説明

印刷装置、スティックスリップ対応方法、プログラム、及び印刷システム

【課題】印刷ヘッドがスティックスリップ動作を行う場合に、これに速やかに対応すること。
【解決手段】本印刷装置は、媒体に対して印刷を施す印刷ヘッドと、前記印刷ヘッドを移動させるためのモータと、前記印刷ヘッドを所定の方向に沿って案内するためのガイド部と、前記印刷ヘッドがスティックスリップ動作を行うか否かを判定する判定部と、前記印刷ヘッドを移動させるときに前記モータを制御するための指令値を生成するモータ制御部とを備える。そして、モータ制御部は、前記印刷ヘッドがスティックスリップ動作を行わないという前記判定部の判定に基づいて、前記印刷ヘッドを所定の目標速度で移動させるための指令値を生成し、前記印刷ヘッドがスティックスリップ動作を行うという前記判定部の判定に基づいて、前記印刷ヘッドを前記目標速度よりも速い目標速度で移動させるための指令値を生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷装置、スティックスリップ対応方法、プログラム、及び印刷システムに関する。
【背景技術】
【0002】
紙やフィルム等の媒体に対して印刷を施す印刷装置として、例えば、インクジェットプリンタが知られている。このインクジェットプリンタは、媒体に対してインクを吐出する印刷ヘッドを備え、この印刷ヘッドが媒体に対して相対的に移動しながらインクを吐出して媒体に印刷を施すようになっている。
【0003】
印刷ヘッドは、プリンタ内部のガイド部によって所定の方向に沿って案内されて移動する。印刷ヘッドの移動は、モータにより行われる。印刷ヘッドは、モータの制御部によって所定の速度まで加速されて、例えばPID制御等により所定の速度にて定速移動しながら目標位置まで移動する(特許文献1、2、3参照)。
【特許文献1】特開2001−103778号公報
【特許文献2】特開2001−158144号公報
【特許文献3】特開2001−169584号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このようなインクジェットプリンタにあっては、次のような問題が発生することがあった。すなわち、例えば、インクジェットプリンタが長期間にわたり使用されなかったりした場合に、印刷ヘッドがガイド部に沿ってうまく滑らなくなり、印刷ヘッドが動いたり停まったりする動作を繰り返す、いわゆるスティックスリップ動作(しゃくとり動作ともいう)を行ってしまうことがあった。このようなスティックスリップ動作は、印刷ヘッドとガイド部との間の摺動部のグリスが固化してしまったことなどが原因となり発生するものである。特に、印刷ヘッドが低速で移動しようとした場合に、このようなスティックスリップ動作が発生する。
このようなスティックスリップ動作が発生した場合、印刷ヘッドを移動させ所定の範囲内の目標位置に停止させるまでに時間を要してしまうことがある。
よって、これに対応する必要がある。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、印刷ヘッドがスティックスリップ動作を行う場合に、これに速やかに対応することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための主たる発明は、
(A)媒体に対して印刷を施す印刷ヘッドと、
(B)前記印刷ヘッドを移動させるためのモータと、
(C)前記印刷ヘッドを所定の方向に沿って案内するためのガイド部と、
(D)前記印刷ヘッドがスティックスリップ動作を行うか否かを判定する判定部と、
(E)前記印刷ヘッドを移動させるときに前記モータを制御するための指令値を生成するモータ制御部であって、
前記印刷ヘッドがスティックスリップ動作を行わないという前記判定部の判定に基づいて、前記印刷ヘッドを所定の目標速度で移動させるための指令値を生成し、
前記印刷ヘッドがスティックスリップ動作を行うという前記判定部の判定に基づいて、前記印刷ヘッドを前記所定の目標速度よりも速い目標速度で移動させるための指令値を生成するモータ制御部と、
を備える印刷装置である。
【0007】
本発明の他の特徴については、本明細書及び添付図面の記載により明らかにする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
===開示の概要===
本明細書及び添付図面の記載により、少なくとも、以下の事項が明らかとなる。
【0009】
(A)媒体に対して印刷を施す印刷ヘッドと、
(B)前記印刷ヘッドを移動させるためのモータと、
(C)前記印刷ヘッドを所定の方向に沿って案内するためのガイド部と、
(D)前記印刷ヘッドがスティックスリップ動作を行うか否かを判定する判定部と、
(E)前記印刷ヘッドを移動させるときに前記モータを制御するための指令値を生成するモータ制御部であって、
前記印刷ヘッドがスティックスリップ動作を行わないという前記判定部の判定に基づいて、前記印刷ヘッドを所定の目標速度で移動させるための指令値を生成し、
前記印刷ヘッドがスティックスリップ動作を行うという前記判定部の判定に基づいて、前記印刷ヘッドを前記所定の目標速度よりも速い目標速度で移動させるための指令値を生成するモータ制御部と、
を備える印刷装置。
このようにすることで、スティックスリップ動作を行うという判定に基づいて、スティックスリップ動作が発生しにくいように目標速度を上げて印刷ヘッドの移動を制御するので、スティックスリップ動作を抑制することができる。
【0010】
かかる印刷装置であって、前記所定の目標速度よりも速い目標速度は、前記印刷ヘッドの目標停止位置までの距離に基づいて設定されることが望ましい。また、前記印刷ヘッドの目標停止位置までの距離が所定の距離よりも離れているとき、前記所定の目標速度よりも速い目標速度は一定値に設定されることが望ましい。また、前記印刷ヘッドの目標停止位置までの距離が所定の距離よりも離れているとき、前記所定の目標速度よりも速い目標速度は、前記スティックスリップ動作時の前記印刷ヘッドの最高速度よりも高い速度に設定されることが望ましい。また、前記判定部によって前記印刷ヘッドが前記スティックスリップ動作を行うと判定された位置に基づいて設定されたスティックスリップ領域を記憶する記憶部をさらに備え、前記モータ制御部は、前記印刷ヘッドが前記スティックスリップ領域にないときには、前記印刷ヘッドを前記所定の目標速度で移動させるための指令値を生成し、前記印刷ヘッドが前記スティックスリップ領域にあるときには、前記印刷ヘッドを前記所定の目標速度よりも速い目標速度で移動させるための指令値を生成することが望ましい。また、前記記憶部は、前記判定部によって前記印刷ヘッドが前記スティックスリップ動作を行うと判定された位置から所定の範囲を前記スティックスリップ領域であるとして記憶することが望ましい。また、前記判定部が、前記スティックスリップ動作を行っているか否かを判定するのは、前記印刷ヘッドを前記ガイド部に沿って所定の速度以下にて移動させるときであることが望ましい。また、前記印刷ヘッドの移動速度を検出する速度検出部をさらに備え、前記判定部は、前記速度検出部により検出された前記移動速度に基づき、前記印刷ヘッドがスティックスリップ動作を行っているかを判定することが望ましい。また、前記判定部は、前記指令値に基づき、前記印刷ヘッドがスティックスリップ動作を行っているか否かを判定することもできる。また、前記印刷ヘッドの加速度を検出する加速度検出部をさらに備え、前記判定部は、前記加速度検出部により検出された前記加速度に基づき、前記印刷ヘッドがスティックスリップ動作を行っているか否かを判定することもできる。また、前記印刷ヘッドの移動開始から移動終了までの間に、前記印刷ヘッドの移動速度が所定の許容下限値以下になった時間を計測するタイマをさらに備え、前記判定部は、前記タイマの計測時間に基づき、前記印刷ヘッドがスティックスリップ動作を行っているか否かを判定することもできる。また、前記印刷ヘッドは、前記媒体に対して印刷を施すために前記媒体に向けてインクを吐出するノズルを備えていることが望ましい。このようにすることで、スティックスリップ動作を行うという判定に基づいて、スティックスリップ動作が発生しにくいように目標速度を上げて印刷ヘッドの移動を制御するので、スティックスリップ動作を抑制することができる。
【0011】
媒体に対して印刷を施す印刷ヘッドを当該印刷ヘッドを所定の方向に沿って案内するガイド部に沿って移動させるために、前記印刷ヘッドを移動させるモータを制御するための指令値を生成するステップと、
前記印刷ヘッドがスティックスリップ動作を行うか否かを判定するステップと、
前記印刷ヘッドがスティックスリップ動作を行わないという前記判定に基づいて、前記印刷ヘッドを所定の目標速度で移動させるための指令値を生成し、前記印刷ヘッドがスティックスリップ動作を行うという前記判定に基づいて、前記印刷ヘッドを前記所定の目標速度よりも速い目標速度で移動させるための指令値を生成するステップと、
を含むスティックスリップ対応方法。
【0012】
このようにすることで、スティックスリップ動作を行うという判定に基づいて、スティックスリップ動作が発生しにくいように目標速度を上げて印刷ヘッドの移動を制御するので、スティックスリップ動作を抑制することができる。
【0013】
媒体に対して印刷を施す印刷ヘッドを当該印刷ヘッドを所定の方向に沿って案内するガイド部に沿って移動させるために、前記印刷ヘッドを移動させるモータを制御するための指令値を生成するステップと、
前記印刷ヘッドがスティックスリップ動作を行うか否かを判定するステップと、
前記印刷ヘッドがスティックスリップ動作を行わないという前記判定に基づいて、前記印刷ヘッドを所定の目標速度で移動させるための指令値を生成し、前記印刷ヘッドがスティックスリップ動作を行うという前記判定に基づいて、前記印刷ヘッドを前記所定の目標速度よりも速い目標速度で移動させるための指令値を生成するステップと、
を実行するプログラム。
【0014】
コンピュータと、当該コンピュータに接続可能な印刷装置とを備えた印刷システムであって、
媒体に対して印刷を施す印刷ヘッドと、
前記印刷ヘッドを移動させるためのモータと、
前記印刷ヘッドを所定の方向に沿って案内するためのガイド部と、
前記印刷ヘッドがスティックスリップ動作を行うか否かを判定する判定部と、
前記印刷ヘッドを移動させるときに前記モータを制御するための指令値を生成するモータ制御部であって、
前記印刷ヘッドがスティックスリップ動作を行わないという前記判定部の判定に基づいて、前記印刷ヘッドを所定の目標速度で移動させるための指令値を生成し、
前記印刷ヘッドがスティックスリップ動作を行うという前記判定部の判定に基づいて、前記印刷ヘッドを前記所定の目標速度よりも速い目標速度で移動させるための指令値を生成するモータ制御部と、
を備える印刷システム。
【0015】
===印刷装置の概要===
本発明に係る印刷装置の実施の形態について、インクジェットプリンタ1を例にして説明する。図1〜図4は、そのインクジェットプリンタ1を示したものである。図1は、そのインクジェットプリンタ1の外観を示す。図2は、そのインクジェットプリンタ1の内部構成を示す。図3は、そのインクジェットプリンタ1の搬送部の構成を示す。図4は、そのインクジェットプリンタ1のシステム構成を示す。
【0016】
このインクジェットプリンタ1は、図1に示すように、背面から供給された印刷用紙等の媒体を前面から排出する構造を備えており、その前面部には、操作パネル2および排紙部3が設けられ、その背面部には、給紙部4が設けられている。操作パネル2には、各種操作ボタン5および表示ランプ6が設けられている。また、排紙部3には、不使用時に排紙口を塞ぐ排紙トレイ7が設けられている。給紙部4には、カット紙などの媒体を保持するための給紙トレイ8が設けられている。
【0017】
このインクジェットプリンタ1の内部には、図2に示すように、キャリッジ41が設けられている。このキャリッジ41は、左右方向に沿って相対的に移動可能に設けられている。キャリッジ41の周辺には、キャリッジモータ42と、プーリ44と、タイミングベルト45と、ガイドレール46とが設けられている。キャリッジモータ42は、DCモータなどにより構成され、キャリッジ41を左右方向(以下、キャリッジ移動方向ともいう)に沿って相対的に移動させるための駆動源である。タイミングベルト45は、プーリ44を介してキャリッジモータ42に接続されるとともに、その一部がキャリッジ41に接続され、キャリッジモータ42の回転駆動によってキャリッジ41をキャリッジ移動方向(左右方向)に沿って相対的に移動させる。ガイドレール46は、キャリッジ41をキャリッジ移動方向(左右方向)に沿って案内する。
【0018】
この他に、キャリッジ41の周辺には、キャリッジ41の位置を検出するリニア式エンコーダ51と、媒体Sをキャリッジ41の移動方向と交差する方向(図中、前後方向。以下、搬送方向ともいう)に沿って搬送するための搬送ローラ17Aと、この搬送ローラ17Aを回転駆動させる搬送モータ15とが設けられている。
【0019】
一方、キャリッジ41には、各種インクを収容したインクカートリッジ48と、媒体Sに対して印刷を行うヘッド21とが設けられている。インクカートリッジ48は、例えば、イエロ(Y)やマゼンダ(M)、シアン(C)、ブラック(K)などの各色のインクを収容しており、キャリッジ41に設けられたカートリッジ装着部49に着脱可能に装着されている。また、ヘッド21は、本実施形態では、媒体Sに対してインクを吐出して印刷を施す。このために、ヘッド21には、インクを吐出するための多数のノズルが設けられている。
【0020】
なお、ヘッド21は、媒体Sに対して印刷を施す「印刷ヘッド」に相当する。また、ガイドレール46は、キャリッジ41(ヘッド21)を所定の方向に沿って案内することから、「ガイド部」に相当する。また、キャリッジモータ42は、キャリッジ41を移動させるためのモータであることから、「モータ」に相当する。
【0021】
この他に、このインクジェットプリンタ1の内部には、ヘッド21のノズルの目詰まりを解消するためにノズルからインクを吸い出すポンプ装置31や、ヘッド21のノズルの目詰まりを防止するために、印刷を行わないとき(待機時など)にヘッド21のノズルを封止するキャッピング装置35などが設けられている。
【0022】
次にこのインクジェットプリンタ1の搬送部について説明する。この搬送部には、図3に示すように、給紙ローラ13と、紙検知センサ53と、搬送ローラ17Aと、排紙ローラ17Bと、プラテン14と、フリーローラ18A、18Bとが設けられている。
【0023】
印刷される媒体Sは、給紙トレイ8にセットされる。給紙トレイ8にセットされた媒体Sは、断面略D形状に成形された給紙ローラ13により、図中矢印A方向に沿って搬送されて、インクジェットプリンタ1の内部へと送られる。インクジェットプリンタ1の内部に送られてきた媒体Sは、紙検知センサ53と接触する。この紙検知センサ53は、給紙ローラ13と、搬送ローラ17Aとの間に設置されたもので、給紙ローラ13により給紙された媒体Sを検知する。
【0024】
紙検知センサ53により検知された媒体Sは、搬送ローラ17Aによって、印刷が実施されるプラテン14へと順次搬送される。搬送ローラ17Aの対向位置には、フリーローラ18Aが設けられている。このフリーローラ18Aと搬送ローラ17Aとの間に、媒体Sを挟み込むことによって、媒体Sをスムーズに搬送する。
プラテン14へと送り込まれた媒体Sは、ヘッド21から吐出されたインクによって順次印刷される。プラテン14は、ヘッド21と対向して設けられ、印刷される媒体Sを下側から支持する。
【0025】
印刷が施された媒体Sは、排紙ローラ17Bにより順次、プリンタ外部へと排出される。排紙ローラ17Bは、搬送モータ15と同期に駆動されていて、当該排紙ローラ17Bに対向して設けられたフリーローラ18Bとの間に媒体Sを挟み込んで、媒体Sをプリンタ外部へと排出する。
【0026】
<システム構成>
次にこのインクジェットプリンタ1のシステム構成について説明する。このインクジェットプリンタ1は、図4に示すように、バッファメモリ122と、イメージバッファ124と、コントローラ126と、メインメモリ127と、通信インターフェース129と、キャリッジモータ制御部128と、搬送制御部130と、ヘッド駆動部132とを備えている。
【0027】
通信インターフェース129は、当該インクジェットプリンタ1が、例えばパーソナルコンピュータ等の外部のコンピュータ140とデータのやりとりを行うためのものである。通信インターフェース129は、外部のコンピュータ140と有線または無線等により通信可能に接続され、コンピュータ140から送信された印刷データ等の各種データを受信する。
【0028】
バッファメモリ122には、通信インターフェース129により受信された印刷データ等の各種データが一時的に記憶される。また、イメージバッファ124には、バッファメモリ122に記憶された印刷データが順次記憶される。イメージバッファ124に記憶された印刷データは、順次、ヘッド駆動部132へと送られる。また、メインメモリ127は、ROMやRAM、EEPROMなどにより構成される。メインメモリ127には、当該インクジェットプリンタ1を制御するための各種プログラムや各種設定データなどが記憶される。
【0029】
コントローラ126は、メインメモリ127から制御用プログラムや各設定データなどを読み出して、当該制御用プログラムや各種設定データに従ってインクジェットプリンタ1全体の制御を行う。また、コントローラ126には、ロータリ式エンコーダ134やリニア式エンコーダ51、紙検知センサ53などの各種センサからの検出信号が入力される。
【0030】
コントローラ126は、外部のコンピュータ140から送られてきた印刷データ等の各種データが通信インターフェース129により受信されてバッファメモリ122に格納されると、その格納されたデータの中から必要な情報をバッファメモリ122から読み出す。コントローラ126は、その読み出した情報に基づき、リニア式エンコーダ51やロータリ式エンコーダ134からの出力を参照しながら、制御用プログラムに従って、キャリッジモータ制御部128や搬送制御部130、ヘッド駆動部132などを各々制御する。
【0031】
キャリッジモータ制御部128は、コントローラ126からの命令に従って、キャリッジモータ42の回転方向や回転数、トルクなどを駆動制御する。搬送制御部130は、コントローラ126からの命令に従って、搬送ローラ17Aを回転駆動する搬送モータ15などを制御する。
【0032】
ヘッド駆動部132は、コントローラ126からの命令に従って、イメージバッファ124に格納された印刷データに基づき、ヘッド21に設けられた各色のノズルを駆動制御する。
【0033】
なお、キャリッジモータ制御部128は、本実施形態では、キャリッジ41(ヘッド21)を移動させるためのキャリッジモータ42を制御することから、「モータ制御部」に相当する。
【0034】
<ヘッド>
図5は、ヘッド21の下面部に設けられたインクのノズルの配列を示した図である。ヘッド21の下面部には、同図に示すように、イエロ(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)の各色ごとにそれぞれ複数のノズル♯1〜♯180からなるノズル列、即ちシアンノズル列211C、マゼンダノズル列211M、イエロノズル列211Y、およびブラックノズル列211Kが設けられている。
【0035】
各ノズル列211C、211M、211Y、211Kの各ノズル♯1〜♯180は、所定の方向(ここでは、媒体Sの搬送方向)に沿って相互に間隔をあけて直線状に1列に配列されている。各ノズル列211C、211M、211Y、211Kは、ヘッド21の移動方向(走査方向)に沿って相互に所定の間隔をあけて平行に配置されている。各ノズル♯1〜♯180には、インク滴を吐出するための駆動素子としてピエゾ素子(図示外)が設けられている。
【0036】
===リニア式エンコーダ===
<エンコーダの構成>
図6は、リニア式エンコーダ51の構成を概略的に示したものである。リニア式エンコーダ51は、リニア式エンコーダ符号板464と、検出部466とを備えている。リニア式エンコーダ符号板464は、図2に示すように、インクジェットプリンタ1内部のフレーム側に取り付けられている。一方、検出部466は、キャリッジ41側に取り付けられている。キャリッジ41がガイドレール46に沿って移動すると、検出部466がリニア式エンコーダ符号板464に沿って相対的に移動する。これによって、検出部466は、キャリッジ41の移動量を検出する。
【0037】
<検出部の構成>
図7は、この検出部466の構成を模式的に示したものである。この検出部466は、発光ダイオード452と、コリメータレンズ454と、検出処理部456とを備えている。検出処理部456は、複数(例えば4個)のフォトダイオード458と、信号処理回路460と、例えば2個のコンパレータ462A、462Bとを有している。
発光ダイオード452の両端に抵抗を介して電圧Vccが印加されると、発光ダイオード452から光が発せられる。この光はコリメータレンズ454により平行光に集光されてリニア式エンコーダ符号板464を通過する。リニア式エンコーダ符号板464には、所定の間隔(例えば、1/180インチ(1インチ=2.54cm))毎にスリットが設けられている。
【0038】
リニア式エンコーダ符号板464を通過した平行光は、図示しない固定スリットを通って各フォトダイオード458に入射し、電気信号に変換される。4個のフォトダイオード458から出力される電気信号は信号処理回路460において信号処理され、信号処理回路460から出力される信号はコンパレータ462A、462Bにおいて比較され、比較結果がパルスとして出力される。コンパレータ462A、462Bから出力されるパルスENC−A、ENC−Bがリニア式エンコーダ51の出力となる。
【0039】
<出力信号>
図8A及び図8Bは、キャリッジモータ42の正転時及び逆転時における検出部466の2つの出力信号の波形を示したタイミングチャートである。図8A及び図8Bに示すように、キャリッジモータ42の正転時及び逆転時のいずれの場合も、パルスENC−AとパルスENC−Bとは位相が90度だけ異なっている。キャリッジモータ42が正転しているとき、即ち、キャリッジ41がガイドレール46に沿って移動しているときは、図8Aに示すように、パルスENC−AはパルスENC−Bよりも90度だけ位相が進み、キャリッジモータ42が逆転しているときは、図8Bに示すように、パルスENC−AはパルスENC−Bよりも90度だけ位相が遅れる。そして、パルスENC−A及びパルスENC−Bの1周期Tは、キャリッジ41がリニア式エンコーダ符号板464のスリット間隔を移動する時間に等しい。
【0040】
そして、リニア式エンコーダ51の出力パルスENC−A、ENC−Bの各々の立ち上がりエッジが検出され、検出されたエッジの個数が計数され、この計数値に基づいてキャリッジモータ42の回転位置が演算される。この計数はキャリッジモータ42が正転しているときは1個のエッジが検出されると「+1」を加算し、逆転しているときは、1個のエッジが検出されると「−1」を加算する。パルスENC−A及びENC−Bの各々の周期は、リニア式エンコーダ符号板464の、あるスリットが検出部466を通過してから次のスリットが検出部466を通過するまでの時間に等しく、かつ、パルスENC−AとパルスENC−Bとは位相が90度だけ異なっている。このため、上記計数のカウント値「1」はリニア式エンコーダ符号板464のスリット間隔の1/4に対応する。これにより上記計数値にスリット間隔の1/4を乗算すれば、その乗算値に基づいて、計数値が「0」に対応する回転位置からのキャリッジモータ42の移動量を求めることができる。このとき、リニア式エンコーダ51の解像度はリニア式エンコーダ符号板464のスリットの間隔の1/4となる。
【0041】
===キャリッジモータ制御部===
キャリッジモータ制御部128の構成について詳しく説明する。図9Aは、キャリッジモータ制御部128の回路構成の一例を示したブロック構成図である。キャリッジモータ制御部128は、同図に示すように、位置演算部331と、減算器332と、変換器333と、速度演算部334と、減算器335と、比例要素336Aと、積分要素336Bと、微分要素336Cと、加算器337と、PWM回路338と、加速制御部339Aと、タイマ339Bとを有する。
【0042】
位置演算部331は、リニア式エンコーダ51の出力パルスのエッジを検出し、その個数をカウントし、このカウント値に基づきキャリッジモータ42の回転位置を演算する。位置演算部331は、リニア式エンコーダ51からの2つのパルス信号の比較処理からキャリッジモータ42の正転・逆転を認知し、1個のエッジが検出された時に正転・逆転に応じてインクリメント・デクリメントするように計数処理する。
【0043】
減算器332は、コントローラ126から送られてくる目標位置と、位置演算部331により検出された検出位置との位置偏差を演算する。変換器333は、減算器332から出力される位置偏差に対応する目標速度Vtを出力する。
【0044】
図9Bは、位置偏差に対応して変換器333が出力する目標速度Vtを示す目標速度データである。変換器333は、所定以上の位置偏差がある場合、すなわち目標位置までの距離が所定量以上のとき、一定の目標速度でキャリッジ41が移動するように目標速度を出力する。ここでは、低速移動時において位置偏差がl1より大きいとき目標速度を0.0127(m/s)になるように設定している。
【0045】
速度演算部334は、リニア式エンコーダ51の出力パルスのパルス周期を計測し、このパルス周期に基づいてキャリッジモータ42の回転速度Vcを演算する。
減算器335は、変換器333から出力される目標速度Vtと、速度演算部334により検出された検出速度Vcとの速度偏差ΔVを演算する。
【0046】
比例要素336Aは、速度偏差ΔVに増幅率Gpを乗算し、比例成分QPを出力する。積分要素336Bは、速度偏差ΔVに増幅率Giを乗算したものを1つ前の演算結果QI(j−1)に積算し、積分成分QIを出力する。微分要素336Cは、現在の速度偏差ΔV(j)(ここで、jは時刻を示す)と、1つ前の速度偏差ΔV(j−1)との差に増幅率Gdを乗算し、微分成分QDを出力する。なお、この微分要素336Cは、キャリッジ(印刷ヘッド)の移動速度の単位時間当たりの変化量を算出する演算部に相当する。これら比例要素336A、積分要素336B及び微分要素336Cの演算は、リニア式エンコーダ51の出力パルスの1周期毎に行われる。
【0047】
ここで、各演算要素336A、336B、336Cの演算出力、即ち比例成分QP、積分成分QIおよび微分成分QDは、例えば、次の式(1)〜(3)により与えることができる。
QP(j)=ΔV(j)×Gp………………………………(1)
QI(j)=QI(j−1)+ΔV(j)×Gi…………(2)
QD(j)={ΔV(j)−ΔV(j−1)}×Gd……(3)
【0048】
加算器337は、比例要素336Aの比例成分QPと、積分要素336Bの積分成分QIと、微分要素336Cの微分成分QDとを加算する。これら3つの成分、即ち比例成分QP、積分成分QIおよび微分成分QDの加算結果ΣQは、デューティ信号として、PWM回路338に出力される。
【0049】
加算結果ΣQは、次の式(4)により得ることができる。
ΣQ(j)=QP(j)+QI(j)+QD(j)………(4)
【0050】
PWM回路338は、加算器337の加算結果ΣQに応じた制御信号を生成する。ドライバ340は、この制御信号に基づいてキャリッジモータ42を駆動する。ドライバ340は、例えば複数個のトランジスタを備えており、PWM回路338からの制御信号に基づいて、トランジスタをオン・オフさせることで、キャリッジモータ42に電圧を印加する。
【0051】
また、加速制御部339A及びタイマ339Bは、キャリッジモータ42の加速制御時に用いられる。タイマ339Bは、コントローラ126から送られてくるクロック信号に基づいて、所定時間毎にタイマ割込信号を発生する。加速制御部339Aは、タイマ割込信号を受ける毎に所定のデューティDXPを積算し、積算結果としてデューティ信号を生成して、このデューティ信号をPWM回路338に出力する。
【0052】
キャリッジモータ42を加速駆動するときには、PWM回路338は、加速制御部339Aから出力されるデューティ信号に基づいて制御信号を生成してキャリッジモータ42を制御する。また、キャリッジモータ42を定速駆動するとき、および、キャリッジモータ42を減速するときには、PWM回路338は、3つの成分、即ち、比例要素336Aの比例成分QP、積分要素336Bの積分成分QI、および微分要素336Cの微分成分QDの加算結果ΣQとして加算器337から出力されたデューティ信号に基づき生成された制御信号をキャリッジモータ42に出力し、キャリッジモータ42を制御する。
【0053】
===キャリッジモータの駆動方法===
図10Aは、PWM回路338に入力されるデューティ信号の時間変化のグラフである。図10Bは、キャリッジモータ42の速度変化のグラフである。以下、これらの図を用いて、キャリッジモータ42の駆動について説明する。
【0054】
キャリッジモータ42が停止している時に、キャリッジモータ42を起動させる起動指令信号がコントローラ126からキャリッジモータ制御部128へ送られると、信号値がDX0である起動初期デューティ信号が加速制御部339AからPWM回路338へ送られる。この起動初期ディユーティ信号は、起動指令信号とともにコントローラ126から加速制御部339Aへ送られてくる。そして、この起動初期ディユーティ信号は、PWM回路338によって、信号値DX0に応じた制御信号に変換されて、キャリッジモータ42の起動が開始される。
【0055】
キャリッジモータ制御部128が起動指令信号を受信した後、所定の時間ごとにタイマ339Bからタイマ割込信号が発生される。加速制御部339Aは、タイマ割込信号を受信する毎に、起動初期デューティ信号の信号値DX0に所定のデューティDXPを積算し、積算されたデューティを信号値とするデューティ信号をPWM回路338に送る。このデューティ信号は、PWM回路338によって、その信号値に応じた制御信号に変換されて、キャリッジモータ42の回転速度は上昇する。このため加速制御部339AからPWM回路338に送られるデューティ信号の値は、階段状に上がっていく。
【0056】
加速制御部339Aにおけるデューティの積算処理は、積算されたデューティが所定のデューティDXSになるまで行われる。時刻t1において積算されたデューティが所定値DXSとなると、加速制御部339Aは積算処理を停止し、以後PWM回路338に一定のデューティDXSを信号値とするデューティ信号を送る。
【0057】
そして、キャリッジモータ42が所定の回転速度になると(時間t2参照)、加速制御部339Aは、PWM回路338へ出力するデューティ信号を減少させて、キャリッジモータ42に印加される電圧のデューティパーセントを減少させるよう制御する。このとき、キャリッジモータ42の回転速度は更に上昇する。そして、時間t3になると、PWM回路338は加算器337の出力を選択し、PID制御が行われる。PID制御が開始される時点(t3)において、積分要素336Bの積分値が適当な値に設定されており、積分要素336Bの出力値が所定の値になる。
【0058】
PID制御が開始されると、減算器332は、キャリッジ41の目標位置とリニア式エンコーダ51の出力から得られる現在のキャリッジ41の位置との位置偏差を変換器333に出力する。変換器333は、前述の目標速度データを参照し、位置偏差から目標速度Vtを求め、減算器335に出力する。そして、キャリッジモータ制御部128は、この目標速度Vtとリニア式エンコーダ51の出力から得られる実際の速度Vcとの速度偏差ΔVに基づいて、比例要素336A、積分要素336B及び微分要素336Cを用いて比例成分QP、積分成分QI及び微分成分QDの演算を行う。キャリッジモータ制御部128は、これらの演算結果の和ΣQに基づいて、キャリッジモータ42の制御を行う。尚、上記比例演算、積分演算及び微分演算は、例えば、リニア式エンコーダ51の出力パルスENC−Aの立ち上がりエッジに同期して行われる。これにより、キャリッジモータ42の回転速度は、時刻t4において、所望の回転速度となるように制御される。
【0059】
キャリッジモータ42が目標回転位置に近づくと(時刻t5)、位置偏差が小さくなるから目標回転速度も小さくなる。このため、速度偏差、即ち減算器335の出力が負になり、キャリッジモータ42は減速し、時刻t6に停止する。
【0060】
===印刷動作===
次に前述したインクジェットプリンタ1の印刷動作について説明する。ここでは、「双方向印刷」を例にして説明する。図11は、インクジェットプリンタ1の印刷動作の処理手順の一例を示したフローチャートである。以下で説明される各処理は、コントローラ126が、メインメモリ127からプログラムを読み出して、当該プログラムに従って、キャリッジモータ制御部128や搬送制御部130、ヘッド駆動部132などを各々制御することにより実行される。
【0061】
コントローラ126は、コンピュータ140から印刷データを受信すると、その印刷データに基づき印刷を実行すべく、まず、給紙処理を行う(S102)。給紙処理は、印刷しようとする媒体Sをインクジェットプリンタ1内に供給し、印刷開始位置(頭出し位置とも言う)まで搬送する処理である。コントローラ126は、給紙ローラ13を回転させて、印刷しようとする媒体Sを搬送ローラ17Aまで送る。コントローラ126は、搬送ローラ17Aを回転させて、給紙ローラ13から送られてきた媒体Sを印刷開始位置(プラテン14の上方付近)に位置決めする。
【0062】
次に、コントローラ126は、キャリッジモータ制御部128を通じてキャリッジモータ42を駆動して、キャリッジ41を媒体Sに対して相対的に移動させて媒体Sに対して印刷を施す印刷処理を実行する。ここでは、まず、キャリッジ41をガイドレール46に沿って一の方向に向かって移動させながら、ヘッド21からインクを吐出する往路印刷を実行する(S104)。コントローラ126は、キャリッジモータ42を駆動してキャリッジ41を移動させるとともに、印刷データに基づきヘッド21を駆動してインクを吐出する。ヘッド21から吐出されたインクは、媒体Sに到達してドットとして形成される。
【0063】
このようにして印刷を行った後、次に、コントローラ126は、媒体Sを所定量だけ搬送する搬送処理を実行する(S106)。ここでは、コントローラ126は、搬送制御部130を通じて搬送モータ15を駆動して搬送ローラ17Aを回転させて、媒体Sをヘッド21に対して相対的に搬送方向に所定量だけ搬送する。この搬送処理により、ヘッド21は、先ほどの印刷した領域とは異なる領域に印刷をすることが可能になる。
【0064】
このようにして搬送処理を行った後、コントローラ126は、排紙すべきか否か排紙判断を実行する(S108)。ここで、コントローラ126は、印刷中の媒体Sに印刷すべき他のデータがなければ、排紙処理を実行する(S116)。一方、コントローラ126は、印刷中の媒体Sに印刷すべき他のデータがあれば、排紙処理は行わずに、復路印刷を実行する(S110)。この復路印刷は、キャリッジ41をガイドレール46に沿って先ほどの往路印刷とは反対の方向に移動させて印刷を行う。ここでも、コントローラ126は、キャリッジモータ制御部128を通じてキャリッジモータ42を先ほどとは逆に回転駆動させてキャリッジ41を移動させるとともに、印刷データに基づきヘッド21を駆動してインクを吐出して、印刷を施す。
【0065】
復路印刷を実行した後、搬送処理を実行し(S112)、その後、排紙判断を行う(S114)。ここで、印刷中の媒体Sに印刷すべき他のデータがあれば、排紙処理は行わずに、ステップS104に戻って、再度往路印刷を実行する(S104)。一方、印刷中の媒体Sに印刷すべき他のデータがなければ、排紙処理を実行する(S116)。
【0066】
排紙処理を行った後、次に、印刷終了か否かを判断する印刷終了判断を実行する(S118)。ここでは、コンピュータ140からの印刷データに基づき、次に印刷すべき媒体Sがないかどうかチェックする。ここで、次に印刷すべき媒体Sがある場合には、ステップS102に戻り、再び給紙処理を実行して、印刷を開始する。一方、次に印刷すべき媒体Sがない場合には、印刷処理を終了する。
【0067】
===スティックスリップ動作===
このようなインクジェットプリンタ1にあっては、長期間にわたり使用されなかったりした場合などに、キャリッジ41(印刷ヘッド)がガイドレール46に沿ってうまく滑らなくなり、キャリッジ41の移動速度が周期的に速くなったり遅くなったり、またキャリッジ41が動いたり停まったりする動作を繰り返す、いわゆるスティックスリップ動作(しゃくとり動作ともいう)を行ってしまうことがあった。
【0068】
このスティックスリップ動作にあっては、速度が周期的に速くなったり遅くなったりする動作である。極端な場合には、キャリッジ41が動いたり停まったりする動作を繰り返す、ぎくしゃくとした滑り運動となる。このスティックスリップ動作は、固着すべりともいう。このようなスティックスリップ動作が発生する主な原因としては、キャリッジ41とこれを案内するガイドレール46との間の摺動部の静止摩擦係数と動摩擦係数との差などが原因と考えられる。つまり、キャリッジ41とガイドレール46との間の摺動部の静止摩擦係数が、その動摩擦係数に比べて非常に大きいために、キャリッジモータ42のトルクが上昇してもキャリッジ41がなかなか動かず、キャリッジモータ42のトルクがある程度の大きさになると、キャリッジ41が動き出す。キャリッジ41が動き出すと、動摩擦係数は低いことから、キャリッジ41の移動速度が急激に上昇してしまう。このようにキャリッジ41の移動速度が急激に上昇してしまうと、キャリッジモータ制御部128は、キャリッジ41の移動速度を抑えるべくキャリッジモータ42に急激な制動を加える。このため、キャリッジ41が失速してしまうのである。
【0069】
図12は、キャリッジ41がスティックスリップ動作を行ったときのキャリッジ41の移動速度の変化の一例について示したものである。キャリッジ41は、同図に示すように、キャリッジモータ42のトルクがある程度大きくならない限り、動き始めない。
【0070】
キャリッジ41の移動速度が0になると、起動指令信号がコントローラ126から発せられる。起動指令信号が発せられると、PWM回路338は、加速制御部339Aからの出力を選択する。また、加速制御部339Aは、初期値をDX0としてデューティ信号値をDXPずつ増加させていく。そしてデューティ信号値がDXPになったところで、PWM回路338は、加算器337の出力を選択するようになり、キャリッジモータ42はPID制御されるようになる。
【0071】
キャリッジ41の移動速度は、速度演算部334により検出されている(図9A参照)。キャリッジモータ制御部128は、この速度演算部334を通じてキャリッジ41の移動速度を監視している。キャリッジ41の移動速度が上昇しない場合には、キャリッジモータ制御部128は、キャリッジ41を移動させるべく、キャリッジモータ42のトルクを上昇させる制御を行う。これにより、キャリッジモータ42のトルクがある程度大きくなると、キャリッジ41が動き出し、キャリッジ41の移動速度は急激に上昇する。キャリッジ41の移動速度が上昇し、所定のレベルにまで達すると、キャリッジモータ制御部128は、キャリッジ41の移動速度を抑えるべく、キャリッジモータ42に制動を加える。これにより、キャリッジ41の移動速度が低下し、キャリッジ41が失速して再び停止してしまう。
【0072】
キャリッジ41が停止すると、再度、起動指令信号がコントローラ126から発せられる。そうすると、再び加速制御部339Aによる加速制御が行われ、所定のデューティ信号値に達するとPID制御へと移行する。そして、キャリッジモータ制御部128は、キャリッジ41を移動させるべく、再びキャリッジモータ42のトルクを上昇させる制御を行う。これにより、キャリッジ41が再び動き出して、急激に移動速度が上昇すると、再びキャリッジ41が失速して停止してしまう。このような移動動作と停止動作とが交互に繰り返される。
【0073】
===スティックスリップ動作が発生する場合===
このようなスティックスリップ動作をキャリッジ41が行うのは、キャリッジモータ制御部128がキャリッジモータ42を介してキャリッジ41を所定の速度以下にて定速移動させようとした場合である。つまり、キャリッジ41が所定の速度を上回る速度にて定速移動する場合、即ち例えば、キャリッジ41が、印刷実行時等において非常に高速で移動する場合には、スティックスリップ動作はほとんど発生しない。ここでいう所定の速度とは、キャリッジ41がスティックスリップ動作を行う可能性のある上限の速度のことをいう。
【0074】
キャリッジ41がスティックスリップ動作を行うような所定の速度以下で定速移動する場合としては、例えば、次の(1)〜(4)の場合がある。
【0075】
(1)インクカートリッジ交換時
キャリッジ41に搭載されたインクカートリッジ48(図2参照)がユーザー等により交換される場合である。インクカートリッジ48がユーザー等により交換される場合には、インクカートリッジ48がユーザー等により交換し易いように所定の位置までキャリッジ41を移動させる必要がある。この場合に、ユーザー等が不用意にキャリッジ41と接触しないようにするために、キャリッジ41を所定の速度以下にてゆっくりと低速移動させる必要がある。
【0076】
(2)キャッピング時
キャリッジ41がキャッピング装置35(図2参照)が設けられた位置まで移動する場合である。印刷を行わないとき(待機時など)などには、ヘッド21のノズル♯1〜♯180の目詰まりを防止するために、キャリッジ41がキャッピング装置35の設置位置まで移動してヘッド21のノズル♯1〜♯180を封止する動作が行われる。このような場合に、キャリッジ41を所定の速度以下にてゆっくりと低速移動させる。
【0077】
(3)電源投入時
電源が投入されたときに、キャリッジ41がキャッピング装置35から離れて、印刷処理の実行準備、例えば、ヘッド21のノズル♯1〜♯180のクリーニング等を行うために、イニシャル動作を開始する。このような場合に、キャリッジ41を所定の速度以下にてゆっくりと低速移動させる。また、後述するスティックスリップ動作が行われる領域の設定も電源投入時に行われ、この際、キャリッジ41は所定の速度以下にて低速移動させられる。
【0078】
(4)紙幅検出時
キャリッジ41に設けられた光学センサ(図示外)により、インクジェットプリンタ1がこれから印刷しようとする媒体Sの幅を検出するために、キャリッジ41がガイドレール46に沿って移動する。このとき、媒体Sの幅を精度良く調べるために、キャリッジ41が所定の速度以下にてゆっくりと低速移動する。
【0079】
なお、キャリッジ41がスティックスリップ動作を行うような所定の速度以下で定速移動する場合にあっては、これら(1)〜(4)以外の他の場合であっても良い。
【0080】
===スティックスリップ動作の判定方法===
このようなスティックスリップ動作をキャリッジ41が行った場合、キャリッジ41を目標位置にて停止させることができず、目標位置周辺にてキャリッジ41を行ったり来たりしたりするなどの不具合が生じることがあった。そして、このようなスティックスリップ動作が発生した場合、目標位置に停止するまでに時間を要してしまう場合があった。このようなことから、キャリッジ41がスティックスリップ動作を行ったときには、これを速やかに検知して対応する必要がある。
【0081】
そこで、本実施形態に係るインクジェットプリンタ1では、キャリッジ41がこのようなスティックスリップ動作を行った場合に、スムーズに対応することができるようにするために、キャリッジ41がスティックスリップ動作を行ったか否かを判定することができる。なお、ここでは、キャリッジ41がスティックスリップ動作を行ったか否かの判定は、コントローラ126により行う。スティックスリップ動作の判定方法としては、例えば、次の(1)〜(4)の方法がある。
【0082】
(1)移動速度に基く判定
キャリッジ41の移動速度に基づき、キャリッジ41がスティックスティック動作を行ったか否か判定する。この判定方法の1つとして、キャリッジ41の移動速度が所定のしきい値V0を超えたときに、キャリッジ41がスティックスリップ動作を行っていると判定する方法がある。キャリッジ41がスティックスリップ動作を行った場合には、図13Aに説明するように、キャリッジ41の移動速度は、キャリッジ41が動き出すと、急激に上昇する。このときのキャリッジ41の移動速度は、本来のキャリッジ41の移動速度よりもずっと速い速度にまで達する。このことから、適当な所定のしきい値V0を設定して、キャリッジ41の移動速度が、この所定のしきい値V0を超えたか否かを調べることで、キャリッジ41がスティックスリップ動作を行ったか否か簡単にチェックすることができる。
【0083】
この他に、キャリッジ41の移動速度に基づき、キャリッジ41がスティックスリップ動作を行ったか否かを判定する方法としては、図13Bにて説明するように、キャリッジ41の移動速度が所定の上限許容値V1を超え、かつその後、所定の下限許容値V2を下回ったときに、キャリッジ41がスティックスリップ動作を行っていると判定する方法がある。キャリッジ41がスティックスリップ動作を行った場合には、同図に示すように、キャリッジ41の移動速度が、キャリッジ41が動き出すと急激に上昇し、そして急激に減少する。最終的には、キャリッジ41は失速して停止状態に近くなる場合がある。キャリッジ41の移動速度は、本来想定されるキャリッジ41の移動速度の上限許容値V1よりもずっと速い速度に達し、かつその後、急激に低下して本来想定されるキャリッジ41の移動速度の下限許容値V2よりも低い速度(停止状態も含む)に達する。このことから、キャリッジ41がスティックスリップ動作を行ったか否か簡単に判定することができる。
【0084】
なお、ここで、キャリッジ41がスティックスリップ動作を行ったか否かの判定にあっては、キャリッジ41の移動速度が所定のしきい値V0を超えた回数を計数して、その回数が所定の回数(例えば、2回等)を超えたとき、キャリッジ41がスティックスリップ動作を行っていると判定しても良い。また、キャリッジ41の移動速度が所定の上限許容値V1を超え、かつその後、所定の下限許容値V2を下回った回数を計数して、その回数が所定の回数(例えば、2回等)を超えたときに、キャリッジ41がスティックスリップ動作を行っていると判定しても良い。
【0085】
(2)制御信号に基づく判定
キャリッジモータ制御部128がキャリッジモータ42を制御するために生成する制御信号に基づき、キャリッジ41がスティックスリップ動作を行ったか否かを判定する。ここで、制御信号としては、例えば、キャリッジモータ制御部128のPWM回路338(図9参照)に入力されるデューティ信号に基づき判定をする。
【0086】
図14Aは、キャリッジ41がスティックスリップ動作を行ったときのキャリッジ41の移動速度と、PWM回路338に入力されるデューディ信号の信号値との関係について説明したものである。キャリッジ41がスティックスリップ動作を行ったときには、キャリッジ41の移動速度は、同図の上段に示すように、急激に上昇して、その後、急激に低下する。そして、キャリッジ41は、このような移動動作と、停止動作とを交互に繰り返す。
【0087】
一方、デューティ信号値は次のようになる。キャリッジ41の速度を0(キャリッジモータ42が停止)から上昇させるとき、起動指令信号がコントローラ126から発せられる。そうすると、キャリッジモータ制御部128のPWM回路338は、加速制御部339Aの出力を選択するようになる。また、加速制御部339Aは、起動初期デューティ値DX0をPWM回路338に出力する。その後、所定の値になるまでの間、デューティ信号は、加速制御部339Aによる加速制御により所定値DXPの増分で上昇させられる。そして、デューティ信号値が所定の値DXSになると、PWM回路338Aは、加速制御部339Aの出力から加算器337からの出力(PID制御)を選択する。
尚、加速制御部339Aによる制御が行われている間、デューティ信号値は連続的に増加しているように見えるが、これは4(ms)ごとに増分されているため巨視的に連続して増加しているように見えるのであり、実際は階段状に増加している。
【0088】
PID制御を選択した後も、キャリッジ41は移動を開始しない。そのため、加速制御部339Aによる制御のときよりも小さいながらもデューティ信号値は増加を続ける。デューティ信号値の増加を続けると、あるときキャリッジ41の移動速度が急激に上昇する。そうすると、キャリッジモータ制御部128は、キャリッジ41の移動速度を抑制させるべく、PWM回路338に入力されるデューディ信号の信号値を急激に減少させる。その結果として、キャリッジ41の速度も急激に減少する。そうすると、キャリッジモータ制御部128は、キャリッジ41の速度を所定の速度になるように制御するためにデューティ値を急激に増加させようとするのだが、キャリッジ41の速度減少には間に合わず、キャリッジ41が停止する。
【0089】
キャリッジ41が停止し、移動速度が0となると、再度、起動指令信号がコントローラから発せられ、PWM回路338は、PID制御から加速制御部339Aによる加速制御を選択するようになる。加速制御部339Aは、起動初期デューティ信号の信号値DX0を出力する。そして、加速制御部339Aは、DXPの増分でデューティ信号の信号値を徐々に上昇させる。その後、制御はPID制御へと移行するが、やはりあるときにキャリッジ41の移動速度が急激に上昇するため、キャリッジモータ制御部128は、キャリッジモータ42の駆動力を急速に低下させ、キャリッジ41は再度停止することとなる。
【0090】
このようにして、PWM回路338に入力されるデューディ信号の信号値は、増減変動を繰り返す。
【0091】
実際に、キャリッジ41がスティックスリップ動作を行ったか否か判定する方法としては、ここでは、PWM回路338に入力されるデューディ信号の信号値の極大値Vmaxと極小値Vminとを調べ、その極大値Vmaxと極小値Vminとの差ΔVに基づき、キャリッジ41がスティックスリップ動作を行ったか否か判定する。つまり、デューディ信号の信号値の極大値Vmaxと極小値Vminとの差ΔVが、所定のしきい値V0を超えたか否かチェックし、その差ΔVが所定のしきい値V0を超えていたときには、キャリッジ41がスティックスリップ動作を行っていると判定する。一方、デューディ信号の信号値の極大値Vmaxと極小値Vminとの差ΔVが、所定のしきい値V0を超えなかった場合には、キャリッジ41がスティックスリップ動作を行わなかったと判定する。
【0092】
図14Bは、その判定方法の一例について詳しく説明したものである。まず、デューディ信号の信号値の極大値Vmaxと極小値Vminとを取得する。その取得した極大値Vmaxおよび極小値Vminから差ΔVを求める。キャリッジ41がスティックスリップ動作を行った場合には、同図に示すように、デューディ信号の信号値の極大値Vmaxと極小値Vminとの間に差ΔVが大きな値になる。この差ΔVを予め定めておいた所定のしきい値V0と比較することで、キャリッジ41がスティックスリップ動作を行ったか否か簡単に判定することができる。
【0093】
なお、ここで、キャリッジ41がスティックスリップ動作を行ったか否かの判定にあっては、PWM回路338に入力されるデューディ信号の信号値の極大値Vmaxと極小値Vminとの差ΔVが所定のしきい値V0を超えることが所定回数以上(例えば、2回以上等)発生した場合に、キャリッジ41がスティックスリップ動作を行っていると判定しても良い。
また、制御信号に基づきキャリッジ41がスティックスリップ動作を行ったか否かを判定する方法としては、デューディ信号の信号値の極大値Vmaxと極小値Vminとの差ΔVに基づき判定する以外に、他の方法により判定しても良い。
【0094】
(3)加速度に基づく判定
ここでは、キャリッジ41の加速度に基づき、キャリッジ41がスティックスリップ動作を行ったか否かを判定する。ここで、加速度は、キャリッジモータ制御部128の速度演算部334(図9参照)により取得する。つまり、速度演算部334は、リニア式エンコーダ51からの出力に基づき検出したキャリッジ41の移動速度を所定の時間間隔にて周期的に出力する。コントローラ126は、速度演算部334から周期的に送られてきたキャリッジ41の移動速度の差分からキャリッジ41の加速度を取得し、この差分に基づき、キャリッジ41がスティックスリップ動作を行ったか否かを判定する。
【0095】
図15は、キャリッジ41の加速度に基づきスティックスリップ動作を行ったか否かを判定する方法の一例を説明したものである。キャリッジ41がスティックスリップ動作を行った場合、キャリッジ41の移動速度は、同図に示すように、急激に上昇して、その後、急激に低下する。このようにして、キャリッジ41の加速度が非常に大きくなることから、この加速度に着目すれば、キャリッジ41がスティックスリップ動作を行ったか否か判定することができる。
【0096】
コントローラ126は、キャリッジモータ制御部128の速度演算部334から所定の時間間隔T0にて周期的にキャリッジ41の移動速度V1〜V6を取得する。そして、コントローラ126は、取得したキャリッジ41の移動速度V1〜V6から差分を加速度として逐次算出する。つまり、コントローラ126は、移動速度V1と移動速度V2とから「V2−V1」により差分ΔV21を、また、移動速度V2と移動速度V3とから「V3−V2」により差分ΔV32を、移動速度V3と移動速度V4とから「V4−V3」により差分ΔV43を、移動速度V4と移動速度V5とから「V5−V4」により差分ΔV54を、移動速度V5と移動速度V6とから「V6−V5」により差分ΔV65をそれぞれ算出する。
【0097】
そして、コントローラ126は、求めた差分ΔV21、ΔV32、ΔV43、ΔV54、ΔV65を所定のしきい値V0と比較して、その差分ΔV21、ΔV32、ΔV43、ΔV54、ΔV65が所定のしきい値V0を上回ったか否かをチェックする。その差分ΔV21、ΔV32、ΔV43、ΔV54、ΔV65が所定のしきい値V0を上回っていた場合には、コントローラ126は、キャリッジ41がスティックスリップ動作を行っていると判定する。一方、その差分ΔV21、ΔV32、ΔV43、ΔV54、ΔV65が所定のしきい値V0を上回っていなかった場合には、コントローラ126は、キャリッジ41がスティックスリップ動作を行っていないと判定する。
【0098】
なお、ここでは、キャリッジ41の加速時に着目してキャリッジ41がスティックスリップ動作を行ったか否かを判定していたが、この他に、キャリッジ41の減速時、即ちマイナス(−)の加速度(減速度)に着目して、キャリッジ41がスティックスリップ動作を行ったか否かを判定しても良い。
【0099】
また、キャリッジ41がスティックスリップ動作を行ったか否かの判定にあっては、求めた差分が所定のしきい値V0を上回った回数が所定回数以上(例えば、2回以上等)発生した場合に、キャリッジ41がスティックスリップ動作を行っていると判定しても良い。
【0100】
(4)所定の許容速度以下の時間に基づく判定
ここでは、キャリッジ41の移動開始から移動終了までの間に、キャリッジ41の移動速度が所定の許容下限値以下になった時間を計測するタイマの計測時間に基づき、キャリッジ41がスティックスリップ動作を行ったか否かを判定する。
【0101】
図16Aは、キャリッジモータ制御部128に設けられたタイマ60について説明したものである。タイマ60には、同図に示すように、リニア式エンコーダ51から速度演算部334や位置演算部331へと出力される出力信号が入力される。タイマ60は、リニア式エンコーダ51の出力信号を監視し、キャリッジ41の移動速度が所定の許容下限値以下になったとき、時間計測を開始する。ここでは、タイマ60は、リニア式エンコーダ51からの出力信号のパルスの周期が所定の周期よりも長くなったときに、時間計測を開始する。キャリッジ41の移動速度が所定の許容下限値以下ではなくなった場合には、タイマ60は時間計測を中止する。これにより、タイマ60は、キャリッジ41の移動速度が所定の許容下限値以下になった時間を計測する。タイマ60の計測時間に関する情報は、コントローラ126に伝達される。コントローラ126は、タイマ60から取得した計測時間に関する情報に基づき、キャリッジ41がスティックスリップ動作を行ったか否かを判定する。
【0102】
図16Bは、キャリッジ41がスティックスリップ動作を行ったか否かを判定する方法の一例を説明したものである。キャリッジ41がスティックスリップ動作を行った場合には、同図に示すように、キャリッジ41の移動速度が、急激に上昇して、急激に低下する。そして、キャリッジ41は、しばらく時間が経過してから再び移動を開始する。キャリッジ41は、移動開始から移動終了までの間に、このような移動動作と停止動作とを交互に繰り返す。
【0103】
一方、キャリッジ41がスティックスリップ動作を行わない場合には、通常、このような移動動作と停止動作とを交互に繰り返すことはない。つまり、キャリッジ41は、移動を開始してから移動を終了するまでの間に、所定時間以上、移動速度が所定の許容下限値以下になることはないのである。このことから、キャリッジ41が移動を開始した後、キャリッジ41の移動速度が所定の許容下限値VLを下回った時間Tを計測することで、キャリッジ41がスティックスリップ動作を行ったか否かを調べることができる。なお、ここで、所定の許容下限値VLは、キャリッジ41がスティックスリップ動作を行わずに移動した場合に、キャリッジ41の移動速度としては想定することができない十分に低い速度に設定される。この所定の許容下限値VLは、例えば、キャリッジ41が停止したときに時間計測を行うために、『0(ゼロ)』に近い値に設定されても良い。
【0104】
タイマ60は、リニア式エンコーダ51の出力信号を監視し、リニア式エンコーダ51からの出力信号のパルスの周期が所定の周期よりも長くなると、キャリッジ41の移動速度が所定の許容下限値VL以下であると判断して、時間計測を開始する。タイマ60による時間計測は、キャリッジ41の移動速度が所定の許容下限値VLを超えたと判断されるまで行われる。これにより、タイマ60は、キャリッジ41の移動速度が所定の許容下限値VLを下回った時間Tを計測する。タイマ60の計測結果は、タイマ60からコントローラ126へと伝達される。ここで、タイマ60からコントローラ126へは、タイマ60の計測時間Tがリアルタイムで伝達されてもよく、また、タイマ60による時間計測が終了した後、タイマ60の計測時間Tが伝達されても良い。
【0105】
コントローラ126は、タイマ60から伝達された計測時間Tと、所定のしきい値T0とを比較して、計測時間Tが所定のしきい値T0に達していた場合には、キャリッジ41がスティックスリップ動作を行っていると判定する。一方、タイマ60の計測時間Tが所定のしきい値T0に達していなかった場合には、コントローラ126は、キャリッジ41がスティックスリップ動作を行っていないと判定する。
【0106】
なお、ここで、キャリッジ41がスティックスリップ動作を行ったか否かの判定にあっては、計測時間Tが所定のしきい値T0に達した回数を計数して、その回数が所定回数以上(例えば、2回以上等)発生した場合に、キャリッジ41がスティックスリップ動作を行っていると判定しても良い。
【0107】
また、キャリッジ41がスティックスリップ動作を行ったか否かを判定する方法としては、これら(1)〜(4)以外の他の方法により実施しても良い。
【0108】
===実施形態===
<第1実施形態>
キャリッジ41の移動時において、低速の目標速度でキャリッジ41の移動を制御させたいものの、スティックスリップ動作が発生してしまうのならばより速い目標速度を設定してキャリッジ41の移動を制御したほうが望ましい状況もあり得る。例えば、キャリッジ41を低い目標速度で移動させようとすると、目標速度が低すぎ小さなデューティ信号値しか生成されない。そうすると、グリスの固化などを原因とするスティックスリップ動作の発生によってキャリッジ41が動きにくくなってしまう場合があり、最悪の場合、動きが停止してしまうおそれがある。
【0109】
このようなとき、目標速度を上げ、生成されるデューティ信号値を大きくすることで、キャリッジ41の目標停止位置での停止位置精度は低下するおそれがあるものの、緊急避難的にスティックスリップ動作を回避することができる。第1実施形態にかかるプリンタ1では、スティックスリップ動作が発生しない領域では、目標速度を低速に設定し、スティックスリップ動作が発生する領域では、緊急避難的な対応として目標速度をより高めの速度に変更してスティックスリップ動作の発生を抑制する。ここでは、このようにスティックスリップ動作の発生を抑制して、許容範囲内の停止位置にキャリッジ41を停止させるようにする。
【0110】
このような制御を行うために、第1実施形態にかかるインクジェットプリンタ1では、ガイドレール46上の領域を仮想的に8つの領域に分割する。そして、キャリッジ41を往路方向及び復路方向に所定の速度以下の速度で定速移動させ、各領域の各移動方向においてスティックスリップ動作が検出されたか否かに基づいてスティックスリップ動作ビットが設定される。そして、ある移動方向についてある領域のスティックスリップ動作ビットが1に設定されているときには、目標速度を出力させるためのデータをより高い目標速度を出力するためのデータへと変更してキャリッジ41の移動を制御する。
【0111】
図17Aは、ガイドレール46上の領域を8つの領域に分割したときの一例である。ここでは、すべて同じ幅を有するように領域が仮想的に8分割される。そして、起点から往路方向に順番に領域A〜領域Hが割り当てられる。
【0112】
初期動作において、キャリッジ41が起点から往路方向に所定の速度以下の速度で定速移動させられる。そして、このとき、前述のいずれかのスティックスリップ動作の判定方法によってスティックスリップ動作が検出される。例えば、キャリッジ41の移動速度に基づいてスティックスリップ動作を行っているか否かが判定される。そして、スティックスリップ動作が一度でも検出されると、検出された位置の存在する領域がスティックスリップ領域とされる。例えば、図17Aにおいて、往路方向の移動中に領域Cにおいてスティックスリップ動作が検出されている。よって、領域Cがスティックスリップ領域とされる。尚、位置の判定については、リニア式エンコーダ51とコントローラ126によるカウント値に基づいて判定される。
【0113】
図17Bは、メインメモリ127に記憶されるスティックスリップ領域バイトデータの一例を示す図である。スティックスリップ領域バイトデータは、往路用と復路用の2つが用意される。それぞれの、スティックスリップ領域バイトデータは、領域A〜領域Hまでの8つのスティックスリップ動作ビットによって構成される。よって、スティックスリップ領域バイトデータには、ある方向に移動したときの領域A〜領域Hのそれぞれがスティックスリップ領域であるか否かが記録される。ここでは、スティックスリップ領域である領域のスティックスリップ動作ビットには1が記録され、そうでない領域に対応するスティックスリップ動作ビットには0が記録される。図17Aにおいて、往路方向の領域Cがスティックスリップ領域とされているので、往路方向の領域Cのスティックスリップ動作ビットは1が記録され、そのほかのスティックスリップ動作ビットは0とされる。
【0114】
上述と同様の方法によって、復路用のスティックスリップ領域バイトデータにも値が設定される。図17Aにおいて、復路方向の移動では領域Aにおいてスティックスリップ動作が検出されたので、図17Bの復路用のスティックスリップ領域バイトデータの領域Aに対応するスティックスリップ動作ビットには、1が設定される。図17Bを参照すると、往路用のスティックスリップ領域バイトデータと復路用のスティックスリップ領域バイトデータとは異なるデータとなっている。これは、往路と復路とではスティックスリップ動作の検知される位置が異なっているためである。
【0115】
≪目標速度の変更≫
図18Aは、キャリッジ41の目標位置と現在位置との位置偏差に対する目標速度を示す図である。ここでは、目標速度を求めるためのデータとして目標速度データG1と目標速度データG2が変換器333内に用意されている。目標速度データは、位置偏差に対して目標速度が決まるデータである。そして、目標速度データG2における位置偏差に対する目標速度は、目標速度データG1における同じ位置偏差に対する目標速度よりも大きな値となるようになっている。これらの目標速度は、位置偏差が0からl1までは比例的に増加するように設定されており、それよりも位置偏差が大きいときは一定値となるようにされている。
【0116】
目標速度データG1のl1以降の目標速度(最高速度)はVs1とされ、具体的には0.0127(m/s)に設定されている。また、目標速度データG2の最高速度はVs2とされ、具体的には0.102(m/s)に設定されている。尚、インク滴を吐出させながらキャリッジ41が定速で移動するときの最高速度は、0.508(m/s)である。
【0117】
図18Bは、スティックスリップ動作時のキャリッジ41の最高速度と目標速度データG2の目標最高速度Vs2との関係を説明するための図である。この図において、点線はスティックスリップ動作時のキャリッジ41の速度変化を示す。また、実線は、目標速度がVs2にされたときのキャリッジ41の速度変化を示す。
【0118】
スティックスリップ動作時において、キャリッジ41は最高速度Vstmaxで周期的に速度を増減しながら移動を行う。目標速度データG2の目標速度Vs2は、このスティックスリップ動作時のキャリッジ41の最高速度Vstmaxよりも高い値に設定される。このようにキャリッジ41が目標速度Vs2で移動させられると、スティックスリップ動作により急速にキャリッジ41の移動速度が上昇する。しかし、目標速度がより高い速度Vs2に設定されているため急速に移動速度を減少させようとする制御が行われず、移動速度は目標速度Vs2に収束する。そして、結果としてスティックスリップ動作の発生を抑制することができるようになっている。
【0119】
以上のように、目標速度データG2における目標速度Vs2は、目標速度をインクの吐出時の速度までは上げないものの、スティックスリップ動作が発生したときの最高速度Vstmaxよりも高い速度に設定される。そして、スティックスリップ動作を発生しにくくしつつも、キャリッジ41の目標位置での停止精度をできるだけ低下させないようにしている。
【0120】
印刷時において、所定の速度以下の速度でキャリッジ41を定速移動するときに、メインメモリ127に記憶された移動方向ごとのスティックスリップ領域バイトデータに基づいてキャリッジモータ42が制御される。具体的には、所定の速度以下で定速移動させるときにおいて、コントローラ126は、メインメモリ127から、対応する移動方向のスティックスリップ領域バイトデータを読み出す。そして、コントローラ126は、このデータを参照し、スティックスリップ領域にキャリッジ41が位置しないときには、変換器333が目標速度データG1を用いて目標速度を出力するようにする。一方、キャリッジ41がスティックスリップ領域に位置するとき、コントローラ126は、変換器333が目標速度データG2を用いて目標速度を出力させるようにする。尚、参照される目標速度データG1とG2との切り替えは、コントローラ126からキャリッジモータ制御部128に切り替えの指示が与えられることにより行われる。
【0121】
たとえば、キャリッジ41の位置が目標位置に対して離れており、位置偏差がl1よりも大きいときを考える。このようなときに、キャリッジ41がスティックスリップ領域にないとき、変換器333は目標速度データG1を参照し、目標速度としてVs1を減算器335に出力する。そうすると、キャリッジ41は速度Vs1で移動するように速度制御される。
その後、キャリッジ41が移動してスティックスリップ領域に入ると(位置偏差はまだl1よりも大きい)、コントローラ126の指示により変換器333が参照する目標速度データがG2へと切り替えられる。そうすると、変換器333は、目標速度データG2を参照し、目標速度としてVs2を減算器335に出力する。そして、キャリッジ41は速度Vs2で移動するように速度制御される。
【0122】
このように、キャリッジ41がスティックスリップ領域にあるときは、より速い目標速度を出力するように目標速度データG2を参照して目標速度を設定することで、スティックスリップ動作の発生を抑制することができる。尚、目標速度Vs2は、スティックスリップ動作の発生を抑制することができる目標速度であれば、スティックスリップ動作時のキャリッジ41の最高速度Vstmaxよりも低い値に設定されることとしてもよい。
【0123】
また、ここでは、ガイドレール46を仮想的に8分割したが、より細かく分割することとしてもよい。
【0124】
図19は、コントローラ126の対応処理の一例を説明するフローチャートである。電源投入時の初期動作のときにおいて、キャリッジ41は所定の速度以下の速度にて定速移動され、コントローラ126はスティックスリップ動作を検出する。そして、コントローラ126は、検出結果に基づいてスティックスリップ領域をメインメモリ127に記憶する(S202)。
次に通常の印刷処理に入る前に、コントローラ126は、記憶したスティックスリップ領域をメインメモリ127から読み出す(S204)。
次に、通常の印刷処理時においてキャリッジ41を所定の速度以下の速度にて定速移動させるときに、キャリッジ41がスティックスリップ領域にあるときは、目標速度を上げてキャリッジモータ42を制御する(S206)。
【0125】
このように、キャリッジ41がスティックスリップ領域にあるときには、目標速度を上げてキャリッジモータ42を制御するので、スティックスリップ動作の発生を抑制することができる。
【0126】
<第2実施形態>
第2実施形態にかかるインクジェットプリンタ1では、プリンタの電源投入時において、キャリッジ41を所定の速度以下の速度で往路方向及び復路方向に定速移動させ、スティックスリップ動作が検出された位置を特定する。そして、スティックスリップ動作が検出された位置を中心とした所定の範囲を、移動方向ごとにスティックスリップ領域としてメインメモリ127に記憶する。そして、実際の印刷動作時においてキャリッジ41を低速移動させようと制御するとき、各移動方向のスティックスリップ領域にキャリッジ41があるときには、目標速度を出力させるためのデータ(目標速度データG1)をより高い目標速度を出力するためのデータ(目標速度データG2)へと変更して、キャリッジ41の移動を制御する。
【0127】
尚、第1実施形態ではガイドレール46があらかじめ仮想的に分割され、所定の領域が規定されていた。そして、その規定されていた領域についてスティックスリップ領域が設定された。第2実施形態では、あらかじめ所定の領域が決められるのではなく、スティックスリップ動作が検出された位置を中心として所定の範囲がスティックスリップ領域として設定される点で第1実施形態と異なっている。以下に、この動作について説明する。
【0128】
図20は、スティックスリップ動作が検出された位置とスティックスリップ領域との関係を説明するための図である。図20において、キャリッジ移動方向の最左端(図2)を往路の起点とする。そして、本実施形態において、起点のカウント値を0とし、キャリッジ41が往路方向(図2における右方向へのキャリッジ移動方向)に進行するに従ってカウント値が増加するようになっている。
【0129】
インクジェットプリンタ1に搭載されている前述のリニア式エンコーダ51は、720dpiの解像度でキャリッジ41の位置を特定できる。そして、起点のカウント値を0として、往路方向に720dpi進むごとにカウント値がインクリメントされる。例えば、カウント値が「100」のときは、起点から100/720インチ進んだ位置であることを示す。
【0130】
電源が投入されると初期動作の一つとして、スティックスリップ領域の記憶動作が行われる。スティックスリップ領域の記憶動作は往路方向と復路方向の2つがある。往路方向と復路方向のスティックスリップ領域の記憶動作はキャリッジ41の移動方向が異なるだけであるので、ここでは往路方向におけるスティックスリップ領域の記憶動作について説明する。
【0131】
まず、キャリッジ41が起点(カウント値0)から往路方向に所定の速度以下の速度で定速移動させられる。そして、このとき前述のいずれかのスティックスリップ動作の判定方法によってスティックスリップ動作が検出される。例えば、キャリッジ41の移動速度に基づいてスティックスリップ動作を行っているか否かが判定される。そして、スティックスリップ動作が検出されると、検出された位置を中心として所定の範囲がスティックスリップ領域とされる。
【0132】
例えば図20において、位置Aにおいてスティックスリップ動作が検出される。そうすると、コントローラ126は、この位置Aの周囲aの範囲をスティックスリップ領域と決める。たとえば、範囲aを100カウント分とし、位置Aのカウント値が300であったとすると、スティックスリップ領域は、カウント値が200〜400の範囲ということになる。
【0133】
次に、これに基づいてスティックスリップ領域が設定される。ここでは、スティックスリップ領域の始点カウント値と終点カウント値がメインメモリ127に記憶される。例えば、上述のようにカウント値300の位置においてスティックスリップ動作が検出されると、カウント値が200〜400の範囲がスティックスリップ領域としてメインメモリ127に記憶される。
【0134】
図21Aは、メインメモリ127に記憶されるスティックスリップ領域の始点カウント値と終点カウント値を示す図である。例えば、図21Aでは、スティックスリップ領域の始点カウント値が200とされ終点カウント値が400として記憶されており、カウント値200〜400の範囲がスティックスリップ領域であるとされている。
【0135】
図21Bは、スティックスリップ領域が重複するときの処理例である。再度、図20を参照すると、位置B及び位置Cにおいてスティックスリップ動作が検出されている。位置Bのカウント値が1700であり、位置Cのカウント値が1800とすると、位置Bに対応するスティックスリップ領域は1600〜1800であり、位置Cに対応するスティックスリップ領域は1700〜1900である。この場合、1700〜1800の範囲でスティックスリップ領域が重複しているが、この場合、図21Bの右図に示すように、1600〜1900の範囲がスティックスリップ領域として記憶される。
【0136】
このスティックスリップ領域が重複するときの処理は、例えば次のようにして行われる。最初に位置Bに対応するスティックスリップ領域として始点カウント値に1600が記録され終点カウント値として1800が記録される。次に位置Cに対応するスティックスリップ領域として始点カウント値に1700が記録され終点カウント値に1900が記録される。そして、この始点カウント値1700が前のスティックスリップ領域1600〜1800の間に入っているか否かを判定する。ここで、始点カウント値1700は前のスティックスリップ領域の間に入っているので、後のスティックスリップ領域の終点カウント値1900を前の終点カウント値に記録することとし、後のスティックスリップ領域のデータ(始点カウント値1700、終点カウント値1900)を削除する。このようにして、スティックスリップ領域が重複するときには、これらのスティックスリップ領域を結合する。
【0137】
図22Aは、往路方向のスティックスリップ領域の始点カウント値と終点カウント値を示す図である。図22Bは、復路方向のスティックスリップ領域の始点カウント値と終点カウント値を示す図である。このようにして、電源投入時の初期動作において所定の速度でキャリッジ41を定速移動させ、スティックスリップ動作を検出し、これに基づいて往路方向のスティックスリップ領域を記憶していく。また、ほぼ同様の方法によって、復路方向のスティックスリップ領域を記憶していく。図22Aと図22Bを参照すると、往路用のスティックスリップ領域の始点カウント値及び終点カウント値は、復路用のスティックスリップ領域の始点カウント値及び終点カウント値と異なっている。これは、往路と復路とではスティックスリップ動作の検知される位置が異なっているためである。
【0138】
次に、初期動作以外のときに所定の速度以下の速度で往路方向に定速移動するときに、記憶された往路方向のスティックスリップ領域に基づいてキャリッジモータ42を制御する。具体的には、往路方向に所定の速度以下で定速移動させるときにおいて、コントローラ126は、メインメモリ127から、記憶した往路方向のスティックスリップ領域の始点カウント値及び終点カウント値をすべて読み出す。そして、スティックスリップ領域にキャリッジ41があるときには、第1実施形態の「目標速度の変更」と同様に、変換器333が参照する目標速度データを図19のG1からG2へと切り替えてキャリッジモータ42を制御する。
【0139】
また、初期動作以外のときに所定の速度以下の速度で復路方向に定速移動するときに、記憶された復路方向のスティックスリップ領域に基づいてキャリッジモータ42を制御する。具体的には、復路方向に所定の速度以下で定速移動させるときにおいて、コントローラ126は、メインメモリ127から、記憶した復路方向のスティックスリップ領域の始点カウント値及び終点カウント値をすべて読み出す。そして、スティックスリップ領域にキャリッジ41があるときには、第1実施形態の「目標速度の変更」と同様に、変換器333が参照する目標速度データを図19のG1からG2へと切り替えてキャリッジモータ42を制御する。
【0140】
このように、スティックスリップ動作を検出した位置に基づいてスティックスリップ領域を記憶して、このスティックスリップ領域では目標速度をより速い目標速度となるようにしてキャリッジ41の動きを制御するので、スティックスリップ動作の発生を抑制することができる。
【0141】
<第3実施形態>
第3実施形態にかかるインクジェットプリンタ1では、キャリッジ41を所定の速度以下の速度で移動させているときにスティックスリップ動作が発生したか否かの検知を行う。そして、スティックスリップ動作が検知されると、前述の実施形態と同様に、コントローラ126は、変換器333が参照する目標速度データを図19のG1からG2へと切り替えてキャリッジモータ42を制御する。
【0142】
図23は、第3実施形態におけるスティックスリップ動作の検出位置と目標速度との関係を説明するための図である。ここでは、キャリッジ41が往路方向に移動させられているときについて考える。印刷動作時において、キャリッジ41が所定の速度以下の速度で定速移動させられる。このとき、前述のいずれかのスティックスリップ動作の判定方法によってスティックスリップ動作が検出される。例えば、キャリッジ41の移動速度に基づいてスティックスリップ動作が行われているか否かが判定される。そして、スティックスリップ動作が図23の位置Sにおいて検出されると、検出された位置から往路方向の目標停止位置に移動するまでの間、コントローラ126によって変換器333が参照する目標速度データがG1からG2へと切り替えられる。そして、変換器333が目標速度データG1を参照して出力していたときよりも速い目標速度を減算器335に出力してキャリッジモータ42を制御する。
【0143】
復路方向にキャリッジ41が所定の速度以下の速度で定速移動させられるときも、往路方向と同様の制御が行われる。つまり、往路方向において移動中にスティックスリップ動作が検出されると、検出された位置から復路方向における目標停止位置に移動するまでの間、コントローラ126によって変換器333が参照する目標速度データがG1からG2へと切り替えられる。そして、変換器333は、目標速度データG1を参照して出力していたときよりも速い目標速度を減算器335に出力してキャリッジモータ42を制御する。
【0144】
このようにすることで、スティックスリップ動作が発生するときには、より速い目標速度でキャリッジモータ42の移動を制御するので、それ以降のスティックスリップ動作の発生を抑制することができる。
【0145】
<その他の目標速度制御について>
図24は、別の形態のコントローラ126’とキャリッジモータ制御部128’を説明するための図である。図24に示すコントローラ126’は、前述のコントローラ126にキャリッジ41の位置に対応する目標速度を出力する機能が追加される。また、図24に示すキャリッジモータ制御部128’の構成は図9のキャリッジモータ128の構成と似た構成になっている。よって、同じ要素については同じ符号を付して説明を省略し、以下に異なっている箇所について説明を行う。
【0146】
図24においてキャリッジモータ制御部128’の位置演算部331の出力は、コントローラ126’に接続している。またコントローラ126’の出力は、減算器335に接続している。そして、符号332の減算器及び変換器333を含まない構成となっている。
【0147】
図25は、キャリッジ41の位置に対する目標速度を示す図である。ここでは、目標速度を求めるためのデータとして目標速度データg1及びg2が用意されている。目標速度データは、キャリッジ41の位置に対して目標速度が決まるデータになっている。そして、目標速度データg2におけるキャリッジ41の位置に対する目標速度は、目標速度データg1におけるキャリッジ41の同じ位置に対する目標速度よりも大きな値となるようにされている。
キャリッジ41の目標停止位置はDに設定されている。また、キャリッジ41が位置0から位置dまでにおいて目標速度は一定の値が出力されるようになっている。そして、位置dから目標位置Dまでにかけて比例的に目標速度が下げられるようになっている。
【0148】
コントローラ126’は、位置演算部331からキャリッジ41の検出位置を取得する。コントローラ126’は、検出位置を取得すると、図25の目標速度データg1を参照し、キャリッジ41の位置に対応する目標速度を減算器335に出力する。例えば、キャリッジ41の位置が0からdまでの間のとき、コントローラ126’は目標速度としてVs1を減算器335に出力する。
【0149】
第1実施形態及び第2実施形態においてこのコントローラ126’及びキャリッジモータ制御部128’を採用する場合、キャリッジ41がスティックスリップ領域に入ったときに、コントローラ126’が参照する目標速度データがg1からg2へと切り替えられる。例えば、キャリッジ41がスティックスリップ領域にあり、さらにキャリッジ41の位置が0からdまでの間のとき、目標速度としてVs2が減算器335に出力される。
【0150】
また、第3実施形態においてコントローラ126’及びキャリッジモータ制御部128’を採用する場合、キャリッジ41のスティックスリップ動作が検知されたときに、コントローラ126’が参照する目標速度データがg1からg2へと切り替えられる。
【0151】
このように、コントローラ126’が目標速度データg1及びg2を有することとするので、目標速度の切り替えを容易に行うことができる。
【0152】
===まとめ===
(1)本実施形態による印刷装置1では、紙Sに対して印刷を施すヘッド21と、このヘッド21を移動させるためのキャリッジモータ42と、ヘッド21を所定の方向に沿って案内するためのガイドレール46と、ヘッド21がスティックスリップ動作を行うか否かを判定するコントローラ126と、ヘッド21を移動させるときにキャリッジモータ42を制御するためのデューティ信号値を生成するキャリッジモータ制御部128とを備える。そして、キャリッジモータ制御部128は、ヘッド21がスティックスリップ動作を行わないというコントローラ126の判定に基づいて、ヘッド21を所定の目標速度で移動させるためのデューティ信号値を生成し、ヘッド21がスティックスリップ動作を行うというコントローラ126の判定に基づいて、ヘッド21を所定の目標速度よりも速い目標速度で移動させるためのデューティ信号値を生成する。
【0153】
このように、スティックスリップ動作を行うという判定に基づいて、スティックスリップ動作を行わないという判定のときよりも速い目標速度でヘッド21を移動させるのでスティックスリップ動作の発生を抑制することができる。
【0154】
(2)また、この印刷装置1において、所定の目標速度よりも速い目標速度は、ヘッド21の目標停止位置までの距離に基づいて設定される。
このようにすることで、ヘッド21の目標停止位置までの距離に応じた速度制御を行うことができる。
【0155】
(3)また、この印刷装置1において、ヘッド21の目標停止位置までの距離が所定の距離よりも離れているとき、所定の目標速度よりも速い目標速度は一定値に設定される。
このようにすることで、ヘッド21の目標停止位置までの距離が所定の距離よりも離れているときには、一定値の最高速度を目標速度として設定することができる。
【0156】
(4)また、この印刷装置1において、ヘッド21の目標停止位置までの距離が所定の距離よりも離れているとき、所定の目標速度よりも速い目標速度は、スティックスリップ動作時のヘッド21の最高速度Vstmaxよりも高い速度に設定される。
このようにすることで、所定の目標速度よりも速い目標速度にヘッド21の速度が収束するので、スティックスリップ動作の発生を抑制することができる。
【0157】
(5)また、印刷装置1は、コントローラ126によってヘッド21がスティックスリップ動作を行うと判定された位置に基づいて設定されたスティックスリップ領域を記憶する記憶部をさらに備える。また、キャリッジモータ制御部128は、ヘッド21がスティックスリップ領域にないときには、ヘッド21を所定の目標速度で移動させるためのデューティ信号値を生成し、ヘッド21がスティックスリップ領域にあるときには、ヘッド21を所定の目標速度よりも速い目標速度で移動させるためのデューティ信号値を生成する。
【0158】
このように、ヘッド21がスティックスリップ動作を行いうるスティックスリップ領域にあるときに、ヘッド21を所定の目標速度よりも速い目標速度で移動させるので、スティックスリップ動作の発生を抑制することができる。
【0159】
(6)また、メインメモリ127は、コントローラ126によってヘッド21がスティックスリップ動作を行うと判定された位置から所定の範囲を前記スティックスリップ領域であるとして記憶する。
このようにすることで、容易にスティックスリップ領域を設定することができる。
【0160】
(7)また、コントローラ126が、スティックスリップ動作を行っているか否かを判定するのは、ヘッド21をガイドレール46に沿って所定の速度以下にて移動させるときである。
このようにすることで、スティックスリップ動作が発生しやすいようなヘッド21を所定の速度以下にて移動させているときにスティックスリップ動作を行っているか否かを判定することができる。
【0161】
(8)また、印刷装置1は、ヘッド21の移動速度を検出する速度検出部をさらに備える。そして、コントローラ126は、この速度検出部により検出された移動速度に基づき、ヘッド21がスティックスリップ動作を行っているかを判定する。
【0162】
(9)また、コントローラ126は、デューティ信号値に基づき、ヘッド21がスティックスリップ動作を行っているか否かを判定することもできる。
【0163】
(10)また、印刷装置1は、ヘッド21の加速度を検出する加速度検出部をさらに備える。そして、コントローラ126は、加速度検出部により検出された加速度に基づき、ヘッド21がスティックスリップ動作を行っているか否かを判定する。
(11)また、印刷装置1は、ヘッド21の移動開始から移動終了までの間に、ヘッド21の移動速度が所定の許容下限値以下になった時間を計測するタイマをさらに備える。そして、コントローラ126は、タイマの計測時間に基づき、ヘッド21がスティックスリップ動作を行っているか否かを判定する。
このような判定を行えば、ヘッド21がスティックスリップ動作を行っているか否かを簡単に判定することができる。
【0164】
(12)また、ヘッド21は、紙Sに対して印刷を施すために紙Sに向けてインクを吐出するノズルを備えている。
【0165】
(13)また、前述の構成要素のほぼ全てを含む印刷装置によれば、既述のほぼ全ての効果を奏するため、本発明の目的が最も有効に達成される。
【0166】
(14)また、紙Sに対して印刷を施すヘッド21を、このヘッド21を所定の方向に沿って案内するガイドレール46に沿って移動させるために、ヘッド21を移動させるキャリッジモータ42を制御するためのデューティ信号値を生成するステップと、ヘッド21がスティックスリップ動作を行うか否かを判定するステップと、ヘッド21がスティックスリップ動作を行わないという判定に基づいて、ヘッド21を所定の目標速度で移動させるためのデューティ信号値を生成し、ヘッド21がスティックスリップ動作を行うという判定に基づいて、ヘッド21を所定の目標速度よりも速い目標速度で移動させるためのデューティ信号値を生成するステップと、を含むスティックスリップ対応方法があることはいうまでもない。
【0167】
(15)また、上述のスティックスリップ対応方法を実行するためのプログラムがあることはいうまでもない。すなわちこのプログラムは、紙Sに対して印刷を施すヘッド21を、このヘッド21を所定の方向に沿って案内するガイドレール46に沿って移動させるために、ヘッド21を移動させるキャリッジモータ42を制御するためのデューティ信号値を生成するステップと、ヘッド21がスティックスリップ動作を行うか否かを判定するステップと、ヘッド21がスティックスリップ動作を行わないという判定に基づいて、ヘッド21を所定の目標速度で移動させるためのデューティ信号値を生成し、ヘッド21がスティックスリップ動作を行うという判定に基づいて、ヘッド21を所定の目標速度よりも速い目標速度で移動させるためのデューティ信号値を生成するステップと、を実行させる。
【0168】
(16)さらに、前述の印刷装置に接続可能なコンピュータを接続した印刷システムがあることもいうまでもない。
【0169】
===印刷システム等の構成===
次に、本発明に係る印刷システムの一実施形態として、印刷装置としてインクジェットプリンタ1を備えた場合を例に説明する。図26は、印刷システムの一実施形態の外観構成を示したものである。この印刷システム300は、コンピュータ140と、表示装置304と、入力装置306とを備えている。コンピュータ140は、パーソナルコンピュータなどをはじめとする各種コンピュータにより構成される。
【0170】
コンピュータ140は、FDドライブ装置314やCD−ROMドライブ装置316などの読み取り装置312を備える。この他に、コンピュータ140は、例えば、MO(Magnet Optical)ディスクドライブ装置やDVDドライブ装置などを備えても良い。また、表示装置304は、CRTディスプレイやプラズマディスプレイ、液晶ディスプレイ等など、各種表示装置により構成される。入力装置306は、キーボード308やマウス310などにより構成される。
【0171】
図27は、本実施形態の印刷システムのシステム構成の一例を示したブロック構成図である。コンピュータ140は、FDドライブ装置314やCD−ROMドライブ装置316などの読み取り装置312の他に、CPU318と、メモリ320と、ハードディスクドライブ322とを備えている。
【0172】
CPU318は、コンピュータ140の全体の制御を行う。また、メモリ320には、各種データが記憶される。ハードディスクドライブ322には、本実施形態のインクジェットプリンタ1等の印刷装置を制御するためのプログラムとして、プリンタドライバなどがインストールされている。CPU318は、ハードディスクドライブ322に記憶されたプリンタドライバなどのプログラムを読み込んで、プログラムに従って動作する。また、CPU318には、コンピュータ140の外部に設置された表示装置304や入力装置306、インクジェットプリンタ1などが接続される。
【0173】
なお、このようにして実現された印刷システム300は、システム全体として従来システムよりも優れたシステムとなる。
【0174】
===その他の実施の形態===
以上、実施形態に基づき、本発明に係るプリンタ等の印刷装置について説明したが、上記の実施の形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更または改良され得るとともに、本発明には、その等価物が含まれることは言うまでもない。特に、以下に述べる実施形態であっても、本発明に係る印刷装置に含まれるものである。
【0175】
<印刷ヘッドについて>
前述した実施の形態では、印刷ヘッド(ヘッド21)が、インクを吐出するノズル♯1〜♯180を有し、各ノズル♯1〜♯180からそれぞれインクを吐出して印刷をするようになっていたが、ここでいう印刷ヘッドにあっては、必ずしもこのようなヘッド21に限らない。つまり、媒体に対して印刷を施すのであれば、どのような形態の印刷ヘッドであっても構わない。
【0176】
<モータについて>
前述した実施の形態では、「モータ」としてキャリッジモータ42が、プーリ44と、タイミングベルト45とを介してキャリッジ41を移動させていたが、「印刷ヘッド」を移動させるための「モータ」にあっては、必ずしもこのようなモータに限らない。つまり、媒体に対して印刷を施す印刷ヘッドを移動させるためのモータであれば、どのようなモータであっても構わない。
【0177】
<ガイド部について>
前述した実施の形態では、印刷ヘッド(ヘッド21、キャリッジ41)を所定の方向に沿って案内する「ガイド部」として、印刷ヘッド(ヘッド21、キャリッジ41)を横方向に直線状に案内するガイドレール46が開示されていたが、「ガイド部」にあっては、必ずしもこのようなガイドレール46のみとは限らない。つまり、印刷ヘッド(ヘッド21、キャリッジ41)を所定の方向に沿って案内するためのガイド部であれば、どのようなタイプのガイド部であっても構わない。
【0178】
<モータ制御部について>
前述した実施の形態では、「モータ制御部」としてキャリッジモータ制御部128を例にして、モータ(キャリッジモータ42)に対してPID制御等を実行するモータ制御部について説明したが、ここでいう「モータ制御部」にあっては、必ずしもこのようなモータ制御部に限らない。つまり、「モータ」を制御する制御部であれば、モータを制御する制御方式はどのような方式であっても構わない。例えば、PID制御等以外の他の方式によりモータを制御するモータ制御部であっても構わない。
【0179】
<印刷装置について>
前述した実施の形態では、印刷装置としては、前述したようなインクジェットプリンタ1の場合を例にして説明したが、このような印刷装置に限らず、他の方式によりインクを吐出するインクジェットプリンタであっても良い。
また、この他に、印刷装置としては、前述したインクジェットプリンタ1以外に、媒体に対して印刷を施し、かつ所定の方向に沿って移動可能に設けられた印刷ヘッドを備えた印刷装置であれば、どのようなタイプの印刷装置であっても構わない。
【0180】
<インクについて>
使用するインクについては、顔料インクであっても良く、また染料インクなど、その他各種インクであっても良い。
インクの色については、前述したイエロ(Y)、マゼンダ(M)、シアン(C)、ブラック(K)の他に、ライトシアン(LC)やライトマゼンダ(LM)、ダークイエロ(DY)をはじめ、例えば、レッドやバイオレット、ブルー、グリーンなど、その他の色のインクを使用しても良い。
【0181】
<媒体について>
媒体については、普通紙やマット紙、カット紙、光沢紙、ロール紙、用紙、写真用紙、ロールタイプ写真用紙等をはじめ、これらの他に、OHPフィルムや光沢フィルム等のフィルム材や布材、金属板材などであっても構わない。すなわち、印刷対象となり得るものであれば、どのような媒体であっても構わない。
【図面の簡単な説明】
【0182】
【図1】本発明に係る印刷装置の一実施形態の斜視図である。
【図2】印刷装置の内部構成を説明した斜視図である。
【図3】印刷装置の搬送部を示す断面図である。
【図4】印刷装置のシステム構成を示すブロック構成図である。
【図5】印刷装置のヘッドの一例を示す平面図である。
【図6】リニア式エンコーダの一例を説明した説明図である。
【図7】リニア式エンコーダの検出部の構成を示す構成図である。
【図8】図8Aは、正転時のリニア式エンコーダの出力波形を示したタイミングチャートであり、図8Bは、逆転時のリニア式エンコーダの出力波形を示したタイミングチャートである。
【図9A】キャリッジモータ制御部128の回路構成の一例を示したブロック構成図である。
【図9B】位置偏差に対応して変換器333が出力する目標速度Vtを示す目標速度データである。
【図10】図10Aは、デューティ信号の時間変化のグラフであり、図10Bは、モータの速度変化のグラフである。
【図11】印刷処理の一例を説明するフローチャートである。
【図12】キャリッジがスティックスリップ動作を行ったときの移動速度の変化の説明図である。
【図13A】移動速度に基づくスティックスリップ動作の判定方法の一例の説明図である。
【図13B】移動速度に基づくスティックスリップ動作の判定方法の他の例の説明図である。
【図14A】スティックスリップ動作時のキャリッジの移動速度とデューディ信号の信号値との関係の説明図である。
【図14B】デューディ信号の信号値に基づくスティックスリップ動作の判定方法の一例の説明図である。
【図15】加速度に基づくスティックスリップ動作の判定方法の一例の説明図である。
【図16A】キャリッジモータ制御部のタイマの説明図である。
【図16B】タイマの計測結果に基づくスティックスリップ動作の判定方法の一例の説明図である。
【図17】図17Aは、ガイドレール46上の領域を8つの領域に分割したときの一例であり、メインメモリ127に記憶されるスティックスリップ領域バイトデータの一例を示す図である。
【図18】図18Aは、キャリッジ41の目標位置と現在位置との位置偏差に対する目標速度を示す図であり、図18Bは、スティックスリップ動作時のキャリッジ41の最高速度と目標速度データG2の目標最高速度Vs2との関係を説明するための図である。
【図19】コントローラ126の対応処理の一例を説明するフローチャートである。
【図20】スティックスリップ動作が検出された位置とスティックスリップ領域との関係を説明するための図である。
【図21】図21Aは、メインメモリ127に記憶されるスティックスリップ領域の始点カウント値と終点カウント値を示す図であり、図21Bは、スティックスリップ領域が重複するときの処理例である。
【図22】図22Aは、往路方向のスティックスリップ領域の始点カウント値と主点カウント値を示す図であり、図22Bは、復路方向のスティックスリップ領域の始点カウント値と終点カウント値を示す図である。
【図23】第3実施形態におけるスティックスリップ動作の検出位置と目標速度との関係を説明するための図である。
【図24】別の形態のコントローラ126’とキャリッジモータ制御部128’を説明するための図である。
【図25】キャリッジ41の位置に対する目標速度を示す図である。
【図26】印刷システムの一実施形態の外観構成を示したものである。
【図27】本実施形態の印刷システムのシステム構成の一例を示したブロック構成図である。
【符号の説明】
【0183】
1 インクジェットプリンタ、2 操作パネル、3 排紙部、4 給紙部、
5 操作ボタン、6 表示ランプ、7 排紙トレイ、8 給紙トレイ、
13 給紙ローラ、14 プラテン、15 搬送モータ、17A 搬送ローラ、
17B 排紙ローラ、18A フリーローラ、18B フリーローラ、21 ヘッド、
31 ポンプ装置、35 キャッピング装置、41 キャリッジ、
42 キャリッジモータ、44 プーリ、45 タイミングベルト、
46 ガイドレール、48 インクカートリッジ、49 カートリッジ装着部、
51 リニア式エンコーダ、53 紙検知センサ、60 タイマ、
122 バッファメモリ、124 イメージバッファ、126 コントローラ、
127 メインメモリ、128 キャリッジモータ制御部、
129 通信インターフェース、130 搬送制御部、132 ヘッド駆動部、
134 ロータリ式エンコーダ、140 コンピュータ、211Y イエロノズル列、
211C シアンノズル列、211M マゼンダノズル列、
211K ブラックノズル列、331 位置演算部、332 減算器、
333 変換器、334 速度演算部、335 減算器、336A 比例要素、
336B 積分要素、336C 微分要素、337 加算器、338 PWM回路、
339A 加速制御部、339B タイマ、340 ドライバ、342 リミッタ、
452 発光ダイオード、454 コリメータレンズ、
456 検出処理部、458 フォトダイオード、460 信号処理回路、
462A コンパレータ、462B コンパレータ、
464 リニア式エンコーダ符号板、466 検出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)媒体に対して印刷を施す印刷ヘッドと、
(B)前記印刷ヘッドを移動させるためのモータと、
(C)前記印刷ヘッドを所定の方向に沿って案内するためのガイド部と、
(D)前記印刷ヘッドがスティックスリップ動作を行うか否かを判定する判定部と、
(E)前記印刷ヘッドを移動させるときに前記モータを制御するための指令値を生成するモータ制御部であって、
前記印刷ヘッドがスティックスリップ動作を行わないという前記判定部の判定に基づいて、前記印刷ヘッドを所定の目標速度で移動させるための指令値を生成し、
前記印刷ヘッドがスティックスリップ動作を行うという前記判定部の判定に基づいて、前記印刷ヘッドを前記所定の目標速度よりも速い目標速度で移動させるための指令値を生成するモータ制御部と、
を備える印刷装置。
【請求項2】
前記所定の目標速度よりも速い目標速度は、前記印刷ヘッドの目標停止位置までの距離に基づいて設定される、請求項1に記載の印刷装置。
【請求項3】
前記印刷ヘッドの目標停止位置までの距離が所定の距離よりも離れているとき、前記所定の目標速度よりも速い目標速度は一定値に設定される、請求項1または2に記載の印刷装置。
【請求項4】
前記印刷ヘッドの目標停止位置までの距離が所定の距離よりも離れているとき、前記所定の目標速度よりも速い目標速度は、前記スティックスリップ動作時の前記印刷ヘッドの最高速度よりも高い速度に設定される、請求項1〜3のいずれかに記載の印刷装置。
【請求項5】
前記判定部によって前記印刷ヘッドが前記スティックスリップ動作を行うと判定された位置に基づいて設定されたスティックスリップ領域を記憶する記憶部をさらに備え、
前記モータ制御部は、前記印刷ヘッドが前記スティックスリップ領域にないときには、前記印刷ヘッドを前記所定の目標速度で移動させるための指令値を生成し、前記印刷ヘッドが前記スティックスリップ領域にあるときには、前記印刷ヘッドを前記所定の目標速度よりも速い目標速度で移動させるための指令値を生成する、請求項1〜4のいずれかに記載の印刷装置。
【請求項6】
前記記憶部は、前記判定部によって前記印刷ヘッドが前記スティックスリップ動作を行うと判定された位置から所定の範囲を前記スティックスリップ領域であるとして記憶する、請求項5に記載の印刷装置。
【請求項7】
前記判定部が、前記スティックスリップ動作を行っているか否かを判定するのは、前記印刷ヘッドを前記ガイド部に沿って所定の速度以下にて移動させるときである、請求項1〜6のいずれかに記載の印刷装置。
【請求項8】
前記印刷ヘッドの移動速度を検出する速度検出部をさらに備え、
前記判定部は、前記速度検出部により検出された前記移動速度に基づき、前記印刷ヘッドがスティックスリップ動作を行っているかを判定する、請求項1〜7のいずれかに記載の印刷装置。
【請求項9】
前記判定部は、前記指令値に基づき、前記印刷ヘッドがスティックスリップ動作を行っているか否かを判定する、請求項1〜7のいずれかに記載の印刷装置。
【請求項10】
前記印刷ヘッドの加速度を検出する加速度検出部をさらに備え、
前記判定部は、前記加速度検出部により検出された前記加速度に基づき、前記印刷ヘッドがスティックスリップ動作を行っているか否かを判定する、請求項1〜7のいずれかに記載の印刷装置。
【請求項11】
前記印刷ヘッドの移動開始から移動終了までの間に、前記印刷ヘッドの移動速度が所定の許容下限値以下になった時間を計測するタイマをさらに備え、
前記判定部は、前記タイマの計測時間に基づき、前記印刷ヘッドがスティックスリップ動作を行っているか否かを判定する、請求項1〜7のいずれかに記載の印刷装置。
【請求項12】
前記印刷ヘッドは、前記媒体に対して印刷を施すために前記媒体に向けてインクを吐出するノズルを備えている、請求項1〜11に記載の印刷装置。
【請求項13】
(A)媒体に対して印刷を施す印刷ヘッドと、
(B)前記印刷ヘッドを移動させるためのモータと、
(C)前記印刷ヘッドを所定の方向に沿って案内するためのガイド部と、
(D)前記印刷ヘッドがスティックスリップ動作を行うか否かを判定する判定部と、
(E)前記印刷ヘッドを移動させるときに前記モータを制御するための指令値を生成するモータ制御部であって、
前記印刷ヘッドがスティックスリップ動作を行わないという前記判定部の判定に基づいて、前記印刷ヘッドを所定の目標速度で移動させるための指令値を生成し、
前記印刷ヘッドがスティックスリップ動作を行うという前記判定部の判定に基づいて、前記印刷ヘッドを前記所定の目標速度よりも速い目標速度で移動させるための指令値を生成するモータ制御部と、
を備え、
前記所定の目標速度よりも速い目標速度は、前記印刷ヘッドの目標停止位置までの距離に基づいて設定され、
前記印刷ヘッドの目標停止位置までの距離が所定の距離よりも離れているとき、前記所定の目標速度よりも速い目標速度は一定値に設定され、
前記印刷ヘッドの目標停止位置までの距離が所定の距離よりも離れているとき、前記所定の目標速度よりも速い目標速度は、前記スティックスリップ動作時の前記印刷ヘッドの最高速度よりも高い速度に設定され、
前記判定部によって前記印刷ヘッドが前記スティックスリップ動作を行うと判定された位置に基づいて設定されたスティックスリップ領域を記憶する記憶部をさらに備え、前記モータ制御部は、前記印刷ヘッドが前記スティックスリップ領域にないときには、前記印刷ヘッドを前記所定の目標速度で移動させるための指令値を生成し、前記印刷ヘッドが前記スティックスリップ領域にあるときには、前記印刷ヘッドを前記所定の目標速度よりも速い目標速度で移動させるための指令値を生成し、
前記記憶部は、前記判定部によって前記印刷ヘッドが前記スティックスリップ動作を行うと判定された位置から所定の範囲を前記スティックスリップ領域であるとして記憶し、
前記判定部が、前記スティックスリップ動作を行っているか否かを判定するのは、前記印刷ヘッドを前記ガイド部に沿って所定の速度以下にて移動させるときであり、
前記印刷ヘッドの移動速度を検出する速度検出部をさらに備え、前記判定部は、前記速度検出部により検出された前記移動速度に基づき、前記印刷ヘッドがスティックスリップ動作を行っているかを判定し、
前記印刷ヘッドは、前記媒体に対して印刷を施すために前記媒体に向けてインクを吐出するノズルを備えている、印刷装置。
【請求項14】
媒体に対して印刷を施す印刷ヘッドを当該印刷ヘッドを所定の方向に沿って案内するガイド部に沿って移動させるために、前記印刷ヘッドを移動させるモータを制御するための指令値を生成するステップと、
前記印刷ヘッドがスティックスリップ動作を行うか否かを判定するステップと、
前記印刷ヘッドがスティックスリップ動作を行わないという前記判定に基づいて、前記印刷ヘッドを所定の目標速度で移動させるための指令値を生成し、前記印刷ヘッドがスティックスリップ動作を行うという前記判定に基づいて、前記印刷ヘッドを前記所定の目標速度よりも速い目標速度で移動させるための指令値を生成するステップと、
を含むスティックスリップ対応方法。
【請求項15】
媒体に対して印刷を施す印刷ヘッドを当該印刷ヘッドを所定の方向に沿って案内するガイド部に沿って移動させるために、前記印刷ヘッドを移動させるモータを制御するための指令値を生成するステップと、
前記印刷ヘッドがスティックスリップ動作を行うか否かを判定するステップと、
前記印刷ヘッドがスティックスリップ動作を行わないという前記判定に基づいて、前記印刷ヘッドを所定の目標速度で移動させるための指令値を生成し、前記印刷ヘッドがスティックスリップ動作を行うという前記判定に基づいて、前記印刷ヘッドを前記所定の目標速度よりも速い目標速度で移動させるための指令値を生成するステップと、
を実行するプログラム。
【請求項16】
コンピュータと、当該コンピュータに接続可能な印刷装置とを備えた印刷システムであって、
媒体に対して印刷を施す印刷ヘッドと、
前記印刷ヘッドを移動させるためのモータと、
前記印刷ヘッドを所定の方向に沿って案内するためのガイド部と、
前記印刷ヘッドがスティックスリップ動作を行うか否かを判定する判定部と、
前記印刷ヘッドを移動させるときに前記モータを制御するための指令値を生成するモータ制御部であって、
前記印刷ヘッドがスティックスリップ動作を行わないという前記判定部の判定に基づいて、前記印刷ヘッドを所定の目標速度で移動させるための指令値を生成し、
前記印刷ヘッドがスティックスリップ動作を行うという前記判定部の判定に基づいて、前記印刷ヘッドを前記所定の目標速度よりも速い目標速度で移動させるための指令値を生成するモータ制御部と、
を備える印刷システム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9A】
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【図9B】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13A】
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【図13B】
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【図14A】
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【図14B】
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【図15】
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【図16A】
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【図16B】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【公開番号】特開2007−253543(P2007−253543A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−83441(P2006−83441)
【出願日】平成18年3月24日(2006.3.24)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】