説明

印字装置

【課題】印字実行によりプラテンの温度が上昇することにより、プラテンと印字ヘッドとの間隔(d)が変化して印字品質が変動することを回避する。
【解決手段】プラテンの温度を簡単な温度検出手段により検出し、その温度にしたがって、上記間隔の標準値(d0 )に対してあらかじめ設定した調節すべき値(±Δd)だけプラテンの位置を機械的に変更する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、ドットインパクト型の印字装置に利用する。本発明は、印字ヘッドと用紙との距離を調整する技術に関する。
【0002】
【従来の技術】ドットインパクト型の印字装置は、文字を構成するドットに対応して設けられた針を備えた印字ヘッドが、入力する文字情報に対応してその針の突出位置を変更するとともに、インクリボンを介してプラテンに装着された用紙表面を叩くことにより印字を行う。印字ヘッドのストローク距離を大きくすると印字は薄くなり、印字ヘッドのストローク距離を小さくすると印字は濃くなる。したがって一様な印字を行うには、このストローク距離が一定になるように、すなわち印字ヘッドと用紙表面との距離を一定に維持しなければならない。
【0003】これは、印字ヘッドとプラテン表面との間隔を一定に維持することではまだ不十分であり、印字ヘッドとプラテンとの間に供給される用紙をユーザが自由に選択できる装置では、そのときに供給された用紙の厚さを検出して、それに応じて印字ヘッドとプラテンとの間隔を調節しなければならない。このための従来例装置として、フィードローラからプラテンに供給される用紙の厚さを検出する用紙厚検出器を設け、この用紙厚検出器が出力する用紙の厚さ情報により印字ヘッドに対するプラテンの軸位置を自動的に変更する装置が知られている(特開平11−002159号公報)。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】近年このようなドットインパクト型の印字装置に対して、高速印字を行うことができるようにとの要望があり、この要望に応えて印字ヘッドの針の縦配列数を大きくすることが行われるようになった。すなわち、印字ヘッドを縦に長く形成して、複数の行を同時に印字することができるように構成する技術が開発された。これに伴い、プラテンの直径が必然的に大きくなる。プラテンはアルミニウムなどの軽量合金の円筒を基体として、その表面に硬度の高いゴム素材を貼り付けて形成されたものであるが、プラテンの直径を大きくすると、その回転駆動モーメントが大きくなることから、できるだけ軽量の合金をその基材として使用し、その円筒の肉厚を薄くするように設計することになった。
【0005】一方、プラテンは印字ヘッドの機械的な衝撃を吸収するから印字を行うと発熱する。プラテン円筒の肉厚を薄くすると熱容量は小さくなって、印字実行、一時休止、などを繰り返すとその温度変動は大きくなる。この温度変動に応じて、金属材料の熱膨張および収縮によりプラテンの直径が変化し、印字ヘッドと用紙表面との間隔が変化することになる。プラテンの基材の選択は、軽量化や硬度などの観点が重視され、現実には基材となる金属材料の熱膨張係数を小さくする材質を選択するなどの配慮には及ばない。
【0006】印字ヘッドと用紙表面との距離は、上述のように印字品質にとって重要であり、印字実行中にこの距離が変化すると印字濃度が変化することになる。また、実際の装置では、この熱膨張によるこの距離の変化が大きいものでは、インクリボンが用紙表面に接触して、印刷仕上がりの紙面に汚れを発生させるなどの現象が見られることになった。
【0007】これを救済するために、印字ヘッドと用紙表面との距離を検出し、これが常に一定になるように自動的な制御を行うことが考えられるが、印字動作実行中にこの間隔をきわめて精密に、しかも非接触に検出することは簡単ではない。光や超音波などを用いてこれを実現してもきわめて高価な装置になってしまい、ドットインパクト型の印字装置が安価に供給できるという利点を失うことになる。
【0008】本発明はこのような背景に行われたものであって、プラテンの温度変化に対応して印字品質が変化しない印字装置を提供することを目的とする。本発明は、プラテンの温度変化に対応して印字品質が変化しない印字装置を安価に提供することを目的とする。本発明は、プラテンの肉厚を薄くすることによりプラテンの熱容量が小さくなり、プラテン形状の温度変化にたいする影響が大きくなっても、一定の印字品質を維持することができる印字装置を提供することを目的とする。本発明は、プラテンの基材の材料選択の自由度を大きくすることを目的とする。本発明は、すでに利用する用紙の厚さに応じて印字ヘッドと用紙表面との距離を調節する機構を有する印字装置には、わずかな設計変更により温度変化に対応して印字品質が変化しない装置を提供することを目的とする。本発明は、印字実行中にプラテンの温度が変化しても印字品質が変わらない印字装置を提供することを目的とする。さらに本発明は、温度変化に対応する印字ヘッドと用紙表面との間隔を制御することにより、一行の途中で印字変化が目立つことがない印字装置を提供することを目的とする。本発明は、連続印刷や印刷中断などを行っても、それに伴い印字品質が変化することがない印字装置を提供することを目的とする。本発明は、インクリボンが不用意に印刷用紙の表面に接触して、印刷仕上がりの紙面に汚れを発生させることのない印字装置を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】本発明は、印字ヘッドと用紙表面との距離を、プラテンの温度変化に対応して調節制御する手段を備えたことを最大の特徴とする。
【0010】すなわち本発明は、印字ヘッド(1)と、この印字ヘッドに間隔を設けて対峙されたプラテン(2)と、前記印字ヘッド(1)と前記プラテン(2)との間に用紙(3)を供給する手段(13)とを備えた印字装置において、前記プラテンの温度を検出する手段(5)と、この温度を検出する手段が出力する温度情報に対応して前記間隔(d)の変動が少なくなるようにあらかじめ設定された値(±Δd)だけこの間隔を自動的に調整する手段(10、11)とを備えたことを特徴とする。
【0011】上記括弧内の数字はあとから説明する実施例図面の参照数字である。これは、構成が理解しやすいように便宜的に付けたものであって、この発明を実施例に限定して解釈するためのものではない。
【0012】本発明は、プラテンの温度をサーミスタその他比較的安価な温度電気変換素子により検出し、この電気出力を温度情報として、この温度情報に対応する印字ヘッドとプラテンとの間隔の標準値に対して調節すべき値(±Δd)をあらかじめ現物または製造サンプルについて記録しておき、この記録した情報を利用して、温度情報を与えることにより前記間隔を機械的に調節すべき数値を認識させて制御を行うものである。
【0013】本発明の装置は、印字ヘッドとプラテンとの間隔を印字実行中に直接に検出する構成ではない。また調節の都度その間隔を検出してそれが常に一定になるように制御する閉ループ形の自動制御装置でもない。この構成により、印字品質を実用的に十分な程度に均一に制御することができる。
【0014】この構成により、非接触手段により印字ヘッドとプラテンとの間隔を検出する、あるいは閉ループの自動制御回路を設けるなどの高価な装置を必要とすることなく、安価に実用的に十分な程度に印字品質を均一にすることができるドットインパクト型の印字装置を提供することができる。
【0015】この構成は、利用する用紙の厚さに応じて前記間隔を自動的に調節する手段を備えた従来装置には、わずかな設計変更により実施することができる。すなわち、前記用紙の厚さ情報を検出する手段と、前記用紙の厚さ情報および前記温度情報を共に利用して前記間隔を自動的に調整する手段を駆動する構成とすることができる。
【0016】この用紙の厚さ情報および温度情報を共に利用して前記間隔を自動的に調整する手段は、用紙の厚さ情報に対して設定すべき間隔をあらかじめ記録した紙厚テーブルと、温度情報について変更すべき間隔をあらかじめ記録した温度テーブルと、用紙が供給されたときにその用紙の厚さ情報を取込み前記紙厚テーブルを参照して前記間隔を調節する第一の制御手段と、印字の実行中に前記温度情報を取込み前記温度テーブルを参照して前記間隔を調節する第二の制御手段とを含む構成とすることができる。
【0017】この構成は、用紙の厚さに対応して間隔を調整することができる従来例装置に、温度情報を検出してこれを制御回路に供給するハードウエア手段を増設するだけで、ほかにハードウエアを追加することなく、制御用のソフトウエアを変更することにより実現することができる。
【0018】この第二の制御手段は、印字の改行動作を実行中に前記間隔の調節を実行するように設定することが望ましい。この構成により、印字を実行中に前記間隔を変更しても、仕上がり状態で印字のむらがめだたなくなる。
【0019】また、この第二の制御手段は、印字の実行中に行う間隔の調節幅を印字品位の変化が認識できる程度以下の小刻みな幅毎に実行することにより、印字の仕上がりを自然にすることができる。
【0020】
【発明の実施の形態】(第一実施例)図1は本発明第一実施例装置の要部構成図である。この装置は、印字ヘッド1と、この印字ヘッドに間隔を設けて対峙されたプラテン2と、前記印字ヘッド1と前記プラテン2との間に用紙3を供給する手段としてのフィードローラ13とを備えた印字装置において、前記プラテンの温度を検出する手段としてのサーミスタ5と、この温度を検出する手段が出力する温度情報に対応して前記間隔(d)の変動が少なくなるようにあらかじめ設定された値(±Δd)だけこの間隔を自動的に調整する手段としての制御部10およびプラテン駆動部11とを備えたことを特徴とする。
【0021】この装置では、AGAフレーム6の二つの壁の間にプラテン2の中心軸が支持されている。このAGAフレーム6の上部に設けた軸受け部7により軸8に垂下された構造であり、この軸8のまわりにわずかにAGAフレーム6が回動できるように構成されている。制御部10はプログラム制御回路により構成され、その制御出力がプラテン駆動部11により供給される。プラテン駆動部11は電気機械変換手段を含む機械装置であり、AGAフレーム6の位置をその軸まわりに変更することができる。
【0022】図2は、プラテンとサーミスタとの位置関係を説明する図である。すなわち、このプラテン2に近接して3個のサーミスタ5が設けられ、このプラテンの温度に応じた電気信号を温度情報として制御部10に供給する。
【0023】印字ヘッド1は印字機構部12により駆動される。印字ヘッド1とプラテン2との間隔はdである。用紙3は一対のフィードローラ13から供給され、プラテン2と印字ヘッド1の間隔を通過して、トラクタ4により印字の状態に合わせて駆動される。この用紙の供給は給紙機構部14により制御される。
【0024】この用紙は用紙厚検出部15を通過しその厚さが検出される。すなわち、用紙はレバーアーム16とセンサポート17との間を通過し、このレバーアームが用紙を押しつける角度によりその厚さが電気信号として検出され、これを厚さ情報として制御部10に与える。
【0025】制御部10は、温度テーブル18および厚さテーブル19を備える。またプラテン調整単位メモリ20から印字ヘッドとプラテン表面との間隔dの調整単位が与えられる。すなわち、この制御部10は、用紙厚検出部15から入力する厚さ情報から厚さテーブル19を参照して、プラテン位置の変更量を演算し、プラテン駆動部11によりプラテン位置を変更する。またこの制御部10は、サーミスタ5から入力する温度情報から温度テーブル18を参照して、その温度情報に該当するプラテン位置の変更量を認識し、プラテン調整単位メモリ20で指示された調整単位だけ、プラテン駆動部11により、印字動作の改行期間中にプラテン位置を変更する。
【0026】このプラテン調整単位メモリ20には、いちどに調整することができる単位距離の情報が記憶されている。すなわち、ここに記憶されている調整単位で前記間隔を調節しても、その印字仕上がり面でその濃度の変化が目立たない程度の単位距離の情報に相当する。またこの調整単位に達しない値を調節することになった場合には、その調節を一時保留して調節すべき値がこの調整単位に達したときにまとめて調節を実行するように構成することがよい。
【0027】図3に制御部10がこの動作を行うための制御ソフトウエアの要部をフローチャートとして示す。このプラテン位置調整の動作を簡単に説明すると、用紙が供給されるとその用紙厚さ情報を取込む(S1 )。厚さテーブルを参照して(S2)その調整量を認識し(S3 )、プラテン位置調整を実行する(S4 )。つぎにプラテン温度情報を取込み(S5 )、温度テーブルを参照して(S6 )、その調整量を認識する(S7 )。ここで、その調整量が調整すべき量まで達したかを判断し(S8 )、達していなければ温度情報取込(S5 )に戻り、達していればさらに印字動作が休止中か動作中かを調べ(S9 )、動作中であればさらに改行動作中であるかを調べて(S10)、改行実行のタイミングまで待って(S11)、プラテン位置調整を実行する(S12)。
【0028】図4はプラテン駆動部11の機構説明図である。プラテン駆動部11には、制御部10により制御されるモータ21を備え、このモータ21の回転動力は複数の伝達ギヤ22によりカム23に伝達され、このカム23が回転することによりAGAフレーム6を押し出し、AGAフレーム6はその軸8を中心にして回動するように構成されている。すなわち、モータ21が正方向に回転することによりプラテン2はAGAフレーム6とともに図の左方に押されて、プラテン2と印字ヘッドとの間隔が短くなり、モータ21が逆方向に回転することにより、プラテン2は右方に戻されて、プラテン2と印字ヘッドとの間隔が長くなる。そのほかの構造については、本発明に直接関係がないので説明を省略するが、それぞれ図1と同一の符号が付してあるので、構造の要部を理解することができる。
【0029】(第二実施例)図5は第二実施例装置の要部ブロック構成図である。この第二実施例装置の特徴は、上で説明したプラテン2と印字ヘッド1との間隔dの標準値(d0 )からの調節値(±Δd)に相当する値をn×m個のマトリクス状のメモリに記憶しておくことにある。この他の構成については前述の第一実施例と同等である。
【0030】すなわち、用紙の厚さ情報を複数n段階に区分し前記温度情報を複数m段階に区分し、これに対応してn×m個の調節値(±Δd)に相当する値を記録したマトリクス状の制御テーブルをメモリ内に設け、用紙の厚さ情報および温度情報を取込みこの制御テーブルを参照して前記n×m個の調節値のうち該当する一つを読出す。そして間隔dがd0 ±Δdになるように、プラテン調整単位ごとに調節を行う。
【0031】
【発明の効果】以上説明したように本発明によれば、印字動作中に生じるプラテンの温度変化に対応して印字品質が変化しない印字装置を提供することができる。本発明は、このような印字装置を安価に提供することができる。本発明の装置は、連続印刷や印刷中断などを行っても、それに伴い印字品質が変化することがない。またインクリボンが不用意に印刷用紙の表面に接触して、印刷仕上がりの紙面に汚れを発生させることがない。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明第一実施例装置のブロック構成図。
【図2】本発明第一実施例装置の温度検出手段の構成を示す図。
【図3】本発明第一実施例装置の制御部の制御手順を説明する要部フローチャート。
【図4】本発明第一実施例装置の間隔dを調節するための機構を説明する図。
【図5】本発明第二実施例装置の要部ブロック構成図。
【符号の説明】
1 印字ヘッド
2 プラテン
3 用紙
4 トラクタ
5 サーミスタ
6 AGAフレーム
7 軸受け部
8 軸
10 制御部
11 プラテン駆動部
12 印字機構部
13 フィードローラ
14 給紙機構部
15 用紙厚検出部
16 レバーアーム
17 センササポート
18 温度テーブル
19 厚さテーブル
20 プラテン調整単位メモリ
21 モータ
22 伝達ギヤ
23 カム
30 n×mマトリクステーブル

【特許請求の範囲】
【請求項1】印字ヘッドと、この印字ヘッドに間隔を設けて対峙されたプラテンと、前記印字ヘッドと前記プラテンとの間に用紙を供給する手段とを備えた印字装置において、前記プラテンの温度を検出する手段と、この温度を検出する手段が出力する温度情報に対応して前記間隔の温度変化が少なくなるようにあらかじめ設定された値だけ前記間隔を自動的に調整する手段とを備えたことを特徴とする印字装置。
【請求項2】前記用紙の厚さ情報を検出する手段と、前記用紙の厚さ情報および前記温度情報を共に利用して前記間隔を自動的に調整する手段とを備えた請求項1記載の印字装置。
【請求項3】前記用紙の厚さ情報および前記温度情報を共に利用して前記間隔を自動的に調整する手段は、その用紙の厚さ情報に対して設定すべき間隔をあらかじめ記録した紙厚テーブルと、その温度情報について変更すべき間隔をあらかじめ記録した温度テーブルと、用紙が供給されたときにその用紙の厚さ情報を取込み前記紙厚テーブルを参照して前記間隔を調節する第一の制御手段と、印字の実行中に前記温度情報を取込み前記温度テーブルを参照して前記間隔を調節する第二の制御手段とを含む請求項2記載の印字装置。
【請求項4】前記第二の制御手段は、印字の改行動作を実行中に前記間隔の調節を実行するように設定された請求項3記載の印字装置。
【請求項5】前記第二の制御手段は、印字の実行中に行う間隔の調節幅を印字品位の変化が認識できる程度以下の小刻みな幅毎に実行するように設定された請求項3記載の印字装置。
【請求項6】前記間隔を自動的に調整する手段は、前記用紙の厚さ情報を複数n段階に区分し前記温度情報を複数m段階に区分しこれに対応してn×m個の間隔の情報を記録した制御テーブルを設け、前記用紙の厚さ情報および前記温度情報を取込みこの制御テーブルを参照して前記n×m個の間隔の情報のうち該当する一つを利用して前記間隔を調節する制御手段を備えた請求項2記載の印字装置。

【図2】
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【図4】
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【図1】
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【図3】
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【図5】
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【公開番号】特開2001−162891(P2001−162891A)
【公開日】平成13年6月19日(2001.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平11−350335
【出願日】平成11年12月9日(1999.12.9)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【出願人】(000232025)日本電気データ機器株式会社 (5)
【出願人】(000102728)株式会社エヌ・ティ・ティ・データ (438)
【Fターム(参考)】