説明

卵巣子宮内膜症の診断法

【課題】患者と正常人で発現差のある遺伝子を用いて、卵巣子宮内膜症を検出、治療する方法を提供する。
【解決手段】特定の塩基配列を有する卵巣子宮内膜症関連遺伝子の発現レベルを決定し、該疾患に罹患しているかまたは発症の危険性があるかを診断する方法、また卵巣子宮内膜症を治療するための薬剤となる化合物をスクリーニングする方法。さらに、卵巣子宮内膜症患者に関連遺伝子の発現を抑制するsiRNAを投与して、該患者を治療する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、参照として本明細書に組み入れられる、2002年8月30日に出願された米国特許出願第60/407,365号、2003年2月28日に出願された米国特許出願第60/450,920号に関連する。
【0002】
技術分野
本発明は、卵巣子宮内膜症の診断法に関する。
【背景技術】
【0003】
背景技術
子宮内膜症は、子宮内膜腺および間質が子宮外に存在することと定義される。この婦人科疾患は、生殖可能年齢の女性の約14%にみられる(Rice(2002)Ann. N.Y. Acad. Sci. 955:343-352)。その最も一般的な症状は、進行性の月経困難症、性交疼痛症、慢性骨盤痛、および不妊症である。卵巣嚢腫を伴う子宮内膜症は、超音波検査や磁気共鳴映像法(MRI)などで写真を撮影することで診断される場合があるが、上記の症状は子宮内膜症に特異的ではないため、卵巣嚢腫が存在しない患者を、外科的処置を伴わずに診断するのは困難である(Rice(2002)Ann. N.Y. Acad. Sci. 955:343-52)。例えば、卵巣癌の腫瘍マーカーの1つであるCA125の濃度は、子宮内膜症患者の血清で上昇することがあるが、特異性が低いためにそれほど有用ではない(Eversら(1995)「Progress Management of Endometriosis」、Cautinho編、Parthenon Publishing Groups、Carnforth、175-84)。さらに主訴が月経困難症であって、身体的異常が認められない患者では、子宮内膜症を特発性月経困難症と区別することは困難である。
【0004】
子宮内膜症の治療では通常、外科的な切除を行い、かつ/またはゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)のアゴニストおよびアンドロゲンなどのホルモン剤を投与する。しかし、更年期障害(ほてりや肩こり)、性器出血、および骨脱灰などの副作用のために長期の薬剤投与は望ましくないので、子宮内膜症の臨床管理は非常に困難な場合が多い。同疾患の治療法には、再発率が高いという問題もある。手術から5年後の再発率は約20%であり(Redwine(1991)Fertil. Steril. 56:628-34)、薬物治療の5年後の再発率は53%にもなること(WallerおよびShaw(1993)Fertil. Steril. 59:511-5)が報告されている。
【0005】
子宮内膜症のさまざまな研究でも、以下の理由から、基礎となる遺伝的および病態生理学的な機構はほとんどわかっていない;(i)子宮内膜嚢胞の上皮細胞は衰えて剥がれ落ちることが多く、このため十分な材料を得るのが非常に困難であること;ならびに(ii)通常の試料採取法において間質細胞の混入の影響が小さくないこと。こうした問題を克服するために、本発明者らは、以前の研究において上皮細胞を嚢胞から掻き取って顕微解剖し、それらを高純度で得た(Jimboら(1997)Am. J. Pathol. 150:1173-8)。続いて、子宮内膜症の診断および/または治療の標的となる候補遺伝子群を、ゲノム全体にわたるcDNAマイクロアレイ解析で同定した。
【0006】
TFPI-2(胎盤タンパク質5(PP5)としても知られる)は、組織因子経路インヒビターに相同な、直列に配列された3つのKunitz型プロテイナーゼインヒビタードメインを含むセリンプロテイナーゼインヒビターである(Sprecherら(1994)Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91:3353-7;Raoら(1996)Arch. Biochem. Biophys. 335:82-92;Miyagiら(1994) J. Biochem. 116:939-42)。このタンパク質は、27 kDa、31 kDa、および33 kDaの3種の選択的にグリコシル化されたアイソフォームとして(Raoら(1996)Arch. Biochem. Biophys. 335:82-92)、複数種の内皮細胞によって構成的に分泌される(Iinoら(1998)Arterioscler. Thromb. Vasc. Biol. 18:40-6)。TFPI-2はプラスミンのほかに、トリプシン、キモトリプシン、血漿カリクレイン、カテプシンG、VIIa因子、およびXIa因子の強力なインヒビターであるが、ウロキナーゼ型プラスミノーゲンアクチベーター(uPA)、組織プラスミノーゲンアクチベーター、またはトロンビンのインヒビターではない(Sprecherら(1994)Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91:3353-7;Raoら(1995)Arch. Biochem. Biophys. 319:55-62;Raoら(1995)Arch. Biochem. Biophys. 317:311-4;Raoら(1995)J. Invest. Dermatol. 104:379-83;Petersonら(1996)Biochemistry 35:266-72)。細胞馴化培地、細胞外マトリックス(ECM)、および細胞質画分を用いた同遺伝子の定量から、上記のインヒビターの大半がECM中に存在することが示された(Raoら(1996)Arch. Biochem. Biophys. 335:82-92)。Neaudらは、TFPI-2が、肝細胞成長因子誘導型の肝癌細胞浸潤を増強し、それ自身の浸潤を誘導可能であると報告している(Neaudら(2000)J. Biol. Chem. 275:35565-9)。一方で、インヒビターの発現が、ヒト神経膠腫の進行中に逆相関することが実証されている(Raoら(2001)Clin. Cancer Res. 7:570-6)。TFPI-2に関するさまざまな婦人科研究が妊娠の進行に関して行われているが、このタンパク質が子宮内膜症の発症に関連するという報告はない。
【0007】
インテレクチン(ITLN)は、宿主における細菌特異的成分の認識に役割を果たす可能性がある分泌タンパク質であると報告されている(Raoら(1996)Arch. Biochem. Biophys. 335:82-92)。現在ITLNは、Ca2+の存在下でガラクトフラノシル残基に結合するヒトレクチンであり、D-ガラクトフラノシル残基を含むノカルジア(Nocardia)の細菌性アラビノガラクタンを認識することが証明されている(Tsujiら(2001)J. Biol. Chem. 276:23456-63)。ITLNは295アミノ酸およびN-結合型オリゴ糖からなる分泌糖タンパク質であり、かつ40 kDaのポリペプチドがジスルフィド結合で架橋された120 kDaホモ三量体の基本構造単位を含む。しかしながらITLNが、さまざまな婦人科障害や腫瘍疾患の進行または維持に関与するか否かについてはほとんどわかっていない。
【0008】
浸潤は、子宮内膜症に特有の特徴である。移植理論によれば、子宮内膜症は、腹腔中へと逆行性月経を起こした子宮内膜断片から発症する。子宮内膜病変を生じるためには、これらは腹膜下空間(subperitoneal space)に結合し、ECMタンパク質との相互作用によって浸潤する必要がある。浸潤のタンパク質分解経路は、uPAおよびプラスミンなどのセリンプロテアーゼ、マトリックスメタロプロテイナーゼ、ならびにプロテアーゼインヒビターを含む多数の成分のバランスに依存する(Shapiro(1998)Curr. Opin. Cell Biol. 10:602-8;Toiら(1998)Breast Cancer Res. Treat. 52:113-24;Andreasenら(1997)Int. J. Cancer 72:1-22)。ECM関連TFPI-2の役割は不明だが、TFPI-2は主にECM中に見出されることから、セリンプロテアーゼによるマトリックス代謝回転の調節に重要でありうる。さらにNeaudらは、TFPI-2が、3種類の異なるヒト肝細胞癌の細胞株および安定な形質移入体において浸潤活性を誘導することを報告した(Neaudら(2000)J. Biol. Chem. 275:35565-9)。一方、TFPI-2が、高浸潤性のHT1080細胞株のインビトロにおける浸潤を強く阻害すること(Raoら(1998)Int. J. Cancer 76:749-56)、およびヒト神経膠腫の進行中にこのインヒビターの発現が逆相関すること(Raoら(2001)Clin. Cancer Res. 7:570-6)が実証されている。Neaudらの報告にあるように、TFPI-2は、間接的な抗浸潤性作用と直接的な浸潤推進作用の両方をもつ可能性がある。他のプロテアーゼインヒビター(例えばプラスミノーゲンアクチベーターインヒビター1)も2つの作用をもつ(Dengら(1996)J. Cell Biol. 134:1563-71)。疾患が良性であっても、子宮内膜症細胞が転移性かつ浸潤性でありうるという興味深い現象は、TFPI-2がこのような2つの作用をもち、かつ子宮内膜症細胞の浸潤を制御しうるという事実によって説明されうる。
【0009】
ITLNが子宮内膜症の病態生理に関与するという潜在的な機構は以下のようなものであると考えられる。1つの仮説は、細菌感染が子宮内膜症の発症に関与するというものである。ITLNが、細菌のガラクトフラノシル残基を認識することは既に報告されている(Tsujiら(2001)J. Biol. Chem. 276: 23456-63)。ガラクトフラノシル残基を含む微生物の感染が子宮内膜症の進行を招く場合、ITLNの発現は、感染に対する応答の結果上昇する可能性がある。さらにITLNは、子宮内膜症の自己免疫応答に関与することが知られている。免疫系の機能不全は、子宮内膜症の病因に関与していた(Giudiceら(1998)J. Reprod. Med. 43:252-62;Lebovicら(2001)Fertil. Steril. 75:1-10)。子宮内膜抗原に対して自己抗体が産生されることを記載する複数の報告がある(BurnsおよびSchenken(1999)Clin. Obest. Gynecol. 42:586-610の総説)。ITLNと同様に、自己抗原の大部分は糖タンパク質である。したがってITLNは、子宮内膜症の自己抗原として作用する可能性がある。一方、LangおよびYeamanは、Thomsen-Friedenreich抗原(Galβ1-3GalNAc)と特異的に結合するジャックフルーツのレクチンであるジャカリン(jacalin)が、さまざまな子宮内膜症関連自己抗原と結合し、結果的にこれらの自己抗原との抗体反応性を除去してしまうことを報告した(LangおよびYeaman(2001)J. Autoimmun. 16:151-61)。ITLNが、レクチンであるジャカリンと同様に、自己抗原に対して競合的に作用し、子宮内膜症における自己免疫応答を抑制するという別の可能性もある。
【0010】
したがって本発明者らは、これらのタンパク質が子宮内膜症の診断マーカーとして機能する可能性があると考えた。胎盤におけるTFPI-2の発現レベルは、正常なヒト組織の中で最も高い。TFPI-2が、正常な男性および非妊娠女性の血液中を極めて低濃度で循環する一方で、妊娠女性の血漿ではそのレベルは40倍〜70倍増加する(Buztowら(1988)Clin. Chem. 34:1591-3)。子宮内膜嚢胞でTFPI-2が発現するということは、このタンパク質が、妊娠女性の血清と同様に子宮内膜症患者の血清中にも分泌されるという可能性を意味する。この予想が正しいならば、TFPI-2は子宮内膜症の優れた診断マーカーとなる可能性がある。ITLNは、血液中に分泌されることが報告されている。それにもかかわらず、ITLNは子宮内膜症患者の血中を循環することが示唆されている分泌タンパク質である。これらのタンパク質を子宮内膜症患者の血清中で検出することは、同疾患の新しい診断法を確立すると予想される。
【0011】
cDNAマイクロアレイ技術は、正常細胞および悪性細胞における遺伝子発現の包括的なプロファイルを得、そして悪性細胞と対応する正常細胞における遺伝子発現を比較することを可能にした(Okabeら(2001)Cancer Res. 61:2129-37;Kitaharaら(2001)Cancer Res. 61:3544-9;Linら(2002)Oncogene 21:4120-8;Hasegawaら(2002)Cancer Res. 62:7012-7)。この方法は、癌細胞の複雑な性質の解明、および発癌機構の理解を容易にすることができる。腫瘍において脱制御される遺伝子を同定することにより、個々の癌のより正確で緻密な診断が可能となり、新しい治療標的の開発につながる可能性がある(BienzおよびClevers(2000)Cell 103:311-20)。マイクロアレイ技術の医学的応用には、(i)腫瘍形成に寄与する遺伝子の発見、(ii)有用な診断バイオマーカーおよび抗癌剤用の新しい分子標的の発見、ならびに(iii)化学感受性の付与に関わる遺伝子の同定などがある。最近、マイクロアレイ技術で同定されたある種の癌の発生に関連する分子が、癌に対して有効な新しい薬物を開発するための優れた標的であることが臨床的に証明された。ゲノム全体の視点から腫瘍の基礎となる機構を解明し、そして診断用の標的分子の発見、および新しい治療薬の開発を行うために、本発明者らは、23,040種類のヒト遺伝子に対応するcDNAマイクロアレイを用いて、さまざまな組織に由来する腫瘍の発現プロファイルの解析を行った(Okabeら(2001)Cancer Res. 61:2129-37;Hasegawa S.ら(2002)Cancer Res. 62:7012-7;Kanetaら(2002)Jpn. J. Cancer Res. 93:849-56;Kitaharaら(2002)Neoplasia 4:295-303;Linら(2002)Oncogene 21:4120-8;Nagayama S.ら(2002)Cancer Res. 62:5859-66;Okutsuら(2002)Mol. Cancer Ther. 1:1035-42;Kikuchiら(2003)Oncogene 22:2192-205)。例えば、肝細胞癌(HCC)の発現プロファイルの解析を通じて、本発明者らは、VANGL1遺伝子が腫瘍細胞で高頻度で上方制御されることを示し、かつアンチセンスオリゴヌクレオチドで同遺伝子の発現を抑制すると、HCC細胞の成長を有意に低下させ、アポトーシス性細胞死を誘導可能であることを実証した(Yagyuら(2002)Int. J. Oncol. 220:1173-8)。
【0012】
発癌機構を解明するために設計された研究は、抗腫瘍薬剤の分子標的の同定を既に促進している。例えば、活性化が翻訳後のファルネシル化に依存する、Rasに関連した成長シグナル伝達経路を阻害するために当初開発されたファルネシル転移酵素(FTI)のインヒビターは、動物モデルにおけるRas依存性腫瘍の治療に有効である(Heら(1999)Cell 99:335-45)。抗癌薬と抗HER2モノクローナル抗体であるトラスツズマブを併用したヒトに対する臨床試験が、原癌遺伝子受容体HER2/neuの拮抗を目的として実施されており、乳癌患者の臨床応答および総生存率の改善が達成されている(Linら(2001)Cancer Res. 61:6345-9)。bcr-abl融合タンパク質を選択的に不活性化するチロシンキナーゼインヒビターSTI-571が、慢性骨髄性白血病(bcr-ablチロシンキナーゼの構成的な活性化が白血球の形質転換に重要な役割を果たす)を治療するために開発されている。これらの種類の薬剤は、特定の遺伝子産物の発癌活性を抑制するように設計されている(Fujitaら(2001)Cancer Res. 61:7722-6)。したがって、癌細胞で発現が通常増加する遺伝子産物は、新たな抗癌剤を開発するための潜在的な標的となりうる。
【0013】
CD8+細胞傷害性Tリンパ球(CTL)が、MHCクラスI分子上に提示された腫瘍関連抗原(TAA)に由来するエピトープペプチドを認識し、腫瘍細胞を溶解することが実証されている。TAAの最初の例としてMAGEファミリーが発見されて以降、他にも多くのTAAが免疫学的方法で発見されている(Boon(1993)Int. J. Cancer 54:177-80;Boonおよびvan der Bruggen(1996)J. Exp. Med. 183:725-9;van der Bruggenら(1991)Science 254:1643-7;Brichardら(1993)J. Exp. Med. 178:489-95;Kawakamiら(1994)J. Exp. Med. 180:347-52)。発見されたTAAの一部は現在、免疫療法の標的として臨床開発の段階にある。これまでに発見されたTAAには、MAGE(van der Bruggenら(1991)Science 254:1643-7)、gp100(Kawakamiら(1994)J. Exp. Med. 180:347-52)、SART(Shichijoら(1998)J. Exp. Med. 187:277-88)、およびNY-ESO-1(Chenら(1997)Proc. Natl. Acad. Sci. USA 94:1914-8)などがある。一方、腫瘍細胞で特異的に過剰発現されることが明らかにされている遺伝子産物は、細胞免疫応答を誘導する標的として認識されることがわかっている。このような遺伝子産物には、p53(Umanoら(2001)Brit. J. Cancer 84:1052-7)、HER2/neu(Tanakaら(2001)Brit. J. Cancer 84:94-9)、CEA(Nukayaら(1999)Int. J. Cancer 80:92-7)などがある。
【0014】
TAAに関する基礎研究および臨床研究が大きく進展しているにもかかわらず(Rosenbegら(1998)Nature Med. 4:321-7;Mukherjiら(1995)Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92:8078-82;Huら(1996)Cancer Res. 56:2479-83)、結腸直腸癌を含む腺癌の治療に利用可能な候補TAAの数は、限られた数しかない。癌細胞で多く発現され、かつ同時に発現が癌細胞に制限されるTAAは、免疫療法の標的の有望な候補になると考えられる。さらに、強力かつ特異的な抗腫瘍免疫応答を誘導する新しいTAAが同定されれば、さまざまな種類の癌を対象としたペプチドワクチン接種戦略の臨床使用に弾みがつくと期待される(Boonおよびcan der Bruggen(1996)J. Exp. Med. 183:725-9;van der Bruggenら(1991)Science 254:1643-7;Brichardら(1993)J. Exp. Med. 178:489-95;Kawakamiら(1994)J. Exp. Med. 180:347-52;Shichijoら(1998)J. Exp. Med. 187:277-88;Chenら(1997)Proc. Natl. Acad. Sci. USA 94:1914-8;Harris(1996)J. Natl. Cancer Inst. 88:1442-5;Butterfieldら(1999)Cancer Res. 59:3134-42;Vissersら(1999)Cancer Res. 59:5554-9;van der Burgら(1996)J. Immunol. 156:3308-14;Tanakaら(1997)Cancer Res. 57:4465-8;Fujieら(1999)Int. J. Cancer 80:169-72;Kikuchiら(1999)Int. J. Cancer 81:459-66;Oisoら(1999)Int. J. Cancer 81:387-94)。
【0015】
一部の健康なドナーに由来する、ペプチド刺激した末梢血単核球(PBMC)は、ペプチドに応答して有意なレベルのIFN-γを産生するが、51Cr-放出アッセイ法でHLA-A24またはHLA-A0201拘束的に腫瘍細胞に対する細胞傷害性を生じることがほとんどないことは数多く報告されている(Kawanoら(2000)Cancer Res. 60:3550-8;Nishizakaら(2000)Cancer Res. 60:4830-7;Tamuraら(2001)Jpn. J. Cancer Res. 92:762-7)。しかし、HLA-A24とHLA-A0201の両方とも、白人と同様に日本人に一般的なHLA対立遺伝子の1つである(Dateら(1996)Tissue Antigens 47:93-101;Kondoら(1995)J. Immunol. 155:4307-12;Kuboら(1994)J. Immunol. 152:3913-24;Imanishiら(1992)Proceeding of the eleventh International Histocompatibility Workshop and Conference Oxford University Press、Oxford、1065;Williamsら(1997)Tissue Antigen 49:129)。したがって、これらのHLAによって提示された癌の抗原ペプチドは、日本人および白人の癌の治療に特に有用な可能性がある。さらに、インビトロにおける低親和性CTLの誘導が通常、高濃度のペプチドの使用によって生じ、効率的にCTLを活性化する高レベルの特異的ペプチド/MHC複合体が抗原提示細胞(APC)上に生じることがわかっている(Alexander-Millerら(1996)Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93:4102-7)。
【発明の概要】
【0016】
発明の概要
本発明は、遺伝子発現パターンが卵巣子宮内膜症と相関するという発見に基づく。卵巣子宮内膜症で発現差のある遺伝子は、本明細書で集合的に「卵巣子宮内膜症関連遺伝子」、「OEX核酸」、または「OEXポリヌクレオチド」と呼び、また同遺伝子にコードされた対応ポリペプチドは、「OEXポリペプチド」または「OEXタンパク質」と呼ぶ。
【0017】
したがって本発明は、組織試料などの、被験者に由来する生物学的試料中の卵巣子宮内膜症関連遺伝子の発現レベルを決定することにより、被験者における卵巣子宮内膜症の素因を診断または判定する方法を特徴とする。「卵巣子宮内膜症関連遺伝子」という表現は、卵巣子宮内膜細胞から得られた細胞と正常細胞とでは異なる発現レベルを特徴とする遺伝子を意味する。「正常細胞」という表現は、卵巣または子宮組織から得られた細胞を意味し、子宮内膜嚢胞の細胞ではない。卵巣子宮内膜症関連遺伝子にはOEX 1〜242が含まれる。この遺伝子の、対照レベルと比較したときの発現レベルの変化(増加もしくは減少)は、被験者が卵巣子宮内膜症であるか、または同疾患を発症する危険性があることを意味する。対照レベルは、正常対照レベル、または卵巣子宮内膜症の対照レベルであってよい。
【0018】
正常対照レベルは、卵巣子宮内膜症ではないことがわかっている正常で健康な個体、または集団で検出される遺伝子発現のレベルを意味する。対照レベルは、1つの標準集団に由来する1つの発現パターンであってもよく、または複数の発現パターンであってもよい。例えば対照レベルは、過去に試験された細胞からの発現パターンのデータベースの場合がある。正常で健康な個体とは、卵巣子宮内膜症の臨床症状がみられない個体である。
【0019】
正常対照レベルと比較して、試験試料で検出されるOEX 1〜97およびOEX 186〜242の発現レベルが増加すれば、(試料採取された)被験者が卵巣子宮内膜症であるか、または同疾患を発症する危険性があることを意味する。これとは対照的に、正常対照レベルと比較して、試験試料で検出されるOEX 98〜185の発現レベルが減少すれば、対象被験者が卵巣子宮内膜症であるか、または同疾患を発症する危険性があることを意味する。
【0020】
あるいは、試料中の子宮内膜症関連遺伝子のパネルの発現レベルを、同じ遺伝子パネルの卵巣子宮内膜症対照レベルと比較する。「卵巣子宮内膜症対照レベル」という表現は、子宮内膜症の集団にみられる、子宮内膜症関連遺伝子の発現プロファイルを意味する。
【0021】
OEX 1〜97およびOEX 186〜242の発現レベルが、卵巣子宮内膜症対照レベルと比較して減少するか同等であれば、被験者が卵巣子宮内膜症であるか、または同疾患を発症する危険性があることを意味する。これとは対照的に、OEX 98〜185の発現レベルが、正常対照レベルと比較して増加するか同等であれば、被験者が卵巣子宮内膜症であるか、または同疾患を発症する危険性があることを意味する。
【0022】
本発明によれば、遺伝子の発現は、その発現レベルが対照レベルと比較して10%、25%、50%、またはこれ以上、増加または減少した場合に変化したと判定することができる。あるいは遺伝子の発現は、その発現レベルが対照レベルと比較して1倍、2倍、5倍、またはこれ以上、増加または減少した場合に変化したと判定することができる。発現レベルは、例えばアレイ上で、卵巣子宮内膜症関連遺伝子プローブと、被験者に由来する生物学的試料中の遺伝子転写物とのハイブリダイゼーションを検出することで判定できる。
【0023】
本発明で使用される、被験者に由来する生物学的試料は、試験被験者(例えば、卵巣子宮内膜症であることがわかっているか、または卵巣子宮内膜症であることが疑われる患者)から得られた組織試料を含む任意の試料であってよい。例えば組織試料は、好ましくは上皮細胞を含む。あるいは、生物学的試料は子宮内膜嚢胞に由来する上皮細胞である。
【0024】
本発明は、OEX 1〜242の2つまたはそれ以上の遺伝子の発現レベルの卵巣子宮内膜症の標準発現プロファイルも提供する。あるいは本発明は、OEX 1〜97およびOEX 186〜242、またはOEX 98〜185の2つまたはそれ以上の遺伝子の発現レベルの卵巣子宮内膜症標準発現プロファイルを提供する。
【0025】
本発明はさらに、試験化合物を、卵巣子宮内膜症関連遺伝子を発現する試験細胞に、または卵巣子宮内膜症関連遺伝子の転写調節領域の下流に連結されたレポーター遺伝子を含むベクターを導入した細胞に接触させ、卵巣子宮内膜症関連遺伝子の発現レベルを決定し、卵巣子宮内膜症関連遺伝子であるOEX 1〜242の発現もしくは活性を阻害または増強する化合物をスクリーニングする方法を提供する。試験細胞は、子宮内膜嚢胞に由来する細胞などの上皮細胞であってよい。卵巣子宮内膜症関連遺伝子またはレポーター遺伝子の発現レベルを変化させる化合物は、子宮内膜症の症状を緩和することが期待される。OEX 1〜97およびOEX 186〜242の1つもしくは複数の遺伝子の発現レベル、またはOEX 1〜97もしくはOEX 186〜242の転写調節領域の下流に連結されたレポーター遺伝子の発現レベルが、同遺伝子の対照レベルと比較して減少すれば、試験化合物が、卵巣子宮内膜症関連遺伝子のインヒビターであり、また子宮内膜症の症状を緩和することが期待されることを意味する。あるいは、OEX 98〜185の1つもしくは複数の遺伝子の発現レベル、またはOEX 98〜185の転写調節領域の下流に連結されたレポーター遺伝子の発現レベルが、同遺伝子の対照レベルと比較して増加すれば、試験化合物が、卵巣子宮内膜症関連遺伝子の発現のエンハンサーであり、また子宮内膜症の症状を緩和することが期待されることを意味する。
【0026】
さらに本発明は、卵巣子宮内膜症関連遺伝子にコードされたポリペプチドを試験化合物に接触させて、化合物と遺伝子の結合活性、またはポリペプチドの生物学的活性を決定し、卵巣子宮内膜症関連遺伝子の発現を阻害または増強する化合物をスクリーニングする方法を提供する。化合物と遺伝子との結合活性、またはポリペプチドの生物学的活性を変化させる化合物は、子宮内膜症の症状を緩和することが期待される。OEX 1〜97およびOEX 186〜242にコードされた1つもしくは複数のポリペプチドとの結合活性またはその生物学的活性が、同遺伝子の対照レベルと比較して減少すれば、対象試験化合物が、卵巣子宮内膜症関連遺伝子のインヒビターであり、かつ子宮内膜症の症状を緩和することが期待されることを意味する。あるいは、OEX 98〜185にコードされた1つもしくは複数のポリペプチドとの結合活性またはその生物学的活性が、同遺伝子の対照レベルと比較して増加すれば、試験化合物が、卵巣子宮内膜症関連遺伝子のエンハンサーであり、かつ子宮内膜症の症状を緩和することが期待されることを意味する。
【0027】
本発明は、2つまたはそれ以上のOEX核酸に結合するか、または同核酸配列にコードされる遺伝子産物に結合する、検出試薬を含むキットも提供する。OEX核酸に結合する、2つまたはそれ以上の核酸のアレイも提供する。
【0028】
本発明の治療法は、OEX 1〜97およびOEX 186〜242からなる群より選択される遺伝子の発現、または同遺伝子にコードされたポリペプチドの活性を阻害することによって、被験者の卵巣子宮内膜症を治療または予防する方法を含む。この方法は例えば、アンチセンス、短鎖干渉RNA(siRNA)、リボザイム、または抗体組成物を被験者に投与することで達成できる。
【0029】
アンチセンス組成物は、特定の標的遺伝子配列の発現を減少させる。例えばアンチセンス組成物は、OEX 1〜97およびOEX 186〜242からなる群より選択されるコード配列に相補的なヌクレオチド配列を含む。siRNA組成物は、OEX 1〜97およびOEX 186〜242からなる群より選択される核酸配列の発現を減少させる。核酸特異的なリボザイム組成物は、OEX 1〜97およびOEX 186〜242からなる群より選択される核酸配列の発現を減少させるように構築することができる。
【0030】
あるいは、被験者の卵巣子宮内膜症の治療または予防は、OEX 1〜97および186〜242からなる群より選択される遺伝子にコードされたポリペプチドに結合する抗体または抗体断片を被験者に投与することで実施される。
【0031】
本発明は、ワクチンおよびワクチン接種法も含む。例えば、被験者の卵巣子宮内膜症を治療または予防する方法は、OEX 1〜97および186〜242からなる群より選択される核酸にコードされたポリペプチド、またはこのようなポリペプチドの免疫学的に活性な断片を含むワクチンを被験者に投与することで実施される。免疫学的に活性な断片は例えば、完全長の天然タンパク質より短く、かつ免疫応答を誘導するポリペプチドである。例えば、T細胞やB細胞などの免疫細胞を刺激する、長さが少なくとも8アミノ酸残基の免疫学的に活性な断片は、本発明の免疫学的に活性な断片に含まれる。免疫細胞の刺激は、細胞の増殖、サイトカイン(例えばIL-2)の合成、または抗体の産生を検出することで測定される。
【0032】
他の治療法には、OEX 98〜185の発現または活性を増加させる化合物を患者に投与する方法などがある。さらに、卵巣子宮内膜症は、OEX 98〜185にコードされるタンパク質を投与することで治療することができる。タンパク質を患者に直接投与してもよく、あるいは、例えば発現ベクター、または発現が下方制御された対象マーカー遺伝子を有する宿主細胞を投与することで、患者に導入した後にインビボでタンパク質を発現させてもよい。対象遺伝子のインビボにおける発現の適切な機構は当技術分野で周知である。
【0033】
さらに本発明は、卵巣子宮内膜症を治療または予防するための組成物を提供する。この組成物は好ましくは、以下からなる群より選択される少なくとも1つの活性成分を含む:(1)OEX 1〜97およびOEX 186〜242からなる群より選択される遺伝子に対するアンチセンス、siRNA、またはリボザイム;(2)OEX 1〜97およびOEX 186〜242からなる群より選択される遺伝子にコードされたポリペプチドに結合する抗体または抗体断片;(3)OEX 98〜185からなる群より選択されるポリヌクレオチド、またはこれらにコードされたポリペプチド;ならびに(4)本発明の卵巣子宮内膜症関連遺伝子の発現または活性を変化させる化合物をスクリーニングする任意の方法で選択された化合物。
【0034】
特に明記しない限り、本明細書で使用するすべての科学技術用語は、本発明が属する技術分野の当業者により一般に理解される用語と同じ意味をもつ。本明細書に記載された方法および材料と類似または同等の方法および材料を、本発明を実施または検討するにあたって使用することができるが、適切な方法および材料を以下に説明する。本明細書で言及されたすべての刊行物、特許出願、特許、および他の参考文献は、その全体が参照として本明細書に組み入れられる。矛盾が生じる場合は、定義を含め本明細書が優先する。また、材料、方法、および実施例は、単に説明目的であり、制限する意図はない。
【0035】
本発明の他の特徴および利点は、以下の詳細な記述および特許請求の範囲から明らかになる。
【0036】
発明の詳細な説明
本明細書で用いる「1つの(a)」、「1つの(an)」、および「その(the)」という語は、特に明記しない限り、「少なくとも1つ」を意味する。
【0037】
本発明は部分的には、複数の核酸配列の発現パターンが、卵巣子宮内膜症患者の子宮内膜嚢胞の内皮細胞で変化しているという発見に基づく。遺伝子発現の差は、包括的cDNAマイクロアレイシステムを用いて同定した。
【0038】
子宮内膜症の性質を明らかにするために、本発明者らは、cDNAマイクロアレイ解析を以前に記載された手順で行った(Arimotoら(2003)Int. J. Oncol. 22:551-60)。子宮内膜症組織と、対応する正所性(eutopic)子宮内膜間の発現パターンを比較することで、子宮内膜嚢胞で一般に発現が上方制御された(過剰に発現された)複数の遺伝子を同定した。同定された遺伝子のなかで、組織因子経路インヒビター2(TFPI-2)およびインテレクチン(ITLN)をコードする2つの遺伝子をさらに調べた。これら2つの遺伝子を今回の研究で選択した理由は以下の通りである:(i)これらが正常なヒトの生命維持に重要な器官の組織で相対的に低い発現を示したため(生命の維持に必要な生物で高い発現レベルを示す遺伝子を薬剤の標的として用いると、致死的な副作用が誘導される恐れがある);ならびに(ii)TFPI-2とITLNの両方は分泌タンパク質であることが知られており、かつこれらのタンパク質に対する特異的な抗体が、これらの遺伝子が関連する疾患の診断および/または治療に使用可能であるため。
【0039】
この研究で本発明者らは、上記遺伝子の発現が、子宮内膜症の進行または維持に重要な役割を果たしている可能性があることを報告し、かつこれらの遺伝子産物が、子宮内膜症の薬物の開発のための有望な標的となる可能性があることを示唆する。
【0040】
cDNAマイクロアレイ解析を、20,000種類を超える遺伝子を対象に行った。結果として、卵巣子宮内膜症患者で共通に過剰発現されたか、または抑制された(下方制御された、または発現が低下した)遺伝子を選択した。242種類の遺伝子が、子宮内膜嚢胞に由来する上皮細胞で異なって発現されていることがわかった。24種類の遺伝子は、月経周期を通して発現が上方制御されており、また30種類の遺伝子は、月経周期を通して発現が下方制御されていた。70種類の遺伝子およびESTは、月経周期の増殖期で発現が上方制御されており、かつ14種類の遺伝子は、月経周期の増殖期で発現が下方制御されていた。60種類の遺伝子およびESTは、月経周期の分泌期で発現が上方制御されており、また44種類の遺伝子は、月経周期の増殖期で発現が下方制御されていた。
【0041】
現在まで、複数のホルモン療法が子宮内膜症の治療に適用されている。卵巣チョコレート嚢胞、または重度の癒着を伴う子宮内膜症は、腹腔鏡下手術または腹部手術によって治療されることも少なくない。しかし、こうした治療には、高い再発率と副作用という短所を抱える。本明細書で同定された、発現差のある遺伝子は、診断目的で、ならびに子宮内膜症ならびに卵巣および子宮組織の悪性腫瘍の発症を抑制する遺伝子標的療法を開発するために使用することができる。
【0042】
卵巣子宮内膜症患者で発現レベルが変化する(すなわち増加または減少する)遺伝子を表1〜9にまとめた。本明細書では、これらの遺伝子を集合的に「卵巣子宮内膜症関連遺伝子」、「OEX核酸」、または「OEXポリヌクレオチド」と呼ぶことにする。また遺伝子にコードされた対応するポリペプチドを、「OEXポリペプチド」、または「OEXタンパク質」と呼ぶことにする。特に明記しない限り、「OEX」は、本明細書に記載された任意の配列(OEX 1〜242)を指す。これらの遺伝子は以前に記載されており、データベースアクセッション番号とともに表示した。
【0043】
細胞または細胞集団を含む試料中のさまざまな遺伝子の発現を測定することで、患者の卵巣子宮内膜症を診断することができる。同様に、さまざまな薬剤に応答した、これらの遺伝子の発現を測定することで、卵巣子宮内膜症を治療するための薬剤を同定することができる。
【0044】
(表1)月経周期を通して子宮内膜嚢胞で上方制御される遺伝子

23例中70%を上回る例において、標準化発現比(嚢胞/正常)が2.0の遺伝子を調べた。このカテゴリーにあてはまる試料数を一番左側のカラムに示す。アクセッション番号、遺伝子の記号および名称は、Unigeneデータベース(build #131)に準拠した。
【0045】
(表2)月経周期の増殖期の患者に由来する子宮内膜嚢胞で上方制御される遺伝子


9例中70%を上回る例において、標準化発現比(嚢胞/正常)が2.0の遺伝子を調べた。このカテゴリーにあてはまる試料数を一番左側のカラムに示す。アクセッション番号、遺伝子の記号および名称は、Unigeneデータベース(build #131)に準拠した。
【0046】
(表3)月経周期の分泌期だけで子宮内膜嚢胞で上方制御される遺伝子


14例中70%を上回る例において、標準化発現比(嚢胞/正常)が2.0の遺伝子を調べた。このカテゴリーにあてはまる試料数を一番左側のカラムに示す。アクセッション番号、遺伝子の記号および名称は、Unigeneデータベース(build #131)に準拠した.
【0047】
(表4)月経周期を通して子宮内膜嚢胞で下方制御される遺伝子

23例中70%を上回る例において、標準化発現比(嚢胞/正常)が0.3の遺伝子を調べた。このカテゴリーにあてはまる試料数を一番左側のカラムに示す。アクセッション番号、遺伝子の記号および名称は、Unigeneデータベース(build #131)に準拠した。
【0048】
(表5)月経周期の増殖期だけで子宮内膜嚢胞で下方制御される遺伝子

9例中70%を上回る例において、標準化発現比(嚢胞/正常)が0.3の遺伝子を調べた。このカテゴリーにあてはまる試料数を一番左側のカラムに示す。アクセッション番号、遺伝子の記号および名称は、Unigeneデータベース(build #131)に準拠した。
【0049】
(表6)月経周期の分泌期だけで子宮内膜嚢胞で下方制御される遺伝子


14例中70%を上回る例において、標準化発現比(嚢胞/正常)が0.3の遺伝子を調べた。このカテゴリーにあてはまる試料数を一番左側のカラムに示す。アクセッション番号、遺伝子の記号および名称は、Unigeneデータベース(build #131)に準拠した.
【0050】
(表7)月経周期を通して子宮内膜嚢胞で上方制御される遺伝子

調べた23例中50%を上回る例において、標準化発現比(嚢胞/正常)が5.0以上の遺伝子を選択した。アクセッション番号、遺伝子の記号および名称は、Unigeneデータベース(build #131)に準拠した。
【0051】
(表8)月経周期の増殖期に患者の子宮内膜嚢胞で上方制御される遺伝子


調べた9例中50%を上回る例において、標準化発現比(嚢胞/正常)が5.0以上の遺伝子を選択した。アクセッション番号、遺伝子の記号および名称は、Unigeneデータベース(build #131)に準拠した。
【0052】
(表9)月経周期の分泌期中に子宮内膜嚢胞で上方制御される遺伝子


調べた14例中50%を上回る例において、標準化発現比(嚢胞/正常)が5.0以上の遺伝子を選択した。アクセッション番号、遺伝子の記号および名称は、Unigeneデータベース(build #131)に準拠した。
【0053】
卵巣子宮内膜症の診断
本発明は、卵巣子宮内膜症の診断法を提供する。本発明の方法によれば、卵巣子宮内膜症の被験者、または卵巣子宮内膜症を発症する危険性のある被験者を診断することができる。本発明の方法によって診断される被験者は、好ましくは哺乳類である。哺乳類には例えば、ヒト、ヒト以外の霊長類、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウマ、またはウシなどが挙げられる。
【0054】
卵巣子宮内膜症は、卵巣子宮内膜細胞を含むか、または卵巣子宮内膜細胞を含むことが疑われる、被験者に由来する生物学的試料(例えば被験者に由来する組織試料)を対象に、1つもしくは複数のOEX関連遺伝子の発現を調べることで診断される場合がある。具体的には、本発明の卵巣子宮内膜症の診断法は、表1〜9に挙げた少なくとも1つのOEX関連遺伝子、および最大ですべてのOEX関連遺伝子の発現レベルを決定する(測定する)段階を含む。GenBankデータベースに登録された既知配列に関する配列情報を用いて、卵巣子宮内膜症関連遺伝子を当業者に周知の手法で検出して測定する。OEX 1〜242で表される1、2、3、4、5、25、35、50、100、またはこれ以上の配列の発現が決定される場合があり、かつ、望ましいならば、これらのヌクレオチドの発現は、本明細書に記載されたパラメータまたは条件(例えば卵巣子宮内膜症または非卵巣子宮内膜症)の1つにしたがって発現レベルが変化することがわかっている他のヌクレオチドとともに、決定してもよい。
【0055】
本発明の方法によれば、被験者に由来する、生物学的試料中の1つもしくは複数の卵巣子宮内膜症関連遺伝子の発現レベルを、同じ遺伝子の対照レベルと比較する。生物学的試料は、選択された卵巣子宮内膜症関連遺伝子の発現が、卵巣子宮内膜症患者で検出可能な限りにおいて、被験者に由来する任意の試料であってよく、かつ体組織または体液(血液、血清、および尿などの生物学的液体)から得られる試験細胞などの個々の細胞および細胞集団を含む。好ましくは生物学的試料は、子宮内膜嚢胞であることがわかっている組織か、子宮内膜嚢胞であることが疑われる組織に由来する上皮細胞を含む試験細胞集団を含む。
【0056】
本発明の診断法における、卵巣子宮内膜症関連遺伝子の対照レベルは、標準集団中の同じ遺伝子の発現レベルである。標準細胞集団中の細胞は、本方法で調査された生物学的試料と同じ種類の試料に由来する。標準細胞集団は、比較対象のパラメータが知られている1個もしくは複数の細胞(すなわち子宮内膜症の細胞、または非子宮内膜症の細胞)を含む。あるいは対照細胞集団は、アッセイ法のパラメータまたは条件が知られている細胞に由来する分子情報のデータベースに由来する場合がある。
【0057】
本発明の卵巣子宮内膜症の診断法によれば、被験者に由来する生物学的試料中のOEXヌクレオチドの発現レベルを、OEXヌクレオチドの多数の対照レベルと比較することができる。対照レベルは、さまざまな既知のパラメータ(すなわち子宮内膜症または非子宮内膜症)を有する生物学的試料に由来する場合がある。したがって、被験者に由来する生物学的試料中のOEXヌクレオチドの発現レベルを、卵巣子宮内膜細胞に対応する対照レベル(卵巣子宮内膜症対照レベル)と比較することが可能であり、続いて非卵巣子宮内膜細胞(正常細胞)に対応する対照(正常対照レベル)と比較することができる。したがって対照レベルは、1つの標準集団に由来する1つの発現パターンであってもよく、または複数の発現パターンであってもよい。例えば対照レベルは、過去に試験された細胞に由来する発現パターンのデータベースの場合がある。
【0058】
対照レベルと比較時の、被験者に由来する生物学的試料中の遺伝子発現レベルのパターンが、卵巣子宮内膜症またはこの素因を意味するか否かは、対照レベルを決定するために用いられた試料の種類に依存する。例えば、仮に対照レベルが、非子宮内膜症細胞からなる標準細胞集団の試料で検出される場合、被験者に由来する生物学的試料中の遺伝子発現レベルが類似していれば、被験者が子宮内膜症でないことを意味する。本明細書では、このような対照レベルを「正常対照レベル」と呼ぶ。正常対照レベルとは、卵巣子宮内膜症ではないことがわかっている正常で健康な個体で、または個体の集団で検出される遺伝子発現のレベルを意味する。正常で健康な個体とは、卵巣子宮内膜症の臨床症状のみられない個体である。逆に、仮に対照レベルが、子宮内膜症細胞から構成される標準細胞集団の試料で検出される場合、被験者に由来する生物学的試料と標準細胞集団との間で遺伝子発現プロファイルが類似していれば、対象生物学的試料が子宮内膜症細胞を含むことを意味する。本明細書では、このような対照レベルを「卵巣子宮内膜症対照レベル」と呼ぶ。「卵巣子宮内膜症対照レベル」という表現は、子宮内膜症の集団にみられる子宮内膜症関連遺伝子の発現プロファイルを意味する。
【0059】
被験者に由来する生物学的試料中の卵巣子宮内膜症関連遺伝子の発現レベルは、発現レベルが対照レベルと1.0倍、1.5倍、2.0倍、5.0倍、10.0倍、もしくはこれ以上異なる場合に、変化しているとみなすことができる。あるいは、被験者に由来する生物学的試料中の遺伝子の発現レベルが、対照レベルと比較して10%、25%、50%またはそれ以上増加または減少すれば、被験者試料中で遺伝子発現が変化していることを意味する。
【0060】
被験者に由来する生物学的試料で検出されるOEX-1〜97および186〜242の発現レベルが、正常対照レベルと比較して増加すれば、被験者が卵巣子宮内膜症であるか、または卵巣子宮内膜症を発症する危険性があることを意味する。これとは対照的に、被験者に由来する生物学的試料で検出されるOEX 98〜185のレベルが、正常対照レベルと比較して減少すれば、被験者が卵巣子宮内膜症であるか、または卵巣子宮内膜症を発症する危険性があることを意味する。
【0061】
被験者に由来する生物学的試料中に検出されるOEX 1〜97および186〜242の発現レベルが、卵巣子宮内膜症対照レベルと比較して減少するか、または同等であれば、被験者が卵巣子宮内膜症であるか、または卵巣子宮内膜症を発症する危険性があることを意味する。これとは対照的に、被験者に由来する生物学的試料中に検出されるOEX 98〜185のレベルが、正常対照レベルと比較して増加するか、または同等であれば、被験者が卵巣子宮内膜症であるか、または卵巣子宮内膜症を発症する危険性があることを意味する。
【0062】
被験者に由来する生物学的試料中の1つもしくは複数の卵巣子宮内膜症関連遺伝子の発現が、正常対照レベルと比較して変化すれば、被験者が卵巣子宮内膜症であるか、または同疾患を発症する危険性があることを意味する。より信頼できる診断結果を得るためには、多数のOEXヌクレオチドの発現レベルを調べることが好ましい。仮に、OEX 1〜242の1%、5%、25%、50%、60%、80%、90%またはこれを上回る発現レベルが、被験者に由来する生物学的試料で変化しているならば、被験者が卵巣子宮内膜症であるか、または卵巣子宮内膜症を発症する危険性がある確率は、かなり高くなる。
【0063】
望ましいならば、被験者に由来する生物学的試料中の遺伝子の発現レベルと対照レベルとの比較は、測定対象となるパラメータまたは条件に発現が依存しない対照核酸を考慮して実施することができる。「対照核酸」は、その発現が、子宮内膜症状態の細胞と非子宮内膜症状態の細胞で変わらないことがわかっている核酸である。試験核酸および参照核酸中の対照核酸の発現レベルを、比較対象集団のシグナルレベルを標準化するために使用することができる。対照核酸は「ハウスキーピング遺伝子」とも呼ばれ、β-アクチン、グリセルアルデヒド3-リン酸デヒドロゲナーゼ、またはリボソームタンパク質P1などの遺伝子を本発明で使用することができる。
【0064】
本明細書に開示された遺伝子の発現は、当技術分野で周知の任意の方法でRNAレベルで決定することができる。例えば、OEX核酸配列に対応する配列データベース中の配列を、ノーザンブロットハイブリダイゼーション解析などでOEXのRNAを検出する際のプローブを構築するために使用できる。プローブは、好ましくは参照配列(すなわちOEX核酸(表1〜9)のヌクレオチド配列)の少なくとも10残基、20残基、50残基、100残基、200残基、またはこれを上回る残基の連続ヌクレオチドを含む。あるいは発現レベルを、逆転写ベースのPCR(RT-PCR)アッセイ法で、例えばOEX核酸配列に特異的なプライマーを用いて測定する。
【0065】
この方法によれば、発現レベルを、本明細書に記載された遺伝子にコードされる、発現されたポリペプチドのレベルまたは生物学的活性を測定することで、タンパク質レベルで決定することもできる。このような方法は当技術分野で周知であり、遺伝子にコードされたポリペプチドに対する抗体をベースとした免疫アッセイ法が含まれる。卵巣子宮内膜症関連遺伝子にコードされた個々のポリペプチドの生物学的活性も当技術分野で周知であり、また当業者であれば、測定対象のポリペプチドの種類に応じてポリペプチドの生物学的活性を測定する適切な従来の方法を採用することができる。
【0066】
遺伝子発現の変化が、遺伝子の増幅または欠失に関連する場合は、被験者に由来する生物学的試料中の遺伝子(DNA配列)を、標準細胞集団の遺伝子と比較して、被験者が卵巣子宮内膜症であるか、または卵巣子宮内膜症を発症する危険性があるかどうかを決定することができる。
【0067】
被験者における卵巣子宮内膜症の治療有効性の評価
本明細書で同定される、発現差のあるOEXヌクレオチドはまた、卵巣子宮内膜症の治療経過のモニタリングも可能とする。この方法によれば、試験細胞集団などの生物学的試料を、卵巣子宮内膜症の治療を受けている被験者から得る。評価法は、上述した本発明の卵巣子宮内膜症の診断法にしたがって実施することができる。
【0068】
望ましいならば、生物学的試料を、治療前、治療中、または治療後のさまざまな時点で被験者から得る。次に、生物学的試料中の1つもしくは複数のOEX関連遺伝子の発現レベルを決定し、例えば、卵巣子宮内膜症の状態であることがわかっている細胞(すなわち子宮内膜症細胞もしくは非子宮内膜症細胞)を含む標準細胞集団に由来する対照レベルと比較する。対照レベルは、治療が行われなかった生物学的試料を対象に決定される。
【0069】
対照レベルが、卵巣子宮内膜細胞を含まない生物学的試料に由来する場合、被験者に由来する生物学的試料中の発現レベルと対照レベルが同等であることは、治療が有効であることを意味する。被験者に由来する生物学的試料中のOEXヌクレオチドの発現レベルと対照レベルに差がある場合は、臨床転帰または予後がそれほど望ましくないことを意味する。
【0070】
「有効である」という表現は、治療が、病理学的に上方制御される遺伝子(OEX 1〜97およびOEX 186〜242)の発現の減少、病理学的に下方制御される遺伝子(OEX 98〜185)の発現の増加、または被験者における子宮内膜嚢胞の大きさ、蔓延度、または増殖能の低下をもたらすことを意味する。治療を予防的に行う際は、「有効である」という表現は、治療が卵巣子宮内膜嚢胞の形成を遅らせるか、または防ぐことを意味する。子宮内膜嚢胞の評価は、標準的な臨床プロトコルを用いて行われる場合がある。
【0071】
治療の有効性は、卵巣子宮内膜症を診断または治療するための既知の任意の方法と関連して決定される。卵巣子宮内膜症は例えば、症候性異常、例えば進行性の月経困難症、性交疼痛症、慢性骨盤痛、および不妊症を、子宮内膜腺および子宮外間質の外科的な同定と平行して同定することにより診断される。
【0072】
卵巣子宮内膜症の被験者の予後評価
本発明はさらに、試験細胞集団などの患者由来の生物学的試料中の1つもしくは複数のOEXヌクレオチドの発現レベルを対照レベルと比較することで、卵巣子宮内膜症患者の予後を評価する方法を提供する。あるいは、患者に由来する生物学的試料中の1つもしくは複数のOEXヌクレオチドの発現レベルを、一連の疾患段階にわたり測定して、患者の予後を評価することができる。評価法は、上述した本発明の卵巣子宮内膜症の診断法にしたがって実施することができる。
【0073】
正常対照レベルと比較して、OEX 98〜185の1つもしくは複数の発現レベルが減少するか、または正常対照と比較して、OEX 1〜97および186〜242の1つもしくは複数の発現レベルが増加すれば、予後がそれほど望ましくはないことを意味する。OEX 98〜185の1つもしくは複数の発現レベルが増加すれば、患者の予後がより望ましいことを意味し、またOEX 1〜97および186〜242の発現レベルが減少すれば、患者の予後がより望ましいことを意味する。
【0074】
卵巣子宮内膜症の標準発現プロファイル
本発明により、卵巣子宮内膜症の標準発現プロファイルを提供する。本発明のこのような発現プロファイルは、子宮内膜嚢胞細胞、または正常で健康な子宮内膜細胞(非子宮内膜症細胞)の2つもしくはそれ以上のOEXヌクレオチド(OEX 1〜242)の遺伝子発現パターンを含む。また本発明の発現プロファイルは、OEX 1〜97およびOEX 186〜242、またはOEX 98〜185の2つもしくはそれ以上の遺伝子の発現パターンを含む場合がある。発現プロファイルは、被験者が卵巣子宮内膜症であること、または卵巣子宮内膜症を発症する素因があることの診断、卵巣子宮内膜症の治療経過のモニタリング、および卵巣子宮内膜症の被験者の予後の評価に使用することができる。
【0075】
卵巣子宮内膜症関連遺伝子の発現、または卵巣子宮内膜症関連遺伝子にコードされたポリペプチドの生物学的活性を変化させる化合物のスクリーニング
本発明はさらに、(1)試験化合物を、卵巣子宮内膜症関連遺伝子を発現する試験細胞、または卵巣子宮内膜症関連遺伝子の転写調節領域の下流に連結されたレポーター遺伝子を含むベクターが導入された細胞に接触させ;(2)卵巣子宮内膜症関連遺伝子の発現レベルを決定し;かつ(3)試験化合物の非存在下と比較して、発現レベルを変化させる化合物を選択することによって、マーカー遺伝子、卵巣子宮内膜症関連遺伝子(OEX 1〜242)の発現を変化させる(すなわち阻害または増強する)化合物をスクリーニングする方法を提供する。この方法は、化合物が、卵巣子宮内膜症状態に特徴的なOEX 1〜242の発現プロファイルを、非卵巣子宮内膜症状態を示すパターンに変換するか否かを判定する化合物のスクリーニングに基づく。
【0076】
試験化合物の非存在下で検出される発現レベルと比較して、卵巣子宮内膜症関連遺伝子、または卵巣子宮内膜症関連遺伝子の転写調節領域の下流に連結されたレポーター遺伝子の発現レベルが減少すれば、試験化合物がインヒビターであることを意味する。あるいは、試験化合物の非存在下で検出される発現レベルと比較して、同遺伝子の発現レベルが増強されれば、試験化合物がエンハンサーとして機能することを意味する。試験化合物の非存在下で検出される発現レベルは、正常対照レベル、または卵巣子宮内膜症対照レベルの場合がある。
【0077】
仮に、卵巣子宮内膜症患者の子宮内膜嚢胞の内皮細胞で上方制御される遺伝子(例えばOEX 1〜97およびOEX 186〜242から選択される任意の1つ)、またはその転写調節領域をスクリーニング法に用いるのであれば、遺伝子の発現を阻害する化合物は子宮内膜症を阻害すると期待される。
【0078】
あるいは、仮に卵巣子宮内膜症患者の子宮内膜嚢胞の内皮細胞で下方制御される遺伝子(例えばOEX 98〜185から選択される任意の1つの遺伝子)、またはこの転写調節領域をスクリーニング法に使いるのであれば、遺伝子の発現を増強する化合物は、子宮内膜症を阻害すると予想される。
【0079】
この方法では、細胞を1種類の試験化合物、または試験化合物の組み合わせに(連続的または結果的に)曝露することができる。本発明のスクリーニングで選択される化合物は、卵巣子宮内膜症の治療または予防用の候補化合物となる。発現が低下する(下方制御される)マーカー遺伝子の発現を刺激するのに有効な化合物、または過剰発現される(上方制御される)マーカー遺伝子の発現を抑制するのに有効な化合物は、臨床上の利益に結びつくと考えられる。したがって、このような化合物を、動物または被験者の子宮内膜腺および/または間質中の子宮内膜嚢胞の成長を予防する能力に関して、さらに試験する。さらに、付加、欠失、置換、および/または挿入によって構造の一部が変換される化合物も、本発明のスクリーニングによって得られる化合物に含まれる。
【0080】
スクリーニングに使用される試験細胞は、卵巣子宮内膜症関連遺伝子を発現する限りにおいて、任意の細胞であってよい。さらに試験細胞は、多数の細胞からなる試験細胞集団であってよい。例えば、試験細胞または試験細胞集団は上皮細胞(子宮内膜嚢胞に由来する上皮細胞など)を含む。さらに試験細胞もしくは試験細胞集団は、不死化細胞、または子宮内膜嚢胞細胞に由来する細胞株であってよい。
【0081】
卵巣子宮内膜症関連遺伝子の転写調節領域は、OEXヌクレオチド(OEX 1〜242)の5'領域を含むプローブを用いて、ゲノムライブラリーから得ることができる。任意のレポーター遺伝子を、その発現がスクリーニングで検出可能な限りにおいて、スクリーニングに使用することができる。レポーター遺伝子の例にはβ-gal遺伝子、CAT遺伝子、およびルシフェラーゼ遺伝子などがある。レポーター遺伝子の発現の検出は、レポーター遺伝子の種類にしたがって、従来の方法を元に実施することができる。ベクターを導入する対象細胞に制限はないが、好ましい例には上皮細胞が含まれる。
【0082】
本発明はさらに、卵巣子宮内膜症関連遺伝子の活性を変化させる化合物をスクリーニングする方法を提供する。このスクリーニング法の態様は、以下の段階を含む:(a)試験化合物を卵巣子宮内膜症関連遺伝子にコードされたポリペプチドに接触させる段階;(b)ポリペプチドと試験化合物間の結合活性を検出する段階;ならびに(c)ポリペプチドに結合する化合物を選択する段階。
【0083】
卵巣子宮内膜症関連遺伝子の活性を変化させる化合物をスクリーニングする方法の別の態様では、この方法は、OEXポリペプチドの生物学的活性を指標として用いる。このスクリーニング法は、以下の段階を含む:(a)試験化合物を卵巣子宮内膜症関連遺伝子にコードされたポリペプチドに接触させる段階;(b)ポリペプチドの生物学的活性を検出する段階;ならびに(c)試験化合物の非存在下で検出される生物学的活性と比較して、ポリペプチドの生物学的活性を変化させる化合物を選択する段階。
【0084】
本発明のスクリーニングに使用されるOEXポリペプチドは、以下から選択される:
(1)OEX 1〜242からなる群より選択されるポリヌクレオチドにコードされたアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(2)1つもしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、および/または付加され、かつOEX 1〜242からなる群より選択されるポリヌクレオチドにコードされたアミノ酸配列からなるタンパク質に等価な生物学的活性を有する、OEX 1〜242からなる群より選択されるポリヌクレオチドにコードされたアミノ酸配列を含むポリペプチド;ならびに
(3)OEX 1〜242からなる群より選択されるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチドにコードされたポリペプチドであって、OEX 1〜242からなる群より選択されるポリヌクレオチドにコードされたアミノ酸配列からなるポリペプチドに等価な生物学的活性を有するポリペプチド。
【0085】
本発明では、「生物学的活性」という表現は、子宮内膜嚢胞細胞の出現、成長、または増殖などの活性を意味する。対象ポリペプチドが生物学的活性を有するか否かは、ポリペプチド、またはポリペプチドをコードするDNAを細胞に導入して、細胞の成長または増殖、コロニー形成活性の上昇などを検出することで判断できる。
【0086】
任意のタンパク質の生物学的活性を有するポリペプチドを調製する方法は当技術分野で周知であり、変異をタンパク質中に導入する方法が含まれる。例えば、これらのタンパク質のいずれかのアミノ酸配列に部位特異的変異誘発法で適切な変異を導入することで、OEXタンパク質の生物学的活性を有するポリペプチドを調製することができる(Hashimoto-Gotohら(1995)Gene 152:271-5;ZollerおよびSmith(1983)Methods Enzymol. 100:468-500;Kramerら(1984)Nucleic Acids Res. 12:9441-56;KramerおよびFritz(1987)Methods Enzymol. 154:350-67;Kunkel(1985)Proc. Natl. Acad. Sci. USA 82:488-92;Kunkel(1988)Methods Enzymol. 85:2763-6)。アミノ酸の変異は自然に生じる場合もある。OEXポリペプチドは、1個または複数のアミノ酸に変異が生じた、ヒトOEXタンパク質のアミノ酸配列を有するポリペプチドを含む(ただし、得られる変異ポリペプチドがOEXタンパク質の生物学的活性を有することを条件とする)。このような変異体中で変異するアミノ酸の数は、一般に10アミノ酸またはこれ未満であり、好ましくは6アミノ酸またはこれ未満であり、より好ましくは3アミノ酸またはこれ未満である。
【0087】
1つもしくは複数のアミノ酸残基が付加されるポリペプチドの例には、OEXタンパク質を含む融合タンパク質がある。融合タンパク質は、OEXタンパク質をコードするDNAを、他のペプチドまたはタンパク質をコードするDNAに読み枠がマッチするように連結し、融合DNAを発現ベクターに挿入し、これを宿主で発現させる手法などの、当業者に周知の手法で作製することができる。OEXタンパク質に融合させるペプチドまたはタンパク質には制限はなく、FLAG(Hoppら(1988)Biotechnology 6:1204-10)、6×His、10×His、インフルエンザ凝集素、ヒトc-myc断片、VSP-GP断片、p18HIV断片、T7-タグ、HSV-タグ、E-タグ、SV40T抗原断片、lckタグ、α-チューブリン断片、B-タグ、プロテインC断片、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ、免疫グロブリン定常領域、β-ガラクトシダーゼ、マルトース結合タンパク質、緑色蛍光タンパク質などが含まれる。マルチクローニングサイトの使用により、このようなペプチドまたはタンパク質との融合タンパク質を発現可能なベクターが市販されており、本発明のスクリーニングに使用する融合タンパク質を得るために使用可能である。
【0088】
任意のOEXタンパク質の生物学的活性を有するポリペプチドを単離する、当技術分野で周知の別の方法には例えばハイブリダイゼーション技術を用いる方法がある(Sambrookら(1989)Molecular Cloning、第2版、9.47-9.58、Cold Spring Harbor Lab. Press)。当業者であれば、OEXタンパク質をコードするDNA配列の全体もしくは一部と高い相同性を有するDNAを容易に単離し、OEXタンパク質の生物学的活性を有するポリペプチドを、単離されたDNAから単離することができる。OEXポリペプチドは、OEX 1〜242から選択される遺伝子の全体もしくは一部とハイブリダイズするDNAにコードされ、かつOEXタンパク質の生物学的活性を有するポリペプチドを含む。これらのポリペプチドは、ヒトに由来するタンパク質に対応する哺乳類ホモログ(例えばサル、ラット、ウサギ、およびウシの遺伝子にコードされたポリペプチド)を含む。動物に由来するOEX 1〜242から選択された遺伝子に高度に相同なcDNAを単離する際には、転移性の結腸直腸癌に由来する組織を用いることが特に好ましい。
【0089】
ハイブリダイゼーションの代わりに、遺伝子増幅法、例えばPCR法を利用し、OEXタンパク質の生物学的活性を有するポリペプチドをコードするDNAを、タンパク質をコードするDNA(OEX 1〜242)の配列情報を元に合成されたプライマーを用いて単離することができる。
【0090】
本発明の方法で使用されるOEXポリペプチドは、その産生に使用される細胞もしくは宿主、または用いる精製法に依存して、アミノ酸配列、分子量、等電点、糖鎖の有無、または形状が変化しうる。それにもかかわらず、これがOEXタンパク質の生物学的活性と等価な生物学的活性を有する限りにおいて、本発明の方法で使用することが可能であり、そしてOEXタンパク質に等価な生物学的活性を有するポリペプチドを使用する方法は、本発明の範囲内である。
【0091】
本発明で使用されるOEXポリペプチドは、組換えタンパク質または天然タンパク質として、当業者に周知の方法で調製することができる。組換えタンパク質は、OEXポリペプチドをコードするDNAを適切な発現ベクターに挿入し、このベクターを適切な宿主細胞に導入し、その抽出物を回収し、ポリペプチドを精製することで調製できる。あるいは、天然タンパク質を、当業者に周知の方法、例えば後述するOEXタンパク質に結合する抗体が結合したアフィニティカラムに、OEXポリペプチドを発現する組織または細胞の抽出物を接触させることによって、単離することができる。抗体は、ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体の場合がある。
【0092】
試験化合物に接触させるOEXポリペプチドは、例えば、精製ポリペプチド、可溶性タンパク質、担体に結合した形態、または他のポリペプチドと融合した融合タンパク質の場合がある。タンパク質を結合させるのに使用可能な支持体の例には、アガロース、セルロース、およびデキストランなどの不溶性の多糖;およびポリアクリルアミド、ポリスチレン、およびシリコンなどの合成樹脂;好ましくは、上記の材料から調製される市販のビーズおよびプレート(マルチウェルプレート、バイオセンサーチップなど)を使用することができる。ビーズを使用する場合は、ビーズをカラムに詰めるとよい。
【0093】
タンパク質の支持体への結合は、化学結合や物理吸着などの常用の方法で実施することができる。あるいはタンパク質を、特異的に同タンパク質を認識する抗体を介して支持体に結合させることができる。さらにタンパク質の支持体への結合は、アビジンとビオチンの結合を利用して実施することもできる。
【0094】
例えば、上記の任意のOEXポリペプチドを用いて、OEXポリペプチドに結合するタンパク質をスクリーニングする方法として、当業者に周知の多くの方法を用いることができる。このようなスクリーニングは、例えば免疫沈降法で、具体的には後述する手順で実施することができる。
【0095】
免疫沈降法では、適切な界面活性剤を用いて調製された細胞溶解物に抗体を添加することで免疫複合体が形成される。スクリーニング目的で免疫沈降に使用される抗体は、OEX 1〜242にコードされた任意のタンパク質を認識する。あるいは、認識部位(エピトープ)を融合させたOEXタンパク質をスクリーニングに用いる場合は、エピトープに対する抗体を免疫沈降に使用することができる。免疫複合体はOEXタンパク質、OEXタンパク質との結合能力を含むポリペプチド、および抗体からなる。
【0096】
免疫複合体は例えば、抗体がマウスのIgG抗体の場合は、プロテインAセファロース、またはプロテインGセファロースによって沈殿させることができる。OEXポリペプチドを、GSTなどのエピトープとの融合タンパク質として調製するのであれば、これらのエピトープに特異的に結合する物質(グルタチオン-セファロース4Bなど)を用いて、OEXポリペプチドに対する抗体を使用する場合と同じように免疫複合体を形成させることができる。
【0097】
免疫沈降は、例えば文献に記載された方法にしたがって、またはその通りに実施することができる(HarlowおよびLane(1988)Antibodies、511-52、Cold Spring Harbor Laboratory publications、New York)。
【0098】
SDS-PAGEは一般に、免疫沈降タンパク質の解析に使用されており、結合状態のタンパク質を、適切な濃度のゲルを用いて、タンパク質の分子量によって解析することができる。OEXポリペプチドに結合した状態のタンパク質は、クーマシー染色または銀染色などの一般的な染色法による検出が困難なので、タンパク質の検出感度は、放射性同位元素の35S-メチオニンまたは35S-システインを含む培地で細胞を培養し、細胞内でタンパク質を標識して、タンパク質を検出することで改善することができる。標的タンパク質は、タンパク質の分子量が明らかになった時点で、SDS-ポリアクリルアミドゲルから直接精製し、その配列を決定することができる。
【0099】
OEXポリペプチドを用いて、OEXポリペプチドに結合するタンパク質をスクリーニングする方法には、例えばウエスト-ウエスタンブロッティング解析(Skolnikら(1991)Cell 65:83-90)を使用することができる。具体的には、OEXポリペプチドに結合するタンパク質は、OEXポリペプチドに結合するタンパク質を発現することが予想される細胞、組織、器官、または培養細胞に由来するcDNAライブラリーをファージベクター(例えばZAP)を用いて調製し、タンパク質をLBアガロース上で発現させ、発現されたタンパク質をフィルター上に固定し、精製および標識されたOEXポリペプチドを上記フィルターと反応させ、OEXポリペプチドに結合したタンパク質を発現するプラークを、標識に従って検出することによって得ることができる。OEXポリペプチドは、ビオチンとアビジン間の結合を利用するか、あるいはOEXポリペプチドに特異的に結合する抗体、またはOEXポリペプチドに融合するペプチドもしくはポリペプチド(例えばGST)を利用して標識することができる。放射性同位元素(3H、14C、32P、33P、35S、125I、131Iなど)、酵素(アルカリホスファターゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、β-グルコシダーゼなど)、蛍光物質(フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、ローダミンなど)、およびビオチン/アビジンなどの標識物質を用いる方法を、本発明の方法の標識段階に使用できる。OEXタンパク質を放射性同位元素で標識する場合は、検出または測定を液体シンチレーションによって実施することができる。あるいは、酵素で標識されたOEXタンパク質を、酵素の基質を添加して、基質の酵素的変化(発色など)を吸光光度計で検出することで検出または測定することができる。さらに、標識として蛍光物質を使用する場合は、結合状態のタンパク質を蛍光光度計を用いて検出または測定することができる。
【0100】
あるいは、本発明のスクリーニング法の別の態様では、細胞を利用するツーハイブリッド系を使用することができる(「MATCHMAKER Two-Hybrid system」、「Mammalian MATCHMAKER Two-Hybrid Assay Kit」、「MATCHMAKER one-Hybrid system」(Clontech);「HybriZAP Two-Hybrid Vector System」(Stratagene);「DaltonおよびTreisman(1992)Cell 68:597-612」、「FieldsおよびSternglanz(1994)Trends Genet 10:286-92」を参照)。
【0101】
ツーハイブリッド系では、OEXポリペプチドを、SRF結合領域またはGAL4結合領域に融合させ、酵母細胞で発現させる。OEXポリペプチドに結合するタンパク質を発現することが予想される細胞から、ライブラリーが発現した場合にVP16またはGAL4の転写活性化領域と融合するように、cDNAライブラリーを調製する。次にcDNAライブラリーを上記の酵母細胞に導入し、ライブラリーに由来するcDNAを、検出された陽性クローンから単離する(OEXポリペプチドに結合するタンパク質を酵母細胞で発現させると、両者の結合がレポーター遺伝子を活性化させ、陽性クローンを検出可能にする)。cDNAにコードされたタンパク質は、上記のように単離されたcDNAを大腸菌(E. coli)に導入し、タンパク質を発現させることで調製できる。
【0102】
レポーター遺伝子として、HIS3遺伝子の他に、例えばAde2遺伝子、lacZ遺伝子、CAT遺伝子、ルシフェラーゼ遺伝子などを使用することができる。
【0103】
OEXポリペプチドに結合する化合物は、アフィニティクロマトグラフィーでもスクリーニングすることができる。例えば、OEXポリペプチドをアフィニティカラムの担体表面に固定することが可能であり、またODXポリペプチドに結合可能なタンパク質を含む試験化合物をカラムに添加する。本明細書における試験化合物には例えば、細胞抽出物や細胞溶解物などがある。試験化合物をロードした後にカラムを洗浄し、OEXポリペプチドに結合した化合物を調製することができる。
【0104】
試験化合物がタンパク質の場合は、得られたタンパク質のアミノ酸配列を解析し、この配列を元にオリゴDNAを合成し、オリゴDNAをプローブとして用いてcDNAライブラリーをスクリーニングすることで、対象タンパク質をコードするDNAを得る。
【0105】
表面プラズモン共鳴現象を用いるバイオセンサーを、本発明の結合化合物を検出または定量する手段として用いることができる。このようなバイオセンサーを使用する場合、OEXポリペプチドと試験化合物間の相互作用を、微量のポリペプチドを用いて、標識することなく、表面プラズモン共鳴シグナルとしてリアルタイムで観察することができる(例えばBIAcore、Pharmacia)。したがって、BIAcoreなどのバイオセンサーを用いることで、OEXポリペプチドと試験化合物間の結合を評価することが可能である。
【0106】
固定されたOEXポリペプチドを、合成化合物、もしくは天然物質バンク、もしくはランダムファージペプチドディスプレイライブラリーに曝露したときに結合する分子をスクリーニングする方法、またはタンパク質だけでなくOEXタンパク質に結合する化合物(アゴニストおよびアンタゴニストを含む)も単離するコンビナトリアルケミストリー技術をベースとする高処理能を利用したスクリーニング法(Wrightonら(1996)Science 273:458-64;Verdine(1996)Nature 384:11-13;Hogan(1996)Nature 384:17-9)は当技術分野で周知である。
【0107】
あるいは、OEXポリペプチドの生物学的活性を本発明のスクリーニングで検出する場合、スクリーニングで単離された化合物は、OEXポリペプチドのアゴニストまたはアンタゴニストの候補となる。「アゴニスト」という用語は、OEXポリペプチドに結合することで、その機能を活性化する分子を意味する。同様に、「アンタゴニスト」という用語は、OEXポリペプチドに結合することで、その機能を阻害する分子を意味する。さらに、このスクリーニングで単離された化合物は、OEXポリペプチドと分子(DNAおよびタンパク質を含む)のインビボでの相互作用を阻害する化合物の候補となる。
【0108】
本発明の方法において検出対象の生物学的活性が細胞増殖の場合、これは例えば、OEXポリペプチドを発現する細胞を調製し、試験化合物の存在下で細胞を培養し、また細胞増殖の速度を決定し、細胞周期などを測定することで検出できるほか、コロニー形成活性を測定することで検出できる。
【0109】
スクリーニング法で検出された、OEX 1〜97およびOEX 186〜242にコードされた1つもしくは複数のポリペプチドの結合活性または生物学的活性が、遺伝子の正常対照レベルと比較して減少すれば、試験化合物が卵巣子宮内膜症関連遺伝子のインヒビターであり、かつ子宮内膜症の症状を緩和することが予想されることを意味する。あるいは、スクリーニング法で検出された、OEX 98〜185にコードされた1つもしくは複数のポリペプチドの結合活性または生物学的活性が、遺伝子の正常対照レベルと比較して増加すれば、試験化合物が卵巣子宮内膜症関連遺伝子のエンハンサーであり、かつ子宮内膜症の症状を緩和することが予想されることを意味する。上述のスクリーニングで単離された化合物は、卵巣子宮内膜症の治療または予防に応用可能な薬物の候補となる。さらに、OEXタンパク質の活性を変化させる化合物の構造の一部が、付加、欠失、および/または置換によって変換された化合物も、本発明のスクリーニング法で入手可能な化合物に含まれる。
【0110】
任意の試験化合物(例えば細胞抽出物、細胞培養上清、発酵微生物の産物、海洋生物の抽出物、植物抽出物、精製タンパク質もしくは未精製タンパク質、ペプチド、非ペプチド化合物、合成微小分子化合物、および天然化合物)を、本発明のスクリーニング法に使用することができる。本発明の試験化合物は、(1)生物学的ライブラリー、(2)空間的に位置指定可能な(spatially addressable)平行固相もしくは液相ライブラリー、(3)複雑な形状の解析(deconvolution)を必要とする合成ライブラリー法、(4)「1ビーズ-1化合物(one-bead one-compound)」ライブラリー法、ならびに(5)アフィニティクロマトグラフィー選択を利用した合成ライブラリー法などの、当技術分野で既知のコンビナトリアルライブラリー法を含む任意の多くの方法でも得られる。アフィニティクロマトグラフィー選択を利用する生物学的ライブラリー法はペプチドライブラリーに限定されるが、他の4つの方法は、ペプチド、非ペプチドのオリゴマー、または化合物の小分子ライブラリーに応用することができる(Lam(1997)Anticancer Drug Des. 12:145)。分子ライブラリーの合成法の例は当技術分野において見出すことができる(DeWittら(1993)Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:6909;Erbら(1994)Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91:11422;Zuckermannら(1994)J. Med. Chem. 37:2678;Choら(1993)Science 261:1303;Carellら(1994)Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 33:2059;Carellら(1994)Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 33:2061;Gallopら(1994)J. Med. Chem. 37:1233)。化合物のライブラリーは、溶液中(Houghten(1992)Bio/Techniques 13:412を参照)、またはビーズ表面上(Lam(1991)Nature 354:82)、チップ(Fodor (1993)Nature 364:555)、細菌(米国特許第5,223,409号)、胞子(米国特許第5,571,698号;第5,403,484号、および第5,223,409号)、プラスミド(Cullら(1992)Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89:1865)、もしくはファージ(ScottおよびSmith(1990)Science 249:386;Delvin(1990)Science 249:404;Cwirlaら(1990)Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87:6378;Felici(1991)J. Mol. Biol. 222:301;米国特許出願第2002103360号)に提示することができる。
【0111】
特定の個体に適した卵巣子宮内膜症の治療薬剤の選択
個体の遺伝子構成には差があるので、さまざまな薬剤を代謝する相対的能力には差があることになる。被験者内で代謝されて抗卵巣子宮内膜症薬剤として作用する化合物は、被験者の細胞における、卵巣子宮内膜症の状態に特徴的であった遺伝子発現パターンから、非卵巣子宮内膜症状態に特徴的な遺伝子発現パターンに至る変化を誘導することで顕在化する場合がある。したがって、本明細書に開示された、発現差のあるOEX関連遺伝子は、選択された被験者に由来する試験細胞集団中で候補化合物を試験することによって、被験者に特に適した治療用または予防用の推定抗卵巣子宮内膜症薬剤の選択を可能とする。
【0112】
特定の個体に適切な抗卵巣子宮内膜症薬剤を同定するために、被験者に由来する試験細胞または試験細胞集団を候補治療薬に曝露し、1つもしくは複数のOEX 1〜242遺伝子の発現を決定する。
【0113】
試験細胞は、卵巣子宮内膜症関連遺伝子を発現する卵巣子宮内膜細胞であるか、または試験細胞集団は、卵巣子宮内膜症関連遺伝子を発現する卵巣子宮内膜細胞を含む。好ましくは、試験細胞は上皮細胞であるか、または試験細胞集団は上皮細胞を含む。例えば、試験細胞または試験細胞集団を、候補薬剤の存在下でインキュベートし、試験細胞または細胞集団における遺伝子発現パターンを測定し、1つまたは複数の標準プロファイル(卵巣子宮内膜症標準発現プロファイル、もしくは非卵巣子宮内膜症標準発現プロファイル)と比較する。
【0114】
卵巣子宮内膜症を含む標準細胞集団に対して、試験細胞または試験細胞集団における、OEX 1〜97および186〜242のうち1つもしくは複数の発現が減少するか、またはOEX 98〜185のうち1つもしくは複数の発現が増加すれば、対象薬剤が治療効果を持つこと意味する。
【0115】
試験薬剤は、任意の化合物または組成物の場合がある。例えば試験薬剤は免疫調節剤である。
【0116】
キット
本発明は、OEX検出試薬(例えば、1つもしくは複数のOEX核酸に特異的に結合するか、またはこれを同定する核酸)を含むキットも提供する。1つもしくは複数のOEX核酸に特異的に結合するか、またはこれを同定する、こうした核酸の例には、OEX核酸の一部に相補的なオリゴヌクレオチド配列、またはOEX核酸にコードされたポリペプチドに結合する抗体がある。試薬は、キットの形態で同梱されている。核酸もしくは抗体などの試薬(固体マトリックスに結合されているか、または個別に包装され、これらをマトリックスに結合させる試薬が付属している)、対照試薬(陽性および/もしくは陰性)、ならびに/または核酸もしくは抗体を検出する手段は、好ましくは個別の容器に包装されている。アッセイ法を行うための指示書(書面、テープ、VCR、CD-ROMなど)がキットに含まれる。キットのアッセイ形式は、当技術分野で周知のノーザンハイブリダイゼーションまたはサンドイッチELISAの場合がある。
【0117】
例えばOEX検出試薬を、多孔性ストリップなどの固体マトリックス上に固定し、少なくとも1つのOEX検出部位を形成する。多孔性ストリップの測定領域または検出領域は、各検出部位がOEX検出試薬を含む複数の検出部位を含みうる。試験ストリップは、陰性対照部位および/または陽性対照部位を含む場合もある。あるいは、対照部位は、試験ストリップとは別のストリップ上に位置する。任意選択で、異なる検出部位は、異なる量(すなわち第1検出部位は最も多量で、後続の部位ではより少なくなる)の固定化された核酸を含む場合がある。試験生物学的試料を加えると、検出可能なシグナルを示す部位の数が、試料中に存在するOEXの量の量的指標となる。検出部位は、任意の適切に検出可能な形状に構成することが可能であり、典型的には試験ストリップの幅全体に広がるバーまたはドットの形状である。
【0118】
あるいはキットは、1つもしくは複数の卵巣子宮内膜症関連遺伝子を含む核酸基質アレイを含む。アレイ上の核酸は、OEX 1〜242で表される1つもしくは複数の核酸配列を特異的に識別する。OEX 1〜242で表される配列のうち2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、40、もしくは50個、またはこれ以上の配列の発現レベルを、アレイの試験ストリップまたはチップへの結合レベルによって同定する。基質アレイは、米国特許第5,744,305号に記載された固体基質(例えば「チップ」)の場合がある。
【0119】
アレイおよび複数性
本発明は、1つもしくは複数の卵巣子宮内膜症関連遺伝子を含む核酸基質アレイも含む。アレイ上の核酸は、OEX 1〜242で表される1つもしくは複数の核酸配列に特異的に対応する。OEX 1〜242で表される2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、40、もしくは50個、またはこれ以上のOEX核酸の発現レベルを、ヌクレオチドとアレイの結合を検出することで同定する。
【0120】
本発明は、単離された複数の核酸(すなわち、2つまたはそれ以上のOEX核酸の混合物)も含む。核酸は液相または固相中に存在し、例えばニトロセルロース膜などの固相支持体上に固定されている。複数の核酸は、OEX 1〜242で表される1つもしくは複数の核酸を含む。本発明の別の態様によれば、複数の核酸は、OEX 1〜242で表される2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、40、もしくは50個、またはこれ以上の核酸を含む。
【0121】
卵巣子宮内膜症を治療または予防する方法
本発明は、被験者の卵巣子宮内膜症を治療または予防する方法を提供する。治療用化合物を、子宮内膜症の被験者、または子宮内膜症を発症する危険性のある(すなわち発症しやすい)被験者に、予防的または治療的に投与する。このような被験者は、標準的な臨床的方法を用いて、またはOEX 1〜242の異常な発現レベルもしくは活性を検出することで同定される。予防的投与は、疾患または障害の出現が妨げられるか、またはその進行が遅れるように、疾患の明瞭な臨床症状が現れる前に行う。
【0122】
治療法は、卵巣子宮内膜細胞が由来するものと同じ組織の正常細胞と比較して、卵巣子宮内膜細胞で発現が減少している遺伝子(発現低下遺伝子)の1つもしくは複数の遺伝子産物の発現もしくは機能、またはこの両方を増加させる段階を含む。このような方法では、被験者において1つもしくは複数の発現低下遺伝子(OEX 97〜185)の量を増加させる、有効量の化合物で被験者を治療する。投与は全身投与または局所投与とすることができる。治療用化合物は、発現低下遺伝子のポリペプチド産物、または生物学的に活性なこの断片、卵巣子宮内膜細胞における遺伝子発現を可能とする、発現制御エレメントの下流の発現低下遺伝子をコードする核酸、卵巣子宮内膜細胞に内因的に存在するこのような遺伝子の発現レベルを増加させる化合物(すなわち、発現低下遺伝子の発現を上方制御する化合物)を含む。このような治療用化合物の投与は、被験者の卵巣細胞の異常発現低下遺伝子の作用に対抗し、被験者の臨床状態を改善することが期待される。このような化合物は、上述した本発明のスクリーニング法で得ることができる。
【0123】
この方法は、卵巣子宮内膜細胞で発現が異常に上昇している遺伝子(「過剰発現遺伝子」)の1つもしくは複数の遺伝子産物の発現もしくは機能、またはこの両方を減少させる段階も含む。このような方法では、被験者において1つもしくは複数の過剰発現遺伝子(OEX 1〜96および186〜242)の量を減少させる、有効量の化合物で被験者を治療する。投与は、全身投与または局所投与とすることができる。治療用化合物は、卵巣子宮内膜細胞中に内因的に存在するこのような遺伝子の発現レベルを減少させる化合物(すなわち、過剰発現遺伝子の発現を下方制御する化合物)を含む。このような治療用化合物の投与は、被験者の卵巣細胞の異常過剰発現遺伝子の作用に対抗し、被験者の臨床状態を改善すると期待される。このような化合物は、上述した本発明のスクリーニング法で得ることができる。
【0124】
過剰発現遺伝子の発現は、過剰発現遺伝子の発現を阻害するかまたはそれに拮抗する核酸を被験者に投与する段階を含む、当技術分野で周知の複数の任意の方法で阻害してもよい。過剰発現遺伝子の発現を乱すアンチセンスオリゴヌクレオチド、siRNA、またはリボザイムを、過剰発現遺伝子の発現を阻害するために使用することができる。
【0125】
上述したように、OEX 1〜97またはOEX 186〜242の任意のヌクレオチド配列に対応するアンチセンスオリゴヌクレオチドを、OEX 1〜97またはOEX 186〜242の発現レベルを減少させるために使用できる。卵巣子宮内膜症で上方制御される、OEX 1〜97またはOEX 186〜242に対応するアンチセンスオリゴヌクレオチドは、卵巣子宮内膜症の治療または予防に有用である。具体的には、本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドは、OEX 1〜97もしくはOEX 186〜242にコードされた任意のポリペプチド、またはこれに対応するmRNAに結合することで、遺伝子の転写または翻訳を阻害するか、mRNAの分解を促進するか、および/またはOEXヌクレオチドにコードされたタンパク質の発現を阻害し、最終的にタンパク質の機能を阻害することによって作用しうる。本明細書で用いる、「アンチセンスオリゴヌクレオチド」という表現は、アンチセンスオリゴヌクレオチドが標的配列と特異的にハイブリダイズ可能な限りにおいて、標的配列の全体に相補的なヌクレオチドと、1つもしくは複数のヌクレオチドのミスマッチを有するヌクレオチドの両方を含む。例えば、本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドは、OEX 1〜97およびOEX 186〜242の任意のヌクレオチド配列に対して、少なくとも15残基の連続ヌクレオチドの範囲にわたって少なくとも70%またはこれ以上、好ましくは80%またはこれ以上、より好ましくは90%またはこれ以上、さらにより好ましくは95%またはこれ以上の相同性を有するポリヌクレオチドを含む。当技術分野で周知のアルゴリズムを、相同性の決定に使用することができる。また、アンチセンスオリゴヌクレオチドの誘導体または修飾産物を、アンチセンスオリゴヌクレオチドとして本発明で使用することもできる。このような修飾産物の例には、メチルホスホネート型またはエチルホスホネート型などの低級アルキルホスホネート修飾、ホスホロチオエート修飾、およびホスホロアミデート修飾がある。
【0126】
アンチセンスオリゴヌクレオチドおよびこの誘導体は、マーカー遺伝子(OEX 1〜97、OEX 186〜242)にコードされたタンパク質を産生する細胞に対し、タンパク質をコードするDNAまたはmRNAと結合し、転写もしくは翻訳を阻害し、mRNAの分解を促進し、かつタンパク質の発現を阻害することによって作用し、その結果タンパク質機能を阻害する。
【0127】
アンチセンスオリゴヌクレオチドおよびこの誘導体は、誘導体に対して不活性な適切な基剤と混合することにより、塗布剤またはパップ剤などの外用剤になりうる。
【0128】
本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドは、OEX 1〜97およびOEX 186〜242の任意の1つにコードされた少なくとも1つのOEXタンパク質の発現を阻害するので、タンパク質の生物学的活性を抑制するのに有用である。
【0129】
過剰発現遺伝子の1つもしくは複数の遺伝子産物を阻害する核酸には、OEX 1〜97および186〜242などの過剰発現されるOEXタンパク質をコードするヌクレオチド配列のセンス鎖の核酸と、アンチセンス鎖の核酸の組み合わせを含む低分子干渉RNA(siRNA)も含まれる。「siRNA」という用語は、標的mRNAの翻訳を妨げる2本鎖RNA分子を意味する。siRNAを細胞に導入する標準的な手法は、DNAがRNAを転写するテンプレートである手法を含め、本発明の治療または予防に使用可能である。このようなsiRNAは、1つの転写物が、標的遺伝子に由来するセンス配列と相補的なアンチセンス配列の両方を有するように構築される(例えばヘアピン型)。
【0130】
この方法を用いて、OEX遺伝子の発現が上方制御された細胞の遺伝子発現を抑制する。標的細胞でsiRNAとOEX遺伝子転写物が結合すると、細胞によるOEXタンパク質の産生が減少する。オリゴヌクレオチドの長さは少なくとも10ヌクレオチドであり、天然の転写物と同じ長さでもよい。好ましくは、オリゴヌクレオチドの長さは19〜25ヌクレオチドである。最も好ましくは、オリゴヌクレオチドの長さは75ヌクレオチド、50ヌクレオチド、または25ヌクレオチド未満である。
【0131】
siRNAのヌクレオチド配列は、Ambion社のウェブサイト(http://www.ambion.com/techlib/misc/siRNA_finder.html)から利用可能なsiRNA設計コンピュータプログラムを用いて設計することができる。siRNAのヌクレオチド配列は、以下のプロトコルを元にコンピュータプログラムによって選択される:
siRNA標的部位の選択:
1.転写物のAUG開始コドンを出発点として、AAジヌクレオチド配列を求めて下流をスキャンする。潜在的なsiRNA標的部位として、個々のAAおよび3'側に隣接する19ヌクレオチドの出現を記録する。Tuschlらは、5'および3'側の非翻訳領域(UTR)、および開始コドンに近い領域(75塩基以内)に対するsiRNAを設計しないように推奨している。というのは、これらの領域は、調節タンパク質結合部位に富む可能性があり、そのために、これらの領域に対して設計されたsiRNAとエンドヌクレアーゼの複合体が、UTR結合タンパク質、および/または翻訳開始複合体の結合に干渉する恐れがあるからである。
2.潜在的な標的部位をヒトゲノムデータベースと比較し、他のコード配列に対して有意な相同性をもついかなる標的配列も検討対象から除く。相同性検索は、NCBIのサーバー上(www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/)にあるBLASTを用いて実施することができる。
3.合成に適した標的配列を選択する。Ambion社のウェブサイト上で、複数の好ましい標的配列を、評価対象遺伝子の長さごとに選択することができる。
【0132】
このようなsiRNAは、過剰発現されるOEXタンパク質の発現を阻害するので、タンパク質の生物学的活性の抑制に有用である。したがって、siRNAを含む組成物は、卵巣子宮内膜症の治療または予防に有用である。
【0133】
過剰発現遺伝子の1つもしくは複数の遺伝子産物を阻害する核酸には、過剰発現遺伝子(OEX 1〜97およびOEX 186〜242)に対するリボザイムも含まれる。
【0134】
一般にリボザイムは、大型リボザイムと小型リボザイムに分けられる。大型リボザイムは、核酸のリン酸エステル結合を切断する酵素として知られる。大型リボザイムとの反応後、反応部位は5'-リン酸基および3'-ヒドロキシル基からなる。大型リボザイムはさらに、(1)グアノシンによる5'-スプライス部位におけるエステル転移反応を触媒するグループIイントロンRNA;(2)投げ縄構造を介した2段階反応による自己スプライシングを触媒するグループIIイントロンRNA;ならびに(3)tRNA前駆体を5'部位で加水分解によって切断するリボヌクレアーゼPのRNA成分に分類される。一方、小型リボザイムは、大型リボザイムと比べて大きさが小さく(約40 bp)、RNAを切断して、5'-ヒドロキシル基および2'-3'環状リン酸を生じる。ハンマーヘッド型リボザイム(Koizumiら(1988)FEBS Lett. 228:225)、およびヘアピン型リボザイム(Buzayan(1986)Nature 323:349;KikuchiおよびSasaki(1992)Nucleic Acids Res. 19:6751)は小型リボザイムに含まれる。リボザイムの設計および構築の方法は当技術分野で周知であり(Koizumiら(1988)FEBS Lett. 228:225;Koizumiら(1989)Nucleic Acids Res. 17:7059;KikuchiおよびSasaki(1992)Nucleic Acids Res. 19:6751を参照)、過剰発現されるOEXタンパク質の発現を阻害するリボザイムは、OEXタンパク質をコードするヌクレオチド配列の配列情報を元に、リボザイムを作製する従来の方法に従い構築することができる。
【0135】
リボザイムは、過剰発現されるOEXタンパク質の発現を阻害するので、タンパク質の生物学的活性を抑制するのに有用である。したがって、リボザイムを含む組成物は、卵巣子宮内膜症の治療または予防に有用である。
【0136】
あるいは、過剰発現遺伝子の1つもしくは複数の遺伝子産物の機能を、遺伝子産物に結合するか、さもなくば遺伝子産物の機能を阻害する化合物を投与することで阻害する。例えば、このような化合物は、過剰発現された遺伝子産物または複数の遺伝子産物に結合する抗体である。
【0137】
本発明は、抗体の使用、特に、発現が促進されるマーカー遺伝子にコードされたタンパク質に対する抗体、または抗体断片の使用に関する。本明細書で用いる「抗体」という用語は、抗体合成に使用される抗原を含む分子(すなわち、上方制御されるマーカー遺伝子産物)、またはこれにごく近縁の抗原と特異的と相互作用する(結合する)、特異的な構造をとる免疫グロブリン分子を意味する。過剰発現されるOEXヌクレオチドに結合する抗体は、モノクローナル抗体またはポリクローナル抗体などの任意の形状をとる場合があり、これにはウサギなどの動物を、ポリペプチド、全クラスのポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体、ヒト抗体、ならびに遺伝的組換えによって作製されたヒト化抗体で免疫化することで得られる抗血清が含まれる。
【0138】
さらに、本発明の卵巣子宮内膜症を治療または予防する方法で使用される抗体は、マーカー遺伝子にコードされた1つもしくは複数のタンパク質と結合する限りにおいて、抗体または修飾抗体の断片の場合がある。例えば抗体断片は、Fab、F(ab')2、Fv、または、H鎖およびL鎖に由来するFv断片が適切なリンカーで連結された1本鎖Fv(scFv)の場合がある(Hustonら(1988)Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85:5879-83)。より具体的には、抗体断片は、抗体をパパインやペプシンなどの酵素で処理することで得られる場合がある。あるいは、抗体断片をコードする遺伝子を構築し、発現ベクターに挿入し、適切な宿主細胞で発現させることができる(例えば、Coら(1994)J. Immunol. 152:2968-76;Better M.およびHorwitz(1989)Methods Enzymol. 178:476-96;PluckthunおよびSkerra(1989)Methods Enzymol. 178:497-515;Lamoyi(1986)Methods Enzymol. 121:652-63;Rousseauxら(1986)Methods Enzymol. 121:663-9;BirdおよびWalker(1991)Trends Biotechnol. 9:132-7を参照)。
【0139】
抗体は、ポリエチレングリコール(PEG)などのさまざまな分子との結合によって修飾することができる。修飾抗体は、抗体を化学的に修飾することで得られる。このような修飾法は当技術分野で常套的なものである。
【0140】
あるいは抗体は、非ヒト抗体由来の可変領域とヒト抗体由来の定常領域とのキメラ抗体として、または、非ヒト抗体由来の相補性決定領域(CDR)、ヒト抗体由来のフレームワーク領域(FR)、および定常領域を含むヒト化抗体として得ることができる。このような抗体は、既知の手法で調製することができる。
【0141】
本発明は、過剰発現されるOEXポリペプチドに対する抗体を用いて卵巣子宮内膜症を治療または予防する方法を提供する。この方法によると、OEXポリペプチドに対する、薬学的有効量の抗体を投与する。過剰発現されるOEXポリペプチドに対する抗体を、OEXタンパク質の活性を減少させるのに十分な用量で投与する。あるいは、腫瘍細胞に特異的な細胞表面マーカーと結合する抗体を、薬物送達のツールとして用いることができる。したがって例えば、細胞傷害性薬剤を結合させた過剰発現されるOEXポリペプチドに対する抗体を、腫瘍細胞を損傷するのに十分な用量で投与することができる。
【0142】
本発明は、OEX 1〜97およびOEX 186〜242からなる群より選択される核酸にコードされたポリペプチド、もしくは同ポリペプチドの免疫学的に活性な断片、または同ポリペプチドもしくはその断片をコードするポリヌクレオチドを含むワクチンを被験者に投与する段階を含む、被験者の卵巣子宮内膜症を治療または予防する方法にも関する。このようなポリペプチドの投与は、抗腫瘍免疫を被験者に誘導する。このようなポリペプチド、またはその免疫学的に活性なこの断片は、卵巣子宮内膜症に対するワクチンとして有用である。良性腫瘍である卵巣子宮内膜症を、抗腫瘍免疫を被験者に誘導することによって治療または予防することができる。場合によっては、タンパク質またはこの断片を、T細胞受容体(TCR)に結合した状態で、またはマクロファージ、樹状細胞(DC)、もしくはB細胞などの抗原提示細胞(APC)上に提示された状態で投与することができる。DCの抗原提示能力は強いため、APCの中でもDCの使用が最も好ましい。
【0143】
本発明では、「卵巣子宮内膜症に対するワクチン」という表現は、動物への接種時に、抗腫瘍免疫、または卵巣子宮内膜症を抑制する免疫を誘導する機能をもつ物質を意味する。一般に抗腫瘍免疫は、以下のような免疫応答を含む:
-腫瘍に対する細胞傷害性リンパ球の誘導、
-腫瘍を認識する抗体の誘導、および
-抗腫瘍サイトカイン産生の誘導。
【0144】
したがって、あるタンパク質が、動物への接種時に上記免疫応答の任意の1つを誘導する場合、そのタンパク質は抗腫瘍免疫誘導作用をもつと判断される。タンパク質による抗腫瘍免疫の誘導は、そのタンパク質に対する宿主における免疫系の応答を、インビボまたはインビトロで観察することで検出できる。
【0145】
例えば、細胞傷害性Tリンパ球の誘導を検出する方法は周知である。生体に侵入する外来物質は、抗原提示細胞(APC)の作用によってT細胞およびB細胞に提示される。APCによって提示された抗原に抗原特異的に応答するT細胞は、抗原による刺激のために細胞傷害性T細胞(または細胞傷害性Tリンパ球;CTL)に分化し、後に増殖する(これはT細胞の活性化と呼ばれる)。したがって、あるペプチドによるCTLの誘導は、ペプチドをAPCによってT細胞に提示させ、CTLの誘導を検出することで評価できる。またAPCは、CD4+ T細胞、CD8+ T細胞、マクロファージ、好酸球、およびNK細胞を活性化する効果をもつ。CD4+ T細胞およびCD8+ T細胞は抗腫瘍免疫にも重要なので、ペプチドの抗腫瘍免疫誘導作用を、これらの細胞の活性化効果を指標として用いることで評価できる。
【0146】
樹状細胞(DC)をAPCとして用いてCTLの誘導作用を評価する方法は当技術分野で周知である。DCは、APCの中で極めて強力なCTL誘導作用を有する代表的なAPCである。この方法では、最初に試験ポリペプチドをDCに接触させ、次にDCをT細胞に接触させる。DCとの接触後に対象細胞に対して細胞傷害作用を有するT細胞が検出されることは、試験ポリペプチドが、細胞傷害性T細胞を誘導する活性を有することを示す。腫瘍に対するCTLの活性は例えば、51Cr-標識腫瘍細胞の溶解を指標として用いて検出できる。あるいは3H-チミジンの取り込み活性、またはLDH(ラクトースデヒドロゲナーゼ)の放出を指標として用いることで、腫瘍細胞の損傷度を評価する方法も周知である。
【0147】
DCのほかに、末梢血単核球(PBMC)をAPCとして使用することもできる。CTLの誘導は、PBMCをGM-CSFおよびIL-4の存在下で培養することで増強されることが報告されている。同様にCTLは、PBMCをキーホールリンペットヘモシアニン(KLH)およびIL-7の存在下で培養することで誘導されることが示されている。
【0148】
これらの方法でCTL誘導活性をもつことが確認された試験ポリペプチドは、DC活性化効果と、これに続くCTL誘導活性を有するポリペプチドである。したがって、腫瘍細胞に対するCTLを誘導するポリペプチドは、卵巣子宮内膜症に対するワクチンとして有用である。またポリペプチドに接触させることによって、卵巣子宮内膜症に対するCTLを誘導する能力を獲得したAPCは、卵巣子宮内膜症に対するワクチンとして有用である。またAPCによるポリペプチド抗原の提示によって細胞傷害性を獲得したCTLを、卵巣子宮内膜症に対するワクチンとして使用することもできる。APCおよびCTLによる抗腫瘍免疫を利用する、卵巣子宮内膜症のこうした治療法は細胞免疫療法と呼ばれる。
【0149】
一般に、細胞免疫療法にポリペプチドを用いる場合、さまざまな構造をとる複数のポリペプチドを組み合わせて、これをDCに接触させることにより、CTL誘導の効率が高くなること知られている。したがって、DCをタンパク質断片で刺激する際は、複数の種類の断片の混合物を用いることが有利である。
【0150】
あるいは、ポリペプチドによる抗腫瘍免疫の誘導は、腫瘍に対する抗体産生の誘導を観察することで確認できる。例えば、ポリペプチドに対する抗体を、そのポリペプチドを接種した実験動物で誘導し、そして腫瘍細胞の成長、増殖、もしくは転移が、その抗体で抑制された場合、そのポリペプチドが抗腫瘍免疫を誘導する能力をもつと判断してよい。
【0151】
抗腫瘍免疫を本発明のワクチンを投与することで誘導すると、抗腫瘍免疫の誘導によって卵巣子宮内膜症の治療および予防が可能となる。卵巣子宮内膜症に対する治療または発症予防は、子宮内膜嚢胞細胞の成長阻害、子宮内膜嚢胞細胞の退縮、および子宮内膜嚢胞細胞の出現抑制などの任意の段階を含む。卵巣子宮内膜症の個体の死亡率の減少、血中の子宮内膜症マーカーの減少、卵巣子宮内膜症に伴う検出可能な症状の緩和なども、卵巣子宮内膜症の治療または予防に含まれる。このような治療および予防効果は、好ましくは統計的に有意である。例えば、卵巣子宮内膜症に対するワクチンの治療効果または予防効果を、ワクチンを投与していない対照と比較する観察において、5%以下の有意水準である。例えばスチューデントのt検定、Mann-WhitneyのU検定、またはANOVAを統計解析に用いることができる。
【0152】
免疫学的活性を有する上述のタンパク質、または同タンパク質をコードするポリヌクレオチドもしくはベクターをアジュバントと組み合わせることができる。アジュバントとは、免疫学的活性を有するタンパク質と同時に(または連続的に)投与時に、タンパク質に対する免疫応答を増強する化合物を意味する。アジュバントの例には、コレラ毒素、サルモネラ毒素、ミョウバンなどがあるが、これらに限定されない。また本発明のワクチンは、薬学的に許容される担体を適切に組み合わせることができる。このような担体の例には、滅菌水、生理食塩水、リン酸緩衝液、培養液などがある。また、ワクチンは必要に応じて安定剤、懸濁剤、保存剤、界面活性剤などを含む場合がある。ワクチンは全身投与または局所投与する。ワクチンの投与は、1回の投与で実施してもよく、または複数回投与によって追加免役してもよい。
【0153】
APCまたはCTLを本発明のワクチンとして使用すると、卵巣子宮内膜症を、例えばエクスビボの方法で治療または予防することができる。具体的には、治療または予防を受けた被験者のPBMCを回収し、この細胞にポリペプチドをエクスビボで接触させ、APCもしくはCTLを誘導後に、細胞を被験者に投与することができる。APCは、ポリペプチドをコードするベクターをPBMCにエクスビボで導入することで誘導することもできる。インビトロで誘導されたAPCまたはCTLをクローン化してから投与することができる。標的細胞を破壊する高い活性を有する細胞をクローン化して増やすことで、細胞免疫療法を、より効果的に実施することができる。また、このように単離されたAPCおよびCTLを、細胞が由来する個体に対してだけでなく、他の個体の類似のタイプの疾患に対する細胞免疫療法にも用いることができる。
【0154】
卵巣子宮内膜症を治療または予防するための薬学的組成物
本発明は、卵巣子宮内膜症関連遺伝子の発現もしくは活性を変化させる化合物をスクリーニングする本発明の方法で選択された化合物を含む、卵巣子宮内膜症を治療または予防するための組成物を提供する。このような治療用組成物を月経周期を通して投与するか、または特定の時期(例えば月経周期の増殖期または分泌期)にあわせて投与し、またヒトおよびマウス、ラット、モルモット、ウサギ、ネコ、イヌ、ヒツジ、ブタ、ウシ、サル、ヒヒ、またはチンパンジーなどの他の哺乳類に投与することができる。本発明の組成物の薬学的製剤には、経口投与、腸内投与、経鼻投与、局所投与(頬内および舌下への投与を含む)、経膣投与、または非経口投与(筋肉内投与、皮下投与、および静脈内投与を含む)、または吸入または吹送(insufflation)による投与に適した製剤が含まれる。剤型は任意で、個別の用量単位に包装される。
【0155】
経口投与に適した薬学的製剤には、それぞれ所定量の活性成分を含むカプセル、カシェ剤、または錠剤などがある。製剤には、散剤、顆粒、溶液、懸濁液、または乳濁液も含まれる。活性成分は、任意でボーラス、舐剤、またはペーストとして投与される。経口投与用の錠剤およびカプセルは、結合剤、充填剤、潤滑剤、崩壊剤、または湿潤剤などの従来の賦形剤を含む場合がある。錠剤は、任意で1つもしくは複数の製剤成分を用いて、圧縮または成形により作製することができる。圧縮錠剤は、粉末または顆粒などの流動状の活性成分を、任意で結合剤、潤滑剤、不活性希釈剤、潤滑剤、表面活性剤、または分散剤と混合して適切な装置で圧縮することで調製することができる。成形錠剤(compressed tablet)は、適切な装置内で、不活性希釈液で湿らせた粉末状化合物の混合物を成形することで作製できる。錠剤は、当技術分野で周知の方法にしたがって被覆することができる。経口流体調製物は例えば、水性もしくは油性懸濁液、溶液、乳濁液、シロップ、またはエリキシルの状態であってよく、または使用前に水もしくは他の適切な溶媒で再構成するための乾燥製品としてもよい。このような液体調製物は、懸濁剤、乳化剤、非水性溶媒(食用油を含む場合がある)、または保存剤などの従来の添加剤を含む場合がある。錠剤は任意選択で、インビボにおける活性成分の緩やかな放出、すなわち徐放性を提供するように製剤化することができる。錠剤の包装は、月に1回服用される1個の錠剤を含む場合がある。薬剤の剤型または用量は、月経周期の時期(増殖期または分泌期)に関して変動する。
【0156】
非経口投与する製剤には、抗酸化剤、緩衝剤、静菌剤、および製剤を対象レシピエントの血液と等張にする溶質を含みうる水性および非水性の無菌性注射溶液;ならびに懸濁剤および濃化剤を含みうる水性および非水性の滅菌済み懸濁液などがある。製剤は、単位用量または複数回投与用の容器中、例えば密封されたアンプルおよびバイアル中に入れることが可能であり、また使用直前に滅菌液体担体(例えば生理食塩水や注射用水)を添加するだけの凍結乾燥条件で貯蔵することができる。あるいは製剤を、持続注入用とすることができる。即時調合注射溶液および懸濁液は、既に説明した種類の滅菌粉末、顆粒、および錠剤から調製することができる。
【0157】
経腸投与用の製剤には、カカオバターやポリエチレングリコールなどの標準的な担体を含む坐剤などがある。口腔への局所投与、例えば頬または舌下に投与する製剤には、ショ糖およびアカシアなどの香味基剤またはトラガカントなどに活性成分を含むトローチ剤、ならびにゼラチン、グリセリン、ショ糖、またはアカシアなどの基剤中に活性成分を含む香錠が含まれる。活性成分を鼻内投与する場合、液体スプレー、または分散性粉末、または液滴状態を用いることができる。液滴は、1種類もしくは複数の分散剤、可溶化剤、または懸濁剤も含む、水性もしくは非水性の基剤で製剤化することができる。
【0158】
吸入投与では、組成物は、インサフレーター、ネブライザー、加圧容器、または他の便宜なエアロゾルスプレー送達手段から都合よく投与される。加圧容器は、適切な噴霧剤(ジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、炭酸ガス、または他の適切なガス)を含む場合がある。加圧エアロゾルの場合、投与単位は、一定量を送達するバルブを提供することで決定することができる。
【0159】
あるいは、吸入もしくは吹送による投与では、組成物は、乾燥粉末組成物、例えば活性成分と、乳糖やデンプンなどの適切な粉末基剤からなる粉末混合体の形状をとる場合がある。粉末組成物は、吸入器またはインサフレーターを利用して粉末を投与可能な、例えばカプセル、カートリッジ、ゼラチン、またはブリスター包装中の単位投与剤形とすることができる。
【0160】
他の製剤には、治療薬を放出する、移植可能な装置および粘着性パッチなどがある。
【0161】
望ましい場合、活性成分が徐放性となるように適合した上記の製剤を使用することができる。薬学的組成物は、抗菌剤、免疫抑制剤、または保存剤などの他の活性成分を含む場合もある。
【0162】
上記で特に言及した成分に加えて、本発明の製剤は、当該製剤の種類に関して当技術分野で周知の他の薬剤を含みうることが理解されるべきであり、例えば経口投与に適した製剤は、香味剤を含みうる。
【0163】
好ましい単位投与剤型は、後述するような、活性成分の有効用量、またはこの適切な画分を含む剤型である。
【0164】
上述の各条件に関しては、組成物(例えばポリペプチドや有機化合物)を、約0.1〜約250 mg/kg/日の用量で経口投与または注射する。成人の用量範囲は一般に、約5 mg〜約17.5 g/日であり、好ましくは約5 mg〜約10 g/日であり、最も好ましくは約100 mg〜約3 g/日である。個別の単位で提供される錠剤または他の単位投与剤型は、便宜上、同一単位量を複数回投与した量で有効性を示すような単位量、例えば約5 mg〜約500 mg、通常は約100 mg〜約500 mgを含む量を含む。
【0165】
使用される用量は、被験者の年齢および性別、治療する正確な疾患、およびその重症度を含む、いくつかの因子に依存する。投与経路も、条件および重症度によって変動する場合がある。
【0166】
本発明はさらに、OEX 1〜97またはOEX 186〜242の群より選択される任意の1つの遺伝子の発現を阻害する活性成分を含む、卵巣子宮内膜症を治療または予防するための組成物を提供する。このような活性成分は、対象遺伝子に対するアンチセンスオリゴヌクレオチド、siRNA、もしくはリボザイム、またはアンチセンスオリゴヌクレオチド、siRNA、もしくはリボザイムの発現ベクターなどの誘導体の場合がある。活性成分は、誘導体に対して不活性な適切な基剤と混合することにより、塗布剤またはパップ剤などの外用剤に使用することができる。
【0167】
また必要に応じて、このような活性成分を、賦形剤、等張剤、可溶化剤、保存剤、鎮痛剤などを添加することにより、錠剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、リポソームカプセル剤、注射剤、溶液、点鼻薬、および凍結乾燥剤に製剤化することができる。これらは、医薬を含む核酸を調製する従来の方法で調製することができる。
【0168】
好ましくは、アンチセンスオリゴヌクレオチド誘導体、siRNA誘導体、またはリボザイム誘導体を、患部に直接塗布することで、または患部に到達するように血管内に注入することで患者に投与する。封入剤を組成物中に使用することで、持続性および膜透過性を高めることもできる。封入剤の例には、リポソーム、ポリ-L-リシン、脂質、コレステロール、リポフェクチン、およびこれらの誘導体などがある。
【0169】
このような組成物の用量は、患者の条件にあわせて適切に調整し、かつ所望の量を用いることができる。例えば0.1〜100 mg/kg、好ましくは0.1〜50 mg/kgの用量範囲で投与することができる。
【0170】
本発明の別の態様は、OEX 1〜97およびOEX 186〜242の群より選択される遺伝子の任意の1つにコードされたポリペプチドに対する抗体、または同ポリペプチドに結合する抗体の断片を含む、卵巣子宮内膜症を治療または予防するための組成物である。
【0171】
症状によってある程度の差があるものの、卵巣子宮内膜症を治療または予防するための抗体またはこの断片の用量は、正常な成人(体重60 kg)に経口投与する場合、約0.1 mg〜約100 mg/日、好ましくは約1.0 mg〜約50 mg/日、より好ましくは約1.0 mg〜約20 mg/日である。
【0172】
注射液の状態で正常な成人(体重60 kg)に非経口的に投与する場合は、患者の状態、疾患の症状、および投与方法によってある程度の差はあるものの、約0.01 mg〜約30 mg/日、好ましくは約0.1〜約20 mg/日、より好ましくは約0.1〜約10 mg/日の用量を静脈内注射することが好都合である。また他の動物の例でも、体重60 kgに換算した量を投与することが可能である。
【0173】
以下の実施例は、本発明を説明し、当業者が本発明を作製および使用することを支援するために提示する。これらの例は、本発明の範囲を制限することを決して意図しない。
【0174】
特に明記しない限り、本明細書で用いられるすべての科学技術用語は、本発明が属する技術分野の当業者により一般に理解される用語と同じ意味をもつ。本発明を実施または検討するにあたって、本明細書に記載されたものと類似または等価の方法および材料が使用される場合があるが、適切な方法および材料を以下に説明する。本明細書で引用された任意の特許、特許出願、および刊行物は、参照として本明細書に組み入れられる。
【0175】
発明を実施するための最良の形態
本発明を、以下の実施例で詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されない。
【0176】
材料および方法
1.組織調製物
東京大学病院産婦人科で嚢腫切除術を受けた6人の患者から、術前の説明と同意の後に、子宮内膜嚢胞を得た。免疫組織化学のため、組織切片を切除直後にO.C.T化合物(Sakura Finetechnical)中に封入した。
【0177】
2.半定量RT-PCR
半定量RT-PCR実験を、文献記載の手順で行った(Onoら(2000)Cancer Res. 60:5007-11)。子宮内膜嚢胞を得て、全RNAを抽出し、また全RNAを用いたT7ベースのRNA増幅を、過去の研究に準拠して行った(Arimotoら(2003)Int. J. Oncol. 22:551-60)。各試料に由来する増幅RNAの3 μgのアリコートを、ランダムプライマー(Roche)、およびSuperscript II(Life Technologies, Inc)を用いて逆転写して1本鎖cDNAを得た。以下のプライマーセットを用いる、後のPCR増幅のために、各cDNA混合物を希釈した(TFPI-2フォワードプライマー:5'-TGACAGCATGAGGAAACAAATC-3'(配列番号:23);リバースプライマー:5'-ACGACCCCAAGAAATGAGTG-3'(配列番号:24);ITLNフォワードプライマー:5'-GCATTGGTGGAGGAGGATAC-3'(配列番号:25);リバースプライマー:5'-TGCCATTAACATTCTAGCTACTGG-3'(配列番号:26);G3PDHフォワードプライマー:5'-CGACCACTTTGTCAAGCTCA-3'(配列番号:21);リバースプライマー:5'-GGTTGAGCACAGGGTACTTTATT-3'(配列番号:22))。G3PDHの発現は内部対照となる。PCR反応のサイクル数を、増幅の直線相に産物の強度が来るように最適化した。
【0178】
3.ノーザンブロッティング
さまざまなヒト組織に由来する2 μgのポリ(A)+ RNAを含む多組織ノーザンブロットメンブレン(Multiple-tissue Northern blot membrane)(Clontech)に、TFPI-2もしくはITLNの32P標識部分cDNA断片をハイブリダイズさせた(TFPI-2フォワードプライマー:5'-GGAAAATTCGGAAGAAGCAA-3'(配列番号:27);リバースプライマー:5'-ACGACCCCAAGAAATGAGTG-3'(配列番号:24);ITLNフォワードプライマー:5'-CGGGATTTGTTCAGTTCAGG-3'(配列番号:28);リバースプライマー:5'-TGCCATTAACATTCTAGCTACTGG-3'(配列番号:26))。ハイブリダイゼーションおよび洗浄の条件は以前に記載されている(Nakagawaら(2000) Oncogene 19:210-6)。
【0179】
4.大腸菌(Escherichia coli)における組換えタンパク質の産生およびポリクローナル抗体の生成
シグナルペプチドのコード配列(TFPI2:N末端の22残基、ITLN:N末端の18残基)を含まない、ヒトTFPI-2 cDNAクローン(GenBankアクセッション番号D29992)、またはITLN(GenBankアクセッション番号BC020664)を大腸菌発現ベクターpET28a(Novagen)に挿入し、BL21-CodonPlus(登録商標)(DE3)-RILコンピテント細胞(Stratagene)に形質転換することで、組換えタンパク質を調製した。0.5 mMイソプロピルb-D-チオガラクトシド(IPTG)を添加し、37℃で3時間インキュベートしてタンパク質発現を誘導し、遠心して回収した。組換えTFPI-2またはITLNを発現した大腸菌細胞のペレットを、6 M塩酸グアニジン、10 mM Tris、および10 mM イミダゾールを含む100 mMのリン酸ナトリウム(無水)(pH 8.0)に溶解した。ヒスチジンタグ付きTFPI-2タンパク質またはITLNタンパク質を、BD TALON(商標)Metal Affinity Resin(BD Biosciences)で精製した。次に6 Mの塩酸グアニジンを、8 Mの尿素で置換した。これらの精製された組換えタンパク質を、希釈することで(尿素の濃度を4 M(TFPI-2)、または2.5 M(ITLN)に減少させた)リフォールディングした。さらに、Mono-Q HR5/5カラム(Amersham Biosciences)を用いた、AKTA explorer 10S(Amersham Biosciences)による陰イオン交換高速液体クロマトグラフィーで、ITLNタンパク質をさらに精製した。これらのタンパク質溶液をウサギに毎週注射し、10回の免疫化後に抗血清を回収した(MBL)。精製した組換えタンパク質に共有結合させたAffi-Gel 10(TFPI-2用、Bio-Rad)、またはAffi-Gel 15(ITLN用、Bio-Rad)を用いるアフィニティクロマトグラフィーで特異的抗体を単離した。
【0180】
5.細胞株
ヒト子宮内膜腺癌HEC-151細胞株は北里大学(相模原市、日本)から供与され、これを、10%ウシ胎仔血清(FBS)を含むイーグル最小必須培地で維持した。ヒト神経膠腫Hs.683細胞株はAmerican Type Culture Collection(Manassas、VA、USA)から購入した。Hs.683細胞およびCos-7細胞を、10% FBSを含むダルベッコ改変イーグル培地で維持した。細胞を、5% CO2の加湿雰囲気中で37℃で維持した。
【0181】
6.ウエスタンブロッティング
試料をSDS-PAGEにより還元条件下で分離し、Hybond(商標)ECL(商標)ニトロセルロース膜(Amersham Pharmacia Biotech)にトランスファーした。ブロット後の膜をBlock Ace(商標)粉末(大日本製薬)でブロッキングし、ウサギ抗TFPI-2(0.34 μg/ml)、または抗ITLN(0.16 μg/ml)特異的ポリクローナル抗体で処理した。洗浄後に、ブロットを西洋ワサビペルオキシダーゼ結合ロバ抗ウサギIgG(Amersham Biosciences)で処理し、増強化学発光(enhanced chemiluminescence)(ECL;Amersham Biosciences)で感光させた。
【0182】
7.免疫蛍光染色
細胞をLab-Tek(登録商標)II Chamber Slide System(Nalge Nunc International)に再び播種し、次に4%パラホルムアルデヒドのPBS溶液で固定し、0.1% Triton X-100のPBS溶液で4℃で3分間透過化処理した。3% BSAのPBS溶液で室温で1時間ブロッキングした後に、細胞をウサギ抗TFPI-2抗体(0.34 μg/ml)、または抗ITLN抗体(0.16 μg/ml)とともに室温で1時間インキュベートした。これらの抗体を、ローダミン結合ヤギ抗ウサギ二次抗体でそれぞれ染色し、BX51顕微鏡(Olympus)で観察した。以下の安定な形質転換体の項で説明するように、安定な形質転換体を、マウス抗myc 9E10モノクローナル抗体(Santa Cruz Biotechnology、0.2 μg/ml)ともインキュベートし、FITC結合ウサギ抗マウス二次抗体で染色した。
【0183】
8.免疫組織化学染色および交差阻害アッセイ法
パラホルムアルデヒドで固定され、パラフィンで包埋された、完成された組織切片をBiochain Institute, Incから購入した。切片をDAKO EnVision(商標)+ System、HRP(DAB)(Dako)で、製造業者のプロトコルにしたがって染色した。ポリクローナル抗体は、2.5 μg/ml(抗TFPI-2抗体)、または2 μg/ml(抗ITLN抗体)で用いた。免疫染色阻害のため、抗体を、抗原(各1.5 μg)として使用した対応する組換えタンパク質と4℃で一晩プレインキュベートした。
【0184】
9.安定な形質転換体の構築
Cos-7細胞を播種し、pcDNA3.1/myc-His(C)(-)-TFPI-2、もしくはpcDNA3.1/myc-His(C)(-)-ITLN(Invitrogen)、または対照として空のベクターを、FuGENE6 Transfection Reagent(Roche)を用いて、製造業者のプロトコルにしたがってトランスフェクトした。細胞を、0.4 mg/mlのG418を含む培地で最長3週間培養した。個々のクローンをクローニングシリンダーで単離した。TFPI-2またはITLNを発現した細胞クローン(RT-PCR、ウエスタンブロッティング、および免疫蛍光染色により確認)を、0.4 mg/mlのG418を含む培地で維持し、後の調査に用いた。
【0185】
[実施例1]患者の子宮内膜組織における遺伝子発現差と臨床病理学的特徴との相関
嚢腫切除術を受けた23人の女性患者から、術前の説明と同意を得た後に子宮内膜嚢胞を得た。患者の関連臨床的特徴を表10に要約する。

【0186】
患者の年齢は23〜44歳の範囲であり、手術に先立つ2年以内にホルモン療法を受けていた者はいなかった。9人の患者は、手術時に月経周期の増殖期にあり、別の14人は分泌期にあった。嚢胞を標準的な方法に従い組織病理学的に診断した。対照試料として、正所性(eutopic)子宮内膜組織を14人の患者(増殖期の7人および分泌期の7人)の子宮から頚管拡張内膜掻爬術で得た。上皮細胞を切除直後に掻き取り、10%ウシ胎児血清(FCS)を含む氷冷ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM:Sigma)中に懸濁し、次に実体顕微鏡下で間質細胞から分離し、位相差顕微鏡下で純度を以前に記載された手順で確認した(Jimboら(1997)Am. J. Pathol. 150:1173-8)。上皮細胞の単離は、文献(Hornungら(1998)Fertil. Steril. 69:909-15;Sugawaraら(1997)Biol. Reprod. 57:936-42;Zhangら(1995)J. Cell Sci. 108:323-32)に記載された手順を一部変更して行った。子宮内膜組織を小片に刻み、0.25%コラゲナーゼ(Sigma)で37℃で1時間処理した。連続濾過により、組織細片を100 mmのナイロンシーブ(Falcon)で分離し、粘液および非消化組織を除去した。次に各濾過物を、間質細胞が通過可能な40 mmのナイロンシーブに通した。上皮腺(epithelial gland)を、DMEM/10% FCSを逆流させて組織培養ディッシュ上に戻し、5% CO2中で37℃で30分間インキュベートして、繊維芽細胞をディッシュ上に結合させた。上皮細胞を上清中に回収し、全RNAの抽出に用いた。
【0187】
[実施例2]子宮内膜症関連遺伝子の同定
疾患組織(子宮内膜症の嚢胞に由来する上皮細胞)、および正常組織から得た組織を評価して、疾患状態(子宮内膜症)で発現差のある遺伝子を同定した。アッセイ法は以下のように実施した。
【0188】
1.RNAの調製およびT7ベースのRNA増幅
上皮細胞を、製造業者の指示書にしたがってRNA溶解緩衝液(RLT緩衝液、QIAGEN社)中に懸濁し、精製することにより全RNAを抽出した。DNase I(ニッポンジーン、東京、日本)で処理した後に、T7ベースの増幅を既知の方法により行った。3ラウンドの増幅を行い、十分量の増幅RNA(aRNA)を得た。対照試料については、2ラウンドの増幅を行った。2種類のユニバーサル対照を調製した。一方は、増殖期の7人の患者に由来する正所性aRNA混合物であり、もう一方は分泌期の7人の患者に由来する。
【0189】
この方法で増幅されたRNAは、当初のRNA源における割合を正確に反映していた。この一致は、半定量逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)実験で最初に確認されていた。結果として、RT-PCRで得られた結果と一致することが証明されたマイクロアレイのデータを、全RNAまたはaRNAにかかわらずテンプレートとして用いた(Onoら(2000)Cancer Res. 60:5007-11)。
【0190】
2.マイクロアレイの調製
スライドガラス上にスポットするためのcDNAを得るために、RT-PCRを各遺伝子を対象に、以前に記載された手順で行った(Okabeら(2001)Cancer Res. 61:2129-2137)。PCR産物を、タイプ7のガラススライド(Amersham Biosciences)上に、Microarray Spotter Generation III(Amersham Biosciences)でスポットした。4,608種類の遺伝子を各スライド上に2連でスポットした。5セットの異なるスライドを準備し(計23,040種類の遺伝子)、各スライドに同じ52種類のハウスキーピング遺伝子と2つの陰性対照遺伝子もスポットした。次に、正所性子宮内膜組織に由来するaRNAの2.5 μgのアリコート、および対応する卵巣子宮内膜嚢胞を、それぞれCy3-dCTPとCy5-dCTP(Amersham Biosciences)で標識した。ハイブリダイゼーション、スキャニング、およびシグナルの定量を、全工程をAutomated Slide Processor(Okabeら(2001)Cancer Res. 61:2129-2137)で実施した点を除いて以前に記載された手順で行った(Onoら(2000)Cancer Res. 60:5007-11)。各標的スポットのCy5およびCy3の蛍光強度を、52種類のハウスキーピング遺伝子の平均Cy5/Cy3比が1に等しくなるように調整した。低シグナル強度に由来するデータはそれほど信頼できないので、各スライド上のシグナル強度のカットオフ値を最初に決定して、Cy3およびCy5の色素の両方がカットオフ値より低いシグナル強度を示す場合に、後の解析から遺伝子を除外するようにした。各遺伝子の相対発現(Cy5/Cy3強度比)を、「上方制御(比=2.0)」、「下方制御(比=0.5)」、「変化なし(0.5<比<2.0)」、および「発現なし(検出のカットオフレベル未満)」の4つのカテゴリーのうちの1つに規定した。また、各遺伝子の相対発現(Cy5/Cy3強度比)を、「5倍上方制御(比=5.0)」、「0.2倍下方制御(比=0.2)」、および「0.2〜5倍で変化なし(0.2<比<5.0)」の3つの別のカテゴリーのうちの1つに規定した。
【0191】
3.半定量RT-PCR
月経周期を通して一般に上方制御された代表的な10種類の遺伝子を選択し、その発現レベルを半定量RT-PCR実験で調べた。各試料のaRNAの3 μgのアリコートを、ランダムプライマー(Roche)、およびSuperscript II(Life Technologies, Inc)を用いて逆転写して1本鎖cDNAを得た。標的DNA特異的またはG3PDH特異的な反応用に調製した同じプライマーセットを用いる、後のPCR増幅のために、各cDNA混合物を希釈した。プライマーの配列を表11に示す。

アクセッション番号および遺伝子の記号は、Unigeneデータベース(build #131)から取得した。
【0192】
内部対照にはG3PDHの発現を用いた。PCR反応のサイクル数を、増幅の直線相に産物の強度が入るように最適化した。
【0193】
[実施例3]卵巣子宮内膜細胞で臨床的に関連する発現パターンを示す遺伝子の同定
卵巣子宮内膜嚢胞に由来する上皮細胞の遺伝子発現プロファイルを、23,040種類の遺伝子を含む包括的cDNAマイクロアレイシステムを用いて解析した。Cy5およびCy3のシグナルがカットオフ値に満たない場合は、個々のデータを除外した(実施例1を参照)。次に、月経周期の増殖期の患者9人に由来する嚢胞における発現レベルを、同じ時期の女性7人に由来する正所性子宮内膜細胞の混合物からなるユニバーサル対照における発現レベルと比較した。分泌期の遺伝子発現を調べる際には、14種類の該当する嚢胞を、同時期の女性7人に由来する正所性子宮内膜細胞の混合物と比較した。Cy5/Cy3のシグナル強度比のカットオフ値に2.0を用いた際には、2つの発現タグ配列(EST)を含む15種類の遺伝子の発現が、23例中少なくとも70%で上方制御された(表1)。このプロトコルで、15のESTを含む42種類の遺伝子を、増殖期だけで上方制御されるものとして選択し(表2)、10のESTを含む40種類の遺伝子を、分泌期だけで上方制御されるものとして同定した(表3)。表2に挙げた遺伝子の大半は分泌期でも過剰に発現されており、表3に挙げた遺伝子の大半は増殖期でも過剰発現されていたが、いずれも症例の70%未満であった。しかし一部の遺伝子は、いずれかの時期だけで上方制御された。S100カルシウム結合タンパク質A13(S100A13)、ミオシン調節軽鎖2、および平滑筋アイソフォーム(MYRL2)は、増殖期で特異的に発現が促進され、一方four and a half LIMドメイン2(FHL2)、およびTSPY様(TSPYL)をコードする遺伝子は、分泌期だけで上方制御された。多くの異所性子宮内膜は、対応する正所性子宮内膜組織が分泌期にある場合、組織病理学的に増殖特性を示す(Mathurら(1990)Fertil. Steril. 54:56-63;Molitor(1971) Am. J. Obstet. Gynecol. 110:275-84)。子宮内膜細胞は、一部の遺伝子の発現が変化すると、月経周期を通して増殖を続ける可能性がある。
【0194】
実験から、嚢胞内で数多くの遺伝子の発現が下方制御されることも明らかとなった。Cy5/Cy3のカットオフシグナル強度比を0.5に設定した場合、164のESTを含む337種類の遺伝子は、70%を超える患者で、増殖期または分泌期のいずれかにおいて一般に発現が低下した。41のESTを含む他の144種類の遺伝子が、増殖期だけで発現が低下したものとして選択され、また428のESTを含む835種類の遺伝子が、分泌期だけで発現が低下したものとして選択された。この中で、表4、表5、および表6に挙げた遺伝子のみが、調べた症例の70%を上回る症例でCy5/Cy3シグナル強度比が0.3未満であった遺伝子である。
【0195】
半定量RT-PCR実験を行い、マイクロアレイ解析で示された発現の差を確認した。この結果を、月経周期を通して発現が促進された代表的な10種類の遺伝子の発現レベルの比と比較することで、試験した例の大多数においてマイクロアレイ解析との良好な一致が確証された(図1)。
【0196】
上方制御される遺伝子の多くは、免疫系の因子をコードする。例えば、組織適合性タンパク質HLA-DPA1、HLA-DQA1、HLA-DQB1、HLA-DRA、HLA-DRB1、およびCD14をコードする遺伝子は全て、月経周期を通して過剰発現された。また補体因子C3、BF、C1S、C1R、およびC2、ならびにCEBPDおよびHLA-Fをコードする遺伝子は、嚢胞で主に分泌期において上方制御された。これらの遺伝子の過剰発現は、子宮内膜症を引き起こし、かつ生殖能低下および自己抗体の産生を引き起こす。
【0197】
1つの臨床的実体として、子宮内膜症は、主な症状が月経困難症、性交疼痛症、慢性骨盤痛、および不妊症であるエストロゲン依存性疾患として現れる。マイクロアレイ解析の結果、これらの臨床的特徴との一致がみられた。例えば、補体成分の高い発現は、骨盤部疼痛が子宮内膜症病変における重度の炎症の結果生じることを意味する。例えば、ロイコトリエン生合成に必要なALOX5APをコードする遺伝子は、調査した患者23人中22人で上方制御された(図2)。これらの遺伝子の過剰発現によって誘導される進行性の炎症または癒着は、卵管および卵巣に物理的な損傷を引き起こし、不妊症に至る。さらに、局所的な腹腔内炎症は腹水を生じる。子宮内膜症患者にみられる腹水は、卵丘-卵母細胞複合体の線毛能力(fimbrial capability)、精子の運動、および胚の成長を阻害することで受胎能を減少させる。
【0198】
上方制御される遺伝子の1つがTGFBIである。この遺伝子の産物は、子宮内膜間質細胞の血管形成および増殖を誘導する一方で、ナチュラルキラー活性を阻害する。またTGFBIは、初期マウス胚の発生を有意に阻害する。子宮内膜症組織におけるTGFBIの発現の増加は、子宮内膜症の進行および不妊症と関連する。
【0199】
卵管糖タンパク質1(OVGP1)の下方制御は、月経周期の両方の時期の子宮内膜嚢胞で認められ、不妊症との関連も著明である。OVGP1は、腹水、月経液の逆行流、微生物、および精子などの潜在的に有害な細胞外環境から、初期胚および輸卵管を守る役割を果たす。したがってOVGP1の発現低下は、子宮内膜症患者の不妊症に寄与する可能性がある。
【0200】
腫瘍抑制因子TP53の下方制御は、月経の分泌期にあった患者14人中10人に由来する嚢胞で検出され、かつ増殖期にあった患者9人中6人に由来する嚢胞で検出された。TP53BP2も、増殖期の9例中7例で発現が低下した。子宮内膜症は良性疾患と見なされるが、細胞増殖、細胞浸潤、および血管新生などの腫瘍様の特徴を示す。有意に高い卵巣癌の危険性が子宮内膜症と関連しており(標準化発症比=1.9)、特に卵巣子宮内膜症を10年を上回る期間(比=4.2)有する女性と関連している(Brintonら(1997)Am. J. Obstet. Gynecol. 176:572-9)。
【0201】
本明細書に記載された、遺伝子発現差のパターンは、卵巣の子宮内膜様癌および明細胞癌の診断に有用である。ある試験では、卵巣明細胞癌患者の約39.2%と卵巣子宮内膜様癌患者の21.2%が、卵巣子宮内膜症の影響を受けていた(Yoshikawaら(2000)Gynecol. Obest. Invest. 50:11-7)。Shimizuらは、卵巣の明細胞癌がp53の負の発現を示す傾向があると指摘している(Shimizuら(1999)Cancer 85:669-77)。本明細書に記載されたデータは、TP53および/またはTP53BP2の発現低下が、「悪性の」子宮内膜症に関与することも意味する。またGADD34、GADD45A、およびGADD45Bのアポトーシス関連タンパク質(DeSmaeleら(2001)Nature 414:308-13)も、これらの遺伝子の転写レベルが、成長停止またはDNA損傷薬剤処理後のストレス条件下で上昇する傾向があるという事実にもかかわらず、嚢胞では下方制御されていた。さらに、酸化ストレスを生じるか、または酸化ストレスに応答し、かつp53依存性アポトーシスに役割を果たすPIG11は、分泌期における調査対象14例中11例で、また増殖期の9例中6例で下方制御されていた。したがって、子宮内膜症上皮細胞における、これらの遺伝子の発現減少は、アポトーシスシグナルに影響を及ぼし、かつこの疾患の腫瘍様特性に関与する可能性がある。
【0202】
リボソームタンパク質の合成はエストロゲンに応答して増加し(Knowles(1978)Biochem. J. 170:181-3;MullerおよびKnowles(1984)FEBS Lett. 174:253-7)、マイクロアレイ解析から、リボソームタンパク質S23(RPS23)は、異所性子宮内膜で上方制御されることが示されている(Eysterら(2002)Fertil. Steril. 77:38-42)。本明細書に記載されたデータから、RPS11およびRPL11、ならびにRPS23が上方制御されることがわかった。発現の増加は、子宮内膜症組織におけるエストロゲンレベルの増加の結果である可能性がある。
【0203】
Cy5/Cy3のシグナル強度比に対しカットオフ値5.0を用いた際に、4つの発現タグ配列(EST)を含む20種類の遺伝子は、調査対象の23例中少なくとも50%で「5倍上方制御される」ことがわかった(表7)。このプロトコルで、19のESTを含む38種類の遺伝子が、増殖期のみで「5倍上方制御された」ものとして選択され(表8)、分泌期のみにおいては10のESTを含む35種類の遺伝子が同様に選択された(表9)。表8に挙げた遺伝子の大半は、他の時期(すなわち分泌期)でも過剰発現されており、また表9に挙げた遺伝子の大半は、増殖期でも過剰発現されていたが、いずれの場合も症例の50%未満であった。しかしながら、一部の遺伝子は、一方の時期でのみ「5倍上方制御された」。すなわち、分泌型frizzled関連タンパク質4(SFRP4)、および組織因子経路インヒビター2(TFPI2)は、分泌期で特異的に「5倍上方制御された」。
【0204】
この実験では、数多くの遺伝子が嚢胞で下方制御されることも明らかとなった。Cy5/Cy3のカットオフシグナル強度比を0.2と設定した場合、14のESTを含む36種類の遺伝子は、50%を上回る患者で、増殖期または分泌期のいずれかにおいて一般に発現が低下した。13のESTを含む他の47種類の遺伝子は、発現が増殖期だけで低下するものとして、156のESTを含む276種類の遺伝子は、分泌期だけで低下するものとして選択された。
【0205】
「5倍上方制御された」遺伝子の多くは、免疫系の因子をコードしており、例えばHLA-DRA、IGHG3、IGLλ、C1R、およびCD163はいずれも月経周期を通して過剰発現されていた。また補体因子C3、BF、C1S、およびC2、ならびにCEBPDおよびHLA-DQB1をコードする遺伝子は、主に分泌期の嚢胞で「5倍上方制御された」。
【0206】
1つの臨床的実体として、子宮内膜症はエストロゲン依存性疾患であると考えられており、その主な症状は、月経困難症、性交疼痛症、慢性骨盤痛、および不妊症である。マイクロアレイ解析の結果から、これらの臨床的特徴との一致が示された。例えば補体成分の高い発現は、骨盤部疼痛が子宮内膜病変における重度の炎症の結果である可能性があることを示唆する。この相関は、調査対象の患者23人中21人で、ロイコトリエン生合成に必要なALOX5APをコードする遺伝子が、「5倍上方制御された」ことを示すデータによって支持される。
【0207】
「5倍上方制御された」遺伝子として同定された核酸配列は、卵巣子宮内膜症、または卵巣子宮内膜症を発症する素因を緩和する治療薬の標的として有用である。
【0208】
[実施例4]半定量RT-PCRによる、子宮内膜症におけるTFPI-2およびITLNの発現の確認
cDNAマイクロアレイを用いて、23人の患者の卵巣子宮内膜嚢胞を対象に23,040種類の遺伝子の遺伝子発現プロファイルが解析された(Arimotoら(2003)Int. J. Oncol. 22:551-60)。上方制御された遺伝子のなかで、遺伝子のシグナル強度が分泌期におけるカットオフ値より高かった、9つの情報が得られた症例の全てで過剰に発現され、かつ増殖期における50%を上回る症例で下方制御された遺伝子TFPI-2に注目し、後の研究用に選択した。また、分泌期における9つの情報が得られた症例中8例で上方制御され、かつ増殖期における情報が得られた症例の3例全てで発現が促進されたITLNに注目し、後の研究用に選択した。また半定量RT-PCR解析を行い、子宮内膜症の、分泌期におけるTFPI-2の発現上昇、および月経周期を通してのITLNの発現上昇を確認した(図3)。
【0209】
TFPI-2およびITLNが、以前に記載されているように分泌タンパク質であるか否かを調べるために、これらのタンパク質を安定に過剰発現する哺乳類細胞集団を、pcDNA3.1(-)-TFPI-2-myc-his、またはpcDNA3.1(-)-ITLN-myc-hisをcos7細胞にトランスフェクトし、次に一部の形質転換体の発現および細胞内局在をウエスタンブロッティング(図4A)、および免疫蛍光染色(図4B)で確認することで確立した。 以前に記載されているように、TFPI-2の顕著な3重のバンド(約33、31、27 kDa)が、TFPI-2センス形質転換体から抗TFPI-2ポリクローナル抗体により認められ、また対応するTFPI-2タンパク質も培地(センス)中に検出されたが、ベクター形質移入体(擬似)からは検出されなかった(図4A;左のパネル)。また、ウエスタンブロッティングで検出された、HEC-151細胞およびHs.683細胞におけるTFPI-2タンパク質の内因性発現(図4A、右のパネル)、および抗TFPI-2ポリクローナル抗体による免疫蛍光染色(図4C)から、TFPI-2タンパク質が分泌タンパク質として細胞質に局在することがわかった。同様に、ITLN の40 kDaの単一バンドは、抗ITLNポリクローナル抗体を用いてITLNセンス形質転換体の培地中にも認められ(図3A)、かつITLNタンパク質はTFPI-2と同様に、細胞質に局在することが観察された(図4B)。これらの結果は、TFPI-2とITLNの両方が分泌タンパク質であることを示唆している。
【0210】
[実施例5]子宮内膜症嚢胞および正常ヒト組織におけるTFPI-2タンパク質およびITLNタンパク質発現の免疫組織化学による検出
ノーザンブロット解析により、TFPI-2は初め、胎盤で特異的に発現されることが証明され(図5、上のパネル)、ITLNは結腸で、かつ程度は低いものの心臓、小腸、胸腺、精巣、および脾臓(図5、下のパネル)で発現されることが証明された。次に、ヒト正常組織の免疫組織化学染色を行い、TFPI-2タンパク質が、胎盤の合胞体栄養細胞および脱落膜細胞で発現されているが、静脈周囲の肝細胞および心筋細胞の細胞質における発現はかなり弱く、また脳、腎臓、肺、および骨格筋では染色がほとんど認められないことが証明された(図6A)。一方で、ITLNタンパク質の陽性染色が、陰窩の基底細胞、ならびに結腸および小腸の粘膜上皮細胞で認められたが、心筋細胞の細胞質は弱く染色され、脳、腎臓、肝臓、および肺では染色は全く認められなかった(図6B)。
【0211】
さらに、TFPI-2抗体またはITLN抗体が、胎盤または小腸で、対応するタンパク質を特異的に認識可能か否かを調べるために交差阻害アッセイ法を行った。その結果、これらの細胞の染色の減少により、両方のポリクローナル抗体が、対応するタンパク質に特異的に反応することを示した(図6C)。
【0212】
さらに、子宮内膜嚢胞切片中のTFPI-2タンパク質およびITLNタンパク質の発現を、免疫組織化学によって調べた。抗TFPI-2抗体または抗ITLN抗体によって、両タンパク質の陽性染色が子宮内膜嚢胞の上皮細胞に認められたが(図7、左と中央のパネル)、陰性対照として抗ウサギIgGを用いた場合は、同じ子宮内膜嚢胞組織に陽性染色は認められなかった。
【0213】
産業上の利用可能性
TFPI-2に関するさまざまな婦人科研究が、妊娠の進行の観点から行われているが、このタンパク質が子宮内膜症の発症と関連するという報告はない。またITLNが、さまざまな婦人科疾患または腫瘍疾患の進行または維持に関与するか否かについては、ほとんどわかっていない。したがって本発明者らは、各遺伝子の安定な形質転換体を確立することを通して、TFPI-2とITLNの両方が分泌されるか否かを調べ、これらの遺伝子が子宮内膜嚢胞で過剰発現されることを、半定量RT-PCRおよび免疫組織化学で明らかにした(図3および図7)。
【0214】
結論として本発明では、TFPI-2タンパク質およびITLNタンパク質が、ヒトの発癌に関与する可能性があることが実証された。これらの転写物の発現は正常成人組織では相対的に低いので、これらの遺伝子そのものが治療の新しい標的となりうる。
【0215】
レーザービームを用いた切除法(laser-capture dissection)とゲノム全体にわたるcDNAマイクロアレイを組み合わせることで得られた、本明細書に記載された卵巣子宮内膜症の遺伝子発現解析で、卵巣子宮内膜症の予防および治療の標的となる特異的な遺伝子が同定された。これらの発現差のある一群の遺伝子の発現に基づき、本発明は、卵巣子宮内膜症を同定または検出するための分子診断マーカーを提供する。
【0216】
本明細書に記載された方法は、卵巣子宮内膜症の予防用、診断用、および治療用の他の分子標的の同定にも有用である。本明細書に報告されたデータは、卵巣子宮内膜症の包括的な理解を深め、新しい診断戦略の開発を促し、かつ治療薬および予防薬の分子標的を同定するための手がかりを提供する。このような情報は、発癌の一層深い理解に寄与し、かつ卵巣子宮内膜症の診断、治療、そして究極的には予防のための新たな戦略を開発するための指標を提供する。
【0217】
本発明は、本発明の特定の態様に関して詳細に説明されているが、当業者には、本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく、さまざまな変更および改変が可能であることが理解される。
【図面の簡単な説明】
【0218】
【図1】cDNAマイクロアレイ解析の結果を示す写真を示す。代表的な10種類の遺伝子およびG3PDHの発現を、増幅RNAから調製したcDNAを用いた半定量RT-PCRで調べた(S=試料;C=対照)。機能が既知または推定される遺伝子にシンボルを付した。ESTにはアクセッション番号を付した。
【図2】図2aは、23例の子宮内膜嚢胞におけるALOX5APのCy5/Cy3強度比を示す棒グラフを示す。この比は、21番以外の全試料で2.0を上回った。図2bは、遺伝子発現アッセイ法の結果を示す写真を示す。ALOX5APの発現が上方制御されていた。G3PDHを内部対照として用いた。
【図3】子宮内膜症におけるTFPI-2およびITLNの発現を示す。TFPI-2、ITLN、およびG3PDHの発現を、増幅RNAから調製したcDNAを用いた半定量RT-PCRで調べた(C=対照)。(A)TFPI-2の発現は、分泌期の14例中9例で上方制御されており、(B)ITLNの発現は、分泌期の14例中10例、および増殖期の9例中4例で上方制御されていた。
【図4】TFPI-2タンパク質およびITLNタンパク質の細胞内局在を示す。(A)は、pcDNA3.1-myc/His-センスプラスミド、または擬似プラスミドをトランスフェクトしたCOS-7細胞の抽出物を用いた、mycタグ付きTFPI-2タンパク質およびITLNタンパク質のウエスタンブロット解析の結果を示す(細胞=細胞溶解物;培地=馴化培地)。個々の馴化培地は、対応するタンパク質を含む。さらにTFPI-2の内因性発現が、HEC-151細胞およびHs.683細胞で検出された。(B)は、TFPI-2、ITLN、および擬似プラスミドの安定な形質変換体の免疫蛍光染色の結果を示す。(C)は、HEC-151細胞およびHs.683細胞の抗TFPI-2抗体による免疫蛍光染色の結果を示す。TFPI-2の内因性発現および外因性発現のパターンは同じであった。
【図5】TFPI-2およびITLNのmRNAのノーザンブロット解析の結果を示す。多組織ノーザンブロットメンブレン(Clontech)に、TFPI-2またはITLNのcDNA断片を、「材料および方法」に記載された手順でハイブリダイズさせた。RNAのサイズマーカーはキロ塩基対(kb)で示す。
【図6】TFPI-2タンパク質およびITLNタンパク質の免疫組織化学染色の結果を示す。(A)は、ヒト成人正常組織切片の抗TFPI-2抗体による免疫組織化学染色の結果を示す。強い染色が胎盤で認められ、かなり弱い染色が肝臓および心臓で認められ、脳、腎臓、肺、および骨格筋では染色は認められなかった。(B)は、ヒト成人正常組織切片の抗ITLN抗体による免疫組織化学染色の結果を示す。陽性染色が結腸で認められ、かなり弱い染色が心臓で認められ、脳、腎臓、肝臓、および肺では染色は認められなかった。(C)は交差阻害アッセイ法の結果を示す。組換えTFPI-2タンパク質は、胎盤におけるTFPI-2染色を阻害した(上のパネル)。これと同様に、組換えITLNタンパク質は、小腸におけるITLN染色を阻害した(下のパネル)。
【図7】免疫組織化学によって調べた、子宮内膜嚢胞におけるTFPI-2タンパク質およびITLNタンパク質の発現パターンを示す。抗TFPI-2抗体によって強い染色が子宮内膜嚢胞の上皮細胞で認められ、またある程度の染色が間質細胞で認められた(左のパネル)。一方、抗ITLN抗体によって陽性染色が嚢胞の上皮細胞のみで認められた(中央のパネル)。陰性対照として抗ウサギIgGを使用した時には、陽性染色は同じ子宮内膜嚢胞組織で認められなかった(右のパネル)。上のパネルは低倍率(×100)の画像であり、下のパネルは高倍率(×200)の画像である。矢印は、嚢胞の上皮細胞を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者に由来する生物学的試料中の卵巣子宮内膜症関連遺伝子の発現レベルを決定する段階を含む、被験者の卵巣子宮内膜症、または卵巣子宮内膜症を発症する素因を診断する方法であって、該遺伝子の対照レベルと比較して発現レベルが増加または減少すれば、被験者が卵巣子宮内膜症であるか、または同疾患を発症する危険性があることを意味する、方法。
【請求項2】
卵巣子宮内膜症関連遺伝子がOEX 1〜97および186〜242からなる群より選択され、正常対照レベルと比較して発現レベルが増加すれば、被験者が卵巣子宮内膜症であるか、または同疾患を発症する危険性があることを意味する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
増加が、正常対照レベルより少なくとも10%大きい、請求項2記載の方法。
【請求項4】
卵巣子宮内膜症関連遺伝子がOEX 98〜185からなる群より選択され、正常対照レベルと比較して発現レベルが減少すれば、被験者が卵巣子宮内膜症であるか、または同疾患を発症する危険性があることを意味する、請求項1記載の方法。
【請求項5】
減少が、正常対照レベルより少なくとも10%低い、請求項4記載の方法。
【請求項6】
複数の卵巣子宮内膜症関連遺伝子の発現レベルを決定する段階をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項7】
発現レベルを、以下からなる群より選択される任意の1つの方法で決定する、請求項1記載の方法:
(a)卵巣子宮内膜症関連遺伝子のmRNAを検出する方法;
(b)卵巣子宮内膜症関連遺伝子にコードされたタンパク質を検出する方法;および
(c)卵巣子宮内膜症関連遺伝子にコードされたタンパク質の生物学的活性を検出する方法。
【請求項8】
卵巣子宮内膜症関連遺伝子プローブの、被験者由来の生物学的試料に含まれる遺伝子転写物へのハイブリダイゼーションを検出することで発現レベルを決定する、請求項7記載の方法。
【請求項9】
ハイブリダイゼーション段階をDNAアレイ上で行う、請求項8記載の方法。
【請求項10】
生物学的試料が組織試料であり、かつ上皮細胞を含む、請求項1記載の方法。
【請求項11】
生物学的試料が、子宮内膜嚢胞細胞を含む組織試料である、請求項1記載の方法。
【請求項12】
生物学的試料が、子宮内膜嚢胞に由来する上皮細胞を含む組織試料である、請求項11記載の方法。
【請求項13】
OEX 1〜242からなる群より選択される2つまたはそれ以上の遺伝子の遺伝子発現パターンを含む、卵巣子宮内膜症の標準発現プロファイル。
【請求項14】
OEX 1〜97および186〜242からなる群より選択される2つまたはそれ以上の遺伝子の遺伝子発現パターンを含む、卵巣子宮内膜症の標準発現プロファイル。
【請求項15】
OEX 98〜185からなる群より選択される2つまたはそれ以上の遺伝子の遺伝子発現パターンを含む、卵巣子宮内膜症の標準発現プロファイル。
【請求項16】
以下の段階を含む、卵巣子宮内膜症関連遺伝子の発現を変化させる化合物をスクリーニングする方法:
(a)卵巣子宮内膜症関連遺伝子を発現する試験細胞に試験化合物を接触させる段階;
(b)該卵巣子宮内膜症関連遺伝子の発現レベルを決定する段階;および
(c)試験化合物の非存在下と比較して発現レベルを変化させる化合物を選択する段階。
【請求項17】
試験細胞が上皮細胞である、請求項16記載の方法。
【請求項18】
上皮細胞が子宮内膜嚢胞から単離される、請求項17記載の方法。
【請求項19】
卵巣子宮内膜症関連遺伝子がOEX 1〜97および186〜242からなる群より選択され、かつ該卵巣子宮内膜症関連遺伝子の発現レベルを減少させる化合物を段階(c)で選択する、請求項17記載の方法。
【請求項20】
卵巣子宮内膜症関連遺伝子がOEX 98〜185からなる群より選択され、かつ該卵巣子宮内膜症関連遺伝子の発現レベルを増加させる化合物を段階(c)で選択する、請求項17記載の方法。
【請求項21】
以下の段階を含む、卵巣子宮内膜症関連遺伝子の発現を変化させる化合物をスクリーニングする方法:
(a)卵巣子宮内膜症関連遺伝子の転写調節領域の下流に連結されたレポーター遺伝子を含むベクターが導入された細胞に、試験化合物を接触させる段階;
(b)レポーター遺伝子の活性を測定する段階;および
(c)試験化合物の非存在下と比較して、レポーター遺伝子の発現レベルを変化させる化合物を選択する段階。
【請求項22】
卵巣子宮内膜症関連遺伝子がOEX 1〜97および186〜242からなる群より選択され、かつレポーター遺伝子の活性を増加させる化合物を段階(c)で選択する、請求項21記載の方法。
【請求項23】
卵巣子宮内膜症関連遺伝子がOEX 98〜185からなる群より選択され、レポーター遺伝子の活性を減少させる化合物を段階(c)で選択する、請求項21記載の方法。
【請求項24】
以下の段階を含む、卵巣子宮内膜症関連遺伝子の活性を変化させる化合物をスクリーニングする方法:
(a)卵巣子宮内膜症関連遺伝子にコードされたポリペプチドに試験化合物を接触させる段階;
(b)ポリペプチドと試験化合物との結合活性を検出する段階;および
(c)ポリペプチドに結合する化合物を選択する段階。
【請求項25】
以下の段階を含む、卵巣子宮内膜症関連遺伝子の活性を変化させる化合物をスクリーニングする方法:
(a)卵巣子宮内膜症関連遺伝子にコードされたポリペプチドに試験化合物を接触させる段階;
(b)ポリペプチドの生物学的活性を検出する段階;および
(c)試験化合物の非存在下で検出される生物学的活性と比較して、ポリペプチドの生物学的活性を変化させる化合物を選択する段階。
【請求項26】
卵巣子宮内膜症関連遺伝子がOEX 1〜97および186〜242からなる群より選択され、かつ該卵巣子宮内膜症関連遺伝子にコードされたポリペプチドの生物学的活性を増加させる化合物を段階(c)で選択する、請求項25記載の方法。
【請求項27】
卵巣子宮内膜症関連遺伝子がOEX 98〜185からなる群より選択され、かつ該卵巣子宮内膜症関連遺伝子にコードされたポリペプチドの生物学的活性を減少させる化合物を段階(c)で選択する、請求項26記載の方法。
【請求項28】
OEX 1〜242からなる群より選択される1つまたは複数の核酸配列に結合する1つまたは複数の検出試薬を含むキット。
【請求項29】
OEX 1〜242からなる群より選択される1つまたは複数の核酸配列に結合する1つまたは複数の核酸を含むアレイ。
【請求項30】
被験者におけるOEX 1〜97および186〜242からなる群より選択される遺伝子の発現、または同遺伝子にコードされたポリペプチドの活性を阻害する段階を含む、被験者の卵巣子宮内膜症を治療または予防する方法。
【請求項31】
OEX 1〜97およびOEX 186〜242からなる群より選択されるコード配列に相補的なヌクレオチド配列を含むアンチセンス組成物を、被験者に投与することによって遺伝子の発現を阻害する、請求項30記載の方法。
【請求項32】
OEX 1〜97および186〜242からなる群より選択される核酸配列の発現を減少させるsiRNA組成物を被験者に投与することによって遺伝子の発現を阻害する、請求項30記載の方法。
【請求項33】
OEX 1〜97および186〜242からなる群より選択される任意の1つの遺伝子にコードされたポリペプチドに結合する、抗体またはその断片の薬学的有効量を被験者に投与することによって、遺伝子にコードされたポリペプチドの活性を阻害する、請求項30記載の方法。
【請求項34】
OEX 1〜97およびOEX 186〜242からなる群より選択される核酸配列にコードされたポリペプチド、または該ポリペプチドの免疫学的に活性な断片を含むワクチンを被験者に投与する段階を含む、被験者の卵巣子宮内膜症を治療または予防する方法。
【請求項35】
OEX 1〜97およびOEX 186〜242からなる群より選択される遺伝子にコードされたポリペプチドの発現または活性を減少させる化合物を、被験者に投与する段階を含む、被験者の卵巣子宮内膜症を治療または予防する方法。
【請求項36】
OEX 98〜185からなる群より選択される遺伝子にコードされたポリペプチドの発現または活性を増加させる化合物を被験者に投与する段階を含む、被験者の卵巣子宮内膜症を治療または予防する方法。
【請求項37】
OEX 98〜185からなる群より選択されるポリヌクレオチド、またはこれにコードされたポリペプチドの薬学的有効量を含む、卵巣子宮内膜症を治療または予防するための組成物。
【請求項38】
OEX 1〜97およびOEX 186〜242からなる群より選択される核酸配列に対するアンチセンスオリゴヌクレオチド、または低分子干渉RNAの薬学的有効量を含む、卵巣子宮内膜症を治療または予防するための組成物。
【請求項39】
OEX 1〜97およびOEX 186〜242からなる群より選択される遺伝子の任意の1つにコードされたポリペプチドに結合する抗体もしくはその断片の薬学的有効量を含む、卵巣子宮内膜症を治療または予防するための組成物。
【請求項40】
請求項16〜26のいずれか一項記載の方法により選択される化合物の薬学的有効量を含む、卵巣子宮内膜症を治療または予防するための組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−29189(P2010−29189A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−178542(P2009−178542)
【出願日】平成21年7月31日(2009.7.31)
【分割の表示】特願2004−535871(P2004−535871)の分割
【原出願日】平成15年8月12日(2003.8.12)
【出願人】(502240113)オンコセラピー・サイエンス株式会社 (142)
【Fターム(参考)】