説明

厚膜塗装可能な艶消し電着塗料組成物

【課題】 アルミニウム建材の電着塗装において、40μmないしそれ以上という厚膜塗装においても、従来と同じ塗装条件で電着塗装が可能で、塗膜外観、塗膜性能、塗装作業性、塗料の安定性等において優れた特性を有する、艶消し電着塗料組成物を提供すること。
【解決手段】(A)(a)α,β−エチレン性不飽和カルボン酸単量体、(b)水酸基含有α,β−エチレン性不飽和単量体、(c)架橋官能基を有するα,β−エチレン性不飽和単量体、および(d)その他のα,β−エチレン性不飽和単量体を共重合したTgが20〜50℃のビニル共重合体、(B)(e)α,β−エチレン性不飽和カルボン酸単量体、(f)水酸基含有α,β−エチレン性不飽単量体、および(g)その他のα,β−エチレン性不飽和単量体を共重合したTgが−30〜10℃のビニル共重合体、および(C)アミノ樹脂を含有するアニオン型艶消し電着塗料組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アニオン型艶消し電着塗料組成物に関するもので、特にアルミニウム建材の塗装に適し、従来にない厚膜塗装が可能で、意匠性に優れた電着塗膜を提供することができる。
【背景技術】
【0002】
従来、陽極酸化処理したアルミニウム材は軽量でかつ強度が強く、さらには耐食性に優れることから、ビルや住宅の窓枠、ドアー、エクステリア等の建材関係に広く使用されている。アルミニウム材の塗装には、ワンコートで仕上がり性の良いアニオン型電着塗料が一般的に使用されている。そのアニオン型電着塗料としては、カルボキシル基および水酸基を含有する水性アクリル樹脂にメラミン樹脂を架橋剤として配合し、水分散してなるメラミン硬化型電着塗料が代表的である。一方、近年アルミニウム材へのニーズが多様化し、特に意匠性や塗膜性能の観点から従来にない厚膜塗装が要求される場合がある。この様なニーズに対しては、粉体塗装や溶剤型の静電塗装で厚膜化を達成する場合がほとんどであり、従来のアニオン型電着塗料では厚膜化が困難であった。
【0003】
電着塗装における基本的な特徴として、塗装の初期段階においては、導電性の被塗装物を通じて十分な電気が流れ、容易に被塗装物に電着塗膜が形成されるが、ある程度の塗膜が形成されると、塗膜は基本的には非導電性であるため、電着塗装された被塗装物は初期と比べて大きな電気抵抗を有することになり、電気が流れ難くなってほとんど塗膜が形成されないという問題がある。アルミニウム材にアニオン電着塗装を施す場合も同様の問題点があり、電着塗装時に膜厚が増大するにつれて塗膜抵抗が大きくなり、従来技術では、15μm〜20μm程度の膜厚を確保することが限界であった。特に艶消し電着塗料においてはその傾向が顕著であった。
【0004】
特許文献1や2は艶消しアニオン電着塗装組成物に関する技術であるが、この様なマイクロゲルを艶消し手法に用いる技術では、マイクロゲル粒子が高分子物となり、マイクロゲルを含有しない場合より、塗膜抵抗が大きくなり易く厚膜化が困難である。また特許文献3は同じく艶消しアニオン電着塗装組成物に関する技術であるが、この様なワックスエマルションを艶消し手法に用いる技術では、ワックス粒子が電着時のジュール熱により溶融し、この場合も塗膜抵抗が大きくなるため厚膜化が困難である。事実実施例においては膜厚が10μm程度のものしか例示されていない。また特許文献4は艶消しカチオン電着塗装組成物に関する技術であるが、樹脂ビーズを用いることにより塗膜抵抗の形成が遅れるため、平滑で厚膜の塗膜が得られる。しかしアルミニウム材に電着塗装を施す場合は、この技術では厚膜化は困難である。
【0005】
その他厚膜を確保するために(1)溶剤を多量使用する方法、(2)従来にない高電圧下に電着塗装を行う方法も考えられるが、(1)については焼付け過程中に顕著なワキ現象が発生し、良好な塗膜外観が確保されない問題があり、また昨今の環境問題に対しても好ましくない。(2)については、アルミニウム材は基本的に電着塗装前に陽極酸化処理が施されており、高電圧塗装においてはその陽極酸化皮膜が破壊されてしまうという問題点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−263296号公報
【特許文献2】特開平7−292297号公報
【特許文献3】特公昭63−42000号公報
【特許文献4】特開2004−285443号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明はアルミニウム建材にアニオン電着塗装を施す場合、その組成と製造方法において従来品にない特徴があり、40μmないしそれ以上という厚膜塗装においても、従来と同じ塗装条件で電着塗装が可能で、かつ塗膜の仕上がり外観においても、従来電着塗料と同等以上である、新しい電着塗料組成物を提供することを課題とする。また本発明の電着塗料組成物は、耐薬品性、耐溶剤性、機械物性等の塗膜特性、および塗装作業性、塗料の安定性等においても優れた性能を確保することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明は、(A)(a)α,β−エチレン性不飽和カルボン酸単量体、(b)水酸基含有α,β−エチレン性不飽和単量体、(c)架橋官能基を有するα,β−エチレン性不飽和単量体、および(d)その他のα,β−エチレン性不飽和単量体を共重合したTg(ガラス転移温度、以下Tgと記載)が20〜50℃のビニル共重合体、(B)(e)α,β−エチレン性不飽和カルボン酸単量体、(f)水酸基含有α,β−エチレン性不飽単量体、および(g)その他のα,β−エチレン性不飽和単量体を共重合したTg(ガラス転移温度、以下Tgと記載)が−30〜10℃のビニル共重合体、および(C)アミノ樹脂を含有するアニオン型艶消し電着塗料組成物である。
(2)またビニル共重合体(A)の架橋官能基が、アセトアセチル基および/またはアルコキシシリル基である(1)に記載のアニオン型艶消し電着塗料組成物である。
(3)さらにビニル共重合体(A)および(B)が、ビニル共重合体(A)の存在下にビニル共重合体(B)を作製することを特徴とする、2段重合法で作製された共重合体混合物である(1)あるいは(2)に記載のアニオン型艶消し電着塗料組成物である。
(4)ビニル共重合体(A)あるいは(B)が、酸価10〜150KOHmg/g(固形分)および水酸基価20〜200KOHmg/g(固形分)である(1)から(3)に記載のアニオン型艶消し電着塗料組成物である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の電着塗料を適用することにより、塗膜の厚膜化において従来品にない優れた特性を有する電着塗膜を形成させることができる。また得られる塗膜の耐薬品性、耐溶剤性、機械物性等の塗膜特性、および塗膜の仕上がり感にも優れており、塗料は塗装作業性、経時安定性等にも優れている。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明のアニオン型艶消し電着塗料組成物について詳細に説明する。
[(A)Tgが20〜50℃のビニル共重合体]
本発明に使用するビニル重合体(A)は、(a)α,β−エチレン性不飽和カルボン酸単量体、(b)水酸基含有α,β−エチレン性不飽和単量体、(c)架橋官能基を有するα,β−エチレン性不飽和単量体、および(d)その他のα,β−エチレン性不飽和単量体を共重合した、Tgが20〜50℃のビニル共重合体である。
【0011】
α,β−エチレン性不飽和カルボン酸単量体(a)は、ビニル共重合体(A)に水分散性、電気泳動性を付与するものである。例示すると、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、ビニル酢酸、イタコン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸等が挙げられる。これらの1種あるいは2種以上を混合して用いることができる。
【0012】
α,β−エチレン性不飽和カルボン酸単量体(a)は、ビニル共重合体(A)の酸価が10〜150KOHmg/g(固形分)、好ましくは20〜100KOHmg/g(固形分)となるような範囲で使用される。ビニル共重合体(A)の酸価が10KOHmg/g(固形分)未満では充分な水分散安定性が得られにくく、また150KOHmg/g(固形分)を超えると電気泳動性、塗膜析出性が低下し、また塗膜の耐水性、耐アルカリ性が低下する。
【0013】
また、水酸基含有α,β−エチレン性不飽和単量体(b)は、塗膜の焼き付けに際して、(C)アミノ樹脂と反応して硬化性を付与するものである。例示すると、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、4−ヒドロキシブチルメタクリレート、ジエチレングリコールモノアクリレート、ジエチレングリコールモノメタクリレート等および、これらのラクトン変性物等が挙げられ、これらの1種あるいは2種以上を混合して用いることができる。
【0014】
このような水酸基含有α,β−エチレン性不飽和単量体(b)はビニル共重合体(A)中の水酸基価が20〜200KOHmg/g(固形分)、好ましくは40〜160KOHmg/g(固形分)となるような範囲で使用される。水酸基価が20KOHmg/g(固形分)未満では十分な硬化性が確保されず、また200KOHmg/g(固形分)を超えると塗膜が脆化し、耐水性が低下して十分な性能が得られにくい。
【0015】
また、架橋官能基含有α,β−エチレン性不飽和単量体(c)は、ビニル共重合体(A)中に安定的に不溶性のミクロゲルを生成させ、艶消し性能を付与するものである。例示すると、アセトアセトキシエチルアクリレート、アセトアセトキシエチルメタクリレート、γ−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン等が挙げられ、これらの1種あるいは2種以上を混合して用いることができる。後述する方法で本発明の電着塗料組成物を水分散化した後、分散粒子内にミクロゲルを生成させ光沢の低減化を図る。特にアセトアセトキシエチルアクリレート、アセトアセトキシエチルメタクリレートについては、ホルムアルデヒドを併用することでミクロゲルの生成が促進されるので、ホルムアルデヒドを併用することが好ましい。
【0016】
さらに、その他のα,β−エチレン性不飽和単量体(d)については、アクリル酸またはメタクリル酸のアルキルエステル、あるいはその他のビニル単量体およびアミド系単量体等を用いることができる。具体的な化合物を例示すると、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、n−プロピルアクリレート、n−プロピルメタクリレート、イソプロピルアクリレート、イソプロピルメタクリレート、n−ブチルアクリレート、n−ブチルメタクリレート、イソブチルアクリレート、イソブチルメタクリレート、t−ブチルアクリレート、t−ブチルメタクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ヘプチルアクリレート、ヘプチルメタクリレート等のアクリル酸またはメタクリル酸のアルキルエステル、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、酢酸ビニル、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のビニル単量体、アクリルアミド、メタクリルアミド、メチロールアクリルアミド、メチロールメタクリルアミド、メトキシメチルアクリルアミド、n−ブトキシメチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、ジアセトンメタクリルアミド等のアミド系単量体、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレートが挙げられる。これらは1種あるいは2種以上を混合して用いることができる。
【0017】
ビニル共重合体(A)のTgは20〜50℃であり、上記(a)、(b)、(c)および(d)のα,β−エチレン性不飽和単量体を組合せ、数1の式から計算されるTgが、20〜50℃になるように組成比が決定される。Tgが20℃より低いと、乾燥塗膜の物性、特に硬度が低下し、電着塗料における安定性が低下する。またTgが50℃より高いと厚膜の電着塗膜が得られにくくなる。またさらに好ましいTgは25〜45℃である。
【0018】
【数1】

【0019】
またビニル共重合体(A)の重量平均分子量は5,000〜100,000であり、より好ましくは10,000〜70,000である。重量平均分子量が5,000以下の場合は、塗膜耐久性が十分に得られにくく、また100,000以上の場合は、水分散性が低下し、塗料の取り扱い性が不良になり易い。なお、ここで言う重量平均分子量は、ビニル共重合体(A)において記述したと同様GPCでの測定によるポリスチレン換算の値である。
【0020】
上述したようなビニル共重合体(A)は、各単量体を溶液重合、非水性分散重合、塊状重合、エマルジョン重合、懸濁重合等の公知の方法で重合することによって得られるが、特に溶液重合が好ましく、反応温度としては通常40〜170℃が選ばれる。
【0021】
反応溶剤としては、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、t−ブチルアルコール、プロピルセロソルブ、ブチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル等の親水性溶剤を用いるのが好ましい。また、重合開始剤としては、有機過酸化物、アゾ系化合物、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム等、公知のものを用いることができる。
【0022】
[(B)Tgが−30〜10℃のビニル共重合体]
本発明に使用するビニル重合体(B)は、(e)α,β−エチレン性不飽和カルボン酸単量体、(f)水酸基含有α,β−エチレン性不飽単量体、および(g)その他のα,β−エチレン性不飽和単量体を共重合した、Tgが−30〜10℃のビニル共重合体である。
【0023】
α,β−エチレン性不飽和カルボン酸単量体(e)としては、ビニル共重合体(A)において使用できるとされたα,β−エチレン性不飽和カルボン酸単量体(a)が使用でき、そのビニル共重合体(B)における酸価が10〜150KOHmg/g、好ましくは20〜100KOHmg/g(固形分)となるような範囲で使用される。ビニル共重合体(B)中の酸価が10KOHmg/g(固形分)未満では充分な水分散安定性が得られにくく、また150KOHmg/g(固形分)を超えると電気泳動性、塗膜析出性が低下し、また塗膜の耐水性、耐アルカリ性が低下する。
【0024】
水酸基含有α、β−エチレン性不飽和単量体(f)としては、ビニル共重合体(A)において使用できるとされた水酸基含有α、β−エチレン性不飽和単量体(b)が使用でき、そのビニル共重合体(B)中の水酸基価が20〜200KOHmg/g(固形分)、好ましくは40〜160KOHmg/g(固形分)となるような範囲で使用される。水酸基価が20KOHmg/g(固形分)未満では十分な硬化性が確保されず、また200KOHmg/g(固形分)を超えると塗膜が脆化し、耐水性が低下して十分な性能が得られにくい。
【0025】
さらに、その他のα、β−エチレン性不飽和単量体(g)としては、下記の単量体を例示することができる。具体的には、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、n−プロピルメタクリレート、イソプロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、n−ブチルメタクリレート、イソブチルアクリレート、イソブチルメタクリレート、シクロヘキシルアクリレート、ラウリルアクリレート、ラウリルメタクリレート、ステアリルアクリレート、ステアリルメタクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ヘプチルアクリレート、ヘプチルメタクリレート等のアクリル酸またはメタクリル酸のアルキルエステル、その他、酢酸ビニル、n−ブトキシメチルアクリルアミド等の単量体、さらにエチレングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコ−ルジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート等の多官能単量体が挙げられるがこれらに限定されない。またこれらは1種あるいは2種以上を混合して用いることができる。
【0026】
ビニル共重合体(B)のTgは−30〜10℃であり、ビニル共重合体(A)と同様、数1の式から計算されるTgが、−30〜10℃になるように、α,β−エチレン性不飽和単量体(e)、(f)および(g)の組成比が決定される。Tgが−30℃より低いと、乾燥塗膜の物性、特に硬度が低下し、電着塗料における安定性が低下する。またTgが10℃より高いと厚膜の電着塗膜が得られにくくなる。またさらに好ましいTgは−20〜5℃である。
【0027】
またビニル共重合体(B)には、必要に応じて架橋官能基含有α,β−エチレン性不飽和単量体を含有させることができる。その際には、ビニル共重合体(A)において使用できるとされた架橋官能基含有α,β−エチレン性不飽和単量体(c)が使用できる。
【0028】
ビニル共重合体(B)の重量平均分子量は5,000〜100,000であり、より好ましくは10,000〜70,000である。重量平均分子量が5,000以下の場合は、塗膜耐久性が十分に得られにくく、また100,000以上の場合は、水分散性が低下し、塗料の取り扱い性が不良になり易い。なお、ここで言う重量平均分子量は、ビニル共重合体(A)において記述したと同様GPCでの測定によるポリスチレン換算の値である。
【0029】
ビニル共重合体(A)とビニル共重合体(B)の使用比率は、(A)/(B)=80/20〜20/80(固形分重量比)が好ましく、より好ましくは70/30〜30/70、さらに好ましくは60/40〜40/60である。
【0030】
ビニル共重合体(A)および(B)については、それぞれ別々に作製した後、混合して使用することが可能であるが、本発明の効果をより一層発揮させるためには、ビニル共重合体(A)の存在下にビニル共重合体(B)を作製する、所謂2段重合法で作製する方法がより好ましい。
【0031】
[(C)アミノ樹脂]
本発明に使用される(C)アミノ樹脂としては、従来から公知のメラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、尿素樹脂等が挙げられるが、中でも好適なものは、メチロール基の少なくとも一部を低級アルコールでアルコキシ化したアルキルエーテル化メチロールメラミン樹脂であって、低級アルコールとしては、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、ブチルアルコール等の1種または2種以上が使用できる。また1種のメラミン樹脂であっても、また2種以上のメラミン樹脂が組み合わされても問題はない。
【0032】
アルキルエーテル化メチロールメラミン樹脂を例示すると、日本サイテックインダストリーズ(株)製のサイメル266、232、235、238、236、マイコート506、508、548、M−66B、等があるが、これらに限定されるものではない。
【0033】
アミノ樹脂の使用量の好ましい範囲は、ビニル共重合体(A)およびビニル共重合体(B)の固形分合計100重量部に対し10〜100重量部である。この範囲より少ない場合は、塗膜の架橋が不十分なため硬度、機械特性、耐溶剤性、耐薬品性等が低下する。逆に100重量部を超える場合はビニル共重合体(A)および(B)との親和性が不十分になり、水分散液の安定性不良、分散粒径の不均一化、電着後の水洗性不良、撥水現象、塗膜の光沢ムラ、乳白化等の問題が生じると共に、過剰のアミノ樹脂架橋剤が、架橋に寄与せず可塑剤として残存する為、硬度不足が起こり好ましくない。またアミノ樹脂量のより好ましい範囲は、ビニル共重合体(A)およびビニル共重合体(B)の固形分合計100重量部に対し20〜90重量部である。
【0034】
本発明の電着塗料組成物には、塗膜の焼き付けに際しての硬化性をさらに向上させるため硬化触媒を添加することも可能であり、硬化触媒としてはスルホン酸化合物が好ましい。スルホン酸化合物としては、パラトルエンスルホン酸、クメンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ジノニルナフタレンスルホン酸、ジノニルナフタレンジスルホン酸、およびこれらのアミン塩等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0035】
本発明の電着塗料の調製は、前述のビニル共重合体(A)、ビニル共重合体(B)、および(C)アミノ樹脂を通常40〜100℃で攪拌混合した後、必要により硬化触媒を添加し、中和用の塩基性物質を含む脱イオン水を、温度20〜80℃で混合撹拌して乳化分散液を得、この後ビニル共重合体(A)中の架橋官能基を反応させてミクロゲルを形成させるのが、一般的な方法であるがこれに限定されない。更に、必要に応じて加温したり、あるいは脱イオン水、または親水性溶剤を一部含有する脱イオン水で希釈し、電着塗装に供せられる。
【0036】
前述の中和用の塩基性物質は、ビニル共重合体中のカルボン酸基の少なくとも一部を中和してビニル共重合体を水分散化または水溶化するための化合物であり、例えば、有機アミンあるいは無機塩基である。かかる塩基性物質としては、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、モノイソプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、トリイソプロピルアミン、モノブチルアミン、ジブチルアミン、トリブチルアミン等のアルキルアミン、ジエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン等のアルカノールアミン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン等のアルキレンポリアミン、アンモニア、エチレンイミン、ピロリジン、ピペリジン、ピペラジン、モルホリン、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。このような塩基性物質による中和率は20〜120%が適当であるが、特に40〜100%であると水分散性が良好で、光沢ムラを生じないので好ましい。
【0037】
またその他として、ヒンダードアミン型光安定剤や紫外線吸収基含有化合物を用いて、耐候性を高めることも可能であり、紫外線吸収基含有単量体を使用して、ビニル共重合体(A)あるいは(B)に組み込むことも可能である。更に必要に応じて、消泡剤、レベリング剤、界面活性剤等の添加剤を加えて用いられる場合もある。本発明の技術は、顔料と併用して着色タイプの電着塗料にも適用可能である。また要求される性能、作業性、コスト等により、必要ならば、例えば、キシレン樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂等を併用することが可能である。この場合架橋剤と同様な方法で使用される。
【0038】
[電着塗料の調整]
本発明における電着塗料の調製は、前述のビニル共重合体(A)、ビニル共重合体(A)および(C)アミノ樹脂を通常40〜100℃で攪拌混合した後、中和用の塩基性物質および脱イオン水を、20〜80℃で撹拌混合して乳化分散液を得るのが一般的な方法である。更に、必要に応じて脱イオン水、または親水性溶剤を一部含有する脱イオン水で希釈し、電着塗装に供せられる。また、電着塗料の調製にはさらに必要に応じて、硬化促進剤や消泡剤、レベリング剤等や界面活性剤のような通常の電着塗料に使用される添加剤類も、支障なく使用することが出来る。さらに、本発明の技術は着色顔料、体質顔料、防錆顔料等の各種顔料類を併用して着色タイプの電着塗料にも適用が可能である。
【0039】
[電着塗装方法]
本発明により得られる電着塗料は、必要に応じて脱イオン水、あるいは親水性溶剤を一部含有する脱イオン水で希釈し、電着塗装に供せられる。電着塗装を実施する場合における、塗料浴の固形分濃度は4〜20重量%が適当である。4重量%より低い場合には、必要な塗膜厚を得るのに長時間を要し、20重量%を越えると浴液の状態が不安定となり、塗装系外に持ち出される塗料量も多く問題となる。
【0040】
塗装方法については、被塗物を陽極として電着塗装を行うが、塗装電圧は30〜350V、好ましくは50〜300Vであり、通電時間は0.5〜7分、好ましくは1〜5分である。電圧が高いほど通電時間は短く、逆に電圧が低いほど通電時間は長くなる。塗装電圧は通電と同時に設定電圧をかける方法、あるいは徐々に設定電圧まで上げていく方法のどちらでもかまわない。電着塗装された被塗物は必要により水洗し、次いで120〜200℃で15〜60分間加熱し最終塗膜を得る。塗膜厚は40μm前後が好ましい。
【0041】
本発明の電着塗料組成物が適用される被塗物は、アルミニウムあるいはアルミニウム合金が主であるが、導電性を有するものであれば塗装が可能であり、得られる塗膜は、従来技術では得られない厚膜化が実現できるだけでなく、機械特性、耐溶剤性、耐薬品性、作業性等にも優れている。
【実施例】
【0042】
次に、本発明について実施例を挙げ更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお表中の配合量は特別な記載のない限り、重量部、重量%を表す。
【0043】
[ビニル共重合体(A)の製造]
製造例1〜7(ビニル共重合体樹脂液A1〜A7の製造)
撹拌装置、温度計、モノマー滴下装置、還流冷却装置を有する反応装置を準備する。表1に示す配合に従って、(1)と(2)を反応装置に仕込み、撹拌下に還流温度まで上昇させ、(3)〜(11)を予め均一に混合した後、3時間かけて滴下した。温度は還流温度を維持した。滴下終了から1.5時間経過後に(12)を加えて、更に同温度で1.5時間反応を継続して、固形分65%透明で粘稠な樹脂液A1〜A7を得た。それらの酸価(KOHmg/g固形分)、水酸基価(KOHmg/g固形分)、Tg(℃)、重量平均分子量を表1に示した。
【0044】
【表1】

【0045】
使用原材料
AAEM :アセトアセトキシエチルメタクリレート
γ−MPTMS:γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン
【0046】
[ビニル共重合体(B)の製造]
製造例8〜12(ビニル共重合体樹脂液B1〜B5の製造)
ビニル共重合体(A)の製造例と同様に、撹拌装置、温度計、モノマー滴下装置、還流冷却装置を有する反応装置を準備する。表2に示す配合に従って、(1)と(2)を反応装置に仕込み、撹拌下に還流温度まで上昇させ、(3)〜(9)を予め均一に混合した後、3時間かけて滴下した。温度は還流温度を維持した。滴下終了から1.5時間経過後に(10)を加えて、更に同温度で1.5時間反応を継続して、固形分65%透明で粘稠な樹脂液B1〜B5を得た。それらの酸価(KOHmg/g固形分)、水酸基価(KOHmg/g固形分)、Tg(℃)、重量平均分子量を表2に示した
【0047】
【表2】

【0048】
[ビニル共重合体(A)/(B)の2段重合法での製造]
製造例13〜15(ビニル共重合体樹脂液AB1〜AB3の製造)
撹拌装置、温度計、モノマー滴下装置、還流冷却装置を有する反応装置を準備する。表3に示す配合に従って、(1)と(2)を反応装置に仕込み、撹拌下に還流温度まで上昇させ、1段目の単量体および開始剤(3)〜(11)を予め均一に混合した後、1.5時間かけて滴下した。温度は還流温度を維持した。滴下終了から1時間経過後に2段目の単量体および開始剤(3)〜(11)を予め均一に混合した後、1.5時間かけて滴下した。滴下終了から1.5時間経過後に(12)を加えて、更に同温度で1.5時間反応を継続して、固形分65%透明で粘稠な樹脂液AB1〜AB3を得た。それらの酸価(KOHmg/g固形分)、水酸基価(KOHmg/g固形分)、Tg(℃)、重量平均分子量を表3に示した。
【0049】
【表3】

【0050】
使用原材料
AAEM :アセトアセトキシエチルメタクリレート
γ−MPTMS:γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン
【0051】
[実施例用分散樹脂液C1〜C8の製造]
撹拌装置、温度計、脱イオン水滴下装置、還流冷却装置を有する反応装置を準備する。表4に示す配合に従って、(1)〜(18)を反応装置に仕込み、60℃で1時間攪拌混合した。これに(19)および(20)の混合液を徐々に添加して乳化液を得た。分散樹脂液C3、C4、およびC6については、さらに(21)を添加して50℃にて4時間保温しミクロゲル化の反応を行った。その他の分散樹脂液はこのままで既にミクロゲルが生成している。最後にそれぞれに(22)を加えて実施例用の分散樹脂液を調製した。
【0052】
【表4】

【0053】
使用原料
サイメル236 : 日本サイテックインダストリーズ(株)製混合エーテル型メラミン樹脂 固形分100%
【0054】
[比較例用分散樹脂液C9〜C12の製造]
撹拌装置、温度計、脱イオン水滴下装置、還流冷却装置を有する反応装置を準備する。表5に示す配合に従って、(1)〜(18)を反応装置に仕込み、60℃で1時間攪拌混合した。これに(19)および(20)の混合液を徐々に添加して乳化液を得た。分散樹脂液C9については、さらに(21)を添加して50℃にて4時間保温しミクロゲル化の反応を行った。その他の分散樹脂液はこのままで既にミクロゲルが生成している。最後にそれぞれに(22)を加えて実施例用の分散樹脂液を調製した。
【0055】
【表5】

【0056】
使用原材料
サイメル236 : 日本サイテックインダストリーズ(株)製混合エーテル型メラミン樹脂 固形分100%
【0057】
[電着塗料の製造]
上記の分散樹脂液C1〜C8(実施例用)およびC9〜C12(比較例用)に脱イオン水を加えて固形分を10%に調整した後、トリエチルアミンを加えてpHを8.0に調整して、それぞれに相当する電着塗料E1〜E8(実施例用)およびE9〜E12(比較例用)を得た。
【0058】
[電着塗装および塗膜性能評価]
(実施例1〜8および比較例1〜4)
上記で得られたそれぞれの電着塗料を塩化ビニル製の浴槽に入れ、陰極をSUS304鋼板とし、6063Sアルミニウム合金版にアルマイト処理(アルマイト膜厚=9μm)を施し、更に黒色に電解着色した後、常法により湯洗されたアルミニウム材を陽極(被塗物)として電着塗装を行った。電着塗装の具体的条件は、浴温22℃、塗装電圧を50〜350Vの範囲に設定し、2分間の通電で塗膜厚が20μmおよび40μmになるような条件である。電着終了後洗浄し、引き続いて185℃で30分間焼き付けた。電着塗料の性状、塗装電圧、および上記で得られた塗膜の性能評価について、結果を表6、表7に示した(性能評価は塗膜厚40μmで実施)。
【0059】
【表6】

【0060】
【表7】

【0061】
乳化性、塗料安定性および塗膜性能の評価方法は次のとおりである。
(1)乳化性 :分散樹脂液のろ過を行い、ろ過残渣の有無により判定。
○:ろ過残渣なし
×:ろ過残渣多い
(2)塗料安定性:初期の塗装評価を行った後、浴液を30℃に調整して攪拌下にて4週間保持した後、再び塗装評価を行う。初期と経時での塗装板の光沢、外観差を比較する。
○:光沢、外観ともほとんど差なし
×:光沢、塗膜外観に差あり
(3)塗膜外観:目視で判定。 ○:異常なし
(4)光沢値:グロスメーターで60°鏡面反射率[%]を測定。
(5)鉛筆硬度:JIS−K−5600 破れ判定。
(6)碁盤目付着性:JIS−K−5600準拠 塗膜上にカッターナイフで100個の碁盤目を作り、その上にセロハンテープを貼り付けた後、すばやくセロハンテープを引き剥がした時の密着状態を観察する。なお性能評価表中の記載は次のことを意味する。
○:剥がれなし(100/100)
×:全部剥がれ(0/100)
(7)耐アルカリ性:20℃で1%の水酸化ナトリウム水溶液に120時間浸漬後塗面状態を観察。
(8)耐酸性:20℃で5%の硫酸水溶液に120時間浸漬後塗面状態を観察。
(9)促進耐候性:メタルウエザー試験機を用いて300時間、600時間で評価を行った。
ブラックパネル温度80℃(照射のみ)
湿度50% 水シャワー2時間毎、1回120秒
ランプ強度75mW/cm ランプ距離240mm
外観評価(目視判定)
○:異常なし
×:光沢ムラ、クラックが発生
【産業上の利用可能性】
【0062】
アルミニウム材の電着塗装において、40μmないしそれ以上という厚膜塗装においても、従来と同じ塗装条件で電着塗装が可能で、塗膜の仕上がり外観にも優れ、さらに耐薬品性、耐溶剤性、機械物性等の塗膜性能、および塗装作業性、塗料の安定性等においても優れた特性を有する、艶消し電着塗料組成物を提供する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)(a)α,β−エチレン性不飽和カルボン酸単量体、(b)水酸基含有α,β−エチレン性不飽和単量体、(c)架橋官能基を有するα,β−エチレン性不飽和単量体、および(d)その他のα,β−エチレン性不飽和単量体を共重合したTg(ガラス転移温度)が20〜50℃のビニル共重合体、(B)(e)α,β−エチレン性不飽和カルボン酸単量体、(f)水酸基含有α,β−エチレン性不飽単量体、および(g)その他のα,β−エチレン性不飽和単量体を共重合したTg(ガラス転移温度)が−30〜10℃のビニル共重合体、および(C)アミノ樹脂を含有するアニオン型艶消し電着塗料組成物。
【請求項2】
ビニル共重合体(A)の架橋官能基が、アセトアセチル基および/またはアルコキシシリル基である請求項1に記載のアニオン型艶消し電着塗料組成物。
【請求項3】
ビニル共重合体(A)および(B)が、ビニル共重合体(A)の存在下にビニル共重合体(B)を作製することを特徴とする、2段重合法で作製された共重合体混合物である請求項1あるいは請求項2に記載のアニオン型艶消し電着塗料組成物。
【請求項4】
ビニル共重合体(A)あるいは(B)が、酸価10〜150KOHmg/g(固形分)および水酸基価20〜200KOHmg/g(固形分)である請求項1から請求項3に記載のアニオン型艶消し電着塗料組成物。

【公開番号】特開2011−148846(P2011−148846A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−8704(P2010−8704)
【出願日】平成22年1月19日(2010.1.19)
【出願人】(000192844)神東塗料株式会社 (48)
【Fターム(参考)】