp型半導体層とを含む光電変換層が光入射側電極(バス電極及びフィンガー電極からなる)と裏面側電極とで挟まれた構造を有する。
【0051】
太陽電池は、例えば、下記方法により製造することができる。本発明に係るパターン形成方法によれば、太陽電池を精度良く形成することができる。
1:B(ボロン原子)等を不純物として添加したp型半導体を、印刷法により形成する。
2:得られたp型半導体表面にテクスチャ(凹凸)加工を施してから、P(リン原子)等を不純物として添加したn型半導体を印刷法により積層する。
3:p型半導体表面に窒化ケイ素、酸化チタン等の反射防止膜を形成する。
4:n型半導体表面にバス電極とフィンガー電極(光入射側電極)を印刷法により形成する。
【0052】
一般に、有機TFTは、電極層(ゲート電極層、ソース電極層、ドレイン電極層)、及び有機半導体層で構成される。本発明に係るパターン形成方法によれば、有機TFTを精度良く形成することができる。
【0053】
一般に、ラジオ周波数識別タグは、基板上に回路を印刷することで形成できる。
【0054】
一般に、電子ペーパーは、表示層とそれを制御するドライバ層が基板で挟まれた構造を有する。そして、ドライバ層として上記有機TFTを採用することにより、フレキシブルなディスプレイを実現することができる。
【0055】
一般に、有機ELデバイスは一層〜多層からなる発光層が2つの電極(陽極、陰極)に挟まれた構造を有する。
【0056】
有機ELデバイスは、例えば、下記工程を経て製造される。本発明に係るパターン形成方法によれば、有機ELデバイスを精度良く形成することができる。
1:ガラス等の基板上に陽極を形成する。
2:ガラス等の基板上の、陽極を形成した部分以外の部分に隔壁を形成する。
3:陽極上に、赤、緑、青、白色の発光層を印刷法により形成し、硬化させる。
4:発光層及び隔壁の上に陰極を形成する。
【0057】
一般に、タッチパネルは上部電極板(可動電極板)と下部電極板(固定電極板)が、スペーサを介して相対した構造を有する。
【0058】
タッチパネルは、例えば、下記工程を経て製造される。本発明に係るパターン形成方法によれば、タッチパネルを精度良く形成することができる。
1:ITO/PET基板上の動作領域部にレジストを印刷し、エッチングして周辺の銀回路印刷部分のITO膜を除去する。
2:可視領域以外の部分に銀インキを印刷して銀回路を形成する。
3:銀回路を覆うように絶縁インキを印刷して上部電極を得る。
4:ITO/ガラス基板上の動作領域部にレジストを印刷し、エッチングして周辺の銀回路印刷部分のITO膜を除去する。
5:ドットスペーサを印刷・焼成した後、銀インキを印刷して銀回路を形成し、銀回路を覆うように絶縁インキを印刷して下部電極を得る。
6:上下電極貼り付け用の糊を印刷し、引き出し線用のフレキシブルプリント基板と上下電極を貼り合わせ、導電性ペーストと熱圧着させることでタッチパネルを形成する。
【0059】
一般に、プラズマディスプレイは、電極を表面に形成した前面ガラス基板と、電極及び蛍光体層を形成した背面ガラス基板とを狭い間隔で対向させて希ガスを封入した構造を有する。
【0060】
プラズマディスプレイは、例えば、下記方法により製造することができる。本発明に係るパターン形成方法によれば、プラズマディスプレイを精度良く形成することができる。
1:前面ガラス基板上に表示電極、バス電極を形成する。
2:さらに誘電体層、MgO層を形成する。
3:背面ガラス基板上にデータ電極を形成し、誘電体層を形成し、さらにバリアリブ、蛍光体層を形成する。
4:前面ガラス基板と背面ガラス基板を張り合わせ、排気し、希ガスを封入した後、プリント基板を実装する。
【0061】
本発明のパターン形成方法は印刷法を用いるため、基板に対して非接触の状態でパターンを形成することができ、大面積及び/又はフレキシブルな基板にも容易に微細な電子素子パターンを高精度に形成することができる。また、マスクの作成等の複雑な工程を経ることなく直接描写することが可能であり、微細加工技術を用いる必要がない。更に、常温常圧環境下で製造することができる。そのため、製造プロセスの大幅な簡素化、設備の簡素化、製造コストの低減化が可能である。以上より、本発明に係るパターン形成方法は、太陽電池、有機TFT、ラジオ周波数識別タグ、電子ペーパー、有機ELデバイス、タッチパネル、及びプラズマディスプレイ等の電子素子の製造において特に有用である。
【実施例】
【0062】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0063】
実施例1
2つのスクリュー管に、溶剤として1,2,5,6−テトラヒドロベンジルアルコール(商品名「THBA」、(株)ダイセル製、以後、「THBA」と称する場合がある)をそれぞれ19.80g、19.50g入れ、さらにエチルセルロース(商品名「エトセル」、DOW(株)製、以後、「エトセル」と称する場合がある)を0.20g、0.50g入れ、その後、65℃で撹拌して静置し、20℃まで自然冷却して、ペースト組成物(1-1)(エチルセルロース濃度:2重量%溶液)、(1-2)(エチルセルロース濃度:5重量%溶液)を得た。
【0064】
比較例1
THBAに代えてα−ターピネオール(商品名「α−ターピネオール」、東京化成工業(株)製、以後、「α−TPO」と称する場合がある)を溶剤として使用した以外は実施例1と同様にして、ペースト組成物(2-1)(エチルセルロース濃度:2重量%溶液)、(2-2)(エチルセルロース濃度:5重量%溶液)を得た。
【0065】
比較例2、
THBAに代えてジヒドロターピニルアセテート(商品名「メンタノールAC」、日本香料薬品(株)製、以後、「DHTA」と称する場合がある)を溶剤として使用した以外は実施例1と同様にして、ペースト組成物(3-1)(エチルセルロース濃度:2重量%溶液)、(3-2)(エチルセルロース濃度:5重量%溶液)を得た。
【0066】
評価
実施例及び比較例で使用した溶剤の蒸発速度、動粘度、及び実施例及び比較例で得られたペースト組成物の動粘度を下記の方法で測定した。
【0067】
(蒸発速度測定)
実施例及び比較例で使用した溶剤(サンプル数:9個)の20℃、50℃、70℃における蒸発速度は、示差熱・熱重量同時測定装置(TG−DTA)を使用して、下記条件で測定し、試験開始2分後から試験終了までの重量変化(TG)を測定し、その平均(n=9)を20℃、50℃、70℃における蒸発速度とした。
<TG−DTA測定条件>
サンプル容器:アルミパン
初期温度:20℃
昇温速度:40℃/分
最終温度:20℃、50℃、70℃
最終温度保持時間:10分間
【0068】
上記結果を下記表にまとめて示す。
【表1】

【0069】
表1の結果から、α−ターピネオール(α−TPO)やジヒドロターピニルアセテート(DHTA)に比べ、1,2,5,6−テトラヒドロベンジルアルコール(THBA)の方が速乾性を有することがわかった。
【0070】
(動粘度測定)
実施例及び比較例で使用した溶剤(「0%EC」に該当)、及び実施例及び比較例で得られたペースト組成物について、20℃、50℃、70℃の条件下で、E型粘度計(商品名「TVE−22H」、東機産業株式会社製)を使用して粘度を測定し、密度計(商品名「DA−130N」、京都電子工業株式会社製)を使用して密度を測定し、粘度と密度から20℃、50℃、70℃における動粘度(cSt)を算出した。
【0071】
上記結果を下記表にまとめて示す。
【表2】

【0072】
表2の結果から、1,2,5,6−テトラヒドロベンジルアルコール(THBA)の方が、α−ターピネオール(α−TPO)に比べ20℃における動粘度が低く、インクジェット法に使用する溶剤又は溶剤組成物として適していることがわかった。また、ジヒドロターピニルアセテート(DHTA)に比べ、エチルセルロースの添加量が少量で印刷に適した粘度をペースト組成物に付与できることがわかった。
さらに、50℃以上の高温下においては、同じエチルセルロース添加量において比較した場合、α−ターピネオール(α−TPO)やジヒドロターピニルアセテート(DHTA)に比べ、1,2,5,6−テトラヒドロベンジルアルコール(THBA)の方が高い動粘度を維持していることから、ペースト組成物に優れたパターン保持性を付与できることがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷法により電子素子パターンを形成する際に使用する溶剤又は溶剤組成物であって、少なくとも1,2,5,6−テトラヒドロベンジルアルコールを溶剤又は溶剤組成物全量(100重量%)の10重量%以上含むことを特徴とする電子素子パターン印刷用溶剤又は溶剤組成物。
【請求項2】
印刷法が、インクジェット法、スクリーン印刷法、凸版印刷法、オフセット印刷法、グラビア印刷法、マイクロコンタクト印刷法、及びナノインプリント法からなる群より選択される少なくとも1種の方法である請求項1に記載の電子素子パターン印刷用溶剤又は溶剤組成物。
【請求項3】
電子素子が、太陽電池、有機薄膜トランジスター、ラジオ周波数識別タグ、電子ペーパー、有機エレクトロルミネッセンスデバイス、タッチパネル、及びプラズマディスプレイからなる群より選択される少なくとも1種である請求項1又は2に記載の電子素子パターン印刷用溶剤又は溶剤組成物。
【請求項4】
印刷法により電子素子パターンを形成する際に使用するペースト組成物であって、請求項1〜3の何れか1項に記載の電子素子パターン印刷用溶剤又は溶剤組成物を前記ペースト組成物全量(100重量%)の90重量%以上含有し、バインダー樹脂を前記ペースト組成物全量(100重量%)の0〜10重量%含有するペースト組成物。
【請求項5】
バインダー樹脂がセルロース系樹脂及び/又はアクリル系樹脂である請求項4に記載のペースト組成物。
【請求項6】
請求項4又は5に記載のペースト組成物を少なくとも含有するインク。
【請求項7】
太陽電池、有機薄膜トランジスター、ラジオ周波数識別タグ、電子ペーパー、有機エレクトロルミネッセンスデバイス、タッチパネル、又はプラズマディスプレイのパターン形成方法であって、基板上に、請求項6に記載のインクを印刷法で塗布することによりパターン層を形成する工程と、前記パターン層を硬化又は焼成する工程とを有することを特徴とするパターン形成方法。

【公開番号】特開2013−18967(P2013−18967A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−128045(P2012−128045)
【出願日】平成24年6月5日(2012.6.5)
【出願人】(000002901)株式会社ダイセル (1,236)
【Fターム(参考)】