説明

卵中でのタンパク質の産生

【課題】抗体などの組換えタンパク質を、高収率、低コストで、卵中で製造する方法の提供。
【解決手段】(i)組換えタンパク質をコードする第一のDNA、(ii)該タンパク質の鳥類の卵への送達を容易にしうる第二のDNAであって、該卵上の受容体へ結合する免疫グロブリンのFcドメインのCH2−CH3領域をコードするもの、および(iii)トリで発現させるために該第一のDNAおよび該第二のDNAに作動可能に連結したプロモーターを含む、組換えタンパク質をトリ卵中へ送達するための発現系。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、卵中での組換えタンパク質の製造方法;組換えタンパク質の卵中への送達のための発現系;該組換えタンパク質を含有する卵および該組換えタンパク質を産生するトランスジェニック非ヒト産卵性動物に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオテクノロジーは、疾患の診断や治療などの多くの重要な医学的適用性を有するタンパク質の改良された産生を可能にしている。残念ながら、組換えタンパク質の産生のためのこれまでの方法の多くは、タンパク質の大スケールでの産生および精製のための高コストのために利用できないものである。
【0003】
抗体分子は、バイオテクノロジーを利用して製造されているタンパク質のタイプの一つである。抗体(または免疫グロブリン)は、種々の疾患および病原体の治療および診断の両方で有用な極めて特異的な手段である。簡単に説明すると、完全な抗体または免疫グロブリン分子は2本の重(H)鎖および2本の軽(L)鎖からなり、それぞれカルボキシ末端側に定常領域およびアミノ末端側に可変領域を有している。幾つかの定常領域アイソタイプ、すなわち、軽鎖に対して2つ(カッパおよびラムダ)および重鎖に対して5つ(アルファ、ガンマ、デルタ、イプシロンおよびミュー)のアイソタイプがヒト免疫グロブリンにおいて同定されている。名前が示しているように、可変領域の配列は各免疫グロブリン分子で変化する。可変領域は抗原結合部位を有し、それゆえ免疫グロブリン分子の抗原特異性を決定する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ヒトに免疫を施すときは、免疫用の抗体に対する免疫応答を避けるためにヒト抗体を用いるのが望ましい。しかしながら、実際的かつ倫理的な考慮から、ヒト源から大量のヒト抗体を産生することは可能ではなかった。血清や母乳からのヒトIgが有効であることが示されているが、ヒト製品のコストが高いことと供給が限られていることから広く応用することが阻まれている。非ヒト抗体調製物に対する免疫応答を低下させるため、キメラ抗体やヒト化抗体が調製されている。キメラ抗体は、抗体の定常領域がヒト抗体に由来し、可変領域が免疫した一般的には非ヒトの宿主に由来するように遺伝子組換えにより製造される。可変領域は、通常、所望の抗原で免疫した齧歯類から単離した抗体に由来する。
【0005】
抗体が有用な一つの領域は、腸内感染の治療である。下痢、赤痢または腸熱という結果となる腸内感染は大きな公衆衛生問題となっており、開発途上国では10億以上の疾患の発現および数百万に及ぶ年間死者数となっている。ロタウイルスは、開発国および開発途上国の両方で幼児や年少の子供での感染性胃腸炎の一つの主要な原因である。腸管毒産生性の(enterotoxigenic)大腸菌(ETEC)は他の主要な病因であり、毎年6億以上の下痢のケースを引き起こしている。ETEC疾患は、汚染された食物や水を摂取することにより開始される。細菌は上部小腸に移動およびコロニー形成し、熱安定性および/または熱不安定性のエンテロトキシンを産生する。両タイプの病原体は、粘膜表面を標的とした抗体処置に対して感受性であるに違いない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、卵中でのタンパク質の製造方法に関する。広く言及すれば、本発明は卵中での組換えタンパク質の製造方法であって、該タンパク質の発現および卵中への該タンパク質の送達に適した条件下で該タンパク質を産卵性哺乳動物で発現させることを含む方法を提供する。
【0007】
組換えタンパク質は、該組換えタンパク質をコードするDNA配列および該組換えタンパク質を発現するのに必要な制御領域のDNA配列を含む発現系を用いて動物で発現させ、卵中に送達できる。組換えタンパク質が通常、卵中には蓄積しない場合には、発現系はまた該タンパク質を産卵性動物の卵へ標的または送達することのできる第二のDNA配列を含むであろう。
【0008】
この第二のDNAは、組換えタンパク質の発現を卵へ標的しうる卵特異的な遺伝子に由来する制御領域をコードしていてよい。または、この第二のDNA配列は、卵上の受容体と結合しうるタンパク質またはペプチドをコードしていてよく、その結果、組換えタンパク質の卵中への取り込みとなるものであってよい。
【0009】
本発明者らは、免疫グロブリンタンパク質が産卵性哺乳動物で発現され、卵中へ移動しうることを示した。とりわけ、本発明者らは、ヒト免疫グロブリンタンパク質からの定常領域がトリ卵母細胞に結合することができ、卵黄内に取り込まれ得ることを見出した。
【0010】
一つの態様において、本発明は家禽類の卵中での組換え抗体分子の製造に関する。好ましい態様において、本発明は鶏卵でのヒト化抗体の製造に関する。
【0011】
本明細書において使用する「ヒト化抗体」なる語は、ヒト定常領域を含む免疫グロブリンまたは抗体分子を意味する。ヒト化抗体はキメラ抗体であってよく、ニワトリやマウスなどの非ヒト種からの可変領域を含んでいてよい。この抗体はまた非キメラであってよく、ヒト可変領域を含んでいてよい。「抗体」および「免疫グロブリン」なる語は、本明細書において相互に同じ意味で用いられる。
【0012】
従って、本発明は、(i)免疫グロブリンの定常領域をコードする第一のDNA配列、(ii)免疫グロブリンの可変領域をコードする第二のDNA配列および(iii)抗体を発現させるのに充分な制御領域を含む、組換え抗体を卵中へ送達するための発現系を提供する。好ましくは、定常領域はヒト免疫グロブリンからのものである。
【0013】
免疫グロブリンタンパク質を卵により結合および取り込ませることができるという本発明者らによる知見は、所定の組換えタンパク質(b)に結合した、卵への結合および卵中への取り込みを可能とする免疫グロブリンタンパク質の充分な部分(a)を含む融合タンパク質を調製することにより、組換えタンパク質を卵中に送達することを可能にする。従って、本発明は、卵に結合し、その結果組換えタンパク質の取り込みとなるのに充分な免疫グロブリン分子の部分をコードする第二のDNA配列(b)に作動可能に連結した、組換えタンパク質をコードする第一のDNA配列(a)を含む、組換えタンパク質を卵中に送達するための発現系を提供する。特別の態様において、第二のDNA配列は免疫グロブリン定常領域をコードする遺伝子からのものである。
【0014】
上記発現系は、種々の技術を用いて産卵性動物中に導入することができる。一つの態様において、発現系を直接、産卵性動物中に導入し、そこで組換えタンパク質を発現させ、卵中へ送達させる。
【0015】
他の態様では、発現系を培養中の宿主細胞へトランスフェクションする。この宿主細胞を産卵性動物に注射することができ、そこで組換えタンパク質は分泌されるであろう。宿主細胞は産卵性動物と同じ種のものであるのが好ましい。特別の態様において、宿主細胞はトリ細胞株である。組換えタンパク質が抗体である場合は、トリ細胞株はリンパ細胞株であるのが好ましく、さらに好ましくはDT40やv−rel形質転換B細胞株などの不死化B細胞株である。
【0016】
他の態様において、組換えタンパク質を必要ならタンパク質を卵中へ送達させるタンパク質またはペプチドとの融合タンパク質として発現するトランスジェニック産卵性動物を調製することにより、発現ベクターを卵中へ送達させることができる。好ましくは動物は家禽類であり、組換えタンパク質はヒト化抗体などの抗体である。
【0017】
本発明は、組換えタンパク質を含有する卵調製物、並びに、たとえば種々の疾患の診断、予防および治療などにおける、該卵調製物のすべての使用を包含する。卵調製物は直接用いることができ、または組換えタンパク質をさらに卵から単離および精製することができる。
【0018】
一つの態様において、抗体は腸内感染の予防および治療において有用である。
本発明はまた、動物の卵中に病原体に特異的な組換え抗体を調製することにより、病原体を含まない卵を調製するのに用いることができる。従って、本発明は、特定の病原体を含まない卵の製造方法であって、
(a)該病原体に特異的な抗体を産卵性動物中に導入し、ついで
(b)該動物に産卵させ、その際、該卵は実質的に該病原体を含まない
ことを含む方法を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の他の特性および利点は、下記の詳細な説明から明らかとなるであろう。しかしながら、詳細な説明および特定の実施例は本発明の好ましい態様を示すものではあるが、この詳細な説明から当業者には種々の変更および修飾が本発明の範囲内で明らかであろうから、説明のためにのみ提供されたものであることが理解されるべきである。
【0020】
広く言及すれば、本発明は、組換えタンパク質の発現および卵中への送達に適した条件下で該タンパク質を産卵性哺乳動物中で発現させることを含む、組換えタンパク質を卵中で製造する方法を提供する。
【0021】
タンパク質はいかなるタンパク質であってもよいが、抗体、サイトカイン、ホルモン、酵素、ワクチンおよび診断応用のための抗原、および治療用ペプチドを含む。
【0022】
卵は、鳥類、両生類、爬虫類および魚類を含むあらゆる産卵性動物からのものであってよい。好ましくは、卵はニワトリ、七面鳥またはアヒルなどの家禽類からのものである。組換えタンパク質源として卵を使用することは、昨今の動物保護規制との適合性、安価さ、便利さ、無菌性、卵黄の分画および抗体などのタンパク質の精製の技術を利用できることを含む、相当の利点を提供する。1個の卵からは約100mgの抗体を産生することができ、1年に250個の卵を生む1羽のメンドリからは25gのIgを産生することができ、10,000羽のメンドリからなる小集団からは毎年25kgの免疫グロブリンを産生することができる。卵は室温で数週間貯蔵できる。
【0023】
1.発現系
(a)免疫グロブリン
上記で言及したように、本発明者らは免疫グロブリンを産卵性動物中で発現させ、卵中に移動させうることを示した。
【0024】
とりわけ、本発明者らは、ニワトリに直接注射したときか(実施例1)または組換えIgGまたはIgAを発現する細胞株をニワトリに注射したとき(実施例2および3)のいずれかのときに、ヒト免疫グロブリン(Ig)GおよびIgAを鶏卵中に移動させうることを示した。さらに、本発明者らは、家禽類の卵中へのIgの結合および取り込みに関与する免疫グロブリンの部分が、免疫グロブリンタンパク質のFcドメイン中のCH2−CH3領域に存在することを決定した。本発明者らはさらに、家禽類の卵上のFc受容体は、マウスでの母胎関門(maternofetal barrier)を通過するIgGの輸送、母IgGのトランスサイトーシスおよび血清Igレベルの制御において何らかの役割を果たしている哺乳動物Fc受容体ネオネート(Fc Receptor neonate)のホモログであると思われることを決定した(実施例4)。
【0025】
従って、本発明は、(i)免疫グロブリンの可変領域をコードする第一のDNA配列、(ii)免疫グロブリンの定常領域をコードする第二のDNA配列および(iii)抗体を発現させるのに充分な制御領域を含む、組換え抗体を卵中へ送達するための発現系を提供する。
【0026】
好ましい態様において、本発明は鶏卵中でのヒト化抗体の製造に関する。本明細書中での定義において、ヒト化抗体は少なくともヒト定常領域を含む。定常領域は、カッパおよびラムダ軽鎖およびアルファ、ガンマ、デルタ、イプシロンおよびミュー重鎖遺伝子を含むいかなる公知の定常領域からも選択することができる。可変領域は、ヒトのものであるか、または家禽類、ヒツジ、マウスまたはウシなどの非ヒトのものであってよい。可変領域と定常領域とが異なる種に由来するものであるならば、その抗体は「キメラ抗体」と呼ばれる。キメラ抗体は、Morrisonら、Proc. Natl. Acad. Sci. 81: 6851-6859, 1984(参照のため本明細書中に引用する)に記載されているような当該技術分野で知られた技術を用いて調製できる。
【0027】
可変領域は、所望の抗原に対する特異性を有していてよい。所望の抗原は、細菌、ウイルス、毒素、アレルゲン、並びに腫瘍結合抗原を含む疾患特異的抗原から選択されてよい。所望の抗原特異性を有する可変領域をコードする可変領域遺伝子は、所望の抗原特異性を有するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマから得ることができる。所望の特異性を有する抗体を産生するハイブリドーマもまた、当該技術分野で知られた技術を用いて調製できる。簡単に説明すると、動物(ニワトリ、マウスまたはウサギなど)を所望の抗原で免疫し、該抗体を産生するリンパ球を得る。このリンパ球をミエローマ細胞などの不死化細胞と融合させてハイブリドーマを調製することにより不死化する。所望の抗体を産生するハイブリドーマは、当該技術分野で知られた技術(たとえば、KohlerおよびMilstein, Nature 256: 495-497, 1975を参照)を用いて選択することができる。ついで、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)などの知られた技術を用いてハイブリドーマから所望の可変領域遺伝子を単離することができる。
【0028】
2つの異なる抗原特異性を有する2つの異なる可変領域を含む2官能性抗体もまた調製できる。
【0029】
ヒト定常領域をコードするDNA配列は、利用できる入手源から得るか、またはヒト定常領域を有する抗体を産生するハイブリドーマ細胞株から上記技術を用いて単離することができる。
【0030】
ヒト定常領域をコードするDNA配列および所望の可変領域をコードするDNA配列を含む組換え発現ベクターを調製することができる。これらベクターは、さらに、プロモーター、エンハンサーおよび終止配列などの発現調節または制御配列を含むであろう。好ましい制御配列は免疫グロブリン遺伝子からのものであるが、ウイルスからのものなどの別の制御領域を用いることもできる。ベクターは、プラスミド、ウイルス、レトロウイルス、およびアデノウイルスを含む様々なベクターから選択できる。
【0031】
定常領域をコードするDNA配列および必要な制御配列を含む、前以て生成した発現ベクターもまた調製できる。所望の抗原特異性を有する抗体を調製するため、所望の可変領域DNA配列を該前以て生成したベクター中に挿入することができる。それゆえ、該前以て生成したベクターは、所望のヒト化抗体の調製を容易にするものである。
【0032】
(b)組換え融合タンパク質
上記で言及したように、本発明らは、免疫グロブリンが家禽類の卵に結合し、該卵中に輸送されることを示した。さらに、本発明者らは、鶏卵へのIgの結合および取り込みに関与する免疫グロブリンの部分が、FcドメインのCH2−CH3領域中に含まれることを決定した。本発明者らによるこの知見は、所望のタンパク質を卵への結合に充分な免疫グロブリンの配列に結合させることにより、いかなる組換えタンパク質をも卵中で製造することを可能にする。
【0033】
従って、一つの態様において、本発明は、卵に結合し、その結果組換えタンパク質の取り込みとなるのに充分な免疫グロブリンタンパク質の部分をコードする第二のDNA配列(ii)に作動可能に連結した、組換えタンパク質をコードする第一のDNA配列(i)を含む、組換えタンパク質を卵中に送達するための発現系を提供する。
【0034】
「卵に結合するのに充分な免疫グロブリン分子の部分(「部分」と略する)」なる語は、卵上の受容体に結合することができ、その結果、卵中に輸送されうる、免疫グロブリンからのアミノ酸配列を含む。該「部分」は、卵上のFc受容体に結合するものが好ましく、さらに好ましくはトリのFcRnである。
【0035】
特別の態様において、第二のDNA配列は免疫グロブリンの定常領域からのものである。好ましくは、第二のDNA配列は、免疫グロブリンの定常領域ドメインのCH2−CH3領域の部分をコードする。
【0036】
組換えタンパク質は、免疫グロブリンタンパク質との融合タンパク質として調製されるであろう。組換えタンパク質は、当該技術分野で知られた技術を用いて融合タンパク質から遊離させることができる。
【0037】
発現系はさらに、組換えタンパク質の発現を可能とするプロモーター、エンハンサーおよび終止配列などの必要な制御配列を含むであろう。発現系はウイルス系または非ウイルス系のベクターであってよく、当該技術分野で知られた技術を用いて構築することができる。ファージミドは、プラスミドかまたはバクテリオファージベクターのいずれとしても用いることができるので、有用なベクターの一例である。他のベクターの例としては、バクテリオファージ、バキュロウイルスおよびレトロウイルス、DNAウイルスなどのウイルス、リポソームおよび他の組換えベクターが挙げられる。ベクターはまた、真核宿主系、好ましくはトリの宿主系で使用するための要素を含んでいてよい。
【0038】
当業者であれば、本発明が、ビテロゲニンやアポリポタンパク質Bなどの卵特異的な受容体に結合しうる他のタンパク質またはペプチドを用いた組換えタンパク質の製造方法を包含することを認識するであろう。
【0039】
2.卵への送達およびターゲティング
本発明の上記発現系は、当該技術分野で知られた技術を用いて産卵性動物中に導入することができる。
【0040】
一つの態様において、発現系を産卵性動物中に直接導入する。
従って、本発明は、組換えタンパク質を卵中で製造する方法であって、
(a)発現系を産卵性動物中に導入し、その際、該発現系は、動物の卵への該組換えタンパク質の送達を容易にしうる第二のDNA配列(ii)に作動可能に連結した、該組換えタンパク質をコードする第一のDNA配列(i)を含み、
(b)該動物に産卵させ、
(c)該組換えタンパク質を含有する卵を得、ついで任意に
(d)該組換えタンパク質を該卵から単離する
ことを含む方法を提供する。
【0041】
好ましくは、第二のDNA配列は、卵に結合し、その結果、卵中への組換えタンパク質の取り込みとなるに充分な免疫グロブリンタンパク質の部分をコードする。さらに好ましくは、第二のDNA配列は、免疫グロブリンの定常領域ドメインのCH2−CH3領域の部分をコードする。
【0042】
一つの態様において、本発明は、組換え抗体を卵中で製造する方法であって、
(a)発現ベクターを産卵性動物中に導入し、その際、該発現ベクターは、(i)免疫グロブリンの定常領域をコードする第一のDNA配列、(ii)免疫グロブリンの可変領域をコードする第二のDNA配列および(iii)抗体を発現させるのに充分な制御領域を含み、
(b)該動物に産卵させ、
(c)該組換え抗体を含有する卵を得、ついで任意に
(d)該組換えタンパク質を該卵から単離する
ことを含む方法を提供する。
【0043】
産卵性動物の細胞または組織中への発現系の導入は、当該技術分野で知られた様々な方法のいずれによっても行うことができる。そのような方法は、一般に、Sambrookら、Molecular Cloning: A Laboratory Manual, コールド・スプリングス・ハーバー・ラボラトリー、ニューヨーク(1989、1992)、Ausubelら、Current Protocols in Molecular Biology,ジョン・ウィリー・アンド・サンズ、ボルチモア、メリーランド(1989)、Changら、Somatic Gene Therapy,CRCプレス、アン・アーバー、ミシガン(1995)、Vegaら、Gene Targeting, CRCプレス、アン・アーバー、ミシガン(1995)、Vectors: A Survey of Molecular Cloning Vectors and Their Uses,バターワース、ボストン、マサチューセッツ(1988)およびGilboaら(1986)に記載されており、たとえば、安定なまたは一過性のトランスフェクション、リポフェクチン、エレクトロポレーションおよび組換えウイルスベクターによる感染が挙げられる。
【0044】
感染によるベクターなどの発現系の導入は、幾つかの利点を提供する。その感染特性のために一層高い効率が得られる。さらに、ウイルスは非常に特殊化されており、一般に特定の細胞型で感染および増殖する。それゆえ、その天然の特異性を利用してベクターをインビボまたは組織内または細胞の混合培地で特定の細胞型にターゲティングすることができる。ウイルスベクターはまた、特定の受容体またはリガンドで修飾して、受容体を媒体にした事象により標的特異性を変えることもできる。
【0045】
安全性を確実にするためおよび/または効率を高めるため、追加の特性をベクターに付加することができる。そのような特性としては、たとえば、組換えウイルスに感染した細胞に対して陰性選択するのに用いることのできるマーカーが挙げられる。そのような陰性選択マーカーの例は、抗ウイルス剤ガンシクロビアに対する感受性を付与する上記TK遺伝子である。それゆえ、陰性選択は感染を制御しうる手段である、なぜなら陰性選択は抗生物質の添加により誘導性の自殺をもたらすからである。そのような保護は、たとえば変化した形態のウイルスベクターまたは配列を生成する変異が生じたときに、細胞の形質転換が起こらないことを確実にする。発現を特定の細胞型に限定する特性もまた、含めることができる。そのような特性としては、たとえば、所望の細胞型に特異的なプロモーターや制御要素が挙げられる。
【0046】
組換えウイルスベクターは、所望の核酸のインビボ導入のために有用なベクターの他の例である、なぜなら、それは側方感染(lateral infection)やターゲティング特異性などの利点を提供するからである。側方感染は、たとえばレトロウイルスのライフサイクルに内在するものであり、1個の感染細胞が多くの子孫ウイルスが発芽分離し隣接細胞に感染していくプロセスである。その結果は、広い領域が速やかに感染されることであり、その大部分は最初のウイルス粒子によって最初は感染されていなかったものである。このことは、感染因子が娘子孫を通してのみ広がっていく垂直型の感染とは対照的である。側方的に(laterally)広がっていけないウイルスベクターもまた製造することができる。この特徴は、所望とする目的が特定遺伝子を局在化された数の標的細胞にのみ導入することである場合に有用である。
【0047】
レトロウイルスは、感染性粒子としてかまたは単一の初回感染のみを担うべく機能するように構築することができる。前者の場合、ウイルスのゲノムがすべての必要な遺伝子、制御配列およびパッケージングシグナルを保持して新たなウイルスタンパク質やRNAを合成できるようにウイルスのゲノムを修飾させる。一旦、これら分子が合成されたら宿主細胞はRNAを新たなウイルス粒子にパッケージングし、これら新たなウイルス粒子が次回の感染を担うことができる。ウイルスのゲノムはまた、所望の組換え遺伝子をコードおよび発現するように操作される。非感染性ウイルスベクターの場合は、ウイルスのゲノムは通常、RNAをウイルス粒子中に被包するのに必要なウイルスパッケージングシグナルを破壊すべく変異される。そのようなシグナルがなければ、形成された粒子はすべてゲノムを含まず、それゆえその後の感染を進めることができない。特定のタイプのベクターは、意図した適用に依存するであろう。実際のベクターは、当該技術分野で知られているか容易に入手可能であり、あるいはよく知られた方法を用いて当業者により構築することが可能である。
【0048】
上記非感染性ベクターをレシピエント細胞中に接種領域内で導入するには、リポソームなどのトランスフェクションビヒクルをも用いることができる。そのようなトランスフェクションビヒクルは当業者により知られている。
【0049】
第二の態様において、本発明の発現系で形質転換した宿主細胞を産卵性動物中に導入することにより組換えタンパク質を卵中に送達することができる。形質転換した細胞株は、組換えタンパク質を分泌し、組換えタンパク質は卵中へ輸送されるであろう。好ましくは、宿主細胞はトリの細胞株、とりわけ多分化能性の胚細胞株、生殖細胞に運命付けされた(committed)細胞株または体細胞組織および生殖細胞に寄与しうる細胞株である。
【0050】
従って、本発明は、組換えタンパク質を卵中で製造する方法であって、
(a)組換えタンパク質を分泌する形質転換したトリ細胞株を産卵性動物中に導入し、その際、該トリ細胞株は、(i)該組換えタンパク質をコードする第一のDNA配列および(ii)該タンパク質を動物の卵へ送達するのを容易にする第二のDNA配列を含み、
(b)該組換えタンパク質を含有する卵を得、ついで任意に
(c)該組換えタンパク質を該卵から単離する
ことを含む方法を提供する。
【0051】
特別の態様において、トリ細胞株は組換え抗体、好ましくはヒト化抗体を分泌する。トリ細胞株は産卵するメンドリに注射してよい。抗体はメンドリ中でインビボで産生され、卵の卵黄に送達され、卵黄から得ることができるであろう。
【0052】
従って、本発明は、組換え抗体を家禽類の卵中で製造する方法であって、
(a)組換え抗体を分泌する形質転換したトリ細胞株を産卵性家禽類に導入し、その際、該トリ細胞株は、(i)免疫グロブリン定常領域をコードする第一のDNA配列、(ii)免疫グロブリン可変領域をコードする第二のDNA配列および(iii)該抗体を発現させるのに充分な制御領域を含む発現系で形質転換されており、
(b)該組換え抗体を含有する卵を得、ついで任意に
(c)該組換え抗体を該卵から単離する
ことを含む方法を提供する。
【0053】
第三の好ましい態様において、本発明の組換えタンパク質は、該組換えタンパク質を分泌し、該組換えタンパク質が卵中に輸送されるトランスジェニック動物を調製することにより、産卵性動物において製造することができる。従って、本発明は、組換えタンパク質を産卵性動物の卵中で製造する方法であって、
(a)その体細胞または生殖細胞が、該組換えタンパク質を卵中へ送達するのを容易にする第二のDNA配列(ii)に作動可能に連結した、該組換えタンパク質をコードする第一のDNA配列(i)を含む発現系を含有するトランスジェニック産卵性動物を調製し、
(b)該動物から卵を得、ついで
(c)任意に該組換えタンパク質を該卵から単離する
ことを含む方法を提供する。
【0054】
好ましくは、第二のDNA配列は、組換えタンパク質を卵へターゲティングし組換えタンパク質を卵中に取り込ませるのを可能にするに充分な免疫グロブリンタンパク質の部分をコードする。さらに好ましくは、第二のDNA配列は、免疫グロブリンの定常領域ドメインのCH2−CH3領域の部分をコードする。
【0055】
好ましい態様において、組換え抗体は、該抗体、好ましくはヒト化抗体を分泌するトランスジェニック家禽類を調製することにより、家禽類で調製できる。従って、本発明は、組換え抗体を産卵性動物の卵中で製造する方法であって、
(a)その体細胞または生殖細胞が、(i)免疫グロブリン定常領域をコードする第一のDNA配列、(ii)免疫グロブリン可変領域をコードする第二のDNA配列および(iii)該抗体を発現させるのに充分な制御領域を含む発現系を含有するトランスジェニック産卵性動物を調製し、ついで
(b)該動物から卵を得る
ことを含む方法を提供する。
【0056】
トランスジェニック動物を調製するには、本発明の発現系を、マイクロインジェクション、エレクトロポレーション、精子トランスフェクション、リポソーム融合およびマイクロプロジェクタイルボンバードメント(microprojectile bombardment)を含む、当該技術分野で知られた技術を用いて胚(家禽類の胚など)中に挿入することができる。ついで、発現系を含有する胚を代理卵殻(surrogate shell)に移す。トランスジーンを有する動物を性的成熟まで生育させ、組換えタンパク質の存在を成熟した動物の卵中で分析することができる。
本発明はまた、本明細書に記載したトランスジェニック産卵性動物をも包含する。
【0057】
3.卵調製物
本発明はまた、組換えタンパク質を含有する卵並びに該卵のすべての応用での使用をも包含する。卵は可食性の食物源であるため、組換えタンパク質は該卵から単離または精製する必要がない。組換えタンパク質を含有する卵は、直接摂食することもできるし、または摂食前に調理したり調理法(オムレツ、ミルクセーキ、焼き料理品など)の中に入れ込むこともできる。
【0058】
所望なら、組換えタンパク質を卵から単離し、投与前に医薬調合物中に配合することができる。たとえば、ヒト化抗体を当該技術分野で知られた技術(たとえば、米国特許第5,420,253号を参照)を用いて鶏卵から除去することができる。抗体は一般に卵の卵黄中に含まれるので、抗体を得るために卵黄を卵の残りから分離させる。抗体または他の組換えタンパク質を含有する卵黄調製物は、貯蔵のために凍結乾燥することができる。凍結乾燥調製物は、使用のときに再構成する。
【0059】
抗体は、その可変領域の特異性に依存して種々の疾患または病原体を治療または検出するために用いることができる。疾患の治療のためには、抗体を単独か、他の化合物に結合させるか、または他の化合物ととともに投与する。抗体は、それが結合したときに疾患状態または感染した細胞の破壊を容易にするために毒素に結合してよい。そのような結合抗体はイムノトキシンとして知られており、当該技術分野で知られた技術(Thorpeら、Monoclonal Antibodies in Clinical Medicine、アカデミックプレス、p.168−190,1982)を用いて調製できる。
【0060】
組換えタンパク質または抗体は、インビボ投与に適した医薬組成物として調製できる。医薬組成物は、タンパク質または抗体を生物学的に適合しうる担体または希釈剤中、またはリポソームなどの担体系中に含んでいてよい。タンパク質または抗体組成物は、注射、経口投与、吸入、経皮適用または直腸投与などの通常の仕方で投与できる。投与経路に依存して、活性化合物を酵素、酸または抗体を不活化する他の自然条件の作用から保護するために所定の物質にコーティングすることができる。組成物は、治療学的有効量のタンパク質または抗体を含み、所望の結果を達成するのに必要な投与量および期間にて提供されるであろう。
【0061】
抗体は、疾患のインビボまたはインビトロ診断または検出のために用いることができる。インビボ診断では、抗体は上記の適当な医薬調合物中で調製されるであろう。抗体はまた、一般にその検出が可能となるように検出可能なマーカーで標識する。使用できる検出可能なマーカーとしては、種々の酵素、蛍光物質、発光物質および放射性物質が挙げられる。適当な酵素の例としては、西洋ワサビペルオキシダーゼ、ビオチン、アルカリホスファターゼ、β−ガラクトシダーゼ、またはアセチルコリンエステラーゼが挙げられる。適当な蛍光物質の例としては、ウンベリフェロン、フルオレセイン、フルオレセインイソチオシアネート、ローダミン、ジクロロトリアジニルアミンフルオレセイン、ダンシルクロライドまたはフィコエリトリンが挙げられる。発光物質の例としては、ルミノールが挙げられる。適当な放射性物質の例としては、S−35、Cu−64、Ga−67、Zr−89、Ru−97、Tc−99m、Rh−105、Pd−109、In−111、I−123、I−125、I131、Re−186、Au−198、Au−199、Pb−203、At−211、Pb−212およびBi212が挙げられる。抗体はまた、標識し、あるいはリガンド結合ペアの一方のパートナーに結合させることができる。代表例としては、アビジン−ビオチンおよびリボフラビン−リボフラビン結合タンパク質が挙げられる。上記抗体を上記代表的な標識に結合または標識する方法は容易に利用できる。
【0062】
抗体はまた、当該技術分野で知られた技術を用いてインビトロで疾患または病原体を検出するのに用いることができる。これら方法は、抗体と、病原体または疾患に特異的なタンパク質の抗原決定基との間の結合相互作用に依存する。そのような方法の例としては、ラジオイムノアッセイ、エンザイムイムノアッセイ(たとえば、ELISA)、免疫蛍光、免疫沈降、ラテックス凝集、血球凝集、および酵素結合抗体免疫吸着アッセイ(ELISA)などの組織化学的試験、およびウエスタンブロッティングが挙げられる。
【0063】
本発明の抗体は、ロタウイルスや腸管毒性産生性大腸菌(ETEC)(これらは新生児や子供の疾患の主要な病因であるので)などの腸内感染を治療するのに用いることができる。これら病原体またはその一部に特異的な可変領域を含む抗体を調製できる。
【0064】
本発明はまた、病原体不含の卵を調製するのに用いることができる。たとえば、特定の病原体に対して特異的な抗体を産卵性動物中で産生させ、卵へ輸送させることができ、該抗体は卵中で該特定の病原体を中和するであろう。一つの態様において、抗体は抗サルモネラ抗体であり、サルモネラ不含の卵を調製するのに用いることができる。
【0065】
従って、他の側面において本発明は、特定の病原体を含まない卵の製造方法であって、
(a)該病原体に特異的な抗体を産卵性動物中に導入し、ついで
(b)該動物に産卵させ、その際、卵は実質的に該病原体を含まない
ことを含む方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】卵中の卵黄1ml当たりのhIgGの濃度を時間に対して示すグラフである。
【図2】図2Aは、卵黄1ml当たりのhIgAの濃度を時間に対して示すグラフである。図2Bは、卵白1ml当たりのhIgAの濃度を時間に対して示すグラフである。
【図3】図3Aは、卵黄1ml当たりのrhIgGの平均沈積を時間に対して示すグラフである。図3Bは、卵黄1ml当たりのrhIgGの最良の沈積を時間に対して示す。
【図4】図4Aは、メンドリから採取した血液試料中のhIgG細胞の光学顕微鏡像である。図4Bは、メンドリから採取した血液試料中のhIgGの免疫組織染色を示す。
【図5】卵黄1ml当たりのrhIgAの濃度を時間に対して示すグラフである。
【0067】
下記非限定実施例により本発明を説明する。
実施例
【実施例1】
【0068】
ヒト抗体の鶏卵中への取り込み
ヒトIgG(hIgG)が発生中のニワトリ卵胞中へ輸送されうるか否かを決定するため、3羽のHyline SCTMメンドリにそれぞれ10μgの精製hIgGを注射し、卵黄および卵白中のその存在をELISAにより評価した。ヒトIgGはまず卵黄中に第2日目に検出され、89ng/mlまでのピークレベルが第5日目に検出された(図1)。薄い卵白抽出物中ではhIgGは検出されず、その濃度が3.12ng/ml未満(ELISAアッセイの検出限界)であることを示していた。
【0069】
10μgのヒトIgA(hIgA)をも3羽のHyline SCTMメンドリに静脈内注射し、hIgAもまた卵中に沈積しうるか否かを決定した。ヒトIgAはまず卵黄中に第2日目に検出され、33ng/mlまでのピークレベルが第5日目に検出されたが(図2A)、これはhIgGで記録したピークレベルよりも有意に低かった(繰返し測定分析、P<0.01)。hIgGは卵白で検出されなかったが、hIgAは検出された。ヒトIgAはまず卵白抽出物中で第1日目から検出され、約8ng/ml卵白にて第2〜8日目に一定に保持された(図2B)。
【実施例2】
【0070】
組換えIgGの鶏卵中への取り込み
材料および方法
細胞株の培養およびトランスフェクション
Hyline SCTMニワトリ(Hyline International、ダラスセンター、アイオワ)からのニワトリBリンパ芽球細胞株、DT40をCraig Thompson博士から入手し、ヒト/マウスキメラ抗体を産生するトランスフェクション細胞株を確立するのに用いた。細胞を8%(v/v)ウシ胎仔血清(BCS)および2%(v/v)ニワトリ血清(CS)を含有するIMDMTM(Gibco BRL)中で1〜10×106細胞/mlでの培養で維持した。細胞(1×107)を、最適エレクトロポレーション条件下(200V、960μFおよび1000ミリ秒パルス)でのBio-Radエレクトロポレーターを用いたエレクトロポレーションにより、各20μgの線状化重鎖(キメラ抗ダンシルガンマ1)および軽鎖(ヒトカッパを有するキメラ抗ダンシル軽鎖)でトランスフェクションした。細胞を96ウエルマイクロタイター皿中、上記培地にて2日間維持し(2.5×104細胞/ウエル)、その後、3μg/mlのミコフェノール酸、7.5μg/mlのヒポキサンチンおよび125μg/mlのキサンチンを含有する選択培地を加えた。生存したコロニーを、ダンシル−BSAコーティングマイクロタイタープレートおよび検出試薬としてのアルカリホスファターゼ結合抗ヒトカッパを用いた酵素結合抗体免疫吸着アッセイ(ELISA)によりスクリーニングした。ついで、強い陽性のコロニーをさらに特徴付けるために一層大きな皿に移動させた。これら拡張されたコロニーからの細胞を、35S−メチオニンの存在下で一夜増殖させて標識した。一夜増殖させた後、培養上澄み液および細胞質溶解液を調製し、内容物をウサギ抗ヒトIgおよびStaphA(IgSorb)を用いて免疫沈降させた。試料を還元なしで5%ポリアクリルアミドゲル上、および還元後に12%ゲル上で分析した。バンドの位置をオートラジオグラフィーにより決定した。ついで、所望のキメラ抗体を産生したコロニーからの細胞を1〜106細胞/mlにて培地に維持した。
【0071】
Hyline SCメンドリ中での腫瘍の産生
キメラヒト抗ダンシルガンマ3を産生するトランスフェクションしたDT40細胞株、TAOD7.4を、10%ウシ胎仔血清(FBS)を含有するOpti−MEMTM(Gibco BRL,バーリントン)中で1×106細胞/mlの濃度にて培養維持した。細胞を300×gで5分間遠心して回収し、培地を除去した。細胞をダルベッコリン酸緩衝食塩水(PBS、Gibco BRL、バーリントン、オンタリオ)中で5×107細胞/mlの濃度で再浮遊させた。100μlのPBS中の合計5×106細胞をHyline SCTMメンドリの太腿と体壁との間の領域に皮下注射し、腫瘍の発生を毎日モニターした。注射前にメンドリの体重を測定し、ついで体重の変動を1週間に2回モニターした。
【0072】
卵黄抗体の精製および分析
注射したメンドリから卵を毎日回収した。卵黄を卵白から分離させ、卵黄から抗体をガンマYolkTM調製キット(Pharmacia Biotech、モーガン・ブールバード、ケベック)により精製した。精製した卵黄抗体を炭酸緩衝液、pH9.6に再懸濁し、キメラヒト抗ダンシルガンマ3の存在についてサンドイッチ抗体ELISAにより分析した。ImmulonTM96−ウエルマイクロタイタープレートを炭酸緩衝液、pH9.6中のヤギ抗ヒトIgG(H+L)(Jackson Immunoresearch、ウエスト・グルーブ、ペンシルベニア、米国)の5μg/ml溶液(50μl)で4℃にて一夜コーティングした。一夜インキュベーション後、コーティング混合物を廃棄し、プレートをPBSで3回洗浄した。ついで、100μlのブロック緩衝液(3%(w/v)ウシ血清アルブミンを含有するPBS)を加えることによりプレートを室温にて1時間ブロックした。ついで、ブロック緩衝液を廃棄し、プレートをPBSで3回洗浄した。個々の卵黄抗体調製物または系列希釈標準(Cromopure Human IgG、Jackson Immunoresearch、ウエスト・グルーブ、ペンシルベニア、米国)(50μl)を各ウエルに分配し、プレートを4℃で一夜インキュベートした。一夜インキュベーション後、試験溶液を廃棄し、プレートをPBSで3回洗浄した。ブロック緩衝液中で125ng/mlの濃度の西洋ワサビペルオキシダーゼ結合ヤギ抗ヒトIgG(H+L)(Jackson Immunoresearch、ウエスト・グルーブ、ペンシルベニア、米国)(50UL)をプレートのウエルに加え、室温で2時間インキュベートした。ついで、ペルオキシダーゼコンジュゲートを廃棄し、プレートをPBSで3回洗浄した。ついで、西洋ワサビペルオキシダーゼ基質(0.05%(w/v)o−フェニレンジアミン二塩酸塩および0.05%(v/v)30%過酸化水素を含有する酢酸アンモニウム−クエン酸緩衝液(pH5.0))を各ウエルに加え、プレートを暗所、室温にて30分間インキュベートした。硫酸(5M溶液を50μl)を各ウエルに加え、プレートを卓上シェーカーで10分間穏やかに振盪させた。ついで、492nmを有するTitertek MultiskanTM PLUS ELISAプレートリーダーを用いて発色を評価した。
【0073】
結果
卵黄中のヒト免疫グロブリンのアッセイの典型的な標準曲線を表1に示す。卵黄の存在下での吸光度は緩衝液のみを含有する陰性対照ウエルの吸光度と異なることはなく、卵黄がアッセイに干渉しないことを示していた。492nmの吸光度とヒト免疫グロブリン(hIg)のlog10濃度との間の回帰係数は0.99であり、式y=1.1683x−0.0185が吸光度とhIgの濃度との間の関係を正確に記載していることを示していた。
【0074】
卵黄抽出物の存在下で標準曲線を構築することにより、アッセイにおける卵黄の影響をさらに調べた。下記グラフに示すように、吸光度はアッセイの標準のすべての濃度において卵黄の存在によって変わることはなかった。注射していないメンドリからの卵黄抽出物の吸光度は1.56ng/ml未満の標準の吸光度と等しく、1.56ng/ml未満のヒトIgの濃度は検出できないことを示していた。
【0075】
メンドリ#9185(ケージ#2)からの卵中のヒト免疫グロブリンの濃度を表2に示す。このメンドリは、第1日目にヒトIgG3(TAOD7.4)でトランスフェクションした500万の細胞を注射していた。腫瘍は第11日目までは小結節に留まっており、この時点で腫瘍の周辺領域で出血が生じた。第13日目および第15日目に産まれた卵では卵黄中での沈積が顕著であったが、その後の卵ではhIgは検出できなかった。
【0076】
検討
卵黄中でのヒト免疫グロブリンの検出のためのELISAは、感度が1.56ng/mlであることが示され、ヒト免疫グロブリンに特異的であり、再現性があった。卵黄からのヒト免疫グロブリンの回収は約15%であった(データは示していない)。
【0077】
メンドリ#9185での腫瘍の存在は、DT40細胞が宿主ニワトリでコロニー形成して体細胞キメラを生成するであろうことを示していた。このメンドリからの卵黄中のhIgの濃度を調べたところ、ヒト免疫グロブリンが遺伝子操作したDT40細胞中でインビボで産生され、卵黄中に封鎖されることが示されている。卵黄1個は約10〜15mlであり、アッセイでのhIgの回収は約15%であったので、約625ngのhIgがメンドリ#9185によって第13日目に産まれた卵中に沈積することが予想される。
これらのデータは、ヒト免疫グロブリンを鶏卵中で大スケールで産生する技術を開発する理論的根拠を提供している。
【0078】
107のDT40−hIgG3細胞を8羽のHyline SCTMメンドリに静脈内注射した。DT40−IgG3細胞を注射した8羽のうち3羽は注射部位に腫瘍を生成し、細胞のうちのいくつかまたはすべてが静脈内送達されるのではなく皮下注射されたことを示していた。注射部位に腫瘍を生成したメンドリからの卵は、卵黄中に非常にわずかのrhIgG3しか有せず、薄い卵白中では認められなかった(データは示していない)。rhIgG3はまず、残りの5羽のメンドリで第7日目に卵黄中で検出された(図3Aおよび3B)。これらメンドリのうちの4羽でのrhIgG3の最大沈積は、卵1ml当たり33ngであり、第10日目に産まれた卵で認められた。これらメンドリの1羽(トリ6、図3B)は第10日目または第11日目に卵を産まず、第12日目に産まれた卵は0.3μg/ml卵黄のrhIgG3を含有していた。このメンドリは第13日目および第14日目には卵を産まず、第15日目および第16日目に産まれた卵ではrhIgG3は検出されなかった。
【0079】
ニワトリ抗rhIgG3は、注射部位での腫瘍の存在または不在にかかわりなく、DT40−IgG3細胞を注射したすべてのメンドリで第6日目までに卵黄中で検出され、卵黄中での最大レベルのニワトリ抗rhIgG3は第9日目までに観察された(データは示していない)。DT40−IgG3細胞を静脈内注射したすべてのメンドリを第17日目に安楽死させた。剖検では注射したいずれのトリにも内部の腫瘍は観察されなかった。DT40−IgG3細胞が白血病として維持されているか否かを決定するため、血液試料をトリから採取し、DT40−IgG3細胞の存在の継続について光学顕微鏡および免疫蛍光染色の両方で評価した。注射部位で腫瘍を生成したメンドリから採取した血液試料ではDT40−IgG3細胞は観察されなかったが、これら腫瘍からの細胞は培養で首尾良く再確立され、rhIgG3を産生し続けることが示された(データは示していない)。注射部位に腫瘍を生成しなかったメンドリでは、DT40−IgG3細胞と形態的に類似する細胞のクラスターが希釈血液試料中に観察された(図4A)。これらは、細胞内hIgGについての免疫組織化学染色によりDT40−IgG3細胞であることが確認された。
【実施例3】
【0080】
組換えIgAの鶏卵中への取り込み
DT40−IgG3細胞と同様に、マウス/ヒトキメラ抗ダンシルα抗体(rhIgA)を分泌する、トランスフェクションしたDT40細胞株、DT40−hIgAを製造した。rhIgAを産生するトランスフェクションしたB細胞の集団を有するメンドリがrhIgAを卵中に輸送することを示すため、107のDT40−hIgA細胞を8羽のHyline SCTMメンドリに静脈内注射した。DT4−hIgA細胞を注射したメンドリのうち5羽が注射部位に腫瘍を生成した。卵白中へのrhIgAの低レベルの沈積が注射したすべてのメンドリで検出されたが、腫瘍を生成したメンドリの卵黄ではrhIgAの非常にわずかの沈積しか検出されなかった(データは示していない)。注射部位に腫瘍生成の兆候を示さなかった3羽のメンドリは、第9日目までに20ng/ml卵黄までのrhIgAを沈積した。
【実施例4】
【0081】
トリ卵上のFc受容体の特徴付け
この研究では、発生中のトリの卵母細胞卵胞へのIgの取り込みに関与するFc配列を解明することを試みるため、修飾rhIgGのパネルを調製した。IgGを卵黄中に輸送することを担う発生中のトリ卵母細胞の細胞膜上のFc受容体が哺乳動物のFcRnのホモログであると思われることを報告したのは本発明者らが最初である。FcRnは、マウスにおいて母胎関門を通過するIgGの輸送、母IgGのトランスサイトーシスおよび血清IgGレベルの制御において役割を果たしている主要組織適合複合体(MHC)クラスI関連受容体である。ホモログがヒトにおいても見出されており、同じ役割を果たしていると思われる。
【0082】
材料および方法
rhIgGに施した修飾の記載を容易にするため、野性型のIgG重鎖をV−CH1−H−CH2−CH3として表すことにする。ここでVは可変領域であり、CH は各重鎖ドメインであり、Hはヒンジ領域である。
【0083】
6つのrhIgG(下記)のパネルを、本質的に実施例1にすでに記載したようにしてメンドリに注射した。
1.野性型のIgGは陽性対照として用いた。
2.V−CH3(すなわち、CH1からCH2まで(これを含む)を欠如)。
3.V−CH1−H−CH3(すなわち、CH2ドメインを欠如)。
4.V−CH1−H−CHJ2−*CH3(すなわち、CH2−CH3境界での部位特異的変異であり、rhIgGのFcRnへの結合不能という結果となる)。NB.検出せず。
5.**V−CH1−H−CH2−CH3**(すなわち、補体を活性化できないかまたは殆どの知られたFc受容体と結合できないがFcRnへの結合能は維持している脱グリコシル化rhIgG)。NB.検出せず。
6.V−αCH1−H−CH2−CH3(すなわち、受容体への結合に影響を及ぼすことなくCH2−CH3境界から遠位の領域を交換することができることを示すため、CH1定常ドメインをIgA CH1ドメインと交換した)。
【0084】
結果
結果を表3に示す。V−CH3、V−CH1−H−CH3およびV−CH1−H−CH2*−CH3は卵黄試料で検出されなかった。**V−CH1−H−CH2−CH3**およびV−αCH1−H−CH2−CH3は、対照の野性型hIgGと同じくらい効率よく沈積した。
【0085】
この実施例は、CH2−CH3境界が欠失により破壊されるとrhIgGがトリ卵母細胞の細胞膜を通過できないことを示している。さらに、FcRnと相互作用することが知られているCH2−CH3境界アミノ酸残基に部位特異的変異が存在するときも、rhIgGはトリ卵母細胞の細胞膜を通過できない。しかしながら、CH2−CH3ドメイン間の境界は、FcγI−IIIを含む他のFc受容体と結合することが示されている。脱グリコシル化rhIgGである**V−CH1−H−CH2−CH3**は、卵母細胞受容体の性質を確認するために選択した。なぜなら、IgGの脱グリコシル化は補体活性化および殆どのFc受容体への結合を妨げるが、FcRnへの結合は妨げないからである。脱グリコシル化rhIgGは野性型hIgGと同じくらい効率的に卵黄中に沈積するので、これら実験の他の知見とあわせてFcRnのトリホモログがトリ卵母細胞の細胞膜を通過するIgGの輸送を担っていると思われる。これら知見は、FcRnへの結合に必要な配列を含めることにより、トランスジェニックメンドリモデルで産生するために治療用抗体の操作を最適化すること並びに所望のタンパク質を卵黄中に沈積させることを可能にするに違いない。
【実施例5】
【0086】
トランスジェニックニワトリの調製
ヒト化抗体などの組換えタンパク質を産生するトランスジェニックニワトリを調製することができる。トランスジェニックニワトリを製造するため、ステージX(40b)の胚をバードプリマスロック(Barred Plymouth Rock)メンドリにより産まれたインキュベートしていない卵から得ることができる。胞胚葉細胞を細胞間マトリックスの酵素消化により回収し、DNAをBrazolotらおよびFraserらによって記載されているようにリポフェクチン試薬を用いて浮遊細胞中に導入する。ついで、浮遊細胞は、Carscienceらによって記載されているように、ホワイトレグホンメンドリによって産まれた卵中の放射線照射した(irradiated)ステージXのレシピエント胚中に注入されるであろう。注入の4日後、注入した胚を代理の卵殻(109、109b)に移し、これは孵化率を注入胚の約10%から注入胚の約40%に上昇させる(CochranおよびEtches、未刊行)。孵化時にキメラは、ドナー(バードプリマスロック)由来の黒色綿毛およびレシピエント(ホワイトレグホン)由来の黄色の綿毛の存在により認識することができる。ドナー細胞の導入の形跡を示さない幼鳥は破棄する。鶏冠組織および血液をそれぞれ孵化の日および4週齢で取り出し、組換えタンパク質(キメラ抗体など)の産生をコードするDNA配列の存在がPCRにより決定されるであろう。組換えタンパク質の存在は、4週齢で取り出した血液試料で行うELISAにより評価されるであろう。トランスジーンを有するニワトリは、性的成熟まで生育されるであろう。発生中の卵中での組換えタンパク質の沈積は、メスキメラにより産まれた卵の卵黄からの抽出物で行うELISAにより評価されるであろう。オスおよびメスの両キメラはつがわされ、その結果の子孫はPCRによりスクリーニングして構築物を含むものが同定されるであろう。
【0087】
キメラ抗体を卵中で産生するという目的は、トランスフェクションした細胞がリンパ系でコロニー形成する場合にはキメラで達成されるであろうことに注意すべきである。構築物が生殖細胞中に導入されている場合には、キメラ抗体の産生をコードするDNA配列がメンデル遺伝特性として導入されているニワトリの株が得られるであろう。しかしながら、生殖細胞の伝達が存在しない場合でも、本発明者らはニワトリにおいて抗体産生に関する有意で新たな情報を得ることであろう。
【0088】
本発明を現在のところ好ましい実施例と考えられるものに関連して記載したが、本発明は開示した実施例に限られるものでないことが理解されねばならない。それとは反対に、本発明は、添付の請求の範囲の範囲内に含まれる種々の変更および等価な再編を包含することを意図するものである。
【0089】
すべての刊行物、特許および特許出願は、個々の刊行物、特許および特許出願のそれぞれを特別かつ個別にその全体において参照のため本明細書中に引用されるのと同程度にその全体が参照のため本明細書中に引用される。
【0090】
【表1】

【0091】
【表2】

【0092】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)組換えタンパク質をコードする第一のDNA、(ii)該タンパク質の鳥類の卵への送達を容易にしうる第二のDNAであって、該卵上の受容体へ結合する免疫グロブリンのFcドメインのCH2−CH3領域をコードするもの、および(iii)トリで発現させるために該第一のDNAおよび該第二のDNAに作動可能に連結したプロモーターを含む、組換えタンパク質をトリ卵中へ送達するための発現系。
【請求項2】
該免疫グロブリンの該FcドメインのCH2−CH3領域が、該卵上のFc受容体に結合する、請求項1に記載の発現系。
【請求項3】
該Fc受容体がトリのFc受容体ネオネートである、請求項2に記載の発現系。
【請求項4】
ヒト免疫グロブリンの重鎖定常領域をコードするDNA、および抗体をトリで発現させるためのプロモーターを含む、トリの卵に結合し卵黄内に取り込まれるヒト免疫グロブリンの重鎖定常領域を含む抗体を製造するための発現系。
【請求項5】
さらにヒト免疫グロブリンの可変領域をコードするDNAを含む、請求項4に記載の発現系。
【請求項6】
ニワトリに導入した細胞のゲノムに組み込まれたDNAによってコードされる組換えタンパク質を含有する鶏卵。
【請求項7】
該DNAがニワトリのゲノムに組み込まれている、請求項6に記載の鶏卵。
【請求項8】
ヒト免疫グロブリンの定常領域DNAによってコードされるヒト免疫グロブリンの定常領域を含む抗体を含有する鶏卵であって、該ヒト免疫グロブリンの定常領域DNAがニワトリ細胞のゲノムに組み込まれている、鶏卵。
【請求項9】
該抗体がヒト免疫グロブリンの可変領域DNAによってコードされるヒト免疫グロブリンの可変領域をさらに含み、該可変領域DNAが該細胞に取り込まれている、請求項8に記載の鶏卵。
【請求項10】
該ヒト免疫グロブリンの定常領域または可変領域が重鎖または軽鎖を含む、請求項8または9に記載の鶏卵。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−50393(P2011−50393A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−244106(P2010−244106)
【出願日】平成22年10月29日(2010.10.29)
【分割の表示】特願2000−507813(P2000−507813)の分割
【原出願日】平成10年8月21日(1998.8.21)
【出願人】(399011070)ユニバーシティ・オブ・グエルフ (1)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITY OF GUELPH
【出願人】(592130699)ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ カリフォルニア (364)
【氏名又は名称原語表記】The Regents of The University of California
【Fターム(参考)】