説明

危険物貯蔵庫の床構造体の製造方法

【課題】床パネルのコンクリートに亀裂等を生じさせずに危険物貯蔵庫の床構造体を製造する危険物貯蔵庫の床構造体製造方法を提供する。
【解決手段】枠状の土台と,当該土台上に束を介して固定されたコンクリート床パネルとを有して構成される危険物貯蔵庫の床構造体の製造方法は,枠状の土台に束を形成し,根太を並べて形成される床フレームを束に載せて固定した後,当該床フレーム上に張られたシートの上にコンクリートを打設することで,土台に固定された前記コンクリート床パネルを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,危険物を貯蔵する危険物貯蔵庫の床構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
消防法上の危険物を所定の指定数量以上貯蔵する場合は,各種法令による基準を満たした危険物貯蔵庫に保管する必要がある。
【0003】
消防法上の危険物は,その種類に応じて,第1類から第6類までに分類されており,例えば,そのうちの第4類に分類される引火性液体(例えば,アルコール、ガソリン、灯油などの可燃性及び揮発性を有する液体)を一定量(例えば、指定数量の1/5倍〜10倍)貯蔵するには、火災予防条例などの法令の耐火性や換気性などに関する基準を満たした危険物貯蔵庫に保管する必要がある。
【0004】
危険物貯蔵庫は、コンクリート構造の建築物として、設置場所に建設することも可能であるが、指定数量1/5倍〜10倍の比較的小規模の貯蔵の場合には、床面積1坪〜3坪程度の鉄骨構造のものが普及している。この鉄骨構造の危険物貯蔵庫は、工場においては、まず、溶接などにより鉄骨部品の骨組みを形成した後、床面、天井面、壁面に鋼板を取り付け、必要な設備(換気扇や照明など)を付帯させて生産される。そして、工場で完成品として生産された後、設置場所に運搬されて所定位置に設置される。工場生産とすることで、運搬可能なサイズに限定されるが、安定した品質を担保し、工期を短縮することができ、コストの削減も図られる。
【0005】
また、床をコンクリート構造とする構成も提案されているが(例えば下記特許文献1)、この構造においても、工場で生産された後、トラックで運搬されて、設置位置に設置される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−2381号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1における危険物貯蔵庫の床構造体の製造工程は,まず,床フレームに張られたシート上にコンクリートを打設して床パネル(床面)を作成する。その後,危険物貯蔵庫の工場組立段階において,工場内で,作成した床パネルを持ち上げ,危険物貯蔵庫の土台(鉄骨の骨組みの底部分)の上に載せられ,土台と床フレームが溶接により固定され,危険物貯蔵庫の床構造体が完成する。
【0008】
しかしながら,コンクリートが打設された床パネルを持ち上げ,土台付近まで運び,床パネルを床パネル上に載置する工程において,床パネルの移動による撓みや載置の際の衝撃などにより,打設されたコンクリートに亀裂(クラック,ひび割れ)が生じ,品質の低下を招くおそれがある。
【0009】
近年,危険物貯蔵庫の大型化の要求が強まり,例えば,いわゆる建築確認申請を必要とする床面積10平方メートル以上の危険物貯蔵庫の需要も増大しつつある。このような床面積の広い大型の危険物貯蔵庫を工場内で製造する場合,その床面積に合わせた大型の床パネルを作成することになるが,大型の床パネル(特に,一辺が4メートルを超えるもの)は撓みやすく,床パネルの大型化が進むほど,床パネルの土台への載置の際の移動において,コンクリートの亀裂等が生じやすくなるという問題がある。
【0010】
そこで,本発明の目的は、上記問題点に鑑み、床パネルのコンクリートに亀裂等を生じさせずに危険物貯蔵庫の床構造体を製造する危険物貯蔵庫の床構造体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の危険物貯蔵庫の床構造体の製造方法は,枠状の土台と,当該土台上に束を介して固定されたコンクリート床パネルとを有して構成される危険物貯蔵庫の床構造体の製造方法において,前記枠状の土台に前記束を形成し,根太を並べて形成される床フレームを前記束に載せて固定した後,当該床フレーム上に張られたシートの上にコンクリートを打設することで,前記土台に固定された前記コンクリート床パネルを形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の危険物貯蔵庫の床構造体製造方法によれば,床パネルのコンクリートに亀裂を生じさせずに,危険物貯蔵庫の床構造体を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】危険物貯蔵庫の縦断面図を示す。
【図2】危険物貯蔵庫の横断面図を示す。
【図3】危険物貯蔵庫の床構造体(土台16及び床パネル10)の詳細を示す図である。
【図4】土台16の平面図である。
【図5】床フレーム11の平面図である。
【図6】床フレーム11にコンクリートが打設された床パネル10の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。しかしながら、かかる実施の形態例が、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【0015】
本実施の形態例では,一例として,換気設備を有さない危険物貯蔵庫の構成例を示すが,例えば第4類の引火性液体を貯蔵する危険物貯蔵庫のように,換気設備を有する危険物貯蔵庫にも適用可能である。
【0016】
図1は,危険物貯蔵庫の縦断面図を示し,図2は危険物貯蔵庫の横断面図を示す。危険物貯蔵庫(以下,貯蔵庫と称す)は,所望の床面積となるサイズとなるように,幅及び奥行きの寸法を決め,軽量鉄骨の骨組みにより,土台16及び支柱17を構成する。側面の壁2は,好ましくは,耐火性・断熱効果・強度に優れているケイ酸カルシウム板で形成され,外側面に鋼板が張り付けられる。屋根20は鋼板である。
【0017】
貯蔵庫の前面には,ドラム缶程度の大きさの容器などを搬入できる程度に開口する扉1が設けられる。内部の照明には,安全増防爆灯7が備えられる。また,第4類の引火性液体を貯蔵する場合は,貯蔵庫は,換気設備として,内部に可燃性ガスがたまらないように,壁2に外気取り入れ口が設けられると共に,内部から外部に排気ダクトを導き,その先にベンチレータを設ける必要がある(特許文献1参照)。
【0018】
貯蔵庫の床を形成する床パネル10は,土台16の上に設置され,床パネル10は,枠状の床フレーム11,床フレーム11上に敷設されるシート12,シート12上に配置される鉄筋13,及びシート12上に打設されるコンクリート板15を含んで構成される。また,土台16及び床パネル10を床構造体と称する。
【0019】
なお,第4類の引火性液体を貯蔵する場合は,貯蔵庫の床パネル10の片隅にはドレン受け(溜め升)が設けられ,床パネル10のコンクリート板15は,そのドレン受けに向けて緩やかに下る勾配が設けられる。こうして,貯蔵している液体が床にこぼれた場合に,そのこぼれた液体がドレン受けに流れ込むようにする。そして,第4類の引火性液体を貯蔵する場合に必要な設備である排気ダクトの吸い込み口は,ドレン受けの直上に設けられ,ドレン受けから生じた可燃性ガスは直ちに排気ダクトから外に排出される(特許文献1参照)。
【0020】
図3は,床構造体(土台16及び床パネル10)の詳細を示す図であり,図3(a)は図1の点線囲み部分の拡大断面図であり,図3(b)は,A−A線の拡大断面図である。さらに,図4は土台16の平面図,図5は床フレーム11の平面図,図6は,床フレーム11にコンクリートが打設された床パネル10の平面図である。
【0021】
図4に示されるように,鉄骨骨組みの土台16は,ボックス状の金属部材を溶接して,少なくとも枠(好ましくは,さらに格子を有する)形状に組み立てられる。土台16上には,複数の所定位置に束19が立てられ,溶接にて固定される。束19も,土台16と同様のボックス状の金属部材を短く切断して形成される。ボックス状の金属部材は,例えば,肉厚3.2mm×縦75mm×横75mmの寸法であり,束の高さは,例えば65mm程度である。土台16の縦横寸法は,貯蔵庫の床寸法に応じて適宜決定される。
【0022】
床フレーム11は,土台16とほぼ同一の縦横寸法を有し,図5に示されるように,枠11aの中に複数の根太11bを所定間隔で並べて配置し,根太11b間は間隔部材11cにより支持される。床フレーム11も,土台16と同様に,ボックス状の金属部材を用いて,溶接により枠と格子を有する形状に組み立てられる。
【0023】
本実施の形態の床構造体製造方法では,床フレーム11にコンクリートを打設する前に,コンクリートが打設されていない骨組み状態の床フレーム11を,あらかじめ土台16に固定し,その後,床フレーム11が土台16に固定された状態で,床フレーム11にコンクリートを打設する。ボックス状の金属部材を溶接して組み立てられた床フレーム11は,その状態で,土台16上に束19を介して載置され,溶接にて束19に固定される。すなわち,コンクリートが打設される前の床フレーム11を土台16に固定した後に,床フレーム11にコンクリートが打設される。これにより,コンクリートが打設された状態の床フレーム11(床パネル10)を持ち上げて,移動させる必要がなくなり,当該移動の際に生じうるコンクリートの亀裂・クラックを生じさせることがなくなり,品質の劣化を確実に防止できる。特に,床の長辺が4mを超える比較的大型の危険物貯蔵庫の床構造体を製造する場合は,床パネル10も大型化し,重量も重くなり,持ち上げ移動の際に撓みやすくなるが,本製造方法によれば,コンクリート打設後に床パネルを持ち上げ移動する必要がないため,比較的大型の危険物貯蔵庫を安定した高品質で製造することができる。
【0024】
こうして,土台16上にコンクリートが打設される前の床フレーム11を固定した後に,床フレーム11にコンクリートを打設する。具体的には,まず,図3及び図6に示されるように,床フレーム11の上には,シート12が張られる。シート12は,例えば鋼製波板(厚さ0.8mm程度)が用いられるが,もちろん平板状でもよい。シート12の上には,コンクリート補強用の格子状の鉄筋13が敷かれる。床フレーム11の周囲には,鋼製の縁板11d(厚さ4.5mm,高さ85mm程度)が溶接してあり,縁板11dの高さまで,コンクリートが打設される。コンクリートの打設から所定期間,養生を行い,コンクリート板15となる。
【0025】
なお,シート12及び鉄筋13の配置作業は,床フレーム11を土台16に固定する前,または固定した後のいずれで行われてもよい。すなわち,シート12及び鉄筋13が配置された床フレーム11を土台16に固定してもよいし,シート12及び鉄筋13が配置されていない状態の床フレーム11を土台16に固定した後,シート12及び鉄筋13を配置し,その後,コンクリートを打設してもよい。
【0026】
このように,本実施の形態例の危険物貯蔵庫の床構造体製造方法は,土台16に床フレーム11を固定した後に,床フレーム11にコンクリートを打設するので,床パネル10製造時におけるコンクリート板15の亀裂やクラックの発生を防止することができる。
【0027】
本実施の形態例の危険物貯蔵庫の床構造体製造方法は,第1類から第6類まで分類されている消防法上の危険物のいずれを貯蔵する危険物貯蔵庫にも適用可能であり,上述したように,危険物の種類により必要に応じて換気設備を設置し,さらに,床にドレン受け(溜め升)を設け,床パネル10のコンクリート板15をドレン受けに向けて下るように傾斜をつける(特許文献1参照)。
【符号の説明】
【0028】
1:扉,2:壁,7:安全増防爆灯,10:床パネル,11:床フレーム,11a:枠,11b:根太,11c:間隔部材,11d:縁板,12:シート,13:鉄筋,15:コンクリート板,16:土台,17:支柱,19:束,20:屋根

【特許請求の範囲】
【請求項1】
枠状の土台と,当該土台上に束を介して固定されたコンクリート床パネルとを有して構成される危険物貯蔵庫の床構造体の製造方法において,
前記枠状の土台に前記束を形成し,根太を並べて形成される床フレームを前記束に載せて固定した後,当該床フレーム上に張られたシートの上にコンクリートを打設することで,前記土台に固定された前記コンクリート床パネルを形成することを特徴とする危険物貯蔵庫の床構造体の製造方法。
【請求項2】
請求項1の製造方法により製造された床構造体を備えた危険物貯蔵庫。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−132216(P2012−132216A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−285482(P2010−285482)
【出願日】平成22年12月22日(2010.12.22)
【出願人】(504208795)有限会社アークテック (3)
【Fターム(参考)】