説明

厚さを非常に均一にできる蒸発源

真空チェンバーの中でOLEDデバイスの基板に有機層をコーティングするのに用いる蒸着源であって、有機材料を収容するチェンバーを画定する側壁及び底部壁並びに該側壁間に配置された開口プレート(40)を含み、該開口プレートが、気化した有機材料を放出させるための互いに離れた複数の開口部(90)を有するマニホールド(60)を含み;上記開口プレートは、電流に応答して熱を発生させる導電性材料を含み;上記有機材料をその気化温度に加熱するとともに、上記マニホールドの側壁を加熱する手段を含み;上記開口プレートを上記側壁にカップリングさせて、上記開口プレートの該開口部に隣接する支持されていない領域に熱を集める電気的絶縁体(120)を含むことにより、上記開口プレートと上記基板との間の距離を小さくして基板上のコーティングの厚さの均一性を高くすることができる蒸着源。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸発源の材料を、気化が起こって蒸気柱が発生する温度まで加熱することで基板の表面に薄膜を形成するという物理的な気相蒸着の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
有機発光デバイス(OLED)は、基板と、アノードと、有機化合物からなる正孔輸送層と、適切なドーパントを含む有機発光層と、有機電子輸送層と、カソードを備えている。OLEDデバイスが魅力的なのは、駆動電圧が低く、高輝度で、視角が広く、フル-カラーのフラット発光ディスプレイが可能だからである。Tangらは、この多層OLEDデバイスをアメリカ合衆国特許第4,769,292号と第4,885,211号に記載している。
【0003】
真空環境中での物理的気相蒸着は、小分子OLEDデバイスで用いられているような有機材料の薄膜を堆積させる主要な方法である。このような方法はよく知られており、例えばBarrのアメリカ合衆国特許第2,447,789号とTanabeらのヨーロッパ特許第0,982,411号に記載されている。従来技術の直線状蒸発源は、一般に、±10%という厚さ均一性に関する仕様を実現することができ、最近は±4%が実現されている。これは初期のOLEDデバイスにとっては十分であったが、有機層積層体の厚みを共鳴キャビティとして機能させることで発生する光の強度を大きくするOLEDデバイスにとっては十分でない。このようなデバイスが有効であるためには、キャビティの厚さを±1〜2%以内に制御する必要がある。
【0004】
厚さの均一性という目的を実現するには、蒸発源の出口開口部からの蒸気流の均一性を制御することに加え、その蒸気流を、基板の端部における損失が補償されるような形にする必要がある。蒸発源からその長さ方向に沿って均一な蒸気流を用いて蒸発源と同じサイズの基板に膜を堆積させるときに観測される膜厚は、中央領域ではかなり均一であるが、末端領域では、基板の端部に向かうにつれて膜厚が急速に薄くなる。
【0005】
蒸発源から基板までの距離(照射距離として知られる)が大きくなり、しかも基板の幅に対する蒸発源の長さが大きくなると、基板全体での厚さの均一性が増大する。従来技術では、照射距離を大きくし、幅が基板の2倍にもなる蒸発源を用いることによって厚さの均一性を大きくしていた。例えば国際特許出願WO 03/062486には、基板のサイズが大きくなるにつれて照射距離も大きくする必要のあることが記載されている。この方法だと大きな蒸着チェンバーが必要とされるため、その結果として基板への蒸着速度が非常に小さくなり、昇華した有機材料の大半が無駄になる。
【0006】
蒸発源の長さと基板の幅の不釣り合いを小さくするため、イヌの骨の形状をしたスリット開口部と、サイズまたは充填密度が蒸発源の端部に向かうにつれて大きくなる互いに離れた複数の開口部を用いて基板の端部により多くの蒸気流を供給することで、通常見られる厚さの減少が補償されることが、Leeらによって国際特許出願WO 03/079420 A1に記載されている。この方法により、厚さの均一性が向上するが、基板の端部における波状の厚さ変動を1%のレベルまで低下させることは不可能であることがわかった。
【0007】
照射距離が短い直線状蒸発源では、基板の両端部と中央部で堆積される膜の厚さの違いはより少ないが、蒸気柱密度に局所的な変動のあることが、堆積された膜において明らかになる。これは、出口開口部が互いに離れた複数のオリフィスからなる蒸発源に特に当てはまる。基板や、有機膜や、画素を規定するのに用いるあらゆるマスクにとっておそらくより問題なのは、蒸発源から短い照射距離の位置にある基板に向けて放射される大量の熱である。熱が増大すると有機膜の核形成プロセスが変化し、基板とマスクが膨張するため、正確な位置揃えが不可能になる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで本発明の1つの目的は、気化した有機材料を堆積させる際の厚さの均一性を向上させる一方で、無駄になる有機材料の量を減らすことである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的は、真空チェンバーの中でOLEDデバイスの基板に有機層をコーティングするのに用いる蒸着源であって、
(a)有機材料を収容するチェンバーを画定する側壁及び底部壁並びに該側壁間に配置された開口プレートを含み、該開口プレートが、気化した有機材料を放出させるための互いに離れた複数の開口部を有するマニホールドを含み;
(b)上記開口プレートは、電流に応答して熱を発生させる導電性材料を含み;
(c)上記有機材料をその気化温度に加熱するとともに、上記マニホールドの側壁を加熱する手段を含み;
(d)上記開口プレートを上記側壁にカップリングさせて、上記開口プレートの該開口部に隣接する支持されていない領域に熱を集める電気的絶縁体を含むことにより、上記開口プレートと上記基板との間の距離を小さくして基板上のコーティングの厚さの均一性を高くすることができる蒸着源によって達成される。
【発明の効果】
【0010】
本発明の1つの利点は、気化した有機材料が堆積するときの厚さの均一性が大きくなる一方で、基板に向かって放射される熱が減ることである。さらに別の利点は、有機材料のほんの一部だけが決められたときに気化温度になるため、材料の分解が最少になることである。小さな照射距離で作動させることにより、材料の利用効率が向上すると同時に、見かけの蒸着速度が大きくなる。より多くの有機材料が基板に堆積され、真空チェンバーの壁面に堆積される有機材料がより少なくなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
ここで図1を参照すると、本発明による装置の一実施態様の断面図が示してある。蒸着源5は、有機材料を気化させてOLEDデバイスの基板表面に膜を形成するための装置である。蒸着源5は、気化した有機材料を収容するための閉じた空間であるマニホールド60を備えている。マニホールド60は、開口プレート40と、側壁55と、底部壁65に囲まれている。側壁55には、マニホールド60を完全に閉じた状態にするのに必要なあらゆる壁部が含まれているものとする。側壁55と底部壁65は、有機材料10を収容するチェンバー45を規定する。マニホールド60の上部は下方の部分がシール領域35を通じて固定されている。シールは、ラビリンス・シール、面シール、Oリング・シールいずれかの形態にすることができる。シールが最初から気密である必要はない。なぜならシール領域は比較的低温であるため、逃げる蒸気が素早く凝縮して気密なシールが形成されるからである。開口プレート40が側壁55に挟まれた位置にあり、互いに離れた複数の開口部90を備えていて、そこから気化した有機材料を放出する。マニホールド60は、開口プレート40が基板に最も近くなるような形状にされている。開口プレート40の正確な性質は以下の説明から明らかになろう。蒸着源5は、1つ以上の放射シールド70も備えており、さらに、ヒーター25と、基部ブロック20の一部である制御通路30を備えることができる。
【0012】
有機材料10は、圧縮した固体、またはあらかじめ密にした固体であることが好ましい。しかし粉末形態の有機材料も許容できる。有機材料10は、単一の成分を含むこと、または気化温度が異なる2種類以上の有機成分を含むことができる。
【0013】
加熱素子50は、有機材料10の上面を放射エネルギーによって加熱してその材料の気化温度にする手段を備えている。加熱素子50は、マニホールド60の側壁55も放射によって加熱する。加熱素子50は端部に近い部分がマニホールド60の壁部によって支持されていて、その壁部を、熱伝導により、放射によって加熱される側壁55と少なくとも同じ温度に加熱する。壁部がこのように加熱されることにより、有機材料10がチェンバー45の端部に向かって移動して再分布することがなくなるため、安定な気化速度を素早く実現することができる。加熱素子50の外面の放射率が0.7よりも大きくなっていて、所定の気化速度を実現するのに必要な加熱素子の温度ができるだけ低くなることが好ましい。放射率または放射度は、所定の面から放射されるエネルギーを同じ温度の黒体が放射する熱エネルギーで割った比の値として定義される。ニクロム、グラファイト、クロム酸化物、それ以外の多くの金属酸化物、セラミック・コーティングは、適切な高放射性材料である。加熱素子50は、その加熱素子50の放射領域を広くするためのシュラウド52を備えることができるため、ヒーターの動作温度を低くすることができる。シュラウド52は、同様に大きな放射率を持つ必要があり、それに加えて放射エネルギーが有機材料の表面全体に分布するような形状にすることができる。さらに、有機材料10の吸収スペクトルに合致した赤外放射を利用することで、放射加熱の効率を最大にすることができる。これは、放射式加熱素子50の表面にフォトン・バンドギャップ微細構造を作ることによって実現される。フォトン・バンドギャップ微細構造は制御可能な狭いバンド吸収を提供できるため、光学的フィルタおよび赤外フィルタとして使用される。Dalyらは、Master. Res. Soc. Symp.、第004巻、7ページ、1999年に、表面の熱放射を制御するため、したがって放射熱の輸送を制御するため、リソグラフィによって規定したミクロン未満のスケールのシリコン表面構造を利用することを報告している。Dalyらは、こうした特徴をガス吸収分光で利用した。
【0014】
10℃/分という急な温度勾配を有機材料10の厚さ全体に作り出す。有機材料10の上面が気化する一方で、その下にある材料は相対的に冷たいままである。気化が続くとマニホールド60内の圧力が上昇し、気化した有機材料の蒸気がマニホールド60の一連の開口部90を通って出て行く。この明細書では、気柱は、蒸着源5から出る蒸気の雲と定義される。マニホールド60の長さ方向のコンダクタンスは、開口部のコンダクタンスの和よりも大まかに2桁大きくなるように設計してある。そのことに関しては、Graceらが、譲受人に譲渡されたアメリカ合衆国特許出願シリアル番号第10/352,558号に記載している。このコンダクタンス比によってマニホールド60内の圧力が一定になりやすくなるため、気化速度は局所的に一様でない可能性があるにもかかわらず、蒸発源5の長さ方向に沿って分布している開口部90を通る流れの不均一性が最少になる。
【0015】
有機材料10を加熱素子50を用いて気化温度まで加熱する前にその有機材料の気化温度よりも低い温度に加熱できることが望ましい場合がある。有機材料10は底部壁65と密に熱接触しているため、底部ブロック20とも密に熱接触している。有機材料10の塊は、その塊の気化温度よりも低い温度になるまで、第2の加熱手段(例えばヒーター25)を用いて加熱することができる。気化温度は、さまざまな方法で決定することができる。例えば図2は、OLEDデバイスで一般的に使用される2つの有機材料について蒸気圧と温度の関係を示すグラフである。気化速度は蒸気圧に比例するため、望む気化速度が決まると、図2のデータを利用して、望む気化速度に対応する必要な加熱温度を決めることができる。すると加熱素子50は、有機材料10を、その気化温度よりも高温に、またはその各有機成分の気化温度よりも高温に加熱する。ある1つの有機成分は連続した温度範囲にわたって異なる速度で気化するため、気化速度の温度依存性は対数になる。望む堆積速度を選択する際には、有機材料10を気化させるのに必要な温度も決定する。有機材料10が高温になっている時間、すなわち速度に依存した気化温度になっている時間は、従来技術の装置および方法よりも実質的に短い。そのため有機材料10を従来よりも高温に加熱することができる。したがって本発明の装置と方法により、有機材料10を顕著に分解させることなく、実質的により大きな気化速度を実現することができる。
【0016】
放射式加熱素子50は、マニホールド60の開口プレート40と側壁55を加熱する。外部に放射される熱を減らすとともに、基板に向けて放射されるエネルギーをより少なくするため、マニホールド60の開口プレート40と側壁55の外側部分を放射率の小さな材料で作ったり覆ったりすることができる。研磨したタンタル、タングステン、チタン、ステンレス鋼が、放射率の小さい適切な材料の具体例である。エネルギーをチェンバー45の中に放射して有機材料10の加熱効率を向上させるため、マニホールド60の開口プレート40と側壁55の内側部分を上記のように放射率の大きな材料で作ったり覆ったりすることができる。
【0017】
このマニホールド・チェンバーの温度をさらに制御する必要がある。側壁55によって吸収される熱は底部壁65と有機材料10に伝えられて有機材料10の塊の温度が望ましくないレベルまで上昇する可能性がある。この事態を避けるため、基部ブロック20と接触させることでマニホールド60の下部とマニホールド・チェンバーを能動的に制御し、マニホールドの長さ方向と幅方向に沿って温度が一様になるようにする。基部ブロック20を貫通する制御通路30には、温度制御流体、すなわち基部ブロック20から熱を吸収したり、基部ブロック20に熱を供給したりするための流体を流すことができる。これは、制御通路30内の流体の温度を変化させることによって実現できる。流体は、気体、液体、混合相のいずれかにすることができる。蒸着源5は、制御通路30を通じて流体を吸引する手段を備えている。このような吸引手段(図示せず)は当業者には周知である。このようにして、マニホールド60の下部は、蒸着源5で最も低温の部分として有機材料10と接触する。別の一実施態様では、制御通路30が第2の加熱手段を備えることができる。したがって制御通路30は、有機材料10の塊を気化する前に加熱することができる。また、制御通路30は、マニホールド・チェンバーの下部の温度を能動的に制御するのにも使用することができる。
【0018】
向かい合った位置にある標的基板に向けてエネルギーを放射する開口プレート40とマニホールド60の面積をできるだけ小さくすることを目的として、1つ以上の放射シールド70が、加熱されたマニホールド60の隣の位置に開口部90からわずかに離して配置されている。放射シールド70の上部は、開口部90の平面よりも下に来るように設計されている。それは、放射シールド70の相対的に冷たい面に凝縮する蒸気を最少にし、放射シールド70が凝縮した有機材料で覆われるリスクを最少にするためである。放射シールド70は、その放射シールド70から熱を逃がすため、基部ブロック20に熱的に接続されている。
【0019】
1つの好ましい実施態様では、加熱したときに昇華する粉末材料または圧縮した材料を蒸着源5で使用したが、いくつかの実施態様では、有機材料10は、気化する前に液化する材料でもよいため、有機材料10が塊となっている温度において液体であってよい。
【0020】
実際には蒸着源5を以下のように使用することができる。ある量の有機材料10(1つまたはそれ以上の成分を含むことができる)を蒸着源5のチェンバー45に供給する。能動的に有機材料10をそれぞれの有機成分の気化温度よりも低温に維持することができる。加熱素子50が有機材料10の上面を加熱してその有機材料10の気化温度よりも高温に、またはその有機材料10の各成分の気化温度よりも高温にする。すると有機材料10が気化し、基板の表面に膜が形成される。有機材料10が多数の成分を含んでいる場合には、各成分が同時に気化する。
【0021】
図3は、本発明による第2の実施態様の断面図である。蒸着源15は、蒸着源5と同じようにして構成するが、加熱素子50の代わりに加熱素子110を用いる点が異なっている。加熱素子110は、マニホールド60の側壁55の内側または外側に設けられている。場合によっては断熱部材を側壁55と加熱素子110の間に設けることができる。加熱素子110は側壁55を加熱する手段であるため、放射によって有機材料10を気化温度にする。マニホールド60の側壁55の温度は、加熱素子110により、蒸気が凝縮する温度よりも高温に加熱された状態に維持されねばならない。
【0022】
図4は、本発明による開口プレートの一実施態様の断面図である。マニホールド60は、開口部90と同軸になった一連のマニホールド開口部115を備えている。マニホールド開口部115は、開口部90の望ましいサイズよりも幾分か広く、かつ長くなっている。電気的絶縁体120がマニホールド60に取り付けられている。この絶縁体120は、絶縁体開口部125を備えている。絶縁体開口部125は、マニホールド開口部115と実質的に同じサイズでマニホールド開口部115と実質的に揃った位置にある。望む流速を実現するのに必要なサイズに厳密にされた一連の開口部90を有する開口プレート40が、開口部90がマニホールド開口部115および絶縁体開口部125と同軸になるようにして絶縁体120に取り付けられている。したがって開口プレート40の各開口部90に隣接する部分は支持されていない一方で、絶縁体120が、開口プレート40の残部をマニホールド60の側壁55と熱的に結合させている。開口プレート40はマニホールド60と同じ長さであり、電流に応答して熱を発生させる導電性材料を含んでいる。電流が開口プレート40の長さ方向に流れると、開口プレート40は熱を発生させる。絶縁体120を用いたカップリングにより、カップリングした領域でマニホールド60の側壁55が開口プレート40からの熱を吸収できよう。この効果により、熱が、開口部90に隣接した支持されていない領域に集まる。するとヒーターの断面積が減少していることと、この領域にヒート・シンクが欠けていることのために、この領域が選択的に加熱される。したがって各開口部90に隣接する支持されていない領域を、開口プレート40またはマニホールド60の他のあらゆる部分よりもわずかに高い温度に加熱することが可能である。こうすることにより、有機材料が凝縮することによって開口部90が詰まるのを最少にすることができる。開口プレート40とマニホールド60上部の外面の放射率は、基板に向かって放射されるエネルギーを最少にするため0.2未満であることが好ましい。研磨したタングステンやタンタル、またはこれら材料からなるコーティングが、この点に関して適している。
【0023】
ここで図5を参照すると、本発明による開口プレートの斜視図が示してある。この図はマニホールド60の上部を下から見たものである。一連のマニホールド開口部115と、そのマニホールド開口部115と揃った絶縁体開口部125が、マニホールド60の長さ方向に沿って並んでいる。マニホールド60の長さ方向に沿った開口プレート40は、マニホールド開口部115と同一直線上にある一連の開口部90を備えている。マニホールド開口部115相互間では、開口プレート40の幅方向の全部分が絶縁体120によってマニホールド60に取り付けられている。したがって開口プレート40の開口部90とマニホールド開口部115に隣接する部分だけが、わずかにより高い温度に選択的に加熱される。
【0024】
図6は、本発明による開口プレートの別の一実施態様の断面図である。マニホールド開口部115の位置では、マニホールド60の内側と外側の両方に導電体(例えば外側導電体130と内側導電体135)が存在している。この実施態様では、マニホールド60が絶縁体として機能するが、図4と同じように別の絶縁体を内側と外側に用いることができる。貫通部140が開口部90の外側壁を形成してこの実施態様の開口部90を規定している。貫通部140は導電性材料を含んでいるため、電流に応答して熱を発生させる。電流が例えば外側導電体130から貫通部140を通じて内側導電体135へと流れると、開口部90が選択的に加熱される。この実施態様は、場合によってはそれぞれの開口部90に個別にアドレスできるという別の利点を有する。したがって開口部90がマニホールド60のどこに位置するかに応じ、開口部90の温度を細かく調節することができる。各開口部90に個別にアドレスすると、マニホールド60の長さ方向に沿って生じる蒸気柱の形状の不均一性を補正することができる。
【0025】
ここで図7を参照すると、基板を取り囲む真空チェンバーを備える本発明の装置の一実施態様が示してある。真空チェンバー80は、蒸着源5から来た有機材料10でOLED基板85(OLEDデバイス上の基板)を被覆することのできる閉鎖装置である。蒸着源5とその一部(例えばマニホールド60)は、開口プレート40が基板85に最も近くなる形状と位置にされている。真空チェンバー80は、制御された状態に維持される。例えば圧力は、真空源100によって1トル以下にされる。真空チェンバー80は、被覆されていないOLED基板85を装着し、被覆されたOLED基板85を除去するのに使用できる装着用ロック装置75を備えている。OLED基板85は並進移動装置95によって移動させることができるため、気化した有機材料10がOLED基板85の表面全体に均一にコーティングされる。図では気化装置の一部が真空チェンバー80によって囲まれているように描いてあるが、他の構成も可能であることがわかるであろう。例えば、蒸着源5が真空チェンバー80によって完全に取り囲まれている構成がある。
【0026】
この明細書に記載した改善により、開口プレート40と基板85の距離を小さくすることのできる手段が提供される。すると基板85上のコーティングの厚さが非常に均一になる。この明細書の蒸着源5は、有機材料の蒸気柱が25〜50mmのギャップを横断して対向するOLED基板85に到達するように設計されている。この照射距離105は従来の装置のほぼ1/3であるため、厚さをはるかに均一にすることができ、しかも気化した材料をはるかに有効活用することができる。これは堆積速度がより大きくなることを意味する。気柱密度の局所的変動がOLED基板85の表面全体で平均されるのに十分な程度に照射距離が大きいため、堆積された膜の厚さの均一性が損なわれることはなく、しかも基板を放射される熱から十分に保護することができる。それと同時に、±0.5%のオーダーの厚さの均一性を実現するのに十分な程度に照射距離は小さいため、照射距離がより大きいときに縁部で通常見られる波状の変動はない。
【0027】
実際には、装着用ロック装置75を用いてOLED基板85を真空チェンバー80の中に配置し、並進移動装置95またはそれに付随する装置によってOLED基板85を保持する。蒸着源5は上記のように動作し、並進移動装置95は、蒸着源5から有機材料10の蒸気が放出される方向に対して垂直にOLED基板85を移動させる、そのため有機材料の膜がOLED基板85の表面に形成される。
【0028】
ここで図8を参照すると、一部を本発明に従って製造できる発光OLEDデバイス210の画素の断面が示してある。このOLEDデバイス210は、少なくとも、基板220と、カソード290と、カソード290から離れたアノード230と、発光層250を備えている。このOLEDデバイスは、正孔注入層235と、正孔輸送層240と、電子輸送層255と、電子注入層260も備えることができる。正孔注入層235と、正孔輸送層240と、発光層250と、電子輸送層255と、電子注入層260は、アノード230とカソード290の間に配置された一連の有機層270を含んでいる。有機層270は、本発明の装置と方法によって堆積させることが最も望ましい層である。これらの成分についてさらに詳しく説明する。
【0029】
基板220は、有機の固体、または無機の固体、または有機の固体と無機の固体の組み合わせにすることができる。基板220は、堅固でも可撓性があってもよく、個別の部材(例えばシートやウエハ)として、または連続したロールとして加工することができる。典型的な基板材料としては、ガラス、プラスチック、金属、セラミック、半導体、金属酸化物、酸化物半導体、窒化物半導体、ならびにこれらの組み合わせがある。基板220は、複数の材料が均一に混合したもの、または複数材料の複合体、または多層材料にすることができる。基板220は、OLEDデバイスを作るのに一般的に使用されているOLED基板(例えばアクティブ-マトリックス用の低温ポリシリコンまたはアモルファス-シリコンからなるTFT基板)にすることができる。基板220は、どの方向に光を出したいかに応じ、透過性または不透明にすることができる。光透過特性は、基板を通してEL光を見る上で望ましい。その場合には、透明なガラスまたはプラスチックが一般に用いられる。EL光を上部電極を通じて見るような用途では、底部支持体の透過特性は重要でないため、底部支持体は、光透過性、光吸収性、光反射性のいずれでもよい。この場合に用いる基板としては、ガラス、プラスチック、半導体材料、セラミック、回路板材料などのほか、OLEDデバイス(パッシブ・マトリックス・デバイスでもアクティブ・マトリックス・デバイスでもよい)を形成するのに一般に用いられている他の任意の材料が挙げられる。
【0030】
1つの電極が基板220の上に形成され、それがアノード230になるのが最も一般的である。EL光を基板220を通して見る場合、アノード230は、興味の対象となる光に対して透明であるか、実質的に透明である必要がある。本発明で有用な透明なアノード用の一般的な材料は、インジウム-スズ酸化物と酸化スズであるが、他の金属酸化物(例えばアルミニウムをドープした酸化亜鉛、インジウムをドープした酸化亜鉛、マグネシウム-インジウム酸化物、ニッケル-タングステン酸化物)も可能である。これら酸化物に加え、金属窒化物(例えば窒化ガリウム)、金属セレン化物(例えばセレン化亜鉛)、金属硫化物(例えば硫化亜鉛)をアノード用材料として用いることができる。EL光を上部電極を通して見るような用途では、アノード用材料の透光特性は重要でなく、あらゆる導電性材料(透明なもの、不透明なもの、反射性のもの)を使用することができる。この用途での具体的な導電性材料としては、金、イリジウム、モリブデン、パラジウム、白金などがある。好ましいアノード用材料は、透光性であろうとそうでなかろうと、仕事関数が4.1eV以上である。望ましいアノード用材料は、適切な任意の手段(例えば蒸着、スパッタリング、化学蒸着、電気化学的手段)で堆積させることができる。アノード用材料は、よく知られているフォトリソグラフィ法を利用してパターニングすることができる。
【0031】
必ずしも必要なわけではないが、有機発光ディスプレイでは、正孔注入層235をアノード230の上に形成すると有用であることがしばしばある。正孔注入材料は、その後に形成する有機層の膜形成特性を改善することと、正孔輸送層に正孔を容易に注入することに役立つ。正孔注入層235で使用するのに適した材料としては、アメリカ合衆国特許第4,720,432号に記載されているポルフィリン化合物、アメリカ合衆国特許第6,208,075号に記載されているプラズマ堆積させたフルオロカーボン・ポリマー、無機材料(例えばバナジウム酸化物(VOx)、モリブデン酸化物(MoOx)、ニッケル酸化物(NiOx))などがある。有機ELデバイスで有用であることが報告されている別の正孔注入材料は、ヨーロッパ特許0,891,121 A1と1,029,909 A1に記載されている。
【0032】
必ずしも必要なわけではないが、正孔輸送層240をアノード230の上に形成して配置すると有用であることがしばしばある。望ましい正孔輸送材料は、適切な任意の手段(例えば蒸着、スパッタリング、化学蒸着、電気化学的手段、熱転写、レーザーによるドナー材料からの熱転写)で堆積させることができる。そのとき、この明細書に記載した装置と方法を利用して堆積させることができる。正孔輸送層240で有用な正孔輸送材料は周知であり、例えば、芳香族第三級アミンなどの化合物がある。芳香族第三級アミンは、炭素原子(そのうちの少なくとも1つは芳香族環のメンバーである)だけに結合する少なくとも1つの3価窒素原子を含んでいる化合物であると理解されている。芳香族第三級アミンの1つの形態は、アリールアミン(例えばモノアリールアミン、ジアリールアミン、トリアリールアミン、ポリマー・アリールアミン)である。具体的なモノマー・トリアリールアミンは、Klupfelらによってアメリカ合衆国特許第3,180,730号に示されている。1個以上のビニル基で置換された他の適切なトリアリールアミン、および/または少なくとも1つの活性な水素含有基を含む他の適切なトリアリールアミンは、Brantley他によってアメリカ合衆国特許第3,567,450号と第3,658,520号に開示されている。
【0033】
芳香族第三級アミンのより好ましいクラスは、アメリカ合衆国特許第4,720,432号と第5,061,569号に記載されている少なくとも2つの芳香族第三級アミン部分を含むものである。このような化合物としては、構造式A:
【化1】

で表わされるものがある。ただし、
Q1とQ2は、独立に、芳香族第三級アミン部分の中から選択され;
Gは、結合基(例えば、炭素-炭素結合のアリーレン基、シクロアルキレン基、アルキレン基など)である。
【0034】
一実施態様では、Q1とQ2の少なくとも一方は、多環縮合環構造(例えばナフタレン)を含んでいる。Gがアリール基である場合には、Q1とQ2の少なくとも一方は、フェニレン部分、ビフェニレン部分、ナフタレン部分であることが好ましい。
【0035】
構造式Aに合致するとともに2つのトリアリールアミンを含むトリアリールアミンの有用な1つのクラスは、構造式B:
【化2】

で表わされる。ただし、
R1とR2は、それぞれ独立に、水素原子、アリール基、アルキル基のいずれかを表わすか、R1とR2は、合わさって、シクロアルキル基を完成させる原子を表わし;
R3とR4は、それぞれ独立にアリール基を表わし、そのアリール基は、構造式C:
【化3】

に示したように、ジアリール置換されたアミノ基によって置換されている。ただし、
R5とR6は、独立に、アリール基の中から選択される。一実施態様では、R5とR6のうちの少なくとも一方は、多環縮合環構造(例えばナフタレン)を含んでいる。
【0036】
芳香族第三級アミンの別のクラスは、テトラアリールジアミンである。望ましいテトラアリールジアミンとして、構造式Cに示したように、アリーレン基を通じて結合した2つのジアリールアミノ基が挙げられる。有用なテトラアリールジアミンとしては、一般式D:
【化4】

で表わされるものがある。ただし、
それぞれのAreは、独立に、アリーレン基(例えばフェニレン部分またはアントラセン部分)の中から選択され;
nは1〜4の整数であり;
Ar、R7、R8、R9は、独立に、アリール基の中から選択される。
【0037】
典型的な一実施態様では、Ar、R7、R8、R9のうちの少なくとも1つは多環縮合構造(例えばナフタレン)である。
【0038】
上記の構造式A、B、C、Dのさまざまなアルキル部分、アルキレン部分、アリール部分、アリーレン部分は、それぞれ、置換されていてもよい。典型的な置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基、ハロゲン(例えばフッ化物、塩化物、臭化物)などがある。さまざまなアルキル部分とアルキレン部分は、一般に、1〜約6個の炭素原子を含んでいる。シクロアルキル部分は、3〜約10個の炭素原子を含むことができるが、一般には5個、または6個、または7個の炭素原子を含んでいる(例えばシクロペンチル環構造、シクロヘキシル環構造、シクロヘプチル環構造)。アリール部分とアリーレン部分は、通常は、フェニル部分とフェニレン部分である。
【0039】
OLEDデバイスにおける正孔輸送層は、単一の芳香族第三級アミン化合物、または芳香族第三級アミン化合物の混合物から形成することができる。特に、トリアリールアミン(例えば構造式Bを満たすトリアリールアミン)をテトラアリールジアミン(例えば構造式Dに示したもの)と組み合わせて使用することができる。トリアリールアミンをテトラアリールジアミンと組み合わせて使用する場合には、テトラアリールジアミンは、トリアリールアミンと電子注入・輸送層の間に配置された層となる。この明細書に記載した装置と方法を利用して単成分層または多成分層を堆積させることができ、その装置と方法を順番に使用して多数の層を堆積させることができる。
【0040】
有用な正孔輸送材料の別のクラスとして、ヨーロッパ特許第1,009,041号に記載されている多環式芳香族化合物がある。さらに、ポリマー正孔輸送材料を使用することができる。それは、例えば、ポリ(N-ビニルカルバゾール)(PVK)、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリン、コポリマー(例えばポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)/ポリ(4-スチレンスルホネート)(PEDOT/PSSとも呼ばれる))などである。
【0041】
発光層250は、正孔-電子再結合に応答して光を出す。発光層250は、一般に正孔輸送層240の上に堆積される。望ましい有機発光材料は、適切な任意の手段(例えば蒸着、スパッタリング、化学蒸着、電気化学的手段、放射線によるドナー材料からの熱転写)で堆積させることができる。そのとき、この明細書に記載した装置と方法を利用して堆積させることができる。有用な有機発光材料は周知である。アメリカ合衆国特許第4,769,292号、第5,935,721号により詳しく説明されているように、有機EL素子の発光層は、発光材料または蛍光材料を含んでおり、この領域で電子-正孔対の再結合が起こる結果としてエレクトロルミネッセンスが生じる。発光層は単一の材料で構成できるが、より一般的には、ゲスト化合物(すなわちドーパント)をドープしたホスト材料を含んでいる。後者の場合、光は主としてドーパントから発生する。ドーパントは、特定のスペクトルを持つ色の光が出るように選択する。発光層内のホスト材料は、以下に示す電子輸送材料、または上記の正孔輸送材料、または正孔-電子再結合をサポートする別の材料にすることができる。ドーパントは、通常は、強い蛍光を出す染料の中から選択されるが、リン光化合物(例えばWO 98/55561、WO 00/18851、WO 00/57676、WO 00/70655に記載されている遷移金属錯体)も有用である。ドーパントは、一般に、0.01〜10質量%の割合でホスト材料に組み込まれる。この明細書に記載した装置と方法を利用すると、複数の蒸発源を必要とせずに多成分ゲスト/ホスト層をコーティングすることができる。
【0042】
有用であることが知られているホスト分子および発光分子としては、アメリカ合衆国特許第4,768,292号、第5,141,671号、第5,150,006号、第5,151,629号、第5,294,870号、第5,405,709号、第5,484,922号、第5,593,788号、第5,645,948号、第5,683,823号、第5,755,999号、第5,928,802号、第5,935,720号、第5,935,721号、第6,020,078号に開示されているものなどがある。
【0043】
8-ヒドロキシキノリンおよび同様の誘導体の金属錯体(一般式E)は、エレクトロルミネッセンスをサポートすることのできる有用なホスト材料の1つのクラスを形成し、波長が500nmよりも長い光(例えば緑、黄、オレンジ、赤)を出させるのに特に適している。
【0044】
【化5】

ただし、Mは金属を表わし;
nは1〜3の整数であり;
Zは、各々独立に、少なくとも2つの縮合芳香族環を有する核を完成させる原子を表わす)。
【0045】
以上の説明から、金属は、一価、二価、三価の金属が可能であることが明らかである。金属としては、例えばアルカリ金属(リチウム、ナトリウム、カリウムなど)、アルカリ土類金属(マグネシウム、カルシウムなど)、土類金属(ホウ素、アルミニウムなど)が可能である。一般に、キレート化金属として有用であることが知られている任意の一価、二価、三価の金属を使用することができる。
【0046】
Zは、少なくとも2つの縮合芳香族環を持っていてそのうちの少なくとも一方はアゾール環またはアジン環である複素環の核を完成させる。必要な場合には、必要なその2つの環に追加の環(例えば脂肪族環と芳香族環の両方)を縮合させることができる。機能の向上なしに分子が大きくなることを避けるため、環の原子数は、通常は18個以下に維持する。
【0047】
発光層250のホスト材料としては、9位と10位に炭化水素置換基または置換された炭化水素置換基を有するアントラセン誘導体が可能である。例えば9,10-ジ-(2-ナフチル)アントラセンの誘導体は、エレクトロルミネッセンスをサポートすることのできる有用なホスト材料の1つのクラスを形成し、波長が400nmよりも長い光(例えば青、緑、黄、オレンジ、赤)を出させるのに特に適している。
【0048】
ベンズアゾール誘導体は、エレクトロルミネッセンスをサポートすることのできる有用なホスト材料の別のクラスを形成し、波長が400nmよりも長い光(例えば青、緑、黄、オレンジ、赤)を出させるのに特に適している。有用なベンズアゾールの一例は、2,2',2"-(1,3,5-フェニレン)トリス[1-フェニル-1H-ベンゾイミダゾール]である。
【0049】
望ましい蛍光ドーパントとしては、ペリレンまたはその誘導体、アントラセンの誘導体、テトラセンの誘導体、キサンテンの誘導体、ルブレンの誘導体、クマリンの誘導体、ローダミンの誘導体、キナクリドンの誘導体、ジシアノメチレンピラン化合物、チオピラン化合物、ポリメチン化合物、ピリリウム化合物、チアピリリウム化合物、ジスチリルベンゼンの誘導体、ジスチリルビフェニルの誘導体、ビス(アジニル)メタンホウ素錯体化合物、カルボスチリル化合物などがある。
【0050】
他の有機発光材料としては、Wolkらが、譲受人に譲渡されたアメリカ合衆国特許第6,194,119 B1号とその中で引用している参考文献に記載しているように、ポリマー物質(例えばポリフェニレンビニレン誘導体、ジアルコキシ-ポリフェニレンビニレン、ポリ-パラ-フェニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体)が可能である。
【0051】
必ずしも必要なわけではないが、OLEDデバイス210は、発光層250の上に配置された電子輸送層255を含んでいると好ましい場合がしばしばある。望ましい電子輸送材料は、適切な任意の手段(例えば蒸着、スパッタリング、化学蒸着、電気化学的手段、熱転写、レーザーによるドナー材料からの熱転写)で堆積させることができる。そのとき、この明細書に記載した装置と方法を利用して堆積させることができる。電子輸送層255で用いるのが好ましい電子輸送材料は、金属キレート化オキシノイド系化合物(オキシンそのもの(一般には8-キノリノールまたは8-ヒドロキシキノリンとも呼ばれる)のキレートも含む)である。このような化合物は、電子の注入と輸送を容易にし、優れた性能を示すのを助け、しかも容易に薄膜の形態にすることができる。考慮するオキシノイド系化合物の具体例は、すでに説明した一般式Eを満たす化合物である。
【0052】
他の電子輸送材料としては、アメリカ合衆国特許第4,356,429号に開示されているさまざまなブタジエン誘導体や、アメリカ合衆国特許第4,539,507号に記載されているさまざまな複素環式蛍光増白剤がある。一般式Gを満たすベンズアゾールも、有用な電子輸送材料である。
【0053】
他の電子輸送材料としては、ポリマー物質が可能である。それは例えば、ポリフェニレンビニレン誘導体、ポリ-パラ-フェニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体、ポリチオフェン、ポリアセチレンや、他の導電性ポリマー有機材料(例えば『導電性分子と導電性ポリマーのハンドブック』、第1〜4巻、H.S. Nalwa編、ジョン・ワイリー&サンズ社、チチェスター、1997年に記載されているもの)である。
【0054】
電子注入層260がカソード290と電子輸送層255の間に存在していてもよい。電子注入材料の具体例としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属、ハロゲン化アルカリ塩(例えば上記のLiF)や、アルカリ金属またはアルカリ土類金属をドープした有機層がある。
【0055】
カソード290は、電子輸送層255の上、または発光層250の上(電子輸送層を使用しない場合)に形成される。アノード230を通して光が出る場合には、カソード材料をほぼ任意の導電性材料にすることができる。望ましい材料は優れた膜形成特性を有するため、下にある有機層との接触がよくなり、低電圧で電子の注入が促進され、優れた安定性を得ることができる。有用なカソード材料は、仕事関数が小さな(3.0eV未満)金属または合金を含んでいることがしばしばある。好ましい1つのカソード材料は、アメリカ合衆国特許第4,885,221号に記載されているように、銀が1〜20%の割合で含まれたMg:Ag合金からなる。適切なカソード材料の別のクラスとしては、仕事関数が小さな金属または金属塩からなる薄い層の上に導電性金属からなるより厚い層を被せた二層がある。このような1つのカソードは、アメリカ合衆国特許第5,677,572号に記載されているように、LiFからなる薄い層と、その上に載るより厚いAl層からなる。他の有用なカソード材料としては、アメリカ合衆国特許第5,059,861号、第5,059,862号、第6,140,763号に記載されているものがある。
【0056】
カソード290を通して発光を見る場合、カソードは、透明であるか、ほぼ透明である必要がある。このような用途のためには、金属が薄いか、透明な導電性酸化物を使用するか、このような材料の組み合わせを使用する必要がある。光学的に透明なカソードは、アメリカ合衆国特許第5,776,623号に、より詳細に記載されている。
【0057】
カソード材料は、蒸着、スパッタリング、化学蒸着によって堆積させることができる。必要な場合には、よく知られた多数の方法でパターニングすることができる。方法としては、例えば、スルー・マスク蒸着、アメリカ合衆国特許第5,276,380号とヨーロッパ特許第0,732,868号に記載されている一体化シャドウ・マスキング、レーザー除去、選択的化学蒸着などがある。
【0058】
本発明をいくつかの好ましい実施態様を特に参照して詳しく説明してきたが、本発明の精神と範囲の中で変更や修正を施しうることが理解されよう。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明による装置の一実施態様の断面図である。
【図2】2つの有機材料に関する蒸気圧と温度の関係を示すグラフである。
【図3】本発明による装置の別の一実施態様の断面図である。
【図4】本発明による開口部の一実施態様の断面図である。
【図5】開口部に関する上記実施態様の斜視図である。
【図6】本発明による開口部の別の一実施態様の断面図である。
【図7】本発明による装置の断面図であり、ここには、基板を取り囲む真空チェンバーが示してある。
【図8】本発明に従って製造できるPLEDデバイス構造の断面図である。
【符号の説明】
【0060】
5 蒸着源
10 有機材料
15 蒸着源
20 基部ブロック
25 ヒーター
30 制御通路
35 シール領域
40 開口プレート
45 チェンバー
50 加熱素子
52 シュラウド
55 側壁
60 マニホールド
65 底部壁
70 放射シールド
75 装着用ロック装置
80 真空チェンバー
85 OLED基板
90 開口部
95 並進装置
100 真空源
105 照射距離
110 加熱素子
115 マニホールド開口部
120 絶縁体
125 絶縁体開口部
130 外側導電体
135 内側導電体
140 貫通部
210 OLEDデバイス
220 基板
230 アノード
235 正孔注入層
240 正孔輸送層
250 発光層
255 電子輸送層
260 電子注入層
270 有機層
290 カソード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空チェンバーの中でOLEDデバイスの基板に有機層をコーティングするのに用いる蒸着源であって、
(a)有機材料を収容するチェンバーを画定する側壁及び底部壁並びに該側壁間に配置された開口プレートを含み、該開口プレートが、気化した有機材料を放出させるための互いに離れた複数の開口部を有するマニホールドを含み;
(b)上記開口プレートは、電流に応答して熱を発生させる導電性材料を含み;
(c)上記有機材料をその気化温度に加熱するとともに、上記マニホールドの側壁を加熱する手段を含み;
(d)上記開口プレートを上記側壁にカップリングさせて、上記開口プレートの該開口部に隣接する支持されていない領域に熱を集める電気的絶縁体を含むことにより、上記開口プレートと上記基板との間の距離を小さくして基板上のコーティングの厚さの均一性を高くすることができる蒸着源。
【請求項2】
上記開口プレートと上記マニホールドが、エネルギーを上記チェンバーの中に放射する放射率の大きな材料コーティングと、上記基板により少ないエネルギーを放射する放射率の小さな材料コーティングを含む、請求項1に記載の蒸着源。
【請求項3】
上記加熱手段が、エネルギーを上記チェンバーの中に放射する放射率の大きな材料コーティングを含む、請求項1に記載の蒸着源。
【請求項4】
上記マニホールドが、上記開口プレートが上記基板に最も近くなる形状にされている、請求項1に記載の蒸着源。
【請求項5】
上記基板にエネルギーを放射する上記マニホールドの面積を最少にするため上記開口部の近くに配置された放射シールドをさらに備える一方で、その放射シールドが凝縮した有機材料で覆われるリスクが最少にされている、請求項4に記載の蒸着源。
【請求項6】
各開口部に隣接した上記領域が、上記開口プレートまたは上記マニホールドの他のどの部分よりもわずかに高温に加熱されることで、その開口部の詰まりが最少にされる、請求項1に記載の蒸着源。
【請求項7】
上記有機材料の塊をその気化温度よりも低温に加熱するとともに、上記マニホールドの下部を加熱する第2の手段を備える、請求項1に記載の蒸着源。
【請求項8】
上記マニホールド・チェンバーの温度が第1の加熱手段によって制御されることと、そのマニホールド・チェンバーの下部が上記第2の加熱手段によって能動的に制御されて、長さ方向と幅方向に沿って温度が均一にされるとともに、蒸着源で最も低温の部分として上記有機材料と接触することを特徴とする、請求項7に記載の蒸着源。
【請求項9】
真空チェンバーの中でOLEDデバイスの基板に有機層をコーティングするのに用いる蒸着源であって、
(a)有機材料を収容するチェンバーを画定する側壁及び底部壁並びに該側壁間に配置された開口プレートを含み、該開口プレートが、気化した有機材料を放出させるための互いに離れた複数の開口部を有するマニホールドを含み;
(b)上記開口プレートは、電流に応答して熱を発生させる導電性材料を含み;
(c)上記マニホールドの側壁を加熱することにより、上記有機材料をその気化温度に加熱する手段と;
(d)上記開口プレートを上記側壁にカップリングさせて、上記開口プレートの該開口部に隣接する支持されていない領域に熱を集める電気的絶縁体を含むことにより、上記開口プレートと上記基板との間の距離を小さくして基板上のコーティングの厚さの均一性を高くすることができる蒸着源。
【請求項10】
上記開口プレートが、エネルギーを上記チェンバーの中に放射する放射率の大きな材料コーティングと、上記基板により少ないエネルギーを放射する放射率の小さな材料コーティングを含む、請求項9に記載の蒸着源。
【請求項11】
上記加熱手段が、エネルギーを上記チェンバーの中に放射する放射率の大きな材料コーティングを含む、請求項9に記載の蒸着源。
【請求項12】
上記マニホールドが、上記開口プレートが上記基板に最も近くなる形状にされている、請求項9に記載の蒸着源。
【請求項13】
上記基板にエネルギーを放射する上記マニホールドの面積を最少にするため上記開口部の近くに配置された放射シールドをさらに備える一方で、その放射シールドが凝縮した有機材料で覆われるリスクが最少にされている、請求項12に記載の蒸着源。
【請求項14】
各開口部に隣接した上記領域が、上記開口プレートの他のどの部分よりもわずかに高温に加熱されることで、その開口部の詰まりが最少にされている、請求項9に記載の蒸着源。
【請求項15】
上記有機材料の塊をその気化温度よりも低温に加熱するとともに、上記マニホールドの下部を加熱する第2の手段を備える、請求項9に記載の蒸着源。
【請求項16】
上記マニホールド・チェンバーの温度が第1の加熱手段によって制御されることと、そのマニホールド・チェンバーの下部が上記第2の加熱手段によって能動的に制御されて、長さ方向と幅方向に沿って温度が均一にされるとともに、蒸着源で最も低温の部分として上記有機材料と接触することを特徴とする、請求項15に記載の蒸着源。
【請求項17】
真空チェンバーの中で基板に有機層をコーティングする方法であって、
(a)有機材料を収容するチェンバーを画定する側壁及び底部壁並びに該側壁間に配置された開口プレートを含み、該開口プレートが、気化した有機材料を放出させるための互いに離れた複数の開口部を持ち、かつ、電流に応答して熱を発生させる導電性材料を含んでいるマニホールドを用意するステップと;
(b)上記有機材料をその気化温度に加熱するとともに、上記マニホールドの側壁を加熱するステップと;
(c)上記開口プレートの該開口部に隣接する支持されていない領域に熱を集めるステップを含んでおり、よって上記開口プレートと上記基板との間の距離を小さくして基板上のコーティングの厚さの均一性を高くすることができることを特徴とする方法。
【請求項18】
上記開口プレートと上記マニホールドが、エネルギーを上記チェンバーの中に放射する放射率の大きな材料コーティングと、上記基板により少ないエネルギーを放射する放射率の小さな材料コーティングを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
上記加熱ステップが、エネルギーを上記チェンバーの中に放射する放射率の大きな材料をコーティングする操作を含む、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
上記マニホールドの形状を、上記開口プレートが上記基板に最も近くなるようにする操作を含む、請求項17に記載の方法。
【請求項21】
上記マニホールドで上記基板にエネルギーを放射する面積を最少にするため上記開口部の近くに放射シールドを配置する一方で、その放射シールドが凝縮した有機材料で覆われるリスクを最少にする操作を含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
各開口部に隣接した上記領域を、上記開口プレートまたは上記マニホールドの他のどの部分よりもわずかに高温に加熱することで、その開口部の詰まりを最少にする、請求項17に記載の方法。
【請求項23】
上記有機材料の塊をその気化温度よりも低温に加熱するとともに、上記マニホールドの下部を加熱する操作を含む、請求項17に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2007−530786(P2007−530786A)
【公表日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−504997(P2007−504997)
【出願日】平成17年3月11日(2005.3.11)
【国際出願番号】PCT/US2005/008252
【国際公開番号】WO2005/098079
【国際公開日】平成17年10月20日(2005.10.20)
【出願人】(590000846)イーストマン コダック カンパニー (1,594)
【Fターム(参考)】