説明

印刷用紙をコーティングするための組成物

本発明は、印刷用紙をコーティングするための組成物であって、微小フィブリル化セルロース(MFC)と、1つ又は複数の多糖親水コロイドと、を含む組成物及び前記組成物を使用することに関する。更に、本発明は、多糖親水コロイド(1つ又は複数)から成る第1の層と、MFCから成る第2の層と、を含む被コーティング用紙及び前記用紙を使用することに関する。更に、用紙のリンティング及び/又はダスティングを低減する方法も開示されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷時に印刷用紙にリンティング及びダスティングがあまり起らないようにするための組成物に関する。更に、本発明は、かかる組成物を備えた被コーティング用紙及びそれを使用することに関する。
【背景技術】
【0002】
リンティング及びダスティングは、用紙の表面が持つ傾向を規定するのに用いられる用語であって、緩く且つ弱く結合した粒子を放出する傾向及びこれらの粒子をオフセット印刷時にブランケットに集積する傾向を規定するのに用いられる用語である。
【0003】
リンティングは、繊維、繊維片、放射柔細胞、又は導管要素を除去する現象であり、印刷条件だけでなく、パルプ及び用紙の両方の性質に関係がある。ダスティングは、用紙の表面にしっかりと付着していない填料又は他の微細物質が取れた結果である。印刷時に除去されると、リンティング物質及びダスティング物質は印刷ブランケット上に容易に集積する。複数の印刷ユニットが使用されているときは、最初の印刷ユニットに特に集積する。
【0004】
リンティングのメカニズムは完全には理解されておらず、リンティングに関連する問題を解決するのは、おそらく困難な作業であろう。リンティングのメカニズムは、概略的には、用紙の表面での繊維間結合力に起因するものと考えることができる。即ち、リント及びダストは、外力がシートを一体に保持する力を上回ったときに、用紙の表面から除去される。
【0005】
ピッキングは、用紙の印刷適性に関するもう1つの特徴である。ピッキングは、繊維又は繊維の小さな集塊を引き抜くことを意味する。ピッキングは、極端な場合にはシートの剥離を招く可能性があり、剥離によって広い均一領域が用紙表面から持ち上げられる。ピッキングは、インクの割裂抵抗、したがって用紙表面に垂直な応力、がニップ出口で用紙表面の局所的強度を上回ったときに起こる。ピッキングは、リンティングを招く可能性がある。
【0006】
用紙表面から除去される物質は、大部分が、不完全フィブリル化繊維、非線維性細胞物質(放射柔細胞、導管、バガス髄、等)、並びに繊維の破片、微粉、及び細片から成る。繊維が粗く且つ硬いと、リンティングを最小限に抑えるのに精製時により多くのエネルギーを入れ込まなければならないことは、よく知られている。そのため、エネルギー入力量はおそらく、リンティングを左右するより重要なパラメータの1つであろう。
【0007】
表面サイジングは、新聞用紙のリンティング傾向を緩和するための公知の作業である。但し、リンティング問題を製紙だけの問題と考えることはできない。印刷機の変動要素は用紙のリンティング特性に対して強い影響力を有しており、これらの要素を慎重に制御する必要がある。印刷室に関わる重要な要因の例として、版のサイズ、印刷機を通過するウェブリード構成(離脱角等)、インクの特性(粘度及び粘着性)、及び給湿液(質と量)、が挙げられる。リンティングは、インク/水バランスが不適当であることによっても起こる場合がある。上記の考察から、諸々の印刷機変動要素が多くの場合にリンティングの一因となっていると結論付けることができる。
【0008】
リンティングがあると、印刷品質は、印刷機を止めて清掃しなければならない程度にまで劣化する。この清掃作業は、面倒である上に費用がかかる。そのため、用紙がもつリンティング性向は、特に新聞生産等の大量に印刷を行う業務において、印刷室の効率に大きな影響を及ぼすおそれがある。大量に多色印刷を行う業務でオフセット印刷を使用する機会が多くなる傾向が続いているため、リンティングは、大きな経済的問題となるとともに、度重なる顧客からの苦情の原因になっている。結果として、リンティング及びダスティングを起こり難くした改良型の用紙が必要とされている。加えて、前記改良を達成するための組成物が必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第2007/091942号
【特許文献2】スウェーデン特許出願第0800807−0号
【発明の概要】
【0010】
本発明の第1の態様において、印刷用紙をコーティングするための組成物が提供される。前記組成物は、印刷時に前記用紙にリンティング及びダスティングがあまり起こらないようにするために、微小フィブリル化セルロース(以降、MFCと呼ぶ)と、1つ又は複数の多糖親水コロイドと、を含んでいる。この多糖親水コロイドは、任意の澱粉又は粘剤とすることができる。本発明に従って適切に使用される粘剤を例示すると、ローカストビーンガム、カラヤゴム、キサンタンゴム、アラビアゴム、インドゴム、エイガーゴム、ペクチン、トラガカントゴム、アルギン酸塩、セルロースガム(例えば、カルボキシメチルセルロース、アルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース)、グアールガム、タマリンドガム、及びカラジーナンを含む群がある。
【0011】
本発明の一実施形態において、多糖親水コロイドは澱粉である。用いられる澱粉は、市販されている任意の澱粉とすることができ、2種類の澱粉重合体、アミラーゼ及びアミロペクチン、の任意の組み合わせを含む。澱粉は、ネイティブの形で用いてもよければ、陰イオンの形で若しくは陽イオンの形で用いてもよい。下記の処理方法の内のいずれかを用いて澱粉を修飾することができる。酵素、熱処理、APS過酸化物、エーテル化、エステル化、酸化(例えば次亜塩素酸塩)、酸加水分解、デキストリナーゼ、カチオン化、ヒドロキシエチル化、カルボキシメチル化、及びアセチル化。加えて、グアール、タマリンド、ローカスト、カラヤセルロースエーテル、キサンタン、ペクチン、アルギン酸塩、カラジーナン、又はエイガーから成る群から選択される他の多糖親水コロイドは、澱粉形成バインダの一部分を形成することができる。
【0012】
この組成物は、排他的にMFC及び澱粉等の多糖親水コロイド(1つ又は複数)だけで構成されていてもよい。
【0013】
澱粉を得ることができる植物の例には、ジャガイモ、キャッサバ、大麦、小麦、トウモロコシ、米、タピオカ、クズウコン、サゴがある。様々な澱粉が使用可能であるが、澱粉の種々の種類間でアミロース含有量、分岐度、分子量、及び天然脂質含有量が異なれば、化学的性質及び物理的性質も異なることになり、したがって、コーティングの特性も影響を受けることになることは、当業者であれば認識するであろう。
【0014】
MFCを製造するプロセスは、例えば国際公開第2007/091942号及びスウェーデン特許出願第0800807−0号に開示されている。
【0015】
前記微小フィブリル化セルロース(一般にナノセルロース、ナノフィブリレーテッドセルロース、ナノファイバ、マイクロファイバーとも呼ばれる)は、セルロースを含有する任意の繊維で製造することができる。この繊維は、化学パルプ、機械パルプ、サーモメカニカルパルプ、化学(サーモ)メカニカルパルプ(CMP又はCTMP)に含まれているであろう。用いられるパルプは、広葉樹、針葉樹、又は両タイプの樹木の組み合わせで構成することができる。パルプは、例えばマツとトウヒの混合材又はカバノキとトウヒの混合材を含むことができる。本発明に従って使用することが可能な化学パルプの例として、漂白、半漂白、及び無漂白の亜硫酸塩、クラフトパルプ及びソーダパルプ、並びに、これらの混合体又は複合体、といったあらゆるタイプの材木系化学パルプが挙げられる。
【0016】
パルプは、MFCの製造中は、低コンシステンシーから、中コンシステンシー、高コンシステンシーに及ぶ範囲のどのようなコンシステンシーであってもよい。繊維の出所は、材木であってもよければ、任意の他のセルロース含有植物であってもよい。通常は、前記繊維は、機械的粉砕装置に助けられて、浮遊状態で処理される。前記装置は、例えば精製機、流動化機、ホモジナイザー、又はマイクロ流動化機とすることができる。更に、前記装置での処理に先立って、繊維の前処理も実施することができる。
【0017】
組成物の諸々の成分の中で、多糖親水コロイドは、コーティング時にMFCよりも用紙に良好に浸透する能力を有するがゆえに、コーティングの上部は、MFCで構成される割合の方が大きい。したがって、保水能力が高いことと粒子サイズが大きいことに起因して、MFCは、用紙に浸透するのに難点がある。結果として、開示の組成物には大きな相乗的作用がある。
【0018】
MFC及び多糖親水コロイドから成る組成物の利点は3つある。即ち、この組成物は、リンティング粒子を所定位置に保持し、この粒子を部分的にシート内部に固定し、且つMFC層をシートに固定するコーティングを提供する。
【0019】
用いられる多糖親水コロイドは、分岐していてもよければ分岐していなくてもよく、非イオン性エーテル、陰イオン性修飾、又は陽イオン性といった具合に、ネイティブであってもよければ修飾されていてもよい。
【0020】
MFCと多糖親水コロイドの配合を選択するときには、この複合体の凝集性を低減するように注意を払う。これは、複合体のpH又は塩の含有量を調整することによって実現できるであろう。前記変動要素を調整することは、十分に当業者の能力の範囲内である。
【0021】
凝集性を低減する1つの対策は、用いられるMFCと多糖親水コロイドとが必ず実質的に同一の電荷を有するようにすることである。例えば、陰イオン性MFCを陰イオン性多糖親水コロイドと組み合わせて凝集性を最小限に抑えることができる。
【0022】
本発明の一実施形態において、MFCと多糖親水コロイドを含んで成る上記組成物は、1〜90重量%のMFCを含み、残部は多糖親水コロイドを含む。本発明の別の実施形態において、前記組成物は2〜50重量%のMFCを含み、残部は多糖親水コロイドを含む。本発明の更に別の実施形態において、上記組成物は3〜25重量%のMFCを含み、残部は多糖親水コロイドを含む。
【0023】
本発明の別の実施形態において、上記組成物は5〜15重量%のMFCを含み、残部は多糖親水コロイドを含む。
【0024】
本明細書では、重量%は、他の形で規定されない限り、該当組成物又は混合体の全重量に基づいて計算される。
【0025】
本発明の組成物は、コーティング及び表面サイジングの両方の用途に適している。
【0026】
一実施形態において、MFC及び多糖親水コロイドを含む組成物でコーティングされた用紙が提供される。この用紙はリンティングが起こり難くなっているが、同時に、妥当なインク吸収性は維持している。インク吸収性は、従来の無コーティング用紙と同じ範囲に入るであろう。
【0027】
本発明の第2の態様では、多糖親水コロイドから成る第1の層と、MFCから成る第2の層と、を含む被コーティング用紙が提供される。層の数は、好みに応じて変えてもよい。多糖親水コロイド層(1つ又は複数)が下地を形成し、そこにMFCが十分な程度に固着される。多糖親水コロイドは、MFC層(1つ又は複数)と用紙表面との間の界面特性を高める。それによって、完成した用紙ではリンティング及びダスティングが起こり難くなっている。MFCは、例えば市販新聞用紙シートの表面特性を例えば強化するのに用いることができる。
【0028】
一実施形態において、被コーティング用紙の多糖親水コロイド層(1つ又は複数)は、天然澱粉、陰イオン性澱粉及び陽イオン性澱粉、過酸化澱粉、エーテル化澱粉、エステル化澱粉、酸化澱粉、加水分解澱粉、糊化澱粉、ヒドロキシエチル化澱粉、及びアセチル化澱粉の分岐したもの又は分岐していないものそれぞれから成る群から選択される澱粉を含む。用いられる澱粉は、市販されている任意の澱粉とすることができ、2種類の澱粉重合体、アミラーゼ及びアミロペクチン、の任意の組み合わせを含む。
【0029】
本発明の別の実施形態において、多糖親水コロイドは、ローカストビーンガム、カラヤゴム、キサンタンゴム、アラビアゴム、インドゴム、ペクチン、トラガカントゴム、アルギン酸塩、セルロースガム、グアールガム、タマリンドガム、から成る群から選択される。
【0030】
一実施形態において、被コーティング用紙は、用紙製品1m当たり0.1〜60gの範囲の量のMFCを有する。別の実施形態において、被コーティング用紙は、用紙1m当たり0.5〜40gの範囲の量のMFCを有する。更に別の実施形態において、被コーティング用紙は、用紙1m当たり1〜30gの範囲の量のMFCを有する。更に別の実施形態において、被コーティング用紙は、用紙1m当たり3〜20gの範囲の量のMFCを有する。
【0031】
本発明の第3の態様において、澱粉及びMFCを含む組成物を用いて用紙の上にバリアを設けることが提供される。
【0032】
本発明の第4の態様において、MFC及び澱粉を含む組成物がバリアとしてコーティングされている用紙を用いることが提供される。
【0033】
本発明の第5の態様において、本明細書に記載の任意の組成物で用紙をコーティングすることを含む、用紙のリンティング及び/又はダスティングを低減する方法が提供される。
【0034】
本明細書では、「用紙」は、任意の紙、紙のシート、及び任意の他の木質繊維を利用した製品を指す。
【0035】
添付図面を参照して以下、本発明について説明する。実施形態及び範例は、本発明の精神及び範囲の単なる一例として理解されるべきであり、いかなる場合も決して限定として理解されるべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】様々な量のC−澱粉を用いて内部処理を行った基準シートのリンティング傾向を示す。
【図2】コーティング水準が似通っている状態で、様々な化学物質を用いて表面処理されたシート(2%C−澱粉で内部処理)のリンティング傾向を示す。
【図3】コーティング水準が似通っている状態で、様々な化学物質を用いて表面処理されたシート(5%C−澱粉で内部処理)のリンティング傾向を示す。
【図4】印刷最終速度=3.18m/sにおける印刷ディスクの画像を示しており、基準シートはいかなる表面化学物質も用いずに処理されている。
【図5】剥離臨界印刷速度=4.64m/sにおける印刷ディスクの画像を示しており、基準シートはMFCを用いて2.1g/mでコーティングされている。
【図6】同じ添加レベル(1%)で様々な化学処理を施されたブランクシートのリンティング傾向を示す。
【図7】同じ添加レベル(2%)で様々な化学処理を施されたブランクシートのリンティング傾向を示す。
【図8】様々な化学処理を実施したときの油滴量対時間を示す。
【図9】様々な化学処理を施されたシートの油吸収性を示す(接触時間1秒と5秒との間の油滴減少量として表示される)。
【図10】様々な水準のMFCコーティングを有する市販新聞用紙のリンティング傾向を示す。
【図11】様々な量のMFC表面処理を有する市販新聞用紙の毛羽立ち傾向(FRT)結果を示す。
【図12】様々なコーティングを有するシート表面のESEM顕微鏡写真を示す。
【図13】様々なコーティングを有するシートの断面のESEM顕微鏡写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0037】
材料
【0038】
パルプ材料及び用紙材料
リンティングの実験では、HallstaPaper製紙工場(スウェーデン国HolmenPaper社)の乾燥履歴のない市販トウヒ(ヨーロッパトウヒ)サーモメカニカルパルプ(TMP)を用いた。保存上の理由で、このパルプは凍結され、融解された。パルプ融解後のろ水度は、脱イオン水で173CSF(ISO5267−2)であった。上記製紙工場で測定したろ水度は、102CSFであった。リンティング実験の別のセットでは、市販新聞用紙(改良型新聞用紙、坪量=60g/m、ベントセン表面平滑度=150〜230ml/min)を用いた(スウェーデン国HolmenPaper社、HallstaPaper製紙工場)。MFCを製造する際に、60%のノルウェートウヒ(ヨーロッパトウヒ)と40%のスコッツパイン(ヨーロッパアカマツ)から作られた、ヘミセルロース含有量が4.5%(18%NaOHでの溶解度として測定された)で、リグニン含有量が0.6%の市販亜硫酸塩針葉樹溶解パルプ(Domsjo(oはウムラウト)DissolvingPlus:スウェーデン国Domsjo(oはウムラウト)Fabhker株式会社)を用いた。このパルプを脱イオン水で完全に洗浄し、乾燥履歴のない形で用いた。
【0039】
内部処理化学物質
陽イオン性澱粉(C−澱粉)
内部処理では、市販のジャガイモC−澱粉を用いた(AmylofaxPW、置換度(D.S.)=0.035、オランダ国アベベ社)を用いた。このC−澱粉をゼラチン化するために、200mLの脱イオン水と混合して約1.5重量%の濃度にし、90〜95℃にまで加熱して15分間この温度に保った。冷却後、1Lの体積になるまでこの溶液を希釈した。
【0040】
陰イオン性ポリアクリルアミド(A−PAM)
C−澱粉(錯体形成による)を高C−澱粉適用量に維持するために、A−PAM(PL156、陰イオン性電荷密度:40モル%、英国チバ社)を補助剤として用いた。A−PAM溶液を準備するために、0.125gのA−PAMを1.5mlのエタノールに2分間浸漬させた。50mlの脱イオン水を加えた後で、この組成物を2分間完全に混ぜ合わせた。次いで、組成物を2時間攪拌し、翌朝まで攪拌せずに放置した。
【0041】
表面処理化学物質
陰イオン性澱粉(A−澱粉)
表面サイジング処理において、陰イオン性酸化ジャガイモ澱粉(Perlcoat158、電荷密度=153.2μeq/g、スウェーデン国LyckebyIndustrial株式会社)を用いた。このA−澱粉をゼラチン化するために、脱イオン水と混合して約10重量%の濃度にし、次いで95℃にまで加熱して15分間この温度に保った。サイジング実験に先立って、pHをpH8に調整した。
【0042】
微小フィブリル化セルロース(MFC)
他の文献(Wagberg(aはリング),L.,Decher,G.,Norgren,M.Lindstrom(oはウムラウト),T.,Ankerfors,M.,及びAxnas(aはウムラウト),K..Langmuir(2008),24(3),784−795.)に記載の方法に従って、溶解針葉樹パルプを、まずD.S.が約0.1になるようにカルボキシメチル化した。その後で、濃度が2重量%のカルボキシメチル化パルプを、動作圧力が170MPaの2つの異なる大きさのチャンバ(直径が200μm及び100μmで、直列接続)を装備した高圧ホモジナイザー(MicrofluidizerM−110EH、米国マイクロフルイディックス社)に一度だけ通すことによって、このパルプをMFCに加工した。形成した非常に粘度の高いゲル状のMFCを、脱イオン水で0.56重量%に希釈し、次いで、上記と同じやり方で高圧ホモジナイザーに一度通すことによって分散させた。
【0043】
MFC/A−澱粉の形成
MFC及びA−澱粉の濃度に基づき、次のやり方で、MFCとA−澱粉の混合物(質量比50%:50%)を準備した。即ち、MFC及びA−澱粉の組成物を、動作圧力が170MPaの2つの異なる大きさのチャンバ(直径が200μm及び100μmで、直列接続)を装備した高圧ホモジナイザー(MicrofluidizerM−110EH、米国マイクロフルイディックス社)に一度だけ通した。その後で、超音波洗浄機(BransonicUltrasonicCleaner551OE−MT、米国ブランソニック・ウルトラソニックス社)を用いて、この組成物に10分間の処理を施し、次いで40分間振動台に載置して、このゲル内に閉じ込められていた気泡を除去した。
【0044】
方法
【0045】
手すき用紙及び内部処理
凍結乾燥したTMPパルプを融解し、パルプの潜在物を削減するために、85〜95℃、1200rpmで10分間の高温分解を行った。内部処理を行うために、シートを形成する前に、パルプに1%、2%、及び5%のC−澱粉で10分間の処理を行った。5%C−澱粉を用いたときは、ほぼ定量的にC−澱粉をTMP完成紙料に確実に堆積できるようにするために、0.1%A−PAMを補助剤(錯化剤)として用いた。この場合、C−澱粉の10秒後にこのA−PAMを添加し、次いで、シート形成まで10分間放置した。水道水を用いてpHをpH=8に設定した。FormetteDynamiqueSheetフォーマー(フランス国グルノーブル市CTP社)(Sauret他、1969年)で、秤量100±2g/mのシートを作製した。吸取り用紙を用いて、8.1kg/mで5.5分間、これらのシートを一体に押圧し、次いで、この吸取り用紙を新しい吸取り用紙で置き換え、同じ圧力で更に2分間シートを押圧した。高温光沢フォトドライヤに押し当てて、シートを乾燥させた。
【0046】
表面処理
ワイヤ巻回ロッドを装備したベンチコータ(KCCコータM202、英国RKプリントコート・インスツルメンツ社)を用いて、表面サイジングを行った。サイジングは、この移動ロッドの速度を約5m/分にして実施した。FormetteDynamiqueシート上でのみ、且つ縦方向に沿って、上面に表面サイジング加工を実施した。
【0047】
シートは、粘着性が消えるまで室温で予備乾燥させ、高温光沢フォトドライヤに押し当てて最終的に乾燥させた。表面サイジングがなされたシートは、全て同時に乾燥させた。反復して且つ並行して、表面サイジング加工を実施した。用紙の秤量は100g/mであったが、コーティングの重量はまちまちで、最大は5g/mであった。以下の化学物質について、表面サイジングを行った。A−澱粉、MFC、及び50/50重量%A−澱粉/MFC組成物。実験では、少なくとも3種類の表面サイジング水準を用いた。ブランクシート、即ち基準シート、の作製も含め、表1に示すマトリックスに従って、内部処理によるシート及び表面処理によるシートを準備した。
【0048】
【表1】

【0049】
カレンダー仕上げ
カレンダー仕上げ前処理
ソフトニップ・ラボラトリカレンダー(DT・LaboratoryCalender、フィンランド国DTペーパー・サイエンス有限会社)で、ロール温度22℃で16kN/mのライン圧力をかけて、全シートについて一度だけカレンダー仕上げ前処理を行った。その後で、シートの各面にカレンダー仕上げを2回行った。これによって、約200±50ml/minのベントセン表面平滑度を得た(下記を参照のこと)。これは、市販新聞用紙シートにとって正常な値である。
【0050】
カレンダー仕上げ後処理
表面サイジング済シートについては、表面サイジング処理後にもカレンダー仕上げを行った。まず、標準方法SCAN−P2:75(スカンジナビアン・パルプ・ペーパー・アンド・ボード・テスティング・コミッティ)に従って、少なくとも48時間かけて、表面サイジング済シートの状態を整えた。次いで、更なる表面解析及び印刷試験を実施する前に、ソフトニップ・ラボラトリカレンダーで、ロール温度22℃で12kN/mのライン圧力をかけて、一度だけシートにカレンダー仕上げを行った。
【0051】
解析
【0052】
坪量及び表面平滑度
標準方法SCAN−P6:75(スカンジナビアン・パルプ・ペーパー・アンド・ボード・テスティング・コミッティ)に従って、コーティング層の坪量及び重量を定量した。表面平滑度を定量し制御するのに、ベントセン法(ISO8791−2)を用いた。
【0053】
リンティング傾向−リントピック試験
スウェーデン国STFIパックフォシュク株式会社で開発されたこの方法では、IGT印刷適性試験機に用紙サンプルを載置するとともに、その用紙に、ピック試験オイルの薄膜で粘着性を付加した鋼ディスクを押し当てる。次いで、加速する速度で印刷を行う。次いで、実体顕微鏡のCCDカメラで、ディスクを写真撮影する。ディスクを20のセグメントに分割する。これらのセグメントは、カメラで撮影された各写真に対応する。加速が線形ではないため、ディスク上の最初の4つのセグメントと最後の2つのセグメントは、解析から除外した。そのため、測定は、セグメント5〜18について実施する。これらのセグメントからの写真を解析して、存在する粒子(シート表面から除去された粒子)の量を計数する(粒子数/cm)。結果は、特定の速度のときに表面からこぼれた粒子の個数である。画像解析ソフトウェア(LintingLargePart、スウェーデン国STFIパックフォシュク株式会社)を用いて、粒子を計数した。このソフトウェアは、画像中の粒子についての4つの異なる群、即ち繊維、集塊、粒子、及び小粒子、を区別する。各群の判断基準は次の通りである。
・繊維:対象物の周囲長が>2mm且つその矩形度が<0.3、即ち対象物が長尺。
・集塊:対象物の面積が>0.3mm又は周囲長が>2mm且つその矩形度が>0.3。
・粒子:対象物の面積が0.02〜0.3m
・小粒子:上記のいずれでもない場合、対象物は小粒子である。
【0054】
この取り組みにおけるLPT測定は、IGT印刷適性試験機(IGT・AIC2−5、オランダ国リープロテスト有限会社)を用いたIGTピック抵抗法(ISO3783)に基づくものであった。13.7±1.1mgのピック試験オイル(IGT・PickTestOil(404.004.020)中粘度、スウェーデン国ペーパー・テスト・イクイップメント社)を用いて鋼ディスクに粘着性を付加した。
【0055】
試験ストリップ上でピックの開始部を検出する代わりに、実体顕微鏡(モデルSZ−CTV、スウェーデン国オリンパス・スヴェーリエ株式会社)に接続されたCCDカメラ(モデルICD700、日本国池上通信機株式会社、使用分解能=15μm/ピクセル)を用いて印刷ディスク上で採取された粒子を検出した。最大印刷速度は、実測値が5.0m/sであった。
【0056】
FibreRisingTesterは、1990年代(Hoc2005)初頭にSTFIパックフォシュク社によって開発された方法である。毛羽立ち傾向(FRT)は、用紙を湿らせ、乾燥し、次いで細いロール上で搬送したときに、用紙表面から立ち上がる繊維の量及び大きさとして規定される。この方法から、表面繊維間の結合が湿気に起因する毛羽立ちにどれだけ抵抗できるかについての情報が得られる。単に湿潤工程を止めることによって、乾燥ダスティングを測定することも可能である。原理は、用紙サンプルを一定量の水で湿らせ、次いで、IR加熱素子を使って乾燥させるというものである。サンプルを細いロール上で湾曲させながら、CCDカメラで、毛羽立ち量及び平滑度を連続的に記録した。
【0057】
浸潤乾燥記録画像解析
用紙を湿気及び熱に露出させたときに、表面で様々なタイプの構造的変化が起こり得る。FRTは、ロング・ファイバ・ライジング及びショート・ファイバ・ライジングと呼ばれる2つのタイプの変化に基づいて評価を行う。長尺の繊維は、一端でのみ結合されるとともに表面から0.1mmを超えて延在するが、短尺の繊維は、ほとんど全長にわたって結合されるとともに表面から0.1mm以下で延在する。自由端部が比較的長いことに起因してリンティング問題を起こすおそれがあるのは長尺繊維であり、それらは、mm単位の全長で表現される。
【0058】
用紙表面の繊維の網状構造が水及び熱と接触したときに、表面構造に変化が現れる。これらの変化が、2つの独立した作用、即ち粗面化と毛羽立ち、を引き起こす。これらの作用はどちらも、4つのパラメータを測定することによって表現することができる。
・LRC(ロング・ライジング・コンポーネント)は、表面処理後に用紙表面から立ち上がる繊維全ての実測長の合計として毛羽立ちの程度を表現するパラメータである。
・SRA(ショート・ライジング・エリア)は、表面平滑度(粗面化)の増加分を、用紙表面から持ち上げられているが各粒子の高さが0.1mm未満であるために繊維として識別できない粒子全ての合計面積の実測値として表現するパラメータである。
・TRA(トータル・ライジング・エリア)は、立ち上げられた繊維全ての合計面積として規定されるパラメータであって、用紙表面から持ち上げられているが繊維ではない粒子全部の面積を含む。
・Q(ファイバ・クォンティティ)は、繊維であると確認された繊維、即ち長さが0.1mmを超える粒子、の個数である。この取り組みでは、サンプルを切断して、幅が4.0cmで長さが最低10cmの長尺のストリップにした。普通のコピー用紙をこのストリップの端部にテープで留め、試験が材料面でより効率的になるようにした(FRTは、試験を行うのに実際に必要とされる領域よりも長いサンプルを必要とした)。FRT(FIBRO1000、スウェーデン国FibroSystem株式会社)内にサンプルを配置し、縦方向(MD)に試験を実施した。6.0g/mの水でサンプルを湿らせた。その後で、IR加熱素子を用いてこの用紙を乾燥させると、表面温度は、最終的に110℃になった。次いで、細いローラー上にサンプルを搬送し、CCDカメラで毛羽立ち及び平滑度を記録した。この装置で、全部で100枚の画像を解析した。シートサンプル1個当たり3つの試料を測定した。
【0059】
油吸収性
シートのインク吸収性を推定するために、DynamicAngleTester(DAT1100、スウェーデン国FibroSystem株式会社)を用いて接触角測定を行った。ヒマシ油(キャスター・オイルUSP、濃度=0.96g/cm、米国シグマアルドリッチ社)の小滴をシート上面に滴下することによって、測定を実施した。最初の油滴体積は7.0μLであった。油滴体積の時間変化(時間範囲0〜12秒)、油滴底面直径、及び接触角を測定した。シートサンプル毎に8枚の平行用紙ストリップを測定し(8滴/用紙ストリップ)、平均値を得た。
【0060】
低真空走査電子顕微鏡−電界放射型電子銃(ESEM−FEG)
シート表面及び断面のESEM顕微鏡写真を撮影し、シートの表面形態及び層構造を調べた。オランダ国フィリップス社のESEMモデルXL30・ESEM−FEG(EnvironmentalScanningElectronMicroscope−FieldEmissionGun)を用いてESEM顕微鏡写真を取り込んだ。作業環境は次の通りである。加速電圧=10kV、WD=9mm(作動距離)、BSE検出器(後方散乱電子)を用いた低真空モード、サンプルチャンバの圧力=0.1kPa。SE検出器(2次電子)を用いて、10kVの同じ加速電圧で、高真空モードでも用紙表面のESEM顕微鏡写真を撮影した。WDは若干短く、約8.5mmであった。高真空モード用に、帯電を防止するために、シート表面を金の薄い導電層でコーティングした。シート構造のz方向の情報を与える断面のESEM顕微鏡写真は、埋設した用紙から得た。用紙サンプルをエポキシ樹脂スパーの中に埋設して研削し、次いで研磨を行って、滑らかな表面を得た。
【0061】
結果
【0062】
リンティング傾向の解析
従来のIGTピック抵抗法では試験ストリップのピックの開始部を記録するのに対し、STFI−LPT法では、画像解析を用いて、印刷ディスク上に採取した粒子の領域カバレッジ、個数、及びサイズ分類について評価した。更に、LPTは、用紙が粒子を放出する傾向を、印刷速度の関数として表現する。そのため、LPTの結果は、リンティング傾向を良好に定量化したものであると考えられる。解析結果を簡単化するために、以下では、印刷速度の関数としてLPTの成果の中で採取された粒子の領域カバレッジについて論じる。
【0063】
内部サイジング処理を有するシートのリンティング傾向
基準シートを用い、湿潤原料にC−澱粉(1%、2%、及び5%C−澱粉+0.1%A−PAM)を添加して、TMPシートを作製した。吸収されない外部C−澱粉を最高の添加レベルに維持するために、補助添加物としてA−PAMを用いた。基本的に、C−澱粉を繊維に留める作用は、定量的であった。これらの内部サイジング処理シートからのLPT結果を、図1に示す。リンティング傾向が同じである場合に、C−澱粉を添加すれば印刷速度を速められることが、はっきりと観察される。換言すると、C−澱粉を添加することで、シートの表面強度が強まった。但し、TMPシートのリンティング傾向を大幅に向上するには、1%を超えるC−澱粉が余分に必要であった。
【0064】
様々な表面処理を有するシートのリンティング傾向
図2において、A−澱粉、MFC、及びMFCとA−澱粉の混合体(50%:50%、質量比)それぞれを似通った添加レベルで用いて、基準シート(2%C−澱粉で内部サイジングがなされている)に表面サイジングを行った。図2より、A−澱粉を用いた表面サイジングとMFCを用いた表面サイジングはどちらも、シートのリンティング傾向を効果的に低減することが明らかである。第2に、用紙の表面にMFC及びA−澱粉の両方を添加することに相乗的作用があることも示されている。
【0065】
図3は、同様の一連の実験を示している。ここでは、A−澱粉、MFC、及びMFCとA−澱粉の混合体(50%:50%、質量比)を似通った添加レベルで用いて、基準シート(5%C−澱粉で内部サイジングがなされている)に表面サイジングを行った。この一連の実験で、重要なことが観察された。連続的なMFCフィルムで用紙表面を被覆しているにもかかわらず、MFCを用いてコーティングしたシートは、一定の臨界印刷速度を超えると、容易に剥離した。印刷ディスクを調べた際に(図7及び8参照)、剥離の前に印刷ディスクは汚れていなかったこと、及びシートが剥離したときに、細片(フィルムと細片)の塊が含まれていたこと、が観察された。MFCは非常に高い保水能力を有しており、そのため、MFCはシートに浸透せず、MFCフィルムと用紙表面との間の界面に弱いゾーンが形成される。このことが、MFCとA−澱粉を一緒に用いることの相乗的役割を説明している。A−澱粉はMFCフィルムと用紙表面との間の界面特性を高めているだけであるが、それによって、シートのリンティング傾向は堅調に低下する。
【0066】
次いで、MFC、A−澱粉、及びC−澱粉を用いた様々なレベルの内部サイジング添加及び表面サイジング添加についての一連の実験を、TMPを用いていくつか実施した。種々の実験で添加レベルが若干異なるのを補正するために、ソフトウェア(DataFit7.0)を用いて、1%、2%、及び5%の追加レベルでの内挿値を計算した。このようにして得た結果を図9、10、及び11に示す。これに基づいて、図6は、1%の内部C−澱粉添加、MFCの1%表面添加、A−澱粉の1%表面添加、及びMFC/A−澱粉混合体(50/50%)の1%表面添加の効果を示している。この場合もC−澱粉の内部添加の効果は小さいが、A−澱粉とMFCはどちらもリンティング傾向を大幅に低減した。A−澱粉とMFCの混合体を添加することの相乗効果は、ここでも明らかである。図7は2%の添加を行ったときの結果を示している。結果は図8のものと本質的に似通っているが、当然のことながら、シートの表面強度は一層強くなっている。
【0067】
内部サイジング及び表面サイジングがTMPシートの油吸収性に及ぼす影響
新聞用紙シートに表面処理を施すと、そのシートのインク吸収性が台無しになり、インクの裏移り及び遅いインクの乾燥を招くおそれがある。そのため、内部サイジング処理又は表面サイジング処理の後で、処理済シートを油吸収性について試験した。油吸収性試験では、用紙シートの表面上の油滴の体積を時間の関数として記録する。代表的な結果を図8に示す。更に、図9にあるように、データを油滴の減少分対時間としても示した。内部サイジング処理と表面処理はどちらも、結果は若干低い油吸収に帰着する。表面処理の結果はバリア型の遅延した吸収に帰着する。一方、内部処理の結果は一層強固になったシートに帰着し、油吸収性の遅延をもたらす。但し、ブランクシートに比べれば、油吸収が低下する傾向は限定的である。
【0068】
市販新聞用紙シートへの応用試験
レポートの以前の部分で用いたFormetteDynamique実験室用紙シートは、卓越したフォーメーション特性を有することを特徴とする。一連の実験では、比較のため、市販新聞用紙にもMFCのコーティングを行った。結果を図10に示す。MFCコーティングは、実験室シートと同様に、市販新聞用紙のリンティング傾向を緩和する。
【0069】
油吸収についても調査を行った。これらの実験は全て、市販新聞用紙シートの表面特性を強化するのにMFCが有効であることを実証している。
【0070】
MFC表面処理を用いた市販新聞用紙の毛羽立ち傾向
毛羽立ちは、用紙を湿らせ、乾燥し、次いで細いローラー上で搬送したときに、用紙表面から立ち上がる繊維の量及び大きさとして規定される。MFCで市販新聞用紙の表面処理を行った。FRTの結果を下記の図11に示す。図11は、MFC表面処理後にロング・ファイバ・ライジング・コンテント(LRC)が減少したことを示している。しかし、ショート・ライジング・エリア(SRA)及びトータル・ファイバ・ライジング・エリア(TRA)は、最初は減少するが、コーティングMFCの量が一定点を超えると、増加する。
【0071】
ESEM解析
澱粉、MFC、及びMFC/澱粉でコーティングしたシートのESEM画像例は、シート表面の様子(図16a〜d)及び断面の様子(図17a〜d)を示している。コーティング前の基準シートから分かるように(図12a)、表面はかなりざらざらになっている。コーティングを行うと、表面は滑らかになる(図16b〜d)。MFCコーティングを行うと、A−澱粉よりも表面は滑らかになる。これはおそらく、MFCの方が良好にフィルムを形成した結果であろう。このような差異は、図13b(A−澱粉)と図13c(MFC)を比較すると、断面画像にも認めることができる。MFCは、シート表面上部に横たわる比較的厚いフィルムを形成すると思われる。一方A−澱粉は、異なる形でシートにも染み込む薄い層を形成する。前に開示したように、MFCフィルムの弱点は、シートへの固定が弱く、これによってMFC層とシートとの間で剥離が起こることであると思われる(図5参照)。一方A−澱粉の弱点は、リンティングがあまり効果的に低下しないことである。これは、図13bにあるように、A−澱粉によるフィルム形成の方が出来栄えが悪いためであると考えられる。A−澱粉とMFCとを組み合わせても、なお且つシート上部にフィルムを形成することが可能である(図13d参照)。このフィルムはおそらく、主にMFCで構成されている。一方A−澱粉は、より良好な形でシートに染み込んでいくことができる。前に示したリンティングの結果に基づき、MFCとA−澱粉の組み合わせは有利であると推測することができる。というのは、リンティング粒子を所定位置に保持するとともに粒子をシート内部に部分的に固定するフィルムでシートをコーティングすることと、MFCフィルムをシートに固定することの両方の可能性を、この組み合わせが提供するからである。
【0072】
本発明の利点
MFC、澱粉、又はこの2つの添加物の混合体を用いた表面サイジングによって、新聞用紙のリンティング傾向を緩和することができる。リンティング傾向を低下させるのに、C−澱粉を用いた単なる内部処理よりも表面処理の方がより効率的である。MFCゲルは、保水能力が高いために、母材シートに容易には染み込まない。そのため、MFCでコーティングされたシートは、A−澱粉又はMFC+A−澱粉でコーティングされたシートに比べ、印刷速度が速くなったときに剥離するおそれがある。MFCとA−澱粉の混合体を使用することに、相乗作用が存在していることが分った。この相乗作用により、リンティング傾向は、MFC又はA−澱粉のいずれかを適用した場合よりも大きく低下した。A−澱粉は、MFCと母材シートとの間の相境界を強化するように機能する。MFCを表面に適用すればロング・ファイバ・ライジング傾向が堅調に低下することも分った。コーティング化学物質の量を増やせば油吸収性が若干低下することが分った。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷用紙をコーティングするための組成物であって、微小フィブリル化セルロース(MFC)と、1つ又は複数の多糖親水コロイドと、を含む組成物。
【請求項2】
1〜90重量%のMFCを含み、残部が多糖親水コロイドを含んでいる、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
2〜50重量%のMFCを含み、残部が多糖親水コロイドを含んでいる、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
3〜25重量%のMFCを含み、残部が多糖親水コロイドを含んでいる、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
5〜15重量%のMFCを含み、残部が多糖親水コロイドを含んでいる、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記多糖親水コロイドが澱粉である、請求項1〜5の内のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
前記澱粉が、天然澱粉、陰イオン性澱粉、陽イオン性澱粉、過酸化澱粉、エーテル化澱粉、エステル化澱粉、酸化澱粉、加水分解澱粉、糊化澱粉、ヒドロキシエチル化澱粉、及びアセチル化澱粉から成る群から選択されたものである、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
前記多糖親水コロイドが、ローカストビーンガム、カラヤゴム、キサンタンゴム、アラビアゴム、インドゴム、ペクチン、トラガカントゴム、アルギン酸塩、セルロースガム、グアールガム、エイガーゴム、カラジーナン、及びタマリンドガムから成る群から選択されたものである、請求項1〜5の内のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
請求項1〜8の内のいずれか1項に記載の組成物でコーティングされた用紙。
【請求項10】
(a)多糖親水コロイドから成る第1の層と、
(b)MFCから成る第2の層と、
を備えた被コーティング用紙。
【請求項11】
層(a)にある前記多糖親水コロイドが、天然澱粉、陰イオン性澱粉、陽イオン性澱粉、過酸化澱粉、エーテル化澱粉、エステル化澱粉、酸化澱粉、加水分解澱粉、糊化澱粉、ヒドロキシエチル化澱粉、及びアセチル化澱粉から成る群から選択されたものである、請求項10に記載の被コーティング用紙。
【請求項12】
前記多糖親水コロイドが、ローカストビーンガム、カラヤゴム、キサンタンゴム、アラビアゴム、インドゴム、ペクチン、トラガカントゴム、アルギン酸塩、セルロースガム、グアールガム、エイガーゴム、カラジーナン、及びタマリンドガムから成る群から選択されたものである、請求項10に記載の被コーティング用紙。
【請求項13】
(b)にあるMFCの量が、用紙のシート1m当たり0.1〜60gの範囲である、請求項10に記載の被コーティング用紙。
【請求項14】
(b)にあるMFCの量が、用紙のシート1m当たり0.5〜40gの範囲である、請求項13に記載の被コーティング用紙。
【請求項15】
(b)にあるMFCの量が、用紙のシート1m当たり1〜30gの範囲である、請求項14に記載の被コーティング用紙。
【請求項16】
(b)にあるMFCの量が、用紙のシート1m当たり3〜20gの範囲である、請求項15に記載の被コーティング用紙。
【請求項17】
用紙のシートにバリアを設けるように、請求項1〜8の内のいずれか1項に記載の組成物を使用すること。
【請求項18】
バリアとして、請求項10〜16の内のいずれか1項に記載の用紙を使用すること。
【請求項19】
用紙のリンティング及び/又はダスティングを低減する方法であって、請求項1〜8の内のいずれか1項に記載の組成物で用紙をコーティングすることを含む方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公表番号】特表2011−516739(P2011−516739A)
【公表日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−502902(P2011−502902)
【出願日】平成21年4月3日(2009.4.3)
【国際出願番号】PCT/SE2009/050355
【国際公開番号】WO2009/123560
【国際公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【出願人】(510264475)インヴェンティア・アクチボラゲット (1)
【氏名又は名称原語表記】INNVENTIA AB
【Fターム(参考)】