説明

印刷装置

【課題】インクの温度を適正温度範囲内に調整して印刷を行う印刷装置において、装置の起動後、迅速に印刷動作が開始可能になるようにする。
【解決手段】ウォームアップ時間算出部82は、環境温度下における温度調整が行われていない状態のインクの温度の、測定した時間帯ごとの測定履歴を示すインク温度テーブルを用いて、設定された起動時刻における推定インク温度を算出するとともに、この推定インク温度から適正温度範囲内にまでインクの温度を到達させるために要する温度調整の時間であるウォームアップ時間を算出し、温度制御部84は、設定された起動時刻からウォームアップ時間を差し引いた時刻から温度調整を開始するよう温度調整部31を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクを用いて印刷媒体に印刷を行う印刷装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット方式の印刷装置で用いられるインクは、一般に、低温環境下で粘度が増大し、高温環境下で粘度が低下する特性を有しており、インク温度が低すぎたり高すぎたりすると、インクジェットヘッドから適正なインク量の吐出を行うことが難しくなる。このため、インクジェット方式の印刷装置では、インクを使用する際の適正温度範囲が定められており、インク温度を調整するために、インクを温めるための加温器と、インクを冷却するための冷却器とを有する温度調整機構が設けられている。
【0003】
印刷装置の電源がオフのときなど、温度調整機構への電力供給が切断されると、環境温度の影響によりインク温度が適正温度範囲外になることがある。この場合、印刷装置を起動しても、印刷動作を行うためには、温度調整機構によりインク温度を調整するウォームアップ動作が必要になる。起動時のインク温度によっては、ウォームアップ時間が長くなり、印刷可能になるまでに長時間を要することがある。その間、ユーザは待たされることになり不便である。
【0004】
そこで、ユーザの利便性を向上するため、特許文献1では、電源が投入されると、外気温とインク温度とインク量とを検出し、これらに基づいて、ウォームアップに要する時間を算出し、算出した時間をLCDに表示することによりユーザに報知するインクジェットプリンタが提案されている。ウォームアップに要する時間を知ることで、ユーザは、いつ印刷可能になるか分からないまま待たされる事態を回避し、時間の無駄を軽減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−169106号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
印刷装置において、タイマー機能によりユーザが予め設定した時刻に電源をオンして装置を起動させることがある。ユーザは、装置の使用を開始したい時刻に合わせて起動の時刻を設定するため、起動後すぐに印刷動作を開始できることが望ましい。しかし、設定された時刻に装置を起動しても、インク温度が適正温度範囲内でない場合は、ウォームアップ動作を行わなければならず、すぐに印刷開始はできなかった。
【0007】
特許文献1記載の技術では、装置の起動時にインク温度が適正温度範囲内にない場合、ユーザはウォームアップに要する時間を知ることはできるが、起動後すぐに印刷を開始できるわけではない。そこで、印刷装置の起動後、迅速に印刷動作を開始可能とすることができる技術が要望されていた。
【0008】
本発明は上記に鑑みてなされたもので、インクの温度を適正温度範囲内に調整して印刷を行う印刷装置において、装置の起動後、迅速に印刷動作が開始可能になるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明に係る印刷装置の第1の特徴は、インクを用いて印刷媒体に印刷を行う印刷装置の起動時刻を設定する設定部と、前記インクの温度が、前記印刷装置が印刷可能な適正温度範囲内になるまで温度調整するウォームアップ動作を行う温度調整部と、インクの温度を測定する温度測定部と、環境温度下における温度調整が行われていない状態のインクの温度の、測定した時間帯ごとの測定履歴を示すインク温度テーブルを記憶するインク温度テーブル記憶部と、前記インク温度テーブルを用いて前記起動時刻における推定インク温度を算出し、前記推定インク温度から前記適正温度範囲内にまでインクの温度を到達させるために要する温度調整の時間であるウォームアップ時間を算出するウォームアップ時間算出部と、前記起動時刻から前記ウォームアップ時間を差し引いた時刻から前記ウォームアップ動作を開始するよう前記温度調整部を制御する温度制御部とを備えることにある。
【0010】
本発明に係る印刷装置の第2の特徴は、前記ウォームアップ動作の開始時に前記温度測定部で測定された測定値を取得し、測定された時間帯ごとに、直近の所定測定回数以内分の測定値の平均値を算出して、前記平均値を前記インク温度テーブルに記憶させるインク温度テーブル管理部をさらに備え、前記ウォームアップ時間算出部は、前記平均値を前記推定インク温度として用いることにある。
【0011】
本発明に係る印刷装置の第3の特徴は、インクの温度と前記適正温度範囲内になるまでの前記温度調整部による温度調整時間との関係を示す温度調整時間テーブルを記憶する温度調整時間テーブル記憶部をさらに備え、前記ウォームアップ時間算出部は、前記温度調整時間テーブルを用いて前記推定インク温度から前記ウォームアップ時間を算出することにある。
【0012】
本発明に係る印刷装置の第4の特徴は、前記ウォームアップ動作によりインクの温度が前記適正温度範囲内に到達した時刻と前記起動時刻との間隔が所定時間を超えた場合、前記ウォームアップ時間の算出に用いた前記温度調整時間テーブルの値を変更する温度調整時間テーブル管理部をさらに備えることにある。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る印刷装置の第1の特徴によれば、環境温度下における温度調整が行われていない状態のインクの温度の、測定した時間帯ごとのインク温度の測定履歴を示すインク温度テーブルを用いて、設定された起動時刻における推定インク温度を算出し、この推定インク温度を用いて算出した、起動時刻になる前のウォームアップ開始時刻からウォームアップ動作を開始するので、環境温度の変化等にも対応して、設定された起動時刻においてインクの温度が適正温度範囲内になるように調整することができ、印刷装置の起動後、迅速に印刷動作を開始可能とすることができる。
【0014】
本発明に係る印刷装置の第2の特徴によれば、ウォームアップ動作の開始時に温度測定部で測定された測定値を取得し、測定された時間帯ごとの直近の所定測定回数以内分の測定値の平均値を推定インク温度として用いることで、季節の変化による環境温度の変化等にも対応して、適切なウォームアップ時間を求めることができる。
【0015】
本発明に係る印刷装置の第3の特徴によれば、インクの温度と適正温度範囲内になるまでの温度調整部による温度調整時間との関係を示す温度調整時間テーブルを用いて推定インク温度から事前ウォームアップ時間を算出するので、温度調整部の性能等に応じた適切なウォームアップ時間を算出することができる。
【0016】
本発明に係る印刷装置の第4の特徴によれば、ウォームアップ動作によりインクの温度が適正温度範囲内に到達した時刻と起動時刻との間隔が所定時間を超えた場合、ウォームアップ時間の算出に用いた温度調整時間テーブルの値を変更するので、環境温度の変化等に対応して、適切な事前ウォームアップ時間を求めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施の形態に係る印刷装置の構成を示すブロック図である。
【図2】図1に示す印刷装置におけるインク循環機構の概略構成図である。
【図3】インク温度テーブルの一例を示す図である。
【図4】加温テーブルの一例を示す図である。
【図5】冷却テーブルの一例を示す図である。
【図6】図1に示す印刷装置においてタイマー機能による起動を行う際の動作を示すフローチャートである。
【図7】図1に示す印刷装置においてタイマー機能による起動を行う際の動作を示すフローチャートである。
【図8】インク温度テーブルの更新処理の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0019】
図1は、本発明の実施の形態に係る印刷装置の構成を示すブロック図である。図1に示すように本実施の形態に係る印刷装置1は、インクジェットヘッド2と、インク循環機構3と、操作パネル部4と、時計部5と、記憶部6と、電力供給部7と、制御部8とを備える。印刷装置1は、インク循環型のインクジェットプリンタである。
【0020】
インクジェットヘッド2は、多数のノズルと、インクを貯蔵するインク室と、インク室のインクをノズルから吐出するためのインク吐出機構(いずれも図示せず)とを有する。インク吐出機構は、ピエゾ素子と、制御部8から送られた信号に基づいてピエゾ素子を駆動するドライバとを有する。また、インクジェットヘッド2は、インク温度を測定する温度センサ(温度測定部)21を有する。なお、上記のようなピエゾ素子を用いたインク吐出機構に限らず、例えば、発熱素子でインクに熱を加えて気泡を発生させることでインクを噴射させるインク吐出機構を用いるようにしてもよい。
【0021】
インク循環機構3は、循環型のインク流路、ポンプ、インク温度を調整する温度調整部31等を備える。インク循環機構3のインク流路を循環するインクがインクジェットヘッド2のインク室に供給される。印刷装置1は、インク循環機構3を備えることにより、インクの不純物除去を効果的に行うことができる。なお、インク循環機構3の構成の詳細については後述する。
【0022】
操作パネル部4は、タッチパネル式の表示装置等により構成され、ユーザからの操作を受け付け、その内容を制御部8に通知する。
【0023】
時計部5は、時刻を計時し、現在の日時を示す時刻情報を出力する。
【0024】
記憶部6は、不揮発性の記憶装置により構成され、環境温度下における温度調整が行われていない状態のインクの温度の、測定した時間帯ごとの測定履歴を示すインク温度テーブルを記憶するインク温度テーブル記憶部61と、インクの温度帯ごとに適正温度範囲内になるまでの温度調整に要する時間である温度調整時間を示す温度調整時間テーブルを記憶する温度調整時間テーブル記憶部62とを有する。
【0025】
電力供給部7は、図1には図示していない用紙搬送機構やスキャナ等も含む、印刷装置1に設けられた各部に電力を供給する。
【0026】
制御部8は、CPU、メモリ等が配置されたコントローラ基板等で構成することができ、印刷装置1全体の動作を制御する。例えば、制御部8は、画像処理、印刷ジョブ管理等を行う。具体的には、印刷対象となる画像に基づいて、インク吐出データを生成し、インクジェットヘッド2のドライバに出力する処理等を行う。印刷対象となる画像は、例えば、図示しないスキャナで読み取った画像データ、LANを介してパーソナルコンピュータから送られた印刷データ等とすることができる。
【0027】
また、制御部8は、設定部81としての機能と、ウォームアップ時間算出部82としての機能と、インク循環制御部83としての機能と、温度制御部84としての機能と、インク温度テーブル管理部85としての機能と、温度調整時間テーブル管理部86としての機能と、電力制御部87としての機能とを有する。
【0028】
設定部81は、ユーザが操作パネル部4を操作して行う各種設定を受け付ける。本実施の形態において印刷装置1は、ユーザが予め設定した時刻に電源をオフからオンにして装置を起動するタイマー機能を有し、設定部81は、タイマー機能における起動時刻の設定を受け付け、設定された起動時刻である設定起動時刻を記憶部6に記憶する。
【0029】
また、本実施の形態の印刷装置1は、タイマー機能における設定起動時刻になる前から、インク循環機構3によりインクを循環させながら温度調整部31によりインク温度が適正温度範囲内の温度になるように調整するウォームアップ動作を開始する事前ウォームアップ機能を有する。この事前ウォームアップを行うか否かは、ユーザの操作パネル部4の操作に応じて設定可能となっている。事前ウォームアップによる電力消費を回避したい場合は、事前ウォームアップ設定をオフにすればよい。
【0030】
なお、本実施の形態において印刷装置1の電源がオフの状態は、印刷装置1の主電源はオンであるが副電源がオフであり、タイマー機能による起動や事前ウォームアップの処理に必要な一部の機能部を除いて電力供給を停止した状態である。電源をオンすると、印刷装置1全体が動作可能な電力が電力供給部7から各部に供給される。
【0031】
ウォームアップ時間算出部82は、設定起動時刻、インク温度テーブル、および温度調整時間テーブルに基づいて、事前ウォームアップで温度調整に必要な時間である事前ウォームアップ時間を算出する。また、ウォームアップ時間算出部82は、設定起動時刻から事前ウォームアップ時間を差し引いた事前ウォームアップ開始時刻を算出する。
【0032】
インク循環制御部83は、インク循環機構3のポンプ等を制御することにより、インク循環処理を制御する。
【0033】
温度制御部84は、温度調整部31を制御することにより、インク循環機構3において循環するインクの温度調整を行う。
【0034】
インク温度テーブル管理部85は、インク温度テーブルを管理するものであり、事前ウォームアップ開始時に温度センサ21の測定値を取得してインク温度テーブルを更新する。
【0035】
温度調整時間テーブル管理部86は、温度調整時間テーブルを管理するものであり、事前ウォームアップ動作によりインク温度が適正温度範囲内に到達した時刻とウォームアップ時刻との間隔が所定時間を超えた場合、温度調整時間テーブルを更新する。
【0036】
電力制御部87は、電力供給部7による印刷装置1の各部への電力供給を制御する。
【0037】
図2は、インク循環機構3の概略構成図である。図2に示すように、インクジェットヘッド2にインクを供給するインク循環機構3は、温度調整部31と、インクボトル32と、下流タンク33と、上流タンク34と、ポンプ35とを備える。
【0038】
また、インク循環機構3は、インクボトル32から下流タンク33につながる供給流路DRと、下流タンク33から上流タンク34、インクジェットヘッド2を通って下流タンク33戻る循環流路CRとを備える。
【0039】
インクボトル32から供給されたインクは、供給流路DRを通って下流タンク33に一時的に溜められる。また、循環流路CRでは、下流タンク33に溜められたインクが、ポンプ35により上流タンク34に送られてから、インクジェットヘッド2に導かれる。インクジェットヘッド2で印刷に用いられなかったインクは下流タンク33に戻される。
【0040】
インクジェットヘッド2のインク吐出面は、下流タンク33より高い位置に配置され、上流タンク34は、インクジェットヘッド2のインク吐出面より高い位置に配置されている。この位置関係に基づく水頭差により、上流タンク34からインクジェットヘッド2へのインク供給およびインクジェットヘッド2から下流タンク33へのインク帰還が行われる。
【0041】
温度調整部31は、下流タンク33と上流タンク34との間に設けられ、インクを温めるためのヒータ311と、インクを冷却するためのインク冷却器312とを備える。インク冷却器312はヒートシンク313を有しており、冷却効果を高めるための冷却ファン314がインク冷却器312のヒートシンク313の近傍に設けられている。
【0042】
インクには、印刷装置1が印刷可能な適正温度範囲が定められている。本実施の形態では、設定起動時刻になる前に開始する事前ウォームアップ動作において、インク温度を適正温度範囲内に調整する。
【0043】
事前ウォームアップ動作においてインク温度の調整を行う際、インク循環制御部83は、インク循環機構3のインク流路内でインクを循環させ、温度制御部84は、インク温度を上昇させる場合はヒータ311を動作させ、インク温度を低下させる場合は冷却ファン314を動作させる。適正温度範囲外では、適切なインク吐出量を確保することが困難であるため、制御部8は、インクが適正温度範囲内となるまで印刷は実行しない。
【0044】
なお、図2では、インク1色分のみの構成を示しているが、カラー印刷が行えるように複数色のインクを用いて、インク色ごとに流路を設けるようにしてもよい。
【0045】
次に、インク温度テーブル記憶部61に記憶されるインク温度テーブル、および温度調整時間テーブル記憶部62に記憶される温度調整時間テーブルの内容について説明する。
【0046】
図3は、インク温度テーブルの一例を示す図である。本実施の形態では、事前ウォームアップ開始時刻になる前は、消費電力抑制のため、インク循環機構3等とともに温度センサ21の動作も停止しており、後述するように、事前ウォームアップ動作の開始時に温度センサ21によりインク温度を測定する(後述する図6のステップS50)。
【0047】
事前ウォームアップ動作の開始前は、少なくとも電源オフされた時点から温度調整部31は動作しておらず、インクは環境温度下にさらされている。このため、事前ウォームアップ動作の開始時に測定される温度は、環境温度下における温度調整が行われていない状態のインクの温度であるということができる。
【0048】
インク温度テーブルは、事前ウォームアップ開始時に温度センサ21で測定した測定値を、測定した時間帯ごとに保持している。図3の例では、1日を1時間ごとに分けた時間帯としている。複数の測定機会があった時間帯については、直近の所定測定回数(図3の例では5回)までの測定値と、それらの平均値とを保持する。測定実績がない(事前ウォームアップ実績がない)時間帯については、平均値をデフォルト値に仮設定しておく。図3の例では、0:00〜0:59の時間帯などでデフォルト値23℃となっている。
【0049】
インク温度テーブルにおける各時間帯の平均値は、その時間帯における環境温度に応じた温度の推定値(推定インク温度)として、後述する事前ウォームアップ時間の算出に用いられる。インク温度は、環境温度や印刷頻度により変化するが、直近の所定測定回数分の平均値を算出することで、例えば季節の変化による環境温度の変化にも対応できる。
【0050】
温度調整時間テーブル記憶部62に記憶される温度調整時間テーブルには、図4に示すような加温テーブルと、図5に示すような冷却テーブルとが含まれる。
【0051】
前述のように、印刷装置1で使用するインクの温度には適正温度範囲があり、本実施の形態では25℃〜45℃とする。なお、印刷装置1の使用環境についても適正な温度範囲があるが、本実施の形態では、その適正環境温度範囲を15℃〜35℃とする。
【0052】
図4の加温テーブルは、適正温度範囲の下限である25℃より低い温度のインクを25℃まで加温するのに要する時間を、1℃刻みの温度帯ごとに示すテーブルである。一方、図5の冷却テーブルは、適正温度範囲の上限である45℃より高い温度のインクを45℃まで冷却するのに要する時間を、1℃刻みの温度帯ごとに示すテーブルである。
【0053】
加温テーブルおよび冷却テーブルにおける温度調整時間(加温時間、冷却時間)は、印刷装置1における循環インク量、ヒータ311およびインク冷却器312の性能に応じて決まるものであり、加温テーブルおよび冷却テーブルは、予め印刷装置1を用いた実験に基づいて作成しておく。これにより、印刷装置1の温度調整部31の性能等に応じた適切な事前ウォームアップ時間を算出することができる。加温テーブルは、適正環境温度範囲の下限である15℃の環境下で行った実験に基づいて作成され、冷却テーブルは、適正環境温度範囲の上限である35℃の環境下で行った実験に基づいて作成される。
【0054】
次に、タイマー機能による起動を行う際の印刷装置1の動作について、図6および図7のフローチャートを参照して説明する。
【0055】
ユーザ操作に応じて、タイマー機能より印刷装置1を起動させる設定起動時刻の設定が行われ、その後、印刷装置1の電源がオフされると、図6および図7に示すフローチャートの処理が開始となる。なお、前述のように、本実施の形態において印刷装置1の電源がオフの状態は、副電源はオフであるが主電源はオンの状態であり、タイマー機能による起動や事前ウォームアップの処理に必要な一部の機能部には電力が供給されて動作可能である。
【0056】
図6のステップS10において、制御部8は、事前ウォームアップ設定がオンに設定されているか否かを判断する。事前ウォームアップ設定がオンの場合(ステップS10:YES)、ステップS20に進み、事前ウォームアップ設定がオフの場合(ステップS10:NO)、ステップS170に進む。
【0057】
ステップS20では、ウォームアップ時間算出部82は、設定起動時刻と、インク温度テーブルと、温度調整時間テーブル(加温テーブル、冷却テーブル)とを用いて、事前ウォームアップ時間を算出する。
【0058】
この事前ウォームアップ時間の算出処理において、まず、ウォームアップ時間算出部82は、インク温度テーブルを参照して、設定起動時刻に対応する時間帯のインク温度の平均値を推定インク温度として取得する。そして、ウォームアップ時間算出部82は、加温テーブルまたは冷却テーブルを参照して、推定インク温度に対応する加温時間または冷却時間を、事前ウォームアップ時間として取得する。
【0059】
例えば、設定起動時刻が8:30であれば、図3のインク温度テーブルより、8:00〜8:59の時間帯の平均値19℃が推定インク温度となる。そして、図4の加温テーブルよれば、19℃に対応する加温時間が240秒であるので、事前ウォームアップ時間は240秒となる。なお、インク温度テーブルにおいて設定起動時刻に対応する時間帯のインク温度の平均値が適正温度範囲内である場合、事前ウォームアップ時間は0(ゼロ)となる。
【0060】
次いで、ステップS30では、ウォームアップ時間算出部82は、設定起動時刻から事前ウォームアップ時間を差し引いた時刻を事前ウォームアップ開始時刻として算出し、これを記憶部6に記憶する。上記の例では、設定起動時刻8:30から事前ウォームアップ時間240秒を差し引いた時刻である8:26が事前ウォームアップ開始時刻となる。
【0061】
なお、上記ステップS20,S30により事前ウォームアップ開始時刻を算出する処理は、設定起動時刻の設定および事前ウォームアップ設定が行われた際に、電源がオフされる前に行っておいてもよい。また、印刷装置1では、例えば毎日同時刻に起動させる等、複数の設定起動時刻を一度に設定することも可能である。このような設定の場合、それぞれの設定起動時刻に対応する事前ウォームアップ開始時刻をまとめて算出して、それらを記憶部6に記憶しておいてもよい。
【0062】
制御部8は、時計部5をモニタし、ステップS40において、事前ウォームアップ開始時刻になったか否かを判断する。事前ウォームアップ開始時刻になった場合(ステップS40:YES)、ステップS50に進み、事前ウォームアップ開始時刻になっていない場合(ステップS40:NO)、事前ウォームアップ開始時刻になるまでステップS40を繰り返す。
【0063】
ステップS50では、電力制御部87が電力供給部7を制御して温度センサ21に電力を供給して起動させるとともに、温度センサ21が測定したインク温度をインク温度テーブル管理部85が取得する。この事前ウォームアップ開始時刻における測定値はインク温度テーブルの更新に用いられる。このインク温度テーブルの更新処理については後述する。
【0064】
また、ステップS60において、電力制御部87が電力供給部7を制御してインク循環機構3の温度調整部31、ポンプ35等に電力を供給して起動させるとともに、インク循環制御部83および温度制御部84は事前ウォームアップ動作を開始させる。事前ウォームアップ動作において、インク循環制御部83はインク循環機構3のインク流路内でインクを循環させ、温度制御部84は、インク流路を循環するインク温度を温度調整部31により調整させる。事前ウォームアップ動作において温度制御部84は、ステップS20における事前ウォームアップ時間の算出過程で得た推定インク温度が25℃より低かった場合は、ヒータ311を動作させてインクを加温し、推定インク温度が45℃より高かった場合は、冷却ファン314を動作させてインクを冷却する。
【0065】
上記ステップS50,S60の処理は、事前ウォームアップ開始時刻になると、ほぼ同時に行われる。事前ウォームアップ開始後、制御部8は、温度センサ21をモニタし、ステップS70において、インク温度が適正温度範囲(25℃〜45℃)内であるか否かを判断する。適正温度範囲内である場合(ステップS70:YES)、ステップS80に進み、適正温度範囲内でない場合(ステップS70:NO)、ステップS90に進む。
【0066】
ステップS80において、インク循環制御部83はインク循環を終了させ、温度制御部84はインク温度調整を終了させる。これにより事前ウォームアップ動作が終了する。その後、ステップS90に進む。
【0067】
ステップS90では、制御部8は、設定起動時刻になったか否かを判断する。設定起動時刻になった場合(ステップS90:YES)、ステップS110に進み、設定起動時刻になっていない場合(ステップS90:NO)、ステップS100に進む。
【0068】
ステップS100では、制御部8は、事前ウォームアップ動作が終了済みか否かを判断する。事前ウォームアップ動作が終了済みの場合(ステップS100:YES)、ステップS90に戻り、事前ウォームアップ動作が終了していない場合(ステップS100:NO)、ステップS70に戻る。
【0069】
ステップS110では、電力制御部87は、印刷装置1の各部に動作可能な電力を供給して印刷装置1全体を起動させるよう電力供給部7を制御する。これにより、印刷装置1が電源オンの状態となり、使用可能となる。ただし、設定起動時刻になってもインク温度が適正温度範囲内に到達せず、事前ウォームアップを終了しないまま設定起動時刻になった場合、印刷装置1の起動は行われ、スキャナ等の使用はできるが、まだ印刷は開始できない。この場合は、後述するステップS140で事前ウォームアップ動作が終了すると、印刷可能な状態となる。
【0070】
次いで、図7のステップS120において、制御部8は、事前ウォームアップ動作が終了済みか否かを判断する。事前ウォームアップ動作が終了済みの場合(ステップS120:YES)、ステップS150に進み、事前ウォームアップ動作が終了していない場合(ステップS120:NO)、ステップS130に進む。
【0071】
ステップS130では、制御部8は、インク温度が適正温度範囲内であるか否かを判断する。適正温度範囲内である場合(ステップS130:YES)、ステップS140に進み、適正温度範囲内でない場合(ステップS130:NO)、インク温度が適正温度範囲内になるまでステップS130を繰り返す。
【0072】
ステップS140では、インク循環制御部83および温度制御部84は、事前ウォームアップ動作を終了させる。
【0073】
次いで、ステップS150において、温度調整時間テーブル管理部86は、ステップS70またはステップS130でインク温度が適正温度範囲内に到達した時刻と設定起動時刻との間隔が所定時間未満であるか否かを判断する。所定時間未満である場合(ステップS150:YES)、そのまま処理を終了し、所定時間以上の場合(ステップS150:NO)、ステップS160に進む。
【0074】
例えば、上記ステップS150の判断で用いる所定時間が10秒であるとすると、インク温度が適正温度範囲内に到達するのが、設定起動時刻に対して10秒以上早かったか10秒以上遅かった場合に、ステップS160に進む。
【0075】
事前ウォームアップ時間は、設定起動時刻にインク温度が適正温度範囲内になるように算出したものである。実際に事前ウォームアップ動作を行ってインク温度が適正温度範囲内に到達した時刻の設定起動時刻に対する誤差が大きい場合は、温度調整時間テーブル(加温テーブル、冷却テーブル)における温度調整時間(加温時間、冷却時間)が適切でない可能性がある。
【0076】
そこで、ステップS160において、温度調整時間テーブル管理部86は、ステップS20で事前ウォームアップ時間の算出に用いた温度調整時間テーブルの値を変更する。
【0077】
例えば、上記ステップS150の判断で用いる所定時間が10秒であり、事前ウォームアップ時間を加温テーブルにおける19℃に対応する加温時間である240秒と算出して事前ウォームアップを行った結果、設定起動時刻に対して10秒以上早く25℃に到達したとする。この場合、温度調整時間テーブル管理部86は、加温テーブルにおける19℃に対応する加温時間240秒から10秒を減算して230秒と変更する。逆に、設定起動時刻に対して10秒以上遅く25℃に到達した場合は、温度調整時間テーブル管理部86は、加温テーブルにおける19℃に対応する加温時間240秒に10秒を加算して250秒と変更する。
【0078】
このように温度調整時間テーブルを更新することで、環境温度の変化等に対応して、適切な事前ウォームアップ時間を求めることができる。
【0079】
事前ウォームアップ設定がオフの場合(ステップS10:NO)、ステップS170において、制御部8は、設定起動時刻になったか否かを判断する。設定起動時刻になった場合(ステップS170:YES)、ステップS180に進み、設定起動時刻になっていない場合(ステップS170:NO)、設定起動時刻になるまでステップS170を繰り返す。
【0080】
そして、ステップS180において、電力制御部87は、電力供給部7により印刷装置1の各部に動作可能な電力を供給して印刷装置1全体を起動させる。
【0081】
次に、インク温度テーブルの更新処理について、図8のフローチャートを参照して説明する。
【0082】
インク温度テーブル管理部85は、前述のステップS50において事前ウォームアップ開始時刻におけるインク温度の測定値を温度センサ21から取得すると、インク温度テーブルの更新処理を開始する。
【0083】
ステップS210において、インク温度テーブル管理部85は、今回温度センサ21から取得した測定値の測定時刻に対応する時間帯について、インク温度テーブルに記憶している測定値の数が、所定測定回数(図3の例では5回)分以上であるか否かを判断する。所定測定回数分以上である場合(ステップS210:YES)、ステップS220に進み、所定測定回数分未満である場合(ステップS210:NO)、ステップS240に進む。
【0084】
ステップS220では、インク温度テーブル管理部85は、今回取得した測定値の測定時刻に対応する時間帯について、インク温度テーブルに記憶している測定値のうち最も旧い測定値を削除し、今回取得した新しい測定値を追加する。
【0085】
そして、ステップS230において、インク温度テーブル管理部85は、ステップS220で追加した測定値を含む所定測定回数分の測定値の平均値を算出し、これをインク温度テーブルに記憶する。
【0086】
ステップS240では、インク温度テーブル管理部85は、今回取得した測定値の測定時刻に対応する時間帯について、今回取得した新しい測定値をインク温度テーブルに追加するとともに、新しい測定値を加えたこの時間帯の測定回数分の平均値を算出し、これをインク温度テーブルに記憶する。
【0087】
このようにインク温度テーブルを更新することで、例えば季節の変化による環境温度の変化等にも対応して、適切な事前ウォームアップ時間を求めることができる。
【0088】
なお、インク温度テーブルの作成、更新のためのインク温度の測定を、温度調整対象のインクとは別途設けた、環境温度下に常時さらされているインクを用いて行うように構成してもよい。
【0089】
以上説明したように本実施の形態によれば、図3に示したインク温度テーブルを用いて設定起動時刻における推定インク温度を算出し、この推定インク温度を用いて算出した事前ウォームアップ開始時刻から事前ウォームアップ動作を開始するので、環境温度の変化等にも対応して、設定起動時刻においてインク温度が適正温度範囲内になるように温度調整することができ、印刷装置1の起動後、迅速に印刷動作が開始可能になる。また、事前ウォームアップ時間を短く抑えることができるので、消費電力の増大を抑制することができる。
【0090】
なお、本発明は、インクを循環させない方式のインクジェットプリンタにも適用可能である。
【符号の説明】
【0091】
1 印刷装置
2 インクジェットヘッド
3 インク循環機構
4 操作パネル部
5 時計部
6 記憶部
7 電力供給部
8 制御部
21 温度センサ
31 温度調整部
32 インクボトル
33 下流タンク
34 上流タンク
35 ポンプ
61 インク温度テーブル記憶部
62 温度調整時間テーブル記憶部
81 設定部
82 ウォームアップ時間算出部
83 インク循環制御部
84 温度制御部
85 インク温度テーブル管理部
86 温度調整時間テーブル管理部
87 電力制御部
311 ヒータ
312 インク冷却器
313 ヒートシンク
314 冷却ファン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを用いて印刷媒体に印刷を行う印刷装置の起動時刻を設定する設定部と、
前記インクの温度が、前記印刷装置が印刷可能な適正温度範囲内になるまで温度調整するウォームアップ動作を行う温度調整部と、
インクの温度を測定する温度測定部と、
環境温度下における温度調整が行われていない状態のインクの温度の、測定した時間帯ごとの測定履歴を示すインク温度テーブルを記憶するインク温度テーブル記憶部と、
前記インク温度テーブルを用いて前記起動時刻における推定インク温度を算出し、前記推定インク温度から前記適正温度範囲内にまでインクの温度を到達させるために要する温度調整の時間であるウォームアップ時間を算出するウォームアップ時間算出部と、
前記起動時刻から前記ウォームアップ時間を差し引いた時刻から前記ウォームアップ動作を開始するよう前記温度調整部を制御する温度制御部と
を備えることを特徴とする印刷装置。
【請求項2】
前記ウォームアップ動作の開始時に前記温度測定部で測定された測定値を取得し、測定された時間帯ごとに、直近の所定測定回数以内分の測定値の平均値を算出して、前記平均値を前記インク温度テーブルに記憶させるインク温度テーブル管理部をさらに備え、
前記ウォームアップ時間算出部は、前記平均値を前記推定インク温度として用いることを特徴とする請求項1に記載の印刷装置。
【請求項3】
インクの温度と前記適正温度範囲内になるまでの前記温度調整部による温度調整時間との関係を示す温度調整時間テーブルを記憶する温度調整時間テーブル記憶部をさらに備え、
前記ウォームアップ時間算出部は、前記温度調整時間テーブルを用いて前記推定インク温度から前記ウォームアップ時間を算出することを特徴とする請求項1または2に記載の印刷装置。
【請求項4】
前記ウォームアップ動作によりインクの温度が前記適正温度範囲内に到達した時刻と前記起動時刻との間隔が所定時間を超えた場合、前記ウォームアップ時間の算出に用いた前記温度調整時間テーブルの値を変更する温度調整時間テーブル管理部をさらに備えることを特徴とする請求項3に記載の印刷装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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