説明

印刷装置および印刷システム

【課題】印刷装置に登録された画像データの消失を適切に防止する印刷装置および印刷システムを提供すること。
【解決手段】プリンタ100は,PC200から送られてきた印刷ジョブをメモリ領域110に記憶し,印刷ジョブの印刷指示を受け付けたことよって,その印刷ジョブの印刷を開始する。また,プリンタ100は,メモリ領域110に記憶されている印刷ジョブを,印刷指示を受け付ける前にメモリ領域110から消去すると判断した場合,その印刷ジョブの送信設定と送信内容との少なくとも一方に基づいて当該印刷ジョブの送信態様を決定する。その後,その決定に従って当該印刷ジョブを外部装置に送信する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,印刷装置および印刷システムに関する。さらに詳細には,印刷ジョブを印刷装置の記憶部に記憶し,ユーザからの印刷指示を受け付けたことによってその印刷ジョブを印刷する印刷装置および印刷システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から,印刷期限付きの印刷ジョブを記憶部に記憶し,その後,ユーザが印刷装置に対してその印刷ジョブの印刷指示を行ったことを契機に印刷を開始するリモート印刷技術がある。印刷装置は,印刷ジョブが印刷期限を経過した場合,その印刷ジョブを記憶部から消去する。近年,公衆無線LANサービスの普及により,前述のような印刷装置が広く利用されている。例えば,駅,空港等の公共施設の印刷装置に印刷ジョブを事前に記憶しておくことで,ユーザは現地で印刷物を手に入れることができる。
【0003】
前述のような印刷装置を開示したものとしては,例えば特許文献1がある。特許文献1には,プリンタの記憶部にジョブを登録すること,また,登録されたジョブが一定期間記憶されているか否かを判定し,一定期間記憶されている場合にはそのジョブを記憶部から消去することが開示されている。また,特許文献1には,ジョブを記憶部から消去する前に,そのジョブのユーザに対応する宛先に,そのジョブの画像データを電子メールによって送信し,画像データの消失を防止することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−205533号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら,前記した従来の印刷装置には,次のような問題があった。すなわち,送信態様によっては,必ずしも画像データの送信が成功するとは限らない。例えば,電子メールに添付できるデータ量が制限されている場合には,添付する画像データのデータ量がその制限を超えてしまうとその画像データを送信できない。そのため,印刷装置に登録された画像データの消失防止技術には,改善の余地がある。
【0006】
本発明は,前記した従来の印刷装置が有する問題点を解決するためになされたものである。すなわちその課題とするところは,印刷装置に登録された画像データの消失を適切に防止する印刷装置および印刷システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この課題の解決を目的としてなされた印刷装置は,印刷ジョブを記憶する記憶部と,前記記憶部に記憶されている印刷ジョブの印刷指示を受け付けたことによって,当該印刷ジョブの印刷を行う印刷部と,前記記憶部に記憶されている印刷ジョブを,印刷指示を受け付ける前に前記記憶部から消去するか否かを判断する判断部と,前記判断部が印刷ジョブを消去すると判断した場合に,消去対象となった印刷ジョブである消去対象ジョブの送信設定と送信内容との少なくとも一方に基づいて当該消去対象ジョブの複数の送信態様から1つの送信態様を決定する決定部と,前記決定部の決定に従って前記消去対象ジョブを外部装置に送信する送信部と,前記送信部によって送信された消去対象ジョブを前記記憶部から消去する消去部とを備えることを特徴としている。
【0008】
本発明の印刷装置は,印刷ジョブを記憶部に記憶し,印刷ジョブの印刷指示を受け付けたことよって,その印刷ジョブの印刷を開始する。また,本発明の印刷装置は,記憶部に記憶されている印刷ジョブを,印刷指示を受け付ける前に記憶部から消去すると判断した場合,消去対象となった印刷ジョブである消去対象ジョブの送信設定と送信内容との少なくとも一方に基づいて当該消去対象ジョブの送信態様を決定する。送信設定は,送信データの内容には直接関わりない送信行為に関する設定であり,例えば,電子メール,FTP送信等の送信手段や,装置名,IPアドレス等の送信先の設定が該当する。また,送信内容は,送信データの内容に関する設定であり,例えば,送信対象となるファイルの名称,種類,データサイズが該当する。その後,その決定に従って消去対象ジョブを外部装置に送信する。外部装置には,例えば,プリンタサーバ,印刷ジョブの投入元装置が該当する。
【0009】
すなわち,本発明の印刷装置は,印刷ジョブ(消去対象ジョブ)を送信する際に,送信設定と送信内容との少なくとも一方に基づいて,その印刷ジョブに適した送信態様(すなわち,どこを送信先として,どのような送信手段によって,どのようなデータを送信するかの態様)を決定する。例えば,印刷ジョブの送信手段が電子メールであれば,送信するデータ量を小さくする。あるいは,送信データを所定のデータサイズやページ単位に分割して送信する。また,例えば,送信データのデータサイズが所定値よりも大きければ電子メールによる送信を禁止する。これにより,印刷ジョブの送信においてエラーとなるリスクを軽減できる。
【0010】
また,前記判断部は,前記記憶部の空き容量が所定値以下の場合に,印刷ジョブを,印刷指示を受け付ける前に前記記憶部から消去すると判断するとよい。記憶部の空き容量が少ない場合,新たな印刷ジョブの受け付けが困難になることが予想される。そのため,優先度が低い印刷ジョブ等を外部装置に送信し,記憶部から消去して所定値以上の空き容量を確保する方が好ましい。
【0011】
また,前記判断部は,前記記憶部に記憶されている印刷ジョブの印刷期限が経過した場合に,当該印刷ジョブを,印刷指示を受け付ける前に前記記憶部から消去すると判断するとよい。印刷期限を経過した印刷ジョブは印刷の可能性が極めて低い印刷ジョブであり,このような印刷ジョブを記憶部に残しておくと,利用可能な記憶領域を制限してしまう。このことから,そのような印刷ジョブは外部装置に退避し,記憶部から消去する方が好ましい。
【0012】
また,前記決定部は,前記消去対象ジョブの送信設定に応じて前記消去対象ジョブの送信内容を決定するとよい。消去対象ジョブの送信設定に応じて送信内容を決定することで,送信方法や送信先に適した送信動作を行うことができ,結果として送信失敗の可能性を低減できる。
【0013】
また,前記決定部は,前記消去対象ジョブの送信内容に応じて前記消去対象ジョブの送信設定を決定するとよい。消去対象ジョブの送信内容に応じて送信設定を決定することで,送信データの種類やデータサイズに適した送信動作を行うことができ,結果として送信失敗の可能性を低減できる。
【0014】
また,本発明の印刷装置は,前記送信部による送信が成功したか否かを判断する送信結果判断部と,前記送信結果判断部が送信失敗と判断した場合に,前記消去対象ジョブの送信態様を変更し,その変更に従って前記消去対象ジョブを再送信する再送信部とを備えるとよい。消去対象ジョブの送信に失敗した場合,送信態様を変更することで,その消去対象ジョブの再送信が成功する確率が高まる。
【0015】
また,前記決定部は,前記送信態様として,送信対象となる印刷データのファイル形式を決定するとよい。送信対象となるファイル形式を決定することで,送信設定に適したファイル形式を設定できる。例えば,電子メールでは送信成功率を優先してサイズが小さいファイルを選択し,ファイル転送ではファイルの利用し易さを優先してサイズが大きいファイルあるいは複数のファイルを選択する。
【0016】
また,上記の印刷装置は,前記記憶部に記憶されている印刷ジョブは,展開前のデータである画像情報データと,展開後のデータである画像展開データとを有し,前記決定部は,前記送信態様として,前記画像情報データを送信対象とするか,前記画像情報データと前記画像展開データとを送信対象とするかを決定するとよい。画像情報データのみを送信する場合は,送信データ量が小さく,送信制限を受け難い。つまり,送信の成功確率が高い。その反面,画像情報データのみでは,印刷を行う場合に,画像情報データを展開する処理が必要となることから,印刷を開始するまでに時間がかかる。一方で,画像展開データも送信する場合は,画像展開処理にかかる時間を短縮できる。このように,送信設定や送信内容に応じて送信対象を決定することで,より好適な送信を行うことが期待できる。
【0017】
また,消去部は,前記送信部によって前記消去対象ジョブが送信された後,前記消去対象ジョブの前記画像情報データと前記画像展開データとの両方を前記記憶部から消去するとよい。画像情報データと画像展開データとの両方を消去することで,利用可能な記憶領域が大きくなる。
【0018】
また,本発明の印刷装置は,前記決定部が前記消去対象ジョブの新たな送信先を決定した場合に,前記決定部が決定した送信先を前記消去対象ジョブのユーザに報知する報知部を備えるとよい。このような構成にすることで,ユーザが,送信先の変更内容を把握することができる。
【0019】
また,本発明は,印刷ジョブを記憶する印刷装置と,前記印刷装置に印刷ジョブを送信する情報処理装置とを有し,前記印刷装置は前記印刷ジョブの印刷指示を受け付けたことによって前記印刷ジョブの印刷を開始する印刷システムにおいて,前記情報処理装置は,印刷ジョブの送信内容と送信設定との少なくとも一方の情報を付加した印刷ジョブを前記印刷装置に送信する投入部を備え,前記印刷装置は,前記投入部によって送信された印刷ジョブを受信する受信部と,前記受信部が受信した印刷ジョブを記憶する記憶部と,前記記憶部に記憶されている印刷ジョブを,印刷指示を受け付ける前に前記記憶部から消去するか否かを判断する判断部と,前記判断部が印刷ジョブを消去すると判断した場合に,消去対象となった印刷ジョブである消去対象ジョブに付加されている送信設定の情報に基づいて当該消去対象ジョブの複数の送信態様から1つの送信態様を決定する決定部と,前記決定部の決定に従って前記消去対象ジョブを外部装置に送信する送信部と,前記送信部によって送信された消去対象ジョブを前記記憶部から消去する消去部とを備えることを特徴とする印刷システムを含んでいる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば,印刷装置に登録された画像データの消失を適切に防止する印刷装置および印刷システムが実現される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】実施の形態にかかるプリンタの電気的構成を示すブロック図である。
【図2】実施の形態にかかる印刷システムの動作概略を示すブロック図である。
【図3】第1の形態にかかるメモリ管理処理の手順を示すフローチャートである。
【図4】第1の形態にかかるデータ送信処理の手順を示すフローチャートである。
【図5】第1の形態にかかる期限管理処理の手順を示すフローチャートである。
【図6】第2の形態にかかるデータ送信処理の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下,本発明にかかる印刷装置を具体化した実施の形態について,添付図面を参照しつつ詳細に説明する。本形態は,サーバと接続するプリンタに本発明を適用したものである。
【0023】
[プリンタの構成]
本形態のプリンタ100(印刷装置の一例)は,図1に示すように,CPU31と,ROM32と,RAM33と,NVRAM(Non Volatile RAM)34とを備えた制御部30を備えている。また,制御部30は,用紙に画像を印刷する画像形成部10と,動作状況の表示やユーザによる入力操作の受付を行う操作パネル40と,ネットワークインターフェース37と,USBインターフェース38と,無線通信インターフェース39とに,電気的に接続されている。
【0024】
ROM32には,プリンタ100を制御するための制御プログラムであるファームウェアや各種設定,初期値等が記憶されている。RAM33およびNVRAM34は,各種制御プログラムが読み出される作業領域として,あるいは画像データを一時的に記憶する記憶領域として利用される。
【0025】
CPU31(判断部,決定部,送信部,消去部,送信結果判断部,再送信部,報知部の一例)は,ROM32から読み出した制御プログラムや各種センサから送られる信号に従って,その処理結果をRAM33またはNVRAM34に記憶させながら,プリンタ100の各構成要素を制御する。
【0026】
ネットワークインターフェース37,USBインターフェース38および無線通信インターフェース39は,他の装置との通信を可能にするインターフェースである。プリンタ100は,これらのインターフェースを介して他の装置から送信される印刷ジョブを受信する。本形態では,プリンタ100は,ネットワークインターフェース37を介して,パーソナルコンピュータ(PC)200やサーバ300との通信が可能になっている。この他,USBインターフェース38や無線通信インターフェース39を介して他の装置と通信してもよい。
【0027】
また,画像形成部10(印刷部の一例)は,用紙に画像を印刷することができればよく,画像形成方式については電子写真方式であってもインクジェット方式であってもよい。また,カラー印刷が可能であってもよく,モノクロ印刷専用であってもよい。
【0028】
また,操作パネル40は,ユーザ入力を受け付ける各種のボタンと,文字情報を表示する液晶画面とを有している。各種のボタンとしては,例えば,印刷の実行を指示するボタンや,印刷動作のキャンセルを指示するキャンセルボタンがある。
【0029】
[印刷システムの構成]
続いて,プリンタ100を含む印刷システム900の構成および動作について,図2を参照しつつ説明する。なお,図2では,説明の簡略化のため,プリンタ100,PC200およびサーバ300のみで印刷システム900が構成されているが,これらの装置のみに限定するものではなく,この他の情報処理装置が接続されていてもよい。
【0030】
印刷システム900では,PC200がユーザからの印刷指示を受け付けると,プリンタドライバ210が印刷ジョブを作成する。そして,PC200からプリンタ100に対して印刷ジョブが投入される。なお,印刷ジョブには,印刷対象となる印刷データの他,個々の印刷ジョブを識別するための情報と,ジョブを投入するユーザを識別する情報と,印刷有効期限と,退避情報とが含まれる。印刷有効期限および退避情報は,ユーザ入力によって設定してもよいし,プリンタドライバ210が自動的に設定してもよい。
【0031】
上述の退避情報は,プリンタ100に記憶させた印刷ジョブをプリンタ100以外の装置に退避させるための情報であり,例えば,送信方法,送信先,送信可能ファイル形式,消去禁止の設定がある。送信方法としては,電子メール,ファイル転送(FTP)等の送信手段が設定される。送信先は,送信方法に合わせて,電子メールアドレス,IPアドレス,装置名等が設定される。送信可能ファイル形式としては,PDLデータ,PDFデータ,ビットマップイメージデータ等が設定される。消去禁止は,退避後にプリンタ100に残された印刷ジョブの消去を禁止するか否かの設定である。なお,印刷ジョブの退避の詳細については後述する。
【0032】
また,退避情報に含まれる上述の各情報は,必要に応じて設定すればよく,未設定であってもよい。退避情報を設定しない場合には,退避情報そのものを印刷ジョブに付加しなくてもよい。印刷ジョブに退避情報が付加されていない場合あるいは退避情報の一部が未設定の場合は,その印刷ジョブを外部装置に退避させる際,その印刷ジョブを退避させるプリンタ100が自動的に設定する。
【0033】
プリンタ100は,印刷ジョブを受信すると,その印刷ジョブを,印刷ジョブの保管用に確保されたメモリ領域110(記憶部の一例)に記憶する。メモリ領域110は,RAM33あるいはNVRAM34あるいはその両方によって構成される。なお,USBメモリや外付けHDD等の外部メモリ340が接続されている場合にはその外部メモリに確保されたメモリ領域を含めてもよい。また,メモリ領域110に記憶される印刷データとしては,ビットマップイメージデータとして展開する前の画像情報データ(例えばPDLデータやPDFデータ)であってもよいし,展開後の画像展開データであってもよい。あるいは画像情報データと画像展開データとの両方を記憶してもよい。本形態では,画像情報データと画像展開データとの両方を記憶しているものとする。
【0034】
プリンタ100は,印刷ジョブをメモリ領域110に記憶した後,その印刷ジョブの印刷指示の入力を待つ待機状態になる。すなわち,プリンタ100は,印刷ジョブを受信した段階ではその印刷ジョブの印刷を開始しない。
【0035】
ユーザは,プリンタ100に印刷ジョブを投入した後,プリンタ100が設置されている場所まで移動する。そして,プリンタ100の操作パネル40を操作し,メモリ領域110に記憶されている印刷ジョブの印刷指示を入力する。プリンタ100は,その印刷指示を受け付けたことを契機にその印刷指示に対応する印刷ジョブの印刷を開始する。プリンタ100は,印刷対象の印刷ジョブを自身のメモリ領域110に記憶しているため,サーバ300等から印刷の指示の度に印刷対象の印刷ジョブを受信するものと比較して早期に印刷を開始できる。
【0036】
また,プリンタ100は,メモリ領域110に十分な空き容量がない場合,メモリ領域110に記憶されている印刷ジョブの中から所定の条件を満たす印刷ジョブを抽出し,抽出した印刷ジョブ(以下,「退避ジョブ」とする)を指定の送信先装置の記憶領域(例えばサーバ300のメモリ310)に退避させる。すなわち,退避ジョブを送信先装置に送信し,その後,その退避ジョブをメモリ領域110から消去する。この退避ジョブの消去によって,メモリ領域110の空き領域を確保する。
【0037】
また,プリンタ100は,メモリ領域110に記憶されている印刷ジョブの印刷有効期限を管理し,印刷有効期限が経過してしまった印刷ジョブ(以下,「期限切れジョブ」とする)を,退避ジョブとして指定の送信先装置に送信し,その後,その退避ジョブ(期限切れジョブ)をメモリ領域110から消去する。この期限切れジョブの消去によって,無駄な印刷ジョブがメモリ領域110を長期に利用することを回避する。
【0038】
また,プリンタ100は,送信方法や送信先等の送信設定に応じて,送信先装置に送信する送信内容を決定する。あるいは,プリンタ100は,送信対象となるファイルの種類やデータサイズ等の送信内容に応じて,送信先装置に送信するための送信設定を決定する。具体的な決定方法については後述する。
【0039】
なお,送信先装置は,所定の条件を満たすことで,自身のメモリに記憶されている退避ジョブをプリンタ100に送り返す。所定の条件としては,例えば,ユーザからの送信命令の入力や,プリンタ100から送られてくる送信要求の受信が該当する。プリンタ100からの送信要求は,例えば,メモリ領域110に所定値以上の空き容量が確保できた場合に出力される。
【0040】
[第1の形態]
続いて,上述した印刷システム900の制御について説明する。上述したようにプリンタ100が退避ジョブを送信するケースとしては,メモリ領域110の空き容量不足を検出した場合と,メモリ領域110に記憶されている印刷ジョブが期限切れジョブとなった場合とがある。以下,上記の2つの場合に分けて説明する。
【0041】
[メモリ管理処理]
始めに,プリンタ100にて,メモリ領域110の空き容量を管理するメモリ管理処理(判断部,決定部,送信部,消去部の一例)を,図3のフローチャートを参照しつつ説明する。メモリ管理処理は,定期的(例えば1分毎)にCPU31によって実行される。
【0042】
メモリ管理処理では,先ず,メモリ領域110の空き領域の容量が閾値以下か否かを判断する(S101,判断部の一例)。空き領域の容量が閾値よりも大きい場合には(S101:NO),空き領域が十分に確保されていると判断できる。そのため,印刷ジョブを退避させることなく,メモリ管理処理を終了する。
【0043】
空き領域の容量が閾値以下の場合には(S101:YES),新規ジョブを受け付けた際,その新規ジョブをメモリ領域110に記憶できないおそれがある。そこで,メモリ領域110に印刷ジョブが記憶されているか否かを判断する(S102)。印刷ジョブが記憶されていない場合には(S102:NO),退避ジョブとなる印刷ジョブが選択されないため,メモリ管理処理を終了する。
【0044】
一方,印刷ジョブが記憶されている場合には(S102:YES),メモリ領域110に記憶されている印刷ジョブの中から,印刷の優先度が最も低い印刷ジョブを選択し,退避ジョブを決定する(S103)。印刷の優先度が最も低い印刷ジョブを選択する方法としては,例えば,メモリ領域110に記憶されている印刷ジョブのうち印刷有効期限が経過するまでの時間(残り時間)が最も長い印刷ジョブを選択する。残り時間が短いほど印刷できる期間が短く,印刷有効期限を過ぎて印刷できなくなる危険性が高い。そのため,残り時間が長いほど印刷の優先度が低いと判断できる。なお,退避ジョブの決定は,印刷の優先度に限らず,例えば無作為に決定してもよい。
【0045】
次に,S103で選択された退避ジョブを,その選択された退避ジョブに設定されている送信先に送信するデータ送信処理を行う(S104)。図4は,S104のデータ送信処理の手順を示している。
【0046】
データ送信処理では,先ず,退避ジョブに付加されている退避情報を参照し,送信先の設定があるか否かを判断する(S141)。送信先の設定がない場合には(S141:NO),送信先をサーバ300に自動設定する(S151)。また,送信方法をファイル転送に自動設定する。そして,送信対象となるファイルとして,画像情報データと画像展開データとの両方を選択し(S152,決定部の一例),選択したデータをサーバ300に送信する(S153,送信部の一例)。S153の後は,データ送信処理を終了する。
【0047】
送信先の設定がある場合には(S141:YES),送信方法が電子メール送信か否かを判断する(S142)。電子メール送信でない場合には(S142:NO),ファイルを送信する際のデータサイズの制限を受け難い。そのため,送信対象となるファイルとして,画像情報データと画像展開データとの両方を選択する(S161,決定部の一例)。その後は,選択したデータを,送信先として設定されている外部装置に送信する(S162,送信部の一例)。S162の後は,データ送信処理を終了する。
【0048】
電子メール送信の場合には(S142:YES),ファイルを送信する際にデータサイズの制限を受け易い。そのため,送信対象となるファイルとして,画像情報データを選択し,画像展開データを選択しない(S143,決定部の一例)。その後は,選択したデータを,送信先として設定されている電子メールアドレスを利用して送信する(S144,送信部の一例)。
【0049】
メール送信後は,メールサーバから送信エラーを受信したか否かを判断する(S145,送信結果判断部の一例)。送信エラーを受信しなかった場合には(S145:NO),データ送信処理を終了する。一方,送信エラーを受信した場合には(S145:YES),送信態様を変更する(S171)。本形態では,電子メール送信が失敗したことから,送信方法をファイル転送に変更し,さらに送信先をサーバ300に変更する。送信設定を変更することで,送信の成功が期待できる。そして,送信態様が変更になったことを,退避ジョブの送信元の装置(本形態ではPC200)に報知する(S172)。この報知によって,ユーザは印刷ジョブの退避先が変更になったことを把握できる。S172の後は,選択したデータをサーバ300に送信し(S153,再送信部の一例),データ送信処理を終了する。
【0050】
図3の説明に戻り,S104のデータ送信処理後は,退避ジョブをメモリ領域110から消去する(S105,消去部の一例)。消去の態様は,データの削除であっても上書きの許可であってもよい。S105の後は,メモリ管理処理を終了する。
【0051】
[期限管理処理]
続いて,プリンタ100にて,メモリ領域110に記憶されている印刷ジョブの印刷有効期限を管理する期限管理処理(判断部,決定部,送信部,消去部の一例)を,図5のフローチャートを参照しつつ説明する。期限管理処理は,定期的(例えば1分毎)にCPU31によって実行される。なお,メモリ管理処理(図3参照)と同じ処理については,同じ符号を付して説明を省略する。
【0052】
期限管理処理では,先ず,メモリ領域110に期限切れジョブがあるか否かを判断する(S121,判断部の一例)。期限切れジョブがない場合には(S121:NO),管理対象となる印刷ジョブがないため,期限管理処理を終了する。
【0053】
期限切れジョブがある場合には(S121:YES),期限切れジョブに付加されている退避情報を参照し,消去が禁止されているか否かを判断する(S122)。消去が禁止されているか否かは,退避情報の消去禁止の設定を参照する。なお,本形態では,消去禁止の有無が設定されていない場合や,退避情報が付加されていない場合は,消去が禁止されていないと判断する。消去が禁止されている場合には(122:YES),当該期限切れジョブを退避することなく,期限管理処理を終了する。
【0054】
一方,消去が禁止されていない場合には(122:NO),S121で抽出された期限切れジョブ(本処理での退避ジョブ)を,その退避ジョブに設定されている送信先に送信するデータ送信処理を行う(S104,決定部,送信部の一例)。退避ジョブの送信後は,その退避ジョブをメモリ領域110から消去する(S105,消去部の一例)。S105の後は,期限管理処理を終了する。
【0055】
第1の形態のプリンタ100では,メモリの空き容量不足や印刷有効期限の経過によって,印刷指示を受ける前に消去が必要となった印刷ジョブ(退避ジョブ)を外部装置に送信する際,その印刷ジョブの送信設定に応じて送信内容を変更している。すなわち,電子メール送信であれば,画像展開データを送信対象とせず,送信データのデータサイズを小さくして送信の成功率を高める。一方,電子メール送信以外であれば,送信データのデータサイズが大きくても送信の成功率が大きく低下しないことから,画像展開データも送信対象とする。画像展開データも退避させることで,退避ジョブを再利用する際に,再度,画像情報データから画像展開データを作成する手間を省くことができる。
【0056】
なお,本形態では,電子メール送信か否かによって送信内容を変更しているが,これに限るものではない。例えば,送信先装置がスマートフォンか否か,あるいはデータ送信に無線通信を利用するか否かによって,送信内容を変更してもよい。すなわち,送信先装置のメモリ容量が小さい場合や,通信が不安定な場合は,送信データのデータサイズを小さくして送信エラーを回避する方が好ましい。
【0057】
[第2の形態]
続いて,上述したS104のデータ送信処理の,別の制御方法について,図6のフローチャートを参照しつつ説明する。第2の形態のデータ送信処理では,送信内容に応じて送信設定を変更する。この点,送信設定に応じて送信内容を変更する第1の形態と異なる。
【0058】
第2の形態のデータ送信処理では,先ず,送信データの総データサイズを計算する(S201)。本形態では,印刷ジョブごとに,画像情報データと画像展開データとが記憶されていることから,両データの合計データサイズを計算する。
【0059】
次に,S201で算出したデータサイズが閾値以上か否かを判断する(S202)。データサイズが閾値よりも小さい場合(S202:NO),データサイズに起因する送信エラーとなる可能性は低い。そこで,送信先の設定があるか否かを判断し(S221),送信先の設定があれば(S221:YES),送信設定に従って画像情報データと画像展開データとを送信する(S222)。送信先の設定がなければ(S221:NO),サーバ300に画像情報データと画像展開データとを送信する(S231)。S222あるいはS231によるデータ送信後は,データ送信処理を終了する。
【0060】
一方,データサイズが閾値以上の場合(S202:YES),データサイズに起因する送信エラーとなる可能性が高まる。そこで,送信方法が電子メール送信か否かを判断する(S203)。電子メール送信が設定されていなければ(S203:NO),データサイズに起因する送信エラーの不安は少ないことから,S221に移行して送信設定に従ったデータ送信を行う。
【0061】
電子メール送信が設定されている場合には(S203:YES),送信設定を変更する(S204,決定部の一例)。具体的には,送信先をサーバ300に変更し,送信方法をファイル転送に変更する。そして,送信設定が変更になったことを,退避ジョブの送信元の装置に報知する(S205)。この報知によって,ユーザは印刷ジョブの退避先が変更になったことを把握できる。S205の後は,画像情報データおよび画像展開データをサーバ300に送信し(S206,送信部の一例),データ送信処理を終了する。
【0062】
第2の形態のプリンタ100では,印刷ジョブを外部装置に送信する際,送信内容に応じて送信設定を変更している。すなわち,送信データのデータサイズが閾値以上であれば,送信先および送信方法を変更し,電子メール送信を送信方法とせず,送信時のデータサイズの制限を少なくして送信の成功率を高める。一方,送信データのデータサイズが小さければ,送信の成功率が大きく低下しないことから,電子メール送信を行う。これにより,ユーザが希望する送信態様を実現できる。
【0063】
なお,本形態では,送信データのデータサイズによって送信設定を変更しているが,これに限るものではない。例えば,送信するデータの個数が閾値以上か否かによって,送信設定を変更してもよい。すなわち,データの個数が多い場合,データサイズが大きくなることが予想できる。そのため,送信方法を変更して送信エラーを回避する方が好ましい。
【0064】
以上詳細に説明したように本実施の形態のプリンタ100は,メモリ不足や印刷有効期限の経過によって,印刷指示を受ける前に消去が必要となった退避ジョブ(消去対象ジョブの一例)を,外部装置に送信する際に,送信設定と送信内容との少なくとも一方に基づいて,その印刷ジョブに適した送信態様を決定する。これにより,印刷ジョブの送信においてエラーとなるリスクを軽減できる。
【0065】
なお,本実施の形態は単なる例示にすぎず,本発明を何ら限定するものではない。したがって本発明は当然に,その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良,変形が可能である。例えば,プリンタは,印刷機能を備えるものであればよく,複合機や複写機であっても適用可能である。また,プリンタに印刷ジョブを投入する情報処理装置は,PCに限るものではなく,例えば,スマートフォン等のモバイル端末であってもよい。
【0066】
また,本実施の形態では,パネル操作によって,プリンタに記憶されている印刷ジョブの印刷を開始しているが,これに限るものではない。例えば,モバイル端末からの印刷指令や,カードリーダ等の認証を契機に印刷を開始してもよい。
【0067】
また,実施の形態では,PC200からプリンタ100に直接印刷ジョブが送信されるが,これに限るものではない。例えば,PC200からサーバ300を介してプリンタ100にジョブが送信されてもよい。
【0068】
また,第1の形態のデータ送信処理(図4)の,S141およびS142の少なくとも一方を,第2の形態のデータ送信処理(図6)の,S202と置き換えてもよい。また,第1の形態の期限管理処理(図5)において,S122は省略してもよい。
【0069】
また,第2の形態のデータ送信処理(図6)において,S202とS203は逆順であってもよい。また,S203とS203は,いずれか一方のみを行うとしてもよい。
【符号の説明】
【0070】
10 画像形成部
30 制御部
100 プリンタ
110 メモリ領域
200 PC
300 サーバ
310 メモリ
900 印刷システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷ジョブを記憶する記憶部と,
前記記憶部に記憶されている印刷ジョブの印刷指示を受け付けたことによって,当該印刷ジョブの印刷を行う印刷部と,
前記記憶部に記憶されている印刷ジョブを,印刷指示を受け付ける前に前記記憶部から消去するか否かを判断する判断部と,
前記判断部が印刷ジョブを消去すると判断した場合に,消去対象となった印刷ジョブである消去対象ジョブの送信設定と送信内容との少なくとも一方に基づいて当該消去対象ジョブの複数の送信態様から1つの送信態様を決定する決定部と,
前記決定部の決定に従って前記消去対象ジョブを外部装置に送信する送信部と,
前記送信部によって送信された消去対象ジョブを前記記憶部から消去する消去部と,
を備えることを特徴とする印刷装置。
【請求項2】
請求項1に記載する印刷装置において,
前記判断部は,前記記憶部の空き容量が所定値以下の場合に,印刷ジョブを,印刷指示を受け付ける前に前記記憶部から消去すると判断することを特徴とする印刷装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載する印刷装置において,
前記判断部は,前記記憶部に記憶されている印刷ジョブの印刷期限が経過した場合に,当該印刷ジョブを,印刷指示を受け付ける前に前記記憶部から消去すると判断することを特徴とする印刷装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1つに記載する印刷装置において,
前記決定部は,前記消去対象ジョブの送信設定に応じて前記消去対象ジョブの送信内容を決定することを特徴とする印刷装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1つに記載する印刷装置において,
前記決定部は,前記消去対象ジョブの送信内容に応じて前記消去対象ジョブの送信設定を決定することを特徴とする印刷装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1つに記載する印刷装置において,
前記送信部による送信が成功したか否かを判断する送信結果判断部と,
前記送信結果判断部が送信失敗と判断した場合に,前記消去対象ジョブの送信態様を変更し,その変更に従って前記消去対象ジョブを再送信する再送信部と,
を備えることを特徴とする印刷装置。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか1つに記載する印刷装置において,
前記決定部は,前記送信態様として,送信対象となる印刷データのファイル形式を決定することを特徴とする印刷装置。
【請求項8】
請求項7に記載する印刷装置において,
前記記憶部に記憶されている印刷ジョブは,展開前のデータである画像情報データと,展開後のデータである画像展開データとを有し,
前記決定部は,前記送信態様として,前記画像情報データを送信対象とするか,前記画像情報データと前記画像展開データとを送信対象とするかを決定することを特徴とする印刷装置。
【請求項9】
請求項8に記載する印刷装置において,
前記消去部は,前記送信部によって前記消去対象ジョブが送信された後,前記消去対象ジョブの前記画像情報データと前記画像展開データとの両方を前記記憶部から消去することを特徴とする印刷装置。
【請求項10】
請求項1から請求項9のいずれか1つに記載する印刷装置において,
前記決定部が前記消去対象ジョブの新たな送信先を決定した場合に,前記決定部が決定した送信先を前記消去対象ジョブのユーザに報知する報知部を備えることを特徴とする印刷装置。
【請求項11】
印刷ジョブを記憶する印刷装置と,前記印刷装置に印刷ジョブを送信する情報処理装置とを有し,前記印刷装置は前記印刷ジョブの印刷指示を受け付けたことによって前記印刷ジョブの印刷を開始する印刷システムにおいて,
前記情報処理装置は,
印刷ジョブの送信内容と送信設定との少なくとも一方の情報を付加した印刷ジョブを前記印刷装置に送信する投入部
を備え,
前記印刷装置は,
前記投入部によって送信された印刷ジョブを受信する受信部と,
前記受信部が受信した印刷ジョブを記憶する記憶部と,
前記記憶部に記憶されている印刷ジョブを,印刷指示を受け付ける前に前記記憶部から消去するか否かを判断する判断部と,
前記判断部が印刷ジョブを消去すると判断した場合に,消去対象となった印刷ジョブである消去対象ジョブに付加されている送信設定の情報に基づいて当該消去対象ジョブの複数の送信態様から1つの送信態様を決定する決定部と,
前記決定部の決定に従って前記消去対象ジョブを外部装置に送信する送信部と,
前記送信部によって送信された消去対象ジョブを前記記憶部から消去する消去部と,
を備えることを特徴とする印刷システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−10190(P2013−10190A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−142775(P2011−142775)
【出願日】平成23年6月28日(2011.6.28)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】