説明

印刷装置及びそのキャリブレーション方法

【課題】複数のプリントエンジン間で印刷ジョブを分散処理する装置において、各エンジン間の色再現特性のばらつきを低減する。
【解決手段】検査チャート発生器600がCMYKの一次色に加えそれらを混ぜた高次色のパッチも含む検査チャートを生成し、印刷ユニット200及び300に印刷させる。その印刷結果を読取装置451で読み取り、その読取画像から測色値計算部702が各パッチの色を測定する。その測定結果に基づき印刷ユニット200及び300各々の色再現域を計算し、これらの共通部分である共通色再現域を共通色再現域計算部706が計算する。そして、各印刷ユニット200及び300が共通色再現域内で色再現を行うよう、パラメータ調整部708が、印刷データの色を各印刷ユニット200及び300の色空間の値に変換するためのDLUT506A及び506Bのデータを変更する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は複数のプリントエンジンに印刷ジョブを振り分けて印刷する印刷装置に関する。
【背景技術】
【0002】
複数のプリンタを1つのプリントサーバで管理して効率的なシステム運用を目指した印刷システムが、従来より多数提案されている。このようなシステムにおいて、1つの印刷ジョブのページを複数のプリンタに振り分けて印刷する場合、プリンタごとに印刷画質が異なるのは問題である。特に、商品として印刷物を作成するためのシステムの場合、高いレベルでの印刷画質の一致が要求される。
【0003】
印刷画質のうち重要なものに色再現があり、プリンタ間での色再現の差を補正するための仕組みが従来より提案されている。
【0004】
例えば特許文献1のシステムでは、サーバが、複数のカラー・プリンタの印刷結果データを受け取り、受け取った印刷結果データからC(シアン)、M(マゼンタ)、Y(イエロー)、K(黒)各色ごとに、その最大濃度値を求め、その中で最小となるデータを特定し、特定した印刷結果データを有するカラー・プリンタが出力可能な濃度値に合わせて、他のプリンタに対するキャリブレーションを実行する。すなわち、各プリンタが各色ごとにその最小値を最大濃度の目標とするように制御することで、色再現性の個体差を抑えている。特許文献2にも同様のシステムが示されている。
【0005】
【特許文献1】特開2002−254710号公報
【特許文献2】特開2003−246126号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1及び2のシステムの色再現補正方式は、色材の色である一次色すなわちCMYKの各色については、複数プリンタ間で色再現性を一致させることができる。しかし、これら従来システムでは、一次色各々ごとにキャリブレーションしているだけなので、2種類の一次色の組合せでできる二次色(R(赤)、G(緑)、B(青)など)や、3乃至4種類の一次色の混色でできる三次色、四次色などの色再現性の一致までは保証されないと言う問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る印刷装置は、複数のプリントエンジンに印刷ジョブを振り分けて印刷させる印刷装置であって、各プリントエンジンに対し、各一次色及びそれら一次色の組合せである各高次色のパッチを含む検査チャートのデータを供給して所定媒体に印刷させる検査チャート印刷手段と、プリントエンジンが所定媒体上に印刷した検査チャートにおける各パッチを測色する測色手段と、各パッチの測色結果から各プリントエンジンについて、高次色も考慮した色再現域を計算する色再現域計算手段と、計算された各プリントエンジンの色再現域の間で共通する共通色再現域を計算する共通色再現域計算手段と、印刷データを各プリントエンジンの色再現特性に合わせて変換する際に用いる変換パラメータを、その共通色再現域内で各プリントエンジンが色再現するようにそれぞれ調整するパラメータ調整手段と、を備える。
【0008】
ここで、「複数のプリントエンジンに印刷ジョブを振り分けて印刷させる印刷装置」には、複数のプリントエンジンを備える一体の印刷装置だけでなく、各々がプリントエンジンを備える別体のプリンタをプリントサーバで制御して振り分け印刷させるシステムも含むものとする。また、「測色手段」の概念には、測色計に限らず、検査チャートの印刷結果を光学的に読み取り、その読取画像データ中の各パッチの色データから測色値を計算するような装置も含まれる。
【0009】
本発明の好適な態様では、前記変換パラメータは、入力される印刷データのN(Nは3以上の整数)次元の色空間での各色の値ごとに、前記プリントエンジン固有のM(Mは3以上の整数)次元の色空間でのその色の値が登録された多次元ルックアップテーブルに登録され、前記パラメータ調整手段は、その多次元ルックアップテーブルに登録された値を調整する。
【0010】
本発明の好適な態様では、印刷装置は、前記共通色再現域計算手段により計算された共通色再現域に基づき、ICC(International Color Consortium)プロファイルを生成し、出力する手段、を更に備える。
【0011】
また本発明の好適な態様では、前記共通色再現域計算手段は、同一の印刷ジョブを振り分けて印刷するプリントエンジンのみの間での共通色再現域を計算する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明を実施するための最良の形態(以下「実施形態」と呼ぶ)について説明する。
【0013】
図1は、本発明が適用される印刷装置の一例の概略構成を示す図である。
【0014】
この印刷装置は、1つの給紙ユニット100,2つの印刷ユニット200及び300,及び1つの排紙ユニット400を備えている。
【0015】
給紙ユニット100は、複数の給紙トレイ(図では3つを例示)101,102及び103を備える。各給紙トレイ101〜103から給紙される用紙は、給紙用搬送路105を通って、給紙ユニット100の後段に接続された印刷ユニット200へと供給される。
【0016】
2つの印刷ユニット200,300は、フルカラー印刷のための電子写真方式のプリントエンジン201,301をそれぞれ備えている。
【0017】
この例では、プリントエンジン201,301はY(イエロー),M(マゼンタ),C(シアン),K(ブラック)の4色の現像部203,303をタンデム(縦列)配列した構成を有している。これら4色の現像部203,303にて電子写真方式にてそれぞれ各色のトナー像が形成され、それら4色のトナー像が中間転写体ベルト205,305上にそれぞれ重ねて転写されることにより、フルカラーのトナー像が形成される。この中間転写体ベルト205,305上のフルカラートナー像は、転写部207,307にて用紙に対して転写される。トナー像が転写された用紙は定着部209,309に送られ、そこでトナー像が用紙に定着される。なお、両面印刷を行う場合は、表(おもて)面の定着の後、定着済みの用紙を一旦スイッチバック経路214,314に送り、その後逆方向に搬送して反転用搬送路216,316に用紙を導入することで用紙を反転させ、転写部207,307に送って裏面を印刷する。
【0018】
なお、本発明はプリントエンジンの構成に依存するものではないので、ここに例示したプリントエンジン201,301の構成はあくまで一例に過ぎない。
【0019】
2つの印刷ユニット200,300は、タンデムに接続されている。すなわち、印刷ユニット200は給紙ユニット100から用紙を受け入れ、印刷ユニット300は印刷ユニット200から排出された用紙を受け入れる。そして、印刷ユニット300から排出された用紙が排紙ユニット400へと導入され、排紙用搬送路405を通って排紙スタッカ401に排出されることになる。以下、識別のため、このタンデム配列において給紙ユニット側から見て上流にある印刷ユニット200をAユニット、下流にある印刷ユニット300をBユニットと呼ぶことにする。
【0020】
A,B両ユニット(200及び300)の構成をより詳細に説明すると以下の通りである。
【0021】
すなわち、Aユニットは、給紙ユニット100の給紙用搬送路105から供給される用紙を受け入れ、その用紙に対しAユニットにて印刷する場合は、ゲート210によりその用紙の搬送経路をプリントエンジン201に向かう搬送路212へと切り換える。これにより用紙はプリントエンジン201内へと導入され、転写部207でトナー像を転写され、定着部209でトナー像の定着が行われる。その用紙に対し両面印刷を行う場合は、上述のようにして両面印刷用の用紙搬送が行われ、裏面の印刷が行われる。このようにして、印刷が完了した用紙は排紙用搬送路217を通ってBユニットに送られる。以上は、給紙ユニット100から供給された用紙に対しAユニットで印刷を行う場合であったが、その用紙に対してAユニットで印刷を行わない場合は、ゲート210の切換によりその用紙は通過用搬送路215へと送られ、更に排紙用搬送路217を通ってBユニットへと送られる。
【0022】
以上Aユニットの動作を説明したが、Bユニットの動作も同様である。すなわち、Aユニットから供給された用紙に対しBユニットで印刷を行う場合は、ゲート310の切換によりその用紙はプリントエンジン301に向かう搬送路312に送られ、画像を印刷された上で排紙ユニット400へと排出される。またBユニットで印刷を行わない場合は、同じくゲート310の切換によりその用紙は通過用搬送路315を通って排紙ユニット400へと排出される。
【0023】
なお、印刷装置の構成によっては、ステープル止めやパンチ穴あけなどの後処理を行う後処理ユニットが設けられる場合があり、このような場合、後処理ユニットは排紙ユニット400の後段に設けることができる。
【0024】
以上のようなA,B両ユニット内の用紙搬送及び印刷の制御は、Aユニット制御部220及びBユニット制御部320がそれぞれ担っている。これら各制御部220及び320と、給紙ユニット100及び排紙ユニット400の制御部(図示省略)とが、印刷装置全体を制御するプリンタコントローラ(図示省略)からの指示に従ってそれぞれ各ユニット内の各部を制御することで、印刷装置全体として一体的な動作制御を実現する。
【0025】
この図1の印刷装置は、2つの印刷ユニット200(Aユニット),300(Bユニット)を有していることにより、高速な印刷動作が可能である。
【0026】
すなわち、この印刷装置では、給紙ユニット100から供給する用紙を1枚ごとに、AユニットとBユニットに交互に供給して印刷を行わせる。すなわち、個々の用紙は、A又はBのどちらか一方のユニットでのみ印刷され、他方のユニットでは通過用搬送路215又は315を通る(すなわち印刷を経ずにそのユニットを通過する)。そして、両ユニットに共通する用紙搬送路105,405(この経路は全ての用紙が通る)では、個々のプリントエンジン201,301における用紙搬送路212,214,216,312,314,316の2倍の速度で用紙を搬送する。これにより、印刷装置全体では、個々のプリントエンジン201,301での印刷速度の2倍の速度で印刷を行うことができる。なお、通過用搬送路215,315でも同様に2倍の速度で(或いはそれ以上に高速に)用紙を搬送してもよい。
【0027】
また、この印刷装置では、排紙ユニット400内を通る排紙用搬送路405上の、排紙トレイ401(と後段のユニットへの分岐点)よりも上流側に、印刷結果を読み取るための読取装置451が設けられる。読取装置451は、測色計でもよいし、ラインセンサや2次元エリアセンサのようなカラー画像読取装置でもよい。読取装置451として、カラー画像読取装置を用いれば、クライアントからの印刷データを印刷する通常印刷時には、この読取装置451が読み取った画像を印刷品質の検査に利用することができると共に、色再現特性のキャリブレーション時には、この読取画像から検査チャートの各パッチの色を測色することができる。
【0028】
以上、印刷装置の機械的側面について説明した。次に、本実施形態の印刷装置の制御機構について、図2を参照して説明する。図2において、図1に示した構成要素に対応する構成要素には同一符号を付した。なお、図2では、給紙ユニット100や排紙ユニット400の図示は省略している。
【0029】
図2において、プリンタコントローラ500は、印刷ユニット200(Aユニット)や300(Bユニット)を制御して印刷動作を行わせる制御部である。プリンタコントローラ500において、PDLインタプリタ502は、クライアントであるコンピュータから送られてくる印刷対象のPDL(ページ記述言語)データ1000を解釈するユニットである。PDLインタプリタ502は、PDLデータ1000を解釈し、色空間の変換を行うことで、PDLデータ1000が示す描画内容を所定の中間コードで表現した中間コードデータを生成する。ここでの色空間変換は、PDLデータ1000の色空間(RGB表色系の場合が多い)をデバイスに直接依存しない一意の基準色空間(例えばsRGB色空間やITUのL***色空間など)に変換するものである。
【0030】
また、レンダラー504は、PDLインタプリタ502が生成した中間コードデータを処理してラスタ画像データを生成する。このラスタ画像データの色空間は、上述の基準色空間であり、sRGB色空間やL***色空間などである。sRGB色空間及びL***色空間はいずれも3次元の色空間であるが、ここでは一般化して、プリンタコントローラ500内部で生成する基準色空間の次元をNとする。
【0031】
なお、これらPDLインタプリタ502及びレンダラー504は、従来から周知のものである。
【0032】
DLUT(Direct Look-Up Table)506A及び506Bは、基準色空間で表現された色を、印刷ユニット200及び300にそれぞれ固有の(すなわちデバイス依存の)色空間の色表現に変換するためのルックアップテーブルである。一般に、印刷装置における色空間はCMYKの4色の組合せからなる4次元の色空間であるが、ここでは一般化してM次元の色空間とする。DLUT506A及び506Bは、それぞれN次元の基準色空間内の各点ごとに、その点に対応する印刷ユニット依存のM次元色空間内での色値を記憶したテーブルである。例えば基準色空間をL***空間、印刷ユニット依存の色空間をCMYK空間とし、L*,a*,b*及びC,M,Y,Kのそれぞれを8ビットデータで表現した場合、DLUT506A及び506Bは、理想的には、それぞれ256×256×256のデータエントリからなるテーブルとなり、各データエントリには8ビット×4=32ビットのデータが登録されることになる。実際にはデータエントリ数が大きくなりすぎるため、通常、個々のDLUTはR,G,B各軸16個毎、16+1の格子点データ、計17×17×17=4913個のデータエントリを用い、格子点間は補完演算を行うのが一般的である。
【0033】
なお、AユニットとBユニットとでは、色再現特性に個体差が存在するため、本実施形態では、A用DLUT506AとB用DLUT506Bの2つのDLUTを設けている。
【0034】
レンダラー504が生成したラスタ画像データにおける各画素の各色成分(例えばL*,a*,b*)がそれぞれA用DLUT506AでAユニット用の色空間での値(例えばC,M,Y,K)に、B用DLUT506BでBユニット用の色空間での値に、それぞれ変換される。この結果プリントコントローラ500からAユニット200及びBユニット300に対し、Aユニットの色再現特性に合わせて補正されたラスタ画像データが、それぞれ供給される。
【0035】
Aユニット200及びBユニット300は、それぞれM個の1次元LUT222及び322と、中間調化(ハーフトーニング)処理部224及び324と、プリントエンジン201及び301とを備えている。
【0036】
1次元LUT222及び322は、各ユニット200及び300の経時的な印刷色再現性の変化を補償するために用いられるルックアップテーブルであり、印刷ユニット依存の色空間のM個の原色の各々について1つずつ設けられる。すなわち、1次元LUT222及び322は、印刷ユニット依存の色空間の各原色(一次色)ごとのトーン再生を補正するものである。これに対し、プリンタコントローラ500に設けられたDLUT506A及び506Bは、原色間相互の影響も考慮したより包括的な色空間変換を行うものである。すなわち、DLUT506A及び506Bで包括的な変換を行った後、経時変化分は1次元LUT222及び322で補正するという二段構えの構成となっている。なお、以上に説明した1次元LUT222及び322と、中間調化処理部224及び324は、従来から周知のものである。
【0037】
プリントエンジン201及び301は、図1を用いて説明したのと同じものである。
【0038】
以上に説明したAユニット200及びBユニット300の色再現特性の差を低減するキャリブレーションのために、本実施形態の印刷装置には、検査チャート発生器600,読取装置451及びキャリブレーション演算ユニット700が設けられている。また、このようなキャリブレーション機構を用いたキャリブレーション処理の流れを図3に示す。以下、図2及び図3を適宜参照して、本実施形態のキャリブレーション機構を説明する。
【0039】
検査チャート発生器600は、色再現特性を検査するための検査チャートのラスタ画像データを発生する。この検査で用いる検査チャートは、印刷ユニット200及び300で用いられるM種類の色材の色(一次色すなわち原色)の何段階かの濃度の異なるパッチ(単色で塗りつぶした小領域)と、それら各色材を2色混ぜた2次色、3色混ぜた3次色、及び4色混ぜた4次色のパッチを、所定の用紙サイズのページ領域上に配列したものである。2,3,及び4次の高次色については、一次色の組合せが同じものについて、各一次色の濃度の組合せを様々に変えた何種類かのパッチが配列される。例えば、仮にCMYK空間の場合、C,M,Y,Kのそれぞれに4段階(濃度0も1つの段階とする)の濃度段階を想定した場合、256個のパッチを配列した検査チャートを生成することとなる。全てのパッチが1ページに収まらない場合は、複数ページに分ける。
【0040】
このようにして再生された検査チャートのラスタ画像データは、Aユニット200及びBユニット300にそれぞれ供給される。Aユニット200及びBユニット300は、この検査チャートをプリンタコントローラ500の指示に応じて給紙される所定の用紙にそれぞれ印刷する(S10)。この印刷結果である印刷物1100(A,Bユニットそれぞれの印刷結果)は、排紙用搬送路405上にある読取装置451によってカラーで読み取られる(S12)。この結果、読取装置451から検査チャートを読み取ったカラーの読取画像データが出力される。
【0041】
キャリブレーション演算ユニット700において、測色値計算部702は、読取装置451からのカラーの読取画像データを画像処理して各パッチを抽出し、それら各パッチの測色値をそれぞれ計算する(S12)。測色値は、デバイスに直接依存しない基準色空間(例えばL***)での値である。ここでは、Aユニット及びBユニットが印刷した各検査チャートの読取結果につき、各パッチの測色値が計算される。なお、読取装置451として測色計を用いた場合は、読取すなわち測色であり、読取装置451から各パッチの測色値が出力されることになる。
【0042】
色再現域計算部704は、測色値計算部702で計算されたAユニット及びBユニットの各検査チャートの各パッチの測色値に基づき、Aユニット及びBユニットのそれぞれの色再現域を計算する(S14)。1つの印刷ユニットの色再現域は、測色の色空間(例えばL***)において、そのユニットが印刷した検査チャートの各色のパッチの測色値が分布する領域である。高次色を含む多数のパッチを配列した検査チャートを用いることで、一次色のみのパッチしかない検査チャートでは分からない中間色部分についての情報も含んだ色再現域を求めることができる。
【0043】
色再現域の一例を図4に示す。図4に示したのは、L***空間における色再現域をa**平面に正射影したものである。L***空間では色再現域は3次元形状となるが、ここでは説明を分かりやすくするため、正射影の2次元領域で説明する。
【0044】
図において、頂点Cは、一次色シアンの濃度が100%(最高濃度)、他の一次色マゼンタ及びイエローの濃度が0パーセントのパッチの測色値を示す点である。頂点M,Yも同様に1つの一次色の濃度が100%で他の一次色の濃度が0%のパッチの測色値を示す点である。またRは赤の最高濃度(すなわちイエローとマゼンタの濃度が共に100%で、シアンが0%)を示す点であり、同様にGは緑(イエローとシアン)、Bは青(シアンとマゼンタ)の最高濃度を示す点である。色再現域の射影は、図示のごとく、それらC,M,Y,R,G,Bの6点を頂点とする六角形(及びその内部)となる。もちろんこれは大まかな傾向を示したものであり、厳密には、色再現域の射影は六角形の各辺が多少凹凸した形状となることもあり得る。
【0045】
さて、プリントエンジンの色再現は、様々な要因によって劣化あるいは変化する。例えば、例えば各一次色の感光体ドラムを並列配置した電子写真方式のプリントエンジンの場合、各一次色の露光部や現像部、転写部の不具合は、検査チャート上の一次色のパッチの測定濃度の低下をもたらす。また、ある感光体ドラムから転写されたある色のトナーが後段の感光体ドラムにより引きはがされる不具合もあり、この場合一次色のパッチおよび二次色以上の高次色のパッチのいずれの色も変化する。また中間転写体ベルトを用いたエンジンの場合、中間転写体ベルトから用紙へのトナー転写不良があると、二次以上の高次色のパッチの色が変化する。図4に破線で示した色再現域は、Rの最高濃度が二次転写等の性能劣化によりR' へと変化した場合の例である。また、曲線10C,10M,10Yは、一次色C,M,Yの各濃度での測色値を連ねた曲線であり、曲線10R,10G,10Bは、二次色R,G,Bの各濃度での測色値を連ねた曲線である。一般に、一次色再現の劣化は、色再現域の頂点C,M,Yがそれぞれ曲線10C,10M,10Y上で彩度が低下していく方向に移動する形になるのに対し、二次色再現の劣化は、多様な要因の複合であるため、頂点R,G,Bが曲線10R,10G,10Bから外れた方向に移動することも少なくない。
【0046】
S14では、色再現域計算部704は、Aユニット及びBユニットの検査チャートの測色結果に基づき、それぞれの色再現域を計算する。
【0047】
このように全ての印刷ユニットの色再現域が計算されると、次に、共通色再現域計算部706がそれら全印刷ユニットの色再現域の共通部分(「共通色再現域」と呼ぶ)を計算する(S16)。例えば、図5に示すようにAユニットの色再現域(一点鎖線)とBユニットの色再現域(破線)が求められた場合、共通色再現域は実線で示すように、両者の色再現域の重なった部分となる。なお、図5では、各ユニットの色再現域と共通色再現域とが識別できるよう、実際は重なるべき辺を少しずらして描いている。例えばYとGの頂点を同士を結ぶ辺はBユニットの色再現域と共通色再現域とで重なるが、図ではこれらをずらして重ならないように表示している。
【0048】
図5の例は、a**平面への色再現域の正射影の上での例であったが、L***空間での三次元の色再現域についても、同様に共通色再現域を計算できる。例えば、L***空間での各ユニットの三次元の色再現域が示す立体同士をAND演算することで、共通色再現域が計算できる。
【0049】
このように共通色再現域が求められると、次にパラメータ調整部706が、Aユニット及びBユニットの各々の色再現域が共通色再現域になるよう、色域圧縮(ガミュート(gamut)圧縮とも呼ばれる)を行う(S18)。
【0050】
ここでの色域圧縮には、従来よりディスプレイとプリンタなどのように色再現特性が大きく異なるデバイス間でのカラーマッチングのために利用されてきたガミュート圧縮の手法を利用できる。
【0051】
例えば、赤(M100%,Y100%)の色再現がAユニットではRa 、BユニットではRb であり、両ユニットの共通色再現域での赤の最も外側の点がRx であったとする。このときRa など共通色再現域の外の色は、色域圧縮によりRx に変換すればよい。
【0052】
また例えば、本出願人による特開平4−40072号公報には、色域圧縮の1つの方法として、入力された色がデバイスの色再現域から外れる場合、明度及び色相(色度とも言う)を維持したまま、その彩度を下げる(すなわち入力色の彩度を、色再現域内でその明度と色相の組合せに対応した最大彩度にする)ことで、その色値をデバイスの色再現域内の値にするという補正処理が示されている。この場合、補正が行われるのは色再現域から外れる色だけであり、逆に入力色がデバイスの色再現域内であれば補正は行われない。
【0053】
この手法を、S18の色域圧縮に適用するには、例えばAユニットの色域を圧縮する場合、Aユニットの色再現域(S14で計算済み)に属する各色(L*,a*,b*)(L*,a*,b*それぞれが8ビットのデータ幅の場合、最大2の24乗個のデータ点を考慮することになるが、通常はデバイスの色再現域境界付近以外は格子点4913個の一部を考慮することとなり、これよりもかなり少なくなる。)が、共通色再現域(これはAユニットの色再現域の内部に含まれる)に含まれるかをそれぞれ判定し、注目している色が共通再現域の中になる場合は色の変換は行わず、共通色再現域の外である場合は、明度及び色相を維持したままその色の彩度を当該明度と色相の組合せに対応する最大彩度に変換する。このとき、その公報に示されるように、予めL***空間の共通色再現域をHSV(色相・彩度・明度)空間に変換し、明度と色相の各組合せに対する最大彩度を登録したテーブルの形でその共通色再現域を表現しておき、Aユニットの色再現域内の各色をHSVに変換すれば、その色が共通色再現域に含まれるか否かが容易に判定でき、さらに共通色再現域から外れる場合、対応する最大彩度を容易に求めることができる。このように共通色再現域外の色の彩度を変換することで、Aユニットの色再現域を共通色再現域に圧縮することができる。Bユニットについても同様の処理で色域圧縮ができる。
【0054】
なお、特開平4−40072号公報の手法では、共通色再現域から外れる色は全て同一明度・同一色度における最大彩度(共通色再現域内での最大彩度)に彩度が変換されるため、共通色再現域の外の色は同一明度・同一色度ならば全て同じ色になってしまう。このようなことを避けるためには、本出願人による特開平8−214175号公報に示されるように、共通色再現域の外の色の彩度を、入力と出力の最大彩度の比に応じて線形圧縮する手法を用いることができる(明度及び色度は維持)。特開平8−214175号公報のシステムでは、入力と出力がそれぞれディスプレイとプリンタのような異なるデバイスであるが、本実施形態では、入力は注目する印刷ユニット(例えばAユニット)の色再現域であり、出力は共通色再現域となる。すなわち、例えばAユニットの色再現域におけるある色度Ha及び明度Vaの組合せに対応する最大彩度がCmaxA、共通色再現域における同じ色度Ha及び明度Vaの組合せに対応する最大彩度がCmaxCであったとすると、Aユニットの色再現域内における同じ色度Ha及び明度Vaの組合せに対応する任意の色(Ha,Va,C)(Cは彩度)は、色域圧縮により(Ha,Va,C')(ただし、C'=C×(CmaxC/CmaxA))へと変換される。このような圧縮によれば、個々の印刷ユニットの色再現域を共通色再現域へと線形圧縮することができる。
【0055】
なお、HSV空間内の色値はL***空間の色値に容易に変換できる。
【0056】
以上、いくつかの色域圧縮手法を例示したが、これらはあくまで一例である。他にも様々な色域圧縮方式が存在しており、S18ではそれら様々な方式のどれを用いても構わない。
【0057】
また、S18では、このような色域圧縮の結果を、プリンタコントローラ500内に設けられた色空間変換用のDLUT506A及び506Bに反映する。
【0058】
すなわち、S12の測色処理では、検査チャートにおける各パッチの印刷ユニット(仮にAユニットとする)依存の色(C,M,Y,K)と、これを測色したときの測色値(L*,a*,b*)とのペアがパッチの数だけ判明するので、これを記憶しておけば、Aユニットの色再現域における各色(これはL***空間の値である)のCMYK空間(Aユニットに依存)での値を求めることができる。パッチによる測定データのない色(L*,a*,b*)に対応するAユニット依存のCMYK値は、データのあるペアの情報を補間することで求めればよい。このように、Aユニットの色再現域内のL***値に対応するAユニットのCMYK値は、S12での測色(及び必要に応じてその測色結果の補間)により求められるので、その対応関係をキャリブレーション演算ユニット700内の記憶装置に記憶しておく。そして、パラメータ調整部708における色域圧縮によりある色の値(L*,a*,b*)が別の値(L*',a*',b*') に変化した場合、変化後の値(L*',a*',b*') に対応するAユニット依存の色値(C',M',Y',K')をその対応関係から求めることができる。すなわち、変化後の色(L*',a*',b*')を印刷するためには、Aユニットに対して(C',M',Y',K')の色値を指示すればよいことが求められる。したがって、変化前の元の色値(L*,a*,b*)が、変化後のAユニット依存の色値(C',M',Y',K')に変換されるようにDLUT506Aの登録データを変更すればよい。すなわち、DLUT506Aにおける(L*,a*,b*)のエントリの値を(C',M',Y',K')に書き換えればよい。こうすることにより、このDLUT506Aを使って色空間変換を行えば自動的に色再現域が共通色再現域に収まるよう、色空間変換がなされることになる。
【0059】
色域圧縮方式として特開平4−40072号公報の方式を用いた場合、DLUT506Aのうち値が更新されるのは、共通色再現域の外の点についてのエントリのみであるが、特開平8−214175号公報の方式の場合は、線形圧縮なので、Aユニットの色再現域内のほとんど全ての点に対応する値が更新されることになる。
【0060】
以上Aユニットを代表として説明したが、Bユニットについても同様の処理によりDLUT506Bを更新することで、色域圧縮を行える。
【0061】
以上のようなキャリブレーション処理により、印刷装置に含まれる複数のプリントエンジンを、共通色再現域で色再現させることができる。このようなキャリブレーション処理は、例えば一日の始めの印刷装置起動時や、所定数量以上の多数枚の印刷を行った後などの所定のタイミングで実行することで、プリントエンジン間の色再現特性の乖離を防止乃至低減することができる。
【0062】
なお、図2では、キャリブレーション演算ユニット700や検査チャート発生器600が、プリンタコントローラ500とは別体であるものとして表したが、キャリブレーション演算ユニット700や検査チャート発生器600をプリンタコントローラ500と同じハードウエア内に実装してももちろん構わない。
【0063】
以上説明したように、本実施形態では、二次以上の高次色も含んだ検査チャートを用いることで高次色も考慮した色再現域を印刷ユニット各々について求め、それら各印刷ユニットの色再現域の共通部分、すなわち共通色再現域を求め、各印刷ユニットがその共通色再現域にて色再現を行うように色域圧縮を行う。このような構成によれば、各印刷ユニットが同じ色再現域(共通色再現域)で色再現を行うことができ、しかもその共通色再現域は高次色も考慮したものであるので、一次色のみならず高次色についても各印刷ユニットの色再現性を揃える(すなわち一致又は近いものにする)ことができる。
【0064】
また、本実施形態においては、キャリブレーション演算ユニット700が、このようにして求めた共通色再現域に基づき、ICC(International Color Consortium)プロファイルを作成し、これを複数の印刷ユニットを備えた当該印刷装置全体のプロファイルとして出力できるようにすることも好適である。このようなICCプロファイルを、印刷データを作成するコンピュータ等のクライアント装置に提供すれば、クライアント装置側でその印刷装置の色特性に合致した印刷データを作成(例えば印刷装置で再現できない色を補正する等)することが可能になる。
【0065】
また、以上では、2つのプリントエンジン(印刷ユニット)を備える印刷装置を例示したが、3以上のプリントエンジンを備える印刷装置についても、同様のキャリブレーション処理が可能なことは明らかであろう。また、同様のキャリブレーション処理は、別体のプリンタをネットワークで接続し、プリントサーバでそれらプリンタを管理するネットワークプリンティングシステムにも適用可能なことは、容易に理解されよう。
【0066】
また、フルカラーのプリントエンジンを2台に加え白黒のプリントエンジンを備えるような印刷装置も考えられる。このような装置では、上述のキャリブレーションはフルカラーの2台のプリントエンジンのみについて行えばよい。
【0067】
また、ネットワークプリンティングシステムでは、同じフルカラープリンタではあっても性能が異なるものがネットワークに接続される場合がある。この場合、1つの印刷ジョブを分散させる場合は、性能が同一、ないしは似通ったプリンタ間で分散させることになる。したがって、このようなケースでは、1つの印刷ジョブが振り分けられるプリンタのグループ(すなわち同じ又は近い性能のプリンタ群)の間で上述のキャリブレーションを行えばよい。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明が適用される印刷装置の機械的構成の一例を示す図である。
【図2】本発明に係る印刷装置の制御機構の構成を示す図である。
【図3】キャリブレーション処理の手順を示すフローチャートである。
【図4】色再現域を説明するための図である。
【図5】共通色再現域を説明するための図である。
【符号の説明】
【0069】
100 給紙ユニット、200,300 印刷ユニット、201,301 プリントエンジン、400 排紙ユニット、500 プリンタコントローラ、506A A用DLUT、506B B用DLUT、600 検査チャート発生器、700 キャリブレーション演算ユニット、702 測色値計算部、704 色再現域計算部、706 共通色再現域計算部、708 パラメータ調整部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のプリントエンジンに印刷ジョブを振り分けて印刷させる印刷装置であって、
各プリントエンジンに対し、各一次色及びそれら一次色の組合せである各高次色のパッチを含む検査チャートのデータを供給して所定媒体に印刷させる検査チャート印刷手段と、
プリントエンジンが所定媒体上に印刷した検査チャートにおける各パッチを測色する測色手段と、
各パッチの測色結果から各プリントエンジンについて、高次色も考慮した色再現域を計算する色再現域計算手段と、
計算された各プリントエンジンの色再現域の間で共通する共通色再現域を計算する共通色再現域計算手段と、
印刷データを各プリントエンジンの色再現特性に合わせて変換する際に用いる変換パラメータを、その共通色再現域内で各プリントエンジンが色再現するようにそれぞれ調整するパラメータ調整手段と、
を備える印刷装置。
【請求項2】
前記変換パラメータは、入力される印刷データのN(Nは3以上の整数)次元の色空間での各色の値ごとに、前記プリントエンジン固有のM(Mは3以上の整数)次元の色空間でのその色の値が登録された多次元ルックアップテーブルに登録され、
前記パラメータ調整手段は、その多次元ルックアップテーブルに登録された値を調整する、
ことを特徴とする請求項1記載の印刷装置。
【請求項3】
前記複数のプリントエンジンで印刷された印刷済み用紙を共通の排紙部へと搬送する共通排紙用搬送路を備え、
前記測色手段は、その共通排紙用搬送路における排紙部の前段に設けられることを特徴とする請求項1記載の印刷装置。
【請求項4】
前記共通色再現域計算手段により計算された共通色再現域に基づき、ICC(International Color Consortium)プロファイルを生成し、出力する手段、
を更に備える請求項1記載の印刷装置。
【請求項5】
前記共通色再現域計算手段は、同一の印刷ジョブを振り分けて印刷するプリントエンジンのみの間での共通色再現域を計算することを特徴とする請求項1記載の印刷装置。
【請求項6】
複数のプリントエンジンに印刷ジョブを振り分けて印刷させる印刷装置のキャリブレーション方法であって、
a)各プリントエンジンに対し、各一次色及びそれら一次色の組合せである各高次色のパッチを含む検査チャートのデータを供給して所定媒体に印刷させ、
b)プリントエンジンが所定媒体上に印刷された検査チャートにおける各パッチを測色し、
c)各パッチの測色の結果から各プリントエンジンについて、高次色も考慮した色再現域を計算し、
d)計算された各プリントエンジンの色再現域の間で共通する共通色再現域を計算し、
e)印刷データを各プリントエンジンの色再現特性に合わせて変換する際に用いる変換パラメータを、その共通色再現域内で各プリントエンジンが色再現するようにそれぞれ調整する、
印刷装置のキャリブレーション方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−137013(P2007−137013A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−337337(P2005−337337)
【出願日】平成17年11月22日(2005.11.22)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】