卵採取及び胚移植用器具
【課題】小型サル等から安全に容易に、かつ効率的に受精卵を採取することができ、効率的に胚を移植することができる卵採取及び胚移植用器具、並びに卵採取方法及び胚移植方法を提供する。
【解決手段】金属針2でできた内芯1、柔軟性素材でできた先端と基端が開口する細経チューブ5からなるカテーテル4、内芯1又はカテーテル4がスライド可能かつ抜去可能に挿入可能な、可撓性素材でできており弾性を有し、先端と基端が開口しており、先端部がテーパー状であるガイドカテーテル、ガイドカテーテル又はそれと内芯若しくはカテーテル4を組み合わせたものを挿入可能である、硬質素材でできたガイド管を構成部品として含み、ガイドカテーテルに内芯を挿入した状態で子宮口に挿入し、その後内芯1を抜き去りカテーテル4を挿入して用い、内芯1及びカテーテル4がガイドカテーテル4よりも長く、ガイドカテーテルがガイド管より長い卵採取及び胚移植用器具。
【解決手段】金属針2でできた内芯1、柔軟性素材でできた先端と基端が開口する細経チューブ5からなるカテーテル4、内芯1又はカテーテル4がスライド可能かつ抜去可能に挿入可能な、可撓性素材でできており弾性を有し、先端と基端が開口しており、先端部がテーパー状であるガイドカテーテル、ガイドカテーテル又はそれと内芯若しくはカテーテル4を組み合わせたものを挿入可能である、硬質素材でできたガイド管を構成部品として含み、ガイドカテーテルに内芯を挿入した状態で子宮口に挿入し、その後内芯1を抜き去りカテーテル4を挿入して用い、内芯1及びカテーテル4がガイドカテーテル4よりも長く、ガイドカテーテルがガイド管より長い卵採取及び胚移植用器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は動物用の卵採取及び胚移植用器具に関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子改変及びキメラ動物の作出、動物の人工増殖等のためには、動物の子宮から卵や胚を採取し、必要な処理を行った後、その卵や胚を他の個体の子宮に移植する必要がある。
【0003】
受精卵採取及び胚移植を行うためにはこれまで開腹手術が必要であり、開腹手術による方法は動物に対する侵襲もあり、手術部位の癒着も問題となっていた。
【0004】
開腹手術による移植法に代わって、非外科的胚移植法についても報告されていた(非特許文献1及び2を参照)。該方法においては、ステンレス製の移植カテーテルを使用しており、カテーテルが太くて子宮口に入りにくい、入りにくいカテーテルを無理矢理入れようとすることにより金属製のカテーテルが子宮口を傷つけるなどの問題があった。さらに、該方法においては、子宮口を見つけるためにオトスコープ(耳内視鏡)を使用していた。しかし、オトスコープを使用する方法では、子宮口を見つけることが難しく、該方法は普及しなかった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Thomson JA., et al., J Med Primatol 1994:23:333-336
【非特許文献2】Marshall VS., et al., J Med Primatol 1997:26:241-247
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は小型サル等の小型動物から安全に容易に、かつ効率的に受精卵を採取することができ、さらに安全に容易に、かつ効率的に胚を移植することができる卵採取及び胚移植用器具の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
2008年に動物用超極細内視鏡(TESARA、株式会社AVS)が開発され、これを用いることにより子宮口を見ながらの操作が可能になった。そこで、本発明者は動物への侵襲がほとんどない非外科的移植を可能にするために、子宮口に入りやすく子宮口を傷つけることのない卵採取及び胚移植用器具の開発を行った。その結果、子宮口を見つけるための細い25ゲージのステンレス鈍針とテーパーをつけたテフロン等の柔らかい素材で製造した18ゲージのカテーテルとの2重構造にしたカテーテルを用いることにより、子宮口に無理な力をかけることなく前記卵採取及び胚移植用器具を子宮口に容易に挿入できることを見出した。該卵採取及び胚移植用器具を用いることにより、動物の子宮口を傷つけることなく、子宮から卵を採取し、また子宮に胚を移植できた。また、18ゲージのカテーテルをそのまま子宮口に挿入することは困難であるのに対し、上記の2重構造を有する卵採取及び胚移植用器具を用いることにより、18ゲージのカテーテルを容易に子宮口に挿入することができた。また、上記の18ゲージのカテーテルを透明素材で製造することにより、移植する胚及び培地の量を目視することができ、移植操作を容易にすることができた。
【0008】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1] 金属針でできた内芯;柔軟性素材できた先端と基端が開口する細経チューブからなるカテーテル;前記内芯又はカテーテルがスライド可能かつ抜去可能に挿入可能な、可撓性素材でできており弾性を有し、先端と基端が開口しており、先端部がテーパー状であるガイドカテーテル;並びに前記ガイドカテーテル又はそれと前記内芯若しくは前記カテーテルを組み合わせたものを挿入可能である、硬質素材でできているガイド管を構成部品として含み、前記ガイドカテーテルに内芯を挿入した状態で子宮口に挿入し、その後内芯を抜き去りカテーテルを挿入して用い、内芯及びカテーテルがガイドカテーテルよりも長く、ガイドカテーテルがガイド管より長い、小型サル用卵採取及び胚移植用器具。
[2] 内芯の針部のサイズが24〜26ゲージであり長さが100〜200mm、カテーテルのサイズが22〜24ゲージでありチューブ部分の長さが100〜200mm、ガイドカテーテルのサイズが18〜20ゲージでありチューブ部分の長さが70〜130mmであり、ガイド管のサイズが外径3〜10mmであり長さが50〜100mmである、[1]の卵移植及び胚移植用器具。
[3] さらに、シリンジを含む、[1]又は[2]の卵採取及び胚移植用器具。
[4] [1]〜[3]のいずれかの卵採取及び胚移植用器具を用いて小型サルの子宮より受精卵を採取する方法であって、
小型サルの膣口からガイド管を膣内に挿入し;
ガイドカテーテルに内芯を挿入し二重構造のカテーテルとし、該二重構造カテーテルを前記ガイド管を通して、前記内芯及び前記ガイドカテーテルの先端部が子宮内に届くまで挿入し;
挿入後、前記ガイドカテーテルより前記内芯を抜き去り;
前記ガイドカテーテルにカテーテルを挿入し;
前記カテーテルの基端部の開口部より灌流液を子宮内に流し;
前記ガイドカテーテルの先端の開口部から前記ガイドカテーテル内に入り前記ガイドカテーテルを通って前記ガイドカテーテルの基端の開口部から体外へ流れ出てくる灌流液を回収し、該灌流液中に含まれる受精卵を採取することを含む、小型サルの子宮より受精卵を採取する方法。
[5] [1]〜[3]のいずれかの卵採取及び胚移植用器具を用いて小型サルの子宮へ胚を移植する方法であって、
小型サルの膣口からガイド管を膣内に挿入し;
ガイドカテーテルに内芯を挿入し二重構造のカテーテルとし、該二重構造カテーテルを前記ガイド管を通して、前記内芯及び前記ガイドカテーテルの先端部が子宮内に届くまで挿入し;
挿入後、前記ガイドカテーテルより前記内芯を抜き去り;
前記ガイドカテーテルにカテーテルを挿入し;
前記カテーテルを通して胚を含む液体を子宮内に注入することを含む、小型サルの子宮へ胚を移植する方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の卵採取及び胚移植用器具は、剛性を有する金属製の内芯と柔軟性及びテーパーを有するガイドカテーテルを組合せた二重構造を有するカテーテルとして子宮口に挿入する。剛性を有する内芯と柔軟性とテーパーを有するガイドカテーテルを組み合わせて用いることにより、本発明の器具を容易にかつ子宮口を傷つけることなく子宮口に挿入することができる。子宮口に挿入した後に内芯をカテーテルに交換することにより、該カテーテルを通して子宮内に灌流液を灌流することにより子宮より受精卵を採取することができ、前記カテーテルを通して子宮に胚を移植することができる。本発明の卵採取及び胚移植器具を用いることにより、小型サル等の動物の卵採取及び胚移植を動物に対して非侵襲的・非観血的かつ効率的に行うことができ、キメラ動物の作成や動物の人工増殖のための卵採取や胚移植を同じ個体で安全、容易かつ効率的に繰り返し行うことができるため、経済的効果が得られ、また動物福祉の改善につなげることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の卵採取及び胚移植用器具を構成する内芯の図である。
【図2】本発明の卵採取及び胚移植用器具を構成するカテーテルの図である。
【図3】本発明の卵採取及び胚移植用器具を構成するガイドカテーテルの図である。
【図4】本発明の卵採取及び胚移植用器具を構成するガイド管の図である。
【図5】本発明の卵採取及び胚移植用器具を構成する内芯、ガイドカテーテル及びガイド管を組み合わせた状態を示す図である。
【図6】本発明の卵採取及び胚移植用器具を構成するガイドカテーテル及びガイド管を組み合わせた状態を示す図である。
【図7】本発明の卵採取及び胚移植用器具を構成するカテーテル、ガイドカテーテル及びガイド管を組み合わせた状態を示す図である。
【図8】本発明の卵採取及び胚移植用器具を用いて卵を採取する方法の概要を示す図である。
【図9】本発明の卵採取及び胚移植用器具を用いて胚を移植する方法の概要を示す図である。
【図10】本発明の卵採取及び胚移植用器具を用いて経膣胚移植を行っているときの超音波により観察した像(図10A)、胚移植4週後の子宮の超音波観察像(図10B左)及び胚を移植していない子宮の超音波観察像(図10B右)を示す図である。
【図11】経膣胚移植法と開腹胚移植法で移植を行った場合の、着床率を示す図である。
【図12】開腹胚移植法と経膣胚移植法の比較を示す図である。
【図13】開腹卵採取法、経皮卵採取法、本発明の経膣卵採取法の卵採取効率を示す図である。
【図14】開腹卵採取法、経皮卵採取法、本発明の経膣卵採取法の比較を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0012】
本発明は、開腹等の外科的手術を伴わないで、非観血的に、経膣的に動物子宮より受精卵を採取し、あるいは子宮に胚を移植するための卵採取及び胚移植用器具であり、該器具を用いて卵を採取し、胚を移植する方法である。ここで、移植する胚は動物の個体発生における初期胚をいい、受精卵〜着床する前の胚盤胞期の胚が含まれる。
【0013】
本発明の対象とする動物は、比較的小型の哺乳動物であり、好ましくは小型の霊長類であり、例えばメス成体の平均体重が250〜5000g以下、又はメス成体の体長が18〜100cm以下の霊長類である。具体的には、コモンマーモセット(Callithrix jacchus)、ピグミーマーモセット(Cebuella pygmaea)、ワタボウシパンシェ(Satuinus oedipus)、アカテタマリン(Sauinaus midas)、ゴールデンライオンタマリン(Leontopithecus rosalia)等のマーモセット科に属する小型サル;コモンリスザル(Saimiri sciureus)等のリスザル亜科に属する小型サル;ショウガラゴ(Galago senagalensis)等のガラゴ科に属する小型サル;スローロリス(Nycticebus coucang)等のロリス科に属する霊長類、アイアイ(Daubentonia madagascariensis)等のアイアイ科に属する霊長類;アカゲザル(Macaca mulatta);カニクイザル(Macaca fascicularis)等を含む。
【0014】
本発明の方法においては、胚移植用器具を用いる。これらの該器具は、動物の子宮口を傷つけることなく容易に子宮口に挿入することが可能であり、容易に子宮から受精卵を採取し、又は子宮内に胚を移植することができる。前記胚移植用器具は卵の採取にも用いることができるので、本発明の器具を卵採取及び胚移植用器具と呼ぶ。
【0015】
本発明の卵採取及び胚移植用器具は、良好な操作性を有し、膣、子宮口を通して挿入する際に、膣や子宮頸管を傷付けることがない。
【0016】
以下、本発明の卵採取及び胚移植用器具を図面に基づいて説明する。
【0017】
本発明の卵採取及び胚移植用器具は、金属針でできた内芯1(図1);柔軟性素材でできた先端と基端が開口する細経チューブからなるカテーテル4(図2);前記内芯又はカテーテルがスライド(しゅう動)可能かつ抜去可能に挿入可能な、可撓性素材でできており、弾性を有する、先端と基端が開口するガイドカテーテル7(図3);並びにガイドカテーテル又はそれと内芯1若しくはカテーテル4を組み合わせたものを挿入可能である、硬質素材でできたガイド管10(図4)を構成部品として含む。
【0018】
図1に示す内芯1はガイドカテーテルに挿入し、二重構造を有するカテーテルとして用いる。このように内芯1をガイドカテーテルに挿入し二重構造のカテーテルとして用いたときに、内芯1はガイドカテーテルを子宮口に挿入する際に曲がりにくくなるようにガイドカテーテルに剛性を付与する。また、内芯1は剛性を有しており、二重構造のカテーテル全体に剛性を付与し、子宮口への挿入を容易にすることができる。一方、内芯1は細くそのままで子宮口へ挿入することは困難であるが、ある程度の太さと柔軟性があるガイドカテーテル7と組合せて二重構造のカテーテルとすることにより、子宮口への挿入が容易になる。その結果内芯1を挿入したガイドカテーテル7を子宮口に挿入することができる。すなわち、内芯1はガイドカテーテル7を子宮口内に挿入するためのガイドワイヤとしての機能を有する。内芯1は生体反応が小さく生体適合性のステンレス鋼、Co-Cr合金、チタン合金等の金属製であることが好ましい。内芯1は中空であってもなくてもよい。先端部の形状は限定されないが、膣を通して子宮内に挿入する場合に膣や子宮内を傷付けないように丸みを帯びていることが望ましい。内芯1はガイドカテーテル7に挿入したときに先端部がガイドカテーテル7の先端より突出する長さを有する。内芯1は基部に手指で把持するための把持部3を有する。本発明において、先端部とは子宮口に挿入する側をいい、基部とは卵採取又は胚移植操作中に体外に出ている端部であって、手指で持つ側をいう。前記把持部3は、金属製の針部2の部分と一体に製造されていてもよいし、針部2とは別体で製造され、結合されていてもよい。別体で製造する場合、針部2と把持部3を接着、溶着、嵌合等により結合させればよい。
【0019】
図2に示すカテーテル4は先端と基部に開口部を有するチューブであり、基部から卵採取用の灌流液を注入することができ、灌流液の通路となる。カテーテル4は細くそのままで子宮口へ挿入することは困難であるが、ある程度の太さと柔軟性があるガイドカテーテル7と組合せて二重構造のカテーテルとすることにより、子宮口への挿入が容易になる。カテーテル4は内芯1を挿入した状態で子宮内に挿入されたガイドカテーテル7から内芯1を抜き取った後にガイドカテーテル7に挿入することにより子宮内に挿入される。カテーテル4はガイドカテーテル7に挿入したときに先端部がガイドカテーテル7の先端より突出する長さを有する。該カテーテル4は、チューブ部分5と基部にシリンジ等と接続するための接続部6を備える。該接続部6は手指で把持するための把持部としての機能も有する。カテーテル4は生体適合性素材でできており、ポリエステル;ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレンコポリマー等のポリオレフィン;6ナイロン,66ナイロン等のポリアミド;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル;ポリアセタール;ポリフェニレンスルフィド;ポリエーテルエーテルケトン;ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(4.6フッ化)(FEP)、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)、ポリビニリデンフルオライド(2フッ化)(PVDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(3フッ化)(PCTFE)、クロロトリフルオエチレン・エチレン共重合体(ECTFE)等のフッ素樹脂が挙げられる、この中でもPTFE、PFQ、FEP等のテフロン(登録商標)が好適に用いることができる。また、上記フッ素樹脂以外の素材をフッ素樹脂でコーティングした素材を用いることもできる。
【0020】
図3Aに示すガイドカテーテル7は、先端に開口部を有するチューブであり、前記内芯1が挿入された状態で子宮口内に挿入され、挿入された状態で内芯1が抜き去られ、その後、前記カテーテル4が挿入される。ガイドカテーテル7はカテーテル4を子宮内に挿入する際のガイドとしての役割を有し、カテーテル4に比べ肉厚で曲がりにくくなっている。また、ガイドカテーテル7は子宮内に傷を付けないように先端部がテーパー状となり(図3B)、先細りの形状を有する。さらに、可撓性素材ででき弾性を有する。可撓性とは、柔軟性があり、曲げても折れない性質をいう。ガイドカテーテル7は、チューブ部分8とシリンジ等と接続するための接続部9を有する。該接続部9は手指で把持するための把持部としての機能も有する。ガイドカテーテル7は生体適合性素材でできており、ポリエステル;ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレンコポリマー等のポリオレフィン;6ナイロン,66ナイロン等のポリアミド;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル;ポリアセタール;ポリフェニレンスルフィド;ポリエーテルエーテルケトン;ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(4.6フッ化)(FEP)、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)、ポリビニリデンフルオライド(2フッ化)(PVDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(3フッ化)(PCTFE)、クロロトリフルオエチレン・エチレン共重合体(ECTFE)等のフッ素樹脂が挙げられる、この中でもPTFE、PFQ、FEP等のテフロン(登録商標)が好適に用いることができる。また、上記フッ素樹脂以外の素材をフッ素樹脂でコーティングした素材を用いることもできる。また、ガイドカテーテル7は透明又は半透明であることが望ましい。透明又は半透明である場合、採取する受精卵、移植する胚及び培地の量を目視することができ、卵採取及び胚移植操作を容易かつ確実にすることが可能になる。
【0021】
ガイドカテーテル7を挿入可能な硬質素材でできたガイド管10は、両端が開口した管であり、膣から挿入され、卵採取の間、基部の開口部が体外にあり、先端部の開口部が膣内にある状態で保持され、該ガイド管を通して、ガイドカテーテル7やカテーテル4が子宮内に挿入される。ガイド管10は膣に傷を付けないように先端部がテーパー状となり、先細りの形状を有することが望ましい。ガイド管は膣内に挿入するため、硬質素材でできており、硬質素材としては、ガラス;生体適合性のステンレス鋼、Co-Cr合金、チタン合金等の金属等が挙げられる。
【0022】
本発明の卵採取及び胚移植用器具の構成部品のサイズは、対象とする動物の大きさによるが、例えば、メスの体長が20〜25cmのコモンマーモセットの場合以下のとおりである。以下のサイズの卵採取及び胚移植用器具はコモンマーモセットと同程度の大きさの小型サルに広く用いることができる。大きさの異なる他の小型サルに対してはサルの大きさに応じて適宜サイズを変更すればよい。
【0023】
内芯1の針部2のサイズは、24〜26ゲージ、長さは把持部3を含めないで100〜200mm、好ましくは125〜175mm、さらに好ましくは140〜160mmである。
【0024】
カテーテル4のサイズは、22〜24ゲージ、長さは接続部(把持部)6を含めないチューブ部5の長さで100〜200mm、好ましくは135〜185mm、さらに好ましくは150〜170mmである。
【0025】
ガイドカテーテル7のサイズは、18〜20ゲージであり先端部はテーパー状に先細りになっており最先端部の外径は基部の外径よりも0.3〜0.4mm小さい。長さは接続部(把持部)9を含めないチューブ部8の長さで80〜140mm、好ましくは100〜120mmである。
【0026】
ガイド管10のサイズは、外径3〜10mmであり、長さが50〜100mm、好ましくは70〜80mmである。
【0027】
内芯1の長さ及びカテーテル4の長さはガイドカテーテル7の長さよりも長く、内芯1又はカテーテル4を基部までガイドカテーテル7に挿入したときに、内芯1及びカテーテル4の先端部10〜100mm、好ましくは25〜75mmがガイドカテーテル7の先端部より突出する。さらに、ガイド管10の長さは、内芯1、カテーテル4及びガイドカテーテル7の長さよりも短く、ガイド管10に内芯1、カテーテル4又はガイドカテーテル7を挿入したときに先端部及び基部が10〜50mm、それぞれガイド管の先端部及び基部から突出する。
【0028】
また、内芯1及びカテーテル4はガイドカテーテル7にスライド可能かつ抜去可能に挿入されるように、内芯1及びカテーテル4の外径はガイドカテーテル7の内径より細く作られている。特に卵採取を行う場合、子宮内の卵がガイドカテーテル7にカテーテル4が挿入された状態で、ガイドカテーテル7を通って採取されるので、ガイドカテーテル7にカテーテル4を挿入したときに卵が通ることのできるスペースがある必要がある。
【0029】
本発明の卵採取及び胚移植用器具を以下のように使用して子宮より受精卵を採取する。
【0030】
1 被験動物の膣口12からガイド管10を膣内に挿入する。この際、ガイド管の基部は体外に突出しており、先端部は膣内に位置する。
【0031】
2 ガイドカテーテル7に内芯1を挿入し、二重構造のカテーテルとする。この際、内芯1の先端部はガイドカテーテル7の先端部より突出している。
【0032】
3 内芯1を挿入したガイドカテーテル7をガイド管10を通して、内芯1及びガイドカテーテル7の先端部が子宮内に届くまで挿入する。この際、ガイド菅10に内視鏡を挿入し、内視鏡像により子宮口を探し、内芯1とガイドカテーテル7を子宮口に挿入してもよい。内芯1は金属製で剛性があるので、その剛性を利用して細い柔軟性中空チューブであるガイドカテーテル7を子宮内に挿入することが可能になる。このときの、ガイド管10、ガイドカテーテル7及び内芯1の状態を図5に示す。
【0033】
4 ガイドカテーテル7より内芯1を抜き去る。このとき、ガイドカテーテル7の先端が子宮内に挿入されている。このときのガイド管10及びガイドカテーテル7の状態を図6に示す。
【0034】
5 ガイドカテーテル7にカテーテル4を挿入する。カテーテル4はガイドカテーテル7をガイドとして子宮内に挿入され、先端部が子宮内に位置し、基端部が体外に位置する状態で保持される。このとき、子宮内では、ガイドカテーテル7にカテーテル4が挿入された状態で、かつカテーテル4の先端部がガイドカテーテル7の先端部より突出した状態となる。また、体外でもカテーテル4の基端部がガイドカテーテル7の基端部より突出した状態となる。このときの状態を図7に示す。
【0035】
6 カテーテル4の基端部の開口部より灌流液を子宮内に流す。この際、カテーテル4の基端部に備えられている接続部に灌流液を入れたシリンジを連結し、シリンジ内の灌流液を子宮内に流し込んでもよいし、カテーテル4の基端部に存在する接続部に適当なチューブを連結し、該チューブを通して灌流液を子宮内に流し込んでもよい。
【0036】
7 カテーテルの先端部から子宮内に灌流液が流出し、流出した灌流液は子宮内を灌流し、その灌流液はガイドカテーテル7の先端の開口部からガイドカテーテル7内に入りガイドカテーテル7を通ってガイドカテーテル7の基端の開口部から体外へ流れ出てくる。この際、子宮内に存在する卵が灌流液とともにガイドカテーテル7を通って体外に出てくるので、この卵を回収採取すればよい。
【0037】
図8に卵採取方法の概要を示す。図8中、矢印は灌流液の流れを示す。図8に示すように、膣口12から膣14内に挿入されたガイド管10内にカテーテル4が挿入されたガイドカテーテル7が挿入され、ガイドカテーテル7及びカテーテル4の先端部は子宮腔13内に位置する。カテーテル4の基部開口部から灌流液が注入され、カテーテル4の先端部開口部から灌流液が子宮腔13内に流れる、灌流液は子宮内の受精卵15をガイドカテーテル7中に導き受精卵15はガイドカテーテル7を通り、ガイドカテーテル7の基部開口部から採取することができる。
【0038】
本発明の卵採取及び胚移植用器具を以下のように使用して子宮内に胚を移植する。
【0039】
1 被験動物の膣口12からガイド管10を膣内に挿入する。この際、ガイド管の基部は体外に突出しており、先端部は膣内に位置する。
【0040】
2 ガイドカテーテル7に内芯1を挿入する。この際、内芯1の先端部はガイドカテーテル7の先端部より突出している。
【0041】
3 内芯1を挿入したガイドカテーテル7をガイド管10を通して、内芯1及びガイドカテーテル7の先端部が子宮内に届くまで挿入する。内芯1は金属製で剛性があるので、その剛性を利用して細い柔軟性中空チューブであるガイドカテーテル7を子宮内に挿入することが可能になる。このときの、ガイド管10、ガイドカテーテル7及び内芯1の状態を図5に示す。
【0042】
4 ガイドカテーテル7より内芯1を抜き去る。このとき、ガイドカテーテル7の先端が子宮内に挿入されている。このときのガイド管10及びガイドカテーテル7の状態を図6に示す。
【0043】
5 ガイドカテーテル7にカテーテル4を挿入する。カテーテル4はガイドカテーテル7をガイドとして子宮内に挿入され、先端部が子宮内に位置し、基端部が体外に位置する状態で保持される。このとき、子宮内では、ガイドカテーテル7にカテーテル4が挿入された状態で、かつカテーテル4の先端部がガイドカテーテル7の先端部より突出した状態となる。また、体外でもカテーテル4の基端部がガイドカテーテル7の基端部より突出した状態となる。このときの状態を図7に示す。
【0044】
6 カテーテル4の接続部に胚を含む液体が入ったシリンジを接続する。シリンジ中の胚をカテーテル4を通して子宮内に移植する。
【0045】
図9に胚移植方法の概要を示す。図9に示すように、膣口12から膣14内に挿入されたガイド管10内にカテーテル4が挿入されたガイドカテーテル7が挿入され、ガイドカテーテル7及びカテーテル4の先端部は子宮腔13内に位置する。カテーテル4の基部開口部から胚の入った液体が注入され、子宮腔13内に胚が移植される。
【0046】
卵採取及び胚移植用器具は使用前に滅菌する。滅菌は、高圧蒸気滅菌法、エチレンオキシドガス(EOG)滅菌法、放射線滅菌法等公知の滅菌法で行うことができる。
【実施例】
【0047】
本発明を以下の実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0048】
実施例1 本発明の卵採取及び胚移植用器具を用いた非観血的胚移植法による胚移植
用いた胚は、本発明の卵採取器具を用いて採取した受精卵などであった。また、借腹マーモセットは、2歳以上の雌で黄体期開始から10日以内である個体を用いた。
上記の胚を借腹マーモセットへ移植した。
【0049】
移植は、本発明の卵採取及び胚移植用器具を用いて非観血的に経膣で移植を行うとともに(経膣胚移植法)、コントロールとして外科的に開腹手術を必要とする開腹胚移植法により行った。
【0050】
図10Aに本発明の卵採取及び胚移植用器具を用いて経膣胚移植を行っているときの超音波により観察した像を示す。図10には、カテーテルガイド7とカテーテル4が子宮内に位置する状態が示されている。図10B左に胚移植4週間後の子宮内の超音波診断像を示し、図10B右に移植を行わなかった子宮の超音波診断像を示す。図10B左においては、子宮腔の開腔が観察される。
【0051】
図11に本発明の卵採取及び胚移植用器具を用いて経膣胚移植法と開腹胚移植法で移植を行った場合の、着床率を示す。非観血的な経膣胚移植法により開腹胚移植法と同等かより良好な着床率が得られた。
【0052】
図12に開腹胚移植法と経膣胚移植法の比較を示す。経膣移植法は開腹胚移植法よりも短時間で移植を行うことができる。また、開腹胚移植法では傷口の癒着が起こるのに対して、経膣胚移植法では癒着が起こらない。また、開腹胚移植法では術後種々のケアを行う必要があるが、経膣胚移植法では抗生物質の投与のみで足りる。さらに、コモンマーモセットの場合、移植が成功しなかった場合、開腹胚移植法ではその個体を用いて次の胚移植を行うのに、2ヶ月を必要とするが、経膣胚移植法では3週間後に再度胚移植を行うことができる。このように本発明の卵採取及び胚移植用器具を用いた経膣胚移植法により、胚移植技術を非侵襲化することができ、実験動物1匹当たりの胚移植可能間隔が短くなるため使用する動物の数を少なくすることができる。
【0053】
実施例2 本発明の卵採取及び胚移植用器具を用いた受精卵移植
雌のマーモセットを受精卵のドナーとして、子宮を灌流する子宮灌流法により受精卵の採取を行った。この際、本発明の卵採取及び胚移植用器具を用いた経膣的卵採取法と共に、コントロールとして外科的手術を行う開腹卵採取法及び皮膚から針を刺して卵を採取する経皮的卵採取法を行った。それぞれの方法で52回採卵を行い、採卵効率を調べた。
【0054】
図13Bにそれぞれの方法の卵を回収できた回数(回収回数)、採卵個数、変性卵の数、回収率及び平均採卵個数を示す。図13Aに平均採卵個数をグラフで示す。図13A及びBが示すように、本発明の卵採取及び胚移植用器具を用いた経膣卵採取法による平均採卵個数は開腹卵採取法や経皮卵採取法と同等の結果かあるいはこれらの従来の方法より良好であった。
【0055】
図14に開腹卵採取法、経皮卵採取法、本発明の経膣卵採取法の比較を示す。
従来の経皮卵採取法と同等の効率性で卵を採取することができた。経膣卵採取法は開腹卵採取法や経皮卵採取法に対して非侵襲的な方法である点で優れている。手技者が熟練することにより、さらに効率的に卵を採取できる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の卵採取及び胚移植用器具は小型サル等の実験動物の受精卵採取及び胚移植に用いることができ、該器具を用いることにより、遺伝子改変及びキメラ動物の作出や人工増殖を行うことができる。
【符号の説明】
【0057】
1 内芯
2 内芯針部
3 内芯把持部
4 カテーテル
5 カテーテルチューブ部
6 カテーテル接続部
7 ガイドカテーテル
8 ガイドカテーテルチューブ部
9 ガイドカテーテル接続部
10 ガイド管
11 子宮口
12 膣口
13 子宮腔
14 膣
15 受精卵
16 胚
【技術分野】
【0001】
本発明は動物用の卵採取及び胚移植用器具に関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子改変及びキメラ動物の作出、動物の人工増殖等のためには、動物の子宮から卵や胚を採取し、必要な処理を行った後、その卵や胚を他の個体の子宮に移植する必要がある。
【0003】
受精卵採取及び胚移植を行うためにはこれまで開腹手術が必要であり、開腹手術による方法は動物に対する侵襲もあり、手術部位の癒着も問題となっていた。
【0004】
開腹手術による移植法に代わって、非外科的胚移植法についても報告されていた(非特許文献1及び2を参照)。該方法においては、ステンレス製の移植カテーテルを使用しており、カテーテルが太くて子宮口に入りにくい、入りにくいカテーテルを無理矢理入れようとすることにより金属製のカテーテルが子宮口を傷つけるなどの問題があった。さらに、該方法においては、子宮口を見つけるためにオトスコープ(耳内視鏡)を使用していた。しかし、オトスコープを使用する方法では、子宮口を見つけることが難しく、該方法は普及しなかった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Thomson JA., et al., J Med Primatol 1994:23:333-336
【非特許文献2】Marshall VS., et al., J Med Primatol 1997:26:241-247
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は小型サル等の小型動物から安全に容易に、かつ効率的に受精卵を採取することができ、さらに安全に容易に、かつ効率的に胚を移植することができる卵採取及び胚移植用器具の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
2008年に動物用超極細内視鏡(TESARA、株式会社AVS)が開発され、これを用いることにより子宮口を見ながらの操作が可能になった。そこで、本発明者は動物への侵襲がほとんどない非外科的移植を可能にするために、子宮口に入りやすく子宮口を傷つけることのない卵採取及び胚移植用器具の開発を行った。その結果、子宮口を見つけるための細い25ゲージのステンレス鈍針とテーパーをつけたテフロン等の柔らかい素材で製造した18ゲージのカテーテルとの2重構造にしたカテーテルを用いることにより、子宮口に無理な力をかけることなく前記卵採取及び胚移植用器具を子宮口に容易に挿入できることを見出した。該卵採取及び胚移植用器具を用いることにより、動物の子宮口を傷つけることなく、子宮から卵を採取し、また子宮に胚を移植できた。また、18ゲージのカテーテルをそのまま子宮口に挿入することは困難であるのに対し、上記の2重構造を有する卵採取及び胚移植用器具を用いることにより、18ゲージのカテーテルを容易に子宮口に挿入することができた。また、上記の18ゲージのカテーテルを透明素材で製造することにより、移植する胚及び培地の量を目視することができ、移植操作を容易にすることができた。
【0008】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1] 金属針でできた内芯;柔軟性素材できた先端と基端が開口する細経チューブからなるカテーテル;前記内芯又はカテーテルがスライド可能かつ抜去可能に挿入可能な、可撓性素材でできており弾性を有し、先端と基端が開口しており、先端部がテーパー状であるガイドカテーテル;並びに前記ガイドカテーテル又はそれと前記内芯若しくは前記カテーテルを組み合わせたものを挿入可能である、硬質素材でできているガイド管を構成部品として含み、前記ガイドカテーテルに内芯を挿入した状態で子宮口に挿入し、その後内芯を抜き去りカテーテルを挿入して用い、内芯及びカテーテルがガイドカテーテルよりも長く、ガイドカテーテルがガイド管より長い、小型サル用卵採取及び胚移植用器具。
[2] 内芯の針部のサイズが24〜26ゲージであり長さが100〜200mm、カテーテルのサイズが22〜24ゲージでありチューブ部分の長さが100〜200mm、ガイドカテーテルのサイズが18〜20ゲージでありチューブ部分の長さが70〜130mmであり、ガイド管のサイズが外径3〜10mmであり長さが50〜100mmである、[1]の卵移植及び胚移植用器具。
[3] さらに、シリンジを含む、[1]又は[2]の卵採取及び胚移植用器具。
[4] [1]〜[3]のいずれかの卵採取及び胚移植用器具を用いて小型サルの子宮より受精卵を採取する方法であって、
小型サルの膣口からガイド管を膣内に挿入し;
ガイドカテーテルに内芯を挿入し二重構造のカテーテルとし、該二重構造カテーテルを前記ガイド管を通して、前記内芯及び前記ガイドカテーテルの先端部が子宮内に届くまで挿入し;
挿入後、前記ガイドカテーテルより前記内芯を抜き去り;
前記ガイドカテーテルにカテーテルを挿入し;
前記カテーテルの基端部の開口部より灌流液を子宮内に流し;
前記ガイドカテーテルの先端の開口部から前記ガイドカテーテル内に入り前記ガイドカテーテルを通って前記ガイドカテーテルの基端の開口部から体外へ流れ出てくる灌流液を回収し、該灌流液中に含まれる受精卵を採取することを含む、小型サルの子宮より受精卵を採取する方法。
[5] [1]〜[3]のいずれかの卵採取及び胚移植用器具を用いて小型サルの子宮へ胚を移植する方法であって、
小型サルの膣口からガイド管を膣内に挿入し;
ガイドカテーテルに内芯を挿入し二重構造のカテーテルとし、該二重構造カテーテルを前記ガイド管を通して、前記内芯及び前記ガイドカテーテルの先端部が子宮内に届くまで挿入し;
挿入後、前記ガイドカテーテルより前記内芯を抜き去り;
前記ガイドカテーテルにカテーテルを挿入し;
前記カテーテルを通して胚を含む液体を子宮内に注入することを含む、小型サルの子宮へ胚を移植する方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の卵採取及び胚移植用器具は、剛性を有する金属製の内芯と柔軟性及びテーパーを有するガイドカテーテルを組合せた二重構造を有するカテーテルとして子宮口に挿入する。剛性を有する内芯と柔軟性とテーパーを有するガイドカテーテルを組み合わせて用いることにより、本発明の器具を容易にかつ子宮口を傷つけることなく子宮口に挿入することができる。子宮口に挿入した後に内芯をカテーテルに交換することにより、該カテーテルを通して子宮内に灌流液を灌流することにより子宮より受精卵を採取することができ、前記カテーテルを通して子宮に胚を移植することができる。本発明の卵採取及び胚移植器具を用いることにより、小型サル等の動物の卵採取及び胚移植を動物に対して非侵襲的・非観血的かつ効率的に行うことができ、キメラ動物の作成や動物の人工増殖のための卵採取や胚移植を同じ個体で安全、容易かつ効率的に繰り返し行うことができるため、経済的効果が得られ、また動物福祉の改善につなげることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の卵採取及び胚移植用器具を構成する内芯の図である。
【図2】本発明の卵採取及び胚移植用器具を構成するカテーテルの図である。
【図3】本発明の卵採取及び胚移植用器具を構成するガイドカテーテルの図である。
【図4】本発明の卵採取及び胚移植用器具を構成するガイド管の図である。
【図5】本発明の卵採取及び胚移植用器具を構成する内芯、ガイドカテーテル及びガイド管を組み合わせた状態を示す図である。
【図6】本発明の卵採取及び胚移植用器具を構成するガイドカテーテル及びガイド管を組み合わせた状態を示す図である。
【図7】本発明の卵採取及び胚移植用器具を構成するカテーテル、ガイドカテーテル及びガイド管を組み合わせた状態を示す図である。
【図8】本発明の卵採取及び胚移植用器具を用いて卵を採取する方法の概要を示す図である。
【図9】本発明の卵採取及び胚移植用器具を用いて胚を移植する方法の概要を示す図である。
【図10】本発明の卵採取及び胚移植用器具を用いて経膣胚移植を行っているときの超音波により観察した像(図10A)、胚移植4週後の子宮の超音波観察像(図10B左)及び胚を移植していない子宮の超音波観察像(図10B右)を示す図である。
【図11】経膣胚移植法と開腹胚移植法で移植を行った場合の、着床率を示す図である。
【図12】開腹胚移植法と経膣胚移植法の比較を示す図である。
【図13】開腹卵採取法、経皮卵採取法、本発明の経膣卵採取法の卵採取効率を示す図である。
【図14】開腹卵採取法、経皮卵採取法、本発明の経膣卵採取法の比較を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0012】
本発明は、開腹等の外科的手術を伴わないで、非観血的に、経膣的に動物子宮より受精卵を採取し、あるいは子宮に胚を移植するための卵採取及び胚移植用器具であり、該器具を用いて卵を採取し、胚を移植する方法である。ここで、移植する胚は動物の個体発生における初期胚をいい、受精卵〜着床する前の胚盤胞期の胚が含まれる。
【0013】
本発明の対象とする動物は、比較的小型の哺乳動物であり、好ましくは小型の霊長類であり、例えばメス成体の平均体重が250〜5000g以下、又はメス成体の体長が18〜100cm以下の霊長類である。具体的には、コモンマーモセット(Callithrix jacchus)、ピグミーマーモセット(Cebuella pygmaea)、ワタボウシパンシェ(Satuinus oedipus)、アカテタマリン(Sauinaus midas)、ゴールデンライオンタマリン(Leontopithecus rosalia)等のマーモセット科に属する小型サル;コモンリスザル(Saimiri sciureus)等のリスザル亜科に属する小型サル;ショウガラゴ(Galago senagalensis)等のガラゴ科に属する小型サル;スローロリス(Nycticebus coucang)等のロリス科に属する霊長類、アイアイ(Daubentonia madagascariensis)等のアイアイ科に属する霊長類;アカゲザル(Macaca mulatta);カニクイザル(Macaca fascicularis)等を含む。
【0014】
本発明の方法においては、胚移植用器具を用いる。これらの該器具は、動物の子宮口を傷つけることなく容易に子宮口に挿入することが可能であり、容易に子宮から受精卵を採取し、又は子宮内に胚を移植することができる。前記胚移植用器具は卵の採取にも用いることができるので、本発明の器具を卵採取及び胚移植用器具と呼ぶ。
【0015】
本発明の卵採取及び胚移植用器具は、良好な操作性を有し、膣、子宮口を通して挿入する際に、膣や子宮頸管を傷付けることがない。
【0016】
以下、本発明の卵採取及び胚移植用器具を図面に基づいて説明する。
【0017】
本発明の卵採取及び胚移植用器具は、金属針でできた内芯1(図1);柔軟性素材でできた先端と基端が開口する細経チューブからなるカテーテル4(図2);前記内芯又はカテーテルがスライド(しゅう動)可能かつ抜去可能に挿入可能な、可撓性素材でできており、弾性を有する、先端と基端が開口するガイドカテーテル7(図3);並びにガイドカテーテル又はそれと内芯1若しくはカテーテル4を組み合わせたものを挿入可能である、硬質素材でできたガイド管10(図4)を構成部品として含む。
【0018】
図1に示す内芯1はガイドカテーテルに挿入し、二重構造を有するカテーテルとして用いる。このように内芯1をガイドカテーテルに挿入し二重構造のカテーテルとして用いたときに、内芯1はガイドカテーテルを子宮口に挿入する際に曲がりにくくなるようにガイドカテーテルに剛性を付与する。また、内芯1は剛性を有しており、二重構造のカテーテル全体に剛性を付与し、子宮口への挿入を容易にすることができる。一方、内芯1は細くそのままで子宮口へ挿入することは困難であるが、ある程度の太さと柔軟性があるガイドカテーテル7と組合せて二重構造のカテーテルとすることにより、子宮口への挿入が容易になる。その結果内芯1を挿入したガイドカテーテル7を子宮口に挿入することができる。すなわち、内芯1はガイドカテーテル7を子宮口内に挿入するためのガイドワイヤとしての機能を有する。内芯1は生体反応が小さく生体適合性のステンレス鋼、Co-Cr合金、チタン合金等の金属製であることが好ましい。内芯1は中空であってもなくてもよい。先端部の形状は限定されないが、膣を通して子宮内に挿入する場合に膣や子宮内を傷付けないように丸みを帯びていることが望ましい。内芯1はガイドカテーテル7に挿入したときに先端部がガイドカテーテル7の先端より突出する長さを有する。内芯1は基部に手指で把持するための把持部3を有する。本発明において、先端部とは子宮口に挿入する側をいい、基部とは卵採取又は胚移植操作中に体外に出ている端部であって、手指で持つ側をいう。前記把持部3は、金属製の針部2の部分と一体に製造されていてもよいし、針部2とは別体で製造され、結合されていてもよい。別体で製造する場合、針部2と把持部3を接着、溶着、嵌合等により結合させればよい。
【0019】
図2に示すカテーテル4は先端と基部に開口部を有するチューブであり、基部から卵採取用の灌流液を注入することができ、灌流液の通路となる。カテーテル4は細くそのままで子宮口へ挿入することは困難であるが、ある程度の太さと柔軟性があるガイドカテーテル7と組合せて二重構造のカテーテルとすることにより、子宮口への挿入が容易になる。カテーテル4は内芯1を挿入した状態で子宮内に挿入されたガイドカテーテル7から内芯1を抜き取った後にガイドカテーテル7に挿入することにより子宮内に挿入される。カテーテル4はガイドカテーテル7に挿入したときに先端部がガイドカテーテル7の先端より突出する長さを有する。該カテーテル4は、チューブ部分5と基部にシリンジ等と接続するための接続部6を備える。該接続部6は手指で把持するための把持部としての機能も有する。カテーテル4は生体適合性素材でできており、ポリエステル;ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレンコポリマー等のポリオレフィン;6ナイロン,66ナイロン等のポリアミド;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル;ポリアセタール;ポリフェニレンスルフィド;ポリエーテルエーテルケトン;ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(4.6フッ化)(FEP)、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)、ポリビニリデンフルオライド(2フッ化)(PVDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(3フッ化)(PCTFE)、クロロトリフルオエチレン・エチレン共重合体(ECTFE)等のフッ素樹脂が挙げられる、この中でもPTFE、PFQ、FEP等のテフロン(登録商標)が好適に用いることができる。また、上記フッ素樹脂以外の素材をフッ素樹脂でコーティングした素材を用いることもできる。
【0020】
図3Aに示すガイドカテーテル7は、先端に開口部を有するチューブであり、前記内芯1が挿入された状態で子宮口内に挿入され、挿入された状態で内芯1が抜き去られ、その後、前記カテーテル4が挿入される。ガイドカテーテル7はカテーテル4を子宮内に挿入する際のガイドとしての役割を有し、カテーテル4に比べ肉厚で曲がりにくくなっている。また、ガイドカテーテル7は子宮内に傷を付けないように先端部がテーパー状となり(図3B)、先細りの形状を有する。さらに、可撓性素材ででき弾性を有する。可撓性とは、柔軟性があり、曲げても折れない性質をいう。ガイドカテーテル7は、チューブ部分8とシリンジ等と接続するための接続部9を有する。該接続部9は手指で把持するための把持部としての機能も有する。ガイドカテーテル7は生体適合性素材でできており、ポリエステル;ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレンコポリマー等のポリオレフィン;6ナイロン,66ナイロン等のポリアミド;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル;ポリアセタール;ポリフェニレンスルフィド;ポリエーテルエーテルケトン;ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(4.6フッ化)(FEP)、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)、ポリビニリデンフルオライド(2フッ化)(PVDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(3フッ化)(PCTFE)、クロロトリフルオエチレン・エチレン共重合体(ECTFE)等のフッ素樹脂が挙げられる、この中でもPTFE、PFQ、FEP等のテフロン(登録商標)が好適に用いることができる。また、上記フッ素樹脂以外の素材をフッ素樹脂でコーティングした素材を用いることもできる。また、ガイドカテーテル7は透明又は半透明であることが望ましい。透明又は半透明である場合、採取する受精卵、移植する胚及び培地の量を目視することができ、卵採取及び胚移植操作を容易かつ確実にすることが可能になる。
【0021】
ガイドカテーテル7を挿入可能な硬質素材でできたガイド管10は、両端が開口した管であり、膣から挿入され、卵採取の間、基部の開口部が体外にあり、先端部の開口部が膣内にある状態で保持され、該ガイド管を通して、ガイドカテーテル7やカテーテル4が子宮内に挿入される。ガイド管10は膣に傷を付けないように先端部がテーパー状となり、先細りの形状を有することが望ましい。ガイド管は膣内に挿入するため、硬質素材でできており、硬質素材としては、ガラス;生体適合性のステンレス鋼、Co-Cr合金、チタン合金等の金属等が挙げられる。
【0022】
本発明の卵採取及び胚移植用器具の構成部品のサイズは、対象とする動物の大きさによるが、例えば、メスの体長が20〜25cmのコモンマーモセットの場合以下のとおりである。以下のサイズの卵採取及び胚移植用器具はコモンマーモセットと同程度の大きさの小型サルに広く用いることができる。大きさの異なる他の小型サルに対してはサルの大きさに応じて適宜サイズを変更すればよい。
【0023】
内芯1の針部2のサイズは、24〜26ゲージ、長さは把持部3を含めないで100〜200mm、好ましくは125〜175mm、さらに好ましくは140〜160mmである。
【0024】
カテーテル4のサイズは、22〜24ゲージ、長さは接続部(把持部)6を含めないチューブ部5の長さで100〜200mm、好ましくは135〜185mm、さらに好ましくは150〜170mmである。
【0025】
ガイドカテーテル7のサイズは、18〜20ゲージであり先端部はテーパー状に先細りになっており最先端部の外径は基部の外径よりも0.3〜0.4mm小さい。長さは接続部(把持部)9を含めないチューブ部8の長さで80〜140mm、好ましくは100〜120mmである。
【0026】
ガイド管10のサイズは、外径3〜10mmであり、長さが50〜100mm、好ましくは70〜80mmである。
【0027】
内芯1の長さ及びカテーテル4の長さはガイドカテーテル7の長さよりも長く、内芯1又はカテーテル4を基部までガイドカテーテル7に挿入したときに、内芯1及びカテーテル4の先端部10〜100mm、好ましくは25〜75mmがガイドカテーテル7の先端部より突出する。さらに、ガイド管10の長さは、内芯1、カテーテル4及びガイドカテーテル7の長さよりも短く、ガイド管10に内芯1、カテーテル4又はガイドカテーテル7を挿入したときに先端部及び基部が10〜50mm、それぞれガイド管の先端部及び基部から突出する。
【0028】
また、内芯1及びカテーテル4はガイドカテーテル7にスライド可能かつ抜去可能に挿入されるように、内芯1及びカテーテル4の外径はガイドカテーテル7の内径より細く作られている。特に卵採取を行う場合、子宮内の卵がガイドカテーテル7にカテーテル4が挿入された状態で、ガイドカテーテル7を通って採取されるので、ガイドカテーテル7にカテーテル4を挿入したときに卵が通ることのできるスペースがある必要がある。
【0029】
本発明の卵採取及び胚移植用器具を以下のように使用して子宮より受精卵を採取する。
【0030】
1 被験動物の膣口12からガイド管10を膣内に挿入する。この際、ガイド管の基部は体外に突出しており、先端部は膣内に位置する。
【0031】
2 ガイドカテーテル7に内芯1を挿入し、二重構造のカテーテルとする。この際、内芯1の先端部はガイドカテーテル7の先端部より突出している。
【0032】
3 内芯1を挿入したガイドカテーテル7をガイド管10を通して、内芯1及びガイドカテーテル7の先端部が子宮内に届くまで挿入する。この際、ガイド菅10に内視鏡を挿入し、内視鏡像により子宮口を探し、内芯1とガイドカテーテル7を子宮口に挿入してもよい。内芯1は金属製で剛性があるので、その剛性を利用して細い柔軟性中空チューブであるガイドカテーテル7を子宮内に挿入することが可能になる。このときの、ガイド管10、ガイドカテーテル7及び内芯1の状態を図5に示す。
【0033】
4 ガイドカテーテル7より内芯1を抜き去る。このとき、ガイドカテーテル7の先端が子宮内に挿入されている。このときのガイド管10及びガイドカテーテル7の状態を図6に示す。
【0034】
5 ガイドカテーテル7にカテーテル4を挿入する。カテーテル4はガイドカテーテル7をガイドとして子宮内に挿入され、先端部が子宮内に位置し、基端部が体外に位置する状態で保持される。このとき、子宮内では、ガイドカテーテル7にカテーテル4が挿入された状態で、かつカテーテル4の先端部がガイドカテーテル7の先端部より突出した状態となる。また、体外でもカテーテル4の基端部がガイドカテーテル7の基端部より突出した状態となる。このときの状態を図7に示す。
【0035】
6 カテーテル4の基端部の開口部より灌流液を子宮内に流す。この際、カテーテル4の基端部に備えられている接続部に灌流液を入れたシリンジを連結し、シリンジ内の灌流液を子宮内に流し込んでもよいし、カテーテル4の基端部に存在する接続部に適当なチューブを連結し、該チューブを通して灌流液を子宮内に流し込んでもよい。
【0036】
7 カテーテルの先端部から子宮内に灌流液が流出し、流出した灌流液は子宮内を灌流し、その灌流液はガイドカテーテル7の先端の開口部からガイドカテーテル7内に入りガイドカテーテル7を通ってガイドカテーテル7の基端の開口部から体外へ流れ出てくる。この際、子宮内に存在する卵が灌流液とともにガイドカテーテル7を通って体外に出てくるので、この卵を回収採取すればよい。
【0037】
図8に卵採取方法の概要を示す。図8中、矢印は灌流液の流れを示す。図8に示すように、膣口12から膣14内に挿入されたガイド管10内にカテーテル4が挿入されたガイドカテーテル7が挿入され、ガイドカテーテル7及びカテーテル4の先端部は子宮腔13内に位置する。カテーテル4の基部開口部から灌流液が注入され、カテーテル4の先端部開口部から灌流液が子宮腔13内に流れる、灌流液は子宮内の受精卵15をガイドカテーテル7中に導き受精卵15はガイドカテーテル7を通り、ガイドカテーテル7の基部開口部から採取することができる。
【0038】
本発明の卵採取及び胚移植用器具を以下のように使用して子宮内に胚を移植する。
【0039】
1 被験動物の膣口12からガイド管10を膣内に挿入する。この際、ガイド管の基部は体外に突出しており、先端部は膣内に位置する。
【0040】
2 ガイドカテーテル7に内芯1を挿入する。この際、内芯1の先端部はガイドカテーテル7の先端部より突出している。
【0041】
3 内芯1を挿入したガイドカテーテル7をガイド管10を通して、内芯1及びガイドカテーテル7の先端部が子宮内に届くまで挿入する。内芯1は金属製で剛性があるので、その剛性を利用して細い柔軟性中空チューブであるガイドカテーテル7を子宮内に挿入することが可能になる。このときの、ガイド管10、ガイドカテーテル7及び内芯1の状態を図5に示す。
【0042】
4 ガイドカテーテル7より内芯1を抜き去る。このとき、ガイドカテーテル7の先端が子宮内に挿入されている。このときのガイド管10及びガイドカテーテル7の状態を図6に示す。
【0043】
5 ガイドカテーテル7にカテーテル4を挿入する。カテーテル4はガイドカテーテル7をガイドとして子宮内に挿入され、先端部が子宮内に位置し、基端部が体外に位置する状態で保持される。このとき、子宮内では、ガイドカテーテル7にカテーテル4が挿入された状態で、かつカテーテル4の先端部がガイドカテーテル7の先端部より突出した状態となる。また、体外でもカテーテル4の基端部がガイドカテーテル7の基端部より突出した状態となる。このときの状態を図7に示す。
【0044】
6 カテーテル4の接続部に胚を含む液体が入ったシリンジを接続する。シリンジ中の胚をカテーテル4を通して子宮内に移植する。
【0045】
図9に胚移植方法の概要を示す。図9に示すように、膣口12から膣14内に挿入されたガイド管10内にカテーテル4が挿入されたガイドカテーテル7が挿入され、ガイドカテーテル7及びカテーテル4の先端部は子宮腔13内に位置する。カテーテル4の基部開口部から胚の入った液体が注入され、子宮腔13内に胚が移植される。
【0046】
卵採取及び胚移植用器具は使用前に滅菌する。滅菌は、高圧蒸気滅菌法、エチレンオキシドガス(EOG)滅菌法、放射線滅菌法等公知の滅菌法で行うことができる。
【実施例】
【0047】
本発明を以下の実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0048】
実施例1 本発明の卵採取及び胚移植用器具を用いた非観血的胚移植法による胚移植
用いた胚は、本発明の卵採取器具を用いて採取した受精卵などであった。また、借腹マーモセットは、2歳以上の雌で黄体期開始から10日以内である個体を用いた。
上記の胚を借腹マーモセットへ移植した。
【0049】
移植は、本発明の卵採取及び胚移植用器具を用いて非観血的に経膣で移植を行うとともに(経膣胚移植法)、コントロールとして外科的に開腹手術を必要とする開腹胚移植法により行った。
【0050】
図10Aに本発明の卵採取及び胚移植用器具を用いて経膣胚移植を行っているときの超音波により観察した像を示す。図10には、カテーテルガイド7とカテーテル4が子宮内に位置する状態が示されている。図10B左に胚移植4週間後の子宮内の超音波診断像を示し、図10B右に移植を行わなかった子宮の超音波診断像を示す。図10B左においては、子宮腔の開腔が観察される。
【0051】
図11に本発明の卵採取及び胚移植用器具を用いて経膣胚移植法と開腹胚移植法で移植を行った場合の、着床率を示す。非観血的な経膣胚移植法により開腹胚移植法と同等かより良好な着床率が得られた。
【0052】
図12に開腹胚移植法と経膣胚移植法の比較を示す。経膣移植法は開腹胚移植法よりも短時間で移植を行うことができる。また、開腹胚移植法では傷口の癒着が起こるのに対して、経膣胚移植法では癒着が起こらない。また、開腹胚移植法では術後種々のケアを行う必要があるが、経膣胚移植法では抗生物質の投与のみで足りる。さらに、コモンマーモセットの場合、移植が成功しなかった場合、開腹胚移植法ではその個体を用いて次の胚移植を行うのに、2ヶ月を必要とするが、経膣胚移植法では3週間後に再度胚移植を行うことができる。このように本発明の卵採取及び胚移植用器具を用いた経膣胚移植法により、胚移植技術を非侵襲化することができ、実験動物1匹当たりの胚移植可能間隔が短くなるため使用する動物の数を少なくすることができる。
【0053】
実施例2 本発明の卵採取及び胚移植用器具を用いた受精卵移植
雌のマーモセットを受精卵のドナーとして、子宮を灌流する子宮灌流法により受精卵の採取を行った。この際、本発明の卵採取及び胚移植用器具を用いた経膣的卵採取法と共に、コントロールとして外科的手術を行う開腹卵採取法及び皮膚から針を刺して卵を採取する経皮的卵採取法を行った。それぞれの方法で52回採卵を行い、採卵効率を調べた。
【0054】
図13Bにそれぞれの方法の卵を回収できた回数(回収回数)、採卵個数、変性卵の数、回収率及び平均採卵個数を示す。図13Aに平均採卵個数をグラフで示す。図13A及びBが示すように、本発明の卵採取及び胚移植用器具を用いた経膣卵採取法による平均採卵個数は開腹卵採取法や経皮卵採取法と同等の結果かあるいはこれらの従来の方法より良好であった。
【0055】
図14に開腹卵採取法、経皮卵採取法、本発明の経膣卵採取法の比較を示す。
従来の経皮卵採取法と同等の効率性で卵を採取することができた。経膣卵採取法は開腹卵採取法や経皮卵採取法に対して非侵襲的な方法である点で優れている。手技者が熟練することにより、さらに効率的に卵を採取できる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の卵採取及び胚移植用器具は小型サル等の実験動物の受精卵採取及び胚移植に用いることができ、該器具を用いることにより、遺伝子改変及びキメラ動物の作出や人工増殖を行うことができる。
【符号の説明】
【0057】
1 内芯
2 内芯針部
3 内芯把持部
4 カテーテル
5 カテーテルチューブ部
6 カテーテル接続部
7 ガイドカテーテル
8 ガイドカテーテルチューブ部
9 ガイドカテーテル接続部
10 ガイド管
11 子宮口
12 膣口
13 子宮腔
14 膣
15 受精卵
16 胚
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属針でできた内芯;柔軟性素材できた先端と基端が開口する細経チューブからなるカテーテル;前記内芯又はカテーテルがスライド可能かつ抜去可能に挿入可能な、可撓性素材でできており弾性を有し、先端と基端が開口しており、先端部がテーパー状であるガイドカテーテル;並びに前記ガイドカテーテル又はそれと前記内芯若しくは前記カテーテルを組み合わせたものを挿入可能である、硬質素材でできているガイド管を構成部品として含み、前記ガイドカテーテルに内芯を挿入した状態で子宮口に挿入し、その後内芯を抜き去りカテーテルを挿入して用い、内芯及びカテーテルがガイドカテーテルよりも長く、ガイドカテーテルがガイド管より長い、小型サル用卵採取及び胚移植用器具。
【請求項2】
内芯の針部のサイズが24〜26ゲージであり長さが100〜200mm、カテーテルのサイズが22〜24ゲージでありチューブ部分の長さが100〜200mm、ガイドカテーテルのサイズが18〜20ゲージでありチューブ部分の長さが70〜130mmであり、ガイド管のサイズが外径3〜10mmであり長さが50〜100mmである、請求項1記載の卵移植及び胚移植用器具。
【請求項3】
さらに、シリンジを含む、請求項1又は2に記載の卵採取及び胚移植用器具。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の卵採取及び胚移植用器具を用いて小型サルの子宮より受精卵を採取する方法であって、
小型サルの膣口からガイド管を膣内に挿入し;
ガイドカテーテルに内芯を挿入し二重構造のカテーテルとし、該二重構造カテーテルを前記ガイド管を通して、前記内芯及び前記ガイドカテーテルの先端部が子宮内に届くまで挿入し;
挿入後、前記ガイドカテーテルより前記内芯を抜き去り;
前記ガイドカテーテルにカテーテルを挿入し;
前記カテーテルの基端部の開口部より灌流液を子宮内に流し;
前記ガイドカテーテルの先端の開口部から前記ガイドカテーテル内に入り前記ガイドカテーテルを通って前記ガイドカテーテルの基端の開口部から体外へ流れ出てくる灌流液を回収し、該灌流液中に含まれる受精卵を採取することを含む、小型サルの子宮より受精卵を採取する方法。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の卵採取及び胚移植用器具を用いて小型サルの子宮へ胚を移植する方法であって、
小型サルの膣口からガイド管を膣内に挿入し;
ガイドカテーテルに内芯を挿入し二重構造のカテーテルとし、該二重構造カテーテルを前記ガイド管を通して、前記内芯及び前記ガイドカテーテルの先端部が子宮内に届くまで挿入し;
挿入後、前記ガイドカテーテルより前記内芯を抜き去り;
前記ガイドカテーテルにカテーテルを挿入し;
前記カテーテルを通して胚を含む液体を子宮内に注入することを含む、小型サルの子宮へ胚を移植する方法。
【請求項1】
金属針でできた内芯;柔軟性素材できた先端と基端が開口する細経チューブからなるカテーテル;前記内芯又はカテーテルがスライド可能かつ抜去可能に挿入可能な、可撓性素材でできており弾性を有し、先端と基端が開口しており、先端部がテーパー状であるガイドカテーテル;並びに前記ガイドカテーテル又はそれと前記内芯若しくは前記カテーテルを組み合わせたものを挿入可能である、硬質素材でできているガイド管を構成部品として含み、前記ガイドカテーテルに内芯を挿入した状態で子宮口に挿入し、その後内芯を抜き去りカテーテルを挿入して用い、内芯及びカテーテルがガイドカテーテルよりも長く、ガイドカテーテルがガイド管より長い、小型サル用卵採取及び胚移植用器具。
【請求項2】
内芯の針部のサイズが24〜26ゲージであり長さが100〜200mm、カテーテルのサイズが22〜24ゲージでありチューブ部分の長さが100〜200mm、ガイドカテーテルのサイズが18〜20ゲージでありチューブ部分の長さが70〜130mmであり、ガイド管のサイズが外径3〜10mmであり長さが50〜100mmである、請求項1記載の卵移植及び胚移植用器具。
【請求項3】
さらに、シリンジを含む、請求項1又は2に記載の卵採取及び胚移植用器具。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の卵採取及び胚移植用器具を用いて小型サルの子宮より受精卵を採取する方法であって、
小型サルの膣口からガイド管を膣内に挿入し;
ガイドカテーテルに内芯を挿入し二重構造のカテーテルとし、該二重構造カテーテルを前記ガイド管を通して、前記内芯及び前記ガイドカテーテルの先端部が子宮内に届くまで挿入し;
挿入後、前記ガイドカテーテルより前記内芯を抜き去り;
前記ガイドカテーテルにカテーテルを挿入し;
前記カテーテルの基端部の開口部より灌流液を子宮内に流し;
前記ガイドカテーテルの先端の開口部から前記ガイドカテーテル内に入り前記ガイドカテーテルを通って前記ガイドカテーテルの基端の開口部から体外へ流れ出てくる灌流液を回収し、該灌流液中に含まれる受精卵を採取することを含む、小型サルの子宮より受精卵を採取する方法。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の卵採取及び胚移植用器具を用いて小型サルの子宮へ胚を移植する方法であって、
小型サルの膣口からガイド管を膣内に挿入し;
ガイドカテーテルに内芯を挿入し二重構造のカテーテルとし、該二重構造カテーテルを前記ガイド管を通して、前記内芯及び前記ガイドカテーテルの先端部が子宮内に届くまで挿入し;
挿入後、前記ガイドカテーテルより前記内芯を抜き去り;
前記ガイドカテーテルにカテーテルを挿入し;
前記カテーテルを通して胚を含む液体を子宮内に注入することを含む、小型サルの子宮へ胚を移植する方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2012−125410(P2012−125410A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−279684(P2010−279684)
【出願日】平成22年12月15日(2010.12.15)
【出願人】(390016470)公益財団法人実験動物中央研究所 (12)
【出願人】(505073004)アルテア技研株式会社 (7)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年12月15日(2010.12.15)
【出願人】(390016470)公益財団法人実験動物中央研究所 (12)
【出願人】(505073004)アルテア技研株式会社 (7)
【Fターム(参考)】
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