説明

印刷装置

【課題】載置面を広く確保しつつ、通信端末から印刷データを確実に読み込んで印刷する。
【解決手段】インクジェットプリンタ1のプリンタ筐体2内には、インクジェットヘッド26と、NFCによる電波を受信するためのアンテナ49と、インクジェットヘッド26とアンテナ49とを搭載したキャリッジ25とを有している。プリンタ筐体2には、NFCによる通信が可能な通信端末が載置される載置面が設けられている。インクジェットプリンタ1は、プリンタ筐体2の載置面に通信端末が載置されると、キャリッジ25とともにアンテナ49を通信端末70からの電波を受信可能な位置に移動させて、通信端末70から印刷データを読み込み、この印刷データに基づいて用紙100に印刷を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被印刷媒体に文字や画像などを印刷する印刷装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、RFID(Radio Frequency Identification)やNFC(Near Field Communication)などの近距離無線通信を行うための通信部と、通信部と接続されたアンテナとを有するプリンタについて開示されている。この特許文献1に記載のプリンタは、筐体の側方にアンテナである送受信部が固定して設けられている。そして、アンテナで電波を受信可能な(通信可能な)範囲内にデジタルカメラを置くと、デジタルカメラから印刷要求が送信されて、デジタルカメラに保存された画像データの印刷処理が開始される。
【0003】
【特許文献1】特開2010−11364号公報(図2、9)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近距離無線通信では通信可能な範囲が非常に狭く、例えば、NFCでは、通信距離は10cm程度である。すると、デジタルカメラ(通信端末)に保存されたデータを印刷するためには、通信端末を筐体の側面に近づけてかざす必要がある。しかしながら、通信端末を狭い通信範囲内に精度よくかざすのは困難であり、さらに、通信が完了するまでの間、通信端末を通信範囲から外れないように保持しておくのも困難である。
【0005】
そこで、本発明の目的は、通信端末の載置面を広く確保しつつ、通信端末から印刷データを確実に読み込んで印刷する印刷装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の印刷装置は、被印刷媒体に印刷を行う印刷部と、前記印刷部が収容され、近距離無線通信による通信が可能な通信端末が載置される載置面を有する筐体と、前記筐体内に配置されて前記筐体内を移動可能であり、前記載置面に載置された前記通信端末から発信された電波を受信するための通信アンテナが設けられた可動部と、前記印刷部及び前記可動部を制御する制御手段と、を備え、前記制御手段は、前記筐体の前記載置面に前記通信端末が載置されたことを検知する、検知信号が入力されると、前記可動部を移動させ、前記通信アンテナを前記通信端末からの電波を受信可能な位置に移動させて、前記通信端末から前記通信アンテナを介して印刷データを読み込み、この印刷データに基づいて前記印刷部を制御して前記被印刷媒体に印刷を行う。
【0007】
本発明の印刷装置によると、可動部に通信アンテナを設けることで、通信アンテナの移動可能な範囲全域において、通信端末から発信された電波を受信することが可能となる。したがって、筐体上の通信アンテナの移動可能な範囲内に載置面を設定すれば、載置面を広く確保することができる。また、載置面内のどの位置に載置された通信端末についても、通信アンテナを通信端末に近づけて、通信アンテナにより電波を受信可能である。これにより、通信端末から印刷データを確実に読み込んで被印刷媒体に印刷を行うことができる。
【0008】
また、前記制御手段は、印刷を行わせるための駆動信号を前記印刷部に送信しており、さらに、前記通信端末からの電波の受信が完了するまでの間、前記印刷部に前記駆動信号を送信しないことが好ましい。
【0009】
仮に、通信端末からの電波を通信アンテナで受信している間に、制御手段から印刷部に対して駆動信号を送信すると、通信端末から発信される電波の影響により、駆動信号を送信する信号線にノイズが乗って、駆動信号にノイズが混入してしまう。また、逆に、駆動信号の影響により、電波にノイズが混入してしまう。そこで、通信端末からの電波を通信アンテナで受信している間は、制御手段から印刷部に対して駆動信号を送信しない。これにより、駆動信号または電波にノイズが混入するのを抑制して、被印刷媒体に高い印刷精度で印刷を行うことができる。
【0010】
そして、前記制御手段と前記印刷部とを接続し、前記制御手段から前記印刷部に前記駆動信号を送るための複数の配線と、前記複数の配線のうち少なくとも一部の前記配線の、前記制御手段に接続される部分と前記印刷部に接続される部分との間から分岐し、前記通信アンテナに接続された分岐配線と、をさらに備え、前記通信端末から前記通信アンテナを介して読み込んだ印刷データを、前記分岐配線及び前記一部の配線を介して前記制御手段に送ることが好ましい。
【0011】
これによると、通信端末からの電波を通信アンテナで受信している間、制御手段から印刷部に対して駆動信号を送信しない。そこで、制御手段から印刷部に駆動信号を送るための一部の配線を、通信端末から通信アンテナを介して読み込んだ印刷データを制御手段に送るための配線として兼用している。これにより、配線数を減らすことができる。
【0012】
また、前記制御手段は、前記検知信号が入力されると、前記載置面に載置された前記通信端末を探索するために、前記可動部を移動させ、前記通信アンテナが前記通信端末からの電波を受信した位置で前記可動部を停止させることが好ましい。
【0013】
これによると、可動部とともに通信アンテナを移動させて、筐体の載置面全域から通信端末が載置されている位置を探し出して、通信アンテナが通信端末からの電波を受信した位置で可動部を停止させることで、通信エラーを抑制することができる。
【0014】
さらに、前記可動部は、前記印刷部による印刷動作時に前記被印刷媒体が配置される配置面をまたいで所定の走査方向に往復移動しており、前記印刷部は、印刷ヘッドを有し、前記印刷ヘッドは、前記可動部に搭載され、前記可動部とともに前記走査方向に往復移動しながら前記被印刷媒体に印刷を行うことが好ましい。
【0015】
これによると、被印刷媒体に印刷を行うために印刷部を走査方向に移動させる可動部に対して通信アンテナを搭載している。したがって、通信アンテナを移動させるための部材を別個に設ける必要がなく、印刷装置を小型化することができる。
【0016】
そして、前記印刷ヘッドは、液体を噴射するノズルを有する液体噴射ヘッドであり、前記可動部に搭載され、前記液体噴射ヘッドに供給される液体の圧力変動を抑制するために、壁面の一部が磁性を有する可撓性膜により覆われたダンパー室と、環状の配線からなる前記通信アンテナが形成され、前記可撓性膜と対向して配置された基板と、前記制御手段により制御されて、前記通信アンテナに電流を流す電流供給手段と、前記制御手段により制御されて、前記通信アンテナの接続先を前記制御手段と前記電流供給手段との間で切り替える切り替え手段と、をさらに備え、前記制御手段は、前記印刷動作時に前記切り替え手段により前記通信アンテナを前記電流供給手段と接続して、前記電流供給手段により前記通信アンテナに電流を流すことが好ましい。
【0017】
これによると、印刷動作時において、通信アンテナを電流供給手段と接続して、通信アンテナに電流を流すと、通信アンテナの周囲に磁界が発生する。そして、その磁界中に存在するダンパー室の一部を構成する可撓性膜は、磁性を有するため、通信アンテナに流れる電流による磁界の影響を受けて変形する。したがって、通信アンテナに流す電流に応じて、可撓性膜を変形させることで、印刷動作時において可動部が移動することによるダンパー室内の液体の圧力変動を効果的に抑制することができる。
【0018】
また、前記制御手段は、前記検知信号が入力されると、前記載置面に載置された前記通信端末を探索するために、前記可動部を移動させ、前記通信アンテナが前記通信端末からの電波を受信した位置で前記可動部を停止させ、さらに、前記通信端末を探索するときにおける前記可動部の移動速度を、前記印刷部による前記印刷動作時における前記可動部の移動速度よりも遅くすることが好ましい。
【0019】
印刷動作時における可動部の移動速度は非常に速く、その速い速度において通信アンテナは通信端末とすれ違っても電波を受信できないおそれがある。そこで、通信端末を探索するときにおける可動部の移動速度を、印刷動作時における可動部の移動速度よりも遅くする。これにより、可動部とともに移動する通信アンテナで通信端末からの電波を確実に受信することができる。
【0020】
そして、前記印刷ヘッドは、液体を噴射するノズルを有する液体噴射ヘッドであり、前記制御手段は、乾燥防止のために前記ノズルから液体を排出させるフラッシングを前記液体噴射ヘッドに行わせるように構成され、さらに、前記検知信号が入力されてから、前記通信端末から印刷データの読み込みが完了するまでの時間が所定時間以上である場合には、前記所定時間未満の場合に比べて、前記印刷動作前の前記フラッシングにおいて排出されるフラッシング量を多くするように前記液体噴射ヘッドを制御してもよい。
【0021】
印刷データのデータ量が膨大な場合には通信時間が長く、印刷データの読み込みが完了するまでの間にノズル内の液体が乾燥しやすい。また、可動部の移動速度は、通信端末を探索するために、印刷動作時における移動速度よりも遅くなっている場合があり、この場合には探索している間にノズル内の液体が乾燥しやすい。そこで、載置面に通信端末が載置されたことを検知する検知信号が入力されてから、通信端末から印刷データの読み込みが完了するまでの時間が所定時間以上である場合には、フラッシング量を多くして、ノズル内の液体の乾燥を回復させることができる。また、所定時間未満の場合には、フラッシング量を多くしていないため、無駄に液体を排出するのを抑制することができる。
【0022】
また、前記印刷ヘッドは、液体を噴射するノズルを有する液体噴射ヘッドであり、前記制御手段は、乾燥防止のために前記ノズルから液体を排出させるフラッシングを前記液体噴射ヘッドに行わせるように構成され、前記印刷部による前記印刷動作時に前記被印刷媒体を支持し、前記フラッシングの際に排出された液体を受容するフォームを有するプラテンと、前記プラテンと前記走査方向に関して並んで設けられた液体受容部と、をさらに備え、さらに、前記制御手段は、低解像度印刷モードとこれよりも解像度の高い高解像度印刷モードの少なくとも2つの印刷モードから1つを選択し、選択した印刷モードが前記高解像度印刷モードの場合には、前記低解像度印刷モードの場合に比べて、前記フラッシングで排出するフラッシング量が多くなるように前記液体噴射ヘッドを制御しており、前記通信端末から印刷データを読み込んでいる間において、選択した印刷モードが前記低解像度印刷モードであり、且つ、前記可動部が前記プラテンと対向している場合には、前記通信している間に前記プラテンの前記フォームに向かって前記フラッシングを行うように前記液体噴射ヘッドを制御し、前記高解像度印刷モードの場合には、読み込み完了後に、前記可動部を前記液体受容部と対向する位置に移動させて、前記印刷動作前に前記液体受容部に向かって前記フラッシングを行うように前記液体噴射ヘッドを制御してもよい。
【0023】
これによると、高解像度印刷モードにおけるフラッシングでのフラッシング量が多いため、液体噴射ヘッドを液体受容部まで移動させてフラッシングを行う必要がある。一方、低解像度印刷モードにおけるフラッシングでのフラッシング量は比較的少ないため、プラテンのフォームにフラッシングによって噴射された液体を排出させても問題ない程度であり、液体噴射ヘッドを液体受容部まで移動させる時間を短縮させて、印刷動作が終了するまでの時間を短縮させることができる。
【0024】
また、前記筐体内には、印刷が行われた前記被印刷媒体が載置される透明な板部材と、前記可動部に搭載され、前記被印刷媒体の前記板部材と対向する印刷面を読み取る読取部と、が設けられており、前記筐体は、前記板部材に対して回動自在に設けられ、前記板部材の上方を覆い、前記通信端末が載置されるカバー部を有し、前記可動部は、前記板部材に沿って移動してもよい。
【0025】
これによると、被印刷媒体の印刷面を読み取るために読取部を移動させる可動部に通信アンテナを搭載している。したがって、通信アンテナを移動させるための部材を別個に設ける必要がなく、印刷装置を小型化することができる。
【発明の効果】
【0026】
可動部に通信アンテナを設けることで、通信アンテナの移動可能な範囲全域において、通信端末から発信された電波を受信することが可能となる。したがって、筐体上の通信アンテナの移動可能な範囲内に載置面を設定すれば、載置面を広く確保することができる。また、載置面内のどの位置に載置された通信端末についても、通信アンテナを通信端末に近づけて、通信アンテナにより電波を受信可能である。これにより、通信端末から印刷データを確実に読み込んで被印刷媒体に印刷を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本実施形態に係るインクジェットプリンタの斜視図である。
【図2】図1のインクジェットプリンタの内部構成を前方から見た正面図である。
【図3】中継基板の上面図である。
【図4】制御基板と各部との接続構成を示す概略図である。
【図5】通信端末から読み込んだ印刷データを制御基板に送る配線について説明する模式図である。
【図6】インクジェットプリンタ及び通信端末の電気的構成を概略的に示すブロック図である。
【図7】通信端末に保存された印刷データを読み込むまでの工程について説明する工程図である。
【図8】サブタンクと中継基板の鉛直断面図である。
【図9】ダンパー膜の変形について説明する図であり、(a)は中継基板の上面図であり、(b)はサブタンクと中継基板の鉛直断面図である。
【図10】変形例におけるインクジェットプリンタの内部構成を前方から見た平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
次に、本発明の実施形態について説明する。図1は、本実施形態に係るインクジェットプリンタの斜視図である。図2は、インクジェットプリンタの内部構成を前方から見た正面図である。なお、図1、図2に示されるインクジェットプリンタ1が使用されるときの設置状態において、上下、左右、前後の各方向を定義している。また、図2においては、カバー3の傾斜面12よりも後方におけるプリンタ筐体内を示している。
【0029】
図1、図2に示すように、インクジェットプリンタ1(印刷装置)は、プリンタ筐体2と、プリンタ筐体2に回動自在に取り付けられたカバー3とを有している。
【0030】
プリンタ筐体2には、用紙100(被印刷媒体)に画像や文字などを印刷する印刷部4と、印刷部4に用紙100を供給する給紙機構5と、印刷部4の後述するインクジェットヘッド26のメンテナンスを行うメンテナンスユニット6と、用紙100に印刷された画像や文字などを読み取るスキャナ部7(読取部)などが収容されている。
【0031】
プリンタ筐体2の上端部には、用紙100の外径よりも大きな開口10が形成されており、この開口10に透明のガラス材料などからなる板部材15が嵌め込まれている。また、プリンタ筐体2の前端部には、給紙機構5の給紙カセット23が装着される装着部11が設けられている。そして、プリンタ筐体2の上端部の、開口10よりも前側の部分には前方に向かって傾斜した傾斜面12が設けられ、この傾斜面12には表示パネルや操作ボタンなどを有する表示操作部13が配置されている。なお、本実施形態において、インクジェットプリンタ1は、表示操作部13の操作ボタンが押されることで、通信端末70との近距離無線通信を開始する。この近距離無線通信について詳しくは後述する。
【0032】
カバー3は、プリンタ筐体2の傾斜面12よりも後ろ側に配置されている。また、カバー3は、その後端部に設けられた図示しない回動軸を介してプリンタ筐体2に取り付けられており、回動軸を中心にプリンタ筐体2に対して上下に回動自在となっている。さらに、カバー3の上面には、走査方向に延在した載置面20が形成されている。載置面20とは、通信端末70が載置される領域であり、この領域内に載置された通信端末70については、インクジェットプリンタ1と通信を確立することが可能である。
【0033】
給紙機構5は、プリンタ筐体2の装着部11に装着される給紙カセット23を有している。給紙カセット23は、積み重ねられた用紙100を保持しており、図示しないピックアップローラが給紙モータ62(図6参照)によって回転することによって最も上方の用紙100から順に1枚ずつ取り出される。そして、ピックアップローラによって取り出された用紙100は、プリンタ筐体2内の後方において上方へ押し上げられ、印刷部4(プラテン28上)に供給される。
【0034】
図2に示すように、印刷部4は、プリンタ筐体2内において給紙機構5の上方に配置されている。また、印刷部4は、左右方向(走査方向)に往復移動可能なキャリッジ25(可動部)と、キャリッジ25に搭載されたインクジェットヘッド26(液体噴射ヘッド)と、インクジェットヘッド26へ供給されるインクを一時貯留するサブタンク27などを有している。
【0035】
プリンタ筐体2内には、用紙100を支持するプラテン28が水平な姿勢で設置されている。プラテン28の上面には搬送方向に沿った長尺な凹部28aが形成されており、この凹部28aは走査方向に沿って間隔をあけて複数形成されている。そして、複数の凹部28aには多孔質部材からなるフォーム29が設けられており、インクジェットヘッド26から噴射されたインクを吸収して保持することが可能となっている。なお、本実施形態におけるプラテン28の上面が、本発明における配置面に相当する。
【0036】
プラテン28の上方には、走査方向に平行に延びるガイドレール30が設けられている。ガイドレール30は、プリンタ筐体2内の走査方向に関する両端まで延在している。そして、キャリッジ25は、キャリッジ駆動モータ61(図6参照)によって駆動されることによって、プリンタ筐体2内をガイドレール30に沿って走査方向全幅にわたって移動する。このキャリッジ25には、インクジェットヘッド26と、4つのサブタンク27と、アンテナ49が設けられた中継基板47とが搭載されている。
【0037】
印刷部4は、プラテン28上の用紙100に対して、キャリッジ25を走査方向(左右方向)に移動させつつインクジェットヘッド26からインクを噴射させる一方で、搬送機構63(図6参照)によって用紙100を水平に搬送方向(前方)に搬送することにより、用紙100に所望の画像や文字などを印刷する。
【0038】
インクジェットヘッド26は、キャリッジ25の下部に搭載されており、その下面に複数のノズル31が開口している。複数のノズル31は、搬送方向に並んでノズル列を形成しているとともに、このノズル列が走査方向に4列並んで配置されている。そして、複数のノズル31は、図示しない圧電式のアクチュエータにより駆動されて、左方のノズル列から順に、それぞれブラック、イエロー、シアン、マゼンタのインクをプラテン28に載置された用紙100に対して噴射する。
【0039】
次に、サブタンク27について説明する。4つのサブタンク27は、走査方向に沿って並べて配置されている。これら4つのサブタンク27は、可撓性を有するチューブを介して、図示しない4つのインクカートリッジと接続されている。4つのインクカートリッジは、プリンタ筐体2内に取り外し可能に装着され、4色(ブラック、イエロー、シアン、マゼンタ)のインクを貯留する。そして、4つのインクカートリッジに貯留された4色のインクは、サブタンク27に一時的に貯留された後、インクジェットヘッド26に供給される。
【0040】
中継基板47は、サブタンク27の上方においてその表面が水平になるように、キャリッジ25に配置されている。図3は、中継基板の上面図である。なお、中継基板47は、後述するドライバIC53が実装されたフレキシブル配線基板を制御基板50(図4参照)に電気的に接続するためにその間を中継する基板であり、図示してはいないが上記フレキシブル配線基板や、制御基板50と接続された配線部材が接続されている。
【0041】
図3に示すように、中継基板47には、通信モジュール48と、アンテナ49とが配置されている。通信モジュール48は、数10cm以下の距離での近距離無線通信の通信規格であるNFC(Near Field Communication)による電波の送受信を行うためのものであり、データの送受信回路を含んでいる。そして、通信モジュール48は、アンテナ49が電波を受信することで、アンテナ49から流れた電流に基づいた印刷データを後述する制御基板50に送信する。
【0042】
アンテナ49は、ループ状にプリントされた配線により形成されており、通信モジュール48と接続されている。そして、アンテナ49は、通信端末70の電波発信部71(図6参照)から発信された電波を受信して、この電波に応じた電流を通信モジュール48に流す。このアンテナ49がキャリッジ25に設けられていることで、キャリッジ25が移動すれば、プリンタ筐体2内におけるアンテナ49の位置が変わり、通信端末70の電波発信部71と通信を確立可能な範囲が広くなっている。すなわち、プリンタ筐体2内におけるアンテナ49の移動可能な広範囲から、上述した載置面20の範囲を設定することができる。なお、通信端末としては、携帯電話、デジタルカメラなど、jpegデータ、pngデータ、textデータなどの画像や文字などの印刷データを保存しており、NFCによる電波の送信が可能な送信部を有する端末が挙げられる。
【0043】
また、インクジェットヘッド26は、キャリッジ25とともに、プラテン28上を搬送される用紙100と対向する範囲だけでなく、この範囲から左右両側に外れた位置まで移動可能である。図2に示すように、メンテナンスユニット6は、プラテン28の右側の離れた位置に配置された、キャップ部材8及びキャップ部材8に接続された吸引ポンプ9と、プラテン28の左側に離れた位置に配置されたインク受容部16とを有している。
【0044】
キャップ部材8は、図示しないキャップ昇降機構によって昇降駆動され、インクジェットヘッド26の複数のノズル31が形成された下面を覆う(キャッピング)。そして、キャップ部材8がキャッピング状態となった上で、吸引ポンプ9を駆動して、キャップ部材8内の空気を吸引して内部を減圧することで、複数のノズル31からキャップ部材8内へインクを強制的に排出する(吸引パージ)。この吸引パージによって、インクに混入している気泡や塵、あるいは、増粘したインクなどを排出することで、ノズル31の噴射異常の発生を防止するとともに、噴射異常が発生した場合にはその噴射性能を回復させることが可能である。
【0045】
インクジェットプリンタ1は、適宜のタイミングで、インクジェットヘッド26の複数のノズル31からそれぞれインクを噴射させてノズル31内のインクを排出する、いわゆるフラッシングを行うように構成されている。インクジェットヘッド26は、キャリッジ25とともにインク受容部16と対向する位置まで移動した後にフラッシングを行い、フラッシングによってノズル31から排出されたインクはインク受容部16に受け止められる。
【0046】
なお、本実施形態では、インクジェットヘッド26の印刷動作の開始前にフラッシング(印刷前フラッシング)を行う。また、メンテナンスユニット6による吸引パージなどの一連のメンテナンスが終了した直後にフラッシング(パージ後フラッシング)を行う。
【0047】
図2に示すように、スキャナ部7は、左右方向に往復移動可能なキャリッジ17と、キャリッジ17に搭載されたイメージスキャナ18とを有している。プリンタ筐体2内の最も上部には、走査方向に平行に延びるガイドレール19が設けられている。そして、キャリッジ17は、キャリッジ駆動モータ64(図6参照)によって駆動されることによって、プリンタ筐体2の開口10に嵌めこまれた板部材15と対向する領域においてガイドレール19に沿って走査方向に移動する。
【0048】
イメージスキャナ18は、搬送方向に関して、板部材15上に載置された用紙100の搬送方向長さよりも長い領域を読み取り可能となっており、キャリッジ17とともに走査方向に移動することで、用紙100の全面をスキャンする構成となっている。そして、スキャンした印刷データに基づいて印刷部4により給紙カセット23内の用紙100に印刷することができる(コピー)。すなわち、本実施形態のインクジェットプリンタ1は、プリント、スキャン、コピーなどを実行可能な複合機として構成されている。また、本実施形態のインクジェットヘッド26は、PC75、通信端末70(図6参照)、イメージスキャナ18から入力された印刷データに基づいて、用紙100に所望の画像や文字などを印刷する。
【0049】
図4は、制御基板と各部との接続構成を示す概略図である。図4に示すように、制御基板50は、複数の配線51を介してドライバIC53と接続されている。そして、制御基板50は、複数の配線51を介して、ドライバIC53に対してCLK、Fire、SINなどの入力信号をそれぞれ送信する。CLKは、制御基板50からドライバIC53へのデータ転送クロックである。Fireは、1つのノズル31に対する、インクの液滴を噴射しない、及び、階調に応じた複数種類の液滴噴射サイズ(液滴体積)の噴射態様にそれぞれ対応した複数種類の駆動波形データを直列に伝送するシリアルデータである。SINは、ドライバIC53に各ノズル31のそれぞれの噴射タイミングに複数種類の噴射態様のうち1つを対応づけるための選択データを直列に伝送するシリアルデータである。なお、本実施形態における制御基板50からドライバIC53に送信されるCLK、Fire、SINなどの入力信号が、本発明における駆動信号に相当する。
【0050】
そして、ドライバIC53は、制御基板50から入力された入力信号に応じて、Fireを送信する配線51によって伝送された複数種類の噴射態様に対応する駆動波形データの中から、ノズル31ごとに駆動波形データを選択して、選択された駆動波形データをインクジェットヘッド26に適した電圧に増幅して出力する。
【0051】
また、制御基板50は、複数の配線51のうち一部の配線51(ここでは、SINを送信する配線51)の、制御基板50に接続される部分とドライバIC53に接続される部分との間の途中部から分岐した分岐配線60を介して通信モジュール48に接続されている。そして、制御基板50は、SINを送信する一部の配線51を兼用して、通信モジュール48から印刷データを受信する。
【0052】
図5は、通信端末から読み込んだ印刷データを制御基板に送る配線について説明する模式図である。なお、図5においては、SINを送信する1本の配線51のみを図示し、その他の配線51については図示を省略する。図5に示すように、制御基板50のASIC52の選択データを送信するアンプ54は、ドライバIC53のアンプ55と配線51を介して接続されている。また、ASIC52の通信端末70からの印刷データを受信するアンプ56は、配線51及び配線51から分岐した分岐配線60を介して通信モジュール48のアンプ57と接続されている。
【0053】
そして、印刷動作を行うために選択データを送信する場合には、切替信号として「1」のデジタル信号をASIC52のアンプ54、56に対して送信する。すると、アンプ54には「1」のデジタル信号が送信されてONされる。一方、アンプ56には反転して「0」のデジタル信号が送信されてOFFされる。また、切替信号として「1」のデジタル信号をドライバIC53のアンプ55に対して送信することで、アンプ55はONされる。また、切替信号として「0」のデジタル信号を通信モジュール48のアンプ57に対して送信することで、アンプ57はOFFされる。そして、アンプ54、55がONされ、アンプ56、57がOFFされた状態で、選択データを送信すると、アンプ54からアンプ55に矢印A方向に向かって選択データが送信される。なお、上述したように、アンプ54、55がONされ、アンプ56、57がOFFされた状態を印刷モードと称す。
【0054】
一方、通信端末70からアンテナ49を介して印刷データを受信する場合には、切替信号として「0」のデジタル信号をASIC52のアンプ54、56に対して送信する。すると、アンプ54には「0」のデジタル信号が送信されてOFFされる。一方、アンプ56には反転して「1」のデジタル信号が送信されてONされる。また、切替信号として「0」のデジタル信号をドライバIC53のアンプ55に対して送信することで、アンプ55はOFFされる。また、切替信号として「1」のデジタル信号を通信モジュール48のアンプ57に対して送信することで、アンプ57はONされる。そして、アンプ56、57がONされ、アンプ54、55がOFFされた状態で、通信端末70からアンテナ49に電波が発信され、通信モジュール48に電流が流れると、その電流に基づいて通信モジュール48によって印刷データに変換されて、アンプ57からアンプ56に矢印B方向に向かって印刷データが送信される。なお、上述したように、アンプ56、57がONされ、アンプ54、55がOFFされた状態を通信モードと称す。
【0055】
次に、インクジェットプリンタ1の電気的構成について説明する。図6は、インクジェットプリンタ1の電気的構成を概略的に示すブロック図である。図6に示すように、制御基板50は、中央処理装置であるCPU(Central Processing Unit)80、ROM(Read Only Memory)81、RAM(Random Access Memory)82、及び、これらを接続するバス83からなるマイクロコンピュータを有する。また、バス83には、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)52が接続されている。また、このASIC52は、入出力インターフェイス(I/F)76を介して外部装置であるPC(パーソナルコンピュータ)75とデータ通信可能に接続されている。
【0056】
ASIC52には、印刷制御回路85と、解像度モード選択回路86と、搬送制御回路87と、メンテナンス制御回路88と、印刷/通信モード切替回路89と、通信制御回路90と、スキャナ制御回路91などが組み込まれている。
【0057】
印刷制御回路85は、PC75、通信端末70またはイメージスキャナ18から入力された印刷データに基づいてインクジェットヘッド26のドライバIC53とキャリッジ駆動モータ61をそれぞれ制御する。解像度モード選択回路86は、PC75、通信端末70またはイメージスキャナ18から入力された印刷データの解像度に基づいて解像度モードを選択する。解像度モード選択回路86における解像度モードとは、ユーザが要求する印刷品質の度合に応じて定められた複数のモードであり、本実施形態においては、解像度モード選択回路86は高解像度記録モードと低解像度記録モードの2つのモードを選択可能である。高解像度記録モードと低解像度記録モードを比較すると、高解像度記録モードは、低解像度記録モードに比べて、ノズル31から噴射される液滴のサイズが小さい。したがって、高解像度記録モードにおいては、ドット抜けが目立ちやすいため、ノズル詰まりを確実に解消するために、フラッシングにおいてインクジェットヘッド26から噴射されるインクの量(フラッシング量)が多くなっている。
【0058】
搬送制御回路87は、PC75または通信端末70から入力された印刷データに基づいて搬送機構63を制御する。メンテナンス制御回路88は、吸引パージやフラッシング時にインクジェットヘッド26のドライバIC53やメンテナンスユニット6を制御する。印刷/通信モード切替回路89は、アンプ55〜57に送信される切替信号を制御して、上述した印刷モードと通信モードとを切り替える。通信制御回路90は、通信端末70との通信時にキャリッジ駆動モータ61を制御する。スキャナ制御回路91は、イメージスキャナ18による画像や文字などの読み取り時にキャリッジ駆動モータ64を制御する。
【0059】
次に、PC75から送信された印刷データに基づく印刷動作について説明する。インクジェットプリンタ1は、PC75から印刷データが送信されると、搬送制御回路87により搬送機構63を制御して用紙100を給紙する。そして、インクジェットプリンタ1は、印刷制御回路85によりドライバIC53、キャリッジ駆動モータ61を制御して、キャリッジ25を走査方向(左右方向)に移動させつつインクジェットヘッド26からインクを噴射させる一方で、搬送機構63を制御して用紙100を水平に搬送方向(前方)に搬送することにより、用紙100に所望の画像や文字などを印刷する。
【0060】
次に、通信端末70から近距離無線通信により送信された印刷データに基づく印刷動作について説明する。図7は、通信端末に保存された印刷データを読み込むまでの工程について説明する工程図である。図7(a)に示すように、印刷動作前には、インクジェットヘッド26は、プリンタ筐体2内の右端に配置されて、キャップ部材8によりキャッピングされてノズル31内のインクの乾燥が抑制されている。そして、ユーザにより通信端末70が載置面20内に載置されて、近距離無線通信を開始するために表示操作部13が操作されると、印刷/通信モード切替回路89により通信モードに切り替える。すなわち、無線通信中は、制御基板50からドライバIC53へ入力信号を送信不可能な状態であり、インクジェットヘッド26からインクを噴射させない状態となっている。
【0061】
その後、図7(b)に示すように、通信制御回路90によりキャリッジ駆動モータ61を制御して、キャリッジ25を走査方向に沿って移動させて、通信モジュール48(アンテナ49)を通信端末70の電波発信部71とが通信可能な位置まで移動させる。この通信端末70を探索するときにおけるキャリッジ25の移動速度は、印刷動作時におけるキャリッジ25の移動速度よりも遅くなっている。したがって、キャリッジ25ととも移動するアンテナ49で通信端末70からの電波を確実に受信することができる。
【0062】
続いて、図7(c)に示すように、通信モジュール48が通信端末70の電波発信部71と通信可能な位置に移動して、通信が確立すると、通信制御回路90によりキャリッジ駆動モータ61を制御して、キャリッジ25を停止させて、通信モジュール48を通信端末70の電波発信部71と通信可能な位置で停止させる。そして、電波発信部71から発信された電波をアンテナ49により受信して、電波を受信することで流れた電流に基づいた印刷データを通信モジュール48からRAM82に送信して、RAM82に一時的に記憶する。
【0063】
その後、電波発信部71からの電波の発信が完了して、無線通信が完了すると、印刷/通信モード切替回路89により印刷モードに切り替える。そして、RAM82に記憶された印刷データに基づいて、印刷制御回路85によりドライバIC53、キャリッジ駆動モータ61を制御して、キャリッジ25を走査方向(左右方向)に移動させつつインクジェットヘッド26からインクを噴射させる一方で、搬送機構63を制御して用紙100を水平に搬送方向(前方)に搬送することにより、用紙100に通信端末70からNFC通信により送られた印刷データに基づく画像や文字などを印刷する。
【0064】
ここで、通信端末70から近距離無線通信により送信された印刷データに基づく印刷動作前の印刷前フラッシングの際には、通信端末70と通信するためにキャリッジ25が移動し始めてから、通信端末70と通信モジュール48との通信が完了するまでの時間が所定時間以上である場合には、所定時間未満の場合に比べて、インクジェットヘッド26から噴射されるインクの量(フラッシング量)を多くするように、メンテナンス制御回路88によりドライバIC53を制御する。
【0065】
印刷データのデータ量が膨大な場合には通信時間が長く、印刷データの読み込みが完了するまでの間にノズル31内のインクが乾燥しやすい。また、キャリッジ25の移動速度が、通信端末70を探索するために、印刷動作時における移動速度よりも遅くなっていると探索している間にノズル31内のインクが乾燥しやすい。そこで、載置面20に通信端末70が載置されたことを検知する検知信号が入力されてから、通信端末70からの印刷データの読み込みが完了するまでの時間が所定時間以上である場合には、フラッシング量を多くして、ノズル31内のインクの乾燥を回復させることができる。また、所定時間未満の場合には、フラッシング量を多くしていないため、無駄にインクを排出するのを抑制することができる。
【0066】
さらに、通信端末70から近距離無線通信により送信された印刷データに基づく印刷動作前の印刷前フラッシングの際、解像度モード選択回路86により選択された印刷モードが低解像度記録モードであり、且つ、キャリッジ25がプラテン28と対向している場合には、通信している間にプラテン28のフォーム29に向かって印刷前フラッシングを行うように、メンテナンス制御回路88によりドライバIC53を制御する。また、解像度モード選択回路86により選択された印刷モードが高解像度印刷モードの場合には、通信完了後に、キャリッジ25をインク受容部16と対向する位置に移動させて、インク受容部16に向かって印刷前フラッシングを行うようにメンテナンス制御回路88によりドライバIC53を制御する。
【0067】
これによると、高解像度印刷モードにおけるフラッシングでのフラッシング量が多いため、インクジェットヘッド26をインク受容部16まで移動させてフラッシングを行う必要がある。一方、低解像度印刷モードにおけるフラッシングでのフラッシング量は比較的少ないため、プラテン28のフォーム29にフラッシングによって噴射されたインクを排出させても問題ない程度であり、インクジェットヘッド26をインク受容部16まで移動させる時間を短縮させて、印刷動作が終了するまでの時間を短縮させることができる。
【0068】
本発明のインクジェットプリンタ1によると、インクジェットヘッド26が搭載されたキャリッジ25にアンテナ49を設けることで、アンテナ49の移動可能な範囲全域において、通信端末70から発信された電波を受信することが可能となる。したがって、アンテナ49の移動可能な範囲内に載置面20を設定すれば、載置面20を広く確保することができる。そして、載置面20内のどの位置に載置された通信端末70についても、アンテナ49を通信端末70に近づけて、アンテナ49により電波を受信可能である。これにより、通信端末70から印刷データを確実に読み込んで用紙100に印刷を行うことができる。
【0069】
また、仮に、通信端末70から印刷データを送信している間に、制御基板50からドライバIC53に対して入力信号を送信すると、通信端末70から発信される電波の影響により、入力信号を送信する配線51にノイズが乗って、入力信号にノイズが混入してしまう。また、逆に、入力信号の影響により、電波にノイズが混入してしまう。そこで、通信端末70から印刷データを送信している間は、制御基板50からドライバIC53に対して入力信号を送信しない。これにより、入力信号または電波にノイズが混入するのを抑制して、用紙100に高い印刷精度で印刷を行うことができる。
【0070】
さらに、通信端末70から印刷データを送信している間、制御基板50からドライバIC53に対して駆動信号を送信しない。そこで、制御基板50からドライバIC53に駆動信号を送るための一部の配線51を、アンテナ49を介して送られた印刷データを制御基板50に送るための配線として兼用している。これにより、配線数を減らすことができる。
【0071】
加えて、キャリッジ25とともにアンテナ49を移動させて、プリンタ筐体2の載置面20全域から通信端末70が載置されている位置を探し出して、アンテナ49が通信端末70からの電波を受信した位置でキャリッジ25を停止させることで、通信エラーを抑制することができる。
【0072】
また、用紙100に印刷を行うためにインクジェットヘッド26を走査方向に移動させるキャリッジ25に対してアンテナ49を搭載している。したがって、アンテナ49を移動させるための部材を別個に設ける必要がなく、インクジェットプリンタ1を小型化することができる。
【0073】
次に、上述した実施形態に種々の変更を加えた変更形態について説明する。ただし、上述した実施形態と同様の構成を有するものについては、同じ符号を付して適宜その説明を省略する。
【0074】
本実施形態のサブタンク27の後述するダンパー膜45aを、アンテナ49に電流を流して磁界を発生させることで積極的に変形させてもよい。以下、具体的に説明する。図8は、サブタンクと中継基板の鉛直断面図である。なお、4色のインクをそれぞれ貯留する4つのサブタンク27の構造は基本的に同一であるので、そのうちの1つのサブタンク27について以下説明する。図8に示すように、サブタンク27は、合成樹脂材料などで形成されており、その内部には、搬送方向に沿って延在するダンパー室45と、上下方向に沿って延在し、ダンパー室45とインクジェットヘッド26とを連通させるインク供給流路46とが設けられている。
【0075】
ダンパー室45は、チューブ14を介してインクカートリッジ(図示せず)と連通しており、インクカートリッジから供給されたインクを一時的に貯留する。また、ダンパー室45は、その上部壁の一部が、可撓性を有するダンパー膜45a(可撓性膜)によって画定された空間であり、ダンパー膜45aは、磁石になっており、上側がN極、下側がS極となっている。
【0076】
ここで、キャリッジ25に設けられたサブタンク27は、可撓性を有するチューブ14に接続されている。すると、キャリッジ25がその移動方向を転換する際には、サブタンク27に接続されたチューブ14内のインクに慣性力が作用する。そして、このチューブ14内のインクに作用した慣性力によって、チューブ14内からサブタンク27内にインクが流入、あるいは、サブタンク27からチューブ14内へインクが流出する。
【0077】
このとき、仮に、サブタンク27にダンパー室45が設けられていないと、サブタンク27内へのインクの流入、あるいは、サブタンク27からのインクの流出にともなったインクの動圧によって、サブタンク27内の圧力、さらにはインクジェットヘッド26の背圧が変動してしまい、ノズル31からの液体噴射特性に影響が出てしまう。そこで、サブタンク27にダンパー室45を設けて、ダンパー膜45aが変形することにより、サブタンク27内のインクの圧力変動を抑制している。
【0078】
インク供給流路46は、上端部においてダンパー室45の出口と接続され、下端部においてインクジェットヘッド26と接続されている。これにより、インクカートリッジからチューブ14を介してサブタンク27に供給されたインクは、ダンパー室45に一時的に貯留された後、その出口からインク供給流路46へ水平に流れ出る。さらに、インク供給流路46内において、インクは下方に流れ落ちて、インクジェットヘッド26へ供給される。
【0079】
また、アンテナ49は、切り替えスイッチ58を介して電流供給装置59に接続されており、電流供給装置59から供給された電流を流すことができる。また、アンテナ49のループ内の領域は、サブタンク27のダンパー膜45aと隙間をあけて対向している。そして、切り替えスイッチ58を切り替えて、アンテナ49と電流供給装置59とを電気的に接続させて、図9(a)、(b)に示すように、電流供給装置59からアンテナ49に例えば矢印C方向に電流を流すと、矢印D方向の磁界が発生する。すると、ダンパー膜45aは、上側がN極、下側がS極であることから、この矢印D方向の磁界によって上側に変形し、ダンパー室45内の容積が増大する。一方、電流供給装置59からアンテナ49に例えば矢印C方向と逆方向に電流を流すと、矢印D方向と逆方向の磁界が発生する。すると、ダンパー膜45aはこの発生した磁界によって下側に変形し、ダンパー室45内の容積が減少する。
【0080】
そこで、PC75、通信端末70、イメージスキャナ18のいずれかから印刷データが送信されたかによらず、全ての印刷動作時には、切り替えスイッチ58を切り替えて、アンテナ49と電流供給装置59とを電気的に接続させる。そして、印刷動作にともない、キャリッジ25が移動して、サブタンク27内にインクが流入するときには、電流供給装置59からアンテナ49に矢印C方向に電流を流して、ダンパー室45を上側に変形させて、ダンパー室45内の容積を増大させる。一方、サブタンク27内にインクが流出するときには、電流供給装置59からアンテナ49に矢印C方向と逆方向に電流を流して、ダンパー膜45aを下側に変形させて、ダンパー室45内の容積を減少させる。これにより、ダンパー膜45aの変形させることで、印刷動作時においてキャリッジ25が移動することによるサブタンク27内のインクの圧力変動を効果的に抑制することができる。これにより、用紙100に高い印刷精度で印刷を行うことができる。
【0081】
また、上述した変形例においては、ダンパー膜45aは、磁石により形成されていたが、鉄などの軟磁性体により形成されてもよい。この場合、アンテナ49に方向にかかわらず電流が流れて、磁界が発生すると、軟磁性体により形成されたダンパー膜は磁化して、上側に変形して、ダンパー室内の容積を増大させることができる。また、アンテナ49に電流を流すのを止めると、ダンパー膜の変形は元に戻る。したがって、キャリッジ25が移動して、サブタンク27内にインクが流入するときには、電流供給装置59からアンテナ49に電流を流せば、サブタンク27内のインクの圧力変動を抑制することができる。
【0082】
また、本実施形態においては、インクジェットヘッド26を搭載したキャリッジ25に、通信モジュール48と接続されたアンテナ49を搭載していたが、例えば、図10に示すように、通信モジュール48と接続されたアンテナ149を、イメージスキャナ18を搭載したキャリッジ17に搭載してもよい。これによると、アンテナ149を移動させるための部材を別個に設ける必要がなく、インクジェットプリンタを小型化することができる。
【0083】
さらに、本実施形態、及び、上述した変形例においては、インクジェットヘッド26を搭載したキャリッジ25や、イメージスキャナ18を搭載したキャリッジ17に、通信モジュール48及びアンテナ49を搭載していたが、通信モジュール48及びアンテナ49を搭載するプリンタ筐体2内を移動可能な専用のキャリッジを独立別個に設けてもよい。これによると、印刷動作時やスキャナ読み込み時においても、通信モジュール48及びアンテナ49を移動させて、通信端末70から印刷データを受信可能となり、印刷動作後やスキャナ読み込み後において、通信端末70から受信した印刷データを基づいて用紙100に印刷を行うことができる。この場合、本実施形態のようないわゆるシリアル式のプリンタに限らず、いわゆるラインヘッドを有するプリンタなどの印刷装置に本発明を適用することも可能である。
【0084】
また、本実施形態においては、通信端末70から近距離無線通信により送信された印刷データに基づく印刷動作前の印刷前フラッシングの際、低解像度記録モードが選択され、且つ、キャリッジ25がプラテン28と対向している場合には、通信している間にプラテン28のフォーム29に向かって印刷前フラッシングを行っていた。しかしながら、プラテン28にフォーム29が設けられていない場合には、印刷モードにかかわらず、印刷前フラッシングにおいてインク受容部16にインクを噴射させてもよい。
【0085】
さらに、本実施形態においては、通信端末70を探索するときのキャリッジ25の移動速度を、印刷動作時のキャリッジ25の移動速度よりも遅くしていたが、高解像度印刷モードでは、インクの着弾精度を向上させるため、低解像度印刷モードに比べて、キャリッジ25の移動速度が遅い場合がある。このような場合には、通信端末70を探索するときのキャリッジ25の移動速度を、高解像度印刷モード時におけるキャリッジ25の移動速度にしてもよい。
【0086】
また、本実施形態においては、アンテナ49や通信モジュール48は、制御基板50とドライバIC53との間を中継する中継基板47に配置されていたが、アンテナ49や通信モジュール48を配置する通信用の基板を設けて、この基板をキャリッジ25に搭載してもよい。さらに、通信モジュール48については、制御基板50に設けられていてもよい。
【0087】
さらに、本実施形態においては、制御基板50からドライバIC53に信号を送信する配線51のうち、噴射タイミングを選択する選択データ(SIN)を送信する配線51を、通信モジュール48から制御基板50に印刷データを送信する配線として兼用していたが、駆動波形データ(Fire)を送信する配線51を通信モジュール48から制御基板50に印刷データを送信する配線として兼用してもよい。また、制御基板50からドライバIC53に信号を送信する配線51を兼用せずに、通信モジュール48から制御基板50に印刷データを送信する配線を独立別個に設けてもよい。この場合、アンプ55〜57に切り替え信号を入力して制御する必要がない。
【0088】
また、本実施形態においては、表示操作部13が操作されることで、通信端末70が載置面20に載置されたことを検知していたが、例えば、カバー3に振動検知センサや重量センサが設けられて、振動や重量変化を検知して、通信端末70が載置面20に載置されたことを検知してもよい。
【0089】
さらに、本実施形態においては、インクジェットプリンタ1に印刷データを無線通信により送信する対象として、図示しない電源を内蔵し、電波発信部71から自らの電力で電波を発信する通信端末70を例に挙げて説明したが、インクジェットプリンタ1から電波によって電力を供給されて、電波を送信するパッシブ型のICカードなどであってもよい。
【符号の説明】
【0090】
1 インクジェットプリンタ
2 プリンタ筐体
3 カバー
4 印刷部
20 載置面
49 アンテナ
50 制御基板
70 通信端末
100 記録用紙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被印刷媒体に印刷を行う印刷部と、
前記印刷部が収容され、近距離無線通信による通信が可能な通信端末が載置される載置面を有する筐体と、
前記筐体内に配置されて前記筐体内を移動可能であり、前記載置面に載置された前記通信端末から発信された電波を受信するための通信アンテナが設けられた可動部と、
前記印刷部及び前記可動部を制御する制御手段と、を備え、
前記制御手段は、前記筐体の前記載置面に前記通信端末が載置されたことを検知する、検知信号が入力されると、前記可動部を移動させ、前記通信アンテナを前記通信端末からの電波を受信可能な位置に移動させて、前記通信端末から前記通信アンテナを介して印刷データを読み込み、この印刷データに基づいて前記印刷部を制御して前記被印刷媒体に印刷を行うことを特徴とする印刷装置。
【請求項2】
前記制御手段は、
印刷を行わせるための駆動信号を前記印刷部に送信しており、
さらに、前記通信端末からの電波の受信が完了するまでの間、前記印刷部に前記駆動信号を送信しないことを特徴とする請求項1に記載の印刷装置。
【請求項3】
前記制御手段と前記印刷部とを接続し、前記制御手段から前記印刷部に前記駆動信号を送るための複数の配線と、
前記複数の配線のうち少なくとも一部の前記配線の、前記制御手段に接続される部分と前記印刷部に接続される部分との間から分岐し、前記通信アンテナに接続された分岐配線と、をさらに備え、
前記通信端末から前記通信アンテナを介して読み込んだ印刷データを、前記分岐配線及び前記一部の配線を介して前記制御手段に送ることを特徴とする請求項2に記載の印刷装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記検知信号が入力されると、前記載置面に載置された前記通信端末を探索するために、前記可動部を移動させ、前記通信アンテナが前記通信端末からの電波を受信した位置で前記可動部を停止させることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の印刷装置。
【請求項5】
前記可動部は、前記印刷部による印刷動作時に前記被印刷媒体が配置される配置面をまたいで所定の走査方向に往復移動しており、
前記印刷部は、印刷ヘッドを有し、
前記印刷ヘッドは、前記可動部に搭載され、前記可動部とともに前記走査方向に往復移動しながら前記被印刷媒体に印刷を行うことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の印刷装置。
【請求項6】
前記印刷ヘッドは、液体を噴射するノズルを有する液体噴射ヘッドであり、
前記可動部に搭載され、前記液体噴射ヘッドに供給される液体の圧力変動を抑制するために、壁面の一部が磁性を有する可撓性膜により覆われたダンパー室と、
環状の配線からなる前記通信アンテナが形成され、前記可撓性膜と対向して配置された基板と、
前記制御手段により制御されて、前記通信アンテナに電流を流す電流供給手段と、
前記制御手段により制御されて、前記通信アンテナの接続先を前記制御手段と前記電流供給手段との間で切り替える切り替え手段と、をさらに備え、
前記制御手段は、前記印刷動作時に前記切り替え手段により前記通信アンテナを前記電流供給手段と接続して、前記電流供給手段により前記通信アンテナに電流を流すことを特徴とする請求項5に記載の印刷装置。
【請求項7】
前記制御手段は、
前記検知信号が入力されると、前記載置面に載置された前記通信端末を探索するために、前記可動部を移動させ、前記通信アンテナが前記通信端末からの電波を受信した位置で前記可動部を停止させ、
さらに、前記通信端末を探索するときにおける前記可動部の移動速度を、前記印刷部による前記印刷動作時における前記可動部の移動速度よりも遅くすることを特徴とする請求項5または6に記載の印刷装置。
【請求項8】
前記印刷ヘッドは、液体を噴射するノズルを有する液体噴射ヘッドであり、
前記制御手段は、
乾燥防止のために前記ノズルから液体を排出させるフラッシングを前記液体噴射ヘッドに行わせるように構成され、
さらに、前記検知信号が入力されてから、前記通信端末から印刷データの読み込みが完了するまでの時間が所定時間以上である場合には、前記所定時間未満の場合に比べて、前記印刷動作前の前記フラッシングにおいて排出されるフラッシング量を多くするように前記液体噴射ヘッドを制御することを特徴とする請求項5〜7のいずれか1項に記載の印刷装置。
【請求項9】
前記印刷ヘッドは、液体を噴射するノズルを有する液体噴射ヘッドであり、
前記制御手段は、乾燥防止のために前記ノズルから液体を排出させるフラッシングを前記液体噴射ヘッドに行わせるように構成され、
前記印刷部による前記印刷動作時に前記被印刷媒体を支持し、前記フラッシングの際に排出された液体を受容するフォームを有するプラテンと、
前記プラテンと前記走査方向に関して並んで設けられた液体受容部と、をさらに備え、
さらに、前記制御手段は、
低解像度印刷モードとこれよりも解像度の高い高解像度印刷モードの少なくとも2つの印刷モードから1つを選択し、選択した印刷モードが前記高解像度印刷モードの場合には、前記低解像度印刷モードの場合に比べて、前記フラッシングで排出するフラッシング量が多くなるように前記液体噴射ヘッドを制御しており、
前記通信端末から印刷データを読み込んでいる間において、選択した印刷モードが前記低解像度印刷モードであり、且つ、前記可動部が前記プラテンと対向している場合には、前記通信している間に前記プラテンの前記フォームに向かって前記フラッシングを行うように前記液体噴射ヘッドを制御し、
前記高解像度印刷モードの場合には、読み込み完了後に、前記可動部を前記液体受容部と対向する位置に移動させて、前記印刷動作前に前記液体受容部に向かって前記フラッシングを行うように前記液体噴射ヘッドを制御することを特徴とする請求項5〜7のいずれか1項に記載の印刷装置。
【請求項10】
前記筐体内には、印刷が行われた前記被印刷媒体が載置される透明な板部材と、前記可動部に搭載され、前記被印刷媒体の前記板部材と対向する印刷面を読み取る読取部と、が設けられており、
前記筐体は、前記板部材に対して回動自在に設けられ、前記板部材の上方を覆い、前記通信端末が載置されるカバー部を有し、
前記可動部は、前記板部材に沿って移動することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の印刷装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−91256(P2013−91256A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−235031(P2011−235031)
【出願日】平成23年10月26日(2011.10.26)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】