印字方法および印字装置
【課題】互いに異なる毛管力を有する複数の領域からなる被印字物全体を目標とする色で容易に染色することができる印字方法および印字装置を提供することにある。
【解決手段】凝集によりゲル化する被凝集体の凝集反応を促進させる凝集剤を凝集剤供給装置4が被印字物の少なくとも低い毛管力を有する領域に供給し、印字ヘッド6がインクジェット法で被凝集体を含むインクを被印字物の少なくとも低い毛管力を有する領域に向けて打滴し、被凝集体と凝集剤との凝集反応によりゲル化したインクを加熱装置7が被印字物に定着させる。
【解決手段】凝集によりゲル化する被凝集体の凝集反応を促進させる凝集剤を凝集剤供給装置4が被印字物の少なくとも低い毛管力を有する領域に供給し、印字ヘッド6がインクジェット法で被凝集体を含むインクを被印字物の少なくとも低い毛管力を有する領域に向けて打滴し、被凝集体と凝集剤との凝集反応によりゲル化したインクを加熱装置7が被印字物に定着させる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、印字方法および印字装置に係り、特に、互いに異なる毛管力を有する複数の領域からなる被印字物をインクジェット方式で印字を行う方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット方式は、簡便な機構で高速に印字できることから広く普及し、紙だけでなく、布、織物、平滑樹脂表面などの様々な被印字物に対する印字が試みられている。近年では、これら被印字物の形態や素材も多様化しており、また同じ被印字物の中に異なる被印字特性を持つ複合材料への印字も求められてきた。このような被印字物についてどの領域についても思い通りの染色をすることが求められている。
被印字物の思い通りの発色を実現させるためには、着弾したインク滴が着弾位置に留まり制御可能なことが求められる。
被印字物に印字されたインク滴の性質は表面張力に基づく毛管力、毛管力長で特徴付けられる。液滴が表面張力で留まるサイズの指標を与える毛管力長(2)に比べ十分小さい(たとえば1/10)サイズのインク滴であれば平滑面上の着弾位置に留まることが可能であるが、印字密度が高くなり、インク滴が合一し毛管力長同等のサイズになる場合には、重力等の影響が大となり予測できない液滴の移動が生ずる。着弾位置が凸平面の場合、面の曲率が大きくなるとさらに移動しやすくなり、液滴の半径が曲率半径以下であることが望ましい。
毛管力は式(1)で示すように、表面張力に基づく液滴に働く力であり、細孔、糸内部、凹部等はインク保持の物質間距離(インクが保持される領域を構成する壁物質の間の平均的距離)rが小さくなるため毛管力が大となる。また濡れ性がよく接触角が小さな領域も毛管力が大となる。
p=aγcosθ/r ・・・(1)
なお、pは単位面積あたりの毛管力(圧力)、aは比例定数、γはインク液体の表面張力、θはインクと対象物質の間の濡れ性を示す接触角、rはインクを保持する物質間の距離である。
毛管力長は以下の式で表される。通常数1mm程度である。
1/κ=(γ/ρ・g)1/2 ・・・(2)
なお、1/κは毛管力長、γは表面張力、ρは比重、gは重力加速度を示す。
毛管力長より十分小さい液滴は、重力等外力の影響を受けることなく表面張力で着弾位置に留まることが出来る。液滴が合一し毛管力長同等あるいはそれ以上のサイズになると不安定になり予測不能な移動が始まる。特に近傍に地組織が存在する場合、地組織に対して低い毛管力しか働かないため着弾したインク滴は、高い毛管力を持つ地組織に移動してしまう。
織物からなる被印字物としては、例えば、織物の地組織にポリエステルからなるファスナー、ボタンを取り付けた織物、または、地組織の表面を毛羽立てた起毛織物などが存在する、ファスナーのスナップ、ボタン、起毛部分は打滴されたインク滴にとって平滑な凸形状をしており、インク滴は留まりにくい。また、平面形状の樹脂としては、例えば、プラスティックカード、樹脂成型品等がある。平面形状の樹脂板に凹凸が形成されたもの、または、樹脂板の一部にマット処理、親水処理を施したものなどが存在する。平面形状の樹脂が部分的に異なる毛管力を持つことになる。具体的には、樹脂板に形成された凹部やマット処理領域は高い毛管力を有する。
これらの被印字物の場合、低い毛管力によりインクが留まり難い領域(織物のスナップや起毛部分、樹脂板の表面)への印字が求められかつ、高い毛管力によりインクが留まり易い領域(織物の地組織、樹脂板の凹部やマット処理領域)が隣接して配置されている。このため、低い毛管力を有する領域に打滴したインクは高い毛管力を有する領域に移動し易く、所定のインク量を低い毛管力の領域に留めて目標とする色に染色することは困難であった。
【0003】
そこで、例えば、特許文献1には、起毛織物において一様に染色し難い起毛部分の根元と先端でノズル口径を変えて異色に着色することで、その全体を目標とする色に染色することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平3−69631号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ノズル口径の変更やインクの調整などに多大な労力を要する。
【0006】
この発明は、このような従来の問題点を解消するためになされたもので、互いに異なる毛管力を有する複数の領域からなる被印字物全体にわたり目標とするインク着弾を実現し染色・着色の場合には目標の発色を容易に実現することができる印字方法および印字装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明に係る印字方法は、低い毛管力によりインクが留まり難い領域を含む被印字物にインクジェット法により印字を行う印字方法であって凝集によりゲル化(コロイド粒子、水性分散ポリマー、水溶性ポリマー、界面活性剤、モノマー等の被凝集体が構造化し粘度があがること)する被凝集体の凝集反応を促進させる凝集剤を被印字物の少なくとも低い毛管力を有する領域に供給し、インクジェット法で前記被凝集体を含むインクを被印字物の少なくとも低い毛管力を有する領域に向けて打滴し、前記被凝集体と前記凝集剤との凝集反応によりゲル化したインクを被印字物に定着させるものである。
【0008】
ここで、前記凝集剤は、被印字物の低い毛管力を有する領域に供給されたそれぞれの液滴が合一して供給位置から移動しないように、大きさ及び量を調整して毛管力長に比べ十分小さいサイズで供給されることが好ましい。また、前記凝集剤は液滴が合一しないような間隔で規則的に印字する、あるいはエアースプレー、霧化器等を使用し、毛管力長に比べ十分小さなサイズの液滴を生成し供給することができる。
また、前記被凝集体を含むインクは、被印字物の低い毛管力を有する領域に供給された前記凝集剤が被印字物の高い毛管力を有する領域に移動しないうちにゲル化するように供給することができる。
【0009】
また、前記凝集剤を供給する前に、前記凝集剤と前記被凝集体との凝集反応を失活させる失活剤を被印字物の高い毛管力を有する領域に供給することが可能である。
また、前記凝集剤は、被印字物の低い毛管力を有する領域にのみ供給することができる。
【0010】
また、前記被凝集体は、酢酸ビニル系、アクリル系、ポリエステル系あるいはウレタン系等の水性ポリマー分散液、PVAあるいはアルギンサン等の水性ポリマー溶液、あるいは界面活性剤により微粒子を分散させたものを含むことが好ましい。
また、前記被凝集体分散液としてアニオン性界面活性剤を含む分散液を用いると共に前記凝集剤として有機酸を用いることで凝集反応を行うことができる。また、前記被凝集体分散液として有機カチオン性高分子を含む分散液を用いると共に前記凝集剤としてアニオン界面活性剤を用いて、または、前記被凝集体分散液として有機アニオン性高分子を含む分散液を用いると共に前記凝集剤としてカチオン界面活性剤を用いて凝集反応を行ってもよい。また、前記被凝集体分散液として疎水コロイドまたは親水コロイドを分散させたものを用いると共に前記凝集剤として前記疎水コロイドまたは前記親水コロイドの中和剤を用いることで凝集反応を行ってもよい。また、前記被凝集体分散液として架橋性ポリマーを含むものを用いると共に前記凝集剤として前記架橋性ポリマーの架橋開始剤を用いることで凝集反応を行ってもよい。
【0011】
また、被印字物において低い毛管力を有する領域は、繊維織物基材から起毛された起毛組織からなることができる。また、被印字物において低い毛管力を有する領域は、繊維織物基材に取り付けられた、毛管力長サイズ以上のポリエステル等の樹脂からなる構造物からなることもできる。また、被印字物は不織布からなり、高い毛管力を有する領域は繊維の密度の高い領域からなることもできる。また、樹脂材からなる被印字物において凹部が形成され、前記凹部が高い毛管力を有する領域となると共に前記凹部に隣接する被印字物の表面が低い毛管力を有する領域となることもできる。また、樹脂材からなる被印字物において濡れ性の異なる領域が形成され、濡れ性の大きい領域が低い毛管力を有する領域となることもできる。
【0012】
また、本発明に係る印字装置は、低い毛管力によりインクが留まり難い領域を含む被印字物にインクジェット法により印字を行う印字装置であって、凝集によりゲル化する被凝集体の凝集反応を促進させる凝集剤を被印字物の少なくとも低い毛管力を有する領域に供給する凝集剤供給装置と、インクジェット法で前記被凝集体を含むインクを被印字物の少なくとも低い毛管力を有する領域に向けて打滴するインク供給装置と、前記被凝集体と前記凝集剤との凝集反応によりゲル化した前記インクを被印字物に定着させる定着装置とを有するものである。
【0013】
ここで、前記印字装置は、前記凝集剤供給装置により前記凝集剤を供給する前に、前記凝集剤と前記被凝集体との凝集反応を失活させる失活剤を被印字物の高い毛管力を有する領域に供給する失活剤供給装置をさらに有することが可能である。失活剤としては凝集反応が起こりにくいPh領域にシフトさせる、酸、アルカリ等が使用できる。たとえば凝集剤として有機酸を用い酸性領域で凝集を起こさせるアニオン性活性剤を主成分とする被凝集体分散液の場合、アルカリ剤が失活剤として使用できる。
また、前記凝集剤供給装置は、被印字物の低い毛管力を有する領域にのみ前記凝集剤を供給することが可能である。
【0014】
また、本発明に係る印字方法は、表面から裏面にかけて高い毛管力によりインクが浸透し易い領域が延びる被印字物にインクジェット法により印字を行う印字方法であって、凝集によりゲル化する被凝集体の凝集反応を促進させる凝集剤を被印字物の表面領域および裏面領域のうち少なくとも一方の所定の領域に供給し、インクジェット法で被凝集体を含むインクを被印字物の前記所定の領域に向けて打滴し、前記被凝集体と前記凝集剤との凝集反応によりゲル化したインクを被印字物の前記所定の領域に定着させるものである。
【0015】
ここで、凝集剤の供給が被印字物の表面領域および裏面領域に対してそれぞれ行われた後に、被凝集体を含むインクの打滴が被印字物の表面領域および裏面領域に対してそれぞれ行うことができる。また、被印字物の表面領域および裏面領域のうち一方の領域に対して凝集剤の供給および被凝集体を含むインクの打滴が行われた後に、被印字物の他方の領域に対して凝集剤の供給および被凝集体を含むインクの打滴が行うこともできる。
また、インクジェット法で被印字物に打滴される被凝集体を含むインクは、さらに被印字物の物性を変換する処理剤を含み、異なる種類の前記処理剤が被印字物の表面領域および裏面領域にそれぞれ供給されることにより、被印字物の表面領域および裏面領域を異なる物性に変換することが好ましい。また、前記処理剤としては、撥水剤を用いることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、毛管力の低い領域を含む被印字物、互いに異なる毛管力を有する複数の領域からなる被印字物についても各領域を目標とする色で容易に染色することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】この発明の実施形態1に係る印字装置の構成を示すブロック図である。
【図2】(A)および(B)は、実施形態1において用いられた被印字物を示す図である。
【図3】実施形態1の変形例で用いられた凝集剤供給装置の構成を示す図である。
【図4】実施形態1の他の変形例に係る印字装置で印字された被印字物を示す図である。
【図5】実施形態2において用いられた被印字物を印字する様子を示す図である。
【図6】実施形態2の変形例で用いられた被印字物を印字する様子を示す図である。
【図7】実施形態2の他の変形例で用いられた被印字物を印字する様子を示す図である。
【図8】実施形態3に係る印字装置の構成を示すブロック図である。
【図9】(A)および(B)は、他の実施形態において用いられた凝集剤供給装置で被印字物に供給された液滴の様子を示す図である。
【図10】さらに他の実施形態で用いられたインクジェット装置の構成を示す図である。
【図11】実施形態6で用いられた印字部の構成を示すブロック図である。
【図12】実施形態4で用いられた被印字物を示す図である。
【図13】実施形態4に係る印字装置の構成を示すブロック図である。
【図14】実施形態5で用いられた被印字物を示す図である。
【図15】実施形態5に係る印字装置の構成を示すブロック図である。
【図16】実施形態5の変形例に係る印字装置の構成を示すブロック図である。
【図17】実施形態5の他の変形例に係る印字装置の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、添付の図面に示す好適な実施形態に基づいて、この発明を詳細に説明する。
【0019】
実施形態1
図1に、本発明の実施形態1に係る印字装置の構成を示す。印字装置は、被印字物Pの前処理を行う前処理部1と被印字物Pに印字を行う印字部2とを有する。
ここで、被印字物Pは、例えば、高い毛管力を有してインクが留まり易いポリエステル繊維質の地組織と、この地組織より低い毛管力を有して地組織よりもインクが留まり難いポリエステルからなるファスナースナップ(スナップ)とから構成されるものとする。なお、毛管力とは、被印字物Pの各領域におけるインクを留める能力を示すものとし、高い毛管力を有する領域は、相対的に低い毛管力を有する周辺の領域から毛管力によりインクを集めることができ、低い毛管力を有する領域は、相対的に毛管力の強い周辺の領域からの引力でインクを保持することができない。
【0020】
前処理部1は、被印字物Pに失活剤を供給する失活剤供給装置3と、被印字物Pに凝集剤を供給する凝集剤供給装置4とを有する。なお、失活剤とは凝集剤を失活させて凝集剤と被凝集体との凝集反応を生じさせないためのものであり、凝集剤と被凝集体とは互いに接触することで反応し凝集することで粘度が上昇する(ゲル化)ものである。
【0021】
失活剤供給装置3は、被印字物Pのスナップがない裏面側に配置され、例えばインクジェット法により被印字物Pの地組織に失活剤を供給する。
凝集剤供給装置4は、被印字物Pのスナップがある表面側に配置され、被印字物Pの表面側に凝集剤を供給する。
凝集剤供給装置4により供給される凝集剤は、スナップの表面においてそれぞれの液滴が十分前述の式(2)で示される毛管力長及びスナップ表面の曲率半径以下のサイズであるという関係を保つよう凝集剤の供給密度、サイズとなる供給条件が選ばれる。その結果凝集剤は供給位置に留まり、被印字物Pの地組織に移動しないようにすることが出来る。
【0022】
凝集剤は、例えば10μm以下の大きさに調整される。凝集剤供給装置4には、凝集剤を数μm〜数十μmほどのミスト状にして供給する超音波霧化器またはエアースプレー等が利用できる。あるいはインクジェットにより凝集剤が合一しないように間隔をあけて印字することも可能である。
【0023】
被印字物Pの移動方向に対して前処理部1の下流側には、印字部2が配置されている。印字部2には、被印字物Pの移動方向に向かって、印字ヘッド5および6と、加熱装置7と、還元洗浄装置8と、乾燥装置9が順次配置されている。
印字ヘッド5は、被印字物Pの裏面側に配置され、地組織に対してインクジェット法によりインクを打滴するものである。一方、印字ヘッド6は、被印字物Pの表面側に配置され、被凝集体を含むインクを被印字物Pに打滴するものである。本実施例ではポリエステル繊維等の染色のため染色色材に分散染料を用い被凝集体と共にインクジェット用インクとして調整されたものを使用する。印字ヘッド6からスナップに供給された被凝集体を含むインクは、被凝集体と凝集剤が凝集反応することでゲル化してスナップの表面に留められる。また、印字ヘッド6から地組織に供給された被凝集体を含むインクは、失活剤により予め凝集剤が失活されているため被凝集体と凝集剤が凝集反応せず、ゲル化することなく地組織に浸透される。このため地組織に印字されたインクは浸透により裏面まで到達するので表裏均一な印字が可能である。裏面へのインクの浸透を助けるため、色材を含まない分散液からなる浸透液を必要量印字することも可能である。
加熱装置7は、被印字物Pを加熱処理することで、地組織に浸透したインクと共にスナップにゲル状で留まるインク中の分散染料を気化(昇華)して被印字物Pを染色するものである。還元洗浄装置8は、染色された被印字物Pを洗浄するものである。乾燥装置9は、洗浄された被印字物Pを乾燥して仕上げるためのものである。
【0024】
次に、図1に示した印字装置の動作を説明する。
まず、図1に示されるように、被印字物Pが、図示しない移動装置により一定方向に移動される。被印字物Pには、例えば図2(A)および(B)に示されるような、高い毛管力を有する地組織10に低い毛管力を有するスナップ11を取り付けたものが用いられる。このように、被印字物Pは、地組織10とスナップ11が隣接して存在するため、そのままの状態でスナップ11にインクを打滴すると毛管力の差によりインクが地組織10に移動し、スナップ11を所定のインク量で染色させることが困難なものである。
被印字物Pが移動されて前処理部1に設置された失活剤供給装置3に到達すると、失活剤供給装置3は被印字物Pの裏面側から地組織10に対して失活剤を供給する。供給された失活剤は、地組織10の表面側まで浸透するが、毛管力の低いスナップ部には達しない。
【0025】
失活剤が供給された被印字物Pが失活剤供給装置3から凝集剤供給装置4に到達すると、被印字物Pの表面側から凝集剤供給装置4によりミスト状の凝集剤が供給される。この時、凝集剤供給装置63は凝集剤の大きさ及び量を調整して供給するため、スナップ11に供給された凝集剤はそれぞれの液滴が合一せず、毛管力の大きな地組織10に移動することなくスナップ11に留まることが出来る。
【0026】
続いて、被印字物Pは印字部2に移動し、印字ヘッド5および6からインクを打滴される。印字ヘッド5から打滴されたインクは、被印字物Pの裏面側から地組織10に供給されるとそのまま地組織10に浸透される。一方、印字ヘッド6から打滴された被凝集体を含むインクは、被印字物Pの表面側からスナップ11および地組織10に供給される。スナップ11に供給された被凝集体を含むインクは、被凝集体とスナップ11の表面上に存在する凝集剤との凝集反応によりゲル化する。このようにゲル状となることで、インクがスナップ11の表面に留められる。また、地組織10に供給された被凝集体を含むインクは、失活剤供給装置3から地組織10に供給された失活剤が被凝集体と凝集剤との凝集反応を未然に回避するため、地組織10にゲル化して留まらずにそのまま地組織に浸透される。
【0027】
このように、インクをゲル状にすることにより、スナップ11に供給された所定量のインクを地組織10に移動させることなく留めることができる。
【0028】
被印字物Pは、スナップ11にインクをゲル化して留めた状態で加熱装置7により加熱処理される。地組織10に供給されたインクは、加熱処理により気化されてインクの色素が地組織に染色される。また、スナップ11に供給されてゲル化されたインクも同様に、加熱処理により気化されてインクの色素がスナップ11に染色される。インクの色素が加熱定着された被印字物Pは還元洗浄装置8により洗浄されると共に乾燥装置9により乾燥されて、被印字物Pの染色が仕上げられる。
例えば、スナップ11がポリエステルからなる場合には、加熱装置7により180〜200℃で色素が被印字物Pに加熱定着された後、還元洗浄装置8により被印字物Pを加熱アルカリ水で洗浄し、乾燥装置9で被印字物Pを乾燥させて仕上げることができる。
【0029】
本実施形態の印字装置によれば、低い毛管力を有する領域に対し所定量のインクをゲル化して留めるだけで、低い毛管力を有する領域を備えた被印字物Pを目標とする色に容易に染色することができる。
【0030】
なお、凝集剤供給装置4は凝集剤を被印字物Pのスナップ11のみに供給してもよい。例えば、図3に示すように、凝集剤供給装置4はスナップ11の外周を覆ってスナップ11にのみミスト状の凝集剤を供給するためのカバー12を有する構成とすることができる。また、凝集剤供給装置4が凝集剤を供給する方向を調整してスナップ11のみに凝集剤を供給してもよい。また、印字ヘッド6は、被凝集体を含むインクを被印字物Pのスナップ11のみに供給する構成とすることもできる。これにより、被印字物Pの地組織10に失活剤を供給しなくてもスナップ11のみにゲル化したインクを留めることができる。
【0031】
また、被印字物Pの地組織10において被凝集体と凝集剤とを凝集反応させてゲル化したインクを留めても被印字物Pの染色に影響がなければ、失活剤供給装置3により被印字物Pの地組織10に失活剤を供給しなくてもよい。被印字物Pの表側から凝集剤と被凝集体を含むインクとが供給され、ゲル状となったインクが地組織10とスナップ11に留められる。その後、加熱装置7で加熱処理され、ゲル化したインクが気化して地組織10およびスナップ11のそれぞれにインクの色素が染色される。
また、印字ヘッド6から供給されたインクにより被印字物Pの地組織10を目標とする色に染色することができれば印字ヘッド5からインクを供給しなくてもよい。
【0032】
また、失活剤供給装置3は、被印字物Pの裏面側で且つ凝集剤供給装置4と印字ヘッド6の間に配置してもよい。失活剤は、被印字物Pに凝集剤が供給された後で地組織10に供給され、凝集剤を失活させる。
また、失活剤供給装置3は、供給した失活剤により地組織10に供給された凝集剤を失活させることができれば被印字物Pの表面側に配置することができる。
【0033】
本実施形態では地組織及びスナップ部全体に渡り均一な染色を実現する場合を説明した。そのため表裏均一に染色するため浸透現象を利用している。一方、図4に示すように、地組織部G及びスナップ部Sにわたり連続的なデザイン印字Dを行う場合、スナップ部Sに目標の着色を行うだけでなく、地組織Gに対してもインクのにじみ(浸透)を防止し印字位置にインクを留めることが求められる。この場合失活剤は使用せず、凝集剤を全面に供給することが有効である。地組織Gに印字されたインク滴も凝集剤と反応するため着弾後に凝集してゲル化するので、浸透によるにじみ無く着弾位置に留まる。
本発明により、スナップ部S、地組織Gからなる印字特性の異なる複合素材に連続的なデザイン印字Dが実現できる。
また、凝集剤を裏面にも供給することで印字ヘッド5による裏面印字時のインクの浸透を防止できるので表裏異なるデザイン印字を実現することも可能である。この場合、インク滴サイズを、織物の厚みに比べ十分小さくすることで、インクが浸透により裏面に到達する前に凝集させることが可能となる。
このように失活剤の供給の有無を制御することにより地組織のインクのにじみ、裏面への浸透を制御でき異なる発色を実現できる。
【0034】
実施形態2
実施形態1で使用される被印字物Pとして、異なる毛管力の領域を有する板状の樹脂材を用いてもよい。
例えば、図5に示すような、樹脂板に凹部21が形成された被印字物Pを用いることができる。樹脂板に凹部21が形成されると、これに隣接する凸部22との間で毛管力に差が生じ、凸部22に供給されたインクは隣接する凹部21に移動し易くなる。すなわち、被印字物Pは、高い毛管力を有する凹部21と低い毛管力を有する凸部22とからなる。また凹部21の内部を見ると底面の両サイドのエッジ部分は凹部中央部に比べ毛管力が大きくエッジ部分にインク滴は集まりやすい。まず、凝集剤供給装置4から被印字物Pに凝集剤が供給される。凝集剤は液滴サイズが、毛管力長より十分小さいサイズで提供するため超音波霧化器等が使用できる。その後、印字ヘッド6から被凝集体を含むインクが被印字物Pの凹部21とこれに隣接する凸部22とに供給される。凸部22では、凝集剤とインクに含まれる被凝集体とが凝集反応してゲル化する。このようにゲル状となることで、インクが凸部22に留められる。凹部21の中央部に印字されたインクも凝集反応により印字位置に留まり、エッジ部に移動することなく均一な印字が実現できる。被印字物Pは、加熱装置7により加熱処理され、被印字物Pの凹部21および凸部22に留まるインクが気化されてそれぞれ染色される。
【0035】
また、例えば、樹脂板に濡れ性の異なる領域を形成し、濡れ性の大きい領域が低い毛管力を有する被印字物Pを用いてもよい。このような被印字物Pとしては、図6に示すような、樹脂板の一部をマット化処理することで濡れ性を小さくし、高い毛管力を有するマット化領域23と低い毛管力を有する樹脂板の表面24からなるものを用いることができる。凝集剤供給装置4から被印字物Pに凝集剤が供給される。その後、印字ヘッド6から被凝集体を含むインクが被印字物Pのマット化領域23とこれに隣接する表面24に供給される。表面24では、凝集剤とインクに含まれる被凝集体とが凝集反応してゲル化する。このようにゲル状となることで、インクが表面24に留められる。被印字物Pは、加熱装置7により加熱処理され、被印字物Pのマット化領域23および表面22に留まるインクが気化されて色素でそれぞれ染色される。
【0036】
また、例えば、図7に示すような、広い平坦な表面25を有する樹脂材を被印字物Pに用いてもよい。広い表面25を有する樹脂材はインクが移動し易く、樹脂材の表面25の毛管力が少し異なるだけでインクが移動して一部分に集まってしまい、表面25全体を均一に染色することが困難である。このような、被印字物Pの表面25全体に凝集剤と被凝集体を含むインクとを供給してゲル化させる。続いて、インクをゲル化して留めた被印字物Pを加熱処理することで、被印字物Pの表面25全体を均一に染色することができる。
【0037】
本実施形態の印字装置によれば、互いに異なる毛管力を有する領域からなる樹脂材についてもインクをゲル化して留めるだけで目標とする色に容易に染色することができる。
【0038】
なお、印字ヘッド5および6から打滴されるインクは、加熱装置7で加熱処理して被印字物Pに昇華転写されるものを用いたがこれに限られない。
例えば、分散媒が蒸発することでインク中に含まれていた、ポリマー成分が皮膜を形成するインクを用いることが出来る。ポリマー成分としてアクリル系、ポリエステル系等の水性ポリマーが色材と共に分散しているインクを利用できる。また熱、光等のエネルギー照射などにより硬化して皮膜形成する成分を含むことで色材を被印字物Pに付着させるインクを用いることができる。皮膜形成する成分としてウレタンアクリレートやエポキシアクリレートを用いたインクを被印字物Pに供給後、加熱処理すると共に紫外線などのエネルギー照射によって皮膜形成成分にラジカル重合を起こさせて皮膜形成し、被印字物Pに色材を付着させることができる。また、皮膜形成成分としてエポキシ樹脂プレポリマーやウレタンプレポリマー等を用いたインクを被印字物Pに供給後、加熱処理すると共に皮膜形成成分を反応させて皮膜形成し、被印字物Pに色材を付着させることもできる。
また、加熱処理により皮膜化するナノ金属粒子を含むインクを用いることもできる。被印字物Pにインクを供給後、加熱処理することでインクに含まれるナノ金属粒子が被印字物Pに皮膜化され、その表面に金属層を形成することができる。
【0039】
実施形態3
図8に示すように、実施形態1で使用される被印字物Pとして、高い毛管力を有する地組織と低い毛管力を有する起毛組織からなる起毛織物を用いてもよい。失活剤供給装置3により被印字物Pの裏面側から失活剤が地組織に供給される。供給された失活剤は、地組織の表面側まで浸透する。次に、被印字物Pの表側から凝集剤供給装置4によりミスト状の凝集剤が供給される。この時、凝集剤供給装置4は凝集剤の大きさ及び量を調整して供給するため、起毛織物に供給された凝集剤はそれぞれの液滴が合一しないサイズ・間隔で供給される。
続いて、印字ヘッド5および6が被印字物Pにインクを打滴する。印字ヘッド5から打滴されたインクは、被印字物Pの裏面側から地組織に供給されるとそのまま地組織に浸透される。一方、印字ヘッド6から打滴された被凝集体を含むインクは、被印字物Pの表面側に供給される。被凝集体を含むインクが供給されると、被凝集体が起毛織物の表面上に存在する凝集剤と凝集反応することによりゲル化する。このようにゲル状となることで、インクが起毛織物の起毛部に留められる。なお、インクと凝集剤が起毛織物から地組織に移動した場合は、失活剤供給装置3から地組織に供給された失活剤が両者の凝集反応を未然に回避するため、地組織にインクがゲル化して留まることはない。
実施形態1で使用した分散染料を色材とした場合は、印字物Pは、実施形態1と同様に加熱装置7により加熱処理され、地組織に供給されたインクが気化されてインクの色素が地組織に染色されると共に起毛織物に供給されてゲル化されたインクが気化されてインクの色素が起毛織物に染色される。また、色材に分散染料の代わりに酸性染料を用い、被印字物としてナイロン、羊毛等を、あるいは反応染料を用い、被印字物として綿を染色することも出来る。この場合加熱処理に換えスチィーム処理が望ましい。
このような色材を用いて、起毛部の先端に近い側は、印字ヘッド6による表側から印字されたインクの色材により着色し、地組織に近い側は印字ヘッド5による裏側からの色材により着色することもできる。表裏の印字色材を制御することで起毛部の先端部と根元部の着色度合いを変えることが可能である。
【0040】
本実施形態の印字装置によれば、互いに異なる毛管力を有する領域からなる起毛織物についてもインクをゲル化して留めるだけで目標とする色に容易に染色することができる。
【0041】
実施形態4
実施形態1で使用される被印字物Pとして、ポリプロピレンのような樹脂繊維が平面状に多数ランダムに配置された不織布を用いてもよい。
一般的に、不織布には、図12に示すように、繊維の密度が高く配置された領域Aと、繊維の密度が低い領域Bが混在し、繊維密度の揺らぎが存在する。繊維密度の高い領域Aは、繊維密度の低い領域Bに比べ繊維の表面張力の影響を多く受けるため毛管力が高くなる。このような被印字物Pにインクジェット印字を行った場合、図12に示すように、繊維密度の低い領域Bに着弾したインク滴は繊維密度の高い領域Aに移動する。また、単独繊維の上に着弾した液滴は着弾位置に留まらずに近傍の繊維交差位置、すなわち単独繊維に比べ毛管力の高い位置に移動し濃度ムラとなりやすい。
【0042】
図13に実施形態4に係る印字装置の構成を示す。実施形態4に係る印字装置は、図1に示した実施形態1における印字装置において、凝集剤供給装置4に代えて被印字物Pの表面側に凝集剤供給装置4aを備えると共に、失活剤供給装置3、色材インク印字ヘッド6、加熱装置7および還元洗浄装置8が除かれている。まず、前処理部1の凝集剤供給装置4aから凝集剤が被印字物Pの繊維上に供給される。凝集剤としては、例えばカチオン高分子が用いられる。また、被印字物Pに供給される凝集剤が繊維に均一に供給されるように、毛管力長より小さく、さらに繊維の直径以下の滴にして供給するのが望ましく、例えば、超音波霧化器、エアースプレー装置等がこの目的で使用できる。
【0043】
続いて、被印字物Pは印字部2に移動され、印字ヘッド5から被印字物Pにインクが打滴される。インクとしては、例えばアニオン系界面活性剤を含む水系分散媒に顔料および水性ポリマーが分散しているものが用いられる。顔料および水性ポリマー粒子は、アニオン系界面活性剤によりマイナスに帯電した安定な状態で水系分散媒に分散されている。また、インク用水性ポリマーとしては、例えばポリオレフィン、ポリウレタン、アクリル、ポリエステル、等を含むポリマーが使用できる。
このようにして、被印字物Pの繊維密度の高い領域Aまたは繊維領域の低い領域Bに着弾したインク滴は、インク中の水性ポリマー粒子が被印字物Pの繊維上に存在するカチオン高分子と凝集反応してゲル化し、各領域内にそれぞれ留められる。また、被印字物Pの印字面に多くインクが留まるようにすることも出来る。
【0044】
印字後は、乾燥装置9により被印字物Pの繊維上に凝集されたインクを乾燥させることでインク中の水性ポリマーが皮膜化し、顔料を取り込んだ着色ポリマーの被膜が被印字物Pの繊維上に形成される。このように、被印字物Pの繊維上にインクを被膜化した場合には、その後に洗浄処理を施すことなく、乾燥装置9による乾燥処理のみで被印字物Pに印字画像を形成することができる。
なお、不織布の多くの素材であるポリプロピレンと水性ポリマーとの密着力を高めるために、凝集剤供給装置4aから凝集剤を供給する前に、被印字物Pをコロナ処理またはプラズマ処理等により活性化しておくことが望ましい。
【0045】
実施形態5
図14に示すように、被印字物Pとして、織物または編み物のような繊維束から構成され、表面から裏面にかけて高い毛管力を有する領域が貫通しているものを用いることもできる。例えば、直径10〜20μmのポリエステル繊維、ナイロン繊維、セルロース繊維等が複数本寄り集まった繊維束で糸を構成し、これら糸により構成された織物、あるいは編み物が被印字物Pとして用いられる。
【0046】
このような繊維束からなる糸は、繊維間の数〜数十ミクロンの間隙が強い毛管力を持つようになる。このため、被印字物に着弾したインク滴は、繊維束に沿って浸透・移動し、留まることなく裏面まで到達されるため、図14に示すように、所定の表面領域Fのみにインクジェット印字することは困難であった。
また、テキスタイル分野等で使用される織物や編み物においては、肌に近い内側(被印字物の裏面領域)と外部に面している外側(被印字物の表面領域)で異なる機能が求められることもある。例えば、内側は汗の水分を吸収し、さらにその水分と反応して熱を放出する機能等が求められるのに対し、外側は雨等を防ぐような防水機能、あるいは内部の水分がシミとして見えないような撥水機能等が求められる。このように被印字物の表面領域と裏面領域を異なる物性にするためには、それぞれの領域について、被印字物の帯電を防止するための帯電防止剤、繊維の水分吸着能を高める浸水化処理剤、あるいは繊維の撥水性を高めるため撥水剤等の処理剤を繊維束内部に十分浸透させて各領域に含まれる繊維に付着させる必要がある。
【0047】
図15に実施形態5に係る印字装置の構成を示す。実施形態5に係る印字装置は、図1に示した実施形態1における印字装置において、凝集剤供給装置4に代えて被印字物Pの表面側に凝集剤供給装置4aを備えると共に、失活剤供給装置3および色材インク印字ヘッド6が除かれている。
まず、前処理部1の凝集剤供給装置4aから凝集剤が被印字物Pの表面に供給される。続いて、被印字物Pは印字部2に移動され、色材インク印字ヘッド5から被凝集剤および被印字物Pの物性を変換するための処理剤を含むインクが被印字物Pの表面にインクジェット法で打滴される。なお、処理剤は、被印字物重量の10〜150%の量、望ましくは被印字物重量の数十%の量が供給されるように調整されている。また、処理剤には被印字物Pの物性を変換すると共に被凝集剤として機能するものもあり、被凝集剤の機能を備えた処理剤を用いる場合には処理剤のみを含むインクを打滴することができる。
印字ヘッド5から打滴されたインク滴は、被印字物Pに着弾後、印字面の表面領域Fの繊維束内に浸透し、インク内の被凝集剤が予め被印字物Pに供給された凝集剤と凝集反応してゲル化することで、処理剤を含むインクが裏面まで浸透することなく表面領域F内に留められる。なお、凝集剤または被凝集剤の濃度等を変えることで凝集反応の速度を制御し、被印字物Pの表面から適切な深さにまで処理剤を含むインクを浸透させることができる。このようにして、処理剤を含むインクの浸透を被印字物Pの位置および深さに関して制御することで、処理剤を含むインクを所定の表面領域Fに付着させることが可能となる。
続いて、被印字物Pは、加熱装置7による加熱処理、還元洗浄装置8による洗浄処理、および乾燥装置9による乾燥処理が施される。これにより、被印字物Pの表面領域Fが染色されると共に処理剤の作用により所望の機能を付与することができる。
【0048】
被印字物Pの繊維束に機能を付与するための処理剤には、例えば、帯電防止剤として、ポリビニルアルコール、水性ポリエステル、水性アクリル等の水性ポリマー水溶液に界面活性剤等を加えたものが使用でき、撥水剤として、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、ワックス等の撥水性粒子の水分散液が使用できる。撥水処理剤は、被印字物Pに付着後、乾燥・加熱処理で皮膜化し、さらに架橋剤等を含む場合は架橋反応により強固に繊維表面に付着し長期間にわたり撥水機能を発現することが出来る。撥水性粒子分散液自身が被凝集剤として機能しない場合、被凝集剤として水性ポリエステル、水性アクリル等を加え被凝集機能を付与することも出来る。
【0049】
なお、本実施形態において、被印字物Pの表面に向かって凝集剤供給装置4aから凝集剤を供給すると共に印字ヘッド5からインクを打適したが、これに限られず、被印字物Pの裏面側に凝集剤供給装置および印字ヘッドを備えることで被印字物Pの裏面に凝集剤を供給すると共に被凝集剤および処理剤を含むインクを打滴してもよい。同様にして、凝集剤または被凝集剤の濃度等を変えることで被印字物Pの裏面から表面に浸透するインクの浸透領域を制御し、被印字物Pの所定の裏面領域について、染色すると共に所望の機能を付与することができる。
また、被印字物Pの表面領域と裏面領域にそれぞれ異なる種類の処理剤および顔料等を含むインクを供給することもできる。例えば、図16に示すように、被印字物Pの表面側と裏面側にそれぞれ凝集剤供給装置4aおよび4bを備えると共に被印字物Pの表面側と裏面側にそれぞれ印字ヘッド5および6を備えることで、被印字物Pの表面および裏面にそれぞれ凝集剤を供給した後に、被印字物Pの表面および裏面にそれぞれ被凝集剤および処理剤を含むインクを打滴することができる。これにより、被印字物Pの表面領域と裏面領域がそれぞれ異なる色材で染色されると共にそれぞれ異なる機能を付与することができる。また、図17に示すように、被印字物Pの進行方向に対して、被印字物Pの表面側に凝集剤供給装置4aおよび印字ヘッド5を備え、その後方で且つ被印字物Pの裏面側に凝集剤供給装置4bおよび印字ヘッド6を備えることもできる。これにより、被印字物Pの表面に対して凝集剤の供給およびインクの打滴が行われた後に、被印字物Pの裏面に対して凝集剤の供給およびインクの打滴が行われる。なお、被印字物Pの進行方向に対して、被印字物Pの裏面側に凝集剤供給装置4bおよび印字ヘッド6を備え、その後方で且つ被印字物Pの表面側に凝集剤供給装置4aおよび印字ヘッド5を備える構成としてもよい。
【0050】
また、実施形態1〜5における凝集反応には、被凝集体が分散された分散液(被凝集体分散液)としてアニオン性界面活性剤を含む分散液を用いると共に凝集剤として酸を用いることで凝集反応を行うことができる。アニオン性界面活性剤は、中性あるいはアルカリ性に調整された状態で分散しているが、凝集剤として有機酸が加えられて酸性となるとその解離度が低くなって凝集する。これに伴い、凝集剤に含まれる水性ポリマーが凝集してゲル化される。なお、アニオン性界面活性剤としては脂肪酸ナトリウム、モノアルキル硫酸塩、アルキルポリオキシエチレン硫酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、モノアルキルリン酸塩などが利用でき、酸としては、マロン酸、クエン酸、酢酸等の有機酸、希塩酸などの無機酸が利用できる。また、失活剤としては有機酸による酸性化を抑制する炭酸ソーダ、炭酸水素ソーダ、または苛性ソーダなどのようなアルカリ剤が利用できる。
【0051】
また、凝集反応には、アニオン界面活性剤で分散安定化した被凝集体分散液と有機カチオン性高分子からなる凝集剤による反応、または、カチオン界面活性剤で分散安定化した被凝集体分散液と有機アニオン性高分子からなる凝集剤による反応が利用できる。例えば、アニオン界面活性剤は、マイナスに帯電して分散しているが、凝集剤として有機カチオン性高分子が加えられると電荷を中和し、凝集してゲル化される。
凝集剤としてのカチオンポリマーとして、アンモニアやアルキルアミン等のアミノ基(-NH2)を有する化合物及び窒素を更に多く有するアルギニンやグアニジンあるいはビグアニド誘導体等のグアニジノ基やビグアニド基を持つ化合物を用いることができる。また、側鎖あるいは主鎖にアミノ基あるいはイミノ基をもつ高分子としては、ポリエチレンイミン、ポリビニルアミン、ポリアリルアミン等の合成高分子及びポリオルニチン、ポリリジン等のポリアミノ酸を含む水性ポリマーが使用できる。
アクリルアミドとN,N−ジメチルアミノエチルメタクリレートまたはN,N−ジメチルアミノエチルアクリレートモノマーとを共重合したN,N−ジメチルアミノエチルアクリレート系共重合物や、ポリビニルアミジン系高分子、両性高分子などが利用できる。一方、被凝集体として用いられる安定化したアニオン界面活性剤は、ポリアクリルアミドの部分加水分解したものまたはアクリルアミドとアクリル酸ナトリウムとを共重合したものなどが利用できる。
【0052】
また、凝集反応には、特許0879782号に記載されたようなリグニンスルホン酸と無機被凝集体とで処理する方法、特許0946869号に記載されたようなアルカリ性物質の存在下でフェノール類とアルデヒド類との初期縮合物と無機被凝集体とを併用する方法、特許1125326号に記載されたようなフェノール性水酸基を有する有機物質と無機又は有機被凝集体とを併用する方法、特開昭57−019084号公報に記載されたようなタンニンおよびタンニン酸にて処理する方法、特開昭60−238193号公報に記載されたようなリグニンスルホン酸と無機被凝集体およびカチオン性高分子被凝集体とで処理する方法が利用できる。これに伴い、被凝集体に含まれる水溶性ポリマーが凝集してゲル化される。
また、凝集反応には凝析を利用してもよい。被凝集体分散液において電気的に同じ符号を帯びて互いに反発することで拡散する疎水コロイドまたは親水コロイドに対し、これらのコロイド粒子と反対の符号を帯びた中和剤(電解質またはアルコールなど)からなる凝集剤を加えることで電気的中性となり、コロイド粒子間の反発が消滅することで凝集する。これに伴い、コロイド粒子が凝集してゲル化される。なお、疎水コロイドおよび親水コロイドとしては、アルミニウム塩(硫酸アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム)や鉄塩(ポリ硫酸第二鉄、塩化第二鉄)が用いられる。また、前記被凝集体は、被凝集体分散液に分散させた疎水コロイドまたは親水コロイドを含むと共に凝集剤として疎水コロイドまたは親水コロイドの中和剤を用いることで凝集反応を行うこともできる。
【0053】
また、凝集反応には、架橋性ポリマー(モノマー、オリゴマー)を含む被凝集体分散液と架橋開始剤からなる凝集剤による架橋反応を利用してインクの粘度を上昇させてもよい。例えば、ポリビニルアルコール(PVA)樹脂溶液とホウ酸による架橋反応、末端に水酸基を持つポリオールと末端にイソシアネート基を持つウレタンプレポリマーとポリオールを混合することで化学反応を起こすウレタン樹脂系の反応、またはエポキシ樹脂プレポリマーにアミンなどの硬化剤による反応を起こすエポキシ樹脂系の反応等が利用できる。また、前記被凝集体は、被凝集体分散液に分散させた架橋性ポリマーを含むものを用いると共に凝集剤として架橋性ポリマーの架橋開始剤を用いることで凝集反応を行うこともできる。
【0054】
また、実施形態1〜5における凝集剤供給装置は、凝集剤を毛管力長及び被印字物の曲率半径以下のサイズで提供できるものが選択できる。超音波霧化器、エアースプレー等微細液滴を発生できる装置により着弾後の液滴が、図9(A)に示すように合一した液滴も含め着弾位置に留まるようなサイズになるよう調整して供給する。また、インクジェット法、グラビアローラ塗布等の方法で、図9(B)に示すように液滴サイズ及び位置を制御した供給法も採用できる。
また、実施形態1〜5における凝集剤供給装置および印字ヘッドの代わりに、凝集剤が着弾位置に保持されている間に被凝集体を含むインクの着弾が実現できるよう、凝集剤と被凝集体を含むインクとをほぼ同時に印字するインクジェット装置を用いることも出来る。図10に示すように、凝集剤と色材インクの印字ヘッドを近接して配置あるいは一体化して設けたインクジェット装置31を用いることで着弾位置・時間を一致させ、液滴の移動時間に比べ短時間でゲル化させることが出来る。凝集剤あるいは被凝集体を含むインクが着弾位置から高い毛管力の領域に移動することなく着弾位置に留まることが出来る。
【0055】
実施形態6
図11に示されるように、実施形態1〜5に係る印字装置で用いられた印字部は、入力データに基づいて被印字物Pの各領域を印字すると共に被印字物Pに印字した結果をフィードバックすることにより補正し目的の発色を実現するような構成にすることができる。
【0056】
本実施形態の印字部41は、供給条件演算部42と、印字特性データベース(DB)43と、制御部44と、印字駆動部45と、印字ヘッド46〜48とを有する。
供給条件演算部42には、互いに異なる発色特性を有する複数の領域(例えば、地組織の領域および起毛組織の領域)からなる被印字物Pの情報および被印字物Pに印字しようとする印字画像の再現目標色、の情報が入力データとしてオペレータにより入力される。被印字物Pの情報としては、被印字物の領域ごとに素材・厚み、被凝集体と凝集剤の有無、被凝集体と凝集剤の種類・量等の情報が含まれる。再現目標色の情報には、被印字物Pの各領域、各画素における再現目標色の色度、色のにじみ(空間周波数)、表裏均一度、などに関する情報が含まれる。
供給条件演算部42は、印字特性DB43と接続されている。供給条件演算部42は、被印字物Pの情報および再現目標色の情報に基づいて印字特性DB43を検索し、被印字物Pの領域ごとに再現目標色に最も近い発色を示す印字ヘッド46〜48のインク種、インク供給パラメータ、浸透液供給パラメータおよび前処理部条件(失活剤、凝集剤)、を抽出する。ここで、インクおよび浸透液の供給パラメータとしては、印字ヘッド46〜48に出力する電圧、周波数、波形などが含まれる。印字特性DB43には、領域ごとに各色のインクの印字量と発色処理完了後の発色特性の関係が含まれる。このとき被凝集体と凝集剤の付与の有無、あるいは被凝集体および凝集剤の量等に応じた発色特性(印字画像の空間周波数特性、表裏色の均一度)の関係が含まれる。
ここで、「浸透液」は、印字後のインクを適切に被印字物内に浸透させるための浸透を促進するための液でありインクを構成する分散媒であることが好ましい。「浸透液」の印字により少量印字時にもインクが被印字物の裏面にまで到達することが可能となる。
【0057】
供給条件演算部42は、制御部44と接続されている。制御部44は、供給条件演算部42で抽出された領域ごとに必要なインク種、インク供給パラメータおよび浸透液供給パラメータを示す電気信号を印字駆動部45に入力することで、被印字物Pへの印字を制御する。
制御部44は、印字駆動部45と接続されている。印字駆動部45は、制御部44から入力された電気信号に応じて印字ヘッド46〜48をそれぞれ駆動する。
印字駆動部45は、印字ヘッド46〜48と接続されている。印字ヘッド46〜48は、いわゆるインクジェット方式の印字ヘッドであり、4種類のインクY,M,C,Kまたは浸透液を打滴する。印字ヘッド46は被印字物Pの表側から、印字ヘッド47は被印字物Pの裏側からそれぞれインクを打滴するものである。一方、印字ヘッド48は、被印字物Pの表側から浸透液を打滴するものである。なお、印字ヘッド47は、被凝集体を含むインクを被印字物Pに打滴するものである。
【0058】
被印字物Pの移動方向に対し、印字ヘッド46〜48の下流側には、加熱装置49、還元洗浄装置50、および乾燥装置51が配置され、インク中の色材を被印字物Pに定着させる。
【0059】
また、被印字物Pの進行方向に対し、乾燥装置51の下流側には凸領域計測装置52および地組織計測装置53が配置され、凸領域計測装置52に凸領域印字結果計測値入力部54を地組織計測装置53に地組織印字結果計測値入力部55をそれぞれ接続すると共に、凸領域印字結果計測値入力部54および地組織印字結果計測値入力部55を供給条件演算部42に接続する。
凸領域計測装置52および地組織計測装置53は、被印字物Pの起毛部のような凸領域および地組織からそれぞれ光学特性を計測し、発色量を測定するためのものであり、積分球を有する分光測色器または分光測色器で校正した光学センサーなどから構成される。パターンを印字する場合には、インクのにじみに相当する空間周波数特性を計測する光学センサーが用意されていることが望ましい。凸領域印字結果計測値入力部54および地組織印字結果計測値入力部55は、凸領域計測装置52および地組織計測装置53において得られた計測値を供給条件演算部42に入力することで、被印字物Pの印字結果をフィードバックするものである。供給条件演算部42は、印字結果計測値入力部54から入力された計測値が再現目標色と同様の発色を実現するように補正した打滴すべきインクおよび浸透液の供給条件値を被印字物Pの各領域について求めるものである。
【0060】
次に、図11に示した印字部41の動作を説明する。
まず、供給条件演算部42が、オペレータにより入力された被印字物Pの情報および被印字物Pに印字しようとする印字画像の再現目標色の情報に基づき、印字特性DB43を検索する。供給条件演算部42は、印字特性DB43の被印字物領域種情報から被印字物Pにおける各領域(例えば地組織および凝集剤を付与された起毛組織の各領域)と同様の種類を示すものをそれぞれ検索する。
供給条件演算部42は、印字特性DB43のデータを用い、被印字物Pの各領域の発色情報が発色情報目標となるような、印字ヘッド46及び47の全インク種(YMCK×2=8種)、印字ヘッド48の浸透液についての供給パラメータ、および前処理部条件(失活剤、凝集剤)を求める。
なお、供給条件演算部42は、印字特性DB43のデータを用い、印字ヘッド46及び47の全インク種および印字ヘッド48の浸透液についての供給パラメータを与えたときの発色を予測し、発色情報を計算し、発色情報が発色情報目標になるような供給パラメータの組み合わせを最適化手法で求めることも出来る。具体的には下記式(3)および(4)を使用してK/Sを利用し、印字量と発色情報の関係を求め、シンプレックス法による線形計画法、逐次近似法、遺伝的方法等の最適化手法が使用できる。また、供給条件演算部42は、印字特性DB43の中の発色再現目標に近い供給パラメータの組み合わせを複数求めそれらの補間により最適な供給パラメータを求めることも出来る。
【0061】
K/S=(1−Rc)2/2Rc ・・・ (3)
(K/S)mix
=Jy(K/S)y+Jm(K/S)m+Jc(K/S)c+Jk(K/S)k ・・・ (4)
【0062】
なお、式(3)は各波長において、色材による吸収強度K、被印字物からの光散乱強度S、反射率Rcの関係を示す。また、式(4)において、(K/S)mixは複数の色材が印字され混合された領域のK/Sを示し、(K/S)y、(K/S)m、(K/S)c、(K/S)kはそれぞれ4色の色材が単位量付着したときのK/Sを示し、Jy、Jm、Jc、Jkはそれぞれ4色の色材の被印字物への付着量を示す。
【0063】
このようにして供給条件演算部42で抽出された被印字物Pの領域ごとのインク種、インク供給パラメータおよび浸透液供給パラメータは、制御部44に出力される。制御部44は、印字駆動部45にインクおよび浸透液の供給パラメータを出力すると、印字駆動部45は、これら供給パラメータに応じた駆動信号をインク種または浸透液に対応する印字ヘッド46〜48のヘッド部にそれぞれ出力し、被印字物Pの各領域にインクおよび浸透液を打滴する。
これにより、インクが高い毛管力を持つ地組織、低い毛管力を持つファスナーエレメント部、起毛部等の領域が複合している被印字物に対しても、それぞれの領域に対して再現目標色と同様に発色させることができると共に被印字物Pの厚み方向の均一度、空間周波数特性についても目標どおりの発色を実現できる。
【0064】
被印字物Pの移動に連動し、被印字物Pの領域ごとに抽出されたインクおよび浸透液の供給パラメータでインクおよび浸透液の打滴が全ての領域について繰り返し行われていく。印字された被印字物Pは、加熱装置49で加熱された後、還元洗浄装置50で還元洗浄され、乾燥装置51で乾燥される。乾燥された被印字物Pは凸領域計測装置52および地組織計測装置53により測色され、その計測値が凸領域印字結果計測値入力部54および地組織印字結果計測値入力部55を介して供給条件演算部42に入力される。
【0065】
入力された計測値が再現目標色の色度の許容範囲外の場合、供給条件演算部42は、凸領域印字結果計測値入力部54および地組織印字結果計測値入力部55から入力された計測値が再現目標色の色度に一致するように、印字ヘッド46〜48の各ヘッド部から打滴すべきインクおよび浸透液の供給パラメータをそれぞれ補正する。供給条件演算部42により補正されたインクおよび浸透液の供給パラメータは制御部44に出力され、制御部44がこれらの供給パラメータに基づいて印字駆動部45による印字ヘッド46〜48の各ヘッド部の駆動を制御し、被印字物Pに印字される。なお、1度の補正で再現目標色の色度の許容範囲内に入らない場合には、許容範囲内に入るまで上記の補正を繰り返すことが好ましい。
表裏均一度、空間周波数についても入力された計測値が目標値の許容レベル外の場合、前処理部の供給条件を補正し目標値に合わせることができる。
【0066】
このように、被印字物Pに印字した結果をフィードバックすることにより補正されたインクおよび浸透液の供給パラメータに基づき再び被印字物Pに印字するため、初期の計算精度が悪い場合、あるいはインク、被印字物P等の物性が経時あるいは環境で変化した場合であっても、発色量のズレあるいは変動を効果的に抑制することができる。
【0067】
なお、供給条件演算部42は、印字結果のフィードバックにより補正された供給パラメータを、補正の都度、印字特性DB43に蓄積する、あるいは、補正された供給パラメータにより印字特性DB43に既に格納されている供給パラメータを更新することによって、学習機能を持たせることもできる。このように印字を繰り返すごとに学習させることで印字特性DB43に格納されている情報の精度を高めていくことができる。
【符号の説明】
【0068】
1 前処理部、2,41 印字部、3 失活剤供給装置、4,4a,4b 凝集剤供給装置、5,6,46〜48 印字ヘッド、7,49 加熱装置、8,50 還元洗浄装置、9,51 乾燥装置、10 地組織、11 スナップ、12 カバー、21 凹部、22 凸部、23 マット化領域、24,25 表面、31 インクジェット装置、42 供給条件演算部、43 印字特性データベース、44 制御部、45 印字駆動部、52 凸領域計測装置、53 地組織計測装置、54 凸領域印字結果計測値入力部、55 地組織印字結果計測値入力部、P 被印字物、G 地組織、S スナップ部、D デザイン印字。
【技術分野】
【0001】
この発明は、印字方法および印字装置に係り、特に、互いに異なる毛管力を有する複数の領域からなる被印字物をインクジェット方式で印字を行う方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット方式は、簡便な機構で高速に印字できることから広く普及し、紙だけでなく、布、織物、平滑樹脂表面などの様々な被印字物に対する印字が試みられている。近年では、これら被印字物の形態や素材も多様化しており、また同じ被印字物の中に異なる被印字特性を持つ複合材料への印字も求められてきた。このような被印字物についてどの領域についても思い通りの染色をすることが求められている。
被印字物の思い通りの発色を実現させるためには、着弾したインク滴が着弾位置に留まり制御可能なことが求められる。
被印字物に印字されたインク滴の性質は表面張力に基づく毛管力、毛管力長で特徴付けられる。液滴が表面張力で留まるサイズの指標を与える毛管力長(2)に比べ十分小さい(たとえば1/10)サイズのインク滴であれば平滑面上の着弾位置に留まることが可能であるが、印字密度が高くなり、インク滴が合一し毛管力長同等のサイズになる場合には、重力等の影響が大となり予測できない液滴の移動が生ずる。着弾位置が凸平面の場合、面の曲率が大きくなるとさらに移動しやすくなり、液滴の半径が曲率半径以下であることが望ましい。
毛管力は式(1)で示すように、表面張力に基づく液滴に働く力であり、細孔、糸内部、凹部等はインク保持の物質間距離(インクが保持される領域を構成する壁物質の間の平均的距離)rが小さくなるため毛管力が大となる。また濡れ性がよく接触角が小さな領域も毛管力が大となる。
p=aγcosθ/r ・・・(1)
なお、pは単位面積あたりの毛管力(圧力)、aは比例定数、γはインク液体の表面張力、θはインクと対象物質の間の濡れ性を示す接触角、rはインクを保持する物質間の距離である。
毛管力長は以下の式で表される。通常数1mm程度である。
1/κ=(γ/ρ・g)1/2 ・・・(2)
なお、1/κは毛管力長、γは表面張力、ρは比重、gは重力加速度を示す。
毛管力長より十分小さい液滴は、重力等外力の影響を受けることなく表面張力で着弾位置に留まることが出来る。液滴が合一し毛管力長同等あるいはそれ以上のサイズになると不安定になり予測不能な移動が始まる。特に近傍に地組織が存在する場合、地組織に対して低い毛管力しか働かないため着弾したインク滴は、高い毛管力を持つ地組織に移動してしまう。
織物からなる被印字物としては、例えば、織物の地組織にポリエステルからなるファスナー、ボタンを取り付けた織物、または、地組織の表面を毛羽立てた起毛織物などが存在する、ファスナーのスナップ、ボタン、起毛部分は打滴されたインク滴にとって平滑な凸形状をしており、インク滴は留まりにくい。また、平面形状の樹脂としては、例えば、プラスティックカード、樹脂成型品等がある。平面形状の樹脂板に凹凸が形成されたもの、または、樹脂板の一部にマット処理、親水処理を施したものなどが存在する。平面形状の樹脂が部分的に異なる毛管力を持つことになる。具体的には、樹脂板に形成された凹部やマット処理領域は高い毛管力を有する。
これらの被印字物の場合、低い毛管力によりインクが留まり難い領域(織物のスナップや起毛部分、樹脂板の表面)への印字が求められかつ、高い毛管力によりインクが留まり易い領域(織物の地組織、樹脂板の凹部やマット処理領域)が隣接して配置されている。このため、低い毛管力を有する領域に打滴したインクは高い毛管力を有する領域に移動し易く、所定のインク量を低い毛管力の領域に留めて目標とする色に染色することは困難であった。
【0003】
そこで、例えば、特許文献1には、起毛織物において一様に染色し難い起毛部分の根元と先端でノズル口径を変えて異色に着色することで、その全体を目標とする色に染色することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平3−69631号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ノズル口径の変更やインクの調整などに多大な労力を要する。
【0006】
この発明は、このような従来の問題点を解消するためになされたもので、互いに異なる毛管力を有する複数の領域からなる被印字物全体にわたり目標とするインク着弾を実現し染色・着色の場合には目標の発色を容易に実現することができる印字方法および印字装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明に係る印字方法は、低い毛管力によりインクが留まり難い領域を含む被印字物にインクジェット法により印字を行う印字方法であって凝集によりゲル化(コロイド粒子、水性分散ポリマー、水溶性ポリマー、界面活性剤、モノマー等の被凝集体が構造化し粘度があがること)する被凝集体の凝集反応を促進させる凝集剤を被印字物の少なくとも低い毛管力を有する領域に供給し、インクジェット法で前記被凝集体を含むインクを被印字物の少なくとも低い毛管力を有する領域に向けて打滴し、前記被凝集体と前記凝集剤との凝集反応によりゲル化したインクを被印字物に定着させるものである。
【0008】
ここで、前記凝集剤は、被印字物の低い毛管力を有する領域に供給されたそれぞれの液滴が合一して供給位置から移動しないように、大きさ及び量を調整して毛管力長に比べ十分小さいサイズで供給されることが好ましい。また、前記凝集剤は液滴が合一しないような間隔で規則的に印字する、あるいはエアースプレー、霧化器等を使用し、毛管力長に比べ十分小さなサイズの液滴を生成し供給することができる。
また、前記被凝集体を含むインクは、被印字物の低い毛管力を有する領域に供給された前記凝集剤が被印字物の高い毛管力を有する領域に移動しないうちにゲル化するように供給することができる。
【0009】
また、前記凝集剤を供給する前に、前記凝集剤と前記被凝集体との凝集反応を失活させる失活剤を被印字物の高い毛管力を有する領域に供給することが可能である。
また、前記凝集剤は、被印字物の低い毛管力を有する領域にのみ供給することができる。
【0010】
また、前記被凝集体は、酢酸ビニル系、アクリル系、ポリエステル系あるいはウレタン系等の水性ポリマー分散液、PVAあるいはアルギンサン等の水性ポリマー溶液、あるいは界面活性剤により微粒子を分散させたものを含むことが好ましい。
また、前記被凝集体分散液としてアニオン性界面活性剤を含む分散液を用いると共に前記凝集剤として有機酸を用いることで凝集反応を行うことができる。また、前記被凝集体分散液として有機カチオン性高分子を含む分散液を用いると共に前記凝集剤としてアニオン界面活性剤を用いて、または、前記被凝集体分散液として有機アニオン性高分子を含む分散液を用いると共に前記凝集剤としてカチオン界面活性剤を用いて凝集反応を行ってもよい。また、前記被凝集体分散液として疎水コロイドまたは親水コロイドを分散させたものを用いると共に前記凝集剤として前記疎水コロイドまたは前記親水コロイドの中和剤を用いることで凝集反応を行ってもよい。また、前記被凝集体分散液として架橋性ポリマーを含むものを用いると共に前記凝集剤として前記架橋性ポリマーの架橋開始剤を用いることで凝集反応を行ってもよい。
【0011】
また、被印字物において低い毛管力を有する領域は、繊維織物基材から起毛された起毛組織からなることができる。また、被印字物において低い毛管力を有する領域は、繊維織物基材に取り付けられた、毛管力長サイズ以上のポリエステル等の樹脂からなる構造物からなることもできる。また、被印字物は不織布からなり、高い毛管力を有する領域は繊維の密度の高い領域からなることもできる。また、樹脂材からなる被印字物において凹部が形成され、前記凹部が高い毛管力を有する領域となると共に前記凹部に隣接する被印字物の表面が低い毛管力を有する領域となることもできる。また、樹脂材からなる被印字物において濡れ性の異なる領域が形成され、濡れ性の大きい領域が低い毛管力を有する領域となることもできる。
【0012】
また、本発明に係る印字装置は、低い毛管力によりインクが留まり難い領域を含む被印字物にインクジェット法により印字を行う印字装置であって、凝集によりゲル化する被凝集体の凝集反応を促進させる凝集剤を被印字物の少なくとも低い毛管力を有する領域に供給する凝集剤供給装置と、インクジェット法で前記被凝集体を含むインクを被印字物の少なくとも低い毛管力を有する領域に向けて打滴するインク供給装置と、前記被凝集体と前記凝集剤との凝集反応によりゲル化した前記インクを被印字物に定着させる定着装置とを有するものである。
【0013】
ここで、前記印字装置は、前記凝集剤供給装置により前記凝集剤を供給する前に、前記凝集剤と前記被凝集体との凝集反応を失活させる失活剤を被印字物の高い毛管力を有する領域に供給する失活剤供給装置をさらに有することが可能である。失活剤としては凝集反応が起こりにくいPh領域にシフトさせる、酸、アルカリ等が使用できる。たとえば凝集剤として有機酸を用い酸性領域で凝集を起こさせるアニオン性活性剤を主成分とする被凝集体分散液の場合、アルカリ剤が失活剤として使用できる。
また、前記凝集剤供給装置は、被印字物の低い毛管力を有する領域にのみ前記凝集剤を供給することが可能である。
【0014】
また、本発明に係る印字方法は、表面から裏面にかけて高い毛管力によりインクが浸透し易い領域が延びる被印字物にインクジェット法により印字を行う印字方法であって、凝集によりゲル化する被凝集体の凝集反応を促進させる凝集剤を被印字物の表面領域および裏面領域のうち少なくとも一方の所定の領域に供給し、インクジェット法で被凝集体を含むインクを被印字物の前記所定の領域に向けて打滴し、前記被凝集体と前記凝集剤との凝集反応によりゲル化したインクを被印字物の前記所定の領域に定着させるものである。
【0015】
ここで、凝集剤の供給が被印字物の表面領域および裏面領域に対してそれぞれ行われた後に、被凝集体を含むインクの打滴が被印字物の表面領域および裏面領域に対してそれぞれ行うことができる。また、被印字物の表面領域および裏面領域のうち一方の領域に対して凝集剤の供給および被凝集体を含むインクの打滴が行われた後に、被印字物の他方の領域に対して凝集剤の供給および被凝集体を含むインクの打滴が行うこともできる。
また、インクジェット法で被印字物に打滴される被凝集体を含むインクは、さらに被印字物の物性を変換する処理剤を含み、異なる種類の前記処理剤が被印字物の表面領域および裏面領域にそれぞれ供給されることにより、被印字物の表面領域および裏面領域を異なる物性に変換することが好ましい。また、前記処理剤としては、撥水剤を用いることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、毛管力の低い領域を含む被印字物、互いに異なる毛管力を有する複数の領域からなる被印字物についても各領域を目標とする色で容易に染色することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】この発明の実施形態1に係る印字装置の構成を示すブロック図である。
【図2】(A)および(B)は、実施形態1において用いられた被印字物を示す図である。
【図3】実施形態1の変形例で用いられた凝集剤供給装置の構成を示す図である。
【図4】実施形態1の他の変形例に係る印字装置で印字された被印字物を示す図である。
【図5】実施形態2において用いられた被印字物を印字する様子を示す図である。
【図6】実施形態2の変形例で用いられた被印字物を印字する様子を示す図である。
【図7】実施形態2の他の変形例で用いられた被印字物を印字する様子を示す図である。
【図8】実施形態3に係る印字装置の構成を示すブロック図である。
【図9】(A)および(B)は、他の実施形態において用いられた凝集剤供給装置で被印字物に供給された液滴の様子を示す図である。
【図10】さらに他の実施形態で用いられたインクジェット装置の構成を示す図である。
【図11】実施形態6で用いられた印字部の構成を示すブロック図である。
【図12】実施形態4で用いられた被印字物を示す図である。
【図13】実施形態4に係る印字装置の構成を示すブロック図である。
【図14】実施形態5で用いられた被印字物を示す図である。
【図15】実施形態5に係る印字装置の構成を示すブロック図である。
【図16】実施形態5の変形例に係る印字装置の構成を示すブロック図である。
【図17】実施形態5の他の変形例に係る印字装置の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、添付の図面に示す好適な実施形態に基づいて、この発明を詳細に説明する。
【0019】
実施形態1
図1に、本発明の実施形態1に係る印字装置の構成を示す。印字装置は、被印字物Pの前処理を行う前処理部1と被印字物Pに印字を行う印字部2とを有する。
ここで、被印字物Pは、例えば、高い毛管力を有してインクが留まり易いポリエステル繊維質の地組織と、この地組織より低い毛管力を有して地組織よりもインクが留まり難いポリエステルからなるファスナースナップ(スナップ)とから構成されるものとする。なお、毛管力とは、被印字物Pの各領域におけるインクを留める能力を示すものとし、高い毛管力を有する領域は、相対的に低い毛管力を有する周辺の領域から毛管力によりインクを集めることができ、低い毛管力を有する領域は、相対的に毛管力の強い周辺の領域からの引力でインクを保持することができない。
【0020】
前処理部1は、被印字物Pに失活剤を供給する失活剤供給装置3と、被印字物Pに凝集剤を供給する凝集剤供給装置4とを有する。なお、失活剤とは凝集剤を失活させて凝集剤と被凝集体との凝集反応を生じさせないためのものであり、凝集剤と被凝集体とは互いに接触することで反応し凝集することで粘度が上昇する(ゲル化)ものである。
【0021】
失活剤供給装置3は、被印字物Pのスナップがない裏面側に配置され、例えばインクジェット法により被印字物Pの地組織に失活剤を供給する。
凝集剤供給装置4は、被印字物Pのスナップがある表面側に配置され、被印字物Pの表面側に凝集剤を供給する。
凝集剤供給装置4により供給される凝集剤は、スナップの表面においてそれぞれの液滴が十分前述の式(2)で示される毛管力長及びスナップ表面の曲率半径以下のサイズであるという関係を保つよう凝集剤の供給密度、サイズとなる供給条件が選ばれる。その結果凝集剤は供給位置に留まり、被印字物Pの地組織に移動しないようにすることが出来る。
【0022】
凝集剤は、例えば10μm以下の大きさに調整される。凝集剤供給装置4には、凝集剤を数μm〜数十μmほどのミスト状にして供給する超音波霧化器またはエアースプレー等が利用できる。あるいはインクジェットにより凝集剤が合一しないように間隔をあけて印字することも可能である。
【0023】
被印字物Pの移動方向に対して前処理部1の下流側には、印字部2が配置されている。印字部2には、被印字物Pの移動方向に向かって、印字ヘッド5および6と、加熱装置7と、還元洗浄装置8と、乾燥装置9が順次配置されている。
印字ヘッド5は、被印字物Pの裏面側に配置され、地組織に対してインクジェット法によりインクを打滴するものである。一方、印字ヘッド6は、被印字物Pの表面側に配置され、被凝集体を含むインクを被印字物Pに打滴するものである。本実施例ではポリエステル繊維等の染色のため染色色材に分散染料を用い被凝集体と共にインクジェット用インクとして調整されたものを使用する。印字ヘッド6からスナップに供給された被凝集体を含むインクは、被凝集体と凝集剤が凝集反応することでゲル化してスナップの表面に留められる。また、印字ヘッド6から地組織に供給された被凝集体を含むインクは、失活剤により予め凝集剤が失活されているため被凝集体と凝集剤が凝集反応せず、ゲル化することなく地組織に浸透される。このため地組織に印字されたインクは浸透により裏面まで到達するので表裏均一な印字が可能である。裏面へのインクの浸透を助けるため、色材を含まない分散液からなる浸透液を必要量印字することも可能である。
加熱装置7は、被印字物Pを加熱処理することで、地組織に浸透したインクと共にスナップにゲル状で留まるインク中の分散染料を気化(昇華)して被印字物Pを染色するものである。還元洗浄装置8は、染色された被印字物Pを洗浄するものである。乾燥装置9は、洗浄された被印字物Pを乾燥して仕上げるためのものである。
【0024】
次に、図1に示した印字装置の動作を説明する。
まず、図1に示されるように、被印字物Pが、図示しない移動装置により一定方向に移動される。被印字物Pには、例えば図2(A)および(B)に示されるような、高い毛管力を有する地組織10に低い毛管力を有するスナップ11を取り付けたものが用いられる。このように、被印字物Pは、地組織10とスナップ11が隣接して存在するため、そのままの状態でスナップ11にインクを打滴すると毛管力の差によりインクが地組織10に移動し、スナップ11を所定のインク量で染色させることが困難なものである。
被印字物Pが移動されて前処理部1に設置された失活剤供給装置3に到達すると、失活剤供給装置3は被印字物Pの裏面側から地組織10に対して失活剤を供給する。供給された失活剤は、地組織10の表面側まで浸透するが、毛管力の低いスナップ部には達しない。
【0025】
失活剤が供給された被印字物Pが失活剤供給装置3から凝集剤供給装置4に到達すると、被印字物Pの表面側から凝集剤供給装置4によりミスト状の凝集剤が供給される。この時、凝集剤供給装置63は凝集剤の大きさ及び量を調整して供給するため、スナップ11に供給された凝集剤はそれぞれの液滴が合一せず、毛管力の大きな地組織10に移動することなくスナップ11に留まることが出来る。
【0026】
続いて、被印字物Pは印字部2に移動し、印字ヘッド5および6からインクを打滴される。印字ヘッド5から打滴されたインクは、被印字物Pの裏面側から地組織10に供給されるとそのまま地組織10に浸透される。一方、印字ヘッド6から打滴された被凝集体を含むインクは、被印字物Pの表面側からスナップ11および地組織10に供給される。スナップ11に供給された被凝集体を含むインクは、被凝集体とスナップ11の表面上に存在する凝集剤との凝集反応によりゲル化する。このようにゲル状となることで、インクがスナップ11の表面に留められる。また、地組織10に供給された被凝集体を含むインクは、失活剤供給装置3から地組織10に供給された失活剤が被凝集体と凝集剤との凝集反応を未然に回避するため、地組織10にゲル化して留まらずにそのまま地組織に浸透される。
【0027】
このように、インクをゲル状にすることにより、スナップ11に供給された所定量のインクを地組織10に移動させることなく留めることができる。
【0028】
被印字物Pは、スナップ11にインクをゲル化して留めた状態で加熱装置7により加熱処理される。地組織10に供給されたインクは、加熱処理により気化されてインクの色素が地組織に染色される。また、スナップ11に供給されてゲル化されたインクも同様に、加熱処理により気化されてインクの色素がスナップ11に染色される。インクの色素が加熱定着された被印字物Pは還元洗浄装置8により洗浄されると共に乾燥装置9により乾燥されて、被印字物Pの染色が仕上げられる。
例えば、スナップ11がポリエステルからなる場合には、加熱装置7により180〜200℃で色素が被印字物Pに加熱定着された後、還元洗浄装置8により被印字物Pを加熱アルカリ水で洗浄し、乾燥装置9で被印字物Pを乾燥させて仕上げることができる。
【0029】
本実施形態の印字装置によれば、低い毛管力を有する領域に対し所定量のインクをゲル化して留めるだけで、低い毛管力を有する領域を備えた被印字物Pを目標とする色に容易に染色することができる。
【0030】
なお、凝集剤供給装置4は凝集剤を被印字物Pのスナップ11のみに供給してもよい。例えば、図3に示すように、凝集剤供給装置4はスナップ11の外周を覆ってスナップ11にのみミスト状の凝集剤を供給するためのカバー12を有する構成とすることができる。また、凝集剤供給装置4が凝集剤を供給する方向を調整してスナップ11のみに凝集剤を供給してもよい。また、印字ヘッド6は、被凝集体を含むインクを被印字物Pのスナップ11のみに供給する構成とすることもできる。これにより、被印字物Pの地組織10に失活剤を供給しなくてもスナップ11のみにゲル化したインクを留めることができる。
【0031】
また、被印字物Pの地組織10において被凝集体と凝集剤とを凝集反応させてゲル化したインクを留めても被印字物Pの染色に影響がなければ、失活剤供給装置3により被印字物Pの地組織10に失活剤を供給しなくてもよい。被印字物Pの表側から凝集剤と被凝集体を含むインクとが供給され、ゲル状となったインクが地組織10とスナップ11に留められる。その後、加熱装置7で加熱処理され、ゲル化したインクが気化して地組織10およびスナップ11のそれぞれにインクの色素が染色される。
また、印字ヘッド6から供給されたインクにより被印字物Pの地組織10を目標とする色に染色することができれば印字ヘッド5からインクを供給しなくてもよい。
【0032】
また、失活剤供給装置3は、被印字物Pの裏面側で且つ凝集剤供給装置4と印字ヘッド6の間に配置してもよい。失活剤は、被印字物Pに凝集剤が供給された後で地組織10に供給され、凝集剤を失活させる。
また、失活剤供給装置3は、供給した失活剤により地組織10に供給された凝集剤を失活させることができれば被印字物Pの表面側に配置することができる。
【0033】
本実施形態では地組織及びスナップ部全体に渡り均一な染色を実現する場合を説明した。そのため表裏均一に染色するため浸透現象を利用している。一方、図4に示すように、地組織部G及びスナップ部Sにわたり連続的なデザイン印字Dを行う場合、スナップ部Sに目標の着色を行うだけでなく、地組織Gに対してもインクのにじみ(浸透)を防止し印字位置にインクを留めることが求められる。この場合失活剤は使用せず、凝集剤を全面に供給することが有効である。地組織Gに印字されたインク滴も凝集剤と反応するため着弾後に凝集してゲル化するので、浸透によるにじみ無く着弾位置に留まる。
本発明により、スナップ部S、地組織Gからなる印字特性の異なる複合素材に連続的なデザイン印字Dが実現できる。
また、凝集剤を裏面にも供給することで印字ヘッド5による裏面印字時のインクの浸透を防止できるので表裏異なるデザイン印字を実現することも可能である。この場合、インク滴サイズを、織物の厚みに比べ十分小さくすることで、インクが浸透により裏面に到達する前に凝集させることが可能となる。
このように失活剤の供給の有無を制御することにより地組織のインクのにじみ、裏面への浸透を制御でき異なる発色を実現できる。
【0034】
実施形態2
実施形態1で使用される被印字物Pとして、異なる毛管力の領域を有する板状の樹脂材を用いてもよい。
例えば、図5に示すような、樹脂板に凹部21が形成された被印字物Pを用いることができる。樹脂板に凹部21が形成されると、これに隣接する凸部22との間で毛管力に差が生じ、凸部22に供給されたインクは隣接する凹部21に移動し易くなる。すなわち、被印字物Pは、高い毛管力を有する凹部21と低い毛管力を有する凸部22とからなる。また凹部21の内部を見ると底面の両サイドのエッジ部分は凹部中央部に比べ毛管力が大きくエッジ部分にインク滴は集まりやすい。まず、凝集剤供給装置4から被印字物Pに凝集剤が供給される。凝集剤は液滴サイズが、毛管力長より十分小さいサイズで提供するため超音波霧化器等が使用できる。その後、印字ヘッド6から被凝集体を含むインクが被印字物Pの凹部21とこれに隣接する凸部22とに供給される。凸部22では、凝集剤とインクに含まれる被凝集体とが凝集反応してゲル化する。このようにゲル状となることで、インクが凸部22に留められる。凹部21の中央部に印字されたインクも凝集反応により印字位置に留まり、エッジ部に移動することなく均一な印字が実現できる。被印字物Pは、加熱装置7により加熱処理され、被印字物Pの凹部21および凸部22に留まるインクが気化されてそれぞれ染色される。
【0035】
また、例えば、樹脂板に濡れ性の異なる領域を形成し、濡れ性の大きい領域が低い毛管力を有する被印字物Pを用いてもよい。このような被印字物Pとしては、図6に示すような、樹脂板の一部をマット化処理することで濡れ性を小さくし、高い毛管力を有するマット化領域23と低い毛管力を有する樹脂板の表面24からなるものを用いることができる。凝集剤供給装置4から被印字物Pに凝集剤が供給される。その後、印字ヘッド6から被凝集体を含むインクが被印字物Pのマット化領域23とこれに隣接する表面24に供給される。表面24では、凝集剤とインクに含まれる被凝集体とが凝集反応してゲル化する。このようにゲル状となることで、インクが表面24に留められる。被印字物Pは、加熱装置7により加熱処理され、被印字物Pのマット化領域23および表面22に留まるインクが気化されて色素でそれぞれ染色される。
【0036】
また、例えば、図7に示すような、広い平坦な表面25を有する樹脂材を被印字物Pに用いてもよい。広い表面25を有する樹脂材はインクが移動し易く、樹脂材の表面25の毛管力が少し異なるだけでインクが移動して一部分に集まってしまい、表面25全体を均一に染色することが困難である。このような、被印字物Pの表面25全体に凝集剤と被凝集体を含むインクとを供給してゲル化させる。続いて、インクをゲル化して留めた被印字物Pを加熱処理することで、被印字物Pの表面25全体を均一に染色することができる。
【0037】
本実施形態の印字装置によれば、互いに異なる毛管力を有する領域からなる樹脂材についてもインクをゲル化して留めるだけで目標とする色に容易に染色することができる。
【0038】
なお、印字ヘッド5および6から打滴されるインクは、加熱装置7で加熱処理して被印字物Pに昇華転写されるものを用いたがこれに限られない。
例えば、分散媒が蒸発することでインク中に含まれていた、ポリマー成分が皮膜を形成するインクを用いることが出来る。ポリマー成分としてアクリル系、ポリエステル系等の水性ポリマーが色材と共に分散しているインクを利用できる。また熱、光等のエネルギー照射などにより硬化して皮膜形成する成分を含むことで色材を被印字物Pに付着させるインクを用いることができる。皮膜形成する成分としてウレタンアクリレートやエポキシアクリレートを用いたインクを被印字物Pに供給後、加熱処理すると共に紫外線などのエネルギー照射によって皮膜形成成分にラジカル重合を起こさせて皮膜形成し、被印字物Pに色材を付着させることができる。また、皮膜形成成分としてエポキシ樹脂プレポリマーやウレタンプレポリマー等を用いたインクを被印字物Pに供給後、加熱処理すると共に皮膜形成成分を反応させて皮膜形成し、被印字物Pに色材を付着させることもできる。
また、加熱処理により皮膜化するナノ金属粒子を含むインクを用いることもできる。被印字物Pにインクを供給後、加熱処理することでインクに含まれるナノ金属粒子が被印字物Pに皮膜化され、その表面に金属層を形成することができる。
【0039】
実施形態3
図8に示すように、実施形態1で使用される被印字物Pとして、高い毛管力を有する地組織と低い毛管力を有する起毛組織からなる起毛織物を用いてもよい。失活剤供給装置3により被印字物Pの裏面側から失活剤が地組織に供給される。供給された失活剤は、地組織の表面側まで浸透する。次に、被印字物Pの表側から凝集剤供給装置4によりミスト状の凝集剤が供給される。この時、凝集剤供給装置4は凝集剤の大きさ及び量を調整して供給するため、起毛織物に供給された凝集剤はそれぞれの液滴が合一しないサイズ・間隔で供給される。
続いて、印字ヘッド5および6が被印字物Pにインクを打滴する。印字ヘッド5から打滴されたインクは、被印字物Pの裏面側から地組織に供給されるとそのまま地組織に浸透される。一方、印字ヘッド6から打滴された被凝集体を含むインクは、被印字物Pの表面側に供給される。被凝集体を含むインクが供給されると、被凝集体が起毛織物の表面上に存在する凝集剤と凝集反応することによりゲル化する。このようにゲル状となることで、インクが起毛織物の起毛部に留められる。なお、インクと凝集剤が起毛織物から地組織に移動した場合は、失活剤供給装置3から地組織に供給された失活剤が両者の凝集反応を未然に回避するため、地組織にインクがゲル化して留まることはない。
実施形態1で使用した分散染料を色材とした場合は、印字物Pは、実施形態1と同様に加熱装置7により加熱処理され、地組織に供給されたインクが気化されてインクの色素が地組織に染色されると共に起毛織物に供給されてゲル化されたインクが気化されてインクの色素が起毛織物に染色される。また、色材に分散染料の代わりに酸性染料を用い、被印字物としてナイロン、羊毛等を、あるいは反応染料を用い、被印字物として綿を染色することも出来る。この場合加熱処理に換えスチィーム処理が望ましい。
このような色材を用いて、起毛部の先端に近い側は、印字ヘッド6による表側から印字されたインクの色材により着色し、地組織に近い側は印字ヘッド5による裏側からの色材により着色することもできる。表裏の印字色材を制御することで起毛部の先端部と根元部の着色度合いを変えることが可能である。
【0040】
本実施形態の印字装置によれば、互いに異なる毛管力を有する領域からなる起毛織物についてもインクをゲル化して留めるだけで目標とする色に容易に染色することができる。
【0041】
実施形態4
実施形態1で使用される被印字物Pとして、ポリプロピレンのような樹脂繊維が平面状に多数ランダムに配置された不織布を用いてもよい。
一般的に、不織布には、図12に示すように、繊維の密度が高く配置された領域Aと、繊維の密度が低い領域Bが混在し、繊維密度の揺らぎが存在する。繊維密度の高い領域Aは、繊維密度の低い領域Bに比べ繊維の表面張力の影響を多く受けるため毛管力が高くなる。このような被印字物Pにインクジェット印字を行った場合、図12に示すように、繊維密度の低い領域Bに着弾したインク滴は繊維密度の高い領域Aに移動する。また、単独繊維の上に着弾した液滴は着弾位置に留まらずに近傍の繊維交差位置、すなわち単独繊維に比べ毛管力の高い位置に移動し濃度ムラとなりやすい。
【0042】
図13に実施形態4に係る印字装置の構成を示す。実施形態4に係る印字装置は、図1に示した実施形態1における印字装置において、凝集剤供給装置4に代えて被印字物Pの表面側に凝集剤供給装置4aを備えると共に、失活剤供給装置3、色材インク印字ヘッド6、加熱装置7および還元洗浄装置8が除かれている。まず、前処理部1の凝集剤供給装置4aから凝集剤が被印字物Pの繊維上に供給される。凝集剤としては、例えばカチオン高分子が用いられる。また、被印字物Pに供給される凝集剤が繊維に均一に供給されるように、毛管力長より小さく、さらに繊維の直径以下の滴にして供給するのが望ましく、例えば、超音波霧化器、エアースプレー装置等がこの目的で使用できる。
【0043】
続いて、被印字物Pは印字部2に移動され、印字ヘッド5から被印字物Pにインクが打滴される。インクとしては、例えばアニオン系界面活性剤を含む水系分散媒に顔料および水性ポリマーが分散しているものが用いられる。顔料および水性ポリマー粒子は、アニオン系界面活性剤によりマイナスに帯電した安定な状態で水系分散媒に分散されている。また、インク用水性ポリマーとしては、例えばポリオレフィン、ポリウレタン、アクリル、ポリエステル、等を含むポリマーが使用できる。
このようにして、被印字物Pの繊維密度の高い領域Aまたは繊維領域の低い領域Bに着弾したインク滴は、インク中の水性ポリマー粒子が被印字物Pの繊維上に存在するカチオン高分子と凝集反応してゲル化し、各領域内にそれぞれ留められる。また、被印字物Pの印字面に多くインクが留まるようにすることも出来る。
【0044】
印字後は、乾燥装置9により被印字物Pの繊維上に凝集されたインクを乾燥させることでインク中の水性ポリマーが皮膜化し、顔料を取り込んだ着色ポリマーの被膜が被印字物Pの繊維上に形成される。このように、被印字物Pの繊維上にインクを被膜化した場合には、その後に洗浄処理を施すことなく、乾燥装置9による乾燥処理のみで被印字物Pに印字画像を形成することができる。
なお、不織布の多くの素材であるポリプロピレンと水性ポリマーとの密着力を高めるために、凝集剤供給装置4aから凝集剤を供給する前に、被印字物Pをコロナ処理またはプラズマ処理等により活性化しておくことが望ましい。
【0045】
実施形態5
図14に示すように、被印字物Pとして、織物または編み物のような繊維束から構成され、表面から裏面にかけて高い毛管力を有する領域が貫通しているものを用いることもできる。例えば、直径10〜20μmのポリエステル繊維、ナイロン繊維、セルロース繊維等が複数本寄り集まった繊維束で糸を構成し、これら糸により構成された織物、あるいは編み物が被印字物Pとして用いられる。
【0046】
このような繊維束からなる糸は、繊維間の数〜数十ミクロンの間隙が強い毛管力を持つようになる。このため、被印字物に着弾したインク滴は、繊維束に沿って浸透・移動し、留まることなく裏面まで到達されるため、図14に示すように、所定の表面領域Fのみにインクジェット印字することは困難であった。
また、テキスタイル分野等で使用される織物や編み物においては、肌に近い内側(被印字物の裏面領域)と外部に面している外側(被印字物の表面領域)で異なる機能が求められることもある。例えば、内側は汗の水分を吸収し、さらにその水分と反応して熱を放出する機能等が求められるのに対し、外側は雨等を防ぐような防水機能、あるいは内部の水分がシミとして見えないような撥水機能等が求められる。このように被印字物の表面領域と裏面領域を異なる物性にするためには、それぞれの領域について、被印字物の帯電を防止するための帯電防止剤、繊維の水分吸着能を高める浸水化処理剤、あるいは繊維の撥水性を高めるため撥水剤等の処理剤を繊維束内部に十分浸透させて各領域に含まれる繊維に付着させる必要がある。
【0047】
図15に実施形態5に係る印字装置の構成を示す。実施形態5に係る印字装置は、図1に示した実施形態1における印字装置において、凝集剤供給装置4に代えて被印字物Pの表面側に凝集剤供給装置4aを備えると共に、失活剤供給装置3および色材インク印字ヘッド6が除かれている。
まず、前処理部1の凝集剤供給装置4aから凝集剤が被印字物Pの表面に供給される。続いて、被印字物Pは印字部2に移動され、色材インク印字ヘッド5から被凝集剤および被印字物Pの物性を変換するための処理剤を含むインクが被印字物Pの表面にインクジェット法で打滴される。なお、処理剤は、被印字物重量の10〜150%の量、望ましくは被印字物重量の数十%の量が供給されるように調整されている。また、処理剤には被印字物Pの物性を変換すると共に被凝集剤として機能するものもあり、被凝集剤の機能を備えた処理剤を用いる場合には処理剤のみを含むインクを打滴することができる。
印字ヘッド5から打滴されたインク滴は、被印字物Pに着弾後、印字面の表面領域Fの繊維束内に浸透し、インク内の被凝集剤が予め被印字物Pに供給された凝集剤と凝集反応してゲル化することで、処理剤を含むインクが裏面まで浸透することなく表面領域F内に留められる。なお、凝集剤または被凝集剤の濃度等を変えることで凝集反応の速度を制御し、被印字物Pの表面から適切な深さにまで処理剤を含むインクを浸透させることができる。このようにして、処理剤を含むインクの浸透を被印字物Pの位置および深さに関して制御することで、処理剤を含むインクを所定の表面領域Fに付着させることが可能となる。
続いて、被印字物Pは、加熱装置7による加熱処理、還元洗浄装置8による洗浄処理、および乾燥装置9による乾燥処理が施される。これにより、被印字物Pの表面領域Fが染色されると共に処理剤の作用により所望の機能を付与することができる。
【0048】
被印字物Pの繊維束に機能を付与するための処理剤には、例えば、帯電防止剤として、ポリビニルアルコール、水性ポリエステル、水性アクリル等の水性ポリマー水溶液に界面活性剤等を加えたものが使用でき、撥水剤として、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、ワックス等の撥水性粒子の水分散液が使用できる。撥水処理剤は、被印字物Pに付着後、乾燥・加熱処理で皮膜化し、さらに架橋剤等を含む場合は架橋反応により強固に繊維表面に付着し長期間にわたり撥水機能を発現することが出来る。撥水性粒子分散液自身が被凝集剤として機能しない場合、被凝集剤として水性ポリエステル、水性アクリル等を加え被凝集機能を付与することも出来る。
【0049】
なお、本実施形態において、被印字物Pの表面に向かって凝集剤供給装置4aから凝集剤を供給すると共に印字ヘッド5からインクを打適したが、これに限られず、被印字物Pの裏面側に凝集剤供給装置および印字ヘッドを備えることで被印字物Pの裏面に凝集剤を供給すると共に被凝集剤および処理剤を含むインクを打滴してもよい。同様にして、凝集剤または被凝集剤の濃度等を変えることで被印字物Pの裏面から表面に浸透するインクの浸透領域を制御し、被印字物Pの所定の裏面領域について、染色すると共に所望の機能を付与することができる。
また、被印字物Pの表面領域と裏面領域にそれぞれ異なる種類の処理剤および顔料等を含むインクを供給することもできる。例えば、図16に示すように、被印字物Pの表面側と裏面側にそれぞれ凝集剤供給装置4aおよび4bを備えると共に被印字物Pの表面側と裏面側にそれぞれ印字ヘッド5および6を備えることで、被印字物Pの表面および裏面にそれぞれ凝集剤を供給した後に、被印字物Pの表面および裏面にそれぞれ被凝集剤および処理剤を含むインクを打滴することができる。これにより、被印字物Pの表面領域と裏面領域がそれぞれ異なる色材で染色されると共にそれぞれ異なる機能を付与することができる。また、図17に示すように、被印字物Pの進行方向に対して、被印字物Pの表面側に凝集剤供給装置4aおよび印字ヘッド5を備え、その後方で且つ被印字物Pの裏面側に凝集剤供給装置4bおよび印字ヘッド6を備えることもできる。これにより、被印字物Pの表面に対して凝集剤の供給およびインクの打滴が行われた後に、被印字物Pの裏面に対して凝集剤の供給およびインクの打滴が行われる。なお、被印字物Pの進行方向に対して、被印字物Pの裏面側に凝集剤供給装置4bおよび印字ヘッド6を備え、その後方で且つ被印字物Pの表面側に凝集剤供給装置4aおよび印字ヘッド5を備える構成としてもよい。
【0050】
また、実施形態1〜5における凝集反応には、被凝集体が分散された分散液(被凝集体分散液)としてアニオン性界面活性剤を含む分散液を用いると共に凝集剤として酸を用いることで凝集反応を行うことができる。アニオン性界面活性剤は、中性あるいはアルカリ性に調整された状態で分散しているが、凝集剤として有機酸が加えられて酸性となるとその解離度が低くなって凝集する。これに伴い、凝集剤に含まれる水性ポリマーが凝集してゲル化される。なお、アニオン性界面活性剤としては脂肪酸ナトリウム、モノアルキル硫酸塩、アルキルポリオキシエチレン硫酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、モノアルキルリン酸塩などが利用でき、酸としては、マロン酸、クエン酸、酢酸等の有機酸、希塩酸などの無機酸が利用できる。また、失活剤としては有機酸による酸性化を抑制する炭酸ソーダ、炭酸水素ソーダ、または苛性ソーダなどのようなアルカリ剤が利用できる。
【0051】
また、凝集反応には、アニオン界面活性剤で分散安定化した被凝集体分散液と有機カチオン性高分子からなる凝集剤による反応、または、カチオン界面活性剤で分散安定化した被凝集体分散液と有機アニオン性高分子からなる凝集剤による反応が利用できる。例えば、アニオン界面活性剤は、マイナスに帯電して分散しているが、凝集剤として有機カチオン性高分子が加えられると電荷を中和し、凝集してゲル化される。
凝集剤としてのカチオンポリマーとして、アンモニアやアルキルアミン等のアミノ基(-NH2)を有する化合物及び窒素を更に多く有するアルギニンやグアニジンあるいはビグアニド誘導体等のグアニジノ基やビグアニド基を持つ化合物を用いることができる。また、側鎖あるいは主鎖にアミノ基あるいはイミノ基をもつ高分子としては、ポリエチレンイミン、ポリビニルアミン、ポリアリルアミン等の合成高分子及びポリオルニチン、ポリリジン等のポリアミノ酸を含む水性ポリマーが使用できる。
アクリルアミドとN,N−ジメチルアミノエチルメタクリレートまたはN,N−ジメチルアミノエチルアクリレートモノマーとを共重合したN,N−ジメチルアミノエチルアクリレート系共重合物や、ポリビニルアミジン系高分子、両性高分子などが利用できる。一方、被凝集体として用いられる安定化したアニオン界面活性剤は、ポリアクリルアミドの部分加水分解したものまたはアクリルアミドとアクリル酸ナトリウムとを共重合したものなどが利用できる。
【0052】
また、凝集反応には、特許0879782号に記載されたようなリグニンスルホン酸と無機被凝集体とで処理する方法、特許0946869号に記載されたようなアルカリ性物質の存在下でフェノール類とアルデヒド類との初期縮合物と無機被凝集体とを併用する方法、特許1125326号に記載されたようなフェノール性水酸基を有する有機物質と無機又は有機被凝集体とを併用する方法、特開昭57−019084号公報に記載されたようなタンニンおよびタンニン酸にて処理する方法、特開昭60−238193号公報に記載されたようなリグニンスルホン酸と無機被凝集体およびカチオン性高分子被凝集体とで処理する方法が利用できる。これに伴い、被凝集体に含まれる水溶性ポリマーが凝集してゲル化される。
また、凝集反応には凝析を利用してもよい。被凝集体分散液において電気的に同じ符号を帯びて互いに反発することで拡散する疎水コロイドまたは親水コロイドに対し、これらのコロイド粒子と反対の符号を帯びた中和剤(電解質またはアルコールなど)からなる凝集剤を加えることで電気的中性となり、コロイド粒子間の反発が消滅することで凝集する。これに伴い、コロイド粒子が凝集してゲル化される。なお、疎水コロイドおよび親水コロイドとしては、アルミニウム塩(硫酸アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム)や鉄塩(ポリ硫酸第二鉄、塩化第二鉄)が用いられる。また、前記被凝集体は、被凝集体分散液に分散させた疎水コロイドまたは親水コロイドを含むと共に凝集剤として疎水コロイドまたは親水コロイドの中和剤を用いることで凝集反応を行うこともできる。
【0053】
また、凝集反応には、架橋性ポリマー(モノマー、オリゴマー)を含む被凝集体分散液と架橋開始剤からなる凝集剤による架橋反応を利用してインクの粘度を上昇させてもよい。例えば、ポリビニルアルコール(PVA)樹脂溶液とホウ酸による架橋反応、末端に水酸基を持つポリオールと末端にイソシアネート基を持つウレタンプレポリマーとポリオールを混合することで化学反応を起こすウレタン樹脂系の反応、またはエポキシ樹脂プレポリマーにアミンなどの硬化剤による反応を起こすエポキシ樹脂系の反応等が利用できる。また、前記被凝集体は、被凝集体分散液に分散させた架橋性ポリマーを含むものを用いると共に凝集剤として架橋性ポリマーの架橋開始剤を用いることで凝集反応を行うこともできる。
【0054】
また、実施形態1〜5における凝集剤供給装置は、凝集剤を毛管力長及び被印字物の曲率半径以下のサイズで提供できるものが選択できる。超音波霧化器、エアースプレー等微細液滴を発生できる装置により着弾後の液滴が、図9(A)に示すように合一した液滴も含め着弾位置に留まるようなサイズになるよう調整して供給する。また、インクジェット法、グラビアローラ塗布等の方法で、図9(B)に示すように液滴サイズ及び位置を制御した供給法も採用できる。
また、実施形態1〜5における凝集剤供給装置および印字ヘッドの代わりに、凝集剤が着弾位置に保持されている間に被凝集体を含むインクの着弾が実現できるよう、凝集剤と被凝集体を含むインクとをほぼ同時に印字するインクジェット装置を用いることも出来る。図10に示すように、凝集剤と色材インクの印字ヘッドを近接して配置あるいは一体化して設けたインクジェット装置31を用いることで着弾位置・時間を一致させ、液滴の移動時間に比べ短時間でゲル化させることが出来る。凝集剤あるいは被凝集体を含むインクが着弾位置から高い毛管力の領域に移動することなく着弾位置に留まることが出来る。
【0055】
実施形態6
図11に示されるように、実施形態1〜5に係る印字装置で用いられた印字部は、入力データに基づいて被印字物Pの各領域を印字すると共に被印字物Pに印字した結果をフィードバックすることにより補正し目的の発色を実現するような構成にすることができる。
【0056】
本実施形態の印字部41は、供給条件演算部42と、印字特性データベース(DB)43と、制御部44と、印字駆動部45と、印字ヘッド46〜48とを有する。
供給条件演算部42には、互いに異なる発色特性を有する複数の領域(例えば、地組織の領域および起毛組織の領域)からなる被印字物Pの情報および被印字物Pに印字しようとする印字画像の再現目標色、の情報が入力データとしてオペレータにより入力される。被印字物Pの情報としては、被印字物の領域ごとに素材・厚み、被凝集体と凝集剤の有無、被凝集体と凝集剤の種類・量等の情報が含まれる。再現目標色の情報には、被印字物Pの各領域、各画素における再現目標色の色度、色のにじみ(空間周波数)、表裏均一度、などに関する情報が含まれる。
供給条件演算部42は、印字特性DB43と接続されている。供給条件演算部42は、被印字物Pの情報および再現目標色の情報に基づいて印字特性DB43を検索し、被印字物Pの領域ごとに再現目標色に最も近い発色を示す印字ヘッド46〜48のインク種、インク供給パラメータ、浸透液供給パラメータおよび前処理部条件(失活剤、凝集剤)、を抽出する。ここで、インクおよび浸透液の供給パラメータとしては、印字ヘッド46〜48に出力する電圧、周波数、波形などが含まれる。印字特性DB43には、領域ごとに各色のインクの印字量と発色処理完了後の発色特性の関係が含まれる。このとき被凝集体と凝集剤の付与の有無、あるいは被凝集体および凝集剤の量等に応じた発色特性(印字画像の空間周波数特性、表裏色の均一度)の関係が含まれる。
ここで、「浸透液」は、印字後のインクを適切に被印字物内に浸透させるための浸透を促進するための液でありインクを構成する分散媒であることが好ましい。「浸透液」の印字により少量印字時にもインクが被印字物の裏面にまで到達することが可能となる。
【0057】
供給条件演算部42は、制御部44と接続されている。制御部44は、供給条件演算部42で抽出された領域ごとに必要なインク種、インク供給パラメータおよび浸透液供給パラメータを示す電気信号を印字駆動部45に入力することで、被印字物Pへの印字を制御する。
制御部44は、印字駆動部45と接続されている。印字駆動部45は、制御部44から入力された電気信号に応じて印字ヘッド46〜48をそれぞれ駆動する。
印字駆動部45は、印字ヘッド46〜48と接続されている。印字ヘッド46〜48は、いわゆるインクジェット方式の印字ヘッドであり、4種類のインクY,M,C,Kまたは浸透液を打滴する。印字ヘッド46は被印字物Pの表側から、印字ヘッド47は被印字物Pの裏側からそれぞれインクを打滴するものである。一方、印字ヘッド48は、被印字物Pの表側から浸透液を打滴するものである。なお、印字ヘッド47は、被凝集体を含むインクを被印字物Pに打滴するものである。
【0058】
被印字物Pの移動方向に対し、印字ヘッド46〜48の下流側には、加熱装置49、還元洗浄装置50、および乾燥装置51が配置され、インク中の色材を被印字物Pに定着させる。
【0059】
また、被印字物Pの進行方向に対し、乾燥装置51の下流側には凸領域計測装置52および地組織計測装置53が配置され、凸領域計測装置52に凸領域印字結果計測値入力部54を地組織計測装置53に地組織印字結果計測値入力部55をそれぞれ接続すると共に、凸領域印字結果計測値入力部54および地組織印字結果計測値入力部55を供給条件演算部42に接続する。
凸領域計測装置52および地組織計測装置53は、被印字物Pの起毛部のような凸領域および地組織からそれぞれ光学特性を計測し、発色量を測定するためのものであり、積分球を有する分光測色器または分光測色器で校正した光学センサーなどから構成される。パターンを印字する場合には、インクのにじみに相当する空間周波数特性を計測する光学センサーが用意されていることが望ましい。凸領域印字結果計測値入力部54および地組織印字結果計測値入力部55は、凸領域計測装置52および地組織計測装置53において得られた計測値を供給条件演算部42に入力することで、被印字物Pの印字結果をフィードバックするものである。供給条件演算部42は、印字結果計測値入力部54から入力された計測値が再現目標色と同様の発色を実現するように補正した打滴すべきインクおよび浸透液の供給条件値を被印字物Pの各領域について求めるものである。
【0060】
次に、図11に示した印字部41の動作を説明する。
まず、供給条件演算部42が、オペレータにより入力された被印字物Pの情報および被印字物Pに印字しようとする印字画像の再現目標色の情報に基づき、印字特性DB43を検索する。供給条件演算部42は、印字特性DB43の被印字物領域種情報から被印字物Pにおける各領域(例えば地組織および凝集剤を付与された起毛組織の各領域)と同様の種類を示すものをそれぞれ検索する。
供給条件演算部42は、印字特性DB43のデータを用い、被印字物Pの各領域の発色情報が発色情報目標となるような、印字ヘッド46及び47の全インク種(YMCK×2=8種)、印字ヘッド48の浸透液についての供給パラメータ、および前処理部条件(失活剤、凝集剤)を求める。
なお、供給条件演算部42は、印字特性DB43のデータを用い、印字ヘッド46及び47の全インク種および印字ヘッド48の浸透液についての供給パラメータを与えたときの発色を予測し、発色情報を計算し、発色情報が発色情報目標になるような供給パラメータの組み合わせを最適化手法で求めることも出来る。具体的には下記式(3)および(4)を使用してK/Sを利用し、印字量と発色情報の関係を求め、シンプレックス法による線形計画法、逐次近似法、遺伝的方法等の最適化手法が使用できる。また、供給条件演算部42は、印字特性DB43の中の発色再現目標に近い供給パラメータの組み合わせを複数求めそれらの補間により最適な供給パラメータを求めることも出来る。
【0061】
K/S=(1−Rc)2/2Rc ・・・ (3)
(K/S)mix
=Jy(K/S)y+Jm(K/S)m+Jc(K/S)c+Jk(K/S)k ・・・ (4)
【0062】
なお、式(3)は各波長において、色材による吸収強度K、被印字物からの光散乱強度S、反射率Rcの関係を示す。また、式(4)において、(K/S)mixは複数の色材が印字され混合された領域のK/Sを示し、(K/S)y、(K/S)m、(K/S)c、(K/S)kはそれぞれ4色の色材が単位量付着したときのK/Sを示し、Jy、Jm、Jc、Jkはそれぞれ4色の色材の被印字物への付着量を示す。
【0063】
このようにして供給条件演算部42で抽出された被印字物Pの領域ごとのインク種、インク供給パラメータおよび浸透液供給パラメータは、制御部44に出力される。制御部44は、印字駆動部45にインクおよび浸透液の供給パラメータを出力すると、印字駆動部45は、これら供給パラメータに応じた駆動信号をインク種または浸透液に対応する印字ヘッド46〜48のヘッド部にそれぞれ出力し、被印字物Pの各領域にインクおよび浸透液を打滴する。
これにより、インクが高い毛管力を持つ地組織、低い毛管力を持つファスナーエレメント部、起毛部等の領域が複合している被印字物に対しても、それぞれの領域に対して再現目標色と同様に発色させることができると共に被印字物Pの厚み方向の均一度、空間周波数特性についても目標どおりの発色を実現できる。
【0064】
被印字物Pの移動に連動し、被印字物Pの領域ごとに抽出されたインクおよび浸透液の供給パラメータでインクおよび浸透液の打滴が全ての領域について繰り返し行われていく。印字された被印字物Pは、加熱装置49で加熱された後、還元洗浄装置50で還元洗浄され、乾燥装置51で乾燥される。乾燥された被印字物Pは凸領域計測装置52および地組織計測装置53により測色され、その計測値が凸領域印字結果計測値入力部54および地組織印字結果計測値入力部55を介して供給条件演算部42に入力される。
【0065】
入力された計測値が再現目標色の色度の許容範囲外の場合、供給条件演算部42は、凸領域印字結果計測値入力部54および地組織印字結果計測値入力部55から入力された計測値が再現目標色の色度に一致するように、印字ヘッド46〜48の各ヘッド部から打滴すべきインクおよび浸透液の供給パラメータをそれぞれ補正する。供給条件演算部42により補正されたインクおよび浸透液の供給パラメータは制御部44に出力され、制御部44がこれらの供給パラメータに基づいて印字駆動部45による印字ヘッド46〜48の各ヘッド部の駆動を制御し、被印字物Pに印字される。なお、1度の補正で再現目標色の色度の許容範囲内に入らない場合には、許容範囲内に入るまで上記の補正を繰り返すことが好ましい。
表裏均一度、空間周波数についても入力された計測値が目標値の許容レベル外の場合、前処理部の供給条件を補正し目標値に合わせることができる。
【0066】
このように、被印字物Pに印字した結果をフィードバックすることにより補正されたインクおよび浸透液の供給パラメータに基づき再び被印字物Pに印字するため、初期の計算精度が悪い場合、あるいはインク、被印字物P等の物性が経時あるいは環境で変化した場合であっても、発色量のズレあるいは変動を効果的に抑制することができる。
【0067】
なお、供給条件演算部42は、印字結果のフィードバックにより補正された供給パラメータを、補正の都度、印字特性DB43に蓄積する、あるいは、補正された供給パラメータにより印字特性DB43に既に格納されている供給パラメータを更新することによって、学習機能を持たせることもできる。このように印字を繰り返すごとに学習させることで印字特性DB43に格納されている情報の精度を高めていくことができる。
【符号の説明】
【0068】
1 前処理部、2,41 印字部、3 失活剤供給装置、4,4a,4b 凝集剤供給装置、5,6,46〜48 印字ヘッド、7,49 加熱装置、8,50 還元洗浄装置、9,51 乾燥装置、10 地組織、11 スナップ、12 カバー、21 凹部、22 凸部、23 マット化領域、24,25 表面、31 インクジェット装置、42 供給条件演算部、43 印字特性データベース、44 制御部、45 印字駆動部、52 凸領域計測装置、53 地組織計測装置、54 凸領域印字結果計測値入力部、55 地組織印字結果計測値入力部、P 被印字物、G 地組織、S スナップ部、D デザイン印字。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
低い毛管力によりインクが留まり難い領域を含む被印字物にインクジェット法により印字を行う印字方法であって、
凝集によりゲル化する被凝集体の凝集反応を促進させる凝集剤を被印字物の少なくとも低い毛管力を有する領域に供給し、
インクジェット法で前記被凝集体を含むインクを被印字物の少なくとも低い毛管力を有する領域に向けて打滴し、
前記被凝集体と前記凝集剤との凝集反応によりゲル化したインクを被印字物に定着させることを特徴とする印字方法。
【請求項2】
前記凝集剤は、被印字物の低い毛管力を有する領域に供給されたそれぞれの液滴が低い毛管力を有する領域において移動しないように、前記凝集剤の大きさ及び量を調整して供給されることを特徴とする請求項1に記載の印字方法。
【請求項3】
前記凝集剤は、霧化することにより大きさ及び量を調整して供給されることを特徴とする請求項2に記載の印字方法。
【請求項4】
前記被凝集体を含むインクは、被印字物の低い毛管力を有する領域に供給された前記凝集剤が被印字物の低い毛管力を有する領域において移動しないうちにゲル化するように供給されることを特徴とする請求項1に記載の印字方法。
【請求項5】
前記凝集剤を供給する前に、前記凝集剤と前記被凝集体との凝集反応を失活させる失活剤を被印字物の高い毛管力を有する領域に供給することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の印字方法。
【請求項6】
前記凝集剤は、被印字物の低い毛管力を有する領域にのみ供給されることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の印字方法。
【請求項7】
前記被凝集体を含むインクを被印字物に供給すると共に、前記被凝集体を含まないインクを被印字物の高い毛管力を有する領域に向けて打滴することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の印字方法。
【請求項8】
前記被凝集体は、被凝集体分散液に分散させた水性ポリマーを含み、前記凝集剤により凝集し粘度が上昇することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の印字方法。
【請求項9】
前記被凝集体は、被凝集体分散液に分散させたアニオン性界面活性剤を含むと共に前記凝集剤として酸を用いることで凝集反応を行うことを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の印字方法。
【請求項10】
前記被凝集体は、被凝集体分散液に分散させた有機カチオン性高分子を含むと共に前記凝集剤としてアニオン界面活性剤を用いて、または、前記被凝集体は、被凝集体分散液に分散させた有機アニオン性高分子を含むと共に前記凝集剤としてカチオン界面活性剤を用いて凝集反応を行うことを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の印字方法。
【請求項11】
前記被凝集体は、被凝集体分散液に分散させた疎水コロイドまたは親水コロイドを含むものを用いると共に前記凝集剤として前記疎水コロイドまたは前記親水コロイドの中和剤を用いることで凝集反応を行うことを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の印字方法。
【請求項12】
前記被凝集体は、被凝集体分散液に分散させた架橋性ポリマーを含むものを用いると共に前記凝集剤として前記架橋性ポリマーの架橋開始剤を用いることで凝集反応を行うことを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の印字方法。
【請求項13】
被印字物において低い毛管力を有する領域は、起毛組織からなることを特徴とする請求項1〜12のいずれかに記載の印字方法。
【請求項14】
被印字物において低い毛管力を有する領域は、ポリエステル構造物からなることを特徴とする請求項1〜12のいずれかに記載の印字方法。
【請求項15】
被印字物は不織布からなり、高い毛管力を有する領域は繊維の密度の高い領域からなることを特徴とする請求項1〜12のいずれかに記載の印字方法。
【請求項16】
平滑な樹脂材からなる被印字物において凹部が形成され、前記凹部が高い毛管力を有する領域となると共に前記凹部に隣接する被印字物の表面が低い毛管力を有する領域となることを特徴とする請求項1〜12のいずれかに記載の印字方法。
【請求項17】
平滑な樹脂材からなる被印字物において濡れ性の異なる領域が形成され、濡れ性の大きい領域が低い毛管力を有する領域となることとを特徴とする請求項1〜12のいずれかに記載の印字方法。
【請求項18】
低い毛管力によりインクが留まり難い領域を含む被印字物にインクジェット法により印字を行う印字装置であって、
凝集によりゲル化する被凝集体の凝集反応を促進させる凝集剤を被印字物の少なくとも低い毛管力を有する領域に供給する凝集剤供給装置と、
インクジェット法で前記被凝集体を含むインクを被印字物の少なくとも低い毛管力を有する領域に向けて打滴するインク供給装置と、
前記被凝集体と前記凝集剤との凝集反応によりゲル化した前記インクを被印字物に定着させる定着装置と
を有することを特徴とする印字装置。
【請求項19】
前記凝集剤供給装置により前記凝集剤を供給する前に、前記凝集剤と前記被凝集体との凝集反応を失活させる失活剤を被印字物の高い毛管力を有する領域に供給する失活剤供給装置をさらに有することを特徴とする請求項17に記載の印字装置。
【請求項20】
前記凝集剤供給装置は、被印字物の低い毛管力を有する領域にのみ前記凝集剤を供給することを特徴とする請求項17または18に記載の印字装置。
【請求項21】
表面から裏面にかけて高い毛管力によりインクが浸透し易い領域が延びる被印字物にインクジェット法により印字を行う印字方法であって、
凝集によりゲル化する被凝集体の凝集反応を促進させる凝集剤を被印字物の表面領域および裏面領域のうち少なくとも一方の所定の領域に供給し、
インクジェット法で被凝集体を含むインクを被印字物の前記所定の領域に向けて打滴し、
前記被凝集体と前記凝集剤との凝集反応によりゲル化したインクを被印字物の前記所定の領域に定着させることを特徴とする印字方法。
【請求項22】
凝集剤の供給が被印字物の表面領域および裏面領域に対してそれぞれ行われた後に、被凝集体を含むインクの打滴が被印字物の表面領域および裏面領域に対してそれぞれ行われることを特徴とする請求項21に記載の印字方法。
【請求項23】
被印字物の表面領域および裏面領域のうち一方の領域に対して凝集剤の供給および被凝集体を含むインクの打滴が行われた後に、被印字物の他方の領域に対して凝集剤の供給および被凝集体を含むインクの打滴が行われることを特徴とする請求項21に記載の印字方法。
【請求項24】
インクジェット法で被印字物に打滴される被凝集体を含むインクは、さらに被印字物の物性を変換する処理剤を含み、
異なる種類の前記処理剤が被印字物の表面領域および裏面領域にそれぞれ供給されることにより、被印字物の表面領域および裏面領域を異なる物性に変換することを特徴とする請求項21〜23のいずれかに記載の印字方法。
【請求項25】
前記処理剤は、撥水剤からなることを特徴とする請求項24に記載の印字方法。
【請求項1】
低い毛管力によりインクが留まり難い領域を含む被印字物にインクジェット法により印字を行う印字方法であって、
凝集によりゲル化する被凝集体の凝集反応を促進させる凝集剤を被印字物の少なくとも低い毛管力を有する領域に供給し、
インクジェット法で前記被凝集体を含むインクを被印字物の少なくとも低い毛管力を有する領域に向けて打滴し、
前記被凝集体と前記凝集剤との凝集反応によりゲル化したインクを被印字物に定着させることを特徴とする印字方法。
【請求項2】
前記凝集剤は、被印字物の低い毛管力を有する領域に供給されたそれぞれの液滴が低い毛管力を有する領域において移動しないように、前記凝集剤の大きさ及び量を調整して供給されることを特徴とする請求項1に記載の印字方法。
【請求項3】
前記凝集剤は、霧化することにより大きさ及び量を調整して供給されることを特徴とする請求項2に記載の印字方法。
【請求項4】
前記被凝集体を含むインクは、被印字物の低い毛管力を有する領域に供給された前記凝集剤が被印字物の低い毛管力を有する領域において移動しないうちにゲル化するように供給されることを特徴とする請求項1に記載の印字方法。
【請求項5】
前記凝集剤を供給する前に、前記凝集剤と前記被凝集体との凝集反応を失活させる失活剤を被印字物の高い毛管力を有する領域に供給することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の印字方法。
【請求項6】
前記凝集剤は、被印字物の低い毛管力を有する領域にのみ供給されることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の印字方法。
【請求項7】
前記被凝集体を含むインクを被印字物に供給すると共に、前記被凝集体を含まないインクを被印字物の高い毛管力を有する領域に向けて打滴することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の印字方法。
【請求項8】
前記被凝集体は、被凝集体分散液に分散させた水性ポリマーを含み、前記凝集剤により凝集し粘度が上昇することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の印字方法。
【請求項9】
前記被凝集体は、被凝集体分散液に分散させたアニオン性界面活性剤を含むと共に前記凝集剤として酸を用いることで凝集反応を行うことを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の印字方法。
【請求項10】
前記被凝集体は、被凝集体分散液に分散させた有機カチオン性高分子を含むと共に前記凝集剤としてアニオン界面活性剤を用いて、または、前記被凝集体は、被凝集体分散液に分散させた有機アニオン性高分子を含むと共に前記凝集剤としてカチオン界面活性剤を用いて凝集反応を行うことを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の印字方法。
【請求項11】
前記被凝集体は、被凝集体分散液に分散させた疎水コロイドまたは親水コロイドを含むものを用いると共に前記凝集剤として前記疎水コロイドまたは前記親水コロイドの中和剤を用いることで凝集反応を行うことを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の印字方法。
【請求項12】
前記被凝集体は、被凝集体分散液に分散させた架橋性ポリマーを含むものを用いると共に前記凝集剤として前記架橋性ポリマーの架橋開始剤を用いることで凝集反応を行うことを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の印字方法。
【請求項13】
被印字物において低い毛管力を有する領域は、起毛組織からなることを特徴とする請求項1〜12のいずれかに記載の印字方法。
【請求項14】
被印字物において低い毛管力を有する領域は、ポリエステル構造物からなることを特徴とする請求項1〜12のいずれかに記載の印字方法。
【請求項15】
被印字物は不織布からなり、高い毛管力を有する領域は繊維の密度の高い領域からなることを特徴とする請求項1〜12のいずれかに記載の印字方法。
【請求項16】
平滑な樹脂材からなる被印字物において凹部が形成され、前記凹部が高い毛管力を有する領域となると共に前記凹部に隣接する被印字物の表面が低い毛管力を有する領域となることを特徴とする請求項1〜12のいずれかに記載の印字方法。
【請求項17】
平滑な樹脂材からなる被印字物において濡れ性の異なる領域が形成され、濡れ性の大きい領域が低い毛管力を有する領域となることとを特徴とする請求項1〜12のいずれかに記載の印字方法。
【請求項18】
低い毛管力によりインクが留まり難い領域を含む被印字物にインクジェット法により印字を行う印字装置であって、
凝集によりゲル化する被凝集体の凝集反応を促進させる凝集剤を被印字物の少なくとも低い毛管力を有する領域に供給する凝集剤供給装置と、
インクジェット法で前記被凝集体を含むインクを被印字物の少なくとも低い毛管力を有する領域に向けて打滴するインク供給装置と、
前記被凝集体と前記凝集剤との凝集反応によりゲル化した前記インクを被印字物に定着させる定着装置と
を有することを特徴とする印字装置。
【請求項19】
前記凝集剤供給装置により前記凝集剤を供給する前に、前記凝集剤と前記被凝集体との凝集反応を失活させる失活剤を被印字物の高い毛管力を有する領域に供給する失活剤供給装置をさらに有することを特徴とする請求項17に記載の印字装置。
【請求項20】
前記凝集剤供給装置は、被印字物の低い毛管力を有する領域にのみ前記凝集剤を供給することを特徴とする請求項17または18に記載の印字装置。
【請求項21】
表面から裏面にかけて高い毛管力によりインクが浸透し易い領域が延びる被印字物にインクジェット法により印字を行う印字方法であって、
凝集によりゲル化する被凝集体の凝集反応を促進させる凝集剤を被印字物の表面領域および裏面領域のうち少なくとも一方の所定の領域に供給し、
インクジェット法で被凝集体を含むインクを被印字物の前記所定の領域に向けて打滴し、
前記被凝集体と前記凝集剤との凝集反応によりゲル化したインクを被印字物の前記所定の領域に定着させることを特徴とする印字方法。
【請求項22】
凝集剤の供給が被印字物の表面領域および裏面領域に対してそれぞれ行われた後に、被凝集体を含むインクの打滴が被印字物の表面領域および裏面領域に対してそれぞれ行われることを特徴とする請求項21に記載の印字方法。
【請求項23】
被印字物の表面領域および裏面領域のうち一方の領域に対して凝集剤の供給および被凝集体を含むインクの打滴が行われた後に、被印字物の他方の領域に対して凝集剤の供給および被凝集体を含むインクの打滴が行われることを特徴とする請求項21に記載の印字方法。
【請求項24】
インクジェット法で被印字物に打滴される被凝集体を含むインクは、さらに被印字物の物性を変換する処理剤を含み、
異なる種類の前記処理剤が被印字物の表面領域および裏面領域にそれぞれ供給されることにより、被印字物の表面領域および裏面領域を異なる物性に変換することを特徴とする請求項21〜23のいずれかに記載の印字方法。
【請求項25】
前記処理剤は、撥水剤からなることを特徴とする請求項24に記載の印字方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2012−86549(P2012−86549A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−116975(P2011−116975)
【出願日】平成23年5月25日(2011.5.25)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年5月25日(2011.5.25)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】
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