説明

卵巣に対する毒性評価方法

【課題】 卵巣に対する新規な毒性評価方法を提供する。
【解決手段】 以下の工程(a)、(b)および(c):
(a)培養卵胞に被験物質を接触させる工程、
(b)前記(a)の工程の後、以下の(1)〜(5)から選択される少なくとも1つ以上の項目を実施する工程、
(1)卵胞直径の測定、
(2)トリパンブルー染色法による顆粒膜細胞の生死確認、
(3)アポトーシスの検出、
(4)生殖内分泌合成酵素および/または生殖内分泌関連タンパク質の検出、
(5)生殖内分泌の濃度の測定、
(c)前記(b)の結果を、被験物質を接触させない場合の結果と比較する工程、を含む、卵巣に対する被験物質の毒性評価方法等。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、卵巣に対する毒性の評価方法に関する。さらに詳しくは、本発明は卵胞培養系に対して被験物質を接触させ、形態的および/または機能的変化を評価することを特徴とする、卵巣に対する被験物質の毒性評価方法に関する。さらに本発明は、前記卵胞培養系を用いて、CholesterolからEstradiol合成までの生殖内分泌合成経路に関与するいずれかの生殖内分泌の濃度を測定することにより、生殖内分泌合成経路に及ぼす被験物質の影響を評価する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医薬品や化学物質などの中には、卵巣での生殖内分泌の抑制または促進作用を有し、卵胞嚢腫などの生殖器障害を来すものがある。卵巣における毒性には、排卵障害、顆粒膜細胞などの構成細胞における障害、卵胞の小型化、生殖内分泌合成阻害または亢進などがある。
【0003】
被験物質投与に起因する卵巣毒性については、実験動物を使ったin vivoの試験系(非特許文献1を参照)においては、卵胞嚢種、排卵障害、卵胞の小型化などの形態的な変化の検出は可能であるが、障害発現までに大量の被験物質および時間を要すること、EstradiolやProgesteroneなどの生殖内分泌については、視床下部−下垂体−卵巣系における生理的なフィードバック機構により、その軽微な影響の検出が困難であることなどが問題点として挙げられる。
【0004】
一方、in vitroの試験系においては、卵胞構成細胞の生死や生殖内分泌については卵胞由来の顆粒膜細胞培養系で検出できるとの報告があるが(非特許文献2を参照)、in vivo試験系のような形態的変化の検出は不可能である。また、卵巣における生殖内分泌合成は、主として卵胞内の顆粒膜細胞および卵胞の周囲を取り囲む莢膜細胞、ならびにその両細胞に局在する生殖内分泌合成酵素・関連タンパクが寄与しているが、その合成経路は非常に複雑である。具体的には、莢膜細胞および顆粒膜細胞内のCholesterolはMitochondrial Benzodiazepine Receptor(MBR)およびSteroidogenic Acute Regulatory protein(StAR)によりミトコンドリア内に流入し、Pregnenoloneを介してProgesteroneに転換された後、顆粒膜細胞内のProgesteroneは莢膜細胞に移動する。莢膜細胞内のProgesteroneはAndrostenedioneに変換された後、再度顆粒膜細胞に移動し、TestosteroneまたはEstroneを経由してEstradiolに変換される。前述の顆粒膜細胞の培養系を用いた場合は、生殖内分泌合成において重要な役割を担っていると思われる莢膜細胞−顆粒膜細胞間のProgesteroneおよびAndrostenedioneの移動を検出することができないため、生体内における生殖内分泌合成への影響を評価する上で不十分な評価系であると考えられる。
【0005】
【非特許文献1】Davis BJ, Maronpot RR, Heindel JJ., Toxicol Appl Pharmacol. 1994 Oct;128(2):216-23.
【非特許文献2】Lovekamp TN, Davis BJ., Toxicol Appl Pharmacol. 2001 May 1;172(3):217-24.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、簡便、短時間かつ少量の被験物質で、被験物質の卵巣に対する毒性を、形態面および機能面の双方から評価することの可能な、新規な毒性評価系および評価方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、卵巣に対する毒性評価を簡便かつ正確に行うことの可能な系について鋭意検討を行った。すなわち、卵胞の小型化や顆粒膜細胞の生死などの形態的な変化を評価できるだけでなく、EstradiolやProgesteroneなどの合成阻害・亢進などの生殖内分泌の機能的な変化についても評価できる試験系の確立を目指し、鋭意検討を行った。その結果、培養卵胞を用いることにより、毒性物質による前記形態的および機能的な変化を、生体により近い状態で評価できることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0008】
本発明者らが確立した培養卵胞を用いた卵巣毒性評価系は、簡便、短時間かつ少量の検体で、被験物質投与による形態的および機能的変化が評価できる。形態的変化の評価については、卵胞直径の測定により卵胞の経時的な成長に対する影響を検出できるだけでなく、培養終了後の卵胞について、トリパンブルー染色により卵胞の顆粒膜細胞へのダメージが検出できる。また寒天包埋法を用いることにより病理組織標本を作製し、(1) H.E.(ヘマトキシリン・エオジン)染色による病理組織学的な評価、(2) TUNEL染色による顆粒膜細胞および莢膜細胞のアポトーシスの検出、(3) 免疫組織化学染色による生殖内分泌合成酵素タンパク、生殖内分泌関連タンパク質の検出などが可能である。機能的変化については、培養液中のEstradiolやProgesteroneなどの生殖内分泌の濃度を測定することにより、顆粒膜細胞および莢膜細胞を含む卵胞から放出される生殖内分泌への、被験物質の直接的な影響を評価することができる。
【0009】
なお前述のように、本発明の卵胞培養系を用いることにより、生殖内分泌合成酵素への影響(毒性)を検出・評価できることが明らかになったことから、前述の病理組織標本を用いた評価のみならず、マイクロダイセクションやPCR法などの分子生物学的な手法を駆使することにより、顆粒膜細胞および莢膜細胞内の生殖内分泌合成酵素の抑制・亢進などを定量的に測定することができる。
【0010】
以上のように、本発明の卵胞培養系は、生体に限りなく近い条件ながら、生体特有の生殖内分泌のフィードバックの影響を受けない条件下で、被験物質の直接的な卵巣毒性を評価することができる。従って本発明の卵胞培養系は、医薬品開発における生殖内分泌のスクリーニングに有効に用いられる。
【0011】
さらに本発明の卵胞培養系を用いて、CholesterolからEstradiol合成までの生殖内分泌合成経路に関与するいずれかの生殖内分泌の濃度を測定することにより、生殖内分泌合成経路に及ぼす被験物質の影響を評価することも可能である。具体的には、例えばProgesteroneおよびAndrostenedioneの濃度を測定し、対照と比較して、被験物質を添加した際に、Progesteroneの濃度が上昇しており、一方Androstenedioneの濃度が低下していれば、その被験物質はProgesteroneからAndrostenedioneへの変換(P450c17の作用)に影響を及ぼす物質であると同定される。本発明は、このような、被験物質の作用点(アタックポイント)を予測する目的にも有効に用いられる。
【0012】
また前述の通り、生殖内分泌合成経路(ミトコンドリア内へのCholesterol流入)にMBRが関与していることから、MBRアゴニストなど、脳グリア細胞ミトコンドリア内でのDehydroepiandrosterone(DHEA)やAllopregnanoloneなどのニューロステロイドを介して薬理作用を示す薬剤に関しては、本培養系を用いてそれらニューロステロイドやその前駆物質であるPregnenoloneやProgesteroneなどを測定することにより、薬効ポテンシャルの検討にも利用可能である。
本発明は以上のような知見に基づき完成するに至ったものである。
【0013】
すなわち本発明は、
1) 以下の工程(a)、(b)および(c):
(a)培養卵胞に被験物質を接触させる工程、
(b)前記(a)の工程の後、以下の(1)〜(5)から選択される少なくとも1つ以上の項目を実施する工程、
(1)卵胞直径の測定、
(2)トリパンブルー染色法による顆粒膜細胞の生死確認、
(3)アポトーシスの検出、
(4)生殖内分泌合成酵素および/または生殖内分泌関連タンパク質の検出、
(5)生殖内分泌の濃度の測定、
(c)前記(b)の結果を、被験物質を接触させない場合の結果と比較する工程、
を含む、卵巣に対する被験物質の毒性評価方法、
2) 卵胞がラット由来の卵胞である、前記1)記載の毒性評価方法、
3) 生殖内分泌合成酵素が、Cholesterol desmolase(P450scc)、3β-Hydroxysteroid dehydrogenese、17α-Hydroxylase(P450c17)、17,20 Lyase(P450c17)、17β-Hydroxysteroid dehydrogeneseおよびAromatase(P450arom)から選択される少なくとも1つ以上の生殖内分泌合成酵素である、前記1)または2)記載の毒性評価方法、
4) 生殖内分泌が、Cholesterol、Pregnenolone、Progesterone、17-Hydroxy-pregnenolone、Dehydroepi-androsterone、Androstendiol、17-Hydroxy-progesterone、Androstenedione、Testosterone、EstroneおよびEstradiolから選択される少なくとも1つ以上の生殖内分泌である、前記1)〜3)いずれか記載の毒性評価方法、
【0014】
5) 以下の工程(a)、(b)および(c):
(a)培養卵胞に被験物質を接触させる工程、
(b)前記(a)の工程の後、CholesterolからEstradiol合成までの生殖内分泌合成経路に関与するいずれかの生殖内分泌の濃度を測定する工程、
(c)前記(b)の測定結果を、被験物質を接触させない場合の測定結果と比較する工程、
を含む、生殖内分泌合成経路に被験物質が影響を及ぼすか否かを評価する方法、
6) 生殖内分泌としてProgesteroneの濃度を測定し、Cholesterolのミトコンドリア内への取り込み、またはCholesterolからPregnenoloneを介したProgesteroneへの変換に被験物質が影響を及ぼすか否かを評価する、前記5)記載の評価方法、
7) 生殖内分泌としてProgesteroneおよびAndrostenedioneの濃度を測定し、ProgesteroneからAndrostenedioneへの変換に被験物質が影響を及ぼすか否かを評価する、前記5)記載の評価方法、
8) 生殖内分泌としてAndrostenedioneおよびTestosteroneの濃度を測定し、AndrostenedioneからTestosteroneへの変換に被験物質が影響を及ぼすか否かを評価する、前記5)記載の評価方法、
9) 生殖内分泌としてTestosteroneおよびEstradiolの濃度を測定し、TestosteroneからEstradiolへの変換に被験物質が影響を及ぼすか否かを評価する、前記5)記載の評価方法、ならびに
10) 卵胞がラット由来の卵胞である、前記5)〜9)いずれか記載の評価方法、に関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明の卵胞培養系は、生体特有の生殖内分泌のフィードバックの影響を受けない条件下で、被験物質による直接的な卵巣毒性を形態的および機能的に評価することができる簡便な系である。従って本発明の卵胞培養系は、医薬品開発における生殖内分泌のスクリーニングに有効に用いられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明は、以下の工程(a)、(b)および(c):
(a) 培養卵胞に被験物質を接触させる工程、
(b) 前記(a)の工程の後、以下の(1)〜(5)から選択される少なくとも1つ以上の項目を実施する工程、
(1) 卵胞直径の測定、
(2) トリパンブルー染色法による顆粒膜細胞の生死確認、
(3) アポトーシスの検出、
(4) 生殖内分泌合成酵素および/または生殖内分泌関連タンパク質の検出、
(5) 生殖内分泌の濃度の測定、
(c) 前記(b)の結果を、被験物質を接触させない場合の結果と比較する工程、を含む、卵巣に対する被験物質の毒性評価方法を提供する。
【0017】
前記で用いられる卵胞としては、ラット、マウス、マーモセット、イヌ、サル、ウサギなど、本発明の毒性評価に適したものであれば、如何なる由来の卵胞であっても良いが、ラット由来の卵胞が好ましい。
以下に、ラット卵胞を例として、卵胞の培養法や被験物質の接触法などについて例示するが、本発明はこれらに制限されるものではない。
【0018】
1) ラット卵胞培養系に用いる卵胞の分離および採取
哺育ラット(Crl:CD(SD)系、雌雄出生児各5匹)を購入し、生後14日の雌出生児を断頭により安楽死させる。安楽死処置後、ラットを開腹し、卵巣を無菌的に採取し、滅菌PBS(Phosphate Buffered Saline、37℃)の入ったシャーレ内に移す。採取した卵巣はシャーレ内で卵管、脂肪組織などを除去した後、コラゲナーゼ(Type I-A)含有滅菌α-MEM培地(以下、コラゲナーゼ培地)の入ったチューブに移し、37℃で30分間、振盪させる。振盪後の卵巣組織をBSA含有滅菌L-15培地(以下、L-15培地)の入ったガラスシャーレに移し、実体顕微鏡下で注射針(25G)を用いて卵胞を分離、採取する。
【0019】
2) 卵胞の前培養
分離、採取した卵胞について、位相差顕微鏡下で大きさおよび形態を確認した後、FSH含有滅菌α-MEM(以下、培養用培地)300μLが入った培養プレートインサートに移し、5% CO2インキュベーター(37℃)内で24時間前培養を行う。
【0020】
3) 群分け
24時間前培養終了時の卵胞について、卵胞の形態観察および直径測定を行う。形態に異常が認められない卵胞について、前培養開始時および24時間の前培養終了時の卵胞直径が各群でバラツキができるだけないように群分けを行う。
【0021】
4) 被験物質の接触ならびに培地の交換および回収
群分け後の卵胞について、インサート内の培養用培地の一部(約60%)を回収し、被験物質を添加した培養用培地に交換する(投与0時間)。5% CO2インキュベーター(37℃)内で培養を継続し、投与24時間に培養用培地の一部(約60%)を回収、交換し、投与48時間に全培養用培地を回収する。
【0022】
以上のようにして培養卵胞に被験物質を接触させた(工程(a))後に、(1) 卵胞直径の測定、(2) トリパンブルー染色法による顆粒膜細胞の生死確認、(3) アポトーシスの検出、(4) 生殖内分泌合成酵素および/または生殖内分泌関連タンパク質の検出、(5) 生殖内分泌の濃度の測定、の中から選択される少なくとも1つ以上の項目を実施し(工程(b))、この結果を、被験物質を接触させない場合の結果と比較する(工程(c))。以上により、測定対象である被験物質が、卵巣に対する毒性を有するか否かを評価することができる。
【0023】
以下に、ラット卵胞を例として、前記(1)〜(5)の各項目の実施方法を例示するが、本発明はこれらに制限されるものではない。
【0024】
(1) 卵胞直径の測定
培養0、24(投与0時間)、48(投与24時間)および72時間(投与48時間)に、卵胞直径の測定を行う。位相差顕微鏡下で培養卵胞をデジタルカメラで撮影、モニターに映写し、マイクロメーターを用いて卵胞直径(卵胞の基底膜の直径)を測定する。培養0および24時間(投与0時間)の卵胞直径は、投与開始時の群分けに、投与24および48時間の卵胞直径は、被験物質の卵胞成長に対する影響の評価パラメーターとして用いる。また、投与0時間の卵胞直径を基準として、投与24および48時間の卵胞成長率を算出する。被験物質を接触させない場合の結果と比較して、卵胞の直径または成長率の増加抑制または亢進が認められれば、被験物質の影響有りと判断する。
【0025】
(2) トリパンブルー染色法による顆粒膜細胞の生死確認
投与48時間の卵胞を0.08% トリパンブルー染色液で約5分間染色する。PBSで洗浄後、トリパンブルー染色陽性顆粒膜細胞数を測定する。陽性細胞数が10個以下の卵胞を「正常卵胞」と、陽性細胞数が10個を越える卵胞を「異常卵胞」と定義する。被験物質を接触させない場合の結果に比較して、「異常卵胞」の割合が増加すれば、被験物質の影響有りと判断する。
【0026】
(3) アポトーシスの検出
1) 病理組織標本の作製
投与48時間(トリパンブルー染色後)の卵胞を10%中性緩衝ホルマリン液に固定し、保存する。卵胞検出のために卵胞をヘマトキシリンで一旦染色(約2時間)した後、溶かした寒天で卵胞を覆う。寒天内の卵胞を寒天ごとパラフィン包埋、薄切し、病理組織標本を作製する。
【0027】
2) ヘマトキシリン・エオジン(H.E.)染色標本の作製
投与48時間(トリパンブルー染色後)の卵胞について、前述の方法で病理組織標本を作製する。通常のヘマトキシリン・エオジン染色(以下、H.E.染色)を施し、卵胞の病理組織的検査を実施する。
【0028】
3) TUNEL染色によるアポトーシスの検出
投与48時間(トリパンブルー染色後)の卵胞について、前述の方法で病理組織標本を作製する。市販のin situアポトーシス検出キット(TUNEL法)を用いて、顆粒膜細胞および莢膜細胞のアポトーシスを検出する。被験物質を接触させない場合の結果と比較して、アポトーシス陽性細胞の増加が認められれば、被験物質の影響有りと判断する。
【0029】
(4) 生殖内分泌合成酵素および/または生殖内分泌関連タンパク質の検出
1) 生殖内分泌合成酵素の検出
前記(3)の1)と同様にして、投与48時間(トリパンブルー染色後)の卵胞についての病理組織標本を作製する。市販の抗体を用いた免疫組織化学染色により、生殖内分泌合成酵素タンパクを検出する。
【0030】
検出対象となる生殖内分泌合成酵素としては、Cholesterol desmolase(P450scc)、3β-Hydroxysteroid dehydrogenese、17α-Hydroxylase(P450c17)、17,20 Lyase(P450c17)、17β-Hydroxysteroid dehydrogeneseおよびAromatase(P450arom)などが挙げられる。
【0031】
免疫組織化学染色に用いる抗体としては、例えばAromatase(P450arom)の場合はMOUSE ANTI HUMAN CYTOCHROME P450 AROMATASE(MCA2077S)(AbD Serotec社製)が例示される。
検出する生殖内分泌合成酵素は、1種類であっても2種類以上であっても良い。被験物質を接触させない場合の結果と比較して、生殖内分泌合成酵素タンパク発現の増加または低下が認められれば、被験物質の影響有りと判断する。
【0032】
また、前記のような免疫組織化学染色のみならず、マイクロダイセクション法(第30回組織細胞化学講習会 組織細胞化学2005 -遺伝子、分子、小器官、細胞をみる- 日本組織細胞化学会 編、学窓企画)を用いて顆粒膜細胞または莢膜細胞を採取し、PCRを行うことにより、生殖内分泌合成酵素発現量を測定(定量)することも可能である。
PCRは、簡便さと定量性の観点から、定量的RT-PCR法を用いることが好ましい。例えばPrimeScript RT reagent Kit(Perfect Real Time)(タカラバイオ社製)とSYBR Premix Ex Taq(Perfect Real Time)(タカラバイオ社製)を用いた定量的RT-PCR法について簡単に述べると以下のようになる。
【0033】
まず、以下の反応液をトータル10μlの液量にて氷上で作製する:5×PrimeScript Buffer(for Real Time)2μl、PrimeScript RT Enzyme MixI 0.5μl、Oligo dT Primer 25pmol、Random 6 mers 50pmol、Total RNA 500ng、RNase Free 滅菌蒸留水。この反応液を37℃で15分間保温して逆転写反応を行い、85℃5秒間保温することで逆転写酵素を失活させ、逆転写反応を終結させる。
【0034】
次に、以下の反応液を、トータル25μlの液量で作製する:SYBR Premix Ex Taq (2×)12.5μl、PCR Forward Primer 0.2μmol、PCR Reverse Primer 0.2μmol、逆転写反応液(cDNA溶液)2μl、滅菌蒸留水。次に、Thermal Cycler Dice Real Time System(タカラバイオ社製)を用い、Hold(初期変性)Cycle:1(95℃ 10sec)、 2 Step PCR Cycle:40(95℃ 5sec、60℃ 30sec)、Dissociationの反応を行い、終了後、解析を行う。リアルタイムPCRをTaqManプローブ検出で行う場合には、PrimeScript RT-PCR reagent Kit(Perfect Real Time)(タカラバイオ社製)等を用いて実施する。
【0035】
前記でForward PrimerおよびReverse Primer としては、前記各生殖内分泌合成酵素の塩基配列から、適宜選択することができる。
前記プライマーの設計は、各生殖内分泌合成酵素の塩基配列をもとに、例えばprimer 3( HYPERLINK http://www.genome.wi.mit.edu/cgi-bin/primer/primer3.cgi)あるいはベクターNTI(Infomax社製)等を利用して設計することができる。具体的には前記各生殖内分泌合成酵素の塩基配列を primer 3またはベクターNTIのソフトウエアにかけて得られるプライマーの候補配列を使用することができる。
【0036】
2) 生殖内分泌関連タンパク質の検出
前記(3)の1)と同様にして、投与48時間(トリパンブルー染色後)の卵胞についての病理組織標本を作製する。市販の抗体、例えばStAR antibody(ab3343)(Abcam社製)を用いた免疫組織化学染色により、生殖内分泌関連タンパク質を検出する。
被験物質を接触させない場合の結果と比較して、生殖内分泌関連タンパク質発現の増加または低下が認められれば、被験物質の影響有りと判断する。
【0037】
(5) 生殖内分泌の濃度の測定
培地交換および培養終了時に回収した培養用培地を-80℃で冷凍保存する。内分泌測定時に培養用培地を融解し、市販のEIA(Enzyme Immuno Assay、酵素免疫測定法)、ELISA(Enzyme Linked Immuno Sorbent Assay、酵素免疫吸着測定法)またはRIA(Radio Immuno Assay、放射免疫測定法)などの測定キットを用いて測定を実施する。
測定対象となる生殖内分泌(ホルモン)としてはCholesterol、Pregnenolone、Progesterone、17-Hydroxy-pregnenolone、Dehydroepi-androsterone、Androstendiol、17-Hydroxy-progesterone、Androstenedione、Testosterone、Estrone、Estradiolなどが挙げられる。
これら生殖内分泌の濃度は、市販のEIA、ELISAまたはRIA測定キットを用いて測定する。例えば、ProgesteroneはProgesterone EIA Kit(582601)(Cayman社製)、TestosteroneはTestosterone EIA Kit(582701)(Cayman社製)、EstroneはEstrone EIA Kit(582301)(Cayman社製)、EstradiolはEstradiol EIA Kit(582251)(Cayman社製)、AndrostenedioneはAndrostenedione ELISA(RE52161)(IBL-Hamburg社製)を、それぞれ用いて測定を実施する。
【0038】
濃度測定する生殖内分泌は、1種類であっても2種類以上であっても良い。特に、生殖内分泌合成において重要な役割を担っていると考えられており、かつ生殖内分泌合成経路における最終産物と考えられるEstradiolを測定することが好ましい。
被験物質を接触させない場合の結果と比較して、Estradiol濃度の上昇または低下が認められれば、被験物質の影響有りと判断する。
【0039】
以上の(1)〜(5)の項目から選択される少なくとも1つ以上の項目を実施することにより、卵巣に対する被験物質の毒性を評価することができる。いずれの項目を実施しても良いが、特に項目(5)を実施することが好ましい。
【0040】
本発明は、以下の工程(a)、(b)および(c):
(a) 培養卵胞に被験物質を接触させる工程、
(b) 前記(a)の工程の後、CholesterolからEstradiol合成までの生殖内分泌合成経路に関与するいずれかの生殖内分泌の濃度を測定する工程、
(c) 前記(b)の測定結果を、被験物質を接触させない場合の測定結果と比較する工程、を含む、前記生殖内分泌合成経路に及ぼす被験物質の影響を評価する方法を提供する。
【0041】
本発明の卵胞培養系は、莢膜細胞および顆粒膜細胞のいずれも包含していることから、これら細胞間での生殖内分泌の移動を含めた、全ての生殖内分泌の動き(増減)を検出することが可能である。従って本発明の卵胞培養系を用いて生殖内分泌の濃度を測定することにより、被験物質が、生殖内分泌合成経路のどこに影響を及ぼすのか、すなわち被験物質の作用点(アタックポイント)がどこであるかを同定することが可能である。
【0042】
測定される生殖内分泌は、卵巣における生殖内分泌合成経路に関わるものであれば、如何なる物質であっても良い。以下に、生殖内分泌合成において重要な役割を担っているProgesterone、Androstenedione、TestosteroneおよびEstradiolの濃度測定に基づく、被験物質の影響の評価方法を例示するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0043】
1) Progesteroneの濃度測定に基づく評価方法
前記評価方法として、
(a) 培養卵胞に被験物質を接触させる工程、
(b) 前記(a)の工程の後、Progesteroneの濃度を測定する工程、
(c) 前記(b)の測定結果を、被験物質を接触させない場合の測定結果と比較する工程、を含む、Cholesterolのミトコンドリア内への取り込み、またはCholesterolからPregnenoloneを介したProgesteroneへの変換に被験物質が影響を及ぼすか否かを評価する方法、が例示される。
具体的には、Progesteroneの濃度を測定した際に、対照と比較して、被験物質添加によって、Progesteroneの濃度が上昇または低下していれば、その被験物質は、Cholesterolのミトコンドリア内への取り込み、またはCholesterolからPregnenoloneを介したProgesteroneへの変換に影響を及ぼす物質であると予測することができる。
【0044】
2) ProgesteroneおよびAndrostenedioneの濃度測定に基づく評価方法
前記評価方法として、
(a) 培養卵胞に被験物質を接触させる工程、
(b) 前記(a)の工程の後、ProgesteroneおよびAndrostenedioneの濃度を測定する工程、
(c) 前記(b)の測定結果を、被験物質を接触させない場合の測定結果と比較する工程、を含む、ProgesteroneからAndrostenedioneへの変換に被験物質が影響を及ぼすか否かを評価する方法、が例示される。
【0045】
具体的には、ProgesteroneおよびAndrostenedioneの濃度を測定した際に、対照と比較して、被験物質添加によって、Progesteroneの濃度が上昇しており、一方Androstenedioneの濃度が低下していれば、その被験物質はProgesteroneからAndrostenedioneへの変換(P450c17の作用)に影響を及ぼす物質であると同定することができる。
逆に、ProgesteroneおよびAndrostenedioneの濃度を測定した際に、対照と比較して、被験物質添加によって、Progesteroneの濃度が低下しており、一方Androstenedioneの濃度が上昇している場合も、その被験物質はProgesteroneからAndrostenedioneへの変換(P450c17の作用)に影響を及ぼす物質であると同定することができる。
【0046】
3) AndrostenedioneおよびTestosteroneの濃度測定に基づく評価方法
前記評価方法として、
(a) 培養卵胞に被験物質を接触させる工程、
(b) 前記(a)の工程の後、AndrostenedioneおよびTestosteroneの濃度を測定する工程、
(c) 前記(b)の測定結果を、被験物質を接触させない場合の測定結果と比較する工程、を含む、AndrostenedioneからTestosteroneへの変換に被験物質が影響を及ぼすか否かを評価する方法、が例示される。
【0047】
具体的には、AndrostenedioneおよびTestosteroneの濃度を測定した際に、対照と比較して、被験物質添加によって、Androstenedioneの濃度が上昇しており、一方Testosteroneの濃度が低下していれば、その被験物質はAndrostenedioneからTestosteroneへの変換(17β-Hydroxysteroid dehydrogeneseの作用)に影響を及ぼす物質であると同定することができる。
逆に、AndrostenedioneおよびTestosteroneの濃度を測定した際に、対照と比較して、被験物質添加によって、Androstenedioneの濃度が低下しており、一方Testosteroneの濃度が上昇している場合も、その被験物質はAndrostenedioneからTestosteroneへの変換(17β-Hydroxysteroid dehydrogeneseの作用)に影響を及ぼす物質であると同定することができる。
【0048】
4) TestosteroneおよびEstradiolの濃度測定に基づく評価方法
前記評価方法として、
(a) 培養卵胞に被験物質を接触させる工程、
(b) 前記(a)の工程の後、TestosteroneおよびEstradiolの濃度を測定する工程、
(c) 前記(b)の測定結果を、被験物質を接触させない場合の測定結果と比較する工程、を含む、TestosteroneからEstradiolへの変換に被験物質が影響を及ぼすか否かを評価する方法、が例示される。
【0049】
具体的には、TestosteroneおよびEstradiolの濃度を測定した際に、対照と比較して、被験物質添加によって、Testosteroneの濃度が上昇しており、一方Estradiolの濃度が低下していれば、その被験物質はTestosteroneからEstradiolへの変換(P450aromの作用)に影響を及ぼす物質であると同定することができる。
逆に、TestosteroneおよびEstradiolの濃度を測定した際に、対照と比較して、被験物質添加によって、Testosteroneの濃度が低下しており、一方Estradiolの濃度が上昇している場合も、その被験物質はTestosteroneからEstradiolへの変換(P450aromの作用)に影響を及ぼす物質であると同定することができる。
【0050】
これら生殖内分泌の濃度の測定は、前述のように、市販のEIA(Enzyme Immuno Assay、酵素免疫測定法)、ELISA(Enzyme Linked Immuno Sorbent Assay、酵素免疫吸着測定法)またはRIA(Radio Immuno Assay、放射免疫測定法)などの測定キットを用いて実施することができる。また工程(a)で用いられる卵胞としては、前述した毒性評価方法の場合と同様に、ラット、マウス、マーモセット、イヌ、サル、ウサギなど、本発明の毒性評価に適したものであれば、如何なる由来の卵胞であっても良いが、ラット由来の卵胞が好ましい。
【0051】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によりなんら限定されるものではない。
【実施例1】
【0052】
ラット卵胞培養系の調製および被験物質の暴露
1)ラット卵胞培養系に用いる卵胞の分離および採取
哺育ラット(Crl:CD(SD)系、雌雄出生児各5匹)を購入し、生後14日の雌出生児を断頭により安楽死させた。安楽死処置後、ラットを開腹し、卵巣を無菌的に採取し、滅菌PBS(Phosphate Buffered Saline、37℃)の入ったシャーレ内に移した。採取した卵巣はシャーレ内で卵管、脂肪組織などを除去した後、コラゲナーゼ培地の入ったチューブに移し、37℃で30分間、振盪させた。振盪後の卵巣組織をL-15培地の入ったガラスシャーレに移し、実体顕微鏡下で注射針(25G)を用いて卵胞を分離、採取した。
【0053】
2)卵胞の前培養
分離、採取した卵胞について、位相差顕微鏡下で大きさおよび形態を確認した後、培養用培地300 μLが入った培養プレートインサートに移し、5% CO2インキュベーター(37℃)内で24時間前培養を行った。
【0054】
3)群分け
24時間前培養終了時の卵胞について、卵胞の形態観察および直径測定を行った。形態に異常が認められない卵胞について、前培養開始時および24時間の前培養終了時の卵胞直径が各群でバラツキができるだけないように群分けを行った。
【0055】
4)被験物質の暴露ならびに培地の交換および回収
群分け後の卵胞について、インサート内の培養用培地180 μLを回収し、卵巣毒性を有することが知られている内分泌攪乱物質であるmono(2-ethylhexyl) phthalate(和光純薬社製、以下MEHPと略する)を添加した培養用培地180 μLに交換した(投与0時間;最終MEHP濃度,100 μg/mL)。5% CO2インキュベーター(37℃)内で培養を継続し、投与24時間に培養用培地180 μLを回収、交換し、投与48時間に全培養用培地を回収した。
【実施例2】
【0056】
卵胞直径の測定
培養0、24(投与0時間)、48(投与24時間)および72時間(投与48時間)に、卵胞直径の測定を行った。位相差顕微鏡下で培養卵胞をデジタルカメラで撮影、モニターに映写し、マイクロメーターを用いて卵胞直径(卵胞の基底膜の直径)を測定した。培養0および24時間(投与0時間)の卵胞直径は、投与開始時の群分けに、投与24および48時間の卵胞直径は、MEHPの卵胞成長に対する影響の評価パラメーターとして用いた。また、投与0時間の卵胞直径を基準として、投与24および48時間の卵胞成長率を算出した。
【0057】
測定結果については、F検定の等分散検定を有意水準5%で実施し、等分散であればStudent's t-testを両側、有意水準5%で、不等分散であればAspin-Welch's t-testを両側、有意水準5%で実施した。卵胞直径に対するMEHPの影響を図1に、また卵胞成長率に対するMEHPの影響を図2に示す。
MEHP投与群の卵胞直径および卵胞成長率は、培養開始後72時間で媒体対照群と比較して、有意な差(低い値)が認められた。以上の結果から、実施例1で調製した卵胞培養系にて培養した卵胞を用いることにより、卵巣毒性物質の評価が行えることが示された。
【実施例3】
【0058】
トリパンブルー染色法による顆粒膜細胞の生死確認
投与48時間の卵胞を0.08% トリパンブルー染色液で約5分間染色した。卵胞をPBSで洗浄後、トリパンブルー染色陽性顆粒膜細胞数を測定した。陽性細胞数が10個以下の卵胞を「正常卵胞」と定義し、被験物質の影響なしと判断した。陽性細胞数が10個を越える卵胞を「異常卵胞」と定義し、被験物質の影響有りと判断した。結果を表1に示す。
【0059】
【表1】

【0060】
MEHP投与群において、媒体対照群と比較して、トリパンブルー陽性細胞数の増加が認められ、媒体対照群は全卵胞が「正常卵胞(トリパンブルー染色細胞数:≦10)」であったのに対し、MEHP投与群は全卵胞が「異常卵胞(トリパンブルー染色細胞数:>10)」であった。以上の結果より、実施例1で調製した卵胞培養系にて培養した卵胞を用いることにより、卵巣毒性物質の評価が行えることが示された。
【実施例4】
【0061】
病理組織学的検査
1)病理組織標本の作製
投与48時間(トリパンブルー染色後)の卵胞を10%中性緩衝ホルマリン液に固定し、保存した。卵胞検出のために卵胞をヘマトキシリンで一旦染色(約2時間)した後、溶かした寒天で卵胞を覆った。寒天内の卵胞を寒天ごとパラフィン包埋、薄切し、病理組織標本を作製した。
【0062】
2)ヘマトキシリン・エオジン(H.E.)染色標本の作製
投与48時間(トリパンブルー染色後)の卵胞について、前述の方法で病理組織標本を作製した。通常のH.E.染色を施し、卵胞の病理組織的検査を実施した。
【0063】
3)TUNEL染色によるアポトーシスの検出
投与48時間(トリパンブルー染色後)の卵胞について、前述の方法で病理組織標本を作製した。市販のin situアポトーシス検出キット(TUNEL法)を用いて、顆粒膜細胞および莢膜細胞のアポトーシスを検出した。
【0064】
4)生殖内分泌合成酵素の検出
投与48時間(トリパンブルー染色後)の卵胞について、前述の方法で病理組織標本を作製した。市販の抗体を用いた免疫組織化学染色により、生殖内分泌合成酵素であるAromatase(P450arom)を検出した。
【0065】
5)結果
病理組織学的検査(H.E.染色、TUNEL染色および免疫組織化学染色)の結果を図3に示す。H.E.染色による病理組織学的検査において、媒体対照およびMEHP投与群の間に顕著な差は認められなかった(図3の左図参照)。TUNEL染色によるアポトーシス検出において、MEHP投与群でTUNEL陽性細胞の顕著な増加が認められた(図3の中央図参照)。またP450arom抗体を用いた免疫組織化学染色において、MEHP投与群でP450arom発現の顕著な低下が認められた(図3の右図参照)。以上の結果より、実施例1で調製した卵胞培養系にて培養した卵胞を用いることにより、卵巣毒性物質の評価が行えることが示された。
【実施例5】
【0066】
生殖内分泌の濃度測定
培地交換および培養終了時に回収した培養用培地を-80℃で冷凍保存した。内分泌測定時に培養用培地を融解し、培養用培地中のProgesterone、Androstenedione、TestosteroneおよびEstradiol濃度を市販のEIAまたはELISA測定キットを用いて測定した。また、投与0時間のProgesterone、Androstenedione、TestosteroneおよびEstradiol濃度を基準として、投与期間中(投与24および48時間)の各ホルモン濃度の上昇率をそれぞれ算出した。
【0067】
測定結果については、F検定の等分散検定を有意水準5%で実施し、等分散であればStudent's t-testを両側、有意水準5%で、不等分散であればAspin-Welch's t-testを両側、有意水準5%で実施した。
【0068】
Progesterone濃度に対するMEHPの影響を図4に、Progesterone上昇率に対するMEHPの影響を図5に示す。MEHP投与群のProgesterone濃度および上昇率は、投与24および48時間で媒体対照群と比較して、有意な差(高い値)が認められた。
Androstenedione濃度に対するMEHPの影響を図6に、Androstenedione上昇率に対するMEHPの影響を図7に示す。MEHP投与群のAndrostenedione濃度および上昇率は、投与24および48時間で媒体対照群と比較して、有意な差(低い値)が認められた。
【0069】
Testosterone濃度に対するMEHPの影響を図8に、Testosterone上昇率に対するMEHPの影響を図9に示す。MEHP投与群のTestosterone濃度および上昇率は、投与24および48時間で媒体対照群と比較して、有意な差(低い値)が認められた。
Estradiol濃度に対するMEHPの影響を図10に、Estradiol上昇率に対するMEHPの影響を図11に示す。MEHP投与群のEstradiol上昇率は、投与48時間で媒体対照群と比較して、有意な差(低い値)が認められた。
【0070】
MEHPは内分泌攪乱物質であり、生殖内分泌(生殖ホルモン)に影響を及ぼすことが知られている。上記のように、実施例1で調製した卵胞培養系を用いることにより、調べた全ての生殖内分泌へのMEHPの影響を検出することができた。よって本発明の卵胞培養系を用いることにより、卵巣毒性物質の評価が行えることが示された。
【0071】
さらに、従来の顆粒膜細胞培養系では、生殖内分泌合成において重要な役割を担っている莢膜細胞−顆粒膜細胞間のProgesteroneおよびAndrostenedioneの移動を考慮した卵巣毒性評価は不可能であったが、本発明の卵胞培養系を用いることにより、これらProgesteroneおよびAndrostenedioneが関与する毒性物質の影響を検出・評価することが初めて可能となった。ProgesteroneおよびAndrostenedioneのみならず、TestosteroneやEstradiol、さらには他の生殖内分泌への毒性物質の影響についても、本発明の卵胞培養系により測定することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明により、簡便、短時間かつ少量の検体で、被験物質の卵巣に対する毒性を、形態面および機能面の双方から評価することの可能な、新規な毒性評価系および評価方法が提供される。本発明の卵胞培養系は、医薬品開発における生殖内分泌のスクリーニングに有効に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】図1は、卵胞直径に対するMEHPの影響を調べた結果を示すグラフである。図中、縦軸は卵胞直径を、横軸は培養時間(前培養及びMEHP投与時間を含む)を示す。灰色棒はMEHP投与の結果を、また白棒はコントロールとして媒体のみ(0.1%DMSO)を投与した結果を示す。結果は平均値±標準偏差で示した(*:p<0.05(Aspin-Welch's t-test))。
【0074】
【図2】図2は、卵胞成長率に対するMEHPの影響を調べた結果を示すグラフである。図中、縦軸はMEHP投与0時間の卵胞成長率を100%として算出した成長率を、横軸はMEHP投与時間を示す。灰色棒はMEHP投与の結果を、また白棒はコントロールとして媒体のみ(0.1%DMSO)を投与した結果を示す。結果は平均値±標準偏差で示した(**:p<0.01(Aspin-Welch's t-test))。
【0075】
【図3】図3は、卵胞の病理組織学的変化に対するMEHPの影響を調べた結果を示す写真である。図中、上段はコントロールとして媒体のみ(0.1%DMSO)を投与した結果を、下段はMEHP投与の結果を、また各段左から順にヘマトキシリン・エオジン(H.E)染色、TUNEL染色、P450arom免疫組織化学染色の結果を示す。TUNEL染色についてはTUNEL陽性顆粒膜細胞が、P450arom免疫組織化学染色についてはP450arom陽性顆粒膜細胞がそれぞれ茶色に染色された。
【0076】
【図4】図4は、培養液中のProgesterone濃度に対するMEHPの影響を調べた結果を示すグラフである。図中、縦軸はProgesterone濃度を、横軸はMEHP投与時間を示す。灰色棒はMEHP投与の結果を、また白棒はコントロールとして媒体のみ(0.1%DMSO)を投与した結果を示す。結果は平均値±標準偏差で示した(**:p<0.01(Student's t-test))。
【0077】
【図5】図5は、培養液中のProgesterone上昇率に対するMEHPの影響を調べた結果を示すグラフである。図中、縦軸はMEHP投与0時間のProgesterone濃度を100%として算出した上昇率を、横軸はMEHP投与時間を示す。灰色棒はMEHP投与の結果を、また白棒はコントロールとして媒体のみ(0.1%DMSO)を投与した結果を示す。結果は平均値±標準偏差で示した(**:p<0.01(Student's t-test))。
【0078】
【図6】図6は、培養液中のAndrostenedione濃度に対するMEHPの影響を調べた結果を示すグラフである。図中、縦軸はAndrostenedione濃度を、横軸はMEHP投与時間を示す。灰色棒はMEHP投与の結果を、また白棒はコントロールとして媒体のみ(0.1%DMSO)を投与した結果を示す。結果は平均値±標準偏差で示した(**:p<0.01(Student's t-test))。
【0079】
【図7】図7は、培養液中のAndrostenedione上昇率に対するMEHPの影響を調べた結果を示すグラフである。図中、縦軸はMEHP投与0時間のAndrostenedione濃度を100%として算出した上昇率を、横軸はMEHP投与時間を示す。灰色棒はMEHP投与の結果を、また白棒はコントロールとして媒体のみ(0.1%DMSO)を投与した結果を示す。結果は平均値±標準偏差で示した(**:p<0.01(Student's t-test)、##:p<0.01(Aspin-Welch's t-test))。
【0080】
【図8】図8は、培養液中のTestosterone濃度に対するMEHPの影響を調べた結果を示すグラフである。図中、縦軸はTestosterone濃度を、横軸はMEHP投与時間を示す。灰色棒はMEHP投与の結果を、また白棒はコントロールとして媒体のみ(0.1%DMSO)を投与した結果を示す。結果は平均値±標準偏差で示した(**:p<0.01(Aspin-Welch's t-test))。
【0081】
【図9】図9は、培養液中のTestosterone上昇率に対するMEHPの影響を調べた結果を示すグラフである。図中、縦軸はMEHP投与0時間のTestosterone濃度を100%として算出した上昇率を、横軸はMEHP投与時間を示す。灰色棒はMEHP投与の結果を、また白棒はコントロールとして媒体のみ(0.1%DMSO)を投与した結果を示す。結果は平均値±標準偏差で示した(**:p<0.01(Student's t-test))。
【0082】
【図10】図10は、培養液中のEstradiol濃度に対するMEHPの影響を調べた結果を示すグラフである。図中、縦軸はEstradiol濃度を、横軸はMEHP投与時間を示す。灰色棒はMEHP投与の結果を、また白棒はコントロールとして媒体のみ(0.1%DMSO)を投与した結果を示す。結果は平均値±標準偏差で示した。
【0083】
【図11】図11は、培養液中のEstradiol上昇率に対するMEHPの影響を調べた結果を示すグラフである。図中、縦軸はMEHP投与0時間のEstradiol濃度を100%として算出した上昇率を、横軸はMEHP投与時間を示す。灰色棒はMEHP投与の結果を、また白棒はコントロールとして媒体のみ(0.1%DMSO)を投与した結果を示す。結果は平均値±標準偏差で示した(**:p<0.01(Aspin-Welch's t-test))。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程(a)、(b)および(c):
(a)培養卵胞に被験物質を接触させる工程、
(b)前記(a)の工程の後、以下の(1)〜(5)から選択される少なくとも1つ以上の項目を実施する工程、
(1)卵胞直径の測定、
(2)トリパンブルー染色法による顆粒膜細胞の生死確認、
(3)アポトーシスの検出、
(4)生殖内分泌合成酵素および/または生殖内分泌関連タンパク質の検出、
(5)生殖内分泌の濃度の測定、
(c)前記(b)の結果を、被験物質を接触させない場合の結果と比較する工程、
を含む、卵巣に対する被験物質の毒性評価方法。
【請求項2】
卵胞がラット由来の卵胞である、請求項1記載の毒性評価方法。
【請求項3】
生殖内分泌合成酵素が、Cholesterol desmolase(P450scc)、3β-Hydroxysteroid dehydrogenese、17α-Hydroxylase(P450c17)、17,20 Lyase(P450c17)、17β-Hydroxysteroid dehydrogeneseおよびAromatase(P450arom)から選択される少なくとも1つ以上の生殖内分泌合成酵素である、請求項1または2記載の毒性評価方法。
【請求項4】
生殖内分泌が、Cholesterol、Pregnenolone、Progesterone、17-Hydroxy-pregnenolone、Dehydroepi-androsterone、Androstendiol、17-Hydroxy-progesterone、Androstenedione、Testosterone、EstroneおよびEstradiolから選択される少なくとも1つ以上の生殖内分泌である、請求項1〜3いずれか記載の毒性評価方法。
【請求項5】
以下の工程(a)、(b)および(c):
(a)培養卵胞に被験物質を接触させる工程、
(b)前記(a)の工程の後、CholesterolからEstradiol合成までの生殖内分泌合成経路に関与するいずれかの生殖内分泌の濃度を測定する工程、
(c)前記(b)の測定結果を、被験物質を接触させない場合の測定結果と比較する工程、
を含む、生殖内分泌合成経路に被験物質が影響を及ぼすか否かを評価する方法。
【請求項6】
生殖内分泌としてProgesteroneの濃度を測定し、Cholesterolのミトコンドリア内への取り込み、またはCholesterolからPregnenoloneを介したProgesteroneへの変換に被験物質が影響を及ぼすか否かを評価する、請求項5記載の評価方法。
【請求項7】
生殖内分泌としてProgesteroneおよびAndrostenedioneの濃度を測定し、ProgesteroneからAndrostenedioneへの変換に被験物質が影響を及ぼすか否かを評価する、請求項5記載の評価方法。
【請求項8】
生殖内分泌としてAndrostenedioneおよびTestosteroneの濃度を測定し、AndrostenedioneからTestosteroneへの変換に被験物質が影響を及ぼすか否かを評価する、請求項5記載の評価方法。
【請求項9】
生殖内分泌としてTestosteroneおよびEstradiolの濃度を測定し、TestosteroneからEstradiolへの変換に被験物質が影響を及ぼすか否かを評価する、請求項5記載の評価方法。
【請求項10】
卵胞がラット由来の卵胞である、請求項5〜9いずれか記載の評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−295325(P2008−295325A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−143062(P2007−143062)
【出願日】平成19年5月30日(2007.5.30)
【出願人】(000002912)大日本住友製薬株式会社 (332)
【Fターム(参考)】