説明

印刷装置および印刷装置の印刷方法

【課題】印刷装置は、圧縮された画像データを迅速に画像処理でき、プロセッサーの効率のよい駆動で省電力性能に優れている。
【解決手段】印刷装置300は、画像データから印刷用のドットデータを作成する画像処理を複数のプロセッサーで行なうデータ作成部(コントローラー部310)と、データ作成部から送られるドットデータに基づいて印刷媒体に印刷を行なう印刷部320とを備える。データ作成部は、画像データの一部である第1の画像データをN個(Nは自然数)のプロセッサーで処理する第1の処理モードと、画像データの一部である第2の画像データをN個と異なるM個(Mは自然数)のプロセッサーで処理する第2の処理モードとを備え、第1の処理モードおよび第2の処理モードを、ヘッダ情報に含まれるデータサイズをDsとし、画像データの画素数をPaとすると、圧縮比Ds/Paによって決定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のプロセッサーを備えた印刷装置、および、印刷装置の印刷方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
印刷装置は、入力された画像データ(例えば、JPEG画像データ)に対して、例えば、色変換処理や、ハーフトーン処理などの各種画像処理を行なうことによって、印刷データ(ドットのON/OFFデータ)を生成し、画像の印刷を実行する。画像処理は、印刷装置が備えるCPU(Central Processing Unit)によって行なわれる。そして、従来、印刷装置に複数のCPUを備えるようにして、これら複数のCPUで処理を分担することによって、画像処理を高速に行なう技術が提案されている(例えば、下記特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−188985号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の技術では、印刷データの種類によっては、1つのプロセッサーが処理を実行している間に、他のプロセッサーは、実行する処理がなく待ち状態となることが頻繁に発生することがある。このために、処理の高速化を十分に図ることができないという問題があった。また、画像データのデータサイズが小さいにもかかわらず、複数のプロセッサーを同時に駆動した場合に、プロセッサーの消費電力が大きくなるという課題もあった。
【0005】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、圧縮された画像データを迅速に画像処理でき、しかもプロセッサーの効率のよい駆動で省電力性能に優れている印刷装置および印刷装置の印刷方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0007】
[適用例1]
適用例1は、圧縮された画像データから印刷用のドットデータを作成する画像処理を複数のプロセッサーで行なうデータ作成部と、該データ作成部から送られる前記ドットデータに基づいて印刷媒体に印刷を行なう印刷部とを備えた印刷装置であって、
前記データ作成部は、
前記画像データをN個(Nは自然数)のプロセッサーで処理する第1の処理モードと、
前記画像データをN個と異なるM個(Mは自然数)のプロセッサーで処理する第2の処理モードと、
を備え、
前記画像ファイルのヘッダ情報に含まれるデータサイズをDsとし、前記画像データの画素数をPaとすると、Ds/Paで定義される圧縮比の違いにより、前記第1の処理モードと前記第2の処理モードとをそれぞれ実行する、印刷装置。
【0008】
適用例1において、データ作成部は、画像データから印刷用のドットデータを作成する処理モードにつき、画像データの圧縮比によって、第1の処理モードまたは第2の処理モードでそれぞれ実行する。ここで、圧縮比が小さい場合には、複雑な画像であること、つまり、圧縮手段により画像データが圧縮されている場合において、画像の劣化を避けるために、十分に圧縮できないデータである。第1の処理モードは、画像データの一部である第1の画像データをN個で処理するモードであり、第2の処理モードは、N個と異なるM個のプロセッサーで画像処理するモードである。すなわち、データ作成部は、圧縮された画像データの圧縮比の違いにより、プロセッサーの数を変更して画像処理を行なう。
【0009】
[適用例2]
適用例2において、前記データ作成部が、前記画像データの圧縮比が小さい状況にて、N<Mに決定する、印刷装置である。この適用例において、データ作成部は、画像データの圧縮比が小さい状況にて、つまり、画像データの複雑さが大きく画像処理へのプロセッサーへの負荷が大きい状況にて、プロセッサーの数を多くして短時間に画像処理を行なうことで、印刷媒体に高速で印刷することができる印刷部に対応することができる。また、データ作成部は、画像データの圧縮比が大きい状況にて、つまり、画像データの複雑さが小さく、画像処理へのプロセッサーへの負荷が小さい状況にて、プロセッサーの数を少なくすることにより、プロセッサーの消費電力を低減することができる。
【0010】
[適用例3]
適用例3において、 前記データ作成部は、前記第2の処理モードの実行時の前記プロセッサーの消費電力が前記第1の処理モードの実行時の前記プロセッサーの消費電力より大きい、印刷装置である。
【0011】
[適用例4]
適用例4において、前記データ作成部は、前記第2の処理モードの実行時の前記プロセッサーの発熱量が前記第1の処理モードの実行時の前記プロセッサーの発熱量より大きい、印刷装置である。
【0012】
[適用例5]
適用例5において、前記データ作成部は、前記第1の処理モードと前記第2の処理モードとを切り換えて画像処理できる画像データのサイズを単位処理量とすると、該単位処理量の画像データを複数の領域に分けて、各々の領域を前記複数のプロセッサーで分担して画像処理を行なう、印刷装置である。
【0013】
[適用例6]
適用例6において、前記領域内の画像データが前記印刷媒体に印刷されるときの前記印刷媒体の搬送方向と直角方向に分けられている、印刷装置である。この適用例において、プロセッサーが各領域を処理する手段として、各画素を独立して処理する手段をとることが好ましい。これは、領域の境界における処理に煩雑さを生じないからである。
【0014】
[適用例7]
適用例7において、前記領域内の画像データが前記印刷媒体に印刷されるときの前記印刷媒体の搬送方向に分けられている、印刷装置である。この適用例において、プロセッサーが各領域を処理する手段として、各画素を独立して処理する手段をとることが好ましい。これは、領域の境界における処理に煩雑さを生じないからである。
【0015】
[適用例8]
適用例8において、前記データ作成部は、所定の時間当たりに生成するドットデータの量が、前記所定の時間内に印刷できるドットデータの量を超えた状況にて、前記第1の処理モードから第2の処理モードへ切り換えて実行する、印刷装置である。この適用例により、前記データ作成部は、所定の時間当たりに生成するドットデータの量が、前記所定の時間内に印刷できるドットデータの量を超えた状況にて、第1の処理モードから第2の処理モードに変更されるから、印刷部は、データ作成部から送られるドットデータを待つことなく、印刷媒体に印刷することができる。
【0016】
[適用例9]
適用例9において、前記印刷部が印刷を停止した状況にて、前記第2の処理モードに移行する、印刷装置である。この適用例において、印刷部が印刷を停止した状況にて、第1の処理モードから第2の処理モードへ移行することにより、印刷部の待機状態を低減することができる。
[適用例10]
適用例10は、画像データから印刷用のドットデータを作成する画像処理を複数のプロセッサーで行ない、前記ドットデータに基づいて印刷媒体に印刷を行なう印刷方法であって、
前記画像データをN個(Nは自然数)のプロセッサーで処理する第1の処理モードと、
前記画像データをN個と異なるM個(Mは自然数)のプロセッサーで処理する第2の処理モードと、
を備え、
前記第1の処理モードおよび第2の処理モードを、前記画像ファイルのヘッダ情報に含まれるデータサイズをDsとし、前記画像データの画素数をPaとすると、Ds/Paで定義される圧縮比によってそれぞれ実行する、印刷方法である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1実施例にかかる印刷装置の概略構成を示す説明図である。
【図2】印刷装置で実行される印刷処理を説明するフローチャートである。
【図3】画像データに基づいて印刷媒体上に印刷される画像の一例を説明する説明図である。
【図4】画像データに基づいて印刷媒体上に印刷される画像の一例を説明する説明図である。
【図5】第2実施例にかかる複数のプロセッサーで画像処理をパイプライン処理により実行している様子を示す説明図である。
【図6】画像データに基づいて印刷媒体上に印刷される画像の一例を説明する説明図である。
【図7】第3実施例にかかるモード切換処理を説明するフローチャートである。
【図8】第4実施例にかかるモード切換処理を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について、実施例に基づき説明する。
A.第1実施例:
図1は本発明の第1実施例にかかる印刷装置300の概略構成を示す説明図である。本実施例では、印刷装置300は、いわゆるラインヘッドプリンターであるものとした。この印刷装置300は、毎分60ページ以上の高速印刷が可能である。
【0019】
印刷装置300は、コントローラー部310と、コントローラー部310により制御される印刷部320、操作パネル330および外部メモリー340とを備える。コントローラー部310は、CPU311、RAM312、ROM313、印刷部インターフェース(I/F)314、操作パネルインターフェース(I/F)315、メモリコントローラー316、CPUコントローラー317および通信インターフェース(I/F)318などを備える。これらの各構成要素311〜318は、バス319を介して互いに接続されている。印刷部I/F314には印刷部320が接続されている。操作パネルI/F315には操作パネル330が接続されている。メモリコントローラー316には外部メモリー340が接続されている。通信I/F318にはUSBケーブル120が接続されている。
【0020】
CPU311は、いわゆるマルチコアプロセッサーであり、本実施例では、第1のプロセッサーコア311aと第2のプロセッサーコア311bとを備え、これらの第1および第2のプロセッサーコア311a,311bで画像処理を分担する。この分担は、CPUコントローラー317によりCPU311に対して指示される。第1および第2のプロセッサーコア311a,311bは、ROM313に記憶されている画像形成プログラムを実行することにより、印刷対象の画像データ(例えば、JPEG、GIF画像データ)に対して、例えば、色変換処理やハーフトーン処理などの各種画像処理を行ない、印刷用のドットデータ(ドットのON/OFFデータ)を生成する。コントローラー部310は、[課題を解決するための手段]におけるデータ作成部に相当する。
【0021】
印刷部320は、インクを蓄えるインクカートリッジ、印刷ヘッドなど、印刷媒体に実際に画像形成するために必要な機能部を備える。インクとしては、例えば、シアン(C)、マゼンダ(M)、イエロー(Y)、ブラック(K)の4種類を備える。操作パネル330は、ユーザーが印刷処理に関わる各種設定を行なうための操作部である。印刷媒体の種類やサイズの設定、印刷の中止操作などを、ユーザーは操作パネル330を操作することでコントローラー部310に対して指示することができる。外部メモリー340は、ユーザーによりメモリカードなどを装填可能な補助記憶装置である。次に、印刷装置300がホストコンピューター200や外部メモリー340などから送られる画像データに対して実行される画像処理について説明する。
【0022】
図2は印刷装置300で実行される印刷処理を説明するフローチャートである。印刷処理は、ホストコンピューター200などから送られる画像データを受信することによって開始される。コントローラー部310は、印刷処理を開始すると、USBケーブル120および通信I/F318を介して、ホストコンピューター200から画像データを受信し、RAM312に記憶する(ステップS310)。そして、CPUコントローラー317が、RAM312に記憶した圧縮された画像データのヘッダ情報に基づき、圧縮手段を判別する。すなわち、ヘッダ情報から、ファイルの画像データがJPEG、GIFなどの圧縮ファイルであれば、圧縮ファイルに対応したデータ解凍方法により、CPU311が圧縮された画像データの解凍処理を行なう(ステップS312)。CPU311により解凍された画像データは、RAM312に一時的に記憶される。
【0023】
続くステップS314にて、画像ファイルのヘッダ情報に基づき、圧縮比が取得される。圧縮比は、以下の処理で取得される。画像ファイルのヘッダ情報には、データサイズ、画像データの画素数(縦方向の画素数、横方向の画素数)が含まれており、これらから全画素数を求めることができる。画像ファイルのヘッダ情報のうち、データサイズをDsとし、画像データの全画素数をPaとすると、圧縮比Pvは、Ds/Paと定義できる。
【0024】
図3および図4は画像データに基づいて印刷媒体PM1,PM2上に印刷される画像の一例を説明する説明図である。図3は一人の人物が含まれた印刷対象であり、図4は複数(6人)の人物が含まれている印刷対象である。こうした図3および図4の印刷対象の画像データを、同一の印刷媒体(例えば、A4サイズ:画素数Pa1)で印刷した場合において、図4の画像データは、複数の人物による階調値の変化の度合いが大きいから、同一の圧縮手段で圧縮した場合であっても、圧縮によって画質が劣化するのを避けるために、十分に圧縮がされず、図3の画像データよりデータサイズが大きくなることがある。ここで、図3の画像データのデータサイズをDs1とし、図4の画像データのデータサイズをDs2(>Ds1)とすると、圧縮比は、Pv1=Ds1/Pa1、Pv2=Ds2/Pa1となり、よって、Pv1>Pv2となる。すなわち、図4に示すような頻繁に階調の変化する画像データは、小さな圧縮比をとり、画像データの複雑さが大きいと扱うことができる。よって、このような圧縮比を以下の処理モードの判定に使用する。
【0025】
図2に戻り、CPUコントローラー317は、ステップS320にて、ステップ314で求めた圧縮比の大小を判定することで、画像データに対して、いずれの処理モードをとるかを決定する。すなわち、CPUコントローラー317が、画像データの圧縮比が所定の判定値より大であると判定すると、ステップS330へ進み、CPU311のうちの1つの第1のプロセッサーコア311aで画像処理することを決定し、続くステップS334にて、バッファに一時的に保存された全領域(1ページ分)の画像データについて、色変換処理が実行される。例えば、図3の画像のような単調な画像であって、圧縮比が所定の判定値より大であると判定されると、画像データの全領域について、色変換処理が実行される。色変換処理は、画像データの各画素を構成する画素データに記録されている(R,G,B)の値を、印刷装置300が備えるインク色(C、M、Y、K)のインク量データに変換する処理である。本実施例においては、色変換処理はルックアップテーブル(以下、色変換LUTとも呼ぶ)を用いて行なう。色変換LUTは、レッド(R)、グリーン(G)、ブルー(B)の3つの各階調値の軸からなる3次元のルックアップテーブルであり、各格子点には、シアン(C)、マゼンダ(M)、イエロー(Y)、ブラック(K)の各インク量データが格納されている。色変換LUTは、ROM313に記憶されており、第1のプロセッサーコア311aがROM313から読み込んで、画像データに適用することで色変換処理を行なう。
【0026】
続くステップS336にて、第1のプロセッサーコア311aは、色変換処理後、各画素がインク量データによって記録されている画像データに対してハーフトーン処理を行なう。ハーフトーン処理は、各画素がインク量データによって記録された画像データを、各画素がドットのオン/オフで記録されたドットデータに変換する多値化処理である。本実施例においては、ハーフトーン処理は、ディザ法により行なう。ディザ法に用いるディザマトリックスは、ROM313に格納されている。第1のプロセッサーコア311aは、ROM313からディザマトリックスを読み込んで、インク量データで記録された画像データに適用することによってハーフトーン処理を行ない、ドットデータを作成する。
【0027】
ハーフトーン処理後に、CPU311がドットデータとして記録された画像データに基づいて、印刷を実行する(ステップS340)。具体的には、CPU311が印刷部320としての印刷ヘッドなどの動作を制御し、印刷媒体を走査方向へ搬送しつつ印刷媒上にシアン(C)、マゼンダ(M)、イエロー(Y)、ブラック(K)の各インクを吐出して画像を形成する。このようにして、印刷装置300は印刷処理を行なう。なお、印刷実行の処理は、CPU311の第1または第2のプロセッサーコア311a,311bの一方または両方を駆動することにより行なうことができる。
【0028】
一方、ステップS320にて、CPUコントローラー317が、画像データの圧縮比が所定の判定値より小であると判定すると、ステップS350へ進み、CPU311の2つの第1および第2のプロセッサーコア311a,311bで画像処理することを決定し、さらに続くステップS352にて、画像データの領域を分割する。例えば、図4に示すように、画像データが印刷媒体PM2に印刷されるときに、印刷媒体PM2の搬送方向をdxとすると、搬送方向dxと直角の方向であるdyの方向に分割線DLを中心として2分割した領域A,Bに設定する。続いて、第1のプロセッサーコア311aが領域Aに対応する画像データについて、色変換処理(ステップS345A)およびハーフトーン処理(ステップS356A)を実行すると同時に、第2のプロセッサーコア311bが領域Bに対応する画像データについて、色変換処理(ステップS345B)およびハーフトーン処理(ステップS356B)を実行する。すなわち、第1および第2のプロセッサーコア311a,311bは、それぞれ図4の分割した領域A,Bに対応する画像データをそれぞれRAM312から読み込み、上述したステップS334およびステップS336と同様な色変換処理およびハーフトーン処理をそれぞれ実行する。続くステップS358にて、第1のプロセッサーコア311aおよび第2のプロセッサーコア311bによって画像処理された領域A,Bにおける処理済みの画像データを合体する。続くステップS340にて、CPU311は、ドットデータとして記録された画像データに基づいて、印刷を実行する。
【0029】
ここで、複数の第1および第2のプロセッサーコア311a,311bが画像データを分割して処理するには、各領域が他の領域の画像データを必要としない処理、つまり独立性の高いアルゴリズムで処理することが好ましい。例えば、ハーフトーン処理(ステップS356A,356B)では、各々の画素データを処理するために隣接する画素データを必要とする誤差分散法よりも、ディザ法であることが好ましい。ディザ法は、ROM313に格納されているディザマトリックスを用いて、各画素データをディザマトリックスのデータと対比することにより、各色の画像データを二値化する方法であり、領域を跨った隣接する画素のデータを必要としない処理である。
【0030】
本実施例において、ステップS320にて、画像データの圧縮比が大であると判定された場合に実行される処理(ステップS330〜336)が[課題を解決するための手段]における第1の処理モードにおける処理に相当し、プロセッサーの数はN=1であり、画像データの圧縮比が所定の判定値より小であると判定された場合に実行される処理(ステップS350〜358)が[課題を解決するための手段]における第2の処理モードにおける処理に相当し、プロセッサーの数はM=2である。
【0031】
前記実施例において、コントローラー部310は、画像データの圧縮比が小さい状況にて、複数のプロセッサーを使用する第2の処理モードを実行することにより、画像データに対し、短時間に画像処理を行なうことができ、印刷対象を高速で印刷することができる印刷部320に対応することができる。すなわち、データサイズが同じであっても圧縮比が小さい画像データは、キャッシュの効き難いメモリーのランダムアクセスや分岐命令での分岐予測ミスなどを頻繁に生じやすいが、このような圧縮比の小さい画像データに対しても短時間で画像処理を行なうことができる。
また、コントローラー部310は、画像データの圧縮比が大きい状況にて、プロセッサーの数を少ない第1の処理モードを実行することにより、プロセッサーの消費電力を低減することができる。
【0032】
B.第2実施例:
図5は複数のプロセッサーで画像処理をパイプライン処理により実行している様子を示す説明図、図6は印刷媒体上の画像データを5つに分割した印刷対象を示す説明図である。パイプライン処理とは、コンピューターにおける処理要素を直列に連結し、ある要素の出力が次の要素の入力となるように配置して処理する方法である。図5の例は、印刷対象の画像データが5つの部分に分割されて処理されている様子を説明する説明図である。すなわち、図6において、印刷対象の画像データは、印刷媒体PM2の走査方向dXに分割線DL1,DL2,DL3,DL4にて、「C1」、「C2」、「C3」、「C4」、「C5」の各画像データの領域に分割されている。「C1」、「C2」、「C3」、「C4」、「C5」の各領域における画像データの容量は、第1の処理モードと第2の処理モードとを切り換え可能である画像データのサイズを単位処理量に設定されている。
【0033】
図5において、画像データの圧縮比が所定の判定値より小さいと判定された場合において、コントローラー部310は、第1および第2のプロセッサーコア311a,311bを用いて、印刷対象の画像データを処理する(第2の処理モード)。すなわち、第1のプロセッサーコア311aは、色変換処理の専用のプロセッサーとして働き、領域「C1」、「C2」、「C3」、「C4」、「C5」の各画像データに対して色変換処理を逐次実行する。第2のプロセッサーコア311bは、ハーフトーン処理の専用のプロセッサーとして働き、第1のプロセッサーコア311aが「C1」の画像データについての色変換処理を終えると、「C1」の画像データについてハーフトーン処理を実行し、さらに第1のプロセッサーコア311aでの処理を終えた「C2」、「C3」、「C4」、「C5」の画像データについてハーフトーン処理を順次実行する。このようなパイプライン処理により、画像処理を高速化することができる。この場合においても、印刷対象が走査方向dXの方向に各領域で分割されており、これらの分割した領域の境界での処理を容易にするために、上述したように独立性の高いアルゴリズムで処理することが好ましい。
【0034】
C.第3実施例:
図7は第3実施例にかかる印刷処理のうち第1の処理モードと第2の処理モードとを切り換えるモード切換処理を説明するフローチャートである。本実施例は、処理モードの切換処理の判定条件として、画像データの圧縮比の判定に加えて、印刷部320の待機状況を加えることで処理モードを切り換える構成に特徴を有する。図7において、ステップS400にて、画像データの圧縮比の大小を判定して、圧縮比が所定の判定値より大である場合には、ステップS410に進み、第1の処理モード、つまり少ないプロセッサーで処理する第1の処理モードを実行する。一方、ステップS400にて、画像データの圧縮比が所定の判定値より小である場合には、ステップS420にて、印刷部320の待機状況を判定する。ここで、待機状況の判定条件として、CPUコントローラー317によって、所定の時間当たりに生成されるドットデータの量が、所定の時間内に印刷できるドットデータの量を超えているか、また越えると予測される状況であるかを判定する。なお、待機状況として、印刷部320が実際に停止している状況を判定条件としてもよい。そして、ステップS420にて、印刷部320が待機状況であると判定された場合には、第1の処理モードより、使用されるプロセッサーの数の多い第2の処理モードに移行する。したがって、画像データの圧縮比が小さい画像データであっても、待機状況にない場合には、できるだけ少ないプロセッサーを駆動させることで、省電力を実現するとともに、印刷部がコントローラー部310から送られるドットデータを待つことなく、印刷媒体に印刷することができる。
【0035】
D.第4実施例:
図8は第4実施例にかかる印刷処理のうち第1の処理モードと第2の処理モードとを切り換えるモード切換処理を説明するフローチャートである。本実施例は、処理モードの切換処理の判定条件として、画像データの圧縮比の判定に加えて、ファイルのデータサイズを加えることで処理モードを切り換える構成に特徴を有する。図8において、ステップS450にて、コントローラー部310にて受信したファイルのデータサイズが判定され、ファイル容量が第1の判定値より小さい場合には、第1の処理モードへ移行し(ステップS470)、一方、ファイル容量が第2の判定値(第1の判定値より大きい値)より大きい場合には、第2の処理モードへ移行する(ステップS480)。そして、ファイル容量が第1の判定値と第2の判定値の間の中程度の場合には、画像データの圧縮比を判定し(ステップS460)、第1または第2の処理モードを選択する。この実施例によれば、ファイルのデータサイズが大か、小の場合には、画像データの圧縮比を行なわず、ファイル容量が中程度の場合だけに圧縮比の判定を実行するから、圧縮比の判定のための処理をなくすことができ、簡単な画像処理ができる。
【0036】
E.変形例:
以上、本発明の第1ないし第4実施例について説明したが、本発明はこれらの実施例に限定されず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の構成を採ることができる。例えば、ソフトウェアによって実現した機能は、ハードウェアによって実現するものとしてもよい。また、そのほか、以下のような変形が可能である。
【0037】
前記各実施例では、CPU311をマルチコアプロセッサーとすることで、印刷装置300に複数のプロセッサーを搭載する構成としたが、これに換えて、印刷装置300に複数のCPU(プロセッサー)を搭載する構成としてもよい。また、各実施例では、2つのプロセッサーコアを備える構成としたが、これに換えて、3つ以上のプロセッサーコアを備える構成としてもよい。この場合には、3つ以上のプロセッサーコアを2群に分けて、第1群のプロセッサーと第2群のプロセッサーとで処理を分担するようにすればよい。
【符号の説明】
【0038】
200…ホストコンピューター
300…印刷装置
310…コントローラー部
311…CPU
311a,311b…第1および第2のプロセッサーコア
312…RAM
313…ROM
314…ステップ
316…メモリコントローラー
317…CPUコントローラー
318…通信インターフェース
319…バス
320…印刷部
330…操作パネル
340…外部メモリー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮された画像データから印刷用のドットデータを作成する画像処理を複数のプロセッサーで行なうデータ作成部と、該データ作成部から送られる前記ドットデータに基づいて印刷媒体に印刷を行なう印刷部とを備えた印刷装置であって、
前記データ作成部は、
前記画像データをN個(Nは自然数)のプロセッサーで処理する第1の処理モードと、
前記画像データをN個と異なるM個(Mは自然数)のプロセッサーで処理する第2の処理モードと、
を備え、
前記画像ファイルのヘッダ情報に含まれるデータサイズをDsとし、前記画像データの画素数をPaとすると、Ds/Paで定義される圧縮比の違いにより、前記第1の処理モードと前記第2の処理モードとをそれぞれ実行する、印刷装置。
【請求項2】
請求項1に記載の印刷装置において、
前記データ作成部は、前記画像データの圧縮比が小さい状況にて、N<Mに決定する、印刷装置。
【請求項3】
請求項2に記載の印刷装置において、
前記データ作成部は、前記第2の処理モードの実行時の前記プロセッサーの消費電力が前記第1の処理モードの実行時の前記プロセッサーの消費電力より大きい、印刷装置。
【請求項4】
請求項2に記載の印刷装置において、
前記データ作成部は、前記第2の処理モードの実行時の前記プロセッサーの発熱量が前記第1の処理モードの実行時の前記プロセッサーの発熱量より大きい、印刷装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の印刷装置において、
前記データ作成部は、前記第1の処理モードと前記第2の処理モードとを切り換えて画像処理できる画像データのサイズを単位処理量とすると、該単位処理量の画像データを複数の領域に分けて、各々の領域を前記複数のプロセッサーで分担して画像処理を行なう、印刷装置。
【請求項6】
請求項5に記載の印刷装置において、
前記領域内の画像データは、前記印刷媒体に印刷されるときの前記印刷媒体の搬送方向と直角方向に分けられている、印刷装置。
【請求項7】
請求項5に記載の印刷装置において、
前記領域内の画像データは、前記印刷媒体に印刷されるときの前記印刷媒体の搬送方向に分けられている、印刷装置。
【請求項8】
請求項2ないし請求項7に記載の印刷装置において、
前記データ作成部は、所定の時間当たりに生成するドットデータの量が、前記所定の時間内に印刷できるドットデータの量を超えた状況にて、前記第1の処理モードから第2の処理モードへ切り換えて実行する、印刷装置。
【請求項9】
請求項8に記載の印刷装置において、
前記印刷部が印刷を停止した状況にて、前記第1の処理モードから前記第2の処理モードに移行する、印刷装置。
【請求項10】
圧縮された画像データから印刷用のドットデータを作成する画像処理を複数のプロセッサーで行ない、前記ドットデータに基づいて印刷媒体に印刷を行なう印刷方法であって、
前記画像データをN個(Nは自然数)のプロセッサーで処理する第1の処理モードと、
前記画像データをN個と異なるM個(Mは自然数)のプロセッサーで処理する第2の処理モードと、
を備え、
前記第1の処理モードおよび第2の処理モードを、前記画像ファイルのヘッダ情報に含まれるデータサイズをDsとし、前記画像データの画素数をPaとすると、Ds/Paで定義される圧縮比によってそれぞれ実行する、印刷方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−109543(P2013−109543A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−253463(P2011−253463)
【出願日】平成23年11月21日(2011.11.21)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】