説明

厚板化粧板用ポリブチレンテレフタレート共重合体組成物およびそれを用いた厚板化粧板

【課題】厚みのある板状体の成形性に優れ、重量感および外観に優れた厚板化粧板を得ることのできる厚板化粧板用ポリブチレンテレフタレート共重合体組成物を提供すること。
【解決手段】(A)テレフタル酸以外のジカルボン酸が共重合されたポリブチレンテレフタレート共重合体100重量部および(B)硫酸バリウム30〜80重量部を含有する厚板化粧板用ポリブチレンテレフタレート共重合体組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、厚板化粧板用のポリブチレンテレフタレート共重合体組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
壁材や床材などの建築部材、容器や室内装飾品などの家庭用品には、古くから御影石や大理石などの石材や陶器が用いられてきた。御影石や大理石などの石材は美観性に優れるものの、高価であるため、熱硬化性樹脂材料による代替品の検討が盛んになされてきた。
【0003】
一方、近年のリサイクル化の動きに伴い、前記用途においてもリサイクル可能な材料が求められている。このような中で、熱硬化性樹脂による代替品は、リサイクルが困難であるという課題があった。
【0004】
これに対して、熱可塑性樹脂組成物は量産性が高く、リサイクル可能な材料であり、特にポリエステル樹脂に無機物および着色剤などを配合してなる組成物は、美観性が高く、表面硬度も高く、成形形状と外形寸法の自由度が高いため、前記代替品としての採用が拡大しつつある。このような熱可塑性樹脂組成物として、例えば、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、および硫酸バリウムを配合してなるポリブチレンテレフタレート樹脂組成物(例えば、特許文献1参照)や、ポリエステル系の熱可塑性樹脂に、無機フィラーを配合した熱可塑性樹脂人工大理石用組成物(例えば、特許文献2参照)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−199049号公報
【特許文献2】特開2002−3262号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、これら従来公知の熱可塑性樹脂組成物は結晶化速度が高いため、成形品の厚さ方向の寸法の自由度が低く、薄い板状体の成形には適するものの、厚い成形品を得ることが困難である課題があった。このため、重量感が不十分である、強度を要する用途においては他の基材と積層する必要があるなどの課題があり、厚みのある板状体を容易に成形することが可能な熱可塑性樹脂組成物が求められている。そこで本発明は、厚みのある板状体の成形性に優れ、重量感および外観に優れた厚板化粧板を得ることのできる厚板化粧板用ポリブチレンテレフタレート共重合体組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、(A)テレフタル酸以外のジカルボン酸が共重合されたポリブチレンテレフタレート共重合体100重量部および(B)硫酸バリウム30〜80重量部を含有する厚板化粧板用ポリブチレンテレフタレート共重合体組成物である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の厚板化粧板用ポリブチレンテレフタレート共重合体組成物は厚板の成形性に優れ、かかる組成物を成形してなる厚板化粧板は重量感および外観に優れる。本発明の厚板化粧板用ポリブチレンテレフタレート共重合体組成物を成形してなる厚板化粧板は、この特性を活かして、人工大理石、御影石、タイル、壁材、床材などの建築部材や、容器、室内装飾品、テーブルなどの家庭用品などに好ましく使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明の厚板化粧板用ポリブチレンテレフタレート共重合体組成物および厚板化粧板について具体的に説明する。
【0010】
本発明における(A)ポリブチレンテレフタレート共重合体とは、テレフタル酸およびテレフタル酸以外のジカルボン酸と、1,4−ブタンジオールとを共重合成分とするものである。テレフタル酸以外のジカルボン酸をポリブチレンテレフタレートに共重合することにより結晶化速度を低下させ、厚板の成形性を向上させることができる。
【0011】
テレフタル酸以外のジカルボン酸としては、例えば、イソフタル酸、フタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸、ドデカンジオン酸、アジピン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸などの脂肪族ジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸などが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。これらの中でも、結晶化温度を低下させ、結晶化速度をより低下させる観点から、芳香族ジカルボン酸が好ましく、イソフタル酸がより好ましい。
【0012】
テレフタル酸以外のジカルボン酸の共重合割合は、全ジカルボン酸成分中、20モル%以上が好ましく、結晶化速度をより低下させ、厚板の成形性をより向上させることができる。25モル%以上が好ましい。一方、適度な結晶化速度を保ち成形性をより向上させる観点からは、40モル%以下が好ましく、35モル%以下がより好ましい。
【0013】
また、本発明の効果を損なわない範囲で、1,4−ブタンジオールに加えて、炭素数2〜12程度の他のアルキレングリコールなどを共重合してもよい。
【0014】
ポリブチレンテレフタレート共重合体は、例えば、以下の手順によって製造することができる。テレフタル酸、テレフタル酸以外のジカルボン酸、1,4−ブタンジオールおよび触媒を精留塔および撹拌機のついた反応缶に仕込み、80〜100kPa減圧下にて230℃まで徐々に昇温し、エステル化反応をさせる。生成した水とテトラヒドロフランは、精留塔を通して留去することが好ましい。次に、得られたエステル化反応生成物を重縮合反応缶に移し、60〜80Paまで徐々に減圧し、同時に245℃まで昇温して、約3時間重縮合反応を行うことにより、ポリブチレンテレフタレート共重合体を得ることができる。
【0015】
本発明の厚板化粧板用ポリブチレンテレフタレート共重合体組成物は、(B)硫酸バリウムを含有する。(B)硫酸バリウムを含有することにより、得られる厚板化粧板に高い重量感を付与することができる。
【0016】
本発明の厚板化粧板用ポリブチレンテレフタレート共重合体組成物における(B)硫酸バリウムの含有量は、前記(A)ポリブチレンテレフタレート共重合体100重量部に対して30重量部以上であり、40重量部以上が好ましい。一方、上限は80重量部以下であり、70重量部以下が好ましい。硫酸バリウムの含有量が30重量部未満であると、厚板化粧板特有の重量感が不足する。一方、80重量部を超えると、樹脂成分が少量になるため成形性が低下する。
【0017】
(B)硫酸バリウムの粒子径は、5μm以下が好ましく、得られる厚板化粧板の外観を向上させることができる。3μm以下がより好ましい。本発明における(B)硫酸バリウムの粒子径は、倍率40,000倍で観察した電子顕微鏡写真から、任意に400個以上の粒子を選び、その粒子径を測定し、数平均値を算出することにより求めることができる。なお、硫酸バリウムは必ずしも球状ではない。そこで、本発明においては、電子顕微鏡写真内に任意に定めた一方向に対する粒子の長さを粒子径と呼ぶことにする。
【0018】
(B)硫酸バリウムは、天然に産したものの粉砕物および公知の合成法により得られるものを使用できる。市販品としては、例えば、堺化学工業(株)製のB−55(粒子径0.66μm)、BMH(粒子径2.5μm)、BMH−100(粒子径10μm)、BA(粒子径8μm)などが挙げられる。これらを2種以上含有してもよい。
【0019】
本発明の厚板化粧板用ポリブチレンテレフタレート共重合体組成物は、その効果を損なわない範囲で、ポリブチレンテレフタレートなどの樹脂や、酸化チタンおよび種々の色の顔料や染料などの添加剤を1種以上含有してもよい。
【0020】
本発明の厚板化粧板用ポリブチレンテレフタレート共重合体組成物は、公知の方法で製造される。例えば、前記(A)ポリブチレンテレフタレート共重合体、(B)硫酸バリウムおよび必要に応じて添加剤を予備混合し、または予備混合せずに、押出機などに供給して溶融混練することにより、ポリブチレンテレフタレート共重合体組成物を得ることができる。上記の予備混合の例として、ドライブレンド方法、タンブラー、リボンミキサーおよびヘンシェルミキサー等の機械的な混合装置を用いて混合する方法などが挙げられる。
【0021】
本発明の厚板化粧板は、前記本発明のポリブチレンテレフタレート共重合体組成物を成形することにより得ることができる。例えば、組成物のペレットを単軸押出機の元込め部から供給し、シリンダー温度210〜250℃に設定した単軸押出機で溶融し、横幅500mm、厚さ50mmのダイスを用いて1〜15mm/分の速度で成形する方法が挙げられる。
【0022】
本発明の厚板化粧板は、重量感および外観が優れているため、高級感が求められる用途に好ましく用いられる。厚板化粧板としては、例えば、建築部材、家庭用品などが挙げられる。具体的には、人工大理石、御影石、タイル、壁材、床材などの建築部材、容器、室内装飾品、テーブルなどの家庭用品が挙げられる。厚板化粧板の肉厚は、重量感をより向上させる観点から5mm以上が好ましく、さらに好ましくは10mm以上である。このような肉厚を有する厚板化粧板の成形には、成形性に優れる本発明のポリブチレンテレフタレート共重合体組成物を好ましく用いることができる。
【実施例】
【0023】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。実施例および比較例に使用した各成分は以下のとおりである。
【0024】
ポリブチレンテレフタレート共重合体
(A−1)テレフタル酸60.4重量部、イソフタル酸15.0重量部、1,4−ブタンジオール73.6重量部および触媒としてテトラブチルチタネート0.05重量部を精留塔および撹拌機のついた反応缶に仕込み、93kPa減圧下にて100℃から230℃まで4時間かけて昇温し、エステル化反応をさせた。生成した水とテトラヒドロフランとを精留塔を通して留去して、テトラヒドロフラン含有物を得た。次に、得られたエステル化反応生成物を重縮合反応缶に移し、常圧から67Paまで40分間かけて徐々に減圧し、同時に245℃まで昇温して、2時間50分間重縮合反応を行い、イソフタル酸を全ジカルボン酸中20モル%共重合したポリブチレンテレフタレート共重合体を得た。
(A−2)上記のA−1と同様の方法でテレフタル酸とイソフタル酸の比率を変更し、イソフタル酸を全ジカルボン酸中30モル%共重合したポリブチレンテレフタレート共重合体を得た。
(A−3)上記のA−1と同様の方法でテレフタル酸とイソフタル酸の比率を変更し、イソフタル酸を全ジカルボン酸中40モル%共重合したポリブチレンテレフタレート共重合体を得た。
(A−4)上記のA−1と同様の方法でテレフタル酸とイソフタル酸の比率を変更し、イソフタル酸を全ジカルボン酸中15モル%共重合したポリブチレンテレフタレート共重合体を得た。
(A−5)上記のA−1と同様の方法でイソフタル酸をフタル酸に変更し、フタル酸を全ジカルボン酸中30モル%共重合したポリブチレンテレフタレート共重合体を得た。
(A−6)上記のA−1と同様の方法でイソフタル酸を2,6−ナフタレンジカルボン酸に変更し、2,6−ナフタレンジカルボン酸を全ジカルボン酸中30mol%共重合したポリブチレンテレフタレート共重合体を得た。
(A−7)上記のA−1と同様の方法でイソフタル酸を1,4−ナフタレンジカルボン酸に変更し、1,4−ナフタレンジカルボン酸を全ジカルボン酸中30モル%共重合したポリブチレンテレフタレート共重合体を得た。
(A−8)上記のA−1と同様の方法でイソフタル酸をドデカンジオン酸に変更し、ドデカンジオン酸を全ジカルボン酸中30モル%共重合したポリブチレンテレフタレート共重合体を得た。
(A−9)上記のA−1と同様の方法でイソフタル酸を1,3−シクロヘキサンジカルボン酸に変更し、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸を全ジカルボン酸中30モル%共重合したポリブチレンテレフタレート共重合体を得た。
【0025】
その他の樹脂
(C−1)フェノール/テトラクロロエタンの1/1(重量比)の混合溶媒中、30℃で測定した固有粘度が1.4dl/gであるポリブチレンテレフタレート。
(C−2)ポリブチレンテレフタレート(東レ(株)製 「1200M」)
(C−3)平均分子量30,000であるポリカーボネート。
【0026】
硫酸バリウム
(B−1)硫酸バリウム(堺化学工業(株)製 「B−55」粒子径0.66μm)
(B−2)硫酸バリウム(堺化学工業(株)製 「BMH」粒子径2.5μm)
(B−3)硫酸バリウム(堺化学工業(株)製 「BMH−100」粒子径10μm)
(B−4)硫酸バリウム(堺化学工業(株)製 「BA」粒子径8μm)
【0027】
その他
酸化チタン(石原産業(株)製 「CR−60」)
【0028】
実施例および比較例における特性の評価方法を以下に示す。
【0029】
(1)成形性
(押出物の厚さ5mm)ペレットを単軸押出機の元込め部から供給して、シリンダー温度240℃に設定したスクリュー径40mmφの単軸押出機で溶融を行った。横幅500mm、厚さ50mmのダイスから10mm/分の速度で押出物が得られるよう調整した。
(押出物の厚さ10mm)押出物の厚さ5mmの場合と同様の手法でダイスからの速度を8mm/分に変更し、押出物が得られるよう調整した。
(押出物の厚さ20mm)押出物の厚さ5mmの場合と同様の手法でダイスからの速度を5mm/分に変更し、押出物が得られるよう調整した。
(押出物の厚さ30mm)押出物の厚さ5mmの場合と同様の手法でダイスからの速度を4mm/分に変更し、押出物が得られるよう調整した。
(押出物の厚さ40mm)押出物の厚さ5mmの場合と同様の手法でダイスからの速度を3mm/分に変更し、押出物が得られるよう調整した。
(押出物の厚さ50mm)押出物の厚さ5mmの場合と同様の手法でダイスからの速度を2mm/分に変更し、押出物が得られるよう調整した。
目的厚さの押出物が得られた場合を○、得られなかった場合を×と判定した。
【0030】
(2)重量感
ISO294−1に従い、金型温度80℃、溶融樹脂温度260℃の射出成形機ISOダンベル(170mm(全長)×10mm(幅)×4mm(厚み))を成形し、ISO1183に従い密度を測定して重量感を評価した。密度が1650kg/m未満の場合、重量感はなしと判定できる。密度が1650kg/m以上の場合、重量感はありと判定でき、1800kg/m以上がより好ましい。
【0031】
(3)外観
上記(1)記載の方法により得られた押出物の表面を磨いた後、外観を目視観察し、以下の基準で評価した。但し、上記(1)記載の方法により押出物が得られない場合は、別途角板(80mm(縦)×80mm(横)×3mm(厚み))を成形し、押出物と同様に表面を磨いた後、外観を目視観察した。
○:表面粗さを感じることなく、無機物の浮きが目立たない
△:表面粗さを感じることはないが、無機物の浮きが目立つ
×:表面粗さを感じ、無機物の浮きが目立つ
【0032】
[実施例1〜15・比較例1〜3]
表1〜2に示す各成分を2軸押出機の元込め部から供給し、シリンダー温度260℃に設定したスクリュー径57mmφの2軸押出機で溶融混練を行った。ダイスから吐出されたストランドを冷却バス内で冷却した後、ストランドカッターにてペレット化した。得られた各ペレットを、130℃の熱風乾燥機で3時間以上乾燥した後、前記方法で成形性、重量感、外観の評価を行った。
【0033】
各実施例・比較例の組成および評価結果を表1〜2に示す。
【0034】
【表1】

【0035】
【表2】

【0036】
本実施例で得られた樹脂組成物は、成形性に優れ、重量感のある厚さ5mm以上の成形品を得る結果となった。一方、比較例1で得られた樹脂組成物は、厚さ5mm以上の成形品を作製することはできたが、得られた成形品は、重量感がないものであった。また、比較例2、3で得られた樹脂組成物は、成形品の重量感はあるが、厚さ5mm以上の成形品が得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明の厚板化粧板用ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は成形性に優れ、かかる組成物を成形してなる厚板化粧板は重量感が優れており、この特性を活かして、人工大理石、御影石、タイル、壁材、床材などの建築部材や、容器、室内装飾品、テーブルなどの家庭用品など、厚板化粧板に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)テレフタル酸以外のジカルボン酸が共重合されたポリブチレンテレフタレート共重合体100重量部および(B)硫酸バリウム30〜80重量部を含有する厚板化粧板用ポリブチレンテレフタレート共重合体組成物。
【請求項2】
前記テレフタル酸以外のジカルボン酸が、イソフタル酸、フタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸または1,4−ナフタレンジカルボン酸を含む請求項1に記載の厚板化粧板用ポリブチレンテレフタレート共重合体組成物。
【請求項3】
前記テレフタル酸以外のジカルボン酸が全ジカルボン酸中20〜40モル%共重合された請求項1または2に記載の厚板化粧板用ポリブチレンテレフタレート共重合体組成物。
【請求項4】
前記(B)硫酸バリウムの粒子径が5μm以下である請求項1〜3のいずれかに記載の厚板化粧板用ポリブチレンテレフタレート共重合体組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の厚板化粧板用ポリブチレンテレフタレート共重合体組成物を成形してなる厚板化粧板。
【請求項6】
肉厚が5mm以上である請求項5に記載の厚板化粧板。

【公開番号】特開2012−25841(P2012−25841A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−165404(P2010−165404)
【出願日】平成22年7月23日(2010.7.23)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】