説明

厚さ方向モード振動子の周波数スイープを伴うメガソニックプロセス装置

メガソニックプロセス装置および方法は、少なくとも300kHzの基本共振周波数で厚さ方向モードで作動する1つ以上の圧電振動子を備える。発生器は、所定のスイープ周波数領域で変動する変動周波数駆動信号で振動子を起動する。発生器は、全振動子の共振周波数を含むスイープ周波数領域中で駆動信号の周波数を繰り返し変動させあるいはスイープする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願]
本出願は、2006年3月17日出願の「周波数スイープを伴うメガソニックプロセス装置(Megasonic Processing Apparatus with Frequency Sweeping)」と題する同時係属中の米国仮出願番号60/783,213号および、2007年3月16日出願の「厚さ方向モード振動子の周波数スイープを伴うメガソニックプロセス装置(Megasonic Processing Apparatus with Frequency Sweeping of Thickness Mode Transducer)」と題するマイケルグッドソンJ(J. Michael Goodson)の発明による米国特許出願の優先権を主張する。これらの先行出願は、明確に本書に参照して組み込む。
【0002】
[技術分野]
本発明は、一般的にはメガソニックプロセス装置とそれに付随する方法に関し、少なくとも300kHz以上のメガソニック周波数での厚さ方向モードで作動する1つ以上の圧電振動子を含み、より詳細には、全振動子の共振周波数にわたる所定のあるいはプログラムされた周波数領域中を駆動信号をスイープすることにより性能を向上することに関する。
【背景技術】
【0003】
メガソニックプロセスは、300kHz以上の周波数の高周波数エネルギを発生し、使用することを含む。多くのメガソニックシステムは1,000kHzすなわち1MHzあるいはその近傍の周波数で運転される。多くの用途に対して好適な周波数としては1MHzが大体数の意見ではあるが、周波数領域を10MHzくらいの高周波数のように、はるかに高いものにする。メガソニクシステムを使う代表的な利用は、半導体ウエハやディスクドライブ媒体など、洗浄に敏感な対象物である。そのようなメガソニック洗浄プロセスでは、洗浄する対象物を液体を充満した容器に入れ、メガソニック周波数で振動エネルギを放射面あるいは容器の面に与える。1つ以上の圧電振動子を用いて、振動エネルギを発生する。発生器は振動子の共振周波数で交流電流駆動信号を供給する。メガソニック振動子は、厚さ方向モードで作動し、圧電素子は、振動子が主として厚みを増し縮める振動子の交互の伸縮を生ずる交流電流駆動信号により駆動される。0.080インチ(約2mm)の厚さを有する圧電振動子は1,000kHzの厚さ方向モードの基本共振周波数を有する。
【0004】
メガソニックプロセスは、ある程度超音波プロセスと類似しており、超音波プロセスは典型的には約25kHzから約192kHzという低い基本周波数を含む。超音波振動子は典型的には、圧電素子の両側に不活性マスを有するマスバランス形で厚さ成分に直角の半径方向の大きな動き成分を有する。超音波振動子の一つの一般的な製造は、数層のリング形状の圧電素子を2つのマスの間に積層して、それらの組合せ体を軸圧縮ボルトで一体に保持することである。超音波洗浄は、液体中で形成され崩壊するキャビテーションに基く。
【0005】
メガソニック洗浄で使用される周波数では、キャビテーションがあまり生ぜず、よって洗浄はマイクロストリーミングとして知られる別の機構に基き、マイクロストリーミングは、メガソニック振動子から離れる分離した粒子の一般的な流れである。この流れは、振動子が取り付けられる表面で生ずる平面波からなる。これらのマイクロストリーミングの平面的性質は、容器中でのメガソニックエネルギの分散に影響する。分散を良くするための一方法は、容器表面積の高いパーセントを振動子で覆うことである。もう一つの、しかし効果の落ちる方法は、全表面が高メガソニックエネルギに充分に曝されるように容器中でプロセスされる部分を振動させあるいは動かすことである。
【0006】
洗浄容器の半径方向モードの超音波運動が、駆動信号の周波数をスイープしあるいは変化させるプロセスから、効果的であることは知られている。しかし、音波はスイープすることによる利益を享受するためには小さくて弱すぎるのでメガソニック周波数をスイープすることは出来ないと産業界では広く信じられてきた。さらに、厚さ方向モードの振動子とそのためのメガソニック振動の平面的性質のために、そして超音波と比較して作用における別の洗浄機構のために、メガソニック周波数をスイープすることから利益は得られないと考えられてきた。
【発明の開示】
【0007】
本発明は、300kHzを超えるメガソニック周波数で厚さ方向モードに動作する1つ以上の圧電振動子(PZT)を有するメガソニックプロセス装置および方法に関する。メガソニック周波数で動作するメガソニック発生器は、所定のあるいはプログラムされたスイープ周波数領域中を変化し即ちスイープする変動周波数駆動信号で振動子を駆動する。メガソニック発生器はメガソニック周波数の駆動信号を発生し、メガソニック圧電振動子にエネルギを与え、メガソニック共振周波数で厚さ方向モードで振動させる。圧電振動子はメガソニック周波数でエネルギを放射し、そのエネルギを液体を満たした容器で対象物を洗浄するなどの種々の用途に用いることが出来る。メガソニック発生器は全てのメガソニック圧電振動子の共振周波数を含むスイープ周波数領域を駆動信号の周波数で繰返し変化させ即ちスイープする。
【0008】
本発明の別の局面では、メガソニック圧電振動子を類似の共振周波数を有するグループにグループ化し、関連する振動子のグループの共振周波数を含むスイープ周波数領域内で作動する発生器から別々の周波数のスイープ駆動信号で各グループを動かす。このことにより全体のスイープ周波数領域をより狭いサブ領域に分割し、サブ領域はオーバーラップしてもしなくてもよく、各周波数スイープの領域を減少する。振動子をグループ化することの効果は、特定の振動子が共振周波数であるいはその近くで作動している時間量を拡大し、よって効率を向上することである。
【0009】
本発明は1つ以上の圧電振動子と、選択可能なあるいはプログラムで可能な周波数領域およびスイープ速度で変動する周波数のメガソニック駆動信号を供給する、該振動子に接続される1つ以上のメガソニック発生器とを含む。
【0010】
たとえばシリコンウエハやディスクドライブ媒体にメガソニックプロセスを用いると、全厚さ方向モードメガソニック振動子の共振周波数にわたって駆動信号をスイープすることにより、振動子により生ずるメガソニックエネルギを均一化され、振動子は調和して作動するようにされる。このことにより、メガソニックエネルギをより均一に分布させ、効率を改善する。同様の改善されたメガソニックエネルギの均一性と機能性がまた、リキッドプロセス、非破壊検査、画像診断、および振動子の共振周波数の範囲をスイープすることによりメガソニック厚さ方向モード振動子を用いる他のプロセスで達成される。周波数スイーププロセスは、単一の固定周波数で作動するよりもメガソニック振動子に応力を掛けないので、メガソニック振動子の寿命を延ばすことにもなる。周波数スイーププロセスはまた、各振動子が各周波数スイープサイクルの少なくとも一部でその共振周波数で作動するので、容器や他の装置中でのメガソニックエネルギの均一性を改善する。メガソニック周波数を用いる用途やプロセスでは、全振動子の共振周波数にわたり駆動信号をスイープすることにより生ずるパワーを均一に分布する利益を享受することが期待される。
【0011】
メガソニックプロセスの効率を最適化するキーは、メガソニックで励起される放射面中でエネルギを均一化することである。このようにするのに、放射面積の80%以上が厚さ方向モードのメガソニック振動子で覆われることが好ましい。さらに、各メガソニック振動子が振動子のグループの最高共振周波数と最低共振周波数の間で駆動信号の周波数をスイープすることにより着実なメガソニックエネルギを生成する。
【0012】
最高性能のためには、各メガソニック振動子は、同じ表面に接続された他のメガソニック振動子と実質的に同じだけエネルギを受ける必要がある。このことを達成するため、駆動周波数は、全振動子の共振周波数にわたってスイープされる。メガソニック振動子の共振周波数をスイープすることは、各サイクルのある時点では全ての振動子をその共振周波数で駆動する。このことにより、産業的に以前は達成できなかった振動子の性能の均一性を作り出す。
【0013】
さらに、メガソニック振動子の周波数スイープは、固定周波数メガソニック振動子で見られる「噴水効果」を減ずる。噴水効果は、固定周波数駆動信号との共振周波数で作動する振動子によって引き起こされると考えられ、その振動子の上方の容器中の液体の大きな上昇波を生ずる。メガソニック周波数駆動信号をスイープすることで、どの特定の振動子もその共振周波数で連続的に駆動されることがなくなり、噴水効果に関連する上昇波をなくす。逆に、全ての振動子が各スイープサイクルのある時点で共振周波数で効果的に作動するので、メガソニックエネルギが容器全体に均一に分布する。
【0014】
周波数スイープは、40kHz程度の超音波周波数よりもメガソニック周波数ではるかに顕著である。500〜700%のパワー分布の改善がメガソニック共振周波数スイープで観察され、このことは、本質的に優れたプロセスであることを意味する。
【0015】
明細書に記載された特徴と利点とは、全てを含んでいるわけではなく、特に当業者にとって多くのさらなる特徴や利点が図面、明細書および特許請求の範囲を見て、明らかである。さらに、明細書で使用される言葉は、読みやすさと説明の目的のために主として選定されたものであり、発明の主題の外延を示し、このような発明の主題を決めるのに必要な請求項を訴えるものではないことに注意すべきである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
図面は、本発明の種々の好適な実施の形態を説明する目的のみで描写する。当業者であれば、本書で説明する本発明の原理から逸脱することなく本書で説明する構造や方法の代替の実施の形態を使用できることを、容易に理解できるであろう。
【0017】
本発明の一局面は、プログラム可能なスイープ周波数領域およびプログラム可能なスイープ速さを有するメガソニック発生器を伴うメガソニック処理装置および方法にある。スイープ周波数領域は、メガソニック発生器が1つ以上のメガソニック厚さ方向モード圧電振動子をその共振周波数で駆動する駆動信号を出力する周波数の領域あるいはバンド幅である。スイープ速さは、1秒間当たりに共振周波数がスイープされる回数である。
【0018】
メガソニック発生器は、ユーザが駆動信号についてスイープ周波数領域あるいはバンド幅やスイープ速さを選定したりプログラムしたりできる手段を備えたコントローラあるいはコントロール装置を含むのが好ましい。ユーザがスイープ周波数領域やスイープ速さの1つ以上の組合せを発生器の記憶装置に入力する。発生器は、ユーザが選定したスイープ周波数領域やスイープ速さに応じて駆動信号を発生し出力する。
【0019】
洗浄用途に用いるときには、たとえば、メガソニック圧電振動子(単数または複数)は、容器の底部や側部に搭載され、あるいは、容器内の浸水容器内に封じ込められる。スイープする周波数発生器は、洗浄以外の用途のメガソニック振動子を駆動するのに用いてもよい。振動子は、たとえば、チタン酸バリウムやチタン酸ジルコン酸鉛のような、厚さ方向モードで動作する圧電結晶あるいは圧電セラミック(PZTとしても知られる)であることが好ましい。同一プロセス中で異なったスイープ速さやスイープ周波数領域を用いることは、ある周波数が他のものよりもより効果的であるから、ある部分の洗浄を増進する。
【0020】
駆動信号の周波数をスイープする装置は、駆動信号を発生するメガソニック発生器に組み込まれる。メガソニック発生器は、つまみ、ダイアル、ソフトウェア、キーボード、グラフィカル・ユーザー・インターフェース、ネットワーク接続あるいは他の入力装置などの入力装置を含み、ユーザにより発生器が作動するスイープ周波数領域あるいはバンド幅を設定でき、また、発生器がプログラムされた領域をスイープするスイープ速さを設定できるようにする。ユーザがプログラムするスイープ周波数やスイープ速さのコントロールは、アナログでもデジタルでもよい。
【0021】
図1〜6に示すように、本発明の一実施の形態は、洗浄液あるいは溶液14および洗浄されるべき1つ以上の小片15を入れたクオーツ洗浄容器12を含む洗浄システム10である。メガソニックエネルギが、容器12の底部に取り付けられた1つ以上のメガソニック周波数振動子16により洗浄液14に供給される。あるいは、メガソニック振動子は容器の1つ以上の側部あるいは容器内に沈められることもできる。メガソニック振動子16は、炭化珪素板20の片面に接着されあるいは他の方法で付属された圧電素子(PZT)18を有する。炭化珪素板20の他の面は、洗浄容器12の底面外側に接着されあるいは他の方法で付属される。炭化珪素板20と容器12の間と炭化珪素板20と圧電素子18の間に接着層22が穴開き銅箔とインピーダンス整合接着剤とで構成されるのが好ましい。あるいは、接着層は、半導体チップをパッケージ基板にダイ接着するのに用いるエポキシや他の接着剤で構成してもよい。
【0022】
圧電素子は、均一な厚さを有する正方形でも長方形でも円形ディスクあるいは他の形状でもよい。たとえば、1,000kHzの公称周波数の運転では、圧電素子18は約0.08インチ(2mm)の厚さを有し、炭化珪素板20は約0.19インチ(4.8mm)の厚さを有し、クオーツ容器12の底部は約0.20インチ(5.1mm)の厚さを有する。振動子16と洗浄システム10とは、本発明を組み込んだ振動子と装置の一例に過ぎない。
【0023】
図3〜6に示すように、振動子16は、長方形形状をしており、互いに平行に配置されるのが好ましい。振動子16は、容器12の底面の大部分を覆うのが好ましく、好適には少なくとも80%を覆う。メガソニックエネルギを発生し、振動子16が取り付けられる面の全面にわたり均一に容器12および流体14にメガソニックエネルギを伝達するのがよい。容器底部の高い比率の面積を振動子で覆うことで、流体14に伝達されるメガソニックエネルギはかなり均一となる。
【0024】
図6に示すように、振動子16は、プログラム可能な発生器26により電線24を通じて供給される駆動信号により駆動される。発生器26は、ユーザ入力あるいはインターフェース28を通じてユーザによりプログラムされ、発生器26から出力される駆動信号のスイープ周波数領域あるいはバンド幅およびスイープ速さを設定する。
【0025】
メガソニック周波数圧電振動子は、印加された電圧が振動子の厚さを膨張し収縮するような厚さ方向モードで作動する。このような膨張・収縮は、炭化珪素板20と容器12を通じて容器中の流体14と対象物15とに伝達される。図6に示すように、振動子16が容器12の底部にあると、このようなメガソニック周波数振動は、主として水平波動17となる。波動は上方に進み、容器中の対象物15から洗浄されあるいは分離された粒子を運ぶ。このことは、マイクロストリーミングとして知られるプロセスであり、上方向への、メガソニックエネルギ源から離れる実際の動きがある。図1および2に示すように、容器は余剰な流体や粒子がその上部を流れる堰21と、流体を循環し清浄するポンプ23とフィルタ25とを有する。
【0026】
共振周波数は、通常、振動子の機械的電気的特性が最も効率よく音波を伝達する周波数である。厚さ方向モードで動作するメガソニック振動子では、振動子の厚さにより共振周波数が決まる。たとえば、0.08インチ(2mm)の厚さの振動子は、約1,000kHzの共振周波数を有する。0.065インチ(1.7mm)の厚さの振動子は、約1,230kHzの共振周波数を有する。0.050インチ(1.3mm)の厚さの振動子は、約1,600kHzの共振周波数を有する。「共振周波数」という語は、本書では、設置された振動子が固有振動数を有する最も低次の基本周波数を意味するものとして用いられる。
【0027】
上記のように、0.080インチ(2mm)の厚さの圧電振動子は1,000kHzの基本共振周波数を有する。これらの振動子の厚さの誤差は、共振周波数に大きく影響する。厚さが0.001インチ(0.025mm)変化すると、共振周波数が12.5kHz変動する。また、振動子の2主要面は平面で、共面であるのがよいが、その誤差も共振周波数に影響する。性能の観点からは全振動子が正確に同じ共振周波数を有することが好ましいが、製造誤差の観点からは実際的ではない。しかし、本発明の周波数スイープは、この障壁を乗り越えることができる。
【0028】
本発明の一つの利点は、全振動子の共振周波数にわたって駆動信号の周波数をスイープすることで、振動子間で等しく音波を分布することである。このことにより、容器全体で実質的に均等なメガソニックエネルギを有することが可能になる。このことは、厚さ方向モードの振動子は、音波を容器の底部から頂部へ、横方向にはほとんど広がらずに、鉛直方向に伝播するので、重要となる。メガソニックエネルギの均等な分布は、振動子の最高共振周波数と最低共振周波数のすぐ外側でスイープすることにより最もよく実施できる。
【0029】
本発明のもう一つの利点は、振動子の共振周波数に誤差があってもよいことにある。共振周波数のばらつきが最小であれば、性能は最高となる。正確に同じ共振周波数の振動子を選定すれば、ばらつきを最小にしやすい(コストは掛かる)が、それにしても、いかなる厚さのばらつきも厚さ方向モードの使用では周波数のばらつきを生ずるので、振動子を取り付けるのに使われる接着剤や他の接着用材料からのばらつきは存在する。本発明による駆動信号の周波数をスイープする方法は、このような不可避のばらつきにも対応できる。
【0030】
本発明のさらに別の利点は、容器での流体のうねり(サージ)を減少することである。駆動信号をスイープしないと、駆動信号の周波数であるいはその近傍で振動子は流体を押し上げる強力な上方向の力を生じやすく、ときには表面を2インチ(約50mm)ほど持ち上げる。このような表面のうねりは、流体が循環する際に流体中に空気を巻き込む要因となり、巻き込まれた空気がメガソニックプロセスを妨害するので、問題である。また、流体が溶液の時には空気中に蒸発し、周辺のオペレータおよび/あるいは他の人間に危害を加えるかも知れず、特に液体が酸や他の危険な物質である場合には、うねりは問題になる。本発明における駆動信号をスイープすることによりこのような問題を低減できる。
【0031】
図7に示すように、発生器26は駆動信号の周波数を時間の関数として変化させる。たとえば、駆動信号の周波数は、全メガソニック振動子16の共振周波数31を含むプログラムされたスイープ周波数領域30にわたり鋸の歯状に変動する。発生器のスイープ周波数領域あるいはバンド幅は、ユーザによってプログラムされ、発生器26に関連するメモリ装置に記憶される。周波数が変動する速さは、ユーザによってプログラムされたスイープ速さにより決まり、発生器のメモリ装置に記憶される。発生器は、他の機能やプログラムに応じて駆動信号の周波数を変動させるようにプログラムすることもでき、図7に示すような三角波あるいは鋸の歯状を形成する線形関数に限定されることはない。周波数の変動は、たとえば、サイン波的、指数関数的、あるいは他の関数的でもよい。駆動信号そのものも、サイン波、矩形波、三角波あるいは他の形状でもよい。スイープ速さは、登り(周波数を増大)と下り(周波数を減少)とで同じである必要はない。ユーザが、周期を設定でき、発生器が駆動信号を止めているときには休止時間を設定できることが好ましい。
【0032】
洗浄用途においては、部品によっては、複数の振動子ではなく、1個の振動子で最もよく洗浄される。そのような構成では、最適な共振周波数を認識し、この周波数を限られた範囲でスイープするプログラムされたソフトウェアプログラムを使用することにより、振動子の性能が強化される。最高の結果となるのは、振動子の共振周波数が繰り返し励起されるように1%以下のスイープ領域で駆動周波数がスイープされることである。本発明の利点は、スイープ領域あるいはバンド幅が十分に広ければ共振周波数が時間と共に変化しても、各振動子の共振周波数が各サイクルで励起されるので、共振周波数のドリフトの悪影響を減少できることである。
【0033】
一般的に、所定のタスクあるいはプロセスには複数のメガソニック振動子16が用いられ、同じ発生器と駆動信号ですべての振動子を駆動するのが普通である。しかし、複数の振動子を使う場合には、振動子間の性能のばらつきや製造のばらつきのため単一の最適周波数は存在しない。製造誤差のため、メガソニック振動子は共振周波数で3%から4%の幅を有する。たとえば1,000kHzにおいては、4%の幅は、公称1,000kHzに対し、プラスマイナス20kHzとなり、すなわち980kHzから1,020kHzの領域となる。
【0034】
このような使用では、本発明にしたがい、少なくともある程度の時間、振動子16がその共振周波数であるいはその近傍で作動するように駆動信号の周波数を繰り返しスイープするのが適当である。各振動子16がその共振周波数であるいはその近傍で作動するようにするために、発生器は、一群の振動子の最低共振周波数および最高共振周波数31に達するようになされた所定のスイープ周波数領域をスイープする。発生器26の周波数スイープ機能は、そのばらつき領域をカバーする。周波数スイープ機能は、固定されていてもよいし、速さ(1秒あたりのスイープ数)や領域(最低および最高周波数)に関して変化するようにプログラムされてもよい。
【0035】
本発明のもう一つの局面は、メガソニック圧電振動子をその共振周波数に応じて複数のグループにグループ化し、各グループを別の変動周波数の駆動信号で駆動することに関する。類似の共振周波数の振動子を一緒にグループ化し、グループの振動子がその共振周波数であるいはその近傍で作動するために発生器がスイープしなければならない周波数の領域を低減する。スイープする周波数領域を低減すると、各振動子がその共振周波数であるいはその近傍で作動する時間が長くなる。
【0036】
スイープ周波数でカバーする領域が低減するので、特定の用途で要求されるならばスイープの速さを早くしてより活動させることができ、あるいは、スイープ速さが同じであれば繰り返し率を高めることができる。その結果、スイープが狭い幅をカバーし、振動子がより多くの時間の割合をその共振周波数であるいはその近傍で作動するので、各振動子の共振周波数でのメガソニック送信が大きくなり、メガソニックプロセスの効率が高まる。
【0037】
この点について図7、図8および図9に図解する。図7では、1つの発生器が領域30にわたり最低周波数と最高周波数間で駆動信号をスイープする。図8では、2つの発生器が同じ全体の領域をカバーするのに使われるが、それぞれの発生器が全領域30の半分のサブ領域32をカバーする。振動子の半数は上サブ領域32’で共振周波数31’を有し、振動子の他の半数は下サブ領域32”で共振周波数31”を有する。一定時間当たりのスイープ回数は図7と図8とで同じである。図9では、スイープ周波数が変化する速さは図7と同じだが、同じ時間間隔で2倍のスイープを行うようにスイープする領域が半分にカットされている。
【0038】
グループ化の例として、下記の公称共振周波数(kHz)を有するメガソニック振動子12個をプロセスで用いることを考える。
1,010、 1,030、 1,015、 1,007、
1,019、 1,004、 1,027、 1,038、
1,022、 1,014、 1,031、 1,040
周波数は、1,004kHzの最低値から1,040kHzの最高値まで広がり、中央値は1,022kHzで全領域は36kHz(±18kHz)である。12個の振動子全部の共振周波数を含むように駆動信号の周波数をスイープすると36kHzの全スイープが必要となる。
【0039】
この12個の振動子を2つのグループA、Bに分け、スイープ領域を低減する。
発生器A
1,004、 1,014、 1,007、 1,015、
1,010、 1,019
発生器B
1,022、 1,031、 1,027、 1,038、
1,030、 1,040
発生器Aで駆動される振動子は、1,004kHzから1,019kHzで広がり、中央値は1,011.5kHzで全領域は15kHz(±7.5kHz)である。発生器Bで駆動される振動子は、1,022kHzから1,040kHzで広がり、中央値は1,031kHzで全領域は18kHz(±9kHz)である。共振周波数に応じて振動子をグループ化し、スイープする各発生器のスイープ領域を低減することにより、単位時間当たりのスイープ回数を増加させ、あるいは、スイープ速さを低下させることができ、いずれにおいても振動子がその共振周波数であるいはその近傍でより頻繁に駆動されるようにして、メガソニックプロセスを強化する。
【0040】
実用では、スイープする周波数領域は、関連する振動子の最高および最低共振周波数より僅かに外側に設定される。よって、上記の例では、発生器Aのスイープ周波数領域は1,003〜1,020kHzに、あるいは1,002〜1,021kHzに設定され、発生器Bのスイープ周波数領域は1,021〜1,041kHzに、あるいは1,020〜1,042kHzに設定されるかもしれない。このことにより、各周波数スイープにてそれぞれの振動子がその共振周波数より下と上の両方の周波数で作動するようにされ、加熱や他の変化により生じうる共振周波数の変化を許容することもできる。
【0041】
振動子は、個々のシステムあるいはプロセスで、あるいは同時に作動する複数のシステムあるいはプロセス内で、グループ化される。たとえば、それぞれ複数の振動子を有する2つの容器があり、2つの容器は同時に使用されるとすると、2つの容器の全振動子のより大きな母集団から振動子をグループ化することができる。単一の発生器で起動される振動子が互いに隣接しないようにし、あるいは同じ容器で使われる振動子が同じグループにならないようにすることで、グループ化はさらに均一な結果を生ずるように選定される。すべての振動子が同時に使用されるので、振動子の配置の設計者は、グループのメンバーが配置される場所に関わらずグループ化の効率を最大にすることに集中できる。
【0042】
複数の同時に使用されるシステム内のグループ化の例として、前記の例と同じ12個のメガソニック振動子が2つの別々の容器に配置されるものとする。
容器1
1,010、 1,030、 1,019、 1,004、
1,022、 1,014
容器2
1,015、 1,007、 1,027、 1,038、
1,031、 1,040
【0043】
容器1と容器2の12個の振動子は共振周波数に応じて2つのグループに分けられ、下記のように発生器Aと発生器Bとで駆動される(容器の番号をカッコ内に示す)。
発生器A
1,004(1)、 1,014(1)、 1,007(2)、
1,015(2)、 1,010(1)、 1,019(1)
発生器B
1,022(1)、 1,031(2)、 1,027(2)、
1,038(2)、 1,030(1)、 1,040(2)
発生器Aは容器1の4個の振動子と容器2の2個の振動子とを駆動する。発生器Bは容器1の2個の振動子と容器2の4個の振動子とを駆動する。すべての振動子は同時に作動するので、このグループ化により2つの発生器が狭い領域をスイープするようにできる。
【0044】
したがって、複数の容器やシステムが用いられる洗浄その他のプロセスで、複数の容器やシステムの全数量の振動子は、グループ化される周波数の最適な組合せを生ずるように組み合わされ、それぞれのグループは別のスイープする発生器で起動される。たとえば、4つの容器を用いる4つのプロセスにおいて、4つの容器のいずれかあるいはすべてにある振動子はネットワークで接続され、スイープする周波数の最適な領域を達成する。当然、これらのグループ化に対しすべてのプロセスは同時に作動状態となる。
【0045】
本発明のもう一つの局面は、メガソニック振動子16の構造と、たとえば容器12の底部等他の構造への取り付けであり、穴開き金属層とインピーダンス整合接着剤を用いる。図4および図6に示すように、メガソニック振動子16は、圧電素子18と洗浄容器12の表面あるいは振動子が取り付けられる他の構造との間に炭化珪素板20を有するのが好ましい。圧電素子18は炭化珪素板20に接着され、その組立体は穴開き金属箔、好ましくは銅箔、と接着剤とからなる接着層で容器12に接着される。
【0046】
穴開き銅箔(あるいは他の金属箔)は、接着層22の平坦性と厚さの均一性を向上する。穴開き銅箔は、接着剤が均等に分布する所定の厚さを有し、よって、治具や他の安定装置を用いることなく接着剤厚さの不ぞろいや不均一性を回避する。穴開き金属は、調整可能な平らな構造を提供し、接着剤の厚さの均一性を維持する。穴開き金属は、圧電素子と炭化珪素板との間の電極としても用いられる。
【0047】
本発明の用途は、洗浄作業には限られない。メガソニック振動子のために振動エネルギをスイープする同様の原理は、非破壊検査や少なくとも300kHzの基本共振周波数を有する厚さ方向モード振動子を用いる他の用途のような、メガソニックエネルギのマイクロストリーミングの他の使用にも適用できる。メガソニック振動子をスイープすることにより大きなエネルギバーストを生じ、マイクロストリーミング洗浄およびマイクロストリーミングの他の使用の効果を高める改良されたより強力なマイクロストリーミング活動を生ずる。マイクロストリーミングは、キャビテーションを生じるには小さすぎる超音波エネルギの放出により生成される活性化された液体の流れである。300kHzを超える周波数では、キャビテーションは消えるが、メガソニック周波数のエネルギが液体流を生ずる。
【0048】
上記の説明より、本書で開示された発明は、変動する周波数駆動信号を用いて新規で効果を有するメガソニックプロセス装置および方法を提供することは明らかである。これまでの記載は本発明の単に説明としての方法と実施例とを開示し説明したものである。当該技術に親しんだ者には理解されるとおり、本発明は、その思想や基本的な特徴から逸脱することなく種々の他の形態で具体化できる。したがって、本発明の開示は、発明の範囲を説明のためのものであり、限定するものではなく、発明の範囲は特許請求の範囲に記載される。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】図1は、本発明によるメガソニックプロセスシステムの全体斜視図である。
【図2】図2は、本発明のメガソニックプロセスシステムで用いられる容器の上部斜視図である。
【図3】図3は、容器の底部斜視図である。
【図4】図4は、容器の側部立面図である。
【図5】図5は、容器の底面図である。
【図6】図6は、メガソニックプロセスシステムの模式図で、容器と、容器中の液体にメガソニック振動を生ずる振動子に駆動信号を供給する発生器と共に容器に取り付けられたメガソニック振動子との側面図ある。
【図7】図7は、本発明の一実施の形態で用いられる周波数と駆動信号の時間とのグラフである。
【図8】図8は、本発明の別の実施の形態で用いられる周波数と2つの駆動信号の時間とのグラフで、スイープ周期は図7のものと同じである。
【図9】図9は、本発明の別の実施の形態で用いられる周波数と2つの駆動信号の時間とのグラフで、スイープ速さは図7のものと同じである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つ以上の圧電振動子であって、それぞれが少なくとも300kHzの基本共振周波数を有する、圧電振動子と;
流体と1つ以上の処理される部品とを入れるための容器であって、前記1つ以上の振動子は該容器とその内容物とに振動を与えるようになされた、容器と;
全振動子の共振周波数を含む周波数領域にわたって変動する変動周波数の駆動信号を供給する、前記振動子に接続された発生器とを備える;
メガソニック処理装置。
【請求項2】
前記発生器は調整可能なスイープ速さと調整可能な周波数領域とを有する;
請求項1に記載のメガソニック処理装置。
【請求項3】
前記スイープ速さは、毎秒50〜1200回スイープする速さである;
請求項2に記載のメガソニック処理装置。
【請求項4】
前記メガソニック処理装置は少なくとも4個の振動子と2個の発生器とを有し、
前記振動子は類似の共振周波数でグループ化され、
振動子の各グループは別々の発生器で駆動され、該別々の発生器は、関連するグループの全振動子の共振周波数を含む周波数領域内で変化する変動周波数を有する駆動信号を発生する;
請求項1に記載のメガソニック処理装置。
【請求項5】
前記圧電振動子が厚さ方向モードで作動する;
請求項1に記載のメガソニック処理装置。
【請求項6】
2つ以上の容器であって、各容器が流体と処理される1つ以上の部品とを入れるための容器と;
各容器に接続された1つ以上の圧電振動子であって、各振動子は少なくとも300kHzの基本共振周波数を有し、前記振動子は前記容器とその内容物に振動を与えることができる、圧電振動子と;
前記振動子に接続され、前記振動子に駆動信号を供給する2つ以上の発生器とを備え;
前記振動子は類似の共振周波数でグループ化され、
振動子の各グループは別々の発生器で駆動され、該別々の発生器は、関連するグループの全振動子の共振周波数を含む周波数領域内で変動する変動周波数を有する駆動信号を発生する;
メガソニックプロセスシステム。
【請求項7】
1つ以上の圧電振動子であって、それぞれが少なくとも300kHzの周波数の厚さ方向モード振動の基本共振周波数を有する、圧電振動子と;
洗浄液と1つ以上の洗浄される部品とを入れるための容器であって、前記1つ以上の振動子は洗浄液と前記容器内の部品とに振動を与えるようになされた、容器と;
前記1つ以上の振動子に接続され所定の周波数領域とスイープ速さで駆動信号を供給する発生器を備え;
前記周波数領域は前記1つ以上の振動子のすべての共振周波数を含み、
前記発生器は駆動信号用のスイープ周波数領域とスイープ速さを決めるプログラム可能な手段を含む;
メガソニック洗浄装置。
【請求項8】
1つ以上の圧電振動子であって、それぞれが少なくとも300kHzの基本共振周波数を有する、圧電振動子を供給する工程と;
流体と1つ以上の処理される部品とを入れるための容器であって、前記1つ以上の振動子が該容器に接続され、該容器とその内容物とに振動を与えるようになされた、容器を供給する工程と;
前記振動子に駆動信号を発生し供給する工程を備え;
該駆動信号は全振動子の共振周波数を含む周波数領域にわたって変動する変動周波数を有する;
メガソニック処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2009−530856(P2009−530856A)
【公表日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−501502(P2009−501502)
【出願日】平成19年3月18日(2007.3.18)
【国際出願番号】PCT/US2007/006885
【国際公開番号】WO2007/109255
【国際公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【出願人】(508280427)
【Fターム(参考)】