説明

印刷電池

【課題】起電力が大きく、かつ電池寿命の長い、可撓性の亜鉛/二酸化マンガン系印刷電池およびその製造方法を提供する。
【解決手段】酸化マンガンペーストを印刷して作製した陽極と亜鉛ペーストを印刷して形成した陰極を、電解液を含浸させたセパレーターを介し積層して構成した印刷電池であって、前記電解液が2〜25wt%のリン酸を含むことを特徴とする印刷電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学エネルギーを電気エネルギーに変換することによりバッテリ電源として使用される電気化学電池、より詳細には、印刷法により製造される一次電池、すなわち、全ての能動素子が印刷されている、薄くて可撓性のある電池、特に起電力が大きく、かつ電池寿命の長い、可撓性の亜鉛/二酸化マンガン系印刷電池に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器の多様化が進み、例えば、携帯電話、動画および静止画・音声記録機、液晶ディスプレイ、電卓、腕時計、補聴器などのような電池駆動の携帯電気器具が市場に拡がってきている。また、グリーティングカード、ポストカード、本のパッケージ、カレンダーなどの民生品、電子荷札などの情報部品、さらには体温度計あるいは体に張り付けて体温や脈拍などの情報を読み取る医療用パッチなど医療用器具など、各種低電力消費製品に使用するのに適した電源として、比較的安価で、薄く、可撓性があり、かつ環境に優しい、使い捨ての低エネルギー密度電池の開発が進んでいる。
【0003】
このような印刷電池は、負極や正極にどのような材料を用いるかによってそれぞれ特徴のある電池が提供されるが、現在、亜鉛/二酸化マンガン系一次電池が市販段階にあり、またリチウム/二酸化マンガン系一次電池やリチウムイオン二次電池は開発途上にある。
従来の印刷法による亜鉛/二酸化マンガン系一次電池としていくつかの特許をあげられるが、例えば特許文献1は、亜鉛ペーストを印刷した負極と二酸化マンガンペーストを印刷した正極の間に不織布のセパレーターを配置したもので、電解質の過塩素酸亜鉛、バインダーのヒドロキシエチルセルロース、溶剤の水からなるペースト状電解液を負極にスクリーン印刷して用いている。この電池は、電解質として公知の塩化亜鉛、塩化アンモン系を用いる場合に比べ、負極の亜鉛との反応性が抑えられるので、亜鉛の利用効率が向上し、電池の寿命が長いという特徴がある。
【0004】
特許文献2は、複数の電池セルからなる一体型の薄型電池を、単一の電池セルと同様の薄さで、かつ簡単な製造工程で得られるようにする新しい工程(構造)を提案するもので、ポリエチレンテレフタレート(PET)のようなプラスチックフイルムにカーボンペーストで集電体を作成し、負極材は亜鉛末/ポリビニルアルコール(PVA)系ペースト、正極材には二酸化マンガンペーストを用い、セパレーターに不織布、電解液に塩化亜鉛/塩化アンモンを用いた例が開示されている。
【0005】
特許文献3には、可撓性の非-導電性基板材料の第一部分上に、集電材を用いずに直接、亜鉛アノードを印刷することを特徴とする亜鉛/二酸化マンガン電池で、具体的には、可撓性のポリマー-金属ラミネートパッケージ材料のアノード基板にアノードインキ(亜鉛末/酢酸亜鉛/水/ポリビニルピロリドン)をスクリーン印刷、70℃にて5分間乾燥後アノードタブを作成し、一方、可撓性のポリマー-金属ラミネートパッケージ材料のカソード基板にカソード集電装置用インキおよびカソードタブとしてカーボンインキ(市販品)を印刷、真空下50℃16時間乾燥後、この上にカソードインキ(二酸化マンガン/グラファイト/ポリビニルピロリドン/水)を印刷、70℃、5〜10分硬化。澱粉/天然グアーガム/ポリビニルピロリドン/界面活性剤添加物/水を含む混合物で被覆されているクラフトセパレータ紙を、電池電解液(1000ppmのセチルトリメチルアンモニウムブロミドを含み、600ppmの塩化鉛を添加した、28質量%の塩化亜鉛溶液)で湿らせ、このセパレータを該亜鉛アノードと面するように配向させ、周辺部で熱封止するものが開示されている。
【0006】
特許文献4には、印刷電池に用いられる伝導性インク、正極インク、負極インクのバインダーとしてアクリル、アルキド、アルギン酸塩、ラテックス、ポリウレタン、アマニ油、および炭化水素のエマルジョンからなる群より選択されるベースを用いることを特徴にしている。例えば、伝導性インク懸濁液はアクリル系バインダー中に79重量%の伝導性炭素(粒径<0.1μm)を分散、正極インク懸濁液はアクリル系バインダー中に96重量%の二酸化マンガン(粒径<0.4μm)を分散、負極インク懸濁液はアクリル系バインダー中に96重量%の亜鉛粉末(粒径<0.3μm))分散して調製する例が開示されている。
【0007】
また、特許文献5には、負極材としての亜鉛ポリマー厚膜組成物に関するもので、溶媒とポリヒドロキシエーテル、ポリウレタン、アクリロニトリル/塩化ビニリデンのコポリマーおよびその混合物から選択されるポリマーを含む有機媒質中に分散された亜鉛粒子を含む亜鉛ポリマー厚膜組成物が開示されている。
【0008】
なお、印刷電池ではないが、負極活物質としてアルミニウムを含む亜鉛合金を用いたアルカリ電池において、該負極活物質を含むゲル状亜鉛負極の電解液としてリン酸またはリン酸のアルカリ塩からなるリン酸イオンを含む電解液を用いる例がある(特許第2609609号)。しかしこのリン酸イオンは、負極活物質中に含まれるアルミニウムが特定の放電条件下で亜鉛の特異な結晶の生成を妨害するイオンとして添加され、その添加量は、亜鉛1gについて10〜100ppmの割合で電解液中に含有させるとしている。このようなリン酸イオンの添加によって、特定の負荷抵抗での放電性能の低下は見られなくなるという効果が確認され、この作用機序としては、リン酸イオンの存在によって亜鉛の特異な結晶の生成が阻害され、その結晶による内部短絡現象がなくなるからであると推定しているが、当該特許は、電解液にKOHのようなアルカリを使用するアルカリ電池の亜鉛負極のアルカリ電解液に極微量のリン酸を添加するもので、亜鉛/二酸化マンガン系一次電池の塩化亜鉛または塩化亜鉛/塩化アンモン系電解液にリン酸を相当量添加するものではなく、またリン酸の添加による起電力の向上については何ら記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭61−55866号公報
【特許文献2】特開平5−54895号公報
【特許文献3】特表2005−518074号公報
【特許文献4】特表2005−527093号公報
【特許文献5】特開2004−022548号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
これらの亜鉛/二酸化マンガン系電池において、その起電力は約1.5Vであり、さらに高起電力の電池の必要性が認識されており、これが得られれば電池寿命が延びるので極めて有利である。本発明の課題は、起電力が大きく、かつ電池寿命の長い、可撓性の亜鉛/二酸化マンガン系印刷電池およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、電池の起電力は用いる電解液の組成に依存するものと想定し、印刷法のセパレーターに含浸させる電解液の検討を行った結果、電解液にリン酸水溶液を用いた場合、無負荷放電特性は満足しないものの、初期起電力が約2Vに達することを見出し、さらに研究を進めた結果、特に塩化亜鉛/塩化アンモン系電解液や塩化亜鉛系電解液にリン酸を添加することによって、顕著な起電力向上効果とともに、無負荷放電特性も良好な印刷電池がえられることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、上記課題を達成するために、本願で特許請求される発明は以下のとおりである。
【0012】
(1)酸化マンガンペーストを印刷して作製した陽極と亜鉛ペーストを印刷して形成した陰極を、電解液を含浸させたセパレーターを介し積層して構成した印刷電池であって、前記電解液が2〜25wt%のリン酸を含むことを特徴とする印刷電池。
(2)前記電解液が塩化アンモン/塩化亜鉛/リン酸系または塩化亜鉛/リン酸系であることを特徴とする(1)に記載の印刷電池。
(3)前記塩化アンモン/塩化亜鉛/リン酸系電解液が塩化アンモン/塩化亜鉛/リン酸/水からなり、塩化アンモン25〜28wt%、塩化亜鉛2〜12wt%、リン酸2〜25wt%、水40〜65wt%であることを特徴とする(2)に記載の印刷電池。
(4)前記塩化亜鉛/リン酸系電解液が塩化亜鉛/リン酸/水からなり、塩化亜鉛50〜80wt%、リン酸5〜25wt%、水15〜25wt%であることを特徴とする(2)に記載の印刷電池。
(5)前記酸化マンガンペーストおよび亜鉛ペーストが、バインダーとしてヒドロキシアルキルセルロース類、ポリビニルブチラール(PVB)およびアクリルポリオール樹脂からなる群から選ばれた一種または二種以上のポリマーであることを特徴とする(1)ないし(4)のいずれかに記載の印刷電池。
(6)酸化マンガンペーストを印刷して作製した陽極と亜鉛ペーストを印刷して形成した陰極を、電解液を含浸させたセパレーターを介し積層して印刷電池を構成する印刷電池の製造方法であって、前記電解液が2〜25wt%のリン酸を含むことを特徴とする印刷電池の製造方法。
(7)前記電解液が塩化アンモン/塩化亜鉛/リン酸系または塩化亜鉛/リン酸系であることを特徴とする(6)に記載の印刷電池の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、高起電力でかつ自己放電性の低い、可撓性の酸化マンガン/亜鉛系印刷電池が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の印刷電池の構成を示す断面図。
【図2】本発明の印刷電池の製造方法のフローチャートを示す説明図。
【図3】各種電解液を用いた印刷電池の起電力(無負荷)経時変化を示す図。
【図4】実施例1、2及び比較例1、2の起電力(無負荷)経時変化を示す図。
【図5】実施例3、4及び比較例1、2の起電力(無負荷)経時変化を示す図。
【図6】実施例5、6及び比較例1、2の起電力(無負荷)経時変化を示す図。
【図7】実施例2の印刷電池における負荷放電特性を示す図。
【図8】電極バインダーの異なる印刷電池の起電力(無負荷)経時変化を示す図。
【図9】印刷電池の起電力(無負荷)経時変化に及ぼす塩化アンモン/塩化亜鉛/リン酸系電解液組成の影響を示す図。
【図10】印刷電池の起電力(無負荷)経時変化に及ぼす塩化亜鉛/リン酸系電解液組成の影響を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は、本発明の印刷電池の構成を示す断面図である。この印刷電池10は、一対の基板間にセパレーター3を挟んで配置された陽極部1と陰極部2とからなり、陽極部1は、基板4にカーボンペーストなどを印刷・熱硬化して形成した集電電極5と、該集電電極5の表面に酸化マンガン粉末ペーストを印刷、乾燥して形成した陽極6とからなり、一方、陰極部2は、基板4と基板7にカーボンペーストなどを印刷・熱硬化して形成した集電電極5と、該集電電極5の表面に亜鉛粉末ペーストを印刷・乾燥して形成した陰極7とからなる。
【0016】
(1)陽極部1
PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムのような可撓性電気絶縁性基板4に、カーボンペーストなどを印刷・熱硬化して集電電極(リード電極兼用)5を形成し、その表面に陽極6として酸化マンガン粉末を含むペースト(酸化マンガンペースト)を印刷・乾燥により形成したもの。
(2)陰極部2
PET(ポリエチレンテレフタレート)のような可撓性基板に、カーボンペーストなどを印刷・熱硬化して集電電極(リード電極兼用)を形成し、その表面に陰極8として亜鉛粉末を含むペースト(亜鉛ペースト)を印刷により形成したもの。
(3)セパレーター3
上記(1)と(2)とが直接接触することを防止するためのスペーサーの役割と電解液
保持の役割をはたすためのものであり多孔質物質であり、この多孔体に電解液を含浸して用
いられる。
【0017】
本発明の印刷電池において可撓性電気絶縁性基板としては、上述したPET以外にポリエチレンナフトエート(PEN)、ポリイミド(PI)、ポリカーボネート(PC)、ポリサルホン(PS)などのフィルムやアルミラミネートフイルム(PETなどのフィルムにアルミ箔とシーラント層を積層した多層フイルム)を用いることができる。
【0018】
本発明の集電電極には、カーボンペーストが好適に用いられる。カーボンペーストとしては、スクリーン印刷性が良好で、印刷後比較的低温で硬化反応により柔軟な被膜を形成し、PETと良好な密着性を有し、少なくとも10−2Ω・cmより低い電気抵抗の被膜が形成できるものが好ましい。
【0019】
本発明の陽極を形成するには、酸化マンガン粉末、カーボンまたはグラファイト粉末、バインダー、電解液、バインダー用溶剤などで構成される酸化マンガンペーストを、上記集電電極上に印刷・乾燥して形成される。
【0020】
本発明の酸化マンガンペーストに用いられる二酸化マンガン粉末としては、試薬として入手可能な純度が >80%、好ましくは >85%、平均粒径が5〜15μm程度のものが使用できる。また、陽極内の導電性を高めるためにカーボンまたはグラファイト粉末を添加してもよく、例えば鱗状グラファイトで粒径が5〜15μm程度のものが好ましく用いられる。
【0021】
酸化マンガンペーストの電解液としては塩化アンモン/塩化亜鉛が用いられる。また、酸化マンガンペーストのバインダーとしては、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドロキシエチルメチルセルロース(HEMC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)などのヒドロキシアルキルセルロース類、ポリビニルブチラール(PVB)、ポリオールアクリル樹脂が好適である。また、酸化マンガンペーストのバインダー用溶剤として、スクリーン印刷に適した蒸発性を有し、使用するバインダーに適した溶媒が適宜選択して用いられるが、エチルカルビトールアセテート、ブチルセロソルブが例示できる。
【0022】
本発明の亜鉛ペーストに用いられる亜鉛粉末としては、純度が >99%で、平均粒径が5〜15μm程度のものが好ましく用いられる。亜鉛ペーストのバインダーとしては、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドロキシエチルメチルセルロース(HEMC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)などのヒドロキシアルキルセルロース類、ポリビニルブチラール(PVB)、アクリルポリオール樹脂などが好適である。また、亜鉛ペーストのバインダー用溶剤としてスクリーン印刷に適した蒸発性を有し、使用するバインダーに適した溶媒が適宜選択して用いられるが、エチルカルビトールアセテート、ブチルセロソルブが例示できる。
【0023】
本発明のセパレーターとしては、電解液に対する親和性、化学的安定性を有する多孔体が好適であり、木綿(化粧専用コットン)、レーヨン/ポリエステル不織布などが例示される。また、本発明でセパレーターに含浸して用いられる電解液として、塩化アンモン/塩化亜鉛/リン酸/水系電解液または塩化亜鉛/リン酸/水系電解液が好ましく用いられる。
【0024】
本発明の塩化アンモン/塩化亜鉛/リン酸/水系電解液では、塩化アンモン25〜28wt%、塩化亜鉛2〜12wt%、リン酸2〜25wt%(特に5〜10wt%)、水40〜65wt%の組成のものが好ましい。リン酸の濃度が2wt%に達しないと、リン酸の添加による起電力向上効果が乏しく、25wt%を越えると、その効果が飽和する傾向がある。また塩化アンモンの濃度が小さすぎると、十分な起電力がえられず、また多すぎると電解液の溶解性が悪くなる。塩化亜鉛の濃度が小さすぎると、十分な無負荷放置による起電力低下抑制効果がえられず、また大きすぎると、その効果が飽和する。
【0025】
本発明の塩化亜鉛/リン酸/水系電解液では、塩化亜鉛50〜80wt%、リン酸5〜25wt%(特に5〜20wt%)、水15〜25wt%の組成のものが好ましい。塩化亜鉛の濃度は、その水への溶解性から80wt%以下、好ましくは75wt%以下がより好ましい。また、リン酸の濃度が5wt%に達しないと、リン酸の添加による起電力向上効果が乏しく、また25wt%を越えると、その効果が飽和する傾向がある。
【0026】
次に本発明の印刷電池の製造法の一例を図2により説明する。まず、PETのような可撓性電気絶縁性基板4Aに集電電極(タブ電極兼用)5を形成するために導電性ペーストをスクリーン印刷する。次いで、集電電極付き基板4Bの集電電極5を被覆するように陽極用酸化マンガンペーストをスクリーン印刷し、乾燥して陽極6が形成された基板4Cを作製する。別に、集電電極付き基板4Bを同様に作成し、その集電電極5を被覆するように陰極用亜鉛ペーストをスクリーン印刷し、乾燥して陰極7が形成された基板4Eを作製する。次いで、これらの基板4C、4Eの一部を切取加工してタブ電極T1、T2が突出した組み立て用基板4D、4Fを作製する。ここで、陽極6が形成された基板4Dに、陽極部分を被覆するようにスペーサー3を静置し、これに所定量の電解液を含浸させた後、この基板4Gに、陰極7が形成された基板4Fを重ね合わせ、周辺を封止材や接着剤を用いて封止して、本発明の印刷電池10が完成する。
【0027】
なお、図2は枚葉式の製造例を示したが、これの展開としてスクリーン印刷多面印刷方式や、ロール・トウ・ロール法による連続印刷方式を導入して、印刷電池の量産化が可能であることは言うまでもない。
以下、図2のフローチャートに従った本発明の印刷電池の具体的実施例を示す。
【実施例】
【0028】
[実施例1]
まず、PET基板(厚さ100μm、60×60mm)4Aに導電性カーボンペースト(商品名:アサヒ化学研究所のFTU−16F)をスクリーン印刷(ポリエステル版150メッシュ)で集電部30×30mm、リード部5×15mmのパターン印刷し、80℃、15分熱処理して集電電極付き基板4Bを形成した。ここで、カーボンペーストとしては、スクリーン印刷性が良好で、印刷後比較的低温で硬化反応により柔軟な被膜を形成し、PETと良好な密着性を有し、少なくとも10−2Ω・cmより低い電気抵抗の被膜が形成できるものが好ましく、このようなペーストを用いることにより、印刷後80℃、15分の熱処理で導電膜を形成することができる。
【0029】
次いで、集電電極付き基板4Bの集電電極を被覆するように陽極用酸化マンガンペーストを30×30mmサイズでスクリーン印刷し、乾燥して陽極が形成された基板4Cを作製した。同様に、作製した集電電極付き基板4Bの集電電極を被覆するように陰極用亜鉛ペーストを30×30mmサイズでスクリーン印刷して乾燥し、陰極が形成された基板4Eを作製した。なお、電極ペーストのスクリーン印刷にはポリエステル版80メッシュのものを使用した。また、電極ペーストとしては表1に示す陽極酸化マンガンペースト(組成例A1〜A4)、表2に示す陰極亜鉛ペースト(組成例B1〜B4)を用い、いずれも印刷後80℃で15分の熱処理を行った。
【0030】
次いで、これらの基板4C、4Eの一部を切取加工(トリミング)してリード電極が突出した組み立て用基板4D、4Fを作製した。
さらに、陽極が形成された基板4Bに、陽極部分を被覆するようにスペーサーとしてコットンシート(エイボン・プロダクツ社製、商品名 エイボンコットンパッド)サイズ30×30mm、厚さ100〜200μmを静置し、これに表3に示す電解液(組成例C1〜C7)を0.6〜0.8g含浸させた。この基板4Gに陰極が形成された基板4Fを重ね合わせ、粘着テープにより周辺を封止して、本発明の印刷電池10を完成させた。
上記陽極用酸化マンガンペースト、陰極用亜鉛ペーストおよび電解液の詳細は下記のとおりである。
【0031】
(陽極用酸化マンガンペースト)
陽極用酸化マンガンペーストは、二酸化マンガン粉末、グラファイト粉末、電解液、バインダーおよび溶剤から構成される。二酸化マンガン粉末としては試薬一級、グラファイト粉末としては鱗状グラファイト(中越黒鉛工業所製、商品名 CDF−3)を用いた。電解液としては塩化アンモン(試薬1級品)/塩化亜鉛(試薬1級)を用いた。バインダーとしてはヒドロキシプロピルセルロース(HPC、三栄源エフ・エス・アイ社製、商品名 KluceNutra W)、エチルセルロース(試薬一級)、ポリビニルブチラール(PVB、積水化学工業社製、商品名 エスレックBL−2、固形分23wt%ブチルセロソルブ溶液として使用)、アクリルポリオール樹脂液(水酸基含有アクリルモノマーとアクリル酸エステルとの共重合体、東栄化成、商品名 アクリナール#15−85(固形分55wt%、水酸基当量55mgKOH/g)を用いた。
【0032】
なお、酸化マンガン粉末に対するバインダーの割合は、用いるバインダーの種類、分子量などによって最適比が異なり、個々のバインダーに対し最適比を選択する必要があるが、印刷性や電池特性に優れたペーストになる酸化マンガン粉末/バインダー(樹脂固形分)=100/1〜10(重量比)の範囲にある。また、溶剤としてエチルカルビトールアセテート(試薬一級)と水を用い、印刷性が良好な粘度になるように添加量を調整した。
【0033】
【表1】

【0034】
(陰極用亜鉛ペースト)
陰極用亜鉛ペーストは、亜鉛粉末、バインダーおよび溶剤から構成した。亜鉛粉末としては純度99%以上の平均粒径が5〜12μmの市販品を使用した。バインダーとしてヒドロキシプロピルセルロース(HPC、三栄源エフ・エス・アイ社製、商品名 KluceNutra W)、エチルセルロース(試薬一級)、ポリビニルブチラール(PVB、積水化学工業社製、商品名 エスレックBL−2、固形分23wt%ブチルセロソルブ溶液として使用)、アクリルポリオール樹脂液(水酸基含有アクリルモノマーとアクリル酸エステルとの共重合体、東栄化成社製、商品名 アクリナール#15−85(固形分55wt%、水酸基当量55mgKOH/g)を用いることが極めて有効であることを確認した。
なお、亜鉛粉末に対するバインダーの割合は、用いるバインダーの種類、分子量などによって最適比が異なり、個々のバインダーに対し最適比を選択する必要があるが、印刷性や電池特性に優れたペーストは、亜鉛粉末/バインダー(樹脂固形分)=100/1〜10(重量比)の範囲にある。
溶剤としては、エチルカルビトールアセテート(試薬一級)、ブチルセロソルブ(試薬一級)を用い、印刷性が良好な粘度になるように添加量を調整した。
【0035】
【表2】

【0036】
(電解液)
電解液としては、表3に示す7種の組成物を用いた。ここで、組成例C1は塩化アンモン単独水溶液、組成物C2は塩化アンモンにリン酸水素二アンモニウムを組み合わせたもの、組成物C3は塩化アンモン/塩化亜鉛系、組成物C5は塩化亜鉛単独水溶液、組成物C7はリン酸単独水溶液で、以下に示す比較例において電解液として使用したものである。また、組成物C4とC6は、本発明の実施例に係る電解液で、前者は塩化アンモン/塩化亜鉛/リン酸系、後者は塩化亜鉛/リン酸系組成物である。なお、塩化アンモン、塩化亜鉛、リン酸、リン酸水素二アンモニウムはすべて試薬1級を用いた。
【0037】
【表3】

【0038】
[比較例1〜5]
電解液の特性をテストするために図2に記載した印刷電池の製造プロセスによって、陽極ペーストと亜鉛ペーストは同一とし、電解液のみを以下のように変更した比較例1〜7の印刷電池を作製した。
比較例1:電解液組成C3:塩化アンモン/塩化亜鉛系
比較例2:電解液組成C5:塩化亜鉛単独
比較例3:電解液組成C1:塩化アンモン単独
比較例4:電解液組成C7:リン酸単独
比較例5:電解液組成C2:塩化アンモン/リン酸水素二アンモニウム系
【0039】
印刷電池の初期起電力を測定し、さらにこれを室温に静置し、経時的に起電力を測定した結果を表4および図3に示した。
これらの結果から、塩化アンモン単独電解液(C1)とリン酸単独(C7)は、無負荷状態での経時的な電圧低下が激しいことが判った。また、電解液C7以外の電解液を用いたもの(比較例1〜3、5)は初期起電力が1.5Vレベルであるのに、電解液C7を用いたものは初期起電力1.95Vという高い電圧がでるという特異な現象が発見された。
【0040】
比較例5は、塩化アンモンにリン酸水素二アンモニウムを加えた配合物(C2)であるが、これは、塩化アンモンに塩化亜鉛を添加した電解液(C3)と類似の放電特性を示し、塩化亜鉛がもたらす効果(無負荷放置による起電力低下抑制作用)をリン酸水素二アンモニウムが有することを示しているが、初期起電力は1.5Vレベルであり、初期起電力向上効果はリン酸に固有の効果であることが確認できた。なお、リン酸塩としてリン酸水素二アンモニウム以外にリン酸アルミニウム、リン酸亜鉛、リン酸亜鉛を塩化アンモンと組み合わせて電解液の調製を試みたが、これらのリン酸金属塩は水溶性に乏しく、電解液とすることができなかった。
【0041】
【表4】

【0042】
[実施例1〜6]
図2に記載した印刷電池の製造プロセスによって実施例1〜6の印刷電池を作製した。
ここで、実施例1、2は電極ペーストのバインダーがPVBであり、実施例3、4はアクリルポリオール、実施例5、6はHPCを用いたものであり、実施例1、3、5は電解液が塩化アンモン/塩化亜鉛/リン酸/水系、実施例2、4、6は塩化亜鉛リン酸/水系を用いた。
【0043】
印刷電池の初期起電力を測定し、さらにこれを室温に静置し、経時的に起電力変化を確認した結果を表5および図4〜6にまとめた。なお、図4〜6においては、比較例を加え、本発明の効果を判りやすくした。
【0044】
表5及び図4〜6から明らかなように、電解液として塩化アンモン/塩化亜鉛/リン酸/水系、および塩化アンモン/塩化亜鉛/リン酸/水系、用いた実施例1〜6の印刷電池は、いずれも初期起電力が約1.9Vと非常に高い値を示し、自然放電によってその値は低下するものの、長期間にわたって1.4V以上の安定した起電力をもつことが明らかである。ここで、電解液が塩化アンモン/塩化亜鉛/リン酸/水系の場合(C4)と、塩化亜鉛/リン酸/水系(C6)の場合に、リン酸を含まない塩化アンモン/塩化亜鉛/水系(C3)の場合と塩化亜鉛/リン酸/水系(C5)の場合に比較してより高い初期起電力が得られ、しかも経時的に安定した状態での起電力も大きいことが明らかである。
また、リン酸を含有する本発明の電解液を用いた印刷電池において、電極用バインダーに使用するポリマーの種類によって、無負荷放置による放電特性に差があることが明らかである。
【0045】
【表5】

【0046】
実施例2の印刷電池の負荷放電試験を行った結果を表6および図7示した。
なお、試験条件は負荷抵抗10kΩとして室温で行った。1.5Vの電池に10kΩの抵抗を接続すると0.15mAの電流が流れるので、0.1〜0.2mAの電子器具(グリーティングカード、ポストカード、本のパッケージ、カレンダーなどの民生品、電子荷札などの情報部品、さらには体温度計あるいは体に張り付けて体温や脈拍などの情報を読み取る医療用パッチなど医療用器具など、各種低電力消費製品)に使用することを想定した条件である。
この結果から、実施例2の印刷電池は、初期起電力が大きい効果もあって、極めて長時間に渉って連続放電が可能であることが判った。
【0047】
【表6】

【0048】
[比較例6、7]
実施例1〜6において、リン酸を含有する本発明の電解液を用いた印刷電池において、電極用バインダーに使用するポリマーの種類によって、無負荷放置による放電特性に若干の差があるものの、実施例1、2のPVB、実施例3、4のアクリルポリオール、実施例5、6のHPCでは、6ヶ月までの無負荷放電特性は良好であった。
【0049】
これに対して、比較例6、7として電極バインダーとしてエチルセルロースを用いた印刷電池は、比較として示した実施例5、6(バインダーとしてHPCを使用)と比較しても明らかなように、初期起電力では差がほとんどないのに対し無負荷状態の起電力の経時的な低下が大きく、実用性の低いものであった(表7、図8参照)。このことから、本発明の印刷電池において、電極バインダーの種類が大きく電池特性に影響を及ぼすことが明らかである。
【0050】
【表7】

【0051】
[実施例7、8]
塩化アンモン/塩化亜鉛/リン酸/水系電解液として表8に記載、組成液C8とC9を新たに調製し、実施例7と同様にして印刷電池を作製した。これらの印刷電池の初期起電力を測定し、さらにこれを室温に静置し、経時的に起電力変化を確認した結果を表9および図9にまとめた。なお、図4〜6においては、比較例1と実施例1を加え、本発明の効果を判りやすくした。
これらの結果から、塩化アンモン/塩化亜鉛/リン酸/水=26wt%/8wt%/2〜10wt%/56〜64%の範囲の電解液組成を用いた印刷電池で本発明の所望の特性が得られることが明らかになった。
【0052】
【表8】

【0053】
【表9】

【0054】
[実施例9、10]
塩化亜鉛/リン酸/水系電解液として表10に記載の組成液C10とC11を新たに調製し、実施例2と同様にして印刷電池を作製した。これらの印刷電池の初期起電力を測定し、さらにこれを室温に静置し、経時的に起電力変化を確認した結果を表11および図10にまとめた。なお、表11、図10においては、比較例2と実施例2を加え、本発明の効果を判りやすくした。
これらの結果から、塩化亜鉛/リン酸/水=60〜75wt%/5〜20wt%/20%の範囲の電解液組成を用いた印刷電池で本発明の所望の特性が得られることが明らかになった。
【0055】
【表10】

【0056】
【表11】

【符号の説明】
【0057】
1:陽極部
2:陰極部
3:セパレーター
4:基板
5:集電電極
6:陽極
7:陰極


【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化マンガンペーストを印刷して作製した陽極と亜鉛ペーストを印刷して形成した陰極を、電解液を含浸させたセパレーターを介し積層して構成した印刷電池であって、前記電解液が2〜25wt%のリン酸を含むことを特徴とする印刷電池。
【請求項2】
前記電解液が塩化アンモン/塩化亜鉛/リン酸系または塩化亜鉛/リン酸系であることを特徴とする請求項1に記載の印刷電池。
【請求項3】
前記塩化アンモン/塩化亜鉛/リン酸系電解液が塩化アンモン/塩化亜鉛/リン酸/水からなり、塩化アンモン25〜28wt%、塩化亜鉛2〜12wt%、リン酸2〜25wt%、水40〜65wt%であることを特徴とする請求項2に記載の印刷電池。
【請求項4】
前記塩化亜鉛/リン酸系電解液が塩化亜鉛/リン酸/水からなり、塩化亜鉛50〜80wt%、リン酸5〜25wt%、水15〜25wt%であることを特徴とする請求項2に記載の印刷電池。
【請求項5】
前記酸化マンガンペーストおよび亜鉛ペーストが、バインダーとしてヒドロキシアルキルセルロース類、ポリビニルブチラール(PVB)およびアクリルポリオール樹脂からなる群から選ばれた一種または二種以上のポリマーであることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の印刷電池。
【請求項6】
酸化マンガンペーストを印刷して作製した陽極と亜鉛ペーストを印刷して形成した陰極を、電解液を含浸させたセパレーターを介し積層して印刷電池を構成する印刷電池の製造方法であって、前記電解液が2〜25wt%のリン酸を含むことを特徴とする印刷電池の製造方法。
【請求項7】
前記電解液が塩化アンモン/塩化亜鉛/リン酸系または塩化亜鉛/リン酸系であることを特徴とする請求項6に記載の印刷電池の製造方法。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2012−209048(P2012−209048A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−72340(P2011−72340)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(390013505)株式会社アサヒ化学研究所 (4)
【Fターム(参考)】